(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090209
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】粉末油脂および製造方法
(51)【国際特許分類】
A23D 9/007 20060101AFI20230622BHJP
【FI】
A23D9/007
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021205054
(22)【出願日】2021-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】奥野 綾夏
(72)【発明者】
【氏名】北谷 友希
(72)【発明者】
【氏名】泉 秀明
【テーマコード(参考)】
4B026
【Fターム(参考)】
4B026DC06
4B026DG04
4B026DK10
4B026DL03
4B026DL04
4B026DL10
4B026DX08
(57)【要約】
【課題】噴霧乾燥時の歩留まりが良く、粉の物性が良好な粉末油脂を提供する。
【解決手段】本発明の粉末油脂は、油脂、乳化剤、デキストリン及びグリセリンを含む粉末油脂であって、デキストリンに対するグリセリンの質量比が0.10以上であることを特徴としている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂、乳化剤、デキストリン及びグリセリンを含む粉末油脂であって、
前記デキストリンに対する前記グリセリンの質量比が0.10以上である、
粉末油脂。
【請求項2】
前記デキストリンに対する前記グリセリンの質量比が1.00以下である、
請求項1に記載の粉末油脂。
【請求項3】
前記デキストリンのDEが14以下である、
請求項1または2に記載の粉末油脂。
【請求項4】
前記油脂に対する前記グリセリンの質量比が0.05~1.00である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の粉末油脂。
【請求項5】
前記乳化剤が加工澱粉、乳由来蛋白質及び豆由来蛋白質の中から選ばれる1種以上である、
請求項1~4のいずれか一項に記載の粉末油脂。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の粉末油脂を含有する、
飲食品。
【請求項7】
水中油型乳化物を乾燥粉末化することで粉末油脂を製造する方法であって、
前記水中油型乳化物は、油脂、乳化剤、デキストリン及びグリセリンを含み、
前記デキストリンに対する前記グリセリンの質量比が0.10以上である、
粉末油脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末油脂に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末油脂は、製菓製パン、スープ類、ソース類、飲料、フライバッター、スナック惣菜類、水産練り製品、畜肉製品、ミックス粉などの素材として使用されている。
一般的に、粉末油脂は、油脂が乳タンパク質などの乳化剤や糖質などの賦形剤で被覆されたもので、乳タンパク質や賦形剤を含む水相と油相とを攪拌、均質化することにより得られた水中油型乳化物を、その後、乾燥粉末化して得ることができる。
また、従来、粉末油脂の一般的な製法としては、賦形剤に油脂を吸着させて粉末化する方法、常温で固体の油脂を粉砕して粉末化する方法、凍結乾燥法、噴霧乾燥法などが知られている。それらの製法の中でも噴霧乾燥法は、粉末油脂に一般に求められる特性を満足するのに適した方法として使用されている。この噴霧乾燥法では、均質化した水中油型乳化物を噴霧乾燥機の入口に供給し、高温熱風を吹き込み、噴霧乾燥機の槽内に噴霧することによって乾燥し、粉末油脂としている。
【0003】
ここで、グリセリンは、食品添加物として認可されており、チューインガムの軟化剤、冷菓の結晶化防止、乾燥食品や菓子類の保湿剤等として多様な用途に広く用いられているが、室温(20℃付近)で液状であるため、よりハンドリング性の良い粉末の形態にすることが望まれている。
【0004】
グリセリンを配合した粉末製剤として、油脂、油脂包含基材およびポリオールを含んでなる油脂含有組成物が記載されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術では、乳化剤を用いずに強制乳化しているため粉末油脂の安定性に劣り、さらにデキストリンに対してグリセリンの配合量が少ないため、噴霧乾燥に適さないものであった。
