(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090181
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】熱回収型床構造体および熱回収型床暖房システム
(51)【国際特許分類】
E04B 1/76 20060101AFI20230622BHJP
E04B 1/80 20060101ALI20230622BHJP
F24D 3/00 20220101ALI20230622BHJP
【FI】
E04B1/76 200A
E04B1/80 100P
F24D3/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021205006
(22)【出願日】2021-12-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 公開者名 黄 載雄、李 時桓 刊行物名 第54回空気調和・冷凍連合講演会講演論文集 発行日 令和3年4月9日 公開者名 黄 載雄、李 時桓 集会名および集会場所 集会名:第54回空気調和・冷凍連合講演会(オンライン開催) 開催日 令和3年4月23日 公開者名 黄 載雄、李 時桓、浅野 良晴、小林 貴光 刊行物名 2021年度大会(東海)学術講演梗概集 発行日 令和3年7月20日 公開者名 黄 載雄、李 時桓、浅野 良晴、小林 貴光 集会名および集会場所 集会名:2021年度日本建築学会大会(東海)学術講演会(オンライン開催) 開催日 令和3年9月8日 公開者名 黄 載雄、李 時桓、浅野 良晴、小林 宏和、小島 豊彦、小林 貴光 刊行物名 令和3年度空気調和・衛生工学会大会(福島)学術論文集、第3巻 発行日 令和3年9月1日 公開者名 黄 載雄、李 時桓、浅野 良晴、小林 宏和、小島 豊彦、小林 貴光 集会名および集会場所 集会名:令和3年度空気調和・衛生工学会大会(福島)(オンライン開催) 開催日 令和3年9月16日
(71)【出願人】
【識別番号】000138325
【氏名又は名称】株式会社ヤマウラ
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149320
【弁理士】
【氏名又は名称】井川 浩文
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 時桓
(72)【発明者】
【氏名】浅野 良晴
(72)【発明者】
【氏名】黄 載雄
(72)【発明者】
【氏名】山浦 速夫
(72)【発明者】
【氏名】山浦 正貴
(72)【発明者】
【氏名】小林 ▲寛▼勝
(72)【発明者】
【氏名】小島 豊彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 貴光
(72)【発明者】
【氏名】小林 宏和
【テーマコード(参考)】
2E001
3L070
【Fターム(参考)】
2E001DD17
2E001EA01
2E001FA12
2E001GA12
2E001GA42
2E001HA01
2E001ND01
2E001ND02
3L070AA02
3L070BD02
(57)【要約】
【課題】 冬期における床暖房装置を使用する条件に限定しつつ、高効率な熱回収型の床構造体と、床暖房システムとを提供する。
【解決手段】 熱回収型床構造体は、床面部1に熱源を配設してなる床構造において、床面部の下方に通気層22を設け、通気層は、屋外から供給させる外気に対し、床面部からの放熱を伝達させつつ居室内に流入させるものであり、通気層と基礎土壌20との間には少なくとも断熱構造部が設けられていることを特徴とする。熱回収型床暖房システムAは、熱回収型床構造体を用いるものであって、床面部は、通気層に供給される外気を居室内に流入させるための連通部25を備える。通気層は、連通部から十分な距離を有して基礎部分の壁面を開口してなる給気口23と、外気を供給するための給気装置とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
床面部に熱源を配設してなる床構造において、
前記床面部の下方に通気層を設け、該通気層は、屋外から供給させる外気に対し、前記床面部からの放熱を伝達させつつ居室内に流入させるものであり、前記通気層と基礎土壌との間には少なくとも断熱構造部が設けられていることを特徴とする熱回収型床構造体。
【請求項2】
前記通気層と前記断熱構造部との間に排気層を形成してなる請求項1に記載の熱回収型床構造体。
【請求項3】
前記床面部は、コンクリート製またはモルタル製の床版によって構成され、
前記熱源は、前記コンクリート製またはモルタル製の床版に埋設された床暖房装置であり、
