(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090942
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】水硬性組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20230622BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20230622BHJP
C04B 7/19 20060101ALI20230622BHJP
C04B 7/26 20060101ALI20230622BHJP
C04B 7/28 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/08 B
C04B7/19
C04B7/26
C04B7/28
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078099
(22)【出願日】2023-05-10
(62)【分割の表示】P 2020004903の分割
【原出願日】2020-01-16
(31)【優先権主張番号】P 2019048741
(32)【優先日】2019-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】荻野 正貴
(72)【発明者】
【氏名】大脇 英司
(57)【要約】
【課題】中性化反応の進行を抑制した水硬性組成物を提供する。
【解決手段】
セメントと、硝酸塩化合物からなる中性化抑制剤とを含み、前記中性化抑制剤が、硝酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、硝酸カリウムのいずれか1種以上を含む水硬性組成物である。全粉体量に対して、前記中性化抑制剤を硝酸イオン(NO
3
-、式量62)に換算して0.8質量%以上5.0質量%以下含むことが好ましく、全粉体中におけるポルトランドセメントの配合率は、80質量%以下であることが好ましい。また、前記セメントは、高炉セメント、フライアッシュセメント、環境配慮型セメントのいずれかであることが好ましい。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、硝酸塩化合物からなる中性化抑制剤とを含み、
前記中性化抑制剤が、硝酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、硝酸カリウムのいずれか1種以上を含むことを特徴とする水硬性組成物。
【請求項2】
全粉体量に対して、前記中性化抑制剤を硝酸イオン(NO3
-、式量62)に換算して0.8質量%以上5.0質量%以下含むことを特徴とする請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項3】
全粉体中におけるポルトランドセメントの配合率が80質量%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の水硬性組成物。
【請求項4】
前記セメントが、高炉セメント、フライアッシュセメント、環境配慮型セメントのいずれかであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の水硬性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントは、水との水和反応により硬化して硬化体となる。セメントの一部または全部を構成するクリンカー鉱物は、水と反応して強アルカリ性の水酸化カルシウムなどの水和物を生成し、硬化体中の細孔溶液は、強アルカリ性を示す。
硬化体は、大気中に放置しておくと、内部に侵入した二酸化炭素が水酸化カルシウムなどのカルシウム塩と反応して炭酸カルシウムを生成して、細孔溶液が強アルカリ性から中性へと変性する、いわゆる「中性化」が進行する。中性化は、大気と接触する硬化体表面から進行する。セメントを用いて鉄筋コンクリート構造物を構築する場合、中性化が鉄筋コンクリート構造物内部の鉄筋近くまで進行すると、鉄筋を被覆する不動態皮膜を破壊し、鉄筋腐食の一因となる。そして、鉄筋が、腐食前と比べて膨張することにより、硬化体のひび割れ、破壊等を引き起こし、また、腐食により鉄筋の断面欠損が生じ、鉄筋コンクリート構造物の強度が低下する。
