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特開2023-90085変動傾向推定装置及び変動傾向推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090085
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】変動傾向推定装置及び変動傾向推定方法
(51)【国際特許分類】
   B61L 25/00 20060101AFI20230622BHJP
【FI】
B61L25/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021204845
(22)【出願日】2021-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】羽田 明生
(72)【発明者】
【氏名】河村 裕介
(72)【発明者】
【氏名】流王 智子
(72)【発明者】
【氏名】栗田 いずみ
(72)【発明者】
【氏名】中村 一城
(57)【要約】
【課題】何らかの関係性を有する他の系統データ(第1の系統データ)を用いて、ある系統データ(第2の系統データ)を推定すること。
【解決手段】第1の物理量を計測した第1の系統データの基準日のデータである第1の系統基準日データ、第1の系統データの対象日のデータである第1の系統対象日データ、第2の物理量を計測した第2の系統データの基準日のデータである第2の系統基準日データ、のそれぞれについて、計測値が相対的に急変している急変位置を求めることで、当該計測値の位置順の変動傾向を算出する。そして、第1の系統基準日データの変動傾向と第1の系統対象日データの変動傾向との差異に基づいて、第2の系統基準日データの変動傾向から、対象日における第2の系統データの変動傾向を推定する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道に沿った各位置における第1の物理量を計測した第1の系統データの基準日のデータである第1の系統基準日データと、前記第1の系統データの対象日のデータである第1の系統対象日データと、前記軌道に沿った各位置における第2の物理量を計測した第2の系統データの前記基準日と所定の同等条件を満たす日のデータである第2の系統基準日データとを取得するデータ取得手段と、
前記第1の系統基準日データ、前記第1の系統対象日データ、及び前記第2の系統基準日データのそれぞれについて、前記軌道に沿った位置順において計測値が相対的に急変していることを示す所定の急変条件を満たす急変位置を求めることで、当該計測値の当該位置順の変動傾向を算出する変動傾向算出手段と、
前記第1の系統基準日データの前記変動傾向と前記第1の系統対象日データの前記変動傾向との差異に基づいて、前記第2の系統基準日データの前記変動傾向から、前記対象日における前記第2の系統データの前記変動傾向を推定する推定手段と、
を備える変動傾向推定装置。
【請求項2】
前記変動傾向算出手段は、前記軌道に沿った位置順において計測値が相対的に急上昇していることを示す所定の上昇傾向検知条件を満たす上昇傾向位置と、計測値が相対的に急下降していることを示す所定の下降傾向検知条件を満たす下降傾向位置とを前記急変位置として求めることで前記変動傾向を算出する、
請求項1に記載の変動傾向推定装置。
【請求項3】
前記第1の系統基準日データの前記変動傾向と前記第2の系統基準日データの前記変動傾向とを所定の類似度判定処理で判定して基準日類似度を算出する基準日類似度算出手段、
を更に備え、
前記推定手段は、
前記対象日における前記第2の系統データの暫定変動傾向を設定することと、
前記第1の系統対象日データの前記変動傾向と前記暫定変動傾向とを前記類似度判定処理で判定して暫定類似度を算出することと、
前記暫定類似度が前記基準日類似度に基づく所定の許容条件を満たさない場合に、1)前記暫定変動傾向の修正と、2)前記第1の系統対象日データの前記変動傾向と当該修正後の暫定変動傾向との前記暫定類似度の算出と、を繰り返すことと、
を実行する、
請求項2に記載の変動傾向推定装置。
【請求項4】
前記推定手段は、
前記第1の系統基準日データの前記変動傾向が、前記第1の系統対象日データの前記変動傾向に至るための変化指向として、前記上昇傾向位置及び前記下降傾向位置に基づく変化指向を算出すること、
を更に実行し、
前記1)前記暫定変動傾向の修正は、当該暫定変動傾向を前記変化指向に基づいて修正することである、
請求項3に記載の変動傾向推定装置。
【請求項5】
前記推定手段は、
前記暫定変動傾向の設定を、前記軌道に沿った位置を分割した区間毎に行うことと、
前記暫定類似度の算出を、前記第1の系統対象日データの前記変動傾向と、前記区間毎に設定した全体の前記暫定変動傾向と前記類似度判定処理で判定して算出することと、
前記許容条件を満たさない場合の繰り返しを、択一的に選択した前記区間に対する前記1)前記暫定変動傾向の修正と、前記2)前記第1の系統対象日データの前記変動傾向と当該修正後の全体の前記暫定変動傾向との前記暫定類似度の算出と、の繰り返しで行うことと、
を実行する、
請求項3又は4に記載の変動傾向推定装置。
【請求項6】
