(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090113
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】フェルール、光コネクタおよび光コネクタの製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 6/40 20060101AFI20230622BHJP
【FI】
G02B6/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021204899
(22)【出願日】2021-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】000153720
【氏名又は名称】株式会社白山
(74)【代理人】
【識別番号】110000844
【氏名又は名称】弁理士法人クレイア特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 護章
(72)【発明者】
【氏名】上野 翔平
【テーマコード(参考)】
2H036
【Fターム(参考)】
2H036JA02
2H036KA02
2H036LA02
2H036LA03
2H036QA18
2H036QA23
2H036QA33
2H036QA56
(57)【要約】 (修正有)
【課題】小型のフェルールであって、かつ、製造工程を簡略化できるフェルール、および光コネクタ、光コネクタの製造方法を提供することである。
【解決手段】フェルール100は、複数の光ファイバをそれぞれ突出させるための複数のファイバ孔20が前端面100aに設けられ、複数の光ファイバ孔20の後端に連通し互いに平行な複数のファイバ誘導孔25が設けられ、複数の光ファイバの光ファイバテープを挿入する光ファイバテープ挿入孔35が一端面の逆側の後端面100bに設けられたフェルール100であって、フェルール100は、鍔部30を有し、かつ複数のファイバ孔20、ファイバ誘導孔25および光ファイバテープ挿入孔35を連通する内部空間を備えるとともに、内部空間に接着剤を充填するための接着剤充填窓55を鍔部30の一面にのみ備えたものである。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の光ファイバをそれぞれ突出させるための複数のファイバ孔が一端面に設けられ、複数の前記光ファイバ孔の後端に連通し互いに平行な複数のファイバ誘導孔が設けられ、複数の前記光ファイバの光ファイバテープを挿入する光ファイバテープ挿入孔が前記一端面の逆側の他端面に設けられたフェルールであって、
前記フェルールは、鍔部を有し、かつ複数の前記ファイバ孔、前記ファイバ誘導孔および前記光ファイバテープ挿入孔を連通する内部空間を備えるとともに、前記内部空間に接着剤を充填するための接着剤充填窓を前記鍔部の一面にのみ備えた、フェルール。
【請求項2】
前記フェルールの前記一端面から前記他端面までの長さが4mmであり、
前記フェルールの前記内部空間における、前記ファイバ誘導孔の長さが1.7mm以上2.5mm以下である、請求項1記載のフェルール。
【請求項3】
前記フェルールは、PPS樹脂からなり、
前記光ファイバ孔は、直径125マイクロメートルからなる、請求項1または2に記載のフェルール。
【請求項4】
前記フェルールの前記鍔部は、前記フェルールの前記一端面と並行に全周に亘って形成された、請求項1から3のいずれか1項に記載のフェルール。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のフェルールに複数の前記光ファイバを装填した、光コネクタ。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか1項に記載のフェルールを使用した光コネクタの製造方法であって、
前記フェルールの前記鍔部に設けられた前記接着剤充填窓から前記内部空間へ前記接着剤を充填する接着剤充填工程と、
前記フェルールの前記光ファイバテープ挿入孔から前記光ファイバを挿入する光ファイバテープ挿入工程と、
前記光ファイバを固定するための接着剤硬化工程と、
前記フェルールの一端面から突出した複数の前記光ファイバを研磨する研磨工程と、を含む、光コネクタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光信号を伝達する光ケーブルの光ファイバ同士を光学的に接続するフェルールと、光ファイバを保持した光コネクタ、および光コネクタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバを用いた光ケーブルは、多量の情報の高速通信が可能であることから、家庭用、産業用の情報通信に広く利用されている。