【0003】
近年、製造時の二酸化炭素排出量の少ない環境配慮型セメントが提案されている。環境配慮型セメントは、1種又は2種以上のJIS R5210、R5211、R5212、R5213、R5214に規定されるセメント(ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント、エコセメント)の混合物のうち20~100%を、スラグ、フライアッシュ、シリカフューム、二水セッコウ、半水セッコウ、無水セッコウ、石灰石微粉末、消石灰、膨張材、シリカ質混合材、または、カルシウム塩やナトリウム塩に置き換えたものと同等の組成を持つ水硬性組成物であり、環境配慮型セメントを用いたコンクリートを、環境配慮型コンクリートと称する。例えば、特許文献1には、環境配慮型セメントとして、高炉スラグ微粉末と石灰石微粉末とカルシウムイオンを溶出する速度が異なる2種類以上の刺激剤とからなる水硬性組成物が、特許文献2には、環境配慮型コンクリートとして、細骨材、粗骨材、石灰石微粉末、スラグ微粉末、炭酸ナトリウム、化学混和剤を主成分とするスラグ硬化組成物が提案されている。非特許文献1には、環境配慮型コンクリートとして、ポルトランドセメントの20~80%を高炉スラグを主成分とする混和材で置き換えたコンクリートの施工例が報告されている。
しかし、環境配慮型セメントを使用した硬化体や環境配慮型コンクリートは、ポルトランドセメントの使用量が少なく、ポルトランドセメントのみをセメントとして使用した硬化体やコンクリートと比較して中性化が進行しやすいという問題がある。例えば、特許文献1に示される環境配慮型セメントは、高炉セメントを硬化するのに必要な反応刺激剤の選定により、中性化の抑制が可能となったとしているが、この環境配慮型セメントの中性化の速度は、ポルトランドセメントのみをセメントとして使用した硬化体の中性化速度と比較して大きい。
【0004】
中性化を抑制する技術として、セメント量を増やして水セメント比を小さくし、硬化体を緻密にして二酸化炭素を侵入しにくくする方法が知られている。ただし、使用するセメントの量が増加するため、コストが増加してしまう。また、水セメント比が小さいと、流動性が悪く、施工性が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-148434号公報
【特許文献2】特許第5743650号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】陣内浩、加藤雅樹、立山香織、近藤憲二:主要構造部材を環境配慮型コンクリートで構築した建築物の実現とCO2削減効果、コンクリート工学、vol.52,No.6,pp.528-533,2014.6.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
中性化反応の進行を抑制した水硬性組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の課題を解決するための手段は、以下のとおりである。
1.セメントと、硝酸塩化合物からなる中性化抑制剤とを含み、前記中性化抑制剤が、硝酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、硝酸カリウムのいずれか1種以上を含むことを特徴とする水硬性組成物。
2.全粉体量に対して、前記中性化抑制剤を硝酸イオン(NO3
-、式量62)に換算して0.8質量%以上5.0質量%以下含むことを特徴とする1.に記載の水硬性組成物。
3.全粉体中におけるポルトランドセメントの配合率が80質量%以下であることを特徴とする1.または2.に記載の水硬性組成物。
