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特開2023-90173フェノール樹脂組成物の製造方法、成形用樹脂組成物の製造方法、成形品の製造方法およびフェノール樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090173
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】フェノール樹脂組成物の製造方法、成形用樹脂組成物の製造方法、成形品の製造方法およびフェノール樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 61/04 20060101AFI20230622BHJP
   C08G 8/00 20060101ALI20230622BHJP
   C08L 33/00 20060101ALI20230622BHJP
   C09K 3/14 20060101ALN20230622BHJP
【FI】
C08L61/04
C08G8/00 C
C08L33/00
C09K3/14 530G
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021204993
(22)【出願日】2021-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕司
【テーマコード(参考)】
4J002
4J033
【Fターム(参考)】
4J002BG012
4J002BG022
4J002BG072
4J002BG092
4J002BG122
4J002CC021
4J002CC031
4J002EN046
4J002FD146
4J002GM00
4J002GN00
4J033CA01
4J033CA02
4J033CA03
4J033CA04
4J033CA05
4J033CA11
4J033CA12
4J033CA13
4J033CA14
4J033CA19
4J033CA22
4J033CA24
4J033CA25
4J033CA26
4J033CC07
(57)【要約】
【課題】比較的簡便にフェノール樹脂組成物を製造可能な方法を提供する。
【解決手段】フェノール樹脂(A)と自己架橋性の熱可塑性樹脂(B)とを混合して混合物を得る樹脂混合工程と、この混合物を加熱して自己架橋性の熱可塑性樹脂(B)同士を架橋させる架橋工程と、を含む、フェノール樹脂組成物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール樹脂(A)と、自己架橋性の熱可塑性樹脂(B)とを混合して混合物を得る樹脂混合工程と、
前記混合物を加熱して、前記自己架橋性の熱可塑性樹脂(B)同士を架橋させる架橋工程と、
を含む、フェノール樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のフェノール樹脂組成物の製造方法であって、
前記フェノール樹脂(A)はノボラック型フェノール樹脂を含む、フェノール樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のフェノール樹脂組成物の製造方法であって、
前記熱可塑性樹脂(B)は、23℃で液状の樹脂を含む、フェノール樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のフェノール樹脂組成物の製造方法であって、
前記熱可塑性樹脂(B)は、(メタ)アクリル系樹脂を含む、フェノール樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のフェノール樹脂組成物の製造方法であって、
前記熱可塑性樹脂(B)は、前記架橋工程において、前記フェノール樹脂(A)と実質的に反応しない、フェノール樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のフェノール樹脂組成物の製造方法であって、
前記熱可塑性樹脂(B)は、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基およびアミド基からなる群より選ばれる1または2以上の架橋性基を有する、フェノール樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のフェノール樹脂組成物の製造方法であって、
前記樹脂混合工程においては、前記フェノール樹脂(A)100質量部に対して、5~50質量部の前記熱可塑性樹脂(B)を混合する、フェノール樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載のフェノール樹脂組成物の製造方法であって、
前記樹脂混合工程において、前記フェノール樹脂(A)は、加熱されて流動性を示す状態となっている、フェノール樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか1項に記載のフェノール樹脂組成物の製造方法であって、
前記樹脂混合工程は、120~300℃の条件下で行われる、フェノール樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載のフェノール樹脂組成物の製造方法により得られたフェノール樹脂組成物と、少なくとも前記フェノール樹脂(A)の硬化剤と、を混合する硬化剤混合工程を含む、成形用樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の成形用樹脂組成物の製造方法で得られた成形用樹脂組成物を、少なくとも加熱して成形する成形工程を含む、成形品の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の成形品の製造方法であって、
