(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090580
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】処理液の循環方法、ならびにそれに使用する散液デバイスおよび処理液循環装置
(51)【国際特許分類】
B01F 27/96 20220101AFI20230622BHJP
B01F 23/41 20220101ALI20230622BHJP
【FI】
B01F7/32 A
B01F3/08 A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021205610
(22)【出願日】2021-12-17
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-04-05
(71)【出願人】
【識別番号】390006264
【氏名又は名称】関西化学機械製作株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】502059825
【氏名又は名称】Bio-energy株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】野田 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼ 真司
(72)【発明者】
【氏名】向田 忠弘
【テーマコード(参考)】
4G035
4G078
【Fターム(参考)】
4G035AB38
4G035AB40
4G035AE15
4G078AA07
4G078AB05
4G078BA05
4G078CA08
4G078DA01
4G078DC06
4G078EA03
(57)【要約】
【課題】 種々の処理液の混合や撹拌に要するエネルギーを低減することのできる、処理液の循環方法、ならびにそれに使用する散液デバイスおよび処理液循環装置を提供すること。
【解決手段】 本発明は、処理液の循環方法であって、散液デバイスを回転して、該散液デバイスによる該処理液の汲み取りと吐出とを行う工程を包含する。ここで、散液デバイスは鉛直方向に沿って配置された回転軸と該回転軸に装着された、少なくとも1つの流液部材とを備え、流液部材は、上方に位置しかつ処理液の外に突出する吐出部、下方に位置しかつ処理液中に浸漬されている吸液部、および吐出部と吸液部との間を延びる筒状流路を備え、吐出部が該回転軸に対して反対側を指向するように筒状流路が屈曲している。本発明の方法はまた、散液デバイスを構成する流液部材の筒状流路が処理液で満たされている状態で行われる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理液の循環方法であって、
散液デバイスを回転して、該散液デバイスによる該処理液の汲み取りと吐出とを行う工程を包含し、
該散液デバイスが、
鉛直方向に沿って配置された回転軸と該回転軸に装着された、少なくとも1つの流液部材とを備え、
該流液部材が、上方に位置しかつ該処理液の外に突出する吐出部、下方に位置しかつ該処理液中に浸漬されている吸液部、および該吐出部と該吸液部との間を延びる筒状流路を備え、
該吐出部が該回転軸に対して反対側を指向するように該筒状流路が屈曲しており、
該吐出部が指向する方向と水平方向との間の角度θ2が該水平方向を基準にして-90°~20°であり、
該筒状流路が該処理液で満たされている、方法。
【請求項2】
前記散液部材が、前記回転軸の軸線に対して前記吸液部が前記吐出部よりも近位に位置するように傾斜して配置されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記散液デバイスが少なくとも2つの前記流液部材を備える、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記角度θ2が前記水平方向を基準にして0°~20°である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記散液デバイスを構成する前記流液部材の前記筒状流路が前記処理液で満たされている状態が、該散液デバイスを構成する前記回転軸の回転によって保持されている、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記処理液が油相および水相から構成されている反応液である、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
鉛直方向に沿って配置された回転軸と該回転軸に装着された流液部材とを備える、散液デバイスであって、
該流液部材が、少なくとも1つの第1の流液部材と少なくとも1つの第2の流液部材とを備え、
該第1の流液部材と該第2の流液部材がそれぞれ独立して上方に位置する吐出部、下方に位置する吸液部、および該吐出部と該吸液部との間を延びる筒状流路を備え、
該吐出部が該回転軸に対して反対側を指向するように該筒状流路が屈曲しており、
該吐出部が指向する方向と水平方向との間の角度θ2が該水平方向を基準にして0°~20°であり、
該第1の流液部材の該吸液部が、該第2の流液部材の該吸液部よりも上方に配置されている、散液デバイス。
【請求項8】
前記筒状流路が円形、楕円形または多角形の断面を有する、請求項7に記載の散液デバイス。
【請求項9】
処理液を収容するための処理槽と、該処理槽内に設けられている請求項7または8に記載の散液デバイスとを備える、処理液循環装置。
【請求項10】
前記処理液が油相および水相から構成される反応液である、請求項9に記載の処理液循環装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理液の循環方法、ならびにそれに使用する散液デバイスおよび処理液循環装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、油脂は燃料や化学品へ変換するための原料としても注目されている。特に、化学反応によって動物性油脂および/または植物性油脂から長鎖脂肪酸エステルを合成し、これを軽油と代替可能なバイオディーゼル燃料として利用する試みが積極的になされている。
【0003】
