(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009089
(43)【公開日】2023-01-19
(54)【発明の名称】多孔質セラミックス焼結体およびそれを用いた用途
(51)【国際特許分類】
C04B 38/00 20060101AFI20230112BHJP
C04B 35/01 20060101ALI20230112BHJP
C04B 35/50 20060101ALI20230112BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20230112BHJP
H01M 8/12 20160101ALI20230112BHJP
【FI】
C04B38/00 303Z
C04B35/01
C04B35/50
H01M4/86 T
H01M8/12 101
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172371
(22)【出願日】2022-10-27
(62)【分割の表示】P 2018092691の分割
【原出願日】2018-05-14
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】打越 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】清水 真琴
(72)【発明者】
【氏名】石井 健斗
【テーマコード(参考)】
4G019
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4G019FA13
5H018AA06
5H018AS03
5H018BB01
5H018BB06
5H018BB12
5H018EE02
5H018EE12
5H018EE13
5H018HH04
5H018HH05
5H018HH06
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】 連通性に優れた多孔質セラミックス焼結体およびその用途を提供すること。
【解決手段】 本発明の焼結体は、LSM、LSF、LSC、LSCF、SSC、ビスマステルニウム酸化物、BSCF、ランタンストロンチウムガリウムコバルト酸化物、ランタンストロンチウムガリウム鉄酸化物、ランタンストロンチウムガリウムニッケル酸化物、カルシウムチタン鉄酸化物、セリウムプラセオジム酸化物、ガトリニウムセリウムプラセオジム酸化物、BYS/Ag、ESB/Au、ビスマスカルシウム酸化物、ビスマスイットリウム銅酸化物、ビスマスイットリウムサマリウム酸化物およびビスマスエルビウム酸化物からなる群から選択される酸化物イオン・電子混合伝導体からなり、連通する気孔を有し、50%以上75%以下の開気孔率、0.05%以上4.0%以下の閉気孔率、23%以上50%以下の相対密度、0.5μm以上20μm以下の気孔径を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランタンストロンチウムマンガン酸化物(LSM)、ランタンストロンチウム鉄酸化物(LSF)、ランタンストロンチウムコバルト酸化物(LSC)、ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物(LSCF)、サマリウムストロンチウムコバルト酸化物(SSC)、ビスマステルニウム酸化物、バリウムストロンチウムコバルト鉄酸化物(BSCF)、ランタンストロンチウムガリウムコバルト酸化物、ランタンストロンチウムガリウム鉄酸化物、ランタンストロンチウムガリウムニッケル酸化物、カルシウムチタン鉄酸化物、セリウムプラセオジム酸化物、ガトリニウムセリウムプラセオジム酸化物、イットリウム安定化ビスマス-銀(BYS/Ag)、エルビウム安定化ビスマス-金(ESB/Au)、ビスマスカルシウム酸化物、ビスマスイットリウム銅酸化物、ビスマスイットリウムサマリウム酸化物、および、ビスマスエルビウム酸化物からなる群から選択される酸化物イオン・電子混合伝導体からなり、
連通する気孔を有し、
50%以上75%以下の範囲を満たす開気孔率を有し、
0.05%以上4.0%以下の範囲を満たす閉気孔率を有し、
23%以上50%以下の範囲を満たす相対密度を有し、
0.5μm以上20μm以下の範囲を満たす気孔径を有する、多孔質セラミックス焼結体。
【請求項2】
前記酸化物イオン・電子混合伝導体は、バリウムストロンチウムコバルト鉄酸化物(BSCF)である、請求項1に記載の多孔質セラミックス焼結体。
【請求項3】
1.5×10-3S・cm-1以上の電気伝導率を有する、請求項2に記載の多孔質セラミックス焼結体。
【請求項4】
酸化物イオン・電子混合伝導体を含有する固体酸化物型燃料電池用の空気極であって、
前記酸化物イオン・電子混合伝導体は、請求項1~3のいずれかに記載の多孔質セラミックス焼結体である、空気極。
【請求項5】
支持体と、支持体上に位置する酸素分離活性層とを備えた酸素透過膜であって、
前記支持体は、請求項1~3のいずれかに記載の多孔質セラミックス焼結体からなり、
前記酸素分離活性層は、前記多孔質セラミックス焼結体を構成する酸化物イオン・電子混合伝導体と同じ酸化物イオン・電子混合伝導体からなる、酸素透過膜。