【0007】
さらに、グリセリンは吸湿性が高いため、仮に、噴霧乾燥ができたとしても乾燥後の粉の吸湿性が上がり、噴霧乾燥機の内部に粉末油脂が付着してしまい、歩留まりが低下するという問題があった。
【0008】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、グリセリンを含有していても噴霧乾燥時の歩留まりが良い粉末油脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明の粉末油脂は、油脂、乳化剤、デキストリン及びグリセリンを含む粉末油脂であって、デキストリンに対するグリセリンの質量比が0.10以上であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の粉末油脂によれば、グリセリンを含有していても噴霧乾燥時の歩留まりが良い粉末油脂を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の粉末油脂は、油脂、乳化剤、デキストリン及びグリセリンを含有する。
【0013】
本発明の粉末油脂は、油脂を含む油脂組成物(油相)と、乳化剤及び賦形剤などを含む水溶液(水相)とを攪拌、均一化することにより水中油型乳化物(以下「スラリー」という)とし、これを乾燥粉末化することによって得ることができる。
【0014】
本発明の粉末油脂に含有される油脂には、任意の食用油脂が使用される。例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、菜種油、大豆油、綿実油、ヒマワリ油、米油、サフラワー油、コーン油、オリーブ油、ゴマ油、シア脂、サル脂、カカオ脂、豚脂(ラード)、牛脂、乳脂、魚油、羊脂、それらの加工油(分別、硬化及びエステル交換反応のうち1つ以上の処理がなされたもの)等の各種の油脂のうち1種以上の油脂が含有される。
【0015】
本発明の粉末油脂における油脂の含有量としては、20~80質量%が好ましく、30~70質量%がより好ましく、40~60質量%がさらに好ましい。
【0016】
本発明の粉末油脂に含有される乳化剤には、任意の乳化剤が使用される。例えば、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリンエステル(ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル)、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、レシチン(大豆レシチン、卵黄レシチン、ヒマワリレシチン)、酵素分解レシチン(大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン)、サポニン、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、加工澱粉(エーテル化処理したカルボキシメチル澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉や、エステル化処理したリン酸澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、酢酸澱粉や、湿熱処理澱粉、酸処理澱粉、架橋処理澱粉、α化処理澱粉、難消化性澱粉等)、脱脂粉乳、乳由来蛋白質(乳構成蛋白質(カゼインナトリウム、カゼインカリウム、ホエイ蛋白質、蛋白質濃縮ホエイパウダー、ホエイプロテインコンセントレート(WPC)、及びホエイプロテインアイソレート(WPI)等)及びその酵素分解物(乳ペプチド等)、全脂粉乳、脱脂粉乳、ミルクプロテインコンセントレート、クリームパウダー、バターミルクパウダー並びにトータルミルクプロテイン等)、豆由来蛋白質(大豆蛋白質、大豆分離蛋白質、エンドウ豆蛋白質、そら豆蛋白質、緑豆蛋白質、インゲン豆蛋白質、ヒラ豆(レンズ豆)蛋白質、ヒヨコ豆蛋白質、ルピン豆蛋白質、落花生蛋白質、ササゲ蛋白質)、種子由来蛋白質(ゴマ、キャノーラ、ココナッツ、オリーブ、ひまわり、ピーナッツ、ビート、コットン、アーモンドなどに由来する蛋白質)、穀物類由来蛋白質(トウモロコシ、そば、小麦、エンバク、米などに由来する蛋白質)、小麦蛋白質、米蛋白質、アラビアガム、ガティガム、コラーゲン、コラーゲンペプチド、ゼラチン、スフィンゴ脂質、植物ステロール類、胆汁末、トマト糖脂質、並びにその加水分解物などが例示され、この中でも粉末油脂の賦形剤としても機能する観点から、加工澱粉、乳由来蛋白質、豆由来蛋白質、アラビアガム、ガティガムが好ましく、加工澱粉、乳由来蛋白質、豆由来蛋白質がより好ましく、加工澱粉、カゼインナトリウム、大豆蛋白質、大豆分離蛋白質、エンドウ豆蛋白質が特に好ましい。