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<図1>
  • 特開-光演算装置及び光演算装置の製造方法 図1
  • 特開-光演算装置及び光演算装置の製造方法 図2
  • 特開-光演算装置及び光演算装置の製造方法 図3
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  • 特開-光演算装置及び光演算装置の製造方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090522
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】光演算装置及び光演算装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/18 20060101AFI20230622BHJP
【FI】
G02B5/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021205506
(22)【出願日】2021-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】山岸 裕幸
【テーマコード(参考)】
2H249
【Fターム(参考)】
2H249AA02
2H249AA12
2H249AA45
2H249AA50
2H249AA55
2H249AA68
(57)【要約】
【課題】光回折素子を信号光の光路上に並べる際に透明基板が破損する可能性を低減すること。
【解決手段】光演算装置(1)は、n個のユニットU1~Unを備えている。各ユニットUiは、透明基板(11)、透明基板(11)に形成された光回折素子(12)、及び、一方の主面に凹部が形成され、前記凹部内に開口が形成されたトレイ(13)を含む。各ユニットUiにおいて、光回折素子(12)は、透明基板(11)を介して前記開口と重なるように配置されている。ユニットU1~Unは、積層されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
n個(nは2以上の任意の自然数)のユニットU1~Unを備え、
各ユニットUi(iは1以上n以下の自然数)は、透明基板、前記透明基板の一方の主面に形成された少なくとも1つの光回折素子、及び、前記透明基板よりも厚いトレイであって、一方の主面に凹部が形成され、前記凹部内に開口が形成されたトレイを含み、前記光回折素子が前記透明基板を介して前記開口と重なるように配置された構造であり、
ユニットU1~Unは、ユニットUj(jは1以上n-1以下の自然数)に含まれる前記光回折素子が、平面視において、一段上層のユニットUj+1に含まれる前記トレイに形成された前記開口内に配置されるように積層されている、
ことを特徴とする光演算装置。
【請求項2】
前記透明基板は、ガラス製であり、前記トレイは、金属製である、
ことを特徴とする請求項1に記載の光演算装置。
【請求項3】
nは、3以上の任意の自然数であり、
積層されたn個のユニットU1~Unは、連続して積層されたユニットU1’~Un’(n’は3以上n以下の自然数)を含み、
ユニットUk’(k’は1以上n’-2以下の自然数)に含まれる前記トレイには、ユニットUk’+1に含まれる前記トレイの前記一方の主面と反対側の主面により終端される貫通孔と、ユニットUk’+1に含まれる前記トレイに形成された貫通孔と連通する貫通孔と、が形成されており、
ユニットUn’-1に含まれる前記トレイには、ユニットUn’に含まれる前記トレイの前記一方の主面と反対側の主面により終端される貫通孔が形成されている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光演算装置。
【請求項4】
nは、3以上の任意の自然数であり、
積層されたn個のユニットU1~Unは、連続して積層されたユニットU1’~Un’(n’は3以上n以下の自然数)を含み、
ユニットUk’(k’は1以上n’-2以下の自然数)に含まれる前記トレイには、ユニットUk’+1に含まれる前記トレイに形成された細孔群と連通する細孔群が形成されており、
ユニットUn’-1に含まれる前記トレイには、ユニットUn’に含まれる前記トレイの前記一方の主面と反対側の主面により終端される細孔群が形成されている、
ことを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の光演算装置。
【請求項5】
nは、2以上の任意の自然数であり、
積層されたn個のユニットU1~Unは、連続して積層されたユニットU1’,U2’を含み、
ユニットU1’に含まれる前記トレイには、ユニットU2’に含まれる前記トレイの前記一方の主面と反対側の主面により終端される貫通孔が形成されている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光演算装置。
【請求項6】
前記透明基板の前記一方の主面と反対側の主面は、前記凹部において前記トレイの前記一方の主面に液体を介して密着している、
ことを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載の光演算装置。
【請求項7】
前記トレイは、導電性を有している、
ことを特徴とする請求項1~6の何れか一項に記載の光演算装置。
【請求項8】
前記トレイは、着磁性を有している、
ことを特徴とする請求項1~7の何れか一項に記載の光演算装置。
【請求項9】
前記トレイの外周部には、凹部又は孔が形成されている、
ことを特徴とする請求項1~8の何れか一項に記載の光演算装置。
【請求項10】
前記光回折素子は、厚み又は屈折率が互いに独立に設定された複数のマイクロセルにより構成されている、
ことを特徴とする請求項1~9の何れか一項に記載の光演算装置。
【請求項11】
n個(nは2以上の任意の自然数)のユニットU1~Unを備え、且つ、各ユニットUi(iは1以上n以下の自然数)は、透明基板、前記透明基板の一方の主面に形成された少なくとも1つの光回折素子、及び、前記透明基板よりも厚いトレイであって、一方の主面に凹部が形成され、前記凹部内に開口が形成されたトレイを含み、前記光回折素子が前記透明基板を介して前記開口と重なるように配置された構造である光演算装置の製造方法であって、
積層されたn個のユニットU1~Unは、連続して積層されたユニットU1’~Un’(n’は2以上n以下の自然数)を含み、
ユニットUj’(j’は1以上n’-1以下の自然数)の一段上層にユニットUj’+1が位置するようにユニットU1’~Un’を載置する設置工程と、
ユニットUi’(iは1以上n以下の自然数)に含まれる前記トレイの位置を調整することにより、ユニットUi’に含まれる前記光回折素子の光軸調整を行う調整工程と、
