(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091046
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】無針注射器
(51)【国際特許分類】
A61M 5/303 20060101AFI20230622BHJP
【FI】
A61M5/303
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023079481
(22)【出願日】2023-05-12
(62)【分割の表示】P 2017125672の分割
【原出願日】2017-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 崇将
(72)【発明者】
【氏名】跡部 真吾
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 洋
(72)【発明者】
【氏名】伊賀 弘充
(72)【発明者】
【氏名】三木 克哉
(57)【要約】
【課題】注射針を介することなく、注射目的物質を対象領域に注射する無針注射器において、射出される注射目的物質の、対象領域における到達深さを精度よく調整する。
【解決手段】射出口から射出される注射目的物質の圧力として定義される、該注射目的物質の射出圧が、加圧開始後に第1ピーク圧力まで上昇した後に該第1ピーク圧力より低い圧力まで下降し、更にその後に第2ピーク圧力まで再上昇するように、注射目的物質を加圧する無針注射器であって、加圧終了時の対象領域での注射目的物質の終了時到達深さが、第1ピーク圧力の増加に従い深くなり、且つ、射出圧が第1ピーク圧力へ到達した第1タイミングから第2ピーク圧力へ到達した第2タイミングまでに要するピーク間長さが短くなるに従い深くなるように該終了時到達深さを調整可能に構成される。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射針を介することなく、注射目的物質を対象領域に注射する無針注射器であって、
前記注射目的物質を封入する封入部と、
前記封入部に封入された前記注射目的物質に対して加圧する加圧部と、
前記加圧部によって加圧された前記注射目的物質が前記対象領域に対して射出される射出口を有する流路部と、を備え、
前記加圧部は、前記射出口から射出される前記注射目的物質の圧力として定義される、該注射目的物質の射出圧が、加圧開始後に第1ピーク圧力まで上昇した後に該第1ピーク圧力より低い圧力まで下降し、更にその後に第2ピーク圧力まで再上昇するように、前記注射目的物質を加圧し、
前記加圧部による加圧終了時の前記対象領域での前記注射目的物質の終了時到達深さが、前記第1ピーク圧力の増加に従い深くなり、且つ、前記射出圧が前記第1ピーク圧力へ到達した第1タイミングから前記第2ピーク圧力へ到達した第2タイミングまでに要するピーク間長さが短くなるに従い深くなるように該終了時到達深さを調整可能に構成された、
無針注射器。
【請求項2】
更に、前記対象領域での前記注射目的物質の前記終了時到達深さが、前記第2ピーク圧力の増加に従い深くなるように該終了時到達深さを調整可能に構成された、
請求項1に記載の無針注射器。
【請求項3】
更に、前記対象領域での前記第1タイミングにおける前記注射目的物質の到達深さから前記終了時到達深さまでの追加到達深さが、前記第2ピーク圧力の増加に従い深くなり、且つ、前記第1ピーク圧力の低減に従い深くなるように該追加到達深さを調整することで、前記終了時到達深さを調整可能に構成された、
請求項2に記載の無針注射器。
【請求項4】
点火薬を含む点火器と、
前記点火薬の燃焼によって発生する燃焼生成物が流入する燃焼室に配置され、該燃焼生成物によって燃焼し所定ガスを生成するガス発生剤と、
を更に、備え、
前記点火薬は、ジルコニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬、水素化チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬、チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬、アルミニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬、アルミニウムと酸化ビスマスを含む火薬、アルミニウムと酸化モリブデンを含む火薬、アルミニウムと酸化銅を含む火薬、アルミニウムと酸化鉄を含む火薬のうち何れか一つの火薬、又はこれらのうち複数の組み合わせからなる火薬であり、
前記ガス発生剤は、その燃焼速度が前記点火薬の燃焼速度より低くなるように形成され、
前記加圧部は、前記点火器を作動させて前記点火薬の燃焼圧力により前記注射目的物質の射出圧を前記第1ピーク圧力に到達させるとともに、該点火薬に続いて燃焼される前記ガス発生剤の燃焼圧力により該注射目的物質の射出圧を前記第2ピーク圧力に到達させる、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の無針注射器。
【請求項5】
封入された注射目的物質に対して加圧することで、該加圧された注射目的物質を射出口より対象領域に射出して、注射針を介することなく該対象領域への注射を行う無針注射器による、加圧終了時の該対象領域での該注射目的物質の終了時到達深さを調整する調整方法であって、
前記無針注射器は、前記射出口から射出される前記注射目的物質の圧力として定義され
る、該注射目的物質の射出圧が、加圧開始後に第1ピーク圧力まで上昇した後に該第1ピーク圧力より低い圧力まで下降し、更にその後に第2ピーク圧力まで再上昇するように該注射目的物質を加圧するように構成され、
前記調整方法は、
前記終了時到達深さが前記第1ピーク圧力の増加に従い深くなる第1調整基準に従い、該第1ピーク圧力を設定するステップと、
