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特開2023-90957注入器及びそれを用いた注入対象への生体分子を含む溶液の注入方法
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  • 特開-注入器及びそれを用いた注入対象への生体分子を含む溶液の注入方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023090957
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】注入器及びそれを用いた注入対象への生体分子を含む溶液の注入方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/303 20060101AFI20230622BHJP
   A61M 5/20 20060101ALI20230622BHJP
   A61M 5/30 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
A61M5/303
A61M5/20 530
A61M5/30
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023078336
(22)【出願日】2023-05-11
(62)【分割の表示】P 2019571180の分割
【原出願日】2019-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2018021909
(32)【優先日】2018-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三木 克哉
(72)【発明者】
【氏名】跡部 真吾
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 洋
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 理乃
(72)【発明者】
【氏名】坂口 裕子
(57)【要約】
【課題】注入対象に生体分子を含む溶液が注入された場合に、注入された生体分子に対する注入対象において機能する生体分子の割合が大きい注入器、及び、前記注入器を用いて注入対象に生体分子を含む溶液を注入する方法の提供。
【解決手段】注入器本体から、所定の構造物が注入対象内に挿入された状態での前記所定の構造物を介した注入を行うことなく、生体分子を含む溶液を前記注入対象に対して注入する注入器であって、生体分子を含む溶液を収容する収容部と、加圧された前記生体分子を含む溶液が流れ、前記注入対象に対して射出される射出口を有するノズル部と、を備え、所定の条件を満たす、注入器。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
注入器本体から、所定の構造物が注入対象内に挿入された状態での前記所定の構造物を介した注入を行うことなく、生体分子を含む溶液を前記注入対象に対して注入する注入器であって、
生体分子を含む溶液を収容する収容部と、
加圧された前記生体分子を含む溶液が流れ、前記注入対象に対して射出される射出口を有するノズル部と、
を備え、
前記生体分子を含む溶液の射出開始時刻から時刻0.20ミリ秒までの、前記生体分子を含む溶液の単位時間当たりの射出圧力の変化である射出圧力速度が6.8×10MPa/秒以上であり、かつ、前記生体分子を含む溶液の射出開始時刻から4.0ミリ秒までの前記生体分子を含む溶液の射出圧力が25MPa未満である、
注入器。
【請求項2】
前記生体分子を含む溶液の射出圧力の第一下降領域において、前記生体分子を含む溶液の第一ピーク射出圧力の下降開始時刻から前記第一ピーク射出圧力直後の底値となる射出圧力に到達する時刻までの時間が、6.0ミリ秒以下である、
請求項1に記載の注入器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の注入器を用いて、注入対象(ヒトを除く。)に生体分子を含む溶液を注入する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注入器及びそれを用いた注入対象への生体分子を含む溶液の注入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体等に薬液を注入する注入器として、注射針を介して注射を行う有針注射器、注射針を介することなく注射を行う無針注射器のほか、薬液を注入対象に輸送するために注射針や駆動源を備えたカテーテルなどが存在する。