例えば、特許文献1(特開2004-020962号公報)には、光コネクタのフェルールに光ファイバテープを固定する際に、接着用の樹脂を、気泡を生成せず満遍なくフェルールの光ファイバテープ挿入孔に流し込むことのできる光コネクタが開示されている。
【0003】
特許文献1に記載の光コネクタは、複数の光ファイバを被覆してなる光ファイバテープを保護するための筒状のブーツと、ブーツを取り付けるブーツ挿着孔と、ブーツ挿着孔に連通して設けられた光ファイバテープ挿入孔と、光ファイバテープ挿入孔に連通して設けられた複数の光ファイバ用の複数の光ファイバ孔と、を有するフェルールと、を備え、複数の光ファイバを光ファイバ孔に挿着し、且つ光ファイバテープを挿着したブーツをブーツ挿着孔に挿入した状態で、光ファイバテープ挿入孔の上部に設けられた窓穴から接着用の樹脂を充填して形成され、ファイバテープ挿入孔の光ファイバテープ収納部に傾斜部が設けられている。
【0004】
特許文献2(特開2007-279576号公報)には、接着剤の漏れ出しを防止しつつ十分な柔軟性を有するブーツによって光ファイバの曲げ力を緩和することができる光コネクタ及びその光コネクタを容易に製造することができる製造方法が開示されている。
【0005】
特許文献2に記載の光コネクタは、光ファイバをフェルールのファイバ挿通孔に挿通させて接着剤により固定した光コネクタであって、フェルールの後端側に液体状態で注入し固化させた状態で弾性力を有する樹脂材料部を備えていることを特徴とする。
【0006】
特許文献3(特開2001-108867号公報)には、高い精度と形状安定性を備えたMT光コネクタ用のフェルールが開示されている。
【0007】
特許文献3に記載のフェルールは、横並びの複数の光ファイバ穴の左右両側にガイドピン穴を形成したプラスチック製で嵌合ピン位置合わせ方式の多心光コネクタ用フェルールであって、左右のガイドピン穴間の中間部を上下対称に薄肉にしたことを特徴とする。
【0008】
特許文献4(特開2001-264585号公報)には、組立て作業性を向上させるようにした光コネクタ用フェルールが開示されている。
【0009】
特許文献4に記載の光コネクタ用フェルールは、ガイドピンを挿入するガイド孔を有すると共に、前端面側に形成した光接続口から内部に向けて延在する光ファイバ挿入部を有する光コネクタ用フェルールにおいて、光接続口の数に対応させて前端面側に凸部を形成し、凸部の頂部に光接続口を配置させたことを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004-020962号公報
【特許文献2】特開2007-279576号公報
【特許文献3】特開2001-108867号公報
【特許文献4】特開2001-264585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
光ケーブルは、従来、距離の離れた情報通信機器同士を接続するためのケーブルであったが、情報通信機器の高速化、高密度化に伴い、最近では情報通信機器の内部配線に光ケーブルを用いる場合が多くなっている。そして、そのような場合には光ケーブル同士を接続する光コネクタは、情報通信機器のPCボードの端部、あるいはPCボード上に配置されることも多くなり、光コネクタ、あるいは光コネクタを構成するフェルールの小型化が必要になってきている。
【0012】
しかしながら、近年のフェルールの小型化を追求すると、光ファイバをフェルールに接着剤で固定しても、接続端面の粗研磨を行った場合に、光ファイバにクラックが入るという問題が生じる。なお、粗研磨は、カッター等でフェルールから光ファイバが突出した部分を大きく切断することも含まれる。
また、光ファイバのクラックを抑止するために、製造上において、別工程が必要となった。例えば、光ファイバを挿入した後に、接着剤を後工程で再度塗布する必要性が生じた。発明者は、光ファイバのクラックを防止できることを見出した。
【0013】
本発明の目的は、小型のフェルールであって、かつ、製造工程を簡略化できるフェルール、および光コネクタ、光コネクタの製造方法を提供することである。
