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特開2023-90469ハブユニット軸受の組立方法及びハブユニット軸受
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090469
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】ハブユニット軸受の組立方法及びハブユニット軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 43/08 20060101AFI20230622BHJP
   F16C 33/46 20060101ALI20230622BHJP
   F16C 19/38 20060101ALI20230622BHJP
   B60B 35/02 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
F16C43/08
F16C33/46
F16C19/38
B60B35/02 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021205435
(22)【出願日】2021-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】小宮山 洋一郎
【テーマコード(参考)】
3J117
3J701
【Fターム(参考)】
3J117BA10
3J117HA02
3J701AA12
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA21
3J701BA34
3J701BA49
3J701EA02
3J701EA03
3J701EA31
3J701EA36
3J701FA46
3J701GA03
3J701XB03
3J701XB12
3J701XB26
(57)【要約】
【課題】転動体として円すいころを使用したハブユニット軸受に関して、円すいころが脱落しない保持器の構成においても、円すいころの保持器への組み込み作業を容易に行うことができる、ハブユニット軸受の組立方法及びハブユニット軸受を提供する。
【解決手段】脱落防止保持器20aでは、ポケット24の径方向内側の開口部は、円すいころ4aの長手方向の少なくとも中間位置において、円すいころ4aの自転軸よりも内径側に位置しており、その円周方向幅は、円すいころ4aの直径よりも小さくなっており、ポケット24の径方向外側の開口部は、円すいころ4aの長手方向の全域において、円すいころ4aの自転軸よりも外径側に位置しており、その円周方向幅は、円すいころ4aの直径よりも小さく、ポケット24の径方向外側の開口部の円周方向幅は、ポケット24の径方向内側の開口部の円周方向幅よりも小さい。円すいころ4aは、柱部23を変形させて、ポケット24の径方向外側の開口部から挿入される。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に外輪軌道を有する外輪と、
外周面に内輪軌道を有するハブと、
前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に配置された複数の円すいころと、
前記円すいころを転動自在に保持する保持器と、を備え、
前記保持器は、前記円すいころを径方向に脱落不能に保持できるころ脱落防止保持器である、
ハブユニット軸受の組立方法であって、
前記保持器は、小径円環部と、前記小径円環部よりも大きな外径を有する大径円環部と、円周方向に関して等間隔に配置され、前記小径円環部と前記大径円環部とを軸方向に連結する複数の柱部とを備え、円周方向に隣り合う前記柱部同士の間部分を、前記円すいころを転動自在に保持するためのポケットとしたものであり、
前記ポケットの径方向内側の開口部は、前記円すいころの長手方向の少なくとも中間位置において、前記円すいころの自転軸よりも内径側に位置しており、その円周方向幅は、前記円すいころの直径よりも小さくなっており、
前記ポケットの径方向外側の開口部は、前記円すいころの長手方向の全域において、前記円すいころの自転軸よりも外径側に位置しており、その円周方向幅は、前記円すいころの直径よりも小さく、
