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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090744
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】癒着予防のためのハイドロゲル膜
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/04 20060101AFI20230622BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20230622BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
A61L31/04 120
A61L31/04 100
A61L31/14 300
A61L31/14 500
A61L31/16
【審査請求】有
【請求項の数】22
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023064607
(22)【出願日】2023-04-12
(62)【分割の表示】P 2021150143の分割
【原出願日】2013-12-11
(31)【優先権主張番号】61/735,852
(32)【優先日】2012-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/807,629
(32)【優先日】2013-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/814,944
(32)【優先日】2013-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】500039463
【氏名又は名称】ボード オブ リージェンツ,ザ ユニバーシティ オブ テキサス システム
【氏名又は名称原語表記】BOARD OF REGENTS,THE UNIVERSITY OF TEXAS SYSTEM
【住所又は居所原語表記】210 West 7th Street Austin,Texas 78701 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】シュミット,クリスティン イー
(72)【発明者】
【氏名】ゾウコ,スコット エー
(72)【発明者】
【氏名】メイズ,サラ エム
(57)【要約】
【課題】 手術後の望ましくない瘢痕化を防止する。
【解決手段】 アルギン酸塩及びヒアルロン酸塩から構成される生体適合性膜を提供する。当該膜は、手術後の望ましくない瘢痕化を防止するのに用いることができる。組織癒着及び当該膜の生体吸収性の速度は、封鎖剤と粘度調整剤とを含む外的刺激により変更することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ともに繊維状のハイドロゲルに包含されている、未架橋ヒアルロン酸塩及び架橋アルギン酸塩、並びに
カルシウムキレート剤;
を含むシステムであって、ここで、
(a)前記アルギン酸塩はカルシウムで架橋されており、
(b)前記ハイドロゲルは、前記カルシウムキレート剤を前記ハイドロゲルに適用す
ることに応答して前記ハイドロゲルの生体吸収性が高まるように構成され、かつ
(c)前記ハイドロゲルは、前記ヒアルロン酸塩を溶出させるように構成されている、
システム。
【請求項2】
前記ハイドロゲルは、以下の:
前記未架橋ヒアルロン酸塩及び前記架橋アルギン酸塩を含む第1のハイドロゲル層、かつ、
コラーゲン及びさらなるヒアルロン酸塩を含む第2のハイドロゲル層、
を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記ハイドロゲルは、薬物、医薬品、ペプチド、タンパク質、医薬、ホルモン、高分子及びそれらの組み合わせのうち少なくとも1つを含む治療薬を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記ハイドロゲルは、前記カルシウムキレート剤を前記ハイドロゲルに適用することに応答して、前記治療薬のハイドロゲルの放出速度が高まるように構成される、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記ハイドロゲルは、前記ハイドロゲル中のヒアルロン酸塩の量の増加に応答して、前記治療薬に対する前記ハイドロゲルの放出速度が高まるように構成される、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記ハイドロゲルは、前記カルシウムキレート剤を前記ハイドロゲルに適用することに応答して、前記ハイドロゲルの粘膜付着性が高まるように構成される、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記ハイドロゲルは、前記カルシウムキレート剤を前記ハイドロゲルに適用することに応答して透明性が高まるように構成される、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記ハイドロゲル及び前記カルシウムキレート剤を含む密封パッケージを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記ハイドロゲルの断面は円筒形である、請求項1記載のシステム。
【請求項10】
前記ハイドロゲルは乾燥している、請求項1記載のシステム。
【請求項11】
前記ハイドロゲルには、前記アルギン酸塩が10%以下の乾燥質量で含まれる、請求項1記載のシステム。
【請求項12】
前記ハイドロゲルは押出型である、請求項1記載のシステム。
【請求項13】
ともに繊維状のハイドロゲルに包含されている、未架橋ヒアルロン酸塩及び架橋アルギン酸塩、並びに
封鎖剤;
を含むシステムであって、ここで、

(a)前記アルギン酸塩は多価カチオンで架橋され、
(b)前記ハイドロゲルは、前記ハイドロゲルに前記封鎖剤を適用することに応答してその粘着性が高まるように構成され、
(c)前記封鎖剤は多価カチオンを封鎖するように構成され、
(d)前記ハイドロゲルは、前記ヒアルロン酸塩を溶出させるように構成されている、
システム。
【請求項14】
前記ハイドロゲルは、薬物、医薬品、ペプチド、タンパク質、医薬、ホルモン、高分子又はそれらの組み合わせのうち少なくとも1つを包含する治療薬を含み、前記封鎖剤を前記ハイドロゲルに適用することに応答して前記治療薬に対する放出速度が高まるように構成される、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記ハイドロゲルは、前記封鎖剤を前記ハイドロゲルに適用することに応答して、前記ハイドロゲルの生体吸収性が高まり、かつ、透明性が高まるように構成される、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記ハイドロゲルは、本質的に前記未架橋ヒアルロン酸塩及び前記架橋アルギン酸塩からなる、請求項13に記載のシステム。
【請求項17】
前記ハイドロゲルは、前記ヒアルロン酸塩の曝露に応答して、前記ヒアルロン酸塩を溶出するように構成される、請求項13に記載のシステム。
【請求項18】
前記ハイドロゲルは、前記ヒアルロン酸塩をある速度で溶出させるように構成され、
前記速度は、前記ヒアルロン酸塩と前記アルギネートの比率に基づき、かつ、
前記比率が高まるにつれて速度が高まる、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
前記封鎖剤はカルシウムキレート剤を含み、かつ、前記多価カチオンはカルシウムを含む、請求項13に記載のシステム。
【請求項20】
前記ハイドロゲルの断面は円筒形である、請求項13記載のシステム。
【請求項21】
前記ハイドロゲルは乾燥し、かつ、前記アルギン酸塩が10%以下の乾燥質量で含まれる、請求項13記載のシステム。
【請求項22】
前記ハイドロゲルは押出型である、請求項13記載のシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、米国政府の支援によりなされた(アメリカ国立科学財団(NSF)により与えられた補助金番号DMR-0805298)。米国政府は、本発明における特定の権利を含む。
【0002】
本発明の実施形態は、一般に医療装置の分野に関連し、具体的には、瘢痕形成を阻害、軽減、又は予防する装置に関する。本発明の実施形態は、不要な瘢痕組織の付着を防止するため、組織と器官の間の体内に挿入することができる生体吸収性膜を含む。