【請求項6】
前記支持体は、500μm以上1500μm以下の範囲の厚さを有する、請求項5に記載の酸素透過膜。
【請求項7】
前記酸素分離活性層は、10μm以上500μm以下の範囲の厚さを有する、請求項5または6に記載の酸素透過膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質セラミックス焼結体およびそれを用いた用途に関する。特に、本発明は、デンプンを造孔剤に用いた酸化物イオン・電子混合伝導体からなる多孔質セラミックス焼結体およびそれを用いた用途に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質材料は、吸着材、フィルタ、触媒担体、リアクタ、断熱材、消音材、建材等に使用される。このような多孔質材料の中でも連通孔を有し、気孔率の高いセラミック多孔体(多孔質セラミックスとも称する)の製造方法が知られている(例えば、特許文献1および2を参照)。
【0003】
特許文献1によれば、ゲル化可能な水溶性高分子の水溶液にセラミック粉体を分散したスラリーを、ゲル化、凍結、解凍、乾燥、焼結してセラミック多孔体を製造する方法が開示される。特許文献1によれば、水溶性高分子のゲル化および凍結により、水溶性高分子ゲル中に氷の結晶を生成し、それが乾燥によって除去されて気孔となる。また、特許文献1では、水溶性高分子としてデンプンを使用することを開示しているが、水溶性高分子は一時的にセラミックス粉体等の組織を固定化するに過ぎず、気孔源として機能しない。また、特許文献1では、ゲル化および凍結における氷の結晶のサイズが粗大化するという問題があった。
【0004】
特許文献2によれば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、水酸化物イオン、炭酸イオン等の氷結晶粗大化抑制剤を用いることにより、特許文献1の問題を解決し、細孔のサイズが10μm~300μmで制御された多孔体が製造される。しかしながら、氷結晶粗大化抑制剤として添加したイオンは、除去されず、多孔体中に残るという問題があった。したがって、不要なイオンを含有することなく、細孔径等を制御した多孔体の製造方法が開発されることが望ましい。
【0005】
また、酸化物イオン・電子混合伝導体からなる多孔質セラミックスを支持層としてその上に酸素分離活性層を備えた酸素分離膜が知られている(例えば、特許文献3を参照)。特許文献3によれば、支持層と酸素分離活性層とが、一般式、
AxA’1-XByB’1-yO3-α
で表されることを開示する。ここで、式中、0<xであり、y<0.5であり、αは、電気的中性を保つための数値であり、Aは、ランタノイド元素、Ca、Sr、およびBaよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素であり、A’は、上記Aで選択された元素を除く、ランタノイド元素、Ca、Sr、およびBaよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素であり、Bは、Ti、Zr、Ce、Nb、Ta、およびGaよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素であり、B’は、Fe、Co、Cr、およびYよりなる群の中から選ばれた少なくとも1つの元素である。
【0006】
しかしながら、この場合であっても、支持層の連通性は十分ではなく、さらなる改良が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-201636号公報
【特許文献2】特開2011-038072号公報
【特許文献3】特開2009-101310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上から、本発明の課題は、連通性に優れた酸化物イオン・電子混合伝導体からなる多孔質セラミックス焼結体およびそれを用いた用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による多孔質セラミックス焼結体は、ランタンストロンチウムマンガン酸化物(LSM)、ランタンストロンチウム鉄酸化物(LSF)、ランタンストロンチウムコバルト酸化物(LSC)、ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物(LSCF)、サマリウムストロンチウムコバルト酸化物(SSC)、ビスマステルニウム酸化物、バリウムストロンチウムコバルト鉄酸化物(BSCF)、ランタンストロンチウムガリウムコバルト酸化物、ランタンストロンチウムガリウム鉄酸化物、ランタンストロンチウムガリウムニッケル酸化物、カルシウムチタン鉄酸化物、セリウムプラセオジム酸化物、ガトリニウムセリウムプラセオジム酸化物、イットリウム安定化ビスマス-銀(BYS/Ag)、エルビウム安定化ビスマス-金(ESB/Au)、ビスマスカルシウム酸化物、ビスマスイットリウム銅酸化物、ビスマスイットリウムサマリウム酸化物、および、ビスマスエルビウム酸化物からなる群から選択される酸化物イオン・電子混合伝導体からなり、連通する気孔を有し、50%以上75%以下の範囲を満たす開気孔率を有し、0.05%以上4.0%以下の範囲を満たす閉気孔率を有し、23%以上50%以下の範囲を満たす相対密度を有し、0.5μm以上20μm以下の範囲を満たす気孔径を有し、これにより上記課題を解決する。