前記ポケットの径方向外側の開口部の円周方向幅は、前記ポケットの径方向内側の開口部の円周方向幅よりも小さく、
前記円すいころは、前記柱部を変形させて、前記ポケットの径方向外側の開口部から挿入される、
ハブユニット軸受の組立方法。
【請求項2】
前記円すいころの長手方向の中間位置において、前記ポケットの径方向内側の開口部の円周方向幅をA、前記ポケットの径方向外側の開口部の円周方向幅をB、前記円すいころの直径をC、とすると、
A/C=97~99%、B/C=93~97%とする、
請求項1に記載のハブユニット軸受の組立方法。
【請求項3】
前記柱部は、互いに略平行な平坦な円周方向両側面を有する柱部本体と、前記柱部本体の円周方向両側面の径方向外側から円周方向に向かって徐々に先細に突出して前記円すいころの長手方向に沿って延びる一対の爪部を有し、
前記ポケットの径方向内側の開口部の円周方向幅は、前記円周方向に隣り合う柱部の円周方向側面の内径側端部によって規定され、
前記ポケットの径方向外側の開口部の円周方向幅は、前記円周方向に隣り合う柱部の爪部の先端部によって規定される、
請求項1又は2に記載のハブユニット軸受の組立方法。
【請求項4】
前記保持器は、前記小径円環部の外周面から前記柱部の小径円環部側の外周面にかけて面取りが設けられている、
請求項1~3のいずれか1項に記載のハブユニット軸受の組立方法。
【請求項5】
内周面に外輪軌道を有する外輪と、
外周面に内輪軌道を有するハブと、
前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に配置された複数の円すいころと、
前記円すいころを転動自在に保持する保持器と、を備え、
前記保持器は、前記円すいころを径方向に脱落不能に保持できるころ脱落防止保持器である、ハブユニット軸受であって、
前記保持器は、小径円環部と、前記小径円環部よりも大きな外径を有する大径円環部と、円周方向に関して等間隔に配置され、前記小径円環部と前記大径円環部とを軸方向に連結する複数の柱部とを備え、円周方向に隣り合う前記柱部同士の間部分を、前記円すいころを転動自在に保持するためのポケットとしたものであり、
前記ポケットは、径方向外側の開口部と、外径側に向かうに従い互いの間隔が狭くなる方向に傾いた一対の外径側テーパ面と、前記外径側テーパ面の内径側端部と屈曲点を介して接続され、内径側に向かうに従い互いに間隔が狭くなる方向に傾いた一対の内径側テーパ面と、径方向内側の開口部と、を有して略六角形状に形成され、
前記外径側テーパ面の径方向長さは、前記内径側テーパ面の径方向長さより短く、
前記径方向外側の開口部の円周方向幅は、前記径方向内側の開口部の円周方向幅よりも小さく、
前記径方向外側の開口部の円周方向幅、及び前記径方向内側の開口部の円周方向幅は、前記円すいころの直径よりも小さい、
ハブユニット軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持するためのハブユニット軸受の組立方法及びハブユニット軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪は、懸架装置に対して、ハブユニット軸受により回転自在に支持されている。また、重量の嵩む自動車の車輪を回転自在に支持するためのハブユニット軸受には、転動体として円すいころを使用することが行われている。
また、ハブユニット軸受としては、内輪軌道をそれぞれ有する一対の内輪がハブに組み込まれる、いわゆる第一世代や第二世代のハブユニット軸受のほか、近年、部品点数を減らし、コストの低減を図ることなどを目的として、片側の内輪軌道をハブ輪の外周面に直接形成した、いわゆる第三世代と呼ばれるハブユニット軸受が使用されている。
【0003】
単列の円すいころ軸受や、第一世代や第二世代のハブユニット軸受においては、図7に示すように、内輪101に円すいころ102を組み込む際には、保持器103の小径円環部104を鉛直方向下方に向けて設置し、各ポケットに、径方向内側から、円すいころ102を組み付ける。その後、上方から、内輪101が同軸に組み付けられ、複数の円すいころ102が内輪軌道面101aに沿って配置される(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、特許文献2に記載の第三世代のハブユニット軸受200では、図8に示すように、まず、軸方向外側の円すいころ201aと保持器202aとを組み合わせ、これらを外輪203の軸方向外側の外輪軌道203aの内側に配置する。その後、外輪203の軸方向外端部に、外側密封部材204を装着する。次いで、ハブ輪205を、外輪203の内径側に挿入する。
