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  • 特開-可撓管 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090707
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】可撓管
(51)【国際特許分類】
   F16L 11/06 20060101AFI20230622BHJP
【FI】
F16L11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023049219
(22)【出願日】2023-03-27
(62)【分割の表示】P 2021205032の分割
【原出願日】2021-12-17
(71)【出願人】
【識別番号】000134534
【氏名又は名称】株式会社トヨックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002022
【氏名又は名称】弁理士法人コスモ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沼田 健一
【テーマコード(参考)】
3H111
【Fターム(参考)】
3H111AA02
3H111BA15
3H111BA34
3H111CB02
3H111CB14
3H111CB29
3H111DA10
3H111DB10
3H111DB27
3H111EA04
(57)【要約】
【課題】良好な圧縮復元性を有しつつ、ローラポンプ用の可撓管として好適に用いられる非溶出性に優れた可撓管を提供する。
【解決手段】可撓管は、スチレン系エラストマーを主成分とする可撓管であって、可撓管の内面の算術平均粗さRaが1.5以下であり、かつ、可撓管の内面の最大高さRzが7μm以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系エラストマーを少なくとも50質量%以上含有する可撓管であって、
前記可撓管の内面の算術平均粗さRaが1.5μm以下であり、かつ、前記可撓管の内面の最大高さRzが7μm以下であり、
前記可撓管を用いて、食品、添加物等の規格基準(令和2年12月4日厚生労働省告示第380号)の試験方法に準拠して測定したヘプタンを除く蒸発残留物量が30μg/ml以下である可撓管。
【請求項2】
前記可撓管の内面における前記算術平均粗さRaに対する前記最大高さRzの比Rz/Raが10以下である、請求項1に記載の可撓管。
【請求項3】
前記可撓管の外面の表面粗さRaが20μm以下の範囲内である、請求項1又は2に記載の可撓管。
【請求項4】
前記可撓管のショアA硬度が50~75度である、請求項1~3のいずれか1項に記載の可撓管。
【請求項5】
前記可撓管の伸び率が700%~1000%である、請求項1~4のいずれか1項に記載の可撓管。
【請求項6】
ローラポンプ用の可撓管である、請求項1~5のいずれか1項に記載の可撓管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、様々な用途に用いられる可撓性を有する可撓管が提案されている。例えば特許文献1には、ポリオレフィン材料を含む第1層、及びプロピレンポリマーとスチレンブロック共重合体とのブレンドを含む第2層を含む多層可撓性管が開示されている。この多層可撓性管では、ポリ塩化ビニル系材料を含まないことにより、ポリ塩化ビニル系可撓性組成物の焼却に伴う有害物の発生や当該組成物の管内への溶出等を防止し、環境及び健康への懸念を低下させている。また、例えば特許文献2には、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMMA)からなる内層、及びエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)からなる外層を含む積層チューブが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5475794号公報
【特許文献2】特許第4169840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、可撓管が食品製造等におけるローラポンプ用の可撓管として用いられる場合では、可撓管が圧縮されることによる可撓管の摩耗や可撓管を構成する樹脂組成物の溶出により、当該樹脂組成物が可撓管内の流体に混入し易くなるため、衛生上の観点から、非溶出性は特に重要な課題とされる。さらに、繰返し圧縮されることにより可撓管に負荷が掛かるため、圧縮された可撓管の圧縮復元性も要求される。上記特許文献1の多層可撓性管及び上記特許文献2の積層チューブは、ローラポンプ用の可撓管として用いられた場合、可撓管が繰返し圧縮され、応力が繰り返し掛かることにより可撓管を構成する樹脂組成物が可撓管内の流体に溶出する虞があり、また、十分な圧縮復元性を得られない虞がある。