前記酸化物イオン・電子混合伝導体は、バリウムストロンチウムコバルト鉄酸化物(BSCF)であってもよい。
1.5×10-3S・cm-1以上の電気伝導率を有してもよい。
本発明による酸化物イオン・電子混合伝導体を含有する固体酸化物型燃料電池用の空気極は、前記酸化物イオン・電子混合伝導体は、上述の多孔質セラミックス焼結体であり、これにより上記課題を解決する。
本発明による支持体と、支持体上に位置する酸素分離活性層とを備えた酸素透過膜は、前記支持体は、上述の多孔質セラミックス焼結体からなり、前記酸素分離活性層は、前記多孔質セラミックス焼結体を構成する酸化物イオン・電子混合伝導体と同じ酸化物イオン・電子混合伝導体からなり、これにより上記課題を解決する。
前記支持体は、500μm以上1500μm以下の範囲の厚さを有してもよい。
前記酸素分離活性層は、10μm以上500μm以下の範囲の厚さを有してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の多孔質セラミックス焼結体は、上述の酸化物イオン・電子混合伝導体からなり、連通する気孔を有し、50%以上75%以下の範囲を満たす開気孔率を有し、0.05%以上4.0%以下の範囲を満たす閉気孔率を有し、23%以上50%以下の範囲を満たす相対密度を有し、0.5μm以上20μm以下の範囲を満たす気孔径を有するので、通気性および取り扱いに優れる。このような多孔質セラミックス焼結体は、酸化物イオン・電子混合伝導体からなり、通気性に優れるので、燃料電池の空気極に有利である。また、本発明の多孔質セラミックス焼結体は、高い通気性を有しつつ、強度を維持するので、その上に酸素分離活性層を形成する支持体として機能し、全体として強度に優れた酸素透過膜を提供できる。
【0011】
本発明の酸化物イオン・電子混合伝導体からなり、連通する気孔を有する多孔質セラミックスを製造する方法は、酸化物イオン・電子混合伝導体であるセラミックスの粒子と、デンプンとを、少なくとも水を含有する分散媒中で混合するステップと、その混合物を50℃以上150℃以下の温度範囲で加熱し、デンプンを糊化させるステップと、その糊化体を-5℃以上10℃以下の温度範囲を満たす第1の条件で保持し、次いで、-10℃以下の温度範囲を満たす第2の条件で保持し、デンプンを老化させるステップと、その老化体を乾燥させ、分散媒を除去するステップと、その成形体を焼成するステップとを包含する。このようなステップにより、デンプンが造孔剤として機能し、デンプンの糊化および老化現象を利用し、連通した気孔を有する多孔質セラミックスを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の多孔質セラミックス焼結体を模式的に示す図
【
図2】本発明の多孔質セラミックス焼結体を製造するステップを示すフローチャート
【
図3】本発明の多孔質セラミックス焼結体を製造するプロシージャを示す図
【
図4】本発明の多孔質セラミックス焼結体を用いた酸素透過膜を示す模式図
【
図5】例16、例19、例23および例27の成形体の破断面のSEM像を示す図
【
図6】種々の例の焼結体の破断面のSEM像を示す図
【
図7】別の種々の例の焼結体の破断面のSEM像を示す図
【
図8】さらに別の例の焼結体の破断面のSEM像を示す図
【
図9】分散媒中の水の含有量と開気孔率および相対密度との関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0014】
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明の多孔質セラミックス焼結体およびその製造方法を説明する。
【0015】
図1は、本発明の多孔質セラミックス焼結体を模式的に示す図である。
【0016】
本発明の多孔質セラミックス焼結体100は、酸化物イオン・電子混合伝導体110からなる。酸化物イオン・電子混合伝導体110は任意の混合伝導体であってよいが、ペロブスカイト型混合伝導体、蛍石型混合伝導体、サーメット型混合伝導体、スピネル型酸化物等が知られている。具体的には、ランタンストロンチウムマンガン酸化物(LSM)、ランタンストロンチウム鉄酸化物(LSF)、ランタンストロンチウムコバルト酸化物(LSC)、ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物(LSCF)、サマリウムストロンチウムコバルト酸化物(SSC)、ビスマステルニウム酸化物、バリウムストロンチウムコバルト鉄酸化物(BSCF)、ランタンストロンチウムガリウムコバルト酸化物、ランタンストロンチウムガリウム鉄酸化物、ランタンストロンチウムガリウムニッケル酸化物、カルシウムチタン鉄酸化物、セリウムプラセオジム酸化物、ガトリニウムセリウムプラセオジム酸化物、イットリウム安定化ビスマス-銀(BYS/Ag)、エルビウム安定化ビスマス-金(ESB/Au)、ビスマスカルシウム酸化物、ビスマスイットリウム銅酸化物、ビスマスイットリウムサマリウム酸化物、および、ビスマスエルビウム酸化物からなる群から選択される。これらは、酸化物イオン・電子混合伝導体として公知の材料であり、本発明の多孔質セラミックス焼結体を製造する原料としても入手容易である。用途に応じて選択されるが、例えば、本発明の多孔質セラミックス焼結体を酸素透過膜や燃料電池の空気極に使用する場合には、酸素透過性に優れたBSCFが好ましい。中でも、Ba0.5Sr0.5Co0.8Fe0.2O3-δ(δは電気的中性を示すための数値であり、0.2<δ<0.6)がよい。
