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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090504
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】電力変換装置、および、制御回路
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20230622BHJP
【FI】
H02M7/48 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021205476
(22)【出願日】2021-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】宇田 尚哉
(72)【発明者】
【氏名】西尾 隆平
(72)【発明者】
【氏名】大堀 彰大
(72)【発明者】
【氏名】宗近 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 純子
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770DA03
5H770DA41
5H770EA01
5H770HA02Z
5H770HA03Z
5H770HA09Z
5H770KA01W
5H770KA01Y
5H770LA02Z
5H770LA05Z
5H770LA06Z
5H770LB01
5H770LB09
(57)【要約】
【課題】ハードウエアに制限を設けることなく、ノイズフィルタの磁気飽和を抑制できる電力変換装置を提供する。
【解決手段】電力変換装置A1において、直流電力を入力されて三相交流電力を出力するインバータ回路1と、インバータ回路1の入力側に配置される直流側対地ノイズフィルタ3と、インバータ回路1の出力側に配置される交流側対地ノイズフィルタ4と、インバータ回路1が出力する各相電圧の波形を指令する指令信号Xu1,Xv1,Xw1を、複数の基準信号を切り替えることで生成する指令信号生成部22と、指令信号Xu1,Xv1,Xw1に基づいてPWM信号P1~P3を生成して、インバータ回路1に出力するPWM信号生成部23とを備えた。指令信号Xu1,Xv1,Xw1の各波形は、垂直に立ち上がる部分、および、垂直に立ち下がる部分を含まない。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力を入力されて三相交流電力を出力するインバータ回路と、
前記インバータ回路の入力側に配置される直流側対地ノイズフィルタと、
前記インバータ回路の出力側に配置される交流側対地ノイズフィルタと、
前記インバータ回路が出力する各相電圧の波形を指令する3個の指令信号を、複数の基準信号を切り替えることで生成する指令信号生成部と、
前記3個の指令信号に基づいて3個のPWM信号を生成して、前記インバータ回路に出力するPWM信号生成部と、
を備え、
前記3個の指令信号の各波形は、垂直に立ち上がる部分、および、垂直に立ち下がる部分を含まない、
電力変換装置。
【請求項2】
前記3個の指令信号の各波形は、最大値で固定される最大値固定期間と、最小値で固定される最小値固定期間と、を含み、
前記最大値固定期間と前記最小値固定期間とが同じ長さである、
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記指令信号生成部は、前記複数の基準信号を期間によって切り替え、切り替え時に所定の変移期間の間、切り替え前の基準信号から切り替え後の基準信号に徐々に変化させることで、前記3個の指令信号を生成する、
請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
センサより入力される検出信号とその目標値との偏差に基づいて、3個のフィードバック指令信号を生成するフィードバック制御部をさらに備え、
前記指令信号生成部は、前記複数の基準信号として、前記3個のフィードバック指令信号に基づく6個の線間電圧指令信号と2個の固定信号とを含む、
請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記指令信号生成部は、前記変移期間において、前記切り替え前の信号から前記切り替え後の信号に線型的に変化させる、
請求項3または4に記載の電力変換装置。
【請求項6】
直流電力を入力されて三相交流電力を出力し、かつ、入力側に直流側対地ノイズフィルタが配置され、出力側に交流側対地ノイズフィルタが配置されたインバータ回路内の複数のスイッチング素子の駆動をPWM信号により制御する制御回路であって、
前記インバータ回路が出力する各相電圧の波形を指令する3個の指令信号を、複数の基準信号を切り替えることで生成する指令信号生成部と、
前記3個の指令信号に基づいて3個のPWM信号を生成して、前記インバータ回路に出力するPWM信号生成部と、
を備え、
前記3個の指令信号の各波形は、垂直に立ち上がる部分、および、垂直に立ち下がる部分を含まない、
制御回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置、および、制御回路に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置において、スイッチング損失を低減する方法として、二相変調方式が知られている。二相変調方式では、指令信号(変調波)の波形を工夫することで、各スイッチング素子のスイッチング回数を減少させる。特許文献1には、指令信号を1周期の一部の期間で上限値または下限値に固定された信号とすることで、当該指令信号とキャリア信号(搬送波)とから生成されるPWM信号を所定の期間でローレベルまたはハイレベルを継続する信号とするインバータ装置が開示されている。当該インバータ装置では、PWM信号においてローレベルまたはハイレベルが継続している期間、スイッチング素子はスイッチングを行わない。