【背景技術】
【0003】
癒着ともいう瘢痕組織の付着は、外科的処置の頻繁な合併症である。外科的処置中、身体の組織及び器官は、意図的に又は不注意で傷つくことがある。これらの損傷は、傷の治癒反応を促し、結果として瘢痕を形成する。
瘢痕化(scarring)は、隣接する組織や器官の間に、本来は付着しないはずの瘢痕組織の付着を生じさせる場合に問題となる。癒着は、目の周り、腱、心臓、脊髄、末梢神経、副鼻腔、腹腔や骨盤腔の臓器の間等、あらゆる解剖学的部位に形成されうる。例えば、腹腔内の腸を切除すると、腸と腹壁の間に瘢痕組織が癒着する場合がある。これらの付着は、患者に痛みや不快感を与え、影響を受けた器官の機能を損ない、その後同じ解剖学的領域での手術が妨げられる可能性がある。
【0004】
抗癒着(anti-adhesion)バリアは、外科医が瘢痕組織の癒着の阻害、軽減、又は予防に用いる医療機器である。これらの装置は、膜、ゲル及び溶液として市販されている。外科的処置中、外科医は損傷された組織や臓器の間に抗癒着剤を挿入することを選択できる。このような装置は、患者が最も癒着の危険にさらされている創傷治癒の臨界期に、損傷した臓器を物理的に分離することで機能する。その臨界期が過ぎれば、装置は体に吸収される。一般的に、膜バリアは、体内ですぐに吸収されるゲルや溶液よりも優れる。しかし、最も成功した膜であっても、効果は部分的であり、脆性や再吸収性(resorbability)が低く問題となる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2009/108760号
【特許文献2】国際公開第2012/048283号
【特許文献3】国際公開第2012/048289号
【図面の簡単な説明】
【0006】
本発明の実施形態の特徴及び利点は、添付の特許請求の範囲、1以上の例示的な実施形態の以下の詳細な説明、及び対応する図から明らかになるであろう。
図1】本発明の一実施形態におけるハイドロゲルの写真を含む。
図2】本発明の一実施形態におけるハイドロゲルの膨潤に関するチャートを含む。
図3】本発明の一実施形態の粘膜付着性を説明する一連の写真を含む。
図4】本発明の一実施形態における二層ハイドロゲルに関する。
図5】本発明の一実施形態における二層ハイドロゲルを作製するプロセスを含む。
図6】本発明の一実施形態での方法600を含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以下の記載では、多数の特定の詳細な説明が記載されるが、本発明の実施形態はこれらの特定の詳細な説明なく実施されてよい。この記載の理解を曖昧にすることを避けるため、周知の回路、構造及び技術は示さない。「一実施形態」、「様々な実施形態」他は、(複数の)実施形態を表し、特有の特徴、構造又は特性があげられる。ただし、あらゆる実施形態が必ずしも特有の特徴、構造又は特性を含むわけではない。ある実施形態では、他の実施形態で記載された特徴のいくつか、全てを含むか、全く有しない。「第1の」、「第2の」、「第3の」その他同等のものは、共通の対象を記載し、かつ言及されている対象と類似する対象の異なる例を意味する。このような形容詞は、対象が時間的、空間的、ランク付け又は他のいかなる方法において、所定の順序でなくてよいことを意味する。「接続された(Connected)」は、要素が物理的又は電気的に互いに直接接触することを意味し、「連結された(coupled)」は、要素が協働する又は相互作用するが、ただしこれら要素は物理的又は電気的に直接接触していても、いなくてもよいことを意味する。
【0008】
臨床医による、取り扱いが改善され、かつ効力がより高い抗癒着性膜に対する要望がある。以下に考察する、本発明の様々な実施形態は、水和された、吸収可能(resorbable)かつ効果的な膜を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施形態としては、2つの多糖類(polysaccharides)、即ちアルギン酸塩(alginate)及びヒアルロン酸塩(hyaluronate)を含む膜があげられる。一実施形態としては、アルギン酸塩及びヒアルロン酸塩のみを含み、その他ほとんど何も含まない(little to nothing else)膜があげられる。膜内の各重合体の比率は、実施形態により異なってよい。例えば、一実施形態では、アルギン酸塩成分は、(膜の残りの部分を構成するヒアルロン酸塩と共に)乾燥質量の10%~95%含んでよい。他の実施形態では、当該膜は、(膜の残りの部分を構成するヒアルロン酸塩と共に)アルギン酸塩を乾燥質量で50%~75%含む。一実施形態では、当該膜は、(膜の残りの部分を構成するヒアルロン酸塩と共に)アルギン酸塩を60%~70%含む。
【0010】
一実施形態では、アルギン酸塩成分は、マンヌロン酸塩(mannuronate)(M)ユニットとグルロン酸塩(guluronate)(G)化学ユニットとの共重合体であってよい。アルギン酸塩主鎖(backbone)は、これら2つのユニットからなってよい(例えばMMMMMM,GGGGGG,及びMGMGMGパターン)。特定のアルギン酸塩におけるM及びGユニットの比率は、例えば植物起源による。ある実施形態では、その植物起源からアルギン酸塩が収集される。アルギン酸塩は、M及びGユニットの比率により特徴づけられてよい。一実施形態でのアルギン酸塩成分は、Mユニットが高比率であるアルギン酸塩(即ち高Mアルギン酸塩)、Gユニットが高比率であるアルギン酸塩(即ち高Gアルギン酸塩)、及び高Mアルギン酸塩及び高Gアルギン酸塩のブレンドのいずれであってよい。一実施形態では、ユニットにおける「高比率である」とは、50%以上を含むが、他の実施形態では、その値は60%,70%,80%,90%,それ以上であってよい。
【0011】
アルギン酸塩(alginates)は、様々な塩形態で得られてよい。アルカリ金属(例えばナトリウム及びカリウム)及びマグネシウムのアルギン酸塩は、水溶性である。アルカリ土類金属(例えばカルシウム、ストロンチウム、バリウム)のアルギン酸塩は非水溶性である。アルギン酸塩は、遷移金属(例えば鉄及び銅)とともに不溶性塩を形成してよい。アルギン酸塩の非水溶性は、アルギン酸塩主鎖のGユニットの多価カチオンによるイオン架橋によるものであってよい。一実施形態では、水溶性アルギン酸塩は、フィルムキャスティング用の溶液の製造に用いられうる。キャスティング後、アルギン酸塩をイオン交換により不溶性塩形態に変換して最終的な膜を得る。一実施形態では、アルギン酸ナトリウムを、フィルムキャスティングに用いて、かつ、引き続き、膜が得られた後、アルギン酸カルシウムに変換する。全身で見つかる元素であるカルシウムは、架橋剤として機能でき、かつ生体適合性の観点から適当なオプションである。
【0012】
ヒアルロン酸塩(hyaluronate)は、N-アセチルグルコサミンとグルクロン酸化学ユニットとの交互多糖である。様々な実施形態では、動物原料及び微生物原料から、多数の分子量で重合体が得られてよい。酸形態のヒアルロン酸(HA)が得られてよいが、水溶性は限定される。研究及び臨床的用のヒアルロン酸塩(hyaluronate)ストックは、塩、特にナトリウム塩が圧倒的である。一実施形態では、ヒアルロン酸ナトリウム塩は、例えばその商業的入手性のため、膜製造に用いられる。他の塩もまた得られるが、アルギン酸塩と異なり、これらの塩は水溶性である。
【0013】
ヒアルロン酸塩は、身体の結合組織全体に、特に皮膚、軟骨、及び目のレンズ体液内に見られる。それは、分子量数百万までに達しうる極めて巨大な高分子である。それは、特殊タンパク質に結合して、組織の成長及び創傷治癒のための構造的フレームワークである高分子錯体(complexes)を形成することができる。ヒアルロン酸塩の主鎖は、カルボキシル官能性の分布率(prevalance)のため極めて負に荷電している。ヒアルロン酸塩は、高分子量及び高電荷密度の組合せにより、体内で固有である。これらの特性のため、ヒアルロン酸塩は多くの水分子に結合でき、それにより組織の水和及びホメオスタシスが維持される。
【0014】
ヒアルロン酸塩は、生体適合性である。ヒアルロン酸塩は、身体の組織全体至る所に存在する。従って、免疫システムは、それを外来性と認識しない。さらに、ヒアルロン酸塩は、創傷治癒と、特に傷跡のない創傷治癒及び胎児組織成長と強く関係する。
【0015】
HAは架橋されてよい。メタクリレート基は、入手可能なカルボン酸基に結合し、次いでこれらの基は、光硬化によりともに結合する。しかしながら、光架橋されたHAのみでは、剛性がなく容易に破砕するフィルムになる。より多くの構造及び剛性があるフィルムを得るため、一実施形態ではアルギン酸塩を追加する。カルシウムには、生体適合性があり、身体にはカルシウムレベルを調節するシステムがあるため、架橋剤として用いられうる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
