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特開2023-90195フローティング型ディスクブレーキ装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090195
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】フローティング型ディスクブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 55/226 20060101AFI20230622BHJP
   F16D 65/02 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
F16D55/226 104F
F16D65/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021205029
(22)【出願日】2021-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000516
【氏名又は名称】曙ブレーキ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 達也
【テーマコード(参考)】
3J058
【Fターム(参考)】
3J058AA43
3J058AA48
3J058AA53
3J058AA63
3J058AA69
3J058AA73
3J058AA77
3J058AA84
3J058AA87
3J058BA21
3J058BA42
3J058CA52
3J058CC23
3J058CC36
3J058DD02
3J058EA02
3J058EA08
(57)【要約】
【課題】キャリパボディのアウタボディ部とアウタパッドとの当接部の面圧が、アウタパッドの径方向外側部で局所的に高くなることを防止できる、フローティング型ディスクブレーキ装置を実現する。
【解決手段】フローティング型ディスクブレーキ装置を、インナパッドと、アウタパッド5と、サポートと、キャリパボディ3とを備えるものとする。キャリパボディ3を構成するアウタボディ部21のうち、アウタパッド5の基板部49bと軸方向に対向する部分のほぼ全体に張出部32を設ける。張出部32の軸方向内側面に、基板部49bの径方向外側半部と軸方向に対向する部分の面積よりも、基板部49bの径方向内側半部と軸方向に対向する部分の面積の方が大きくなった当接凸部33を形成する。そして、制動時に、基板部49bの軸方向外側面に対して当接凸部33の先端面のみを当接させる。
【選択図】図17
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータの軸方向内側に配置されたインナパッドと、
前記ロータの軸方向外側に配置されたアウタパッドと、
車体に固定され、前記インナパッド及び前記アウタパッドのそれぞれを軸方向に移動可能に支持するサポートと、
前記サポートに対して軸方向に関する移動を可能に支持されたキャリパボディと、を備え、
前記アウタパッドは、ライニングを支持した基板部と、耳部とを有する裏板を有し、
前記キャリパボディは、シリンダを有し、かつ、前記ロータよりも軸方向内側に配置されたインナボディ部と、制動時に前記アウタパッドを押圧するアウタボディ部とを有し、
前記アウタボディ部は、前記基板部と軸方向に対向する部分のほぼ全体に、軸方向内側に向けて張り出した張出部を有し、
前記張出部は、軸方向内側面に、前記基板部の径方向外側半部と軸方向に対向する部分の面積よりも、前記基板部の径方向内側半部と軸方向に対向する部分の面積の方が大きい、軸方向に盛り上がった当接凸部を有し、
前記アウタボディ部は、制動時に、前記基板部の軸方向外側面に対して前記当接凸部の先端面のみを当接させる、
フローティング型ディスクブレーキ装置。
【請求項2】
前記アウタボディ部は、前記張出部の周方向両外側部に、前記インナパッド及び前記アウタパッドの摩耗が進行した際に前記サポートの軸方向外側部を進入させるための、軸方向外側に向けて凹んだ1対の逃げ凹部を有する、請求項1に記載したフローティング型ディスクブレーキ装置。
【請求項3】
前記当接凸部の軸方向高さは、一定である、請求項1~2のうちのいずれか1項に記載したフローティング型ディスクブレーキ装置。
【請求項4】
前記当接凸部は、径方向に伸長した帯状の径方向凸部を有する、請求項1~3のうちのいずれか1項に記載したフローティング型ディスクブレーキ装置。
【請求項5】
前記径方向凸部は、前記シリンダの中心軸線上又はその近傍に配置されている、請求項4に記載したフローティング型ディスクブレーキ装置。
【請求項6】
前記径方向凸部は、周方向に互いに離隔して複数本備えられており、
複数本の前記径方向凸部は、互いに平行に配置されている、
請求項4~5のうちのいずれか1項に記載したフローティング型ディスクブレーキ装置。
【請求項7】
前記張出部は、軸方向内側面のうちで、前記基板部と軸方向に対向する部分から径方向外側に外れた外周縁部に、補強リブを有しており、
前記径方向凸部の径方向外側の端部は、前記補強リブにつながっている、
請求項4~6のうちのいずれか1項に記載したフローティング型ディスクブレーキ装置。
【請求項8】
前記当接凸部は、周方向に伸長した帯状の周方向凸部を有する、請求項1~7のうちのいずれか1項に記載したフローティング型ディスクブレーキ装置。
【請求項9】
前記周方向凸部は、前記径方向凸部と交差するように配置されている、請求項4~7のうちのいずれかを引用する請求項8に記載したフローティング型ディスクブレーキ装置。
【請求項10】
前記周方向凸部は、径方向に互いに離隔して複数本備えられている、請求項8~9のうちのいずれか1項に記載したフローティング型ディスクブレーキ装置。
【請求項11】
前記周方向凸部は、前記シリンダの中心軸線と交差する径方向位置に配置されている、請求項8~10のうちのいずれか1項に記載したフローティング型ディスクブレーキ装置。
【請求項12】
前記周方向凸部は、前記シリンダの中心軸線よりも径方向内側に外れた位置に配置されている、請求項8~10のうちのいずれか1項に記載したフローティング型ディスクブレーキ装置。
【請求項13】
前記周方向凸部は、径方向外側が凸になるように湾曲している、請求項8~12のうちのいずれか1項に記載したフローティング型ディスクブレーキ装置。
【請求項14】
前記アウタボディ部の周方向寸法は、前記サポートの周方向寸法よりも大きい、請求項1~13のうちのいずれか1項に記載したフローティング型ディスクブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フローティング型ディスクブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や自動二輪車の制動を行うために、ディスクブレーキ装置が広く使用されている。ディスクブレーキ装置による制動時には、車輪とともに回転するロータの軸方向両側に配置された1対のパッドを、ピストンによりロータの軸方向両側面に押し付ける。このようなディスクブレーキ装置として、従来から各種構造のものが知られているが、たとえば実開平7-38771号公報(特許文献1)に記載されたようなフローティング型のディスクブレーキ装置は、軽量化やコストの低減の面で有利であることから、従来から広く使用されている。