前記光回折素子が光軸調整されたユニットUi’を吸引することによって固定する吸着工程と、を含み、
i’=1からスタートして、i’≦n’である限り前記調整工程と前記吸着工程とを繰り返し実施する、
ことを特徴とする光演算装置の製造方法。
【請求項12】
前記設置工程においては、ユニットUj’の一段上層にユニットUj’+1が位置するようにユニットU1’~Un’を載置するときに、ユニットUj’+1の前記開口の外縁近傍の領域に接着剤を塗布し、
i’=1からi’≦n’まで前記調整工程と前記吸着工程とを繰り返したあとに実施する硬化工程であって、前記接着剤を硬化させることによってユニットU1’~Un’を一体化する硬化工程を更に含む、
ことを特徴とする請求項11に記載の光演算装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光回折素子を含むユニットを複数備えた光演算装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、信号光の光路上にレンズやフィルタなど複数の光学素子を重ねて配置し、これらの光学素子を信号光に順に作用させる技術が開示されている。なお、光学素子の一例としては、厚み又は屈折率が互いに独立に設定された複数のマイクロセルであって、行列状に配置された複数のマイクロセルを含む光回折素子が挙げられる。これらの光回折素子は、信号光に対して透光性を有する透明基板の主面上に設けられている。信号光に対して透光性を有する材料としては、例えば、石英ガラスが挙げられる。
【0003】
光回折素子を信号光に順に作用させる光演算装置においては、各光回折素子の信号光に対する位置及び方向を予め定められた位置及び方向に調整することが重要である。なぜなら、光回折素子の信号光に対する位置及び方向が予め定められた位置及び方向からずれると、所期の作用を信号光に対して及ぼすことが困難になるからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2013/027340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光演算装置の製造方法には、各光回折素子の位置及び方向を調整する工程が含まれる。この工程においては、透明基板をハンドリングせざるを得ず、そのハンドリングに伴い透明基板が破損する場合があった。
【0006】
本願発明の一態様は、上述した課題に鑑みなされたものであり、その目的は、光回折素子を信号光の光路上に並べる際に透明基板が破損する可能性を低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の第1の態様に係る光回折素子は、n個(nは2以上の任意の自然数)のユニットU1~Unを備えている。
【0008】
本光回折素子において、各ユニットUi(iは1以上n以下の自然数)は、透明基板、前記透明基板の一方の主面に形成された少なくとも1つの光回折素子、及び、前記透明基板よりも厚いトレイであって、一方の主面に凹部が形成され、前記凹部内に開口が形成されたトレイを含み、前記光回折素子が前記透明基板を介して前記開口と重なるように、前記凹部内に配置された構造であり、ユニットU1~Unは、ユニットUj(jは1以上n-1以下の自然数)に含まれる前記光回折素子が一段上層のユニットUj+1に含まれる前記トレイに形成された前記開口内に配置されるように積層されている。
【0009】
上記の構成によれば、トレイをハンドリングすることで、光回折素子を信号光の光路上に並べることができる。すなわち、光回折素子を信号光の光路上に並べるために、透明基板をハンドリングする必要がない。このため、光回折素子を信号光の光路上に並べる際に透明基板が破損する可能性を低減することができる。
【0010】
また、本発明の第2の態様に係る光演算装置においては、上述した第1の態様に係る光演算装置の構成に加えて、前記透明基板は、ガラス製であり、前記トレイは、金属製である、構成が採用されている。
【0011】
上記の構成によれば、光回折素子を信号光の光路上に並べる際に透明基板が破損する可能性を更に低減することができる。
【0012】
また、本発明の第3の態様に係る光演算装置においては、上述した第2又は第3の態様に係る光演算装置の構成に加えて、nは、3以上の任意の自然数であり、積層されたn個のユニットU1~Unは、連続して積層されたユニットU1’~Un’(n’は3以上n以下の自然数)を含み、ユニットUk’(k’は1以上n’-2以下の自然数)に含まれる前記トレイには、ユニットUk’+1に含まれる前記トレイの前記一方の主面と反対側の主面により終端される貫通孔と、ユニットUk’+1に含まれる前記トレイに形成された貫通孔と連通する貫通孔と、が形成されており、ユニットUn’-1に含まれる前記トレイには、ユニットUn’に含まれる前記トレイの前記一方の主面と反対側の主面により終端される貫通孔が形成されている、構成が採用されている。
【0013】
上記の構成によれば、ユニットU1’に形成された貫通孔を前記一方の主面と反対側の主面側から吸引することで、ユニットU1~Unに含まれるユニットU1’~Un’を負圧により一体化することができる。
【0014】
また、本発明の第4の態様に係る光演算装置においては、上述した第1~第3の態様の何れか一態様に係る光演算装置の構成に加えて、nは、3以上の任意の自然数であり、積層されたn個のユニットU1~Unは、連続して積層されたユニットU1’~Un’(n’は3以上n以下の自然数)を含み、ユニットUk’(k’は1以上n-2以下の自然数)に含まれる前記トレイには、ユニットUk’+1に含まれる前記トレイに形成された細孔群と連通する細孔群が形成されており、ユニットUn’-1に含まれる前記トレイには、ユニットUn’に含まれる前記トレイの前記一方の主面と反対側の主面により終端される細孔群が形成されている、構成が採用されている。
【0015】
上記の構成によれば、ユニットU1’に形成された細孔群を前記一方の主面と反対側の主面側から吸引することで、ユニットU1~Unに含まれるユニットU1’~Un’を負圧により一体化することができる。
【0016】
なお、細孔群を用いてユニットU1’~Un’を一体化する際のユニット間の吸着力は、貫通孔を用いてユニットを一体化する際のユニット間の吸着力よりも弱くなる。ここで、前記吸着力は、前記圧力と前記有効面積との積により定められる。細孔群は、前記貫通孔よりも直径が小さく且つ各ユニットを貫通する複数の細孔からなる。このように構成された細孔群は、気体の圧力を低下させる機能と、開口の有効面積を減らす機能と、を併せ持つため、前記吸着力を弱めるために好適である。したがって、細孔群を用いてユニットU1’~Un’を一体化した状態で、各ユニットUi’を積層方向と直交する方向に並進させることができる。すなわち、細孔群を用いてユニットU1’~Un’を一体化した状態で、ユニットU1’~Un’に含まれる光回折素子の光軸調整を行うことができる。また、細孔群が形成された領域のうち細孔が設けられていない部分が、ユニットUn’のうち細孔群を終端する領域を支持するため、ユニットUn’のうち細孔群を終端する領域が陰圧により変形するのを防ぐことができる。
