(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090546
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】同期調相機化方法
(51)【国際特許分類】
H02K 9/08 20060101AFI20230622BHJP
H02J 3/16 20060101ALI20230622BHJP
H02J 3/18 20060101ALI20230622BHJP
H02K 19/22 20060101ALI20230622BHJP
H02K 9/24 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
H02K9/08 A
H02J3/16
H02J3/18 185
H02K19/22
H02K9/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021205555
(22)【出願日】2021-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】松崎 隆久
(72)【発明者】
【氏名】村上 洋平
(72)【発明者】
【氏名】守田 俊也
(72)【発明者】
【氏名】水谷 章
【テーマコード(参考)】
5G066
5H609
5H619
【Fターム(参考)】
5G066DA04
5G066FA01
5G066FB17
5H609BB03
5H609BB19
5H609PP02
5H609QQ03
5H609QQ10
5H609RR03
5H609RR17
5H609SS08
5H609SS21
5H619AA11
5H619BB02
5H619BB06
5H619PP10
5H619PP19
5H619PP22
(57)【要約】
【課題】同期調相機から無効電力を適切に供給し得る同期調相機化方法を提供する。
【解決手段】同期調相機化方法は、廃止プラント又は遊休プラントの発電設備を同期調相機10に転用する際、同期調相機10が備える発電機1のハウジング内の冷却ガスの圧力を転用前よりも高くするとともに、発電機1の軸シールに用いられる油の油圧を転用前よりも高くする調圧工程を含む。また、調圧工程に先立って、ハウジングの補強を行い、ハウジングの強度を転用前よりも高くする補強工程をさらに含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃止プラント又は遊休プラントの発電設備を同期調相機に転用する際、前記同期調相機が備える発電機のハウジング内の冷却ガスの圧力を、前記同期調相機への転用前よりも高くするとともに、前記発電機の軸シールに用いられる油の油圧を前記転用前よりも高くする調圧工程を含む同期調相機化方法。
【請求項2】
前記冷却ガスは、可燃性ガスであり、
前記調圧工程に先立って、前記ハウジングの補強を行い、前記ハウジングの強度を前記転用前よりも高くする補強工程をさらに含むこと
を特徴とする請求項1に記載の同期調相機化方法。
【請求項3】
前記調圧工程に先立って、前記発電機と励磁機とを電気的に接続するブラシの1個当たりの電流容量を前記転用前よりも大きくする、又は、前記ブラシの個数を前記転用前よりも増やすブラシ改造工程をさらに含むこと
を特徴とする請求項1に記載の同期調相機化方法。
【請求項4】
前記転用前を基準とする前記ハウジング内の冷却ガスの圧力の増加量は、前記同期調相機の出力し得る無効電力の最大値に基づいて設定されること
を特徴とする請求項1に記載の同期調相機化方法。
【請求項5】
前記調圧工程の後、又は、前記調圧工程の前に、前記ハウジング内の冷却ガスとの間で熱交換を行う冷媒の流量を前記転用前よりも増加させる流量増加工程をさらに含むこと
を特徴とする請求項1に記載の同期調相機化方法。
【請求項6】
前記調圧工程に先立って、前記ハウジング内の冷却ガスを封止する封止部材の性能を前記転用前よりも高くする封止部材強化工程をさらに含むこと
を特徴とする請求項1に記載の同期調相機化方法。
【請求項7】
前記調圧工程の後であって、前記同期調相機の運転中、電力系統における無効電力の要求量が少ない時間帯よりも、無効電力の要求量が多い時間帯の方が、前記ハウジング内の冷却ガスの圧力が高く設定されること
を特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の同期調相機化方法。
【請求項8】
前記調圧工程の後であって、前記同期調相機の運転中、夜間よりも日中の時間帯の方が、前記ハウジング内の冷却ガスの圧力が高く設定されること
を特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の同期調相機化方法。
【請求項9】
前記調圧工程の後であって、前記同期調相機の運転中、電力系統における無効電力の要求量に基づいて、前記ハウジング内の冷却ガスの圧力設定値が変更されること
を特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の同期調相機化方法。
【請求項10】
前記電力系統における無効電力の要求量が大きいほど、前記ハウジング内の冷却ガスの圧力設定値が高い値に設定されること
を特徴とする請求項9に記載の同期調相機化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期調相機化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光発電や風力発電の他、バイオマス発電、地熱発電、水力発電といった再生可能エネルギの導入が進んでいる。また、老朽化した火力発電プラントや原子力発電プラントを廃止する動きもある。このように、再生可能エネルギの導入が進む一方、火力発電プラントや原子力発電プラントが減っていくと、需給バランスの崩れや送電容量の超過の他、電圧変動や周波数変動が電力系統で生じやすくなり、また、無効電力が不足しやすくなる。
【0003】
そこで、廃止プラントや遊休プラントの発電設備を同期調相機に転用し、同期調相機から電力系統に無効電力を供給することが提案されている。このような技術として、例えば、特許文献1には、「遊休火力発電所の水素冷却発電機設備を同期調相機設備として転用する場合において、水素冷却発電機の水素ガス圧力を所定圧力に下げ駆動用電動機を動作させ」ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術では、水素冷却発電機設備が同期調相機設備に転用される際、水素冷却発電機の水素ガス圧力が下げられるため、水素冷却発電機の回転子コイルの温度が上昇しやすくなる。そうすると、回転子コイルの温度が所定の上限値に達しないように、同期調相機設備の励磁電流を抑える必要が生じるため、同期調相機設備が供給し得る無効電力の最大値が小さくなる。このように、特許文献1に記載の技術は、同期調相機が供給し得る無効電力について、改善の余地がある。