このうち無針注射器では、加圧ガスやバネ、電磁力により注射液が収容された収容室に対して圧力を加えることで注射成分を射出する構成が採られることがある。例えば、注射器本体の内部に複数のノズル孔が形成されるとともに、各ノズル孔に対応して射出時に駆動されるピストンを配置させる構成が採用されている(特許文献1)。この構成により、複数のノズル孔から注射液を同時に噴射させて対象への均一な注射を実現しようとしている。そして、ルシフェラーゼ遺伝子を含むプラスミドをラットに注射し、高効率に細胞移入できている。
また、無針注射器での注射液の射出動力源として、加圧ガスを利用する形態がある。例えば、射出初期に瞬間的に大きな加圧を行った後、40~50msecかけて加圧力を徐々に低減させていく加圧形態が例示されている(特許文献2)。
【0003】
しかし、注入器を用いて注入対象に生体分子を含む溶液が注入された場合に、注入された生体分子に対する注入対象において機能する生体分子の割合が大きくなるために必要な、注入器からの該生体分子を含む溶液の射出条件に着目した報告はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-358234号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0010168号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこの様な状況下でなされたものであり、注入対象に生体分子を含む溶液が注入された場合に、注入された生体分子に対する注入対象において機能する生体分子の割合が大きい注入器、及び、前記注入器を用いて注入対象に生体分子を含む溶液を注入する方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、生体分子を含む溶液を収容した注入器において、該注入器から射出される該生体分子を含む溶液の射出開始時刻から所定時間内の、該生体分子を含む溶液の単位時間当たりの射出圧力の変化である射出圧力速度、及び、該生体分子を含む溶液の射出開始時刻から所定の時間内の該生体分子を含む溶液の射出圧力に着目した結果、下記の注入器が上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。本発明は以下に示すとおりである。
【0007】
〔1〕注入器本体から、所定の構造物が注入対象内に挿入された状態での前記所定の構造物を介した注入を行うことなく、生体分子を含む溶液を前記注入対象に対して注入する注入器であって、生体分子を含む溶液を収容する収容部と、加圧された前記生体分子を含む溶液が流れ、前記注入対象に対して射出される射出口を有するノズル部と、を備え、前記
生体分子を含む溶液の射出開始時刻から時刻0.20ミリ秒までの、前記生体分子を含む溶液の単位時間当たりの射出圧力の変化である射出圧力速度が7.0×10MPa/秒以上であり、かつ、前記生体分子を含む溶液の射出開始時刻から4.0ミリ秒までの前記生体分子を含む溶液の射出圧力が25MPa未満である、注入器。
〔2〕前記生体分子を含む溶液の射出開始時刻から時刻0.20ミリ秒までの、前記生体分子を含む溶液の単位時間当たりの射出圧力の変化である射出圧力速度が2.3×10MPa/秒以上である、〔1〕に記載の注入器。
〔3〕前記生体分子を含む溶液の射出圧力の第一下降領域において、前記生体分子を含む溶液の第一ピーク射出圧力の下降開始時刻から前記第一ピーク射出圧力直後の底値となる射出圧力に到達する時刻までの時間が、6.0ミリ秒以下である、〔1〕又は〔2〕に記載の注入器。
〔4〕〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の注入器を用いて、注入対象に生体分子を含む溶液を注入する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、注入対象に生体分子を含む溶液が注入された場合に、注入された生体分子に対する注入対象において機能する生体分子の割合が大きい注入器、及び、前記注入器を用いて注入対象に生体分子を含む溶液を注入する方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第一の発明の一実施態様に係る注入器の概略構成を示す図である。