より具体的には、一実施形態では、ヒアルロン酸塩及びアルギン酸塩を含む膜があげられる。これらの重合体に加えて、当該膜は、水を顕著な比率で含んでよく、かつハイドロゲルとして分類されてよい。ハイドロゲルは、過剰な水に曝露されたとき膨潤する物質である。分子レベルでは、当該ハイドロゲルは、水性媒体内に分散された重合体鎖のネットワークを含む。一実施形態のハイドロゲル膜の特徴は、個々の重合体鎖を結びつける架橋(crosslinks)である。当該架橋は、ハイドロゲルを水中で膨潤させるが、ハイドロゲルが完全に溶解することを防ぐ。水それ自体が生体適合性であるため、ハイドロゲルは、生体適合性の傾向にある。従って、ハイドロゲルは、物質を生組織と接触させる臨床用途にとって魅力的である。
【0017】
一実施形態では、カルシウムの存在下で架橋されたゲルを生成するアルギン酸塩の機能により、アルギン酸塩は膜のフレームワークを形成する。この架橋されたフレームワークにより、膜に機械的安定性と形状がもたらされる。ヒアルロン酸塩成分は、アルギン酸塩ゲル内に封じ込められるが、その放出は、アルギン酸塩ゲルの細孔よりも大きなサイズであることにより制限される。ヒアルロン酸塩は、アルギン酸塩よりも親水性が高く、そのためヒアルロン酸塩が高比率であるハイドロゲル組成物の水膨潤はより大きい。アルギン酸塩に対するヒアルロン酸塩の比率が低い場合、ヒアルロン酸塩成分は、架橋されたアルギン酸塩マトリクス内に完全に又は部分的に取り込まれ、溶出は制限される。しかしながら、アルギン酸塩に対するヒアルロン酸塩の比率が高い場合、架橋されたアルギン酸塩は溶出可能なヒアルロン酸塩成分を保持できない場合がある。ヒアルロン酸塩成分は、ヒアルロン酸が強い親和性を含む水中で膜をリンスして溶出させることができる。ヒアルロン酸塩が溶出されると、水の拡散のための相互接続された経路を提供する空の孔を膜内に残す。したがって、膜の含水量を変化させることにより、柔軟性と弾性のような膜の物理的特性も変化する。孔を変化させることにより、製造中の膜からのヒアルロン酸塩の溶出は、膜の物理的特性を有利に変更する手段として用いられうる。また、ヒアルロン酸塩の溶出は、ヒアルロン酸塩の再生促進性(pro-regenerative)の創傷治癒特性を生かすために、ヒアルロン酸塩を創傷部位に送達する手段として、生体内でおこってよい。
【0018】
図2は、アルギン酸塩/ヒアルロン酸塩膜の水膨潤比率を組成の関数として表す。膜は親水性であり、水を吸収する。膜内でのヒアルロン酸塩の比率が高まると、膜がより親水性になり、膜の水膨潤容量が高まる。
【0019】
一実施形態では、膜は、溶液キャスティングにより調製される。これには、
アルギン酸塩及びヒアルロン酸塩の水溶性塩形態を水性混合物に溶解する必要がある。次いで溶液のある容量を、モールド内へ分注することができる。適当なモールドは、いかなる形状又はサイズであってよい。溶液の水を蒸発させて、カルシウム塩の水溶液に浸すことで架橋できる乾燥した薄膜を得ることができる。架橋すると、水中で膨らむが溶解しないハイドロゲル膜が得られる。

架橋は、水中で膨潤するが溶解しないハイドロゲル膜を生成する。スピンキャスティング、キャスティングナイフによるドクターブレード法、押し出し等のキャストフィルムを得るための同様の技術により、水蒸発工程が必要ないフィルムを製造できる。これらのフィルムは、乾燥工程がなくても、カルシウムにより架橋することができる。
【0020】
ドクターブレードは、決められた厚さの湿潤フィルムの作製に用いられる手段である。一実施形態では、基板上にある容量のアルギン酸塩/ヒアルロン酸塩溶液を分注してから、当該ドクターブレードを用いる。次いで、溶液の上からドクターブレードを被せて、溶液を決められた厚さの平坦なフィルムへと展開する。当該ドクターブレードにより、過剰な溶液が除去され、それにより基板を被覆する所定の厚さの湿潤フィルムが製造される。
【0021】
組織アンカー
ここから、より具体的に、封鎖(sequestering)溶液を用いた液体組織アンカーの実施形態について議論する。以下に説明する組織アンカーの実施形態は、上記実施形態とともに用いてよいし、それらの実施形態とは独立して用いてもよい。
【0022】
一実施形態は、1以上の架橋剤(例えばカルシウム)を除去することにより、架橋を解除することができる架橋成分(アルギン酸カルシウム等)で構成された接着バリア又はいかなる移植可能装置を、損傷部位で架橋剤(カルシウム等)を除去する封鎖溶液で処理する方法を含む。本発明の一実施形態は、(インプラントとは無関係に)封鎖溶液自体としても理解できる。
【0023】
当該封鎖溶液の一実施形態は、カルシウムキレート剤を含むが、他の実施形態はそのような限定はない。
【0024】
一実施形態では、封鎖溶液は、インプラント内で架橋(架橋実施形態に関する上の考察を参照)を崩壊させて機能する。架橋の崩壊は、インプラント内で封鎖剤(sequestering agent)を架橋剤に結合することにより生じる。一実施形態では封鎖剤は、インプラントの架橋性成分が結合するよりも強く架橋剤に結合して崩壊がおこる。より具体的には、封鎖剤は、架橋剤又はイオンを封鎖(sequester)できるが、それにより、システムの全体的エネルギーが低下するからである。このエネルギー低下により、移植(implanted)装置が緩和されて、装置の機械的完全性が低下する。当該装置は、組織ジオメトリに一致し、水素結合の性質により粘膜付着性になる。この粘膜付着性により、他のアンカー装置(例えば縫合糸又は組織糊)が必要なくなる。
【0025】
図3は、腹部外傷についてラットモデルの腸への、アルギン酸塩及びヒアルロン酸塩の膜の適用を示す一連の写真である。膜は可撓性であり、正確な位置で容易に配置させることができる。シリンジは、膜の組織癒着(adherence)及び生体吸収性(bioresorption)を促進するいかなる液体組織アンカーを適用する。
【0026】
機械的に堅牢なインプラント(例えばアルギン酸塩癒着膜)は、臨界治癒期間(約2週間)を超えて体内にあってよいが、これは、インプラントが長期間体内にある場合、望ましくない免疫反応の確率が高くなるため、問題となる可能性がある。一実施形態では、封鎖溶液は、接着性バリアの生体吸収の速度を増加させる。しかし、一実施形態では、移植された(implanted)装置は、封鎖溶液とともに用いると、処置後2週間以内に完全に吸収される(resorbs)。しかしながら、他の実施形態は、この期間を短くしたり長くしたりすることができる。
【0027】
様々な実施形態では、適当な封鎖剤は、架橋剤(カルシウム、マグネシウム、カドミウム、銀、亜鉛、ケイ素、酸化剤、プロトン酸、金属化できる化合物等)に結合できる複数のアニオン性官能基を含む有機分子の塩である。例としては、クエン酸,EDTA,EGTA,BAPTA,テトラサイクリン,及びリン酸塩があげられる。
【0028】
一実施形態では、封鎖溶液の強度は、封鎖剤のモル濃度に依存する。例えば、より大きなモル濃度の封鎖剤を配合した溶液は、インプラント内のより多くの架橋を破壊し、それに応じて生体吸収の速度が上昇する。したがって、封鎖剤溶液内の封鎖剤の濃度は、体内でのインプラントの所望の再吸収速度を得るために調整することができる。例えば、300mMのクエン酸塩により、100mMの塩化カルシウム溶液で架橋されたアルギン酸塩/ヒアルロン酸塩フィルムには生体吸収が一週間もたらされる。一方、100mMクエン酸塩により、100mM塩化カルシウム溶液で架橋させたアルギン酸塩/ヒアルロン酸塩フィルムには生体吸収が2週間もたらされる。その上さらに、封鎖溶液を用いない場合、この同一フィルムは、6週間存続する。このような調整が可能であるため、1つのインプラントで様々な適応症の治癒支援を促進することができる。例えば、ヘルニアの修復では、線維芽細胞の成長が十分になるまで、6週間といった長期間のサポートが必要になる場合がある。この時間枠は、約2週間で生物吸収が必要になる腹部抗癒着とは対照的である。
【0029】
一実施形態では、外科医は、封鎖溶液で架橋を解除することができる架橋成分(アルギン酸カルシウム等)で構成されたインプラントが用いられるいかなる外科的処置中に封鎖溶液を用いて、無用な組織の癒着または無用な瘢痕組織の付着を防止することができる。外科医は、適当な配送装置(例えばシリンジ、スプレー、その他)により、インプラントの表面に封鎖溶液を塗布する。封鎖溶液は、迅速に作用して、無用な架橋(例えばカルシウム)を崩壊させる。その後処理されたインプラントは、下に存在する組織の輪郭に適合しかつより強く接着する。