【0006】
そこで、本発明は、同期調相機から無効電力を適切に供給し得る同期調相機化方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した課題を解決するために、本発明に係る同期調相機化方法は、廃止プラント又は遊休プラントの発電設備を同期調相機に転用する際、前記同期調相機が備える発電機のハウジング内の冷却ガスの圧力を、前記同期調相機への転用前よりも高くするとともに、前記発電機の軸シールに用いられる油の油圧を前記転用前よりも高くする調圧工程を含むこととした。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、同期調相機から無効電力を適切に供給し得る同期調相機化方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る同期調相機化方法におけるタービン建屋内の機器の配置を示す説明図である。
【
図2】第1実施形態に係る同期調相機化方法において、同期調相機が備える発電機の冷却構造を示す模式的な断面図である。
【
図3】第1実施形態に係る同期調相機化方法において、同期調相機が備える発電機発電機における
図2の領域P1の部分拡大図である。
【
図4】第1実施形態に係る同期調相機化方法に関するフローチャートである。
【
図5】第2実施形態に係る同期調相機化方法に関するフローチャートである。
【
図6】第3実施形態に係る同期調相機化方法に関するフローチャートである。
【
図7】第3実施形態に係る同期調相機化方法の第1の変形例におけるタービン建屋の付近の機器の配置を示す説明図である。
【
図8】第3実施形態に係る同期調相機化方法の第2の変形例におけるタービン建屋の付近の機器の配置を示す説明図である。
【
図9】第3実施形態に係る同期調相機化方法の第3の変形例におけるタービン建屋の付近の機器の配置を示す説明図である。
【
図10】第4実施形態に係る同期調相機化方法に関するフローチャートである。
【
図11】第7実施形態に係る同期調相機化方法において、時間帯と、太陽光発電量と、電力系統の送電量と、要求される無効電力と、水素圧力と、の関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では、一例として、「廃止プラント」の発電設備が同期調相機10(
図1参照)に転用される場合について説明する。なお、「廃止プラント」とは、発電設備の運転・操業が終了した状態のプラントである。また、発電設備を同期調相機10に「転用」するとは、過去に発電設備として用いられた機器の少なくとも一部を同期調相機10として用いることである。例えば、発電設備における所定部材の取替え・追加・取外し・改造や、発電機1(
図1参照)のハウジング13(
図2参照)内のガス圧・油圧の変更の他、電流値・電圧値・周波数・制御指令値の変更等が行われる場合も、発電設備から同期調相機10に「転用」するという事項に含まれる。
【0011】
≪第1実施形態≫
図1は、第1実施形態に係る同期調相機化方法におけるタービン建屋30内の機器の配置を示す説明図である。
まず、同期調相機10に転用される前の発電設備について簡単に説明する。同期調相機10への転用前の発電設備は、例えば、原子力発電プラントや火力発電プラントで用いられていたものである。この発電設備は、
図1に示す高圧タービン21と、A系の低圧タービン22と、B系の低圧タービン23と、C系の低圧タービン(図示せず)と、発電機1と、がシャフトを介して順次に接続された構成になっている。
【0012】
そして、原子炉等(図示せず)における熱交換で生じた蒸気の圧力で、高圧タービン21やA系・B系・C系の各低圧タービンが回転し、発電機1で発電が行われるようになっている。発電機1の発電電力は、変圧器41を介して、電力系統40に供給される。なお、発電機1の発電電力には、有効電力と無効電力とが含まれている。このような発電機1として、例えば、同期発電機が用いられる。
【0013】
発電設備が同期調相機10に転用される際には、シャフト5を介して発電機1に接続されているC系の低圧タービン(図示せず)が取り外され、大物搬入口31を介して、タービン建屋30の外に搬出される。同期調相機10は無負荷で駆動されるため、各タービンを連結する必要が特にないからである。また、同期調相機10の運用に特に関係のないもの(各タービンの潤滑系・冷却系や復水器:図示せず)は、適宜に撤去される。
【0014】
発電設備を同期調相機10に転用する工事は、発電設備が設けられているタービン建屋30の内部で行われることが多いが、タービン建屋30の外(つまり、搬出先)で工事が行われてもよい。なお、原子力発電所における沸騰水型軽水炉の発電設備を同期調相機10に転用する場合には、通常、タービン建屋30の内部が放射線管理区域になる。この場合には、発電機1から取り外された各タービンは、放射線の線量率が所定値を下回るまでは搬出されず、タービン建屋30で保管される。C系の低圧タービン(図示せず)の撤去後の跡地50には、駆動機3及び駆動用インバータ4が設置される。つまり、発電機1のシャフト5からC系の低圧タービン(図示せず)が取り外された後、このシャフト5に駆動機3が接続される。
【0015】
<同期調相機の構成>
図1に示す同期調相機10は、電力系統40に無効電力を供給し、電力系統40の電圧の安定化や力率の改善を行う機器である。同期調相機10は、界磁電流(回転子コイルの電流)を連続的に変化させることで、電機子電流(固定子コイルの電流)を遅相電流から進相電流まで連続的に変化させるようになっている。また、同期調相機10は、回転子12(
図2参照)の回転に伴う慣性力(電気的・機械的な慣性力)によって、電力系統40の負荷変動に伴う電圧の擾乱を抑制する機能も有している。
【0016】
図1に示すように、同期調相機10は、発電機1(同期機ともいう)と、励磁機2と、駆動機3と、駆動用インバータ4と、を備えている。発電機1は、無負荷で駆動される同期機である。発電機1は、図示はしないが、固定子コアに巻回される固定子コイルと、回転子コアに巻回される回転子コイルと、を備えている。固定子コイルは、変圧器41を介して、電力系統40に接続されている。
【0017】
そして、励磁機2から回転子コイルに供給される励磁電流(直流電流)によって、同期調相機10の無効電力が調整され、この無効電力が固定子コイルから変圧器41を介して電力系統40に供給されるようになっている。
【0018】