したがって、当該インバータ装置は、指令信号が通常の正弦波信号(上限値または下限値に固定される期間がない)である場合と比較して、スイッチング素子のスイッチング回数を低減できるので、スイッチング損失を低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-34359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、二相変調方式を用いた場合、指令信号の波形が、垂直に立ち上がる部分、または、垂直に立ち下がる部分を含む波形になる。したがって、電力変換装置から出力される相電圧は、急峻に変化するときがある。このような電力変換装置において、直流側および交流側の両方に、スイッチングノイズの放出を低減するための対地ノイズフィルタを配置すると問題が生じる場合がある。すなわち、相電圧の急峻な変化により、対地ノイズフィルタのコモンモードリアクトルに大きなピークのコモンモード電流が流れる。これにより、コアが磁気飽和してしまい、意図するノイズフィルタとしての効果を失ってしまう場合がある。磁気飽和抑制の方法として、対地ノイズフィルタのインピーダンス値およびキャリア周波数を特定の数式に基づく値に設定する方法などが提案されている。しかし、電力変換装置の大きさなどに制限があると、対地ノイズフィルタのインピーダンス値またはキャリア周波数を所望の値にできない場合がある。
【0005】
本発明は上記した事情のもとで考え出されたものであって、ハードウエアに制限を設けることなく、ノイズフィルタの磁気飽和を抑制できる電力変換装置を提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0007】
本発明の第1の側面によって提供される電力変換装置は、直流電力を入力されて三相交流電力を出力するインバータ回路と、前記インバータ回路の入力側に配置される直流側対地ノイズフィルタと、前記インバータ回路の出力側に配置される交流側対地ノイズフィルタと、前記インバータ回路が出力する各相電圧の波形を指令する3個の指令信号を、複数の基準信号を切り替えることで生成する指令信号生成部と、前記3個の指令信号に基づいて3個のPWM信号を生成して、前記インバータ回路に出力するPWM信号生成部と、を備え、前記3個の指令信号の各波形は、垂直に立ち上がる部分、および、垂直に立ち下がる部分を含まない。
【0008】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記3個の指令信号の各波形は、最大値で固定される最大値固定期間と、最小値で固定される最小値固定期間と、を含み、前記最大値固定期間と前記最小値固定期間とが同じ長さである。
【0009】
前記指令信号生成部は、前記複数の基準信号を期間によって切り替え、切り替え時に所定の変移期間の間、切り替え前の基準信号から切り替え後の基準信号に徐々に変化させることで、前記3個の指令信号を生成する。
【0010】
センサより入力される検出信号とその目標値との偏差に基づいて、3個のフィードバック指令信号を生成するフィードバック制御部をさらに備え、前記指令信号生成部は、前記複数の基準信号として、前記3個のフィードバック指令信号に基づく6個の線間電圧指令信号と2個の固定信号とを含む。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記指令信号生成部は、前記変移期間において、前記切り替え前の信号から前記切り替え後の信号に線型的に変化させる。
【0012】
本発明の第2の側面によって提供される制御回路は、直流電力を入力されて三相交流電力を出力し、かつ、入力側に直流側対地ノイズフィルタが配置され、出力側に交流側対地ノイズフィルタが配置されたインバータ回路内の複数のスイッチング素子の駆動をPWM信号により制御する制御回路であって、前記インバータ回路が出力する各相電圧の波形を指令する3個の指令信号を、複数の基準信号を切り替えることで生成する指令信号生成部と、前記3個の指令信号に基づいて3個のPWM信号を生成して、前記インバータ回路に出力するPWM信号生成部と、を備え、前記3個の指令信号の各波形は、垂直に立ち上がる部分、および、垂直に立ち下がる部分を含まない。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、指令信号生成部は、各相電圧の指令信号として、垂直に立ち上がる部分、および、垂直に立ち下がる部分を含まない波形の信号を生成する。電力変換装置が出力する各相電圧は急峻に変化しないので、大きなコモンモード電流が流れない。これにより、コモンモード電流のピークを抑え、各ノイズフィルタの磁気飽和を抑制できる。また、指令信号の波形を調整するだけなので、ソフトウエアの対策だけで実施でき、電力変換装置のハードウエアに制限を設ける必要がない。
【0014】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態に係る電力変換装置を説明するためのブロック図であり、(a)は電力変換装置の全体構成を示し、(b)はインバータ回路の内部構成を示し、(c)は制御回路の内部構成を示している。
図2】指令信号の波形を説明するための図である。
図3】指令信号の波形を説明するための図である。
図4】指令信号生成処理の一例を示すフローチャートである。
図5】指令信号生成処理の一例を示すフローチャートである。
図6】指令信号とキャリア信号とからPWM信号を生成する方法を説明するための図である。
図7】電力変換装置のシミュレーション結果を示す図である。
図8】指令信号の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
【0017】
〔第1実施形態〕
図1は、第1実施形態に係る電力変換装置A1を説明するためのブロック図である。
同図(a)は、電力変換装置A1の全体構成を示している。同図(b)は、インバータ回路1の内部構成を示している。同図(c)は、制御回路2の内部構成を示している。
【0018】
