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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090488
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】磁石素材切断用治具
(51)【国際特許分類】
   B23D 33/02 20060101AFI20230622BHJP
   B24B 27/06 20060101ALI20230622BHJP
   B24B 41/06 20120101ALI20230622BHJP
【FI】
B23D33/02 Z
B24B27/06 J
B24B41/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021205457
(22)【出願日】2021-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100198247
【弁理士】
【氏名又は名称】並河 伊佐夫
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 恭敬
(72)【発明者】
【氏名】細江 利茂
【テーマコード(参考)】
3C034
3C051
3C158
【Fターム(参考)】
3C034AA13
3C034AA19
3C034BB75
3C034DD20
3C051BB11
3C158AA03
3C158AA18
3C158AB01
3C158AB04
3C158AB08
3C158AB09
3C158CA01
3C158CA02
3C158CB03
(57)【要約】
【課題】接着剤を用いることなく、横断面形状が円弧形状の磁石素材を周方向に沿って円状に並べた状態で固定することが可能な磁石素材切断用治具を提供する。
【解決手段】磁石素材切断用治具10は、シャフト14,15と共に一体に回転可能で、横断面形状が円弧形状の磁石素材Sを周方向に沿って円状に並ぶ形態で複数保持する素材保持部11と、磁石素材Sを前記素材保持部11を構成する部位に押さえ付ける押さえ手段と、を備えている。素材保持部11は、円柱状部12と、円柱状部12の外周面13から径方向外側に突出する脚部43と、外周面13から離間した脚部43の先端側において周方向に張り出し磁石素材Sと対向する対向片45と、を含んで構成されている。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトと共に一体に回転可能で、横断面形状が円弧形状の磁石素材を周方向に沿って円状に並ぶ形態で複数保持する素材保持部と、
前記磁石素材を、前記素材保持部を構成する部位に押さえ付ける押さえ手段と、
を備えた磁石素材切断用治具。
【請求項2】
円柱状部と、周方向に間隔を隔てて複数配置され、前記円柱状部の外周面から径方向外側に突出する脚部と、前記外周面から離間した前記脚部の先端側において周方向に張り出し前記磁石素材と対向する対向片と、を含んで構成された前記素材保持部と、
前記対向片又は前記磁石素材を径方向に移動させ、前記磁石素材を前記円柱状部の外周面又は前記対向片に押さえ付ける前記押さえ手段と、
を備えた、請求項1に記載の磁石素材切断用治具。
【請求項3】
前記脚部および前記対向片を備え、前記円柱状部の径方向に移動可能な外接部材と、
前記外接部材の一端側と他端側にそれぞれ当接して前記外接部材の軸方向の移動を規制する一対の筒状部材と、
前記筒状部材と前記外接部材との当接部に形成され、前記円柱状部の径方向外側に向かうにつれて前記円柱状部の軸方向中心側に近づく方向に所定の傾斜角度で傾斜する傾斜面と、
を備え、
前記一対の筒状部材における軸方向間距離が小さくなる方向への前記筒状部材の移動により前記外接部材の対向片を縮径方向に移動させ、前記磁石素材を前記円柱状部の外周面に押さえ付けて固定する、請求項2に記載の磁石素材切断用治具。
【請求項4】
前記筒状部材の前記素材保持部とは反対側に設けられ、ねじ送り作用により前記筒状部材を軸方向に移動させるナット部材を更に備えた、請求項3に記載の磁石素材切断用治具。
【請求項5】
前記脚部および前記対向片を備えた外接部材とスペーサが軸方向に沿って交互に配置された前記素材保持部と、
