(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009069
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】合成ダイヤモンド材料
(51)【国際特許分類】
C23C 16/27 20060101AFI20230112BHJP
C30B 29/04 20060101ALI20230112BHJP
C23C 16/04 20060101ALI20230112BHJP
C30B 25/20 20060101ALI20230112BHJP
C30B 23/04 20060101ALI20230112BHJP
C01B 32/26 20170101ALI20230112BHJP
【FI】
C23C16/27
C30B29/04
C23C16/04
C30B25/20
C30B23/04
C01B32/26
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022168174
(22)【出願日】2022-10-20
(62)【分割の表示】P 2020540794の分割
【原出願日】2019-01-24
(31)【優先権主張番号】1801288.0
(32)【優先日】2018-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】514233369
【氏名又は名称】エレメント シックス テクノロジーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】マーカム マシュー リー
(72)【発明者】
【氏名】エドモンズ アンドリュー マーク
【テーマコード(参考)】
4G077
4G146
4K030
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB01
4G077BA03
4G077DB07
4G077EB01
4G077ED04
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4K030AA10
4K030AA17
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4K030JA01
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4K030JA06
4K030JA09
4K030JA10
4K030JA11
4K030JA16
(57)【要約】
【課題】様々な種類のダイヤモンド材料が、磁気測定用途のために提案されてきたが、本発明の実施形態の目的は、新規の検知用途のためのダイヤモンド材料を最適化することである。
【解決手段】合成ダイヤモンド材料は、表面を含み、表面は、第1の量子スピン欠陥濃度を含む、第1の表面領域を含む。第2の表面領域は、所定の範囲を有し、第1の表面領域に隣接して配置され、第2の領域は、第2の量子スピン欠陥濃度を含む。第1の量子スピン欠陥濃度は、第2の量子スピン欠陥濃度よりも少なくとも10倍高く、第1の表面領域または第2の表面領域のうちの少なくとも一方は、化学蒸着、CVD、合成ダイヤモンドを含む。合成ダイヤモンド材料を製造する方法も開示される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面を含む合成ダイヤモンド材料であって、表面が、
第1の量子スピン欠陥濃度を含む、第1の表面領域、
所定の範囲を有し、第1の表面領域に隣接して配置された、第2の量子スピン欠陥濃度を含む、第2の表面領域であって、第1の量子スピン欠陥濃度が、第2の量子スピン欠陥濃度よりも少なくとも10倍高い、第2の表面領域
を含み、
第1の表面領域または第2の表面領域のうちの少なくとも一方が、化学蒸着、CVD、合成ダイヤモンドを含む、合成ダイヤモンド材料。
【請求項2】
量子スピン欠陥が、
ケイ素含有欠陥、
ニッケル含有欠陥、
クロム含有欠陥、
ゲルマニウム含有欠陥、
スズ含有欠陥、および
窒素含有欠陥
のいずれかから選択される、請求項1に記載の合成ダイヤモンド材料。
【請求項3】
量子スピン欠陥が、負電荷を帯びた窒素空孔欠陥NV-である、請求項1に記載の合成ダイヤモンド材料。
【請求項4】
第1の量子スピン欠陥濃度が、第2の量子スピン欠陥濃度よりも少なくとも100倍高い、請求項1~3のいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
【請求項5】