【0030】
一実施形態では、封鎖溶液を増粘剤と共に配合して、創傷部位への封鎖溶液の塗布を容易にすることができる。増粘剤は、溶液の粘度を高めて、濃厚なシロップ状の液体を生成する。増粘剤は、濃いシロップ状の液体を生成するため、溶液粘度を高める。増粘剤の有益な効果は、より粘性の高い封鎖剤が、粘性の低い水性液よりも適用部位によく閉じ込められることである。一実施形態では、生体適合性と溶液の増粘性の両方で知られるヒアルロン酸ナトリウム等の増粘剤があげられる。
【0031】
様々な実施形態における生体適合性の観点から、封鎖溶液は、一般的に用いられるリン酸緩衝液に見られるような、pHを緩衝したり浸透圧を調整したりする塩を配合することができる。
【0032】
一実施形態は、カルシウムで特異的に架橋されかつ対応するカルシウム封鎖溶液で処理されるアルギン酸バリアがあげられる。しかし、他の実施形態では、同じ方法を他のイオンにも適用することができる。例えば、様々な実施形態では、アルギン酸バリアは、バリウム、ストロンチウム、銅、鉄等のカチオンで架橋される。同じ封鎖剤を用いて、これらの架橋剤を崩壊させることができる。
【0033】
材料の架橋は、材料とそれ自体又は他の材料との間の結合数が増加することをいう。結合の増加により、材料全体の屈折率が変化し、材料を通過する光が歪む。本実施形態では、インプラント内の結合を減らす封鎖溶液が含まれるため、得られるインプラントの屈折率は、封鎖溶液の投入(administration)により変化する。例えば、アルギン酸塩及びHA癒着バリアは、架橋した場合半透明であり、カルシウム封鎖溶液を塗布すると透明になる。図1は、アルギン酸塩とヒアルロン酸塩を含む膜(2cm×4cm)の一例を表す。膜の表面は、薄く、柔軟で、親水性で、半透明、かつ滑らかで潤滑性である表面である。
【0034】
一実施形態では、ハイドロゲル膜及び封鎖溶液はキット内でもたらされる。当該キットはまた、封鎖溶液を創傷部位に塗布するのに適した送出装置を含むであろう。手術室にいる外科医や他の医療従事者は、当該キットを用いて膜と適当な量の封鎖溶液を創傷部位に塗布する。このアプローチにより、エンドユーザは、患者特有の要望に合わせて、膜サイズと溶液体積とを調節することができるという大きな柔軟性が得られる。
【0035】
封鎖溶液を、膜の移植から数時間、数日、又は数週間後、膜に塗布することができる。例えば、ハイドロゲル膜を創傷部位に置いて無用な瘢痕組織癒着を防止することができる(例えば屈筋腱修復)。瘢痕形成の期間の経過後、通常3~14日後、膜バリアはもはや必要でなく、従って、膜を完全に溶かすために封鎖溶液を、創傷部位内へ注入することができる。この行為は、創傷部位から膜を除去することを目的としているため、無用な異物反応を防ぐことができる。当該封鎖溶液は、針と注射器で周囲の組織を貫通して導入するか、低侵襲の外科的手段で導入することができる。
【0036】
多層ハイドロゲル
本発明の一実施形態としては、1つの層で再生を促進し、2つ目の層で無用な瘢痕組織の形成を防ぐ、多糖類系二層ハイドロゲルフィルムがあげられる。例えば特許文献1~3に記載されたハイドロゲルは、1つの層で再生効果を提供し、2つ目の層で抗癒着効果を提供する、異なる層を備える多層ハイドロゲルの形成に用いられる。ハイドロゲルの再生層は、インビトロでの細胞の付着と増殖を促進する。ハイドロゲルの抗癒着層は、不要な細胞の付着を防ぎ、線維性組織の形成を制限する。ハイドロゲルは、抗癒着側または再生側のいずれかが内腔に露出した状態で、導管に巻き込むことができる。
【0037】
一実施形態としては、一方の側で瘢痕組織癒着を防止し、他方の側で健全な再生を促す生体高分子を含む二層ハイドロゲルがあげられる。抗癒着層は、ヒアルロン酸塩とアルギン酸塩を含む。再生層は、コラーゲンとヒアルロン酸塩を含む。2つの層は区別されており、共有結合している。一実施形態では、細胞付着及び増殖を促すコラーゲンマトリクスがあげられる。
【0038】
実施形態は、望ましくない軟組織付着の問題を解決し、並びに損傷された組織の再生を支援して臨界治癒時間を軽減する。様々な実施形態は、非合成の全天然成分を用いて抗癒着(anti-adhesive)層及び再生層を提供する。一実施形態としては、天然多糖類で構成される生体適合性二層ハイドロゲルがあげられる。
【0039】
一実施形態は、自己接着性であり、縫合糸又はねじが必要ない。一実施形態は、より優れた組織結合(例えば組織をメッシュに縫合すること)を可能にするためにメッシュ材料と結合されて(例えば被覆されて)よく、ヘルニア修復、胆嚢摘出等といった様々な手順において有用でありうる。より一般的には、実施形態は、腹腔内外科手術、及び/又は腹部,婦人科系,肺,腱,心臓,神経解剖術その他に関する手順を含む様々な外科的処置で移植されることができる。
【0040】
一実施形態では、アルギン酸塩及びヒアルロン酸塩の光反応性誘導体(GMHA)との膜を、例えば、全ては参照により本書に援用される国際公開公報第02009/108760号、同2012/048283号、同2012/048289号に記載された方法に従って調製した。第1の膜層の調製後、試料を、滅菌条件下で乾燥し、コラーゲンとGMHAとの第2の層を最上部にキャストした。2つの層は、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)で処理することにより化学的に架橋さして融合させた。二層形成は、蛍光標識したヒアルロン酸塩及び免疫染色下コラーゲンの共焦点画像を用いて確認した。ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)を用いてインビトロでの細胞形態を特徴付けした。インビトロでの細胞形態及び特徴付けから、コラーゲン層は接着性、増殖性基材を効果的に提供することが示された。抗癒着層は、細胞増殖及び付着を効果的に防止する。
【0041】
図4は、アルギン酸塩,ヒアルロン酸塩,及びコラーゲンを含む二層膜の画像を含む。このフィルムは、共焦点レーザー走査蛍光顕微鏡法で撮影された。図4(A)及び図4(B)は各々、(ヒアルロン酸塩及びアルギン酸塩を含む)抗癒着層内及び(ヒアルロン酸塩及びアルギン酸塩を含む)再生層内の蛍光標識されたヒアルロン酸塩の存在を表す。図4(C)は、再生層に付着したヒト真皮繊維芽細胞の癒着形態を表す。図4(D)は、細胞が抗癒着層への細胞の接着が不十分であることを示す。図4(E)は、二層フィルムの有利な取り扱い特性を表す写真である。要するに、これらの画像は、再生層は細胞のための接着性基材を提供し、抗癒着層は細胞付着を防止することを示す。
【0042】
図5におけるHAは、D-グルクロン酸ナトリウム及びN-アセチル-D-グルコサミンとからなる繰り返し二糖ユニットがある線形多糖類である。天然グリコサミノグリカンは、皮膚,関節液,並びに皮下組織及び間質組織の成分である。HAは、身体から代謝的に除去され、細胞を保護しかつ潤滑にし、かつ組織の構造的完全性を維持する機能がある。アニオン性カルボン酸基は、HAに粘弾性と抗細胞癒着特性とを付与する水分子を固定化する。様々な実施形態では、いかなる適当な架橋技術を用いて、層はともに融合されうる。例えば、重合性官能基(functionalities)でグラフト化されたフィルム成分の光開始架橋は、層を融合する。適当な化学架橋剤(例えばEDC)を用いてよい。イオン架橋(例えばアルギン酸塩成分のカルシウム架橋)はまた、様々な層をともに融合しうる。第2の層を追加しても外科領域は可視化される。
【0043】
図5は結晶テンプレート法(crystal templating)を示すが、他の実施形態にも、同一のプロセスがあってよい。ただし、当該実施形態は、結晶テンプレート法関連工程を省略する(例えば、工程2及び2はある実施形態では実施されないが、図5の残りの工程は実施される)、その代わり本質的にHAとアルギン酸塩からなる抗癒着層で進行する。
【0044】
二層ハイドロゲルを繰り返し考察したが、当該実施形態は、2つの層に限定されず、そのかわり3,4,5,6,7,8以上の層を含むことができる。外側層はいずれも、外側層と外側層との間に配置された1以上の再生層と共に抗癒着性であってよい。
【0045】
実施形態はまた、HA/コラーゲン及びアルギン酸塩/HA層に限定されない。例えば、抗癒着層は、滑らかな非接着性表面を呈するいずれの重合体又は重合体の組合せから構成されてよい。再生層は、細胞付着及び増殖を促す重合体又はタンパク質(例えばラミニン)のいずれの組合せから構成されてよい。
【0046】
治療薬送達