【0017】
本発明の多孔質セラミックス焼結体100は、連通する気孔120(気孔連通構造とも呼ぶ)を有する。気孔連通構造120を有することにより通気性を向上できる。気孔連通構造120は、走査型電子顕微鏡等による顕微鏡観察によって確認される。例えば、気孔連通構造120は、多孔質セラミックス内を貫通する気孔や、球状の気孔が互いに数珠状に連なって構成される気孔として観察される。
【0018】
本発明の多孔質セラミックス焼結体100は、上述する気孔連通構造120を有するが、さらに、19%以上81%以下の範囲を満たす開気孔率(焼結体の外形容積を1とした場合のこの中に占める開気孔部分の容積の百分率)を有する。後述する製造方法における条件を制御することによって、所望の開気孔率を有する多孔質セラミックス焼結体が提供される。開気孔率は、アルキメデス法、重量気孔率法、水銀気孔率法等によって測定される。
【0019】
本発明の多孔質セラミックス焼結体100は、19%以上80%以下の範囲の相対密度を有する。この範囲の相対密度を有せば、多孔質セラミックス焼結体が脆く壊れることなく、取り扱いに優れる。相対密度は、アルキメデス法によって測定される焼結体の密度と、理論密度との比率から算出される。
【0020】
本発明の多孔質セラミックス焼結体100は、上述する気孔連通構造120を有するが、気孔径130は、0.5μm以上100μm以下の範囲を満たす。ここで、本明細書における気孔径130とは、連通した気孔120の短手方向の長さを意図し、吸脱着等温線から細孔径分布を求めてもよいが、簡易的には、顕微鏡観察によって得られた画像から気孔径を100個ほど算出し、平均してもよい。この範囲の気孔径を有すれば、通気性に優れる。
【0021】
本発明の多孔質セラミックス焼結体100は、後述する製造方法によって得られるので、特許文献2に記載のナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、水酸化物イオン、炭酸イオン等の氷結晶粗大化抑制剤を使用することなく、上述の気孔径130を制御できる。その結果、不要なイオンを含有しない多孔質セラミックス焼結体を提供でき、酸化物イオン・電子混合伝導体110本来の特性を発揮できる。
【0022】
本発明の多孔質セラミックス焼結体100は、好ましくは、50%以上75%以下の範囲を満たす開気孔率を有し、23%以上50%以下の範囲を満たす相対密度を有し、0.5μm以上20μm以下の範囲を満たす気孔径を有する。これにより、さらに通気性に優れつつ、取り扱いに優れる。
【0023】
本発明の多孔質セラミックス焼結体100は、好ましくは、0.05%以上4.0%以下の範囲を満たす閉気孔率を有する。これにより、気孔連通構造が確実となるので、通気性に特に優れる。閉気孔率は、アルキメデス法、X線CT法等によって測定される。
【0024】
特に、本発明の多孔質セラミックス焼結体100が、BSCFである酸化物イオン・電子混合伝導体からなり、上述の開気孔率、相対密度および粒径を満たすことにより、1.5×10-3S・cm-1以上の電気伝導率を有する。すなわち、本発明の多孔質セラミックス焼結体100は、後述する製造方法を採用することにより、セラミックスが互いに接触した状態を維持しているため、高い電気伝導率を達成する。
【0025】
次に、上述した本発明の多孔質セラミックス焼結体100の製造方法を
図2および
図3を参照して説明する。本願発明者らは、デンプンを造孔剤として用いることに着目し、特に、デンプンの糊化・老化現象を利用し、気孔連通構造を形成することに成功した。詳細に説明する。
【0026】
図2は、本発明の多孔質セラミックス焼結体を製造するステップを示すフローチャートである。
図3は、本発明の多孔質セラミックス焼結体を製造するプロシージャを示す図である。
【0027】
S210:酸化物イオン・電子混合伝導体であるセラミックス粒子310と、デンプン320とを、少なくとも水を含有する分散媒330中で混合する。ここで、セラミックス粒子310は、
図1を参照して上述した酸化物イオン・電子混合伝導体である。デンプン320は、(C
6H
10O
5)
n(nは10以上の自然数)で表される炭水化物であり、アミロースとアミロペクチンとから構成され、好ましくは、アミロペクチンはアミロースよりも(質量%単位で)多く含有する。これにより、後述する糊化において、粘性の高いスラリーを提供でき、老化を制御しやすくなる。デンプン320は、任意の比率のアミロースおよびアミロペクチンを含有するものを採用できるが、中でも、アミロース:アミロペクチン=5:95~40:60を満たすものが、後述する糊化・老化現象を促進するため好ましい。さらに好ましくは、アミロース:アミロペクチン=15:85~25:75を満たすものが採用される。具体的には、デンプン320としてライススターチ、トウモロコシ、小麦等を採用できる。