また、軸方向内側の円すいころ201bと保持器202bとを組み合わせ、これらを外輪203の軸方向内側の外輪軌道203bの内側に配置し、さらに、小鍔部を有しない内輪206をハブ輪205に組み込む。
【0005】
このようなハブユニット軸受200を組み立てる際には、軸方向外側の保持器202a、及び、小鍔部を有しない内輪206を使用する軸方向内側の保持器202bは、いずれも単独で円すいころ201a,201bを保持する機能が求められている。このため、図9に示すように、保持器202a,202bは、ポケットの径方向内側の開口部の円周方向幅Win及びポケットの径方向外側の開口部の円周方向幅Woutを円すいころ201a,201bの直径Dよりも小さくし、円すいころ201a,201bをポケット内に組み込む作業は、円すいころ201a,201bをポケットの径方向内側から、柱部207を円周方向に押し拡げるようにして行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-29899号公報
【特許文献2】特開2020-67149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、このような保持器202a,202bは、柱部207によって円すいころ201a、201bを内径側で保持するため、保持器202a,202bの内径が小さくなり、ポケットに円すいころ201a,201bを挿入する際のストロークが長くなる。このため、自動ころ挿入機も大きくなり、保持器202a,202bと円すいころ201a,201bのサイズによっては、自動ころ挿入機を用いた円すいころの組み込み作業が困難になる。
【0008】
本発明は、上述のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、転動体として円すいころを使用したハブユニット軸受に関して、円すいころが脱落しない保持器の構成においても、円すいころの保持器への組み込み作業を容易に行うことができる、ハブユニット軸受の組立方法及びハブユニット軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記の目的は、以下の構成によって達成される。
(1) 内周面に外輪軌道を有する外輪と、
外周面に内輪軌道を有するハブと、
前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に配置された複数の円すいころと、
前記円すいころを転動自在に保持する保持器と、を備え、
前記保持器は、前記円すいころを径方向に脱落不能に保持できるころ脱落防止保持器である、
ハブユニット軸受の組立方法であって、
前記保持器は、小径円環部と、前記小径円環部よりも大きな外径を有する大径円環部と、円周方向に関して等間隔に配置され、前記小径円環部と前記大径円環部とを軸方向に連結する複数の柱部とを備え、円周方向に隣り合う前記柱部同士の間部分を、前記円すいころを転動自在に保持するためのポケットとしたものであり、
前記ポケットの径方向内側の開口部は、前記円すいころの長手方向の少なくとも中間位置において、前記円すいころの自転軸よりも内径側に位置しており、その円周方向幅は、前記円すいころの直径よりも小さくなっており、
前記ポケットの径方向外側の開口部は、前記円すいころの長手方向の全域において、前記円すいころの自転軸よりも外径側に位置しており、その円周方向幅は、前記円すいころの直径よりも小さく、
前記ポケットの径方向外側の開口部の円周方向幅は、前記ポケットの径方向内側の開口部の円周方向幅よりも小さく、
前記円すいころは、前記柱部を変形させて、前記ポケットの径方向外側の開口部から挿入される、
ハブユニット軸受の組立方法。
(2) 前記円すいころの長手方向の中間位置において、前記ポケットの径方向内側の開口部の円周方向幅をA、前記ポケットの径方向外側の開口部の円周方向幅をB、前記円すいころの直径をC、とすると、
A/C=97~99%、B/C=93~97%とする、
(1)に記載のハブユニット軸受の組立方法。