【0017】
また、本発明の第5の態様に係る光演算装置においては、上述した第1~第3の態様の何れか一態様に係る光演算装置の構成に加えて、nは、2以上の任意の自然数であり、積層されたn個のユニットU1~Unは、連続して積層されたユニットU1’,U2’を含み、ユニットU1’に含まれる前記トレイには、ユニットU2’に含まれる前記トレイの前記一方の主面と反対側の主面により終端される貫通孔が形成されている、構成が採用されている。
【0018】
上記の構成によれば、ユニットU1’に形成された貫通孔を前記一方の主面と反対側の主面側から吸引することで、ユニットU1~Unに含まれるユニットU1’,U2’を負圧により一体化することができる。
【0019】
また、本発明の第6の態様に係る光演算装置においては、上述した第1~第5の態様の何れか一態様に係る光演算装置の構成に加えて、前記透明基板の前記一方の主面と反対側の主面は、前記凹部において前記トレイの前記一方の主面に液体を介して密着している、構成が採用されている。
【0020】
上記の構成によれば、透明基板を容易にトレイに固定することができる。
【0021】
また、本発明の第7の態様に係る光演算装置においては、上述した第1~第6の態様の何れか一態様に係る光演算装置の構成に加えて、前記トレイは、導電性を有している、構成が採用されている。
【0022】
上記の構成によれば、静電気による光回折素子が損傷を受けるリスクを低減することができる。
【0023】
また、本発明の第8の態様に係る光演算装置においては、上述した第1~第7の態様の何れか一態様に係る光演算装置の構成に加えて、前記トレイは、着磁性を有している、構成が採用されている。
【0024】
上記の構成によれば、ユニットU1’~ユニットUn’を磁力により一体化することができる。
【0025】
また、本発明の第9の態様に係る光演算装置においては、上述した第1~第8の態様の何れか一態様に係る光演算装置の構成に加えて、前記トレイの外周部には、凹部又は孔が形成されている、構成が採用されている。
【0026】
上記の構成によれば、前記凹部又は孔をマニュピュレータの先端に設けられたピンと嵌合させることで、光回折素子の光軸調整を容易に行うことができる。
【0027】
また、本発明の第10の態様に係る光演算装置においては、上述した第1~第9の態様の何れか一態様に係る光演算装置の構成に加えて、前記光回折素子は、厚み又は屈折率が互いに独立に設定された複数のマイクロセルにより構成されている、構成が採用されている。
【0028】
光回折素子の一例としては、このように構成された複数のマイクロセルを用いることができる。
【0029】
上記の課題を解決するために、本発明の第11の態様に係る光演算装置の製造方法は、n個(nは2以上の任意の自然数)のユニットU1~Unを備え、且つ、各ユニットUi(iは1以上n以下の自然数)は、透明基板、前記透明基板の一方の主面に形成された少なくとも1つの光回折素子、及び、前記透明基板よりも厚いトレイであって、一方の主面に凹部が形成され、前記凹部内に開口が形成されたトレイを含み、前記光回折素子が前記透明基板を介して前記開口と重なるように配置された構造である光演算装置の製造方法である。本製造方法により製造される装置において、積層されたn個のユニットU1~Unは、連続して積層されたユニットU1’~Un’(n’は2以上n以下の自然数)を含む。本製造方法は、ユニットUj’(j’は1以上n’-1以下の自然数)の一段上層にユニットUj’+1が位置するようにユニットU1’~Un’を載置する設置工程と、ユニットUi’(iは1以上n以下の自然数)に含まれる前記トレイの位置を調整することにより、ユニットUi’に含まれる前記光回折素子の光軸調整を行う調整工程と、前記光回折素子が光軸調整されたユニットUi’を吸引することによって固定する吸着工程と、を含む。本製造方法においては、i’=1からスタートして、i’≦n’である限り前記調整工程と前記吸着工程とを繰り返し実施する、構成が採用されている。
【0030】
上記の構成によれば、i’=1からスタートして、i’≦n’である限り前記調整工程と前記吸着工程とを繰り返し実施することにより、トレイの位置を調整し終わったユニットUi’を,負圧を用いて順次固定することができる。したがって、ユニットUi’の次にユニットUi’+1に含まれるトレイの位置を調整する場合に、例えばユニットUi’がユニットUi’+1と一緒に動いてしまうことを防止することができる。その結果として、各ユニットUi’に含まれるトレイの位置を調整したユニットU1’~Un’であって、ユニットU1~Unに含まれるユニットU1’~Un’を負圧により一体化することができる。
【0031】
また、本発明の第12の態様に係る光演算装置の製造方法においては、上述した第11の態様に係る光演算装置の製造方法の構成に加えて、前記設置工程においては、ユニットUj’の一段上層にユニットUj’+1が位置するようにユニットU1’~Un’を載置するときに、ユニットUj’+1の前記開口の外縁近傍の領域に接着剤を塗布し、i’=1からi’≦n’まで前記調整工程と前記吸着工程とを繰り返したあとに実施する硬化工程であって、前記接着剤を硬化させることによってユニットU1’~Un’を一体化する硬化工程を更に含む、構成が採用されている。
【0032】
上記の構成によれば、接着剤を用いてユニットU1’~Un’を一体化することができる。したがって、ユニットU1’~Un’の各々が光軸調整された状態でユニットU1’~Un’を保持することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の一態様によれば、光回折素子を信号光の光路上に並べる際に透明基板が破損する可能性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の一実施形態に係る光演算装置の分解斜視図である。
図2図1に示した光演算装置の部分斜視断面図である。
図3図1に示した光演算装置の断面図である。
図4図1に示した光演算装置が備えている各ユニットが備えている光回折素子の一例の斜視図である。
図5図1に示した光演算装置の製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
(光演算装置の基本的構成)