表面が、実質的に平坦な表面である、請求項1~4のいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
【請求項6】
第1の量子スピン欠陥濃度が、1x1013欠陥/cm3、1x1014欠陥/cm3、1x1015欠陥/cm3、1x1016欠陥/cm3、1x1017欠陥/cm3、1x1018欠陥/cm3と等しいか、またはそれらよりもより高い、請求項1~5のいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
【請求項7】
第1の表面領域の量子スピン欠陥濃度が、4x1018欠陥/cm3、2x1018欠陥/cm3、1x1018欠陥/cm3、1x1017欠陥/cm3、または1x1016欠陥/cm3と等しいか、またはそれらよりもより低い、請求項1~6のいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
【請求項8】
量子スピン欠陥が、0.01ms、0.05ms、0.1ms、0.3ms、0.6ms、1ms、5ms、または15msと等しいか、またはそれらよりもより長い、ハーンエコーデコヒーレンス時間T2を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
【請求項9】
複数の第1の表面領域をさらに含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
【請求項10】
平坦な前面の下の、第1の領域の深さが、100nm~100μmである、請求項1~9のいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
【請求項11】
表面が、ホウ素を含む第3の表面領域をさらに含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
【請求項12】
第2の表面領域が、第1の表面領域を取り囲んでいる、請求項1~11のいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料を製造する方法であって、
前面を有する合成ダイヤモンド基材を用意するステップ、
化学蒸着法を用いて、単結晶ダイヤモンド基材の前面上に、さらなるダイヤモンド材料を成長させるステップ、
合成ダイヤモンド基材の前面を処理して、ダイヤモンド基材材料の第2の表面領域に隣接した、さらなるダイヤモンド材料の第1の表面領域を有する検知表面を形成するステップであり、さらなるダイヤモンド材料の量子スピン欠陥濃度が、合成ダイヤモンド基材材料の量子スピン欠陥よりも少なくとも10倍高い、形成するステップ
を含む、方法。
【請求項14】
ダイヤモンド基材の前面に、少なくとも1個の凹部を形成するステップ、
凹部において、さらなるダイヤモンド材料を成長させるステップ、
さらなるダイヤモンド材料を処理して、検知表面を形成するステップ
を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
エッチング、マスクエッチング、研削、および研磨のいずれかによって、凹部を形成するステップを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
100nm~100μmの深さを有する凹部を形成するステップを含む、請求項14または請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前面上に、少なくとも1個の開口部を有するマスクを配置するステップ、
前面上で、選択された範囲でさらなるダイヤモンド材料を成長させるように、マスク上に、さらなるダイヤモンド材料を成長させるステップ、
マスクを取り除くステップ、
前面上に、第2のさらなるダイヤモンド材料を成長させるステップ、および
合成ダイヤモンド基材の前面上の第2のさらなるダイヤモンド材料を再び処理して、検知表面を形成するステップ
を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
量子スピン欠陥が、
ケイ素含有欠陥、
ニッケル含有欠陥、
クロム含有欠陥、
ゲルマニウム含有欠陥、
スズ含有欠陥、および
窒素含有欠陥
のいずれかから選択される、請求項13~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
量子スピン欠陥が、負電荷を帯びた窒素空孔欠陥NV-である、請求項13~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