(3) 前記柱部は、互いに略平行な平坦な円周方向両側面を有する柱部本体と、前記柱部本体の円周方向両側面の径方向外側から円周方向に向かって徐々に先細に突出して前記円すいころの長手方向に沿って延びる一対の爪部を有し、
前記ポケットの径方向内側の開口部の円周方向幅は、前記円周方向に隣り合う柱部の円周方向側面の内径側端部によって規定され、
前記ポケットの径方向外側の開口部の円周方向幅は、前記円周方向に隣り合う柱部の爪部の先端部によって規定される、
(1)又は(2)に記載のハブユニット軸受の組立方法。
(4) 前記保持器は、前記小径円環部の外周面から前記柱部の小径円環部側の外周面にかけて面取りが設けられている、
(1)~(3)のいずれかに記載のハブユニット軸受の組立方法。
(5) 内周面に外輪軌道を有する外輪と、
外周面に内輪軌道を有するハブと、
前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に配置された複数の円すいころと、
前記円すいころを転動自在に保持する保持器と、を備え、
前記保持器は、前記円すいころを径方向に脱落不能に保持できるころ脱落防止保持器である、ハブユニット軸受であって、
前記保持器は、小径円環部と、前記小径円環部よりも大きな外径を有する大径円環部と、円周方向に関して等間隔に配置され、前記小径円環部と前記大径円環部とを軸方向に連結する複数の柱部とを備え、円周方向に隣り合う前記柱部同士の間部分を、前記円すいころを転動自在に保持するためのポケットとしたものであり、
前記ポケットは、径方向外側の開口部と、外径側に向かうに従い互いの間隔が狭くなる方向に傾いた一対の外径側テーパ面と、前記外径側テーパ面の内径側端部と屈曲点を介して接続され、内径側に向かうに従い互いに間隔が狭くなる方向に傾いた一対の内径側テーパ面と、径方向内側の開口部と、を有して略六角形状に形成され、
前記外径側テーパ面の径方向長さは、前記内径側テーパ面の径方向長さより短く、
前記径方向外側の開口部の円周方向幅は、前記径方向内側の開口部の円周方向幅よりも小さく、
前記径方向外側の開口部の円周方向幅、及び前記径方向内側の開口部の円周方向幅は、前記円すいころの直径よりも小さい、
ハブユニット軸受。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、転動体として円すいころを使用したハブユニット軸受に関して、円すいころが脱落しない保持器の構成において、円すいころは、柱部を変形させて、ポケットの径方向外側の開口部から挿入されるので、自動ころ挿入機を用いた円すいころの保持器への組み込み作業を容易に行うことができ、また、ポケットの径方向外側の開口部の円周方向幅は、ポケットの径方向内側の開口部の円周方向幅よりも小さくすることにより、内径側の柱部の径方向幅を小さくすることができ、材料の節約、質量やコストの削減を図ることができる。
【0011】
また、本発明によれば、外径側テーパ面の径方向長さは、内径側テーパ面の径方向長さより短く、径方向外側の開口部の円周方向幅は、径方向内側の開口部の円周方向幅よりも小さく、径方向外側の開口部の円周方向幅、及び径方向内側の開口部の円周方向幅は、円すいころの直径よりも小さいので、円すいころの直径部分が径方向外側の開口部を乗り越えると直ぐに内径側テーパ面によって所定位置に保持されるので、外径側からの円すいころの組み立て作業が容易になる。
また、ポケットは、外径側テーパ面と内径側テーパ面との間に屈曲点を有することで、円すいころと保持器との接触面積が特許文献2の形状と比べて減少し、摩擦損失を減少することができるので、低トルク化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るハブユニット軸受を示す、半部断面図である。
図2図2は、所定のポケットに円すいころを組み込んだ、保持器を内径側から斜め上方に見た斜視図である。
図3図3は、保持器の斜視図である。
図4図4は、円すいころが組み込まれた保持器の側面図である。
図5図5は、図4のV-V線に沿った断面図である。
図6図6は、本発明の変形例に係る保持器の一部を破断して示す部分側面図である。
図7図7は、従来のハブユニット軸受において、円すいころ及び保持器を、小鍔部を有する内輪に組み込む過程を説明するための図である。
