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特開2023-90598複合膜を装填した孔拡散膜分離モジュールによる大気中の浮遊微粒子を除去した気体の回収方法
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  • 特開-複合膜を装填した孔拡散膜分離モジュールによる大気中の浮遊微粒子を除去した気体の回収方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090598
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】複合膜を装填した孔拡散膜分離モジュールによる大気中の浮遊微粒子を除去した気体の回収方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/22 20060101AFI20230622BHJP
   B01D 63/08 20060101ALI20230622BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20230622BHJP
   B01D 69/06 20060101ALI20230622BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20230622BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20230622BHJP
   B01D 71/10 20060101ALI20230622BHJP
   B01D 53/04 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
B01D53/22
B01D63/08
B01D69/12
B01D69/06
B01D69/00
B01D69/02
B01D71/10
B01D53/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021215544
(22)【出願日】2021-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】715005077
【氏名又は名称】日本特殊膜開発株式会社
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 征一
(72)【発明者】
【氏名】中川 弘美
(72)【発明者】
【氏名】中川 保武
【テーマコード(参考)】
4D006
4D012
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006HA41
4D006JA03A
4D006JA03C
4D006KA72
4D006KB12
4D006KE06R
4D006KE30R
4D006MA03
4D006MA06
4D006MA22
4D006MA24
4D006MA40
4D006MB09
4D006MB20
4D006MC12
4D006PA01
4D006PB17
4D006PB55
4D006PB70
4D006PC11
4D006PC80
4D012BA03
4D012CA09
4D012CA10
4D012CG01
4D012CH08
(57)【要約】
【課題】 空気中に分散する0.02μm以上の微粒子を膜中の孔を目詰まりさせることなく除去率(対数除去係数表示)で2以上除去しつつ清浄な空気を回収する膜分離技術を提供する。
【解決方法】 特定した微細構造を持つ複合膜を装填した孔拡散膜分離モジュールを用い、外気を複合膜の膜面に平行な粘性流れと、膜間差圧に原因した拡散流れとの直交する2種の流れに分離させ、拡散流れの成分のみを回収する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外気より直径0.02μm以上の微粒子を含まない気体を回収する際に、水の濾過速度法による平均孔径が0.1μm以下で空孔率が60%以上で膜厚150μm以上で2mm以下の層状構造体である高分子複合膜を用いて、膜表面での外気のひずみ速度2/秒以上で外気を粘性流れの層流で外気より孔拡散膜モジュールの一次流れとして取り入れつつ、設定された膜間差圧(静水圧で負荷、0.01気圧以下)を駆動力として該層流を構成する成分の一部は該膜の厚さ方向の流れ、すなわち膜を介した膜内流れ(これを二次流れと略称)を起こし該二次流れのみを回収することを特徴とする外気の回収方法。
【請求項2】
請求項1において、高分子複合膜は下記微細構造上の特徴を持つ平膜であり、下記のように指定された運転状況下で該平膜を装填した孔拡散モジュールが使用されていることを特徴とする外気の回収方法。
高分子複合膜;天然セルロースの短繊維と再生セルロースの微粒子との混合物で構成される。天然セルロースの分子鎖軸は平膜面に平行な方向に配向し、該短繊維は平膜面に対して平行に積層する。該積層繊維の束間の空隙部に微粒子が積層し、該微粒子の積層帯の厚さは10μm~100μm未満である。短繊維と微粒子との重量比(微粒子重量/短繊維重量)で0.05~0.40である。該積層帯を平膜表面に局在化させることにより平膜表面の平滑度を高め、高めた膜表面の平滑度が平均孔径以下である。再生セルロースの微粒子の径は0.05μm~0.3μmである。
運転条件;外気の流れを、複合膜の平滑度を高めた膜表面でのひずみ速度で10/秒以上となるように該膜モジュール内の入口部の一次流体に送風部を設けこれを運転しつつ二次流体の流れを起こしかつ膜間差圧を0.005気圧以下とする運転条件。
【請求項3】
請求項1,2において二次流れとして回収された気体成分を活性炭を50重慮%以上含む微粒子で吸着処理することを特徴とする外気の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は大気中に浮遊する直径(頻度分布での平均直径)0.02μm以上の微粒子(例えば、空気感染の可能性のあるコロナウイルスや結核菌などの感染性微生物、花粉など)を除去するのに際し、膜分離技術(特に物質の拡散流れのみを利用する孔拡散膜分離技術)を利用するのに適する平膜と該技術の特定する運転条件とに関する。すなわち、特定の微細構造を持つ平膜を装填した孔拡散膜分離モジュールとそれの運転条件を特定することにより大気中に分散する微粒子を除去し安全なかつ清浄な気体成分のみを回収することが可能となる膜分離技術に関する。
【0002】
