(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090403
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】苗の生産方法
(51)【国際特許分類】
A01G 22/25 20180101AFI20230622BHJP
A01G 2/10 20180101ALI20230622BHJP
A01G 31/00 20180101ALI20230622BHJP
【FI】
A01G22/25
A01G2/10
A01G31/00 601A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021205344
(22)【出願日】2021-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】514108263
【氏名又は名称】株式会社ファームシップ
(71)【出願人】
【識別番号】514231125
【氏名又は名称】株式会社くしまアオイファーム
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(74)【代理人】
【識別番号】100149401
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 浩史
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 由久
(72)【発明者】
【氏名】北島 正裕
(72)【発明者】
【氏名】荒川 恭平
【テーマコード(参考)】
2B022
2B314
【Fターム(参考)】
2B022AA01
2B022AB05
2B022AB13
2B022DA19
2B314MA11
2B314MA21
2B314NA32
2B314ND04
2B314ND05
2B314ND15
2B314PC04
2B314PC10
2B314PC11
2B314PC27
2B314PC32
(57)【要約】
【課題】苗の安定した生産が可能な苗の生産方法を提供する。
【解決手段】苗の生産方法は、つる性植物の茎を切断して本苗を得て、本苗を水耕栽培方式にて栽培し、栽培された本苗の茎の先端部分を切断し、切断された茎の先端部分から新たな苗を得て、本苗のうち、先端部分が切除された残存部分を水耕栽培方式にて栽培し続け、残存部分から伸びた茎の先端部分を切断し、切断された茎の先端部分から新たな苗をさらに得る。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
つる性植物の茎を切断して本苗を得て、前記本苗を水耕栽培方式にて栽培し、
栽培された前記本苗の茎の先端部分を切断し、切断された茎の先端部分から新たな苗を得て、
前記本苗のうち、先端部分が切除された残存部分を水耕栽培方式にて栽培し続け、
前記残存部分から伸びた茎の先端部分を切断し、切断された茎の先端部分から新たな苗をさらに得る、苗の生産方法。
【請求項2】
前記残存部分を水耕栽培方式にて栽培する工程と、
前記残存部分から伸びた茎の先端部分を切断し、切断された先端部分から新たな苗を得る工程と、を繰り返し実施して、新たな苗を繰り返し生産する、請求項1に記載の苗の生産方法。
【請求項3】
前記本苗を水耕栽培方式にて栽培するための定植時から、前記本苗の前記先端部分の切断時迄の栽培期間が、3~14日である、請求項1又は2に記載の苗の生産方法。
【請求項4】
前記水耕栽培方式にて前記本苗を栽培する際に液体肥料を用い、
前記液体肥料の電気伝導度が0.2~2mS/cmである、請求項1~3のいずれか1項に記載の苗の生産方法。
【請求項5】
前記本苗の栽培時の環境湿度が相対湿度で80%以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の苗の生産方法。
【請求項6】
前記本苗の栽培は室内にて実施される、請求項1~5のいずれか1項に記載の苗の生産方法。
【請求項7】
前記本苗は、複数あり、