本発明の一実施形態としては、創傷部位において医薬活性成分を放出する、アルギン酸塩とヒアルロン酸塩を含む生体適合性膜があげられる。活性成分は、抗生物質,抗炎症,化学療法剤,瘢痕防止剤,及び/又はプロ再生薬(例えば成長因子又は幹細胞)であってよい。
【0047】
瘢痕化,炎症,及び細菌感染は、外科的処置の無用な合併症である。外科的処置中、身体の組織及び器官が、故意に又は不注意により傷つけられる場合がある。これらの損傷は、瘢痕化と炎症の原因となる創傷治癒応答を促す場合がある。瘢痕は、隣接する組織や臓器の間に、本来は付着しないはずの瘢痕組織が付着した場合に問題となる。患者は、特に細菌増殖のための隙間(niches)を提供する重合体又は金属インプラント周辺で細菌感染しやすくなる。
【0048】
一実施形態としては、封じ込められた医薬活性成分と共にアルギン酸塩とヒアルロン酸塩を含む膜があげられる。一実施形態では、封じ込められた医薬活性成分と共に本質的にアルギン酸塩とヒアルロン酸塩を含む。一実施形態では、分散形態又はマイクロ結晶質形態のいずれかで、溶液内で、アルギン酸塩及びヒアルロン酸塩を活性成分と共に混合することにより、及び次いで、例えばモールド内へキャストする方法、スピンコート法、ドクターブレード法、その他の平面膜を得る方法を用いて、薬物(drug)を充填した膜が得られる。次いで、カルシウム等の多価カチオン(ただしカルシウムに限定されない)で架橋することにより、膜を安定化することができる。場合によっては、アルギン酸塩又はヒアルロン酸塩いずれかを、(紫外線源又は可視光源に晒される場合、化学的架橋を受ける)その光反応性誘導体で置換することにより、膜をさらに安定化することができる。一実施形態では、膜は活性成分なしで調製された後、引き続きその成分が充填されうる。例えば、膜を濃縮溶液内へ浸すことにより膜に溶液からの活性成分を吸収させる。一実施形態では、膜は、膜を構成する重合体と共有結合又は静電的に結合する活性成分の溶液と共にインキュベートされてよい。
【0049】
一実施形態としては、瘢痕化,炎症,又は細菌感染を阻害、軽減、又は予防する前記薬物充填膜実施形態の1つを用いる方法があげられる。無用な瘢痕化又は炎症のリスクがある外科的処置後の、例えば、腹腔,腱周囲(peritendinous)空間、洞腔(sinus cavity)その他の身体のいかなる解剖学的領域でも、当該膜を用いることができる。同様に、細菌感染のリスクをもたらすいかなるインプラントの近く又は周辺に、膜を配置することができる。一実施形態としては、腫瘍へ又は腫瘍摘出後の処置部位へ化学療法剤を送達する、当該薬物充填膜実施形態を用いる方法があげられる。一実施形態では、本発明は、組織修復及び治癒を促進する、成長因子又は幹細胞等の再生促進剤を送達する、上記の薬物充填膜実施形態を用いる方法である。当該膜は、開腹手術及び低侵襲手術の両方で用いることができる。
【0050】
一実施形態としては、膜の放出特性を改善するため、薬物充填膜を刺激(好ましくは溶液又はゲル)で処理する方法があげられる。例えば、溶液は、膜溶解速度を高めることができ、従って封じ込められた医薬活性成分の放出速度が高まる。このような溶液は、膜を安定化させる多価のカチオンを封鎖する(sequester)キレート剤を含む。一実施形態では、溶液は、膜を安定化させる多価のカチオンを封鎖するキレート剤で本質的に構成されている。この溶液は、膜を傷口や処置部位に配置した後に適用することができる。しかしながら、他の実施形態では、この溶液を膜の移植の数時間後、数日後、または数週間後に膜に塗布してよい。後の時点で溶液を塗布することにより、医療従事者は患者の特定のニーズに合わせて薬物放出を調整させることができる。
【0051】
一実施形態は、活性成分を創傷部位に放出することを目的とした膜を含むため、全身性送達による副作用を回避することができる。このような実施形態は、生体適合性及び生体吸収性である。膜を含む実施形態は、外科的処置中に容易にカット及びトリミングすることができ、かつ組織及び器官の傷ついた表面を覆うのに便利である。そのような実施形態を、深部または表層の傷に挿入して、瘢痕化,炎症,又は細菌感染を軽減又は予防する活性成分を放出させることができる。
【0052】
ハイドロゲル膜は、水中で膨潤するアルギン酸塩及びヒアルロン酸塩のネットワークで構成される。このネットワークは、濃縮溶液由来の活性成分を吸収できる孔を提供する。ハイドロゲル膜の孔は、水が透過する相互に連結した経路を構成する。最初は、孔はオングストロームからナノメートルの範囲で小さく、溶媒、塩、有機代謝物等の小分子しか吸収できない。水が膜に浸透すると、孔が膨らみ、サイズと体積が大きくなる。完全に膨らんだ孔は、ナノメートルからマイクロメートルの範囲で、ペプチド、タンパク質、及び高分子の拡散を受け入れることができる。
【0053】
膜の孔は、膜のヒアルロン酸塩成分の溶出により形成されてよい。ヒアルロン酸塩のアルギン酸塩に対する比率が低い場合、ヒアルロン酸塩成分は、架橋されたアルギン酸塩マトリクス内に完全に又は部分的に封じ込められ、溶出は制限されるがしかし、ヒアルロン酸塩のアルギン酸塩に対する比率が高い場合、架橋アルギン酸塩は、溶出可能なヒアルロン酸塩を保持できない可能性がある。ヒアルロン酸塩が強い親和がある水中で膜をすすぐことにより、ヒアルロン酸塩成分を溶出できる。ヒアルロン酸塩が溶出すると、水と薬物分子の拡散のための相互に連結した経路を提供する空の孔が膜内に残る。膜からのヒアルロン酸塩の溶出は、生体内で起こり、創傷部位へヒアルロン酸塩を送達する方法として用いることができる。これは、ヒアルロン酸塩の再生促進性創傷治癒特性を利用する方法として有利であろう。
【0054】
一実施形態では、膜は、結晶テンプレート法により、マイクロメートルから数百マイクロメートルの規模で、相互に連結した孔ネットワークを作製することができる。キャストされたフィルム内の結晶の核生成および成長により、多孔性ネットワークを形成する方法である。このような膜は、
アルギン酸塩、ヒアルロン酸塩及び結晶化可能な分子の溶液を型(form)又は容器内へキャストする;溶媒を蒸発させる;自発的核形成又は結晶シードの意図的に導入して、結晶化可能な分子の結晶を成長させる;結晶周囲のアルギン酸塩及び/又はヒアルロン酸塩を架橋する;かつ、
結晶形状の多孔性ネットワークが膜にテンプレートされるように結晶を溶解させる;工程で調製することができる。結晶の成長過程では、孔の相互接続性が確実となり、かつ樹枝状構造が得られる。この孔系構造は、封じ込められた薬物分子の拡散及び放出に対して有利に作用する(例えば、連続した孔により、ヒドロゲル内への薬物の拡散がより大きくなる)。
【0055】
膜が溶液からの薬物又は他の治療薬を吸収し得るその溶液は、水性溶液であってよい。なぜなら、水は、ハイドロゲル膜の膨潤及び活性成分の孔への拡散を促進するのに適した溶媒であるからである。しかしながら、多くの薬物は水への溶解度が低いため、濃縮溶液は、水と、アルコール(メタノール、エタノール、エチレングリコール等)、水と混和性のある極性非プロトン性溶媒(アセトン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等)、酸、及び/又は塩基等の水混和性溶媒を含む混合溶液であってよい。これらの混合溶液は、水溶性が不十分である薬物を溶解する効果、及び膜を膨潤させる効果がある。これら混合物における水の比率は、特定の薬物の溶解特性に合わせて、100%~0%の範囲であってよい。
【0056】
ハイドロゲル膜は、組み込むことができる薬剤の種類に限定されない。様々な実施形態では、ハイドロゲル膜は、タンパク質、ペプチド、及び小分子を組み込んでよい。実施形態は、化学療法剤、成長因子や幹細胞などの再生促進剤、並びに炎症、感染、瘢痕化、及び癒着の予防又は治療に用いられる薬剤を含んでよい。実施形態は、バンコマイシン、トブラマイシン、ドキソルビシン、モメタゾンフロエート、及びそれらの塩酸塩から選択される活性成分を含んでよい。一実施形態では、ハイドロゲル膜は、血管内皮増殖因子及びヒアルロン酸ナトリウム等の高分子を放出するようにも処方されてよい。ハイドロゲル膜には、活性成分の放出を補助する、非活性成分(例えばバインダ、界面活性剤、塩、その他)が配合されてよい。
【0057】
薬物充填ハイドロゲル膜は、外科的処置中に用いられてよい。一実施形態では、薬物充填膜を、傷ついた組織及び器官の最上部において瘢痕化及び炎症を軽減することができる。傷ついた組織は、膜を体腔内に挿入する内部組織であってよく、膜を傷ついた部分に局所的に適用する外部組織であってよい。一実施形態では、薬物充填膜を、手術部位に細菌感染の原因となる危険性のあるインプラントに隣接して配置してよい。一実施形態では、化学療法剤を放出するため、薬物充填膜を、腫瘍近くに又は腫瘍切除の部位に配置してよい。