加工澱粉としては、良好な乳化性を有する観点から、オクテニルコハク酸澱粉が特に好ましい。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0017】
本発明の粉末油脂における乳化剤の含有量としては、スラリーの乳化性を十分に高める観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上である。乳化剤の含量の上限は、粉末油脂の風味への影響や、粉末油脂の溶解性の観点から、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下、特に好ましくは15質量%以下である。
【0018】
本発明の粉末油脂における乳化剤の含有量としては、スラリーの乳化性を十分に高める観点から、油脂に対する乳化剤の質量比(乳化剤/油脂)が、好ましくは0.002以上、より好ましくは0.010以上、さらに好ましくは0.020以上である。油脂に対する乳化剤の質量比の上限は、粉末油脂の風味への影響や、粉末油脂の溶解性の観点から、好ましくは0.6以下、より好ましくは0.4以下、さらに好ましくは0.2以下、特に好ましくは0.1以下である。
【0019】
粉末油脂中に含まれている乳化剤が賦形剤としても機能する物質(加工澱粉等)である場合、その含量の下限は、スラリーの乳化性を十分に高める観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上である。該乳化剤の含量の上限は、粉末油脂の風味への影響や、粉末油脂の溶解性の観点から、粉末油脂に対して、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下、特に好ましくは15質量%以下である。
【0020】
粉末油脂中に含まれている乳化剤が賦形剤としても機能する物質(加工澱粉等)である場合、油脂に対する乳化剤の質量比(乳化剤/油脂)が、好ましくは0.06以上、より好ましくは0.10以上、さらに好ましくは0.20以上である。油脂に対する乳化剤の質量比の上限は、粉末油脂の風味への影響や、粉末油脂の溶解性の観点から、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.6以下、さらに好ましくは0.4以下である。
【0021】
本発明の粉末油脂に含有されるデキストリンは、任意のデキストリンが使用される。デキストリンは賦形剤として使用される。例えば、マルトデキストリン、イソマルトデキストリン(分岐マルトデキストリン)、水あめ、粉あめ、シクロデキストリン、分岐シクロデキストリン、焙焼デキストリン、高分子デキストリン、難消化性デキストリン、グルコースシロップ、デキストロースなどが例示される。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
本発明の粉末油脂におけるデキストリンの含有量としては、20~60質量%が好ましく、25~55質量%がより好ましく、30~50質量%がさらに好ましい。
【0023】
本発明の粉末油脂に含有されるグリセリンとしては、食品添加物用のグリセリンであれば、特に制限されることなく使用可能である。なお、食品添加物用のグリセリンについては、食品添加物公定書に定められた基準に基づくものである。具体的には、食品添加物用のグリセリンは、グリセリン(C3H8O3)95.0%(w/v)以上を含有することが規定されている。
【0024】
グリセリンは、無色の粘稠な液体で、においがなく、甘味がある。また、水と任意の割合で混和可能な液体であり、沸点が290℃と高く、体温で蒸発しないこと、保水力が高いことから、保湿剤として化粧品に用いられることが多い。また、グリセリンは、食品添加物として認可されており、水分値が10%を超える半生食品であるカステラ、イカの燻製、肉まんの皮等の食品のシトリや柔らかさの維持を目的として上記の食品に添加されることがある。食品に添加したグリセリンは、後述の製菓製パンの焼成工程においても、蒸散することはほとんどない。このため、焼成後の製菓製パンに対してシトリを付与することができる。