【0028】
なお、後述する成形体を維持するため、バインダを添加してもよい。このようなバインダは、後述する焼結において焼失する有機バインダが好ましく、例示的には、ポリビニルアルコール(PVA)、メチルセルロース、アクリル樹脂等がある。このような有機バインダは、100重量部のセラミックス粒子310に対して、0.1重量部以上0.3重量部以下の範囲で混合されれば、セラミックス粒子310の結着に有効である。また、有機バインダは、分散媒に溶解させて用いてもよい。
【0029】
また、セラミックス粒子310とデンプン320とは、セラミックス粒子310の大きさがデンプン320のそれよりも小さくなるよう設定すれば、静電相互作用によって、デンプン320はセラミックス粒子310によって包囲され、セラミックス粒子310およびデンプン320が互い分散した状態となる(
図3の状態340)。より好ましくは、セラミックス粒子310は、0.3μm以上1μm以下の範囲の粒径を有し、デンプン320は、1μmより大きく50μm以下の範囲の粒径を有する。これにより、セラミックス粒子310とデンプン320とがそれぞれ凝集することなく、良好な分散を促進する。
【0030】
分散媒330に含有される水は、蒸留水、イオン交換水、超純水等である。分散媒330は、水単独であってもよいが、水に加えて、アルコールを含有してもよい。分散媒330は水単独ではなく、糊化現象を抑制し組織・開気孔率を制御するため、アルコールを含有することが好ましい。アルコールは、特に制限はないが、メタノール、エタノール、2-プロパノール、t-ブチルアルコールなどである。分散媒330が、水に加えてアルコールを含有する場合、水の含有量を制御するだけで、得られる多孔質セラミックス焼結体の開気孔率および相対密度を制御できる。
【0031】
分散媒330が、アルコールと水とを含有する場合、好ましくは、アルコールと水とは、質量%で、アルコール:水=0:100~70:30を満たすように混合される(ここで、0:100は分散媒330が水単独ではないが、ごく微量のアルコールを含有していることを意図する)。水が30質量%よりも少なくなると、糊化・老化現象が十分に促進せず、焼結前の成形体を維持できない。より好ましくは、アルコールと水とは、質量%で、アルコール:水=5:95~60:40を満たすように混合される。この範囲であれば、高い開気孔率を維持しつつ、強度を有する多孔質セラミックス焼結体が得られる。さらに好ましくは、アルコールと水とは、質量%で、アルコール:水=20:80~40:60を満たすように混合される。
【0032】
さらに、ステップS210において、セラミックス粒子310とデンプン320とは、100重量部のセラミックス粒子310に対して、20重量部以上75重量部以下の範囲のデンプン320を満たすように、混合される。デンプン320が20重量部未満の場合、気孔連通構造が十分形成されないため、酸素透過性が期待できない場合がある。デンプン320が75重量部を超えると、造孔剤が多すぎるため、焼結前の成形体を維持できない場合がある。より好ましくは、セラミックス粒子310とデンプン320とは、100重量部のセラミック粒子310に対して、30重量部以上70重量部以下の範囲のデンプン320を満たすように、混合される。この範囲であれば、上述の開気孔率を有し、相対密度を有する多孔質セラミックス焼結体が得られる。さらに好ましくは、セラミックス粒子310とデンプン320とは、100重量部のセラミック粒子310に対して、30重量部以上35重量部以下の範囲のデンプン320を満たすように、混合される。これにより、より多くのセラミックス粒子310を含有する多孔質セラミックス焼結体310となるので、特に、反応場を増大できる。
【0033】
さらに、ステップS210において、セラミックス粒子310とデンプン320とは、分散媒330中のセラミックス粒子310およびデンプン320の濃度が0.2g/mL以上0.6g/mL以下を満たすように、混合される。この範囲であれば、分散媒330中でセラミックス粒子310とデンプン320とが分散するので、後述する糊化現象を促進できる。より好ましくは、セラミックス粒子310およびデンプン320の濃度は0.3g/mL以上0.5g/mL以下を満たす。この範囲であれば、糊化現象を確実とする。
【0034】
ステップS220:ステップS210で得られた混合物340を、50℃以上150℃以下の温度範囲で加熱し、デンプン320を糊化させる。
図3に糊化したデンプン350を示す。50℃未満の場合、デンプン320の糊化現象が進まない場合がある。150℃を超えると、デンプン320の糊化現象が急速に進み、良好な気孔連通構造とならない場合がある。
【0035】
好ましくは、混合物340を、100℃以上130℃以下の温度範囲で30分以上2時間以下の時間、攪拌しながら加熱すればよい。これにより、全体に均一にデンプン320の糊化現象が進行するため、形状制御された気孔連通構造となる。なお、糊化現象が進行したことは、目視にて粘性を有する様子が確認されればよい。このようにして得られた生成物を糊化体360と呼ぶ。