前記水耕栽培方式にて前記複数の前記本苗を栽培する際の前記本苗の配置間隔が13cm未満である、請求項1~6のいずれか1項に記載の苗の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水耕栽培を利用したつる性植物の苗の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
つる性植物、例えば、サツマイモは、一般的に苗の段階から土壌で栽培される。具体的には、種芋を土の苗床で育苗し、育苗により生長したつるを切断し、切断したつるを苗として、土に定植して栽培される。種芋の育苗は、露地栽培により実施される。
また、サツマイモは、特許文献1に記載されているように、小麦フスマを混和又は散布した土壌を使用して栽培される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
つる性植物であるサツマイモを栽培する際に、土の苗床で種芋を育苗する場合、土中の肥料が欠乏すると、連続的に苗を生産できず、安定して苗を出荷することが困難である。また、露地栽培の場合、病気又は天候不良等により苗の品質がばらつくことがあり、この観点からも、安定的な苗の生産が困難である。
本発明の目的は、苗の安定した生産が可能な苗の生産方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するために、本発明の一態様は、つる性植物の茎を切断して本苗を得て、本苗を水耕栽培方式にて栽培し、栽培された本苗の茎の先端部分を切断し、切断された茎の先端部分から新たな苗を得て、本苗のうち、先端部分が切除された残存部分を水耕栽培方式にて栽培し続け、残存部分から伸びた茎の先端部分を切断し、切断された茎の先端部分から新たな苗をさらに得る、苗の生産方法を提供するものである。
【0006】
残存部分を水耕栽培方式にて栽培する工程と、残存部分から伸びた茎の先端部分を切断し、切断された先端部分から新たな苗を得る工程と、を繰り返し実施して、新たな苗を繰り返し生産することが好ましい。
本苗を水耕栽培方式にて栽培するための定植時から、本苗の先端部分の切断時迄の栽培期間が、3~14日であることが好ましい。
水耕栽培方式にて本苗を栽培する際に液体肥料を用い、液体肥料の電気伝導度が0.2~2mS/cmであることが好ましい。
本苗の栽培時の環境湿度が相対湿度で80%以下であることが好ましい。
本苗の栽培は室内にて実施されることが好ましい。
本苗は、複数あり、水耕栽培方式にて複数の本苗を栽培する際の本苗の配置間隔が13cm未満であることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、苗の安定した生産が可能な苗の生産方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態の苗の生産方法の一例の一工程を示す模式図である。
【
図2】本発明の実施形態の苗の生産方法の一例の一工程を示す模式図である。
【
図3】本発明の実施形態の苗の生産方法の一例の一工程を示す模式図である。
【
図4】本発明の実施形態の苗の生産方法の一例の一工程を示す模式図である。
【
図5】本発明の実施形態の苗の生産方法の一例の一工程を示す模式図である。
【
図6】本発明の実施形態の苗の生産方法の一例の一工程を示す模式図である。
【
図7】本発明の実施形態の苗の生産方法における本苗の配置の一例を示す模式図である。
【0009】
以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明の苗の生産方法を詳細に説明する。
なお、以下に説明する実施形態及び図示した内容は、本発明を説明するための例示的なものであり、以下に示す図に本発明が限定されるものではない。
【0010】
(つる性植物)
つる性植物は、例えば、さつまいも、つるむらさき、うり、パイナップル、及びバナナである。また、つる性植物は観葉植物として、アイビー、ポトス、ベンジャミン、ハイビスカス、ブーゲンビリア、及びペペロミアがある。つる性植物は草花として、コスモス、ミント、バジル、菊、リンドウ、コリウス、露クサ類、サルビア、サフィニア、マリーゴールド、菊、及びヒャクニチソウがある。つる性植物は花木として、クチナシ、ツバキ、ミニバラ、ハナミズキ、クチナシ、及びアジサイがある。
【0011】
[苗の生産方法]
以下、本発明の一つの実施形態に係る苗の生産方法(以下、単に、苗の生産方法という)について説明する。