電力変換装置A1は、図1(a)に示すように、インバータ回路1、制御回路2、直流側対地ノイズフィルタ3、および交流側対地ノイズフィルタ4を備えている。インバータ回路1の入力側には、直流側対地ノイズフィルタ3を介して、直流電源Bが接続されている。インバータ回路1は、三相インバータであり、U相、V相、W相の出力電圧の出力ラインが接続されている。出力ラインは、交流側対地ノイズフィルタ4を介して、三相の電力系統Cに接続している。電力変換装置A1は、いわゆるパワーコンディショナであり、電力系統Cに連系し、直流電源Bが出力する直流電力をインバータ回路1で交流電力に変換して、電力系統Cに供給する。なお、電力変換装置A1には図示しない各種センサが設けられており、制御回路2は当該センサによる検出値に基づいて制御を行う。また、図1においては、変圧回路、DC/DCコンバータ回路、および開閉器などの構成が省略されている。なお、電力変換装置A1の構成は、これに限られない。
【0019】
直流電源Bは、直流電力を出力するものであり、例えば太陽電池を備えている。太陽電池は、太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換することで、直流電力を生成する。直流電源Bは、生成された直流電力を、電力変換装置A1に出力する。なお、直流電源Bは、太陽電池により直流電力を生成するものに限定されない。例えば、直流電源Bは、燃料電池、蓄電池、電気二重層コンデンサやリチウムイオン電池であってもよい。また、ディーゼルエンジン発電機、マイクロガスタービン発電機や風力タービン発電機などにより生成された交流電力を直流電力に変換して出力する装置であってもよい。
【0020】
インバータ回路1は、直流電源Bから入力される直流電力を交流電力に変換して、電力系統Cに出力するものである。インバータ回路1は、スイッチング素子を備えた三相のPWM制御型インバータである。インバータ回路1は、制御回路2から入力されるPWM信号Pに基づいて、各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで、直流電源Bから入力される直流電力を三相交流電力に変換する。
【0021】
図1(b)に示すように、インバータ回路1は、三相のフルブリッジ型であり、6個のスイッチング素子S1~S6を備えている。各スイッチング素子は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)であってもよいし、MOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)、バイポーラトランジスタ、逆阻止サイリスタなどの他のスイッチング素子であってもよい。スイッチング素子S1~S6には、それぞれ環流ダイオードD1~D6が逆並列に接続されている。スイッチング素子S1とスイッチング素子S3、スイッチング素子S2とスイッチング素子S5、および、スイッチング素子S3とスイッチング素子S6がそれぞれ直列接続されてブリッジ構造を形成している。スイッチング素子S1とスイッチング素子S3との接続点には、U相の出力ラインが接続されている。スイッチング素子S2とスイッチング素子S4との接続点には、V相の出力ラインが接続されている。スイッチング素子S3とスイッチング素子S6との接続点には、W相の出力ラインが接続されている。なお、インバータ回路1の具体的な回路構成は限定されない。各スイッチング素子S1~S6には、それぞれ、制御回路2から出力されるPWM信号P(P1~P6)が入力される。なお、各PWM信号の詳細は後述する。
【0022】
制御回路2は、インバータ回路1のスイッチング素子のスイッチングを制御するPWM信号Pを生成するものであり、例えばマイクロコンピュータなどによって実現されている。制御回路2は、図示しない各種センサから検出信号を入力され、インバータ回路1にPWM信号Pを出力する。制御回路2は、各種センサから入力される検出信号に基づいて、いわゆる二相変調方式と同様にして、電力変換装置A1が出力する相電圧の波形を実際に指令するための指令信号Xu1,Xv1,Xw1を生成する。そして、制御回路2は、指令信号Xu1,Xv1,Xw1に基づいてPWM信号Pを生成する。インバータ回路1は、入力されるPWM信号Pに基づいて各スイッチング素子のオンとオフとを切り替えることで、指令信号Xu1,Xv1,Xw1に対応した相電圧を出力する。制御回路2は、指令信号Xu1,Xv1,Xw1の波形を変化させてインバータ回路1が出力する相電圧を変化させることで出力電流を制御している。これにより、制御回路2は、各種フィードバック制御を行っている。制御回路2の詳細な説明は後述する。
【0023】
直流側対地ノイズフィルタ3は、インバータ回路1の入力側に配置されており、直流電源Bに出力されるスイッチングノイズを低減する。直流側対地ノイズフィルタ3は、2本の入力ラインにそれぞれ配置されたリアクトルと、各入力ラインとグランドとを接続するラインにそれぞれ配置されたコンデンサとを備えている。2個のリアクトルは、コモンモードリアクトルを構成している。
【0024】
交流側対地ノイズフィルタ4は、インバータ回路1の出力側に配置されており、電力系統Cに出力されるスイッチングノイズを低減する。交流側対地ノイズフィルタ4は、3本の出力ラインにそれぞれ配置されたリアクトルと、各出力ラインとグランドとを接続するラインにそれぞれ配置されたコンデンサとを備えている。3個のリアクトルは、コモンモードリアクトルを構成している。
【0025】
直流側対地ノイズフィルタ3および交流側対地ノイズフィルタ4は、どちらもグランドに接続されているので、グランドを介して循環するコモンモード電流(図1(a)において矢印で示す)が流れる。大きなコモンモード電流が流れると、コモンモードリアクトルのコア(図示なし)が磁気飽和してしまい、意図するノイズフィルタとしての効果を失ってしまう場合がある。電力変換装置A1は、制御回路2の内部で生成される指令信号Xu1,Xv1,Xw1を工夫することで、コモンモードリアクトルのコアが磁気飽和してしまうことを抑制する。
【0026】
次に、図1(c)、図2図6を参照して、制御回路2の内部構成および詳細な説明を行う。
【0027】
制御回路2は、図1(c)に示すように、フィードバック制御部21、指令信号生成部22、およびPWM信号生成部23を備えている。なお、制御回路2は、過電流、地絡、短絡、単独運転などを検出してインバータ回路1の運転を停止させる構成や、最大電力点追従のための構成なども有しているが、本発明の説明に関係しないので、図1(c)への記載および説明を省略している。
【0028】