前記終了時到達深さが、前記射出圧が前記第1ピーク圧力へ到達した第1タイミングから前記第2ピーク圧力へ到達した第2タイミングまでに要するピーク間長さが短くなるに従い深くなる第2調整基準に従い、該ピーク間長さを設定するステップと、
前記設定された第1ピーク圧力とピーク間長さに基づいて、前記注射目的物質の加圧に関する所定の加圧仕様を決定するステップと、
を含む、無針注射器による終了時到達深さの調整方法。
【請求項6】
前記終了時到達深さが前記第2ピーク圧力の増加に従い深くなる第3調整基準に従い、前記第2ピーク圧力を設定するステップを、更に含み、
前記所定の加圧仕様を決定するステップでは、前記設定された第1ピーク圧力とピーク間長さに加えて前記設定された第2ピーク圧力に基づいて、前記所定の加圧仕様を決定する、
請求項5に記載の無針注射器による終了時到達深さの調整方法。
【請求項7】
前記対象領域での前記第1タイミングにおける前記注射目的物質の到達深さから前記終了時到達深さまでの追加到達深さが、前記第2ピーク圧力の増加に従い深くなり、且つ、前記第1ピーク圧力の低減に従い深くなる第4調整基準に従い、該第1ピーク圧力及び該第2ピーク圧力を更に調整するステップを、更に含み、
前記所定の加圧仕様を決定するステップでは、前記更に調整された第1ピーク圧力と第2ピーク圧力、及び前記ピーク間長さに基づいて、前記所定の加圧仕様を決定する、
請求項6に記載の無針注射器による終了時到達深さの調整方法。
【請求項8】
封入された注射目的物質に対して加圧することで、該加圧された注射目的物質を射出口より対象領域に射出して、注射針を介することなく該対象領域への注射を行う無針注射器による、加圧終了時の該対象領域での該注射目的物質の終了時到達深さを調整するために、該無針注射器の所定の射出パラメータを処理装置に算出させるプログラムであって、
前記無針注射器は、前記射出口から射出される前記注射目的物質の圧力として定義される、該注射目的物質の射出圧が、加圧開始後に第1ピーク圧力まで上昇した後に該第1ピーク圧力より低い圧力まで下降し、更にその後に第2ピーク圧力まで再上昇するように該注射目的物質を加圧するように構成され、
前記プログラムは、前記処理装置に、
前記終了時到達深さが前記第1ピーク圧力の増加に従い深くなる第1調整基準に従い、該第1ピーク圧力を算出するステップと、
前記終了時到達深さが、前記射出圧が前記第1ピーク圧力へ到達した第1タイミングから前記第2ピーク圧力へ到達した第2タイミングまでに要するピーク間長さが短くなるに従い深くなる第2調整基準に従い、該ピーク間長さを算出するステップと、
前記設定された第1ピーク圧力とピーク間長さに基づいて、前記注射目的物質の加圧に関する所定の加圧仕様を決定するステップと、
を実行させる、無針注射器の射出パラメータ算出プログラム。
【請求項9】
前記終了時到達深さが前記第2ピーク圧力の増加に従い深くなる第3調整基準に従い、前記第2ピーク圧力を算出するステップを、前記処理装置に更に実行させ、
前記所定の加圧仕様を決定するステップでは、前記処理装置に、前記設定された第1ピーク圧力とピーク間長さに加えて前記設定された第2ピーク圧力に基づいて、前記所定の
加圧仕様を決定させる、
請求項8に記載の無針注射器の射出パラメータ算出プログラム。
【請求項10】
前記対象領域での前記第1タイミングにおける前記注射目的物質の到達深さから前記終了時到達深さまでの追加到達深さが、前記第2ピーク圧力の増加に従い深くなり、且つ、前記第1ピーク圧力の低減に従い深くなる第4調整基準に従い、該第1ピーク圧力及び該第2ピーク圧力を更に調整するステップを、前記処理装置に更に実行させ、
前記所定の加圧仕様を決定するステップでは、前記処理装置に、前記更に調整された第1ピーク圧力と第2ピーク圧力、及び前記ピーク間長さに基づいて、前記所定の加圧仕様を決定させる、
請求項9に記載の無針注射器の射出パラメータ算出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注射針を介することなく、注射目的物質を対象領域に注射する無針注射器に関する。
【背景技術】
【0002】
生体等の対象領域に薬液を投与する装置として注射器が例示できるが、近年、取り扱いの容易さや衛生面等から、注射針を有しない無針注射器の開発が行われている。一般に、無針注射器では、圧縮ガスやバネ等の駆動源により加圧された薬液を対象領域に向かって射出し、その薬液が有する運動エネルギーを利用して対象領域の内部に薬液が投与される構成が実用化されており、また別の駆動源として火薬燃焼の利用が検討されている。このように無針注射器では対象領域の内部に対して直接接触する機械的な構成(例えば、注射針)が存在しないため、ユーザの利便性は高い。一方で、そのような機械的な構成が存在しないが故に、薬液を対象領域内の所望の部位に投与することは必ずしも容易とはいえなかった。
【0003】
ここで、特許文献1には、無針注射器によって、薬液を生体の皮膚構造体の所望の深さに送り込む技術が開示されている。具体的には、注射液の射出のための加圧に関し、注射対象領域に貫通路を形成させるために、圧力を第一ピーク圧力まで上昇させた後、該注射液への圧力を待機圧力まで下降させる第一加圧モードと、待機圧力にある注射液に対して加圧を行い、該注射液への圧力を第二ピーク圧力まで上昇させて、所定の注射量の注射を行う第二加圧モードと、を行う加圧制御が行われる。このような加圧制御が行われることで、対象領域内での注射液の挙動が制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の技術では、火薬燃焼により注射液に印加される圧力を2つの加圧モードに分けて制御することで、2番目の加圧モードによって注射液を好適に注射器外に射出し、対象領域への注射が実現されている。しかし、注射される注射液が対象領域において到達し得る深さの精度の高い調整については何ら言及されておらず、改善の余地は残されている。