図2】本発明の第一の発明の一実施態様に係る、充填した水の射出圧力の時間経過を示すグラフである。
図3】本発明の第一の発明の一実施態様に係る、充填した水の射出圧力の時間経過を示すグラフである。
図4】本発明の第二の発明の一実施態様に係る、ラットへ遺伝子を含むプラスミドDNA溶液を注入した後の該遺伝子の発現量(発光強度)を、該プラスミドDNA溶液の注入量で除した値を示すグラフである。
図5】本発明の第二の発明の一実施態様に係る、ブタへ遺伝子を含むプラスミドDNA溶液を注入した後の該遺伝子の発現量(発光強度)を、該プラスミドDNA溶液の注入量で除した値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、注入器の発明(第一の発明)、及び、前記注入器を用いて注入対象に生体分子を含む溶液を注入する方法の発明(第二の発明)を含む。
【0011】
<第一の発明>
本発明の第一の発明は、注入器本体から、所定の構造物が注入対象内に挿入された状態での前記所定の構造物を介した注入を行うことなく、生体分子を含む溶液を前記注入対象に対して注入する注入器であって、生体分子を含む溶液を収容する収容部と、加圧された前記生体分子を含む溶液が流れ、前記注入対象に対して射出される射出口を有するノズル部と、を備え、前記生体分子を含む溶液の射出開始時刻から時刻0.20ミリ秒までの、前記生体分子を含む溶液の単位時間当たりの射出圧力の変化である射出圧力速度が7.0×10MPa/秒以上であり、かつ、前記生体分子を含む溶液の射出開始時刻から4.0ミリ秒までの前記生体分子を含む溶液の射出圧力が25MPa未満である、注入器である。
【0012】
本発明の第一の発明に係る注入器では、生体分子を含む溶液の射出開始時刻から時刻0.20ミリ秒までの、前記生体分子を含む溶液の単位時間当たりの射出圧力の変化である射出圧力速度が7.0×10MPa/秒以上であり、かつ、前記生体分子を含む溶液の
射出開始時刻から4.0ミリ秒までの前記生体分子を含む溶液の射出圧力が25MPa未満であることにより、前記生体分子を含む溶液が注入対象に注入された場合に、注入された生体分子に対する注入対象において機能する生体分子の割合を大きくすることができる。
詳細には、前記生体分子を含む溶液の射出開始時刻から時刻0.20ミリ秒までの、前記生体分子を含む溶液の射出圧力速度が7.0×10MPa/秒以上であることにより、上記注入対象の変形が大きく引き起こされると期待され、また、前記生体分子を含む溶液の射出開始時刻から4.0ミリ秒までの前記生体分子を含む溶液の射出圧力が25MPa未満であることにより、注入対象を過度に損傷しないと期待される。その結果、前記生体分子を含む溶液が注入対象に注入された場合に、注入された生体分子に対する注入対象において機能する生体分子の割合を大きくすることができる。
【0013】
このとき、前記生体分子を含む溶液の射出開始時刻から時刻0.20ミリ秒までの、前記生体分子を含む溶液の射出圧力速度は2.3×10MPa/秒以上であることが好ましく、3.4×10MPa/秒以上であることがより好ましく、6.8×10MPa/秒以上であることがさらに好ましい。また、上限は特に制限されないが、例えば、7.5×10MPa/秒以下が挙げられる。
また、前記生体分子を含む溶液の射出開始時刻から4.0ミリ秒までの前記生体分子を含む溶液の射出圧力は20MPa以下であることが好ましく、また、通常0MPaよりも大きく、注入対象へ生体分子を含む溶液を送達する十分な出力であると期待されることから、1.5MPa以上であることが好ましく、5.0MPa以上であることがより好ましく、7.0MPa以上であることが更に好ましく、15MPa以上であることがより更に好ましい。
【0014】
また、前記生体分子を含む溶液の射出圧力の第一下降領域において、前記生体分子を含む溶液の第一ピーク射出圧力の下降開始時刻から前記第一ピーク射出圧力直後の底値となる射出圧力に到達する時刻までの時間が、通常0ミリ秒より大きく、また、通常6.0ミリ秒以下であることにより、前記生体分子を含む溶液が注入対象に注入された場合に、注入された生体分子に対する注入対象において機能する生体分子の割合を大きくすることができる。
