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特開2023-90938非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090938
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4402 20060101AFI20230622BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230622BHJP
   A61K 31/045 20060101ALI20230622BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
A61K31/4402
A61P27/02
A61K31/045
A61P43/00 121
A61P43/00 105
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078010
(22)【出願日】2023-05-10
(62)【分割の表示】P 2021158606の分割
【原出願日】2009-05-01
(31)【優先権主張番号】P 2008141717
(32)【優先日】2008-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 一宏
(72)【発明者】
【氏名】中田 温子
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、非イオン性SHCL表面への角膜上皮細胞の接着を抑制できる非イオン性SHCL用点眼剤、とりわけ、非イオン性SHCLの装用時に点眼可能であって非イオン性SHCL表面への角膜上皮細胞の接着を抑制できる点眼剤を提供することである。
【解決手段】(A)クロルフェニラミン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と(B)メントールとを併用し、且つ該(B)成分の配合割合を0.001w/v%以上に設定することにより、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤を調製する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)クロルフェニラミン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と(B)メントールとを含有し、且つ該(B)成分の配合割合が0.001w/v%以上であることを特徴とする、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ表面への角膜細胞の接着を抑制することができる非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンタクトレンズ(CL)の装用者が増えており、中でもソフトコンタクトレンズ(SCL)の装用者が増えている。一般的に、ソフトコンタクトレンズを装用した場合には、大気からの酸素供給量が低下し、その結果として角膜上皮細胞の分裂抑制や角膜肥厚につながる場合があることが指摘されている。そのため、より高い酸素透過性を有するソフトコンタクトレンズの開発が進められてきた。
【0003】
シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、そのような背景の下、高酸素透過性を有するソフトコンタクトレンズとして近年開発されてきたものである。シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、ハイドロゲルにシリコーンを配合させることにより、従来のハイドロゲルコンタクトレンズの数倍の酸素透過性を実現する。従って、ソフトコンタクトレンズの弱点である酸素供給不足を改善することができ、酸素不足に伴う角膜に対する悪影響を大幅に抑制できるものとして、大きく期待されている。
【0004】
一般に、ソフトコンタクトレンズ装用者の眼に対して適用される点眼剤については、ソフトコンタクトレンズの種類に応じて、安全性等の影響を十分に考慮して設計することが不可欠である。特に、ソフトコンタクトレンズは、素材によってイオン性の有無や含水率の高低等が種々異なるため、ソフトコンタクトレンズ装用者の眼に適用される点眼剤は、適用されるソフトコンタクトレンズの性質に応じて製剤設計を行うことが慣用である。従来、クロルフェニラミン及びその塩やメントール等の成分は、抗アレルギー効果や清涼感の付与を目的として点眼剤に使用されているが(特許文献1-5参照)、これらの成分がシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに及ぼす影響については明らかにされていない。ましてや、クロルフェニラミン及び/又はその塩と、特定量以上のメントールとの併用が、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ装用者の眼組織に及ぼす影響については、推認し得る報告すらないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-162747号公報
【特許文献2】特開2005-309420号公報
【特許文献3】特開2005-330276号公報
【特許文献4】特開2006-39529号公報
【特許文献5】特開2008-24701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者等は、各種ソフトコンタクトレンズについて種々の検討を行っていたところ、全く予想していなかったことに、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(以下、非イオン性SHCLと略記する)のレンズ表面は、角膜上皮細胞の接着性が著しく高いという全く新しい知見を得た。このような角膜上皮細胞の接着性が高いコンタクトレンズは、コンタクトレンズの装用時に角膜上でレンズに角膜細胞が接着して、レンズが動く度に、又はレンズを外す際等に、眼組織から該細胞を剥離させて、角膜表面の損傷やそれに伴う痛みを発生させる恐れがあり、ひいてはコンタクトレンズ使用者のQOL(Quality of Life)を著しく低下させることにもなる。更に、SHCLは、他のソフトコンタクトレンズに比して比較的長期に亘って連続装用される場合が多いことを考慮すると、長期間の連続装用によって生じる角膜上皮細胞の非イオン性SHCLへの接着は、重大な眼疾患又は眼粘膜症状を引き起こす一因にもなりかねない。
【0007】
そこで、角膜上皮細胞の非イオン性SHCLへの接着を抑制できる非イオン性SHCL用点眼剤、とりわけ、非イオン性SHCLの装用時に点眼可能であって非イオン性SHCL表面への角膜上皮細胞接着を抑制できる点眼剤の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、クロルフェニラミン及び/又はその塩と、特定量のメントールとを使用することにより、角膜上皮細胞の非イオン性SHCLへの接着を著しく抑制できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に改良を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる非イオン性SHCL用点眼剤を提供する。
項1. (A)クロルフェニラミン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と(B)メントールとを含有し、且つ該(B)成分の配合割合が0.001w/v%以上である、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
項2. (A)成分としてマレイン酸クロルフェニラミンを含む、項1に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
