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特開2023-90685コーティングされた電極を使用した高周波組織アブレーション
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090685
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】コーティングされた電極を使用した高周波組織アブレーション
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/12 20060101AFI20230622BHJP
   A61B 18/14 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
A61B18/12
A61B18/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022201067
(22)【出願日】2022-12-16
(31)【優先権主張番号】63/291,288
(32)【優先日】2021-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】18/058,579
(32)【優先日】2022-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】511099630
【氏名又は名称】バイオセンス・ウエブスター・(イスラエル)・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Biosense Webster (Israel), Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】アサフ・ゴバリ
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・トーマス・ビークラー
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160KK03
4C160KK12
4C160KK24
4C160KK36
4C160KK63
4C160MM33
(57)【要約】
【課題】体内の組織をアブレーションするための装置及び方法を提供すること。
【解決手段】医療デバイスを製造するための方法は、生物学的組織に電気エネルギーを印加する際に使用される金属電極を提供することと、電気エネルギーが印加される周波数を指定することとを含む。金属電極に塗布されるセラミックコーティングの厚さは、指定された周波数における金属電極と組織との間の電気インピーダンスを指定された量だけ低減するように識別される。セラミックコーティングは、識別された厚さまで金属電極上に蒸着され、金属電極は、生物学的組織への適用のためにプローブ上に組み立てられる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療処置のためのシステムであって、
生物学的組織に印加するための指定された周波数で電気エネルギーを発生させるように構成された信号発生器と、
前記生物学的組織に適用されるように構成され、かつ前記信号発生器から前記電気エネルギーを受け取るように結合された金属電極を備えるプローブと、
前記指定された周波数における前記金属電極と前記組織との間の電気インピーダンスを指定された量だけ低減するように選択された厚さを有する、前記金属電極上に配置されたセラミックコーティングと、を備える、システム。
【請求項2】
前記信号発生器が、前記生物学的組織の不可逆的エレクトロポレーションを引き起こすように、前記金属電極に二相性電気パルスを印加するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記プローブが、生体対象の心臓内に挿入するために構成されたカテーテルを備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記指定された周波数が100kHzよりも大きい、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記セラミックコーティングが窒化チタンを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記セラミックコーティングの前記厚さが、100~10,000nmの範囲内である、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記セラミックコーティングが、電気化学蒸着又は物理蒸着のプロセスによって前記金属電極に塗布されたものである、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記セラミックコーティングの前記厚さが、前記金属電極と前記組織との間のベースラインインピーダンスに対して前記電気インピーダンスを少なくとも25%低減するように選択されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