処理するステップが、照射するステップおよびアニールするステップのいずれかを含む、請求項13~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
流体試料を受けるためのマイクロ流体チャンネル、および
マイクロ流体チャンネルに隣接して配置されたセンサー
を含むマイクロ流体セルであって、
センサーが、請求項1~12のいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料を含む、マイクロ流体セル。
【請求項22】
請求項1~12のいずれか1項に記載の合成ダイヤモンド材料を含む磁気測定検知プローブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成ダイヤモンド材料の分野、および合成ダイヤモンド材料を製造する方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
合成ダイヤモンド材料における点欠陥、特に、量子スピン欠陥、および/または、光学活性欠陥は、磁力計、スピン共鳴装置、例えば、核磁気共鳴(NMR)装置および電子スピン共鳴(ESR)装置、磁気共鳴イメージング(MRI)用のスピン共鳴イメージング装置、ならびに例えば、量子計算用の量子情報処理装置を含む、様々な検知用途、検出用途、および量子処理用途において使用するために提案されてきた。
ケイ素空孔欠陥(Si-V)、ケイ素複空孔欠陥(Si-V2)、ケイ素空孔水素欠陥(Si-V:H)、ケイ素複空孔水素欠陥(S-V2:H)などのケイ素含有欠陥、ニッケル含有欠陥、クロム含有欠陥、ならびに窒素空孔欠陥(N-V)、二窒素空孔欠陥(N-V-N)、および窒素空孔水素欠陥(N-V-H)などの窒素含有欠陥を含む、多くの点欠陥が、合成ダイヤモンド材料において研究されてきた。これらの欠陥は、典型的には、中性電荷状態において、または負電荷状態において認められる。これらの点欠陥が、2個以上の結晶格子点にわたって拡張することも留意されたい。本明細書における用語、点欠陥は、こうした欠陥を含むが、10個以上の格子点にわたって拡張するものなどの、より大きなクラスター欠陥、または多くの格子点にわたって拡張することがある転位などの拡張欠陥は含まないことが意図される。
【0003】
ある種の欠陥は、その負電荷状態にあるとき、検知用途、検出用途、および量子処理用途において、特に有用であることが明らかになった。例えば、合成ダイヤモンド材料における、負電荷を帯びた窒素空孔欠陥(NV-)は、有用な量子スピン欠陥として多くの興味を引きつけてきた。というのは、幾つかの望ましい特徴:
(i)室温での長いコヒーレンス時間(横緩和時間T2および/またはT2
*を用いて、定量化し、比較することができる)のために、その電子スピン状態を高い忠実度で、コヒーレントに操作することができる
(ii)その電子構造により、欠陥を、その電子基底状態に光ポンピングすることができ、こうした欠陥を、非極低温でさえも、特定の電子スピン状態に置くことができる。これにより、小型化が望ましい、ある種の用途について、高価かつ嵩張る極低温冷却設備の必要性をなくすことができる。さらに、欠陥は、全てが同じスピン状態を有する光子の源として機能することができる、および
(iii)その電子構造は、欠陥の電子スピン状態を、光子を介して読み出すことができる、発光性および非発光性の電子スピン状態を含む。これは、磁力計、スピン共鳴分光、およびイメージングなどの検知用途で用いられる合成ダイヤモンド材料から情報を読み出すのに好都合である。さらに、それは、長距離量子通信および拡張可能な量子計算のための量子ビットとして、NV-欠陥を用いることに対する重要な要素である。こうした結果により、NV-欠陥は、固体状態量子情報処理(QIP)のための競合的候補となる
を有するからである。
【0004】
ダイヤモンド中のNV-欠陥は、炭素空孔に隣接した置換型窒素原子で構成される。その2個の不対電子は、電子基底状態においてスピン三重項(3A)を形成し、縮退したms=±1副準位は、ms=0準位から2.87GHz離れている。ms=0副準位は、光ポンピングされるとき、高い蛍光率を示す。対照的に、欠陥が、ms=±1準位において励起されるとき、非放射一重項状態(1A)にクロスオーバーし、引き続いて緩和してms=0になる確率がより高くなる。結果として、スピン状態を光学的に読み出すことができ、ms=0状態は「明るく」、ms=±1状態は「暗い」。外部磁場を加える場合、スピン副準位ms=±1の縮退がゼーマン分裂により壊される。これにより、加えられた磁場の大きさおよびその方向に応じて、共鳴線の分裂が生じる。全ての、4つの可能なNVアライメントが、試料の、励起および検出の領域に存在する場合、この依存性を、ベクトル磁気測定に用いることができる。というのは、マイクロ波(MW)周波数を掃引し、その結果、光学検出磁気共鳴(ODMR)スペクトルに特有のディップをもたらすことによって、共鳴スピン遷移を探ることができるからである。