軸方向の力が作用していない状態で隣り合う前記外接部材とスペーサとの間に隙間が形成されるように前記外接部材とスペーサとの間に介在させた弾性部材と、
前記素材保持部の軸方向両側にそれぞれ配置され、前記素材保持部の軸方向長さを規制する一対のストッパ部材と、
を備え、
前記隙間が小さくなる方向への前記ストッパ部材の移動により前記弾性部材を径方向外側に膨出させて、これにより前記磁石素材を拡径方向に移動させ、前記磁石素材を前記対向片に押さえ付けて固定する、請求項2に記載の磁石素材切断用治具。
【請求項6】
前記ストッパ部材の前記素材保持部とは反対側に設けられ、ねじ送り作用により前記ストッパ部材を軸方向に移動させるナット部材を更に備えた、請求項5に記載の磁石素材切断用治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は磁石素材切断用治具に関し、詳しくは円弧形状の磁石素材を固定状態に保持する構造に特徴を有する磁石素材切断用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類磁石に代表される金属磁石を製造する際、熱間押出成形等の熱間加工を行うことで、金属磁石を所望の形状に成形するが、比較的小さなサイズの磁石を製造する場合は、製品よりも大きなサイズで磁石素材を成形した後、この磁石素材を切断して、一つの磁石素材から複数の磁石製品を切り出すことが行われている。
【0003】
このような場合の切断加工については、テーブル又は治具に固定した磁石素材に向かって、回転させた円板状の切断刃を相対移動させて磁石素材を切断する方法(下記特許文献1参照)を例示することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-150344号公報
【特許文献2】特開2004-050329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、横断面形状が円弧形状を成し横断面と直交する方向に長く延びた磁石素材から所定長さの複数の円弧状磁石を切り出す場合、接着剤を用いて磁石素材を円柱状の治具周りに円状に並べた状態で固定し、磁石素材を固定させた治具と円板状の切断刃を共に回転させた状態で、前記切断刃を相対的に前記磁石素材の方向に移動させ、治具に固定された状態の磁石素材を切断することが考えられる。
しかしながら治具への固定に接着剤を用いた場合には、接着剤が製造コスト増加の要因になるとともに、接着剤を塗付する作業、接着剤を加熱硬化させる作業、そして非常に手間のかかる接着剤を剥がす作業(接着剤の溶融および磁石の洗浄の作業)が発生してしまう。
なお、円弧形状の磁石製品を切り出す他の方法として、ワイヤー加工を用いてブロック状のインゴットから円弧形状の磁石製品を切り出す方法もあるが(上記特許文献2参照)、加工装置の全体構造が複雑になってしまう。
【0006】
本発明は以上のような事情を背景とし、接着剤を用いることなく、横断面形状が円弧形状の磁石素材を周方向に沿って円状に並べた状態で固定することが可能な磁石素材切断用治具を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
而して本発明の磁石素材切断用治具は、
シャフトと共に一体に回転可能で、横断面形状が円弧形状の磁石素材を周方向に沿って円状に並ぶ形態で複数保持する素材保持部と、
前記磁石素材を、前記素材保持部を構成する部位に押さえ付ける押さえ手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0008】
このように規定された磁石素材切断用治具によれば、接着剤を用いることなく、横断面形状が円弧形状の磁石素材を周方向に沿って円状に並べた状態で固定することが可能であり、シャフトを介して切断装置に取り付けることで、これら磁石素材Sを回転させながら切断して、所定寸法の円弧状磁石の切り出しを行うことができる。また接着剤の使用に伴う作業(接着剤を塗布する作業や接着剤を除去するための洗浄作業等)が不要となり、磁石素材の切断に要する作業を簡略化することができる。
【0009】