他方、相間移動触媒やスラリー触媒を用いる2液相以上の反応系において、不斉合成反応などの反応を通じて様々な化合物を合成する技術が注目されている。こうした反応の多くでは、反応系を力強く撹拌することによって反応促進が行われる。
【0004】
2液相の反応は、例えばバイオディーゼル燃料の製造に採用されることがある。例えば、リパーゼのような酵素を触媒に用いた酵素触媒法によるエステル交換反応が挙げられる。こうした酵素触媒法によるエステル交換反応では、酵素として、例えば、液体酵素やイオン交換樹脂などの担体に固定化された酵素(固定化酵素)が使用される。液体酵素は、培養液を濃縮かつ精製したものから構成されている点で、固定化酵素と比較して安価である。また、当該酵素は、上記エステル交換反応により生成する副生成物のグリセリン水に残存するため、これを次バッチの反応に用いることができる。これにより、液体酵素の繰り返し利用が可能となり、バイオディーゼル燃料の製造に要するコストの節減が可能となる(非特許文献1)。
【0005】
液体酵素を用いるエステル交換反応では、油層と水層との二相系が用いられ、例えば反応物を高速で撹拌する等によりエマルジョンが形成される。ここで、反応物の高速撹拌には、撹拌機への相当なエネルギーの負荷が必要である。一方、工業製品としての生産性を高めるためには、反応系を構成する処理液を撹拌等によって循環させるために必要なエネルギーを低減させることが所望されている。しかし、そうすると上記反応物を用いるエマルジョン形成能が低下し、エステル交換反応を効果的に行うことができないという矛盾を生じる。
【0006】
あるいは、上記酵素に代えてアルカリ触媒を用いる方法もある。しかし、この場合も2液相の反応系が採用され、反応には力強い撹拌による処理液の循環が必要とされる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M. Nordbladら、Biotechnology and Bioengineering, 2014, Vol.11, No.12, pp.2446-2453
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、種々の処理液の混合や撹拌に要するエネルギーを低減することのできる、処理液の循環方法、ならびにそれに使用する散液デバイスおよび処理液循環装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、処理液の循環方法であって、
散液デバイスを回転して、該散液デバイスによる該処理液の汲み取りと吐出とを行う工程を包含し、
該散液デバイスが、
鉛直方向に沿って配置された回転軸と該回転軸に装着された、少なくとも1つの流液部材とを備え、
該流液部材が、上方に位置しかつ該処理液の外に突出する吐出部、下方に位置しかつ該処理液中に浸漬されている吸液部、および該吐出部と該吸液部との間を延びる筒状流路を備え、
該吐出部が該回転軸に対して反対側を指向するように該筒状流路が屈曲しており、
該吐出部が指向する方向と水平方向との間の角度θ2が該水平方向を基準にして-90°~20°であり、
該筒状流路が該処理液で満たされている、方法である。
【0010】
1つの実施形態では、上記散液部材は、上記回転軸の軸線に対して上記吸液部が上記吐出部よりも近位に位置するように傾斜して配置されている。
【0011】
1つの実施形態では、上記散液デバイスは少なくとも2つの上記流液部材を備える。
【0012】
1つの実施形態では、上記角度θ2は上記水平方向を基準にして0°~20°である。
【0013】
1つの実施形態では、上記散液デバイスを構成する上記流液部材の上記筒状流路が上記処理液で満たされている状態は、該散液デバイスを構成する上記回転軸の回転によって保持されている。
【0014】
1つの実施形態では、上記処理液は油相および水相から構成されている反応液である。
【0015】
本発明はまた、鉛直方向に沿って配置された回転軸と該回転軸に装着された流液部材とを備える、散液デバイスであって、
該流液部材が、少なくとも1つの第1の流液部材と少なくとも1つの第2の流液部材とを備え、
該第1の流液部材と該第2の流液部材がそれぞれ独立して上方に位置する吐出部、下方に位置する吸液部、および該吐出部と該吸液部との間を延びる筒状流路を備え、
該吐出部が該回転軸に対して反対側を指向するように該筒状流路が屈曲しており、
該吐出部が指向する方向と水平方向との間の角度θ2が該水平方向を基準にして0°~20°であり、
該第1の流液部材の該吸液部が、該第2の流液部材の該吸液部よりも上方に配置されている、散液デバイスである。
【0016】
1つの実施形態では、上記筒状流路は円形、楕円形または多角形の断面を有する。
【0017】
本発明はまた、処理液を収容するための処理槽と、該処理槽内に設けられている上記散液デバイスとを備える、処理液循環装置である。
【0018】
1つの実施形態では、上記処理液は油相および水相から構成される反応液である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、回転軸にかける動力が小さい状態で処理液を効率良く循環させることができる。これにより、処理槽内の処理液について水平方向の回転に基づく撹拌に加え、鉛直方向の循環を当該小さい動力で促すことができる。本発明の方法は、例えば、油相と水相との2相で構成される反応液を処理液として処理槽に収容した場合、余分な動力を使用することなく反応液のエマルジョン化、および/または副生成物(例えばグリセリン)の水での抽出を促すことができる。その際、処理槽の底部付近に位置していた反応液を液面の上方から吐出することにより、別の場所(液面付近)に位置していた反応液との混合を通じて反応を進めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の方法に使用され得る散液デバイスが組み込まれた処理液循環装置の一例を示す概略図である。
【
図2】
図1に示す散液デバイスを構成する流液部材を模式的に表す縦方向断面図である。
【
図3】本発明の方法に使用され得る散液デバイスが組み込まれた処理液循環装置の他の例を示す概略図である。
【
図4】本発明の方法に使用され得る散液デバイスが組み込まれた処理液循環装置の別の例を示す概略図である。
【