苗の生産方法は、水耕栽培を利用したつる性植物の苗の生産方法である。以下、つる性植物として、サツマイモを例にして説明するが、本発明が適用可能な苗は、サツマイモの苗に限定されるものではない。
図1~
図6は本発明の実施形態の苗の生産方法の一例を工程順に示す模式図である。
図1及び
図2では、3つの本苗10と3つの苗17を示しているが、
図3~
図6では1つの本苗10しか示していない。
【0012】
苗の生産方法では、まず、
図1に示すように、サツマイモの本苗10を、例えば、3つ用意する。なお、本苗10の数は、特に限定されるものではなく、少なくとも1つあればよい。
サツマイモの本苗10において、茎11は、通常は、複数の節12及び節12から伸長した複数の葉15を有し、先端部に茎頂部(図示せず)を有する。1枚の葉15は、1個の葉柄13及び1個の葉身14を有する。葉15は、茎11の芽、例えば、頂芽又は腋芽から形成され、生長するにつれて葉柄13が伸長し、葉身14が展開する。茎11において、葉柄13及び展開した葉身14が着生している部分は節12を形成する。
【0013】
本苗10は、苗を繰り返し生産する大本の苗であり、本苗10からは新たな苗17が繰り返し得られる。本苗10は、少なくとも2つの節12を有することが好ましい。節12の数は、2以上20以下であることがより好ましく、さらに好ましくは3以上10以下である。節12の数が2以上20以下であれば、生長せずに枯れてしまう割合が減り、かつ栽培に時間がかかることなく、栽培コストも低減できる。
また、本苗10は、長さが10cm以上70cm以下が好ましく、より好ましくは15cm以上50cm以下であり、さらに好ましくは20cm以上35cm以下である。本苗10の長さが10cm以上70cm以下であれば、生長せずに枯れてしまう割合が減り、かつ栽培に時間がかかることなく、栽培コストも低減できる。
例えば、本苗10は、つる性植物であるサツマイモの種芋から伸びた茎のうち、少なくとも2つの節12を有する茎11の部分を切断して得る。また、切断した茎11の断片から、少なくとも2つの節12を有する茎11を得て、本苗10を得ることもできる。
本苗10を得る方法は、特に限定されるものではない。例えば、本苗10を栽培して得られた苗を、本苗として栽培して、本苗10から伸びた茎11のうち、少なくとも2つの節12を有する茎11を、節12の直下で切断して苗を得ることもできる。
【0014】
次に、得られた本苗10を水耕栽培方式にて栽培する。本苗10の水耕栽培では、例えば、
図2に示すように本苗10を水耕栽培容器20に定植する。
図2に示す定植時では、本苗10は根がない状態である。
水耕栽培容器20には、フロート21が設けられている。フロート21に、複数の穴(図示せず)が設けられており、各穴に培地22が設けられている。培地22に本苗10を差して、本苗10が培地22に保持される。水耕栽培方式にて本苗10を栽培する際に液体肥料24が用いられる。水耕栽培容器20内に液体肥料24が貯留されている。液体肥料24は培地22を経て本苗10に供給される。
上述のように
図2に示す本苗10の定植時では、本苗10は根がない状態であるが、本苗10は栽培されると根(図示せず)が伸びる。例えば、水耕栽培容器20内の液体肥料24に本苗10の根が浸る。
フロート21は、例えば、発泡スチロールで構成される。培地22は、例えば、ウレタン、ロックウール又はスポンジ等で構成される。
【0015】
水耕栽培方式にて本苗10は栽培されて、
図3に示すように生長する。栽培された本苗10の茎11の先端部分16を、例えば、切断部Ctで切断し、切断された茎11の先端部分16から新たな苗17を得る。切断部Ctは、例えば、切断後の本苗10が、少なくとも2つの節12を有し、かつ新たな苗17の長さが10cm以上となるところである。このため、本苗10は、上述の切断部Ctが得られる迄、栽培される。
新たな苗17は、本苗10と同様に節12の数が、2以上20以下であることがより好ましく、さらに好ましくは3以上10以下である。節12の数が2以上20以下であれば、生長せずに枯れてしまう割合が減り、かつ栽培に時間がかかることなく、栽培コストも低減できる。