【0058】
一実施形態では、当初は薬物無充填のハイドロゲル膜を、使用直前に膜と結合される薬物成分を含むキット内で提供してよい。この方法は、膜と薬剤を別々に保管できるという利点がある。例えば、病院、オフィス、手術室の外科医、看護師、その他の医療従事者は、キットを開封し、膜を薬液に浸透させた後、当該薬液に浸した膜を損傷部位に適用することができる。この方法は、疾病状態,体重,年齢,及び代謝に基づく患者特有の要望を満たすため、膜と薬剤の組み合わせとのミックス・アンド・マッチができるため、最終使用者に高い柔軟性を付与することができる。
【0059】
ハイドロゲル膜から薬物を放出するタイミングは、多くの要因によって決定される。これらの要因の中には、充填された薬物の量、膜組成(例えばヒアルロン酸塩のアルギン酸塩に対する比率)、架橋の程度、及び膜の水含有量がある。例えば、ヒアルロン酸塩のアルギン酸塩に対する比率を高めることで、膜の架橋密度が低下し、それによりカプセル封入された薬物の拡散に対する膜の浸透性が高まりうる。他の例では、膨潤による含水量が膜の多孔性に相関しているため、含水量が多い膜はより速い放出を示す可能性がある。
【0060】
一実施形態では、膜からの活性成分の放出は、用いる刺激により変更されてよい。そのような刺激としては、水溶液又はゲルの形態で、膜を安定化させる架橋イオン(例えば、カルシウム)を封鎖するキレート剤があげられる。一実施形態では、水溶液又はゲルの形態のそのような刺激物は、膜を安定化させる架橋イオン(例えば、カルシウム)を封鎖するキレート剤で本質的に構成されてよい。適当なキレート剤は、カルシウム(または用いられるあらゆる架橋イオン)に結合できるアニオン性官能基が複数ある有機分子の塩である。例としては、クエン酸,EDTA,EGTA,BAPTA,テトラサイクリン,及びリン酸塩の塩があげられる。刺激は、ヒトの身体内部に膜を挿入した後の外科的処置中に適用することができる。刺激に反応して膜が膨潤し、膜の孔サイズが大きくなり、かつ膜から創傷環境への活性成分の拡散速度が速まる。孔サイズは、少なくとも10倍以上、最大で1,000倍以上に高まる。刺激の有益効果は、体重,年齢,代謝,又は疾病状態等の患者の状態に合わせて薬剤の放出速度を調整できることである。刺激は、シリンジやスプレー機構などを介して、移植された膜の表面にもたらすことができる。
【0061】
他の実施形態では、刺激は、膜の移植の数時間後、数日後、または数週間後に膜に適用されてよい。例えば、抗生物質であるバンコマイシンを装填した仮想的な膜を、骨インプラントに隣接して挿入することができる。この膜は、抗生物質の放出を示す。医療従事者が骨インプラントの周囲に感染症の症状を認識した場合、医療従事者は膜を刺激してこの抗生物質の放出速度を高め、感染症への対処を選択することができる。薬剤がすべて放出された後、医療従事者は、バンコマイシンの送達という目的を果たした膜を、刺激の作用によって完全に可溶化し、創傷部位から異物である膜の存在を消去すべきと判断することができる。刺激は、周囲の組織を貫通する針と注射器によって導入することができるか又は、最小侵襲性の外科的手段によって導入することができる。
【0062】
上記の実施形態の多くは、治療薬と多孔性ハイドロゲルとを組み合わせる。上記のこのような多孔性ヒドロゲルの1つとして、結晶テンプレートヒドロゲルがあげられる。一例として、米国特許出願公開第20110008442号明細書に見られる実施形態は、治療薬とともに利用してよい。その内容が本書に援用される当該出願としては、結晶テンプレート法により形成された有孔ハイドロゲルがあるいくつかの実施形態と、結晶テンプレート法では形成されていない孔がある他の実施形態があげられる。本明細書に記載される治療薬は、これらの実施形態のいずれかのこれらの孔を含んでよい。
【0063】
一実施形態としては、治療薬を展開するのに用いられる組織アンカーがあげられる。例えば、治療薬を含むハイドロゲルを、薬剤に適用してよい。ハイドロゲルを患者に塗布し、かつ放置してよい。しかしながら、ハイドロゲルを「調整する(tune)」ため、刺激を与えてよい。例えば、ハイドロゲルは、カルシウム架橋と治療薬を含んでよい。カルシウムキレート剤をカルシウム架橋ヒドロゲルに適用すると、(1)ハイドロゲルが患者に付着する(例えば腫瘍に付着する)のを補助し、(2)ハイドロゲルの溶解時間(例えば1時間又は1週間)を促進又は調整し、かつ、(3)治療薬適用時間(例えば1時間又は2週間)を調整することができる。
【0064】
実施形態を、上記多層ハイドロゲルと組み合わせてよい。従って、一実施形態としては、治療剤を展開するために用いることができる多層ハイドロゲルがあげられる。多層ヒドロゲルは、再生効果を提供する第1の層(例えば、コラーゲン及びヒアルロン酸塩を含む再生層)と、抗癒着剤である第2の層(例えば、ヒアルロン酸塩およびアルギン酸塩を含む抗癒着層)とを含み、第2の層の孔がある治療剤がさらにあげられる。
【0065】
一実施形態としては、接着性バリアに有益な四要素があるフィルムがあげられる。実施形態により、接着性バリアの従来の負担であったハンドリング特性の悪さが解決される。これにより、当該バリアの市場受容が夥しく妨げられてきた。四要素について、第1の要素としては、外科的設定(例えば、開腹手術、腹腔鏡下手術のためのトロカールの使用など)に関連する方法で操作されるべきバリアの機能が含まれるための能力があげられる。第2の属性は、組織への接着性である。バリアが埋め込まれた場所に留まることができれば、部位に応じた組織のサポートが得られるだけでなく、縫合や別の固定ステップの必要性がなくなる(または少なくとも軽減される)。第3の属性は、適合性である。最後の属性は、生体吸収性である。本発明の一実施形態は、これらの四要素をすべて満たす。
【0066】
一実施形態は、ハイドロゲルに多孔性及び繊維を追加する技術を用いる。異なる結晶、異なる密度のバイオポリマーを用いて、容易に調整可能なプロセスにするという柔軟性があり、異なるポリマー特性、異なるパターン等が付与される。当該柔軟性に加えて、ハイドロゲルの生産をスケールアップすることができる。一実施形態としては、結晶性ネットワークの周辺にHAを光架橋し、さらに結晶性ネットワークの周辺にアルギン酸塩を化学的に架橋する。バイオポリマーを繊維状に圧縮することでフィルムの強度が強化される一方で、多孔性ネットワークにより弾性が生じる。このように、結晶化プロセスにより、他の脆い素材に必要なハンドリング特性をもたらす独特の繊維と孔が付与される。結晶化プロセスは、安価で簡易、時間もかからず、かつ高度な装置や技術も必要ない。フィルムキャストは、他のキャストと何ら変わらない。
【0067】
一実施形態は湿式で適用されてもよく、これは内視鏡的処置に適しており、これにより外科領域を脱脂する必要がなくなる。フィルムには柔軟性があり、半透明であるため、術野が可視化される。また、外科的切開は、湿潤性インプラントよりもはるかに小さくすることができる。フィルムの一実施形態はまた、一時的に再配置できる。例えば、一実施形態では、術野内の初期配置の際に、フィルムは容易に再配置できる。しかしながら、配置から24時間以内に、フィルムはゲルから粘液へ変化する。この時点で、フィルムはもはや再配置できなくなり、組織に強く接着する。この変化は、内因性ナトリウムイオンによるフィルム内のカルシウム架橋の置換により生じる。
【0068】
本発明の一実施形態としては、アルギン酸塩及びヒアルロン酸塩を含む膜があげられる。膜は、型へのキャスト、スピンコート、ドクターブレード、押し出し等の方法によって得ることができる。膜は、多価カチオン、好ましくはカルシウムとの架橋により安定化される。膜は、多価のカチオン、好ましくはカルシウムでの架橋によって安定化される。場合によっては、膜は、アルギン酸塩又はヒアルロン酸塩のいずれかを、紫外線又は可視光線源で誘発された場合に化学的架橋を受ける、その光反応性誘導体で置換することによって、さらに安定化させることができる。
【0069】
本発明の一実施形態は、瘢痕組織癒着の阻害、軽減、又は予防に上記の膜を用いる方法である。この膜は、瘢痕組織癒着の危険性があるいかなる身体の解剖学的位置にも用いることができる。外科的処置の場合、膜を2つの隣接する器官や組織の間に配置することができる。当該膜は、開腹手術及び低侵襲手術の両方で用いることができる。
【0070】
本発明の一実施形態は、上記の膜を刺激物、好ましくは溶液又はゲルで処理して、膜の特性を変える方法である。例えば、溶液は、膜の組織付着を強化するか、又は体内の膜吸収の速度を高めることができる。このような溶液は、膜を安定化させる多価カチオンを結合するキレート剤(例えばカルシウムキレート剤)を含む。この溶液は、ヒト体内に膜を挿入した後の外科的処置中に適用される。場合によっては、溶液は、外科的処置を容易にするため、粘度調整剤を含んでよい。