本発明の他の目的は、情報機器の高密度化に対応できる小型のフェルールであって、かつ、光ファイバを確実に保持しつつクラック等の不具合を防止し、製造工程を簡略化できるフェルール、および光コネクタ、光コネクタの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(1)
一局面に従うフェルールは、複数の光ファイバをそれぞれ突出させるための複数のファイバ孔が一端面に設けられ、複数の光ファイバ孔の後端に連通し互いに平行な複数のファイバ誘導孔が設けられ、複数の光ファイバの光ファイバテープを挿入する光ファイバテープ挿入孔が一端面の逆側の他端面に設けられたフェルールであって、フェルールは、鍔部を有し、かつ複数のファイバ孔、ファイバ誘導孔および光ファイバテープ挿入孔を連通する内部空間を備えるとともに、内部空間に接着剤を充填するための接着剤充填窓を鍔部の一面にのみ備えたものである。
【0015】
近年、情報通信機器の内部配線に光ケーブルを用いることが検討されており、光トランシーバの接続部分、基板実装における接続部分では、狭小な空間で光ファイバに接続をすることができる小型のフェルールが求められる。
フェルールの小型化に伴い、接続端面と光ファイバテープ挿入孔との距離が短縮されて、接続端面と接着剤充填窓との距離が短くなると、ファイバ誘導孔の距離が短くなる。その結果、接着剤が充填されたフェルールに光ファイバを挿通したときに接続端面に吐出される接着剤の量が少なくなり、その結果、光ファイバを切断して接続端面を研磨する工程で、光ファイバにクラックが発生するという問題が生じる。本発明のフェルールでは、充填窓を鍔部に設けることにより、ファイバ誘導溝の距離を確保することができるため、接続端面に吐出される接着剤の量が確保され光ファイバを確実に保持することが可能となり、光ファイバを切断して接続端面を研磨した場合も光ファイバの損傷を防ぐことができる。
すなわち、フェルールの鍔部に接着剤充填窓を形成することで、フェルールの内部空間において、光ファイバのファイバ誘導孔の長さを所定の距離以上確保することができる。
また、鍔部にまたがって接着剤充填窓を形成した場合には、フェルールの鍔部近傍に毛細管現象に影響により接着剤が漏れ流れていたが、鍔部のみに接着剤充填窓を形成することにより研磨工程が難しくなるという症状を防止することができた。
【0016】
(2)
第2の発明にかかるフェルールは、一局面に従うフェルールにおいて、フェルールの一端面から他端面までの長さが4mmであり、フェルールの内部空間における、ファイバ誘導孔の長さが1.7mm以上2.5mm以下であってもよい。
【0017】
この場合、フェルールは、高密度化実装を実現するために、小型化されており、誘導孔長が所定の範囲内でなければ、粗研磨の場合に光ファイバにクラックが入る問題が生じた。そのため、ファイバ誘導孔の長さは1.7mm以上2.5mm以下であることが好ましい。一端面から他端面までの長さは、6.0mm以下が好ましく、5.0mm以下がより好ましく、4.0mm以下がさらに好ましい。
ここで、前端面と後端面とを結ぶ方向を長さ方向とし、長さ方向に直交する方向を幅方向とし、長さ方向および幅方向と直交する方向を上下方向とする。なお、粗研磨は、カッター等でフェルールから光ファイバが突出した部分を大きく切断することも含まれる。
【0018】
(3)
第3の発明にかかるフェルールは、一局面から第2の発明にかかるフェルールにおいて、フェルールは、PPS樹脂からなり、光ファイバ孔は、直径125マイクロメートルからなってもよい。
【0019】
小型かつ高密度の多心フェルールは、極めて高い位置と寸法の精度が求められるため、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂を用いることが好ましい。また、光ファイバのクラッド孔径は直径125マイクロメートルとしてもよい。なお、光ファイバ孔は、直径125マイクロメートルより+1マイクロメートル以下の範囲で大きいことが好ましい。
【0020】
(4)
第4の発明にかかるフェルールは、一局面から第3の発明にかかるフェルールにおいて、フェルールの鍔部は、フェルールの一端面と並行に全周に亘って形成されることが好ましい。
【0021】
この場合、小型のフェルールの研磨工程を実施する場合に、確実にフェルールを鍔部で保持することができるため、極めて高い精度を実現することができる。特に、小型化されたフェルールの鍔部は、光ファイバの先端を所定の角度、例えば、8度研磨する場合の基準面となるため、全周に亘って形成されることにより精度を高めることができる。
【0022】
(5)
他の局面にかかる光コネクタは、一局面から第4の発明にかかるフェルールに複数の光ファイバを装填したものである。