本発明の磁石素材切断用治具では、円柱状部と、周方向に間隔を隔てて複数配置され、前記円柱状部の外周面から径方向外側に突出する脚部と、前記外周面から離間した前記脚部の先端側において周方向に張り出し前記磁石素材と対向する対向片と、を含んで構成された前記素材保持部と、
前記対向片又は前記磁石素材を径方向に移動させ、前記磁石素材を前記円柱状部の外周面又は前記対向片に押さえ付ける前記押さえ手段と、を備えるように構成することができる。
【0010】
ここで本発明の磁石素材切断用治具を、
前記脚部および前記対向片を備え、前記円柱状部の径方向に移動可能な外接部材と、
前記外接部材の一端側と他端側にそれぞれ当接して前記外接部材の軸方向の移動を規制する一対の筒状部材と、
前記筒状部材と前記外接部材との当接部に形成され、前記円柱状部の径方向外側に向かうにつれて前記円柱状部の軸方向中心側に近づく方向に所定の傾斜角度で傾斜する傾斜面と、
を備えた構成として、
前記一対の筒状部材における軸方向間距離が小さくなる方向への前記筒状部材の移動により前記外接部材の対向片を縮径方向に移動させ、前記磁石素材を前記円柱状部の外周面に押さえ付けて固定することができる。
このようにすれば、一対の筒状部材の間に配置された複数の外接部材を同時に縮径方向に移動させ、周方向の異なる位置にある複数の磁石素材を同時に固定することができる。
【0011】
更に、前記筒状部材の前記素材保持部とは反対側に、ねじ送り作用により前記筒状部材を軸方向に移動させるナット部材を設けることができる。
このようにすれば、筒状部材の軸方向の移動を容易に行うことができる。
【0012】
また本発明の磁石素材切断用治具を、
前記脚部および前記対向片を備えた外接部材とスペーサが軸方向に沿って交互に配置された前記素材保持部と、
軸方向の力が作用していない状態で隣り合う前記外接部材とスペーサとの間に隙間が形成されるように前記外接部材とスペーサとの間に介在させた弾性部材と、
前記素材保持部の軸方向両側にそれぞれ配置され、前記素材保持部の軸方向長さを規制する一対のストッパ部材と、
を備えた構成として
前記隙間が小さくなる方向への前記ストッパ部材の移動により前記弾性部材を径方向外側に膨出させて、これにより前記磁石素材を拡径方向に移動させ、前記磁石素材を前記対向片に押さえ付けて固定することができる。
このようにすれば、一対のストッパ部材の間に配置された複数の弾性部材を同時に径方向外側に膨出させ、周方向の異なる位置にある複数の磁石素材を同時に固定することができる。
【0013】
更に、前記ストッパ部材の前記素材保持部とは反対側に、ねじ送り作用により前記ストッパ部材を軸方向に移動させるナット部材を設けることができる。
このようにすれば、ストッパ部材の軸方向の移動を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(A)は本発明の磁石素材切断用治具にて保持される磁石素材の斜視図、(B)は(A)の磁石素材から切り出された円弧状磁石の斜視図である。
図2】本発明の一実施形態の磁石素材切断用治具を示した斜視図である。
図3】同磁石素材切断用治具を分解してその主要素を示した斜視図である。
図4】(A)は同磁石素材切断用治具の横断面図、(B)は(A)のB-B断面図である。
図5】同磁石素材切断用治具を用いた切断方法における手順を示した図である。
図6】同磁石素材切断用治具が切断装置に取り付けられた状態を模式的に示した図である。
図7】切断加工時の状態を模式的に示した側面図である。
図8】本発明の他の実施形態の磁石素材切断用治具の斜視図である。
図9】(A)は素材保持部に軸方向の力が作用していない状態の同磁石素材切断用治具をその一部を切り欠いて示した側面図、(B)はその横断面図である。
図10】同磁石素材切断用治具の外接部材とスペーサとOリングを分離して示した図である。
図11】(A)は磁石素材を固定状態に保持した同磁石素材切断用治具の一部を切り欠いて示した側面図、(B)はその横断面図である。
図12】同磁石素材切断用治具を用いた切断方法における手順を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1(A)は、本発明の磁石素材切断用治具にて保持される磁石素材の斜視図である。同図において、Sは希土類-鉄-ボロン系合金からなる磁石素材で、熱間押出成形等の熱間加工で板状に成形されている。