【0025】
本発明の粉末油脂におけるグリセリンの含有量としては、粉末油脂中にグリセリンを多く含有させる観点から、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、4質量%以上がさらに好ましく、5質量%以上が特に好ましい。粉末油脂におけるグリセリンの含有量の上限値としては、噴霧乾燥時の歩留まりが向上し、再溶解時の油滴のメディアン径及び標準偏差が良好になる観点から、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下が更に好ましく、12質量%以下が特に好ましい。
【0026】
粉末油脂におけるグリセリンの含有量は、下記の方法で測定できる。
粉末油脂をとり、シリル化処理後、GC/FID(島津製作所 GC-2025)にて以下の条件で測定を行う。
カラム:DB-1HT (Agilent Technologies)
昇温条件:80℃,10min→5℃/min→360℃,13min
【0027】
本発明の粉末油脂は、デキストリンに対するグリセリンの質量比(グリセリン/デキストリン)が0.10以上であることを特徴としている。デキストリンに対するグリセリンの質量比がこの範囲であれば、スラリーの粘度を噴霧乾燥に適した範囲に調整することができる。デキストリンに対するグリセリンの質量比としては、噴霧乾燥時の歩留まりが向上する観点から、0.12以上であることが好ましく、0.14以上であることがより好ましい。デキストリンに対するグリセリンの質量比の上限値は、噴霧乾燥時の歩留まりが向上する観点から、1.00以下が好ましく、0.70以下がより好ましく、0.50以下がさらに好ましく、0.35以下が特に好ましく、0.25以下が殊更好ましい。
【0028】
本発明の粉末油脂に含有されるデキストリンのDEは、噴霧乾燥時の歩留まりが向上する観点から、20以下であることが好ましく、14以下であることがより好ましく、9以下であることがさらに好ましい。DE(Dextrose Equivalent)とは、デキストリンの構成単位であるグルコース残基の鎖長の指標となるものであり、デキストリン中の還元糖の含有量(%)を示す値である。値が大きいほどデキストリンの鎖長は短くなる。DE値はウィルシュテッターシューデル法により測定することができる。2種以上のデキストリンを使用する場合は、全体のDEが20以下であればよい。
【0029】
本発明の粉末油脂は、油脂に対するグリセリンの質量比(グリセリン/油脂)が0.05~1.00であることが好ましい。油脂に対するグリセリンの質量比の上限値としては、噴霧乾燥時の歩留まりが向上する観点から、0.80以下が好ましく、0.50以下がより好ましく、0.30以下がさらに好ましく、0.25以下が特に好ましく、0.20以下が殊更好ましく、0.15以下が一層好ましい。
【0030】
本発明の粉末油脂を含有する飲食品としては、例えば、食パン、テーブルロール、菓子パン、調理パン、フランスパン、ライブレッド、全粒粉パン、デニッシュ、クロワッサン、シュトーレン、パネトーネ、クグロフ、ブリオッシュ、ピザ等のパン類、スポンジケーキ、バターケーキ、パウンドケーキ、ホットケーキ、ドーナツ、ビスケット、クッキー、ブッセ、ワッフル、パイ、スナック等の菓子類、たこ焼き、お好み焼き、冷凍食品、スープ類、ソース類、飲料、フライバッター、スナック惣菜類、水産練り製品、畜肉製品、ミックス粉、経腸栄養剤、ゼリー、ヨーグルトなどが例示される。
【0031】
また、本発明の粉末油脂には、デキストリン及びグリセリン以外の糖質、不溶性食物繊維、乳及び乳製品、pH調整剤、フレーバー、着色成分、酸化防止剤などの各種素材が配合されていてもよい。
【0032】