前記断熱構造部は、基礎コンクリート層と、その上層に積層されてなる断熱材層とを備える二重構造である請求項1または2に記載の熱回収型床構造体。
【請求項4】
前記床面部は、前記コンクリート製またはモルタル製の床版の下部に設けられて該コンクリート製またはモルタル製の床版を支持する床板を備えるものである請求項3に記載の熱回収型床構造体。
【請求項5】
請求項3または4に記載の熱回収型床構造体を用いる熱回収型床暖房システムであって、
前記床面部は、前記通気層に供給される外気を居室内に流入させるための連通部を備え、
前記通気層は、前記連通部から十分な距離を有して基礎部分の壁面を開口してなる給気口と、外気を供給するための給気装置とを備え、
居室内と屋外との間には、居室内の空気を排出するための排気路を備え、
外気を前記床暖房装置からの放熱を伝達させたうえで居室に流入させつつ換気するものであることを特徴とする熱回収型床暖房システム。
【請求項6】
前記排気路は、居室を構成する壁面のうち、適宜高さにおいて開口した排気口によって構成されるものである請求項5に記載の熱回収型床暖房システム。
【請求項7】
前記排気路は、前記通気層と前記断熱構造部との間に形成される排気層と、この排気層に居室内の空気を流入させる第2の連通部と、この第2の連通部の先端を屋外に連通させる排気口とを備えるものである請求項5に記載の熱回収型床暖房システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱回収型の床構造体および床暖房システムに関し、特に、ダイナミックインシュレーション(DI:Dynamic Insulation、以下「DI」と略称する場合がある)と呼ばれる熱回収型の断熱技術による床構造体と、そのような床構造体を利用した床暖房システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
DI技術は、室外(専ら屋外)の新鮮な空気を窓または壁などを通過させつつ室内に流入させる場合において、透気機能を有するポーラス材を通過させることによって、流入気流と逆方向に生ずる熱輸送を移流によって妨げる原理であって、この技術の断熱性能は、熱方程式に基づいて計算可能であり、冬期は熱損失を、夏期は熱取得を抑えるものである。このようなDI技術を利用する換気構造には、二重窓による窓システムがあり(特許文献1参照)、この技術は、二重窓の中間に外気を通気させる構造とするものであった。
【0003】
また、外気を床下に通過させて、DI技術を利用しようとするものがある(特許文献2参照)。この技術は、呼吸型と称して、床下に設けられる送風機によって外気を吸引して室内に供給し、または室内空気を吸引して室外へ放出させるものであり、床下において熱を回収するものであるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-223102号公報
【特許文献2】特開2016-188753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前掲の特許文献1において開示される技術は、二重窓の中間に外気を通過させるように構成されたものであり、当該二重窓の間を通過する際に熱回収が行われるものであるが、壁面を通過させる構造と大きく変化するものではなかった。すなわち、内側壁(内側窓)は居室側に配置され、居室内の調整された温度が、内側壁(内側窓)から二重壁内(二重窓内)に伝達されるものであり、専ら内側壁(内側窓)によって伝達されるべき温度差がなければ、効率的な熱回収を行うことができず、結果的に室内温度が十分に調整されていることが前提となるものであった。
【0006】
他方、前掲の特許文献2において開示される技術は、床下を通過する空気を利用して熱回収を実行するものとされているが、床下の空間部分は、送風機の正転時には、外気を給気するための空間であるとともに、反転時には、排気のための空間として機能するものであり、送風機による外気の給排気は、基礎部に開口された給排気口を通過させるものとなっていた。そのため、この給排気口と対となるべき他方の給排気には、妻側の壁面を無機発泡体で構成するというものであり、この無機発泡体を通過して外気を給気するときには、DI技術を利用する換気システムとなり得ていなかった。また、床下から給気する場合においても、夏期および冬期の区別が示されておらず、しかも床下で熱回収するとしても夏期と冬期では床面の温度条件は異なるものであり、熱回収の効率について懸念されるところであった。
【0007】