本発明の一実施形態に係る光演算装置1の基本的構成について、図1及び図2を参照して説明する。図1は、光演算装置1の分解斜視図である。図2は、光演算装置1の部分斜視断面図である。なお、図2に示されている断面は、後述するユニットU1~U3のα断面(図1参照)である。
【0036】
光演算装置1は、n個のユニットU1~Unを備えている。ここで、nは、2以上の自然数である。ユニットUiは、透明基板11と、光回折素子12と、トレイ13と、を有している。ここで、iは、1以上n以下の自然数である。なお、図示した例において、nは、3であり、iは、1、2、3である。
【0037】
透明基板11は、透明材料により構成された板状部材である。本実施形態においては、ガラス(より具体的には石英ガラス)により構成された板状部材を、透明基板11として用いている。透明基板11の上面(特許請求の範囲における「一方の主面」)には、少なくとも1つの光回折素子12が形成されている。本実施形態においては、1個の光回折素子12が形成されている。また、光回折素子12の周囲には、スペーサ12aが形成されている。光回折素子12の構造については、参照する図面を代えて後述する。
【0038】
トレイ13は、透明基板11よりも厚い板状部材である。本実施形態においては、トレイ13として、金属(より具体的にはSUS430)により構成された板状部材を、トレイ13として用いている。また、本実施形態においては、トレイ13の主部(トレイ13のうち後述する凸部13eを含まない部分)を平面視した場合の形状として、長方形を採用している。トレイ13の上面(特許請求の範囲における「一方の主面」)には、トレイ13の厚み方向に窪んだ凹部13aが形成されており、凹部13a内には、トレイ13を厚み方向に貫通する開口13bが形成されている。凹部13aの縦横の長さは、透明基板11の縦横の長さよりも長く、開口13bの縦横の長さは、光回折素子12の縦横の長さよりも長い。上述した透明基板11は、光回折素子12が透明基板11を介して開口13bと重なるように、凹部13a内に配置されている。
【0039】
なお、透明基板11の下面とトレイ13の上面(凹部13aの底面)とは、液体を介して密着していることが好ましい。これにより、接着剤を用いるよりも容易に、透明基板11をトレイ13に固定することができる。なお、透明基板11の下面とトレイ13の上面との間に介在させる液体は、例えば、グリセリンを含有した水である。グリセリンには、水よりも揮発しにくく、常温ではほぼ揮発しない。そのため、液体として水のみを用いた場合よりも長期間に亘って、トレイ13に対して透明基板11を密着させることが可能になる。
【0040】
なお、凹部13aの底面には、微細な凹凸が形成されていることが好ましい。透明基板11の下面には、鏡面仕上げが施されている。凹部13aの底面に微細な凹凸を形成することにより、透明基板11と、凹部13aとの隙間に液体を滴下される液体は、毛細管現象により上記隙間を充填する。このとき、液体は、上記隙間に存在していた空気を押し出しながら当該隙間に拡散してくため、トレイ13に対して透明基板11をより強く密着させることができる。また、凹部13aの底面に微細な凹凸を形成することにより、上記隙間に存在していた空気を排除することができるので、上記隙間に気泡が生じる可能性を低減でき、延いては、密着した状態における凹部13a及び透明基板11に生じ得る厚みのばらつきを抑制することができる。
【0041】
また、トレイ13は、着磁性を有する材料により構成されていることが好ましい。ユニットU1~Unを磁力により一体化することが可能になるからである。なお、着磁性を有する材料の例としては、強磁性体が挙げられ、強磁性体の具体例としてはマルテンサイト系のステンレス鋼が挙げられる。また、トレイ13は、導電性を有する材料により構成されていることが好ましい。これにより、ユニットU1~Unに含まれる光回折素子12が静電気により損傷を受けるリスクを低減することが可能になるからである。
【0042】
ユニットU1~Unは、ユニットUj(jは1以上n-1以下の自然数)に含まれる少なくとも1つの光回折素子12と、一段上層のユニットUj+1に含まれる少なくとも1つの光回折素子12と、が平面視において重なるように積層されている。本実施形態において平面視とは、各ユニットUiの透明基板11を、透明基板11の主面における法線方向(図1に示した状態では紙面の上方向又は下方向)から見ることを意味する。
【0043】
また、トレイ13の外周部には、積層方向と直交する方向に突出した凸部13eが形成されており、凸部13eには、孔13e1が形成されている。この孔13e1は、光回折素子12の光軸調整を行う際に、マニュピュレータの先端に設けられたピンと嵌合する孔である。トレイ13の外周部にこのような孔13e1を設けることで、光回折素子12の光軸調整が容易になる。各ユニットUiに含まれるトレイ13における凸部13eの位置は、光演算装置1を上面視したときに重ならない位置に設けられている。このため、例えば、マニュピュレータは、どのユニットUiに含まれるトレイ13に対してもアクセスすることが可能である。なお、孔13e1の代わりに、マニュピュレータの先端に設けられたピンと嵌合する凹部を設けても同様の効果が得られる。
【0044】
また、トレイ13のうち、外周部と凹部13aとの間に介在する枠体には、トレイ13の上面から下面まで貫通する一対の孔13fが形成されている。各トレイ13に形成された孔13fの数は1つであってもよいが、複数であることが好ましい。本実施形態では、一対の孔13f、すなわち2個の孔13fを採用している。各トレイ13に複数の孔13fが形成されていることにより、後述するガイドピン21cが円柱状である場合であっても各トレイ13が回転することを防ぐことができる。
【0045】
本実施形態において、トレイ13の外周部及び凹部13aは、何れも、長方形である。したがって、上述した枠体の外周部及び内周部は、長方形である。一対の孔13fの各々は、それぞれ、この枠体の一対の短辺(図6においては、x軸正方向側の短辺及びx軸負方向側の短辺)の各々に形成されている。ただし、トレイ13において、一対の孔13fの位置(すなわち、後述するガイドピン21cの位置)は、これに限定されず、枠体のうち貫通孔13ci及び細孔群13diと重ならない範囲内において適宜さだめることができる。
【0046】
一対の孔13fは、後述するマスクユニットUmのトレイ21に設けられた一対のガイドピン21cと対応する位置に設けられている。各ユニットUiの一対の孔13fの各々は、それぞれ、後述するトレイ21上に各ユニットUiを積層するときに、一対のガイドピン21cの各々と嵌合する。一対のガイドピン21cと、各ユニットUiにおける一対の孔13fとを利用して各ユニットUiを積層することにより、各ユニットUiに含まれる光回折素子12の光軸調整を大まかに実施することができる。したがって、光回折素子12の光軸調整を行う際に、粗調を実施する工程を省略することができるので、光軸調整が容易になる。
