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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090293
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】型枠用スキンプレート
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/10 20060101AFI20230622BHJP
   E04G 9/10 20060101ALI20230622BHJP
   E04G 21/02 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
E21D11/10 A
E04G9/10 101B
E04G21/02 104
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021205198
(22)【出願日】2021-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000158725
【氏名又は名称】岐阜工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000159618
【氏名又は名称】吉川工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】守屋 健一
(72)【発明者】
【氏名】大橋 英紀
(72)【発明者】
【氏名】奥村 正樹
(72)【発明者】
【氏名】伊勢 善英
(72)【発明者】
【氏名】平野 定雄
(72)【発明者】
【氏名】池内 浩司
【テーマコード(参考)】
2D155
2E150
2E172
【Fターム(参考)】
2D155DA01
2D155KB04
2E150AA25
2E150BA11
2E150MA02W
2E172AA05
2E172DB13
2E172DE06
(57)【要約】
【課題】コンクリートの表面気泡を確実に低減し、コンクリートの品質を向上させる型枠用スキンプレートを提供する。
【解決手段】コンクリート打設用型枠の型枠面を構成する鋼板11の表面に溶射皮膜層12が設けられており、前記溶射皮膜層12の表面の粗度が、55.6~93.7μmであり、より好ましくは75~92μmである。前記溶射皮膜層12は、ステンレスのアーク溶射層であるのが好ましい。また、型枠用スキンプレート10の型枠面に塗布する剥離剤に消泡剤を併用するのが好ましい。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート打設用型枠の型枠面を構成する鋼板の表面に溶射皮膜層が設けられており、
前記溶射皮膜層の表面の粗度が、55.6~93.7μmであることを特徴とする型枠用スキンプレート。
【請求項2】
前記溶射皮膜層の表面の粗度が、75~92μmである請求項1記載の型枠用スキンプレート。
【請求項3】
前記溶射皮膜層は、ステンレスからなる請求項1、2いずれかに記載の型枠用スキンプレート。
【請求項4】
前記溶射皮膜層は、アーク溶射層である請求項3記載の型枠用スキンプレート。
【請求項5】
前記型枠用スキンプレートの型枠面に塗布する剥離剤に消泡剤が併用されている請求項1~4いずれかに記載の型枠用スキンプレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート打設用型枠の型枠面を構成する鋼板の表面に溶射皮膜層が設けられた型枠用スキンプレートにおいて、前記溶射皮膜層の表面を所定の粗度範囲とすることにより、コンクリートの表面気泡を低減した型枠用スキンプレートに関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート表層の品質は、美観を向上させるだけでなく、構造物の耐久性を向上させるためにも重要である。すなわち、コンクリートに表面気泡(あばた)が形成されると、コンクリートのかぶり厚さが減少して耐久性の低下に繋がり早期劣化の可能性がある。
【0003】
特に山岳トンネルにおける覆工コンクリートの打設では、狭隘空間でコンクリートの打込みや締固めが行われるとともに、スプリングライン(SL)より下側の側壁部では仕上がり面が負勾配に傾斜しているため、表面気泡、うき・剥離などの表層品質に関する不具合が発生しやすいことが指摘されている。