項3. 非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの含水率が35%以下である、項1又は2に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
項4. 更に(C)界面活性剤を含有する、項1乃至3のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
項5. (A)成分の配合割合が0.01w/v%以上である、項1乃至4のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
項6. (C)成分として非イオン性界面活性剤を含む、項4に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
項7. 非イオン性界面活性剤として、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、及びポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマーからなる群より選択される少なくとも1種を含む、項6に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤。
【0010】
また、本発明は、下記に掲げる、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対する角膜上皮細胞の接着抑制方法を提供する。
項8. (A)クロルフェニラミン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と(B)メントールとを含有し、且つ該(B)成分の配合割合が0.001w/v%以上である非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤と、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズとを接触させることを特徴とする、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対する角膜上皮細胞の接着抑制方法。
項9. (A)成分としてマレイン酸クロルフェニラミンを含む、項8に記載の接着抑制方法。
項10. 非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの含水率が35%以下である、項8又は9に記載の接着抑制方法。
項11. 非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤が更に(C)界面活性剤を含有する、項8乃至10のいずれかに記載の接着抑制方法。
項12. 非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤における(A)成分の配合割合が0.01w/v%以上である、項8乃至11のいずれかに記載の接着抑制方法。
項13. (C)成分として非イオン性界面活性剤を含む、項11に記載の接着抑制方法。
項14. 非イオン性界面活性剤として、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、及びポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマーからなる群より選択される少なくとも1種を含む、項13に記載の接着抑制方法。
【0011】
また、本発明は、下記に掲げる、点眼剤に非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果を付与する方法を提供する。
項15. 非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤に、(A)クロルフェニラミン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と共に、(B)メントールを0.001w/v%以上の配合割合で配合することを特徴とする、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤に非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果を付与する方法。
項16. (A)成分としてマレイン酸クロルフェニラミンを含む、項15に記載の付与方法。
項17. 非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの含水率が35%以下である、項15又は16に記載の付与方法。
項18. 非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤に、更に(C)界面活性剤を配合する、項15乃至17のいずれかに記載の付与方法。
項19. 非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤における(A)成分の配合割合が0.01w/v%以上である、項15乃至18のいずれかに記載の付与方法。
項20. (C)成分として非イオン性界面活性剤を含む、項18に記載の付与方法。
項21. 非イオン性界面活性剤として、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、及びポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマーからなる群より選択される少なくとも1種を含む、項20に記載の付与方法。
【0012】
更に、本発明は、下記に掲げる使用をも提供する。
項22.(A)クロルフェニラミン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種、及び0.001w/v%以上の(B)メントールの、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤の製造のための使用。
項23.(A)クロルフェニラミン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種、及び0.001w/v%以上の(B)メントールの、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果を付与するための点眼剤の製造のための使用。
項24. (A)成分としてマレイン酸クロルフェニラミンを含む、項22又は23のいずれかに記載の使用。
項25. 非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの含水率が35%以下である、項22乃至24のいずれかに記載の使用。
項26. (A)成分及び(B)成分と共に、(C)界面活性剤が組み合わされて用いられる、項22乃至25のいずれかに記載の使用。
項27. (A)成分が0.01w/v%以上の配合割合が用いられる、項22乃至26のいずれかに記載の使用。
項28. (C)成分として非イオン性界面活性剤を含む、項26に記載の使用。
項29. 非イオン性界面活性剤として、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、及びポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマーからなる群より選択される少なくとも1種を含む、項28に記載の使用。
【発明の効果】
【0013】
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤によれば、非イオン性SHCLに対して角膜上皮細胞が接着するのを効果的に抑制できるので、非イオン性SHCLの使用による角膜表面の損傷やそれに伴う痛みを改善することできる。
【0014】
また、SCL装用時には角膜は障害が起きても自覚し難いことが知られているため、非イオン性SHCLの長期間の連続装用を繰り返すと、重症になるまで放置してしまうことがある。これに対して、本発明の非イオン性SHCL用点眼剤によれば、このような悪影響についても改善でき、高い安全性をもって非イオン性SHCLを長期間連続装用することをも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】参考試験例1において、各種ソフトコンタクトレンズの角膜上皮細胞の接着性を評価した結果を示す図である。