4.前記セメントが、高炉セメント、フライアッシュセメント、環境配慮型セメントのいずれかであることを特徴とする1.~3.のいずれかに記載の水硬性組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水硬性組成物は、硝酸塩化合物(硝酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、硝酸カリウムのいずれか1種以上を含むもの)からなる中性化抑制剤を含むことにより、硬化体における中性化の進行を抑制することができる。硬化の際に加える水の一部を硝酸塩化合物の水溶液と置換することにより、または硬化の際に加える水の一部または全部に硝酸塩化合物を溶解することにより、あるいは硝酸塩化合物を固体として添加または混合するだけで、得られる硬化体の中性化を抑制することができる。本発明の水硬性組成物は、中性化を抑制する対象の水硬性組成物に硝酸塩化合物を水溶液または固体の形態で添加するだけでよく、中性化を抑制する対象の水硬性組成物のうち、硝酸塩化合物以外のセメントと混和材の一方または両方からなる粉体の、構成およびそれぞれの量および粉体の合計量を変更することなく、従来の組成のまま中性化を抑制することができる。
【0010】
中性化抑制剤の配合量を、全粉体量に対して、中性化抑制剤を硝酸イオン(NO3
-、式量62)換算で0.8質量%以上添加することにより、その効果を得ることができる。添加率が高くなると抑制効果も高くなるが、添加率が5.0質量%を超えると、十分な効果が得られるが、添加率の増加に対する中性化速度の低下率が小さくなり、また、高コストとなる。このため、0.8質量%以上5.0質量%以下の範囲で調整することが好ましい。中性化抑制剤の添加により、構造物の要求性能に合わせて中性化の進行を制御することができる。
本発明の水硬性組成物は、様々なセメント、および、セメントと混和材の混合物に対して中性化抑制効果を示す。本発明の水硬性組成物におけるセメントとしては、中性化反応が進行しやすい全粉体中におけるポルトランドセメントの配合率が80質量%以下であるセメントや、高炉セメント、フライアッシュセメント、環境配慮型セメントに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実験1における促進中性化試験の結果を示す図。
【
図2】実験2における促進中性化試験の結果を示す図。
【
図3】実験2における3.8年間曝露後の中性化深さを示す図。
【
図4】実験4における促進中性化試験の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
「水硬性組成物」
本発明の水硬性組成物は、セメントと、硝酸塩化合物からなる中性化抑制剤とを含む。
本発明の水硬性組成物は、セメントと硝酸塩化合物からなる中性化抑制剤を含めばよく、ここに混和材を含むことができる。ここで、本明細書においては、セメントと混和材とを合わせて粉体と称し、その合計量を全粉体量と称す。
本発明の水硬性組成物は、セメントと中性化抑制剤、あるいは、セメントと混和材と中性化抑制剤の他に、AE剤、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、遅延剤、発泡剤、防水剤、着色剤、耐寒剤、早強剤、増粘剤等の化学混和剤や、砂利、砂、海砂、砕石、砕砂、各種スラグ骨材、重量骨材、軽量骨材、再生骨材等の細骨材および粗骨材や、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ガラス繊維、鋼繊維、炭素繊維等の添加材や、水道水、河川水、湖沼水、地下水、レディーミクストコンクリート工場における回収水、化学混和剤に含まれる水、中性化抑制剤に含まれる結晶水等の水を含むことができる。
【0013】
・セメント
本発明の水硬性組成物が含有するセメントとしては、水と反応を起こして硬化する水硬性粉体を特に限定されることなく用いることができる。例えば、JISで規定されている
セメントであるポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント、エコセメントを挙げることができる。また、環境配慮型セメントを用いることもできる。これらの中で、中性化が進行しやすい全粉体中におけるポルトランドセメントの配合率が80質量%以下であるセメントや、高炉セメント、フライアッシュセメント、および、環境配慮型セメントが好適である。
【0014】
・混和材
スラグ、フライアッシュ、シリカフューム、二水セッコウ、半水セッコウ、無水セッコウ、石灰石微粉末、消石灰、膨張材、シリカ質混合材は、JISで規定されているセメントや環境配慮型セメントの混合物や少量混合物であるが、セメントを用いてモルタルやコンクリートを作る際の混和材としても使用できる。
【0015】
・中性化抑制剤