図8図8は、他の従来のハブユニット軸受の組立工程を説明するための図である。
図9図9は、他の従来のハブユニット軸受の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係るハブユニット軸受の組立方法について、図1図5を用いて説明する。
本実施形態の組立対象となるハブユニット軸受1は、転動体として円すいころを使用した、いわゆる第三世代と呼ばれるハブユニット軸受であり、大型SUV車や商用車などの自動車の車輪を回転自在に支持するために使用するものである。
【0014】
ハブユニット軸受1は、使用状態で回転しない外輪2と、使用状態で車輪及びディスク、ドラムなどの制動用回転体とともに回転するハブ3と、複列の円すいころ4a,4bと、2個の保持器20a,20bと、外側密封部材18と、内側密封部材19とを備えている。
なお、ハブユニット軸受に関して、軸方向外側とは、自動車への組み付け状態で車体の幅方向外側となる、図1の左側を言い、軸方向内側とは、自動車への組み付け状態で車体の幅方向中央側となる、図1の右側を言う。
【0015】
外輪2は、S53Cなどの中炭素鋼製で、略円筒形状を有している。外輪2の外周面の軸方向中間部には、懸架装置のナックルに結合される静止フランジ5を有している。外輪2の内周面には、複列の外輪軌道6a,6bを有している。複列の外輪軌道6a,6bは、それぞれ円すい面形状を有しており、傾斜方向が互いに逆向きである。軸方向外側に位置する外側列の外輪軌道6aは、軸方向外側に向かうほど内径が大きくなり、軸方向内側に位置する内側列の外輪軌道6bは、軸方向内側に向かうほど内径が大きくなる。
【0016】
ハブ3は、外輪2の内径側に外輪2と同軸に配置されており、S53Cなどの中炭素鋼製のハブ輪7と、SUJ2などの高炭素クロム鋼製の内輪8とを組み合わせて構成されている。ハブ3の外周面には、複列の内輪軌道10a,10bを有している。複列の内輪軌道10a,10bは、それぞれ円すい面形状を有しており、傾斜方向が互いに逆向きである。軸方向外側に位置する外側列の内輪軌道10aは、軸方向外側に向かうほど外径が大きくなり、軸方向内側に位置する内側列の内輪軌道10bは、軸方向内側に向かうほど外径が大きくなる。
【0017】
ハブ輪7は、内輪8を外嵌保持する軸部材であり、軸方向外側から順に、パイロット部12と、回転フランジ9と、大鍔部14aと、外側列の内輪軌道10aと、嵌合軸部11とを有している。
【0018】
パイロット部12は、車輪及び制動用回転体を外嵌するためのもので、ハブ輪7の軸方向外側部の径方向中間部から軸方向外側に突出するように設けられており、略円筒形状を有している。回転フランジ9は、車輪及び制動用回転体を取り付けるためのもので、ハブ輪7の軸方向外側部に、径方向外方に突出するように設けられており、略円輪形状を有している。大鍔部14aは、外側列の円すいころ4aの軸方向位置を規制するとともに、外側列の円すいころ4aに作用するアキシャル荷重を支承するためのもので、外側列の内輪軌道10aの軸方向外側に隣接して設けられている。大鍔部14aの軸方向内側面は、径方向外側に向かうほど軸方向内側に向かう方向に傾斜しており、外側列の円すいころ4aの大径側端部と接触対向している。外側列の内輪軌道10aは、ハブ輪7の外周面の軸方向中間部に形成されている。嵌合軸部11は、ハブ輪7の軸方向内側部に設けられており、内輪8が締り嵌めで外嵌されている。嵌合軸部11の外周面とハブ輪7の外周面のうち外側列の内輪軌道10aの軸方向内側に隣接する部分とは、段差面15を介してつながっている。また、嵌合軸部11の軸方向内端部には、径方向外方に折れ曲がったかしめ部16が形成されている。
【0019】
なお、ハブ輪7の軸方向内端部にかしめ部16を形成する構造に代えて、ハブ輪7の軸方向内端部にナットを螺着する構造を採用することもできる。また、本実施形態のハブユニット軸受1は従動輪用であるため、ハブ輪7は中実状に構成されているが、本発明は、駆動輪用のハブユニット軸受にも適用可能である。駆動輪用のハブユニット軸受に適用する場合には、ハブ輪7の径方向中央部に、駆動軸部材であるスプライン軸を係合させるためのスプライン孔を軸方向に貫通するように形成する。
【0020】
内輪8は、円環形状を有しており、ハブ輪7の軸方向内側部に設けられた嵌合軸部11に締り嵌めで外嵌されている。また、内輪8の軸方向外端面は、段差面15に突