図2】試験例1において、試験液(実施例1及び比較例1-2)の非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞接着抑制効果を評価した結果を示す図である。
図3】試験例2において、試験液(実施例2-5、比較例3-5)の非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞接着抑制効果を評価した結果を示す図である。
図4】試験例3において、試験液(実施例6、比較例6-7)の非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞接着抑制効果を評価した結果を示す図である。
図5】試験例4において、試験液(実施例7、比較例8)の非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞接着抑制効果を評価した結果を示す図である。
図6】試験例5において、試験液(実施例8-10、比較例9-10)の非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞接着抑制効果を評価した結果を示す図である。
図7】試験例6において、試験液(実施例11-12、比較例11)の非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞接着抑制効果を評価した結果を示す図である。
図8】参考試験例2において、試験液(比較例12-13)の非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞接着抑制効果を評価した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(I) 非イオン性SHCL用点眼剤
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤は、クロルフェニラミン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種(以下、単に(A)成分と表記することもある)を含有する。クロルフェニラミン及びその塩は、抗ヒスタミン剤として公知の化合物であり、公知の方法により合成してもよく市販品として入手することもできる。
【0017】
本発明で使用される上記(A)成分の内、クロルフェニラミンの塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、マレイン酸塩、フマル酸塩等の有機酸塩;塩酸塩、硫酸塩等の無機酸塩;金属塩等の各種の塩が挙げられる。これらの塩の中でも、好ましくは有機酸塩、更に好ましくはマレイン酸塩が挙げられる。これらのクロルフェニラミンの塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0018】
また、クロルフェニラミン及びその塩は、水和物の形態であってもよく、更にd体、l体、dl体のいずれであってもよい。
【0019】
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤には、上記(A)成分として、クロルフェニラミン及びその塩の中から、1種のものを選択して単独で使用してもよく、2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。上記(A)成分として、好ましくはクロルフェニラミンの塩、更に好ましくはクロルフェニラミンの有機酸塩、特に好ましくはクロルフェニラミンのマレイン酸塩(マレイン酸クロルフェニラミン)が挙げられる。
【0020】
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤において、上記(A)成分の配合割合については、該(A)成分の種類、他の配合成分の種類、該点眼剤の用途等に応じて適宜設定されるが、一例として、該点眼剤の総量に対して、該(A)成分が総量として0.005w/v%以上が挙げられる。非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着を一層効果的に抑制するとの観点から、好ましくは、該(A)成分が総量で0.01w/v%以上、更に好ましくは0.01~0.1w/v%、特に好ましくは0.01~0.03w/v%が例示される。
【0021】
更に、本発明の非イオン性SHCL用点眼剤は、上記(A)成分に加えて、メントール(以下、単に(B)成分と表記することもある)を0.001w/v%以上の配合割合で含有する。このように所定の配合割合のメントールを、上記(A)成分と併用することによって、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着を有効に抑制させることが可能になる。
【0022】
上記(B)成分として使用されるメントールは、d体、l体、dl体のいずれであってもよいが、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果をより一層顕著ならしめるとの観点から、好ましくはl体が用いられる。また、上記(B)成分として、メントールを含有する精油を使用してもよい。このような精油としては、例えば、ハッカ油、クールミント油、スペアミント油、ペパーミント油等が挙げられる。
【0023】
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤には、上記(B)成分として、上述のメントールの中から、1種のものを選択して単独で使用してもよく、2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。
【0024】
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤において、上記(B)成分の配合割合は、該点眼剤の総量に対して該(B)成分が総量で0.001w/v%以上となるように設定されていればよいが、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果をより一層顕著ならしめるとの観点から、該(B)成分の配合割合として、好ましくは0.001~0.02w/v%、更に好ましくは0.001~0.01w/v%となる濃度が例示される。なお、上記(B)成分として、メントールを含む精油を使用する場合は、当該精油の配合割合は、配合される精油中のメントール含有量が上記配合割合を満たすように設定される。
【0025】
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤において、上記(A)成分に対する上記(B)成分の比率については、前述する配合割合を満たす限り特に制限されるものではないが、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果をより一層顕著ならしめるという観点から、上記(A)成分の総量100重量部当たり、上記(B)成分のメントールの総量が1~1000重量部、好ましくは2~200重量部、更に好ましくは3~100重量部となる比率を充足することが望ましい。
【0026】
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤には、上記(A)及び(B)成分に加えて、更に界面活性剤(以下、単に(C)成分と表記することもある)を含有していてもよい。このように、界面活性剤を含むことによって、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果をより一層有効に奏させることが可能になる。本発明の非イオン性SHCL用点眼剤に配合可能な界面活性剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として特に制限されず、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤のいずれであってもよい。