また、新たな苗17は、長さが10cm以上70cm以下が好ましく、より好ましくは15cm以上50cm以下であり、さらに好ましくは20cm以上35cm以下である。新たな苗17の長さが10cm以上70cm以下であれば、生長せずに枯れてしまう割合が減り、かつ栽培に時間がかかることなく、栽培コストも低減できる。
上述のように切断部Ctで切断された茎11の先端部分16から新たな苗17を得る場合、新たな苗17が少なくとも2つの節12を有する構成であれば、切断した先端部分16を、そのまま新たな苗17としてもよく、切断した先端部分16を、更に切断して新たな苗17としてもよい。
【0016】
なお、
図2に示す本苗10を水耕栽培方式にて栽培するための定植時から、
図3に示す本苗10の切断部Ctでの先端部分16の切断時迄が、苗17の栽培期間である。栽培期間のことを栽培日数ともいう。
ここで、本苗10は、生長すると茎11が2つに分岐することがある。この場合、茎11が2つに分岐して伸びたものも、上述の切断部Ctよりも先の部分に該当すれば、それぞれ先端部分16という。また、先端部分16は、茎11が1つであることに限定されるものではない。
得られた苗17は、サツマイモの栽培に用いられる。なお、得られた苗17は、
図2に示す本苗10と同様に、水耕栽培方式にて栽培してもよい。この場合、得られた苗17が本苗10となり、苗を増やすことができる。また、このようにして得られた苗17から
図1に示す本苗10を得ることもできる。
【0017】
先端部分16を切断した後、
図4に示すように本苗10は残存部分18が残る。例えば、残存部分18は、節12が2つ以上ある。本苗10の残存部分18を継続して水耕栽培方式にて栽培し続ける。本苗10は、例えば、
図5に示すように、残存部分18が生長し、茎11が伸びる。
図5に示す本苗10において、残存部分18(
図4参照)から伸びた茎11の複数の先端部分16を、それぞれ切断部Ctで切断し、切断された先端部分16から新たな苗17を得る。得られた苗17は、サツマイモの栽培に用いられる。また、上述のように得られた苗17は、
図2に示す本苗10と同様に水耕栽培方式にて栽培してもよい。この場合、得られた苗17が本苗10となり、苗を増やすことができる。また、このようにして得られた苗17からも
図1に示す本苗10を得ることもできる。このようにして、苗17を生産する。
苗17の生産は、土を用いることなく、水耕栽培を利用している。水耕栽培では、供給される液体肥料24の濃度が拡散によって均一にされるため、局所的な濃度低下による肥料欠乏が低減されるため、苗17を安定して生産できる。
【0018】
また、上述のように
図5に示す本苗10において、残存部分18(
図4参照)から伸びた茎11の複数の先端部分16を、それぞれ切断部Ctで切断すると、
図6に示す本苗10の残存部分18が残る。例えば、残存部分18は、節12が3つある。
図6に示す残存部分18を水耕栽培方式にて栽培し続ける。すなわち、残存部分18を水耕栽培方式にて栽培する工程を実施する。
次に、
図6に示す残存部分18が生長し、残存部分18から伸びた茎11の先端部分16(
図5参照)を、それぞれ切断部Ct(
図5参照)で切断し、切断した先端部分16から新たな苗17(
図5参照)を得る。すなわち、残存部分18から伸びた茎11の先端部分16を切断し、切断された先端部分16から新たな苗17を得る工程を実施する。
上述の残存部分を水耕栽培方式にて栽培する工程と、切断された先端部分から新たな苗を得る工程とを繰り返し実施して、新たな苗17を繰り返し生産することもできる。上述の2つの工程を繰り返し実施することにより、多くの苗17を安定して生産できる。
【0019】
本苗10の水耕栽培において、複数の本苗10のフロート21における配置は、特に限定されるものではない。例えば、
図7に示すように、四角形の角の位置に本苗10が配置される。
図7では、互いに直交するx方向とy方向において、本苗10は、x方向の配置間隔がPxであり、y方向の配置間隔がPyである。なお、四角形が正方形の場合、配置間隔Pxと配置間隔Pyとは同じである。水耕栽培方式にて複数の本苗10を栽培する際の本苗10の配置間隔が、配置間隔Pxと配置間隔Pyとである。
【0020】