き当てられており、内輪8の軸方向内端面は、かしめ部16により抑え付けられている。内輪8は、外周面の軸方向中間部に、内側列の内輪軌道10bを有している。また、内輪8は、内輪軌道10bの軸方向内側に隣接する軸方向内側部に、径方向外方に突出した大鍔部14bを有している。大鍔部14bは、内側列の円すいころ4bが軸方向に脱落するのを防止するとともに、内側列の円すいころ4bに作用するアキシャル荷重を支承する。
【0021】
円すいころ4a,4bは、SUJ2などの高炭素クロム鋼製で、それぞれ円すい形状を有している。円すいころ4a,4bは、複列に配置されており、軸方向外側に位置する外側列の円すいころ4aは、外側列の外輪軌道6aと外側列の内輪軌道10aとの間に後述する保持器20aを介して転動自在に配置され、軸方向内側に位置する内側列の円すいころ4bは、内側列の外輪軌道6bと内側列の内輪軌道10bとの間に後述する保持器20bを介して転動自在に配置されている。外側列の円すいころ4aと内側列の円すいころ4bとには、背面組み合わせ型の接触角とともに予圧が付与されている。
【0022】
外側密封部材18は、外輪2の軸方向外側部の内周面に内嵌固定されており、外輪2の内周面とハブ3の外周面との間に存在する空間17に封入したグリースが、空間17の軸方向外側開口から漏れ出すことを防止するとともに、外部からの泥水や塵埃が空間17に侵入することを防止している。
【0023】
内側密封部材19は、いわゆるカバー部材であり、外輪2の軸方向内側部に内嵌固定されている。内側密封部材19は、金属板製で、全体が有底円筒形状を有しており、外輪2の軸方向内側部の内周面に圧入することで、外輪2の軸方向内側開口を塞いでいる。これにより、空間17に封入したグリースが、外輪2の軸方向内側開口を通じて外部に漏れ出すことを防止するとともに、外部からの泥水や塵埃が空間1713aに侵入することを防止している。なお、内側密封部材19としては、本実施形態のようなカバー部材に代えて、外輪2と内輪8との間に装着する組み合わせシールリングを使用することもできる。
【0024】
ここで、保持器20a,20bは、かご形保持器と呼ばれるもので、合成樹脂製で、全体が部分円すい筒状に構成されている。保持器20a,20bを構成する合成樹脂としては、例えば、ポリアミド46、ポリアミド66などのポリアミド系樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミドイミド(PAI)、熱可塑性ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルニトリル(PEN)などを使用することができる。また、これらの樹脂に、10~50wt%の繊維状充填材(例えば、ガラス繊維や炭素繊維など)を適宜添加することにより、剛性及び寸法精度を向上させることもできる。
【0025】
本実施形態では、外側列の保持器20aと内側列の保持器20bとの両方を、円すいころ4a,4bが、保持器20a,20bのポケット24から抜け落ちるのを防止する構造を有する、ころ脱落防止保持器としている。外側列の保持器20aと内側列の保持器20bとは、互いに同一部品であり、ハブユニット軸受1に対する組み付け方向のみが異なる。このため、以下、外側列の保持器20aのみを対象に詳しく説明する。
【0026】
保持器20aは、円環状の小径円環部21と、小径円環部21よりも大径で円環状の大径円環部22と、円周方向に関して等間隔に配され、小径円環部21と大径円環部22とを軸方向に連結した複数本の柱部23とを備えている。そして、円周方向に隣り合う柱部23同士の間部分を、ポケット24としている。外側列の保持器20aでは、小径円環部21を軸方向内側に配置し、小径円環部21よりも大きな外径を有する大径円環部22を軸方向外側に配置している。なお、内側列の保持器20bでは、小径円環部21を軸方向外側に配置し、大径円環部22を軸方向内側に配置している。
【0027】