本発明は、上記諸点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、冬期における床暖房装置を使用する条件に限定しつつ、高効率な熱回収型の床構造体と、床暖房システムとを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、熱回収型床構造体に係る本発明は、床面部に熱源を配設してなる床構造において、前記床面部の下方に通気層を設け、該通気層は、屋外から供給させる外気に対し、前記床面部からの放熱を伝達させつつ居室内に流入させるものであり、前記通気層と基礎土壌との間には少なくとも断熱構造部が設けられていることを特徴とする。
【0009】
上記構成の床構造体によれば、基本的な床構造として、床面部に熱源を有するものであり、この熱源は、床面部を介する輻射熱として居室内暖房に寄与するものであるとともに、床面部から床下に放熱されることによる熱損失をDI技術によって回収することとなる。すなわち、外気は、床面部の下方に設けられる通気層を通過して居室内に放出されるものとしていることから、床面部からの放熱は、通気層を通過する外気に伝達され、この外気は居室内に放出されることにより、放熱された熱の一部は居室内に戻されて回収されることとなる。
【0010】
上記構成の熱回収型床構造体にあっては、室内空気の排気は、壁面の適宜な高さに開口した排気口によるものであってもよく、また、前記通気層と前記断熱構造部との間に排気層を形成し、該排気層の末端を開口して排気してもよい。
【0011】
上記構成の場合、居室暖房のための熱源は床面部に設けられていることから、基本的には床面部に近い位置の空気が熱せられ、上部においては温度が低下するものとなるから、壁面の適宜高さ、例えば、居住者の身長を超える2m以上の高さであれば、排気したとしても居住者が感じる程度の暖房熱の低下の影響を僅少とすることができる。さらに、通気層と断熱構造部との中間に排気層を形成する場合は、排気用の空気に含まれる熱が通気層を通過する外気に伝達されることとなり、熱損失を少なくすることができる。
【0012】
さらに、上記のような構成とする熱回収型床構造体においては、前記床面部が、コンクリート製またはモルタル製の床版によって構成され、前記熱源が、前記コンクリート製またはモルタル製の床版に埋設された床暖房装置であり、前記断熱構造部が、基礎コンクリート層と、その上層に積層されてなる断熱材層とを備える二重構造であるものとすることができる。
【0013】
このような構成とすれば、コンクリート等による蓄熱性を利用しつつ、床暖房装置による熱源を居室に放熱させて居室内暖房としつつ、同時に、コンクリート等に蓄熱された熱が通気層内の外気に対して放熱され、居室内に流入されることから、熱損失を抑えることができる。特に、床下における熱の損失は、床面部の熱が基礎土壌(居室直下の土壌)に伝達されることによる割合が大きいことから、断熱層を二重構造とすることにより、その伝達効率を低下させて熱損失を抑制することとなるのである。なお、床暖房装置とは、一般的な床暖房に供される暖房装置であって、温水循環式として配設される送液パイプや電熱方式として配設される電熱ケーブルなどがある。また、二重構造の断熱構造部に使用される断熱材としては、無機発泡体または発泡樹脂などがある。
【0014】
また、上記のように床面部としてコンクリート製またはモルタル製の床版とする構成の熱回収型床構造体においては、前記床面部が、前記コンクリート製またはモルタル製の床版の下部に設けられて該コンクリート製またはモルタル製の床版を支持する床板を備えるものとすることができる。
【0015】
上記構成の場合には、コンクリート製またはモルタル製の床版を床板の上面において、コンクリート等の打設によって構成することができるほか、予め床暖房装置を内蔵させたプレキャストコンクリート等を使用する場合においても、床板の上で作業することを可能にすることから、床面部の施工を容易にするものとなる。
【0016】
他方、熱回収型床暖房システムに係る本発明は、床面部をコンクリート製またはモルタル製の床版によって構成し、熱源としての床暖房装置をコンクリート製またはモルタル製の床版に埋設した構成とする熱回収型床構造体を用いる熱回収型床暖房システムであって、前記床面部は、前記通気層に供給される外気を居室内に流入させるための連通部を備え、前記通気層は、前記連通部から十分な距離を有して基礎部分の壁面を開口してなる給気口と、外気を供給するための給気装置とを備え、居室内と屋外との間には、居室内の空気を排出するための排気路を備え、外気を前記床暖房装置からの放熱を伝達させたうえで居室に流入させつつ換気するものであることを特徴とする。
【0017】