前記成形品が摩擦材である、成形品の製造方法。
【請求項13】
フェノール樹脂(A)と、自己架橋性の熱可塑性樹脂の架橋体(B')とを含む、フェノール樹脂組成物。
【請求項14】
請求項13に記載のフェノール樹脂組成物であって、
前記フェノール樹脂(A)はノボラック型フェノール樹脂を含む、フェノール樹脂組成物。
【請求項15】
請求項13または14に記載のフェノール樹脂組成物であって、
前記架橋体(B')は、常温で液状の樹脂の架橋体を含む、フェノール樹脂組成物。
【請求項16】
請求項13から15のいずれか1項に記載のフェノール樹脂組成物であって、
前記架橋体(B')は、(メタ)アクリル系樹脂の架橋体を含む、フェノール樹脂組成物。
【請求項17】
請求項13から16のいずれか1項に記載のフェノール樹脂組成物であって、
前記架橋体(B')は、前記フェノール樹脂(A)とは実質的に架橋していない、フェノール樹脂組成物。
【請求項18】
請求項13から17のいずれか1項に記載のフェノール樹脂組成物であって、
前記フェノール樹脂(A)100質量部に対して、5~50質量部の前記架橋体(B')を含む、フェノール樹脂組成物。
【請求項19】
請求項13から18のいずれか1項に記載のフェノール樹脂組成物であって、
さらに、少なくとも前記フェノール樹脂(A)の硬化剤を含む、フェノール樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール樹脂組成物の製造方法、成形用樹脂組成物の製造方法、成形品の製造方法およびフェノール樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂組成物は、しばしば、成形品、特にブレーキパッドなどの摩擦材の製造に用いられる。フェノール樹脂組成物についてはこれまで様々な検討が行われてきている。
【0003】
特許文献1には、ノボラック型フェノール樹脂及びその硬化剤、熱可塑性樹脂及びその架橋剤を配合してなることを特徴とするフェノール樹脂組成物が記載されている。ここでの熱可塑性樹脂としては、具体的には、シリコンゴム(VMQ)、ニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、エチレン-プロピレンゴム(EPDM)、アクリルゴム(ACM)およびフッ素系ゴム(FKM)からなる群より選ばれた1種または2種以上が挙げられている。また、架橋剤として具体的には2,4,6-トリメルカプト-s-トリアジンが用いられている。
【0004】
特許文献2には、エチレン-アクリル酸エステル共重合エラストマーを含有してなるフェノール樹脂組成物であって、該フェノール樹脂組成物に含まれるエチレン-アクリル酸エステル共重合エラストマーの含有量が2~50重量%であることを特徴とするフェノール樹脂組成物が記載されている。特許文献2の実施例においては、溶解したエチレン-アクリル酸エステル共重合エラストマーの存在下で、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させてフェノール樹脂を合成することで、フェノール樹脂組成物を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-63440号公報
【特許文献2】特開平8-109313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のフェノール樹脂組成物は、架橋剤を、樹脂とは別成分として含んでいる。よって、特許文献1に記載のフェノール樹脂組成物は、例えばその製造の際に、意図しないゲル化が発生する可能性がある。
特許文献2において、フェノール樹脂組成物は、溶解したエチレン-アクリル酸エステル共重合エラストマーの存在下で、フェノールとホルムアルデヒドとを反応させるという、特殊な操作を通じて得られている。このような特殊な工程を行ってフェノール樹脂組成物を製造することは、コストアップ等につながる可能性がある。
つまり、従来のフェノール樹脂組成物は、製造適性の点で改善の余地がある。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。
本発明の目的の1つは、比較的簡便にフェノール樹脂組成物を製造可能な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
【0009】
本発明によれば、
フェノール樹脂(A)と、自己架橋性の熱可塑性樹脂(B)とを混合して混合物を得る樹脂混合工程と、
前記混合物を加熱して、前記自己架橋性の熱可塑性樹脂(B)同士を架橋させる架橋工程と、
を含む、フェノール樹脂組成物の製造方法
が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、
上記フェノール樹脂組成物の製造方法により得られたフェノール樹脂組成物と、少なくとも前記フェノール樹脂(A)の硬化剤と、を混合する硬化剤混合工程を含む、成形用樹脂組成物の製造方法
が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、