【0036】
攪拌は、手動にて行ってもよいし、マグネチックスターラなどを用いた撹拌機を用いてもよい。攪拌は、700rpm~1200rpmの回転速度で行うことがよい。これにより糊化体360中に均一に糊化したデンプンが位置することにより、均一な気孔が形成され得る。
【0037】
ステップS230:ステップS220で得られた糊化体360を、-5℃以上10℃以下の温度範囲を満たす第1の条件で保持し、次いで、-10℃以下の温度範囲を満たす第2の条件で保持し、デンプン350を老化させる。第1の条件で保持することにより、デンプン中から水が脱水する。第2の条件で保持することにより、デンプンの老化現象が進み、再結晶化されたデンプン370となる。デンプンから脱水した水380は凍結する。このようにして得られた生成物を老化体390と呼ぶ。
【0038】
ステップS230において、第1の条件は、好ましくは、糊化体360を、-2℃以上5℃以下の温度範囲で30分以上2.5時間以下の時間、保持する。この範囲であれば、デンプンからの水の脱水を促進し、老化現象を誘発し得る。
【0039】
ステップS230において、第2の条件は、好ましくは、糊化体360を、-200℃以上-100℃以下の温度範囲で5秒以上10秒以下の時間保持するか、または、-100℃より高く-15℃以下の温度範囲で1時間以上24時間以下の時間保持する。これらの条件により、脱水した水は凍結され、老化体390が確実に得られる。なお、前者の条件であれば、液体窒素等を用いて実施できるが、分散媒として水に加えてアルコールも凍結できる。
【0040】
ステップS240:ステップS230で得られた老化体390を乾燥させ、分散媒を除去する。ここでは、乾燥によって、凍結した分散媒(水あるいは、水とアルコールとの両方)が除去され、再結晶したデンプン370とセラミック粒子310とからなる成形体391が得られる。
【0041】
乾燥は、大気圧乾燥または真空凍結乾燥のいずれで行ってもよい。大気圧乾燥の場合、室温で乾燥させてもよいが、長時間を要するので、好ましくは、40℃以上100℃以下の温度範囲で行う。100℃を超えると、急激な分散媒の除去が生じるので、成形体391が崩壊する可能性がある。さらに好ましくは、40℃以上60℃以下の温度範囲で1時間以上3時間以下の時間乾燥させればよい。この範囲であれば、クラックや反りなどを抑制した成形体391が得られる。
【0042】
真空凍結乾燥は、好ましくは、1×10-3atm以下の圧力で24時間より長く72時間以下の時間乾燥させればよい。24時間以下では分散媒が十分に除去されない場合がある。真空凍結乾燥を行えば、凍結した分散媒もまた造孔剤として機能するため、開気孔率の増大が期待できる。なお、下限は特に制限はないが、1×10-6atm以上であれば問題ない。
【0043】
ステップS240において、乾燥は、好ましくは、成形体391が40%以上90%以下の範囲を有する開気孔率を有するまで行われる。これにより、成形体391が壊れることなく、続く、焼成によって硬く固着した焼結体を得ることができる。
【0044】
ステップS250:ステップS240で得られた成形体391を焼成する。これにより、再結晶したデンプン370が除去されて、連通した気孔(気孔連通構造)392が形成され、本発明の多孔質セラミックス焼結体100が得られる。焼成の条件は、デンプンの焼失温度以上であり、セラミックス粒子310が固着し、ネック形成する温度であれば特に制限はないが、例示的には、800℃以上1500℃以下の温度範囲で2時間以上24時間以下の時間行われる。焼成雰囲気は、セラミックス粒子の種類によもよるが、酸化物であれば、大気中であってよい。
【0045】
なお、焼成に先立って、デンプンの乾燥および除去を行ってもよい。すなわち、焼成温度までの温度プロファイルを制御することにより、デンプンの乾燥、除去を行い、最後に、焼結を行うことができる。例えば、成形体を、150℃~450℃の温度で1時間~6時間保持することにより、成形体中のデンプンを乾燥させることができる。次いで、450℃~600℃で30分~3時間保持することにより、成形体からデンプンを除去できる。また、デンプンの乾燥は、150℃~250℃で1時間~3時間保持し、250℃~450℃で1時間~3時間保持する2段階で行ってもよい。これにより、成形体を維持しつつ、デンプンを確実に乾燥できる。
【0046】
(実施の形態2)
実施の形態2では、本発明の多孔質セラミックス焼結体を用いた用途を説明する。
図4は、本発明の多孔質セラミックス焼結体を用いた酸素透過膜を示す模式図である。
【0047】
本発明の酸素透過膜400は、支持体410と、支持体410上に位置する酸素分離活性層420とを備える。ここで、支持体410は、本発明の多孔質セラミックス焼結体100(
図1)からなるため、十分な機械的強度を有しており、酸素透過膜として機能させた場合に、酸素分圧差によってもその上に位置する酸素分離活性層420が破壊することはない。また、本発明の多孔質セラミックス焼結体100は、高い開気孔率を有するため、反応場を十分に確保でき、酸素分離活性層420との界面において、表面交換反応が促進されるので、高い酸素分離能を達成できる。
【0048】