磁石素材Sは、横断面形状が幅寸法W、高さ寸法Hの円弧形状とされ、凹状の内側湾曲面2と凸状の外側湾曲面4を有している。そして、磁石素材Sはその横断面形状を維持した状態で、横断面と直交する方向(長手方向)に長さ寸法Lだけ延びている。磁石素材Sからは、図中点線で示した箇所を切断して、図1(B)で示す長さ寸法L1の複数(本例の場合2個)の円弧状磁石S1を得ることができる。
【0016】
図2は、本発明の一実施形態の磁石素材切断用治具10を示した斜視図である。図2では、磁石素材Sが固定された状態の磁石素材切断用治具(以下、単に治具と称する場合がある)10を示している。
治具10は、磁石素材Sを固定状態で保持した状態で切断装置に取り付けられる。治具10は、切断装置に係合保持されるシャフト14、15と、磁石素材Sを保持する素材保持部11と、を備えており、素材保持部11はシャフト14,15と共に一体に回転可能とされている。
【0017】
素材保持部11は、図3で示すように、円柱状部12と、円柱状部12の外周面13から突出して磁石素材Sの外面4(図1(A)参照)の側から磁石素材Sに当接可能な外接部材31を備えている。
【0018】
円柱状部12は、その軸方向長さが磁石素材Sの長さLよりも長く、円柱状部12の外周面13の曲率半径は磁石素材Sの内側湾曲面2の曲率半径と略同じとされている。円柱状部12の両端からは、それぞれシャフト14、15が同軸状に延び出している。
【0019】
円柱状部12には、図3で示すように、一端12aから他端12bに向けて延び外周面13にて開口する複数(本例では6箇所)の溝39が周方向に所定間隔で放射状に形成されている。この溝39内には円柱状部12とは別体の外接部材31の一部が挿入され、外接部材31は円柱状部12の周方向に移動不能で、円柱状部12の径方向に移動可能な状態で保持されている。
なお、円柱状部12の外周面13の他端12b側には、溝39で区画された領域毎に外周面13から突出する突片18が形成されている。かかる突片18は、磁石素材Sの長手方向の端面と当接して、磁石素材Sの軸方向の位置を規定する位置決め片である。
【0020】
外接部材31は、図3で示すように、脚部43と対向片45を備えている。
脚部43は、円柱状部12と略同じ長さを有する板状の部材である。脚部43は、その側面視において高さが低い両端部43a,43aと、両端部43a,43aよりも高さが高い中央部43bが形成されている。端部43aと中央部43bとの間の部位では、その上面に傾斜面44が形成されている。
【0021】
両端部43a,43aを含む脚部43の、高さの低い基端側の部位は溝39内に収容される。一方、高さの高い中央部43bにおける先端側は円柱状部12の外周面13から突出し、中央部43bの先端側には周方向に張り出して磁石素材Sと対向する対向片45が形成されている。外接部材31における対向片45を備えた部位の横断面形状は略T字状である。
【0022】
外接部材31は、図4(A)で示すように、円柱状部12に形成された複数(本例では6本)の溝39のそれぞれに挿入され、円柱状部12の周りには外周面13と外接部材31とで区画された12箇所の空間40が形成され、かかる空間40内に磁石素材Sが収容される。詳しくは、磁石素材Sの凹状の湾曲面2を円柱状部12の凸状の外周面13に沿わせ、磁石素材Sの長手方向が円柱状部12の軸方向となるように、磁石素材Sが収容される。
【0023】
図2図4(B)で示すように、素材保持部11の一端側と他端側にはそれぞれ筒状部材34,35およびナット部材36,37が設けられている。
筒状部材34,35は、段付きの円筒形状をなし大径部48と小径部49を有している。筒状部材34,35は、シャフト14,15を挿通させた後、大径部48が円柱状部12および外接部材31の端部にそれぞれ外嵌するように取り付けられている。大径部48の軸方向の端部48aは、外接部材31の脚部43に当接して外接部材31における軸方向の移動を規制する。
【0024】