本発明の水硬性組成物は、硝酸塩化合物からなる中性化抑制剤を含む。硝酸塩化合物としては、水硬性組成物に配合可能なものを特に制限することなく用いることができ、例えば、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、硝酸アルミニウム等を用いることができる。また、本発明の効果を妨げない限り、硝酸塩化合物以外からなる中性化抑制剤を併用することができる。
【0016】
本発明の水硬性組成物は、全粉体量に対して、中性化抑制剤を硝酸イオン(NO3
-、式量62)換算で0.8質量%以上5.0質量%以下含むことが好ましい。中性化抑制剤の量が硝酸イオン換算で0.8質量%未満では、中性化の進行を抑制する効果が十分でない場合がある。中性化抑制剤の量が硝酸イオン換算で5.0質量%より多いと、十分な中性化抑制効果が得られるが、中性化抑制剤の増加に対する中性化抑制効果の向上が頭打ちとなり、また、高コストとなる。
【0017】
本発明の水硬性組成物は、水、あるいは、さらに化学混和剤を使用してペーストとして、あるいは、さらに細骨材、粗骨材、化学混和剤を使用してモルタルまたはコンクリートとして使用することができる。
コンクリートは、現場練りコンクリート、レディーミクストコンクリート、およびコンクリートブロック、ボックスカルバート、シールドトンネル用セグメントなどのコンクリート製品に用いることができる。
【0018】
本発明の水硬性組成物は、水を混合して練り混ぜて硬化させる。中性化抑制剤は、予め本発明の水硬性組成物の一部として水硬性混合物に混合しておいても、あるいは、混合する水に予め混合しておいても、あるいは、中性化抑制剤以外の水硬性組成物と水を混合するときに中性化抑制剤を加えて混合してもよい。硝酸塩化合物を固体のまま水硬性組成物に混合する場合は、均一に混合できる粉末状であることが好ましい。また、硬化させるための水に硝酸塩化合物を混合する場合は、均一に混合できるように硝酸塩化合物が溶解していることが好ましい。本発明の水硬性組成物の製造方法は、硝酸塩化合物を添加する以外は、従来の方法で行えばよい。すなわち、ペーストまたはモルタルまたはコンクリートとして使用する際に、コンクリートミキサーやモルタルミキサーにて、中性化抑制剤を含む水と、その他の構成材料を混合しながら練り混ぜてもよく、また、中性化抑制剤と、水と、その他の構成材料を混合しながら練り混ぜてもよく、さらに、中性化抑制剤を除くその他の構成材料を練り混ぜ、ペーストまたはモルタルまたはコンクリートを製造した後に中性化抑制剤を添加して、再度、練り混ぜてもよい。ペーストまたはモルタルまたはコンクリートを製造する際、本発明の水硬性組成物は、水を除くその他の構成材料の一部または全部を注水前に予め混合(プレミックス)しておいてもよい。
【実施例0019】
「実験1」環境配慮型セメント
全粉体量に対し高炉スラグが77.2質量%である環境配慮型セメントを、中性化抑制剤である硝酸カルシウムを異なる濃度で溶解した水溶液を用いて硬化した。材料のうち、高炉スラグはJIS A 6206、膨張材はJIS A 6202、消石灰はJIS R 9001、石灰石微粉末はJIS A 5008を満足するものであり、硝酸カルシウムは、関東化学株式会社製の特級試薬(硝酸カルシウム四水和物(Ca(NO3)2・4H2O))を使用した。なお、実施例1、2は参考例である。
【0020】
【0021】
水 :横浜市水道局、水道水
高炉スラグ(セッコウ入り) :株式会社デイ・シイ製、商品名:セラメントA(無水
セッコウ添加品:SO3換算量=2.1%)
膨張材 :太平洋マテリアル株式会社製、商品名:エクスパン
消石灰 :奥多摩工業株式会社製、商品名:特号消石灰
石灰石微粉末 :宮城石灰工業株式会社製
硝酸カルシウム四水和物 :関東化学株式会社製、特級試薬
【0022】
このセメントペーストを用いてφ約3cm×高さ約5cmの供試体を作製し、封かん養生した。材齢28日で脱型し、脱型後7日間、20℃、60%RHで保管した。その後、底面の1面以外をアルミニウム製の接着テープでコーティングして、20℃、60%RH、CO
2濃度5%の環境に静置して、促進中性化試験を行った。
所定の期間経過後に、供試体を割裂し、断面に濃度が1%のフェノールフタレインのアルコール溶液を噴霧し、呈色しない範囲を中性化が進行した範囲として、促進中性化深さを測定した。結果を