四角形の大きさ、すなわち、本苗10の配置間隔Px、Pyは、特に限定されるものではなく、例えば、13cm未満であることが好ましく、より好ましくは10cm未満である。本苗10の配置間隔の下限は、3cmが好ましく、より好ましくは5cmである。
本苗10の水耕栽培時における配置間隔Px、Pyが13cm未満であれば、苗の生産に必要な面積を小さくできる。一方、配置間隔Px、Pyの下限が3cmであれば、栽培した苗が、苗の切断時にからまることが抑制され、また、苗の生育も良好となる。
本苗10の配置パターンは、上述の
図7に示す四角形に限定されるものではなく、三角形、五角形、及び六角形等の多角形状でもよく、千鳥状でもよい。
なお、本苗10の配置間隔は、方向により配置間隔が異なる場合、配置間隔のうち、最小の配置間隔を、本苗10の配置間隔とする。また、2cm角範囲に複数の本苗10があるときは、これを1つの本苗10と数える。
【0021】
苗は、例えば、白色光を照射して栽培される。白色光は、特に限定されるものではなく、太陽光等の自然光でもよく、人工光でもよい。例えば、太陽光の光合成光量子束密度は1000μmol/(m2s)以上あるが、人工光は100~500μmol/(m2s)程度である。人工光の積算光エネルギーは、太陽光の積算光エネルギーよりかなり低い。なお、光量子束密度は、LI-COR製光量子計LI-250Aを用いて測定できる。
白色光が人工光の場合、光源には、例えば、無機又は有機のLED(Light Emitting Diode)、又はレーザー等の半導体発光素子、蛍光灯、水銀灯、希ガスランプ、無電極ランプ等の放電管、白熱灯等のフィラメント発光機、放射光又は蛍光等のエネルギー遷移によるもの等、白色光を出射する装置を利用できる。なお、光源は、照射範囲を変えるための機構を有する構成でもよい。
【0022】
人工光では、効率の高いLEDを光源に用いて照明するが、光エネルギーをたくさん照射するために、1日の照射時間を長くすることが好ましい。
太陽は年間を通すと平均照射時間/日は12h/日であるが、人工光の植物工場では16h~20h程度照射することができる。人工光は24h照射も可能ではあるが、光を照射していいない期間、すなわち、夜がある方が作物形態が良好であり、葉、又は先端部分に欠陥等の障害が発生しにくい。
人工光の場合、照射時間が16~20時間/日であると、苗の生長が良好であるため好ましい。なお、人工光の場合、光の照射サイクルは24時間に限定されるものではない。
本苗10から得られた苗17についても、本苗10と同様に、白色光を照射して栽培することができる。このため、その詳細な説明は省略する。次に、水耕栽培について詳細に説明する。
【0023】
[水耕栽培]
本苗10又は苗17の栽培に用いられる水耕栽培容器20は、本苗10又は苗17の水耕栽培方法による栽培に用いられるものである。
水耕栽培容器20は、例えば、略箱型の栽培容器であり、水耕栽培容器20の内部は、壁によって囲まれて閉空間となっている。この閉空間内に、本苗10又は苗17の栽培に必要な養分を含有する液体肥料24が所定量溜められており、厳密には水耕栽培容器20内で滞留している。上述のように液体肥料24は培地22を経て本苗10又は苗17に供給される。本苗10又は苗17は、このとき、本苗10又は苗17は根がない状態であるが、本苗10又は苗17は栽培されると根が伸びる。例えば、水耕栽培容器20内の液体肥料24に本苗10又は苗17の根が浸る。
ここで、液体肥料24が水耕栽培容器20内で滞留しているとは、水耕栽培容器20内で液体肥料24を循環させずに留めておくことを意味する。なお、水耕栽培容器20内の液体肥料24が本苗10に吸収される分、及び、水耕栽培容器20から自然に蒸発する分については許容することとする。
【0024】
以上のように、水耕栽培容器20内において液体肥料24が溜められる空間が閉空間となっていることで、液体肥料24への光の照射に起因する藻の発生を良好に抑えることができる。なお、液体肥料24は、水耕栽培容器20内で循環させることが好ましい。循環させる場合、水耕栽培容器20に循環ポンプ(図示せず)が接続されて、液体肥料24が水耕栽培容器20内を循環される。
また、本苗10の栽培期間中、本苗10が配置された水耕栽培容器20を、駆動装置(図示せず)によって回転又は揺動させてもよい。これにより、水耕栽培容器20内の液体肥料24に流れが生じて液体肥料24が攪拌されるために、栽培容器内において根周辺での液体肥料24の濃度低下を抑えることができ、本苗10が根から液体肥料24中の養分を適切に吸収するため、本苗10を良好に栽培させることができる。