図5】本発明の方法に使用され得る散液デバイスが組み込まれた処理液循環装置のさらに別の例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明を、添付の図面を参照して説明する。なお、以下のすべての図面に共通して同様の参照番号を付した構成は、他の図面に示したものと同様である。
【0022】
本発明の処理液の循環方法(以下、単に「循環方法」ということがある)においては、散液デバイスを回転して、当該散液デバイスによる処理液の汲み取りと吐出とが行われる。
【0023】
図1は、本発明の循環方法に使用され得る散液デバイスが組み込まれた処理液循環装置の一例を示す概略図である。
【0024】
図1に示す散液デバイス120は、鉛直方向に沿って配置された回転軸121と、好ましくは水平方向に延びる取付具122を介して当該回転軸121に装着された少なくとも1つの流液部材123から構成されている。流液部材123は、上方に位置しかつ処理液116の外に突出する吐出部125、下方に位置しかつ処理液116中に浸漬されている吸液部124、および吐出部125と吸液部124との間を延びる筒状流路126を備える。
【0025】
図1に示すように、散液デバイス120では、流液部材123の吸液部124は、反応液116の液面128よりも下方に配置され、流液部材123の吐出部125は処理液116の液面128よりも上方に配置されている。これにより、散液デバイス120は、回転軸121の回転とそれに伴う流液部材123にかかる遠心力により、例えば、
図1に示すような処理槽110に収容された反応液116を、流液部材123の吸液部124から汲み取り、筒状流路126を通じて処理槽110の下方から上方に向かって流動させることができる。その後、汲み取られた処理液は、流液部材123の吐出部125から、液面128よりも上方に吐出される。
【0026】
本発明の循環方法では、散液デバイス120を構成する流液部材123の筒状流路126が処理液116で満たされている状態で行われることが好ましい。ここで、「筒状流路が処理液で満たされている」とは、筒状流路内を処理液が隙間なく流動している状態を指して言う。
【0027】
一般にサイフォンの原理によれば、管内が液体で満たされた状態において、低位置に設けられた出口(本発明における吐出部に相当)から液体が排出されると、高位置に設けられた入口(本発明における吸液部に相当)から新たな液体が吸液され、入口に存在する液体がすべて移動してなくなるか、管内に気泡が配置キャビテーションを起こし始めるまで当該入口から出口への液体の移動は連続的に起こる。
【0028】
これに対し、本発明では、処理液が流液部材123における吸液部124から筒状流路126を通じて吐出部125に移動するにあたり、一旦筒状流路126が処理液で満たされると、当該散液部材123は、回転軸121の回転を継続する間、まるでサイフォンの原理で使用される管のように、吸液部124での処理液の吸液から筒状流路126を通り、吐出部125での当該処理液の吐出までの処理液の移動を連続的に行うことができる。
すなわち、本発明の循環方法では、散液デバイス120を構成する流液部材123の筒状流路126が処理液116で満たされた状態は、当該散液デバイス120を構成する回転軸121の回転によって保持される。このような処理液の連続的な移動を本明細書では「サイフォン様」の処理液の移動という。
【0029】
本発明においては、一旦このサイフォン様の処理液の移動を生じると、その単位時間あたりに移動する処理液の液量(例えばmL/秒)は、回転軸121の回転が同じ場合におけるその連続的な移動を生じる前の液量(例えばmL/秒)よりも増加し、これにより、多量の処理液を効率良く混ぜ返すことができる。
【0030】
図1の散液デバイス120では、流液部材123を構成する吸液部124、筒状流路126および吐出部125の間で上記サイフォン様の処理液の移動を創出することが可能である。これにより、一旦サイフォン様の処理液の移動が開始されると、流液部材123内では回転軸121の回転を比較的抑えても(すなわち、回転に要する動力を小さくしても)、吸液部124からの処理液の吸液と、吐出部125からの処理液の吐出を実質的に連続して行うことができる。
【0031】
なお、回転数が一定値を下回ると筒状通路120内を処理液で満たすことが困難となり、その際はサイフォン様の処理液の移動が成立せず、吐出部125から連続的な処理液の吐出が失われる。
【0032】
本発明において、液面128に対する吸液部124および吐出部125の配置は、静置段階(すなわち、回転軸121の回転がなく、処理液116の液面が略水平方向に広がった状態にあるとき)に加え、回転軸121を所望の回転速度で回転させている段階(すなわち、回転軸121の回転を通じて後述するような処理液116の撹拌が行われている状態にあるとき)にも保持されていることが好ましい。その結果、処理槽110内の処理液116は、回転軸121および流液部材123の回転によって流液部材の吸液部124から容易に汲み取り可能であり、その後遠心力によって流液部材123内の筒状流路126を通じて吐出部125までに移動し、吐出部125から、例えば処理槽110の内壁111または処理液116の液面128に向かって吐出され得る。
【0033】
本発明の散液デバイス120では、吐出部125が回転軸121に対して反対側を指向するように筒状流路126は屈曲している。例えば、
図1に示す散液デバイス120では、筒状流路126の少なくとも一部が(
図1中、屈曲部Pで示すように)屈曲し、吐出部125は処理槽110の内壁111方向に指向している。その結果、散液デバイス120の吸液部124から汲み取られた処理液は、通常、処理槽110の内壁111に向かって当該吐出部125から吐出される。
【0034】
なお、
図1に示す散液デバイス120では、1つの筒状流路126に1つの屈曲部Pが設けられているが、本発明は吐出部125が処理槽110の内壁111方向に指向する限り、特にこのような形態に限定されない。処理槽110の内壁111方向に指向する限り、1つの筒状流路126に対して複数の屈曲部が設けられていてもよい。本発明においては、屈曲部Pにおける所望でないエロージョンの発生を回避または低減するために当該屈曲部は円弧状に湾曲して形成されていることが好ましい。
【0035】
なお、