【0006】
そこで、本発明は、上記した問題に鑑み、注射針を介することなく、注射目的物質を対象領域に注射する無針注射器において、射出される注射目的物質の、対象領域における到達深さを精度よく調整する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、無針注射器の射出圧が2つのピーク圧力を表すように注射目的物質を加圧する場合に、その2つのピーク圧力の大きさと、両ピーク圧力を迎えるタイミングとに着目した。すなわち、これらの無針注射器に関する射出パラメータが、射出された注射目的物質の対象領域における到達深さに支配的に影響を及ぼしていることを、本出願の発明者は新たに見出したものである。したがって、これらの射出パラメータを好適に利用することで、対象領域での到達深さを精度よく調整することが可能となる。
【0008】
具体的には、本発明は、注射針を介することなく、注射目的物質を対象領域に注射する無針注射器であって、前記注射目的物質を封入する封入部と、前記封入部に封入された前記注射目的物質に対して加圧する加圧部と、前記加圧部によって加圧された前記注射目的物質が前記対象領域に対して射出される射出口を有する流路部と、を備える。そして、当該無針注射器では、前記加圧部は、前記射出口から射出される前記注射目的物質の圧力として定義される、該注射目的物質の射出圧が、加圧開始後に第1ピーク圧力まで上昇した後に該第1ピーク圧力より低い圧力まで下降し、更にその後に第2ピーク圧力まで再上昇するように、前記注射目的物質を加圧する。そして、当該無針注射器は、前記加圧部による加圧終了時の前記対象領域での前記注射目的物質の終了時到達深さが、前記第1ピーク圧力の増加に従い深くなり、且つ、前記射出圧が前記第1ピーク圧力へ到達した第1タイミングから前記第2ピーク圧力へ到達した第2タイミングまでに要するピーク間長さが短くなるに従い深くなるように該終了時到達深さを調整可能に構成される。
【0009】
本発明に係る無針注射器において、注射目的物質を対象領域に対して射出するために、加圧部が、封入部に封入されている注射目的物質に対して加圧を行う。その加圧のために利用されるエネルギーとしては、化学的に生成されるエネルギー、例えば、火薬・爆薬等の酸化反応によって生じる燃焼エネルギーであってもよい。また別法として、当該加圧のためのエネルギーは、電気的に生成されてもよく、その一例としては、投入された電力により駆動される圧電素子や電磁アクチュエータに起因するエネルギーであってもよい。更に別法としては、当該加圧のためのエネルギーは、物理的に生成されてもよく、その一例としては、弾性体による弾性エネルギーや圧縮ガス等の圧縮物体が有する内部エネルギーであってもよい。すなわち、当該加圧のためのエネルギーは、無針注射器において注射目的物質の射出を可能とするエネルギーであれば何れのものであっても構わない。したがって、当該加圧のためのエネルギーは、これらの燃焼エネルギー、電力によるエネルギー、弾性エネルギー等の内部エネルギーを適宜組み合わせた複合型のエネルギーであっても構わない。
【0010】
また、本発明に係る無針注射器で射出される注射目的物質としては、対象領域内で効能が期待される成分や対象領域内で所定の機能の発揮が期待される成分を含む物質が例示できる。そのため、少なくとも上記の加圧のためのエネルギーでの射出が可能であれば、注射目的物質の物理的形態は、液体内に溶解した状態で存在してもよく、又は液体に溶解せずに単に混合された状態であってもよい。一例を挙げれば、送りこむべき所定物質として、抗体増強のためのワクチン、美容のためのタンパク質、毛髪再生用の培養細胞等があり、これらが射出可能となるように、液体の媒体に含まれることで注射目的物質が形成される。なお、上記媒体としては、対象領域内部に注射された状態において所定物質の上記効能や機能を阻害するものでない媒体が好ましい。別法として、上記媒体は、対象領域内部に注射された状態において、所定物質とともに作用することで上記効能や機能が発揮される媒体であってもよい。
【0011】
加圧部による加圧で形成される注射目的物質の射出圧は、加圧開始後に第1ピーク圧力まで上昇した後に該第1ピーク圧力より低い圧力まで下降し、更にその後に第2ピーク圧力まで再上昇するように推移する。この第1ピーク圧力は、主に、初期に射出された注射目的物質が対象領域の表面を貫通しその内部に進入する際に必要とされる特徴的な圧力であり、その後に迎える第2ピーク圧力は、注射目的物質の大部分を対象領域内に送達させる際に必要とされる特徴的な圧力である。なお、射出圧は、射出口から射出される前記注射目的物質の圧力として定義され、射出口から射出された直後、すなわち射出口近傍における注射目的物質に掛かっている圧力であり、注射目的物質が射出口より射出されるための圧力である。物理的には、射出により射出口からの離間距離が延びるほど注射目的物質に掛かる圧力は低下するが、本発明の射出圧は、注射目的物質が対象領域に向かって無針
注射器から射出される時点での当該注射目的物質に掛かる圧力である。
【0012】
このように2つのピーク圧力を経て推移する射出圧が実現される無針注射器においては、射出圧推移における第1ピーク圧力の大きさ、およびピーク間長さが、対象領域における注射目的物質の終了時到達深さを支配的に決定することを、本願発明の発明者は新たに見出した。ここで、終了時到達深さとは、加圧部による加圧が終了した時点、例えば、射出圧が第2ピーク圧力を経て零近傍の圧力まで低下した時点で、対象領域で注射目的物質がその射出方向(進入方向)に沿って到達した深さを意味する。換言すると、終了時到達深さは、加圧部による加圧で直接的に注射目的物質が対象領域内を進入した深さを表すものであり、注射目的物質が対象領域内に射出された後に時間の経過とともに拡散した場合の深さ(以下、「拡散到達深さ」という)とは相違する。しかし、その拡散到達深さは、終了時到達深さを経て形成されるものであるから、終了時到達深さは、拡散到達深さに大きな影響を及ぼす要素と言える。