医療デバイスを製造するための方法であって、
生物学的組織に電気エネルギーを印加する際に使用される金属電極を提供することと、
前記電気エネルギーが印加される周波数を指定することと、
前記指定された周波数における前記金属電極と前記組織との間の電気インピーダンスを指定された量だけ低減する、前記金属電極に塗布されるセラミックコーティングの厚さを識別することと、
前記識別された厚さまで前記金属電極上に前記セラミックコーティングを蒸着させることと、
前記生物学的組織への適用のために、前記金属電極をプローブ上に組み立てることと、を含む、方法。
【請求項10】
前記電気エネルギーを印加することが、前記生物学的組織の不可逆的エレクトロポレーションを引き起こすように二相性電気パルスを印加することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記金属電極を組み立てることが、生体対象の心臓内に挿入するためのカテーテルの遠位端部に前記金属電極を固定することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記周波数を指定することが、100kHzを超える周波数を選択することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記セラミックコーティングが窒化チタンを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記厚さを識別することが、100~10,000nmの範囲内で前記厚さを選択することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記セラミックコーティングを蒸着させることが、電気化学蒸着又は物理蒸着のプロセスを前記金属電極に適用することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記厚さを識別することが、前記金属電極と前記組織との間のベースラインインピーダンスに対して前記電気インピーダンスを少なくとも25%低減するように前記セラミックコーティングの前記厚さを選択することを含む、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、侵襲性医療機器及び処置に関し、特に体内の組織をアブレーションするための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不可逆的エレクトロポレーション(IRE)は、強い電界の短パルスを印加して細胞膜内に恒久的、それゆえ致死的なナノ細孔を形成し、それにより細胞恒常性(内部の物理的条件及び化学的条件)を崩壊させる軟組織アブレーション技術である。IRE後の細胞死は、アポトーシス(プログラムされた細胞死)に起因し、他の熱及び放射線ベースのアブレーション技術におけるような壊死(細胞自体の酵素の作用を通じて細胞の破壊をもたらす細胞傷害)に起因しない。IREは、特に、正確さ、並びに細胞外マトリックス、血流、及び神経の保全が重要な領域における腫瘍アブレーションにおいて使用されてもよい。
【0003】
IREはまた、例えば、米国特許出願公開第2021/0161592号明細書に記載されているように、心臓内の組織をアブレーションする際に適用されてもよく、その開示は参照により本明細書に組み込まれる。この参考文献において説明されているように、IREは、主に非熱プロセスであり、組織温度をせいぜい数度、短時間だけ上昇させるはずである。したがって、IREは、組織温度を20℃~70℃上昇させ、加熱により細胞を破壊するRF(高周波)アブレーションとは異なる。IREは、例えばカテーテルの2つの双極電極間に印加される二相性パルス、すなわち正パルスと負パルスとの組み合わせを利用してもよい。IREパルスが心臓組織内に必要なナノ細孔を生成するためには、パルスの電界強度は、心臓細胞については約500V/cmである組織依存閾値Ethを超えなければならない。印加電圧は最大2000Vに到達することができる。二相性IREパルスは、短いパルス幅及び正パルスと負パルスとの間の短い分離を有する2つの電極間に印加される正パルス及び負パルスを含む。