【0005】
合成ダイヤモンド材料のNV-欠陥は、以下の、幾つかの異なる方法:
(i)成長中に、窒素空孔対として窒素原子および空孔が結晶格子に組み込まれる、合成ダイヤモンド材料の成長中に形成すること
(ii)ある温度(約800℃)で、材料を成長後にアニールし、それによって、結晶格子を通じた空孔欠陥の移動を生じて、天然の単一の置換型窒素欠陥と対にすることによって、ダイヤモンド材料合成後に、成長過程中に組み込まれた、天然の窒素および空孔欠陥から形成すること
(iii)電子または中性子で合成ダイヤモンド材料を照射して、空孔欠陥を導入し、引き続いて、ある温度で材料をアニールし、それによって、結晶格子を通じた空孔欠陥の移動を生じて、天然の単一の置換型窒素欠陥と対にすることによって、ダイヤモンド材料合成後に、成長過程中に組み込まれた、天然の窒素欠陥から形成すること
(iv)ダイヤモンド材料合成後の合成ダイヤモンド材料へ窒素欠陥を埋め込み、次いで、ある温度で材料をアニールし、それによって、結晶格子を通じた天然の空孔欠陥の移動を生じて、埋め込まれた単一の置換型窒素欠陥と対にすることによって、ダイヤモンド材料合成後に形成すること
(v)合成ダイヤモンド材料を照射して、空孔欠陥を導入し、照射前または照射後の、合成ダイヤモンド材料へ窒素欠陥を埋め込み、ある温度で材料をアニールし、それによって、結晶格子を通じた空孔欠陥の移動を生じて、埋め込まれた単一の置換型窒素欠陥と対にすることによって、ダイヤモンド材料合成後に形成すること
において形成することができる。
【0006】
先行技術において、多様な種類の磁気測定用途において使用するための、多様な種類のダイヤモンド材料が開示されてきた:
磁気測定用途のための高圧高温(HPHT)ダイヤモンド材料の物性が論述された、Acosta et al., Phys. Rev. B80, 115202
磁気測定などの用途のための、低い窒素含有量の、単結晶化学蒸着(CVD)ダイヤモンド材料が開示された、国際公開第2010/010352号および国際公開第2010/010344号
磁気測定などの用途のための、照射され、アニールされた、単結晶CVDダイヤモンド材料が開示された、国際公開第2010/149775号。
【発明の概要】
【0007】
様々な種類のダイヤモンド材料が、磁気測定用途のために提案されてきたが、本発明の実施形態の目的は、新規の検知用途のためのダイヤモンド材料を最適化することである。
第1の態様によれば、表面を含む合成ダイヤモンド材料であって、表面が、第1の量子スピン欠陥濃度を含む、第1の表面領域を含む、合成ダイヤモンド材料が提供される。第2の表面領域は、所定の範囲を有し、第1の表面領域に隣接して配置され、第2の領域が、第2の量子スピン欠陥濃度を含む。第1の量子スピン欠陥濃度は、第2の量子スピン欠陥濃度よりも少なくとも10倍高く、第1の表面領域または第2の表面領域のうちの少なくとも一方は、化学蒸着、CVD、合成ダイヤモンドを含む。
様々な種類の量子スピン欠陥を、合成ダイヤモンド材料中に工学的に作り出すことができる。ダイヤモンド中の量子スピン欠陥の例には、任意の、ケイ素、ニッケル、クロム、ゲルマニウム、スズ、および窒素のいずれかを含有する欠陥が挙げられる。これらの一部は、負に帯電しても、中性であっても、または正に帯電してもよい。
一選択肢として、量子スピン欠陥は、負電荷を帯びた窒素空孔欠陥NV-である。
第1の量子スピン欠陥濃度は、第2の量子スピン欠陥濃度よりも少なくとも100倍高くてもよい。
本発明は、実質的に平坦な表面を含む、いずれの種類の表面にも適用することができる。
【0008】
第1の量子スピン欠陥濃度は、1x1013欠陥/cm3、1x1014欠陥/cm3、1x1015欠陥/cm3、1x1016欠陥/cm3、1x1017欠陥/cm3、1x1018欠陥/cm3と等しいか、またはそれらよりもより高くてもよい。
第1の表面領域の量子スピン欠陥濃度は、4x1018欠陥/cm3、2x1018欠陥/cm3、1x1018欠陥/cm3、1x1017欠陥/cm3、または1x1016欠陥/cm3と等しいか、またはそれらよりもより低くてもよい。