2つの判定対象系統データそれぞれについて前記上昇傾向位置と前記下降傾向位置とを求め、当該上昇傾向位置及び下降傾向位置に基づいて当該2つの判定対象系統データの類似度を算出する処理を、前記類似度判定処理として実行する類似度判定手段、
を更に備える請求項3~5の何れか一項に記載の変動傾向推定装置。
【請求項7】
軌道に沿った各位置における第1の物理量を計測した第1の系統データの基準日のデータである第1の系統基準日データと、前記第1の系統データの対象日のデータである第1の系統対象日データと、前記軌道に沿った各位置における第2の物理量を計測した第2の系統データの前記基準日と所定の同等条件を満たす日のデータである第2の系統基準日データとを取得するデータ取得ステップと、
前記第1の系統基準日データ、前記第1の系統対象日データ、及び前記第2の系統基準日データのそれぞれについて、前記軌道に沿った位置順において計測値が相対的に急変していることを示す所定の急変条件を満たす急変位置を求めることで、当該計測値の当該位置順の変動傾向を算出する変動傾向算出ステップと、
前記第1の系統基準日データの前記変動傾向と前記第1の系統対象日データの前記変動傾向との差異に基づいて、前記第2の系統基準日データの前記変動傾向から、前記対象日における前記第2の系統データの前記変動傾向を推定する推定ステップと、
を含む変動傾向推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、系統データの変動傾向推定装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
線路や鉄道設備等のメンテナンス(保守)業務として、計測・蓄積したデータに基づいて鉄道設備の故障を検知する業務や、故障の予兆を検知する業務が含まれる場合がある。当該業務には、各種のデータに基づいて、故障や故障の予兆を機械的に検知するコンピュータ処理技術の実用化が望まれている。しかし、鉄道設備は安全が最優先のために故障の発生を未然に防ぐ定期的な保守・交換が行われる。そのため、実際に異常に至った鉄道設備の状態を示すデータ(異常データ)が得られる機会は少ない。そこで、従来の技術として、正常状態を示すデータ(正常データ)を使用する教師なし学習(例えば、特許文献1参照)や統計の手法を用いて正常データから外れたデータを判別することで、鉄道設備の故障の検知や故障の予兆の検知を行う技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-73258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
線路や鉄道設備等のメンテナンスに際して、軌道系統(レールなど)、電力系統(電車線など)、車両系統(走行中の車両特性など)などの系統(分野)毎に計測・蓄積したデータ(系統データ)を統合・一元管理して、効率的なメンテナンスを実現することができれば至便である。具体的には、データを系統横断的に比較・分析して、正常データの潜在的な変化予兆を的確に検知することができれば、故障や故障の予兆の検知に活かすことが可能となる。
【0005】
データを系統横断的に比較・分析する際には、基本的には同等の計測日の系統データ同士を比較するが、系統毎の計測タイミングの違いや計測失敗等によって、同等の計測日の系統データが取得できない事態も起こり得る。そのような場合に、何らかの関係性を有する他の系統データを用いることで、未取得の系統データを推定することが望まれる。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、何らかの関係性を有する他の系統データ(第1の系統データ)を用いて、ある系統データ(第2の系統データ)を推定すること、である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第1の発明は、
軌道に沿った各位置における第1の物理量を計測した第1の系統データの基準日のデータである第1の系統基準日データと、前記第1の系統データの対象日のデータである第1の系統対象日データと、前記軌道に沿った各位置における第2の物理量を計測した第2の系統データの前記基準日と所定の同等条件を満たす日のデータである第2の系統基準日データとを取得するデータ取得手段(例えば、図10のデータ取得部202)と、
前記第1の系統基準日データ、前記第1の系統対象日データ、及び前記第2の系統基準日データのそれぞれについて、前記軌道に沿った位置順において計測値が相対的に急変していることを示す所定の急変条件を満たす急変位置を求めることで、当該計測値の当該位置順の変動傾向を算出する変動傾向算出手段(例えば、図10の変動傾向算出部204)と、
前記第1の系統基準日データの前記変動傾向と前記第1の系統対象日データの前記変動傾向との差異に基づいて、前記第2の系統基準日データの前記変動傾向から、前記対象日における前記第2の系統データの前記変動傾向を推定する推定手段(例えば、図10の推定部206)と、
を備える変動傾向推定装置である。
【0008】
また、他の発明として、