【0023】
この場合、フェルールに複数の光ファイバが装填された小型化された光コネクタを容易に量産することができる。
【0024】
(6)
さらに他の局面に係る光コネクタの製造方法は、一局面から第4の発明にかかるフェルールを使用した光コネクタの製造方法であって、フェルールの鍔部に設けられた接着剤充填窓から内部空間へ接着剤を充填する接着剤充填工程と、フェルールの光ファイバテープ挿入孔から光ファイバを挿入する光ファイバテープ挿入工程と、光ファイバを固定するための接着剤硬化工程と、フェルールの一端面から突出した複数の光ファイバを研磨する研磨工程と、を含むものである。
【0025】
この場合、フェルールに複数の光ファイバが装填された小型化の光コネクタを容易に量産することができる。
【0026】
(A)
また、フェルールは、鍔部を有し略直方体に形成されたフェルール本体と、フェルール本体の鍔部側の端部に設けられており、光ファイバテープを挿入する光ファイバテープ挿入孔と、フェルール本体の他端部の接続端面側に設けられた光ファイバ孔と、光ファイバテープ挿入孔と光ファイバ孔との間に設けられたファイバ誘導孔と、フェルール本体の上面に形成されており、光ファイバをフェルール本体に固定するための接着剤をフェルール本体の内部空間内に充填するための接着剤充填窓と、を有し、接着剤充填窓が鍔部に形成され、接着剤充填窓は誘導孔と連通し、誘導孔の長さは1.7mm以上2.5mm以下の範囲内であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本実施形態のフェルールの一例を示す模式的斜視図である。
【
図2】(a)はフェルールの模式的上面図、(b)は左側から見た模式的側面図、(c)右側から見た模式的側面図、(d)は(a)のA-A面の模式的断面図である。
【
図3】フェルールと、光ファイバテープとから構成される光コネクタの一例を示す模式的分解斜視図である。
【
図4】光ファイバテープが挿入された光コネクタを(a)のA-A面に相当する面で切断した一例を示す模式的断面図である。
【
図5】実施例のフェルールにおける後端面の一例を示す図である。
【
図9】実施例のフェルールおよび比較例1の接着剤の端面観察の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。
以下の説明においては、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0029】
<第1の実施形態>
(フェルール100)
図1は本実施形態のフェルール100の一例を示す模式的斜視図である。また、
図2(a)はフェルール100の模式的上面図、
図2(b)は左側から見た模式的側面図、
図2(c)右側から見た模式的側面図、
図2(d)は
図2(a)のA-A面の模式的断面図である。
【0030】
図1および
図2に示すように、本実施形態のフェルール100は、フェルール本体10およびフェルール本体10に対して鍔を形成した鍔部30とからなる。
なお、本明細書の以下の説明においては、前端面100aと後端面100bとを結ぶ方向(
図2(a)の左右方向)を長さ方向、長さ方向に直交する方向(
図2(a)の上下方向)を幅方向、長さ方向および幅方向と直交する方向を上下方向としている。
本実施の形態におけるフェルール100は、小型であり特に精度が求められることから、フェルール本体10および鍔部30との間の4面、すなわち、前端面100aおよび後端面100b以外に形成された段差を利用して研磨等を実施する。
【0031】
また、フェルール本体10においては、光ファイバ101aの被覆を除去した部分を挿入して位置決めして固定するための複数の光ファイバ孔20と、これら複数の光ファイバ孔20の後端に連通し互いに平行な複数のファイバ誘導孔25と、複数のファイバ誘導孔25の後端に連通し互いに平行なU字状またはV字状の複数のファイバ誘導溝40とが、フェルール本体10の前端面100aから後端面100bに向けて形成されている。
【0032】
フェルール100の鍔部30には、光ファイバ101aを挿通させた光ファイバテープ101を挿入する光ファイバテープ挿入孔35と、光ファイバ101aをフェルール本体10に固定するための接着剤を注入する接着剤充填部50を備える。
そして、フェルール100には、複数の光ファイバ孔20と平行に横幅方向の両端部近傍に形成されており、ガイドピンを挿入するため2つのガイドピン孔60が形成されている。
【0033】