デキストリン及びグリセリン以外の糖質としては、単糖(グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノースなど)、二糖質(ラクトース(乳糖)、スクロース、マルトース、トレハロースなど)などの糖類;イソマルトオリゴ糖(イソマルトース、イソマルトトリオース、パノース)、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖(4’-ガラクトシルラクトース)、キシロオリゴ糖、ビートオリゴ糖(ラフィノース)、大豆オリゴ糖(ラフィノース、スタキオース)、乳果オリゴ糖(ラクトスクロース)などのオリゴ糖;イヌリン類(イヌリン、イヌリン分解物、アガベイヌリン)、増粘多糖類(LMペクチン、HMペクチン、プルラン、グアーガム、グアーガム分解物、キサンタンガム、ネイティブジェランガム、脱アシル化ジェランガム、ローカストビーンガム、タラガム、ガラクトマンナン、グルコマンナン、コンニャクマンナン、カードラン、カラギーナン、カラヤガム、カシアガム、タマリンドシードガム、トラガントガム、フェヌグリークガム、サイリウムシードガム、スクシノグリカン、ラムザンガム、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、PGA(アルギン酸プロピレングリコールエステル)、大豆多糖類、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、寒天、ゼラチン、フコイダン、ポルフィラン、ラミナラン)、澱粉、レジスタントスターチ、イソマルツロース、ポリデキストロース、難消化性グルカン、アラビノガラクタンなどの多糖類;エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、還元イソマルツロース、マンニトールなどの糖アルコール;などが例示される。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
不溶性食物繊維としては、セルロース、ヘミセルロース、ホロセルロース、セロビオース、マトリックス多糖、小麦ふすま、アップルファイバー等の果実ファイバー、さつまいもファイバー等の穀物ファイバー、リグニン、N-アセチルグルコサミン、キチン、キトサン、レジスタントスターチなどが例示される。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
乳としては、牛乳などが例示される。乳製品としては、脱脂乳、生クリーム、チーズ(ナチュラルチーズ、プロセスチーズなど)、醗酵乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、加糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖脱脂れん乳、ホエイチーズ(WC)などが例示される。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
<粉末油脂の製造方法>
【0035】
以下に、本発明の粉末油脂の製造方法の一例について説明する。本発明の粉末油脂の製造方法は、油脂を含む油脂組成物(油相)と、乳化剤、賦形剤(デキストリン)及びグリセリンなどを含む水溶液(水相)とを攪拌、均一化することによりスラリー(水中油型乳化物)を得る第1工程とし、当該スラリーを乾燥粉末化する第2工程とを含む。
【0036】
まず、スラリーを得る第1工程では、乳化剤、賦形剤及びグリセリンを含む水相と、上記のような油脂を含む油相を混合して調製することでスラリーが得られる。具体的には、第1工程は、例えば、次の乳化工程と均質化工程とを含む。
【0037】
乳化工程では、各原材料を乳化機の撹拌槽に投入して撹拌混合する。水とその他の原材料の配合比は、特に限定されないが、例えば、油脂、乳化剤、賦形剤、グリセリン、及びその他の原材料を含む水以外の原材料の合計量100質量%に対して水50~200質量%の範囲内にすることができる。なお、スラリーにおける油脂、乳化剤、デキストリン及びグリセリンの配合量(質量)は、スラリーを乾燥した粉末油脂においても維持される。したがって、スラリーにおける油脂、乳化剤、デキストリン及びグリセリンの含有量(スラリー全体を100質量%としたときの質量百分率)は、粉末油脂において油脂、乳化剤、デキストリン及びグリセリンについて上述した含有量(粉末油脂全体を100質量%としたときの質量百分率)になるように設定する。
【0038】
乳化工程において各原材料の配合手順は、特に限定されないが、例えば、水溶性乳化剤、賦形剤などの水溶性成分を水に室温で分散後、加熱下に攪拌し、あるいは当該水溶性成分を加熱した水に分散、攪拌して完全に溶解させた後、撹拌槽に設置されたホモミキサーなどの攪拌装置で攪拌しながら、加熱溶解させた油相成分を滴下して乳化することができる。
【0039】