【0013】
そして、具体的には、第1ピーク圧力が増加するほど終了時到達深さは深くなり、且つ、ピーク間長さが短くなるほど終了時到達深さは深くなる傾向が見出された。これは、射出初期の第1ピーク圧力が増加するほど対象領域に最初に進入する注射目的物質の持つエネルギーが大きくなるため終了時到達深さが深くなると考えられる。更に、ピーク間長さが短くなることで、第1ピーク圧力に伴って注射目的物質が進入された対象領域が、次に進入してくる第2ピーク圧力に伴う注射目的物質が到達するまでに元の状態に復元する時間が短くなるため、第2ピーク圧力に伴う注射目的物質がより深く到達することが可能になるものと推察される。そして、これらの第1ピーク圧力とピーク間長さは終了時到達深さを考える上で、極めて相関性が強いパラメータであることから、両者を併せて考慮することで、実現される終了時到達深さをより正確に調整することが可能となる。このことは、最終的には拡散到達深さの正確な調整に帰結することとなる。
【0014】
更に、特筆すべきは、注射目的物質の終了時到達深さを支配的に決定する要因としては、第1ピーク圧力と第2ピーク圧力との間に迎える圧力の降下状態を実質的に排除することが可能であることを見出した点である。これにより、第1ピーク圧力から第2ピーク圧力までの射出圧推移、および第2ピーク圧力後の圧力推移の全てを設計しなくても、所望の第1ピーク圧力とピーク間長さを有する射出圧推移を実現することで、十分に好適な精度で注射目的物質の終了時到達深さを調整することが可能となり、当該調整に要する負荷(例えば、加圧部による加圧の調整負荷)を大きく軽減することができる。
【0015】
ここで、上記の無針注射器は、更に、前記対象領域での前記注射目的物質の前記終了時到達深さが、前記第2ピーク圧力の増加に従い深くなるように該終了時到達深さを調整可能に構成されてもよい。このように終了時到達深さの調整パラメータとして第2ピーク圧力を含めることで、該終了時到達深さをより精度よく調整することが可能となる。また、第2ピーク圧力そのものは上記のピーク間長さに関連するパラメータであるから、終了時到達深さの調整をいたずらに煩雑化するものではない。
【0016】
また、上記の無針注射器は、更に、前記対象領域での前記第1タイミングにおける前記注射目的物質の到達深さから前記終了時到達深さまでの追加到達深さが、前記第2ピーク圧力の増加に従い深くなり、且つ、前記第1ピーク圧力の低減に従い深くなるように該追加到達深さを調整することで、前記終了時到達深さを調整可能に構成されてもよい。ここでは、第1タイミングでの注射目的物質の到達深さから、第2タイミングまでに生じる追加的な到達深さである追加到達深さに着目した。当該追加到達深さは、注射目的物質が対象領域に進入し終了時到達深さに至るまでの過程を、第1タイミングまでの過程とそれ以降の過程に分けたとき後者の過程で生じる到達深さである。いわば、追加到達深さを形成するステップは、終了時到達深さを細かく調整するためのステップと考えることができる
。したがって、本願の発明者の鋭意努力により、追加到達深さが第1ピーク圧力と第2ピーク圧力とで調整可能であることが見出されたことで、終了時到達深さをより細かく調整することが可能となり、以て終了時到達深さの調整精度を向上することができる。
【0017】
ここで、上述までの無針注射器は、点火薬を含む点火器と、前記点火薬の燃焼によって発生する燃焼生成物が流入する燃焼室に配置され、該燃焼生成物によって燃焼し所定ガスを生成するガス発生剤と、を更に、備えてもよい。そして、前記点火薬は、ジルコニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬、水素化チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬、チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬、アルミニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬、アルミニウムと酸化ビスマスを含む火薬、アルミニウムと酸化モリブデンを含む火薬、アルミニウムと酸化銅を含む火薬、アルミニウムと酸化鉄を含む火薬のうち何れか一つの火薬、又はこれらのうち複数の組み合わせからなる火薬である。また、前記ガス発生剤は、その燃焼速度が前記点火薬の燃焼速度より低くなるように形成される。例えば、ガス発生剤としては、シングルベース無煙火薬や、エアバッグ用ガス発生器やシートベルトプリテンショナ用ガス発生器に使用されている各種ガス発生剤を用いることも可能である。そして、前記加圧部は、前記点火器を作動させて前記点火薬の燃焼圧力により前記注射目的物質の射出圧を前記第1ピーク圧力に到達させるとともに、該点火薬に続いて燃焼される前記ガス発生剤の燃焼圧力により該注射目的物質の射出圧を前記第2ピーク圧力に到達させる。このように点火薬とガス発生剤を連動させて燃焼させることで、上述した加圧部による注射目的物質への加圧が可能となる。
【0018】
上記点火薬の特徴としては、その燃焼生成物が高温状態では気体であっても常温では気体成分を含まないため、点火後燃焼生成物が直ちに凝縮を行う結果、射出圧が第1ピーク圧力に到達すると速やかに降下していく。その後は、ガス発生剤が燃焼することで、比較的緩やかに射出圧が第2ピーク圧力に到達することになる。このように射出圧の初期の圧力推移形成を主に点火薬に担わせ、その後の射出圧の推移形成をガス発生剤に担わせることで、上述の終了時到達深さの調整を好適に行い得ることが見出された。そして、当該加圧によって形成される射出圧における、第1ピーク圧力、ピーク間長さ等の無針注射器の射出パラメータは、点火薬とガス発生剤の燃焼に関するパラメータ、例えば、点火薬やガス発生剤の剤量、形状、無針注射器における配置関係等の調整を介して調整することが可能となる。