例えば、同期調相機10の界磁を弱め励磁にして進相運転を行った場合には、発電機1の回転子コイルが、電力系統40から遅れ位相の電流を吸収するリアクトルとして機能する。また、同期調相機10の界磁を強め励磁にして遅相運転を行った場合には、発電機1の回転子コイルが、電力系統40から進み位相の電流を吸収するコンデンサとして機能する。なお、電力系統40での負荷変動や潮流変化の他、断線等の故障の影響で電圧が低下して、無効電力が不足した場合には、前記した遅相運転が行われる。したがって、電力系統40の電圧の安定化を図る際には、遅相運転が行われることが多い。
【0019】
図1に示す励磁機2は、発電機1の回転子コイル(図示せず)に励磁電流を供給する機器であり、回転子コイルに接続されている。また、励磁機2は、発電機用制御ライン63を介して、中央制御室80の制御盤81に接続されている。そして、励磁機2から発電機1に供給される励磁電流によって、発電機1の無効電力が調整されるようになっている。
【0020】
駆動機3は、発電機1を起動させる際、発電機1の回転子12(
図2参照)を加速させる電動機である。すなわち、発電機1を起動させる際には、電力系統40の交流周波数と同期する所定の回転速度まで、駆動機3が発電機1の回転子12(
図2参照)を加速させる。なお、発電機1と駆動機3との間の力の伝達・遮断を切り替えるクラッチ(図示せず)を設け、発電機1の回転速度が所定値に達したときに、クラッチによって、発電機1と駆動機3との間の力の伝達を遮断するようにしてもよい。
【0021】
駆動用インバータ4は、駆動機3に所定の交流電圧を印加する電力変換器である。駆動用インバータ4の入力側は、駆動機用配線61を介して、電気品室70の電源盤71に接続されている。駆動用インバータ4の出力側は、別の配線(図示せず)を介して、駆動機3に接続されている。また、駆動用インバータ4の複数のスイッチング素子(図示せず)には、中央制御室80の制御盤81から駆動機用制御ライン62を介して、所定の制御信号が入力される。そして、スイッチング素子(図示せず)のオン・オフが所定に切り替わることで、駆動用インバータ4から駆動機3に交流電圧が印加されるようになっている。
【0022】
なお、発電設備を同期調相機10に転用した後も、中央制御室80を同期調相機10の制御・監視に用いることが可能である。例えば、
図1に示す駆動機用制御ライン62や発電機用制御ライン63を作業員が中央制御室80まで引き回して、制御盤81に接続するようにしてもよい。
【0023】
図2は、同期調相機が備える発電機1の冷却構造を示す模式的な断面図である。
なお、
図2における複数の矢印は、水素ガス(冷却ガス)の流れを示している。
図2に示すように、発電機1は、固定子11と、回転子12と、ハウジング13と、を備えている。固定子11は、複数の電磁鋼板が軸方向に積層されてなる円筒状の固定子コア11aを備えるとともに、固定子コア11aに巻回される固定子コイル(図示せず)を備え、ハウジング13の内部に固定されている。また、固定子11には、所定の冷却水流路(図示せず)が設けられている。そして、冷却水流路を流れる水との間の熱交換で、固定子11が冷やされるようになっている。
【0024】
回転子12は、シャフト5の中心軸線周りに回転するものであり、固定子11の径方向内側に回転自在に配置されている。このような回転子12の構造は、いわゆる回転界磁円筒形であってもよいし、また、それ以外であってもよい。回転子12は、シャフト5に圧入等で固定され、シャフト5と一体で回転する。回転子12は、前記したように、回転子コア(図示せず)に巻回される回転子コイル(図示せず)を備えている。なお、回転子12と励磁機2(
図1参照)とを電気的に接続するブラシ(例えば、カーボンブラシ)が、回転子12のスリップリング(図示せず)に摺接する構成であってもよい。
【0025】
ハウジング13は、固定子11や回転子12を内包する収容体である。
図2に示すように、ハウジング13は、二重構造になっており、外側ハウジング部13aと、内側ハウジング部13bと、を備えている。外側ハウジング部13aは、その外形が円柱状を呈する殻状部材である。外側ハウジング部13aには、シャフト5を挿通するための一対の孔(符号は図示せず)が設けられている。これら一対の孔の内側には、
図2には図示していないが、ブラケット14(
図3参照)や軸受部15(
図3参照)等が設置されている。
【0026】
内側ハウジング部13bは、外側ハウジング部13aとともに水素ガス(冷却ガス)の流路K1を形成する肉薄の殻状部材であり、その外形が円筒状を呈している。内側ハウジング部13bは、外側ハウジング部13aに略同軸で内包され、外側ハウジング部13aの内側に固定されている。内側ハウジング部13bには、外側ハウジング部13aと同様に、シャフト5を挿通するための一対の孔(符号は図示せず)が設けられている。なお、ハウジング13に固定子11及び回転子12が収容された状態では、内側ハウジング部13bの径方向内側に固定子11及び回転子12が位置している。
【0027】
図2に示すように、外側ハウジング部13aと内側ハウジング部13bとの間には、水素ガスが通流する流路K1が設けられている。この流路K1は、シャフト5の中心軸線を基準とする周方向の全域に亘って設けられていてもよいし、また、周方向の一部に設けられていてもよい。内側ハウジング部13bの周壁には、径方向外側に向かう水素ガスを流路K1に導くための複数の孔H1が設けられている。
【0028】
ハウジング13の内部には、水素ガスが封入されている。水素ガスは、熱伝導率がかなり高いため、回転子12等の冷却を行いやすいという利点がある。また、水素ガスは、摩擦による風損が小さい他、コロナ放電が生じにくいという特性も有している。そこで、第1実施形態では、励磁電流によって温度上昇した回転子12等を水素ガスで冷却するようにしている。
【0029】
図2に矢印で示すように、回転子12から径方向外側に向かう水素ガスは、内側ハウジング部13bの複数の孔H1を介して、流路K1に導かれる。この水素ガスは、流路K1を介して、回転子12の両端付近の他、固定子11と回転子12との間の隙間に導かれ、複数の孔H1を介して、再び流路K1に導かれる。このようにハウジング13内を循環する水素ガスの流れは、回転子12の回転に伴う遠心力の他、ハウジング13の内部に設けられる送風機(図示せず)によって形成される。なお、水素ガスの供給源として、水素ガスが封入されたボンベ(図示せず)が用いられてもよいし、また、水蒸気改質や電気分解といった他の方法が用いられてもよい。
【0030】
図2に示すように、ハウジング13の流路K1には、冷媒(例えば、水)が循環する冷媒流路M1が設けられている。冷媒流路M1は、冷却器(図示せず)で冷やされた冷媒が循環する流路である。そして、回転子12との熱交換で温度上昇した水素ガスが、冷媒流路M1を通流する冷媒によって冷やされるようになっている。
【0031】
図3は、発電機1における
図2の領域P1の部分拡大図である。