【0004】
アブレーションカテーテル上の電極は、典型的には、金又は白金などの生体適合性金属から作製される。場合によっては、金属電極上にコーティングが塗布される。例えば、米国特許第6,475,214号明細書は、近位端部及び遠位端部と、それらを通って延在する少なくとも1つの内腔とを有する細長い柔軟なカテーテル本体を含むアブレーションカテーテルを記載している。カテーテル本体の遠位端部には、少なくとも約3mmの長さを有する先端電極が装着されている。先端電極は、外面を有する基材と、基材の外面の少なくとも一部の上に塗布された多孔質層とを含み、多孔質層は、金属窒化物、金属酸化物、金属炭化物、金属炭窒化物、炭素、カルボキシ窒化物、又はそれらの組み合わせを含む。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下に記載される本開示の実施例は、IREにおいて使用するための改善された電極、及びそのような電極の製造方法を提供する。
【0006】
医療デバイスを製造するための例示的な方法は、当業者によって理解されるように、様々な順序で実行され、インターリーブステップを含む以下のステップを含むことができる。本方法は、生物学的組織に電気エネルギーを印加する際に使用される金属電極を提供することと、電気エネルギーが印加される周波数を指定することと、指定された周波数における金属電極と組織との間の電気インピーダンスを指定された量だけ低減する、金属電極に塗布されるセラミックコーティングの厚さを識別することと、識別された厚さまで金属電極上にセラミックコーティングを蒸着させることと、生物学的組織への適用のために、金属電極をプローブ上に組み立てることと、を含むことができる。
【0007】
電気エネルギーを印加することは、生物学的組織の不可逆的エレクトロポレーションを引き起こすように二相性電気パルスを印加することを含むことができる。
【0008】
金属電極を組み立てることは、生体対象の心臓内に挿入するためのカテーテルの遠位端部に金属電極を固定することを含むことができる。
【0009】
周波数を指定することは、100kHzを超える周波数を選択することを含むことができる。
【0010】
セラミックコーティングは、窒化チタンを含むことができる。
【0011】
厚さを識別することは、100~10,000nmの範囲内で厚さを選択することを含むことができる。
【0012】
セラミックコーティングを蒸着させることは、電気化学蒸着又は物理蒸着のプロセスを金属電極に適用することを含むことができる。
【0013】
厚さを識別することは、金属電極と組織との間のベースラインインピーダンスに対して電気インピーダンスを少なくとも25%低減するようにセラミックコーティングの厚さを選択することを含むことができる。
【0014】
医療処置のための例示的なシステムは、信号発生器と、プローブと、セラミックコーティングとを含むことができる。信号発生器は、生物学的組織に印加するための指定された周波数で電気エネルギーを発生させるように構成されることができる。プローブは、生物学的組織に適用されるように構成され、信号発生器から電気エネルギーを受け取るように結合された金属電極を含むことができる。セラミックコーティングは、指定された周波数における金属電極と組織との間の電気インピーダンスを指定された量だけ低減するように選択された厚さを有して金属電極上に配置されることができる。
【0015】
信号発生器は、生物学的組織の不可逆的エレクトロポレーションを引き起こすように金属電極に二相性電気パルスを印加するように構成されることができる。
【0016】
プローブは、生体対象の心臓に挿入するように構成されたカテーテルを含むことができる。
【0017】
指定された周波数は、100kHzよりも大きくすることができる。
【0018】
セラミックコーティングは、窒化チタンを含むことができる。
【0019】
セラミックコーティングの厚さは、100~10,000nmの範囲内とすることができる。
【0020】
セラミックコーティングは、電気化学蒸着又は物理蒸着のプロセスによって金属電極に塗布されたものとすることができる。
【0021】
セラミックコーティングの厚さは、金属電極と組織との間のベースラインインピーダンスに対して電気インピーダンスを少なくとも25%低減するように選択されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