【0019】
また、本願発明を、封入された注射目的物質に対して加圧することで、該加圧された注射目的物質を射出口より対象領域に射出して、注射針を介することなく該対象領域への注射を行う無針注射器による、加圧終了時の該対象領域での該注射目的物質の終了時到達深さを調整する調整方法の側面から捉えることも可能である。その場合、前記無針注射器は、前記射出口から射出される前記注射目的物質の圧力として定義される、該注射目的物質の射出圧が、加圧開始後に第1ピーク圧力まで上昇した後に該第1ピーク圧力より低い圧力まで下降し、更にその後に第2ピーク圧力まで再上昇するように該注射目的物質を加圧するように構成される。そして、前記調整方法は、前記終了時到達深さが前記第1ピーク圧力の増加に従い深くなる第1調整基準に従い、該第1ピーク圧力を設定するステップと、前記終了時到達深さが、前記射出圧が前記第1ピーク圧力へ到達した第1タイミングから前記第2ピーク圧力へ到達した第2タイミングまでに要するピーク間長さが短くなるに従い深くなる第2調整基準に従い、該ピーク間長さを設定するステップと、前記設定された第1ピーク圧力とピーク間長さに基づいて、前記注射目的物質の加圧に関する所定の加圧仕様を決定するステップと、を含む。このような調整方法に従うことで、実現される終了時到達深さをより正確に調整することが可能となるとともに、当該調整に要する負荷を大きく軽減することができる。なお、上記所定の加圧仕様は、注射目的物質の射出圧推移に、設定された第1ピーク圧力とピーク間長さが現れるように、加圧のために注射目的物質に付与されるエネルギーの供給に関する仕様であり、例えば、上記のように当該エネル
ギーを点火薬及びガス発生剤の燃焼によって付与する場合には、当該点火薬及びガス発生剤の燃焼を調整可能とする、これらの剤量や形状等が例示できる。また、上記無針注射器に関連して開示した技術思想は、技術的な齟齬が生じない限りにおいて上記調整方法に係る発明にも適用可能である。
【0020】
また、別法として、本願発明を、封入された注射目的物質に対して加圧することで、該加圧された注射目的物質を射出口より対象領域に射出して、注射針を介することなく該対象領域への注射を行う無針注射器による、加圧終了時の該対象領域での該注射目的物質の終了時到達深さを調整するために、該無針注射器の所定の射出パラメータを処理装置に算出させるプログラムの側面から捉えることもできる。その場合、前記無針注射器は、前記射出口から射出される前記注射目的物質の圧力として定義される、該注射目的物質の射出圧が、加圧開始後に第1ピーク圧力まで上昇した後に該第1ピーク圧力より低い圧力まで下降し、更にその後に第2ピーク圧力まで再上昇するように該注射目的物質を加圧するように構成される。そして、前記プログラムは、前記処理装置に、前記終了時到達深さが前記第1ピーク圧力の増加に従い深くなる第1調整基準に従い、該第1ピーク圧力を算出するステップと、前記終了時到達深さが、前記射出圧が前記第1ピーク圧力へ到達した第1タイミングから前記第2ピーク圧力へ到達した第2タイミングまでに要するピーク間長さが短くなるに従い深くなる第2調整基準に従い、該ピーク間長さを算出するステップと、前記設定された第1ピーク圧力とピーク間長さに基づいて、前記注射目的物質の加圧に関する所定の加圧仕様を決定するステップと、を実行させる。当該所定の加圧仕様については上述の通りである。このような無針注射器の射出パラメータ算出プログラムを使用することで、より正確な終了時到達深さを実現する射出パラメータの算出を容易とすることができる。また、本願発明を上記のプログラムがインストールされた処理装置や当該プログラムを記録した記録媒体の側面から捉えることも可能である。なお、上記無針注射器に関連して開示した技術思想は、技術的な齟齬が生じない限りにおいて上記無針注射器の射出パラメータ算出プログラムやそれがインストールされた処理装置や記録された記録媒体に係る発明にも適用可能である。
【発明の効果】
【0021】
注射針を介することなく、注射目的物質を対象領域に注射する無針注射器において、射出される注射目的物質の、対象領域における到達深さを精度よく調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】火薬で駆動される注射器の概略構成を示す図である。
【
図2A】
図1に示す注射器に組み込まれる装置組立体を構成する第1のサブ組立体の概略構成を示す図である。
【
図2B】
図1に示す注射器に組み込まれる装置組立体を構成する第2のサブ組立体の概略構成を示す図である。
【
図3】
図1に示す注射器により射出された注射液の射出圧推移を示す図である。
【
図4】注射の対象領域である皮膚の構造体を説明する図である。
【
図5】
図1に示す注射器から射出された注射液がゲル内で時間の経過とともに形成される分布状態を模式的に示す図である。
【
図6】本発明に係る注射器で、対象領域の所望の到達深さに注射液を送達するための注射器の加圧仕様を調整する方法に関する第1のフローチャートである。
【
図7】
図6に示す調整方法で使用される、第1ピーク圧力と点火薬量との相関、及びピーク間長さとガス発生剤量との相関を示す図である。
【
図8】本発明に係る注射器で、対象領域の所望の到達深さに注射液を送達するための注射器の加圧仕様を調整する方法に関する第2のフローチャートである。
【
図9】本発明に係る注射器で、対象領域の所望の到達深さに注射液を送達するための注射器の加圧仕様を調整する方法に関する第3のフローチャートである。
【