一選択肢として、量子スピン欠陥は、0.01ms、0.05ms、0.1ms、0.3ms、0.6ms、1ms、5ms、または15msと等しいか、またはそれらよりもより長い、ハーンエコーデコヒーレンス時間(Hahn-echo decoherence time)T2を有する。
合成ダイヤモンド材料は、複数の第1の表面領域を含んでもよい。
平坦な前面の下の、第1の領域の深さは、100nm~100μmであってもよい。
さらなる一選択肢として、表面は、ホウ素を含む第3の表面領域をさらに含む。ホウ素ドープにより、ダイヤモンドが導電性になり、したがって、これを用いて、第1の表面領域の近傍に電場を加えることができる。
一選択肢として、第2の表面領域は、第1の表面領域を取り囲む。
【0009】
第2の態様によれば、第1の態様において前述された、合成ダイヤモンド材料を製造する方法が提供される。方法は、前面を有する合成ダイヤモンド基材を用意するステップを含む。CVD法を用いて、単結晶ダイヤモンド基材の前面上に、さらなるダイヤモンド材料を成長させる。次いで、合成ダイヤモンド基材の前面を処理して、ダイヤモンド基材材料の第2の表面領域に隣接した、さらなるダイヤモンド材料の第1の表面領域を有する検知表面を形成し、さらなるダイヤモンド材料の量子スピン欠陥濃度は、合成ダイヤモンド基材材料の量子スピン欠陥よりも少なくとも10倍高い。
一選択肢として、方法は、ダイヤモンド基材の前面に、少なくとも1個の凹部を形成するステップ、凹部においてさらなるダイヤモンド材料を成長させるステップ、および合成ダイヤモンド基材の前面上のさらなるダイヤモンド材料を再び処理して、検知表面を形成するステップを含む。凹部は、エッチング、マスクエッチング(masked etching)、研削、および研磨のいずれかによって形成されてもよく、100nm~100μmの深さを有する。
【0010】
代替的な一選択肢として、方法は、前面上に、少なくとも1個の開口部を有するマスクを配置するステップ、および前面上で、選択された範囲でさらなるダイヤモンド材料を成長させるように、マスク上に、さらなるダイヤモンド材料を成長させるステップを含む。次いで、マスクを取り除き、前面上に、第2のさらなるダイヤモンド材料を成長させる。次いで、第2のさらなるダイヤモンド材料を処理して、検知表面を形成する。
一選択肢として、量子スピン欠陥は、ケイ素、ニッケル、クロム、ゲルマニウム、スズ、および窒素のいずれかを含む。
さらなる一選択肢として、量子スピン欠陥は、負電荷を帯びた窒素空孔欠陥、NV-である。
処理するステップは、照射するステップおよびアニールするステップのいずれかを含んでもよい。例えば、これを用いて、ダイヤモンド中の窒素をNV-中心に変換する。
第3の態様によれば、流体試料を受けるためのマイクロ流体チャンネル、マイクロ流体チャンネルに隣接して配置されたセンサーを含むマイクロ流体セルであって、センサーが、第1の態様において前述された合成ダイヤモンド材料を含む、マイクロ流体セルが提供される。
【0011】
第4の態様によれば、第1の態様において前述された合成ダイヤモンド材料を含む磁気測定検知プローブが提供される。
本開示を説明するための、非限定的な実施例の構成は、添付の図を参照して、以下で記述される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】合成ダイヤモンド材料を製造するためのステップを示す流れ図である。
【
図2】第1の例示的な一実施形態の合成ダイヤモンド材料を製造するためのステップを示す流れ図である。
【
図3】エッチングされたダイヤモンド基材の側面断面図を模式的に示す図である。
【
図4】
図4のエッチングされたダイヤモンド基材の平面図を模式的に示す図である。
【
図5】ダイヤモンド基材で成長させた、さらなるダイヤモンド材料の側面断面図を模式的に示す図である。
【
図6】処理後のダイヤモンド基材で成長させた、さらなるダイヤモンド材料の側面断面図を模式的に示す図である。
【
図7】処理後の、
図6のダイヤモンド材料の平面図を模式的に示す図である。
【
図8】例示的なダイヤモンド材料を示すUV照射された写真である。
【
図9】第3のダイヤモンド層がもたらされる、さらなる例示的な一実施形態の側面図である。
【
図10】
図9のダイヤモンド材料の平面図を模式的に示す図である。
【
図11】他のさらなる例示的な一実施形態の側面図である。
【
図12】
図11のダイヤモンド材料の平面図を模式的に示す図である。
【
図13】さらなる例示的な一実施形態の合成ダイヤモンド材料を製造するためのステップを示す流れ図である。