ここで、第一ピーク射出圧力とは、生体分子を含む溶液の射出開始後、前記生体分子を含む溶液の射出圧力がピークを迎える時刻のうちの最も早い時刻の射出圧力を指す。また、生体分子を含む溶液の射出圧力の第一下降領域とは、生体分子を含む溶液の射出圧力が、第一ピーク射出圧力から下降し、該第一ピーク射出圧力の直後の底値となるまでの射出圧力が下降する領域を指す。
詳細には、該時間が6.0ミリ秒以下であることにより、急峻な液流により注入対象を過剰に貫通せずに十分量の生体分子を含む溶液が送達されると期待され、その結果、前記生体分子を含む溶液が注入対象に注入された場合に、注入された生体分子に対する注入対象において機能する生体分子の割合を大きくすることができる。
このとき、該時間は、4.1ミリ秒以下であることが好ましく、1.0ミリ秒以下であることがより好ましく、0.95ミリ秒以下であることが更に好ましく、0.80ミリ秒以下であることがより更に好ましく、0.40ミリ秒以下であることが格段に好ましい。また、通常0より大きく、0.30ミリ秒以上であることが好ましい。
【0015】
本発明の第一の発明における、注入対象に注入される生体分子とは、注入対象に注入された際に該注入対象において機能するものであれば特に制限されない。また、該生体分子は天然物であってもよいし、人工的に合成されたものであってもよい。例えば、核酸又はその誘導体;ヌクレオシド、ヌクレオチド、又はそれらの誘導体;アミノ酸、ペプチド、タンパク質、又はそれらの誘導体;脂質又はその誘導体;金属イオン;低分子化合物、又はその誘導体;抗生物質;ビタミン又はその誘導体等が挙げられる。核酸であれば、DN
AでもRNAでもよく、それらは遺伝子を含んでもよい。後述の実施例では、生体分子として、ルシフェラーゼ遺伝子を含む遊離のプラスミドDNAを用い、該ルシフェラーゼ遺伝子をレポーター遺伝子として用いている。
注入対象に注入される生体分子は、生体分子が安定して存在し、また、注入される注入対象を破壊するなどの悪影響がなければ、遊離の形態でもナノ粒子等の担体に固定されている形態でもよく、修飾されていてもよく、溶媒を含め、その態様は特に限定されない。
DNAが遺伝子を含む場合には、発現カセットや発現ベクターに該遺伝子が含まれた形態で設計されること等が挙げられる。さらに、例えば、DNAが注入される注入対象の種類および注入部位に適したプロモーターの制御下に遺伝子が配置されていてもよい。すなわち、いずれの態様においても公知の遺伝子工学的手法を用いることができる。後述の実施例では、発現ベクターとして、哺乳類発現ベクターであるpGL3 control vector(プロ
メガ社製)を用いている。当該プラスミドベクターは公知であり、当業者であれば入手可能である。発現ベクター及び組換えベクターのサブクローニングは公知の方法に従って行うことができる。
【0016】
(生体分子の機能)
注入対象へ注入された生体分子に対する該注入対象において機能する生体分子の割合が大きいことの例としては、生体分子としてのDNAが遺伝子を含む場合、該注入対象へ注入されたDNA量に対して該遺伝子の発現量が大きいことが挙げられる。その確認方法としては、例えば、後述の実施例のように、注入対象へのDNA溶液の注入後、該DNA溶液の注入口を中心に所望の半径を有する円筒状に組織を採取し、公知の生物学的方法によりサンプルを調製し、該遺伝子の発現量アッセイにより確認できる。該遺伝子の種類等によって適宜公知の方法を用いることができるが、例えば、遺伝子がルシフェラーゼ遺伝子である場合には、ルシフェリンを基質として発光量をアッセイする例等が挙げられる。
【0017】
本発明の第一の発明に係る注入器において、「先端側」とは、注入器から生体分子を含む溶液が射出される射出口が配置されている側を意味し、「基端側」とは、注入器において先端側とは反対の側を意味するものであり、これらの文言は、特定の箇所や位置を限定的に指すものではない。
【0018】
本発明の第一の発明に係る注入器は、注入器本体から、所定の構造物が注入対象内に挿入された状態での前記所定の構造物を介した注入を行うことなく、生体分子を含む溶液を前記注入対象に対して注入するものである。本発明の第一の発明に係る注入器は、例えば、注入器本体から注入対象までの距離が大きい場合等に、生体分子を含む溶液を注入器本体から注入対象まで誘導するもの、例えば、カテーテル等のような所定の構造物を含んでもよい。したがって、本発明の第一の発明に係る注入器とは、そのような所定の構造物を含んでも含まなくてもよいが、所定の構造物を含む場合には、該所定の構造物が注入対象内に挿入された状態で生体分子を含む溶液が該注入対象に注入されるものではない。
