(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090120
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】光硬化性樹脂組成物とその製造方法、及び光硬化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 2/44 20060101AFI20230622BHJP
【FI】
C08F2/44 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021204909
(22)【出願日】2021-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松崎 栄仁
(72)【発明者】
【氏名】長田 憲和
(72)【発明者】
【氏名】辻 大輔
(72)【発明者】
【氏名】赤石 直也
【テーマコード(参考)】
4J011
【Fターム(参考)】
4J011AA05
4J011CC10
4J011PA04
4J011PB22
4J011PC02
4J011PC08
4J011QA07
4J011QA24
4J011SA79
4J011UA02
4J011VA01
4J011WA10
(57)【要約】
【課題】黒色系無機粒子を配合した場合でも良好に光硬化させることが可能な光硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】実施形態の光硬化性樹脂組成物は、光照射により硬化するマトリックス樹脂と、マトリックス樹脂内に分散され、黒色系無機粒子を含む充填粒子とを具備する。充填粒子4は、黒色系無機粒子1と、黒色系無機粒子1の表面を被覆するように設けられた白色系無機物質3とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光照射により硬化するマトリックス樹脂と、
前記マトリックス樹脂内に分散され、黒色系無機粒子を含む充填粒子とを具備し、
前記充填粒子は、前記黒色系無機粒子と、前記黒色系無機粒子の表面を被覆するように設けられた白色系無機物質とを備える、光硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記黒色系無機粒子は、ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物、鉄、マンガン、炭素、及び炭化ホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記白色系無機物質は、セリア、ガドリニウム添加セリア、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、窒化アルミニウム、及びチタン酸バリウムからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1又は請求項2に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記黒色系無機粒子の表面は、前記白色系無機物質からなる白色系無機粒子で被覆されている、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
前記黒色系無機粒子の表面は、接着剤を介して前記白色系無機粒子で被覆されている、請求項4に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
前記黒色系無機粒子の表面は、粉体めっきにより前記白色系無機粒子で被覆されている、請求項4に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
前記黒色系無機粒子の表面は、金属めっき膜を介して前記白色系無機粒子で被覆されている、請求項4に記載の光硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
黒色系無機粒子の表面を白色系無機物質で被覆して、充填粒子を得る工程と、
前記充填粒子を光照射により硬化するマトリックス樹脂内に分散させる工程と
を具備する、光硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
前記黒色系無機粒子の表面を、前記白色系無機物質からなる白色系無機粒子で被覆する、請求項8に記載の光硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
前記黒色系無機粒子の表面に接着剤を塗布し、前記接着剤に前記白色系無機粒子を付着させた後、前記接着剤を硬化させることにより、前記黒色系無機粒子の表面を前記白色系無機粒子で被覆する、請求項9に記載の光硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
