IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人名古屋大学の特許一覧

特開2023-90804負熱膨張材料微粒子群、複合材料、及び負熱膨張材料微粒子群の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090804
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】負熱膨張材料微粒子群、複合材料、及び負熱膨張材料微粒子群の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 31/00 20060101AFI20230622BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20230622BHJP
   C08K 3/10 20180101ALI20230622BHJP
【FI】
C01G31/00
C08L101/00
C08K3/10
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023071280
(22)【出願日】2023-04-25
(62)【分割の表示】P 2020566068の分割
【原出願日】2019-01-18
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】竹中 康司
(72)【発明者】
【氏名】山田 展也
(72)【発明者】
【氏名】大村 卓也
(57)【要約】
【課題】微粒子化した場合であっても広い温度範囲で大きな負熱膨張を示す負熱膨張材料微粒子群、複合材料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】負熱膨張材料微粒子群は、一般式(1)Cu2-X(RはZn、Ga、Feから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、当該負熱膨張材料微粒子群とエポキシ樹脂の複合材料について100~700Kのうち線熱膨張を測定可能な温度範囲において測定された線熱膨張を用いて、当該負熱膨張材料微粒子群と前記エポキシ樹脂のそれぞれが固有の熱膨張を示すと仮定して体積比で案分する複合則にしたがって算出された、当該負熱膨張材料微粒子群の線膨張係数の平均値が-6ppm/K以下であり、レーザー回折/散乱式粒子径分布評価法による体積頻度中心粒径(メジアン径)が30nm~5μmである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)Cu2-X(RはZn、Ga、Feから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、
当該負熱膨張材料微粒子群とエポキシ樹脂の複合材料について100~700Kのうち線熱膨張を測定可能な温度範囲において測定された線熱膨張を用いて、当該負熱膨張材料微粒子群と前記エポキシ樹脂のそれぞれが固有の熱膨張を示すと仮定して体積比で案分する複合則にしたがって算出された、当該負熱膨張材料微粒子群の線膨張係数の平均値が-6ppm/K以下であり、
レーザー回折/散乱式粒子径分布評価法による体積頻度中心粒径(メジアン径)が30nm~5μmである
負熱膨張材料微粒子群。
【請求項2】
前記一般式(1)におけるXは、0.1~1であることを特徴とする請求項1に記載の負熱膨張材料微粒子群。
【請求項3】
前記RはZnであることを特徴とする請求項1又は2に記載の負熱膨張材料微粒子群。
【請求項4】
単斜晶のβ相であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の負熱膨張材料微粒子群。
【請求項5】
熱硬化樹脂中に請求項1~4のいずれか1項に記載の負熱膨張材料微粒子群を含む複合材料。
【請求項6】
金属と請求項1~4のいずれか1項に記載の負熱膨張材料微粒子群との金属基複合材料。
【請求項7】
Cu2-X(RはZn、Ga、Feから選ばれる少なくとも1種の元素)で表される化合物の原材料及び有機酸からなる水溶液、又は無機塩水溶液、有機金属化合物水溶液を調製する調製工程と、
前記調製工程で得られた溶液をミスト化するミスト化工程と、
前記ミスト化工程で得られたミストをキャリアガスにより流通させながら600℃~1000℃の温度範囲で加熱処理する加熱工程とを有し、
製造された負熱膨張材料微粒子群とエポキシ樹脂の複合材料について100~700Kのうち線熱膨張を測定可能な温度範囲において測定された線熱膨張を用いて、当該負熱膨張材料微粒子群と前記エポキシ樹脂のそれぞれが固有の熱膨張を示すと仮定して体積比で案分する複合則にしたがって算出された、当該負熱膨張材料微粒子群の線膨張係数の平均値が-6ppm/K以下である負熱膨張材料微粒子群の製造方法。
【請求項8】
前記ミスト化工程の後、前記加熱工程の前に150℃~400℃の温度範囲で前記ミストを加熱処理する乾燥工程をさらに有する請求項7に記載の負熱膨張材料微粒子群の製造方法。
【請求項9】