【0004】
コンクリート表層の品質向上を図る技術としては、たとえば下記特許文献1~4などを挙げることができる。
【0005】
下記特許文献1~3には、パネル鋼板に多数のスリットが一様に散在して穿設されるとともに、パネル鋼板の表面にセラミック等の通気性物質層が形成された型枠パネルが記載されており、この型枠パネルを用いてコンクリート打設を行うことにより、多孔質の通気性物質層及びスリットを通してコンクリート内の水分及び気泡が外部に浸出できるという効果が記載されている。
【0006】
また、下記特許文献4には、コンクリート打設用型枠の型枠用鋼板のコンクリート打設面に対し、ガスプラズマ溶射機によってステンレス粉末材料を溶射することによって、型枠用鋼板の表面に吹き付けられたステンレス粉末材料が型枠用鋼板の表面に多くの空隙を含む被膜層として形成され、表面に多孔質性金属層を形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62-153470号公報
【特許文献2】特開昭63-67373号公報
【特許文献3】特開昭63-67374号公報
【特許文献4】特開2006-207277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1~3に記載されたパネル鋼板の表面に多孔性セラミック層を形成したものでは、セラミック層の開口率がそれほど高くないため、セラミック層及びスリットを通して外部に浸出するコンクリート中の水分及び気泡の量が充分ではなく、コンクリートに表面気泡が発生しやすいおそれがあった。上記特許文献4においても、多孔性金属層の空隙割合が10%程度であることが記載されており、この空隙を通って外部に流出できる気泡の量は表面気泡を防止するには不充分であると推測される。
【0009】
また、上記特許文献4には、プラズマ溶射加工によって多孔性金属層を形成した後、形成された多孔性金属層の粗度(表面粗さ)を調整するための仕上げ加工(ペーパー研磨等)を行うことが記載されている。このような表面の仕上げ加工を行うのは、型枠面の表面粗さを小さくすることにより、表面が滑らかなコンクリートを形成するためと思われる。ところが、型枠面の粗度が小さすぎると、細かな気泡が型枠の表面を流動しやすく、流動する過程で気泡同士が結合して大きな気泡を形成し、コンクリート表層の品質を低下させるおそれがあった。また、型枠面の粗度が大きすぎると、気泡が型枠面の凹部に集中することによって大きな気泡を形成し、同じくコンクリート表層の品質を低下させるおそれがあった。
【0010】
このように、型枠面の粗度はコンクリート表層の品質に影響を与える大きな要素であるが、従来では、型枠面の表面粗さを小さくし、滑らかな型枠面とすることだけに注力され、コンクリート表層の品質にとって最適な粗度範囲については着目されていなかった。
【0011】
そこで本発明の主たる課題は、コンクリートの表面気泡を確実に低減し、コンクリートの品質を向上させる型枠用スキンプレートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、コンクリート打設用型枠の型枠面を構成する鋼板の表面に溶射皮膜層が設けられており、
前記溶射皮膜層の表面の粗度が、55.6~93.7μmであることを特徴とする型枠用スキンプレートが提供される。
【0013】
上記請求項1記載の発明では、鋼板の表面に溶射皮膜層が設けられた型枠用スキンプレートにおいて、コンクリート表層の品質を向上させる最適な粗度範囲に着目し、前記溶射皮膜層の表面の粗度を、55.6~93.7μmとした。溶射皮膜層の表面をこの粗度範囲とすることにより、後述の〔実験〕の結果から、溶射皮膜層を設けない鋼板の場合と比較してあばた率が低減でき、コンクリートの品質が確実に向上できるようになる。溶射皮膜層の表面の粗度が55.6μmより小さいと、鋼板よりあばた率が上昇する場合があり、コンクリートの表面気泡を充分に低減することができない。溶射皮膜層表面の粗度が93.7μmより大きい場合も同様である。
【0014】