以下の本開示の実施例の詳細な説明を図面と一緒に読むことで、本開示のより完全な理解が得られるであろう。
図1】本開示の実施例による、IREアブレーション処置において使用されるシステムの概略図である。
図2A】本開示の実施例による、IREにおいて使用されるカテーテルの遠位端部に展開されたバスケットアセンブリの概略図である。
図2B】本開示の実施例による、図2Aのバスケットアセンブリ上の電極の詳細を示す概略断面図である。
図3】本開示の実施例による、IREアブレーションにおいて使用するためのカテーテルの製造方法を概略的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下の詳細な説明は、図面を参照しながら読まれるべきものであり、異なる図面における同様の要素には同一の番号が付けられている。図面は、必ずしも縮尺どおりとは限らず、選択された実施例を示しており、また本発明の範囲を限定することを意図していない。詳細な説明は、限定ではなく例として本発明の原理を示す。この説明は、当業者が本発明を製造及び使用することを明らかに可能にし、また本発明を実施するための最良の態様であると現在考えられているものを含めて、本発明のいくつかの実施形態、適応例、変形例、代替物及び使用を説明する。
【0024】
本明細書で使用される場合、任意の数値または範囲に対する「約」または「およそ」という用語は、構成要素の一部または集合が本明細書に記載の意図された目的のために機能することを可能にする好適な寸法公差を示す。より具体的には、「約」または「およそ」は、記載された値の±10%の値の範囲を指してもよく、例えば、「約90%」は、81%~99%の値の範囲を指してもよい。
【0025】
本明細書で述べる「患者」、「ホスト」、「ユーザ」、及び「被験者」の組織は、ヒト又は任意の動物の組織とすることができる。動物は、哺乳類、獣医学的動物、家畜動物、又はペット類の動物などを含むがこれらに限定されない、種々のあらゆる該当する種類のものであり得ることを理解するべきである。一例として、動物は、ヒトに類似したある特定の性質を有するように特に選択された実験動物(例えば、ラット、イヌ、ブタ、サルなど)であり得る。被験者は、例えば、あらゆる該当するヒト患者でよいことを理解するべきである。
【0026】
本明細書で論じられるように、「医師」は、医者、外科医、技術者、科学者、又は本明細書に開示される治療のための多電極カテーテルの送達に関連する任意の他の個人又は送達器具を含むことができる。
【0027】
本明細書で論じられるように、本開示のデバイス及び対応するシステムに関する「アブレーションする」又は「アブレーション」という用語は、不可逆的エレクトロポレーション(IRE)などの非熱エネルギーを利用することによってセル内の不規則な心臓信号の生成を低減又は防止するように構成された構成要素及び構造的特徴を指す。本開示のデバイス及び対応するシステムに関するアブレーションすること又はアブレーションは、不整脈、心房粗動アブレーション、肺静脈隔離、上室頻脈アブレーション、及び心室性頻脈アブレーションを含むがこれらに限定されない特定の状態の心臓組織のアブレーションを参照して、本開示全体を通して使用される。「アブレーションする」又は「アブレーション」という用語はまた、当業者によって理解されるように、様々な形態の身体組織アブレーションを達成するための既知の方法、デバイス、及びシステムを含む。
【0028】
本明細書で論じられるように、「双極」及び「単極」という用語は、アブレーションスキームを指すために使用される場合、電流経路及び電界分布に関して異なるIREアブレーションスキームを説明する。「双極」とは、双方とも治療部位に位置付けられた2つの電極間の電流経路を利用するIREアブレーションスキームを指す。電流密度及び電束密度は、典型的には、2つの電極の各々でほぼ等しい。「単極」とは、2つの電極間の電流経路を利用するIREアブレーションスキームを指し、ここで、高電流密度及び高電束密度を有する1つの電極が治療部位に位置付けられ、比較的低い電流密度及びより低い電束密度を有する第2の電極が、治療部位から遠隔に位置付けられる。
【0029】