【0047】
なお、孔13fの半径は、ガイドピン21cの半径を僅かに上回るように設計されている。この孔13fの半径とガイドピン21cの半径との差分は、孔13fとガイドピン21cとにおける遊びを生じさせる。この遊びは、各ユニットUiにおける光回折素子12の光軸調整における調整代として機能する。この遊びは、光回折素子12における光軸調整の調整代に応じて適宜定めることができる。
【0048】
ユニットU1~Unは、ユニットUjに含まれる光回折素子12が一段上層のユニットUj+1に含まれるトレイ13に形成された開口13b内に配置されるよう、ユニットU1、ユニットU2、…、ユニットUnの順に積層されている。ここで、jは、1以上n-1以下の自然数である。以下、ユニットU1を、「最下層ユニット」とも記載する。また、ユニットUnを、「最上層ユニット」とも記載する。
【0049】
凹部13a外におけるトレイ13の厚みをt1とし、透明基板11の厚みをsとすると、上述したように、s<t1が成り立つ。また、凹部13a内におけるトレイ13の厚みをt2とし、透明基板11の厚みをsとすると、s=t1-t2が成り立つ。これは、透明基板11の上面とトレイ13の上面とが面一になることを意味する。また、スペーサ12aの高さをhとすると、h=t2が成り立つ。これは、(1)ユニットUjに含まれるトレイ13の上面が一段上層のユニットUj+1に含まれるトレイ13の下面と接触すると共に、(2)ユニットUjに含まれるスペーサ12aの上面が一段上層のユニットUj+1に含まれる透明基板11の下面と接触するように、ユニットU1~Unが積層されることを意味する。なお、本実施形態においては、t1=45μm、t2=15μm、s=30μm、h=15μm(最上層ユニットUnにおけるスペーサ12aのみh=50μm)としている。
【0050】
以上の構成によれば、トレイ13をハンドリングすることで、光回折素子12を信号光の光路上に並べることができる。すなわち、光回折素子12を信号光の光路上に並べるために、透明基板11をハンドリングする必要がない。このため、光回折素子12を信号光の光路上に並べる際に透明基板11が破損する可能性を低減することができる。
【0051】
(光演算装置1の付加的構成1)
光演算装置1の付加的構成について、引き続き図1を参照して説明する。
【0052】
光演算装置1は、マスクユニットUmと、拡散ユニットUdと、を備えている。
【0053】
マスクユニットUmは、トレイ21と、マスク板22と、を有している。トレイ21は、金属により構成された板状部材である。トレイ21に上面には、トレイ21の厚み方向に窪んだ凹部21aが形成されており、凹部21a内には、トレイ21を厚み方向に貫通する開口21bが形成されている。マスク板22は、信号光の一部をマスクする機能を有する透明基板である。マスク板22は、トレイ21に形成された凹部21aに嵌め込まれている。
【0054】
トレイ21の外周部と凹部21aとの間に介在する枠体には、トレイ21の上面から積層方向の上向きに突出したガイドピン21cが形成されている。ガイドピン21cの数は限定されないが、複数であることが好ましく、本実施形態では2本としている。これらのガイドピン21cは、上述した孔13fと対応する位置に設けられている。本実施形態においては、ガイドピン21cの形状として円柱状を採用している。ただし、ガイドピン21cは、柱状であればよく、底面の形状は、円形状に限定されない。
【0055】
ガイドピン21cにおいて、トレイ21の上面から突出している部分の長さは、(n-1)×t1を上回り、且つ、n×t1以下であることが好ましい。これにより、最上層に位置するユニットUnの孔13fがガイドピン21cに嵌合しつつ、ガイドピン21cが拡散ユニットUdに干渉することを防ぐことができる。
【0056】
上述したように、ガイドピン21cの半径は、孔13fの半径を僅かに下回るように設計されている。ガイドピン21cの半径は、トレイ21における枠体の幅や、ガイドピン21cに求められる強度などに応じて適宜定めることができる。
【0057】
なお、本実施形態において、凹部21a外におけるトレイ21の厚みを1800μmとし、凹部21a内におけるトレイ21の厚みを600μmとしている。また、マスク板22の厚みを1200μmとしている。
【0058】
マスクユニットUmには、トレイ13に形成された細孔群13d1,13d2と連通する細孔群13dmが形成されている。細孔群13d1,13d2については、後述する。細孔群13dmは、細孔群13d1,13d2と同様に構成されている。
【0059】
また、マスクユニットUmには、トレイ13に形成された貫通孔13c1,13c2と連通する貫通孔13cmが形成されている。貫通孔13c1,13c2については、後述する。貫通孔13cmは、貫通孔13c1,13c2と同様に構成されている。
【0060】
拡散ユニットUdは、トレイ31と、拡散板32と、電磁石33と、を有している。トレイ31は、金属により構成された板状部材である。トレイ31に上面には、トレイ31の厚み方向に窪んだ凹部31aが形成されており、凹部31a内には、トレイ31を厚み方向に貫通する開口31bが形成されている。拡散板32は、信号光を拡散する機能を有する透明基板又は半透明基板である。拡散板32は、トレイ31に形成された凹部31aに嵌め込まれている。トレイ31の上面には、電磁石33が設けられている。ユニットU1~Unのトレイ13、マスクユニットUmのトレイ21、及び、拡散ユニットUdのトレイ31が着磁性を有する材料で構成されている場合、電磁石33から発生する磁力によって、これらのトレイを一体化することができる。
【0061】
なお、本実施形態において、凹部31a外におけるトレイ31の厚みを2050μmとし、凹部31a内におけるトレイ31の厚みを50μmとしている。また、拡散板32の厚みを2100μmとしている。したがって、トレイ31の上面からは拡散板32が100μm分突出している。ただし、拡散ユニットUdの各部のサイズは、これに限定されず適宜選択することができる。
【0062】
(光演算装置の付加的構成2)
光演算装置1の付加的構成について、図3を参照して説明する。図3は、光演算装置1の断面図である。なお、図3に示されている断面は、光演算装置1のβ断面(図1参照)である。
【0063】
nとして、3以上の任意の自然数を採用している場合、ユニットUn,Un-1以外の各ユニットUkに含まれるトレイ13には、一段上層のユニットUk+1に含まれるトレイ13の下面にて終端される貫通孔13ckと、一段上層のユニットUk+1に含まれるトレイ13に形成された貫通孔13ck+1,13ck+2と連通する貫通孔13ck+1,13ck+2が形成されている。ここで、kは、1以上n-2以下の自然数である。また、ユニットUn-1に含まれるトレイ13には、一段上層のユニットUnに含まれるトレイ13の下面により終端される貫通孔13cn-1が形成されている。