図1に示す実施形態では、処理液116が油相116aと水相116bとで構成される二相系に反応液の形態を有し、2つの流液部材を備える散液デバイス120を用いる場合について説明したが、本発明はこのような構成のみに限定されない。散液デバイス120に対して、流液部材は少なくとも1つ、あるいは例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、または6つ設けられている。散液デバイス120が複数の散液部材を備える場合、円滑な回転が得られるようにするため、各散液部材は回転軸を中心とした回転方向において略均等な角度で間隔を空けて配置されていることが好ましい。
【0036】
回転軸121は所定の剛性を有するシャフトであり、例えば、円筒状または円柱状の形状を有する。回転軸121は、処理槽110内で、通常、鉛直方向に配置されている。回転軸121の太さは、必ずしも限定されないが、例えば、8mm~200mmである。回転軸121の長さは、使用する処理槽110の大きさ等によって変動し、当業者によって適切な長さが選択され得る。
【0037】
回転軸121の一端は、処理槽110の上部でモータ140などの回転手段に接続されている。回転軸121の他端は、処理槽110の底部109に接続されておらず、例えば処理槽110の底部109から一定の間隔を開けて(好ましくは反応液116の液面128から離れて)配置されている。これにより、回転軸121が処理液116に接触する機会を低減できる。あるいは、回転軸の他端は処理槽の底部109に設けられた軸受に収容されていてもよい。
【0038】
図1に示す散液デバイス120では、回転軸121の軸線Jに対して、流液部材123の吸液部124が吐出部125よりも近位に位置するように傾斜して配置されている。すなわち、当該散液デバイス120では、流液部材123の吸液部124と回転軸121の軸線Jとの最短距離が、吐出部125と回転軸121の軸線Jとの最短距離よりも短くなるように、流液部材123が傾斜して配置されている。
【0039】
あるいは、
図1に示す散液デバイス120において、流液部材123は、回転軸121の軸方向に対して所定の角度(取付傾斜角ともいう)θ
1をなすように傾斜して取付けられている。取付傾斜角θ
1は、当業者によって任意の角度に設定され得るが、例えば5°~45°、好ましくは10°~25°である。
【0040】
本発明おいて、流液部材123は、例えば、全体が筒状(例えば、円筒状、楕円筒状または角筒状)に加工されたものであり、例えば円形;楕円形;三角形、矩形などの任意の多角形でなる幾何学的形状の断面を有する。上記サイフォン様の処理液の移動を創出し易いとの理由から、流液部材123の断面は角を有さない形状、例えば円形または楕円形の形状を有することが好ましい。
【0041】
流液部材123の大きさは、特に限定されない。
図2は、
図1に示す散液デバイスの第2の流液部材の一例を模式的に表す縦方向断面図である。例えば、散液部材123として円筒状の部材が使用される場合、その内径は、例えば2mm~200mmである。吸液部124から屈曲部Pまでの長さは特に限定されず、適切な長さが当業者により選択され得る。なお、
図2では、吸液部124の内径と筒状通路126の内径と吐出部125の内径とが略同一の大きさであるかのように記載されているが、本発明はこのような形態のみに限定されない。例えば、流液部材123の内径が吸液部124から屈曲部Pを通り吐出部125に向かって緩やかにまたは段階的に縮径するものであってもよい。
【0042】
さらに
図2に示す流液部材123において、吐出部125が指向する方向Tと水平方向Hとの間の角度θ
2は水平方向を基準にして、-90°~20°であり、あるいは別の例としては0°~20°である。当該角度θ
2が-90°を下回ると、流液部材内で処理液が逆流する方向に遠心力が働き、吐出部から処理液が効果的に吐出できない場合がある。当該角度θ
2が20°を上回ると、吐出部から処理液を吐出するためにはより多くの回転数(動力)を必要とする。その一方、仮に筒状通路120内が処理液で満たされたとしても、その後の回転数(動力)の低下によるヒステリシスは起こらず、当該低下によって吐出部から吐出される処理液の量は減少する場合がある。
【0043】
本発明において、
図1に記載したような散液デバイス120を組み込んだ処理液循環装置100は、例えば、種々の反応物を含有する反応液(処理液)を収容する反応装置、内容物の物理的混合や撹拌を必要とする際に使用される処理液の混合装置または撹拌装置として使用され得る。
【0044】
次に、本発明の循環方法に使用され得る処理液循環装置について再び
図1を用いて説明する。
【0045】
本発明の処理液循環装置100は処理槽110および上記散液デバイス120を備える。
【0046】
処理槽110は、処理液116を収容して撹拌することができる密閉可能な槽であり、例えば、平底、丸底、円錐底または下方に向かって傾斜する底部109を有する。
【0047】
処理槽110の大きさ(容量)は、処理液循環装置100の用途や、処理液の処理量などによって適宜設定されるため、必ずしも限定されないが、例えば、0.1リットル~1,000,000リットルである。
【0048】
1つの実施形態では、処理槽110はまた、処理液供給口112および生成物出口114を備える。処理液供給口112は、処理槽110内に処理液116を新たに供給するための入口である。処理液供給口112は、例えば処理槽110の上方(例えば、上蓋)に設けられている。あるいは、処理液供給口112は、処理槽110の側面部に設けられていてもよい。処理槽110に設けられる処理液供給口112の数は1個に限定されない。例えば、複数個の反処理供給口が処理槽110に設けられていてもよい。
【0049】
生成物出口114は、処理槽110内で得られた生成物を処理槽110から取り出すための出口である。生成物出口114は、当該生成物に加えて反応残渣や廃液等も排出可能であり、当該排出は、例えば生成物出口114の下流側に設けられたバルブ115の開閉によって調節され得る。生成物出口114はまた、例えば処理槽110内の底部109の中央に連通して設けられている。
【0050】
処理槽110の上部は、例えば、蓋体またはメンテナンス・ホールのような開閉可能な構造を有していてもよい。さらに、処理槽110の上部には、処理槽110内の圧力を調節するための圧力調節口(図示せず)が設けられていてもよい。さらに、圧力調節口は例えば図示しない減圧ポンプに接続されていてもよい。
【0051】