【0027】
上記(C)成分として使用される非イオン性界面活性剤としては、具体的には、モノラウリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート20)、モノパルミチン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート40)、モノステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート60)、トリステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート65)、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート80)、等のPOEソルビタン脂肪酸エステル類;ポロクサマー407、ポロクサマー235、ポロクサマー188、ポロクサマー403、ポロクサマー237、ポロクサマー124等のPOE・POPブロックコポリマー類;POE(60)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)等のPOE硬化ヒマシ油類;POE(9)ラウリルエーテル等のPOEアルキルエーテル類;POE(20)POP(4)セチルエーテル等のPOE-POPアルキルエーテル類;POE(10)ノニルフェニルエーテル等のPOEアルキルフェニルエーテル類等が挙げられる。なお、上記で例示する化合物において、POEはポリオキシエチレン、POPはポリオキシプロピレン、及び括弧内の数字は付加モル数を示す。また、上記(C)成分として使用される両性界面活性剤としては、具体的には、アルキルジアミノエチルグリシン等が例示される。また、上記(C)成分として使用される陽イオン性界面活性剤としては、具体的には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等が例示される。また、上記(C)成分として使用される陰イオン性界面活性剤としては、具体的には、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、脂肪族α-スルホメチルエステル、αオレフィンスルホン酸等が例示される。
【0028】
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤において、上記界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
これらの(C)成分の中でも、眼粘膜に対する高い安全性を備えさせ、且つ非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果をより一層向上せしめるという観点から、好ましくは非イオン性界面活性剤;更に好ましくはPOEソルビタン脂肪酸エステル類、POE硬化ヒマシ油類、POE-POPブロックコポリマー類;特に好ましくはポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、POE-POPブロックコポリマー;より好ましくはポリソルベート80及びPOE-POPブロックコポリマーが用いられる。
【0030】
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤に上記(C)成分を配合する場合、該(C)成分の配合割合については、該(C)成分の種類、他の配合成分の種類や量、該点眼剤の用途等に応じて適宜設定できる。上記(C)成分の配合割合の一例として、該点眼剤の総量に対して、該(C)成分が総量で、0.001~1.0w/v%、好ましくは0.005~0.5w/v%、更に好ましくは0.01~0.1w/v%が例示される。
【0031】
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤において、上記(B)成分に対する上記(C)成分の比率については、前述する配合割合を満たす限り特に制限されるものではないが、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果をより一層顕著ならしめるという観点から、上記(B)成分のメントールの総量1重量部あたり、(C)成分の総量が、2~100000重量部、好ましくは5~50000重量部、更に好ましくは5~10000重量部となる比率を充足することが望ましい。
【0032】
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤は、上記成分に加えて、更に緩衝剤を含有していてもよい。本発明の非イオン性SHCL用点眼剤に配合できる緩衝剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる緩衝剤の一例として、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、イプシロン-アミノカプロン酸、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩などが挙げられる。これらの緩衝剤は組み合わせて使用しても良い。好ましい緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤及びクエン酸緩衝剤である。特に好ましい緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤またはリン酸緩衝剤である。ホウ酸緩衝剤としては、ホウ酸アルカリ金属塩、ホウ酸アルカリ土類金属塩などのホウ酸塩が挙げられる。リン酸緩衝剤としては、リン酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ土類金属塩などのリン酸塩が挙げられる。クエン酸緩衝剤としては、クエン酸アルカリ金属塩、クエン酸アルカリ土類金属塩などが挙げられる。また、ホウ酸緩衝剤又はリン酸緩衝剤として、ホウ酸塩又はリン酸塩の水和物を用いてもよい。より具体的な例として、ホウ酸又はその塩(ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ砂など)、リン酸又はその塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウムなど)、炭酸又はその塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウムなど)、クエン酸又はその塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウムなど)、酢酸又はその塩(酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸ナトリウムなど)、アスパラギン酸又はその塩(アスパラギン酸ナトリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸カリウムなど)等が例示できる。これらの緩衝剤は1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0033】
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤に緩衝剤を配合する場合、該緩衝剤の配合割合については、使用する緩衝剤の種類、他の配合成分の種類や量、該点眼剤の用途等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、該点眼剤の総量に対して、該緩衝剤が総量で0.01~10w/v%、好ましくは0.1~5w/v%、更に好ましくは0.5~2w/v%となる割合が例示される。
【0034】