本発明に係る型枠用スキンプレートでは、前記溶射皮膜層の表面の粗度を最適化することにより、型枠面の表面に付着した細粒状の気泡が型枠面の凹凸によって流動しにくく、細粒状の気泡同士が結合するのが抑えられ、大きな気泡に成長することなくコンクリートが固化するため、目視できる表面気泡の発生が抑えられると考察される。
【0015】
請求項2に係る本発明として、前記溶射皮膜層の表面の粗度が、75~92μmである請求項1記載の型枠用スキンプレートが提供される。
【0016】
上記請求項2記載の発明では、あばた率を最小化できる粗度範囲について規定している。実験によりあばた率が最小となる粗度を求め、これを基準とした粗度範囲を規定することによって、より確実にコンクリート表面の品質を向上させている。
【0017】
請求項3に係る本発明として、前記溶射皮膜層は、ステンレスからなる請求項1、2いずれかに記載の型枠用スキンプレートが提供される。
【0018】
上記請求項3記載の発明では、前記溶射皮膜層の溶射材料として、耐久性が良く、繰り返しの使用に耐えるステンレスを用いている。
【0019】
請求項4に係る本発明として、前記溶射皮膜層は、アーク溶射層である請求項3記載の型枠用スキンプレートが提供される。
【0020】
上記請求項4記載の発明では、ステンレスをアーク溶射して前記溶射皮膜層を形成することによって、型枠用スキンプレートの生産性の向上を図っている。
【0021】
請求項5に係る本発明として、前記型枠用スキンプレートの型枠面に塗布する剥離剤に消泡剤が併用されている請求項1~4いずれかに記載の型枠用スキンプレートが提供される。
【0022】
上記請求項5記載の発明では、後述の〔実験〕の結果から、剥離剤に消泡剤を併用することにより、剥離剤だけを用いた場合より、あばた率が更に低減でき、コンクリート表面の品質がより一層向上できる。
【発明の効果】
【0023】
以上詳説のとおり本発明によれば、コンクリート打設用型枠の型枠面を構成する鋼板の表面に溶射皮膜層が設けられた型枠用スキンプレートにおいて、前記溶射皮膜層の表面を所定の粗度範囲とすることによって、コンクリートの表面気泡が確実に低減でき、コンクリートの品質を向上させることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】セントル3の設置状況を示すトンネルの斜視図である。
図2】そのトンネルの断面図である。
図3】型枠用スキンプレート10の斜視図である。
図4】ステンレス溶射層と粗度の関係を示すグラフである。
図5】(A)は実験装置を示す断面図、(B)、(C)はスキンプレートの平面図である。
図6】実験1の結果を示す、粗度とあばた率の関係を示すグラフである。
図7】実験2の結果を示す、粗度とあばた率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。以下の実施形態例では、本発明に係る型枠用スキンプレート10を、山岳トンネルにおける覆工コンクリートの打設の際に用いられるセントルの型枠(覆工コンクリート打設用移動型枠)に適用した場合を例に挙げ詳細に説明しているが、本発明に係る型枠用スキンプレート10は、セントルの型枠以外にもコンクリート打設の際に用いられる型枠のスキンプレートとして広く採用することが可能である。
【0026】
本発明に係る型枠用スキンプレート10は、図1に示されるように、山岳トンネルTの構築に当たって、トンネル方向に1スパン毎、発破などによる掘進後、掘削されたトンネル内壁面に吹付けによって吹付けコンクリート1を施工し、ロックボルトを打ち込んだ後、その表面に防水シート2を貼設し、地山側壁面T1との間に距離を空けて周方向に沿ってセントル3の型枠5を設置し、地山側壁面T1と型枠5との間の空間内に覆工コンクリート4を打設する際、前記型枠5の型枠面に配置されるものである。
【0027】
前記セントル3は、トンネル施工用重機の後方に設置され、図1及び図2に示されるように、トンネルTの地山側壁面T1との間に所定幅の空間を形成するように配設される型枠5と、この型枠5を支持する支持フレーム6と、この支持フレーム6が走行可能でトンネルTの下面に敷設される走行レール7とから主に構成される。
前記型枠5は、図3に示されるように、型枠面を構成する鋼板11と、この鋼板11の表面に設けられた溶射皮膜層12とからなる型枠用スキンプレート10を備えている。前記型枠5は、トンネルTの周方向に対して複数個のパーツに分割して設けられ、各パーツが連結して構成されている。各型枠5のコンクリート打設面には、本発明に係る型枠用スキンプレート10が使用されている。図示しないが、前記型枠5には、上部の坑口側近傍に、コンクリートを打設するためのコンクリート打設口が設けられるとともに、適宜の位置に点検窓が設けられている。