本明細書で論じられるように、「二相性パルス」及び「単相性パルス」という用語は、それぞれの電気信号を指す。「二相性パルス」とは、正電圧相パルス(本明細書では「正相」と称される)及び負電圧相パルス(本明細書では「負相」と称される)を有する電気信号を指す。「単相性パルス」は、正相のみ又は負相のみを有する電気信号を指す。好ましくは、二相性パルスを提供するシステムは、直流電圧(direct current voltage、DC)の患者への適用を防止するように構成されている。例えば、二相性パルスの平均電圧は、地面又は他の共通基準電圧に対してゼロボルトであり得る。追加的又は代替的に、システムは、コンデンサ又は他の保護構成要素を含むことができる。二相性パルス及び/又は単相性パルスの電圧振幅が本明細書に記載されている場合、発現された電圧振幅は、正電圧相及び/又は負電圧相の各々の近似ピーク振幅の絶対値であることが理解される。二相性パルス及び単相性パルスの各相は、好ましくは、相持続時間の大部分中に本質的に一定の電圧振幅を有する正方形を有する。二相性パルスの相は、相間遅延によって時間的に分離される。相間遅延持続時間は、好ましくは、二相性パルスの相の持続時間未満であるか、又はその持続時間にほぼ等しい。相間遅延持続時間は、より好ましくは、二相性パルスの相の持続時間の約25%である。
【0030】
本明細書で論じられるように、「チューブ状」及び「チューブ」という用語は、広義に解釈されるものとし、直円柱構造、若しくは断面が厳密に円形である構造、又はその長さ全体にわたって均一な断面である構造に限定されるものではない。例えば、チューブ状構造は、概して、実質的な直円柱構造として例解される。しかしながら、チューブ状構造は、本開示の範囲から逸脱することなく、テーパ状又は湾曲した外面を有してもよい。
【0031】
上記で説明したように、IREは、熱プロセスではなく、高周波で標的組織に高電圧を印加することを含む電気プロセスである。IREプロセスの有効性は、インピーダンスの抵抗成分及び反応成分の双方を含む、電極と組織との間のインピーダンスに敏感である。組織へのエネルギーの送達を最適化し、組織の加熱を低減するために、IREパルス周波数でのインピーダンスは最小にされる必要がある。
【0032】
本明細書に記載の開示の例は、窒化チタンなどの適切なセラミック材料の薄層によってアブレーション電極をコーティングすることによってこの必要性に対処する。(窒化チタンを含む特定のセラミックの薄膜は、低い電気抵抗率を有する。)コーティングの厚さは、その周波数での電極のインピーダンスを最小にするように、印加されるIREパルスの周波数に従って選択される。
【0033】
したがって、本開示の実施例は、1つ以上の金属電極がプローブ上に組み立てられた、心臓内カテーテルなどの生物学的組織に適用するためのプローブを備える医療デバイスを製造する方法を提供する。デバイスによって組織に電気エネルギーが印加される周波数、例えばIREについての100kHzを超えるパルス周波数が指定される。金属電極に塗布されるセラミックコーティングの厚さは、ベースライン電気インピーダンス、すなわちコーティングされていない金属電極と組織との間のインピーダンスに対して、指定された量、例えば25%だけ、指定された周波数で電極と組織との間の電気出力インピーダンスを低減するように選択されている。所望のコーティング厚さは、第1の原理から計算されてもよく、代替的又は追加的に、実験的試験によって経験的に見出されてもよい。次いで、識別された厚さまで金属電極上にセラミックコーティングが塗布される。コーティングは、任意の適切なプロセス、例えば電気化学蒸着又は物理蒸着(PVD)によって、典型的には100~10,000nmの間の厚さに塗布されてもよい。
【0034】
以下に説明する例は、IREによる心筋組織のアブレーションを特に対象としているが、本開示の原理は、高電気周波数及び高電圧を含む他の治療のための電極、並びに検知に使用される電極のコーティングにも同様に適用可能である。
【0035】
図1は、本開示の実施例による、IREアブレーション処置において使用されるシステム20の概略図である。システム20の要素は、例えば、Biosense Webster Inc.(Irvine,California)製のCARTO(登録商標)システムの構成要素に基づくものであってよい。
【0036】
医師30は、患者28の血管系を通してカテーテル22を患者の心臓26の室の中へとナビゲートし、次いで、カテーテル22の遠位端部にバスケットアセンブリ40(図2Aに詳細に示される)を配備する。バスケットアセンブリ40の近位端部は挿入チューブ25の遠位端部に接続され、これを医師30が、カテーテル22の近位端部の近くでマニピュレータ32を使用して操縦する。バスケットアセンブリ40は、シース23を通って折り畳み構成で挿入され、これは、患者28の血管系を通って、IRE処置が実行される心腔に入り、次いでシースから展開され、心腔内で拡張することが可能にされる。カテーテル22は、その近位端部において制御コンソール24に接続される。コンソール24上のディスプレイ27は、IREアブレーション処置の目標位置にバスケットアセンブリを位置決めする際に医師30を支援するために、バスケットアセンブリ40の位置を示すアイコンと共に、心腔のマップ31又は他の画像を提示してもよい。