処理槽110に収容される処理液116は、水溶液、スラリーなどの液体である。処理液循環装置100が例えば後述するエステル交換反応による脂肪酸エステルの製造に使用されるような場合、処理液116は、例えば油相116aおよび水相116bの二相系の反応液で構成されており、油相116aおよび水相116bのそれぞれには出発材料などの反応物および溶媒などの媒体が含有されている。
【0052】
図1の処理液循環装置100によれば、回転軸121を回転させることにより、散液デバイス120内の流液部材123が吸液口124から反応液116を汲み取る。汲み取られた処理液は、当該回転軸121の回転に伴う遠心力により、筒状通路126を介して吐出口125まで移動し、当該吐出口125から処理槽110内に、具体的には処理槽110内の処理液116の液面128よりも上方に吐出される。さらに、この回転軸121の回転を継続し、筒状流路126内が処理液で完全に満たされると、吸液部124、筒状流路126および吐出部125の間で「サイフォン様」の処理液の移動が可能となる。その際、回転軸121の回転速度を低下させても、ヒステリシスによりこの「サイフォン様」の現象は継続する。これにより、処理液116は、処理槽110の内壁111への衝突とともに、処理槽110の底部109から上方への移動が可能となり、処理槽110の高さ方向での処理液116の混ぜ返し(例えば、鉛直方向における撹拌または循環)を回転軸121の回転を抑えた(より小さい動力で)促すことができる。
【0053】
なお、本発明において、上記処理槽110、回転軸121、取付具122および流液部材123は、それぞれ独立して、例えば、鉄、ステンレススチール、ハステロイ、チタンなどの金属およびこれらの組合せでなる材料から構成されている。これらは、耐薬品性を高めるために、テフロン(登録商標)やグラスライニング、ゴムライニングのような当該分野において公知のコーティングが付与されていてもよい。
【0054】
図1では、散液デバイス120の比較的近傍に処理槽110の内壁111が配置されている場合について説明したが、本発明はこのような形態にのみ限定されるものではない。例えば、散液デバイス120に対して処理槽が大きく、当該散液デバイス120の吐出部125と処理槽の内壁との間が大きく離れていてもよい。あるいは、本発明の散液デバイス120は、このような処理槽110内の処理液116の代わりに、湖沼や海洋における水または海水を処理液とするものであってもよい。散液デバイス120をこのような場所で使用する場合、処理槽は特に必要とされない。
【0055】
図3は、本発明の方法に使用され得る散液デバイスが組み込まれた処理液循環装置の他の例を示す概略図である。
図3に示す処理液循環装置200では、処理槽110の内壁111に、処理槽110の底部109から処理液116の液面128を上回る高さにまで延びる複数の邪魔板210が設けられている。
図3において、邪魔板210は、例えば静置された処理液116の略中央に位置するように(すなわち、処理液116が油相116aと水相116bとの二相系の反応液で構成される場合、邪魔板210の上端が油相116aの内部に位置し、邪魔板210の下端が水相116bの内部に位置し、かつ当該上端および下端が油相116aと水相116bとの界面近傍に位置するように)設けられている
【0056】
邪魔板210は、回転軸121の回転により、取付具122を通じて流液部材123が回転し、それにより処理槽110内の処理液116が追随して一緒に回転運動することを防止する役割を果たす。言い換えれば、邪魔板210は、処理槽110内で処理液116が水平方向に回転する際の障壁となり、渦の形成を防止できる。その結果、処理液116には処理槽110内で不規則な動きが与えられ、結果として、散液デバイス120を構成する流液部材123の吸液部124、通常流路126および吐出部125の間で生じる上記「サイフォン様」の現象とともに、処理液116を混合かつ撹拌する効率を高めることができる。
【0057】
図3の処理液循環装置200において、処理槽110に設けられる邪魔板210の数は必ずしも限定されないが、例えば、処理槽110の内壁111に略等間隔で1つ~8つが設けられている。
【0058】
図4は、本発明の方法に使用され得る散液デバイスが組み込まれた処理液循環装置の別の例を示す概略図である。
図4に示す処理液循環装置300では、処理槽110の外周に温度調整用のジャケット310が設けられている。
図4において、ジャケット310は、例えば中空の材料で構成されており、図示しない管を通じて、ジャケット入口320から例えば水蒸気や水や熱媒油などの熱媒体を導入し、ジャケット出口330から排出することができる。ジャケット310内に導入された熱媒体は、処理槽110の外側から処理液116の加熱を行うことにより、処理槽110内の処理液116に対する温度制御を可能にする。
【0059】
なお、
図4に示す実施形態では、熱媒体として処理槽110内を加熱するための加熱用熱媒体を用いる例について説明したが、本発明はこれに限定されない。当該加熱用熱媒体に代えて、例えば、液化窒素、水、ブライン、ガス冷媒(例えば、二酸化炭素、フロン)のような冷却用熱媒体がジャケット310に導入されてもよい。
【0060】
図5は、本発明の方法に使用され得る散液デバイスが組み込まれた処理液循環装置のさらに別の例を示す概略図である。
図5に示す処理液循環装置400では、長さの異なる2種類の流液部材123,123’が使用され、当該流液部材123,123’、回転軸121および取付具122によって散液デバイス120’が構成されている。
【0061】
図5に示す反応装置400において、散液デバイス120’を構成する流液部材123,123’の吸液部124,124’は、異なる高さに配置されている。すなわち、流液部材123’の吸液部124’が、流液部材123の吸液部124よりも上方に配置されている。例えば
図5に示すように、静置状態(すなわち、回転軸121を回転させていない状態)において、流液部材123の吸液部124は処理液116の水相116b内に配置され、流液部材123’の吸液部124’は処理液116の油相116a内に配置されていてもよい。流液部材123,123’の吸液部124,124’がそれぞれこのように配置されていることにより、回転軸121を回転させると、吸液部124と他方の吸液部124’とから汲み上げられる処理液116の成分を異なるものとすることができる。すなわち、流液部材123の吸液部124は例えば処理液116の水相116b内に含まれている成分(水相成分)をより多く汲み上げることができる。他方、流液部材123’の吸液部124’は例えば処理液116の油相116a内に含まれている成分(油相成分)をより多く汲み上げることができる。