軌道に沿った各位置における第1の物理量を計測した第1の系統データの基準日のデータである第1の系統基準日データと、前記第1の系統データの対象日のデータである第1の系統対象日データと、前記軌道に沿った各位置における第2の物理量を計測した第2の系統データの前記基準日と所定の同等条件を満たす日のデータである第2の系統基準日データとを取得するデータ取得ステップと、
前記第1の系統基準日データ、前記第1の系統対象日データ、及び前記第2の系統基準日データのそれぞれについて、前記軌道に沿った位置順において計測値が相対的に急変していることを示す所定の急変条件を満たす急変位置を求めることで、当該計測値の当該位置順の変動傾向を算出する変動傾向算出ステップと、
前記第1の系統基準日データの前記変動傾向と前記第1の系統対象日データの前記変動傾向との差異に基づいて、前記第2の系統基準日データの前記変動傾向から、前記対象日における前記第2の系統データの前記変動傾向を推定する推定ステップと、
を含む変動傾向推定方法を構成してもよい。
【0009】
第1の発明等によれば、何らかの関係性を有する第1の系統データを用いて、第2の系統データを推定することができる。第1の物理量及び第2の物理量が互いに何らかの関係性を有するならば、第1の系統データ及び第2の系統データそれぞれの変動傾向にも互いに何らかの関係性を有するといえる。また、第1の系統データと第2の系統データとは計測した物理量が異なるために、そのままでは比較が困難であるが、系統データの変動傾向によれば比較が可能となる。このため、対象日における第2の系統データとして、物理量が異なる他の系統データとの比較が可能な変動傾向を推定することができる。
【0010】
つまり、第1の基準日系統データの変動傾向と第1の対象日系統データの変動傾向との差異、すなわち、第1の系統データの変動傾向についての基準日と対象日との差異に基づくことで、第2の系統データの変動傾向についての基準日と対象日との差異を予測し、対象日における第2の系統データの変動傾向を推定することができる。また、系統データの変動傾向は、軌道に沿った位置順において計測値が相対的に急変した位置順の急変位置であるので、比較的容易に算出することができる。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、
前記変動傾向算出手段は、前記軌道に沿った位置順において計測値が相対的に急上昇していることを示す所定の上昇傾向検知条件を満たす上昇傾向位置と、計測値が相対的に急下降していることを示す所定の下降傾向検知条件を満たす下降傾向位置とを前記急変位置として求めることで前記変動傾向を算出する、
変動傾向推定装置である。
【0012】
第2の発明によれば、計測値の急変位置を、計測値が相対的に急上昇している上昇傾向位置、及び、計測値が相対的に急下降している下降傾向位置とすることで、系統データの変動傾向をより適切に算出することが可能となる。
【0013】
第3の発明は、第2の発明において、
前記第1の系統基準日データの前記変動傾向と前記第2の系統基準日データの前記変動傾向とを所定の類似度判定処理で判定して基準日類似度を算出する基準日類似度算出手段(例えば、図10の類似度算出部208)、
を更に備え、
前記推定手段は、
前記対象日における前記第2の系統データの暫定変動傾向を設定することと、
前記第1の系統対象日データの前記変動傾向と前記暫定変動傾向とを前記類似度判定処理で判定して暫定類似度を算出することと、
前記暫定類似度が前記基準日類似度に基づく所定の許容条件を満たさない場合に、1)前記暫定変動傾向の修正と、2)前記第1の系統対象日データの前記変動傾向と当該修正後の暫定変動傾向との前記暫定類似度の算出と、を繰り返すことと、
を実行する、
変動傾向推定装置である。
【0014】
第3の発明によれば、第1の系統対象日データの変動傾向との暫定類似度が基準日類似度に基づく許容条件を満たすような、対象日における第2の系統データの変動傾向を推定することができる。基準日類似度は、基準日における第1の系統データ及び第2の系統データそれぞれの変動傾向の類似度であるから、第1の系統データの変動傾向との関係性を維持した第2の系統データの変動傾向を推定することが可能である。
【0015】
第4の発明は、第3の発明において、
前記推定手段は、
前記第1の系統基準日データの前記変動傾向が、前記第1の系統対象日データの前記変動傾向に至るための変化指向として、前記上昇傾向位置及び前記下降傾向位置に基づく変化指向を算出すること、
を更に実行し、
前記1)前記暫定変動傾向の修正は、当該暫定変動傾向を前記変化指向に基づいて修正することである、
変動傾向推定装置である。
【0016】
第4の発明によれば、第1の基準日系統データの変動傾向と第1の対象日系統データの変動傾向との差異として、計測値の上昇傾向位置及び下降傾向位置に基づく変化指向に基づいて、暫定変動傾向を修正することができる。上昇傾向位置及び下降傾向位置に基づくことで、暫定変動傾向の修正を容易に行うことが可能となる。
【0017】
第5の発明は、第3又は第4の発明において、
前記推定手段は、
前記暫定変動傾向の設定を、前記軌道に沿った位置を分割した区間毎に行うことと、
前記暫定類似度の算出を、前記第1の系統対象日データの前記変動傾向と、前記区間毎に設定した全体の前記暫定変動傾向と前記類似度判定処理で判定して算出することと、