ここで孔拡散膜分離技術とは、多孔膜内部の孔を拡散機構で輸送することで物質を分離する技術を意味する。すなわち、流動体を構成する主成分の分子とそれに混合あるいは溶解あるいは分散する副成分の分子または粒子とが膜の表面に沿った流れ(これを一次流れと略称)を構成し、該流れは粘性流れ機構で流動する。該一次流れの一部は膜間差圧を駆動力とした膜内部の流れ(この流れを二次流れと略称)となり、一次流れを極小化した状態で多孔性高分子膜内部の孔を主として拡散機構で膜内部を移動することによって流体中の主成分を拡散分離する技術を意味する。
【0003】
この膜分離が気体系で実現されるためには、流動体の流れが一次流れと二次ながれとに分離し、高分子多孔膜ではその膜の平均孔径が主成分の気体分子の平均自由行程以下であることが前提である。副成分の気体分子や粒子の平均自由行程以下であれば良い。また膜間差圧が零に近づくと粘性流の寄与が減少し、拡散流れの寄与が大きくなる。
【0004】
膜間差圧を零にすると拡散流れのみが高分子多孔膜を介した流れとなる。この流れの拡散係数は水溶液の流体の場合にはストークス・アインシュタイン式、気体系の場合には気体分子運動論に基づく拡散係数で算出される。さらに高分子溶液の場合には拡散係数の粒子径依存性に関しては、フローリの溶液論に従った高分子鎖の拡がりの理論に従うことを、本発明者の一人真鍋によって報告されている。(S.Manabe et.Al.,Bull.Faculty Human Environ.Sci.,Fukuoka Womens Univ.,32,pp71-77(2001))。この報告より膜間差圧を極小化した条件下では膜(この文献では中空糸膜)の表面から裏面への物質(高分子物質を含む)の移動が膜内の孔内部のみで実現できることを意味する。
【背景技術】
【0005】
本発明での除去対象となる大気中の微粒子としては液体状の微粒子と固体状の微粒子とがある。微粒子はその表面積が大きくなる分表面エネルギーが高くなる。液体状の場合にはこのエネルギーを下げるために粒子形状は球形となる。粒子径が0.02μm以下ではその粒子の表面張力のために大気中での安定性が低下する。そのため粒子として大気中に存在出来るには、気体系からの相分離現象で生じる核生成過程の短時間のみである。この粒子を膜を用いて除去するには膜素材高分子との衝突の際に起る粒子の大粒子化と吸着を利用することが従来より提案されている。例えば、高温状態の油から気体状の油粒子が発生している場合に、この気体をポリエステル繊維の不織布を通すことによって気体状の粒子を除去することが可能である。ただし、この場合には油の微粒子は不織布に収着後、液体状油となって油の蒸気としてまた一部は液体として不織布を通過する。不織布の表面には油成分の大部分は液体状として吸着される。液体または気体として油成分の一部は膜を結果的には通過する。
【0006】
除去対象が液体状の粒子の場合には、上述の油の例のように微粒子の形状のまま膜を用いて除去することは出来ない。形状は粒子の相としての存在状態によって変化するからこの粒子は無定形物として処理しなくてはならない。粒子を液体あるいは気体状態に変化させる過程において分離媒体(例えば膜)と粒子成分とが接触する。接触を介して粒子の形状は変化する。すなわち粒子としての形態状の特徴は膜による除去の機構には反映しない。液体状の粒子の除去方法として膜間差圧を駆動力としたとした膜濾過法を利用する限りは液体状粒子を液体へ変化した状態の輸送を想定することになる。
【0007】
除去対象が大気中の固体状の粒子の場合には、膜として不織布状の平膜を利用し繊維間の隙間を孔とした膜濾過法が採用されている。不織布の繊維径が1μm程度であれば大気中に浮遊する粒子の大きさが0.4μm以上であれば該粒子の大部分は膜濾過法で除去できる。例えば外気の流れを第1図に示した1次流体と膜間差圧に原因した膜内の二次流体とに分解すると一次流れは粘性流れが主となり二次流れは拡散流れが主となる。
【0008】
該粒子は主として一次流れに乗り、一部が二次流れに侵入する。一次流れを系外に放出し、二次流れの内部の粒子を捕捉すれば該粒子の除去は多孔膜を利用すればいずれも達成される。該粒子自体は膜中であるいは一次流体に接する膜表面に捕捉されている。
【0009】
二次流れ中の粒子の膜中の捕捉は拡散機構以外の流れの場合には膜の孔の目詰まりをもたらす場合が大部分である。この場合の粒子の捕捉に関しては、(1)膜素材と粒子成分との間に働く静電力と化学的親和力、(2)粒子成分に働く慣性力に原因した膜素材高分子との力学的な衝突に原因した力学的因子、(3)粒子と膜との間に働く篩効果が挙げられる。これらの因子の中で、水分子が共存することにより(1)の因子の寄与が特に大きく働くため湿度の高い場合での粒子の除去性能は低下する。膜の孔への目詰まり因子(3)では粒子の除去性能の低下をもたらす。
【0010】
気体中を分散する固体粒子の数は、気体重量当たりの数で表現すると液体中の微粒子数(頻度分布として表現)と比較して決して少なくないとの実験結果を受けて、孔拡散膜分離技術を気体系に適用する必要性が明らかとなった。すなわち、当社の研究所での空気中に分散する0.03μm以上の固体粒子の量を膜濾過によって捕捉された粒子重量より測定した。その結果、空気1グラム当たりの粒子量は0.002~0.004mgであった。この値は、タンパク水溶液中の粒子濃度に匹敵するもので、膜の篩い効果での粒子除去は処理重量当たり膜への負荷が高すぎる。膜の持つ篩効果を気体系へ適用する可能性を本発明者らは検討した。その結果、膜を通過する流体の重量と上記の粒子重量との比を考慮すると、流体としての気体の重量当たりの付加価値が液体(例、タンパク水溶液)の付加価値を超えることが少ない。
【0011】
膜の孔に目詰まりしない技術として孔拡散膜分離技術が提案されている(特許文献1)。多孔膜の内部の孔が膜を介しての物質の拡散現象を支配し、この現象を介して膜による物質分離を行う技術である。この技術についして実用化している。液体流路の一次側流路の入口側あるいは出口側にポンプあるいは流速調整機構を有し、一次側流路内の液体の膜表面でのひずみ速度が2/秒以上であること、また一次側流路を形成する膜の表面の平滑度を高くすることが重要である。また膜間差圧を特に低くする点に液体系の特徴がある。
【0012】
孔拡散膜モジュールとしての構成は、引用文献2~5を整理すると、(イ)多孔膜とそれを力学的に支える支持体、(ロ)被処理流体を層流で供給するための一次流路と送液機構と、(ハ)膜間差圧を与える機構と、(ニ)主として二次流体として拡散機構で膜の孔を透過した成分を回収する回路(二次流路)で構成される。特に流動分別型孔拡散膜分離モジュールでは一次流体の流れが層流で、この流れの中にある微粒子には流れを構成する分子の粘性力による揚力の発生が不可欠である。但し孔拡散膜分離技術での従来までの技術では処理対象は液体系であった。この技術が気体系でも適用できるかどうか不明であった。また揚力の発生も液体系と同様に気体系の層流でも考えられるかどうかの確認が必要である。本発明者らはこの確認のため膜として複合膜に替えてろ紙を用いた実験よりこの揚力の存在を確認した。すなわち、気体系では粒子に働く揚力は液体系に比較して大きい。