図10】本発明に係る注射器の調整方法を実現する処理装置の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図面を参照して本願発明の実施形態に係る無針注射器(以下、単に「注射器」と称する)1について説明する。当該注射器1は、火薬の燃焼エネルギーを利用して、本願の注射目的物質に相当する注射液を対象領域に射出する無針注射器、すなわち、注射針を介することなく、注射液を対象領域に注射する装置である。以下、注射器1について説明する。
【0024】
なお、以下の実施形態の構成は例示であり、本願発明はこの実施の形態の構成に限定されるものではない。なお、本実施例において、注射器1の長手方向における相対的な位置関係を表す用語として、「先端側」及び「基端側」を用いる。当該「先端側」は、後述する注射器1の先端寄り、すなわち射出口31a寄りの位置を表し、当該「基端側」は、注射器1の長手方向において「先端側」とは反対側の方向、すなわち駆動部7側の方向を表している。
【0025】
<注射器1の構成>
ここで、
図1は、注射器1の概略構成を示す図であり、注射器1のその長手方向に沿った断面図でもある。注射器1は、後述するシリンジ部3とプランジャ4とで構成されるサブ組立体(後述の
図2Aを参照)10Aと、注射器本体6とピストン5と駆動部7とで構成されるサブ組立体(後述の
図2Bを参照)10Bとが一体に組み立てられた装置組立体10が、ハウジング2に取り付けられることで構成される。なお、本願の以降の記載においては、注射器1により対象領域に投与される注射液は、当該対象領域で期待される効能や機能を発揮する所定物質が液体の媒体に含有されることで形成されている。その注射液において、所定物質は媒体である液体に溶解した状態となっていてもよく、また、溶解されずに単に混合された状態となっていてもよい。
【0026】
注射液に含まれる所定物質としては、例えば生体である対象領域に対して射出可能な生体由来物質や所望の生理活性を発する物質が例示でき、例えば、生体由来物質としては、DNA、RNA、核酸、抗体、細胞等が挙げられ、生理活性を発する物質としては、低分子医薬、温熱療法や放射線療法のための金属粒子等の無機物質、キャリアとなる担体を含む各種の薬理・治療効果を有する物質等が挙げられる。また、注射液の媒体である液体としては、これらの所定物質を対象領域内に投与するために好適な物質であればよく、水性、油性の如何は問われない。また、所定物質を注射器1にて射出可能であれば、媒体である液体の粘性についても特段に限定されるものではない。また、注射液の射出対象である対象領域については、上記所定物質が投与されるべき領域であり、例えば、生体の細胞や組織(皮膚等)、臓器器官(眼球、心臓、肝臓等)等が例示できる。なお、支障の無い限りにおいて、生体本体から切り離した状態で、生体の構成物を対象領域と設定することも可能である。すなわち、ex-vivoでの対象領域(組織や器官)に対する所定物質の射出、
及びin-vitroでの対象領域(培養細胞や培養組織)に対する所定物質の射出も、本実施形態に係る注射器による動作の範疇に含まれる。
【0027】
装置組立体10は、ハウジング2に対して脱着自在となるように構成されている。装置組立体10に含まれるシリンジ部3とプランジャ4との間に形成される充填室32(
図2Aを参照)には注射液が充填され、そして、当該装置組立体10は、注射液の射出を行う度に交換されるユニットである。一方で、ハウジング2側には、装置組立体10の駆動部7に含まれる点火器71に電力供給するバッテリ9が含まれている。バッテリ9からの電力供給は、ユーザがハウジング2に設けられたボタン8を押下する操作を行うことで、配線を介してハウジング2側の電極と、装置組立体10の駆動部7側の電極との間で行われ
ることになる。なお、ハウジング2側の電極と装置組立体10の駆動部7側の電極とは、装置組立体10がハウジング2に取り付けられると、自動的に接触するように両電極の形状および位置が設計されている。またハウジング2は、バッテリ9に駆動部7に供給し得る電力が残っている限りにおいて、繰り返し使用することができるユニットである。そして、ハウジング2においては、バッテリ9の電力が無くなった場合には、バッテリ9のみを交換しハウジング2は引き続き使用してもよい。
【0028】
ここで、
図2A及び
図2Bに基づいて、サブ組立体10A及び10Bの構成、及び両サブ組立体に含まれるシリンジ部3、プランジャ4、ピストン5、注射器本体6、駆動部7の詳細な構成について説明する。シリンジ部3は、注射液を収容可能な空間である充填室32を含むノズル部31を有しているとともに、サブ組立体10Aにおいて充填室32内を摺動可能となるようにプランジャ4が配置される。
【0029】
シリンジ部3のボディ30は、例えば、公知のナイロン6-12、ポリアリレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド又は液晶ポリマー等が使用できる。また、これら樹脂にガラス繊維やガラスフィラー等の充填物を含ませてもよく、ポリブチレンテレフタレートにおいては20~80質量%のガラス繊維を、ポリフェニレンサルファイドにおいては20~80質量%のガラス繊維を、また液晶ポリマーにおいては20~80質量%のミネラルを含ませることができる。
【0030】