柱部23は、小径円環部21から離れるほど径方向外側に向かう方向に傾斜しており、径方向寸法が軸方向全長にわたり大きくなっている。柱部23の小径側端部は、径方向全幅にわたり小径円環部21に連結されているが、柱部23の大径側端部は、径方向外側部のみが大径円環部22に連結されている。このため、柱部23の大径側部は、大径円環部22よりも径方向内方に突出している。柱部23の径方向外側面は、外側列の外輪軌道6aに対して略平行に配置される。また、柱部23の径方向内側面は、外側列の内輪軌道10aに対して略平行に配置される。このため、ポケット24の径方向内側の開口部24aは、円すいころ4aの長手方向の少なくとも中間位置において、円すいころ4aの自転軸X(図5参照)よりも内径側に位置している。一方、ポケット24の径方向外側の開口部24bは、円すいころ4aの長手方向の全域において、円すいころ4aの自転軸Xよりも外径側に位置している。
【0028】
また、柱部23は、互いに略平行な平坦な円周方向両側面(後述する内径側テーパ面に相当)26aを有する平板状の柱部本体26と、柱部本体26の円周方向両側面26aの径方向外側から円周方向に向かって徐々に先細に突出し、円すいころ4aの長手方向に沿って延びる一対の爪部25を有する。
【0029】
そして、円周方向に隣り合う柱部23の円周方向側面26aの内径側端部の弦によって規定される、ポケット24の径方向内側の開口部24aの円周方向幅A(図5参照)を、円すいころ4aの直径よりも小さくしている。このような構成により、円すいころ4aがポケット24から径方向内側に脱落することを防止している。また、本実施形態では、円周方向に隣り合う柱部23の爪部25の先端部によって規定される、ポケット24の径方向外側の開口部24bの円周方向幅B(図5参照)についても、円すいころ4aの直径よりも小さくしている。このため、円すいころ4aは、ポケット24から径方向外側に脱落することも防止される。
【0030】
例えば、図5に示すように、少なくとも円すいころ4aの長手方向の中間位置において、ポケット24の径方向内側の開口部24aの円周方向幅をA、ポケット24の径方向外側の開口部24bの円周方向幅をB、円すいころ4aの直径をC、とすると、A/C=97~99%、B/C=93~97%としている。
【0031】
このように形成された保持器20aは、円すいころ4aを1個ずつ、爪部25を含む柱部23の変形を伴って、ポケット24の外側から挿入するタイプとしている。また、全てのポケット24に円すいころ4aが挿入され、柱部23の変形がしにくくなった状態では、円すいころ4aの外径側において高い保持力を有する。一方、ポケット24の内径側の保持力は、全てのポケット24に円すいころ4aが挿入され、柱部23の変形がしにくくなった状態だけを考慮して設定されればよく、また、柱部23の円周方向側面26aは剛性が高いため、内径側からの円すいころ4aの脱落防止のための大きな重なり代を必要としない。したがって、柱部23の径方向幅を減らすことができ、材料の節約、質量やコストの削減につなげることができる。
この結果、本実施形態の保持器20aでは、ポケット24の径方向外側の開口部24bの円周方向幅は、ポケット24の径方向内側の開口部24aの円周方向幅よりも小さい。
【0032】
また、少なくとも円すいころ4aの長手方向の中間位置において、A/C=97~99%、B/C=93~97%に設定することで、円すいころ4aの挿入性、保持性能を確保しつつ、柱部23の径方向幅を減らし、材料の節約、質量やコストの削減につなげることができる。
【0033】
したがって、ハブユニット軸受の組立方法に関して、保持器20a,20bの柱部23を変形させながら、円すいころ4a,4bがポケット24の径方向外側の開口部24bから挿入されて、保持器20a,20bから円すいころ4a,4bが脱落しないようにして、保持器20a,20bと円すいころ4a,4bとをユニット化することができる。その際、自動ころ挿入機は、保持器20a,20bと円すいころ4a,4bのサイズによらずに、ポケット24の径方向外側の開口部24bから爪部25を越えて円すいころ4a,4bを短いストロークでポケット24に挿入することができる。
また、このユニット化された保持器20a,20b及び円すいころ4a,4bを、図8と同様の工程で、軸方向外側の外輪軌道6a及び内輪軌道10aの間、及び軸方向内側の外輪軌道6b及び内輪軌道10bの間に、それぞれ組み込むことができる。
【0034】