【0064】
上記の構成によれば、ユニットU1に含まれるトレイ13に形成された貫通孔13c1,13c2の下面側から吸引を行うことにより、ユニットU1~Unを負圧により一体化することができる。図示した例では、ユニットU1に含まれるトレイ13に形成された貫通孔13c1の下面側から吸引を行うことで、ユニットU1とユニットU2とを負圧により一体化することができる。また、ユニットU1に含まれるトレイ13に形成された貫通孔13c2の下面側から吸引を行うことで、ユニットU2とユニットU3とを負圧により一体化することができる。
【0065】
nとして、3以上の任意の自然数を採用している場合、ユニットUn,Un-1以外の各ユニットUkに含まれるトレイ13には、一段上層のユニットUk+1に含まれるトレイ13に形成された細孔群13dk+1と連通する細孔群13dkが形成されている。ここで、kは、1以上n-2以下の自然数である。また、ユニットUn-1に含まれるトレイ13には、一段上層のユニットUnに含まれるトレイ13の下面により終端される細孔群13dn-1が形成されている。図3に示した1において、細孔群13d1,13d2は、上述した貫通孔13c1,13c2よりも直径が小さく且つ各トレイ13を貫通する複数の細孔からなる。このように構成された細孔群13d1,13d2は、直径が大きな貫通孔13c1,13c2と比較して、気体の圧力を低下させる機能と、開口の有効面積を減らす機能と、を併せ持つため、前記吸着力を弱めるために好適である。したがって、細孔群13d1,13d2を用いてユニットU1~Unを弱く一体化した状態で、各ユニットUiを積層方向と直交する方向に並進させることができる。すなわち、細孔群13d1,13d2を用いてユニットU1~Unを弱く一体化した状態で、ユニットU1~Unに含まれる光回折素子12の光軸調整を行うことができる。また、細孔群13d1,13d2が形成された領域のうち細孔が設けられていない部分が、ユニットUnのうち細孔群13d1,13d2を終端する領域を支持するため、ユニットUnのうち細孔群を終端する領域が陰圧により変形するのを防ぐことができる。本実施形態においては、細孔群13d1,13d2として、パンチングメタル又はパンチングメッシュと呼ばれる構造を用いている。なお、細孔群13d1,13d2を構成する複数の細孔の各々は、周期的に設けられていてもよいし、ランダムに設けられていてもよい。また、各細孔の直径は、所望の気体の圧力に応じて適宜定めることができる。また、各細孔の形状も適宜定めることができる。また、各細孔を周期的に設ける場合には、その周期構造及び当該周期構造におけるピッチも適宜定めることができる。
【0066】
上記の構成によれば、ユニットU1に含まれるトレイ13に形成された細孔群13d1の下面側から吸引を行うことにより、ユニットU1~Unを負圧により一体化することができる。図示した例では、ユニットU1に含まれるトレイ13に形成された細孔群13d1の下面側から吸引を行うことで、ユニットU1~U3を負圧により一体化することができる。
【0067】
なお、図1図3に示した光演算装置1は、n=3を採用しており、且つ、ユニットU1~U3の全てを負圧により一体化することができるように構成されている。換言すれば、図3に示した光演算装置1は、n及びn’として、n=n’=3を採用しており、ユニットUk’(k’は1以上n’-2以下の自然数)に含まれる前記トレイには、ユニットUk’+1に含まれる前記トレイの前記一方の主面と反対側の主面により終端される貫通孔と、ユニットUk’+1に含まれる前記トレイに形成された貫通孔と連通する貫通孔と、が形成されており、ユニットUn’-1に含まれる前記トレイには、ユニットUn’に含まれる前記トレイの前記一方の主面と反対側の主面により終端される貫通孔が形成されている、光演算装置の一例である。また、図3に示した光演算装置1は、ユニットUk’に含まれる前記トレイには、ユニットUk’+1に含まれる前記トレイに形成された細孔群と連通する細孔群が形成されており、ユニットUn’-1に含まれる前記トレイには、ユニットUn’に含まれる前記トレイの前記一方の主面と反対側の主面により終端される細孔群が形成されている、光演算装置の一例である。
【0068】
ただし、本発明の一態様においては、図2に示した光演算装置1の構成に加えて、(1)ユニットU3に含まれるトレイの前記一方の主面側(図2に示した状態においては上側)に積層された1個又は複数個のユニット(例えばユニットU3と同様に構成されたユニット)を更に備えていてもよいし、(2)ユニットU1に含まれるトレイの前記一方の主面と反対側の主面側(図2に示した状態においては下側)に積層された1個又は複数個のユニット(例えばユニットU3と同様に構成されたユニット)を更に備えていてもよいし、(3)ユニットU3の上側に積層された1個又は複数個のユニットと、ユニットU1の下側に積層された1個又は複数個のユニットと、を更に備えていてもよい。この場合、負圧により一体化することができるユニットは、ユニットU1~UnのうちユニットU1’~Un’のみである。ユニットU1’~Un’は、図5を参照して後述するように、負圧により一体化されたあとに電磁石33から発生する磁力によって一体化した状態で、例えば接着剤などの固定手段を用いて固定することができる。そのうえで、ユニットU1’~Un’とは異なる1又は複数のユニットを、ユニットU1’~Un’の上側及び下側の少なくとも何れかに積層することによって、nがn’を上回った状態の光演算装置1が得られる。なお、接着剤などの固定手段を用いてユニットU1’~Un’を固定する工程は、負圧により一体化された状態で実施することもできる。この場合、磁力によって一体化する工程を省略することができる。
【0069】
上述した固定手段として接着剤を利用する場合、接着剤は、硬化反応を開始するタイミングを任意に選択可能なものであることが好ましい。このような接着剤の一例としては、紫外線硬化樹脂を用いた接着剤、及び、熱硬化型樹脂を用いた接着剤が挙げられる。本実施形態では、紫外線硬化樹脂を用いる。これらの接着剤においては、紫外線照射又は加熱を実施することにより樹脂の硬化反応が開始される。したがって、各ユニットUiを積層するときに、隣接するユニットUj’(j’は1以上n’-1以下の自然数)と、ユニットUj’+1との間に位置する開口13bに適量の接着剤を塗布しておき、接着剤が未硬化の状態において光回折素子12の光軸調整を行い、その後に接着剤を任意のタイミングで硬化させることができる。なお、接着剤を用いて一体化するユニットは、ユニットU1’~Un’に限定されず、ユニットU1~Unの全ユニットであってもよいし、ユニットU1~Unの全ユニット及び拡散ユニットUdであってもよい。