そして、そのボディ30の内部に形成された充填室32においてプランジャ4がノズル部31方向(先端側方向)に摺動可能となるように配置され、プランジャ4とシリンジ部3のボディとの間に形成される空間が、注射液320が封入される空間となる。ここで、充填室32内をプランジャ4が摺動することで、充填室32に収容されている注射液320が押圧されてノズル部31の先端側に設けられた射出口31aより射出されることになる。そのため、プランジャ4は、充填室32内での摺動が円滑であり、且つ、注射液320がプランジャ4側から漏出しないような材質で形成される。具体的なプランジャ4の材質としては、例えば、ブチルゴムやシリコンゴムが採用できる。更には、スチレン系エラストマー、水添スチレン系エラストマーや、これにポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、α-オレフィン共重合体等のポリオレフィンや流パラ、プロセスオイル等のオイルやタルク、キャスト、マイカ等の粉体無機物を混合したものがあげられる。さらにポリ塩化ビニル系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマーや天然ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、ニトリル-ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴムのような各種ゴム材料(特に加硫処理したもの)や、それらの混合物等を、プランジャ4の材質として採用することもできる。また、プランジャ4とシリンジ部3との間の摺動性を確保・調整する目的で、プランジャ4の表面やシリンジ部3の充填室32の表面を各種物質によりコーティング・表面加工してもよい。そのコーティング剤としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、シリコンオイル、ダイヤモンドライクカーボン、ナノダイヤモンド等が利用できる。
【0031】
ここで、プランジャ4は、
図2Aに示すように、頭部41と胴部42を有し、両者の間は頭部41及び胴部42の直径よりも小さく径を有する首部43で繋がれているものとすることができる。このように首部43の直径を小さくするのは、シール部材となるOリングの収容空間を形成するためである。なお、頭部41の先端側の輪郭は、ノズル部31の内壁面の輪郭に概ね一致する形状となっている。これにより、注射液の射出時にプランジャ4がノズル部31側に摺動し、充填室32において最も奥に位置する最奥位置に到達したときに、プランジャ4とノズル部31の内壁面との間に形成される隙間を可及的に小さくでき、注射液320が充填室32内に残り無駄となることを抑制することができる。ただし、プランジャ4の形状は、本実施形態の注射器において所望の効果が得られる限りに
おいて、特定の形状に限定されるものではない。
【0032】
更に、プランジャ4には、胴部42の基端側の端面から、更に基端側の方向に延在するロッド部44が設けられている。このロッド部44は胴部42と比べて十分にその直径は小さいが、ユーザが当該ロッド部44を把持して充填室32内を移動させることが可能な程度の直径を有している。また、プランジャ4がシリンジ部3の充填室32の最奥位置にある場合でも、ロッド部44がシリンジ部3の基端側の端面から突出し、ユーザが当該ロッド部44を把持できるように、ロッド部44の長さが決定されている。
【0033】
ここで、シリンジ部3の説明に戻る。シリンジ部3側のノズル部31に設けられた流路の内径は、充填室32の内径よりも細く形成されている。このような構成により、高圧に加圧された注射液320が、流路の射出口31aから外部に射出されることになる。そこで、シリンジ部3の先端側であってノズル部31の近傍には、当該射出口31aの周囲を囲むように環状のシールド部31bが設けられている。例えば、ヒトの皮膚等の対象領域の表層に射出口31aを押し当てて注射液の射出を行う場合、射出された注射液がその周囲に飛散しないように、シールド部31bによって遮蔽することができる。なお、射出口を皮膚に押し当てた時に皮膚がある程度凹むことで、射出口と皮膚との接触性を高め、注射液の飛散を抑制することができる。そこで、
図2Aに示すように、射出口31aが位置するノズル部31の先端は、シールド部31bの端面よりも、注射液の射出方向に向けて若干量突出させてもよい。
【0034】
また、シリンジ部3の基端側に位置する首部33には、後述するサブ組立体10B側の注射器本体6とシリンジ部3とを結合するためのネジ部33aが形成されている。この首部33の直径は、ボディ30の直径よりも小さく設定されている。
【0035】
次に、ピストン5、注射器本体6、駆動部7を含むサブ組立体10Bについて
図2Bに基づいて説明する。ピストン5は、駆動部7の点火器71で生成される燃焼生成物により加圧されて、注射器本体6のボディ60の内部に形成されている貫通孔64内を摺動するように構成されている。ここで、注射器本体6には、貫通孔64を基準として、先端側に結合凹部61が形成されている。この結合凹部61は、上記のシリンジ部3の首部33と結合する部位であり、首部33に設けられたネジ部33aと螺合するネジ部62aが、結合凹部61の側壁面62上に形成されている。また、貫通孔64と結合凹部61とは、連通部63によって繋がれているが、連通部63の直径は、貫通孔64の直径よりも小さく設定されている。また、注射器本体6には、貫通孔64を基準として、基端側に駆動部用凹部65が形成されている。この駆動部用凹部65に駆動部7が配置されることになる。
【0036】
また、ピストン5は、金属製であり、第1胴部51及び第2胴部52を有している。第1胴部51が結合凹部61側に、且つ第2胴部52が駆動部用凹部65側に向くように、ピストン5は貫通孔64内に配置される。この第1胴部51及び第2胴部52が、注射器本体6の貫通孔64の内壁面と対向しながら、ピストン5は貫通孔64内を摺動する。なお、第1胴部51と第2胴部52との間は、各胴部の直径より細い連結部で繋がれており、その結果形成される両胴部間の空間には、貫通孔64の内壁面との密着性を高めるために、Oリング等が配置される。また、ピストン5は樹脂製でもよく、その場合、耐熱性や耐圧性が要求される部分は金属を併用してもよい。
【0037】
ここで、第1胴部51の先端側の端面には、第1胴部51より直径が小さく、且つ、注射器本体6の連通部63の直径よりも小さい直径を有する押圧柱部53が設けられている。この押圧柱部53には、その先端側の端面に開口し、その直径がロッド部44の直径以上であり、且つ、その深さがロッド部44の長さより深い収容孔54が設けられている。そのため、押圧柱部53は、その先端側の端面を介して、ピストン5が点火器71の燃焼