図3に示すように、発電機1は、前記した構成の他に、ブラケット14と、軸受部15と、軸密封装置16(封止部材)と、シールリング17(封止部材)と、絶縁部材18と、気密パッキン19(封止部材)と、を備えている。
ブラケット14は、ハウジング13(
図2参照)からの水素ガスの漏れを油圧で抑制する殻状部材である。
図3に示すように、ブラケット14の内部には、軸受部15と、軸密封装置16と、シールリング17と、絶縁部材18と、気密パッキン19と、が設置されている。
【0032】
ブラケット14において、シャフト5が挿通される一対の孔(符号は図示せず)の周囲は、それぞれ、肉厚の油止め部14aとして形成されている。油止め部14aには、シャフト5が挿通される孔の周面から径方向外側に凹んでなる溝(符号は図示せず)が設けられている。この溝とシャフト5の周面との間の隙間である油流路14bには、ハウジング13(
図2参照)からの水素ガス(冷却ガス)の漏れを防止するための油が所定圧力で封入されている。油流路14bに封入される油の圧力は、ハウジング13(
図2参照)の内部に封入される水素ガスの圧力と釣り合うように設定される。また、油流路14bにおける油圧は、油圧調整装置(図示せず)によって所定に調整される。
【0033】
図3に示す軸受部15は、シャフト5を回転自在に軸支するものであり、軸受外輪15aと、軸受内輪15bと、を備えている。軸受外輪15aは、電気的に絶縁された状態でブラケット14の内側に固定される環状部材である。軸受内輪15bは、軸受外輪15aの径方向内側に回転自在に設置される環状部材であり、シャフト5と一体で回転するようになっている。
【0034】
軸密封装置16は、水素ガスの漏れを抑制するための環状部材である。
図3に示すように、軸密封装置16は、軸受部15よりも軸方向内側(回転子12側:
図2参照)において、シャフト5の周囲に設けられている。軸密封装置16には、その内周面から径方向外側に凹んでなる溝16aが設けられている。
シールリング17は、水素ガスの漏れを抑制するための樹脂製の環状部材であり、軸密封装置16の溝16aに嵌め込まれている。シールリング17の内周面は、シャフト5の周面に摺接している。
【0035】
絶縁部材18は、軸密封装置16とブラケット14とを絶縁するための部材であり、中央に孔(符号は図示せず)が設けられた円板状を呈している。絶縁部材18の中央の孔には、環状の軸密封装置16が嵌め込まれている。
気密パッキン19は、絶縁部材18とブラケット14との間の隙間を塞ぐための樹脂製の環状部材である。前記した油流路14bの他、軸密封装置16やシールリング17、気密パッキン19が設けられることで、ハウジング13(
図2参照)からの水素ガスの漏れを十分に抑制できる。なお、
図3には、回転子12(
図2参照)の軸方向一方側の領域P1(
図2参照)の部分拡大図を示しているが、回転子12の軸方向他方側も同様の構成になっている。また、
図2や
図3に示す発電機1の構成は一例であり、これに限定されるものではない。
【0036】
<無効電力の最大値について>
例えば、発電機1(
図2参照)の回転子コイル(図示せず)に流れる電流が大きいほど、回転子コイルが発熱する。そこで、回転子コイルの焼損を防止するために、回転子コイルの上限温度が予め設定されている。また、回転子コイルの上限温度や、ハウジング13に封入される水素ガスの圧力に対応して、回転子コイルに供給される励磁電流の最大値が決まる。
【0037】
例えば、ハウジング13内の水素ガスの圧力が高いほど、水素ガスが密になって冷却性能が高くなる。その結果、回転子コイルの温度を所定の上限温度以下に保ちつつ、回転子コイルに大きな励磁電流を流すことができるため、同期調相機10(
図1参照)から電力系統40(
図1参照)に大きな無効電力を供給できる。要するに、ハウジング13内の水素ガスの圧力が高いほど、同期調相機10から出力可能な無効電力の最大値が大きくなる。
【0038】
仮に、火力発電プラントや原子力発電プラントで用いられていた発電設備をそのまま同期調相機10(
図1参照)に転用した場合、その無効電力の最大値は、発電設備のときの無効電力の最大値と略同一になる。そこで、第1実施形態では、発電設備から同期調相機10(
図1参照)に転用する際、ハウジング13内の水素ガスの圧力を高くして、同期調相機10から出力可能な無効電力の最大値を大きくするようにしている。
【0039】
<同期調相機化の決定プロセス>
図4は、同期調相機化方法に関するフローチャートである(適宜、
図1、
図2も参照)。
なお、
図4に示す一連の処理は、発電設備を同期調相機10に転用する際、管理者や作業員といった人(管理者等という)が行う決定のプロセスである。
ステップS101において管理者等は、水素ガスの圧力の増加量を決定する。つまり、管理者等は、発電機1のハウジング13内の水素ガスに関して、同期調相機10への転用前(発電設備の使用時)を基準とする水素ガスの増加量を決定する。
【0040】
前記したように、ハウジング13内の水素ガスの圧力が高いほど、水素ガスの密度も高くなるため、回転子12の単位時間当たりの放熱量(冷却量)も増加する。管理者等は、発電機1の励磁電流が所定の最大値(無効電力の最大値に対応)に達したときに、回転子コイルが上限温度を超えないように、水素ガスの圧力の増加量を決定する。
【0041】
なお、既存の発電設備で水素ガスの供給能力が不足している場合には、水素ガスの増加量(S101)が満たされるように、管理者等が、水素ガスの供給源(図示せず)を適宜に改造するようにしてもよい。その他にも、例えば、冷媒流路M1(
図2参照)を循環する冷媒の流量(冷媒ポンプの回転速度:図示せず)を増加させてもよいし、また、冷媒を冷やす冷却器(図示せず)の容量を大きくしてもよい。このような方法でも、回転子12の単位時間当たりの放熱量を増加させることができる。
【0042】
次に、ステップS102において管理者等は、軸シールのための油圧を決定する。つまり、管理者等は、発電機1のハウジング13から水素ガスが漏れないようにするための油流路14b(
図3参照)の油圧を決定する。前記したように、油流路14bの油圧は、ハウジング13内の水素ガスの圧力と釣り合うよう設定される。つまり、ハウジング13の内部の水素ガスの圧力(S101の圧力増加後の値)が高いほど、水素ガスを封止するための油圧も高くなる。したがって、ステップS102において管理者等は、水素ガスの圧力(S101の圧力増加後の値)に対応して、軸シールのための油圧を決定する。
【0043】
なお、既存の発電設備において、油圧の供給能力が不足している場合には、所定の油圧(S102)を供給できるように、油圧調整装置(図示せず)を適宜に改造するようにしてもよい。また、軸密封装置16(
図3参照)やシールリング17(
図3参照)、気密パッキン19(
図3参照)といった「封止部材」の改造や取替えを行って、水素ガスの封止性能が高いものを用いるようにしてもよい。その他にも、例えば、ブラケット14(