【0070】
また、ユニットU1~U3の上側及び下側の少なくとも何れかに積層された複数個のユニットは、ユニットU1~U3のように負圧により一体化することができるユニットであってもよい。すなわち、本発明の範疇には、図2に示したような光演算装置1を複数個備え、それらの光演算装置1を積層することによって得られる光演算装置も含まれる。ここで、各光演算装置1は、例えば接着剤などの固定手段を用いて固定されていればよい。nがn’を上回った状態の光演算装置1は、このようにしても得られる。
【0071】
なお、細孔群13d1~13d2を用いてユニットU1~Unを一体化する際のユニット間の吸着力は、貫通孔13c1~13c2を用いてユニットU1~Unを一体化する際のユニット間の吸着力よりも弱い。したがって、細孔群13d1~13d2を用いてユニットU1~Unを一体化した状態で、各ユニットUiを積層方向と直交する方向に並進させることができる。すなわち、細孔群13d1~13d2を用いてユニットU1~Unを一体化した状態で、ユニットU1~Unに含まれる光回折素子12の光軸調整を行うことができる。
【0072】
なお、nとして2以上を採用しており、積層されたn個のユニットU1~Unが連続して積層されたユニットU1’,U2’を含んでいる場合、ユニットU1’に含まれるトレイ13には、一段上段のユニットU2’に含まれるトレイ13の下面により終端される貫通孔13c1が形成されている。
【0073】
上記の構成によれば、ユニットU1’に含まれるトレイ13に形成された貫通孔13c1の下面側から吸引を行うことにより、ユニットU1,U2を負圧により一体化することができる。
【0074】
また、nとして2以上を採用しており、積層されたn個のユニットU1~Unが連続して積層されたユニットU1’,U2’を含んでいる場合、ユニットU1’に含まれるトレイ13には、一段上層のユニットU2’に含まれるトレイ13の下面により終端される細孔群13d2が形成されている。
【0075】
上記の構成によれば、ユニットU1’に含まれるトレイ13に形成された細孔群13d1の下面側から吸引を行うことにより、ユニットU1’,U2’を負圧により一体化することができる。
【0076】
なお、上述したように、ユニットU1’,U2’は、例えば接着剤などの固定手段を用いて、一体化した状態で固定することができる。一体化されたユニットU1’,U2’の上側及び下側の少なくとも何れかには、ユニットU1’,U2’とは異なる1又は複数のユニット、又は、別に製造された光演算装置1が積層されていてもよい。
【0077】
(光回折素子の構造)
光回折素子12の構造について、図4を参照して説明する。図4は、光演算装置1が備えている各ユニットUiが備えている光回折素子12の一例の斜視図である。
【0078】
図4に示すように、光回折素子12は、平面状の光回折素子であり、厚み又は屈折率が個別に且つ互いに独立に設定された複数のマイクロセルにより構成されている。本実施形態では、各マイクロセルにおいて、厚みを個別に且つ互いに独立に設定している。
【0079】
ここで、マイクロセルとは、例えば、セルサイズが10μm未満のセルのことを指す。また、セルサイズとは、セルの面積の平方根のことを指す。例えば、マイクロセルの平面視形状が正方形である場合、セルサイズとは、セルの一辺の長さである。セルサイズの下限は、特に限定されないが、例えば1nmである。また、光回折素子12の厚み(すなわち、各マイクロセルの厚みのうち最大の厚み)は、特に限定されないが、典型的には数μmである。
【0080】
上述した複数のマイクロセルは、透明基板11の有効領域内に形成されている。本実施形態において、透明基板11の有効領域は、一辺150μmの正方形であり、マトリックス状に配置された200×200個のマイクロセルにより構成されている。各マイクロセルは、厚さ100μmのベース(図4には不図示)上に形成された、1辺750nmの底辺を有するピラーにより構成されている。なお、各マイクロセルにおける1辺のサイズ(本実施形態では750nm)は、信号光の波長(本実施形態では1550nm)のおよそ半分であることが好ましい。各ピラーの高さは、例えば、0nm、100nm、200nm、…、1100nm、1200nm(100nmステップ13段階)の何れかであり、そのピラーにより構成されるマイクロセルの屈折率が所期の屈折率になるように決められている。
【0081】
なお、本実施形態において、光回折素子12におけるピラーのサイズは750nmであるが、これに限定されない。すなわち、光回折素子12のピラーのサイズは、10μm未満であってもよい。また、光回折素子12のセル数及び有効領域サイズも任意である。
【0082】
(トレイの製造方法)
上述したトレイ13の製造方法について、以下に説明する。本実施形態では、成膜工程と、エッチング工程とを用いて、トレイ13を製造する。
【0083】
成膜工程では、電界メッキ法の一例である電界ニッケルメッキ法を用いて、基材上に開口13bが設けられたトレイ13の形状のSUS430製の金属膜であって、厚みが45μmである金属膜を成膜する工程である。開口13bが設けられたトレイ13の形状は、基材上にマスクを設けておくことによって実現できる。
【0084】
エッチング工程では、ウェットエッチング法あるいはケミカルエッチング法と呼ばれる方法を用いて、凹部13aに対応する領域をエッチングする工程である。本実施形態では、凹部13aに対応する領域を30μmに亘ってエッチングする。
【0085】
成膜工程とエッチング工程とを組み合わせることにより、容易に所望の形状を有するトレイ13を製造することができる。
【0086】
ただし、トレイ13の製造方法は、これに限定されない。例えば、トレイ13は、2種類のマスクパターンを用いることにより、電界メッキ法の一例である電界ニッケルメッキ法のみを用いて製造することもできる。また、トレイ13は、厚みがt2である部分(開口13bを取り囲む部分)と、厚みがsである部分(凹部13aを取り囲む部分)とを別個に製造しておき、2つの部分を接合することにより製造することもできる。2つの部分を接合する方法としては、拡散接合や接着などが挙げられる。
【0087】
なお、各ユニットUiに含まれるトレイ13において、上面及び下面のうち、一方は平滑に仕上げられており、他方には微細な凹凸が形成されていることが好ましい。トレイ13の上面及び下面の両方を平滑に仕上げた場合、下側に位置するユニットUi-1の上面と、上側に位置するユニットUiの下面とが吸着あるいは接合する場合がある。この場合、ユニットUi-1に対するユニットUiの位置を調整することが困難又はできなくなってしまう。トレイ13の上面及び下面のうち、一方を平滑に仕上げておき、他方に微細な凹凸を形成しておくことにより、厚み方向の精度を出しつつ、下側に位置するユニットUi-1の上面と、上側に位置するユニットUiの下面とにおいて生じ得る貼りつきを防止できる。