前記許容条件を満たさない場合の繰り返しを、択一的に選択した前記区間に対する前記1)前記暫定変動傾向の修正と、前記2)前記第1の系統対象日データの前記変動傾向と当該修正後の全体の前記暫定変動傾向との前記暫定類似度の算出と、の繰り返しで行うことと、
を実行する、
変動傾向推定装置である。
【0018】
第5の発明によれば、暫定変動傾向の修正を、軌道に沿った位置を分割した区間を単位として部分的に行うことを繰り返すことで、対象日における第2の系統データの変動傾向のより適切な推定が可能となる。
【0019】
第6の発明は、第3~第5の何れかの発明において、
2つの判定対象系統データそれぞれについて前記上昇傾向位置と前記下降傾向位置とを求め、当該上昇傾向位置及び下降傾向位置に基づいて当該2つの判定対象系統データの類似度を算出する処理を、前記類似度判定処理として実行する類似度判定手段(例えば、図10の類似度算出部208)、
を更に備える変動傾向推定装置である。
【0020】
第6の発明によれば、2つの判定対象系統データの類似度を、各系統データの上昇傾向位置及び下降傾向位置に基づくことで、比較的容易かつ適切に算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】系統データの一例。
図2】系統データの変動傾向の説明図。
図3】系統データの変動傾向の推定の説明図。
図4】変動傾向推定処理のフローチャート。
図5】変動傾向の修正対象とする区間の選択の説明図。
図6】変動傾向の修正の説明図。
図7】2つの系統データの類似度の算出の説明図。
図8】算出手法αによる類似度αの算出の説明図。
図9】算出手法βによる類似度βの算出の説明図。
図10】変動傾向推定装置の機能構成図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものではない。また、図面の記載において、同一要素には同一符号を付す。
【0023】
[概要]
鉄道では、軌道系統(レールなど)、電力系統(電車線など)、車両系統(走行中の車両特性など)などの系統(分野)毎に、鉄道設備に関する様々な物理量を計測したデータである系統データが取得・蓄積されている。本実施形態は、系統横断的に系統データを統合・一元管理して効率的なメンテナンスを実現するために、ある系統データ(第1の系統データ)をもとに、他の系統データ(第2の系統データ)の変動傾向を推定するものである。
【0024】
(A)系統データ
図1は、系統データの一例を示す図である。図1に示すように、系統データは、軌道に沿った各位置(キロ程)における物理量の計測値のデータである。本実施形態では、第1の物理量を計測した第1の系統データ及び第2の物理量を計測した第2の系統データの2つの系統データを、複数計測日分、取得する。各系統データにおける位置の範囲は共通である。各系統データの物理量は、共通の位置において互いに何らかの関係があると推定される物理量(少なくとも鉄道分野における同業者が、共通の位置の異なる物理量であるが互いに何らかの関係があると推定し得る物理量)である。例えば、軌道系統で取得される軌道変位に係る物理量と、車両系統で取得される車両動揺に係る物理量との組み合わせであったり、軌道変位に係る物理量と、電力系統で取得される走行車両から見た電車線の偏位や高さに係る物理量との組み合わせ、等がある。
【0025】
(B)変動傾向の算出
第1の系統データ及び第2の系統データは、互いに何らかの関係はあるが異なる物理量についての計測値のデータであるため、そのままでは比較・分析が困難である。このため、本実施形態では、物理量が異なる2つの系統データの比較・分析が可能なように、系統データについて軌道に沿った位置に対する計測値の変動傾向を算出する。
【0026】
図2は、系統データの変動傾向の算出を説明する図である。図2に示すように、系統データは、軌道に沿った位置(キロ程)に対する計測値のデータである。この系統データから、各位置の計測値の変動傾向を示す所定の指標値を算出する。本実施形態では、計測値の変動傾向を示す指標として相対力指標(RSI:Relative Strength Index)を用いることとする。位置Lに対する指標値RSIは、次式(1)で算出される。
RSI=100×{A/(A+B)}[%]・・・(1)
式(1)において、「A」は、位置Lの直前の所定範囲における計測値の上昇幅であり、「B」は、当該所定範囲における計測値の下降幅である。
【0027】
この各位置に対する相対力指標RSIから、計測値が相対的に急変していることを示す急変条件を満たす急変位置を求める。具体的には、急変位置として、上昇傾向検知条件を満たす上昇傾向位置及び下降傾向検知条件を満たす下降傾向位置を求める。上昇傾向検知条件は、計測値が相対的に急上昇していることを示す条件であり、例えば、相対力指標が増加して所定値(図2の例では、80%)に達したこと、とすることができる。下降傾向検知条件は、計測値が相対的に急下降していることを示す条件であり、例えば、相対力指標が減少して所定値(図2の例では、20%)に達したこと、とすることができる。そして、位置に上昇傾向位置及び下降傾向位置を対応付けたデータを、系統データに対応する「変動傾向データ」と呼ぶ。
【0028】