上記成形用樹脂組成物を少なくとも加熱して成形する成形工程を含む、成形品の製造方法
が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、
フェノール樹脂(A)と、自己架橋性の熱可塑性樹脂の架橋体(B')とを含む、フェノール樹脂組成物
が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、例えば、比較的簡便にフェノール樹脂組成物を製造可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0015】
本明細書中、数値範囲の説明における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
【0016】
<フェノール樹脂組成物の製造方法>
本実施形態のフェノール樹脂組成物の製造方法は、
フェノール樹脂(A)と、自己架橋性の熱可塑性樹脂(B)とを混合して混合物を得る樹脂混合工程と、
上記混合物を加熱して、上記自己架橋性の熱可塑性樹脂(B)同士を架橋させる架橋工程と、
を含む。
本明細書では、「自己架橋性の熱可塑性樹脂(B)」を、単に「熱可塑性樹脂(B)」と表記することがある。
【0017】
本実施形態においては、自己架橋性の熱可塑性樹脂(B)を用いるため、架橋剤を別途用いる必要がない。よって、特許文献1に記載のフェノール樹脂組成物において想定される、例えば樹脂組成物の製造時の意図しないゲル化が、本実施形態では抑えられる傾向がある。
また、本実施形態においては、特許文献2の実施例のように、溶解したエラストマーの存在下でフェノール樹脂を合成するような特殊な操作を要しない。よって、特許文献2に記載のフェノール樹脂組成物に比べて、簡便にフェノール樹脂組成物を得ることができる。
【0018】
ちなみに、上述のような工程を通じて得られたフェノール樹脂組成物を用いて製造される成形品は、動的粘弾性特性や硬度の温度依存性が小さい傾向を有する。これについての詳細は後述する。
【0019】
以下、本実施形態のフェノール樹脂組成物の製造方法についてより具体的に説明する。
【0020】
(樹脂混合工程)
樹脂混合工程においては、フェノール樹脂(A)と、自己架橋性の熱可塑性樹脂(B)とを混合する。
【0021】
・フェノール樹脂(A)について
使用可能なフェノール樹脂(A)は特に限定されない。フェノール樹脂(A)としては、例えば、フェノール類とアルデヒド類とを反応させて合成されるものを用いることができる。合成に際して酸触媒を用いるとノボラック型フェノール樹脂を合成することができ、塩基性触媒を用いるとレゾール型フェノール樹脂を合成することができる。
【0022】
フェノール樹脂(A)の合成に使用可能なフェノール類としては、例えば、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール等のクレゾール類、2,3-キシレノール、2,4-キシレノール、2,5-キシレノール、2,6-キシレノール、3,4-キシレノール、3,5-キシレノール等のキシレノール類、o-エチルフェノール、m-エチルフェノール、p-エチルフェノール等のエチルフェノール類、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p-tert-ブチルフェノール等のブチルフェノール類、p-tert-アミルフェノール、p-オクチルフェノール、p-ノニルフェノール、p-クミルフェノール等のアルキルフェノール類、フルオロフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、ヨードフェノール等のハロゲン化フェノール類、p-フェニルフェノール、アミノフェノール、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール等の1価フェノール置換体、及び、1-ナフトール、2-ナフトール等の1価のフェノール類、レゾルシン、アルキルレゾルシン、ピロガロール、カテコール、アルキルカテコール、ハイドロキノン、アルキルハイドロキノン、フロログルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ジヒドロキシナフタリン等の多価フェノール類などが挙げられる。
フェノール樹脂(A)の合成に際しては、1または2以上のフェノール類を用いることができる。
【0023】
これらのフェノール類の中でも、フェノール、クレゾール類およびビスフェノールAが好ましい。これらフェノール類を用いて合成されたフェノール樹脂は、機械的強度が強い傾向があるため、摩擦材要樹脂組成物に好ましく適用される。
【0024】
フェノール樹脂(A)の合成に使用可能なアルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ポリオキシメチレン、クロラール、ヘキサメチレンテトラミン、フルフラール、グリオキザール、n-ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フェニルアセトアルデヒド、o-トルアルデヒド、サリチルアルデヒド等が挙げられる。
フェノール樹脂(A)の合成に際しては、1または2以上のアルデヒド類を用いることができる。
【0025】
これらのアルデヒド類の中でも、反応性などの点で、ホルムアルデヒドおよびパラホルムアルデヒドが好ましい。
【0026】