【0005】
本発明は、良好な圧縮復元性を有しつつ、ローラポンプ用の可撓管として好適に用いられる非溶出性に優れた可撓管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の可撓管は、スチレン系エラストマーを少なくとも50質量%以上含有する可撓管であって、前記可撓管の内面の算術平均粗さRaが1.5μm以下であり、かつ、前記可撓管の内面の最大高さRzが7μm以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、良好な圧縮復元性を有しつつ、ローラポンプ用の可撓管として好適に用いられる非溶出性に優れた可撓管を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係る可撓管を製造するために用いる金型の一例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態に係る可撓管は、ローラポンプ等に用いられる可撓管であり、スチレン系エラストマーを主成分とする可撓管により構成される。この可撓管の内面の算術平均粗さRaは、1.5μm以下である。なお、本明細書でいう「主成分」とは、全量に対して50質量%以上含有することをいう。即ち、実施形態に係る可撓管は、スチレン系エラストマーを少なくとも50質量%以上含有する可撓管により構成される。
【0010】
ローラポンプは、チューブポンプ、チュービングポンプ、ホースポンプ、ペリスタルテイックポンプ、蠕動型ポンプ等と称呼され、可撓管と複数の突起が付いたローラで構成されている。ローラポンプは、ローラポンプが回転して突起で可撓管を押し、可撓管内の流体を押し出すことによって流体を輸送するポンプである。
【0011】
スチレン系エラストマーは、弾性、透明性、耐薬品性に優れた素材である。このため、圧縮復元性、透明性、非溶出性等が要求されるローラポンプ用の可撓管の素材として好適である。
【0012】
スチレン系エラストマーとしては、例えば、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
なお、可撓管には、スチレン系エラストマー以外の組成物として、ポリオレフィンや可塑剤(軟化剤)等を含有させることができる。
【0014】
また、可撓管の内面の算術平均粗さRaを1.5μm以下とすることにより、接液面が減少し、優れた非溶出性を実現することができる。仮に可撓管の内面の表面粗さが粗い場合、可撓管がローラポンプにより繰返し圧縮されることで、可撓管の内面同士が激しく擦れ合って一部が削れ、可撓管の内部を流れる流体に可撓管の成分が混入するおそれがある。これに対し本実施形態の可撓管では、可撓管の内面の表面粗さを上記範囲の値とすることにより、内面の平滑性が高く、可撓管が圧縮される際の内面同士の摩擦が小さくなるため、内面同士の摩擦抵抗を抑制することができる。さらに、可撓管内部の流体に対する管路摩擦を低減することができる。これにより、可撓管内の流体に可撓管の成分が混入することを防止ないし抑制することができる。
【0015】
また、可撓管の内面の最大高さRzを7μm以下とすること、さらに算術平均粗さRaを1.5μm以下とすることで、可撓管の内面の平滑性をより向上させることができる。これにより、より優れた非溶出性を実現することができる。
【0016】
さらに、可撓管の内面における算術平均粗さRaに対する最大高さRzの比Rz/Raを10以下とすることにより、内面の凹凸が少なく、可撓管の内部を流れる流体に対する管路摩擦を低減させるとともに流体の吐出量を向上させることができ、内部からのコンタミネーションを低減させることができる。
【0017】
可撓管の外面の算術平均粗さRaは、20μm以下であることが好ましい。可撓管の外面の算術平均粗さRaを上記の通りとすることにより、外面の平滑性が高く、可撓管がローラポンプに繰返し圧縮されることに起因して可撓管の外面に亀裂等が発生することを防止ないし抑制することができる。
【0018】