前記型枠5は、図1及び図2に示されるように、前記支持フレーム6に、油圧シリンダ6Aなどの連結部材を介して、トンネルTの断面に対して左右方向及び上下方向に移動自在に取り付けられている。
前記支持フレーム6は、略門型の鉄骨材などからなる門型フレーム6Bと、前記型枠5が取り付けられる前記油圧シリンダ6Aなどの連結部材とから構成されている。
前記走行レール7は、前記門型フレーム6Bを走行可能に支持し、トンネルTの下面に長手方向に沿って2条敷設されている。
【0028】
次に、前記型枠5の型枠面に配置された型枠用スキンプレート10について詳細に説明する。型枠用スキンプレート10の基材となる前記鋼板11は、概ね9mm前後の鋼板が用いられ、トンネルTの周面形状に沿って湾曲した曲面を成している。前記鋼板11には、コンクリート打設口や点検窓などを除いて表裏を貫通する開孔やスリットなどは設けられておらず、打設したコンクリートが漏れ出ない構造になっている。
【0029】
前記鋼板11の表面に設けられる溶射皮膜層12は、溶射材料を加熱して、溶融又は軟化させた粒子を、基材に吹きつけて積層させた表面処理層である。前記溶融材料としては、ステンレス、アルミニウム、ニッケル、銅、亜鉛などの金属やセラミックスなどを用いることができるが、耐久性に優れる点で金属を用いるのが好ましく、金属の中でも弾性に富み、硬質な被膜層が得られる点でステンレスを用いるのがより好ましい。
【0030】
溶射法としては、アーク溶射やプラズマ溶射などが挙げられるが、溶射速度が大きく、コストが低い点でアーク溶射を用いるのが好ましい。なお、ステンレス(SUS316)のワイヤーをアーク溶射した場合の溶融粒子の粒径は20~100μmとなる。また、プラズマ溶射を行う場合は、粒径20~30μmの粉末状にした溶射材料を用いるのが好ましい。
【0031】
前記溶射皮膜層12は、1層のみで構成するのが好ましいが、溶射材料、溶射法及び溶射条件のいずれか又は2以上が異なる被膜層を積層した複数層で構成してもよい。例えば、1層目を溶射法:アーク溶射、溶射材料:ステンレス(SUS316)とし、2層目を溶射法:プラズマ溶射、溶射材料:セラミックスとすることができる。これにより、表層のセラミックス層によって表面の細かな粗度調整が可能になるとともに、基材の鋼板11と外層のセラミックス層との間に、ステンレスの溶射皮膜層12が介在するため、ステンレス層の弾性によりセラミックス層の結合性が増し、セラミックス層の耐久性が向上する。
【0032】
前記溶射皮膜層12の表面の最適な粗度(JIS B 0601に準拠した最大高さRz)は、55.6~93.7μmである。この粗度範囲とすることにより、後述の〔実験〕の結果から、表層に鋼板を用いたものより表面気泡が形成されにくくなり、コンクリートの品質が向上できるようになる。同じく後述の〔実験〕の結果から、より好ましくは、75~92μmとするのがよい。
【0033】
前記溶射皮膜層12の厚さは、特に制限はないが、溶射皮膜層12の厚さが小さすぎると、特にブラスト処理を施した場合には鋼板11の表面の凹凸を溶射皮膜層で覆うことができず、基材が露出する箇所が現れるため、最小の厚さは50μm以上とするのがよく、鋼板11と溶射皮膜層12とが機械的結合であるので、溶射皮膜層12の厚さが300μmを超えると残留応力に起因して歪みが生じやすく、溶射皮膜層12が鋼板11の表面から剥離する場合があるため、最大の厚さは300μm以下とするのがよい。好ましくは、50~150μm、より好ましくは50~100μmである。
【0034】
このような溶射皮膜が得られる溶射条件の一例を示すと、溶射材料としてステンレス(SUS316)ワイヤーを用い、電圧25~35V、電流200~400A、空気圧3~5kg/cm2、基材との距離100~500mmの条件でアーク溶射を行う。
【0035】