前記加熱工程により得られた負熱膨張材料の微粒子を580℃~1000℃の温度範囲で熱処理する二次焼成工程をさらに有する請求項7又は8に記載の負熱膨張材料微粒子群の製造方法。
【請求項10】
前記二次焼成工程は580℃~670℃の温度範囲で、10~600分間熱処理する請求項9に記載の負熱膨張材料微粒子群の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負熱膨張材料微粒子群、複合材料、及び負熱膨張材料微粒子群の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、物質は温度上昇に伴って熱膨張することが知られている。しかしながら、近年における産業技術の高度な発達は、固体材料の宿命とも言える熱膨張すら制御することを求める。長さ変化率にして10ppm(10-5)程度の、一般的な感覚からすればわずかな変化でも、ナノメートルレベルの高精度が求められる半導体デバイス製造や、部品のわずかな歪が機能に大きな影響を与える精密機器などの分野では大きな問題である。また、複数の素材を組み合わせたデバイスでは、構成素材それぞれの熱膨張の違いから、界面剥離や断線といった他の問題も生じることがあった。
【0003】
一方、温度上昇に伴って格子体積が減少する(負の線膨張係数を持った)負熱膨張材料も知られている。例えば、負の線膨張係数を有するα-Cuと正の線膨張係数を有するAlとを混合することで熱膨張を抑制する複合材料が知られている(例えば、非特許文献1。)。
【0004】
α-Cuは、線膨張係数にして-5~-6ppm/Kの負熱膨張を、室温から200°Cの温度域で発現することが知られている。
【0005】
また、とりわけ、微細化、高機能化、複雑化が急速に進む電子デバイス分野では、構成素材間の熱膨張差が剥離や断線といった深刻な問題を生み、熱膨張の制御は喫緊の課題となっている(例えば、非特許文献2)。電子デバイス分野での熱膨張制御には、樹脂フィルム、接着剤、層間充填剤、基板といった部材の熱膨張制御が不可欠とされているが、それらの部材は数μm程度のサイズで用いることが想定されており、実現には熱膨張抑制剤をサブミクロンから1μm程度に微細化する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】N. Zhang et al.、「Tailored thermal expansion and electrical properties of α-Cu2V207/Al」、Ceramics International、2016、42、p.17004-17008
【非特許文献2】H. Ki no, T. Fukushima, and T. Tanaka, Proceedings of 2017 IEEE 67th Electronic Components and Technology Conference, 1523 (2017). DOI: 10.1109/ECTC.2017.209
【非特許文献3】東亞合成、"負熱膨張性フィラー「ウルテア」"、グレード表、[online]、[平成31年1月13日検索]、インターネット<URL: http://www.toagosei.co. jp/products/performance_chemicals/amenity/pdf/ultea 01. pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、バルク体や粗粉末で巨大な負熱膨張を示す材料であっても、微粒子化にともない負熱膨張が著しく損なわれることが多い。例えば、リン酸ジルコニウムを主体とする市販の負熱膨張性微粒子(非特許文献3)が知られるが、1μm程度の粒径でα=-2ppm/Kであり、熱膨張抑制能力が十分でないという問題があった。
【0008】
そこで本開示の目的は、微粒子化した場合であっても広い温度範囲で大きな負熱膨張を示す負熱膨張材料微粒子群、複合材料及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様は、上記目的を達成するため、以下の負熱膨張材料微粒子群、複合材料及びその製造方法を提供する。
【0010】
一般式(1)Cu2-X(RはZn、Ga、Feから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、負の線膨張係数を有し、レーザー回折/散乱式粒子径分布評価法による体積頻度中心粒径(メジアン径)が30nm~5μmの微粒子からなる負熱膨張材料微粒子群を提供する。
また、熱硬化樹脂中に前記負熱膨張材料微粒子群を含む複合材料を提供する。
また、金属と前記負熱膨張材料微粒子群との金属基複合材料を提供する。
また、Cu2-X(RはZn、Ga、Feから選ばれる少なくとも1種の元素)で表される化合物の原材料及び有機酸からなる水溶液、又は無機塩水溶液、有機金属化合物水溶液を調製する調製工程と、
前記調製工程で得られた溶液をミスト化するミスト化工程と、