前記黒色系無機粒子の表面を、粉体めっきにより前記白色系無機粒子で被覆する、請求項9に記載の光硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
金属めっき液に前記黒色系無機粒子及び前記白色系無機粒子を分散させ、前記黒色系無機粒子の表面を前記金属めっき液に基づく金属めっき膜を介して前記白色系無機粒子で被覆する、請求項9に記載の光硬化性樹脂組成物の製造方法。
【請求項13】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の光硬化性樹脂組成物のスラリーを作製する工程と、
前記光硬化性樹脂組成物のスラリーを成形する工程と、
前記光硬化性樹脂組成物のスラリーの成形物の所望の領域に光を照射し、前記光硬化性樹脂組成物の第1の光硬化物を形成する工程と
を具備する光硬化性物の製造方法。
【請求項14】
前記光硬化性樹脂組成物の第1の光硬化物上に前記光硬化性樹脂組成物のスラリーを成形する工程と、
前記光硬化性樹脂組成物のスラリーの成形物の所望の領域に光を照射し、前記光硬化性樹脂組成物の第1の光硬化物上に第2の光硬化物を形成する工程とを具備し、
前記第1の光硬化物と前記第2の光硬化物との積層物を得る、請求項13に記載の光硬化性物の製造方法。
【請求項15】
前記第1の光硬化物又は前記積層物は、電気化学セルの電極素材である、請求項13又は請求項14に記載の光硬化性物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、光硬化性樹脂組成物とその製造方法、及び光硬化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粒子やセラミックス粒子等の固体粉末を液状の光硬化性樹脂に混ぜ合わせたスラリーに光を照射して硬化させることで、三次元造形物を造形する光造形技術が知られている。この種の光造形技術の典型的な構成の一つでは、例えばシリンジからスラリーを吐出して堆積し、スキージで均して平滑化し、その平滑化したスラリー堆積物の所定領域に光を照射して硬化層を形成する。さらに、その硬化層上にスラリーを再度供給してスキージで均して平滑化し、その平滑化したスラリー堆積物の所定領域に光を照射して硬化層をさらに形成する。以後、同様の操作を繰り返すことで、最終的に複数の硬化層の集合体である三次元積層造形物を作製する。
【0003】
例えば、固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)や固体酸化物形電解セル(Solid Oxide Electrolysis Cell:SOEC)においては、酸素極や水素極のような電極を多孔質構造とし、電極がガス流路を兼ねる電極流路一体型構造とすることによって、コンパクト化を図ることが検討されている。このようなSOFCやSOECの電極のうち、酸素極の構成材料にはランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物(LSCF)粒子が用いられている。LSCF粒子を用いた電極を従来のセラミックス製造技術を適用して作製する場合、積層圧着法が用いられる。この方法では、大量製造が可能で、かつ一体構造での焼成が可能であるという長所がある反面、微細構造を成型することが困難であった。
【0004】
また、LSCF粒子を用いた電極の製造に光造形技術を適用する場合、光硬化性樹脂とLSCF粒子との混合物スラリーを用いて、上記したスラリーの吐出及び堆積、スラリー堆積物のスキージによる平滑化、及びスラリー堆積物への光照射を複数回繰り返すことによって、三次元積層造形物を作製し、これを焼成することにより多孔質電極が製造される。光造形技術は、微細構造を成型しやすいという利点を有する。しかしながら、LSCF粒子は黒色であるため、光硬化性樹脂に配合して光造形した場合、光源からの光が黒色粒子に吸収されてしまうことで、一定の深さに至るまで光が到達しない。このため、造形物全体を均一に光硬化せることができないという難点がある。このような難点はLSCF粒子を用いた場合に限らず、例えば導電性粒子としてカーボン等と光硬化性樹脂を用いて、導電性部材を光造形技術により製造する場合にも生じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-257323号公報
【特許文献2】特開2019-064861号公報
【特許文献3】特開平7-289873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、黒色系無機粒子を配合した場合でも良好に光硬化させることが可能な光硬化性樹脂組成物とその製造方法、及び光硬化物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の光硬化性樹脂組成物は、光照射により硬化するマトリックス樹脂と、前記マトリックス樹脂内に分散され、黒色系無機粒子を含む充填粒子とを具備し、前記充填粒子は、前記黒色系無機粒子と、前記黒色系無機粒子の表面を被覆するように設けられた白色系無機物質とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態の光硬化性樹脂組成物における充填粒子の第1の例を模式的に示す断面図である。