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤のpHについては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される範囲内であれば特に限定されるものではない。本発明の非イオン性SHCL用点眼剤のpHの一例として、4.0~9.5、好ましくは5.0~8.5、より好ましくは5.5~8.0、更に好ましくは6.0~7.5となる範囲が挙げられる。本発明の非イオン性SHCL用点眼剤をかかるpH範囲となるように調整すれば、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果を有効に保持させ、且つ眼粘膜に対する刺激を低減して高い安全性を備えることができる。一実施形態において、本発明の非イオン性SHCL用点眼剤が、例えばpH5.5~6.5である場合には、上記(C)成分(好ましくは非イオン性界面活性剤)を配合することによって、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果をより一層効果的に奏させることが可能になる。
【0035】
また、本発明の非イオン性SHCL用点眼剤の浸透圧については、生体に許容される範囲内であれば、特に制限されない。本発明の非イオン性SHCL用点眼剤の浸透圧比の一例として、好ましくは0.7~5.0、更に好ましくは0.9~3.0、特に好ましくは1.0~2.0となる範囲が挙げられる。浸透圧の調整は無機塩、多価アルコール、糖アルコール、糖類等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。浸透圧比は、第十五改正日本薬局方に基づき0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液の浸透圧に対する試料の浸透圧の比とし、浸透圧は日本薬局方記載の浸透圧測定法(氷点降下法)を参考にして測定する。浸透圧比測定用標準液は、塩化ナトリウム(日本薬局方標準試薬)を500~650℃で40~50分間乾燥した後、デシケーター(シリカゲル)中で放冷し、その0.900gを正確に量り、精製水に溶かし正確に100mLとして調製するか、市販の浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)を用いる。
【0036】
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤は、本発明の効果を妨げない限り、上記成分の他に、種々の薬理活性成分や生理活性成分を組み合わせて適当量含有してもよい。かかる成分は特に制限されず、例えば、一般用医薬品製造(輸入)承認基準2000年版(薬事審査研究会監修)に記載された眼科用薬における有効成分が例示できる。具体的には、眼科用薬において用いられる成分としては、次のような成分が挙げられる。
抗ヒスタミン剤:例えば、イプロヘプチン、ジフェンヒドラミン等。
充血除去剤:テトラヒドロゾリン、ナファゾリン、エピネフリン、エフェドリン、メチルエフェドリン等。
殺菌剤:例えば、アクリノール、セチルピリジニウム、ベンザルコニウム、ベンゼトニウム、クロルヘキシジン等。
ビタミン類:フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、シアノコバラミン、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、塩酸ピリドキシン、パンテノール、パントテン酸カルシウム、酢酸トコフェロール等。
アミノ酸類:アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アミノエチルスルホン酸等。
消炎剤:例えば、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸、プラノプロフェン、サリチル酸メチル、サリチル酸グリコール、アラントイン、アズレン、アズレンスルホン酸、グアイアズレン、トラネキサム酸、ε-アミノカプロン酸、ベルベリン、リゾチーム、甘草等。
収斂剤:例えば、亜鉛華、乳酸亜鉛、硫酸亜鉛等。
その他:例えば、フマル酸ケトチフェン、クロモグリク酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、スルファメトキサゾール、インドメタシン、イブプロフェン、イブプロフェンピコノール、ブフェキサマク、フルフェナム酸ブチル、ベンダザック、ピロキシカム、ケトプロフェン、フェルビナク、紫根、セイヨウトチノキ、及びこれらの塩等。
【0037】
また、本発明の非イオン性SHCL用点眼剤には、発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途や形態に応じて、常法に従い、様々な添加物を適宜選択し、1種又はそれ以上を併用して適当量含有させてもよい。それらの添加物として、例えば、医薬品添加物事典2005(日本医薬品添加剤協会編集)に記載された各種添加物が例示できる。代表的な成分として次の添加物が挙げられる。
担体:例えば、水、含水エタノール等の水性担体。
増粘剤:例えば、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アルギン酸、ポリビニルアルコール(完全、又は部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、コンドロイチン硫酸ナトリウム等。
糖類:例えば、グルコース、シクロデキストリン等。
糖アルコール類:例えば、キシリトール、ソルビトール、マンニトールなど。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤:例えば、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、エタノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ビグアニド化合物(具体的には、ポリヘキサメチレンビグアニド等)、グローキル(ローディア社製 商品名)等。
pH調節剤:例えば、塩酸、ホウ酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン-アミノカプロン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、硫酸、リン酸、ポリリン酸、プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコノラクトン、酢酸アンモニウム等。
等張化剤:例えば、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、グリセリン、プロピレングリコール等。
安定化剤:ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノエタノールアミン、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン等。
香料又は清涼化剤:アネトール、オイゲノール、カンフル、ゲラニオール、シネオール、ボルネオール、リモネン、リュウノウ等。これらは、d体、l体又はdl体のいずれでもよく、また精油(ウイキョウ油、ケイヒ油、ベルガモット油、ユーカリ油、ローズ油等)として配合してもよい。
【0038】
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤は、例えば、精製水、生理食塩水等の水性担体等に、上記(A)及び(B)成分、必要に応じて上記(C)成分及び他の配合成分を所望の濃度となるように添加し、常法に準じて調製される。
【0039】
本発明の非イオン性SHCL用点眼剤において、適用対象となる非イオン性SHCLの種類については特に制限されず、現在市販されている、或いは将来市販される全ての非イオン性SHCLを適用対象にできる。なお、ここで非イオン性とは、当業者が通常理解するように、米国FDA基準に則り、素材中のイオン性成分含有率が1mol%未満であることをいう。また、適用対象となる非イオン性SHCLの含水率についても特に制限されず、例えば、90%以下、好ましくは60%以下、更に好ましくは50%以下、特に好ましくは35%以下が挙げられる。なお、SHCLはハイドロゲル素材を含むものであるため、少なくとも0%より多い水分を含む。含水率が35%以下の非イオン性SHCLは特に角膜上皮細胞に対する接着性が強い傾向がある。本発明の非イオン性SHCL用点眼剤によれば、このように角膜上皮細胞に対する接着性が強い非イオン性SHCLに対しても、角膜上皮細胞の接着抑制効果を有効に奏することができる。かかる本発明の効果に鑑みれば、本発明の非イオン性SHCL用点眼剤の好適な適用対象の一例として、含水率が35%以下の非イオン性SHCLが挙げられる。