大径部48の端部48aと外接部材31の脚部43との当接部においては、図4(B)の部分拡大図で示すように、脚部43側の傾斜面44と大径部48側の傾斜面50が形成されている。これら傾斜面44,50は、円柱状部12の径方向外側に向かうにつれて円柱状部12の軸方向中心側に近づく方向に所定の傾斜角度θで傾斜する。かかる傾斜面44,50は、部分拡大図における筒状部材34の軸方向(図中右方向)の移動力を、外接部材31の径方向(図中下方向)の移動力に変換する。即ち、本例においては、一対の筒状部材34,35と当接部に設けられた傾斜面44,50が、対向片45を含む外接部材31を径方向に移動させ、磁石素材Sを円柱状部12の外周面13に押さえ付ける押さえ手段を構成する。なお、本例では当接部に傾斜面44,50の両方を形成しているが、場合によっては傾斜面44のみ、もしくは傾斜面50のみ形成することも可能である。
【0025】
ナット部材36,37は、筒状部材34,35の素材保持部11とは反対側に設けられ、シャフト14,15に形成された雄ねじ部16に螺合する。ナット部材36,37は、それぞれ筒状部材34,35の小径部49と当接して、ねじ送り作用により筒状部材34,35を軸方向に移動させることが可能とされている。
なお本例では、筒状部材34,35を共に軸方向に移動可能としているが、例えば一方の筒状部材35を軸方向に移動不能に構成し、筒状部材34のみをナット部材36のねじ送り作用に基づいて軸方向に移動させる構成を採用することも可能である。
【0026】
次に、磁石素材切断用治具10を用いた磁石素材Sの切断方法について説明する。
先ず、図5(I)で示すように、一方の筒状部材34を取り外した状態で、円柱状部12の溝39に外接部材31を差し込むことで形成された空間40に磁石素材Sを収容した後、筒状部材34を円柱状部12および外接部材31の端部に外嵌させる。
次に、ナット部材36,37(図4参照)を締め付け、図5(II)で示すように、一対の筒状部材34,35の軸方向間距離が小さくなる方向(図中矢印で示した左右方向)へ筒状部材34,35を移動させると、外接部材31の対向片45が縮径方向(図中下向き)に移動し、磁石素材Sを円柱状部12の外周面13に押し付けて、磁石素材Sを固定する。図5(II)では一個の磁石素材Sが固定された状態を示しているが、筒状部材34,35は円柱状部12に取り付けられた全て(6本)の外接部材31と当接しており、全ての外接部材31が同時に縮径方向に移動し、全て(6個)の磁石素材Sが固定される。その結果、磁石素材Sは周方向に沿って円状に並ぶ形態で素材保持部11に保持される。
【0027】
次に、磁石素材Sが固定された治具10を切断装置20に取り付ける。
図6は、治具10を切断装置20に取り付けた状態を模式的に示した図である(特に治具10を簡略化して表している)。同図で示すように、治具10の一方のシャフト14をチャック21で支持し、他方のシャフト15を振れ止め22で支持する態様で、治具10を回転可能に取り付ける。
【0028】
治具10と対向する位置には、図6で示すように、切断刃ブロック体25が取り付けられている。切断刃ブロック体25には、複数(本例では3枚)の円板状の切断刃26がスペーサ27を介して回転軸28周りに同軸状に取り付けられている。スペーサ27により規定される隣り合う切断刃26同士の間隔は、図1(B)に記載された円弧状磁石S1の寸法L1に対応している。
【0029】
そして、対向する治具10と切断刃ブロック体25を共に回転させた状態で、図5(III)および図7(A)で示すように、切断刃ブロック体25を相対的に治具10の方向に移動させ、磁石素材Sの外周面側から内側に向かって切断刃26を切り込ませる。この例では、図7(A)で示すように、本例では切断刃26を治具10の上方に配置して、回転する治具10の頂部を切断加工点として磁石素材Sの切断を行っている。このときの切断距離をK3で示している。
なお、場合によっては図7(B)で示すように、切断刃26の回転中心O1が治具10の回転中心O2を通る水平線上となるように切断刃26を配置し、切断刃26を水平移動させ切断することも可能である。このようにすることで、図7(A)の切断距離K3に比べて切断距離K4を短くすることが可能である。
【0030】
図5(IV)は切断が完了した状態の治具10を示している。切断完了後は、ナット部材36,37を緩めることで、所定の寸法に切断された円弧状磁石S1を治具10から取り出すことができる。
【0031】
