(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090621
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】歯科用ハンドピース
(51)【国際特許分類】
A61C 1/14 20060101AFI20230622BHJP
B23B 31/20 20060101ALI20230622BHJP
B23B 31/02 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
A61C1/14 A
B23B31/20 F
B23B31/02 601Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148345
(22)【出願日】2022-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2021205568
(32)【優先日】2021-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000150327
【氏名又は名称】株式会社ナカニシ
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 大和
(72)【発明者】
【氏名】岩井 靖男
(72)【発明者】
【氏名】大塚 寛貴
【テーマコード(参考)】
3C032
4C052
【Fターム(参考)】
3C032BB12
3C032JJ08
3C032JJ15
4C052AA06
4C052BB03
4C052CC02
4C052CC23
(57)【要約】
【課題】チャック機構の耐摩耗性を向上させ、切削状況によらずに常に安定して歯科処置工具を保持できる歯科用ハンドピースを提供する。
【解決手段】歯科用ハンドピースのチャック機構43は、歯科処置工具15が挿入されて回転自在に支承された中空円筒状のスリーブ37と、スリーブ37内に収容される円筒スライド部材45と、スリーブ37内の互いに異なる周方向位置にそれぞれ配置され、歯科処置工具15を挟み込む複数の分割可動片47A,47Bと、円筒スライド部材45を歯科処置工具15の挿入方向先方に向けて付勢する弾性付勢部材41と、スリーブ37に少なくとも一部が固定され、複数の分割可動片47A,47Bの挿入方向先方への軸方向移動を規制するストッパ部49と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科処置工具を着脱自在に装着するチャック機構を備え、前記チャック機構に装着された前記歯科処置工具を回転駆動する歯科用ハンドピースであって、
前記チャック機構は、
前記歯科処置工具が挿入されて回転自在に支承された中空円筒状のスリーブと、
前記スリーブ内に、前記スリーブの軸方向へ移動可能に収容される円筒スライド部材と、
前記スリーブ内の互いに異なる周方向位置にそれぞれ配置され、前記円筒スライド部材の内周面に当接する外周面、及び前記スリーブに挿入された前記歯科処置工具の外周面に当接する内周面を有し、前記歯科処置工具を挟み込む複数の分割可動片と、
前記円筒スライド部材を前記歯科処置工具の挿入方向先方に向けて付勢する弾性付勢部材と、
前記スリーブに少なくとも一部が固定され、前記複数の分割可動片の前記挿入方向先方への軸方向移動を規制するストッパ部と、
を備え、
前記複数の分割可動片の外周面と前記円筒スライド部材の内周面とは、少なくとも一方が他方に対して前記軸方向の勾配を有するテーパ嵌合部を介して当接し、前記分割可動片と前記円筒スライド部材との前記軸方向への相対移動によって前記分割可動片が径方向へ移動して、前記歯科処置工具の固定と固定解除とを行う、
歯科用ハンドピース。
【請求項2】
前記スリーブの直径方向に一対の前記分割可動片が互いに対向して配置されている、請求項1に記載の歯科用ハンドピース。
【請求項3】
前記円筒スライド部材は、その内周面に前記挿入方向先方に向けて拡径する第一テーパ面を有し、
前記複数の分割可動片は、その外周面に前記第一テーパ面と摺接する第二テーパ面を有する、
請求項1に記載の歯科用ハンドピース。
【請求項4】
前記円筒スライド部材は、その内周面に前記挿入方向先方に向けて拡径する第一テーパ面を有し、
前記複数の分割可動片は、その外周面に前記第一テーパ面と摺接する第二テーパ面を有する、
請求項2に記載の歯科用ハンドピース。
【請求項5】
前記ストッパ部は、
前記複数の分割可動片よりも前記挿入方向先方に配置され、前記挿入方向先方に向けて縮径する第三テーパ面を内周面に有する円筒固定部材と、
前記複数の分割可動片の外周面に設けられ、前記第三テーパ面と摺接する第四テーパ面と、
を含む、請求項3に記載の歯科用ハンドピース。
【請求項6】
前記ストッパ部は、
前記複数の分割可動片よりも前記挿入方向先方に配置され、前記挿入方向先方に向けて縮径する第三テーパ面を内周面に有する円筒固定部材と、
前記複数の分割可動片の外周面に設けられ、前記第三テーパ面と摺接する第四テーパ面と、
を含む、請求項4に記載の歯科用ハンドピース。
【請求項7】
前記円筒固定部材は、前記軸方向に沿って、前記第三テーパ面を含む領域のテーパ付き円筒部材と、前記テーパ付き円筒部材を除いた領域の残部円筒部材とに分割されている、
請求項5に記載の歯科用ハンドピース。
【請求項8】
前記円筒固定部材は、前記軸方向に沿って、前記第三テーパ面を含む領域のテーパ付き円筒部材と、前記テーパ付き円筒部材を除いた領域の残部円筒部材とに分割されている、
請求項6に記載の歯科用ハンドピース。
【請求項9】
前記分割可動片は、前記テーパ嵌合部よりも前記挿入方向先方の外周面に、径方向外側に突出する突起部が設けられ、
前記突起部は、前記円筒スライド部材の前記挿入方向先方の端部に当接可能となっている、
請求項1から8のいずれか1項に記載の歯科用ハンドピース。
【請求項10】
前記円筒固定部材の前記挿入方向の後方端部に配置され、前記スリーブに固定された環状の規制リングを備え、
前記分割可動片は、前記第二テーパ面と前記第四テーパ面との間の外径面に凹溝が周方向に沿って形成され、
前記規制リングは、該規制リングの内周面が前記凹溝に挿入される径方向厚さを有し、前記分割可動片の前記軸方向への移動によって前記凹溝の前記挿入方向先方の溝壁又は後方の溝壁と前記規制リングとが当接する、