【0013】
孔拡散膜モジュールに装填される多孔膜として、層状構造を持つ複合膜が適する。ここで層状構造とは膜の断面を電子顕微鏡で観察した場合に厚さ0.05μm~10μmの繊維状あるいは粒状の積層構造が認められる。このような構造体を作製するには、繊維を膜面に平行に配向させるか、コロイド粒子を発生させこれを層状に積層させるかで作製できる。
【0014】
液体中に分散した粒子が存在する場合に膜の濾過機構によって溶液の濾過が実施される場合に非特許文献2による理論計算によると粒子径の5倍程度の孔径を持つ多孔膜でも一次液体の流れ速度(膜表面での歪速度で表示)が100/秒以上であれは一次流体の流れの作用で粒子の除去は理論的には可能である(孔壁と粒子との衝突の理論)。この膜による粒子除去が気相中の粒子においても可能なのかについての実証例はまだない。しかし、気体系への孔拡散膜モジュールの適用の期待は大きい。その理由は、粒子による膜の孔への目詰まりが防止できる可能性が高いからである。
【0015】
大気中に浮遊する微粒子の量としては非特許文献3に示すように重量濃度分布では10のマイナス12乗g/mから10のマイナス3乗g/mの広い範囲の値が報告されている。すなわち大気中には液相中に比較して相の1g当たりに分散して存在する0.02μm径以上の粒子の量は多い。その理由は大気中の微粒子の主成分である水溶性の微粒子が液相中(主として水溶液中)では存在しないからである。空気中の微粒子成分を膜の持つ篩効果で除去するには膜中の孔の目詰まりが顕著となり膜の持つ透過機能の阻害が起こる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特許公告6277346
【特許文献2】特許公告6343589
【特許文献3】特許公告6422032
【特許文献4】特許公告6452049
【特許文献5】特許公告6534068
【非特許文献1】真鍋征一、尾池哲郎 著、“濾過スケールアップの正しい進め方と成功事例集”、(株)技術情報協会、2011年8月、485頁
【非特許文献2】K.Kamide,S.Manabe,Polymer J.,13(No.5),pp459-479(1981)
【非特許文献3】フリー百科事典『ウイキペディキュア(Wikipedia)』,“粒子状物質”,2017/4/25(2017)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
流体として気体系で孔拡散膜分離モジュールを適用すれば、目詰まりが防止できるという孔拡散膜分離の特徴を生かせるはずである。この特徴が発揮されれば膜分離技術の特徴(除去機能の再現性と予測性)を持つ粒子除去技術が開発される。微粒子成分による空気感染の可能性が否定できないウイルスの感染対策として、孔拡散技術のウイルス除去・不活化のプロセスバリデーションが適用できる。
【0018】
大気中に分散している微粒子は人体に有害な影響を及ぼすものが多い。特に粒子径が小さくなるほど人体への有害性が強くなる。大気中の有害な微粒子として近年注目されているのはアレルゲン等の有機性微生物や有機性微粒子、ウイルスや細菌などの感染性微生物などがその例である。ナノサイズの微粒子の発生は産業界でも起こっている。ナノテクノロジの発展もナノサイズの微粒子の発生の一因をなす。有機性微粒子は空気中の水分子との共存あるいは接触し、微粒子として無定形状態で安定化していることが想定される。この場合には粒子間の衝突によって起る静電気の発生が抑えられる。この場合、粒子の除去に静電気力を利用することが出来ない。粒子除去を目的とする場合には、除去性能の再現性の視点からは静電気力の定量性に吸着効果を除去の前提としないことが必要である。本発明では粒子の除去性能の発現としてこの静電気力を事実上零との前提でも成立する効果を利用する場も考慮するが除去の機構の中心は篩効果である。篩効果の特性を明確にするには粒子の大きさの確定が重要で、本発明では化学組成の特定された粒子であれは水中での粒子の大きさは空気中での粒子の大きさに比較して常に小さいと仮定している。この仮定の合理性はウイルス等の感染性微粒子では経験している。
【0019】
大気中には液体系の微粒子も共存する。気体状で分子として存在していた成分分子が冷却等の物理的条件の変化あるいは大気の組成変化に伴なって液体系の粒子を発生させる。液体系の微粒子の粒子径は粒子の凝集に伴なって経時的に大きくなったりあるいは微粒子が蒸発等のよって消滅する。すなわち粒子の核として存在するがその存続時間は短時間である。一方、固体状の微粒子であるウイルスの粒子径は感染性を持つ最小微粒子(ビリオン)の大きさとして定義されその大きさも電子顕微鏡で測定されている。粒子径の変化に伴って粒子の表面特性および粒子の内部組成も変化する。そのため粒子除去の機構が親和力に関連する物性(吸着特性など)に関連する場合には粒子除去の定量性が消失しやすい。そのため粒子除去の定量性には粒子およびその除去素材の化学構造に依存しない除去機構に基づく(例、篩機構)必要がある。
【0020】
大気中の微粒子の除去に際し、除去性能の再現性および除去性能の予測性を持つことにより、その技術の信頼性は高まる。特に医療分野ではその信頼性は重要である。その技術により大気に対する確実な感染性防止対策が可能となる。大気が物の生産現場の一部を構成する工場(例、クリーン現場での生産でワクチン等のバイオ医薬品や再生医療等の製品の生産現場など)では大気中の微粒子の作用が無視出来ない。そのため生産現場での微粒子の濃度も一定範囲内で制御および管理すべき項目である。
【0021】
大気中の微粒子を除去する技術としてはその性能が時間的に長く継続する必要がある。従来のヘパフィルタ等の膜濾過による除去性能ではこの性能の継続性に問題を残す。なぜならば従来の大気中での膜濾過による粒子の除去機構が篩効果のみでなく吸着機構の寄与が大きいからである。除去機構が粒子自体の特性のみでなく粒子以外の物質(例えば水分)の存在の影響、吸着物質の性質、膜素材の持つ物理化学的性質、電気的な特性の影響を受け、しかもその影響は除去機能のプラスとマイナスとのいずれの方向にも寄与する。そのため除去機能への予測ができない。
【0022】
本発明では大気中の微粒子を(1)その微粒子が液体状かあるいは固体状に関係なく、(2)粒子径が0.02μm以上の粒径で(3)粒子径のみに応じて、(4)一定の確率で、(5)粒子除去機能を低下させることなく長期に継続させることが可能な粒子除去法を提供する。ここで粒子径を0.02μmに特定した理由は、液相中で粒子として特定できるウイルスの最小径が0.02μmであることによる。気相内での粒子として安定的に存在するためには粒子には独立した表面の存在が不可欠でありこの表面相の存在が確認されている粒子としてウイルスを特定した。
【0023】