【0088】
(光演算装置の製造方法)
光演算装置1の製造方法について、図5を参照して説明する。図5は、光演算装置1の製造方法M1のフローチャートである。なお、本実施形態では、各透明基板11の主面上に光回折素子12及びスペーサ12aが形成されたものが既に製造されているものとして説明する。
【0089】
図5に示すように、製造方法M1は、シール工程S11と、設置工程S12と、弱吸着工程S13と、調整工程S14と、強吸着工程S15と、着磁固定工程S16と、取り外し工程S17と、硬化工程S18と、を含んでいる。
【0090】
シール工程S11は、透明基板11と、凹部13aとの隙間に液体を滴下することにより、透明基板11の下面とトレイ13の上面(凹部13aの底面)とを密着させることにより、ユニットUn(本実施形態では、nは、3)を製造する工程である。本実施形態では、図1に図示されているユニットUi(本実施形態では、iは、1、2、3)を製造する。本実施形態では、シール工程S11で用いる液体として、グリセリンを含有した水を用いる。ただし、液体は、これに限定されず、水であってもよいし、グリセリンであってもよい。
【0091】
設置工程S12は、ユニットU1~U3及び拡散ユニットUdを、図1に示した順番で、マスクユニットUmの上に載置する工程である。設置工程S12においては、ユニットUj(jは1以上n-1以下の自然数)の一段上層にユニットUj+1を載置するときに、ガイドピン21cをユニットUj+1の孔13fと嵌合させる。また、設置工程S12においては、ユニットUjの一段上層にユニットUj+1を載置するときに、ユニットUj+1の開口13bの外縁近傍の領域に適量の接着剤(本実施形態においては、紫外線硬化樹脂)を塗布する。また、ユニットUjの一段上層に拡散ユニットUdを載置するときに、ユニットUjの上面に適量の接着剤(本実施形態においては、紫外線硬化樹脂)を塗布する。接着剤の分量及び塗布する領域は、ユニットUjの一段上層にユニットUj+1を載置したあとの状態において、開口13bの外縁近傍の領域においてユニットUj及びユニットUj+1に接触し、開口13bの中央に設けられているスペーサ12aには接触しないように定めることが好ましい。
【0092】
弱吸着工程S13は、マスクユニットUmに形成された細孔群13dmの下面側から吸引を行う工程である。細孔群13dmの吸引は、真空ポンプあるいは減圧ポンプを用いて行われる。弱吸着工程S13を実施することにより、ユニットU1のトレイ13に形成された細孔群13d1と、ユニットU2のトレイ13に形成された細孔群13d2と、が吸引されるので、各ユニットUiは、マスクユニットUm上において弱く固定される。製造方法M1において、弱吸着工程S13は、取り外し工程S17を実施するまで続けられる。
【0093】
製造方法M1においては、i=1からスタートして、i≦3である限り、各ユニットUiについて調整工程S14、及び、強吸着工程S15を繰り返し実施する。
【0094】
調整工程S14は、マニュピュレータを用いてトレイ13の位置及び向きを調整することにより、光回折素子12の光軸調整を行う工程である。本実施形態では、マスクユニットUmの下方より、開口21bを貫通するように信号光を照射しておき、拡散ユニットUdの上方に設置したカメラを用いて、拡散板32に投影される信号光をモニターする。調整工程S14では、拡散板32に投影される信号光のパターンに応じて、光回折素子12の光軸調整を行う。調整工程S14を実施することにより、光軸調整を実施するユニット(例えばユニットUj+1)に含まれる複数の光回折素子12の何れかの光回折素子12を、一段下層のユニット(例えばユニットUj)に含まれる複数の光回折素子12の何れかの光回折素子12と、が平面視において重なる。
【0095】
強吸着工程S15は、マスクユニットUmに形成された貫通孔13cmの下面側から吸引することによって、所望のユニットUiをその下段に位置するマスクユニットUm又はユニットUi-1に強く固定する工程である。強吸着工程S15においては、マスクユニットUmに形成された貫通孔13cmのうち、何れかの貫通孔13cmを選択することにより、固定するユニットUiを選択することができる。細孔群13dmの吸引は、真空ポンプあるいは真空発生器を用いて行われる。製造方法M1において、各ユニットUiに対して実行された強吸着工程S15は、取り外し工程S17を実施するまで続けられる。すなわち、製造方法M1において、1度強く固定されたユニットUiは、取り外し工程S17を実施するまで強く固定され続ける。
【0096】
着磁固定工程S16は、拡散ユニットUdの電磁石33をオンにすることにより、各ユニットUiのトレイ13を着磁させ、全ユニットU1~U3を一体化する工程である。
【0097】
取り外し工程S17は、マスクユニットUmに形成された貫通孔13cm及び細孔群13dmの吸引を停止する工程である。取り外し工程S17を実施することにより、ユニットU1~U3をマスクユニットUmから取り外すことができる。なお、着磁固定工程S16においてオンにした電磁石33は、引き続きオンのままである。したがって、各ユニットUiの光回折素子12の光軸は、調整工程S14において調整された状態を保つことができる。
【0098】
硬化工程S18は、取り外し工程S17を実施したあとに、電磁石33の磁力により一体化された全ユニットU1~U3及び拡散ユニットUdに紫外線を照射することによって、接着剤を構成する紫外線硬化樹脂を硬化させる工程である。硬化工程S18を実施することにより、硬化した接着剤により全ユニットU1~U3及び拡散ユニットUdを一体化することができる。したがって、全ユニットU1~U3及び拡散ユニットUdは、電磁石33をオフにしても一体化されたままの状態に保つ。
【0099】
また、製造方法M1に含まれる調整工程S14、強吸着工程S15、着磁固定工程S16、取り外し工程S17、及び硬化工程S18は、上述した硬化工程S18において一体化されたユニットU1~U3に対して、別のユニットを積層したうえで一体化する場合にも用いることができる。
【0100】
以上のように、製造方法M1を実施することにより、各ユニットUiの光回折素子12の光軸が調整された光演算装置1を得ることができる。
【0101】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0102】
1 光演算装置
11 透明基板
12 光回折素子
12a スペーサ
13 トレイ
13a 凹部
13b 開口
13cm,13c1,13c2 貫通孔
13dm,13d1,13d2 細孔群
図1
図2
図3
図4
図5