フィードバック制御部21は、各種センサより入力される検出信号と予め設定されている目標値との偏差に基づいてフィードバック制御を行い、電力変換装置A1の出力相電圧の波形を指令するためのフィードバック指令信号Xu,Xv,Xwを生成して、指令信号生成部22に出力するものである。フィードバック制御部21で行われるフィードバック制御の詳細については記載を省略している。フィードバック制御部21が行うフィードバック制御は、電力変換装置A1が出力する出力電流や出力電圧、出力有効電力、出力無効電力を制御するものであってもよいし、直流電源Bから入力される直流電圧を制御するものであってもよい。
【0029】
指令信号生成部22は、フィードバック制御部21から入力されるフィードバック指令信号Xu,Xv,Xwに基づいて指令信号Xu1,Xv1,Xw1を生成し、PWM信号生成部23に出力する。指令信号Xu1,Xv1,Xw1は、インバータ回路1が出力する相電圧の波形を実際に指令するための信号である。すなわち、指令信号生成部22は、フィードバック指令信号Xu,Xv,Xwを指令信号Xu1,Xv1,Xw1に変換するものである。指令信号Xu1,Xv1,Xw1の波形は、後述する図2(d)に示す波形Xu1,Xv1,Xw1のように特殊な形状の波形となる。
【0030】
指令信号生成部22は、フィードバック指令信号Xu,Xv,Xwから線間電圧指令信号Xuv,Xvw,Xwuを生成する。線間電圧指令信号Xuvは、V相に対するU相の線間電圧の波形を指令するための信号である。指令信号生成部22は、フィードバック指令信号Xuとフィードバック指令信号Xvとの差分によって線間電圧指令信号Xuvを生成する。線間電圧指令信号Xvwは、W相に対するV相の線間電圧の波形を指令するための信号である。指令信号生成部22は、フィードバック指令信号Xvとフィードバック指令信号Xwとの差分によって線間電圧指令信号Xvwを生成する。線間電圧指令信号Xwuは、U相に対するW相の線間電圧の波形を指令するための信号である。指令信号生成部22は、フィードバック指令信号Xwとフィードバック指令信号Xuとの差分によって線間電圧指令信号Xwuを生成する。本実施形態では、正規化のためにフィードバック指令信号Xu,Xv,Xwの振幅を「1」にしているので(図2(a)参照)、線間電圧指令信号Xuv,Xvw,Xwuの振幅は√(3)になっている(図2(b)参照)。
【0031】
また、指令信号生成部22は、線間電圧指令信号Xuv,Xvw,Xwuの極性を反転させた線間電圧指令信号Xvu,Xwv,Xuwを生成する。なお、指令信号生成部22は、極性を反転させるのではなく、フィードバック指令信号Xvとフィードバック指令信号Xuとの差分によって線間電圧指令信号Xvuを生成し、フィードバック指令信号Xwとフィードバック指令信号Xvとの差分によって線間電圧指令信号Xwvを生成し、フィードバック指令信号Xuとフィードバック指令信号Xwとの差分によって線間電圧指令信号Xuwを生成してもよい。
【0032】
指令信号生成部22は、線間電圧指令信号Xuv,Xvw,Xwu、線間電圧指令信号Xvu,Xwv,Xuw、値が「0」に固定された第1固定信号、および、値が「2」に固定された第2固定信号(これらをまとめて示す場合、「基準信号」と記載する場合がある)を用いて、指令信号Xu1,Xv1,Xw1を生成する。指令信号Xu1,Xv1,Xw1の上限値は、線間電圧指令信号Xuv,Xvw,Xwuの振幅以上の値にする必要がある。したがって、本実施形態では、当該上限値を「2」にするために、値が「2」に固定された第2固定信号を用いている。なお、当該上限値は線間電圧指令信号Xuv,Xvw,Xwuの振幅以上の値であればよいので、設定する変調度に応じて、√(3)以上の所定の値が上限値として設定される。
【0033】
指令信号生成部22は、線間電圧指令信号Xuv,Xvw,Xwu、線間電圧指令信号Xvu,Xwv,Xuw、第1固定信号、および第2固定信号を、期間によって切り替えることで、指令信号Xu1,Xv1,Xw1を生成する。指令信号生成部22は、各信号の切り替え時に、所定の変移期間Txの間、切り替え前の基準信号から切り替え後の基準信号に徐々に変化させることで、指令信号Xu1,Xv1,Xw1を急峻に変化しない信号として生成する。本実施形態では、指令信号生成部22は、変移期間Txにおいて、切り替え前の基準信号から切り替え後の基準信号に線型的に変化させる。なお、変移期間Txは、限定されず、適宜設定可能である。線型的に変化させる場合、変移期間Txを長くするほど、変移期間Txでの指令信号Xu1,Xv1,Xw1の傾きを小さくできる。
【0034】
図2および図3は、指令信号生成部22が生成する指令信号Xu1,Xv1,Xw1の波形を説明するための図である。
【0035】
図2(a)に示す波形Xu,Xv,Xwは、フィードバック指令信号Xu,Xv,Xwの波形をそれぞれ示している。図2(b)に示す波形Xuv,Xvw,Xwuは、線間電圧指令信号Xuv,Xvw,Xwuの波形をそれぞれ示している。図2(c)に示す波形Xvu,Xwv,Xuwは、線間電圧指令信号Xvu,Xwv,Xuwの波形をそれぞれ示している。図2においては、U相のフィードバック指令信号Xuの位相を基準として記載している。
【0036】
図2(d)に示す波形Xu1は、U相の指令信号Xu1の波形である。図3は、波形Xu1の一部を拡大したものである。指令信号Xu1は、モード1~6に分けて生成される。波形Xu1は、モード1(0≦θ≦π/3)においては波形Xuv、モード2(π/3≦θ≦2π/3)においては「2」に固定された波形、モード3(2π/3≦θ≦π)においては波形Xuw、モード4(π≦θ≦4π/3)においては波形Xuvを「2」だけ上方にシフトさせた波形、モード5(4π/3≦θ≦5π/3)においては「0」に固定された波形、モード6(5π/3≦θ≦2π)においては波形Xuwを「2」だけ上方にシフトさせた波形となっている。ただし、波形Xu1は、各モードの切り替え時に、基準信号をそのまま切り替えた波形ではない。各モードの切り替え時に基準信号をそのまま切り替えた場合、図2(d)および図3において破線で示す波形になり、垂直に立ち上がる部分、および、垂直に立ち下がる部分を含む波形になる。波形Xu1は、図3に示すように、各モードが切り替わったときから所定の変移期間Txの間、切り替え前の基準信号から切り替え後の基準信号に徐々に変化させた波形である。これにより、波形Xu1は、垂直に立ち上がる部分、および、垂直に立ち下がる部分を含まない波形になっている。