【0062】
本発明の循環方法は、反応液(反応物)の撹拌が所望される種々の反応生成物の製造において有用である。特に、油相と水相とで構成されるような二相系(不均一反応系)の反応液を処理液として用いる際に、従来の撹拌機を用いる場合よりも効果的に反応生成物を得ることができる。このような二相系の例としては、脂肪酸エステルを製造するためのエステル交換反応が挙げられる。
【0063】
なお、本発明循環方法において、処理槽内の処理液の撹拌の強化が求められる場合、当該処理槽内に、従来の撹拌翼を併設してもよい。
【0064】
次に、本発明の循環法方法を用いて所定の反応生成物を製造する方法(以下、単に「製造方法」ということがある)について説明する。
【0065】
本発明の製造方法では、上記散液デバイスが組み込まれた処理液循環装置内で処理液である反応液を循環させることにより撹拌が行われる。ここで、本明細書において、用語「循環による撹拌」とは、対象となる処理液(例えば反応液)に対して、水平方向の回転を加えることによる撹拌と、上記処理液循環装置を用いる場合のように、鉛直方向の当該処理液の移動かつ循環を通じて当該処理液全体の混ぜ返し(またはミキシング)との両方を包含していう。
【0066】
本発明に用いられる反応液(処理液)は、無機または有機系の液体媒体を含有し、一般に撹拌機等による撹拌を通じて化学反応を進行させかつ制御され得るものである。例えば処理液は不均一系の反応液である。例えば、油相および水相から構成されている反応液は、上記循環による撹拌を通じて、反応液の乳化を向上かつ促進することができる点で有用である。
【0067】
処理液が不均一系の反応液である場合、当該処理液には、例えば原料油脂と、液体酵素と、炭素数1から8を有するアルコール、および水が含有されている。
【0068】
原料油脂は、例えばバイオディーゼル燃料用の脂肪酸エステルの製造において使用され得る油脂である。原料油脂は、予め精製された油脂、または不純物を含む未精製油脂のいずれであってもよい。原料油脂の例としては、食用油脂およびその廃食用油脂、原油、および他の廃棄物系油脂、ならびにそれらの組合せが挙げられる。食用油脂およびその廃食用油脂の例としては、植物油脂、動物油脂、魚油、微生物生産油脂、およびこれらの廃油、ならびにこれらの混合物(混合油脂)が挙げられる。植物油脂の例としては、必ずしも限定されないが、大豆油、菜種油、パーム油、およびオリーブ油が挙げられる。動物油脂の例としては、必ずしも限定されないが、牛脂、豚脂、鶏脂、鯨油、および羊脂が挙げられる。魚油としては、必ずしも限定されないが、イワシ油、マグロ油、およびイカ油が挙げられる。微生物生産油脂の例としては、必ずしも限定されないが、モルティエレラ属(Mortierella)またはシゾキトリウム属(Schizochytrium)などの微生物によって生産される油脂が挙げられる。
【0069】
原油は、例えば、従来の食用油脂の搾油工程から得られる未精製または未加工の油脂であり、例えば、リン脂質および/またはタンパク質などのガム状不純物、遊離脂肪酸、色素、微量金属および他の炭化水素系の油可溶性不純物、ならびにこれらの組合せを含有し得る。原油に含まれる当該不純物の含有量は特に限定されない。
【0070】
廃棄物系油脂としては、例えば、食品油脂の製造過程で生じる粗油をアルカリの存在下で精製することにより得られる油滓、熱処理油、プレス油、および圧延油、ならびにこれらの組合せが挙げられる。
【0071】
原料油脂は、油脂本来の性質を阻害しない範囲において任意の量の水分を含有していてもよい。さらに、原料油脂は、別途脂肪酸エステルの生成反応において使用した溶液中に残存する未反応の油脂を用いてもよい。
【0072】
液体酵素としては、脂肪酸エステルの生成反応に使用され得る任意の酵素触媒のうち、室温において液体の性状を有するものが挙げられる。液体酵素の例としては、リパーゼ、クチナーゼ、およびそれらの組合せが挙げられる。ここで、本明細書中に用いられる用語「リパーゼ」とは、グリセリド(アシルグリセロールともいう)に作用して、当該グリセリドをグリセリンまたは部分グリセリドと脂肪酸とに分解する能力を有し、かつ直鎖低級アルコールの存在下ではエステル交換により脂肪酸エステルを生成する能力を有する酵素を言う。
【0073】
リパーゼは1,3-特異的であっても、非特異的であってもよい。脂肪酸の直鎖低級アルコールエステルを製造することができるという点においては、当該リパーゼは、非特異的であることが好ましい。リパーゼの例としては、リゾムコール属(リゾムコール・ミーハエ(Rhizomucor miehei))、ムコール属、アスペルギルス属、リゾプス属、ペニシリウム属などに属する糸状菌に由来するリパーゼ;キャンディダ属(カンジダ・アンタルシティカ(Candida antarcitica),カンジダ・ルゴサ(Candida rugosa),カンジダ・シリンドラセア(Candida cylindracea))、ピヒア(Pichia)などに属する酵母に由来するリパーゼ;シュードモナス属、セラチア属などに属する細菌に由来するリパーゼ;および豚膵臓などの動物に由来するリパーゼが挙げられる。液体リパーゼは、例えば、これらの微生物が産生したリパーゼを含む該微生物の培養液を濃縮かつ精製することによって、あるいは粉末化したリパーゼを水に溶解することによって得ることができる。市販の液体リパーゼもまた用いられ得る。
【0074】
上記液体酵素の使用量は、例えば、原料油脂の種類および/または量によって変動するため必ずしも限定されないが、使用する原料油脂100質量部に対し、好ましくは0.1質量部~50質量部、好ましくは0.2質量部~30質量部である。液体酵素の使用量が0.1質量部を下回ると、効果的なエステル交換反応を触媒することができず、所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率を低下させるおそれがある。液体酵素の使用量が50質量部を上回ると、もはやエステル交換反応を通じて得られる所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率に変化が見られず、むしろ製造効率を低下させるおそれがある。