本発明に到達出来たのは下記に示す二種の実験事実を確認したからである。まずその一つは本発明の孔拡散技術に適する高分子多孔膜として、層状構造体である高分子複合膜が存在することを明らかにした。該微細構造を持つ高分子多孔膜では粒子除去性能は高く維持したまま分子の拡散係数を大きくすることが出来る。例えば20nmの粒子の対数除去係数を3以上に維持して塩化カリウム水溶液中のKClの拡散係数を10-6cm/sに維持させる膜として本発明の複合膜が存在する。
【0024】
もう一つの実験事実は、気体を大気圧下で多孔性平膜の平面に沿って膜表面での歪速度を2/秒以上で層流で流すと(この流れは一次流れに相当する)、膜平面に沿った流れは粘性流れで流れる。この流れの一部(一次流れ量の1/10以下の流れ量)は同時に膜内部の拡散流れを起こす(この流れを二次流れと呼称)。この二種の流れの方向は相互に直交している。この二種の流れは特定された平均孔径を持つ複合膜において常に観察される実験事実である。複合膜の表面側の平滑度を高めまた裏面側の気体の静水圧を大気圧以下にすることにより、気体の二次流れの膜内部の輸送機構は拡散流れのみとなることが実験的に確認された。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の最大の特徴は大気中に分散する除去すべき粒子の大きさが0.02μm以上であるとする点にある。この粒子径の設定には粒子の除去機構と粒子の安定性との関連で設定される。除去すべき粒子として大気中に浮遊し分散する粒子、例えば単分子分散する気相状態の分子は含まれていない。分子分散する分子は当然分子としての大きさを持つが粒子としての大きさが0.02μm以上であればこの粒子が数秒間にわたって大気中にその存在が確認できる。粒子自体の熱力学的な安定性についてはラプラスの式で判定する。すなわち、水の粒子の大きさが0.02μm以下になると液体と気体との界面において水の界面張力γ(72mN/m)のため直径0.02μmの水の粒子と平衡状態にある空気中の水蒸気圧は144気圧となり1気圧の大気中での水粒子の存在は殆どない。
【0026】
除去対象の粒子の大きさを0.02μm以上としたのは、現在までの既知のウイルスの最小径であることによる空気の安全対策の観点から定めた。回収し利用される空気中の粒子や分子の大きさは0.02μm未満であり、空気の成分は拡散により膜を通過した成分のみであることを想定している。拡散速度を支配する粒子の拡散係数はそれぞれの成分の質量に反比例する。
【0027】
粒子としての大きさが0.02μm以下になるとその運動性は分子と同じようなブラウン運動が顕著となり、大気圧下では無秩序な熱運動性を示すことが明らかとなっている。特に高分子物質ではセグメントのミクロブラウン運動が顕著に観察され界面の相互作用が運動性を支配し、その運動性は分子と区別つかなくなり、高分子鎖の場合にはミクロブラウン運動を行い粒子としての界面がなくなる。気体相中での粒子の大きさが0.02μm~0.1μmの粒子は粒子としての寿命は短く、それより大きな粒子へ成長する場合かあるいは蒸気となって気相中の気体分子へと変化する。
【0028】
分散している粒子の大きさが0.02μm以下になると粒子としての界面相が不明瞭となり、蒸発により気相内に拡散する。そのため固定した界面の存在によって捕捉や分離回収が不可能となる。本発明方法での粒子の除去には粒子としての界面相の存在は不可欠である。
【0029】
本発明技術の最大の特徴は、大気より直径0.02μmの微粒子を含まない気体を回収するのに際し、特定された微細構造を持つ高分子複合膜を用い、この膜面に平行に大気圧下の空気の流れ(一次流れ)を起こし同時に膜間差圧(静水圧差で表示)を与えることで膜面に垂直方向の流れ成分(二次流れ成分)を起こすことにある。該膜間差圧は0.01気圧以下で多孔性の高分子複合膜を介して該膜に垂直な方向の流れ成分の二次流れ成分との二つの流れを形成する。この二次流れ成分を回収することで拡散流れ成分のみを回収する点に本発明の特徴がある。
【0030】
大気側の気体の流れの一部は、粘性流れ機構で該多孔膜表面を流し(この流れが一次側流れとなり、この流れは層流で該気体の流れ方向を該多孔膜表面に平行させることで実現する)、残部の気体を該膜に垂直方向の流れ成分となる膜内部を拡散流れで流す(これを二次側流れ)ことによって該微粒子を含まない気体を回収する方法である。ここで大気とは気温は0℃~40℃、気圧は0.8~1.2気圧のほぼ常温常圧の気体を意味する。
【0031】
本発明方法での基本技術の特徴は膜表面と膜断面との上述の2種の流れ(すなわち、膜表面での層流と膜断面方向での膜を介する拡散流れ)を利用する点にある。この二種の流れは流動分別型孔拡散膜分離モジュールを利用することによって実現する。該モジュールでは膜表面での流体としての流れでは液体の場合に粒子に働く揚力の作用を利用し、もう一つの流れである拡散流れは膜間差圧を小さくすることと膜の平均孔径を気体分子の持つ平均自由行程以下にすることで実現する。この流体に働く揚力が気体の膜合にも発生するかどうかは従来では不明であった。大気中の粒子にも同様な揚力の発生を認められる実験事実として下記の現象が観察された。
【0032】
水の濾過速法で評価した平均孔径10μmのセルロース製の濾紙を特許文献3と類似の流動分別型孔拡散モジュールに装着し、大気を一次側流体として層流として膜面に平行に流した。膜間差圧0.0005気圧で2次側流体として回収された気体10リットル中には0.02μm以上の径の粒子は0.04mg以下であった。これに対し、該モジュールを介しない大気の10リットル中では24mgであった。すなわち平均孔径が除去対象粒子の径の500倍の平膜を装填しても粒子除去性能は高い。例えば、対数除去性能(LRV)で3である。この除去性能は同一の膜で1週間継続し、膜中の孔の目詰まりはみとめられなかった。
【0033】
本発明の第3の特徴は、膜平面に平行な流れ(一次流れ)を起こしこの流れが粘性流である点にある。この気体の流れの膜平面でのひずみ速度は2/秒以上であり、好ましくは10/秒以上である。この気体の流れは大気の流れをそのまま利用することも可能であるが、ひずみ速度を安定に確保するために、外気より送風機などにより膜表面のひずみ速度として10/秒以上の安定な送風が望ましい。この際にも膜間差圧(膜表面の静水圧―膜裏面の静水圧)は0.005気圧以下が保持できるように一次流れの流路の厚さを1mm以上に保持する。
【0034】
本発明の特徴として上記の二種の流れ(一次流れと二次流れ)を平膜状の高分子複合膜を装填することで実現する点にある。流体中の分散粒子の除去性能において膜の篩効果に関しては流体が気体や液体のいずれにも同一の性能を示すので除去の点で液体系では気体系でのワーストケース(最も劣悪な場合)に対応する。そのため液体系での粒子除去性能は気体系での粒子除去性能の最低値(あるいは保証値)を示す。
【0035】