【0037】
たとえば、図3に示すように、モード1の終了時に波形Xuvは√(3)になっているので、モード2の開始と同時に「2」に変化させると、破線で示すように垂直に立ち上がる波形になる。しかし、波形Xu1は、変移期間Txの間、√(3)から「2」まで線形的に変化するので、垂直に立ち上がらない。同様に、モード4の終了時に波形Xuvを「2」だけ上方にシフトさせた波形は「2-√(3)」になっているので、モード5の開始と同時に「0」に変化させると、破線で示すように垂直に立ち下がる波形になる。しかし、波形Xu1は、変移期間Txの間、「2-√(3)」から「0」まで線形的に変化するので、垂直に立ち下がらない。
【0038】
同様に、図2(d)に示す波形Xv1は、モード1においては「0」に固定された波形、モード2においては波形Xvuを「2」だけ上方にシフトさせた波形、モード3においては波形Xvw、モード4においては「2」に固定された波形、モード5においては波形Xvu、モード6においては波形Xvwを「2」だけ上方にシフトさせた波形となっている。ただし、波形Xv1も、各モードが切り替わったときから所定の変移期間Txの間、切り替え前の基準信号から切り替え後の基準信号に徐々に変化させた波形である。これにより、波形Xv1は、垂直に立ち上がる部分、および、垂直に立ち下がる部分を含まない波形になっている。
【0039】
また、図2(d)に示す波形Xw1は、モード1においては波形Xwv、モード2においては波形Xwuを「2」だけ上方にシフトさせた波形、モード3においては「0」に固定された波形、モード4においては波形Xwvを「2」だけ上方にシフトさせた波形、モード5においては波形Xwu、モード6においては「2」に固定された波形となっている。ただし、波形Xw1も、各モードが切り替わったときから所定の変移期間Txの間、切り替え前の基準信号から切り替え後の基準信号に徐々に変化させた波形である。これにより、波形Xw1は、垂直に立ち上がる部分、および、垂直に立ち下がる部分を含まない波形になっている。
【0040】
図4および図5は、指令信号生成部22が行う、指令信号Xu1,Xv1,Xw1を生成する処理(以下では、「指令信号生成処理」とする。)の一例を示すフローチャートである。指令信号生成処理は、所定のタイミングで実行される。
【0041】
まず、フィードバック指令信号Xu,Xv,Xw、線間電圧指令信号Xuv,Xvw,Xwu、および線間電圧指令信号Xvu,Xwv,Xuwが取得される(S1)。次に、Xuの絶対値がXvの絶対値より大きいか否かが判別される(S2)。Xuの絶対値の方が大きい場合(S2:YES)、Xuの絶対値がXwの絶対値より大きいか否かが判別される(S3)。Xuの絶対値の方が大きい場合(S3:YES)、すなわち、Xuの絶対値が最大の場合、ステップS5に進む。一方、Xuの絶対値がXwの絶対値以下の場合(S3:NO)、すなわち、Xwの絶対値が最大の場合、ステップS6に進む。ステップS2において、Xuの絶対値がXvの絶対値以下の場合(S2:NO)、Xvの絶対値がXwの絶対値より大きいか否かが判別される(S4)。Xvの絶対値の方が大きい場合(S4:YES)、すなわち、Xvの絶対値が最大の場合、ステップS7に進む。一方、Xvの絶対値がXwの絶対値以下の場合(S4:NO)、すなわち、Xwの絶対値が最大の場合、ステップS6に進む。ステップS2~S4では、Xu,Xv,Xwのうち絶対値が最大のものを判定している。
【0042】
Xuの絶対値が最大と判定されてステップS5に進んだ場合、Xuが正の値であるか否かが判別される(S5)。Xuが正の値である場合(S5:YES)、第1処理が行われる(S8)。一方、Xuが「0」以下の場合(S5:NO)、第2処理が行われる(S9)。
【0043】
Xwの絶対値が最大と判定されてステップS6に進んだ場合、Xwが正の値であるか否かが判別される(S6)。Xwが正の値である場合(S6:YES)、第3処理が行われる(S10)。一方、Xwが「0」以下の場合(S6:NO)、第4処理が行われる(S11)。
【0044】
Xvの絶対値が最大と判定されてステップS7に進んだ場合、Xvが正の値であるか否かが判別される(S7)。Xvが正の値である場合(S7:YES)、第5処理が行われる(S12)。一方、Xvが「0」以下の場合(S7:NO)、第6処理が行われる(S13)。
【0045】
つまり、指令信号生成処理は、フィードバック指令信号Xu,Xv,Xwのうち絶対値が最大のものを判定し、絶対値が最大のフィードバック指令信号の正負を判定する。これらの判定は、モード1~6のいずれであるかを判定している。そして、指令信号生成処理は、その判定結果に応じて異なる処理を行う。
【0046】
図5(a)は、第1処理(S8)の一例を示すフローチャートである。
【0047】
第1処理ではまず、変数cが「0」であるか否かが判別される(S21)。変数cは、変移期間Txをカウントするための変数であり、各モードの切り替わり時に「0」に初期化される。変数cは、たとえば、図4に示すフローチャートのステップS2~S7による判定で、判定結果が変化したときに初期化される。変数cが「0」である場合(S21:YES)、モード1からモード2に切り替わったと判断され、指令信号Xu1は、直前のモード1の線間電圧指令信号Xuvとされる(S22)。次に、変数tmpに線間電圧指令信号Xuvが入力される(S23)。図2に示すように、モード1からモード2に切り替わるときの位相θは「π/3」であり、線間電圧指令信号Xuvは「√(3)」なので、変数tmpには「√(3)」が入力される。次に、指令信号Xv1は指令信号Xu1に線間電圧指令信号Xvuを加算した値とされ、指令信号Xw1は指令信号Xu1に線間電圧指令信号Xwuを加算した値とされる(S27)。次に、変数cが「1」増加されて(S28)、第1処理は終了する。
【0048】