溶射皮膜層12表面の粗度を調整するには、次の手段のいずれか又は2以上の組み合わせにより行うことができる。第1の手段として、溶射皮膜層12の厚みを調整することが挙げられる。この厚みは、厚くすると粗度が大きくなり、薄くすると粗度が小さくなる。ただし、薄すぎると基材を溶射皮膜で覆うことができなくなるため、50μm以上とするのが好ましい。第2の手段として、溶射材料の加熱温度を調整することが挙げられる。加熱温度を調整するには、アーク溶射の場合は電流や電圧、プラズマ溶射の場合はプラズマ電流を調整すればよい。溶射材料を高い温度で加熱して完全に溶融させることにより、基材衝突時の衝撃により粒子が分散して表面が平滑化されやすくなる一方で、溶射材料の加熱温度が低く溶射材料が半溶融状態であれば、基材衝突後も未溶融又は部分溶融粒子による凹凸が形成されて粗度が大きくなる。第3の手段としては、溶射ノズル先端と基材との距離を調整することが挙げられる。溶射距離を大きくすると、一度溶融した溶射粒子が冷却され、衝突時の扁平挙動が低下して積層されるため、凹凸が大きくなる傾向にある。
【0036】
前記溶射皮膜層12が設けられる鋼板11の表面は、特に表面処理を行わなくてもよいが、鋼板11と溶射皮膜層12との結合強度を向上させるため、サンドブラスト処理等のブラスト処理を行うことが好ましい。
【0037】
〔実験〕
溶射皮膜層12表面の粗度がコンクリートの表面気泡に及ぼす影響について実証する実験を行った。
【0038】
事前実験として、溶射皮膜層12の厚みと溶射皮膜層12の粗度との関係について検討する実験を行った。溶射皮膜としては、鋼板にステンレスをアーク溶射したステンレス溶射層を形成し、この溶射皮膜層の厚みを50μm、100μm、250μmと変化させたときの各溶射皮膜層表面の粗度を測定した。粗度は、JIS B 0601に準拠した最大高さRzで評価した。
【0039】
その結果を表1及び図4に示す。これらの結果から、溶射皮膜層(ステンレス溶射層)の厚みを増すと粗度が直線的に大きくなる傾向にあることがわかった。
【表1】
【0040】
次に、コンクリート打設面に溶射皮膜層を設けない鋼板だけのスキンプレートと、鋼板の表面に粗度が異なる溶射皮膜層を設けたスキンプレートとを用いて、コンクリートを打設し、コンクリートの表層品質(あばた率)を測定する実験を行った。
【0041】
実験装置は、図5(A)に示されるように、両側に設置したスキンプレートの内側にコンクリートを打設するようになっており、両側のスキンプレートがそれぞれ、トンネルの覆工コンクリート側壁部を模擬して負勾配(傾斜角70°)に傾斜した断面略台形状に形成されている。各スキンプレートは、同図5(B)、(C)に示されるように、高さ1000mm、幅1144mmで同じ寸法であり、幅方向に2等分したそれぞれの領域で表面仕様が異なっている。具体的には、一方のスキンプレートの表面は、図5(B)に示されるように、幅方向の一方の領域が溶射皮膜層が設けられない鋼板となっており、他方の領域がステンレスをアーク溶射した溶射皮膜層を50μmの厚みで設けた「ステンレス50」となっている。他方のスキンプレート1の表面は、図5(C)に示されるように、幅方向の一方の領域がステンレスをアーク溶射した溶射皮膜層を100μmの厚みで設けた「ステンレス100」となっており、他方の領域がセラミックスをプラズマ溶射した溶射皮膜層を50μmの厚みで設けた「セラミックス50」となっている。なお、台形状断面の上底の長さ(型枠上部のスキンプレート同士の離隔距離)を300mmとしたとき、下底の長さ(型枠底部のスキンプレート同士の離隔距離)は約984mmである。また、本型枠の両端面及び下面は木製の型枠で閉塞されており、開放された上面からコンクリートを流し込むようになっている。
【0042】
コンクリートの配合は、次の表2に示される通りである。表中、C:高炉セメントB種、住友大阪セメント社製、密度3.04g/cm3、S1:茨城県行方市産砂、表乾密度2.58g/cm3、S2:栃木県佐野市会沢産砕砂、表乾密度2.69g/cm3、G:茨城県つくば市2005砕石、表乾密度2.69g/cm3、AD:AE減水剤、フローリックS、フローリック社製である。
【表2】
【0043】
コンクリートの打設後、開放された上面から直径50mmの棒状バイブレータを突き刺し、合計8箇所をそれぞれ10~15秒間加振するとともに、型枠バイブレータで各スキンプレートの外面を8箇所、それぞれ10秒間加振して締固めを行った。
【0044】