また、酸素分離活性層420は、本発明の多孔質セラミックス焼結体100と同じ材料、すなわち、同じ酸化物イオン・電子混合伝導体からなるので、支持体410と酸素分離活性層420との間に界面反応相が生成しない。
【0049】
例示的には、支持体410の酸素透過方向の厚さは、500μm以上1500μm以下の範囲であり、酸素分離活性層420の厚さは、10μm以上500μm以下の範囲である。なお、このような酸素分離活性層420は、支持体410を基板として、物理的気相成長法、化学的気相成長法、ゾルゲル法、交互積層法、電気泳動堆積(EPD)法等の既存の方法によって製造される。
【0050】
酸素透過膜400の動作を説明する。支持体410を構成する多孔質セラミックス焼結体100中の気孔連通構造120を通った酸素を含有する空気が、酸素分離活性層420に到達すると、酸素は電子を受け取り、O2+4e-→2O2-の反応により酸化物イオンとなる。生成した酸化物イオンは、酸素分離活性層420中を拡散し、420の反対側の表面で互いに結合し、O2-+O2-→O2+4e-の反応により、酸素となって、酸素分圧の小さい酸素分離活性層420の支持体410と対向する側に放出される。このようにして空気から純酸素を分離できる。本発明においては、支持体410が多孔質セラミックス焼結体100から構成され、それと同じ材料からなる酸素分離活性層420が、支持体410上に位置するので、密着性に優れ、酸素分離活性層420が破壊することを抑制できる。
【0051】
図4を参照して、本発明の多孔質セラミックス焼結体100の用途として、酸素透過膜400を説明してきたが、本発明の多孔質セラミックス焼結体100は、固体酸化物型燃料電池用の空気極に用いることもできるし、メタン部分酸化メンブレンリアクター、センサーにも使用される。
【0052】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例0053】
[原料の調製]
セラミックス粒子として酸化物イオン・電子混合伝導体であるBa
0.5Sr
0.5Co
0.8O
3-δ(BSCF、有限会社日下レアメタル研究所製、平均粒径:0.5~1.0μm)を、デンプンとしてライススターチ(アミロース:アミロペクチン=20:80(質量比)、粒径:2.0~8.0μm、シグマアルドリッチ製)を用いた。分散媒として、蒸留水および必要に応じてエタノールを用いた。これらを、表1に示す混合物1~7の組成を満たすように混合した(
図2のステップS210)。なお、バインダとして、ポリビニルアルコール(PVA)(98%水溶液、シグマアルドリッチ製)を、混合物1~7のBSCF(100重量部)に対して0.2重量部となるよう添加した。また、混合物は、超音波ホモジナイザーで分散させた。
【0054】
[加熱、冷蔵、凍結、乾燥]
混合物を表2に示す種々の条件で処理し、成形体を得た。詳細には、表2の条件A、Bにしたがって、混合物を、加熱した後、糊化体を得、それを金属プレート上で鋳込み充填し、冷蔵庫内に静置し、老化体を得た(
図2のステップS220~S230)。次いで、冷凍庫中で保持し、乾燥炉を用いて大気圧乾燥/真空凍結乾燥器を用いて真空凍結乾燥(フリーズドライ)をし、成形体を得た(
図2のステップS240)。表2の条件Cでは、液体窒素環境下で凍結させ、真空凍結乾燥した以外は、条件Bと同様であった。表2の条件Dは、冷蔵および冷凍を行うことなく、条件Cと同様の凍結、乾燥のみを行った。また、条件Eは、加熱、冷蔵、凍結および乾燥のいずれも何も処理しないものを意味する。
【0055】
[焼成]
次いで、処理後の成形体を、表3に示す種々の条件で焼成し、焼結体を得た(
図2のステップS250)。焼成に先立って、デンプンの乾燥および除去を行った。詳細には、デンプンを乾燥させるために200℃(昇温速度:0.2℃/分)で2時間保持し、さらにデンプンを乾燥させるために350℃(昇温速度:0.25℃/分)で2時間保持し、次いで、デンプンを焼失除去させるために500℃(昇温速度:0.5℃/分)で1時間保持した。なお、条件dは、焼成をしていないものを意味する。
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
[例1~33]
表4の試料条件にしたがって、成形体または焼結体の試料1~33を作製した。表4の試料条件について説明する。例えば、例1の試料は、試料条件1-A-aによって作製されたことを示す。詳細には、「1」は、表1の混合物の組成1を表し、「A」は、表2の加熱、冷蔵、凍結および乾燥の条件Aを表し、「a」は、表3の焼成条件の条件aを表しており、例1の試料は、これらの組み合わせによって得られた試料である。
【0060】
【0061】
焼成前の成形体および焼結体の微細構造を、走査型電子顕微鏡(SEM、JEOL製JSM-6510)によって観察した。このとき動作電圧は15.0kVであった。成形体および焼結体の相対密度および開気孔率を、簡易比重測定装置によって測定した。このとき、溶媒としてケロシン(密度:0.789g/cm
3)を用いた。なお、閉気孔率は、アルキメデス法によって算出した。また、焼結体の電気伝導率を、室温にて直流2端子法によって測定した。これらの結果を
図5~
図10および表5~表6に示す。
【0062】