【0040】
ここでSHCLの含水率とは、SHCL中の水の割合を示し、具体的には以下の計算式により求められる。
含水率(%)=(含水した水の重量/含水状態のSHCLの重量)×100
かかる含水率は、ISO18369-4:2006の記載に従って重量測定方法により測定され得る。
【0041】
非イオン性SHCL用点眼剤の使用形態には、非イオン性SHCLを装着した眼に直接点眼する形態に加えて、非イオン性SHCLを装着する前に眼に点眼する形態が包含される。
【0042】
従来、ポリメチルメタクリレート(PMMA)素材のハードコンタクトレンズの装着によって、角膜へのレンズの固着等に起因して角膜上皮障害(3時-9時ステイニング)が惹起され易いことが知られている。また、SCLの装用でも、目が乾く症状等を有する者(例えば、ドライアイ患者)ではレンズにより角膜が損傷され易く、角膜ステイニングが生じ易い傾向があることが知られている。後述の試験例で示すように、本発明者の研究によって非イオン性SHCLは角膜上皮細胞を著しく接着することが確認されており、更にSHCLは通常の非シリコーンSCLよりも一般に固いことが分かっている。このような非イオン性SHCLの特性を鑑みれば、非イオン性SHCLの装用によっても上述のような角膜上皮障害を生じさせ易いことが明らかである。これに対して、本発明の非イオン性SHCL用点眼剤によれば、角膜上皮細胞の非イオン性SHCLへの接着を効果的に抑制できるので、非イオン性SHCLの装用によって引き起こされる角膜上皮障害を予防することができる。従って、本発明の非イオン性SHCL用点眼剤は、非イオン性SHCLの装用により生じる角膜上皮障害の予防剤として用いられることができ、とりわけ、目が乾く症状を有する者用(例えば、ドライアイ患者用)として好適に用いられる。
【0043】
また、角膜上皮細胞はアレルゲンに対するバリアー機能も有しているので、上述のような非イオン性SHCL装用により引き起こされる角膜上皮障害は、そのバリアー機能を低下させ、目のアレルギー疾患等を発症あるいは悪化させ易くする畏れがある。従って、本発明の非イオン性SHCL用点眼剤は、非イオン性SHCLを使用する者が、アレルギー疾患を始めとする種々の眼病に対して抵抗力を高めて予防するための眼病予防剤(例えば、アレルギー疾患の予防剤)として好適に用いられる。
【0044】
また本発明の非イオン性SHCL用点眼剤は、上記(A)成分に基づいて抗ヒスタミン作用をも発揮できるので、アレルギー症状の予防乃至緩和剤としても有用である。更に、本発明の非イオン性SHCL用点眼剤は、上記(B)成分に基づいて眼に清涼感を付与することもできるので、非イオン性SHCL装用時に快適な使用感を与える目的で使用することもできる。
【0045】
(II) 非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制方法、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果の付与方法、及び点眼剤の製造のための使用
前述するように、非イオン性SHCL用点眼剤中で上記(A)成分及び所定量の(B)成分を共存させることによって、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着を抑制することができる。
【0046】
従って、本発明は、更に別の観点から、(A)クロルフェニラミン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と(B)メントールとを含有し、且つ該(B)成分の濃度が0.001w/v%以上である非イオン性SHCL用点眼剤と、非イオン性SHCLを接触させることを特徴とする、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制方法を提供する。更には、非イオン性SHCL用点眼剤に、(A)クロルフェニラミン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種と共に、(B)メントールを0.001w/v%以上の濃度で配合することを特徴とする、非イオン性SHCL用点眼剤に非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果を付与する方法を提供する。
【0047】
また本発明は、更に別の観点から、(A)クロルフェニラミン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種、及び0.001w/v%以上の(B)メントールの、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用点眼剤の製造のための使用を提供する。更には、(A)クロルフェニラミン及びその塩からなる群より選択される少なくとも1種、及び0.001w/v%以上の(B)メントールの、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果を付与するための点眼剤の製造のための使用を提供する。
【0048】
これらの方法及び使用において、使用する(A)及び(B)成分の種類、これらの非イオン性SHCL用点眼剤中の配合割合、その他の配合成分の種類や濃度、非イオン性SHCL用点眼剤のpH、非イオン性SHCL用点眼剤の製剤形態や適用対象となる非イオン性SHCLの種類等については、前記「(I) 非イオン性SHCL用点眼剤」と同様である。
【実施例0049】
以下に、試験例、実施例等に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0050】
参考試験例1:各種SCLの角膜上皮細胞の接着性評価
表1に示す5種類のソフトコンタクトレンズを用いて以下の実験を実施し、ソフトコンタクトレンズ表面の角膜上皮細胞接着性を評価した。なお、本試験に使用したソフトコンタクトレンズは、いずれも市販品である。
【0051】
【表1】
【0052】
具体的に以下の方法により評価した。増殖用培地(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)を900μLづつ入れた24ウェルマイクロプレートに、各ソフトコンタクトレンズをそれぞれ凸面が上になるように一枚づつ浸漬させた。各ウェルに、増殖用培地を用いて調整したウサギ角膜上皮細胞株SIRC(ATCC number:CCL-60)の細胞懸濁液(1×105cell/ml)を100μLづつ播種し、37℃、5%CO条件下で48時間培養後、ソフトコンタクトレンズに接着した生存細胞数を計測した。なお、コントロールとして、いずれのレンズも浸漬させず、マイクロプレートの底面で細胞を培養し、ウェル中の生細胞数を計測した(コントロール群)。なお、生存細胞数の測定にはCell Counting Kit((株)同仁化学研究所)を用いた。コントロール群のウェル中に含まれる生細胞の総数に対して、各ソフトコンタクトレンズ表面に接着している生細胞数の割合(コントロール群に対する生細胞数の割合;%)をそれぞれ算出した。
【0053】
得られた結果を図1に示す。図1から明らかなように、非イオン性SHCLであるレンズA及びBは、イオン性のシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズであるレンズCや非シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズであるレンズDまたはEと比較して、顕著な角膜上皮細胞接着性があることが確認された。また、細胞のソフトコンタクトレンズへの接着状況を顕微鏡で観察したところ、レンズC、D及びEには細胞接着が殆ど確認できなかったものの、レンズA及びBの表面には一面に角膜上皮細胞が接着していることが確認された。以上の結果より、非イオン性SHCLは、角膜上皮細胞の接着性が他の種類のレンズと比較して顕著に高いことが確認され、非イオン性SHCLの装用は角膜表面に損傷等の悪影響を与え得ることが明らかとなった。