請求項5から8のいずれか1項に記載の歯科用ハンドピース。
【請求項11】
前記分割可動片、前記円筒スライド部材及び前記円筒固定部材は、前記弾性付勢部材よりも高硬度な材料により構成されている、請求項5から8のいずれか1項に記載の歯科用ハンドピース。
【請求項12】
前記スリーブの軸方向断面において、
前記分割可動片の前記第二テーパ面と前記第四テーパ面との少なくとも一方は、前記スリーブの軸線とが成すテーパ角が5°以上、30°以下である、
請求項5から8のいずれか1項に記載の歯科用ハンドピース。
【請求項13】
前記分割可動片よりも前記挿入方向先方に配置され、前記歯科処置工具を前記チャック機構から取り外す際に押下されるプッシャを備え、
前記プッシャは、前記複数の分割可動片同士の周方向隙間を通じて前記円筒スライド部材に向けて延びるプッシュ片を有し、
前記プッシャが前記歯科処置工具の挿入方向後方に向けて押下されると、前記プッシュ片が前記円筒スライド部材を前記挿入方向後方に押し戻して、前記分割可動片と前記歯科処置工具とのチャッキングが解除される、
請求項1から8のいずれか1項に記載の歯科用ハンドピース。
【請求項14】
前記分割可動片の内周面の半径は、前記歯科処置工具の外周面の半径よりも小さい、請求項1から8のいずれか1項に記載の歯科用ハンドピース。
【請求項15】
前記複数の分割可動片は、前記スリーブ内で該スリーブの軸線回りに回転可能に配置されている、請求項1から8のいずれか1項に記載の歯科用ハンドピース。
【請求項16】
前記弾性付勢部材はコイルばねである、請求項1から8のいずれか1項に記載の歯科用ハンドピース。
【請求項17】
前記分割可動片は、軸方向中央を通る軸方向垂直面を対称面とする対称形状である、
請求項1から8のいずれか1項に記載の歯科用ハンドピース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用ハンドピースに関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用ハンドピースとして、エアタービンの回転力によって患部を切削するエアタービンハンドピースと、モータの駆動力によって患部を切削するモータハンドピースが知られている。これらの歯科用ハンドピースは、ヘッド部に収容されたチャック機構によって歯科処置工具を保持し、歯科処置工具を高速回転させることで患部を切削する。
【0003】
歯科処置工具を保持するチャック機構に関して、チャック力の低下を抑制して、歯科処置工具の抜け落ち、空回り等を防止する技術が提案されている(例えば、特許文献1,2)。
特許文献1には、歯科処置工具(被チャック部材)を筒状のチャック軸から径方向に出没するボールによりチャッキングする構成が開示されている。
特許文献2には、歯科処置工具を保持する筒状の工具保持部材と、工具保持部材の外側に配置されたテーパ部材と、工具保持部材を上方に付勢するコイルスプリングとを有し、
工具保持部材の周方向に沿った3箇所にスリットが刻設され、各スリットに小片が嵌められた保持機構が開示されている。小片の外周面は、工具保持部材がコイルスプリングからの付勢力を受けることでテーパ部材に接触して、テーパ面のくさび効果によって各小片が径方向内側に押される。これにより各小片が歯科処置工具と係合し、歯科処置工具が工具保持部材内で保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3126887号公報
【特許文献2】特開2006-122080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のチャック機構では、ボールにより歯科処置工具を局所的に把持するために、摩耗を生じやすく、把持力が低下しやすい問題がある。
【0006】
また、特許文献2においては、歯科処置工具の把持力がテーパ面の摩擦力に依存する。そのため、例えば、切削時にテーパ面に特に強い振動が負荷されると、歯科処置工具と小片との間に隙間が生じて、歯科処置工具が工具保持部材から抜け落ちるおそれを生じた。また、テーパ部材が薄肉であるためテーパの勾配が浅くなり、テーパ面での食い付きが発生しやすくなる。その結果、歯科処置工具の着脱不良を招きやすい。
【0007】
そこで本発明は、チャック機構の耐摩耗性を向上させ、切削状況によらずに常に安定して歯科処置工具を保持できる歯科用ハンドピースの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の構成からなる。
歯科処置工具を着脱自在に装着するチャック機構を備え、前記チャック機構に装着された前記歯科処置工具を回転駆動する歯科用ハンドピースであって、
前記チャック機構は、
前記歯科処置工具が挿入されて回転自在に支承された中空円筒状のスリーブと、
前記スリーブ内に、前記スリーブの軸方向へ移動可能に収容される円筒スライド部材と、
前記スリーブ内の互いに異なる周方向位置にそれぞれ配置され、前記円筒スライド部材の内周面に当接する外周面、及び前記スリーブに挿入された前記歯科処置工具の外周面に当接する内周面を有し、前記歯科処置工具を挟み込む複数の分割可動片と、
前記円筒スライド部材を前記歯科処置工具の挿入方向先方に向けて付勢する弾性付勢部材と、
前記スリーブに少なくとも一部が固定され、前記複数の分割可動片の前記挿入方向先方への軸方向移動を規制するストッパ部と、
を備え、
前記複数の分割可動片の外周面と前記円筒スライド部材の内周面とは、少なくとも一方が他方に対して前記軸方向の勾配を有するテーパ嵌合部を介して当接し、前記分割可動片と前記円筒スライド部材との前記軸方向への相対移動によって前記分割可動片が径方向へ移動して、前記歯科処置工具の固定と固定解除とを行う、
歯科用ハンドピース。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、チャック機構の耐摩耗性を向上させ、切削状況によらずに常に安定して歯科処置工具を保持できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明に係る歯科用ハンドピースの全体図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す歯科用ハンドピースのヘッド部の概略断面図である。
【
図3】
図3は、スリーブ内に収容されたチャック機構を示す一部拡大断面図である。
【
図4】