【
図2】実施形態の光硬化性樹脂組成物における充填粒子の第2の例を模式的に示す断面図である。
【
図3】実施形態の光硬化物の製造方法を示す断面図である。
【
図4】実施例により製造した電気化学セルを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態の光硬化性樹脂組成物とその製造方法、及び光硬化物の製造方法について、図面を参照して説明する。以下に示す各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。なお、以下の説明における“~”の記号は、それぞれの上限値と下限値の間の範囲を示すものである。その場合、各範囲は上限値及び下限値を含むものである。
【0010】
(光硬化性樹脂組成物及びその製造方法)
実施形態の光硬化性樹脂組成物は、光照射により硬化するマトリックス樹脂と、マトリックス樹脂内に分散され、黒色系無機粒子を含む充填粒子とを具備する。実施形態の光硬化性樹脂組成物において、充填粒子は、黒色系無機粒子と、黒色系無機粒子の表面を被覆するように設けられた白色系無機物質とを備える。実施形態の光硬化性樹脂組成物及びその製造方法について、以下に詳述する。
【0011】
光照射により硬化するマトリックス樹脂(光硬化性樹脂)は、光によりモノマーを連鎖重合させることで分子量を増大させて硬化(光硬化)させる樹脂である。光硬化とは、光エネルギーの作用で液状から固体に変化させることを指し、硬化する有機材料を光硬化性樹脂と呼んでいる。硬化作用を与える光としては、紫外線が一般的に広く用いられている。紫外光のレーザーはエネルギー密度が高く、小さいスポット径に絞ることができるため有用である。一方で、可視光で硬化させる樹脂も工業的には広く用いられている。
【0012】
液体の光硬化性樹脂は、その中で、ほぼ次のようなステップで硬化する。光重合開始剤が紫外線を吸収し、紫外線を吸収した光重合開始剤が活性化した後、活性化した光重合開始剤が分解等を経てモノマーやオリゴマー等の樹脂成分に反応する。この反応生成物はさらに、樹脂成分に反応し、連鎖的に反応が進行する。そして、3次元的に架橋化反応が進行して分子量が増大し、固体となって硬化する。
【0013】
光硬化性樹脂は、一般にモノマー、オリゴマー、光重合開始剤、及び各種の添加剤(安定剤、充填剤、顔料等)から構成されている。また重合方式としては、大きく分けてカチオン重合とラジカル重合とがある。
【0014】
モノマーとは官能基をもつ分子であり、光により硬化する樹脂の繰り返し単位となるものである。これが光によって重合することにより高分子となる。カチオン重合するモノマーとしては、ビニルエーテルモノマー等が挙げられる。ラジカル重合するモノマーとしては、アクリレートモノマー、フタレートモノマー等が挙げられる。これらビニルエーテルモノマー、フタレートモノマー、アクリレートモノマーという名称は化合物の総称であり、これらに種々の官能基が接続したもの全てが含まれる。
【0015】
オリゴマーとは、モノマーを予めいくつか反応させたものであって、モノマーと同様に、光により重合して高分子となる。カチオン重合するオリゴマーとしては、ビニルエーテルオリゴマー、脂環式光硬化性オリゴマー、グリシジルエーテル光硬化性オリゴマー等が挙げられる。ラジカル重合するオリゴマーとしては、ウレタンアクリレートオリゴマー、ポリエステルアクリレートオリゴマー、光硬化性アクリレートオリゴマー、アクリルアクリレートオリゴマー等が挙げられる。これらビニルエーテルオリゴマー、脂環式光硬化性オリゴマー、グリシジルエーテル光硬化性オリゴマー、ウレタンアクリレートオリゴマー、ポリエステルアクリレートオリゴマー、光硬化性アクリレートオリゴマー、アクリルアクリレートオリゴマーという名称は化合物の総称であり、これらに種々の官能基が接続したもの全てが含まれる。
【0016】
実施形態の光硬化性樹脂において、主成分としての樹脂成分はモノマーのみでも、オリゴマーのみでもよく、両者を任意の割合で配合したものであってもよい。
【0017】
光重合開始剤は、光を吸収して活性化(励起)し、開裂反応、水素(プロトン)引き抜き反応、電子移動反応等の反応を起こす成分である。このような反応によって、アクリル系光硬化性樹脂の場合はラジカル分子、光硬化性樹脂の場合は水素イオン等、反応を開始するものを生成する。生成したラジカル分子や水素イオン等がモノマー分子やオリゴマーを攻撃して、3次元的な重合や架橋反応を起こすことで硬化が進行する。この反応により一定以上の大きさの分子になると、光照射した部分が液体状態から固体状態に変化する。カチオン重合に用いられる光重合開始剤としては、スルホニウム、ヨードニウム等が挙げられる。ラジカル重合に用いられる光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、アセトフェノン、チオキサントン等が挙げられる。これらスルホニウム、ヨードニウム、ベンゾフェノン、アセトフェノン、チオキサントンという名称は化合物の総称であり、これらに種々の官能基が接続したもの全てが含まれる。