なお、変動傾向を示す指標はこれに限らず、例えば、ポリンジャーバンドといった他の指標でもよい。ポリンジャーバンドとは、移動平均線を中心としてその上下に標準偏差の幅(バンド)を設けたものであり、その標準偏差の幅(バンド)から上方に外れた位置を上昇傾向位置とし、下方に外れた位置を下降傾向位置とすることができる。
【0029】
また、本実施形態では、変動傾向データは、軌道に沿った位置を分割した区間毎に変動傾向を算出したデータである。つまり、各区間に含まれる上昇傾向位置及び下降傾向位置それぞれの数を、当該区間の変動傾向としている。
【0030】
(C)変動傾向の推定
図3は、変動傾向の推定を説明する図である。図3では、上側に第1の系統データを、下側に第2の系統データを示している。また、横方向を計測日として、計測日が同じ系統データを上下方向に一致させて配置している。図3では、対象日の第2の系統データ(以下、「第2の系統対象日データ」という)が取得されておらず、この第2の系統対象日データの変動傾向を推定する例を示している。
【0031】
第2の系統対象日データの変動傾向の推定は、対象日の1週間前の計測日を基準日とし、基準日の第1の系統データ(以下、「第1の系統基準日データ」という)の変動傾向と、対象日の第1の系統データ(以下、「第1の系統対象日データ」という)の変動傾向との差異に基づいて、基準日の第2の系統データ(以下、「第2の系統基準日データ」という)の変動傾向から、対象日における第2の系統データ(第2の系統対象日データ)の変動傾向を推定することで行う。
【0032】
また、第2の系統対象日データの変動傾向の推定は、第2の系統基準日データの変動傾向を修正することで行う。詳細には、系統データの変動傾向は軌道に沿った位置を分割した区間毎に算出されるから、第2の系統基準日データの変動傾向に対して、区間を単位として部分的に変動傾向を修正することで、第2の系統データの変動傾向の推定を行う。
【0033】
また、第2の系統対象日データの変動傾向の推定は、第1の系統対象日データの変動傾向との類似度(系統間類似度)が、所定の基準日類似度に基づく許容条件を満たすように行う。基準日類似度は、第1の系統基準日データの変動傾向と、第1の系統対象日データの変動傾向との類似度(系統間類似度)に基づいて定められる。例えば、基準日の系統間類似度(図3における“32%”)そのものとしてもよいし、基準日を含む複数の各計測日における第1の系統データと第2の系統データとの系統間類似度の平均値(図3における類似度“41%”と“32%”との平均値“36.5%”)としてもよい。そして、許容条件は、例えば、基準日類似度「36.5%」を中心とする「±10%」の範囲である「26.5%から46.5%までの範囲」といったように、基準日類似度を中心とする所定範囲として定めることができる。なお、系統データの変動傾向の類似度の算出については詳細を後述する。
【0034】
第2の系統対象日データの変動傾向の推定の手順を、図4を参照して説明する。図4は、変動傾向推定処理の流れを説明するフローチャートである。先ず、初期設定として、第2の系統対象日データの各区間の暫定変動傾向として、第2の系統基準日データの変動傾向を初期設定する(ステップS1)。また、ステップレングスθを、所定の初期値(例えば、0.5)に設定する(ステップS3)。ステップレングスθは、繰り返し修正する際に、1回当たりの修正で許容する修正量の単位であり、その単位修正量の値が設定される。
【0035】
次いで、軌道に沿って分割した各区間のうちから、変動傾向を修正する区間を選択する(ステップS5)。図5は、変動傾向の修正対象区間の選択を説明する図である。図5に示すように、修正対象区間は、第1の系統データの類似度の変動率に基づいて算出する。すなわち、“2週間前”の第1の系統データと“1週間前(基準日)”の第1の系統データ(第1の系統基準日データ)との類似度として、各区間の類似度を算出する。図5の例では、“区間1~4”について類似度が“25,5,35,60”としてそれぞれ算出されている。同様に、“1週間前(基準日)”の第1の系統データ(第1の系統基準日データ)と“対象日”の第1の系統データ(第1の系統対象日データ)との類似度として、各区間の類似度を算出する。図5の例では、“区間1~4”について類似度が“40,15,10,50”としてそれぞれ算出されている。次いで、各区間について、“2週間前”と“1週間前(基準日)”との類似度から、“1週間前(基準日)”と“対象日”との類似度になった変動率を算出し、その変動率に比例するように各区間の選択確率を設定する。図5の例では、“区間1”の類似度が“25”から“40”に変化しているため、(40-25)/25=60%、として変動率が求まる。同様にして、“区間2~4”の変動率が“200%,71%,16%”と求められる。これらの変動率の合計に対する当該区間の割合を、当該区間の選択確率として設定する。例えば、“区間1”の選択確率は、60/(60+200+71+16)=17%、となる。そして、この各区間の選択確率に従って、修正対象区間を選択する。
【0036】
図4に戻り、続いて、選択した区間の変動傾向を修正する(ステップS7)。図6は、変動傾向の修正を説明する図である。系統データの変動傾向は、本実施形態では上昇傾向位置数及び下降傾向位置数とする。変動傾向の修正とは、上昇傾向位置数及び下降傾向位置数それぞれを修正することである。図6では、各系統データについて、修正対象区間の変動傾向を、当該区間に含まれる上昇傾向位置数x及び下降傾向位置数yを要素とした二次元配列(x,y)で示している。