フェノール樹脂(A)の合成において、フェノール類とアルデヒド類との反応モル比としては、フェノール類1モルに対して、アルデヒド類0.50~3.00モルとすることが好ましい。さらに好ましくは、アルデヒド類0.55~2.50モルであり、より好ましくは、アルデヒド類0.60~2.10モルである。
フェノール樹脂(A)の合成において、フェノール類とアルデヒド類との反応モル比を適切に調整することにより、得られるフェノール樹脂への他成分の含浸性が良好となったり、摩擦材としたときに適度な柔軟性を得やすくなったりすることがある。
【0027】
フェノール樹脂(A)は、ノボラック型フェノール樹脂を含んでもよいし、レゾール型フェノール樹脂を含んでもよい。ただし、各種性能の観点からは、成分Aは、フェノール樹脂(A)としてノボラック型フェノール樹脂を含むことが好ましい。より好ましくは、フェノール樹脂(A)の全体中50質量%以上がノボラック型フェノール樹脂である。さらに好ましくは、フェノール樹脂(A)の全体中75質量%以上がノボラック型フェノール樹脂である。さらに好ましくは、フェノール樹脂(A)の全体中90質量%以上がノボラック型フェノール樹脂である。特に好ましくは、フェノール樹脂(A)の実質的に全てがノボラック型フェノール樹脂である。
【0028】
フェノール樹脂(A)の重量平均分子量Mwは、例えば100以上20000以下、好ましくは300以上18000以下、より好ましくは500以上15000以下でもよい。Mwを適切に調整することにより、組成物作成時の混練性と、成形品製造時の硬化性と、のバランスをより良好とすることができる。
【0029】
フェノール樹脂(A)は室温(23℃)において固形であることができる。室温で固形であるフェノール樹脂(A)を用いることにより、組成物の輸送性や保管性を高めたり、摩擦材作製時の作業性を高めたりすることができる。もちろん、重大なデメリットが無い限り、室温で流動性を有するフェノール樹脂を用いてもよい。
【0030】
本実施形態においては、1のみのフェノール樹脂(A)を用いてもよいし、2以上のフェノール樹脂(A)を用いてもよい。
【0031】
・自己架橋性の熱可塑性樹脂(B)について
熱可塑性樹脂(B)は、自己架橋性である。換言すると、熱可塑性樹脂(B)は、熱などの外部刺激により架橋反応を起こすことができる架橋性基を有する。
架橋性基としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、アミド基、加水分解性シリル基(例えばトリアルコキシシリル基)などを挙げることができる。一例として、熱可塑性樹脂(B)は、架橋性基としてヒドロキシ基とアミド基とを含むことが好ましい。また、別の例として、熱可塑性樹脂(B)は、架橋性基としてカルボキシ基を含むことが好ましい。なお、熱可塑性樹脂(B)が架橋性基としてカルボキシ基のみを含む場合には、2つのカルボキシ基から水分子が取れた酸無水物構造を含む架橋構造が形成されると考えられる。
【0032】
ちなみに、熱可塑性樹脂(B)は、架橋工程において、フェノール樹脂(A)と実質的に反応しないことが好ましい。換言すると、熱可塑性樹脂(B)が有する架橋性基は、架橋工程における加熱において、フェノール樹脂(A)と実質的に反応しないことが好ましい。
本発明者の知見の限り、上述のヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、アミド基などの基は、少なくとも後述する実施例のような反応条件においては、フェノール樹脂と実質的に反応しない。
【0033】
成分Bとしては、特に、室温(23℃)において、無溶剤においても液状である(メタ)アクリル系樹脂、および/または、その架橋体を好ましく挙げることができる。「液状である」とは、流動性を有すると言い換えることもできる。
このような成分Bを成分Aと併用し、かつ、後掲の実施例に記載のような製造方法を採用することで、成分Aと成分Bが極めて均一に混ざり合った摩擦材用樹脂組成物を製造することができると考えられる。そして、このような摩擦材用樹脂組成物を用いることで、特に性能良好な摩擦材を製造することができる。
【0034】
熱可塑性樹脂(B)は、23℃において液状である(23℃において、無溶剤であっても流動性を示す)樹脂を含むことが好ましい。このような熱可塑性樹脂(B)を用いることで、フェノール樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)とを、より簡単に/より均一に混合することができる。また、その結果として、最終的に得られる成形体(具体的には、ブレーキパッド等の摩擦材)の性能を向上させることができる場合がある。
【0035】
念のため述べておくと、熱可塑性樹脂(B)として23℃において液状である樹脂を用いる場合であっても、流動性の調整などを目的として、熱可塑性樹脂(B)を溶剤に溶解または分散させたうえでフェノール樹脂(A)と混合してもよい。
また、熱可塑性樹脂(B)は23℃において固体であってもよい。この場合、樹脂混合工程においては、例えば熱可塑性樹脂(B)を溶剤に溶解または分散させてフェノール樹脂(A)と混合すればよい。
【0036】
熱可塑性樹脂(B)は、好ましくは、(メタ)アクリル系樹脂を含む。(メタ)アクリル系樹脂は、フェノール樹脂(A)との混ざりやすさや、最終的に得られる成形体(ブレーキパッド等の摩擦材)の性能向上の観点から好ましく用いられる。
熱可塑性樹脂(B)は、特に好ましくは、23℃において液状であり、かつ、熱により架橋反応を起こすことができる架橋性基を有する(メタ)アクリル系樹脂を含む。架橋性基の具体例は前述のとおりである。