【0003】
フローティング型のディスクブレーキ装置は、車体に固定されるサポートと、サポートに対して軸方向に移動可能に支持されたキャリパボディと、サポートに対し軸方向の移動を可能に支持されたインナパッド及びアウタパッドとを備える。なお、軸方向とは、特に断らない限り、ロータの軸方向をいう。
【0004】
キャリパボディは、シリンダを有し、かつ、ロータの軸方向内側に配置されるインナボディ部と、アウタパッドを軸方向に押圧するアウタボディ部とを備える。インナボディ部に備えられたシリンダの内側には、制動時にインナパッドを軸方向に押圧するピストンが嵌装されている。
【0005】
制動を行う際には、マスタシリンダからシリンダへと圧油を送り込み、ピストンによりインナパッドを、ロータの軸方向側面に押し付ける。すると、この押し付け力の反作用として、キャリパボディが、サポートに対して軸方向内側へと移動する。これにより、アウタボディ部が、アウタパッドをロータの軸方向側面に押し付ける。この結果、ロータが、インナパッドとアウタパッドとにより軸方向両側から強く挟持されて、制動が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平7-38771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
制動時に、キャリパボディを構成するアウタボディ部により、アウタパッドを直接押圧する構成を有するディスクブレーキ装置には、次のような改良すべき課題がある。
【0008】
すなわち、アウタボディ部は、インナボディ部に対して、径方向外側部でのみつながった片持ち梁構造を有している。このため、図25に誇張して示すように、アウタボディ部100のうちで、アウタパッド101を押圧するパッド押圧部100aには、制動時に、軸方向外側かつ径方向外側に持ち上がるような弾性変形を生じる。このため、パッド押圧部100aの弾性変形量は、径方向外側部よりも径方向内側部で大きくなる。したがって、アウタパッドに対してアウタボディ部のパッド押圧部を全面当たりさせる構造を採用した場合、アウタボディ部とアウタパッドとの当接部の面圧が、アウタパッドの径方向外側部(外周縁部)で局所的に高くなる可能性がある。この結果、アウタパッドに偏摩耗が生じたり、制動時に鳴きが発生したりする可能性がある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、キャリパボディのアウタボディ部とアウタパッドとの当接部の面圧が、アウタパッドの径方向外側部で局所的に高くなることを防止できる、フローティング型ディスクブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様にかかるフローティング型ディスクブレーキ装置は、インナパッドと、アウタパッドと、サポートと、キャリパボディとを備える。
前記インナパッドは、ロータの軸方向内側に配置されている。
前記アウタパッドは、前記ロータの軸方向外側に配置されている。
前記サポートは、車体に固定され、前記インナパッド及び前記アウタパッドのそれぞれを軸方向に移動可能に支持する。
前記キャリパボディは、前記サポートに対して軸方向に関する移動を可能に支持されている。
前記アウタパッドは、前記基板部と軸方向に対向する部分のほぼ全体に、軸方向内側に向けて張り出した張出部を有している。
前記張出部は、軸方向内側面(先端面)に、前記基板部の径方向外側半部と軸方向に対向する部分の面積よりも、前記基板部の径方向内側半部と軸方向に対向する部分の面積の方が大きい、軸方向に盛り上がった当接凸部を有している。
前記アウタボディ部は、制動時に、前記基板部の軸方向外側面(裏面)に対して、前記当接凸部の先端面のみを当接させる。
【0011】
本発明の一態様にかかるフローティング型ディスクブレーキ装置では、前記アウタボディ部を、前記張出部の周方向両外側部に、前記インナパッド及び前記アウタパッドの摩耗が進行した際に前記サポートの軸方向外側部を進入させるための、軸方向外側に向けて凹んだ1対の逃げ凹部を有するものとすることができる。
【0012】
本発明の一態様にかかるフローティング型ディスクブレーキ装置では、前記当接凸部の軸方向高さを、一定にすることができる。
【0013】
本発明の一態様にかかるフローティング型ディスクブレーキ装置では、前記当接凸部を、径方向に伸長した帯状の径方向凸部を有するものとすることができる。
この場合には、前記径方向凸部を、前記シリンダの中心軸線上又はその近傍に配置することができる。
【0014】
本発明の一態様にかかるフローティング型ディスクブレーキ装置では、前記径方向凸部を、周方向に互いに離隔して複数本備え、複数本の前記径方向凸部を、互いに平行に配置することもできる。
【0015】
本発明の一態様にかかるフローティング型ディスクブレーキ装置では、前記張出部を、軸方向内側面のうちで、前記基板部と軸方向に対向する部分から径方向外側に外れた外周縁部に、補強リブを有するものとし、前記径方向凸部の径方向外側の端部を、前記補強リブにつなげることができる。
【0016】
本発明の一態様にかかるフローティング型ディスクブレーキ装置では、前記当接凸部を、周方向に伸長した帯状の周方向凸部を有するものとすることができる。
この場合には、前記周方向凸部を、前記径方向凸部と交差するように配置することができる。
【0017】
本発明の一態様にかかるフローティング型ディスクブレーキ装置では、前記周方向凸部を、径方向に互いに離隔して複数本備えることができる。
【0018】
本発明の一態様にかかるフローティング型ディスクブレーキ装置では、前記周方向凸部を、前記シリンダの中心軸線と交差する径方向位置に配置することができる。
及び/又は、前記周方向凸部を、前記シリンダの中心軸線よりも径方向内側に外れた位置に配置することもできる。
【0019】
本発明の一態様にかかるフローティング型ディスクブレーキ装置では、前記周方向凸部を、径方向外側が凸になるように湾曲したものとすることができる。
本発明の一態様にかかるフローティング型ディスクブレーキ装置では、前記周方向凸部を、周方向に直線状に伸長したものとすることもできる。
【0020】
本発明の一態様にかかるフローティング型ディスクブレーキ装置では、前記アウタボディ部の周方向寸法を、前記サポートの周方向寸法よりも大きくすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、キャリパボディのアウタボディ部とアウタパッドとの当接部の面圧が、アウタパッドの径方向外側部で局所的に高くなることを防止できる、フローティング型ディスクブレーキ装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、実施の形態の第1例にかかるディスクブレーキ装置を、軸方向外側から見た正面図である。