【0071】
本発明の一実施形態は、アルギン酸塩及びヒアルロン酸塩を含む上記の膜に医薬活性成分を封入したものである。活性成分は、抗生物質,抗炎症,化学療法剤,瘢痕防止剤,及び/又は成長因子や幹細胞などの再生促進剤であってよい。一実施形態では、膜からの活性成分の放出は、上記の刺激を用いて変更されてよい。
【0072】
本発明の一実施形態は、2つの異なる層を含む二層ハイドロゲル膜であり、一方の層は瘢痕組織の付着を阻害、軽減、又は予防し、他方の層は創傷を促進する。この2つの層は、化学的、イオン性、又は物理的な結合を介して接合される。
【実施例0073】
以下の実施例は、さらなる実施形態に関する。
【0074】
実施例1は、ハイドロゲルフィルムであって、以下の:未架橋ヒアルロン酸塩及び架橋アルギン酸塩;かつ
カルシウムキレート剤
を含み、ここで、
(a)前記アルギン酸塩はカルシウムで架橋され、
(b)前記ハイドロゲルフィルムは平坦であり、かつ幅、長さ、及び前記幅及び長さよりも小さい厚さを含み、
(c)カルシウムキレート剤をハイドロゲルフィルムに適用するのに応じてハイドロゲルフィルムの生体吸収性が高まるように、構成される。
【0075】
実施例2では、実施例1の発明特定事項は、場合によっては、カルシウムキレート剤がハイドロゲルフィルム内のカルシウム架橋を崩壊させるように、構成されることができる。
【0076】
実施例3では、実施例1又は2の発明特定事項は、場合によっては、カルシウムキレート剤は、クエン酸塩,EDTA,EGTA,及びBAPTAを含む群から選択されることができる。
【0077】
実施例4では、実施例1~3の発明特定事項は、場合によっては、カルシウムキレート剤の濃度は、0.05~1.0モル濃度(molar)であることができる。
【0078】
実施例5では、実施例1~4の発明特定事項は、場合によっては、増粘剤であることができる。
【0079】
実施例6では、実施例1~5の発明特定事項は、場合によっては、増粘剤はヒアルロン酸ナトリウムを含むことができる。
【0080】
実施例7では、実施例1~6の発明特定事項は、場合によっては、増粘剤は、カルシウムキレート剤の粘度を高めるように構成されることができる。
【0081】
実施例8では、実施例1~7の発明特定事項は、場合によっては、ハイドロゲルフィルムは、ヒアルロン酸塩とアルギン酸塩とから本質的になることができる。
【0082】
実施例9では、実施例1~8の発明特定事項は、場合によっては、ハイドロゲルフィルムは、少なくとも1%かつ33%以下のヒアルロン酸組成を含むことができる。
【0083】
実施例10では、実施例1~9の発明特定事項は、場合によっては、未架橋のヒアルロン酸塩及び架橋アルギン酸塩を含む第1のハイドロゲル層;かつ
【0084】
コラーゲン及びヒアルロン酸塩を含む第2のハイドロゲル層
で構成されてよい。
【0085】
実施例11では、実施例1~10の発明特定事項は、場合によっては、
前記第1のハイドロゲル層はモノリシック(monolithic)であり、
前記第2のハイドロゲル層はモノリシックであるが、前記第1のハイドロゲル層とモノリシックではなく、かつ
前記第1のハイドロゲル層と第2のハイドロゲル層とは互いに共有結合している;
ことができる。
【0086】
実施例12では、実施例1~11の発明特定事項は、場合によっては、さらなる未架橋ヒアルロン酸塩及びさらなる架橋アルギン酸塩を含む第3のハイドロゲル層を含み
【0087】
ここで、前記第3のハイドロゲル層はモノリシックであるが、前記第2のハイドロゲル層とモノリシックではなく、前記第3のハイドロゲル層と第2のハイドロゲル層とは互いに共有結合しており、かつ前記第2のハイドロゲル層は、第1のハイドロゲル層と第3のハイドロゲル層との間にあってよい。
【0088】
実施例13では、実施例1~12の発明特定事項は、場合によっては、アルギン酸塩は、未架橋ヒアルロン酸塩の周囲で架橋されることができる。
【0089】
実施例14では、実施例1~13の発明特定事項は、場合によっては、ハイドロゲルフィルムは、薬物,医薬製剤,ペプチド,タンパク質,医薬,ホルモン,及び高分子を含む群から選択された治療薬を含むことができる。
【0090】
実施例15では、実施例1~14の発明特定事項は、場合によっては、カルシウムキレート剤をハイドロゲルフィルムに適用するのに応じて治療薬に関するハイドロゲルフィルムの放出速度高まるように、前記ハイドロゲルフィルムが構成されることができる。
【0091】
実施例16では、実施例1~15の発明特定事項は、場合によっては、アルギン酸塩は、治療薬の周囲で架橋されることができる。
【0092】
実施例17では、実施例1~16の発明特定事項は、場合によっては、ハイドロゲルフィルム内のヒアルロン酸塩の含有量を増やすのに応じて治療薬に関するハイドロゲルフィルムの放出速度が高まるように、前記ハイドロゲルフィルムは構成されることができる。
【0093】
実施例18では、実施例1~17の発明特定事項は、場合によっては、薬物,医薬製剤,ペプチド,タンパク質,医薬,ホルモン,及び高分子を含む群から選択された治療薬であることができる。
【0094】
実施例19では、実施例1~18の発明特定事項は、場合によっては、カルシウムキレート剤をハイドロゲルフィルムに適用するのに応じてハイドロゲルフィルムに関する粘膜付着性が高まるように、前記ハイドロゲルフィルムは構成されることができる。
【0095】
実施例20では、実施例1~19の発明特定事項は、場合によっては、カルシウムキレート剤をハイドロゲルフィルムに適用するのに応じて透明性を高めるように、前記ハイドロゲルフィルムは構成されることができる。
【0096】
他の実施形態では、ハイドロゲルフィルムの厚さは、5~30μmである。しかしながら、他の実施形態では、ハイドロゲルフィルムの厚さは、5,10,15,20,25,35,40,45,又は50μm以下である。他の実施形態では、ハイドロゲルフィルムの厚さは、5~10,10~15,15~20,20~25,25~30,30~40,50~60,70~80,90~100μmである。他の実施形態では、ハイドロゲルフィルムの厚さは、250μm以下である。
【0097】
実施例21は、架橋アルギン酸塩内に未架橋ヒアルロン酸塩を封じ込めるため、未架橋ヒアルロン酸塩の周囲で架橋される架橋アルギン酸塩から本質的になるハイドロゲルフィルムと;
封鎖剤と
を含むキットであって、
(a)前記アルギン酸塩はイオンで架橋され、
(b)前記ハイドロゲルフィルムは平坦であり、
(c)前記封鎖剤をハイドロゲルフィルムに適用するのに応じてハイドロゲルフィルムの生体吸収性が高まるように、前記ハイドロゲルフィルムは構成され、かつ
(d)前記封鎖剤はイオンを封鎖するように構成される、
キットを含む。
【0098】
実施例22では、実施例21の発明特定事項は、場合によっては、
前記ハイドロゲルフィルムは、
未架橋ヒアルロン酸塩及び架橋アルギン酸塩を含む第1のハイドロゲル層;
薬物,医薬製剤,ペプチド,タンパク質,医薬,ホルモン,及び高分子を含む群から選択された治療薬を含む第2のハイドロゲル層と
を含み;
(a)前記第1のハイドロゲル層はモノリシックであり、
(b)第2のハイドロゲル層はモノリシックであるが、第1のハイドロゲル層とモノリシックではなく、
(c)前記第1のハイドロゲル層と第2のハイドロゲル層とは互いに化学的に結合しており、
(d)第2のハイドロゲル層は接着性であり、かつ
(e)第1のハイドロゲル層は抗癒着性であることができる。
【0099】
実施例23では、実施例21~22の発明特定事項は、場合によっては、
前記ハイドロゲルフィルムは、薬物,医薬製剤,ペプチド,タンパク質,医薬,ホルモン,及び高分子を含む群から選択された治療薬を含み;かつ
封鎖剤をハイドロゲルフィルムに適用するのに応じて治療薬に関するハイドロゲルフィルムの放出速度が高まるように、前記ハイドロゲルフィルムは構成されることができる。
【0100】
実施例24では、実施例21~23の発明特定事項は、場合によっては、
封鎖剤をハイドロゲルフィルムに適用するのに応じてハイドロゲルフィルムに関する粘膜付着性が高まるように、前記ハイドロゲルフィルムは構成されることができる。
【0101】
図6は、一実施形態における一方法を含む。
【0102】
ブロック605は、被験者にハイドロゲルフィルムを適用する工程であって、前記ハイドロゲルフィルムは、未架橋ヒアルロン酸塩及び架橋アルギン酸塩を含み、かつ前記アルギン酸塩は、カルシウムで架橋される工程を含む。