以上のように、本実施形態の磁石素材切断用治具10によれば、接着剤を用いることなく、横断面形状が円弧形状の磁石素材Sを周方向に沿って円状に並べた状態で固定することが可能である。シャフト14,15を介して切断装置に取り付けることで、これら磁石素材Sを回転させながら切断して、所定寸法の円弧状磁石S1の切り出しを行うことができる。また磁石素材切断用治具10によれば、接着剤の使用に伴う作業(接着剤を塗布する作業や接着剤を除去するための洗浄作業等)が不要となり、磁石素材の切断に要する作業を簡略化することができる。
【0032】
本実施形態の磁石素材切断用治具10では、円柱状部12と、円柱状部12の外周面13から径方向外側に突出する脚部43と、脚部43の先端側において周方向に張り出し磁石素材Sと対向する対向片45と、を含んで構成された素材保持部11において、脚部43および対向片45を備えた外接部材31を円柱状部12の径方向に移動可能に設けている。更に、外接部材31の対向片45を縮径方向に移動させ磁石素材Sを円柱状部12の外周面13に押さえ付ける押さえ手段として、一対の筒状部材34,35および傾斜面44,50を備えている。これにより、一対の筒状部材34,35の間に配置された複数の外接部材31を同時に縮径方向に移動させ、周方向の異なる位置にある複数の磁石素材Sを同時に固定することができる。
【0033】
また本実施形態の磁石素材切断用治具10では、筒状部材34,35の素材保持部11とは反対側に、ねじ送り作用により筒状部材34,35を軸方向に移動させるナット部材36,37を備えており、筒状部材34,35の軸方向の移動を容易に行うことができる。
【0034】
次に、図8図12に基づいて本発明の他の実施形態の磁石素材切断用治具について説明する。磁石素材切断用治具10Bは、図9(A)で示すように、複数の外接部材61およびスペーサ71が軸方向に沿って交互に配置され、磁石素材Sを保持する素材保持部11が構成されている。これら外接部材61およびスペーサ71は、シャフト58の軸方向に移動可能とされている。
【0035】
外接部材61は、図10で示すように、リング状の部材で、径方向外側の外周面64からは周方向に等間隔で脚部43が突出し、脚部43の先端側には周方向に張り出し磁石素材Sと対向する対向片45が形成されている。外接部材61の外周面64、脚部43および対向片45で区画された空間65(図9(B)参照)内には磁石素材Sが収容される。
外接部材61の中心部には、シャフト58を挿通させるための貫通穴62が形成されている。ここでシャフト58は、図9(A)で示すシャフトの端部14,15およびフランジ59を一体に備えた部材で、外接部材61およびスペーサ71と嵌合する部位にはキー58aを備えている。外接部材61の貫通穴62には、このキー58aと嵌合可能なキー溝62aが形成されて、軸方向に配置された複数の外接部材61における周方向の位置が揃えられるとともに、シャフト58が回転する際には外接部材61も一体に回転するように構成されている。
【0036】
スペーサ71も、図10で示すように、リング状の部材で、その中心部にはシャフト58を挿通させるための貫通穴72が形成されている。
一方、径方向外側の外周面64と端面75,76とが交わる隅角部には、周方向に亘って切り欠かれた切欠き部77,78が形成されている。切欠き部77,78には、それぞれ弾性部材としてのOリング81が装着されている。
【0037】
Oリング81は、ゴム製もしくは樹脂製で、断面形状が円形状のリングである。Oリング81は、図9(A)の部分拡大図で示すように、素材保持部11を構成する外接部材61とスペーサ71に軸方向の力が作用していない状態において、隣り合う外接部材61とスペーサ71との間に隙間δが形成されるように、そのサイズ(直径)が規定されている。
【0038】
素材保持部11の軸方向両側には、シャフト58とは別体に構成され、シャフト58に沿って軸方向に移動可能な一対のストッパ部材84,85が配置されている。ストッパ部材84,85は素材保持部11の端面と当接して素材保持部11の軸方向長さを規制する。
本例では、隙間δが小さくなる方向へのストッパ部材84,85の移動により、Oリング81を軸方向に圧縮させることで、図11(A)の部分拡大図で示すように、Oリング81を径方向外側に膨出させて、これにより磁石素材Sを拡径方向(部分拡大図における図中上方向)に移動させることができる。即ち、本例においては、一対のストッパ部材84,85と、素材保持部11内に配置されたOリング81が磁石素材Sを径方向に移動させ、磁石素材Sを対向片45に押さえ付ける押さえ手段を構成する。