ステップS21において、変数cが「0」でなかった場合(S21:NO)、変数cが変移期間Tx以下であるか否かが判別される(S24)。変数cが変移期間Tx以下である場合(S24:YES)、変移期間Txの途中であると判断され、指令信号Xu1は、下記(1)式の演算結果とされる。下記(1)式は、変移期間Txの間に、指令信号Xu1を変数tmpから「2」まで線形的に変化させるための演算式である。次に、指令信号Xv1は指令信号Xu1に線間電圧指令信号Xvuを加算した値とされ、指令信号Xw1は指令信号Xu1に線間電圧指令信号Xwuを加算した値とされる(S27)。次に、変数cが「1」増加されて(S28)、第1処理は終了する。
【数1】
【0049】
ステップS24において、変数cが変移期間Txを超えた場合(S24:NO)、変移期間Txが終了したと判断され、指令信号Xu1は、「2」とされる。次に、指令信号Xv1は指令信号Xu1に線間電圧指令信号Xvuを加算した値とされ、指令信号Xw1は指令信号Xu1に線間電圧指令信号Xwuを加算した値とされる(S27)。次に、変数cが「1」増加されて(S28)、第1処理は終了する。
【0050】
図5(b)は、第2処理(S9)の一例を示すフローチャートである。
【0051】
第2処理ではまず、変数cが「0」であるか否かが判別される(S31)。変数cが「0」である場合(S31:YES)、モード4からモード5に切り替わったと判断され、指令信号Xu1は、直前のモード4の、線間電圧指令信号Xuvに「2」を加算した信号とされる(S32)。次に、変数tmpに、線間電圧指令信号Xuvに「2」を加算した信号が入力される(S33)。図2に示すように、モード4からモード5に切り替わるときの位相θは「(4/3)π」であり、線間電圧指令信号Xuvは「-√(3)」なので、変数tmpには「2-√(3)」が入力される。次に、指令信号Xv1は指令信号Xu1に線間電圧指令信号Xvuを加算した値とされ、指令信号Xw1は指令信号Xu1に線間電圧指令信号Xwuを加算した値とされる(S37)。次に、変数cが「1」増加されて(328)、第2処理は終了する。
【0052】
ステップS31において、変数cが「0」でなかった場合(S31:NO)、変数cが変移期間Tx以下であるか否かが判別される(S34)。変数cが変移期間Tx以下である場合(S34:YES)、変移期間Txの途中であると判断され、指令信号Xu1は、下記(2)式の演算結果とされる。下記(2)式は、変移期間Txの間に、指令信号Xu1を変数tmpから「0」まで線形的に変化させるための演算式である。次に、指令信号Xv1は指令信号Xu1に線間電圧指令信号Xvuを加算した値とされ、指令信号Xw1は指令信号Xu1に線間電圧指令信号Xwuを加算した値とされる(S37)。次に、変数cが「1」増加されて(S38)、第2処理は終了する。
【数2】
【0053】
ステップS34において、変数cが変移期間Txを超えた場合(S34:NO)、変移期間Txが終了したと判断され、指令信号Xu1は、「0」とされる。次に、指令信号Xv1は指令信号Xu1に線間電圧指令信号Xvuを加算した値とされ、指令信号Xw1は指令信号Xu1に線間電圧指令信号Xwuを加算した値とされる(S37)。次に、変数cが「1」増加されて(S38)、第2処理は終了する。
【0054】
第3処理(S10)、第4処理(S11)、第5処理(S12)、第6処理(S13)も同様であり、詳細な説明を省略する。なお、図4および図5のフローチャートに示す処理は一例であって、指令信号生成部22が行う指令信号生成処理は、上述したものに限定されない。
【0055】
指令信号生成処理により生成された、指令信号Xu1,Xv1,Xw1の波形は、図2(d)に示す波形Xu1,Xv1,Xw1のようになる。すなわち、モード2においては、図4のフローチャートにおいてステップS8に進んで第1処理(図5(a)参照)が行われるので、波形Xu1は「2」に固定された波形となり、波形Xv1は波形Xvuを「2」だけ上方にシフトさせた波形となり、波形Xw1は波形Xwuを「2」だけ上方にシフトさせた波形となる。ただし、モード2に切り替わってから変移期間Txの間は、図5(a)のステップS25の演算(上記(1)式参照)により、モード1の終了時の信号から「2」まで、所定の傾きで線型的に上昇する波形になる。また、モード5においては、図4のフローチャートにおいてステップS9に進んで第2処理(図5(b)参照)が行われるので、波形Xu1は「0」に固定された波形となり、波形Xv1は波形Xvuとなり、波形Xw1は波形Xwuとなる。ただし、モード5に切り替わってから変移期間Txの間は、図5(b)のステップS35の演算(上記(2)式参照)により、モード4の終了時の信号から「0」まで、所定の傾きで線型的に下降する波形になる。
【0056】
同様に、モード1においては、ステップS13に進んで第6処理が行われ、波形Xu1は波形Xuvとなり、波形Xv1は「0」に固定された波形となり、波形Xw1は波形Xwvとなる。また、モード3においては、ステップS11に進んで第4処理が行われ、波形Xu1は波形Xuwとなり、波形Xv1は波形Xvwとなり、波形Xw1は「0」に固定された波形となる。モード4においては、ステップS12に進んで第5処理が行われ、波形Xu1は波形Xuvを「2」だけ上方にシフトさせた波形となり、波形Xv1は「2」に固定された波形となり、波形Xw1は波形Xwvを「2」だけ上方にシフトさせた波形となる。モード6においては、ステップS10に進んで第3処理が行われ、波形Xu1は波形Xuwを「2」だけ上方にシフトさせた波形となり、波形Xv1は波形Xvwを「2」だけ上方にシフトさせた波形となり、波形Xw1は「2」に固定された波形となる。モード1,3,4,6においても、モード2,5と同様に、当該モードに切り替わってから変移期間Txの間は、前のモードの終了時の信号から所定の傾きで線型的に上昇または下降する波形になる。
【0057】
図1(c)に戻って、PWM信号生成部23は、その内部で生成される所定の周波数(例えば、4kHz)のキャリア信号(例えば、三角波信号)と、指令信号生成部22から入力される指令信号Xu1,Xv1,Xw1とに基づいてPWM信号Pを生成し、インバータ回路1に出力するものである。
【0058】