図2図2は、実施の形態の第1例にかかるディスクブレーキ装置を、軸方向内側から見た背面図である。
図3図3は、実施の形態の第1例にかかるディスクブレーキ装置を、径方向外側から見た平面図である。
図4図4は、実施の形態の第1例にかかるディスクブレーキ装置を、径方向内側から見た底面図である。
図5図5は、実施の形態の第1例にかかるディスクブレーキ装置を、図1の右側から見た側面図である。
図6図6は、実施の形態の第1例にかかるディスクブレーキ装置を、軸方向外側かつ径方向外側から見た斜視図である。
図7図7は、実施の形態の第1例にかかるディスクブレーキ装置を、軸方向内側かつ径方向外側から見た斜視図である。
図8図8は、実施の形態の第1例にかかるディスクブレーキ装置を、軸方向外側かつ径方向内側から見た斜視図である。
図9図9は、実施の形態の第1例にかかるディスクブレーキ装置を、軸方向内側かつ径方向内側から見た斜視図である。
図10図10は、実施の形態の第1例にかかるディスクブレーキ装置からキャリパボディを取り出して、軸方向外側かつ径方向外側から見た斜視図である。
図11図11は、実施の形態の第1例にかかるディスクブレーキ装置からキャリパボディを取り出して、軸方向内側かつ径方向外側から見た斜視図である。
図12図12は、実施の形態の第1例にかかるディスクブレーキ装置からキャリパボディを取り出して、軸方向外側かつ径方向内側から見た斜視図である。
図13図13は、実施の形態の第1例にかかるディスクブレーキ装置からキャリパボディを取り出して、軸方向内側かつ径方向内側から見た斜視図である。
図14図14は、実施の形態の第1例にかかるディスクブレーキ装置からキャリパボディのアウタボディ部を取り出して、軸方向外側から見た図である。
図15図15は、実施の形態の第1例にかかるディスクブレーキ装置からキャリパボディのアウタボディ部を取り出して、軸方向内側から見た図である。
図16図16は、実施の形態の第1例にかかるディスクブレーキ装置からキャリパボディのアウタボディ部及びアウタパッドを取り出して、軸方向内側から見た図である。
図17図17は、実施の形態の第1例にかかるディスクブレーキ装置からキャリパボディのアウタボディ部及びアウタパッドを取り出して、軸方向内側から見た部分透視図である。
図18図18は、実施の形態の第1例にかかるディスクブレーキ装置からサポート及びパッドクリップを取り出して、軸方向外側から見た図である。
図19図19は、図18の右側から見た図である。
図20図20は、実施の形態の第1例にかかるディスクブレーキ装置からサポート及びパッドクリップを取り出して、軸方向外側かつ径方向外側から見た斜視図である。
図21図21は、実施の形態の第1例に関して、インナパッド及びアウタパッドのサポートへの組み付け状態を、軸方向内側かつ径方向外側から見た部分斜視図である。
図22図22は、実施の形態の第1例にかかるディスクブレーキ装置からアウタパッドを取り出して、軸方向外側から見た図である。
図23図23は、実施の形態の第2例を示す、図15に相当する図である。
図24図24は、実施の形態の第3例を示す、図15に相当する図である。
図25図25は、従来構造の問題点を説明するために示す、キャリパボディを周方向外側から見た模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、図1図22を用いて説明する。
なお、本明細書及び特許請求の範囲全体で、「軸方向」、「径方向」及び「周方向」とは、特に断らない限り、車輪とともに回転する円板状のロータの軸方向、径方向及び周方向をいう。また、ディスクブレーキ装置を車体に取り付けた状態で、車体の幅方向外側を軸方向外側といい、車体の幅方向中央側を軸方向内側という。また、ディスクブレーキ装置の周方向中央側を周方向内側といい、ディスクブレーキ装置の周方向両側を周方向外側という。さらに、回入側とは、キャリパボディに対してロータが入り込む側をいい、回出側とは、キャリパボディからロータが抜け出て行く側をいう。
【0024】
〔ディスクブレーキ装置の構造説明〕
本例のディスクブレーキ装置1は、フローティング型のディスクブレーキ装置であり、サポート2と、キャリパボディ3と、インナパッド4と、アウタパッド5とを備える。
【0025】
〈サポート〉
サポート2は、鋳鉄などの鉄系合金製の鋳造品であり、車体に固定される。サポート2は、キャリパボディ3を軸方向に移動可能に支持するとともに、インナパッド4及びアウタパッド5のそれぞれを軸方向に移動可能に支持する。
【0026】
図18図20に示すように、サポート2は、周方向両外側の端部に配置された1対のガイド部9と、ロータ8(図18図20には図示省略、図3参照)よりも軸方向内側に配置され、周方向に伸長したインナ側周方向連結部10と、ロータ8よりも軸方向外側に配置され、周方向に伸長したアウタ側周方向連結部11とを有する。サポート2は、インナ側周方向連結部10の周方向両外側の端部に備えられた1対の取付孔12を利用して、車体を構成する懸架装置に固定される。なお、本発明を実施する場合には、サポート2からアウタ側周方向連結部11を省略することもできる。
【0027】
1対のガイド部9のそれぞれは、周方向視で逆U字形状を有しており、ロータ8を径方向外側から跨ぐように配置される。1対のガイド部9のそれぞれは、インナパッド4を軸方向に移動可能に支持するためのインナガイド部13と、アウタパッド5を軸方向に移動可能に支持するためのアウタガイド部14と、これらインナガイド部13及びアウタガイド部14のそれぞれの径方向外側の端部を軸方向に連結したキャリパガイド部15とを備える。
【0028】
インナガイド部13は、ロータ8よりも軸方向内側に配置されており、径方向に伸長している。インナガイド部13の径方向内側の端部は、インナ側周方向連結部10の周方向外側の端部に連結されている。インナガイド部13は、周方向内側面の径方向内側部に、周方向外側に向けて凹んだインナ側ガイド凹溝16を有している。インナ側ガイド凹溝16は、インナパッド4に備えられた後述する耳部50aと係合可能である。
【0029】
アウタガイド部14は、ロータ8よりも軸方向外側に配置されており、径方向に伸長している。アウタガイド部14の径方向内側の端部は、アウタ側周方向連結部11の周方向外側の端部に連結されている。アウタガイド部14は、周方向内側面の径方向内側部に、周方向外側に向けて凹んだアウタ側ガイド凹溝17を有している。アウタ側ガイド凹溝17は、アウタパッド5に備えられた後述する耳部50bと係合可能である。図19に示すように、アウタガイド部14の軸方向外側面は、アウタ側周方向連結部11の軸方向外側面よりも軸方向外側に突出している。
【0030】
キャリパガイド部15は、ロータ8の径方向外側に配置されており、軸方向に伸長している。キャリパガイド部15の内部には、軸方向に伸長した支持孔18が形成されている。支持孔18は、キャリパガイド部15の軸方向内側面に開口している。支持孔18には、後述するスライドピン19の先半部が摺動可能に挿入される。キャリパガイド部15の軸方向内側の端部は、インナガイド部13よりも軸方向内側に突出して配置される。