【
図14】ダイヤモンド基材およびマスクの側面断面図を模式的に示す図である。
【
図15】マスクの開口部で、さらなるダイヤモンド材料を成長させた、
図14のダイヤモンド基材およびマスクの側面断面図を模式的に示す図である。
【
図16】マスクを取り除いた、
図15のダイヤモンド基材の側面断面図を模式的に示す図である。
【
図17】表面で、さらなるダイヤモンド材料を成長させた、
図16のダイヤモンド基材の側面断面図を模式的に示す図である。
【
図18】処理後の、
図17のダイヤモンド基材の側面断面図を模式的に示す図である。
【
図19】マイクロ流体セルの側面断面図を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
前述したように、既知の、多数の量子スピン欠陥を有するダイヤモンド材料を、センサーとして使用することができる。しかし、より多くのセンサー機能およびセンサー解像度は、周辺の領域よりも、より高い量子スピン欠陥濃度を有する、ダイヤモンド材料の、所定の領域を含むダイヤモンド材料を生成することによって成し遂げることができた。高い量子スピン欠陥濃度のこれらの領域は、必要に応じて、パターンで形成することができる。発明者らは、こうした領域を形成する技術を開発した。
以下の記述は、例として、高いNV-欠陥濃度を示すが、同じ技術または同様の技術を用いて、量子スピン欠陥の他の種類、例えば、ケイ素含有欠陥、ニッケル含有欠陥、クロム含有欠陥、ゲルマニウム含有欠陥、スズ含有欠陥、および窒素含有欠陥を形成することができると認識されたい。
【0014】
図1は、周辺の領域よりも、少なくとも10倍のNV
-欠陥濃度を含んだ領域を有するダイヤモンド材料を生成するための、例示的なステップを示す流れ図である。以下の番号付けは、
図1のものに対応する:
S1.合成ダイヤモンド基材を用意する。これは、合成ダイヤモンドの、CVD、HPHT、または別の形態であってもよい。
S2.さらなるダイヤモンドを、基材の前面で、CVDを用いて成長させる。
S3.次いで、表面を処理して、第1の量子スピン欠陥濃度を有するダイヤモンドの第1の表面領域、および第1の表面領域に隣接した、第2の量子スピン欠陥濃度を有する第2の表面領域を形成し、第1の量子スピン欠陥濃度が、第2の量子スピン欠陥濃度よりも少なくとも10倍高い。このさらなる処理するステップは、照射するステップおよびアニールするステップを含むこともできる。
【0015】
図2は、第1の例示的な一実施形態の、例示的なステップを示す流れ図である。以下の番号付けは、
図2のものに対応する:
S4.合成ダイヤモンド基材を用意する。これは、合成ダイヤモンドのCVD、HPHT、または別の形態であってもよい。
S5.凹部のパターンは、合成ダイヤモンド基材の平坦な前面において形成される。こうした凹部を形成する、例示的な方法には、マスクを用いたエッチング、選択された範囲の研削、選択された範囲の研磨などが挙げられる。
図3は、例示的な合成ダイヤモンド基材1の模式的な側面断面図であり、
図4は、同じダイヤモンド基材1の模式的な平面図である。円2および2個の同心円状の輪3、輪4は、合成ダイヤモンド基材1の表面5に、マスクエッチングを用いて、異なる深さまでエッチングされた。凹部の深さは、約100nm~約100μmで変化することができる。
図3に示された凹部は、断面でみると、90°の角を有する。曲面状角部、面取り角部、またはV字型凹部などの他の形状を用いることができると認識されたい。というのは、これらにより、以下のステップS6での、さらなるダイヤモンドが上に成長することを改善することができるからである。
S6.CVD法を用いて、さらなるダイヤモンド材料を、合成ダイヤモンド材料の平坦な前面5に成長させる。合成ダイヤモンド基材のNV
-欠陥濃度よりも少なくとも10倍高いNV
-欠陥濃度をもたらすような条件の下、さらなるダイヤモンド材料を成長させる。
図5は、合成ダイヤモンド基材1で、さらなるダイヤモンド材料6を上に成長させた後の、
図3および
図4の合成ダイヤモンド基材の側面断面図を模式的に示す。さらなるダイヤモンド材料6を、合成ダイヤモンド基材1の凹部2、凹部3、凹部4で成長させ、かつ合成ダイヤモンド材料1の平坦な前面5の層においても成長させた。
S7.得られた複合ダイヤモンド材料を、再び処理して、過剰の、さらなるダイヤモンド材料6を取り除く。処理するステップは、標準の技術、例えば、研磨、研削、機械研磨、およびエッチングを用いて実施することができる。