上記構成の熱回収型床暖房システムによれば、前述した構成の熱回収型床構造体を構築することにより、その床構造体の通気層に外気を給気させ、熱回収しつつ居室へ外気を流入させることができる。ここで使用される給気装置は、シロッコファンその他の送風手段を使用することができ、風量を調整可能とすることが好ましい。調整された風量における外気を継続的に供給することにより、熱回収効果を維持しつつ室内換気を行うことができる。
【0018】
上記構成の発明においては、前記排気路が、居室を構成する壁面のうち、適宜高さにおいて開口した排気口によって構成されるものとすることができるほか、前記通気層と前記断熱構造部との間に形成される排気層と、この排気層に居室内の空気を流入させる第2の連通部と、この第2の連通部の先端を屋外に連通させる排気口とを備えるような構成とすることができる。
【0019】
排気路が居室の壁面に排気口を設ける構成の場合には、居室暖房のための熱源は床面部に設けられていることから、例えば、居住者の身長を超える2m以上の高さに設けるものとすれば、壁面からの排気による暖房熱の損失は居住者が感じない程度まで僅少とすることができる。さらに、排気路が通気層と断熱構造部との中間に形成される排気層を含む構成とする場合には、排気される空気に含まれる熱が通気層を通過する外気に伝達されることとなり、熱損失を少なくすることができる。
【発明の効果】
【0020】
熱回収型床構造体に係る本発明によれば、冬期における床暖房装置を使用する条件下において、当該床暖房装置の熱源が床下から放出され、単なる熱損失の原因となっていた廃熱を回収しつつ室内換気を行うことができるものとなる。廃熱を利用するという観点から高効率な熱回収型の床構造体となるものである。
【0021】
また、熱回収型床暖房システムに係る本発明によれば、上述の熱回収型床構造体を使用することから、高効率な熱回収型の床暖房システムとなり得るものであり、熱源となる床暖房装置はコンクリート製またはモルタル製の床版に埋設されるものとしているため、当該コンクリート製またはモルタル製の床版を介した輻射熱による居室内暖房を行うことができ、居室内における居住者は足下から暖められ、快適な住空間を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】(a)は熱回収型床暖房システムの実施形態の全体的な概要を示す説明図であり、(b)はIB-IB線による断面図である。
【
図2】予備実験用の模型の概要を示す図であり、(a)は実施形態を想定したもの、(b)は比較用を示したものである。
【
図3】予備実験用の模型の断面図であり、(a)は実施形態を想定したもの、(b)は比較用を示したものである。
【
図5】実測実験用の模型の断面図であり、(a)は実施形態を想定したもの、(b)は比較用を示したものである。
【
図7】CFD解析用のメッシュの概要を示す説明図である。
【
図8】CFD解析の対象となる構造を示す説明図である。
【
図10】CFD解析対象構造における投入エネルギの消費の状態を示す説明図である。
【
図11】予備実験における解析のための土壌モデルにおけるメッシュの概要を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
<熱回収型床構造体および床暖房システム>
図1は、熱回収型の床暖房システムに係る実施形態の概要を示す図である。
図1(a)に示すように、熱回収型床暖房システムAは、居室B,Cの床面部1に床暖房装置11が埋設されたものであり、この床面部1の下部に熱回収型床構造体2が構築されたものである。本実施形態における床暖房装置11としては、電気式床暖房としており、電熱ケーブルを適宜間隔で埋設したものを例示している。また、床面部1はコンクリート製またはモルタル製の床版によって構成するものを例示しており、居室内は、コンクリート製またはモルタル製の床版の表面を適宜フローリングまたは畳などを積層することにより洋室または和室を設けることができるものである。
【0024】
本実施形態の熱回収型床構造体2は、床面部1の下方に構築されるものであり、その概要は、基礎コンクリート21の上方(床面部1との間)に通気層22を形成するための空間部を設けるものであり、この空間部(通気層)22に外気を供給するための給気口23を設けるものである。なお、給気口23は、空間部(通気層)22の全面を開口しているものではなく、空間部(通気層)22の数ヶ所を開口するものである。
【0025】
熱回収型床構造体2の形態は、
図1(b)に示すように、床面部1の下方に通気層22を構成するものであり、この通気層22は基礎部分を構成する断熱構造部の上層に形成されるものである。断熱構造部は、基礎土壌(基礎の一部を構成する土壌部分)20の表面に基礎コンクリート21が構築され、この基礎コンクリート21の上層に断熱材層24を積層することによって形成される。本実施形態では、地盤を掘削せず、グランドレベル(GL)を表面とする基礎土壌20に基礎コンクリート21を設ける構成を例示しているが、基礎構造は、図示の場合に限らず、ベタ基礎または布基礎など種々の形態としてもよい。