(メタ)アクリル系樹脂以外の熱可塑性樹脂(B)としては、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリスチレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂などを挙げることができる。
【0037】
熱可塑性樹脂(B)の具体例としては、綜研化学社製の無溶剤液状機能性アクリルポリマー「アクトフロー」シリーズ、品番としてはUMM-1001、UT-1001、CB-3060、CB-3098、CBB-3098、NE-1000、NE-3000、東亜合成社製の無溶剤型アクリルポリマー「ARUFON」シリーズ、品番としてはUH-2000、UC-3000、UG-4000、UF-5000、カネカ社製の末端反応型液状アクリル樹脂などを挙げることができる。これらのポリマーは、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、アミド基、加水分解性シリル基などのうち1以上の架橋性基を、ポリマーの末端または側鎖に有する。
【0038】
本実施形態においては、1のみの熱可塑性樹脂(B)を用いてもよいし、2以上の熱可塑性樹脂(B)を用いてもよい。
【0039】
樹脂混合工程においては、フェノール樹脂(A)100質量部に対して、通常は5~50質量部、好ましくは7~45質量部、より好ましくは10~40質量部、さらに好ましくは10~35質量部の熱可塑性樹脂(B)を混合する。
【0040】
・混合の具体的方法/条件
フェノール樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)との混合方法は、これら2成分が十分均一に混じり合う限り特に限定されない。ただし、工業的な生産性などを踏まえると、フェノール樹脂(A)を加熱して流動性を示す状態としたうえで、そのフェノール樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)とを混合するようにすることが好ましい。
別の言い方として、樹脂混合工程は、フェノール樹脂(A)が流動性を示しうる温度である120~300℃の条件下で行われることが好ましい。この温度は、より好ましくは150~280℃、さらに好ましくは170~260℃である。
【0041】
(架橋工程)
架橋工程においては、フェノール樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)との混合物を加熱する。これにより熱可塑性樹脂(B)同士を架橋させる。フェノール樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)とが混ざり合った状態で熱可塑性樹脂(B)中の架橋性基が反応することで、フェノール樹脂(A)と、熱可塑性樹脂(B)の架橋体と、がミクロに絡み合ったフェノール樹脂組成物が得られると考えられる。
本発明者の知見によれば、このようなフェノール樹脂組成物を用いて製造された成形品(具体的にはブレーキパッド等の摩擦材)は、動的粘弾性に関する性質が温度によって変化しにくい傾向を有する。
【0042】
架橋工程は、熱可塑性樹脂(B)が有する架橋性基が架橋する温度で行われる限り特に限定されない。温度は、典型的には120~300℃、好ましくは150~250℃である。
架橋工程の時間は、十分な反応の進行と生産性の観点から、典型的には10~300分、好ましくは30~270分とすることができる。
均一な反応の観点から、架橋工程は、フェノール樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)との混合物を攪拌しながら行うことが好ましい。また、架橋工程は、常圧下で行われてもよいし、架橋反応により生成する脱離物の除去などのために減圧下で行われてもよい。
【0043】
(樹脂混合工程と架橋工程に関する補足)
樹脂混合工程と架橋工程とは、それぞれ別の工程として行ってもよいし、連続した工程として行ってもよい。後掲の実施例では、樹脂混合工程と架橋工程とを連続した工程として行っている。
連続した工程として行う場合の具体的な方法としては、熱可塑性樹脂(B)中の架橋性基が反応しうる温度において、フェノール樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)とを混合する方法を挙げることができる。つまり、フェノール樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)とを「混合しつつ、加熱して熱可塑性樹脂(B)を反応させる」ことで、フェノール樹脂組成物を製造してもよい。
【0044】
<成形用樹脂組成物の製造方法>
上記<フェノール樹脂組成物の製造方法>で説明したようにして得られたフェノール樹脂組成物と、フェノール樹脂(A)の硬化剤と、を混合する硬化剤混合工程を経ることで、成形用樹脂組成物を製造することができる。
【0045】
硬化剤は、熱などの外部刺激によりフェノール樹脂(A)と反応可能なものであれば特に限定されない。
好ましい硬化剤としては、ヘキサメチレンテトラミン(ヘキサミンと表記されることもある)を挙げることができる。ヘキサメチレンテトラミンを硬化剤として用いることで、最終的に得られる成形品の機械的強度や摩耗特性をより高めやすい傾向がある。
【0046】
硬化剤を用いる場合、1のみの硬化剤を用いてもよいし、2以上の硬化剤を用いてもよい。