前記ミスト化工程で得られたミストをキャリアガスにより流通させながら600℃~1000℃の温度範囲で加熱処理する加熱工程とを有する負熱膨張材料微粒子群の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、微粒子化した場合であっても広い温度範囲で大きな負熱膨張を示す負熱膨張材料を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施の形態に係る負熱膨張材料微粒子群の製造方法を説明するための概略図である。
図2図2は、実施例における負熱膨張材料、エポキシ樹脂及びこれらの複合材料の線熱膨張を示すグラフ図である。
図3A図3Aは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図3B図3Bは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図3C図3Cは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図4A図4Aは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図4B図4Bは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図4C図4Cは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図5A図5Aは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図5B図5Bは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図5C図5Cは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図6図6は、実施例における負熱膨張材料微粒子群のX線回折による回折強度分布を示すグラフ図である。
図7A図7Aは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図7B図7Bは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図7C図7Cは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図7D図7Dは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図7E図7Eは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図8A図8Aは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図8B図8Bは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図8C図8Cは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図8D図8Dは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図8E図8Eは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図9A図9Aは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図9B図9Bは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図9C図9Cは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図9D図9Dは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図9E図9Eは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図10図10は、実施例における負熱膨張材料微粒子群のX線回折による回折強度分布を示すグラフ図である。
図11A図11Aは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図11B図11Bは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図11C図11Cは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図11D図11Dは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図11E図11Eは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図12A図12Aは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図12B図12Bは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