可撓管のショアA硬度は、50~75度であることが好ましい。可撓管のショアA硬度が50度より小さい場合、可撓管が柔らかすぎて良好な圧縮復元性を得ることが難しい。また、可撓管のショアA硬度が75度より大きい場合、可撓管が硬すぎて良好な圧縮復元性を得ることが難しい。可撓管のショアA硬度を上記範囲内の値とすることにより、ローラポンプに用いる円形の可撓管として好適な圧縮復元性を実現することができる。なお、可撓管のショアA硬度は、「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-硬さの求め方-第3部:デュロメータ硬さ(JIS K 6253)」により測定することができる。
【0019】
可撓管の伸び率は、700%~1000%であることが好ましい。可撓管の伸び率をこのような範囲内の値とすることにより、可撓管がローラポンプにより繰り返し圧縮されることによる可撓管の弾性及び圧縮復元性の劣化を抑制することができ、可撓管の耐久性を高めることができる。なお、可撓管の伸び率は、「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方(JIS K 6251)」により引張速度200mm/min、ダンベル状5号形状にて測定することができる。
【0020】
本実施形態の可撓管は、ローラポンプ用の可撓管であることが好ましい。上述したように本実施形態の可撓管は、優れた非溶出性や圧縮復元性を実現することができる。このため、圧縮復元性、非溶出性が要求されるローラポンプ用の可撓管として、本実施形態の可撓管は好適である。
【0021】
次に、本発明の実施形態に係るローラポンプに用いるための可撓管の製造方法について説明する。実施形態に係る可撓管は押出成形により製造することができる。即ち、スチレン系エラストマーを主成分とする樹脂組成物を押出成形機に投入し(投入工程)、投入された樹脂組成物を押出成形することにより、可撓管を製造する(成形工程)。このとき、成形する可撓管の内径における引き落とし率が0.8~1.1となるように、例えば図1に示すような金型1(ニップル4、ダイス6)を用いて押出成形を行う。なお、引き落とし率の算出方法については、ニップル4の外径D1(mm)に対する成形後の可撓管の内径(mm)の比を可撓管の内径の引き落とし率とし、ダイス6の内径D2(mm)に対する成形後の可撓管の外径(mm)の比を可撓管の外径の引き落とし率とする。
【0022】
このように引き落とし率を上記範囲内に規定した金型1を用いて押出成形を行うことにより、内面の表面粗さRaが1.5μm以下である可撓管を製造することができる。換言すれば、スチレン系エラストマーを主成分とする樹脂組成物を、製造する可撓管の内径における引き落とし率が0.8~1.1となるように押出成形することにより、円形で均一な肉厚の実施形態に係る可撓管を製造することができる。
【0023】
上記成形工程では、可撓管の外径における引き落とし率が可撓管の内径における引き落とし率よりも高くなるように押出成形することが好ましい。これにより、押出成形において、可撓管の内径における引き落とし率を0.8~1.1の範囲内としつつ、可撓管の外径における引き落とし率を変えることにより(ニップルとダイスの隙間間隔を変えることにより)、押出成形により製造される可撓管の厚みを調整することができる。このため、任意の厚みで、内面の表面粗さRaが1.5μm以下である可撓管を実現することができる。
【0024】
以上説明した本実施形態の可撓管によれば、スチレン系エラストマーを主成分とした可撓管で構成されることにより、圧縮復元性、透明性、非溶出性を良好なものとすることができる。加えて、可撓管の内面の表面粗さRaが1.5μm以下であること、さらに可撓管の内面における算術平均粗さRaに対する最大高さRzの比Rz/Raを10以下とすることにより、内面の凹凸が少なくなり、内面の平滑性が高く、可撓管内の流体との接触面積が小さくなるため、可撓管の成分が溶出し難い非溶出性に優れたものとすることができる。このような表面粗さを有する可撓管は、押出成形による製造過程において、スチレン系エラストマーを主成分とする樹脂組成物を押出成形機に投入し、可撓管の内径における引き落とし率が0.8~1.1となるように規定することにより製造することができる。その結果、良好な圧縮復元性を有しつつ、非溶出性に優れた可撓管を実現することができる。従って、本実施形態に係る可撓管は、食品製造、薬品製造、化学品製造等の分野におけるローラポンプ用の可撓管として、好適に用いることができる。
【0025】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【実施例0026】
(1)可撓管試料の準備