【0075】
アルコールは、直鎖または分岐鎖の低級アルコール(例えば、炭素数1~8のアルコール、好ましくは炭素数1~4のアルコール)である。直鎖の低級アルコールが好ましい。直鎖の低級アルコールの例としては、必ずしも限定されないが、メタノール、エタノール、n-プロパノール、およびn-ブタノール、ならびにこれらの組合せが挙げられる。
【0076】
上記アルコールの使用量は、例えば、使用する原料油脂の種類および/または量によって変動するため必ずしも限定されないが、原料油脂100質量部に対し、好ましくは5質量部~100質量部、好ましくは10質量部~30質量部である。アルコールの使用量が5質量部を下回ると、効果的なエステル交換反応を行うことができず、所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率を低下させるおそれがある。アルコールの使用量が100質量部を上回ると、もはやエステル交換反応を通じて得られる所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率に変化が見られず、むしろ製造効率を低下させるおそれがある。
【0077】
水は、蒸留水、イオン交換水、水道水、純水のいずれであってもよい。当該水の使用量は、例えば、使用する原料油脂の種類および/または量によって変動するため必ずしも限定されないが、原料油脂100質量部に対し、好ましくは0.1質量部~50質量部、好ましくは2質量部~30質量部である。水の使用量が0.1質量部を下回ると、反応系内に形成される水層の量が不足し、上記原料油脂、液体酵素およびアルコールによる効果的なエステル交換反応を行うことができず、所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率を低下させるおそれがある。水の使用量が50質量部を上回ると、もはやエステル交換反応を通じて得られる所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率に変化が見られず、むしろ製造効率を低下させるおそれがある。
【0078】
本発明の製造方法では、上記処理液(反応液)に対して所定の電解質が添加されていてもよい。電解質を構成するアニオンとしては、必ずしも限定されないが、例えば、炭酸水素イオン、炭酸イオン、塩化物イオン、水酸化物イオン、クエン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン、およびリン酸イオンならびにこれらの組合せが挙げられる。電解質を構成するカチオンとしては、例えば、アルカリ金属イオン、およびアルカリ土類金属イオンならびにそれらの組合せが挙げられ、より具体的な例としては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、およびカルシウムイオン、ならびにそれらの組合せが挙げられる。本発明において、電解質の例としては、炭酸水素ナトリウム(重曹)、炭酸ナトリウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、クエン酸三ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化ナトリウム、およびリン酸三ナトリウム、ならびにそれらの組合せが好ましい。汎用性に富み、入手が容易である等の理由から、炭酸水素ナトリウム(重曹)がより好ましい。
【0079】
上記原料油脂、触媒、およびアルコール、および水は、例えば
図1に示す処理液循環装置100の処理槽110に処理液供給口112を通じて同時または任意の順序で添加され、油相116aおよび水相116bで構成される処理液116が構成される。その後、回転軸121の回転を通じて散液デバイス120の流液部材123を処理槽110内で回転させることにより、上述の通り、流液部材123の吸液部124から反応液116が汲み取られ、汲み取られた処理液は、散液デバイス120を構成する流液部材123の吸液部124、通常流路126および吐出部125の間で生じる上記「サイフォン様」の現象とともに、筒状流路126を通じて上方に移動し、流液部材123の吐出口125から処理槽110の内壁111に向かって吐出される。このような処理液116の移動によって処理液116の撹拌が促され、反応生成物である脂肪酸エステルの生成が行われる。処理槽110内に付される温度は、必ずしも限定されないが、例えば、5℃~80℃、好ましくは15℃~80℃、より好ましくは25℃~50℃である。
【0080】
なお、本発明において、処理液循環装置100内の回転軸の回転は必ずしも高速(例えば、600rpm以上)で行われなくてもよい。例えば、低速(例えば、80rpm以上300rpm未満)または中速(例えば、300rpm以上600rpm未満)に設定されてもよい。さらに、反応時間は、使用する原料油脂、触媒、アルコール、および水の各量によって変動するため、必ずしも限定されず、任意の時間が当業者によって設定され得る。
【0081】
反応の終了後、生成物および反応残渣は処理液循環装置100の処理槽110から取り出され、例えば、当業者に周知の手段を用いて脂肪酸エステルを含む層と、副生成物グリセリンを含む層とに分離される。その後、脂肪酸エステルを含む層はさらに、必要に応じて当業者に周知の方法を用いて脂肪酸エステルが単離かつ精製され得る。
【0082】
上記のようにして得られた脂肪酸エステルは、例えばバイオディーゼル燃料またはその構成成分として使用され得る。
【符号の説明】
【0083】
100,200,300,400 処理液循環装置
109 底部
110 処理槽
111 内壁
112 処理液供給口
114 生成物出口
115 バルブ
116 処理液
116a 油相
116b 水相
120 散液デバイス
121 回転軸
122 取付具
123,123’ 流液部材
124,124’ 吸液部
125 吐出部
126 筒状流路
128 液面
140 モータ
210 邪魔板
310 ジャケット
320 ジャケット入口
330 ジャケット出口
【手続補正書】
【提出日】2022-06-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理液の循環方法であって、