図12C図12Cは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図12D図12Dは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図12E図12Eは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図13A図13Aは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図13B図13Bは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図13C図13Cは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図13D図13Dは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図13E図13Eは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
図14図14は、実施例における負熱膨張材料微粒子群のX線回折による回折強度分布を示すグラフ図である。
図15A図15Aは、実施例における負熱膨張材料微粒子群のSEM画像であり、測定点を示したものである。
図15B図15Bは、測定点に対応するSEMにおいてEBSD法により得られた画像である。
図15C図15Cは、測定点に対応するSEMにおいてEBSD法により得られた画像である。
図15D図15Dは、測定点に対応するSEMにおいてEBSD法により得られた画像である。
図15E図15Eは、測定点に対応するSEMにおいてEBSD法により得られた画像である。
図15F図15Fは、測定点に対応するSEMにおいてEBSD法により得られた画像である。
図15G図15Gは、測定点に対応するSEMにおいてEBSD法により得られた画像である。
図15H図15Hは、測定点に対応するSEMにおいてEBSD法により得られた画像である。
図16図16は、負熱膨張材料の微粒子の構造を説明するための模式図である。
図17図17は、実施例における負熱膨張材料、アルミニウム及びこれらの複合材料の線熱膨張を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[実施の形態]
(負熱膨張材料微粒子群の構成)
本願開示において、発明者らは負熱膨張が発現する物質の候補として、Cu系に注目した。結晶構造が直方晶のα-Cuは、強誘電と弱常磁性が共存するマルチフェロイック物質として関心が持たれているが、室温を含むそれより高温側の比較的広い温度域で、焦電性に起因すると思われる、結晶格子の異方的な熱変形が見られる。この結果、広い温度範囲で温度の上昇に伴いユニットセル体積が収縮する負熱膨張が発現する。
【0014】
Cuは様々な元素で置換することにより、直方晶のα相の他、単斜晶のβ相、三斜晶のγ相をとりうる。そこで、本発明者らは、Cuサイトの一部を他の元素で置換した場合に、従来のα-Cu系では実現し得ない負熱膨張特性を発現することを見出し、当該構成を有する負熱膨張材料微粒子群、当該負熱膨張材料微粒子群を含む複合材料及びこれらの製造方法を考案した。
【0015】
なお、ここで「微粒子」とは、さらに小さな単結晶粒からなる集合体のことであり(図16参照。)、「微粒子群」とは、レーザー回折/散乱式粒子径分布評価法による体積頻度中心粒径(メジアン径)が5μm以下の径を有する微粒子の集合であるものとする。なお、以下において「レーザー回折/散乱式粒子径分布評価法による体積頻度中心粒径(メジアン径)」のことを単に「粒子径」ということがある。また、微粒子の粒子径は以下に説明する製造方法の条件を変更することにより適宜大きさを変更可能である。本開示の負熱膨張材料粒子群は、温度範囲100~700Kの範囲で、上記粒子径において負の線膨張係数を有し、好ましくはα=-3.5ppm/K未満、より好ましくはα=-6ppm/K以下、さらに好ましくはα=-10ppm/Kの線膨張係数を有するものである。
【0016】
当該負熱膨張材料の製造方法は、噴霧熱分解法(例えば、特許第5413898号参照。)による金属酸化物の微粒子の製造方法を利用するものである。詳細を以下に説明する。
【0017】
(負熱膨張材料微粒子群の製造方法)
次に、本実施の形態の負熱膨張材料微粒子群の製造方法について説明する。
【0018】
図1は、負熱膨張材料微粒子群の製造工程を方法するための概略図である。
【0019】
負熱膨張材料製造装置100は、原料溶液からミスト10(エアロゾル)を生成する図示しないミスト発生器と、ミスト10を含むキャリアガスCGが流通する流通路101と、ミスト10を150~400°Cで加熱処理して乾燥する乾燥炉102と、乾燥したミスト13を600~1000°Cで加熱処理して熱分解する熱分解炉103と、熱分解の結果生成された微粒子16を回収する図示しない回収器とを有する。
【0020】