図1に示す。中性化は中性化期間の平方根に比例して進行することが知られており、中性化期間の平方根に対する促進中性化深さの変化の関係を直線で近似(線形近似)したときの、直線の傾きを中性化速度とすることができる。すなわち、中性化速度は促進中性化期間の平方根の変化に対する中性化深さの変化の割合を示したものである。
【0023】
環境配慮型セメントを用いたペーストについて、中性化抑制剤を含まない比較例1の中性化速度に対する中性化抑制剤を添加した場合の中性化速度比を求めた。硝酸イオンに換算して0.5、すなわち、全粉体量に対して0.5質量%含む比較例2は、中性化速度比が1.7であり、添加効果が認められなかった。一方、硝酸イオンに換算して1.0、すなわち、全粉体量に対して1.0質量%含む実施例1は、中性化速度が抑制されて中性化速度比が約0.78に、中性化抑制剤を硝酸イオンに換算して2.0、すなわち、全粉体量に対して2.0質量%含む実施例2は、中性化速度比が0.59であり、中性化が抑制されることが確かめられた。
【0024】
「実験2」
上記、実施例2について、硝酸カルシウムの代わりに硝酸カルシウムを含むコンクリート用化学混和剤(BASFジャパン社製、商品名:マスターセットFZP99、硝酸イオン含有量:24質量%)を全粉体量に対して8.3質量%(硝酸イオン換算で2.0質量%)用いたペーストに、細骨材と粗骨材を加えてコンクリートを作製した。この配合物を実施例3とする。また、この実施例3から硝酸カルシウムを含むコンクリート用化学混和剤を取り除いた配合物を比較例3とする。実施例3および比較例3には、細骨材としてJIS A 5308附属書Aに準拠した密度2.63g/cm3の砕砂、粗骨材としてGmaxが20mmであるJIS A 5005に準拠した砕石を使用し、細骨材率を43%とし、水粉体比を0.36とした。なお、実施例3は参考例である。
【0025】
【0026】
実施例3と比較例3に、高性能AE減水剤、遅延剤、AE剤を添加し、スランプと空気量が、それぞれの目標値である15±2.5cmと6.0±1.5%を満足することを確認した。なお、高性能AE減水剤はポリカルボン酸エーテル系(BASFジャパン社製、商品名:マスターグレニウムSP8SV)、遅延剤は変性リグニンスルホン酸化合物とオキシカルボン酸化合物の複合体(BASFジャパン社製、商品名:マスターポゾリスNo.89)、AE剤は高アルキルカルボン酸系陰イオン界面活性剤(BASFジャパン社製、商品名:マスターエア775)を用いた。
内法が100×100×400mmの型枠に実施例3と比較例3をそれぞれ打設して供試体を作製した。材齢3日で脱型し、材齢28日まで20℃の水中で養生した。その後、材齢56日まで20℃、60%RHの環境で保管した後、100×400mmの側面の1面を除いてアルミニウム製の接着テープで被覆した。被覆後、20℃、60%RH、CO
2濃度5%の環境に静置して、促進中性化試験を行った。
所定の促進試験期間経過後に、供試体を破断し、断面に濃度が1%のフェノールフタレインのアルコール溶液を噴霧して、中性化深さを測定した。結果を
図2に示す。
【0027】
また、上記と同様の方法で作製および材齢56日までの養生を行った供試体を、100×400mmの側面の1面を除いてエポキシ樹脂で被覆した。被覆後、雨掛かりのある屋外に、露出面を鉛直、かつ建物に対して外側向きに、3.8年間曝露し、露出面の中性化深さを測定した。曝露期間中の年間平均降水量は1777mm/年、大気中の二酸化炭素濃度は0.041%であった。結果を
図3に示す。
【0028】
全粉体量に対して、中性化抑制剤を硝酸イオン(NO3
-、式量62)換算で2.0質量%添加することにより、比較例3に対する実施例3の中性化速度比は約0.36、曝露環境では約0.43となった。このことから、ペーストだけでなく、細骨材と粗骨材を含むコンクリートにおいても、また促進環境だけでなく実環境においても、中性化抑制効果を確認できた。
【0029】
「実験3」各種セメント
各種のセメントまたはセメントと混和材の混合物に対して、下記に示す材料を表3~9に示す質量比で配合し、セメントペーストを作製した。なお、材料のうち、普通ポルトランドセメントおよび早強ポルトランドセメントはJIS R 5210、高炉セメントはJIS R 5211、高炉スラグはJIS A 6206、シリカフュームはJIS A 6207、フライアッシュはJIS A 6201、無水セッコウはJIS R 9151を満足するものとした。硝酸カルシウムは、関東化学株式会社製の特級試薬(硝酸カルシウム四水和物(Ca(NO3)2・4H2O))を使用し、硝酸カルシウム四水和物に含まれる結晶水は、表3~9においては水として計上した。硝酸カルシウムは、水硬性組成物を硬化させるために加える水に予め溶解して、水硬性組成物に加えた。なお、実施例4~10は参考例である。