図4は、チャック機構を構成する各部材の分解図である。
【
図6】
図6は、
図4に示す各部材の組立て後の状態を示す斜視図である。
【
図7】
図7は、
図3に示すVII-VII線に沿った断面図である。
【
図8A】
図8Aは、チャック機構に歯科処置工具を挿入してチャッキング動作させる様子を段階的に示す説明図である。
【
図8B】
図8Bは、チャック機構に歯科処置工具を挿入してチャッキング動作させる様子を段階的に示す説明図である。
【
図8C】
図8Cは、チャック機構に歯科処置工具を挿入してチャッキング動作させる様子を段階的に示す説明図である。
【
図8D】
図8Dは、チャック機構に歯科処置工具を挿入してチャッキング動作させる様子を段階的に示す説明図である。
【
図9A】
図9Aは、チャック機構に挿入された歯科処置工具のチャッキングを解除する動作を段階的に示す説明図である。
【
図9B】
図9Bは、チャック機構に挿入された歯科処置工具のチャッキングを解除する動作を段階的に示す説明図である。
【
図9C】
図9Cは、チャック機構に挿入された歯科処置工具のチャッキングを解除する動作を段階的に示す説明図である。
【
図9D】
図9Dは、チャック機構に挿入された歯科処置工具のチャッキングを解除する動作を段階的に示す説明図である。
【
図10A】
図10Aは、チャック機構に外力が負荷された場合のチャック機構の動作を段階的に示す説明図である。
【
図10B】
図10Bは、チャック機構に外力が負荷された場合のチャック機構の動作を段階的に示す説明図である。
【
図10C】
図10Cは、チャック機構に外力が負荷された場合のチャック機構の動作を段階的に示す説明図である。
【
図11】
図11は、歯科処置工具が分割可動片により挟まれた状態を示す概略断面図である。
【
図12】
図12は、第一テーパ面と第二テーパ面、及び第三テーパ面と第四テーパ面の各テーパ角を異ならせた場合を示す説明図である。
【
図13】
図13は、第一テーパ面と第二テーパ面、及び第三テーパ面と第四テーパ面の各テーパ角を異ならせた場合を示す説明図である。
【
図14】
図14は、外周面に第二テーパ面を有する分割可動片と、内周面に第一テーパ面を有しない円筒スライド部材を示す概略断面図である。
【
図15】
図15は、外周面に第二テーパ面を有しない分割可動片と、内周面に第一テーパ面を有する円筒スライド部材を示す概略断面図である。
【
図16】
図16は、2分割された円筒固定部材を有するチャック機構の部分断面図である。
【
図17】
図17は、軸方向長さを延長した分割可動片を有する変形例2のチャック機構を示す断面図である。
【
図18】
図18は、突起部を分割可動片と一体に形成した変形例3のチャック機構を示す断面図である。
【
図19】
図19は、簡略化した変形例4のチャック機構の構成を示す概略断面図である。
【
図20】
図20は、他の簡略化した変形例5のチャック機構の構成を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る歯科用ハンドピースの実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。ここではエアタービンハンドピースの構成例を説明するが、モータハンドピース等の他の駆動機構を備えた構成であってもよい。
【0012】
図1は、本発明に係る歯科用ハンドピース100の全体図である。
歯科用ハンドピース100は、ヘッド部11と、このヘッド部11から後方に向けて延びるグリップ部13とを備える。ヘッド部11は、歯科処置工具15を着脱自在に装着する、詳細を後述するチャック機構を備え、チャック機構に装着された歯科処置工具15を回転駆動する。本構成では、グリップ部に圧縮空気の給気通路(不図示)と排気通路(不図示)が設けられ、給気通路から供給される圧縮空気により歯科処置工具15を回転駆動し、駆動に使用された圧縮空気が排気通路を通して排出される。
【0013】
図2は、
図1に示す歯科用ハンドピース100のヘッド部11の概略断面図である。以降の説明においては、歯科処置工具15をヘッド部11に装着する際の歯科処置工具15の挿抜方向を上下方向又は挿入方向、挿入方向先方を上方、挿入方向後方を下方ともいう。
【0014】
ヘッド部11は、グリップ部13に接続されてヘッド部11の外周を覆うヘッドハウジング21と、ヘッドハウジング21の上部を覆ってヘッドハウジング21に固定されるヘッドキャップ23と、ヘッドキャップ23の上方を覆うプッシュボタン25とによって囲まれて構成される。プッシュボタン25とヘッドキャップ23との間には付勢ばね27が設けられ、付勢ばね27はプッシュボタン25を上方に付勢する。
【0015】
ヘッドハウジング21の内側にはカートリッジケース29が収容される。カートリッジケース29は、ヘッドハウジング21の上方からヘッドキャップ23を組み付けることで、ヘッドハウジング21と一体に固定される。カートリッジケース29の内周側には一対の転がり軸受31A,31Bの外輪33が固定される。転がり軸受31A,31Bの内輪35は、中空円筒状のスリーブ37の外周面が嵌め合わされている。
【0016】
スリーブ37は、転がり軸受31A,31Bによって回転自在に支承され、スリーブ内に歯科処置工具15が挿入される。
【0017】
スリーブ37の転がり軸受31Aと転がり軸受31Bとの間には、ローター39が固定される。ローター39は、タービン羽根を有する回転体であり、カートリッジケース29内に供給される圧縮空気によって回転力を発生し、スリーブ37を回転駆動する。つまり、ヘッドハウジング21及びカートリッジケース29に転がり軸受31A,31Bを介してスリーブ37が支承されることで、スリーブ37は、ローター39に生じる回転力を駆動源として回転する。
【0018】
スリーブ37は、その内周面に小径部37aと大径部37bとを有する。大径部37bの下方端には、円筒スライド部材45を歯科処置工具15の挿入方向先方に向けて付勢する弾性付勢部材としてのコイルばね41が配置されている。コイルばね41は、スリーブ37の軸線Lcに沿って歯科処置工具15が挿通できる内径を有し、スリーブ37内でスペース効率を高めた構成になっている。このスリーブ37と、スリーブ37の大径部37bに収容された各部材とによって、次に説明するチャック機構43が構成される。
【0019】
図3は、スリーブ37内に収容されたチャック機構43を示す一部拡大断面図である。