【0018】
光重合開始剤のスキージング時の塗り広げ性(作業性)を向上させるために、光硬化性樹脂(マトリックス樹脂)に粘度調整用を目的とし、光硬化性樹脂用の希釈溶剤を添加してもよい。光硬化性樹脂用希釈溶剤としては、アロニックス(低粘度の光硬化性樹脂の製品名、東亞合成社製)等を使用することができる。アロニックスの中でも、光硬化性樹脂用希釈溶剤としては、製品名:M-101A(フェノールEO(エチレンオキシド)変性アクリレート)、製品名:M-117(ノニルフェノールEO(エチレンオキシド)変性アクリレート)、製品名:M-220(ポリプロピレングリコールジアクリレート)、製品名:M-309(トリメチロールプロパンアクリレート)、製品名:M-350(トリメチロールプロパンEO(エチレンオキシド)変性アクリレート)等が好適である。上記した作業性を向上させるために、光硬化性樹脂用希釈溶剤は、実施形態の希釈溶剤を除く光硬化性樹脂全体の質量に対して、50質量%以下の範囲、さらに5~50質量%の範囲で添加することが好ましい。
【0019】
光硬化性樹脂(マトリックス樹脂)には、泡が発生するのを防ぐために、あるいは発生した泡を消すために、消泡剤を添加してもよい。消泡剤は、特に限定されるものではないが、例えばジメチルシリコーン系の消泡剤(例えば、TSA720(商品名、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)等)を使用することができる。ただし、これに限定されるものではない。また、実施形態の光硬化性樹脂は、上記した消泡剤以外の添加剤を含んでいてもよい。
【0020】
さらに、光硬化性樹脂の保存時の安定性を高めるために、光重合禁止剤を配合してもよい。光重合禁止剤には、例えばニトロソアミン系の重合禁止剤を用いることができる。光重合禁止剤としては、例えばQ-1300、Q-1301(商品名、富士フィルム和光純薬社製)等を用いることができる。また、熱重合開始剤を用いて、光硬化性樹脂の硬化速度を調節してもよい。熱重合開始剤としては、アゾ熱重合開始剤を用いることができる。アゾ熱重合開始剤としては、例えばAIBN、V-40、V-59、V-65、V-70、V-601(商品名、富士フィルム和光純薬社製)を用いることができる。
【0021】
上記した光硬化性樹脂に分散させる充填粒子は、黒色系無機粒子と、黒色系無機粒子の表面を被覆するように設けられた白色系無機物質とを備えるものであって、実施形態の光硬化性樹脂組成物を用いて製造する光硬化物(光造形物)の用途に応じて、適宜に選択されるものである。例えば、光硬化性樹脂組成物をSOFCやSOEC等の電気化学セルの酸素極素材として使用する場合、黒色系無機粒子としてはLSCF粒子が挙げられる。LSCF粒子は、例えば(La1-xSrx)(Co1-yFey)O3-δ(0<x<1、0<y<1、0<δ<1)の組成を有する。光硬化性樹脂組成物の光硬化物を導電性部材として使用する場合、黒色系無機粒子としては、カーボン、グラフェン、カーボンナノチューブ、フラーレン、ケッチェンブラック等の炭素粒子、鉄粒子のような金属粒子等が挙げられる。これら以外にも使用用途に応じて各種の黒色系無機粒子を用いることができ、例えばマンガン粒子、炭化ホウ素粒子等が挙げられる。黒色系無機粒子は、1種類の粒子であってもよいし、2種類以上の粒子の混合物であってもよい。
【0022】
さらに、黒色系無機粒子の表面に被覆される白色系無機物質は、被膜状物質でもよいし、被覆に適用可能な粒子状物質であってもよく、適用する被覆方法に応じて適宜に選択することができる。例えば、白色系無機物質の被覆方法として接着剤による被覆や粉体めっきを適用する場合、白色系無機粒子が用いられる。白色系無機粒子としては、セリア粒子、ガドリニウム添加セリア粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化ジルコニウム粒子、窒化アルミニウム粒子、チタン酸バリウム粒子等が挙げられる。これらは実施形態の光硬化性樹脂組成物を用いて製造する光硬化物(光造形物)の用途に応じて適宜に選択される。例えば、光硬化性樹脂組成物をSOFCやSOEC等の電気化学セルの酸素極素材として使用する場合、白色系無機粒子としては、酸素極の構成材料の一部として用いられているガドリニウム添加セリア粒子が好適である。ガドリニウム添加セリア粒子以外の白色系無機粒子も、使用用途に応じて適宜に用いることができる。
【0023】