【0037】
システム20は、患者28に皮膚接触するように配置された1つ以上の電極パッチ39を含むことができる。電極パッチ39は、バスケットアセンブリ40の電極のインピーダンスに基づく追跡を提供してもよい。インピーダンスベースの位置追跡技術の詳細は、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第7,536,218号明細書、米国特許第7,756,576号明細書、米国特許第7,848,787号明細書、米国特許第7,869,865号明細書、及び米国特許第8,456,182号明細書に記載されている。追加的又は代替的に、カテーテル22及び/又はシース23は、患者28内のカテーテル22及び/又はシース23の遠位端部の位置を決定するように構成された磁気ベースのナビゲーションセンサを含んでもよい。磁気ベースの位置検知技術の詳細は、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第5,391,199号明細書、米国特許第5,443,489号明細書、米国特許第5,558,091号明細書、米国特許第6,172,499号明細書、米国特許第6,239,724号明細書、米国特許第6,332,089号明細書、米国特許第6,484,118号明細書、米国特許第6,618,612号明細書、米国特許第6,690,963号明細書、米国特許第6,788,967号明細書、及び米国特許第6,892,091号明細書に記載されている。
【0038】
バスケットアセンブリ40が心臓26内に適切に展開されて位置決めされると、医師30は、プロセッサ36の制御下で、IREパルスのシーケンスをバスケットアセンブリ上の電極に印加するためにコンソール24内の電気信号発生器38を作動させる。IREパルスは、典型的には、二相性であり、バスケットアセンブリ40上の電極の対の間に双極モードで印加される。追加的又は代替的に、パルスは、バスケットアセンブリ40上の電極と、患者の皮膚に適用される別個の共通電極、例えば導電性バックパッチ52との間に印加されてもよい。
【0039】
IREを実行するために、電気信号発生器38は、典型的には、少なくとも200Vの振幅を有するパルスのシーケンスを電極に印加し、各パルスの持続時間は、20μs未満である。典型的には、パルスは、少なくとも100kHzの周波数を含む。パルスのシーケンスは、二相対のパルスを含み、これは、各対が正パルス及び負パルスを含むことを意味する。(「正」及び「負」という用語は、パルスの対向する電気極性を示すために任意に使用される。)IREパルス周波数は、IRE電気信号内のパルスが送達される周波数である。二相性パルスの場合、IRE周波数は、正及び負のパルスの各対が送達される周波数によって画定される。パルス列内で送達される二相性パルスの場合、IREパルス周波数は、パルス列内の二相性パルスの周期の逆数に等しい。この種のIREパルスシーケンスを出力することができる一方で、異なる対の電極間で迅速に切り替えることができる電気信号発生器は、例えば、参照により本明細書に組み込まれる上述した米国特許出願公開第2021/0161592号明細書に記載されている。IREを含む様々なシステム及びアブレーション方法の例は、その各々の全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許出願公開第2021/0169550号明細書、米国特許出願公開第2021/0169567号明細書、米国特許出願公開第2021/0169568号明細書、米国特許出願公開第2021/0196372号明細書、米国特許出願公開第2021/0177503号明細書、米国特許出願公開第2021/0186604号明細書に提示されている。
【0040】
プロセッサ36は、所定のプロトコルに従って電極を切り替えてパルスを印加するように電気信号発生器38に指示する。医師30は、コンソール24上の制御装置を使用して適用するプロトコルを選択することができる。例えば、医師又は助手は、プロセッサ36と相互作用するためにコンソール24上のディスプレイ27のタッチスクリーン機能を使用することができる。代替的又は追加的に、医師又は助手は、パルスパラメータ及び電極を手動で選択するために制御装置を操作してもよい。