なお、本実施の形態においては、通常のように、複数の光ファイバ101aをまとめた光ファイバテープ101を用いるものとし、光ファイバテープ101にさらにブーツを設けたものを使用しない。
そのため、フェルール100の後端面100bには、ブーツを挿入するための大きさではなく、より小さな光ファイバテープ挿入孔35が形成されている。
図2のA-A断面に示すように、フェルール100は、光ファイバ孔20およびファイバ誘導孔25と光ファイバテープ挿入孔35とを連通する内部空間、および当該内部空間に連通する接着剤充填部50が設けられている。
【0034】
フェルール100は、情報機器の高密度化に対応するために、多心化および薄型化が進行している。特に、近年は光通信配線の基板実装が検討されており、光トランシーバの接続部分、基板実装における接続部分では、狭小な空間で光ファイバに接続をすることができる小型のフェルール100が求められる。
本実施形態のフェルール100では、複数の光ファイバ101aの本数は12心、径が1.25mmであり、フェルール100の最大幅が7.00mm、フェルール100の長さt3が4mmである。したがって、幅と高さとの比率は5.6倍である。
なお、本実施の形態におけるフェルール100は、例えば、無機充填物が充填された樹脂材料を成型して構成される。樹脂材料は、熱硬化性エポキシ樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)などである。このうち、位置精度、寸法精度、成形収縮率および熱安定性の観点からポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂を用いることが好ましい。これにより小型かつ高密度の実装を行っても接続損失の少ないフェルール100にすることができる。また、無機充填物には、例えば粒状シリカを用いることができ、無機充填物を充填することで、フェルール100の強度を向上できる。
【0035】
(光コネクタ200)
図3は、フェルール100と、光ファイバテープ101とから構成される光コネクタ200の一例を示す模式的分解斜視図であり、
図4は、光ファイバテープ101が挿入された光コネクタ200を
図2(a)のA-A面に相当する面で切断した一例を示す模式的断面図である。
【0036】
まず、鍔部30に設けられた接着剤充填部50に接着剤を充填する。接着剤は、熱硬化型のエポキシ接着剤であることが好ましい。なお、接着剤は、UV硬化等、他の任意の硬化型の接着剤を用いてもよい。
次に、複数の光ファイバ101aをまとめた光ファイバテープ101をフェルール100の鍔部30に設けられた光ファイバテープ挿入孔35に挿入する。
【0037】
図3に示すように、光ファイバテープ101の先端側は、光ファイバテープ101の被覆が剥離された光ファイバ101aである。光ファイバ101aが、フェルール100の内部空間において、ファイバ誘導溝40、ファイバ誘導孔25、光ファイバ孔20を経由してフェルール100の前端面100aに至るよう挿入される。
【0038】
この場合、接着剤充填部50における接着剤充填窓55からファイバ誘導溝40を視認できるため、光ファイバ101aを容易にファイバ誘導孔25へ挿入することができる。また、ファイバ誘導孔25の誘導孔の長さt1が1.7mm以上あるため、光ファイバ101aを確実に保持することができる。
すなわち、誘導孔の長さt1が所定距離以上あるため、接着剤が充填されたフェルール100に対して光ファイバ101aを挿通すると、フェルール100の接続端面に十分な量の接着剤が吐出される(
図9参照)。したがって、その後に光ファイバ101aを切断して接続端面を研磨する場合にも、光ファイバ101aを確実に保持することが可能となり、光ファイバ101aにクラックが入ることを防止できる。これにより、小型にしても接続損失の少ないフェルール100とすることができる。
ファイバ誘導孔25の誘導孔の長さt1は、1.0mm以上が好ましく、1.5mm以上がより好ましく、1.7mm以上がさらに好ましい。これにより、接着剤GLによって光ファイバ101aを確実に保持することができる。
また、ファイバ誘導孔25の誘導孔の長さt1は、3.0mm以下が好ましく、2.5mm以下がより好ましく、2.0mm以下がさらに好ましい。これにより、フェルール100全体のサイズを小型にすることができる。
この場合において、ファイバ誘導孔25の内径は、光ファイバ101aのクラッド径によって適宜選択可能であり、例えば250μm、125μm、100μm、80μm、50μmとすることができる。
【0039】