本発明技術において膜の処理対象が気体である限り、膜による粒子の除去性能に関しては常に気体中の粒子除去性能>液体中の粒子除去性能の大小関係が成立する。その理由は、気体系では常に電気的な相互作用(静電的な反発力や吸着力が働く)が膜による篩効果としプラスされるからである。
【0036】
平膜の持つ粒子除去機能を生かすために装填すべき平膜の必要条件は、液体系の流動分別型孔拡散膜分離モジュールの場合の条件より緩い。すなわち、該モジュールに装填される平膜の構造上の特徴は、下記の(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)の4条件にまとめられる。(イ)親水性高分子で構成される。(ロ)平均孔径が1μm以下で望ましくいは0.1μm以下でありさらに望ましくは0.02μm以上で0.08μm未満である、(ハ)空孔率は60%以上の多孔膜、(ニ)膜厚は1mm以下で膜表面の少なくとも一面の平滑度が膜の平均孔径の2倍以下である。
【0037】
高分子膜素材が親水性でなくてはならないのは大気の湿度が変動しても膜素材が帯電するのを防止するためである。大気の湿度によって膜素材の帯電性が変化し、膜の気体分子の吸着性が変化する。湿度が低くなると膜の分子の吸着性能は一般に増加するが吸着後には膜の吸着性能や膜の表面特性が変化する。この吸着性能の変化が膜による粒子の除去性能の予測性を低める。膜の親水性を高めることで膜の粒子除去性能の確実性を高めるためである。
【0038】
本発明の気体系からの粒子除去用の膜として、水の濾過速度法による平均孔径が0.1μm以下、空孔率60%以上で膜厚が150μm以上の高分子複合膜を採用することが特徴である。高分子複合膜とは、膜の素材が複数であるか、膜を構成する微細構造体(例として繊維、薄膜、微粒子など)が複数かあるいは膜自体が複数の膜で構成された膜を意味する。層状構造体を持つ複合膜の製法として、まず短繊維の集合体としてろ紙状の平膜を作製する。この平膜の内部に微粒子を発生させ、この微粒子を層状に積み重ねることで複合膜が作製される。複合膜である必要性は、平膜の性能や物性面で2種以上の機能を同時に相互に満足するのが困難な場合には複合膜にすることで達成できる場合がある。例えば親水性でありながら乾湿の変化に伴う膜平面方向での寸法変化のない膜などである。
【0039】
微粒子を発生させこれを積層させて親水性高分子を用いて平膜を作製する方法としてミクロ相分離法が最も適用しやすい。大気中の水分子との吸着性を制御するために親水性高分子としてセルロース誘導体を素材として選択すれば親水性のみでなくミクロ相分離法での製膜も容易である。その例として酢酸セルロースを利用する。セルロースの水酸基を酢酸基に置換することにより、親水性をセルロースから3酢酸セルロースまでほぼ任意にセルロース誘導体の微粒子が作製されこれをセルロースエステルの鹸化反応によって再生セルロースの微粒子へと変性させる。微粒子の大きさは10nmから300nmにわたりほぼ任意に設定できる。
【0040】
親水性の高分子複合膜としてセルロース製の複合膜が、均一な微細構造とピンホールが存在しない製膜法が採用できる点で望ましい。すなわち、天然セルロースの短繊維をその分子鎖軸を平面内にそろえ積層した構造体(例えば紙状物や不織布)の内部の空孔部に粒子径0.05μm~0.3μmの再生セルロース微粒子を層状に積層させる。積層体の厚さは10μ以上で100μm未満である。短繊維と微粒子との重量比が0.05以上で0.40未満である。微粒子を積層させると膜表面の平滑度が上昇する。短繊維の積層体での間隙部でミクロ相分離で生起させた微粒子を埋め込んだ本発明物の製法ではピンホールの発生が認められなかった。
【0041】
本発明の特徴は平膜の処理対象が大気を構成する気体状の分子であるために利用できる平面状の複合膜については下記に特定する孔特性の条件を満足する必要がある。すなわち、平均孔径は0.01μm以上で1μm以下、空孔率が60%以上で膜厚として150μm以上の貫通孔を有する多孔膜で、膜表面の少なくとも一面の平滑度が膜の平均孔径の2倍以下である。複合膜の平均孔径が0.01μmより小さい場合には平膜を介しての拡散が溶解・拡散流れとなり膜を介した大気の流れ速度(この速度は溶解。拡散流れの速度に相当)は孔拡散の場合の1/1000以下となる。平均孔径が逆に1μmを越えると膜を介した気体の流れで拡散によって移動する大きな粒子の数が増加する。本来除去すべきウイルス粒子やプリオン粒子あるいはナノテクノロジーの副産物であるナノ粒子の拡散や膜濾過が予想される。感染性微粒子の場合には安全性の観点から膜を介した移動の可能性を極端にへらさなくてはならない。安全性の観点からはウイルス粒子の10倍の孔の存在を否定する必要がある。
【0042】
流動分別型孔拡散膜分離モジュールに装填される複合膜の表面には外気が流れる。外気の流れの様子が該膜モジュールの特徴的な流れを実現するには膜表面での平滑度は重要な因子である。この構造上の因子に加えて該膜モジュールの運転条件が重要な操作条件である。すなわち一次側流体の流れとして粘性流れが主流であるためには該流体の静水圧力が1気圧程度であることおよび膜表面に沿った一次側流体のモジュールの入口部と出口部との圧力差で表現すると1/1万気圧以上1/100気圧以下である。この運転条件によって大気中の粒子成分は一次流体の流れに乗って平膜の表面に沿って流れる。
【0043】
膜表面に沿った大気の流れが層流を形成することも必要である。それを実現するためには本発明用のモジュール内での該平膜の表面が滑らかな表面を形成しなくてはならない。すなわち一次側流体の流路を形成する平行な対面の厚さ(流路の厚さ)として1mm以上で1cm未満であり流路の長さは10cm以上になるように膜表面は配置されることで大気中の微粒子が一次流路内の層流の流れに乗る。
【0044】
大気中の粒子を除去する孔拡散膜分離モジュールが有効に機能を発揮するには、その運転条件に平膜を介した気体成分の拡散、特に膜中の孔を介した拡散が起ることが必要である。この種の拡散が気体系の場合には液体の場合に比較して拡散の寄与が大きいことが分かっている。例えば、無次元量であるシュミット数を比較する。シュミット数は動粘度(η/ρ)を拡散係数(D)で除した値として定義されている。この値の実測値として、気体では0.2、液体の場合で1000~10000が報告されている。これらの値より気体系では拡散係数が粘性係数との比較において相対的に大きい。この相対値より気体系では液体系に比較して、より流動分別型孔拡散膜分離モジュールの特徴が現われる。
【0045】
本発明の重要な側面は膜と接する大気の流れを規制している点にある。すなわち膜表面の気体の流れのひずみ速度が2/秒以上でその流れは粘性流れで一次流れを構成する。一次流れの成分で膜表面の一部の流れは膜間差圧(静水圧差で表示される)を0.01気圧にすることで、該膜の厚さ方向の流れ、すなわち膜を介した流れ(これを二次流れと略称される)を起こし、該二次流れのみを回収する。