【0026】
通気層22は、給気口23から十分な距離を有する位置において、床面部1を貫通する連通部25に連続している。この連通部25は、床面部1の適宜な位置の数ヶ所に設けられるものであり、通気層22を通過した外気が、この連通部25を介して居室に流入させるものとしている。
【0027】
従って、基礎コンクリート21の側部に開口させてなる複数の給気口23から外気を通気層22に供給し、通気層22の広い範囲で床面部1からの放熱(床暖房装置11の廃熱)が伝達されて、当該放熱(廃熱)を回収しつつ適度な温度に上昇した空気を居室内に供給するものとしている。給気口23から供給される外気は、給気装置によって供給されるものである。
【0028】
ところで、本実施形態は、基礎コンクリート21に立設した床支26が設けられ、この床支26によって床板27を支持する構成としている。この床板27の上面に床面部1となるコンクリート製またはモルタル製の床版が構築されるものとしている。通気層22は、床面部1のほぼ全体に至る範囲に構成されることから、床面部1の下方に広い空間を構成するために、床支26によって床面部1を支持させるものとしている。従って、床支26を設けずに広い範囲で通気層22を構成できる場合は、床支26を設ける必要はない。
【0029】
なお、居室は、屋外との間に外壁3が設けられることから、
図1においては省略しているが、本実施形態では、外壁3に排気口を設ける構成とし、当該排気口によって排気路となるものである。排気口(排気路)には、排気ファン等の送風機を設けることにより、居室内を陰圧とすることができ、通気層22を介して給気口23から外気の供給を受けることができる。この排気ファンをもって給気装置としているが、給気口23に送風機等を設けることによって外気を供給してもよく、この場合には、通気層22が陽圧となることで、連通部25を介して居室内へ通気層22による熱回収された空気を供給することができる。さらには、連通部25に給気用のファンを設けて、通気層22の空気を居室内へ供給する給気装置としてもよく、この場合には、居室の空気を排出するための排気口(排気路)を設ける構成となる。このような構成により、通気層22においては陰圧となり、外気の給気を可能としつつ、居室内は陽圧となり、排気口(排気路)から排出させることが可能となる。また、屋内は、個々の居室ごとに、仕切壁4によって仕切られており、個々の居室ごとに同様の熱回収型床構造体2を構築してよく、また、通気層22を複数の居室の床面部1に共通する空間として形成し、連通部25を各居室に開口させるように構成してもよい。
【0030】
<実験例>
(予備実験)
予備実験として、
図2および
図3に示すような実験用模型を作製し、深夜8時間における床暖房装置の消費電力を測定した。
図2は、実験用模型の概要を示す図であり、
図3は、実験用模型の断面図である。
図2および
図3は、ともに(a)が実施形態の熱回収型床暖房システムを想定したものであり、(b)は比較用として土間用の床暖房システムを想定したものである。各模型の寸法は図示のとおりであり、全体を厚さ8mmのアルミニウムパネル51で覆った構成とし、個々の接合部にはシリコン樹脂で隙間を閉塞して気密性を確保した。なお、屋根5の四方には僅かながら庇50を設けた構成とした。
【0031】
各模型は、一部屋の居室を想定し、全体は外壁3としてスタイロフォーム(登録商標)製としている。また、床面部1をモルタル製で構成し、床暖房装置11を想定し、二枚のアルミニウムパネル12,13の間に電熱ケーブル14を挟んだ状態とした。電熱ケーブル14にはPTC(Positive Temperature Coefficient)熱線を使用し、電圧の印加により発熱させ、その際の使用電力量を消費電力量として計上することとした。PTC熱線は、最大出力が20W/mのものを使用し、これを30m使用した(合計最大出力600W)。居室内の温度を一定にするため、排気口にサーモスタットを設置し、設定温度を20.0℃(±0.2℃)として、PTC熱線のON-OFF制御を行うものとした。
【0032】
また、換気は、一方の外壁3に開口させた排気口にシロッコファン31を設け、室内を陰圧とし、実施形態を想定した模型(
図2(a))は、給気口23を介して床面部1の下方に形成した通気層22に外気を供給するものとし、比較用の模型(
図2(b))は、他方の外壁3を開口した給気口23から居室内に外気を供給する構成とした。シロッコファンは、電圧コントローラを使用して、換気量を4.4m