【0019】
本発明の第一の発明に係る注入器において、生体分子を含む溶液を加圧するための駆動部は特に制限されない。加圧は、例えば、圧縮ガスの圧力が解放される際に生じる圧力によってもよいし、点火装置によって点火される火薬の燃焼により生じる圧力によってもよい。また、電磁力を用いた加圧、例えば、リニア電磁アクチュエータによる加圧によってもよい。好ましくは、少なくとも、点火装置によって点火される火薬の燃焼により生じる圧力を用いる態様であり、さらには、上記他の2つの加圧態様のいずれか、または両者と併用してもよい。
加圧として、点火装置によって点火される火薬の燃焼により生じる圧力を用いる態様を採用する場合、火薬としては、例えば、ジルコニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(ZPP)、水素化チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬(THPP)、チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬(TiPP)、アルミニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(APP)
、アルミニウムと酸化ビスマスを含む火薬(ABO)、アルミニウムと酸化モリブデンを含む火薬(AMO)、アルミニウムと酸化銅を含む火薬(ACO)、アルミニウムと酸化鉄を含む火薬(AFO)のうち何れか一つの火薬、又はこれらのうち複数の組み合わせからなる火薬であってもよい。これらの火薬の特徴としては、その燃焼生成物が高温状態では気体であっても常温では気体成分を含まないため、点火後燃焼生成物が直ちに凝縮を行う。
また、ガス発生剤の発生エネルギーを射出エネルギーとして利用する場合、ガス発生剤としては、シングルベース無煙火薬や、エアバッグ用ガス発生器やシートベルトプリテンショナ用ガス発生器に使用されている各種ガス発生剤を用いることも可能である。
【0020】
本発明の第一の発明に係る注入器では、充填室には当初から生体分子を含む溶液が収容されているのではなく、射出口を有するノズルを介して生体分子を含む溶液を充填室内に吸引することにより収容する。このように、充填室への充填操作を必要とする構成を採用することで、必要とする任意の生体分子を含む溶液を注入対象に注入することが可能となる。そのため、本発明の第一の発明に係る注入器では、シリンジ部は着脱可能に構成されている。
【0021】
以下に、図面を参照して本発明の第一の発明における一実施形態に係る注入器の例として、注射器1(無針注射器)について説明する。なお、以下の実施形態の構成は例示であり、本発明の第一の発明はこの実施の形態の構成に限定されるものではない。なお、注射器1の長手方向における相対的な位置関係を表す用語として、「先端側」及び「基端側」を用いる。当該「先端側」は、後述する注射器1の先端寄り、すなわち射出口31a寄りの位置を表し、当該「基端側」は、注射器1の長手方向において「先端側」とは反対側の方向、すなわち駆動部7側の方向を表している。また、本例示は、点火装置によって点火される火薬の燃焼エネルギーを射出エネルギーとして、また、DNA溶液を、生体分子を含む溶液として用いる例示であるが、本発明の第一の発明はこれに限定されるものではない。
【0022】
(注射器1の構成)
図1は、注射器1の概略構成を示す図であり、注射器1のその長手方向に沿った断面図でもある。注射器1は、シリンジ部3とプランジャ4とで構成されるサブ組立体と、注射器本体6とピストン5と駆動部7とで構成されるサブ組立体とが一体に組み立てられた注射器組立体10が、ハウジング(注射器ハウジング)2に取り付けられることで構成される。
【0023】
上記の通り、注射器組立体10は、ハウジング2に対して脱着自在となるように構成されている。注射器組立体10に含まれるシリンジ部3とプランジャ4との間に形成される充填室32にはDNA溶液が充填され、そして、当該注射器組立体10は、DNA溶液の射出を行う度に使い捨てられるユニットである。一方で、ハウジング2側には、注射器組立体10の駆動部7に含まれる点火器71に電力供給するバッテリ9が含まれている。バッテリ9からの電力供給は、ユーザがハウジング2に設けられたボタン8を押下する操作を行うことで、配線を介してハウジング2側の電極と、注射器組立体10の駆動部7側の電極との間で行われることになる。なお、ハウジング2側の電極と注射器組立体10の駆動部7側の電極とは、注射器組立体10がハウジング2に取り付けられると、自動的に接触するように両電極の形状および位置が設計されている。またハウジング2は、バッテリ9に駆動部7に供給し得る電力が残っている限りにおいて、繰り返し使用することができるユニットである。なお、ハウジング2においては、バッテリ9の電力が無くなった場合には、バッテリ9のみを交換しハウジング2は引き続き使用してもよい。