原料溶液としては、負熱膨張材料を生成するために、種々の原料試薬を用いることができる。具体的には、Cu2-X(RはZn、Ga、Feから選ばれる少なくとも1種の元素)で表される化合物の原材料及び有機酸からなる水溶液、又は無機塩水溶液、有機金属化合物水溶液を調製し、用いる(調製工程)。
【0021】
なお、Cu2-XにおけるRにZnを用いた場合、室温で安定したβ相(単斜晶)の結晶構造が得られる。また、RにZnを用いた場合のXは、0.1~1であり、好ましくは、Xは0.15~0.5、より好ましくは0.15~0.3である。これにより、CuがRで置換されていないα-Cuの線膨張係数に対し、絶対値の大きな線膨張係数となる。当該Xの数値範囲は以下の事実を根拠とするものである。
【0022】
まず、後述する本開示の実施例の条件X=0.2について結晶系がβ相となることがわかっている。また、非特許文献(J. Pommer et al., Physical Reviw B 67, 214410 (2003))により、熱膨張特性は報告されていないものの、Cu2-xZnが広いxの範囲で合成されており、概ねx>0.15でβ相になることが知られている。これらを総合し、X=0.2の近傍では同様の性質を示すことが、物性物理学の知見から妥当に推論される。また、α相とβ相の相境界のxの値0.15は、あくまで試料合成条件等により変動することも考慮されるべきである。
【0023】
さらに、α相であってもそのバルク体が負熱膨張特性を示すことは非特許文献1に示されるとおりであるので、仮にα相の結晶構造が得られとしても本開示の負熱膨張材料微粒子群の製造法は有効である。つまり、本開示において得られる結晶構造は必ずしもβ相に限られるものでなく、線膨張係数等の他の要件を満たせばα相であってもよい。この点も考慮されるべきである。
【0024】
次に、原材料の化合物は、例えば酸化銅、酸化亜鉛、五酸化バナジウム等の酸化物を用いることができる。また、水溶液の有機酸は、例えばクエン酸や酢酸等を用いることができる。また、無機塩水溶液や有機金属化合物水溶液は、例えば金属硝酸塩、金属酢酸塩、金属硫酸塩、金属塩化物、金属脂肪酸、金属アルコキシド、金属アセチルアセトナートを用いることができる他、金属を硝酸、塩酸、硫酸などで溶解した水溶液を用いてもよい。
【0025】
調製工程で得られた溶液を超音波振動子や二流体ノズル等であるミスト発生器でミスト化してミスト10とする(ミスト化工程)。ミスト10を構成する液滴の径は、ミスト発生方式等を変更することで調整する。
【0026】
ミスト化工程で発生させたミスト10を、流通路101のうち乾燥炉102に対応する加熱空間をキャリアガスCGによって流通させながら150℃~400℃の温度範囲で加熱処理する(乾燥工程)。乾燥炉102の加熱空間を流通するミスト10は150℃~400℃の温度範囲で加熱されることで、ミスト11、ミスト12、ミスト13と徐々に乾燥する。ミスト10~13を流通させるキャリアガスCGには例えば空気が用いられる。空気以外に窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスや、水素ガス等の還元ガスを用いてもよい。
【0027】
次に、流通路101のうち熱分解炉103に対応する加熱空間をキャリアガスCGによって流通させながら600℃~1000℃の温度範囲で加熱処理する(加熱工程)。熱分解炉103の加熱空間を流通する乾燥結果物14はさらに600℃~1000℃の温度範囲で加熱され、熱分解及び固相反応し、ほとんどの熱分解中の粒子15が熱分解後の微粒子16となる。
【0028】
次に、加熱工程で得られた結果物を、例えば600℃~1000℃の温度範囲で再度熱処理(焼成)する(二次焼成工程)。二次焼成工程は、電気炉などを用いて所定の雰囲気中で行なう。これにより結果物に含まれる熱分解が完了していない乾燥結果物14及び熱分解中の粒子15、つまり有機酸塩の粒子が分解され、微粒子16になり微粒子群として回収される。
【0029】
なお、二次焼成工程は必ずしも必要ではない。例えば、加熱工程における熱分解炉103に対応した加熱空間をより多く確保し、且つキャリアガスCGの流量を調整することで、二次焼成工程を経ることなく二次焼成工程を経た場合と同様の負熱膨張材料の微粒子16を得ることができる。この場合、ワンプロセスの工程となるため、加熱工程と分けて二次焼成工程を実施する場合に比べて製造コストを減少することができる。
【0030】
なお、噴霧熱分解時の温度、キャリアガスCGの流量、ミスト炉内滞留時間、原料溶液濃度等を調整することで、所望の組成、微構造、内部構造、並びに粒子径の微粒子16を得ることができる。
【0031】
上記製造方法により生成された微粒子群に含まれる微粒子の構造は模式的に図16に示すようなものとなる。
【0032】
図16は、微粒子16の構造を説明するための模式図である。
【0033】
微粒子16は、複数の結晶粒160~163の集合であって多結晶である。結晶粒160~163の結晶構造については、図15A図15Hにおいて後述する。
【0034】