図5は、例16、例19、例23および例27の成形体の破断面のSEM像を示す図である。
【0063】
図5(A)~(C)によれば、原料に用いたデンプンはもはや粒状を有しておらず、互いにつながった様態をしていた。一方、
図5(D)によれば、原料に用いたデンプンは粒状を維持していた。このことから、表2に示す条件でデンプンを加熱し、冷蔵・凍結することにより、原料に用いたデンプンは粒状の形態から互いにつながった形態へと変化し、糊化および老化現象が適切に生じることが示された。
【0064】
図6は、種々の例の焼結体の破断面のSEM像を示す図である。
図7は、別の種々の例の焼結体の破断面のSEM像を示す図である。
図8は、さらに別の例の焼結体の破断面のSEM像を示す図である。
【0065】
表5に例1~例33の成形体または焼結体の特性をまとめて示す。
【0066】
【0067】
図2を参照して説明した、第1および第2の条件でデンプンの糊化・老化を行った
図6(A)~(H)と、第1の条件を行わず第2の条件のみでデンプンの糊化・老化を行った
図6(I)~(K)とを比較すると、例13~15、17、18、20~22の焼結体は、例24~26の焼結体に比べて、連通した気孔を多く示した。焼結温度ごとに比較すれば、例13~15、17、18、20~22の焼結体の開気孔率は、例24~26の焼結体のそれに比べて、全体に高く、第1の条件の過程を導入することがデンプンの糊化・老化現象に有効であることが示された。
【0068】
また、
図6(A)~(C)と、
図6(D)~(H)とを焼結温度で比較すると、例13~15の焼結体の開気孔率は、例17、18、20~22の焼結体それに比べて、全体に高かった。このことは、成形体中の分散媒を除去する際に真空凍結乾燥を行うことによって、デンプン以外にも分散媒も造孔剤として機能したことを示唆する。
【0069】
気孔径に着目すると、
図6(A)~(C)に示されるように、大気圧乾燥を行えば、均一かつ小さな気孔径(0.5μ~1μm)を有する連通した気孔が得られることが分かった。一方、
図6(F)~(H)に示されるように、真空凍結乾燥を行えば、デンプンに加えて分散媒も造孔剤として機能することから、均一かつ比較的大きな気孔径(1μm~5μm)を有する連通した気孔が得られることが分かった。
【0070】
図7(A)~(C)はいずれも焼結温度は同じ(900℃)であるが、分散媒中のエタノールの含有量が異なる。同様に、
図7(D)~(F)はいずれも焼結温度は同じ(1100℃)であるが、分散媒中のエタノールの含有量が異なる。
図7(A)および(D)によれば、分散媒が水を含有しない場合、連通した気孔を有しないことが分かった。このことから、デンプンの糊化・老化現象を利用する場合には、分散媒は少なくとも水を含有する必要があることが示された。
【0071】
図7(E)と(F)とを比較すると、分散媒中のエタノールの含有量が少ない方が、開気孔率が高くなる傾向が示された。
図7(B)と(C)も同様である。このことから、分散媒における水とアルコールとの量を調整することによって、開気孔率を制御できることが示唆される。
【0072】
図7(B)、(E)と、
図8(A)~(B)とを比較すると、セラミックス粒子に対するデンプンの量を増大させた例31~32の開気孔率は、例1、3のそれと比較して増大する傾向を示した。このことからも、デンプンの糊化・老化現象を利用した造孔剤が有効であることが示される。さらに、
図8(C)によれば、分散媒が水単独であっても、その傾向は同様であった。
【0073】
図9は、分散媒中の水の含有量と開気孔率および相対密度との関係を示す図である。
【0074】
図9(A)によれば、分散媒中の水の含有量が増大するにつれて、開気孔率が増大した。
図9(B)によれば、分散媒中の水の含有量が増大するにつれて、相対密度が低下した。このことからも、分散媒中の水とアルコールとの量を調整することによって、開気孔率および相対密度を制御できることが示された。
【0075】
図10は、焼成温度と開気孔率との関係を示す図である。
【0076】
焼成温度が増大するにつれて、開気孔率は低下し、分散媒中の水の含有量が多いほど、開気孔率は増大する傾向を示した。このことから、焼成温度および分散媒中の水の含有量を適宜選択することによって、用途に応じた開気孔率を有する多孔質セラミックス焼結体が提供できることが示された。
【0077】
表6は、例22、26および30の焼結体の電気伝導率の一覧を示す。デンプンの糊化・老化を行った例22の焼結体の電気伝導率は、デンプンの糊化・老化を行っていない例26、30の焼結体のそれよりも大きくなった。このことから、デンプンの糊化・老化現象の利用は、連通した気孔の生成のみならず、焼結によってセラミックス粒子の接触を促進できることが示唆される。
【0078】
本発明による多孔質セラミックス焼結体は、高い開気孔率を有し、通気性および取り扱いに優れるので、燃料電池の空気極や酸素透過膜の支持体として使用できる。本発明の製造方法は、分散媒、焼結温度等を調整するだけで、開気孔率、相対密度および気孔径が制御された多孔質セラミックス焼結体を提供できるので、酸素透過膜、固体酸化物型燃料電池用の空気極、メタン部分酸化メンブレンリアクター、センサー等に優位に利用され得る。