指令信号Xu1,Xv1,Xw1は、上限値「2」と下限値「0」との間で変化する(図2(d)参照)。PWM信号生成部23は、指令信号Xu1,Xv1,Xw1の上限値「2」と、指令信号Xu1,Xv1,Xw1の下限値「0」との間で変化するキャリア信号を生成する。PWM信号生成部23は、キャリア信号と指令信号Xu1,Xv1,Xw1とに基づいて、スイッチング素子S1,S2,S3にそれぞれ入力するPWM信号P1,P2,P3を生成する。また、PWM信号生成部23は、PWM信号P1,P2,P3の極性を反転させて、スイッチング素子S4,S5,S6にそれぞれ入力するPWM信号P4,P5,P6を生成する。
【0059】
図6は、指令信号Xu1とキャリア信号とからPWM信号P1,P4を生成する方法を説明するための図である。同図においては、指令信号Xu1を波形X、キャリア信号を波形C、PWM信号P1,P4を波形P1,P4で示している。図6に示すように、キャリア信号の波形Cは「2」と「0」との間で変化する三角波である。PWM信号生成部23は、指令信号Xu1がキャリア信号以上となる期間にハイレベルとなり、指令信号Xu1がキャリア信号より小さい期間にローレベルとなるパルス信号をPWM信号P1として生成する。したがって、図4において、波形Xが波形C以上となる期間に波形P1がハイレベルとなっており、波形Xが波形Cより小さい期間に波形P1がローレベルとなっている。なお、図6は、概念を説明するためのものなので、各キャリア信号(波形C)の周波数が低い場合で記載しているが、実際には各キャリア信号の周波数はもっと高い。また、キャリア信号は三角波信号に限定されない。
【0060】
図6における期間t1(最大値固定期間)では、PWM信号P1(波形P1)がハイレベルに固定され、PWM信号P4(波形P4)がローレベルに固定される。この場合、PWM信号P1,P4がそれぞれ入力されるスイッチング素子S1,S4は、スイッチングを停止する。期間t2(最小値固定期間)では、PWM信号P1(波形P1)がローレベルに固定され、PWM信号P4(波形P4)がハイレベルに固定される。この場合も、スイッチング素子S1,S4は、スイッチングを停止する。
【0061】
なお、PWM信号生成部23の構成は、上述したものに限定されない。指令信号Xu1,Xv1,Xw1から、各スイッチング素子S1~S6をそれぞれ駆動するためのPWM信号P1~P6を生成できるものであれば、他の方法を用いてもよい。例えば、瞬時空間ベクトル選択方式を適用する構成としてもよい。
【0062】
なお、制御回路2は、デジタル回路として実現してもよいし、アナログ回路として実現してもよい。また、各部が行う処理をプログラムで設計し、当該プログラムを実行させることでコンピュータを制御回路2として機能させてもよい。また、当該プログラムを記録媒体に記録しておき、コンピュータに読み取らせるようにしてもよい。
【0063】
本実施形態において、制御回路2の指令信号生成部22は図2(d)に示す波形となる指令信号Xu1,Xv1,Xw1を出力し、PWM信号生成部23は指令信号Xu1,Xv1,Xw1に基づいてPWM信号P1~P6を生成してインバータ回路1に出力する。インバータ回路1は、PWM信号P1~P6に基づいて、スイッチング素子S1~S6のスイッチングを行う。これにより、直流電源Bが出力する直流電力は、交流電力に変換されて出力される。
【0064】
電力変換装置A1が出力する相電圧信号Vu1,Vv1,Vw1の波形は、図2(d)に示す指令信号Xu1,Xv1,Xw1の波形と同様になる。図2から判るように、指令信号Xu1とXv1との差分信号は線間電圧指令信号Xuvに一致する。同様に、指令信号Xv1とXw1との差分信号は線間電圧指令信号Xvwに一致し、指令信号Xw1とXu1との差分信号は線間電圧指令信号Xwuに一致する。したがって、相電圧信号Vu1,Vv1,Vw1の差分信号である線間電圧信号Vuv,Vvw,Vwuの波形は、図2(b)に示す線間電圧指令信号Xuv,Xvw,Xwuの波形Xuv,Xvw,Xwuと同じになる。よって、線間電圧信号Vuv,Vvw,Vwuは三相平衡した正弦波信号となるので、電力系統Cの系統電圧と同期できる。したがって、電力変換装置A1が出力する交流電力を電力系統Cに供給できる。また、電力変換装置A1の出力電流の波形も、正弦波になる。
【0065】
次に、図7を参照して、電力変換装置A1のシミュレーションについて説明する。図7(b)は、電力変換装置A1のシミュレーション結果を示している。一方、図7(a)は、指令信号生成処理において、変移期間Txを設定しなかった場合のシミュレーション結果を示している。図7(a)、(b)において、最も上の段には、電力変換装置A1が出力する各線間電圧信号Vuv,Vvw,Vwuの波形を示し、2段目には交流側の各対地電圧Vg_u,Vg_v,Vg_wの波形を示し、3段目には直流側の各対地電圧Vg_p,Vg_nの波形を示している。4段目には、コモンモード電流の波形を示し、最下段にはU相の指令信号Xu1の波形を示している。なお、V相の指令信号Xv1の波形、および、W相の指令信号Xw1の波形は、図示していないが、指令信号Xu1と同様の形状で位相がずれた波形になる。
【0066】
図7(a)の最下段に示すように、指令信号生成処理において変移期間Txを設定しなかった場合、指令信号Xu1の波形は、モードの切り替え時に垂直に立ち上がり、または、立ち下がる波形になる。この場合でも、各線間電圧信号Vuv,Vvw,Vwuの波形は正弦波になっている。しかし、交流側の各対地電圧Vg_u,Vg_v,Vg_wの波形、および、直流側の各対地電圧Vg_p,Vg_nの波形は、モードの切り替え時に大きく乱れている。また、モードの切り替え時に、コモンモード電流が大きくなっている。
【0067】
一方、図7(b)の最下段に示すように、電力変換装置A1の場合、指令信号Xu1の波形は、垂直に立ち上がる部分、および、垂直に立ち下がる部分を含まない波形になる。この場合、各線間電圧信号Vuv,Vvw,Vwuの波形は正弦波になり、交流側の各対地電圧Vg_u,Vg_v,Vg_wの波形、および、直流側の各対地電圧Vg_p,Vg_nの波形は、乱れの少ない波形になっている。また、モードの切り替え時にも、大きなコモンモード電流が流れていない。
【0068】
以上のように、指令信号生成処理において変移期間Txを設定して、指令信号Xu1(Xv1,Xw1)の波形を垂直に変化する部分を含まない波形にしたことで、コモンモード電流が抑制されていることが解る。
【0069】
次に、本実施形態に係る電力変換装置A1の作用および効果について説明する。
【0070】