【0031】
〈キャリパボディ〉
キャリパボディ3は、1対のスライドピン19を利用して、サポート2に対し軸方向に移動可能に支持されている。
【0032】
本例のキャリパボディ3は、一体構造ではなく、分割構造を有している。すなわち、キャリパボディ3は、図10図13に示すように、互いに別体に構成されたインナボディ部20とアウタボディ部21とを、複数本(図示の例では合計4本)の連結部材22a、22bによって軸方向に連結することにより構成されている。複数本の連結部材22a、22bは、周方向に離隔して配置されている。複数本の連結部材22a、22bのうち、周方向両外側に配置された1対の連結部材22aは、インナボディ部20とアウタボディ部21との周方向両外側の端部同士を軸方向に連結しており、残りの連結部材22bは、インナボディ部20とアウタボディ部21との周方向内側(中央寄り)部分同士を軸方向に連結している。なお、本発明を実施する場合に、連結部材の数は、特に限定されない。また、本発明を実施する場合に、キャリパボディは、一体構造であっても良い。
【0033】
インナボディ部20とアウタボディ部21とは、異なる材料製とすることもできるし、同じ材料製とすることもできる。本例では、インナボディ部20及びアウタボディ部21をいずれも、アルミニウム系合金製としているが、鉄系合金製又はその他の材料製とすることもできる。さらに、インナボディ部20とアウタボディ部21との一方を、アルミニウム合金製とし、インナボディ部20とアウタボディ部21との他方を、鉄系合金製又はその他の材料製とすることもできる。
【0034】
《インナボディ部》
インナボディ部20は、ロータ8よりも軸方向内側に配置されている。インナボディ部20は、1対のシリンダ23と、1対の周方向腕部24と、1対の径方向張出部25と、帯状リブ27とを有している。なお、本発明を実施する場合に、インナボディ部に設けるシリンダの数は、特に限定されず、1つだけ設けても良いし、3つ以上設けても良い。
【0035】
1対のシリンダ23は、インナボディ部20の周方向内側部(中間部)に備えられている。1対のシリンダ23は、それぞれの中心軸Oをロータ8の中心軸と平行にした状態で、周方向に並んで配置されている。シリンダ23は、略円筒形状を有しており、軸方向外側にのみ開口している。シリンダ23の内側には、図示しないピストンが軸方向に移動可能に嵌装されている。
【0036】
1対の周方向腕部24は、インナボディ部20の周方向両外側部に備えられている。1対の周方向腕部24は、1対のシリンダ23の周方向両外側に配置されている。周方向腕部24は、シリンダ23の外周面から周方向外側に向けて伸長している。
【0037】
周方向腕部24は、周方向外側の端部(先端部)に、連結部材22aを軸方向に挿通するための挿通孔を有しており、かつ、周方向中間部に、スライドピン19の基端部を固定するための固定孔26を有している。周方向腕部24の周方向外側の端部は、周方向腕部24の周方向内側の端部乃至中間部に比べて、軸方向外側にオフセットされている。このため、周方向腕部24は、径方向視で略L字形状を有している。周方向腕部24の周方向外側の端部の軸方向外側面は、平坦面である。
【0038】
1対の径方向張出部25は、周方向に互いに離隔した状態で、インナボディ部20の周方向内側部(中間部)に配置されている。1対の径方向張出部25は、1対のシリンダ23の軸方向外側部の径方向外側に配置されている。径方向張出部25は、平板状に構成されており、シリンダ23の外周面から径方向外側に向けて伸長している。径方向張出部25は、連結部材22bを軸方向に挿通するための挿通孔を有している。径方向張出部25の軸方向外側面は、平坦面であり、周方向腕部24の周方向外側の端部の軸方向外側面と同一の仮想平面上に位置している。
【0039】
帯状リブ27は、他の部分に比べて肉厚が大きくなった(軸方向内側に向けて盛り上がった)厚肉部であり、インナボディ部20の軸方向内側面に備えられている。このため、インナボディ部20は、帯状リブ27が設けられた部分で、肉厚が増大し、剛性が向上している。
【0040】
帯状リブ27は、周方向に伸長しており、1対のシリンダ23のそれぞれの底部23aを、周方向に横切るようにして、軸方向内側から覆っている。帯状リブ27の周方向両外側の端部は、シリンダ23の底部23aよりも周方向外側に伸長しており、インナボディ部20の軸方向内側面の周方向外側の端部に位置している。このため、帯状リブ27は、インナボディ部20の軸方向内側面の周方向のほぼ全長にわたり備えられている。
【0041】
《アウタボディ部》
アウタボディ部21は、アウタパッド5よりも軸方向外側に配置された、略弓形状の軸方向覆い部28と、ロータ8の径方向外側に配置された、部分円筒形状の径方向覆い部29とを有している。アウタボディ部21は、ロータ8の中心軸を含む仮想平面に関して、略L字形の断面形状を有している。軸方向覆い部28と径方向覆い部29とは、一体に構成されている。
【0042】
軸方向覆い部28は、略弓形の平板状に構成されており、制動時に、アウタパッド5を軸方向に直接押圧する。軸方向覆い部28は、ディスクブレーキ装置1を車体に取り付けた状態で外部から視認可能になる部分であり、軸方向外側面によって意匠面が構成される。
【0043】
本例では、軸方向覆い部28の周方向寸法を、サポート2の周方向寸法よりも大きくして、軸方向覆い部28の周方向両外側部を1対のガイド部9よりも周方向外側に突出させている。そして、軸方向覆い部28により、1対のガイド部9を軸方向外側から覆っている。別の言い方をすれば、1対のガイド部9が、外部から視認できないようにしている。本例の場合には、このように軸方向覆い部28の周方向寸法を、サポート2の周方向寸法よりも大きくすることで、軸方向覆い部28の軸方向外側面により構成される意匠面を大きく確保している。
【0044】
本例では、軸方向覆い部28の周方向寸法を、径方向覆い部29及びインナボディ部20のそれぞれの周方向寸法よりも大きくしている。このために、軸方向覆い部28の周方向両外側の端部に、径方向覆い部29及びインナボディ部20よりも周方向外側に張り出した、略三角板状の翼部30を有している。
【0045】
図15に示すように、軸方向覆い部28は、軸方向内側面に、平坦面状の基準面31を有する。軸方向覆い部28は、軸方向内側面の周方向内側部に、基準面31よりも軸方向内側に向けて張り出した張出部32を有する。図17に示すように、張出部32は、軸方向覆い部28の軸方向内側面のうちで、アウタパッド5を構成する後述の基板部49bと軸方向に対向する部分のほぼ全体に備えられている。このため、張出部32は、アウタパッド5の基板部49bとほぼ合致する形状を有している。
【0046】
張出部32の軸方向内側面(先端面)には、軸方向内側に盛り上がった当接凸部(リブ)33が設けられている。本例では、アウタボディ部21のうちで当接凸部33のみが、制動時にアウタパッド5の基板部49bの軸方向外側面(裏面)に当接する。
【0047】