散液デバイスを回転して、該散液デバイスによる該処理液の汲み取りと吐出とを行う工程を包含し、
該散液デバイスが、
鉛直方向に沿って配置された回転軸と該回転軸に装着された、少なくとも1つの流液部材とを備え、
該流液部材が、上方に位置しかつ該処理液の外に突出する1つの吐出部、下方に位置しかつ該処理液中に浸漬されている1つの吸液部、および該吐出部と該吸液部との間を延びる筒状流路を備え、
該吐出部が該回転軸に対して反対側を指向するように該筒状流路が屈曲しており、
該吐出部が指向する方向と水平方向との間の角度θ2が該水平方向を基準にして-90°~20°であり、
該筒状流路が該処理液で満たされており、
該筒状流路が該処理液で満たされている状態が、該散液デバイスを構成する該回転軸の回転によって保持されている、方法。
【請求項2】
前記散液部材が、前記回転軸の軸線に対して前記吸液部が前記吐出部よりも近位に位置するように傾斜して配置されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記散液デバイスが少なくとも2つの前記流液部材を備える、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記角度θ2が前記水平方向を基準にして0°~20°である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記処理液が油相および水相から構成されている反応液である、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
鉛直方向に沿って配置された回転軸と該回転軸に装着された流液部材とを備える、散液デバイスであって、
該流液部材が、少なくとも1つの第1の流液部材と少なくとも1つの第2の流液部材とを備え、
該第1の流液部材と該第2の流液部材がそれぞれ独立して上方に位置する1つの吐出部、下方に位置する1つの吸液部、および該吐出部と該吸液部との間を延びる筒状流路を備え、
該吐出部が該回転軸に対して反対側を指向するように該筒状流路が屈曲しており、
該吐出部が指向する方向と水平方向との間の角度θ2が該水平方向を基準にして0°~20°であり、
該第1の流液部材の該吸液部が、該第2の流液部材の該吸液部よりも上方に配置されている、散液デバイス。
【請求項7】
前記筒状流路が円形、楕円形または多角形の断面を有する、請求項6に記載の散液デバイス。
【請求項8】
処理液を収容するための処理槽と、該処理槽内に設けられている請求項6または7に記載の散液デバイスとを備える、処理液循環装置。
【請求項9】
前記処理液が油相および水相から構成される反応液である、請求項8に記載の処理液循環装置。
【手続補正書】
【提出日】2022-11-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理液の循環方法であって、
散液デバイスを回転して、該散液デバイスによる該処理液の汲み取りと吐出とを行う工程を包含し、
該散液デバイスが、
鉛直方向に沿って配置された回転軸と該回転軸に装着された、少なくとも1つの流液部材とを備え、
該流液部材が、上方に位置しかつ該処理液の外に突出する1つの吐出部、下方に位置しかつ該処理液中に浸漬されている1つの吸液部、および該吐出部と該吸液部との間を延びる筒状流路を備え、
該吐出部が該回転軸に対して反対側を指向するように該筒状流路が屈曲しており、
該吐出部が指向する方向と水平方向との間の角度θ2が該水平方向を基準にして-90°~20°であり、
該筒状流路が該処理液で満たされており、
該筒状流路が該処理液で満たされている状態が、該散液デバイスを構成する該回転軸の回転の低下により得られる該処理液のヒステリシスによって保持されている、方法。
【請求項2】
前記散液部材が、前記回転軸の軸線に対して前記吸液部が前記吐出部よりも近位に位置するように傾斜して配置されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記散液デバイスが少なくとも2つの前記流液部材を備える、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記角度θ2が前記水平方向を基準にして0°~20°である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記処理液が油相および水相から構成されている反応液である、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【手続補正書】
【提出日】2023-01-27
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理液の循環方法であって、
散液デバイスを回転して、該散液デバイスによる該処理液の汲み取りと吐出とを行う工程を包含し、
該散液デバイスが、
鉛直方向に沿って配置された回転軸と該回転軸に装着された、少なくとも1つの流液部材とを備え、
該流液部材が、上方に位置しかつ該処理液の外に突出する1つの吐出部、下方に位置しかつ該処理液中に浸漬されている1つの吸液部、および該吐出部と該吸液部との間を延びる筒状流路を備え、
該吐出部が該回転軸に対して反対側を指向するように該筒状流路が屈曲しており、
該吐出部が指向する方向と水平方向との間の角度θ2が該水平方向を基準にして-90°~20°であり、
該筒状流路が該処理液で満たされており、
該筒状流路が該処理液で満たされている状態が、該散液デバイスを構成する該回転軸の回転の低下により得られる該処理液のヒステリシスによって保持されている、方法。
【請求項2】
前記散液デバイスが、前記回転軸の軸線に対して前記吸液部が前記吐出部よりも近位に位置するように傾斜して配置されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記散液デバイスが少なくとも2つの前記流液部材を備える、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記角度θ2が前記水平方向を基準にして0°~20°である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記処理液が油相および水相から構成されている反応液である、請求項1から4のいずれかに記載の方法。