実施形態で使用される黒色系無機粒子及び白色系無機粒子のような白色系無機物質とは、相対的に光の吸収に対して優劣を有するものであればよく、白色系無機粒子は黒色系無機粒子に比べて光の吸収が少なく、光を反射しやすいものであればよい。黒色系無機粒子とは、例えば黒色から濃灰色までの色調を有する粒子であって、光を吸収しやすい粒子であり、例えば光の反射率(波長が350~750nmの光を照射した際の反射率)が平均して10%以下となる粒子である。一方、白色系無機粒子とは、例えば白色から薄灰色までの色調を有する粒子であって、光を反射しやすい粒子であり、例えば光の反射率(波長が350~750nmの光を照射した際の反射率)が平均して40%以上となる粒子である。なお、反射率は測色計(コニカミノルタ製、CM-5)等を用いて計測できる。
【0024】
黒色系無機粒子は、例えば0.8~10μm程度の平均粒子径を有することが好ましい。黒色系無機粒子の平均粒子径は、一次粒子径であってもよいし、凝集もくしは造粒した二次粒子径であってもよい。黒色系無機粒子の平均粒子径が0.8μm未満であると、その表面を白色系無機粒子で被覆することが困難になりやすい。黒色系無機粒子の平均粒子径が10μmを超えると、光硬化性樹脂中に分散させる充填剤としての機能が低下しやすい。白色系無機粒子は、例えば0.1~0.5μm程度の平均粒子径を有することが好ましい。白色系無機粒子の平均粒子径が0.1μm未満であっても、また0.5μmを超えても、黒色系無機粒子の表面への均一付着性が低下しやすくなる。なお、無機粒子の粒度分布は、特に限定されない。ここで、平均粒径とは、メジアン径(D50)で規定されるものであり、粒度分布は体積分布及び個数分布で規定されるものである。平均粒径は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(HORIBA製、LA-960V2)等を用いて測定することができる。また、黒色粒子の凝集体を覆うように白色粒子が付着した場合でも、上述した効果を同様に発揮することができる。
【0025】
黒色系無機粒子及び白色系無機粒子の表面は、分散性を高めるために、シランカップリング処理等の表面処理が施されていてもよい。シランカップリング処理することで、光硬化性樹脂とのぬれ性を向上させることができる。シランカップリング処理に使用するシランカップリング剤としては、例えばエポキシシラン、アミノシラン、ビニルシラン、メタクリルシラン、メルカプトシラン、メトキシシラン、エトキシシラン等を使用することができる。これらのシランカップリング剤による表面改質処理は、後添加しても同様の効果を得ることができる。
【0026】
また、黒色系無機粒子及び白色系無機粒子の表面は、チタネートカップリング処理することで、光硬化性樹脂とのぬれ性を向上させることもできる。チタネートカップリング処理に使用するチタネートカップリング剤としては、イソプロピルトリイソステアロイルタイト、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピル-トリス(ジオクチルピロホスフェート)チタネート、テトライソプロピル-ビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチル-ビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2-ジアリロキシメチル-1-ブチル)-ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルピロホスフェート)オキシアセテートチタネート等が挙げられる。これらのチタネートカップリング剤による表面改質処理は、後添加しても同様の効果を得ることができる。
【0027】
黒色系無機粒子の表面を白色系無機粒子で被覆する方法には、接着剤による被覆や粉体めっき等を用いることができる。接着剤による被覆を適用する場合、接着剤としては、例えば珪酸ソーダ系、酢酸ビニル樹脂、ポリビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポロアミド樹脂、セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリスチレン樹脂、シアノアクリレート、ポリビニルアセタール等の熱可塑性樹脂系、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリアロマティック、構造用アクリル樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、レゾルシノール樹脂等の熱硬化性樹脂系を用いることができる。例えば、
図1に示すように、黒色系無機粒子又はそれをある一定の大きさに凝集させた凝集粒子1の表面に、スプレー等を用いて接着剤2を塗布し、接着剤2が硬化する前に白色系無機粒子3を付着させ、その後に接着剤2を十分に硬化させる。このようにして、黒色系無機粒子1の表面を白色系無機粒子3で被覆した充填粒子4が得られる。