図3参照)の改造や取替えを行い、同期調相機10への転用前よりも油止め部14a(
図3参照)の肉厚が厚いものを用いるようにしてもよい。
【0044】
ステップS103において管理者等は、ハウジング13の補強の要否を判定する。すなわち、管理者等は、ハウジング13内の水素が燃焼してしまった場合でも周囲への被害を抑えられるように、ハウジング13の補強の要否を判定する。なお、同期調相機10への転用前の発電設備においても、可燃性ガスである水素ガスが燃焼した場合に備えて、ハウジング13は十分な強度に設計されている。ただし、水素ガスの圧力を増加させた場合(S101)、水素ガスの燃焼時に生じる圧力が高くなる可能性が高い。したがって、管理者等は、水素ガスが燃焼した場合に生じる圧力を推定し、必要に応じて、ハウジング13の補強を行うようにする。ハウジング13の補強の際には、例えば、ハウジング13にリブ(図示せず)を設置する工事や、ハウジング13を多重構造にするといった工事が行われる。
【0045】
次に、ステップS104において管理者等は、ブラシ(図示せず)の改造の要否を判定する。すなわち、管理者等は、励磁機2から発電機1への励磁電流の供給に用いられるブラシ(例えば、カーボンブラシ)の1個当たりの電流容量(電流の許容値)に基づいて、ブラシの個数を増やしたり、別の仕様のブラシに取り替えたりするといった改造を要するか否かを判定する。
【0046】
例えば、同期調相機10への転用前のブラシ(図示せず)をそのまま用いた場合、励磁電流の大きさによっては、ブラシに流れる電流が所定の許容値を超えて、ブラシの温度が高くなりすぎる可能性がある。このような場合には、管理者等は、ブラシの個数を増やしたり、1個当たりのブラシの電流容量が現状よりも大きいものに変更したりするといった改造を行うことで、ブラシに流れる電流を所定の許容値以下に抑えるようにする。
【0047】
ステップS101~S104の処理(管理者等による決定のプロセス)が行われた後、発電設備から同期調相機10への転用に伴う作業が現地で行われる。具体的には、廃止プラント(又は遊休プラント)の発電設備を同期調相機10に転用する際、同期調相機10が備える発電機1のハウジング13内の水素ガス(冷却ガス)の圧力を、同期調相機10への転用前よりも高くするとともに、発電機1の軸シールに用いられる油の油圧を転用前よりも高くする「調圧工程」(
図4のS101、S102に対応)が、前記した作業に含まれる。
【0048】
なお、「調圧工程」において、水素ガスの圧力の増加と、油圧の増加とは、いずれが先に行われてもよいし、また、並行して行われてもよい。また、転用前(発電設備から同期調相機10への転用前)を基準とする水素ガス(冷却ガス)の圧力の増加量は、同期調相機10の出力し得る無効電力の最大値に基づいて設定される。
【0049】
また、前記した「調圧工程」に先立って、ハウジング13の補強を行い、ハウジング13の強度を転用前(発電設備から同期調相機10への転用前)よりも高くする「補強工程」(
図4のS103に対応)をさらに含むようにしてもよい。これによって、ハウジング13内の水素ガスの圧力を高めた場合でも、水素ガスの燃焼に十分に備えることができる。
【0050】
また、前記した「調圧工程」に先立って、発電機1と励磁機2とを電気的に接続するブラシ(図示せず)の1個当たりの電流容量を転用前(発電設備から同期調相機10への転用前)よりも大きくする、又は、ブラシの個数を転用前よりも増やす「ブラシ改造工程」(
図4のS104に対応)をさらに含むようにしてもよい。これによって、ブラシに流れる電流を所定の許容値以下に抑えることができる。
【0051】
また、前記した「調圧工程」に先立って、ハウジング13内の水素ガス(冷却ガス)を封止する「封止部材」の性能を転用前(発電設備から同期調相機10への転用前)よりも高くする「封止部材強化工程」をさらに含むようにしてもよい。なお、「封止部材」には、軸密封装置16(
図3参照)やシールリング17(
図3参照)の他、気密パッキン19(
図3参照)等が含まれる。
【0052】
なお、前記した「補強工程」、「ブラシ改造工程」、及び「封止部材強化工程」の順序は特に限定されるものではなく、適宜に変更可能である。例えば、「ブラシ改造工程」の前に「補強工程」や「封止部材強化工程」が行われてもよいし、また、「ブラシ改造工程」の後に「補強工程」や「封止部材強化工程」が行われるようにしてもよい。その他にも、例えば、「封止部材強化工程」の前に「補強工程」や「ブラシ改造工程」が行われてもよいし、また、「封止部材強化工程」の後に「補強工程」や「ブラシ改造工程」が行われるようにしてもよい。
【0053】
また、前記した「調圧工程」の後、又は、「調圧工程」の前に、ハウジング13内の水素ガス(冷却ガス)との間で熱交換を行う冷媒の流量を転用前(発電設備から同期調相機10への転用前)よりも増加させる「流量増加工程」をさらに含むようにしてもよい。これによって、水素ガスの冷却が促進されるため、水素ガスによる回転子コイル(図示せず)の冷却が促進される。なお、「流量増加工程」は、前記した「補強工程」や「ブラシ改造工程」や「封止部材強化工程」よりも後に行われる。
【0054】
発電設備から同期調相機10への転用に伴う作業が終了した後、中央制御室80(
図1参照)からの指令信号に基づいて、同期調相機10の運転が開始される。電力系統40(
図1参照)の不具合に関する情報は、例えば、中央給電指令所(図示せず)や各地の制御所(図示せず)を経由して、中央制御室80(
図1参照)に伝送される。そして、励磁機2から供給される励磁電流によって、同期調相機10から出力される無効電力が適宜に調整される。
【0055】
なお、サイバーセキュリティを考慮して、中央給電指令所(図示せず)からの運転指令を、専用線(図水せず)を介して伝送するようにしてもよいし、また、所定のファイアウォールを設けるようにしてもよい。また、遠隔地から同期調相機10の制御を行うことができるようにしてもよい。
【0056】
第1実施形態によれば、発電設備を同期調相機10に転用する際、ハウジング13(
図2参照)に封入された水素ガスの圧力を高くすることで、同期調相機10から出力可能な無効電力の最大値を大きくすることができる。したがって、所定の無効電力が必要とされる場合において、発電設備を同期調相機10に改造(転用)する際の基数を減らすことができる。これによって、同期調相機10への改造に要するコストを削減できるため、無効電力の発電単価の引下げが可能となり、ひいては、社会貢献に寄与できる。
【0057】
≪第2実施形態≫
第2実施形態は、水素ガスの圧力の増加量の決定に先立って、管理者等が、同期調相機10(
図1参照)の一基当たりにおける無効電力の必要量を推定する点が、第1実施形態とは異なっている。なお、その他の点(同期調相機10の構成等、
図1~