次に、得られた微粒子16の微粒子群と、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂と所望の体積比で混合することで複合材料を得る。混合方法としては、ブレードミキサー、自転公転撹拌機等を採用する。
【0035】
[実施例]
上記実施の形態で説明した負熱膨張材料の製造方法に基づき、β-Cu1.8Zn0.2の微粒子群を作製した(x=0.2)。
【0036】
まず、調製工程として、化学量論比で秤量したCuO、ZnO及びVの原料試薬(粉末)を乳鉢で混合し、温度670℃の大気中で10hr焼成した。得られた粉末を、乳鉢ですり潰し、無水クエン酸とともに純水に溶かした。その際、試料粉末1gに対して無水クエン酸3g、純水100mLを加え、試料粉末が溶解するまでマグネティックスターラーを用いて撹拌した。なお、Vの代わりに、例えばVを用いてもよい。
【0037】
次に、得られた水溶液を液滴径3μmにミスト化し、乾燥炉温度400℃、熱分解炉温度600℃、キャリアガスCGの流量3.8L/min、ミスト炉内滞留時間7secの条件下で加熱して、平均粒子径2μmの負熱膨張材料の粒子を作製した。次に、得られた粒子について、670℃で10minの二次焼成を行い、負熱膨張材料微粒子群を得た。得られたβ-Cu1.8Zn0.2微粒子群の平均粒子径は2μmであった。
【0038】
次に、得られた微粒子群と、エポキシ樹脂とを体積%で、それぞれ50対50で混合して複合材料とした。
【0039】
図2は、実施例における負熱膨張材料、エポキシ樹脂及びこれらの複合材料の線熱膨張を示すグラフ図である。
【0040】
負熱膨張材料の線熱膨張は、微粒子を焼結させた試料について測定した。負熱膨張材料の線熱膨張は温度に対して直線的ではないので、以下に示される線膨張係数αの数値は平均された値である。複合則の予測(グラフ中の破線)とは、複合材料中において、負熱膨張材料、エポキシ樹脂それぞれが固有の熱膨張を示すと仮定して、体積比で案分したものである。図2に示すように、上記実施例で得られたβ-Cu1.8Zn0.2からなる負熱膨張材料の線膨張係数αは-10ppm/Kであった。一方、エポキシ樹脂の線膨張係数は70ppm/Kであり、負熱膨張材料とエポキシ樹脂との複合材料の線膨張係数が約26.7ppm/Kとなり、エポキシ樹脂の線膨張係数よりも抑制され、複合則の予測に対してやや抑えられていることがわかる。
【0041】
なお、上記複合材料はエポキシ樹脂及び負熱膨張材料をそれぞれ体積比50:50で配合したものであるが、樹脂と負熱膨張性無機材料粒子の複合材料において、その配合比を変えたときに樹脂の熱膨張がどのように抑制されるかについては、非特許文献(K. Takenaka and M. Ichigo, Composites Science and Technology 104, 47‐51 (2014))などに詳しい解析が報告されており、本開示の実施例(体積比50:50で配合)の結果から、その他の配合比でも、配合比率に応じて熱膨張が抑制されることが容易に類推できる。
【0042】
また、得られた微粒子群と、アルミニウム粉末とを体積%で、それぞれ30対70で混合した後、カーボン・ダイに挿入し、放電プラズマ焼結装置(シンテックス・ラボ;SPSシンテックス社製)により焼結して複合材料とした。焼結条件は、真空もしくはアルゴン雰囲気中で、40MPa、375℃、5minとした。
【0043】
図17は、実施例における負熱膨張材料、アルミニウム及びこれらの複合材料の線熱膨張を示すグラフ図である。
【0044】
負熱膨張材料の線熱膨張は、図2と同様である。複合則の予測(グラフ中の破線)とは、複合材料中において、負熱膨張材料、アルミニウムそれぞれが固有の熱膨張を示すと仮定して、体積比で案分したものである。図17に示すように、上記実施例で得られたβ-Cu1.8Zn0.2からなる負熱膨張材料の線膨張係数αは-10ppm/Kであった。一方、アルミニウムの線膨張係数は約20ppm/Kであり、負熱膨張材料とアルミニウムとの複合材料の線膨張係数が約17ppm/Kとなり、アルミニウムの線膨張係数よりも抑制され、複合則の予測に対してやや大きいことがわかる。
【0045】
なお、上記複合材料は負熱膨張材料及びアルミニウムをそれぞれ体積比30:70で配合したものであるが、樹脂の場合と同様に、本開示の実施例(体積比30:70で配合)の結果から、その他の配合比でも、配合比率に応じて熱膨張が抑制されることが類推できる。また、アルミニウムと負熱膨張材料との複合化は焼結に限られるものではなく、複合化の結果、金属基複合材料となるものであればその方法は問わない。
【0046】
また、次に上記実施例の条件において得られた微粒子について、二次焼成の条件を変え、複数条件下で二次焼成工程を行った。なお、以下において記載のない限り、電気炉中に微粒子を配置して温度速度10℃/minにて常温から目標焼成温度まで上昇させ、その後記載の温度に維持しながら二次焼成し、その後常温まで温度を下げることにより行った。
【0047】
(二次焼成工程-温度条件1)