本実施形態によると、指令信号生成部22は、指令信号Xu1,Xv1,Xw1として、垂直に立ち上がる部分、および、垂直に立ち下がる部分を含まない波形の信号を生成する。電力変換装置A1が出力する相電圧信号Vu1,Vv1,Vw1の波形は、指令信号Xu1,Xv1,Xw1の波形と同様になり、急峻に変化しないので、大きなコモンモード電流が流れない。これにより、コモンモード電流のピークを抑制して、直流側対地ノイズフィルタ3のコモンモードリアクトルおよび交流側対地ノイズフィルタ4のコモンモードリアクトルの磁気飽和を抑制できる。また、指令信号Xu1,Xv1,Xw1の波形を調整するだけなので、ソフトウエアの対策だけで実施でき、電力変換装置A1のハードウエアに制限を設ける必要がない。つまり、各コモンモードリアクトルのコアの磁気飽和特性の許容範囲が広くなるので、コモンモードリアクトルの選定が容易になる。また、コモンモード電流の断続的なピークを抑制できるので、電力変換装置A1は、コモンモード電流によるノイズを低減できる。
【0071】
また、本実施形態によると、指令信号生成部22は、指令信号Xu1,Xv1,Xw1の生成において、各モードが切り替わったときから所定の変移期間Txの間、切り替え前の基準信号から切り替え後の基準信号に徐々に変化させる。これにより、指令信号生成部22は、指令信号Xu1,Xv1,Xw1を、垂直に立ち上がる部分、および、垂直に立ち下がる部分を含まない波形の信号として生成できる。また、本実施形態によると、指令信号生成部22は、変移期間Txにおいて、切り替え前の基準信号から切り替え後の基準信号に線型的に変化させる。これにより、指令信号生成部22は、変移期間Txにおいて、徐々に変化させることができる。
【0072】
また、本実施形態によると、指令信号Xu1の波形は、図3(d)および図4に示すように、最大値「2」で固定される最大値固定期間と、最小値「0」で固定される最小値固定期間とを含む。PWM信号P1は、最大値固定期間ではハイレベルに固定され、最小値固定期間ではローレベルに固定されるので、これらの期間でスイッチング素子S1のスイッチングを停止させる。PWM信号P4は、最大値固定期間ではローレベルに固定され、最小値固定期間ではハイレベルに固定されるので、これらの期間でスイッチング素子S4のスイッチングを停止させる。したがって、スイッチング素子S1,S4のスイッチングの回数が削減されるので、スイッチングロスを低減できる。また、指令信号Xu1において、最大値固定期間と最小値固定期間とは同じ長さである。したがって、スイッチング素子S1がオン状態になっている時間とスイッチング素子S4がオン状態になっている時間とは同等となる。これにより、スイッチング素子S1とスイッチング素子S4の劣化は同様に進行し、両者の寿命は同等となる。また、両者の発熱量も同等となるので、冷却部材の設計は容易になる。指令信号Xv1、Xw1の波形についても同様である。
【0073】
また、本実施形態によると、指令信号生成部22は、線間電圧指令信号Xuv,Xvw,Xwu、線間電圧指令信号Xvu,Xwv,Xuw、値が「0」に固定された第1固定信号、および、値が「2」に固定された第2固定信号を用いて、指令信号Xu1,Xv1,Xw1を生成する。したがって、指令信号生成部22は、各スイッチング素子を一部の期間で停止させつつ、線間電圧の波形を正弦波にできる指令信号Xu1,Xv1,Xw1を、適切に生成できる。
【0074】
なお、本実施形態においては、指令信号Xu1,Xv1,Xw1の上限値が「2」で下限値が「0」の場合について説明したが、これに限られない。例えば、上限値が「1」で下限値が「-1」となるように、指令信号Xu1,Xv1,Xw1を生成してもよい。この場合、キャリア信号の上限値を「1」、下限値を「-1」とすればよい。
【0075】
本実施形態においては、指令信号生成部22は、切り替え前の基準信号から切り替え後の基準信号に線型的に変化させる場合について説明したが、これに限られない。切り替え前の基準信号から切り替え後の基準信号への変化は、例えば二次曲線などの曲線的な変化であってもよい。上記(1)式および(2)式などの演算式を変更することで、切り替え前の基準信号から切り替え後の基準信号への変化の仕方を変更できる。
【0076】
本実施形態においては、指令信号生成部22は、各モードが切り替わったときから所定の変移期間Txの間に徐々に変化させることで、指令信号Xu1,Xv1,Xw1を生成する場合について説明したが、これに限られない。例えば、図8に示す波形のように、指令信号生成部22は、各モードが切り替わる前の変移期間Txの間に徐々に変化させることで、指令信号Xu1(Xv1,Xw1)を生成してもよい。また、指令信号生成部22は、各モードが切り替わるときを含む変移期間Txの間に徐々に変化させることで、指令信号Xu1(Xv1,Xw1)を生成してもよい。
【0077】
本実施形態においては、指令信号生成部22が、図2(d)に示す波形の指令信号Xu1,Xv1,Xw1を生成する場合について説明したが、これに限られない。指令信号Xu1,Xv1,Xw1の波形は限定されない。指令信号Xu1,Xv1,Xw1は、波形が、モードの切り替え時に基準信号をそのまま切り替えた波形ではなく、切り替え前の基準信号から切り替え後の基準信号に徐々に変化させた波形であればよく、垂直に立ち上がる部分、および、垂直に立ち下がる部分を含まない波形であればよい。
【0078】
本実施形態においては、電力変換装置A1を、パワーコンディショナとして用いた場合を例として説明したが、これに限られない。本発明は、他のシステムの電力変換装置にも適用できる。
【0079】
本発明に係る電力変換装置および制御回路は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る電力変換装置および制御回路の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0080】
A1:電力変換装置、1:インバータ回路、2:制御回路、21:フィードバック制御部、22:指令信号生成部、23:PWM信号生成部、3:直流側対地ノイズフィルタ、4:交流側対地ノイズフィルタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8