図4は、チャック機構43を構成する各部材の分解図である。以下の説明では、同一の部材、同一の箇所については同一の符号を付与することで、その説明を省略又は簡略化する。
【0020】
チャック機構43は、主に、スリーブ37と、円筒スライド部材45と、複数(本構成では2つ)の分割可動片47A,47Bと、前述したコイルばね41と、ストッパ部49(
図3参照)とを備える。
【0021】
円筒スライド部材45は、スリーブ37内に、スリーブ37の軸方向へ移動可能に収容され、その内周面に上方(歯科処置工具15の挿入方向先方)に向けて拡径する第一テーパ面51を有する。分割可動片47A.47Bは、その外周面に第一テーパ面51と摺接する第二テーパ面53を有する。
【0022】
分割可動片47A,47Bは、スリーブ37の直径方向に一対が互いに対向して配置され、スリーブ37内で独立して後述するプッシャ61とともに回転可能となっている。
【0023】
ストッパ部49は、内周面に第三テーパ面55(第三テーパ面)を有する円筒固定部材57と、分割可動片47A,47Bに設けられた第四テーパ面59を含んで構成される。これらの各テーパ面は、軸線Lc方向の勾配を有することで、分割可動片47A,47Bの軸線Lc方向への移動を径方向への移動に変換するテーパ嵌合部として機能する。ストッパ部49は、詳細は後述するが、スリーブ37に少なくとも一部が固定され、分割可動片47A,47Bの挿入方向先方への軸方向移動を規制する。
【0024】
さらに、分割可動片47A,47Bよりも上方には、歯科処置工具15をチャック機構43から取り外す際に押下されるプッシュボタン25によって移動するプッシャ61が配置される。プッシャ61は、分割可動片47A,47B同士の周方向隙間を通じて円筒スライド部材45に向けて延びる一対のプッシュ片63を備える。
【0025】
また、円筒固定部材57の下方(歯科処置工具15の挿入方向の後方端部)には、スリーブ37に固定された環状の規制リング65が配置される。規制リング65は、スリーブ37の内周面に形成された段部38と円筒固定部材57の下方端との間に挟持される。
【0026】
図5は、分割可動片47A,47Bの斜視図である。
分割可動片47A,47Bは、スリーブ37内の互いに異なる周方向位置にそれぞれ配置され、互いに同一の形状を有する。分割可動片47A,47Bは、円筒スライド部材45の内周面に当接する外周面、及びスリーブ37に挿入された歯科処置工具15の外周面に当接する内周面を有して、歯科処置工具15を挟み込むように配置される。
【0027】
分割可動片47A,47Bの軸方向一端側と他端側には、軸方向外側に向けて外周面の半径が漸減する第二テーパ面53と第四テーパ面59とが形成されている。また、第二テーパ面53と第四テーパ面59との間には、周方向に沿った凹溝67が形成されている。この凹溝67によって、第二テーパ面53側の溝壁69と、第四テーパ面59側の溝壁71とが形成されている。そして、凹溝67の内側には、
図3に示すように、規制リング65が挿入される。また、分割可動片47A,47Bの内周面の少なくとも一方の端部には、軸方向外側に向けて内周面の半径が漸増する切欠き部60が形成されている。
【0028】
ここで示す分割可動片47A,47Bは、軸方向中央を通る軸方向垂直面を対称面とする対称形状である。対称形状であることで、チャック機構43の組立時に分割可動片の方向性を気にする必要がなくなり、組立作業性を向上できる。
【0029】
図6は、
図4に示す各部材の組立て後の状態を示す斜視図である。
図6においては、円筒固定部材57を省略している。プッシャ61は、一対の分割可動片47A,47Bの間に配置されるプッシュ片63の先端が円筒スライド部材45に当接する。そして、プッシュボタン25(
図3参照)の押下によって、コイルばね41の弾性力に対抗して円筒スライド部材45を軸線Lcに沿って移動させる。
【0030】
図7は、
図3に示すVII-VII線に沿った断面図である。
分割可動片47A,47Bの内周面の半径Rsは、把持する歯科処置工具15の外周面の半径R0よりも小さい(Rs<R0)。その場合、分割可動片47A,47Bが歯科処置工具15を把持する場合に、分割可動片47A,47Bの内周面の周方向端部73が、歯科処置工具15の外周面に線接触する。これにより、周方向端部73が歯科処置工具15に弾性的に食い込みやすくなり、歯科処置工具15の確実なチャッキングを実現できる。
【0031】
<チャッキング動作>
次に、上記構成のチャック機構による歯科処置工具15のチャッキング動作について説明する。
図8A~
図8Cは、チャック機構43に歯科処置工具を挿入してチャッキング動作させる様子を段階的に示す説明図である。なお、図示は簡略化しているが、規制リング65については、
図3に示すスリーブ37の内周面に設けた段部38によって挿入方向後方への移動が規制されている。
【0032】
図8Aに示す状態から、
図8Bに示すように、プッシュボタン25の押下によりプッシャ61を歯科処置工具15の反挿入方向へ移動させる。すると、プッシャ61のプッシュ片63の先端が円筒スライド部材45の端面を押圧して、プッシャ61と円筒スライド部材45が、コイルばね41の付勢力に対抗して、反挿入方向へ移動する。これにより、分割可動片47A,47Bと円筒スライド部材45とが離別する。
【0033】
更にプッシュボタン25を押下すると、プッシャ61の反挿入方向の端部が分割可動片47A,47Bに当接して、分割可動片47A,47Bを反挿入方向へ移動させる。これにより、分割可動片47A,47Bは、第三テーパ面55と第四テーパ面59とが摺動して径方向に拡開する。なお、プッシュボタン25の押下動作は、分割可動片47A,47Bの溝壁71と規制リング65とが当接する位置までに制限される。
【0034】
この状態で歯科処置工具15をスリーブ37内へ矢印K方向に挿入し、
図8Cに示すように、歯科処置工具15の先端を分割可動片47A,47Bの内周面に挿入させる。このとき、分割可動片47A,47Bの内周面の端部に形成された切欠き部60に、歯科処置工具15の先端が当接し、分割可動片47A,47Bを押し拡げながら歯科処置工具15が挿入される。この歯科処置工具15の挿入動作に伴う第一テーパ面51と第二テーパ面53との摺動と、第三テーパ面55と第四テーパ面59との摺動とによって、分割可動片47A,47Bの径方向位置が調整される。
【0035】