【0054】
試験例1:非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着抑制試験
表2に示す試験液(実施例1及び比較例1-2)を用いて、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果を以下の方法により評価した。
【0055】
【表2】
【0056】
表1に示すレンズA(非イオン性SHCL)を、表2に示す試験液(実施例1及び比較例1-2)10mlに一枚づつ浸漬し、34℃条件下で24時間静置した。各試験液から取り出したレンズAを生理食塩水で軽く洗浄後、水分を拭い去り、増殖用培地(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)が900μL入った24ウェルプレートに凸面が上になるように一枚づつ浸漬させた。各ウェルに、増殖用培地を用いて調整したウサギ角膜上皮細胞株SIRC(ATCC number:CCL-60)の細胞懸濁液(1×105cell/ml)を100μLづつ播種し、37℃、5%CO条件下で48時間培養した後、レンズに接着した生存細胞数を計測した(サンプル群)。また、コントロールとして、いずれの試験液でも浸漬処理していないレンズAを用いて、上記と同条件でウサギ角膜上皮細胞株の細胞懸濁液を播種して培養を行って、レンズAに接着した生存細胞数を計測した(コントロール群)。更に、ブランクとして、ウサギ角膜上皮細胞を播種せずに増殖用培地(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)1000μLのみを添加したウェルを作製し、37℃、5%CO条件下で48時間静置した(ブランク群)。なお、生存細胞数の計測には、Cell Counting Kit((株)同仁化学研究所)を用い、下式に従って細胞接着抑制率(%)を算出した。その結果、比較例1の試験液で処理しても、細胞接着抑制効果は殆ど認められないことが明らかとなった。
【0057】
【数1】
【0058】
各実施例及び比較例で算出された細胞接着抑制率を基に、比較例1の細胞接着抑制率を100とした場合の細胞接着抑制率の相対比を求めた。結果を図2に示す。図2から明らかなように、実施例1の試験液で処理した非イオン性SHCLでは著しく高い上皮細胞接着抑制効果が得られることが判明した。実施例1の試験液によって認められた細胞接着抑制効果は、比較例1又は2の試験液で処理した場合からは想像し得ない程に格段に優れたものである。
【0059】
試験例2:非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着抑制試験
表3に示す試験液(実施例2-5、比較例3-5)を用いて、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果を以下の方法により評価した。
【0060】
【表3】
【0061】
表1に示すレンズA(非イオン性SHCL)を、表3に示す各試験液10mlに一枚づつ浸漬し、34℃条件下で24時間静置した。各試験液から取り出したレンズAを生理食塩水で軽く洗浄後、水分を拭い去り、増殖用培地(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)が970μL入った24ウェルプレートにレンズの凸面が上になるように一枚づつ浸漬させた。各ウェルに、増殖用培地を用いて調整したウサギ角膜上皮細胞株SIRC(ATCC number:CCL-60)の細胞懸濁液(1×105cell/ml)を30μLづつ播種し、37℃、5%CO条件下で5日間培養した後、レンズに接着した生存細胞数を計測した(サンプル群)。また、コントロールとして、各試験液の代わりに、ホウ酸緩衝液(ホウ酸0.5w/v%、ホウ砂 適量、精製水 残部;pH7.5)を用いて浸漬処理したレンズAを用いて、上記と同条件でウサギ角膜上皮細胞株の細胞懸濁液を播種して培養を行って、レンズAに接着した生存細胞数を計測した(コントロール群)。更に、ブランクとして、ウサギ角膜上皮細胞を播種せずに増殖用培地(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)1000μLのみを添加したウェルを作製し、37℃、5%CO条件下で48時間静置した(ブランク群)。なお、生存細胞数の計測には、Cell Counting Kit((株)同仁化学研究所)を用い、上記試験例1と同様の算出式に従って細胞接着抑制率(%)を算出した。各実施例及び比較例で算出された細胞接着抑制率を基に、比較例3の細胞接着抑制率を100とした場合の細胞接着抑制率の相対比を求めた。結果を図3に示す。図3から明らかなように、実施例2-5の試験液では、マレイン酸クロルフェニラミンとメントールとの組合せによって相乗効果的に高い細胞接着抑制率が認められた。また、比較例4の試験液では、メントールを配合していない比較例3よりもかえって悪化することが明らかになったことから、角膜上皮細胞の非イオン性SHCLへの吸着を有効に抑制するには、メントールの配合割合が特定量以上必要であることも明らかとなった。更に、実施例5の試験液において、角膜上皮細胞の接着抑制効果がより顕著に認められたことから、更に非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80)を配合することによって、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果が一層増強されて奏されることも明らかとなった。
【0062】
試験例3:非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着抑制試験
表4に示す試験液(実施例6、比較例6-7)を用いて、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果を以下の方法により評価した。
【0063】
【表4】
【0064】
表1に示すレンズA(非イオン性SHCL)を、表4に示す各試験液5mlに一枚づつ浸漬し、34℃条件下で24時間静置した。各試験液から取り出したレンズAを生理食塩水で軽く洗浄後、水分を拭い去り、増殖用培地(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)が950μL入った24ウェルプレートにレンズの凸面が上になるように一枚づつ浸漬させた。各ウェルに、増殖用培地を用いて調整したウサギ角膜上皮細胞株SIRC(ATCC number:CCL-60)の細胞懸濁液(1×105cell/ml)を50μLづつ播種し、37℃、5%CO条件下で2日間培養した後、レンズに接着した生存細胞数を計測した(サンプル群)。また、コントロールとして、各試験液の代わりに、ホウ酸緩衝液(ホウ酸0.5w/v%、ホウ砂 適量、精製水 残部;pH7.5)を用いて浸漬処理したレンズAを用いて、上記と同条件でウサギ角膜上皮細胞株の細胞懸濁液を播種して培養を行って、レンズAに接着した生存細胞数を計測した(コントロール群)。更に、ブランクとして、ウサギ角膜上皮細胞を播種せずに増殖用培地(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)1000μLのみを添加したウェルを作製し、37℃、5%CO条件下で48時間静置した(ブランク群)。なお、生存細胞数の計測には、Cell Counting Kit((株)同仁化学研究所)を用い、上記試験例1と同様の算出式に従って細胞接着抑制率(%)を算出した。
【0065】
各実施例及び比較例で算出された細胞接着抑制率を基に、比較例7の細胞接着抑制率を100とした場合の細胞接着抑制率の相対比を求めた。結果を図4に示す。図4から明らかなように、実施例6の試験液でも比較例に比べて著しく高い細胞接着抑制効果が認められた。以上の結果より、マレイン酸クロルフェニラミンの配合割合が0.01%でも十分な角膜上皮細胞接着抑制効果が得られることが明らかとなった。