以下の図3A図3Cの走査型顕微鏡画像は、二次焼成工程を大気雰囲気下、670℃、5hrの条件で生成して得られた微粒子群を撮影して得られたものである。また、図4A図4Cの走査型顕微鏡画像は、二次焼成工程を大気雰囲気下、620℃、5hrの条件で生成して得られた微粒子群を撮影して得られたものである。また、図5A図5Cの走査型顕微鏡画像は、二次焼成工程を大気雰囲気下、580℃、5hrの条件で生成して得られた微粒子群を撮影して得られたものである。さらに、図6は、二次焼成工程の温度条件を変更した場合における負熱膨張材料微粒子群のX線回折から得られた回折強度分布を示すグラフ図である。
【0048】
図3A図3Cは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
【0049】
図3A図3Cは、それぞれ異なる倍率(3,000倍、5,000倍、10,000倍)において、負熱膨張材料微粒子群を観測した走査型電子顕微鏡画像であり、微粒子群の粒子形状が良好に制御されていることが確認された。なお、観察には日本電子株式会社製の走査型電子顕微鏡を用いた。
【0050】
図4A図4Cは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
【0051】
図4A図4Cは、それぞれ異なる倍率(3,000倍、5,000倍、10,000倍)において、負熱膨張材料微粒子群を観測した走査型電子顕微鏡画像であり、微粒子群の粒子形状が良好に制御されていることが確認された。
【0052】
図5A図5Cは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
【0053】
図5A図5Cは、それぞれ異なる倍率(3,000倍、5,000倍、10,000倍)において、負熱膨張材料微粒子群を観測した走査型電子顕微鏡画像であり、微粒子群の粒子形状が良好に制御されていることが確認された。
【0054】
図6は、実施例における負熱膨張材料微粒子群のX線回折による回折強度分布を示すグラフ図である。
【0055】
二次焼成工程のいずれの温度条件においても、結晶構造が良好であることがわかる。
【0056】
以上より、二次焼成工程の温度条件を変更して実施したことで、二次焼成の温度条件として少なくとも670℃以下において微粒子群の粒子形状が良好に制御されることがわかった。
【0057】
(二次焼成工程-時間条件)
以下の図7A図7Eの走査型顕微鏡画像は、二次焼成工程を大気雰囲気下、670℃であって、それぞれ時間を2hr;5℃/min、1hr;5℃/min、20min;5℃/min、10min;5℃/min、10min;10℃/minの条件で生成して得られた微粒子群を撮影して得られたものである。また、図8A図8E並びに図9A図9Eの走査型顕微鏡画像は、図7A図7Eと同様の条件で撮影倍率を変更したものである。さらに、図10は、二次焼成工程の温度条件を変更した場合における負熱膨張材料微粒子群のX線回折から得られた回折強度分布を示すグラフ図である。
【0058】
図7A図7Eは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
【0059】
図7A図7Eは、3,000倍において、負熱膨張材料微粒子群を観測した走査型電子顕微鏡画像である。なお、観察には日本電子株式会社製の走査型電子顕微鏡を用いた。
【0060】
図8A図8Eは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
【0061】
図8A図8Eは、5,000倍において、負熱膨張材料微粒子群を観測した走査型電子顕微鏡画像である。
【0062】
図9A図9Eは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
【0063】
図9A図9Eは、10,000倍において、負熱膨張材料微粒子群を観測した走査型電子顕微鏡画像である。
【0064】
以上より、二次焼成工程の時間条件を変更して実施したことで、670℃の条件下では焼成時間が20min以下の条件で、焼結が少なく微粒子群の粒子形状が良好に制御されているが、焼成時間が1hr以上の場合は焼結が多く微粒子群の粒子形状が良好に制御されていないことがわかった。
【0065】
図10は、実施例における負熱膨張材料微粒子群のX線回折による回折強度分布を示すグラフ図である。
【0066】
二次焼成工程のいずれの温度条件においても、組成は良好であることがわかる。
【0067】
(二次焼成工程-温度条件2)
以下の図11A図11Eの走査型顕微鏡画像は、二次焼成工程を大気雰囲気下、それぞれ750℃;10min;40℃/min、720℃;10min;40℃/min、580℃;10min;40℃/min、670℃;10min;40℃/min、670℃;10min;10℃/minの条件で生成して得られた微粒子群を撮影して得られたものである。また、図12A図12E並びに図13A図13Eの走査型顕微鏡画像は、図11A図11Eと同様の条件で撮影倍率を変更したものである。さらに、図14は、二次焼成工程の温度条件を変更した場合における負熱膨張材料微粒子群のX線回折から得られた回折強度分布を示すグラフ図である。
【0068】