乳化工程において得られるスラリーの粘度は、噴霧乾燥適性の観点から、45℃において1000mPa・s以下が好ましく、800mPa・s以下がより好ましい。粘度がこの範囲であると、噴霧乾燥時にノズルより均一な液滴をスプレーすることができる。水中油型乳化物の粘度はB型粘度計(東京計器(株)製)等を用いて測定することができる。
【0040】
均質化工程では、乳化工程において得られたスラリーを圧力式ホモジナイザーに供給することによって油滴サイズが微細化される。例えば、市販の圧力式ホモジナイザーを用いて、10~250kgf/cm2の程度の圧力をかけて均質化し、油滴サイズを微細化することができる。なお、乾燥粉末化前において加熱殺菌工程を設けてもよい。
【0041】
また、スラリーの粒子径分布におけるメディアン径は1.5μm以下が好ましく、1.0μm以下がより好ましく、0.8μm以下がさらに好ましく、0.6μm以下が特に好ましい。
【0042】
また、スラリーの粒子径分布における標準偏差は0.300以下が好ましく、0.200以下がより好ましく、0.150以下がさらに好ましい。
標準偏差:データの散らばりの度合いを示す値。分散の正の平方根を取り、データが平均値に集中しているほど値は小さくなり(最小値は0)、平均値から広がるほど値は大きくなる。スラリーの粒子径分布は、例えばレーザー回折法により測定される。
【0043】
第1工程で得られたスラリー(水中油型乳化物)を乾燥粉末化する第2工程では、一般的に知られている噴霧乾燥法、真空凍結乾燥法、真空乾燥法などによりスラリーを乾燥する。これらの中でも、噴霧乾燥法によりスラリーを乾燥することで得られる噴霧乾燥型粉末油脂が好ましい。
【0044】
噴霧乾燥法によって乾燥粉末化する場合には、均質化した乳化液を高圧ポンプで噴霧乾燥機の入口に供給し、高温熱風を吹き込み、噴霧乾燥機の槽内に上方から噴霧する。噴霧乾燥された粉末は槽内底部に堆積される。噴霧乾燥機としては、例えば、ロータリーアトマイザー方式やノズル方式で噴霧するスプレードライヤーを用いることができる。噴霧乾燥された粉末を噴霧乾燥機の槽内から取り出した後、振動流動槽などにより搬送しながら冷風で冷却することによって、水分0.5~3.0質量%の粉末油脂を製造することができる。
【0045】
このような本発明の粉末油脂は水中油型乳化物を乾燥したものであり、水に添加すると元の水中油型乳化物となり、油滴が再分散した状態となる。再溶解時の油滴のメディアン径は1.5μm以下が好ましく、1.0μm以下がより好ましく、0.8μm以下がさらに好ましい。
【0046】
また、再溶解時の油滴の粒子径分布における標準偏差は0.500以下が好ましく、0.400以下がより好ましく、0.300以下がさらに好ましい。
【0047】
本発明に係る粉末油脂の製造方法は、油脂、乳化剤、デキストリン及びグリセリンを含むスラリー(水中油型乳化物)を乾燥粉末化することで粉末油脂を製造し、当該スラリーにおけるデキストリンに対するグリセリンの質量比が0.10以上である方法として特定される。
【実施例0048】
本発明の粉末油脂は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0049】
(1)粉末油脂の作製
表1に粉末油脂の作製に使用した原料を示す。各原料の詳細は下記の通りである。
<油脂>
・菜種油
<デキストリン>
・デキストリン1 松谷化学工業株式会社「パインデックス♯100」(DE4)
・デキストリン2 松谷化学工業株式会社「パインデックス♯1」(DE8)
・デキストリン3 松谷化学工業株式会社「パインデックス♯2」(DE10-12)
・デキストリン4 サンエイ糖化株式会社「NSD300」(DE10-12)
・デキストリン5 松谷化学工業株式会社「TK-16」(DE16-19)
<グリセリン>
・グリセリン ミヨシ油脂株式会社「食品添加物グリセリン」
<乳化剤>
・カゼインナトリウム フォンテラジャパン株式会社「SODIUM CASEINATE 180」
・オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム イングレディオン・ジャパン株式会社「ピュリティーガムBE」
【0050】