つまり、歯科処置工具15の先端の外周面が分割可動片47A,47Bの内周側に挿入されると、分割可動片47A,47Bは、歯科処置工具15の外径に応じた径方向位置に配置される。なお、分割可動片47A,47Bは、スリーブ37内で回転可能に配置されているため、歯科処置工具15が挿入された際に、引っ掛かりが生じにくくなっている。
【0036】
図8Dに示すように、歯科処置工具15がスリーブ37内の規定位置まで挿入されると、コイルばね41からの付勢力F1によって、第一テーパ面51と第二テーパ面53との間、及び第三テーパ面55と第四テーパ面59との間のくさび効果によって、分割可動片47A,47Bから歯科処置工具15への締付力Fcが発生する。この締付力Fcにより、歯科処置工具15がスリーブ37内でチャッキングされる。
【0037】
<チャッキングの解除動作>
次に、チャッキングの解除動作について説明する。
図9A~
図9Dは、チャック機構43に挿入された歯科処置工具のチャッキングを解除する動作を段階的に示す説明図である。
図9Aに示す歯科処置工具15がチャッキングされた状態から、
図9Bに示すように、プッシュボタン25の押下によりプッシャ61を歯科処置工具15の反挿入方向へ移動させる。すると、前述したように、プッシャ61と円筒スライド部材45が、コイルばね41の付勢力に対抗して、反挿入方向へ移動して、分割可動片47A,47Bと円筒スライド部材45とが離別する。
【0038】
更にプッシュボタン25を押下すると、
図9Cに示すように、分割可動片47A,47Bが反挿入方向へ移動され、これにより、分割可動片47A,47Bは、第三テーパ面55と第四テーパ面59との摺動によって径方向に拡開する。
【0039】
上記のように分割可動片47A,47Bが径方向に拡開すると、
図9Dに示すように、歯科処置工具15のチャッキングが解除され、歯科処置工具15を引き抜くことができる。
【0040】
つまり、分割可動片47A,47Bの外周面と、円筒スライド部材45の内周面とは、軸方向の勾配を有するテーパ嵌合部を介して当接し、分割可動片47A,47Bと円筒スライド部材45との軸方向への相対移動によって、分割可動片47A,47Bが径方向へ移動して、歯科処置工具15の固定と固定解除とが行われる。
【0041】
<歯科処置工具からの外力の負荷>
歯科用ハンドピースの使用時には、歯科処置工具からの振動、軸方向力がチャック機構に伝播する。その場合でも本構成のチャック機構43は、歯科処置工具15のチャッキングが緩むことなく、確実なチャッキングを維持できる。
【0042】
図10A~
図10Cは、チャック機構43に外力が負荷された場合のチャック機構の動作を段階的に示す説明図である。
図10Aに示す歯科処置工具15をチャッキングした状態から、
図10Bに示すように歯科処置工具15に外力Fvが負荷されると、歯科処置工具15がスリーブ37への挿入方向先方へ押し込められ、円筒固定部材57の第三テーパ面55と分割可動片47A,47Bの第四テーパ面59との面圧が増加する。その結果、分割可動片47A,47Bから歯科処置工具15への締付力Fcが増加して、より強固に歯科処置工具15がチャッキングされる。このときの円筒スライド部材45は、コイルばね41によって分割可動片47A,47Bと当接したまま一体となって移動する。
【0043】
そして、
図10Cに示すように、外力Fvが更に強くなった場合、歯科処置工具15が挿入方向先方へ移動するが、分割可動片47A,47Bの溝壁69が規制リング65に当接するため、これ以上の軸方向移動が規制される。
【0044】
このように、歯科処置工具15に振動、軸方向力が作用した場合でも、チャック機構43は常に歯科処置工具15をチャッキングし続け、チャッキングが緩むことがない。
【0045】
図11は、歯科処置工具15が分割可動片47A,47Bにより挟まれた状態を示す概略断面図である。
前述したテーパ嵌合による締付力Fc(
図8D,
図10B参照)は、分割可動片47Aを介して歯科処置工具15をチャッキングする垂直抗力Fnに変換される。中心角θが大きいほど、垂直抗力Fnは大きくなる。分割可動片47A,47Bの内周面の半径をRs、歯科処置工具15の外周面の半径をR0としたとき、Rs≧R0の場合、周方向端部73における垂直抗力Fnは殆ど0となり、歯科処置工具15のチャック力(食い付き)が弱くなる。そのため、歯科処置工具15を掴む分割可動片47A,47Bの内周面の半径Rsは、歯科処置工具15の外周面の半径R0よりも小さくすることが好ましい。
【0046】
また、分割可動片47A,47Bの周方向長さが延びて円の半周近くになると(
図11に点線で示す分割可動片47Aの位置)、チャッキングに寄与する垂直抗力Fnは増大するものの、分割可動片47Aと分割可動片47Bとが接近し、プッシュ片63(
図4参照)に干渉してしまう。干渉した場合、締付力Fcはプッシュ片63を挟み込む力となり、歯科処置工具15をチャッキングできなくなる。また、歯科処置工具15の外径の大小によって、チャッキング時における分割可動片47A,47Bの位置が大きく変化しやすくなるため、歯科処置工具15の外径の範囲が限定されてしまう。
【0047】
そのため、分割可動片47A,47Bは、歯科処置工具15の外周の内、少なくとも1/6以上、好ましくは1/4以上、より好ましくは1/3以上の周長を露出させる周方向長さに形成するのがよい。即ち、各分割可動片47A,47Bの一対の周方向端部73と、歯科処置工具15の中心Oとを結んだ中心角θは、165°以下が好ましく、152.5°以下がより好ましく、150°以下が更に好ましい。分割可動片47A,47Bを上記範囲にすることで、チャッキングが可能な歯科処置工具15の外径の範囲を拡大できる。
【0048】
また、分割可動片47A,47Bと、円筒スライド部材45及び円筒固定部材57とのテーパ嵌合は、確実なチャッキングとスムーズなチャッキング解除が可能なテーパ角度(スリーブ37の軸線とテーパ面との成す角)に設定する必要がある。プッシュボタン25の押下ストロークを操作性の観点から1mm以下の微少量に留めつつ、十分なチャック力を発生させるためには、テーパ角を好ましくは5°以上、より好ましくは7°以上、更に好ましくは10°以上とする。また、同様の理由でテーパ角度は30°以下が好ましく、より好ましくは20°以下、更に好ましくは15°以下とする。
【0049】
図12、