実験は、スキンプレートの型枠面に塗布する剥離剤によって2パターン行った。具体的には、実験1では、スキンプレートの型枠面に、コンクリート剥離剤(中京化成工業社製、ジェットコートG-MAX)のみを塗布しており、実験2では、スキンプレートの型枠面に、同じコンクリート剥離剤に消泡剤(日本シーカ社製、サーフェイスクリーン)を併用したものを塗布した。前記実験1及び実験2について、コンクリートの打設を行い、養生後、脱型したコンクリート表面のあばた率を測定した。
【0045】
前記あばた率の測定は、コンクリート表面を撮像装置で撮影し、コンピュータで画像処理し、測定されたあばた部分の面積の総和を測定面積で除することにより求めた。
【0046】
測定結果を表3及び表4に示す。表3は、上記実験1(スキンプレート表面に剥離剤のみを塗布した場合)の結果であり、表4は、上記実験2(剥離剤に消泡剤を併用した場合)の結果である。表中の「鋼板に対する比(%)」とは、上記実験1の鋼板のあばた率を100(%)としたときの割合を示したものである。
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
また、上記実験1(スキンプレート表面に剥離剤のみを塗布した場合)及び実験2(剥離剤に消泡剤を併用した場合)について、粗度とあばた率との関係をグラフ化したものを図6及び図7に示す。なお、ステンレスのアーク溶射で形成できる被膜厚さの技術的な下限値が50μmであり、このときの粗度が図4より約80μm前後となっており、ステンレスのアーク溶射層ではこれより小さな粗度が得られなかったため、「ステンレス50」より小さな粗度が得られる「セラミックス50」の値を用いて粗度とあばた率の全体的な傾向を考察している。
【0049】
上記「セラミックス50」、「ステンレス50」、「ステンレス100」の測定点を滑らかな曲線で結んだとき、鋼板よりあばた率が低下した粗度範囲は、実験1では55.6μm以上、実験2では57.8~93.7μmの範囲である。したがって、型枠用スキンプレートの型枠面に塗布する剥離剤にもよるが、溶射皮膜層12の表面の粗度を、55.6~93.7μmとすることにより、鋼板よりあばた率を低く抑えることができ、コンクリートの表面気泡が確実に低減して、コンクリートの品質を向上させることが可能になる。なお、この粗度範囲(93.7μm以下)とするためのステンレス溶射層の厚みは、図4から、112.5μm以下となる。
【0050】
また、各実験の結果から、あばた率が最小となる粗度がそれぞれ、84.5μm、82.1μmであることが明らかとなった。このことから、これらの平均値83.3μmが、コンクリートの表面気泡を最小に抑えることができる最適な溶射皮膜層の表面の粗度であると言える。更に、実験誤差や施工誤差などで±10%のバラツキがあると仮定すると、コンクリートの表面気泡を最小にすることができる最適な溶射皮膜層の粗度範囲は、約75~92μmである。なお、この粗度範囲(92μm以下)とするためのステンレス溶射層の厚みは、図4から、100.5μm以下となる。また、±5%のバラツキがあると仮定した場合は、最適な溶射皮膜層の粗度範囲は、約79~87μmであり、87μm以下の粗度範囲とするためのステンレス溶射層の厚みは、図4から、65.4μm以下となる。
【0051】
上記の粗度範囲とすることによりコンクリートの表面気泡が抑えられるメカニズムについて考察すると、上記の粗度範囲では、型枠面の表面に付着した細かな気泡が型枠面の凹凸によって流動しにくく、流動する過程で細かな気泡同士が結合して大きな気泡に成長することなく、コンクリートが固化するため、目視できる表面気泡の発生が抑えられると考えられる。
【0052】
更に、実験1(スキンプレート表面に剥離剤のみを塗布した場合)と実験2(剥離剤に消泡剤を併用した場合)を比較すると、実験2の方が全体としてあばた率が低い。このため、スキンプレートの型枠面には、剥離剤のみを塗布するより、剥離剤に消泡剤を併用した方が、より一層あばた率を低減することができ、コンクリートの表面気泡が確実に低減して、コンクリートの品質を向上させることが可能になる。
【符号の説明】
【0053】
1…吹付けコンクリート、2…防水シート、3…セントル、4…覆工コンクリート、5…型枠、6…支持フレーム、7…走行レール、10…型枠用スキンプレート、11…鋼板、12…溶射皮膜層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7