【0028】
次に、黒色系無機粒子の表面を白色系無機粒子で被覆する方法として、粉体めっきを用いる方法について述べる。粉体めっきとは、母材(ここでは黒色系無機粒子)の表面に粉体(ここでは白色系無機粒子)をめっきする技術、もしくは粉体(ここでは黒色系無機粒子)の表面にある材料(ここでは白色系無機粒子)をめっきする技術である。まず、被めっき体として黒色系無機粒子を適用し、金属めっき材料にAgめっきを使用した場合について述べる。めっきは特に限定されるものではなく、電気めっき、無電解めっき、又は置換めっきを適用することができる。
【0029】
電気めっきには、電気めっき浴が必要である。電気めっき浴の構成成分としては、金属塩、電導度塩、アノード溶解促進剤、錯化剤、皮膜の外観と物性を調整する添加剤等が用いられる。無電解めっき溶の構成成分としては、金属塩に加えて、還元剤、錯化剤、pH緩衝材、及び安定剤等が用いられる。置換めっきにおいては、金属塩に錯化剤、添加剤等を加えためっき浴が用いられる。
【0030】
例えば、銀めっき浴の大部分はアルカリ性シアン化銀めっき浴であるものの、非シアン浴も使用可能である。代表的な金属塩としては、シアン化銀カリウムを主原料とするものが挙げられる。これは銀イオンの錯塩である。無色透明の結晶で水に良く溶ける。シアン化銀めっき浴は、この化合物の他に、遊離シアン化カリウム又はシアン化ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム、光沢剤、硬化剤等を含む。銀イオンから構成されるめっき浴中に、黒色系無機粒子及び白色系無機粒子を分散させ、
図2に示すように、めっき膜5を介して、黒色系無機粒子1の表面に白色系無機粒子3を被覆させる。このようにして、黒色系無機粒子1の表面を白色系無機粒子3で被覆した充填粒子4が得られる。
【0031】
また、金属めっきにコバルトめっきを適用する場合、コバルトめっき浴の多くは、チオシアン酸カリウム、チオ硫酸ナトリウム等の硫黄化合物、及び金属コバルト化合物から構成される。コバルト金属イオンから構成されるめっき浴中に、黒色系無機粒子及び白色系無機粒子を分散させ、
図2に示すように、めっき膜5を介して、黒色系無機粒子1の表面に白色系無機粒子3を被覆させる。このようにして、黒色系無機粒子1の表面を白色系無機粒子3で被覆した充填粒子4が得られる。
【0032】
金属めっきについては、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)についても、同様にめっきが可能である。例えば、マンガン(Mn)についてはリン酸マンガン、鉄(Fe)については鉄塩化物、ニッケル(Ni)についてはスルファミン酸ニッケル等をそれぞれ用いることができる。これらによって、黒色系無機粒子1の表面をめっき膜5を介して白色系無機粒子3で被覆した充填粒子4が得られる。
【0033】
上記したような光硬化性樹脂に、黒色系無機粒子の表面を白色系無機粒子で被覆した充填粒子を分散させることによって、実施形態の光硬化性樹脂組成物を得ることができる。光硬化性樹脂への充填粒子の分散には、各種のミキサーを使用することができる。例えば、配合する光硬化性樹脂及び充填粒子を、自転公転ミキサー等を用いて撹拌することによって、光硬化性樹脂組成物のスラリーを作製することができる。
【0034】
(光硬化物の製造方法)
上記のようにして作製された光硬化性樹脂組成物を、例えば光造形により積層することによって、積層構造物を作製することができる。なお、光硬化物(光造形物)の厚さによっては、光造形物を積層することなく、単一の光造形物で目的とする光硬化物を得るようにしてもよい。光硬化物の製造工程について、
図3を参照して説明する。
【0035】
まず、
図3(a)に示すように、基材11上に光硬化性樹脂組成物スラリー12Aを塗布する。光硬化性樹脂組成物スラリー12Aは、例えばシリンジから吐出させて基材11上に堆積させる。基材11は、光硬化物によってはその下地となる構造部材であってもよいし、単なるスラリーの塗布材であってもよい。続いて、基材11上に堆積させた光硬化性樹脂組成物スラリー12をスキージ13で均して平滑化する。平滑化されたスラリー12Aの堆積層12Bの厚さは、光の透過深度の観点から、1層当たりの硬化厚さが10~50μm程度となるように設定することが好ましい。光の透過深度とは、黒色系無機粒子の表面を白色系無機粒子で被覆した充填粒子を光硬化性樹脂に配合した際に、どれほどの厚さまで硬化するかを示す指標であり、10μm以上であることが好ましい。
【0036】
次に、
図3(b)に示すように、平滑化された堆積層12Bの必要領域に、紫外光のような硬化用光Lを照射し、堆積層12Bの必要領域を光硬化させて第1の硬化層14Aを形成する。続いて、第1の硬化層14Aを有する堆積層12B上に、再度光硬化性樹脂組成物スラリー12Aを堆積した後(
図3(c))、スラリー12をスキージ13で平滑化して堆積層12Cを形成する(