図13は、第一テーパ面51と第二テーパ面53、及び第三テーパ面55と第四テーパ面59の各テーパ角を異ならせた場合を示す説明図である。
上記した分割可動片47A,47Bは、軸方向中央を通る軸方向垂直面を対称面とする対称形状であり、第一テーパ面51と第二テーパ面53のテーパ角α1と、第三テーパ面55と第四テーパ面59のテーパ角α2とは等しいが、テーパ角はこれに限らない。軸方向垂直面を中心に軸方向の一方と他方の側でテーパ角を互いに異ならせてもよい。
【0050】
図12に示すように、テーパ角α1がテーパ角α2より小さい場合、軸方向に対するテーパ面の傾斜が小さくなり、コイルばね41(
図3)からの付勢力F1を、より大きな垂直抗力Fn1に変換できる。締付力Fc1はFn1の回転軸と直角方向の力の成分であるから、締付力Fc1も大きく出来る。
【0051】
また、
図13に示すように、テーパ角α1がテーパ角α2より大きい場合、軸方向に対するテーパ面の傾斜が大きくなり、垂直抗力Fn1が小さくなるため、テーパ面に発生する摩擦力を低減させることができ、食い付きの発生を抑制できる。
【0052】
なお、分割可動片47A,47Bは、周方向に2分割した構成であるが、分割数はこれに限らない。例えば、周方向に3分割、4分割した構成であってもよい。ただし、分割数の増加に伴って、テーパ嵌合によって1つの分割可動片に生じるチャック力が減少するため、テーパ嵌合による径方向力が小さい場合には分割数を少なくするのが好ましい。
【0053】
以上説明したチャック機構43によれば、分割可動片47A,47Bを二つ割構造にして、それぞれテーパ面を設けることで、くさび効果を生じさせ、コイルばね41による回転軸方向の弱い力を径方向の大きな力に変換できる。また、分割可動片47A,47Bの各両端にテーパ面を設けることで、歯科処置工具15に挿入方向、反挿入方向(抜け方向)の力が加わっても、歯科処置工具15の外周面と分割可動片47A,47Bとが離れることなく、歯科処置工具15が不用意に抜け落ちたり、過剰に挿入されたりすることがない。
【0054】
また、分割可動片47A,47Bは、それぞれ2箇所にテーパ面が設けられており、テーパによる力の方向変換の効果を2倍にでき、テーパ角度を大きくしても、十分な径方向力が得られる。また、歯科処置工具15の着脱不良を招くような食い付きが生じにくくなる。さらに、歯科処置工具15は、その外周面と分割可動片47A,47Bの内周面とが線接触してチャッキングされるため、チャッキングに寄与する領域が広くなる。その結果、摩耗に強く、耐久性の高い構成にできる。そして、チャック機構43は、弾性力が必要な部材と、剛性が必要な部材とが分かれており、それぞれに必要とされる特性の材料を自由に選択でき、設計自由度を向上できる。
【0055】
テーパ面での摺動を生じる摺動部材(分割可動片47A,47B、円筒スライド部材45及び円筒固定部材57)は、弾性付勢部材となるコイルばね41とは別体で形成される。このため、各摺動部材を弾性付勢部材としても機能させる場合と比較して、各摺動部材を、ばね性が低くより高硬度な材料で形成できる。これにより、分割可動片47A,,47B、円筒スライド部材45及び円筒固定部材57の耐摩耗性を更に向上できる
【0056】
また、上記したテーパ嵌合は、分割可動片47A,47B、円筒スライド部材45及び円筒固定部材57のそれぞれにテーパ面を設けているが、互いに嵌合するテーパ面同士のいずれか一方にのみをテーパ面とする構成にしてもよい。そのような片テーパである場合、チャック機構43の構造を簡略化できる。
【0057】
図14は、外周面に第二テーパ面53を有する分割可動片47A,47Bと、内周面に第一テーパ面を有しない円筒スライド部材45を示す概略断面図である。
図14に示すように、円筒スライド部材45に第一テーパ面を設けず、円筒スライド部材45の内周面の端部45aを第二テーパ面52に摺動させる構成にしてもよい。同様に、
図3に示す円筒固定部材57の内周面に第三テーパ面55を設けず、円筒固定部材57の内周面の端部を分割可動片47A,47Bの第四テーパ面59に摺動させる構成にしてもよい。このような場合でも前述したチャッキング動作が可能となる。
【0058】
図15は、外周面に第二テーパ面53を有しない分割可動片47A,47Bと、内周面に第一テーパ面を有する円筒スライド部材45を示す概略断面図である。
図15に示すように、分割可動片47A,47Bに第二テーパ面を設けず、分割可動片47A,47Bの外周面の一方の端部47aを円筒スライド部材45の第一テーパ面51に摺動させる構成にしてもよい。同様に、分割可動片47A,47Bに第四テーパ面を設けず、分割可動片47A,47Bの外周面の他方の端部47bを、
図3に示す円筒固定部材57の内周面の第三テーパ面55に摺動させる構成にしてもよい。このような場合でも前述したチャッキング動作が可能となる。
【0059】
さらに、分割可動片47A,47Bの軸方向のいずれか一方にはテーパ面を設けず、他方にのみテーパ面を設ける等、上記した構成を適宜に組み合わせることもできる。上記した構成は、以下に説明する各変形例についても同様に適用できる。
【0060】
<チャック機構の他の構成例>
(変形例1)
図16は、2分割された円筒固定部材57を有する変形例1のチャック機構43Aの部分断面図である。
このチャック機構43Aの円筒固定部材57は、軸方向に沿って、第三テーパ面55を含む領域のテーパ付き円筒部材57Aと、テーパ付き円筒部材57Aを除いた領域の残部円筒部材57Bとに分割されている。
【0061】
円筒固定部材57の内周面には第三テーパ面55が形成され、この第三テーパ面55は、第四テーパ面59とテーパ嵌合されるために高い加工精度と高い耐摩耗性が要求される。しかし、第三テーパ面55以外の領域については、そのような条件が問われないことが多い。そこで、
図16に示すように、円筒固定部材57を、特に高い加工精度と耐摩耗性が要求される第三テーパ面55を含む領域と、それ以外の領域とに分割するとよい。その場合、例えばテーパ付き円筒部材57Aについては、耐摩耗性の高い材料を高精度に加工して形成し、残部円筒部材57Bについては、比較的安価で加工性の良い材料を用いて形成できる。つまり、円筒固定部材57を、材料コストを抑えつつ、必要な性能を十分に発揮できる無駄の少ない構成にできる。また、テーパ付き円筒部材57Aの軸方向長さが短縮されるため、その加工性を高められる。
【0062】
(変形例2)