【0066】
試験例4:非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着抑制試験
試験例2より、マレイン酸クロルフェニラミンとメントールによる相乗的な角膜細胞接着抑制効果を得るためには、特定量以上のメントールが必要であることが明らかとなった為、その有効量を調べることを目的として以下の実験を行った。
【0067】
具体的には、表5に示す試験液(実施例7、比較例8)を用いて、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果を、上記試験例3と同様の方法により評価した。
【0068】
【表5】
【0069】
各実施例及び比較例で算出された細胞接着抑制率を基に、比較例8の細胞接着抑制率を100とした場合の細胞接着抑制率の相対比を求めた。結果を図5に示す。図5から明らかなように、マレイン酸クロルフェニラミンと共に配合するメントールの配合割合は0.001%でも顕著な角膜上皮細胞接着抑制効果が得られることが明らかとなった。
【0070】
試験例5:非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着抑制試験
表6に示す試験液(実施例8-10、比較例9-10)を用いて、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果を以下の方法により評価した。
【0071】
【表6】
【0072】
表1に示すレンズB(非イオン性SHCL)を、表6に示す各試験液8mlに一枚づつ浸漬し、34℃条件下で24時間静置した。各試験液から取り出したレンズBを生理食塩水で軽く洗浄後、水分を拭い去り、増殖用培地(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)が950μL入った24ウェルプレートにレンズの凸面が上になるように一枚づつ浸漬させた。各ウェルに、増殖用培地を用いて調整したウサギ角膜上皮細胞株SIRC(ATCC number:CCL-60)の細胞懸濁液(1×105cell/ml)を50μLづつ播種し、37℃、5%CO条件下で3日間培養した後、レンズに接着した生存細胞数を計測した(サンプル群)。また、コントロールとして、各試験液の代わりに、ホウ酸緩衝液(ホウ酸0.8w/v%、ホウ砂 適量、精製水 残部;pH5.5)を用いて浸漬処理したレンズBを用いて、上記と同条件でウサギ角膜上皮細胞株の細胞懸濁液を播種して培養を行って、レンズBに接着した生存細胞数を計測した(コントロール群)。更に、ブランクとして、ウサギ角膜上皮細胞を播種せずに増殖用培地(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)1000μLのみを添加したウェルを作製し、37℃、5%CO条件下でサンプル群と同時間静置した(ブランク群)。なお、生存細胞数の計測には、Cell Counting Kit((株)同仁化学研究所)を用い、上記試験例1と同様の算出式に従って細胞接着抑制率(%)を算出した。
【0073】
各実施例及び比較例で算出された細胞接着抑制率を基に、比較例9の細胞接着抑制率を100とした場合の細胞接着抑制率の相対比を求めた。結果を図6に示す。図6から明らかなように、本発明の点眼剤をpH5.5~6.5程度にまで低pHにした場合であっても、マレイン酸クロルフェニラミンと0.001w/v%以上のメントールとの組み合わせによって相乗効果的に高い角膜細胞接着抑制効果が得られることが確認された。更に、実施例10の試験液において、角膜上皮細胞の接着抑制効果がより顕著に認められたことから、点眼剤のpHが低い場合であっても、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80)を更に組み合わせて配合することによって、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果が一層増強されて奏されることが確認された。
【0074】
試験例6:非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着抑制試験
表7に示す試験液(実施例11-12、比較例11)を用いて、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果を以下の方法により評価した。
【0075】
【表7】
【0076】
表1に示すレンズB(非イオン性SHCL)を、表7に示す各試験液8mlに一枚づつ浸漬し、34℃条件下で24時間静置した。各試験液から取り出したレンズBを生理食塩水で軽く洗浄後、水分を拭い去り、増殖用培地(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)が950μL入った24ウェルプレートにレンズの凸面が上になるように一枚づつ浸漬させた。各ウェルに、増殖用培地を用いて調整したウサギ角膜上皮細胞株SIRC(ATCC number:CCL-60)の細胞懸濁液(1×105cell/ml)を50μLづつ播種し、37℃、5%CO条件下で3日間培養した後、レンズに接着した生存細胞数を計測した(サンプル群)。また、コントロールとして、各試験液の代わりに、ホウ酸緩衝液(ホウ酸0.8w/v%、ホウ砂 適量、精製水 残部;pH6.0)を用いて浸漬処理したレンズBを用いて、上記と同条件でウサギ角膜上皮細胞株の細胞懸濁液を播種して培養を行って、レンズBに接着した生存細胞数を計測した(コントロール群)。更に、ブランクとして、ウサギ角膜上皮細胞を播種せずに増殖用培地(10%ウシ胎児血清含有DMEM培地)1000μLのみを添加したウェルを作製し、37℃、5%CO条件下でサンプル群と同時間静置した(ブランク群)。なお、生存細胞数の計測には、Cell Counting Kit((株)同仁化学研究所)を用い、上記試験例1と同様の算出式に従って細胞接着抑制率(%)を算出した。
【0077】
各実施例及び比較例で算出された細胞接着抑制率を基に、比較例11の細胞接着抑制率を100とした場合の細胞接着抑制率の相対比を求めた。結果を図7に示す。図7から明らかなように、本試験例においても、これまでの試験例と同様に、マレイン酸クロルフェニラミンと0.001w/v%以上のメントールとの組み合わせによって顕著に高い角膜細胞接着抑制効果が得られることが確認され、その効果は、非イオン性界面活性剤(ポロクサマー407)を更に組み合わせて配合することによって一層増強されることが確認された。
【0078】
参考試験例2:非イオン性SHCLへの角膜上皮細胞の接着抑制試験
他のテルペノイドでも同様の効果が得られるかどうかを確認するため、以下の実験を行った。
【0079】
具体的には、表8に示す試験液(比較例12及び13)を用いて、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果を、上記試験例3と同様の方法により評価した。
【0080】
【表8】
【0081】
各比較例で算出された細胞接着抑制率を基に、比較例12の細胞接着抑制率を100とした場合の細胞接着抑制率の相対比を求めた。結果を図8に示す。図8から明らかなように、ゲラニオールを配合した比較例13の試験液ではゲラニオールを配合していない比較例12の試験液を用いた場合よりもかえって悪化することがわかり、ゲラニオールでは有効な効果が得られないことが明らかとなった。即ち、本結果から、非イオン性SHCLに対する角膜上皮細胞の接着抑制効果は、クロルフェニラミン及び/又はその塩と0.001w/v%以上のメントールとを併用することによって初めて達成される特有の効果であり、メントールを他のテルペノイドに置き換えては達成できないことが明らかとなった。
【0082】
製剤例
表9に記載の処方で、非イオン性SHCL用点眼剤(実施例13-22)が調製される。
【0083】
【表9】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8