図3参照)については、第1実施形態と同様である。したがって、第1実施形態とは異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0058】
図5は、第2実施形態に係る同期調相機化方法に関するフローチャートである(適宜、
図1も参照)。
なお、
図5に示す一連の処理は、発電設備を同期調相機10に転用する際、管理者等が行う推定や決定のプロセスである。
ステップS201において管理者等は、同期調相機10の一基当たりが供給すべき無効電力の必要量を推定する。無効電力の必要量が推定される際には、国内の電力系統の状況や、同期調相機10の周辺地域で電力系統40の不具合が生じた場合に必要となる無効電力(総量)の他、同期調相機10に転用し得る発電設備の基数等が考慮される。
【0059】
図5のステップS202~S205の処理は、この順で、第1実施形態のステップS101~S104(
図4参照)と同様であるから、説明を省略する。なお、ステップS202では、まず、ステップS201で推定された無効電力の必要量に基づいて、同期調相機10の出力可能な無効電力の最大値が算出される。そして、無効電力の最大値の出力時でも回転子12(
図2参照)の温度が所定の上限温度以下となるように、水素ガスの圧力の増加量が決定される。
【0060】
また、発電設備から同期調相機10に転用する際、発電設備の変圧器41(
図1参照)の高圧側で行われていた送電電庄制御を、発電機1(
図1参照)の励磁制御に基づくPSVR(Power System Voltage Regulator)に変更するようにしてもよい。
【0061】
第2実施形態によれば、同期調相機10の一基当たりの無効電力の必要量に基づいて、水素ガスの圧力の増加量が決定される(
図5のS201、S202)。これによって、例えば、ハウジング13(
図2参照)内の水素ガスの圧力が無駄に高く設定されることを抑制でき、ひいては、発電機1における風損を抑制できる。
【0062】
≪第3実施形態≫
第3実施形態は、発電設備を同期調相機10(
図1参照)に転用する際、制御盤81(制御装置:
図1参照)の改造や制御方法の変更が行われる点が、第1実施形態とは異なっている。なお、その他(同期調相機10の構成等、
図1~
図3参照)については、第1実施形態と同様である。したがって、第1実施形態とは異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0063】
図6は、第3実施形態に係る同期調相機化方法に関するフローチャートである(適宜、
図1も参照)。
なお、
図6に示す一連の処理は、発電設備を同期調相機10に転用する際、管理者等が行う決定のプロセスである。
また、
図6のステップS301~S304は、この順で、第1実施形態のステップS101~S104(
図4参照)と同様であるから、説明を省略する。ステップS304において、ブラシ(図示せず)の改造の要否を判定した後、管理者等は、ステップS305の処理を行う。すなわち、ステップS305において管理者等は、制御盤81(
図1参照)の改造や制御方法の変更の要否を判定する。
【0064】
例えば、電力系統40(
図1参照)の安定化を図るための励磁制御では、有効電力や電力動揺周波数の他、発電機1の回転速度等を高精度かつ高速に検出することが望ましい。さらに、これらのデータ(制御盤81への入力信号)に基づき、電力の動揺を抑制できるような制御アルゴリズムを用いることが望ましい。このような制御アルゴリズムに適した機器として、デジタル自動電圧調整装置(D-AVR:Digital Auto Voltage Regulator)が用いられてもよい。例えば、同期調相機10への転用前の発電設備がアナログ制御タイプの自動電圧調整装置であった場合は、必要に応じて、デジタル自動電圧調整装置に改造する(又は取り替える)ようにしてもよい。
【0065】
なお、次に説明する第1・第2・第3の変形例(
図7、
図8、
図9)で説明するように、制御盤81の配置は、適宜に変更可能である。
【0066】
≪第1の変形例≫
図7は、第3実施形態の第1の変形例におけるタービン建屋30の付近の機器の配置を示す説明図である。
図7の例では、タービン建屋30の外側に隣接するように、制御室80Aが設けられている。また、制御室80Aに設けられた制御盤81が、発電機用制御ライン63を介して励磁機2に接続されるとともに、駆動機用制御ライン62を介して駆動用インバータ4に接続されている。そして、制御盤81からの制御信号に基づいて、励磁機2の励磁電流が変化し、同期調相機10の無効電力が調整されるようになっている。
【0067】
なお、同期調相機10への転用前の発電設備が原子力発電プラントである場合には、廃炉が行われてから所定期間は、タービン建屋30の内部が放射線管理区域になることが多い。このような場合において、タービン建屋30の外側に隣接している制御室80Aが放射線管理区域から外れている場合には、作業員が制御室80Aに出入りする際の手続を簡素化できる。
【0068】
≪第2の変形例≫
図8は、第3実施形態の第2の変形例におけるタービン建屋30の付近の機器の配置を示す説明図である。
図8の例では、タービン建屋30の壁の内側に隣接するように、新たに制御室80Bが設けられている。例えば、タービン建屋30の外側に余分なスペースがない場合には、
図8に示すように、タービン建屋30の内側に制御室80Bを設けるようにしてもよい。この場合でも、
図7の場合と同様に、制御盤81からの制御信号に基づいて、励磁機2や駆動用インバータ4を所定に制御できる。
【0069】
≪第3の変形例≫
図9は、第3実施形態の第3の変形例におけるタービン建屋30の付近の機器の配置を示す説明図である。
図9に示すように、制御室を特に設けずに、タービン建屋30の内部に制御盤81を設けるようにしてもよい。この場合でも、第1・第2の変形例と同様に、制御盤81によって、励磁機2や駆動用インバータ4を所定に制御できる。
【0070】
≪第4実施形態≫
第4実施形態は、無効電力の制御幅や制御速度の他、運用のニーズに基づいて、管理者等が、同期調相機10への転用対象となる発電機1を選定する点が、第1実施形態とは異なっている。なお、その他の点(同期調相機10の構成等、
図1~
図3参照)については、第1実施形態と同様である。したがって、第1実施形態とは異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0071】
図10は、第4実施形態に係る同期調相機化方法に関するフローチャートである(適宜、
図1も参照)。
なお、
図10に示す一連の処理は、発電設備を同期調相機10に転用する際、管理者等が行う決定のプロセスである。