【0039】
ナット部材88は、ストッパ部材84の素材保持部11とは反対側に設けられ、シャフト58に形成された雄ねじ部16に螺合する。ナット部材88は、フランジ部89を有し、ストッパ部材84と当接した状態からの更なるねじ送り作用によりストッパ部材84を軸方向(図中右方向)に移動させることが可能とされている。なお、もう一方のストッパ部材85は、シャフト58と一体に形成されたフランジ59と当接して軸方向(図中右方向)の移動が規制されている。
【0040】
次に磁石素材切断用治具10Bを用いた磁石素材Sの切断方法について説明する。
先ず、図12(I)で示すように、素材保持部11に軸方向の力が作用しておらず隙間δが形成されている状態の磁石素材切断用治具10Bにおいて、素材保持部11に形成された空間65に磁石素材Sを収容する。
【0041】
次に、ナット部材88を締め付け方向に回転させ、図12(II)で示すように、ストッパ部材84を、隙間δが小さくなる方向(図中右方向)に移動させると、Oリング81が軸方向に圧縮され、Oリング81は径方向外側に膨出する(図11(A)の部分拡大図参照)。これにより磁石素材Sが拡径方向に移動し、磁石素材Sは対向片45に押さえ付けられて固定される。
【0042】
次に、磁石素材Sが固定された治具10Bを切断装置20に取り付ける(図6参照)。そして治具10Bと切断刃ブロック体25を共に回転させた状態で、切断刃ブロック体25を相対的に治具10B(磁石素材S)の方向に移動させ、切断刃26を磁石素材Sの外周面側から内側に向かって切り込ませる(図12(III)参照)。
切断完了後は、ナット部材88を緩めることで、所定の寸法に切断された円弧状磁石S1を治具10Bから取り出すことができる。
【0043】
以上のように、本実施形態の磁石素材切断用治具10Bは、脚部43および対向片45を備えた外接部材61とスペーサ71が軸方向に沿って交互に配置された素材保持部11と、外接部材61とスペーサ71との間に隙間δが形成されるように介在させたOリング81と、素材保持部11の軸方向両側にそれぞれ配置され、素材保持部11の軸方向長さを規制する一対のストッパ部材84,85と、を備えている。そして隙間δが小さくなる方向へのストッパ部材84の移動によりOリング81を径方向外側に膨出させて、これにより磁石素材Sを拡径方向に移動させ、磁石素材Sを対向片45に押さえ付けて固定する。磁石素材切断用治具10Bによれば、一対のストッパ部材84,85の間に配置された複数のOリング81を同時に径方向外側に膨出させ、周方向の異なる位置にある複数の磁石素材Sを同時に固定することができる。
【0044】
また本実施形態の磁石素材切断用治具10Bでは、ストッパ部材84の素材保持部11とは反対側に、ねじ送り作用によりストッパ部材84を軸方向に移動させるナット部材88を備えており、ストッパ部材84の軸方向の移動を容易に行うことができる。
【0045】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれらはあくまでも一例示である。例えば本発明の磁石素材切断用治具における円柱状部の大きさや対向片の形状は、保持対象の磁石素材の大きさや形状に合わせて適宜変更可能である。また、磁石素材を素材保持部を構成する部位に押さえ付ける押さえ手段についても上記実施形態とは異なる構成を適宜採用可能である。また本発明の磁石素材切断用治具は、希土類磁石以外の金属磁石からなる磁石素材の切断にも適用可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において様々変更を加えた形態で構成可能である。
【符号の説明】
【0046】
2 内側湾曲面
10,10B 磁石素材切断用治具
11 素材保持部
12 円柱状部
13 外周面
14,15,58 シャフト
31,61 外接部材
34,35 筒状部材
36,37,88 ナット部材
43 脚部
44,50 傾斜面
45 対向片
71 スペーサ
81 Oリング(弾性部材)
84,85 ストッパ部材
S 磁石素材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12