【0037】
先ず、第1の系統基準日データの変動傾向B1と、第1の系統対象日データの変動傾向B2との差異である勾配ベクトルCを算出する。この勾配ベクトルCは、第1の系統基準日データの変動傾向B1が、第1の系統対象日データの変動傾向B2に至るための変化指向であり、変動傾向を二次元ベクトルとしたときの、第1の系統基準日データの変動傾向B1から、第1の系統対象日データの変動傾向B2に向かうベクトルに相当する。図6の例では、第1の系統基準日データの変動傾向B1が(6,5)であり、第1の系統対象日データの変動傾向B2が(10,4)であるから、勾配ベクトルCは、(10,4)-(6,5)=(4,1)、となる。
【0038】
次いで、第2の系統基準日データの変動傾向A1を勾配ベクトルCに沿って変化させたときの目標の変動傾向(A1+C)と、暫定変動傾向A2とのずれσ(σ1,σ2)(=A1+C-A2)を算出する。図6の例では、第2の系統基準日データの変動傾向A1が(5,8)であるから、目標の変動傾向は、(5,8)+(4,-1)=(9,7)、となる。そして、暫定変動傾向A2が(4,6)であるから、目標の変動傾向と暫定変動傾向A2とのずれσ(σ1,σ2)は、(9,7)-(4,6)=(5,1)、となる。
【0039】
続いて、このずれσ(σ1,σ2)にステップレングスθを乗算して、修正量δ(=θ×(σ1,σ2)=(θ×σ1,θ×σ2))を決定する。そして、暫定変動傾向A2にこの修正量δを加算して、当該暫定変動傾向A2を修正する。図6の例では、ステップレングスθが“0.5”であるから、修正量δは、0.5×(5,1)=(2.5,0.5)、となる。従って、修正後の暫定変動傾向A2は、(4,6)+(2.5,0.5)=(6.5,6.5)、となる。なお、変動傾向は上昇傾向位置数及び下降傾向位置数であるので、修正後の値が負値となったときは「0」とする。
【0040】
図4に戻り、選択した区間の暫定変動傾向を修正したならば、続いて、修正後の第2の系統対象日データの暫定変動傾向と、第1の系統対象日データの変動傾向との類似度(暫定類似度)を算出する(ステップS9)。そして、算出した暫定類似度が所定の許容条件を満たすかを判定する。
【0041】
許容条件を満たないならば(ステップS11:NO)、続いて、全ての区間を選択済み(修正済み)であるか否かを判断する。全ての区間が選択済みでない(修正済みでない)ならば(ステップS13:NO)、ステップS5に戻り、未選択の区間のうちから、次の修正対象の区間を選択する。全ての区間を選択済み(修正済み)ならば(ステップS13:NO)、ステップレングスを更新(例えば1/2の値)する(ステップS15)。そして、全ての区間を未選択(未修正)とした後(ステップS17)、ステップS5に戻り、未選択の区間のうちから、次の修正対象の区間を選択する。
【0042】
許容条件を満たすならば(ステップS11:YES)、第2の系統対象日データの変動傾向推定処理は終了となる。
【0043】
(C)類似度算出
2つの系統データ(判定対象系統データ)の類似度の算出について説明する。第1の系統データ及び第2の系統データは、互いに何らかの関係はあるが異なる物理量についての計測値のデータであるため、そのままでは類似度の算出ができない。このため、本実施形態では、系統データの変動傾向に基づいて2つの系統データの類似度を算出する。
【0044】
図7は、類似度の算出を説明する図である。本実施形態では、2つの系統データ(判定対象系統データ)の類似度を、2種類の算出手法α,βを用いて算出する。すなわち、2つの判定対象系統データについて、算出手法αによって類似度αを算出し、算出手法βによって類似度βを算出する。そして、この類似度α,βについて、所定の重み付け係数(調整パラメータ)a,bによる重み付け加算を行った値を、2つの判定対象系統データの類似度mとする。
【0045】
また、本実施形態では、判定対象系統データについての変動傾向データは、軌道に沿って分割した複数の区間j毎に変動傾向が設定される。従って、2つの判定対象系統データの類似度mは、区間j毎に2つの判定対象系統データの類似度(区間別類似度)mを求め、これらの各区間jの区間別類似度mの合計として算出する。1つの区間jの区間別類似度mは、当該区間jに設定された変動傾向に基づき、2種類の算出手法α,βそれぞれによる類似度α,βを求め、これらの類似度α,βについて、所定の重み付け係数(調整パラメータ)a,bによる重み付け合成を行い算出する。そして、次式(2)に従って各区間jの区間別類似度mの合計を、2つの判定対象系統データの類似度mとして算出する(図7にも式(2)を示す)。
【数1】
【0046】
(C-1)算出手法α
図8は、算出手法αによる類似度αの算出を説明する図である。類似度の算出対象となる2つの判定対象系統データの集合を「D={1,2}」とし、軌道を分割した区間の集合を「S={1,2,・・,|S|}」とする。また、区間jについて、判定対象系統データiに含まれる上昇傾向位置の数を「d ij」とし、下降傾向位置の数を「d ij」とする。
【0047】