以下、実施例によって本発明を詳細に説明する。実施例では、スチレン系エラストマーを主成分とする可撓管の試料を実施例1,2として、オレフィン系エラストマーを主成分とする可撓管の試料を比較例1,2としてそれぞれ準備した。そして、各試料について可撓管の内面の表面粗さ測定、及び溶出試験を行った。さらに溶出試験では、実施例1,2の製造元とは異なるメーカでの溶出性能の違いを比較するため、スチレン系エラストマーを主成分とする可撓管の試料を実施例3として準備し、また、比較例2のグレードの違いによる溶出性能の違いを比較するため、オレフィン系エラストマーを主成分とする可撓管の試料を比較例3として追加で準備した。
【0027】
実施例1,2,3として準備した可撓管は、上記実施形態における製造方法と同様の製造方法で作製した。実施例1は、樹脂組成物として三菱ケミカル社製の「テファブロック ME5309C」を用い、これを押出成形することにより形成した。実施例2は、樹脂組成物として三菱ケミカル社製の「テファブロック ME6301C」を用い、これを押出成形することにより形成した。実施例3は、樹脂組成物としてアロン化成社製の「AR875C」を用い、これを押出成形することにより形成した。比較例1は、可撓管としてサン-ゴバン社製の「ファーメドBPT」を準備した。比較例2,3は、可撓管としてタイガースポリマー社製の「メディルP640I」、「メディルT740C」をそれぞれ準備した。
【0028】
(2)表面粗さ測定
実施例1,2及び比較例1,2の各試料について、算術平均粗さRa、最大高さRz、及び算術平均粗さRaに対する最大高さRzの比Rz/Raをそれぞれ測定した。その測定結果を下記表1に示す。なお、表面粗さ測定は、測定機器として小林研究所株式会社製の「Surfcorder SE500A」を使用し、ホース内面、ホース外面をそれぞれ長手方向に測定した。測定条件は、送り速さを0.5mm/秒とし、測定長さを2.000mmとした。
【0029】
【表1】
【0030】
表1に示す結果から、上記実施形態における製造方法で作製された実施例1については、算術平均粗さRaが1.5μm以下、かつ最大高さRzが7μm以下、かつRz/Raが10以下である測定結果が得られた。また、同様に上記実施形態における製造方法で作製された実施例2については、算術平均粗さRaが1.5μm以下、かつ最大高さRzが7μm以下である測定結果が得られた。比較例1については、算術平均粗さRaが1.5μmより大きく、かつ最大高さRzが7μmより大きい測定結果が得られた。比較例2については、算術平均粗さRaが1.5より小さく、かつ最大高さRzが7μmより大きい測定結果が得られた。
【0031】
以上より、実施例1,2については、算術平均粗さRaが比較例1に比していずれも小さい値となっており、また、最大高さRzが比較例1,2に比していずれも小さい値となっており、比較例1,2に比して可撓管の内面の平滑性に優れていることが確認できた。また、実施例1と実施例2を比較すると、実施例2はRz/Raが10より大きい値となっており、実施例1の方がより内面の平滑性に優れていることが確認できた。
【0032】
(3)溶出試験
実施例1,2,3及び比較例1,2,3の各試料について、材質試験、溶出試験、蒸発残留物試験を行った。これらの各試験は、「食品、添加物等の規格基準(令和2年12月4日厚生労働省告示第380号)」の試験方法に準拠して行った。各試験の結果を下記表2に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
材質試験の結果については、一般規格として、いずれの試料もカドミウム及び鉛の量が100μg/g以下であり、個別規格として、いずれの試料も揮発性物質の量が5mg/g以下であった。従って、実施例1,2,3は、材質試験について、いずれも規格基準に適合するものであった。
【0035】
溶出試験の結果については、一般規格として、いずれの試料も重金属の量が鉛として1μg/ml以下であり、過マンガン酸カリウム消費量が10μg/ml以下であった。従って、実施例1,2,3は、溶出試験について、いずれも規格基準に適合するものであった。
【0036】
蒸発残留物試験の結果については、個別規格として、いずれの試料もヘプタンを除く蒸発残留物量が30μg/ml以下であった。従って、実施例1,2,3は、溶出試験について、いずれも規格基準に適合するものであり、比較例1,2,3より低い基準であった。
【0037】
以上より、実施例1,2,3の試料については、いずれも溶出試験の規格基準に適合するものであり、又は低溶出であり、優れた低溶出性を実現できることが確認できた。また、表面粗さの測定結果から、実施例1,2のうち実施例1の試料が最も可撓管の内面の平滑性に優れていることが確認でき、これにより、実施例1,2,3のうち実施例1の試料が最も非溶出性に優れていることが想定された。
【符号の説明】
【0038】
1 金型
4 ニップル
6 ダイス
図1