本例では、当接凸部33の基準面31からの軸方向高さ(基準面31からの突出量)は一定であり、たとえば数mm程度である。ただし、本発明を実施する場合には、当接凸部の軸方向高さを、当接凸部の径方向位置及び/又は周方向位置に応じて変化させることもできる。また、当接凸部33の先端面は、機械加工により平滑な面(機械加工面)としている。この理由は、当接凸部33の先端面がアウタパッド5の基板部49bの当接面54(図22参照)に対して一様に接触することを可能とし、接触が不均一となることでアウタパッド5への押圧力が不安定になり、ブレーキ鳴きを引き起こすことを防止するためである。また、当接凸部33を設けずに、張出部32の軸方向内側面を、アウタパッド5の基板部49bに対して全面当たりさせる場合に比べて、加工時間の短縮化を図ることもできる。
【0048】
当接凸部33は、基板部49bの径方向外側半部と軸方向に対向する部分の面積よりも、基板部49bの径方向内側半部と軸方向に対向する部分の面積の方が大きくなる形状を有している。このために本例では、当接凸部33の形状を、複数本の径方向凸部34a、34bと複数本の周方向凸部35a、35bとを組み合わせて略格子形状としている。これにより、当接凸部33の先端面の面積を、2つのシリンダ23のそれぞれの中心軸線Oを通過し、かつ、ロータ8の中心軸を中心とする仮想円Cを挟んで、径方向外側に存在する部分よりも、径方向内側に存在する部分で大きくしている。
【0049】
当接凸部33は、2本の径方向凸部34a、34bを有している。径方向凸部34a、34bのそれぞれは、径方向に直線状に伸長しており、帯状に構成されている。径方向凸部34a、34bの幅寸法は、径方向凸部34a、34bの全長にわたり一定である。2本の径方向凸部34a、34bは、周方向に離隔して互いに平行に配置されており、シリンダ23のそれぞれの中心軸線Oの周方向内側近傍に配置されている。なお、本発明を実施する場合には、径方向凸部を1本又は3本以上備えることもできるし、径方向凸部の幅寸法を、径方向位置に応じて異ならせることもできる。
【0050】
当接凸部33は、2本の周方向凸部35a、35bを有している。周方向凸部35a、35bのそれぞれは、周方向に伸長しており、帯状に構成されている。なお、本発明を実施する場合には、周方向凸部を1本又は3本以上備えることもできる
【0051】
2本の周方向凸部35a、35bのうち、径方向外側に配置された周方向凸部35aは、径方向外側が凸となるように湾曲した円弧形状を有しており、幅寸法が全長にわたり一定である。周方向凸部35aは、張出部32の軸方向内側面の径方向中間部に配置されており、2本の径方向凸部34a、34bのそれぞれの径方向中間部と交差している。別の言い方をすれば、周方向凸部35aは、2本の径方向凸部34a、34bのそれぞれの径方向中間部を周方向に横切っている。また、周方向凸部35aは、シリンダ23のそれぞれの中心軸線Oと交差する径方向位置に配置されている。このため、周方向凸部35aは、前記仮想円C上に配置されている。周方向凸部35aの周方向両外側の端部は、張出部32の軸方向内側面の周方向外側の端部までは達していない。
【0052】
2本の周方向凸部35a、35bのうち、径方向内側に配置された周方向凸部35bは、直線形状を有しており、幅寸法が周方向位置に応じて異なっている。周方向凸部35bは、シリンダ23のそれぞれの中心軸線Oよりも径方向内側に外れた、張出部32の軸方向内側面の内周縁部(径方向内側の端部)に配置されている。周方向凸部35bは、2本の径方向凸部34a、34bのそれぞれの径方向内側の端部につながっている。また、周方向凸部35bは、径方向凸部34a、34bよりも周方向外側に存在する周方向両外側の端部の幅寸法が、径方向凸部34a、34bよりも周方向内側に存在する周方向内側部の幅寸法よりも大きい。周方向凸部35bの周方向両外側の端部は、周方向凸部35aの周方向両外側の端部よりも周方向内側に位置しており、張出部32の軸方向内側面の周方向外側の端部までは達していない。
【0053】
本例では、当接凸部33を構成する2本の周方向凸部35a、35bのうち、径方向外側の周方向凸部35aを、張出部32の軸方向内側面の径方向中間部に位置する前記仮想円C上に配置し、かつ、径方向内側の周方向凸部35bを、張出部32の軸方向内側面の内周縁部に配置している。これにより、当接凸部33の先端面の面積は、おおよそ径方向内側の周方向凸部35bの先端面の面積分だけ、前記仮想円Cを挟んで径方向外側に存在する部分よりも径方向内側に存在する部分で大きくなっている。
【0054】
張出部32は、軸方向覆い部28の軸方向内側面のうちで、アウタパッド5の基板部49bと軸方向に対向する部分から径方向外側に外れた外周縁部に、補強リブ36を有している。補強リブ36は、軸方向覆い部28の軸方向内側面の外周縁部と径方向覆い部29の径方向内側面の軸方向外側の端部との間を補強している。
【0055】
補強リブ36は、周方向に伸長しており、帯状に構成されている。補強リブ36は、径方向外側が凸となるように湾曲した円弧形状を有しており、幅寸法が全長にわたり一定である。補強リブ36の周方向両外側の端部は、張出部32の軸方向内側面の周方向外側の端部にまで達している。補強リブ36の周方向中間部には、当接凸部33を構成する2本の径方向凸部34a、34bの径方向外側の端部がつながっている。補強リブ36は、アウタパッド5の基板部49bと軸方向に対向する部分から径方向外側に外れた位置に設けられているため、制動時にも、基板部49bの軸方向外側面に当接することはない。
【0056】
本例では、張出部32の軸方向内側面に当接凸部33を形成することで、張出部32の軸方向内側面に、補強リブ36と周方向凸部35aと1対の径方向凸部34a、34bとにより四方を囲まれた略矩形状の非接触部53aが形成されるとともに、1対の周方向凸部35a、35bと1対の径方向凸部34a、34bとにより四方を囲まれた略矩形状の非接触部53bが形成されている。別の言い方をすれば、当接凸部33の内側に、2つの非接触部53a、53bが形成されている。
【0057】
軸方向覆い部28は、軸方向内側面のうちの張出部32の周方向両外側部に、基準面31よりも軸方向外側に向けて凹んだ、1対の逃げ凹部37を有する。逃げ凹部37は、軸方向覆い部28の軸方向内側面のうちで、サポート2を構成する1対のアウタガイド部14及びその近傍部分と軸方向に対向する部分に備えられている。具体的には、逃げ凹部37は、アウタガイド部14と軸方向に対向する部分、及び、アウタガイド部14よりも周方向内側近傍に位置する部分と軸方向に対向する部分に備えられている。
【0058】
逃げ凹部37のそれぞれは、周方向内側部に深凹部37aを有しており、深凹部37aの周方向外側に、深凹部37aよりも軸方向深さの浅い浅凹部37bを有している。
【0059】