また、図5に示すように、上述した柱部23の構成によって、ポケット24は、径方向外側の開口部24aと、外径側に向かうに従い互いの間隔が狭くなる方向に傾いた一対の外径側テーパ面25aと、外径側テーパ面25aの内径側端部と屈曲点28を介して接続され、内径側に向かうに従い互いに間隔が狭くなる方向に傾いた一対の内径側テーパ面26aと、径方向内側の開口部24bと、を有して略六角形状に形成される。また、外径側テーパ面25aの径方向長さDは、内径側テーパ面の径方向長さEより短く形成される。
【0035】
以上説明したように、本実施形態のハブユニット軸受1の製造方法によれば、円すいころが脱落しない保持器の構成において、円すいころ4a,4bは、柱部23を変形させて、ポケット24の径方向外側の開口部24bから挿入されるので、自動ころ挿入機を用いた円すいころ4a,4bの保持器20a,20bへの組み込み作業を容易に行うことができ、また、ポケット24の径方向外側の開口部24bの円周方向幅は、ポケットの径方向内側の開口部24aの円周方向幅よりも小さくしたので、内径側の柱部23の径方向幅を減らして、材料の節約、質量やコストの削減を図ることができる。
【0036】
また、本実施形態のハブニット軸受1によれば、外径側テーパ面25aの径方向長さDは、内径側テーパ面26aの径方向長さEより短く、径方向外側の開口部24bの円周方向幅Bは、径方向内側の開口部24aの円周方向幅Aよりも小さく、径方向外側の開口部24bの円周方向幅B、及び径方向内側の開口部24aの円周方向幅Aは、円すいころ4aの直径Cよりも小さいので、円すいころ4aの直径部分が径方向外側の開口部24bを乗り越えると直ぐに内径側テーパ面26aによって所定位置に保持されるので、外径側からの円すいころ4aの組み立て作業が容易になる。
また、ポケット24は、外径側テーパ面25aと内径側テーパ面26aとの間に屈曲点28を有することで、円すいころ4aと保持器20aとの接触面積が特許文献2の形状と比べて減少し、摩擦損失を減少することができるので、低トルク化を図ることができる。
【0037】
図6は、本発明の変形例に係る保持器の一部を破断して示す部分側面図である。この変形例の保持器20cでは、小径円環部21の外周面から柱部23の小径円環部側の外周面にかけて面取り27が設けられている。この面取り27の軸方向寸法は、小径円環部21の厚さ(軸方向寸法)の2~3倍とし、ポケット24の径方向外側の開口部24bの途中まで設けられることが好ましい。
【0038】
このような面取り27を設けることで、円すいころ4aを外径側から挿入するために柱部23を変形させた際の保持器20cのポケット24の隅R部(柱部23と小径円環部との繋ぎ目)の応力を緩和することができ、円すいころ4aを組み込む際の保持器20cの破損を防止できる。
なお、この面取り27は、柱部23の周方向変形を容易にするだけであり、全てのポケット24に円すいころ4aが挿入され、柱部23の変形がしにくい状態では、円すいころ4aの保持力の低下につながることはない。
【0039】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものでなく、適宜、変形、改良などが可能である。
例えば、円すいころの脱落を防止するための脱落防止保持器の構造は、上記実施形態のものに限定されず、その機能を発揮できる限りにおいて、その他の構造を採用することができる。
また、外側密封部材及び内側密封部材の構造についても、上記実施形態のものに限定されず、従来から知られた各種構造の密封部材を採用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 ハブユニット軸受
2 外輪
3 ハブ
4a,4b 円すいころ
5 静止フランジ
6a,6b 外輪軌道
7 ハブ輪
8 内輪
9 回転フランジ
10a,10b 内輪軌道
11 嵌合軸部
12 パイロット部
14a,14b 大鍔部
15 段差面
16 かしめ部
17 空間
18 外側密封部材
19 内側密封部材
20a,20b 保持器
21 小径円環部
22 大径円環部
23 柱部
24 ポケット
24a 径方向内側の開口部
24b 径方向外側の開口部
25 爪部
25a 外径側テーパ面
26 柱部本体
26a 内径側テーパ面
図1
図2
図3
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図6
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