【0041】
図1に示されるシステム構成は、本開示の実施例の動作を理解する際に概念を明確にするための例として提示されるものである。簡単にするために、図1は、これらの例に関連するシステム20の特定の要素のみを示している。システムの残りの要素は、本開示の原理が、他の構成要素を使用して、他の医療治療システムにおいて実施され得ることは、当業者であれば同様に理解するであろうことは明らかであろう。全てのこのような代替的な実装は、本開示の範囲内であると考えられる。
【0042】
図2Aは、本開示の実施例によるバスケットアセンブリ40の概略図である。バスケットアセンブリ40は、複数の弾性スパイン44を備え、電極42がスパイン上に配置されている。図示の例では、軸方向電極50は、バスケットの先端、すなわちバスケットアセンブリの遠位端部に配置されている。電極42及び50は、挿入チューブ25を通ってカテーテル22の近位端部まで延びるワイヤ(図示せず)に接続され、そこで電極は、コンソール24内の適切な回路に、具体的には電気信号発生器38に接続する。
【0043】
スパイン44は、典型的には、例えば、適切な弾性金属又はプラスチック材料を含み、バスケットアセンブリ40がシース23から心腔に展開されると半径方向外側に曲がる。バスケットアセンブリ40は、8つのスパイン44を備えるものとして示されているが、代替実施例では、バスケットアセンブリは、より多数又はより少数のスパインを備えてもよい。更に代替的に、電極42は、カテーテルの遠位端部の他の種類の構造、並びにカテーテル挿入チューブ自体の遠位部分に展開されてもよい。いずれの場合も、医師30は、アブレーションされる標的位置で電極42及び50が心筋組織と接触するようにカテーテル22を操作し、次いで電気信号発生器38を作動させて、指定された周波数で組織に電気エネルギーを印加する。
【0044】
図2Bは、本開示の実施例による、電極42のうちの1つの詳細を示す概略断面図である。電極42は、金又は白金などの適切な生体適合性金属を含む金属本体46を備える。図示の例では、金属本体46は、スパイン44上に嵌合し、バスケットアセンブリ40の中心から外向きに突出する非対称プロファイルを有する管腔を含む。しかしながら、この特定の形状は例として示されており、本開示の例では任意の適切な形状の電極が使用されてもよい。
【0045】
金属本体46の外表面には、セラミック薄膜48が蒸着されている。例えば、いくつかの実施形態では、膜48は、窒化チタン(TiN)を含み、これは、100~10,000nmの間の厚さに蒸着される。代替的に、他の導電性セラミック材料、例えば、指定された周波数及び他の適用要件に応じて、100~10,000nmの間の厚さを有する酸化イリジウム(IrOx)が使用されてもよい。
【0046】
図3は、本開示の実施例による、IREアブレーションにおいて使用するためのカテーテルの製造方法を概略的に示すフローチャートである。本方法は、図1図2A、及び図2Bに示すように、システム20の要素を参照して、便宜上及び明確にするために説明される。しかしながら、本発明の原理は、他の種類の電極及び医療用プローブを製造する際にも同様に適用されてもよい。
【0047】
電極42の特性は、金属電極画定ステップ60において画定される。画定は、例えば、電極の金属本体46に使用される金属材料の種類、電極の幾何学的形状及び寸法を含む。周波数指定ステップ62において、電極が使用されるアブレーション周波数が選択される。
【0048】
セラミック膜48などの金属本体46に塗布されるセラミックコーティングの厚さは、膜厚選択ステップ64において選択される。コーティング厚さは、ステップ62において選択された周波数におけるインピーダンスを低減するように選択されている。例えば、厚さは、コーティングされていない金属本体のインピーダンスに対して25%などの所望の低減をもたらすように選択される。代替的に、最適な厚さは、試行錯誤のプログラム、例えば異なるそれぞれの厚さの膜48を有する複数の電極を製造し、続いてステップ62において指定された周波数でそれらのインピーダンスを測定するために電極を試験することによって選択されてもよい。
【0049】
コーティング厚さが選択されると、電極コーティングステップ66において、電極42の金属本体46は、選択された厚さまで、TiNなどのセラミック材料によってコーティングされる。この目的のために、任意の適切な薄膜蒸着プロセス、例えば電気化学蒸着又は物理蒸着(PVD)が使用されることができる。
【0050】