逃げ凹部37の内側には、インナパッド4及びアウタパッド5の摩耗が進行し、キャリパボディ3がサポート2に対して軸方向内側に移動した際に、アウタガイド部14の軸方向外側部、及び、アウタガイド部14の周方向内側面に装着されるパッドクリップ7a、7bの軸方向外側部をそれぞれ進入させることができる。具体的には、浅凹部37bの内側には、アウタガイド部14の軸方向外側部を進入させることができ、深凹部37aの内側には、パッドクリップ7a、7bの軸方向外側部を進入させることができる。このような構成により、1対のアウタガイド部14及びパッドクリップ7a、7bと、アウタボディ部21との干渉を防止する。
【0060】
軸方向覆い部28は、パッドクリップ7a、7bの軸方向外側の端部を挿入可能な貫通孔38を有する。本例で使用するパッドクリップ7a、7bは、後述するように、カール部52が、パッドクリップ7a、7bのその他の部分に比べて軸方向外側に大きく張り出した構成を有している。このため本例では、深凹部37aの底面とカール部52との干渉を防止するために、軸方向覆い部28に、カール部52のみを挿入可能とする貫通孔38を形成している。これにより、深凹部37a全体の軸方向深さを大きくする場合に比べて、アウタボディ部21の剛性の低下を抑制している。
【0061】
貫通孔38は、軸方向覆い部28の軸方向外側面及び軸方向内側面にのみ開口しており、その他の部分(たとえば径方向覆い部29)には開口していない。貫通孔38は、軸方向覆い部28のうちで、アウタガイド部14の周方向内側近傍に位置する、アウタ側ガイド凹溝17の内部空間と軸方向に対向する部分に形成されている。
【0062】
軸方向覆い部28は、軸方向外側面に、貫通孔38の軸方向外側の開口部につながった第1の凹溝39を有している。第1の凹溝39のそれぞれは、周方向に伸長しており、周方向内側の端部が、貫通孔38の軸方向外側の開口部につながっている。このため、軸方向覆い部28は、2つの第1の凹溝39を有している。
【0063】
第1の凹溝39の幅寸法は、第1の凹溝39の全長にわたりほぼ一定であり、貫通孔38の軸方向外側の開口部における径方向寸法とほぼ同じである。本例では、貫通孔38の軸方向外側の開口部につながるように第1の凹溝39を設け、かつ、第1の凹溝39の幅寸法を、貫通孔38の軸方向外側の開口部における径方向寸法とほぼ同じとしている。このため、貫通孔38と第1の凹溝39とをなめらかに連続させることができ、貫通孔38の軸方向外側の開口部が外部から目立たないようにすることができる。また、貫通孔38の軸方向外側の開口部を、意匠面のデザインの一部として取り込むことで意匠性を高めることができる。
【0064】
軸方向覆い部28は、軸方向外側面に、貫通孔38の軸方向外側の開口部同士をつなぐ第2の凹溝40を有している。第2の凹溝40は、周方向に伸長しており、径方向外側が凸となるように湾曲している。第2の凹溝40の幅寸法は、第2の凹溝40の全長にわたりほぼ一定であり、貫通孔38の軸方向外側の開口部における径方向寸法とほぼ同じである。このため、周方向両外側に配置された1対の第1の凹溝39は、1対の貫通孔38及び第2の凹溝40を介して、周方向になめらかに連続している。
【0065】
軸方向覆い部28は、軸方向外側面の周方向中間部に、ロゴ等を表示するのに利用可能な、環状扇形状の表示部41を備える。表示部41は、平坦面状に構成されており、1対の貫通孔38及び第2の凹溝40の径方向外側に配置されている。本例では、軸方向覆い部28の周方向寸法をサポート2の周方向寸法よりも大きくしているため、表示部41の周方向寸法についても十分に大きくできる。表示部41は、周方向両外側及び径方向外側を溝部42によって囲まれているため、軸方向外側に浮き上がって視認される。
【0066】
径方向覆い部29は、部分円筒形状を有しており、軸方向覆い部28の外周縁部から軸方向内側に向けて伸長している。径方向覆い部29は、サポート2を構成する1対のガイド部9、ロータ8の周方向一部及びインナ、アウタ両パッド4、5のそれぞれを、径方向外側から覆う。径方向覆い部29の周方向寸法は、インナボディ部20の周方向寸法と同じである。
【0067】
径方向覆い部29は、周方向複数箇所(図示の例では4箇所)に、連結部材22a、22bの先端部を固定するための取付孔(ねじ孔)43を有している。複数の取付孔43は、インナボディ部20に備えられた複数の挿通孔と、円周方向に関して同じピッチで配置されている。取付孔43は、径方向覆い部29の軸方向内側面に開口している。
【0068】
径方向覆い部29は、周方向中央部の軸方向内側部に、径方向両側にそれぞれ開口した中央窓44を有している。中央窓44は、軸方向に細長いスリット形状を有している。中央窓44は、径方向覆い部29の軸方向内側面にも開口している。中央窓44は、インナパッド4及びアウタパッド5の摩耗の状況を目視で確認するのに利用することができる。
【0069】
軸方向覆い部28と径方向覆い部29とからなるアウタボディ部21は、それぞれがボルトである連結部材22a、22bを利用して、インナボディ部20の軸方向外側に固定されている。具体的には、インナボディ部20の周方向腕部24に備えられた挿通孔を軸方向に挿通した連結部材22aの先端部を、アウタボディ部21の径方向覆い部29の周方向外側部に備えられた取付孔43に螺合し、かつ、インナボディ部20の径方向張出部25に備えられた挿通孔を軸方向に挿通した連結部材22bの先端部を、アウタボディ部21の径方向覆い部29の周方向内側部に備えられた取付孔43に螺合する。これにより、インナボディ部20の軸方向外側にアウタボディ部21を、連結部材22a、22bを利用して連結している。このため、アウタボディ部21は、インナボディ部20に対して径方向外側部でのみ連結された片持ち梁構造である。
【0070】
インナボディ部20とアウタボディ部21とを連結した状態で、インナボディ部20の軸方向外側面とアウタボディ部21の軸方向内側面との間には、1対の開口部45が形成される。1対の開口部45は、周方向に互いに離隔しており、1対の径方向張出部25の周方向両外側に配置されている。開口部45のそれぞれは、径方向視で略矩形状に構成されている。ディスクブレーキ装置1の組立状態で、サポート2を構成するキャリパガイド部15の軸方向内側部が開口部45から露出する。
【0071】
キャリパボディ3は、サポート2に対し軸方向に関する移動を可能に支持されている。このために、インナボディ部20を構成する周方向腕部24の周方向中間部に備えられた固定孔26に、スライドピン19の基端部を固定し、スライドピン19の先半部を、サポート2を構成するキャリパガイド部15に形成した支持孔18の内側に、軸方向に関する相対変位(摺動)を可能に挿入している。また、スライドピン19の外周面のうち、支持孔18と固定孔26との間に位置する部分を、ブーツ46により覆っている。
【0072】
〈インナパッド及びアウタパッド〉
図21に示すように、インナパッド4は、ライニング47aと、裏板48aとを備えており、サポート2を構成する1対のインナガイド部13同士の間に、軸方向に関する移動を可能に支持されている。
【0073】
裏板48aは、ライニング47aの裏面(軸方向内側面)を支持した矩形板状の基板部49aと、基板部49aから周方向両外側に向けてそれぞれ突出した凸状の耳部50aとを有している。基板部49aは、ライニング47aとほぼ合致した形状を有している。
【0074】