図17は、軸方向長さを延長した分割可動片48A,48Bを有する変形例2のチャック機構43Bを示す断面図である。
このチャック機構43Bの分割可動片48A,48Bは、凹溝67から第二テーパ面53までの長さを延長している。この構成によれば、第二テーパ面53の傾斜を小さく設定する際に、テーパ面を形成するためのスペースを確保しやすくなる。これにより、第一テーパ面51と第二テーパ面53との接触面積を広げて面圧を低減し、摩耗を抑制できる構成にできる。また、同様に凹溝67から第四テーパ面59までの長さを延長して、接触面積を広げる構成にしてもよい。
【0063】
(変形例3)
図18は、突起部を分割可動片49A,49Bと一体に形成した変形例3のチャック機構43Cを示す断面図である。
このチャック機構43Cの分割可動片49A,49Bには、第二テーパ面53と第四テーパ面59との間に、周方向に沿って形成され径方向外側に突出する突起部81が形成されている。この突起部81は、円筒スライド部材45と円筒固定部材57との対向し合う一端部と当接可能になっている。また、スリーブ37には、突起部81を有する分割可動片49A,49Bの径方向外側への移動時の干渉を防止する環状の溝部83が形成されている。
【0064】
この構成によれば、前述した規制リング65(
図3)を省略して構造を簡略化しつつ、分割可動片49A,49Bの軸方向への移動を規制できる。
【0065】
(変形例4)
上記した各チャック機構は、更に簡略化した構成にもできる。
図19は、簡略化した変形例4のチャック機構43Dの構成を示す概略断面図である。
チャック機構43Dは、第二テーパ面53を有する分割可動片50A,50Bが、スリーブ37の内周面から径方向内側に突出した突起部75によって軸方向移動が規制されている。その他の構成は、前述したチャック機構43,43A,43Bと同様の構成にできる。
【0066】
分割可動片50A,50Bは、軸方向の一端側に円筒スライド部材45の第一テーパ面51に摺接するテーパ面(第二テーパ面53)を有し、他端側は突起部75に当接する端面77を有している。つまり、前述した第四テーパ面59を有しない構成となっている。
【0067】
突起部75は、スリーブ37の内周面に周方向に連続して形成されていてもよく、周方向に分断された複数の突起であってもよい。突起部75は、分割可動片50A,50Bの各端面77に当接していればよく、分割可動片50A,50Bの軸方向移動を規制するストッパ部49として機能する。
【0068】
このチャック機構43Dによれば、第一テーパ面51と第二テーパ面53とのテーパ嵌合によって歯科処置工具15の確実なチャッキングが行える。しかも、コイルばね41のような柔軟な弾性が必要となる部材と、互いにテーパ嵌合する耐摩耗性に優れた剛性の高い部材とが、それぞれ分かれて構成されるため、それぞれの部材に必要な特性の選択が容易に行える。
【0069】
(変形例5)
図20は、他の簡略化した変形例5のチャック機構43Eの構成を示す概略断面図である。
チャック機構43Eは、軸方向片側のみテーパ面を設けた分割可動片52A,52Bを備え、規制リング65により分割可動片52A,52Bの軸方向移動を規制している。また、円筒固定部材57の規制リング65側の端部は、テーパ面(第三テーパ面55)を有せず、端面が規制リング65に突き当たるようになっている。その他の構成は、
図3に示すチャック機構43と同様である。
【0070】
本構成によれば、変形例4のチャック機構43Dと同様に、第一テーパ面51と第二テーパ面53とのテーパ嵌合によって確実なチャッキングが行え、スリーブ37の加工を簡単化できる。
【0071】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0072】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 歯科処置工具を着脱自在に装着するチャック機構を備え、前記チャック機構に装着された前記歯科処置工具を回転駆動する歯科用ハンドピースであって、
前記チャック機構は、
前記歯科処置工具が挿入されて回転自在に支承された中空円筒状のスリーブと、
前記スリーブ内に、前記スリーブの軸方向へ移動可能に収容される円筒スライド部材と、
前記スリーブ内の互いに異なる周方向位置にそれぞれ配置され、前記円筒スライド部材の内周面に当接する外周面、及び前記スリーブに挿入された前記歯科処置工具の外周面に当接する内周面を有し、前記歯科処置工具を挟み込む複数の分割可動片と、
前記円筒スライド部材を前記歯科処置工具の挿入方向先方に向けて付勢する弾性付勢部材と、
前記スリーブに少なくとも一部が固定され、前記複数の分割可動片の前記挿入方向先方への軸方向移動を規制するストッパ部と、
を備え、
前記複数の分割可動片の外周面と前記円筒スライド部材の内周面とは、少なくとも一方が他方に対して前記軸方向の勾配を有するテーパ嵌合部を介して当接し、前記分割可動片と前記円筒スライド部材との前記軸方向への相対移動によって前記分割可動片が径方向へ移動して、前記歯科処置工具の固定と固定解除とを行う、
歯科用ハンドピース。
この歯科用ハンドピースによれば、分割可動片の軸方向への移動が、テーパ嵌合部によって径方向の移動に変換されて、分割可動片の内周面の径方向位置が変化する。これにより、分割可動片による歯科処置工具のチャッキングとチャッキングの解除が行える。そして、複数の分割可動片の内周面によって歯科処置工具が確実にチャッキングされる。また、歯科処置工具に外力が作用して挿入方向先方に押されても、ストッパ部が歯科処置工具の軸方向移動を規制するため、テーパ嵌合部に緩みが生じることはない。よって、常に安定して歯科処置工具を保持できる。
【0073】
(2) 前記スリーブの直径方向に一対の前記分割可動片が互いに対向して配置されている、(1)に記載の歯科用ハンドピース。
この歯科用ハンドピースによれば、一対の分割可動片が歯科処置工具を直径方向に挟むため、高い締付け力で歯科処置工具をチャッキングできる。
【0074】
(3) 前記円筒スライド部材は、その内周面に前記挿入方向先方に向けて拡径する第一テーパ面を有し、
前記複数の分割可動片は、その外周面に前記第一テーパ面と摺接する第二テーパ面を有する、(1)又は(2)に記載の歯科用ハンドピース。
この歯科用ハンドピースによれば、第一テーパ面と第二テーパ面とのテーパ嵌合により、分割可動片の径方向移動が可能となる。
【0075】
(4) 前記ストッパ部は、