例えば、同期調相機10への転用前において、複数の発電プラントが設けられたサイト(発電所)では、発電プラントごとに容量や励磁方式が異なっていることが多い。また、所定の発電プラントでは、発電機1ごとに容量や励磁方式が異なっていることもある。そこで、第4実施形態では、立地条件や必要な無効電力量等を考慮し、系統解析に基づいて、同期調相機10に改造する発電機1の基数を管理者等が推定し、改造の対象となる発電機1を選定するようにしている。
【0072】
ステップS401において管理者等は、同期調相機10への改造の対象となる基(発電機1)を選定する。具体的に説明すると、管理者等は、所定の系統解析に基づいて、改造が必要な基数(発電機1の数)を推定し、さらに、無効電力の制御幅や制御速度の他、運用のニーズを考慮して、同期調相機10への転用(改造)を行う発電機1を選定する。その際、管理者等は、無効電力量の増加量(同期調相機10への転用前を基準とする1基当たりの増加量)も考慮することが望ましい。
なお、
図10のステップS402~S405は、この順で、第1実施形態のステップS101~S104(
図4参照)と同様であるから、説明を省略する。
【0073】
第4実施形態によれば、無効電力の制御幅や制御速度の他、運用のニーズに基づいて、同期調相機10への改造の対象となる発電機1が選定される。これによって、同期調相機10から電力系統40に無効電力を適切に供給できるため、電力系統40の安定化を図ることができる。
【0074】
≪第5実施形態≫
第5実施形態は、同期調相機10(
図1参照)に転用される前の発電機1の運転履歴等に基づいて、発電機1の保守点検が行われる点が、第1実施形態とは異なっている。なお、その他の点(同期調相機10の構成等、
図1~
図3参照)については、第1実施形態と同様である。したがって、第1実施形態とは異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0075】
第5実施形態については、
図1を用いて説明する。
一般に発電機1の保守点検には、シール材等の消耗部品の交換が5年に1回程度の頻度で行われる他、コイルの巻替えといった大型工事が製品寿命中に1回程度行われる。また、発電機1の停止保管中には、錆の発生や樹脂材料の劣化の他、発電機1等の回転機の動作不良についても配慮される。具体的には、気化性防錆材を用いたメンテナンスの他、いわゆる乾燥保管・満水保管の使い分けや、回転機の定期的なターニング(タービンロータのたわみの解消)といったことが行われる。つまり、それぞれの発電機1において、運転履歴や保管履歴が異なっていることが多い。したがって、発電設備を同期調相機10に転用する際、発電機1の運転履歴や保管履歴を考慮して、適切な保守点検を行うことが望ましい。
【0076】
例えば、同期調相機10への転用の直前まで発電機1が使用されていた場合には、それまでの保守点検計画の延長線上で発電機1の保守点検が行われることが望ましい。ただし、発電機1が製品寿命に達して廃止措置が取られた場合には、管理者等は、発電機1を同期調相機10に用いることが可能であるか否かも含めて検討する。
【0077】
また、長期間(例えば、数年)に亘って使用されていない発電設備を同期調相機10に転用する場合には、停止保管中の状態も考慮することが望ましい。例えば、再稼働を想定して、継続的に手入れが行われてきた発電機1については、その延長線上での保守点検が行われることが望ましい。そして、管理者等は、同期調相機10に転用する際の工事に合わせて、発電機1の開放点検(発電機1の内部の点検)を行うようにする。
【0078】
また、原子力発電プラント等の廃炉を想定して、手入れが特に行われずに保管されていた発電機1の場合には、分解点検や消耗部品の交換の他、所定の動作試験を行うことが望ましい。例えば、同期調相機10に転用する際の工事に先立って、発電機1の開放点検の他、付帯系統の点検を行うようにしてもよい。管理者等は、点検の結果に基づいて、コイルの巻替えといった大型工事の要否について検討する。大型工事を行う場合には、計画から工事完了まで年単位の時間を要するため、同期調相機10への転用計画の初期に発電機1の点検が行われることが望ましい。また、発電機1のコイルの巻替えを行う際、管理者等は、無効電力の出力を考慮して、特に過熱しやすい折返し端部の発熱の影響を緩和できるような巻回方法を採用するようにしてもよい。
【0079】
第5実施形態によれば、同期調相機10に転用する際、発電機1の運転履歴等を考慮した点検が行われるため、同期調相機10の信頼性を高めることができる。
【0080】
≪第6実施形態≫
第6実施形態は、原子力発電プラントの発電設備を同期調相機10に転用する際、電源系の冷却の空冷化等が行われる点が、第1実施形態とは異なっている。なお、その他の点(同期調相機10の構成等、
図1~
図3参照)については、第1実施形態と同様である。したがって、第1実施形態とは異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0081】
第6実施形態についても、
図1を用いて説明する。
原子力発電プラントを廃止して、その発電設備を同期調相機10に転用する際には、原子炉本体(図示せず)の撤去に伴い、原子力発電プラントの冷却機器(図示せず)についても、容量の縮小や交換が行われることが多い。具体的には、同期調相機10の熱負荷の大きさに対応して、冷却機器の容量の縮小や交換が行われるが、その際、海水を用いた冷却機器ではなく、空冷の冷却機器にしておくことが望ましい。海水を用いた冷却機器は、設置スペースが非常に大きく、また、設備コストも高いからである。空冷の冷却機器は、海に隣接していない地域でも用いることができ、汎用性が高いという利点もある。また、電源系の冷却機器についても空冷化を進めることが望ましい。
【0082】
タービン建屋30における機器の配置については、中央制御室80を撤去し、例えば、
図7~
図9に示すように、タービン建屋30の内側又は外側(放射線の非管理区域)に同期調相機10の制御盤81を配置するようにしてもよい。また、同期調相機10の運転に特に必要のない機器をタービン建屋30の付近の非管理区域に搬出し、後で処分できるようにしておくことが望ましい。これによって、原子力発電プラントの廃止に係る作業を円滑に進めることができる。
【0083】
第6実施形態によれば、発電設備を同期調相機10に転用する際、冷却機器(図示せず)の空冷化を進めることで、設備コストを削減できる。また、同期調相機10の運転において特に必要のない機器を非管理区域に搬出することで、原子力発電プラントの廃止に係る作業を円滑に進めることができる。
【0084】
≪第7実施形態≫
第7実施形態は、必要な無効電力量に基づいて、ハウジング13(
図2参照)内の水素ガスの圧力を変化させる点が、第1実施形態とは異なっている。なお、その他の点(同期調相機10の構成等、
図1~
図3参照)については、第1実施形態と同様である。したがって、第1実施形態とは異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0085】