【0024】
また、図1に示す注射器本体6内には、特に追加的な火薬成分は配置されていないが、
ピストン5を介して注射液にかける圧力推移を調整するために、点火器71での火薬燃焼によって生じる燃焼生成物によって燃焼しガスを発生させるガス発生剤等を、点火器71内や注射器本体6の貫通孔内に配置することもできる。点火器71内にガス発生剤を配置する構成は、国際公開公報01-031282号や特開2003-25950号公報等に開示されているように既に公知の技術である。また、ガス発生剤の一例としては、ニトロセルロース98質量%、ジフェニルアミン0.8質量%、硫酸カリウム1.2質量%からなるシングルベース無煙火薬が挙げられる。また、エアバッグ用ガス発生器やシートベルトプリテンショナ用ガス発生器に使用されている各種ガス発生剤を用いることも可能である。貫通孔内に配置されるときのガス発生剤の寸法や大きさ、形状、特に表面形状を調整することで、該ガス発生剤の燃焼完了時間を変化させることが可能であり、これにより、DNA溶液にかける圧力推移を所望の推移、すなわち注入対象にDNA溶液が適切に注入され得る推移とすることができる。本発明の第一の発明では、必要に応じて使用されるガス発生剤なども駆動部7に含まれるものとする。
【0025】
(注入対象)
本発明の第一の発明における注入対象は、例えば、細胞、細胞シート、組織、器官(臓器)、器官系、個体(生体)等のいずれであってもよく制限はない。また、前記注入対象として上の階層については、それに含まれる下の階層を対象とするものであってよい。すなわち、例えば、組織を注入対象とする場合、該組織に含まれる細胞を注入対象としてよく、該組織に含まれる細胞間マトリックスを注入対象としてもよく、両者を注入対象としてもよい。
好ましい注入対象としては、哺乳動物由来の前記注入対象が挙げられる。より好ましくは、哺乳動物個体(生体)の皮膚であり、さらに好ましくは、皮膚内の皮内、皮下及び皮筋からなる群から選択される一以上の組織である。この場合、注入器から哺乳動物個体(生体)の皮膚表面に生体分子を含む溶液を射出し、該皮膚表面から該皮膚内の皮内、皮下及び皮筋からなる群から選択される一以上の組織に注入する方法を採用できる。
また、注入器から注入対象に生体分子を含む溶液を注入する場合の系としては、in vitro系、in vivo系、ex vivo系をはじめ、いずれであってもよい。
また、哺乳動物としては特に制限されないが、ヒト、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、サル、イヌ、ネコ等が挙げられる。また、注入対象によっては、哺乳動物としてヒトを除く態様も挙げられる。
【0026】
<第二の発明>
本発明の第二の発明は、第一の発明の注入器を用いて、注入対象に生体分子を含む溶液を注入する方法である。
本発明の第二の発明における注入器、注入対象、生体分子を含む溶液については、上記した本発明の第一の発明の説明を援用する。
【実施例0027】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、下記の実施例に限定されるものではない。
尚、実施例1-2、実施例1-3、実施例1-4、実施例2-2、実施例2-3、実施例2-4を、それぞれ、比較例1-2、比較例1-3、比較例1-4、比較例2-2、比較例2-3、比較例2-4と読み替える。
【0028】
(注入器の射出圧力の評価)
[実施例1-1]
図1に示す注入器(ノズル径:直径0.1mm)に、100μLの水を充填し、点火薬の燃焼による水の加圧から射出後までの注入器内の射出圧力を評価した。火薬として、ジルコニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(ZPP)を55mg用い、ガス発生剤として
、シングルベース無煙火薬(以下、「GG」と称することがある。)を40mg用いた。