前記複数の分割可動片よりも前記挿入方向先方に配置され、前記挿入方向先方に向けて縮径する第三テーパ面を内周面に有する円筒固定部材と、
前記複数の分割可動片の外周面に設けられ、前記第三テーパ面と摺接する第四テーパ面と、
を含む(3)に記載の歯科用ハンドピース。
この歯科用ハンドピースによれば、第三テーパ面と第四テーパ面とのテーパ嵌合により、分割可動片の軸方向移動が規制されるとともに、径方向移動が可能となる。
【0076】
(5) 前記円筒固定部材は、前記軸方向に沿って、前記第三テーパ面を含む領域のテーパ付き円筒部材と、前記テーパ付き円筒部材を除いた領域の残部円筒部材とに分割されている、(4)に記載の歯科用ハンドピース。
この歯科用ハンドピースによれば、例えば、テーパ付き円筒部材については、耐摩耗性の高い材料を高精度に加工して形成し、残部円筒部材については、比較的安価で加工性の良い材料を用いて形成できる。つまり、円筒固定部材を、材料コストを抑えつつ、必要な性能を十分に発揮できる無駄の少ない構成にできる。また、テーパ付き円筒部材のテーパ面の加工性を高められる。
【0077】
(6) 前記分割可動片は、前記テーパ嵌合部よりも前記挿入方向先方の外周面に、径方向外側に突出する突起部が設けられ、
前記突起部は、前記円筒スライド部材の前記挿入方向先方の端部に当接可能となっている、(1)から(5)のいずれか1つに記載の歯科用ハンドピース。
この歯科用パンドピースによれば、構造がより簡単になる。
【0078】
(7) 前記円筒固定部材の前記挿入方向の後方端部に配置され、前記スリーブに固定された環状の規制リングを備え、
前記分割可動片は、前記第二テーパ面と前記第四テーパ面との間の外径面に凹溝が周方向に沿って形成され、
前記規制リングは、該規制リングの内周面が前記凹溝に挿入される径方向厚さを有し、前記分割可動片の前記軸方向への移動によって前記凹溝の前記挿入方向先方の溝壁又は後方の溝壁と前記規制リングとが当接する、(4)又は(5)に記載の歯科用ハンドピース。
この歯科用ハンドピースによれば、分割可動片の軸方向移動を規制リングによって規制できる。
【0079】
(8) 前記分割可動片、前記円筒スライド部材及び前記円筒固定部材は、前記弾性付勢部材よりも高硬度な材料により構成されている、(4)から(7)のいずれか1つに記載の歯科用ハンドピース。
この歯科用ハンドピースによれば、テーパ面での摺動を生じる分割可動片、円筒スライド部材及び円筒固定部材に対する耐摩耗性を向上できる。
【0080】
(9) 前記スリーブの軸方向断面において、
前記分割可動片の前記第二テーパ面と前記第四テーパ面との少なくとも一方は、前記スリーブの軸線と成すテーパ角が5°以上、30°以下である、(4)から(8)のいずれか1つに記載の歯科用ハンドピース。
この歯科用ハンドピースによれば、テーパ角を適正に設定することで、歯科処置工具の確実なチャッキングとスムーズなチャッキングの解除が可能となる。
【0081】
(10) 前記分割可動片よりも前記挿入方向先方に配置され、前記歯科処置工具を前記チャック機構から取り外す際に押下されるプッシャを備え、
前記プッシャは、前記複数の分割可動片同士の周方向隙間を通じて前記円筒スライド部材に向けて延びるプッシュ片を有し、
前記プッシャが前記歯科処置工具の挿入方向後方に向けて押下されると、前記プッシュ片が前記円筒スライド部材を前記挿入方向後方に押し戻して、前記分割可動片と前記歯科処置工具とのチャッキングが解除される、(1)から(9)のいずれか1つに記載の歯科用ハンドピース。
この歯科用ハンドピースによれば、プッシャが円筒スライド部材を押し戻すことで、テーパ嵌合部の嵌合が外れて、分割可動片が径方向外側に移動する。これにより、歯科処置工具のチャッキングが解除される。
【0082】
(11) 前記分割可動片の内周面の半径は、前記歯科処置工具の外周面の半径よりも小さい、(1)から(10)のいずれか1つに記載の歯科用ハンドピース。
この歯科用ハンドピースによれば、分割可動片の周方向端部が歯科処置工具の外周面に線接触で当接する。これにより、分割可動片の周方向端部が歯科処置工具に弾性的に食い込みやすくなり、歯科処置工具の確実なチャッキングを実現できる。
【0083】
(12) 前記複数の分割可動片は、前記スリーブ内で該スリーブの軸線回りに回転可能に配置されている、(1)から(11)のいずれか1つに記載の歯科用ハンドピース。
この歯科用ハンドピースによれば、分割可動片が回転可能であることで、歯科処置工具の挿入時に引っ掛かりが少なくなり、より円滑なチャッキングが可能とある。
【0084】
(13) 前記弾性付勢部材はコイルばねである、(1)から(12)のいずれか1つに記載の歯科用ハンドピース。
この歯科用ハンドピースによれば、コイルばねの中心軸に沿って歯科処置工具を挿入でき、スリーブ内でスペース効率の高い配置となる。
【0085】
(14) 前記分割可動片は、軸方向中央を通る軸方向垂直面を対称面とする対称形状である、(1)から(13)のいずれか1項に記載の歯科用ハンドピース。
この歯科用ハンドピースによれば、分割可動片の外周面に形成したテーパ嵌合部が、軸方向垂直面を中心に、軸方向の一方と他方の側でそれぞれ同じテーパ角で設けられる。これにより、テーパ嵌合部の摺動がバランス良く円滑となる。また、対称形状であることで、組立時に分割可動片の方向性を気にする必要がなくなり、組立作業性を向上できる。
【符号の説明】
【0086】
11 ヘッド部
13 グリップ部
15 歯科処置工具
21 ヘッドハウジング
23 ヘッドキャップ
25 プッシュボタン
27 付勢ばね
29 カートリッジケース
31A,31B 転がり軸受
33 外輪
35 内輪
37 スリーブ
37a 小径部
37b 大径部
38 段部
39 ローター
41 コイルばね(弾性付勢部材)
43,43A,43B,43C,43D,43E チャック機構
45 円筒スライド部材
47A,47B,48A,48B,49A,49B,50A,50B,52A,52B 分割可動片
49 ストッパ部
51 第一テーパ面
53 第二テーパ面
55 第三テーパ面
57 円筒固定部材
57A テーパ付き円筒部材
57B 残部円筒部材
59 第四テーパ面
60 切欠き部
61 プッシャ
63 プッシュ片
65 規制リング
67 凹溝
69,71 溝壁
73 周方向端部
75 突起部
77 端面
81 突起部
83 溝部
100 歯科用ハンドピース