【0025】
本苗10は、水耕栽培容器20を用いて水耕栽培方式にて栽培される。本苗10の水耕栽培時の配置間隔Px、Pyは、本苗10が水耕栽培容器20に定植された時点における間隔である。なお、
図2では本苗10を3つしか示していないが、例えば、
図7に示すように水耕栽培容器20には、7×13、合計91個の本苗10が、所定の配置間隔をあけて配置される。
【0026】
液体肥料24は、水等の溶媒に各種の養分を添加して溶解させ、栽培対象のつる性植物の種類に応じて各成分の濃度等が調整されたものである。液体肥料24中の成分としては、窒素(具体的には、アンモニア性窒素、又は硝酸性窒素)、リン酸(P2O5)、加里(K2O)、石灰(CaO)、苦土(MgO)、マンガン(MnO)、ホウ素(B2O3)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)及びモリブデン(Mo)等が挙げられる。
【0027】
水耕栽培容器20の形状については、特に限定されず、例えば、フラスコのようなボトル形状であってもよい。水耕栽培容器20のサイズについても、特に限定されるものではないが、運搬可能なサイズであることが好ましい。水耕栽培容器20の構造についても、特に限定されず、水耕栽培容器20とフロート21とが分離可能な構造でもよく、水耕栽培容器20とフロート21とが一体化した構造でもよい。また、フロート21の穴の形状は、特に限定されるものではなく、円形でも、三角形又は四角形でもよい。
【0028】
水耕栽培容器20の材料も、特に限定されるものではないが、液体肥料24への光の照射に起因する藻の発生を抑える目的から、可視光に対する透過率が10%以下である材料からなる水耕栽培容器20を用いて、本苗10又は苗17を栽培することが好ましい。
水耕栽培容器20の材質としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル-スチレン樹脂(AS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(ABS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、メタクリル樹脂(PMMA)、及びポリエチレンテレフタラート(PET)等のプラスチックが好ましい。
透過率は、公知の測定方法、例えば、積分球付きの分光光度計を用いた測定方法によって測定可能であり、具体的には、積分球の開口に測定対象の材料を配置し、測定光を開口から積分球内に入射させ、球内にて直進又は散乱した光を検出することで透過率を測定することができる。
【0029】
水耕栽培容器20の表面色についても、特に限定されるものではないが、水耕栽培容器20にて光を反射させて本苗10又は苗17の葉茎部分に効果的に光を照射する目的から、白色等のように光に対する反射能が比較的高い色が好ましい。また、透過率を下げることを優先する場合には、水耕栽培容器20の表面色を黒、青、赤、緑及び黄色等とすること好ましく、水耕栽培容器20の表面に対して、染料又は顔料によって光を吸収する加工がなされることが好ましい。
【0030】
<栽培条件等>
水耕栽培では、水耕栽培容器20に供給する液体肥料24の液温が20℃以上であることが好ましく、28℃以上がより好ましい。液体肥料24の液温の上限は、40℃であることが好ましく、より好ましくは35°である。
液体肥料24は、上述の液温内であれば、植物の根部の栄養吸収に障害が起き、生育が大幅に悪くなることを防止できる。
液体肥料24の制御は、電気伝導度(EC;Electric Conductivity)による濃度制御が一般的であり、液体肥料24の濃度の目安として使用する。
液体肥料24は電気伝導度(EC)が高すぎる場合は生長障害が発生したり、形態異常を引き起こすことがある。このため、液体肥料24の電気伝導度(EC)は0.2~2dS/mであることが好ましく、より好ましくは0.3~1.0であり、更に好ましくは0.4~0.7である。液体肥料24の電気伝導度(EC)が0.4~0.7であると、苗の生長がより良好となり、かつ葉の形態異常の発生も更に抑制される。電気伝導度(EC)は、例えば、ECテスターを用いて測定される。