射出圧力の測定は、特開2005-21640号公報に記載の測定方法のように、射出の力を、ノズルの下流に配置されたロードセルのダイアフラムに分散して与えるようにし、ロードセルからの出力は、検出増幅器を介してデータ採取表示装置にて採取されて、時間毎の射出力(N)として表示、記憶されるという方法によって測定し、該射出力(N)をノズル口の面積で除して算出した。
[実施例1-2]
ZPPを35mg用いたこと以外は、実施例1-1と同様にした。
[実施例1-3]
ZPPを15mg用いたこと以外は、実施例1-1と同様にした。
[実施例1-4]
ZPPを25mg用いたこと以外は、実施例1-1と同様にした。
【0029】
図2は、各実施例における、水の射出圧力の時間経過を示すグラフである。また、図3は、図2における初期0.20ミリ秒間のグラフを拡大したものである。また、表1に各パラメータを示す。
【0030】
【表1】
【0031】
(ラットを用いた遺伝子発現評価)
[実施例2-1]
上記実施例1-1で用いた注入器に、ルシフェラーゼ遺伝子を含むプラスミドpGL3-control vector(プロメガ社製)溶液30μL(溶媒:エンドトキシンフリーTEバッファ
、終濃度:1.0mg/mL)を充填し、雌性SDラット(10週齢)の腰背部の皮膚に注入した。
Luciferase assay system(プロメガ社)の「Cell Culture Lysis×5」を5倍希釈し
て2mLマイクロチューブに1.5mL入れた溶解液を準備し、注射口を中心として皮内から皮筋(すなわち、皮内、皮下及び皮筋)までの組織を約1cm角のサイズで切り取り、該溶解液へ添加した。解剖用ハサミを用いて、溶解液内で組織が2mm角以下の細かい粒子になるまで細かく切り刻み(約2分、100回程度ハサミを動かした。)、10秒間ボルテックスミキサー又は超音波洗浄器で攪拌した。次に、マイクロチューブを-80℃又はドライアイス雰囲気に約15分入れて凍結した。凍結したことを確認し、室温下に約20分放置し解凍した。この凍結と解凍を計3回繰り返し、細胞の破壊を促した。その後、サンプルを遠心分離(温度4℃、回転数2000rpm、時間5min)し、上清を取得した。
ルシフェラーゼアッセイはルミテスターC100(キッコーマンバイオケミファ株式会社製)を用いて行った。まず、Luciferase assey systemのLuciferase Assay Substrate
を室温に戻して開封し、その中に室温に戻したLuciferase Assay Bufferを10mL加え
た。泡立てないように軽く振りまぜ、溶解していることを確認した。これをルミチューブに100μL添加し、測定する血清サンプルを20μL添加した。約20秒以内にルミテスターの測定室にサンプルを入れて測定をし、発光強度を取得した。該発光強度は、ルシフェラーゼ遺伝子の発現量と相関する。
[実施例2-2]
上記実施例1-2で用いた注入器を用いたこと以外は、実施例2-1と同様にした。
[実施例2-3]
上記実施例1-3で用いた注入器を用いたこと以外は、実施例2-1と同様にした。
[実施例2-4]
上記実施例1-4で用いた注入器を用いたこと以外は、実施例2-1と同様にした。
【0032】
図4は、各実施例における、ルシフェラーゼ遺伝子の発現量(発光強度)をプラスミドDNA注入量で除した値を示すグラフである。グラフ中の横線は平均値を示す。
【0033】
(ブタを用いた遺伝子発現評価)
[実施例3-1]
上記実施例1-1で用いた注入器に、ルシフェラーゼ遺伝子を含むプラスミドpGL3-control vector(プロメガ社製)溶液100μL(溶媒:エンドトキシンフリーTEバッフ
ァ、終濃度:1mg/mL)を充填し、雌性食用ブタ(3ヵ月齢、体重約65kg)の腹部の皮膚に注入しその24時間飼育後に、ルシフェラーゼアッセイのサンプルとして皮内組織を用いたこと以外は、実施例2-1と同様にした。
【0034】
図5は、実施例3-1における、ルシフェラーゼ遺伝子の発現量(発光強度)をプラスミドDNA注入量で除した値を示すグラフである。グラフ中の横線は平均値を示す。
【符号の説明】
【0035】
1・・・・注射器
2・・・・ハウジング
3・・・・シリンジ部
4・・・・プランジャ
5・・・・ピストン
6・・・・注射器本体
7・・・・駆動部
8・・・・ボタン
9・・・・バッテリ
10・・・・注射器組立体
31・・・・ノズル部
31a・・・射出口
32・・・・充填室
71・・・・点火器
図1
図2
図3
図4
図5