図11A図11Eは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
【0069】
図11A図11Eは、3,000倍において、負熱膨張材料微粒子群を観測した走査型電子顕微鏡画像である。なお、観察には日本電子株式会社製の走査型電子顕微鏡を用いた。
【0070】
図12A図12Eは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
【0071】
図12A図12Eは、5,000倍において、負熱膨張材料微粒子群を観測した走査型電子顕微鏡画像である。
【0072】
図13A図13Eは、実施例における負熱膨張材料微粒子群の構造を示すFE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)画像である。
【0073】
図13A図13Eは、10,000倍において、負熱膨張材料微粒子群を観測した走査型電子顕微鏡画像である。
【0074】
以上より、二次焼成工程の時間条件を変更して実施したことで、焼成時間10minの条件下では焼成温度が670℃以下の条件で、焼結が少なく微粒子群の粒子形状が良好に制御されているが、焼成温度が720℃以上の場合は焼結が多く微粒子群の粒子形状が良好に制御されないことがわかった。
【0075】
図14は、実施例における負熱膨張材料微粒子群のX線回折による回折強度分布を示すグラフ図である。
【0076】
二次焼成工程のいずれの温度条件においても、組成は良好であることがわかる。
【0077】
図15Aは、実施例における負熱膨張材料微粒子群のSEM(走査電子顕微鏡)画像(傾斜0°)であり、測定点p1~p7を示したものである。また、図15B図15Hは、測定点p1~p7に対応して、SEM(走査電子顕微鏡)においてEBSD法により得られた画像である(下画像。上画像は測定点を示す、傾斜70°におけるSEM画像である。)。
【0078】
なお、図15A図15Hは、乾燥炉温度400℃、熱分解炉温度600℃、キャリアガスCGの流量3.8L/min、ミスト炉内滞留時間7secの条件で加熱工程を行い、670℃、10min、10℃/minの条件で二次焼成工程を行い、生成した負熱膨張材料の微粒子群について、エポキシ樹脂に包埋し、イオンミリングにより断面試料を作製し、加速電圧20kVの条件下で撮影した。
【0079】
上記図15Aの画像によれば、複数の結晶粒から微粒子が構成されていることがわかる。測定点p1~p3は第1の結晶粒に属し、測定点p4は第2の結晶粒に属し、測定点p5は第3の結晶粒に属し、測定点p6~p7は第4の結晶粒に属する。
【0080】
図15B図15Dの画像によれば、第1の結晶粒中における測定点p1~p3の結晶構造が同一であるため、第1結晶粒が結晶粒であることがわかる。図15G図15Hの画像によれば、第4の結晶粒中における測定点p6~p7の結晶構造が同一であるため、第4結晶粒は結晶粒であることがわかる。さらに、第1結晶粒、第2結晶粒、第3結晶粒、第4結晶粒は、それぞれ結晶構造が異なることがわかる。つまり、微粒子は、それぞれ異なる結晶粒が複数凝集した構造となっている。
【0081】
(実施の形態の効果)
上記した実施の形態及び実施例によれば、Cu2-X(RはZn、Ga、Feから選ばれる少なくとも1種の元素。Xは、0.1~1。)で表される化合物の原材料及び有機酸からなる水溶液等を調製し、ミスト化してキャリアガスとともに乾燥、加熱して微粒子群を製造するようにしたため、レーザー回折/散乱式粒子径分布評価法による体積頻度中心粒径(メジアン径)を30nm~5μmの範囲に微粒子化した場合であっても、100~700Kという広い温度範囲において負の線膨張係数を有する負熱膨張材料を製造することができる。さらに、実施例においてはα=-10ppm/Kの線膨張係数を達成することができた。
【0082】
また、負熱膨張材料を微粒子群として製造したため所望の樹脂に容易に混ぜることができるとともに、微粒子であるため樹脂全体に均一に拡散した複合材料を得ることができ、さらに、複合材料の全体に渡って均一に熱膨張を抑制する効果を得ることができる。
【0083】
[他の実施の形態]
なお、本開示は、上記実施の形態に限定されず、上記実施の形態で説明した各工程や各材料の組み合わせの変更、削除、追加等は本開示の要旨を変更しない範囲内で可能である。
【0084】
広い温度範囲で大きな負熱膨張を示すとともに、所望の粒子特性を有する負熱膨張材料微粒子群、複合材料及びその製造方法を提供する。
【符号の説明】
【0085】
10~13:ミスト
14 :乾燥結果物
15 :粒子
16 :微粒子
100 :負熱膨張材料製造装置
101 :流通路
102 :乾燥炉
103 :熱分解炉
CG :キャリアガス
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図12A
図12B
図12C
図12D
図12E
図13A
図13B
図13C
図13D
図13E
図14
図15A
図15B
図15C
図15D
図15E
図15F
図15G
図15H
図16
図17