また、液体肥料24の条件については、pHが5~7であることが好ましく、より好ましくは5.8~6.1である。液体肥料24のpHが5~7であれば、生育障害が抑制される、例えば、pHは、pHテスターを用いて測定される。
【0031】
露地栽培の場合、病気又は天候不良等により苗の品質がばらつくことがある。しかしながら、本苗10及び苗17を室内で栽培するのであれば、病気の発生を抑制でき、かつ天候不良も回避できることから、安定して苗17を生産できる。このため、本苗10及び苗17を栽培する水耕栽培は、ビニールハウス、及び閉鎖型植物工場等の室内で実施することが好ましい。
室内温度は、例えば、一般的な植物の水耕栽培を行う温度であり、10℃以上40℃以下である。室内温度は、20℃以上が好ましく、28℃以上がより好ましい。室内温度の上限は、例えば、40℃である。室内温度は、例えば、温度計を用いて測定する。
【0032】
また、本苗10及び苗17を栽培する時の環境湿度が、相対湿度で80%以下であることが好ましい。相対湿度は、例えば、湿度計を用いて測定する。
本苗10及び苗17の栽培時の環境湿度が、相対湿度で80%以下であると、蒸散が抑えられることがなく、生育が遅くなることが抑制され、また、病害も発生しにくいため、好ましい。なお、相対湿度は60~70%がより好ましい。
本苗10及び苗17を室内で水耕栽培を実施する場合でも、相対湿度で80%以下であることが好ましく、相対湿度は60~70%がより好ましい。本苗10及び苗17の栽培時の相対湿度は、加湿器又は除湿器により調整することができる。なお、植物が成長してくると密植状態になるため植物群落内の相対湿度が非常に高くなる。
【0033】
植物の成長を促進するために、本苗10の栽培においても、炭酸ガス濃度を高めることも好適に用いられる。炭酸ガス濃度は経済性及び生育への好影響の観点から、400体積ppm以上10000体積ppm以下が好ましい。より好ましくは900体積ppm以上5000体積ppm以下であり、さらに好ましくは1300体積ppm以上3000体積ppm以下である。低すぎる場合は栄養不足による生育量低下を引き起こすことがある。炭酸ガス濃度は、例えば、二酸化炭素濃度計を用いて測定する。炭酸ガス濃度は、高い方が、光合成効率が高まる。炭酸ガス濃度が高すぎると、人の作業時に、能率が悪くなる。炭酸ガス濃度が高い条件で栽培する場合は、作業時に3000体積ppm以下にすることが好ましい。
従来のように30日周期で切断を行うと、苗と苗とがからまり、作業の手間がかかる。さらに、苗と苗とをほぐす際に、苗が痛むという問題が発生し、苗の品質が低下することになる。一方、栽培期間が短すぎると、先端部分の生長が少なく、切断した苗が生育しにくい。このため、上述の栽培期間は、3~14日であることが好ましい。栽培期間が3~14日であれば、先端部分が十分に生長し、かつ苗と苗とがからまることも抑制される。
なお、苗の生産方法における水耕栽培の方法は、特に限定されるものではなく、DFT(deep flow technique)方式でも、NFT(nutrient film technique)方式でもよく、公知の水耕栽培方法が適宜利用可能である。
【0034】
本発明は、基本的に以上のように構成されるものである。以上、本発明の苗の生産方法について詳細に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良又は変更をしてもよいのはもちろんである。
【0035】
以下、本発明の苗の生産方法の効果について、より具体的に説明する。
以下に示す条件でサツマイモの各品種の苗を、水耕栽培にて栽培した。
<品種>
サツマイモの品種として、高系14号、紅はるか、及びシルクスイートを用いた。
【0036】
<栽培条件>
温度は点灯時24℃、消灯時19℃とした。また、別の条件では、温度は点灯時28℃、消灯時24℃とした。
栽培時の環境湿度を、相対湿度で60~70%とした。
照明には、白色LEDを用い、光強度を250μmol/(m2s)とした。
水耕栽培には、DFT(deep flow technique)栽培設備を用いた。DFT栽培設備は、液体肥料を貯めた水槽に、発泡スチロール製のフロートを浮かべたものである。