【0030】
水 :横浜市水道局、水道水
普通ポルトランドセメント :太平洋セメント株式会社製
早強ポルトランドセメント :太平洋セメント株式会社製
高炉スラグ(セッコウなし):株式会社デイ・シイ製、商品名:セラメント
高炉スラグ(セッコウ入り):株式会社デイ・シイ製、商品名:セラメントA(無水セッ
コウ添加、添加量はSO3に換算して2.1%)
シリカフューム :株式会社デイ・シイ製
フライアッシュ :株式会社テクノ中部製、II種
無水セッコウ :株式会社デイ・シイ製
硝酸カルシウム :関東化学株式会社製、特級試薬、四水和物
【0031】
【0032】
高炉セメント(C種)相当、ポルトランドセメント30質量%
【表4】
【0033】
フライアッシュセメント(C種)相当、ポルトランドセメント70質量%
【表5】
【0034】
環境配慮型セメント(1)、ポルトランドセメント10質量%
【表6】
【0035】
環境配慮型セメント(2)、ポルトランドセメント25質量%
【表7】
【0036】
環境配慮型セメント(3)、ポルトランドセメント25質量%
【表8】
【0037】
環境配慮型セメント(4)、ポルトランドセメント32.7質量%
【表9】
【0038】
表3~9において、表3は普通ポルトランドセメント、表4は高炉セメントC種に相当する普通ポルトランドセメントと高炉スラグの混合物、表5はフライアッシュセメントC種に相当する普通ポルトランドセメントとフライアッシュの混合物、表6~9は環境配慮型セメントである。
【0039】
表3~9に記載の各水硬性組成物を用いて、実験1と同様にして促進中性化試験を行った。
促進中性化期間28日までの結果から、中性化速度を算出し、それぞれについて、対応する中性化抑制剤を添加していない比較例(「実施例」の後に添えられる数字と同じ数字が後に添えられた「比較例」を指し、対応する実施例と比較例の組合せは同一の表に示される。例えば、実施例4には比較例4が対応し、その組合せは表3に示される)に対する中性化速度比を求めた。各水硬性組成物について、比較例および対応する実施例の中性化速度と、求めた中性化速度比を表10に示す。
【0040】
【0041】
ポルトランドセメントの配合比が低い、中性化が進行しやすい水硬性組成物において、中性化の進行が抑制できることが確かめられた。なお、ポルトランドセメントについても、中性化の進行が抑制されていると予想されるが、ポルトランドセメントはそもそも中性化が進行しにくいため、中性化速度比の測定値には測定誤差の影響が大きいと推測される。
【0042】
「実験4」硝酸塩化合物の種類
比較例1の配合に対し、硝酸マグネシウム(六水和物)、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムを、表11に示す配合比で添加し、セメントペーストとした。これらの硝酸塩は全て関東化学社製の特級試薬を使用した。
【0043】
【0044】
表11に記載の各水硬性組成物を用いて、実験1と同様にして促進中性化試験を行った。
中性化期間28日までの結果から、中性化速度係数を算出した。硝酸イオンに換算した中性化抑制剤の量と中性化速度係数との関係を求めた。実施例11~14の中性化速度係数の、中性化抑制剤を添加していない比較例1の中性化速度係数に対する比率を
図4に示す。
【0045】
硝酸マグネシウム、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウムを添加することで、中性化速度を0.4~0.9倍に低減することができた。
種々のセメントにおいて、硝酸塩化合物からなる中性化抑制剤により、中性化の進行を抑制できることが確かめられた。また、中性化抑制剤の配合量を増やすことにより、中性化の進行をより抑えられることが確かめられた。
ペースト、モルタル、コンクリート中の粉体の構成を変更しても、中性化抑制剤により中性化深さを小さくすることができた。すなわち、本発明の中性化抑制剤は、様々な種類、配合のセメントペースト、モルタル、コンクリートに対して、中性化の進行を抑制できることが確かめられた。