表1の油脂を60℃に加熱し、油相とした。表1に記載の粉末油脂組成(油脂、デキストリン、グリセリンおよび乳化剤の合計)に対して等量の水(約20℃)に、表1に記載のデキストリン、グリセリン及び乳化剤(比較例1はデキストリン及び乳化剤)を添加して60℃に加熱し、水相とした。水相と油相を混合して乳化後、圧力式ホモジナイザーを用いて150kgf/cm2の圧力で均質化し、乳化液(スラリー)として水中油型乳化物を得た。得られたスラリーを、ノズル式スプレードライヤーを用いて25ml/minの流量で噴霧乾燥し、水分が約1質量%の粉末油脂を得た(噴霧乾燥条件:入口温度160℃)。なお、比較例1及び2については、スラリーの粘度が高く、噴霧乾燥できなかったため、粉末油脂の評価は行わなかった。なお、表1に記載の「グリセリン/デキストリン」および「グリセリン/油脂」については、噴霧乾燥後の粉末油脂についても維持される。
【0051】
(2)分析
<メディアン径及び標準偏差>
噴霧乾燥前のスラリーを、レーザー回折式粒子径分布測定装置(商品名「SALD-2300」、株式会社島津製作所製)により測定し、メディアン径および標準偏差を求めた。
<スラリー粘度>
45℃に調温したスラリーを、B型粘度計(東京計器(株)製)を用いて測定した。
【0052】
(3)評価
【0053】
<歩留まり>
均質化工程後の水中油型乳化物700g(固形分50%)を噴霧乾燥し、トート瓶に回収したサンプル量より歩留まりを以下の通り算出した。値が大きいほど、歩留まりが良好であることを示している。
歩留まり100%の場合:スラリー700g×固形分濃度50%=350g
歩留まり(%)=サンプル回収量(g)÷350(g)×100
【0054】
<再溶解時の油滴のメディアン径>
得られた粉末油脂を25℃の水に再溶解した際の油滴のメディアン径を、レーザー回折式粒子径分布測定装置(商品名「SALD-2300」、株式会社島津製作所製)によって測定した。値が小さいほど、再溶解時の油滴のメディアン径が良好であることを示している。
【0055】
<再溶解時の油滴の標準偏差>
得られた粉末油脂を25℃の水に再溶解した際の油滴の標準偏差を、レーザー回折式粒子径分布測定装置(商品名「SALD-2300」、株式会社島津製作所製)によって測定した。値が小さいほど、再溶解時の油滴の標準偏差が良好であることを示している。
【0056】
以上の評価結果を表1に示す。
【0057】
【0058】
表1に示したように、油脂、乳化剤、デキストリン及びグリセリンを含み、デキストリンに対するグリセリンの質量比が0.10以上である実施例1-13では、噴霧乾燥時の歩留まりが良好であった。
【0059】
乳化剤が加工澱粉である実施例3は、乳化剤がカゼインナトリウムである実施例2に比べ、噴霧乾燥時の歩留まり及び再溶解時の油滴のメディアン径が良好であった。
【0060】
デキストリンのDEが14以下である実施例5は、デキストリンのDEが14より大きい実施例4に比べ、噴霧乾燥時の歩留まりが良好であった。さらに、デキストリンのDEが9以下である実施例7は、デキストリンのDEが9より大きい実施例5に比べ、噴霧乾燥時の歩留まりが良好であった。
【0061】
デキストリンに対するグリセリンの質量比が0.50以下である実施例9は、デキストリンに対するグリセリンの質量比が0.50より大きい実施例10に比べ、噴霧乾燥時の歩留まり、再溶解時の油滴のメディアン径及び標準偏差の全てにおいて良好な結果となった。さらに、デキストリンに対するグリセリンの質量比が0.25以下である実施例7は、デキストリンに対するグリセリンの質量比が0.25より大きい実施例8に比べ、噴霧乾燥時の歩留まり、再溶解時の油滴のメディアン径及び標準偏差の全てにおいて良好な結果となった。
【0062】
油脂に対するグリセリンの質量比が0.25以下である実施例9は、油脂に対するグリセリンの質量比が0.25より大きい実施例10に比べ、噴霧乾燥時の歩留まり、再溶解時の油滴のメディアン径及び標準偏差の全てにおいて良好な結果となった。さらに、油脂に対するグリセリンの質量比が0.15以下である実施例7は、油脂に対するグリセリンの質量比が0.15より大きい実施例8に比べ、噴霧乾燥時の歩留まり、再溶解時の油滴のメディアン径及び標準偏差の全てにおいて良好な結果となった。同じく、油脂に対するグリセリンの質量比が0.15以下である実施例5は、油脂に対するグリセリンの質量比が0.15より大きい実施例6に比べ、噴霧乾燥時の歩留まり、再溶解時の油滴のメディアン径及び標準偏差の全てにおいて良好な結果となった。
【0063】
一方で、比較例1及び比較例2については、上述した通り、スラリーの粘度が高く、噴霧乾燥すること自体が困難であった。以上の説明から理解される通り、本発明に係る粉末油脂は、噴霧乾燥時の歩留まりが良く、再溶解時の油滴のメディアン径及び標準偏差からも粉の物性が良好であることが確認できた。