【0037】
液体肥料は、下記A液とB液との混合液を用いた。液体肥料については、液体肥料の電気伝導度(EC)を測定して、測定値が電気伝導度(EC)の目標値を0.1下回ったらアップ剤を目標値になるまで加え、測定値が電気伝導度(EC)の目標値を0.1上回ったらダウン剤を目標値になるまで加えた。なお、電気伝導度(EC)の目標値を0.5とし、電気伝導度(EC)は、ECテスターを用いて測定した。
A液:OAT S1(OATアグリオ株式会社製) 1000g
OAT 1号(OATアグリオ株式会社製) 500g
OAT 5号(OATアグリオ株式会社製) 30g
水10L
B液:OAT 2号(OATアグリオ株式会社製) 1000g
水10L
【0038】
また、液体肥料は、pHを5.8~6.1の範囲で調整した。pHの調整には、OATアグリオ株式会社製のpH調整剤(製品名) アップ(上昇用)及びOATアグリオ株式会社製のpH調整剤(製品名) ダウン(下降用)を用いた。pHを測定して、目標値を下回ったら、pH調整剤(製品名) アップ(上昇用)を添加し、上回ったら、pH調整剤(製品名) ダウン(下降用)を添加した。pHは、pHテスターを用いて測定した。
【0039】
<例A>
例Aは、本苗の配置間隔に関するものである。
例Aでは、サイズ1200mm×600mmのフロートに対して、
図7に示すように複数の四角形について、それぞれ角の位置に穴をあけて、複数の穴を設けた。各穴に本苗(さし芽)をしたウレタン培地をセットして、本苗の栽培を実施した。
サンプル1は穴数88、サンプル2は穴数30とした。各穴数について、2つのフロートを栽培した。栽培品種は、シルクスイートと高系14号とした。一定期間栽培した後に、先端部分が25cmまで伸びたものを切断して収穫した。その結果を下記表1に示す。
なお、栽培日数は、28日、37日、49日及び56日とした。栽培に際しては、本苗を植えた後、28日間連続して栽培した。インターバルがある場合には、栽培日数が29日目からインターバルをとった。栽培日数が28日の場合、インターバルはないため、下記表1のインターバル日数の欄に「―」と記した。
なお、下記表1のインターバル日数とは、苗を栽培していない期間のことである。
穴数88は平均配置間隔が9cmであり、穴数30は平均配置間隔が15.5cmであった。
平均配置間隔は、(フロート面積/本苗の数)
1/2で求めた値である。平均配置間隔は、上述の配置間隔である。
なお、本苗の配置では、2cm角範囲に複数の本苗があるときは、これを1つの本苗と数えた。
【0040】
【0041】
上記表1に示すように、穴数が88である本苗の平均配置間隔が9cmの方が、収穫量が多かった。なお、栽培日数28日は、栽培を連続して行った。
【0042】
<例B>
例Bは、湿度に関するものであり、互いに湿度が異なる2つの例(以下、例1及び例2)について試験を行った。
上記栽培条件において、湿度のみを変更して、高系14号を40日間、連続して栽培した。
例1では相対湿度を60~70%とし、例2では相対湿度を80~90%とした。
例1は、本苗を問題なく栽培できたが、例2では、本苗を栽培した際に、葉の異形が発生し、また、本苗の生育も悪かった。
例1は、栽培日数49日で、89本の苗を収穫した。一方、例2では、栽培日数49日で、苗の収穫は40本にとどまった。その後、10日ごとに、苗を収穫したが、例1に比して例2の収穫量が少なかった。
【0043】
<例C>
例Cは、照射時間に関するものである。
上記栽培条件において、温度を点灯時28℃、消灯時24℃とし、高系14号、紅はるか、及びシルクスイートを、照射時間と、栽培日数とを変えて栽培した。その結果を下記表2~4に示す。
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
上記表2~4に示すように、照射時間は、12時間に比して、照射時間が16時間及び20時間の方が、収穫量が多く好ましい。
【符号の説明】
【0048】
10 本苗
11 茎
12 節
13 葉柄
14 葉身
15 葉
16 先端部分
17 苗
18 残存部分
20 水耕栽培容器
21 フロート
22 培地
24 液体肥料
Ct 切断部
Px 配置間隔
Py 配置間隔