【0103】
ブロック610は、
(a)カルシウムキレート剤をハイドロゲルフィルムに適用するのに応じてハイドロゲルフィルムの生体吸収性を高めるため、
(b)カルシウムキレート剤をハイドロゲルフィルムに適用するのに応じてハイドロゲル内に含まれる治療薬に関するハイドロゲルフィルムの放出速度を調整するため、及び/又は
(c)カルシウムキレート剤をハイドロゲルフィルムに適用するのに応じてハイドロゲルフィルムに関する粘膜付着性を高める、
カルシウムキレート剤をハイドロゲルに適用する工程を含む。
【0104】
ブロック607は任意である。ブロック607は、カルシウムキレート剤の粘度を高めるため、増粘剤をカルシウムキレート剤に適用する工程を含む。これは、カルシウムキレート剤がハイドロゲルに適用される前又は後にしてよい。
【0105】
一実施形態では、ハイドロゲルフィルムは、未架橋のヒアルロン酸塩及び架橋アルギン酸塩を含む第1のハイドロゲル層と;
コラーゲン及びヒアルロン酸塩を含む第2のハイドロゲル層と
を含む。このような実施形態により、ブロック605は、第2のハイドロゲル層を患者の傷に適用する工程を含んでよい。
【0106】
一実施形態では、図6におけるカルシウムキレート剤は、封鎖剤と置き換えられ、架橋されたカルシウムは、より一般的には封鎖剤と対応するイオンに基づく架橋に基づく。
【0107】
他の実施形態は、ハイドロゲルフィルムを被験者に適用する工程を含む方法であって、ハイドロゲルフィルムは、未架橋のヒアルロン酸塩及び架橋アルギン酸塩を含む方法を含む。前記アルギン酸塩はカルシウムで架橋され、
前記ハイドロゲルフィルムは平坦であり、かつ幅、長さ、並びに前記幅及び長さより小さい厚さを含む。当該方法は、
カルシウムキレート剤をハイドロゲルフィルムに適用するのに応じてハイドロゲルフィルムの生体吸収性が高まるように、カルシウムキレート剤をハイドロゲルに適用する工程をさらに含む。当該方法は、ハイドロゲルを患者に塗布してから1日以上後にカルシウムキレート剤をハイドロゲルに適用する工程をさらに含む。一実施形態では、当該方法は、カルシウムキレート剤の粘度を高めるため、増粘剤をカルシウムキレート剤に適用する工程をさらに含む。一実施形態では、ハイドロゲルフィルムは、未架橋のヒアルロン酸塩及び架橋アルギン酸塩を含む第1のハイドロゲル層と;

コラーゲン及びヒアルロン酸塩を含む第2のハイドロゲル層と
を含む。当該方法は、第2のハイドロゲル層を患者の傷に適用する工程をさらに含む。他の実施形態は、ハイドロゲルフィルムを、その外側表面が第1のハイドロゲル層を含むロールに丸める工程を含む。前記実施形態は、第1のハイドロゲル層をトロカール,イントロデューサ,又はチューブと接触させて、ハイドロゲルフィルムが、トロカール,イントロデューサ,又はチューブに粘着又は接着せずに、ハイドロゲルフィルムを患者内に導入する工程を含む。一実施形態では、ハイドロゲルフィルムは、薬物,医薬製剤,ペプチド,タンパク質,医薬,ホルモン,及び高分子を含む群から選択された治療薬を含む。当該方法は、カルシウムキレート剤をハイドロゲルフィルムに提供することにより、治療剤に関するハイドロゲルフィルムの放出速度を調整する工程を含んでよい。一実施形態では、当該方法は、カルシウムキレート剤をハイドロゲルフィルムに提供することにより、ハイドロゲルフィルムに関する粘膜付着性を高める工程を含んでよい。
【0108】
他の実施形態は、ハイドロゲルフィルムを被験者に適用する工程を含む方法を含む。前記ハイドロゲルフィルムは、未架橋のヒアルロン酸塩及び架橋アルギン酸塩を含む。アルギン酸塩は、イオンで架橋され、ハイドロゲルフィルムは平坦であり、かつ幅、長さ、並びに前記幅及び長さ未満である厚さを含む。当該方法は、封鎖剤をハイドロゲルフィルムに適用するのに応じてハイドロゲルフィルムの生体吸収性が高まるように、封鎖剤をハイドロゲルに適用する工程をさらに含む。一実施形態では、当該方法は、封鎖剤の粘度を高めるため、増粘剤を封鎖剤に適用する工程をさらに含む。一実施形態では、ハイドロゲルフィルムは、未架橋のヒアルロン酸塩及び架橋アルギン酸塩を含む第1のハイドロゲル層と;

治療薬を含む第2のハイドロゲル層と
を含む。当該方法は、第2のハイドロゲル層を患者の傷に適用する工程をさらに含む。他の実施形態は、ハイドロゲルフィルムを、その外側表面が第1のハイドロゲル層を含むロールに丸める工程を含む。前記実施形態は、ハイドロゲルフィルムが、トロカール,イントロデューサ,又はチューブに粘着又は接着せずに、ハイドロゲルフィルムを患者内に導入するため、第1のハイドロゲル層をトロカール,イントロデューサ,又はチューブと接触させる工程を含む。一実施形態では、ハイドロゲルフィルムは、薬物,医薬品,ペプチド,タンパク質,医薬,ホルモン,及び高分子を含む群から選択された治療薬を含む。当該方法は、封鎖剤をハイドロゲルフィルムに提供することにより、治療剤に関するハイドロゲルフィルムの放出速度を調整する工程を含んでよい。一実施形態では、当該方法は、封鎖剤をハイドロゲルフィルムに提供することにより、ハイドロゲルフィルムに関する粘膜付着性を高める工程を含んでよい。
【0109】
他の実施形態は、キットを包含しないが、その代わりハイドロゲルをただ含む。このような実施形態は、ハイドロゲルフィルム内に両方とも包含された未架橋のヒアルロン酸塩及び架橋アルギン酸塩を含む。ただし、
(a)前記アルギン酸塩はカルシウムで架橋され、
(b)前記ハイドロゲルフィルムは平坦であり、かつ幅、長さ、並びに前記幅及び長さ未満である厚さを包含し、
(c)カルシウムキレート剤をハイドロゲルフィルムに適用するのに応じてハイドロゲルフィルムの生体吸収性が高まるように、前記ハイドロゲルフィルムは構成される。ハイドロゲルフィルム内のカルシウム架橋を崩壊させるように、このようなカルシウムキレート剤は構成されるであろう。一実施形態では、前記ハイドロゲルフィルムは、ヒアルロン酸塩とアルギン酸塩とから本質的になる。一実施形態では、前記ハイドロゲルフィルムは、少なくとも1%かつ33%以下のヒアルロン酸組成を含む。一実施形態では、前記ハイドロゲルフィルムは、
未架橋のヒアルロン酸塩及び架橋アルギン酸塩を含む第1のハイドロゲル層と;
コラーゲン及びヒアルロン酸塩を含む第2のハイドロゲル層と
を含む。一実施形態では、
前記第1のハイドロゲル層はモノリシックであり、
前記第2のハイドロゲル層はモノリシックであるが、前記第1のハイドロゲル層とモノリシックではなく、かつ
前記第1のハイドロゲル層と第2のハイドロゲル層とは互いに共有結合している。一実施形態では、前記ハイドロゲルフィルムは、
さらなる未架橋ヒアルロン酸塩及びさらなる架橋アルギン酸塩を含む第3のハイドロゲル層を有し;
前記第3のハイドロゲル層はモノリシックであるが、前記第2のハイドロゲル層とモノリシックではなく、前記第3のハイドロゲル層と第2のハイドロゲル層とは互いに共有結合しており、かつ前記第2のハイドロゲル層は、第1のハイドロゲル層と第3のハイドロゲル層との間にある。一実施形態では、アルギン酸塩は、未架橋ヒアルロン酸塩の周囲で架橋される。一実施形態では、前記ハイドロゲルフィルムは、薬物,医薬品,ペプチド,タンパク質,医薬,ホルモン,及び高分子を含む群から選択された治療薬を含む。一実施形態では、カルシウムキレート剤をハイドロゲルフィルムに適用するのに応じて治療薬に関するハイドロゲルフィルムの放出速度が高まるように、前記ハイドロゲルフィルムは構成される。一実施形態では、アルギン酸塩は、治療薬の周囲で架橋される。一実施形態では、ハイドロゲルフィルム内のヒアルロン酸塩の含有量を増やすのに応じて治療薬に関するハイドロゲルフィルムの放出速度が高まるように、前記ハイドロゲルフィルムは構成される。一実施形態では、カルシウムキレート剤をハイドロゲルフィルムに適用するのに応じてハイドロゲルフィルムに関する粘膜付着性が高まるように、前記ハイドロゲルフィルムは構成される。一実施形態では、カルシウムキレート剤をハイドロゲルフィルムに適用するのに応じて透明性を高めるように、前記ハイドロゲルフィルムは構成される。一実施形態では、前記ハイドロゲルフィルムは、厚さ5~30μmを含む。一実施形態では、この段落で述べられたカルシウムキレート剤は、封鎖剤と置き換えられ、架橋されたカルシウムは、より一般的には封鎖剤と対応するイオンに基づく架橋に基づく。
【0110】
本発明は、限定された数の実施形態について記載されてきたが、当業者であれば、それらから多数の変形及び変更を認識するはずである。添付の請求項は、本発明の精神と範囲内に属するとき、そのような変形及び変更全てをカバーすることが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【外国語明細書】