3/hに設定した。
【0033】
【0034】
(予備実験結果)
上記の条件による予備実験の結果を
図4に示す。この図に示されているように、予備実験により、実施形態を想定した模型と比較用の模型では、時間の経過とともに消費電力に差を生じることが判明した。特に、8時間後の消費電力は、実施形態を想定した模型が48.19kWhであったのに対し、比較用の模型は60.39kWhとなり、約20.2%の消費電力を削減できることが判明した。
【0035】
(実測実験)
実測実験として16日間の床暖房装置の消費電力を測定した。実測実験に使用した模型(実施形態を想定した模型および比較用の模型)は、基本的に予備実験と同様である。比較用の模型は全く同様であるが、実施形態を想定した模型は少し変更した。これらの各模型は
図5に示すとおりである。ただし、
図5(a)は実施形態を想定した模型であり、
図5(b)は比較用の模型を示す。実施形態を想定した模型の変更点は、
図5(a)にも示しているように、通気層の間隙を狭くし、高さ方向の間隙を30mmとした。そのため、当初の100mmに対し、70mm相当を嵩上げするように、底面にはスタイロフォーム(登録商標)をアルミニウムパネルで挟むように構成した。これは、予備実験では通気層において均一な空気の流れが生じなかったものと判断したためであり、上記通気層の変更とともに、シロッコファンによる換気量を15.7m
3/hに設定して空気の流動の均一化を図った。因みに、当該模型における0.5回換気には0.33m
3/hとなるが、このような少量の風量はシロッコファンの最低風量よりも小さいものであることと、上記の空気の流動の均一化のためである。
【0036】
その他の条件として、全体をアルミニウムパネル(肉厚8mm)で覆い、接合部をシリコン樹脂で気密性を確保したこと、外壁としてスタイロフォーム(登録商標)製としたこと、床面部をモルタル製で構成し、床暖房装置を想定したPTC熱線を二枚のアルミニウムパネルで挟んで構成したこと、PTC熱線は20W/mのものを30m使用したことについては、予備実験と同様とした。なお、温度設定としては、排気口にサーモスタットを設置することは同様としたが、設定温度を20.0℃(±0.1℃)としてON-OFF制御を行う点を変更した。
【0037】
【0038】
(実測実験結果)
上記の条件による実測実験の結果を
図6に示す。この図に示されているように、16日間の消費電力の累積値は、実施形態を想定した模型が65kWhであったのに対し、比較用の模型は122kWhとなり、約46%の消費電力を削減できることが判明した。予備実験では約20%の電力削減率であったが、実測実験において向上した理由は、通気層における空気の流動の均一化によるものと判断される。すなわち、通気層内に均一に空気が流動することにより、通気層の広い範囲で熱回収がなされることが判明した。これは、床面部から放出される放熱(排気熱)を十分に回収していることを意味するものである。
【0039】
<CFD解析>
(解析条件)
次に、CFD解析によって、熱損失量および暖房負荷の状態を解析した。解析には、実測値と整合性が確保された数値解析モデルを用いて実大スケールに各種(実施形態および比較例)の床暖房システムを適用した場合の効果について行った。実大スケールは、設置土壌(基礎土壌)を含めるものとし、室内スケールは8m(横)×8m(縦)×2.5m(高さ)とし、土壌スケールは、16m(横)×16m×1.5(深さ)とした。これらについて解析に使用するメッシュの概要は、
図7に示すとおりである。なお、CFD解析としては有限体積法を用いた。
【0040】
上記のCFD解析の対象とする構造を
図8に示す。この図に示されるように、解析対象を4種類とした。
図8(a)は、実施形態に最も近い構造体(実施形態タイプ)である。この構造体では、熱回収型床構造体2は、基礎土壌20の表面に設けられた基礎コンクリート21と、その上層に断熱材24が設けられ、この断熱材24の上層が通気層22となるものであり、床面部1をモルタルで構成し、内部に電熱ケーブルによる床暖房装置11を埋設したものである。居室の周囲は断熱材による外壁3によって囲われた構成としている。なお、床面部1を支えるための床板(板材)27を設けるものとしているが、床支は省略している。また、通気層22から居室内へ流通させるための連通部も省略している。これらは、熱の伝達(熱損失等)に直接的に関与するものでないためである。
【0041】
また、
図8(b)は実施形態を簡略化した構造体(簡易タイプ)である。具体的に、