【0046】
該二次流れの性格を支配するのは膜の平均孔径と膜間差圧である。二次流れを拡散流れのみにするには膜間差圧を低め気体分子の平均自由行程を長くし、平均孔径をこの自由行程以下にすることが必要である。要求される運転条件として不可欠な部分は、平膜に負荷される膜間差圧である。この膜間差圧が大きくなると、膜を介しての粘性流れが起り粒子が二次流体中へ漏れてくる。処理対象の大気の圧力(一次側流体の圧力)と膜を介して拡散した気体分子の圧力(二次側流体の圧力に等しい)との差が0.01気圧以内になるように拡散した気体の静水圧を制御する必要がある。拡散した気体の圧力は一次流体の圧力と拡散した気体量や速度とによって制御できる。
【0047】
上述した運転条件が局所的にも成立していることが望ましい。例えばモジュール全体としての平均値としての圧力項目や流れ速度等の条件が前述のように満足されていても、この条件が局所的にも満足されていなくてはならない。ここで定義される局所的な値とは気体系の場合には気体分子の平均自由行程の10倍程度の距離を意味する。例えば1気圧の気体の成分として窒素を例にとると68nm x 10の距離での値を意味する。すなわち運転条件は約1μm立方の空間でも成立していることが望ましい。この条件が成立しているならば一次流体の流れの断面積の大きさとして0.01平方cm以上の流れでも拡散流れとして回収可能である。
【0048】
複合膜の膜表面での気体のひずみ速度が10/秒以上となるように一次流体の膜モジュールの入口部に送風機を取り付けこれを運転し、同時に二次流体を得るために膜間差圧を0.005気圧以下とする。二次流体の静水圧はほぼ大気圧に等しいが僅かに減圧状態にして回収する。
【0049】
本発明方法で作製された拡散流れの気体に対して活性炭を50wt%以上含む微粒子で吸着処理することで回収される気体中の分子分散する特定成分を除去することが可能である。複合膜が再生セルロースである本発明技術では、除去すべき分子として、硫黄化合物、有機化合物などがあり悪臭成分である。これらの分子を非特異的に除去する物質として活性炭が利用し易い。
【発明の効果】
【0050】
気体系での孔拡散技術の適用の特徴は、粒子成分に作用する重力加速度の作用を無視できる点にある。すなわち、複合膜の平面の方向は重力加速度の方向と無関係に任意の方向に設定できる。重力加速度の影響が無視できるのは分散粒子の密度が気相系では常に水中での粒子密度の半分以下であるとの実験事実、と粒子の衝突時間間隔が気相系では液体系のそれの100倍程度長いとの実験事実とに基づく。その結果、液体系の場合には膜平面の垂線の方向は重力加速度の方向と直交している。本発明方法により、大気中の微粒子の存在をほぼ皆無にすることが可能となった。我々の居住空間において空気の取り入れ口より新鮮な空気を取り入れる際に、本発明の方法を採用すれば粒径が0.02μm以上の粒子成分を含む大気成分は一次側流体のみに混在する。一次側流体に混在する粒子成分は該流体を不織布等に衝突させて流体としての流れ速度を低下させることにより系外へ除去することもできる。二次側流体を構成する拡散流れをした気体中には0.02μm以上の粒子成分は皆無である。本発明方法を実現させる孔拡散膜モジュールを設置することにより空気の清浄度が高まり無菌医薬品製造区域のグレードAの環境を与えることができる。
【0051】
大気中に浮遊する直径0.02μm以上の微粒子を含む未処理の気体を本発明技術のなかでは通常一次側流体と位置付ける。この流体には感染性微粒子として細菌、ウイルス、アレルゲンを含む生物由来物質などがあり、微量に存在しても重大な影響を与える場合もある。人体への影響が大きな感染性微粒子の存在を否定しなくてはならない空間がある。例えば、手術室などの集中治療室やバイオ実験室などである。これらの室内の空気の供給の際には発明の装置を用いることにより感染性微生物をほぼ完全に除去できる。感染性微粒子の除去性能を予測することができる。すなわち、本発明方法では温度をほぼ一定に設定し一次流体の圧力を設定すると気体分子の平均自由行程が定まる。この行程の値が定まれば一次流体の流れの厚さと平膜の平均孔径とを指定すれば気体の流れ機構を指定できる。流れ機構を定めれば本装置で微粒子を定量的に再現性良く除去できる。
【0052】
平膜の膜表面に沿った流れと平膜の厚さ方向の流れと分離した流れとに設定することにより非特許文献2により粒子の運動が計算できる。この運動性と膜特性とで本発明方法を利用することにより平膜による粒子除去性能が予想され、さらにその性能の再現性が特定した孔特性を持つ平膜を採用することにより確保できる。気体系から粒子の除去性能の予測性と再現性とを持つ本発明技術は微生物除去技術として信頼性のある技術に位置付けられる。この膜による除去機能の実証は水溶液中の水酸化第二鉄コロイド溶液を利用した膜除去性能で行った。例えば水濾過速度法での平均孔径が20nmの再生セルロースの平膜を例にして、20nm径の水酸化第二鉄コロイドの除去率(対数除去係数で表示)を測定すると、濾過では2.6、同一の膜で一次流体のひずみ速度が10/秒で膜間差圧が0・03気圧の水溶液の孔拡散では4.2以上であった。水溶液での粒子除去性能より膜濾過と比較して孔拡散での除去性能は膜濾過と比較して大きい。
【0053】
20nm径の水酸化第二鉄コロイド粒子の除去率によって本発明の0.02μm以上の径の微粒子の除去率が反映しているかどうかを確認する。そのために金(20nm径)の微粒子の除去率、3種のファージ(f1,MS2,PM2)とヘルペスウイルスとの除去率を平均孔径20mの再生セルロース平膜を用いて孔拡散での除去率はそれぞれ3.0以上、6.1以上、3.5以上、5.9以上、4.3以上であった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
第一図に本発明方法で中心となる平膜表面上の流れ(この流れは一次流れで本特許では粘性流れとなっている)および膜表面から平膜内部の孔内での流れ(この流れは二次流れであり拡散流れとなっている)の二種の流れを実現するモジュールの典型例を示す。
【0055】
本発明方法を孔拡散膜モジュールとして具体化する形状として二種の膜モジュールがある。二種とは縦型モジュールと横型モジュールの二種である。モジュール内に装填される平膜の膜平面の法線の方向が重力加速度の方向と直交する縦型モジュールと平行する横型モジュールとの二種類である。第二図にこの二種のモジュールの典型例を示す。処理対象の流体が液体系であれば重力加速度の影響が顕著となるため横型モジュールは利用しない。重力加速度の作用によって粒子成分が平膜の孔内に捕捉されるからである。
【0056】