算出手法αでは、先ず、各区間jについて、上昇傾向位置が2つの判定対象系統データの類似性に与える影響度「F 」、及び、下降傾向位置が2つの判定対象系統データの類似性に与える影響度「F 」を、次式(3)に従って算出する。
【数2】
【0048】
また、各区間jにおける2つの判定対象系統データの上昇傾向位置数の乖離度「m 」、及び、下降傾向位置の乖離度「m 」を、次式(4)に従って算出する。
【数3】
【0049】
そして、区間jにおける2つの判定対象系統データの類似度αを、次式(5)に従って算出する。
【数4】
【0050】
(C-2)算出手法β
図9は、算出手法βによる類似度βの算出を説明する図である。算出手法βは、コサイン類似度を利用した算出手法である。なお、上述の算出手法α(図8参照)と同様に、類似度の算出対象となる2つの判定対象系統データの集合を「D={1,2}」とし、軌道を分割した区間の集合を「S={1,2,・・,|S|}」とする。また、区間jについて、判定対象系統データiに含まれる上昇傾向位置の数を「d ij」とし、下降傾向位置の数を「d ij」とする。また、区間jに割り当てられた配点(相対的な重要度)を「f」とする。
【0051】
算出手法βでは、先ず、各区間jについて、2つの判定対象系統データiそれぞれについて、上昇傾向位置数d ij、及び、下降傾向位置数d ijを要素とした二次元ベクトルd1j,d2jを算出する。次いで、その二次元ベクトルd1j,d2jのなす角を「θ」とする。そして、各区間jについて、2つの系統データの類似度βを、次式(6)に従って算出する。
【数5】
【0052】
[機能構成]
図10は、変動傾向推定装置1の機能構成の一例である。図10によれば、変動傾向推定装置1は、操作部102と、表示部104と、音出力部106と、通信部108と、処理部200と、記憶部300とを備えて構成され、一種のコンピュータシステムとして実現される。なお、変動傾向推定装置1は、1台のコンピュータで実現してもよいし、複数台のコンピュータを接続して構成することとしてもよい。
【0053】
操作部102は、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、各種スイッチ等の入力装置で実現され、なされた操作に応じた操作信号を処理部200に出力する。表示部104は、例えば液晶ディスプレイやタッチパネル等の表示装置で実現され、処理部200からの表示信号に基づく各種表示を行う。音出力部106は、例えばスピーカ等の音出力装置で実現され、処理部200からの音信号に基づく各種音出力を行う。通信部108は、例えば無線通信モジュールやルータ、モデム、有線用の通信ケーブルのジャックや制御回路等で実現される通信装置であり、所与の通信ネットワークに接続して外部装置とのデータ通信を行う。
【0054】
処理部200は、CPU(Central Processing Unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の演算装置や演算回路で実現されるプロセッサーであり、記憶部300に記憶されたプログラムやデータ、操作部102や通信部108からの入力データ等に基づいて、変動傾向推定装置1の全体制御を行う。
【0055】
また、処理部200は、機能的な処理ブロックとして、データ取得部202、変動傾向算出部204、推定部206、類似度算出部208、を有する。処理部200が有するこれらの各機能部は、処理部200がプログラムを実行することでソフトウェア的に実現することも、専用の演算回路で実現することも可能である。本実施形態では、前者のソフトウェア的に実現することとして説明する。
【0056】
データ取得部202は、軌道に沿った各位置における第1の物理量を計測した第1の系統データの基準日のデータである第1の系統基準日データと、第1の系統データの対象日のデータである第1の系統対象日データと、軌道に沿った各位置における第2の物理量を計測した第2の系統データの基準日のデータである第2の系統基準日データとを取得する。具体的な取得法は、例えば、操作部102を介したユーザの操作入力によって取得することとしてもよいし、記憶媒体から読み出したり、通信部108を介して外部装置から入力することで取得することとしてもよい。取得した系統データは、計測日と対応付けて、系統データ群310として蓄積記憶される。
【0057】
変動傾向算出部204は、第1の系統基準日データ、第1の系統対象日データ、及び第2の系統基準日データのそれぞれについて、軌道に沿った位置順において計測値が相対的に急変していることを示す所定の急変条件を満たす急変位置を求めることで、当該計測値の当該位置順の変動傾向を算出する。具体的には、軌道に沿った位置順において計測値が相対的に急上昇していることを示す所定の上昇傾向検知条件を満たす上昇傾向位置と、計測値が相対的に急下降していることを示す所定の下降傾向検知条件を満たす下降傾向位置とを急変位置として求めることで変動傾向を算出する(図2参照)。
【0058】