硬化剤を用いる場合、その量は特に限定されないが、最終的に得られる摩擦材用樹脂組成物の固形分100質量部に対して、5質量部以上20質量部以下が好ましく、7質量部以上18質量部以下がより好ましい。適度に多い量の硬化剤を用いることで、フェノール樹脂(A)を十分に架橋させることができる。また、硬化剤の量が多すぎないことにより、成形品製造時のガス発生量を低減することができる。
【0047】
成形用樹脂組成物は、その他の成分として、以下の成分のうち1または2以上を含むことができる。これら成分は、特に、成形用樹脂組成物を用いて摩擦材を製造する場合に好ましく用いられる。
【0048】
・硬化触媒
硬化触媒としては例えば有機酸を挙げることができる。有機酸の例としては、安息香酸、サリチル酸などの芳香族カルボン酸、フタル酸などのジカルボン酸、などを挙げることができる。
また、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィンなどの有機ホスフィン化合物も挙げることができる。
【0049】
硬化触媒としては、さらに、無機塩基性化合物、有機塩基性化合物である塩基性化合物などを挙げることもできる。
無機塩基性化合物は、アルカリ金属の水酸化物、及び/またはアルカリ土類金属の水酸化物あることが好ましく、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、及び水酸化アルミニウムを用いることがさらに好ましい。
有機塩基性化合物は、脂肪族または脂環族の第一級、第二級または第三級アミン、芳香環を有する脂肪族アミン、芳香族アミン、複素環式アミン、含窒素芳香複素環化合物、イミダゾ-ル類、スルフェンアミド類、チアゾ-ル類、アゾ化合物などの複素環式化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種以上であることが好ましい。中でも、摩擦材の機械的強度が向上する点で、2-メチルイミダゾ-ル、2-フェニルイミダゾール、2,4-ジアミノ-6-[2'-メチルイミダゾリル-(1')]-エチル-s-トリアジン、ジアザビシクロウンデセン等の含窒素芳香複素環化合物が好ましい。
【0050】
硬化触媒を用いる場合、1のみの硬化触媒を用いてもよいし、2以上の硬化触媒を用いてもよい。
硬化触媒を用いる場合、その量は特に限定されないが、最終的な成形用樹脂組成物の固形分100質量部に対して、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.5質量部以上5質量部以下であることがより好ましい。硬化触媒の量が適度に多いことにより、硬化を十分に促進する効果を得ることができる。一方、硬化触媒の量が多すぎないことにより、摩擦材の製造時に良好な成形性が得られ、最終的な摩擦材の機械的強度を高められる傾向がある。
【0051】
・フィラー
フィラーとしては、繊維基材や充填材が挙げられる。
繊維基材としては、例えば、無機繊維であるスチール繊維、銅繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、チタン酸カリウム繊維や、有機繊維であるアラミド繊維などが挙げられる。
充填材としては、例えば、無機充填材である炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、硫酸バリウム、雲母、アブレーシブ、カリオン、タルク、有機充填材であるカシューダスト、ラバーダストや、潤滑材であるグラファイト、三流化アンチモン、二硫化モリブデン、二硫化亜鉛などが挙げられる。また、これらは単独又は複数を組み合わせて使用することができる。
【0052】
フィラーを用いる場合、1のみのフィラーを用いてもよいし、2以上のフィラーを用いてもよい。
フィラーを用いる場合、その量は特に限定されないが、摩擦材用樹脂組成物の固形分100質量部に対して、好ましくは50~97質量部、より好ましくは70~95質量部である。50質量部以上のフィラーを用いることで、フィラーを用いることの効果を確実に得ることができる。一方、97質量部以下のフィラーを用いることで、諸性能の低下を抑えつつフィラーを用いることの効果を得ることができる。
【0053】
<成形品(好ましくは摩擦材)の製造方法>
上記のようにして得られた成形用樹脂組成物を用いることで、摩擦材などの成形品を製造することができる。
【0054】
成形品の製造は、通常、熱プレス機を用いて行うことができる。つまり、上述の成形品用樹脂組成物を金型に入れ、押圧しながら加熱することで成形品を製造することができる。加熱・加圧の条件は、例えば130~250℃、10~50MPaで1~10分間とすることができる。
【0055】
得られる成形品は、動的粘弾性特性や硬度の温度依存性が小さい傾向を有する。これは、上述のようにして製造されたフェノール樹脂組成物中において、フェノール樹脂(A)と熱可塑性樹脂(B)の架橋体とがミクロに絡み合った3次元構造が形成されているためと推測される。
【0056】
「動的粘弾性特性や硬度の温度依存性が小さい」ということは、成形品が、ブレーキパッド等の摩擦材として好ましく用いられることを意味する。
具体的に説明すると、例えば車両用のブレーキは、外部環境や使用時の摩擦により、低温にも高温にもなる。低温でも高温でも、外部刺激に対する応答性(すなわち動的粘弾性特性)や、外部刺激に対する変形のしやすさ(すなわち硬度)があまり変化しない摩擦材を用いてブレーキを構成できれば、低温下であっても高温下であっても、ブレーキの「効き方」があまり変わらない特性を有するブレーキを製造することができる。このような特性を有するブレーキは安全性の観点で好ましいものと言える。