図8(b)に示す簡易タイプの構造体は、熱回収型床構造体2を簡素化し、また、床面部1を外壁3で支持させて通気層22を形成する構成である。熱回収型床構造体2の簡素化としては、基礎コンクリートを省略し、基礎土壌20の表面に直接断熱材24を設けた構成である。ただし、床面部1をコンクリートとして、その内部に床暖房装置(電熱ケーブル)11を埋設した構造としている。
【0042】
他方、
図8(c)および(d)は比較例である。具体的に、
図8(c)の比較例(1)は、
図8(a)に示す床暖房システムにおいて、通気層を空気層としたもの、すなわち、通気させず空気を封入した状態である。
図8(d)の比較例(2)は、一般的な土間床暖房を想定したものであり、
図8(b)に示す簡易タイプから通気層22を排除した構造としたものである。具体的には、基礎土壌20の表面に断熱材24を設け、その上層にコンクリートによる床面部1を形成するものとした。
【0043】
なお、解析において、通気層22を有する構成(実施形態タイプおよび簡易タイプ)については、当該通気層に接する面が断熱材または遮熱シート(図示せず)によって断熱されるものとし、その放射率を0.1とする一方、他の構成(比較例(1)および(2))については放射率を0.8とした。暖房方式は、計算を簡略化するため、床面部1のモルタルまたはコンクリートの容量に対し、100W/m2を直接与えることで床暖房と仮定して解析するものとした。解析に伴う計算において、室内空間の日射計算を除き、土壌の温度変化は地面に関する測定値を与え、初期条件温度としては、室内温度のほか、床面部(モルタルまたはコンクリート)1および床板(設置する場合のみ)の温度を20℃とし、地表面、基礎コンクリート21、通気層22およびこれらに接する断熱材24の温度を9℃とした。その他の解析条件(ただし、一部に重複記載あり)は、下表のとおりである。
【0044】
【0045】
(解析結果)
上記の条件による実測実験の結果を
図9に示す。なお、
図9(a)は土壌への熱損失量の結果を示し、
図9(b)は暖房負荷の結果を示す。
図9(a)に示されているように、24時間の累計として土壌への熱損失量は、実施形態タイプが-4.7MJであり、簡易タイプが19.3MJであったのに対し、比較例(1)の場合は、2.9Jであり、比較例(2)が54.7MJであった。また、暖房負荷の累計(上記の条件において室内を24時間20℃に維持させるために投入されるべきエネルギ)について、実施形態タイプでは、151.9MJであり、簡易タイプが184.2MJであったのに対し、比較例(1)では192.1MJであり、比較例(2)が242.0MJであった。
【0046】
ここで、暖房負荷(投入すべきエネルギ)と熱損失量について、さらに解析したので説明する。
図10は、投入エネルギ(暖房負荷)の消費の状態(熱バランス)を示す。なお、
図10(a)は熱回収型(二重床)について、
図10(b)は熱回収型(土間)について、
図10(c)は二重床について、
図10(d)は土間について、それぞれの熱バランスを示している。
【0047】
これらの図に示されるように、熱回収型(二重床)の場合には、投入エネルギ151.9MJのうち、室内に直接73.6MJのエネルギが移動し、35.8MJのエネルギが熱回収されて室内に移動する。また、外部に3.3MJのエネルギが排出され、床面部から床構造体の全体に46.5MJのエネルギが蓄熱されるものとなった。さらに、この構造体の場合には、土壌への熱損失量が-4.7MJであったことから、土壌から4.7MJのエネルギが供与されている結果となっている。これは、後述するように、24時間の外気温は変動するが全体的に低温状態となる(特に夜間の温度が低下する)。その結果、通気層22を通過する外気は、基礎コンクリート21に蓄熱された熱をも吸収することとなり、これを室内に回収することとなる。その一方、基礎コンクリート21の温度は土壌温度よりも低くなるとから、この基礎コンクリート21が土壌よりエネルギを吸収するためと考えられる。
【0048】
上記の結果により、熱損失量は実施形態タイプおよび比較例(1)(いずれも二重床構造とするもの)において良好であるが、暖房負荷(投入すべきエネルギ)については、実施形態タイプおよび簡易タイプにおいて良好であり、特に、実施形態タイプにあっては熱損失量および暖房負荷の双方において最も良好であることが判明した。また、比較例(1)は、空気を流動させない空気層を床下に設ける構成であるため、熱損失量において良好であったが、暖房負荷については、実施形態タイプが、比較例(1)よりも約20.9%の削減を可能とし、比較例(2)のような土間構造に比較すると23%の削減を達成し得るという結果を得た。なお、比較例(1)における暖房負荷が大きい理由としては、熱損失量は少ないものの、熱回収ができないことによるものであると想定される。従って、床下に空気層を構成するとしても、熱回収を可能とする通気層22を設けることが必要であることが判明した。