インナパッド4を1対のインナガイド部13に対して軸方向に移動可能に支持するために、インナパッド4を構成する耳部50aを、インナガイド部13に備えられたインナ側ガイド凹溝16に対して凹凸係合させている。
【0075】
アウタパッド5は、ライニング47bと、裏板48bとを備えており、サポート2を構成する1対のアウタガイド部14同士の間に、軸方向に関する移動を可能に支持されている。
【0076】
裏板48bは、ライニング47bの裏面を支持した矩形板状の基板部49bと、基板部49bから周方向両外側に向けてそれぞれ突出した凸状の耳部50bとを有している。基板部49bは、ライニング47bとほぼ合致した形状を有している。
【0077】
アウタパッド5を1対のアウタガイド部14に対して軸方向に移動可能に支持するために、アウタパッド5を構成する耳部50bを、アウタガイド部14に備えられたアウタ側ガイド凹溝17に対して凹凸係合させている。
【0078】
〈パッドクリップ〉
インナパッド4を構成する裏板48aの周方向両外側面と1対のインナガイド部13のそれぞれの周方向内側面との間には、パッドクリップ6a、6bを介在させている。また、アウタパッド5を構成する裏板48bの周方向両外側面と1対のアウタガイド部14のそれぞれの周方向内側面との間には、パッドクリップ7a、7bを介在させている。これにより、インナパッド4及びアウタパッド5の円滑な軸方向移動を可能としている。
【0079】
パッドクリップ6a、6b、7a、7bは、ステンレス鋼板などの弾性及び耐食性を有する金属板にプレス加工を施すことで造られている。図21に示すように、パッドクリップ6a、6b、7a、7bのそれぞれには、制動力を解除した際に、インナパッド4及びアウタパッド5をロータ8から離れる方向に付勢する、戻しばね51が装着されている。
【0080】
4個のパッドクリップ6a、6b、7a、7bのうち、回入側(図18の右側)に配置された1対のパッドクリップ6a、7a同士、及び、回出側(図18の左側)に配置された1対のパッドクリップ6b、7b同士は、それぞれ軸方向に関して対称な形状を有している。また、周方向に対向配置された1対のパッドクリップ6a、6b同士、及び、周方向に対向配置された1対のパッドクリップ7a、7b同士は、それぞれ周方向に関して対称な形状を有している。
【0081】
ロータ8よりも軸方向内側に配置されたパッドクリップ6a、6bは、インナパッド4を、周方向内側に向けて弾性的に押圧するとともに、インナパッド4を構成する耳部50aを径方向外側に向けて弾性的に押圧する。
【0082】
ロータ8よりも軸方向外側に配置されたパッドクリップ7a、7bは、アウタパッド5を、周方向内側に向けて弾性的に押圧するとともに、アウタパッド5を構成する耳部50bを径方向外側に向けて弾性的に押圧する。また、図19に示すように、パッドクリップ7a、7bを、アウタガイド部14の周方向内側面に装着した状態で、パッドクリップ7a、7bの軸方向外側部は、アウタガイド部14から軸方向外側に突出して配置される。特に、パッドクリップ7a、7bのうちで、耳部50bを径方向外側に向けて弾性的に押圧するための部分円筒形状を有するカール部52は、パッドクリップ7a、7bのその他の部分に比べて軸方向外側に大きく張り出しており、アウタガイド部14から軸方向外側に最も突出して配置される。
【0083】
このため、インナパッド4及びアウタパッド5の摩耗が進行して、キャリパボディ3がサポート2に対して軸方向内側に移動すると、制動時に、パッドクリップ7a、7bを構成するカール部52が、アウタボディ部21を構成する軸方向覆い部28と干渉しやすくなる。本例では、軸方向覆い部28のうちで、アウタ側ガイド凹溝17の内部空間と軸方向に対向する部分に貫通孔38を備えており、カール部52を貫通孔38の内側に挿入させることができるため、カール部52と軸方向覆い部28との干渉を防止できる。
【0084】
〔ディスクブレーキ装置の動作説明〕
本例のディスクブレーキ装置1により制動を行うには、キャリパボディ3のシリンダ23にマスタシリンダから圧油を送り込む。これにより、図示しないピストンを軸方向外側に向けて押し出す。そして、ピストンによりインナパッド4を、ロータ8の軸方向内側面に押し付け、キャリパボディ3をサポート2に対して軸方向内側に移動させる。これにより、キャリパボディ3を構成する軸方向覆い部28に備えられた張出部32の当接凸部33を、アウタパッド5を構成する裏板48bの裏面に押し付ける。これにより、アウタパッド5をロータ8の軸方向外側面に押し付ける。この結果、ロータ8が、インナパッド4及びアウタパッド5により軸方向両側から強く挟持されて制動が行われる。
【0085】
制動解除時には、キャリパボディ3のシリンダ23から圧油を排出する。これにより、ピストンに外嵌した図示しないピストンシールの弾性復元力によって、ピストンをシリンダ23の奥側(軸方向内側)へと引き戻し(ロールバックし)、インナパッド4とロータ8の軸方向内側面との間のクリアランスを確保する。この結果、キャリパボディ3がサポート2に対して軸方向外側へとわずかに移動し、アウタパッド5とロータ8の軸方向外側面との間にもクリアランスが確保される。
【0086】
以上のような本例のディスクブレーキ装置1によれば、キャリパボディ3のアウタボディ部21とアウタパッド5との当接部の面圧が、アウタパッド5の径方向外側部で局所的に高くなることを防止できる。
【0087】
すなわち、本例では、アウタパッド5の基板部49bの軸方向外側面に対して、アウタボディ部21に備えられた張出部32の軸方向内側面(先端面)を全面当たりさせるのではなく、張出部32の軸方向内側面に形成した当接凸部33の先端面のみを、基板部49bの軸方向外側面に当接させる。しかも本例では、当接凸部33の形状及び形成位置を工夫することで、基板部49bの径方向外側半部と軸方向に対向する部分の面積よりも、基板部49bの径方向内側半部と軸方向に対向する部分の面積を大きくしている。
【0088】
このため、制動時に、アウタボディ部21の軸方向覆い部28が、前記図25に示したように、軸方向外側かつ径方向外側に弾性変形した場合にも、当接凸部33の先端面と基板部49bの軸方向外側面の径方向内側半部との接触面積を十分に確保することができる。したがって、アウタボディ部21とアウタパッド5との当接部の面圧が、アウタパッド5の径方向外側部で局所的に高くなることを防止できる。この結果、ロータ8に対するアウタパッド5の面圧の偏りを低減できるため、アウタパッド5のライニング47bに偏摩耗が生じたり、制動時に鳴きが発生したりすることを抑制できる。
【0089】
また、本例では、当接凸部33を構成する径方向に伸長した径方向凸部34a、34bを、シリンダ23のそれぞれの中心軸線Oの周方向内側近傍に配置し、かつ、当接凸部33を構成する周方向に伸長した周方向凸部35aを、シリンダ23のそれぞれの中心軸線Oと交差する径方向位置に配置している。このため、アウタボディ部21とアウタパッド5との当接部の面圧を、アウタパッド5の径方向中間部において十分に確保することができる。したがって、ロータ8とアウタパッド5のライニング47bとの接触面積を大きくすることが可能になり、ロータ8に対するアウタパッド5の面圧の偏りを低減できる。