液体系の場合の流動分別型孔拡散膜分離モジュールと類似の構成で本発明モジュールが作製される。すなわち、第三図の横型モジュールを用いて解説する。表面の凹凸の少ない膜表面(すなわち表面)側に一次側流体を流す。一次側流体の流れ厚さを3mmに設定し一次側流路を一対の膜表面で作製する。一対の膜表面で作られた流路は流路幅を数ミリメートルに設定するとこの流路を流れる空気は層流状態になる。例えば水および空気の動粘度はそれぞれ0.89(mm/s)および16.0(mm/s)であり気体相の方が液体相より層流になりやすい。大気に流れがあればこの流れを一次側流体として利用すれば膜内部の孔内の流れとなる二次側流体は拡散流れになる。
【0057】
モジュールに装填される膜は平面状の複合膜である。複合膜の素材としてセルロースを選定する。例えばパルプより作製された化学実験用のろ紙の市販品をそのまま利用し、ろ紙を構成する天然セルロース短繊維間の空間内に埋め込む再生セルロースの微粒子は酢酸セルロースのアセトン溶液のミクロ相分離法で作製される。該市販品のろ紙を構成する天然セルロース繊維の分子鎖はその長軸を平面内に配向させるような製法で製造されている。ミクロ相分離法で酢酸セルロースの微粒子を作製した後、苛性ソーダで再生セルロースへ鹸化する。セルロース誘導体溶液より微粒子の作製にはミクロ相分離法が利用できる。
【0058】
酢酸セルロースの場合のミクロ相分離法については、公知な例として下記論文がある。すなわち、
上出健二、真鍋征一等、高分子論文集、34巻、307(1977)。
ミクロ相分離法での成膜過程で生じる二種に大別される微粒子(直径10~20nmの一次粒子と50~500nmの二次粒子)をろ紙の短繊維間に積層状に充填する。成膜時の溶液組成は酢酸セルロース/アセトン/メタノール/シクロヘキサノール/塩化カルシウム一水塩の5種類で構成される。主としてアセトンの蒸発によってミクロ相分離が起こる。
【0059】
この製膜時の蒸発面側が平滑度の高い面となる。流延用溶液組成を変化させることによって、複合膜としての平均孔径を3nm~3μm、空孔率を67%以上に設定できる。すなわち、ミクロ相分離時の高分子濃度を高めシクロヘキサノール濃度を低めれば複合膜の平均孔径を低めることができる。平均孔径を100nm、空孔率を75%、膜厚を80μmとした複合膜を30cm平方の大きさで切り出し、複合膜2枚を対にして一次側流路を作製する。第3図(B)のタテ型モジュールを組み立てるためにこの複合膜を15cm x 30cmに切り出し、段ボール状の枠(第3図中の波状の部分)上に複合膜を接着させる。一次側流路の厚みを3mm、二次側流路の厚みについて特に定めるべき理由はない。接着の容易さより二次側流路の厚みと一次側流路の厚みを等しくしている。
【0060】
本発明モジュール中に装填されている複合膜を支持する枠の材質は、複合膜との接着の容易さ、軽量、乾湿の寸法安定性、力学的強度が大、安全性の観点から選定される。例えばセルロース、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニール等の汎用性高分子、さらにアルミニウムがある。これらの枠を用いると複合膜を縦型と横型のモジュール内に多数枚充填できる。セルロース製の段ボール紙(厚さ5mm)より10cm x 20cmを切り出す。この長方形の板状物より8cm x 18cmの長方形の板状物を打ち抜くことによって枠幅1cmの四角形枠を作製する。10cm x 20cmの板状物を構成している波上状物の配向方向を該板状物の長軸方向と短軸方向との2種類の枠を作製する。複合膜の平滑度の高い面の法線ベクトルの方向が2枚の複合膜で相互に反対方向になるように複合膜を設置する。
【0061】
第4図に示す縦型の本発明モジュールの典型例を示す。複合膜の天然セルロース短繊維の平膜形状体として市販のろ紙(セルロース製、Whatman社製Grade3、厚さ約376μm)を採用した。このろ紙上にアプリケーターを用いて流延厚さ450μmで流延用の溶液を25℃で塗布した。流延用溶液の組成として酢酸セルロース/アセトン/メタノール/シクロセキサノール/塩化カルシウム2水塩の重量比率を0.09/0.55/0.15/0.15/0.06とした組成を採用した。流延後4時間で流水下で12時間水洗後、1規定の水酸化カリウム水溶液で48時間鹸化処理した。処理後流水で24時間洗滌後25℃で定長下で乾燥しセルロースの複合膜を作製した。電子顕微鏡観察ではこの方法で得られた微粒子の直径は0.10μm~0.20μmであった。
【0062】
上記の製法で作製された複合膜の膜厚は390μm 、水の濾過速度法での平均孔径は0.02μm、空孔率72%であった。本膜の水酸化第二鉄コロイド粒子水溶液(動的光散乱法での平均粒子径20nm、日本特殊膜開発(株)製、コロイド濃度1200ppm)の膜間差圧0.015気圧での対数除去係数は3.0であった。この膜の1wt%塩化カリウム水溶液の塩化カリウムの拡散係数は1.0・10-6cm/sであった。すなわち、本膜は濾過による粒子除去性能を高く保持しつつ拡散による低分子の拡散による輸送速度を高く保持する性能を持つ。
【0063】
本複合膜を有効膜面積7.0cmで一次流れ厚さ1mmの円形状の孔拡散モジュールに設置した。該モジュールはポリカーボネート製で複合膜の表面を気体が層流の流れが実現するように一次流れの回路内に2枚の膜を挿入し平行な流れを形成した。一次流れの速度をポンプを用いて膜表面での歪速度が20/秒になるように設定した。膜間差圧が0.005気圧以下になるように二次側流路に注射器を設けて手動で注射筒を移動させた。二次側流路内の気体の圧力は大気圧である。二次側で回収された気体中の0.02μm以上の粒径の粒子の重量を平均孔径0.02μmの多孔膜の重量増加量で測定した。その結果、多孔膜の重量増は測定誤差内で観察されなかった。
【0064】
二階建ての研究所(北九州市若松区片山一丁目2-43)の屋上にプレハブ小屋を建て浮遊粒子除去実験室1.8m x 3.6m x 高さ2mの実験室とした。容積13立方メートルの部屋に換気扇1台を設置し常時運転状態にした。室内の圧力と外気圧との差(減圧状態で0.5ミリバール)が維持されているのを確認した。実験室の室外で外気の流れがあり、一次流体としての流路が確保される場所に本発明の縦型モジュール(図4)を設置した。有効膜面積は1平方メートルである。二次流体の出口部を室内の下部に設置した。該出口部と換気扇の設置部との直線距離は2メートルである。室内の空気に浮遊する0.03μm以上の粒子の量を濾過法で測定した。ここで濾過法とは平均孔径0.03μmのウイルス除去膜を装着したモジュール(日本特殊膜開発株式会社製)に注射器を用いて25℃の空気10リットルを濾過し、濾過後のモジュール重量増を測定する方法である。
【0065】
大気中の粒子量は10リットル当たり24mgから0.5mgに一週間で変動している。平均孔径10μmのろ紙を本発明モジュールの平膜として採用した場合に本モジュールで処理すると10リットルの体積あたり0.04mg~0.4mgの重量増が測定されている。すなわち本発明モジュールでの粒子の対数阻止率はおよそ2以上である。