また、フェルール100の前端面100aから1mm前後突出するよう光ファイバ101aが挿入される。なお、光ファイバ101aを進退させて接着剤GLをファイバ誘導孔25および光ファイバ孔20に浸透させることが望ましい。
【0040】
次に、接着剤GLに対して熱硬化が施され、接着剤が固定される。その後、大きく前端面100aから突出した光ファイバ101aをカッター等で切断し、フェルール本体10および鍔部30の段差を利用して光ファイバテープ101が固定されたフェルール100の前端面100aの研磨が実施され、光コネクタ200が形成される。なお、本実施の形態においては、研磨においては、粗研磨と、本研磨との2段階の工程を用いている。なお、粗研磨は、カッター等でフェルールから光ファイバが突出した部分を大きく切断することも含まれる。
【0041】
(フェルール100の実施例と比較例)
以下、フェルール100の実施例と比較例について説明する。本実施の形態における実施例は、
図1および
図2に示したフェルール100である。
【0042】
図5は、実施例のフェルール100における後端面100bの一例を示す図であり、
図6は、比較例1のフェルール910の一例を示す平面図であり、
図7は、比較例2のフェルール920の一例を示す平面図であり、
図8は、比較例3のフェルール930の一例を示す平面図である。
【0043】
また、
図9は、実施例のフェルール100および比較例1のフェルール910の接着剤の端面観察の一例を示す図である。形状変更前は、比較例1のフェルール910を示し、形状変更後は、実施例のフェルール100を示す。
端面写真は、前端面100aを示し、平面写真は、上面から視野した状態を示す。
【0044】
[実施例]
図1から
図3に示すように、実施例のフェルール100においては、鍔部30に接着剤充填窓55および接着剤充填部50を設けた。この場合、接着剤充填窓55の長さが、1.20mmであり、光ファイバ101aの先端を視認することができ、作業効率の低下は生じなかった。
また、フェルール100自体の小型化を実現しながらも、ファイバ誘導孔25の長さt1を1.7mm設けることができた。その結果、光ファイバ101aのクラックは生じなかった。
【0045】
本実施例のフェルール100は、接続端面である前端面100aの対向する後端面100b側に、ブーツを挿入するためのブーツ挿入孔を有していない。これは、光トランシーバの接続部分、基板実装における接続部分では、小型のフェルール100が求められるため、ブーツを挿入するための空間を設けていない。本実施の形態では、光トランシーバの接続部分に設置するためのフェルール100を作成したため、光ファイバ101aが折り曲げられたり応力が加わったりするリスクがなく、ブーツを設けなくても問題が生じないためである。なお、ブーツ挿入孔の有無は、使用するフェルール100の目的に応じて適宜設計することが可能である。
さらに、
図5に示すように、ブーツを用いずに、光ファイバテープ101で組み立てた場合においても、接着剤GLの漏れがなく、接着剤GLが光ファイバテープ挿入孔35から溢れてガイドピン孔60に流れ込むことはなかった。これは、接続端面である前端面100aの対向する後端面100bからファイバ誘導孔25の入り口までの距離が短いため、光ファイバテープ101を挿入することにより溢れる接着剤GLの量が抑えられたためと考えられる。本実施例ではこの距離を1.8mmとしたが、3.0mm以下が好ましく、2.5mm以下がより好ましく、2.0mm以下がさらに好ましい。これにより、接着剤GLの漏れを防止することができる。
【0046】
さらに、
図9に示すように、実施例のフェルール100においては、前端面100aにもしっかりと接着剤GLがあふれて出てきており、光ファイバ101aと光ファイバ孔20との部分に接着剤GLが凸状に形成されているのがわかる。この場合、接着剤GLを熱硬化させることで、カッターなどの刃物で余分な光ファイバ101aをカットしても、光ファイバ101aにクラックが入ることはなかった。
【0047】
[比較例1]
図6に示すように、比較例1のフェルール910においては、接着剤充填窓55および接着剤充填部50を従来のフェルールのように、フェルール本体10側に設けた。
この場合、接着剤充填窓55の長さが、0.8mmであり、光ファイバ101aを挿入する作業が困難であった。すなわち、光ファイバ101aの先端を視認することはできるが余裕がないため、作業効率が低下した。
また、フェルール自体の小型化のため、ファイバ誘導孔25の長さが0.5mmしかとることができなかった。
そのため、