【0057】
<フェノール樹脂組成物>
上記では、本発明の実施形態を、主として製造方法の側面から説明した。
以下では、本発明の実施形態を、フェノール樹脂組成物の側面から説明する。ちなみに、以下で説明するフェノール樹脂組成物は、好ましくは、上述の<フェノール樹脂組成物の製造方法>で説明した方法により製造される。
【0058】
本実施形態のフェノール樹脂組成物は、フェノール樹脂(A)と、自己架橋性の熱可塑性樹脂の架橋体(B')とを含む。以下では「自己架橋性の熱可塑性樹脂の架橋体(B')」を、単に架橋体(B')とも表記する。
【0059】
フェノール樹脂(A)の具体的態様や組成物中の量などは、<フェノール樹脂組成物の製造方法>の項で説明したとおりである。
「自己架橋性の熱可塑性樹脂」の具体的態様については、<フェノール樹脂組成物の製造方法>の項で説明したとおりである。本実施形態のフェノール樹脂組成物は、その自己架橋性の熱可塑性樹脂の架橋体を含む。組成物中の架橋体(B')の量は、<フェノール樹脂組成物の製造方法>の項で説明した熱可塑性樹脂(B)の使用量に準ずる。架橋体(B')は、好ましくは、フェノール樹脂(A)とは実質的に架橋していない。
【0060】
本実施形態のフェノール樹脂組成物は、フェノール樹脂(A)の硬化剤を含んでもよい。硬化剤の具体的態様や組成物中の硬化剤の量は、上記<成形用樹脂組成物の製造方法>で説明した通りである。
また、本実施形態のフェノール樹脂組成物は、さらに硬化触媒やフィラー等を含んでもよい。これらの具体的態様や組成物中の量についても、上記<成形用樹脂組成物の製造方法>で説明した通りである。
【0061】
本実施形態のフェノール樹脂組成物を用いて、上記<成形品(好ましくは摩擦材)の製造方法>のようにして、摩擦材などの成形品を製造することができる。
前述のように、得られる成形品は、動的粘弾性特性や硬度の温度依存性が小さい傾向を有する。この性質は、成形品が、ブレーキパッド等の摩擦材として好ましく用いられることを意味する。
【0062】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0063】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
以下において、「部」は、特に断らない限り、質量部を意味する。
【0064】
(実施例1)
・フェノール樹脂の合成
まず、反応容器内でフェノール1000部と37%ホルマリン水溶液690部とを混合した。次に、反応容器内に触媒として蓚酸10部を添加し、そして100℃で2時間反応させた。これにより反応混合物を得た。続いて反応混合物の温度が130℃になるまで常圧蒸留で脱水した。その後、未反応フェノールを除去するために、反応容器内を0.9kPaまで徐々に減圧しながら、反応混合物の温度が170℃になるまで加熱して減圧蒸留を行った。このようにしてノボラック型フェノール樹脂を得た。
【0065】
・樹脂混合工程および架橋工程(連続工程)
上記減圧蒸留の後、反応容器内に、ヒドロキシ基・アミド基含有アクリルポリマー(23℃において液状)224部を添加し、続いて0.9kPaのまま温度が220℃になるまで、攪拌しながら減圧蒸留を行った。このようにして得られた混合物(フェノール樹脂とアクリルポリマーとが極めて均一に混ざりあっている)を、220℃で3時間反応させて、アクリルポリマーを架橋させた。反応終了直後においても、反応容器内の反応物は液状であり、意図せぬゲル化はしていなかった。
反応終了後、反応物を室温まで冷却した。そして、変性フェノール樹脂A(フェノール樹脂組成物)を1200部得た。
【0066】
・硬化剤混合工程
得られた変性フェノール樹脂A900部と、ヘキサメチレンテトラミン100部と、を粉砕混合した。これにより樹脂-硬化剤混合物Aを1000部得た。
【0067】
以上、実施例1においては、特殊な操作を要することなく、攪拌や加熱などの比較的簡便な操作により、摩擦材などの成形品の製造に好ましく適用されるフェノール樹脂組成物を製造することができた。
【0068】
(実施例2)
添加するアクリルポリマーを、綜研化学社製のカルボキシ基含有液状アクリルポリマー(CBB-3098)とした以外は、実施例1の「フェノール樹脂の合成」と「樹脂混合工程および架橋工程(連続工程)」と同様の操作を行った。そして、変性フェノール樹脂B(フェノール樹脂組成物)を得た。
また、変性フェノール樹脂Aではなく変性フェノール樹脂Bを用いた以外は、実施例1の「硬化剤混合工程」と同様にして、樹脂-硬化剤混合物Bを1000部得た。
ちなみに、実施例2においても、樹脂混合工程および架橋工程(連続工程)において、意図せぬゲル化は起こらなかった。
【0069】
以上、実施例2においても、特殊な操作を要することなく、攪拌や加熱などの比較的簡便な操作により、摩擦材などの成形品の製造に好ましく適用されるフェノール樹脂組成物を製造することができた。
【0070】
(実施例3)
添加するアクリルポリマーを、カルボキシ基を有し、架橋構造を含むアクリルエラストマー(常温で固形)とした以外は、実施例1の「フェノール樹脂の合成」と「樹脂混合工程および架橋工程(連続工程)」と同様の操作を行った。これにより、変性フェノール樹脂C(フェノール樹脂組成物)を得た。
また、変性フェノール樹脂Aではなく変性フェノール樹脂Cを用いた以外は、実施例1の「硬化剤混合工程」と同様にして、樹脂-硬化剤混合物Cを1000部得た。