電極42が膜48によってコーティングされた後、電極アセンブリステップ68において、電極はカテーテル上、例えばカテーテル22の遠位端部におけるバスケットアセンブリ40上に組み立てられる。カテーテルアセンブリが完成すると、システム20において使用されることができ、アブレーション周波数は、ステップ62において選択された周波数に調整される。代替的に、コーティングされていない電極がカテーテル上に組み立てられてもよく、次いで、組み立て後にマスクを用いて電気化学蒸着又はPVDを使用して電極がコーティングされてもよい。
【0051】
上述した実施例は例として引用したものであり、本発明は、上記で特に図示及び説明されたものに限定されないことが理解されるであろう。むしろ、本開示の範囲は、本明細書の上記した様々な特徴の組み合わせ及び部分的組み合わせの両方、並びに前述の記載を読むと当業者に着想されるであろう、先行技術に開示されていないその変形及び修正を含む。
【0052】
〔実施の態様〕
(1) 医療デバイスを製造するための方法であって、
生物学的組織に電気エネルギーを印加する際に使用される金属電極を提供することと、
前記電気エネルギーが印加される周波数を指定することと、
前記指定された周波数における前記金属電極と前記組織との間の電気インピーダンスを指定された量だけ低減する、前記金属電極に塗布されるセラミックコーティングの厚さを識別することと、
前記識別された厚さまで前記金属電極上に前記セラミックコーティングを蒸着させることと、
前記生物学的組織への適用のために、前記金属電極をプローブ上に組み立てることと、を含む、方法。
(2) 前記電気エネルギーを印加することが、前記生物学的組織の不可逆的エレクトロポレーションを引き起こすように二相性電気パルスを印加することを含む、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記金属電極を組み立てることが、生体対象の心臓内に挿入するためのカテーテルの遠位端部に前記金属電極を固定することを含む、実施態様1に記載の方法。
(4) 前記周波数を指定することが、100kHzを超える周波数を選択することを含む、実施態様1に記載の方法。
(5) 前記セラミックコーティングが窒化チタンを含む、実施態様1に記載の方法。
【0053】
(6) 前記厚さを識別することが、100~10,000nmの範囲内で前記厚さを選択することを含む、実施態様1に記載の方法。
(7) 前記セラミックコーティングを蒸着させることが、電気化学蒸着又は物理蒸着のプロセスを前記金属電極に適用することを含む、実施態様1に記載の方法。
(8) 前記厚さを識別することが、前記金属電極と前記組織との間のベースラインインピーダンスに対して前記電気インピーダンスを少なくとも25%低減するように前記セラミックコーティングの前記厚さを選択することを含む、実施態様1に記載の方法。
(9) 医療処置のためのシステムであって、
生物学的組織に印加するための指定された周波数で電気エネルギーを発生させるように構成された信号発生器と、
前記生物学的組織に適用されるように構成され、かつ前記信号発生器から前記電気エネルギーを受け取るように結合された金属電極を備えるプローブと、
前記指定された周波数における前記金属電極と前記組織との間の電気インピーダンスを指定された量だけ低減するように選択された厚さを有する、前記金属電極上に配置されたセラミックコーティングと、を備える、システム。
(10) 前記信号発生器が、前記生物学的組織の不可逆的エレクトロポレーションを引き起こすように、前記金属電極に二相性電気パルスを印加するように構成されている、実施態様9に記載のシステム。
【0054】
(11) 前記プローブが、生体対象の心臓内に挿入するために構成されたカテーテルを備える、実施態様9に記載のシステム。
(12) 前記指定された周波数が100kHzよりも大きい、実施態様9に記載のシステム。
(13) 前記セラミックコーティングが窒化チタンを含む、実施態様9に記載のシステム。
(14) 前記セラミックコーティングの前記厚さが、100~10,000nmの範囲内である、実施態様9に記載のシステム。
(15) 前記セラミックコーティングが、電気化学蒸着又は物理蒸着のプロセスによって前記金属電極に塗布されたものである、実施態様9に記載のシステム。
【0055】
(16) 前記セラミックコーティングの前記厚さが、前記金属電極と前記組織との間のベースラインインピーダンスに対して前記電気インピーダンスを少なくとも25%低減するように選択されている、実施態様9に記載のシステム。
図1
図2A
図2B
図3
【外国語明細書】