【実施例0066】
前述のセルロース製のろ紙の表面にミクロ相分離法で作製した酢酸セルロース(酢酸置換度2.4)の微粒子を塗布し、該微粒子を鹸化処理して再生処理する方法で複合膜を作製した。複合膜として水濾過速度法での平均孔径は0.15μmで、空孔率は65%、膜厚は279μmであった。微粒子の作製用のミクロ相分離を起こす流延溶液の組成は、アセトン/アセテート/メタノール/シクロヘキサノール/塩化カルシウム二水塩の0・62/0.0558/0.15/0.115/0.0592であった。微粒子の直径は0.15μmであり、該微粒子の積層による膜厚の増加量は25μmであった。複合膜の重量から算出された微粒子重量/短繊維重量の比は0.15であった。
【0067】
この膜を水蒸気下で圧縮加工して膜表面の平滑度を高めた(いわゆるスチームアイロン処理を膜の片面のみで行った)。図4と同様の縦型モジュールを作製した。縦型モジュールの断面形状を10cm x 10cmで高さ約60cmとして。高さの設定は、高さ20cmのモジュールを基本単位としてこれを3個直列に連結した。連結の際には拡散流れの成分が連続するようにモジュールの長軸方向をそろえかつ波状断面部が相互に重なるように積み重ねた。モジュールの下部の底辺部の10cm平方の部分を密封し、上部の正方体には二次流体の出口部のチューブ状物に接着させた。利用した平膜33枚はいずれも本発明の複合膜であった。膜表面にローラ加工を施し平均孔径を0.1μmになるように圧縮加工し、加工面を膜表面とした。二枚の膜のそれぞれの表面を対となるように平膜を設置しその膜表面間が一次側流路のなるように枠を積み重ねえんかの平膜の表面/裏面の積み重ねは・・・裏面/表面 表面/裏面 裏面/表面 表面/裏面 ・・・の順となる。モジュールの外形上の寸法は10cm x 10cm高さ60cmであり上部より第2次流体の取り出しとして塩化ビニール製のチューブが接続されている。このチューブの先が実験室内へと連なる。モジュールの本体とチューブとを入れて高さは70cmである。気体系の孔拡散装置としてはこの高さ程度では圧力差に寄与しない。該モジュール本体が風の通り道となるように室外に設置され、一次流路が大略風の通り道となる。本モジュールを浮遊粒子除去実験室に設置した。外気の圧力と該実験室の圧力との差は約0.5ミリバールの一定であった。
【0068】
本発明モジュールを該微粒子除去実験室に設置後5時間以上経過した時点を該モジュールによる処理のスタート点とした。処理後の空気を注射器を用いて1リットルごとサンプリングした。サンプリングの1リットルの空気を平均孔径0.03μmのウイルス除去膜(日本特殊膜開発株式会社製)を用いて濾過した。濾過後のフィルターの重量増加は1リットルのサンプルの空気中に浮遊する0.03μm以上の径の粒子の粒子量を反映する。このフィルターの重量増加量のサンプリングした空気量依存性を図6の(a)に示す。孔の目詰まりに原因した重量増加量のみを測定するために、フィルターが一定湿度(0%)および温度(25℃)になったのを確かめて秤量した。重量増加量は100リットルの空気当り0.10mgであった。この値は24時間にわたり一定であった。
【比較例】
【0069】
本発明モジュールを適用することなく外気をそのまま取り入れた場合のフィルターの重量増加の様子を図7の(b)に示す。結果のバラツキは大きいが重量増加率は2.4mg/リットル~0.05mg/リットルにわたって変動する。これは外気中に浮遊する粒子のサイズと量とが風の流れと共に変動しているためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
空気中に分散する微粒子の除去は工業製品の品質管理上で必須である。また微粒子が感染性微生物(例、ウイルス、細菌など)や花粉などの成分微粒子のように生体への作用が強い物質の場合などはその除去は健康管理上でも必須である。産業としては医薬品製造、再生医療等製品の製造、食品・化粧品製造などの製造工程での空気の清浄化に本技術が利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
図1】平膜状多孔性複合膜を介した気体の2種の流れと平膜との関連を示す模式図。
図2】2種の気相系孔拡散膜分離モジュールの基本概念図。A;横型モジュール、複合膜を用いた封筒型の膜分離器の膜面を水平に重なる方向で積み重ねることで膜面積を広げることが可能なモジュール。複合膜の膜面の法線の方向と重力加速度の方向とが一致している。B;縦型モジュール、複合膜によって構成される一次流路と二次流路とを交互に設置することによって膜面積を広げることが可能なモジュール。複合膜面の法線が重力加速度の方向と直交。
図3】縦型モジュールの基本単位となる二種の流路の多層構造モジュール。波状の流路は上下交互に積層される。二種の流路の方向が図中の両端の矢印(実線と破線)で示される。波状の流路は図中の細い短直線の繰り返しで表現されている。
図4】縦型モジュールの組立図。平膜状の複合膜(図中aで表示)3枚と二種の流路(図中b、cで表示の矢印で流路の方向を示す。b:29枚の複合膜aと14層の流短路(図中bで表示)と15層の流長路(図中cで表示)発明モジュールを構成する平膜状の複合膜と枠部との概略図。Gの矢印は重力加速度の方向。
図5】横型モジュールの組立図。(a)基本単位となる3枚の封筒状モジュールを構成する枠部の断面、破線の矢印は二次流路内の流れの方向、実線の矢印は一次流路内での気体の流れる方向、sはスペーサ。(b)封筒状ノモジュールを重ねることによって作製される本発明モジュールの概念図(スペーサsは省略されている)。
図6】実施例の実験データ、本発明モジュールで処理した気体の0.03μmの膜に捕捉された粒子量の気体通過量依存性。
図7】比較例の実験データ、処理前の気体の0.03μmの膜に捕捉された粒子量の気体通過量依存性。
【符号の説明】
【0072】
1;平膜状の複合膜表面の1次流路に流れる気体、粘性流れ、2;複合膜の孔内を流れる気体、拡散流れ、3;孔内拡散流れで回収される気体の2次流路内での平滑度のより低い膜面、6;縦型モジュールの一例で採用される段ボール状の波状の流路で一次側流路、7;段ボール状の波状の二次側流路、8;一枚の封筒状のモジュールを構成する枠、2枚の平膜状の複合膜の膜表面を外側にした封筒状に成型する、9;拡散後の気体の出口、10;多数の封筒状のモジュールを積層するための支柱、11;拡散後の気体をモジュール外へ輸送するためのチューブ、12;二枚のの複合膜を装填した封筒状のモジュールの基本単位、s;一次流路の厚さを設定するためのスペーサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7