図6は、さらなるダイヤモンドを再び処理した後の、ダイヤモンド基材1の側面断面図を模式的に示す。
図7は、
図6と同じ材料を、平面図で模式的に示す。ダイヤモンド基材1の表面10は、さらなるダイヤモンド材料の、2個の同心円状の輪8、輪9によって取り囲まれた、さらなるダイヤモンド材料の円7を有する。さらなるダイヤモンド材料の領域は、周辺の合成ダイヤモンド基材1のNV
-濃度よりも少なくとも10倍高いNV
-濃度を有する。
【0016】
前述の技術を用いて、より低い量子スピン欠陥濃度の領域によって取り囲まれた、高い量子スピン欠陥濃度の領域を有するダイヤモンド材料を製造することができる。こうした材料を、磁場検知に基づいた、幅広い分野のイメージングなどの、検知用途で使用することができる。
【実施例0017】
(実施例1)
寸法3×3×0.5mmおよび窒素濃度1.5ppbを有する、単結晶ダイヤモンド基材を用意した。マスクを、基材の成長面上に置き、成長面を、誘導結合型プラズマエッチングを用いて、選択的にエッチングした。酸素を使用し得ることが認識されているが、これは、Ar供給ガスおよびCl供給ガスを用いて実施された。エッチングにより、基材の成長面に凹部パターンが形成された。技術者には、例えば、研削、機械加工、化学機械研磨などの他の方法を用いて、10μmの凹部を形成することができると認識される。
次いで、エッチングされたダイヤモンド基材を、真空チャンバー内に置き、表面洗浄エッチングを、水素プラズマを用いて実施した。
エッチングされたダイヤモンド基材をCVD反応器チャンバーに置き、さらなるダイヤモンドを、基材で、エッチングされた凹部パターンの深さよりも、より大きい厚さまで成長させた。さらなるダイヤモンドを、以下の条件:
マイクロ波電力=5kW
圧力=230Torr
水素流量=600sccm
メタン流量=30sccm
窒素ドープ=H2中N21000ppmを60sccm
を用いて成長させた。
【0018】
窒素ドープレベルを相対的に高くなるように選択して、ダイヤモンド基材のNV
-濃度よりも、さらにより高いNV
-濃度で、さらなるダイヤモンドを成長させることを確実にした。
次いで、さらなるダイヤモンドを、機械研磨を用いて再び研磨して、さらなるダイヤモンドの表面層を取り除いて、ダイヤモンド材料の表面で、高窒素ダイヤモンドの領域7、領域8、領域9、および低窒素ダイヤモンドの領域1がある、
図4および
図5で示されたものと同様の構造を残した。
窒素レベルなどのパラメーターは、最終製品の、所望の窒素濃度に応じて変えることができる。任意に、酸素、CO、またはCO
2もまた、成長過程に加えることができる。成長後、単結晶ダイヤモンド材料を、照射法およびアニール法を用いて処理した。これは、電子束3x10
14cm
-2秒
-1の下、材料を6時間照射するステップ、および400℃で4時間、800℃で16時間、次いで1200℃で2時間、アニールするステップを含んだ。この方法により、ダイヤモンド中の窒素がNV
-中心に変換されて、それらが量子スピン欠陥として有用なものになる。
【0019】
(実施例2)
図8は、
図1で前述されたものと同じように製造された合成ダイヤモンド材料の写真であるが、より高いNV
-欠陥濃度の領域の異なるパターンを用いた写真である。材料が、任意で、UV励起を用いて光ポンピングされるとき、より高いNV
-欠陥濃度を含んだ領域が蛍光を発する。
(実施例3)
さらなる例示的な一実施形態として、さらなる層を、ダイヤモンド材料に蒸着させることができる。
図9および
図10を参照すると、
図6および
図7のダイヤモンド材料は、さらに処理された。
低い窒素含有量(1.5ppb)を有する、第3のダイヤモンド層10を、合成ダイヤモンド基材材料1の表面11に成長させた。
マスクを、第3のダイヤモンド層10の表面上に置き、表面を、誘導結合型プラズマエッチングを用いて、選択的にエッチングした。酸素を使用し得ることが認識されているが、これは、Ar供給ガスおよびCl供給ガスを用いて実施された。エッチングにより、基材の成長面に凹部パターンが形成された。技術者には、例えば、研削、機械加工、化学機械研磨などの他の方法を用いて、凹部を形成することができると認識される。
次いで、エッチングされた、第3のダイヤモンド層10を、実施例1に説明されたように、水素プラズマで洗浄した。
【0020】
次いで、エッチングされた、第3のダイヤモンド層を、CVD反応器チャンバーに置き、追加のダイヤモンドを、基材で、エッチングされた凹部パターンの深さよりも、より大きい厚さまで成長させた。追加のダイヤモンドを、以下の条件:
マイクロ波電力=3.6kW
圧力=140Torr