ちなみに、実施例3においても、樹脂混合工程および架橋工程(連続工程)において、意図せぬゲル化は起こらなかった。
【0071】
以上、実施例3においても、特殊な操作を要することなく、攪拌や加熱などの比較的簡便な操作により、摩擦材などの成形品の製造に好ましく適用されるフェノール樹脂組成物を製造することができた。
【0072】
(比較例1)
「樹脂混合工程および架橋工程(連続工程)」において、220℃で3時間の架橋反応工程を省いて、アクリルポリマーを架橋させなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。これにより、フェノール樹脂-アクリル樹脂混合物を1000部得た。
また、変性フェノール樹脂Aではなく上記フェノール樹脂-アクリル樹脂混合物を用いた以外は、実施例1の「硬化剤混合工程」と同様にして、樹脂-硬化剤混合物Dを1000部得た。
【0073】
(比較例2)
比較例2は、特許文献1(特開2008-63440号公報)の記載を参考として、熱可塑性樹脂及びその架橋剤を配合してフェノール樹脂組成物の製造を試みた例である(特許文献1の実施例そのものの追試ではない)。
【0074】
「樹脂混合工程および架橋工程(連続工程)」において、ヒドロキシ基・アミド基含有アクリルポリマー(23℃において液状)224部の代わりに、メチルエチルケトンに溶解した同量のアクリルゴムと、1部の2,4,6-トリメルカプト-s-トリアジン(架橋剤)とを反応容器内に添加した以外は、実施例1と同様の操作を行った。
このような操作を行ったところ、不溶不融のゲル状態の反応物が生成された。この生成物は反応容器から取り出すのも困難であった。
【0075】
上記実験結果から理解されるように、架橋剤を用いた場合、攪拌や加熱などの比較的簡便な操作のみによっては、摩擦材などの成形品の製造に好ましく適用されるフェノール樹脂組成物を製造することはできなかった。
【0076】
(比較例3)
比較例3は、特許文献2(特開平8-109313号公報)の記載を参考として、エチレン-アクリル酸エステル共重合エラストマーを用いてしてフェノール樹脂組成物の製造を試みた例である(特許文献2の実施例そのものの追試ではない)。
【0077】
ヒドロキシ基・アミド基含有アクリルポリマー(23℃において液状)224部の代わりに、市場で入手したエチレン-アクリル酸エステル共重合エラストマーを同量用いた以外は、実施例1の「樹脂混合工程および架橋工程(連続工程)」と同様の操作を行った。
しかし、おそらくエチレン-アクリル酸エステル共重合エラストマーの溶融粘度が大きすぎることに起因して、実施例1と同条件では、フェノール樹脂とエチレン-アクリル酸エステル共重合エラストマーとを十分均一に混合することができなかった。
【0078】
比較例2および3では、成形品の製造に好ましく適用されるフェノール樹脂組成物を製造することができなかったため、以下では、実施例1~3および比較例1で得られた樹脂-硬化剤混合物を用いて評価を行った。
【0079】
(成形品(摩擦材)の作製とその特性評価)
以下を仕込み混合して、摩擦材用樹脂組成物を得た。
・結合剤:18体積%の樹脂-硬化剤混合物(上記の樹脂-硬化剤混合物A~Dのいずれか)
・繊維基材:2体積%のアラミド繊維(DU PONT社製、ケブラー(登録商標))
・無機充填材:40体積%の炭酸カルシウム(三共精粉株式会社製、炭酸カルシウム) および40体積%の硫酸バリウム(堺化学工業株式会社製、簸性硫酸バリウム)
【0080】
得られた摩擦材用樹脂組成物を、熱成形プレス機にセットして、温度150℃、圧力20~40MPa、4分間の条件で加熱圧縮した。その後、200℃、5時間の条件で加熱処理(ベーキング) を行った。これにより摩擦材用樹脂組成物の硬化物を得た。得られた硬化物を2mm厚×10mm幅×40mm長にカットし、測定・評価用の試験片とした。
【0081】
上記試験片を、動的粘弾性測定装置にセットし、以下測定条件で、動的粘弾性に関するデータを取得した。
測定モード:両持ち曲げ
測定温度:-50~300℃
昇温速度:3℃/分
周波数:10Hz
測定雰囲気:窒素
【0082】
取得したデータから、各試験片の、23℃での損失正接tanδ23℃と、200℃での損失正接tanδ200℃とを求めた。また、これらの比であるtanδ200℃/tanδ23℃を計算した。
tanδ200℃/tanδ23℃が1に近い値であるほど、試験片の、動的粘弾性特性の温度依存性が小さいことを意味する。
【0083】
また、25℃および100℃での試験片の硬度を測定することにより、硬度の温度依存性を評価した。具体的には、ロックウェル硬度計を使用し、JIS Z 2245に従って、25℃と100℃で、試験片の硬度(HRR)を求めた。
【0084】
各種情報をまとめて表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
表1に示されるとおり、実施例1~3の試験片の、動的粘弾性特性の温度依存性は小さく、硬度の温度依存性も小さかった。これは、本実施形態を通じて、温度依存性が小さい成形品(特に、ブレーキパッド等の摩擦材)を製造可能であることを意味する。
また、前述のように、実施例1~3においては、特殊な操作を要することなく、攪拌や加熱などの比較的簡便な操作により、フェノール樹脂組成物を製造することができた。つまり、本実施形態のフェノール樹脂組成物の製造方法は、比較的簡便なフェノール樹脂組成物の製造方法であるといえる。