推定部206は、第1の系統基準日データの変動傾向と第1の系統対象日データの変動傾向との差異に基づいて、第2の系統基準日データの変動傾向から、対象日における第2の系統データの変動傾向を推定する。具体的には、対象日における第2の系統データの暫定変動傾向を設定することと、第1の系統対象日データの変動傾向と暫定変動傾向とを類似度判定処理で判定して暫定類似度を算出することと、暫定類似度が基準日類似度に基づく所定の許容条件を満たさない場合に、1)暫定変動傾向の修正と、2)第1の系統対象日データの変動傾向と当該修正後の暫定変動傾向との暫定類似度の算出と、を繰り返すことと、を実行する(図4参照)。
【0059】
また、推定部206は、第1の系統基準日データの変動傾向が、第1の系統対象日データの変動傾向に至るための変化指向として、上昇傾向位置及び下降傾向位置に基づく変化指向を算出すること、を更に実行し、1)暫定変動傾向の修正は、当該暫定変動傾向を変化指向に基づいて修正すること、を行う(図6参照)。
【0060】
また、推定部206は、暫定変動傾向の設定を、軌道に沿った位置を分割した区間毎に行うことと、暫定類似度の算出を、第1の系統対象日データの変動傾向と、区間毎に設定した全体の暫定変動傾向と類似度判定処理で判定して算出することと、許容条件を満たさない場合の繰り返しを、択一的に選択した区間に対する1)暫定変動傾向の修正と、2)第1の系統対象日データの変動傾向と当該修正後の全体の暫定変動傾向との暫定類似度の算出と、の繰り返しで行うことと、を実行する。
【0061】
推定部206が推定した第2の系統対象日データの変動傾向は、対象日と対応付けて推定変動傾向データ群320として蓄積記憶される。
【0062】
類似度算出部208は、第1の系統基準日データの変動傾向と第2の系統基準日データの変動傾向とを所定の類似度判定処理で判定して基準日類似度を算出する。具体的には、2つの判定対象系統データそれぞれについて上昇傾向位置と下降傾向位置とを求め、当該上昇傾向位置及び下降傾向位置に基づいて当該2つの判定対象系統データの類似度を算出する処理を、類似度判定処理として実行する(図7参照)。
【0063】
記憶部300は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等のIC(Integrated Circuit)メモリやハードディスク等の記憶装置で実現され、処理部200が変動傾向推定装置1を統合的に制御するためのプログラムやデータ等を記憶しているとともに、処理部200の作業領域として用いられ、処理部200が実行した演算結果や、操作部102や通信部108からの入力データ等が一時的に格納される。本実施形態では、記憶部300には、変動傾向推定プログラム302と、系統データ群310と、推定変動傾向データ群320と、が記憶される。
【0064】
[作用効果]
このように、本実施形態によれば、何らかの関係性を有する第1の系統データを用いて、第2の系統データを推定することができる。第1の物理量及び第2の物理量が互いに何らかの関係性を有するならば、第1の系統データ及び第2の系統データそれぞれの変動傾向にも互いに何らかの関係性を有するといえる。また、第1の系統データと第2の系統データとは計測した物理量が異なるために、そのままでは比較が困難であるが、系統データの変動傾向によれば比較が可能となる。このため、対象日における第2の系統データとして、物理量が異なる他の系統データとの比較が可能な変動傾向を推定することができる。
【0065】
つまり、第1の基準日系統データの変動傾向と第1の対象日系統データの変動傾向との差異、すなわち、第1の系統データの変動傾向についての基準日と対象日との差異に基づくことで、第2の系統データの変動傾向についての基準日と対象日との差異を予測し、対象日における第2の系統データの変動傾向を推定することができる。また、系統データの変動傾向は、軌道に沿った位置順において計測値が相対的に急変した位置順の急変位置であるので、比較的容易に算出することができる。
【0066】
なお、本発明の適用可能な実施形態は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0067】
例えば、上述の実施形態では、第1の系統データと第2の系統データとは、同一の計測日に計測値のデータがあることを前提として説明したが、数日の違いがあっても同等条件を満たす計測日であれば、同一の計測日のデータとみなすこととしてもよい。例えば、同等条件を、最近接計測日の日数差が5日以内、とすることができる。この場合、第1の系統データに係る計測日と、第2の系統データに係る計測日とが異なっていても、互いの日数差(最近接計測日の日数差)が5日以内の計測日同士が、同等条件を満たす計測日となり、同一の計測日とみなして上述した実施形態を適用することができる。すなわち、基準日として、第1の系統データに係る計測日と第2の系統データに係る計測日とが同じである場合には、当然に同等条件を満たすとしてその計測日を基準日とすることができるし、異なっていても同等条件として許容される日数差以内(例えば5日以内)であれば、両者の計測日を同じ基準日として扱うことができる。
【符号の説明】
【0068】
1…変動傾向推定装置
200…処理部
202…データ取得部
204…変動傾向算出部
206…推定部
208…類似度算出部
300…記憶部
302…変動傾向推定プログラム
310…系統データ群
320…推定変動傾向データ群
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10