図11は、時間帯と、太陽光発電量と、電力系統の送電量と、要求される無効電力と、水素圧力と、の関係を示す説明図である(適宜、
図1、
図2も参照)。
なお、
図11の表に含まれる「水素圧力」とは、発電機1(
図2参照)のハウジング13に封入される水素ガスの圧力である。例えば、日本国内では、特に九州地域で太陽光発電の導入量(発電電力量の総量)が増加している。したがって、太陽光発電が行われる日中は九州地域の発電量が多く、そこで発電された電力が関西等の大規模需要地に送電されている。その送電経路に含まれる原子力発電プラントや火力発電プラント等の発電設備を同期調相機10に改造して、無効電力を供給することで、電力系統40の安定化に貢献できる。
【0086】
図11に示すように、日中の時間帯(例えば、7時~17時)は、単位時間当たりの太陽光発電量や電力系統40(
図1参照)の送電量が多いため、要求される無効電力量も多くなる。また、夜間の時間帯(例えば、17時~7時)は、単位時間当たりの太陽光発電量や電力系統40(
図1参照)の送電量が少ないため、要求される無効電力量も少なくなる。そこで、第7実施形態では、同期調相機10(
図1参照)が備える発電機1(
図2参照)において、ハウジング13(
図2参照)内の水素ガスの圧力の設定を変更できるようにしている。
【0087】
具体的には、
図11に示すように、夜間よりも日中の時間帯の方が、ハウジング13(
図2参照)内の水素ガス(冷却ガス)の圧力が高く設定される。言い換えると、電力系統40(
図1参照)における無効電力の要求量が少ない時間帯(夜間)よりも、無効電力の要求量が多い時間帯(日中)の方が、ハウジング13内の水素ガスの圧力が高く設定される。このような水素ガスの圧力の設定は、同期調相機10(
図1参照)への転用の際に水素ガスの圧力を高くする「調圧工程」の後であって、同期調相機10の運転中に行われる。なお、電力系統40における無効電力の要求量とは、例えば、中央給電指令所(図示せず)から同期調相機10に要求される無効電力(単位時間当たりの無効電力量)である。
【0088】
前記したように、ハウジング13(
図2参照)内の水素ガスの圧力が高いほど、回転子12(
図2参照)の冷却性能が高くなる。したがって、同期調相機10から大きな無効電力を出力する際には、水素ガスの圧力を高くすることで、回転子コイル(図示せず)の温度を所定の上限温度以下に抑えることができる。これによって、要求される無効電力が比較的大きい日中の時間帯でも、同期調相機10から電力系統40に無効電力を適切に供給できる。なお、ハウジング13内の水素ガスの圧力は、制御盤81(
図1参照)によって調整されてもよいし、また、手動で調整されてもよい。
【0089】
その他、各時間帯における無効電力の要求値の推移を示す履歴データを予め取得し、要求される無効電力の値が大きいほど、ハウジング13内の水素ガスの圧力が高く設定されるようにしてもよい。
【0090】
第7実施形態によれば、日中の時間帯にはハウジング13(
図2参照)内の水素ガスの圧力を高くし、夜間の時間帯には水素ガスの圧力を低くすることで、同期調相機10から出力可能な無効電力の最大値を調整できる。したがって、例えば、必要とされる無効電力が比較的少ない夜間には、ハウジング13内の水素ガスの圧力を下げることができるため、発電機1(
図2参照)の風損を低減し、高効率化を図ることができる。
【0091】
≪変形例≫
以上、本発明に係る同期調相機化方法について各実施形態で説明したが、本発明はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変更を行うことができる。
例えば、各実施形態では、「廃止プラント」の発電設備が同期調相機10に転用される場合について説明したが、これに限らない。例えば、「遊休プラント」の発電設備を同期調相機10に転用する場合にも各実施形態を適用できる。なお、「遊休プラント」とは、発電設備が使われないままの状態になっているプラントである。
【0092】
また、各実施形態では、同期調相機10(
図1参照)が駆動機3(
図1参照)を備える場合について説明したが、これに限らない。例えば、駆動機3を省略し、サイリスタ整流器等(図示せず)を用いて、発電機1を起動させるようにしてもよい。
【0093】
また、各実施形態では、ハウジング13(
図2参照)に封入される冷却ガスとして水素ガスが用いられる場合について説明したが、他のガス(例えば、空気)が用いられてもよい。この場合において、冷却ガスが可燃性ガスであってもよいし、また、可燃性ガスでなくてもいずれでもよい。
また、各実施形態では、ハウジング13内の水素ガスとの間で熱交換を行う冷媒として、水が用いられる場合について説明したが、他の種類の冷媒が用いられてもよい。
【0094】
また、第7実施形態では、日中の時間帯にはハウジング13(
図2参照)内の水素ガスの圧力を高くし、夜間の時間帯には水素ガスの圧力を低くする場合について説明したが、これに限らない。例えば、中央給電指令所等(図示せず)から同期調相機10に要求される時々刻々の無効電力の大きさに基づいて、制御盤81(
図1参照)が、ハウジング13内の水素ガスの圧力を変更するようにしてもよい。つまり、「調圧工程」の後であって、同期調相機10(
図1参照)の運転中、電力系統40(
図1参照)における無効電力の要求量に基づいて、ハウジング13(
図2参照)内の水素ガス(冷却ガス)の圧力設定値が変更されるようにしてもよい。例えば、電力系統40における無効電力の要求量が大きいほど、ハウジング13内の水素ガス(冷却ガス)の圧力設定値が高い値に設定されるようにしてもよい。これによって、水素ガスの圧力を無駄に高く設定する必要がなくなるため、発電機1における風損を低減し、高効率化を図ることができる。
【0095】
また、実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に記載したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。また、実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
また、前記した機構や構成は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての機構や構成を示しているとは限らない。
【符号の説明】
【0096】
1 発電機
2 励磁機
3 駆動機
4 駆動用インバータ
5 シャフト
10 同期調相機
11 固定子
12 回転子
13 ハウジング
14 ブラケット
15 軸受部
16 軸密封装置(封止部材)
17 シールリング(封止部材)
18 絶縁部材
19 気密パッキン(封止部材)
40 電力系統