図3(d))。次いで、
図3(e)に示すように、堆積層12Cの必要領域に硬化用光を照射し、堆積層12Cの必要領域を光硬化させて、第1の硬化層14A上に第2の硬化層14Bを形成する。
【0037】
このような光硬化性樹脂組成物スラリー12Aの堆積工程、光硬化性樹脂組成物スラリー12Aの平滑化工程、及び硬化用光Lの照射による硬化工程を、光硬化物の厚さに応じて繰り返すことによって、第1の硬化層14A及び第2の硬化層14B、さらに必要に応じて第3又はそれ以上の硬化層の積層物を有する光硬化物15を製造する。実施形態の光硬化物の製造工程においては、黒色系無機粒子の表面を白色系無機粒子で被覆しているため、硬化用光Lの黒色系無機粒子による吸収を抑制することができる。従って、光硬化性樹脂組成物スラリー12Aの堆積層12B、12Cの必要深さまで硬化用光Lを到達させることができ、堆積層12B、12Cの光硬化を良好に行うことが可能になる。
【実施例0038】
次に、実施形態の光硬化性樹脂組成物とその製造方法、及び光硬化物の製造方法の具体例及びその評価結果について述べる。
【0039】
(実施例1~5、参考例1、比較例1~2)
まず、充填粒子として、ガドリニウム添加セリア(Gadolinia Doped Ceria:GDC)粒子で被覆したLSCF粒子を作製した。実施例1ではGDC粒子の被覆に接着剤を用いた。実施例2ではAgめっき、実施例3ではCoめっき、実施例4ではMnめっき、実施例5ではFeめっき、参考例1では、Niめっきを用いた。比較例1ではGDC粒子で被覆していないLSCF粒子を用いた。
【0040】
光硬化性樹脂に上記した充填粒子を50~70体積%の割合で配合した。この際、低粘度の光硬化性樹脂・TB1771E(商品名、スリーボンド社製)を用いると共に、光硬化性樹脂用の希釈溶剤としてM-350(商品名、東亞合成社製)を光硬化性樹脂に対して10~50質量%、アゾ熱重合開始剤としてV-65(商品名、富士フィルム和光純薬社製)を光硬化性樹脂に対して0.1~5質量%配合して、実施例1~5及び参考例1の光硬化性樹脂組成物スラリーを作製した。
【0041】
上記した光硬化性樹脂組成物スラリーの光硬化深度を測定した。ここでは、簡易的な特性の評価として、シムリング(例えば10μm厚さ)を膜厚管理用のスペーサーとしてスキージングし、その上からレーザー光(波長:365nm)を照射して硬化させることによって、スラリーの光硬化深度を測定した。その結果を表1に示す。表1に示すように、実施例1~5及び参考例1の光硬化性樹脂組成物スラリーはいずれも10μm以上の光硬化深度が得られていのに対し、比較例1のスラリーの光硬化深度は1.0μm以下であった。従って、黒色系無機粒子の表面を白色系無機粒子で被覆することによって、それを含む光硬化性樹脂組成物スラリーの光硬化特性を改善することができることが分かる。
【0042】
次に、実施例1~5、参考例1、及び比較例1の光硬化性樹脂組成物スラリーを用いて作製した酸素極を使用して、電気化学セルを作製した。電気化学セル21は、
図4に示すように、支持層22と水素極33と固体酸化物電解質層24と中間層25と酸素極26とを備えている。電気化学セル21の酸素極26を、実施例1~5、参考例1、及び比較例1の光硬化性樹脂組成物スラリーを用いて作製した。酸素極26はスラリーの光硬化物を焼成することにより作製した。また、比較例2の電気化学セルでは、LSCFをスクリーン印刷した後に焼き付けることにより酸素極を形成した。
【0043】
実施例1~5、参考例1、及び比較例1~2の電気化学セルのセル性能を測定した。セル性能は、従来法で酸素極を形成した電気化学セルの出力を1.0とした場合の相対値として示している。光硬化深度及びセル性能に基づいて電気化学セルの特性を総合評価した。光硬化深度が10.0μm以上で、セル特性が1.0を超える例について、総合評価を「〇」とし、上記特性のいずれか1つしか満足していない例を「△」とし、上記特性のいずれも満足していない例を「×」とした。表1に示すように、実施例1~5はいずれも良好な結果を示した。参考例1はNiめっきを用いているためにセル特性が劣っているものの、光硬化深度は良好であり、光硬化物の製造に関しては良好な特性が得られた。
【0044】
【0045】
なお、上述した各実施形態の構成は、それぞれ組合せて適用することができ、また一部置き換えることも可能である。ここでは、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図するものではない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の省略、置き換え、変更等を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同時に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。