水素流量=600sccm
メタン流量=32sccm
B
2H
6流量=19sccm
を用いて成長させた。
ホウ素の添加は、追加のダイヤモンドが、導電性合成ダイヤモンドを形成するのに十分なホウ素含有量を有することを確実にすることであった。
次いで、追加のダイヤモンドを、機械研磨を用いて再び研磨して、追加のダイヤモンドの表面層を取り除いて、
図8および
図9に示されたものと同様の構造を残した。第3のダイヤモンド層10の表面は、輪の形態の、ホウ素ドープダイヤモンド11の領域を含む。この領域11は、導電性であり、したがって、領域11を用いて、高い量子スピン欠陥濃度を有する、さらなるダイヤモンドの領域7、領域8、領域9の近傍に、電場を加えることができる。導電性領域11を、マイクロ波を生じる方法として使用することもできる。
【0021】
(実施例4)
実施例3の代替的なものとして、ホウ素ドープされた、第3のダイヤモンド層を、実施例1のさらなるダイヤモンドと同じ平面に蒸着させることができる。これを、
図11および
図12に示す。この場合、材料は、実施例1で前述されたものと同じ方法で製造される。次いで、マスクを、ダイヤモンド材料の表面上に置き、パターンを表面にエッチングした。マスクを取り除き、エッチングされた凹部を有する表面を残す。次いで、第3のダイヤモンド材料を、表面で、かつ凹部中で、上に成長させる。この実施例における第3のダイヤモンド材料を、ホウ素でドープする。次いで、新しい表面を再び研磨して、
図11および
図12に示された構造を残した。
得られた表面は、高い量子スピン欠陥濃度を有する表面領域7、表面領域8、表面領域9、およびホウ素ドープダイヤモンドを有する表面領域12を含む。
【0022】
上記の実施形態および実施例には、第1の量子スピン欠陥濃度を含む、第1の表面領域、および所定の範囲を有し、第1の表面領域に隣接して配置された、第2の表面領域を含む表面を含む合成ダイヤモンド材料を得るための、1つの方法が説明される。代替的な技術は、
図13に示される。以下の番号付けは、
図13のものに対応する:
S8.合成ダイヤモンド基材13を用意する。これは、合成ダイヤモンドのCVD、HPHT、または別の形態であってもよい。
S9.
図14を参照して、少なくとも1個の開口部15を有するマスク14を、1合成ダイヤモンド基材13の表面上に配置する。
S10.
図15に示すように、さらなるダイヤモンド材料16を、マスク14上に成長させ、マスク14の開口部を充填する。さらなるダイヤモンド材料は、合成ダイヤモンド基材13よりも、より高い窒素濃度を有する。
S11.
図16に示すように、マスク14を取り除いて、さらなるダイヤモンド16の突出した成長を含む合成ダイヤモンド基材を残す。
S12.
図17に示すように、次いで、ダイヤモンド材料16(本実施例において、合成ダイヤモンド基材13のダイヤモンド材料に対応する)を、ダイヤモンド基材13に成長させる。
S13.
図18に示すように、ダイヤモンド材料16の新しい表面を、任意の好適な手段を用いて、再び処理して、
図18に示される構造を形成し、その構造において、表面が、より低い窒素含有量を有するダイヤモンド材料の領域16に隣接した、より高い窒素含有量を有するダイヤモンド材料の領域15を含む。それに続く、照射するステップおよびアニールするステップを用いて、ダイヤモンド材料の窒素をNV
-中心に変えることができる。
【0023】
前述の技術を用いて、より低い量子スピン欠陥濃度の領域に取り囲まれた、高い量子スピン欠陥濃度の領域を有するダイヤモンド材料を製造することができる。こうした材料を、磁場検知に基づいた、幅広い分野のイメージングなどの、検知用途の検知プローブとして使用することができる。
合成ダイヤモンド材料の、別の例示的な使用は、マイクロ流体検知分野である。
図19は、高い量子スピン欠陥濃度を有する、ダイヤモンドの領域16を有する、ダイヤモンド材料13を含む、例示的なマイクロ流体セル17を模式的に示す。マイクロ流体セルは、高い量子スピン欠陥濃度を有するダイヤモンドの領域16に隣接したチャンネル18を含み、流体を分析するのに用いることができる。ダイヤモンドにおいて、量子スピン欠陥を用いたマイクロ流体検知の考察および説明は、国際公開第2012/034924号で確認することができる。
【0024】
添付の特許請求の範囲で提示される本発明は、実施形態を参照して、示され、説明されてきた。しかし、添付の特許請求の範囲によって定められた、本発明の範囲を逸脱することなく、形態および詳細において様々な変更を加えることができることは、当業者に理解されよう。