【0090】
また、当接凸部33を構成する周方向に伸長した周方向凸部35bを、張出部32の軸方向内側面の内周縁部に配置しているため、当接凸部33を設けないと仮定した場合に、面圧が最も低くなりやすいアウタパッド5の径方向内側部(内周縁部)における面圧を確保することができる。
【0091】
また、当接凸部33を構成する径方向に伸長した径方向凸部34a、34bにより、アウタボディ部21の軸方向覆い部28の曲げ剛性を高めることもできる。このため、軸方向覆い部28が、前記図25に示したように弾性変形することを抑制できる。したがって、この面からも、アウタボディ部21とアウタパッド5との当接部の面圧が、アウタパッド5の径方向外側部で局所的に高くなることを防止できる。
【0092】
また、本例では、アウタボディ部21のうちで、軸方向覆い部28の軸方向内側面の外周縁部と径方向覆い部29の径方向内側面の軸方向外側の端部との間を、補強リブ36により補強している。このため、補強リブ36によっても、軸方向覆い部28が、前記図25に示したように弾性変形することを抑制できる。さらに、補強リブ36と径方向凸部34a、34bの径方向外側の端部とをつないでいるため、補強リブ36と径方向凸部34とをつながない場合に比べて、剛性の向上効果を高めることができる。したがって、この面からも、アウタボディ部21とアウタパッド5との当接部の面圧が、アウタパッド5の径方向外側部で局所的に高くなることを防止できる。
【0093】
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、図23を用いて説明する。
【0094】
本例では、アウタボディ部21の張出部32の軸方向内側面に設ける当接凸部33aの形状のみを、実施の形態の第1例の構造から変更している。
【0095】
すなわち、本例では、当接凸部33aを、3本の径方向凸部34a、34b、34cと、2本の周方向凸部35a、35bとから構成している。つまり、当接凸部33aは、実施の形態の第1例の構造の当接凸部33に対して、径方向に伸長した帯状の径方向凸部34cを1本追加した構成を有する。径方向凸部34cは、張出部32の軸方向内側面の周方向中央部に配置されており、残り2本の径方向凸部34a、34bと平行に配置されている。本例では、当接凸部33bの内側に、それぞれが略矩形状の4つの非接触部53c、53d、53e、53fが形成されている。
【0096】
以上のような構成を有する本例では、当接凸部33aが、径方向に伸長した径方向凸部34aを、実施の形態の第1例の構造に比べて1本多く備えているため、アウタボディ部21の軸方向覆い部28の曲げ剛性をより高めることができる。このため、軸方向覆い部28の弾性変形量を低減することができ、アウタボディ部21とアウタパッド5との当接部の面圧が、アウタパッド5の径方向外側部で局所的に高くなることをより有効に防止できる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0097】
[実施の形態の第3例]
実施の形態の第3例について、図24を用いて説明する。
【0098】
本例では、アウタボディ部21の張出部32の軸方向内側面に設ける当接凸部33bの形状のみを、実施の形態の第1例の構造から変更している。
【0099】
すなわち、本例の場合にも、当接凸部33bを、2本の径方向凸部34a、34bと、2本の周方向凸部35c、35dとから構成しているが、2本の周方向凸部35c、35dの周方向中間部における幅寸法が、実施の形態の第1例の構造とは異なる。本例では、2本の周方向凸部35c、35dの周方向中間部の幅寸法を大きくすることで、2本の周方向凸部35c、35dの周方向中間部同士を径方向につなげている。このため、当接凸部33aの内側には、1つの非接触部53aのみが形成されている。別の言い方をすれば、本例では、実施の形態の第1例の構造の非接触部53bの位置に、該非接触部53bと同形状の矩形凸部を新たに形成している。
【0100】
以上のような本例では、当接凸部33bと、基板部49bの径方向内側半部との接触面積を、実施の形態の第1例の構造よりも増やすことができる。このため、キャリパボディ3のアウタボディ部21とアウタパッド5との当接部の面圧が、アウタパッド5の径方向外側部で局所的に高くなることをより効果的に防止できる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0101】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、発明の技術思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、実施の形態の各例の構造は、矛盾を生じない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。
【0102】
実施の形態の各例の構造では、当接凸部を、径方向凸部と周方向凸部とから構成した場合について説明したが、本発明を実施する場合には、当接凸部を、径方向凸部のみ、又は、周方向凸部のみから構成することもできるし、その他の形状を有する凸部から構成することもできる。
【0103】
実施の形態の各例の構造では、インナボディ部に、シリンダを2つ有する構造を示したが、本発明を実施する場合には、シリンダの数は、1つでも良いし、3つ以上でも良い。
【符号の説明】
【0104】
1 ディスクブレーキ装置
2 サポート
3 キャリパボディ
4 インナパッド
5 アウタパッド
6a、6b パッドクリップ
7a、7b パッドクリップ
8 ロータ
9 ガイド部
10 インナ側周方向連結部
11 アウタ側周方向連結部
12 取付孔
13 インナガイド部
14 アウタガイド部
15 キャリパガイド部
16 インナ側ガイド凹溝
17 アウタ側ガイド凹溝
18 支持孔
19 スライドピン
20 インナボディ部
21 アウタボディ部
22a、22b 連結部材
23 シリンダ
24 周方向腕部
25 径方向張出部
26 固定孔
27 帯状リブ
28 軸方向覆い部
29 径方向覆い部
30 翼部
31 基準面
32 張出部
33、33a、33b 当接凸部
34a、34b、34c 径方向凸部
35a、35b 周方向凸部
36 補強リブ
37 逃げ凹部
37a 深凹部
37b 浅凹部
38 貫通孔
39 第1の凹溝
40 第2の凹溝
41 表示部
42 溝部
43 取付孔
44 中央窓
45 開口部
46 ブーツ
47a、47b ライニング
48a、48b 裏板
49a、49b 基板部
50a、50b 耳部
51 戻しばね
52 カール部
53a~53f 非接触部
54 当接面
100 アウタボディ部
100a パッド押圧部
101 アウタパッド
図1
図2
図3
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図5
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