図9に示すように、比較例1のフェルール910においては、前端面100aにあまり接着剤GLが出てきておらず、光ファイバ101aと光ファイバ孔20との部分に接着剤GLがなく、光ファイバ101aに玉状に接着剤GLが付着するのみである。この場合、接着剤GLを熱硬化させても、粗研磨の工程において、光ファイバ101aにクラックが発生した。このクラックを防止するためには、光ファイバ101aを挿入した場合の前端面100a側に滲み出る接着剤量を増加する必要があり、光ファイバ挿入後に手作業で
図9の実施例のフェルール100の形状変更後のように、前端面100aに接着剤を塗布する必要があった。結果として、作業工程が増加し、生産効率が著しく低下した。
【0048】
[比較例2]
図7に示すように、比較例2のフェルール920においては、ファイバ誘導孔25の長さを0.5mmよりも長く変更するため、接着剤充填窓55および接着剤充填部50をフェルール本体10側の鍔部30側に寄せた形で設けた。
【0049】
この場合、ファイバ誘導孔25の長さが1.5mmに増加した。しかしながら、接着剤充填窓55の長さ方向が0.5mmで設定したため、接着剤がしっかりと充填できず、さらには光ファイバ101aの先端を視認することはできるが余裕がないため、作業効率が低下した。
また、接着剤を加熱する加熱工程において、毛細管現象が生じて、フェルール本体10および鍔部30の間に接着剤が流れ込んでしまい、研磨工程においてフェルール本体10および鍔部30の段差を把持することができない状態となった。
【0050】
[比較例3]
図8に示すように、比較例3のフェルール930においては、接着剤充填窓55および接着剤充填部50をフェルール本体10および鍔部30に亘って形成した。
この場合、接着剤充填窓55の長さを確実に設けることができたが、接着剤を加熱する加熱工程において、毛細管現象が生じて、フェルール本体10および鍔部30の間に接着剤が流れ込んでしまい、研磨工程においてフェルール本体10および鍔部30の段差を把持することができない状態となった。
【0051】
[実施例と比較例との考察]
実施例と比較例1、2および3を比較した場合、実施例は、
a)接着剤充填窓55の長さが大きい。
b)鍔部30のみに接着剤充填窓55を設けた。
c)ファイバ誘導孔25の長さt1が1.7mm以上である。点で異なる。
よって、実施例のフェルール100において、作業効率がよく、光ファイバ101aのクラックが生じない理由は、鍔部30のみに接着剤充填窓55を形成し、ファイバ誘導孔25の長さt1が1.7mm以上ある点と考えられる。
【0052】
以上の結果より、フェルール100の長さt3が、4mmの小型化を実現するためのフェルール100においては、鍔部30に接着剤充填部50および接着剤充填窓55を設けて、ファイバ誘導孔25の長さを所定の長さで形成すべきことがわかった。また、ファイバ誘導孔25の長さt1が1.7mm以上であることが好ましいことがわかった。
なお、フェルール100においては、ブーツを有さないため、数十メートル以上の光ファイバ101aの場合に加わる上下左右の応力に耐えることができないため、通信距離の短いパーソナルコンピュータの内部通信、基板上の通信、無線通信機の通信等において、最適であると考えられる。
【0053】
本発明においては、複数の光ファイバ101aが「複数の光ファイバ」に相当し、光ファイバ孔20が「複数のファイバ孔」に相当し、前端面100aが「一端面」に相当し、ファイバ誘導孔25が「複数のファイバ誘導孔」に相当し、光ファイバテープ101が「光ファイバテープ」に相当し、光ファイバテープ挿入孔35が「光ファイバテープ挿入孔」に相当し、後端面100bが「他端面」に相当し、フェルール100が「フェルール」に相当し、鍔部30が「鍔部」に相当し、接着剤GLが「接着剤」に相当し、接着剤充填窓55が「接着剤充填窓」に相当し、光コネクタ200が「光コネクタ」に相当する。
【0054】
本発明の好ましい一実施の形態は上記の通りであるが、本発明はそれだけに制限されない。本発明の精神と範囲から逸脱することのない様々な実施形態が他になされることは理解されよう。さらに、本実施形態において、本発明の構成による作用および効果を述べているが、これら作用および効果は、一例であり、本発明を限定するものではない。
【符号の説明】
【0055】
10 フェルール本体
20 光ファイバ孔
25 ファイバ誘導孔
30 鍔部
35 光ファイバテープ挿入孔
50 接着剤充填部
55 接着剤充填窓
100 フェルール
100a 前端面
100b 後端面
101 光ファイバテープ
101a 光ファイバ
200 光コネクタ
GL 接着剤