【0049】
<CFD解析の予備実験>
上述のCFD解析における地中への熱損失を定量化するための予備実験を行っているので、以下に紹介する。土壌モデルとしては、更地の状態におけるものとし、実測値と解析値とを比較することとした。実測は、地表面を0(基準点)とし、深さ600mmまで100mmごとの土壌温度と、外気温および日射量とを測定した。地中温度の測定は、土壌に1.5mの間隔で3本のPVCパイプを地中に挿入し、PVCパイプ表面における温度を深さごとに測定した。3本を温度測定には熱電対(T型)を使用した。各実測の間隔は1分とした。場所は信州大学内とし、2021年3月17日の0時から24時の24時間とした。
【0050】
また、解析に際しては、実測から得られる情報を用いつつ土壌解析モデルを作成した。解析領域は、
図11に示すように、4.0m(横)×4.0(縦)×3.0(高さ)とし、高さ方向の下半分(1.5m)を土壌部分(地中)とした。外部風速については下表に示す公表された風速プロファイルを使用し、解析モデルの高さ方向による風速変化を考慮した。また、更地のため風向は考慮せず、風速データは、実測日と同じ2021年3月17日の長野気象台(気象庁)発表の10分ごとのデータを使用した。解析には、実測で得られた全天日日射を直達日射と散乱日射とに分離することとし、この直散分離は、下表に示す公表された直散分離法を使用した。なお、上記風速データは、長野気象台における観測点が地上19.0であるため、任意の高さにおける風速(u)を下式によって換算するものとし、風速プロファイルを予め作成した。
【数1】
【0051】
なお、乱流エネルギk(m
2/s
2)および乱流散逸率ε(m
2/s
3)は下式のとおりである。
【数2】
【0052】
【0053】
上記実測の結果および解析値を
図12に示す。なお、
図12(a)は外気温に係る24時間の実測値の推移を示し、
図12(b)は、土壌温度に係る実測値と解析値に係る結果を示す。これらの図に示されている実測値によれば、気温の変化に伴って地表面(0m)の温度は変動するが、地中200mでは変動幅が小さくなり、地中600mでは概ね均一であった。そして、
図12(b)の解析結果によれば、地表面(0mm)では、僅かに異なる点があるものの、全体として実測値と解析結果はほぼ同様であることから、CFD解析モデルの整合性を確保できているものと判断された。このことから、CFD解析に用いた土壌モデルは実測値との整合性を確保しており、土壌への熱損失量の解析は信用し得るものと判断される。
【0054】
<まとめ>
熱回収型床構造体および熱回収型床暖房システムに係る実施形態は、上記のとおりであり、また、解析の結果からも明らかなとおり、床暖房装置からの放熱を回収し、土壌への熱損失量を抑え、消費電力および暖房負荷を低減させることができるものである。従って、本実施形態(実施形態タイプおよび簡易タイプ)のような熱回収型の構成によれば、冬期において、高効率な熱回収型の床構造体と、床暖房システムとを提供することができるものとなる。
【0055】
なお、上記に示した実施形態(実施形態タイプおよび簡易タイプ)は、本発明の一例を示すものであり、本発明がこれらの実施形態に限定されるものではない。従って、上記実施形態の各要素を変更し、他の要素を追加するものであってもよい。例えば、実施形態の床暖房構造においては、床面部1をモルタル製としたものを例示しているが、これに限定されるものではなく、根太によって形成される床面直下に温熱式のパイプを配設するような床暖房構造でもよい。
【0056】
また、
図13に示すように、通気層22の直下に仕切板6を設け、その下方を排気層61としてもよい。この場合、排気層61への居室内空気の排気は、図中の紙面に垂直方向に流動させることで、通気層22を通過する外気の流動方向とは異なるため、排気された空気が再流入することを避けることができる。前述のCFD解析においては、基礎コンクリートおよび土壌の各温度を9℃としたが、土壌温度がさらに低温の場合には、土壌からのエネルギ供与を期待できない場合もあることから、このように、通気層22の直下に排気層61が形成される構成によれば、土壌からのエネルギ供与に代えて、居室内空気の廃熱の回収を目的とするものとなり得る。
【符号の説明】
【0057】
1 床面部
2 熱回収型床構造体
3 外壁
4 仕切壁
5 屋根
6 仕切板
11 床暖房装置
12,13 アルミニウムパネル
14 電熱ケーブル(PTC熱線)
20 基礎土壌
21 基礎コンクリート
22 通気層
23 給気口
24 断熱材層(断熱材)
25 連通部
26 床支
27 床板
31 シロッコファン
50 庇
51 アルミニウムパネル