生成物により加圧されたときにその燃焼エネルギーをプランジャ4の胴部42の基端側の端面に伝えることが可能となる。なお、ピストン5の形状も
図2Bに記載の形状に限定されるものではない。
【0038】
次に、駆動部7について説明する。駆動部7は、そのボディ72が筒状に形成され、その内部に、点火薬を燃焼させて射出のためのエネルギーを発生させる電気式点火器である点火器71を有し、点火器71による燃焼エネルギーをピストン5の第2胴部52に伝えられるように、上記の通り駆動部用凹部65に配置される。詳細には、駆動部7のボディ72は、射出成形した樹脂を金属のカラーに固定したものであってもよい。当該射出成形については、公知の方法を使用することができる。駆動部7のボディ72の樹脂材料としては、シリンジ部3のボディ30と同じ樹脂材料で形成されている。
【0039】
ここで、点火器71において用いられる点火薬の燃焼エネルギーは、注射器1が注射液を対象領域に射出するためのエネルギーとなる。なお、当該点火薬としては、好ましくは、ジルコニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(ZPP)、水素化チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬(THPP)、チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬(TiPP)、アルミニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(APP)、アルミニウムと酸化ビスマスを含む火薬(ABO)、アルミニウムと酸化モリブデンを含む火薬(AMO)、アルミニウムと酸化銅を含む火薬(ACO)、アルミニウムと酸化鉄を含む火薬(AFO)、もしくはこれらの火薬のうちの複数の組合せからなる火薬が挙げられる。これらの火薬は、点火直後の燃焼時には高温高圧のプラズマを発生させるが、常温となり燃焼生成物が凝縮すると気体成分を含まないために発生圧力が急激に低下する特性を示す。適切な注射液の射出が可能な限りにおいて、これら以外の火薬を点火薬として用いても構わない。
【0040】
また、注射器1では、ピストン5を介して注射液にかける圧力推移を調整するために、上記点火薬に加えて、点火器71での火薬燃焼によって生じる燃焼生成物によって燃焼しガスを発生させるガス発生剤80が配置されている。その配置場所は、例えば、
図1や
図2Bに示されるように、点火器71からの燃焼生成物に晒され得る場所である。また、別法としてガス発生剤80を、国際公開公報01-031282号や特開2003-25950号公報等に開示されているように、点火器71内に配置してもよい。ガス発生剤の一例としては、ニトロセルロース98質量%、ジフェニルアミン0.8質量%、硫酸カリウム1.2質量%からなるシングルベース無煙火薬が挙げられる。また、エアバッグ用ガス発生器やシートベルトプリテンショナ用ガス発生器に使用されている各種ガス発生剤を用いることも可能である。貫通孔64内に配置されるときのガス発生剤の寸法や大きさ、形状、特に表面形状を調整することで、該ガス発生剤の燃焼完了時間を変化させることが可能であり、これにより、注射液に掛ける圧力推移を調整し、その射出圧を所望の推移とすることができる。
【0041】
なお、サブ組立体10Aにおける注射液320の充填は、プランジャ4を最奥位置まで挿入した状態で、射出口31aを注射液が満たされている容器中に浸し、その状態を維持しながらプランジャ4を充填室32の開口部側、すなわちシリンジ部3の基端側まで引き戻すことで行われる。なお、このとき、プランジャ4の胴部42の基端側の端面が、シリンジ部3の基端側の端面より若干飛び出した位置に至るまで、プランジャ4は引き出されている。
【0042】
またサブ組立体10Bでは、先ず、
図2Bに示す注射器本体6の基端側からピストン5を挿入する。このとき、押圧柱部53が結合凹部61側を向くように、ピストン5が貫通孔64に挿入される。そして、ピストン5の先端側の端面、すなわち収容孔54が開口する押圧柱部53の先端側の端面が、結合凹部61の底面(側壁面62に直交する面)より所定量飛び出した状態となるように位置決めされる。ピストン5の位置決めについては、
貫通孔64内に位置決めのためのマークを設定する、位置決め用の治具を使用するなど、公知の技術を適宜利用すればよい。そして、貫通孔64内にガス発生剤80が配置されるとともに駆動部用凹部65に駆動部7が取り付けられる。なお、ピストン5の貫通孔64における固定力は、駆動部7の点火器71による燃焼生成物から受ける圧力によっては、ピストン5が十分に円滑に貫通孔64内を摺動できる程度であり、且つ、サブ組立体10Aがサブ組立体10Bに取り付けられる際にピストン5がプランジャ4から受ける力に対しては十分に抗し、ピストン5の位置が変動しない程度とされる。
【0043】
このように構成されるサブ組立体10Aが、ネジ部33aと62aの螺合によりサブ組立体10Bに取り付けられることで、装置組立体10が形成されることになる。このとき、両者の結合が進んでいくと、ピストン5の押圧柱部53に設けられた収容孔54内に、プランジャ4のロッド部44が進入していき収容された状態となり、最終的には、押圧柱部53の先端側の端面が、プランジャ4の胴部42の基端側の端面に接触した状態となる。なお、収容孔54はロッド部44を収容するのに十分な大きさを有しているため、この接触状態において、収容孔54の奥の内壁面(特に、収容孔54の底面)はロッド部44の基端側の端部には接触しておらず、したがってロッド部44はピストン5側から荷重を受けてはいない。更に、最終の螺合位置まで進めていくと、上記の通りピストン5は貫通孔64に十分な摩擦力でその位置が固定されているため、押圧柱部53によりプランジャ4が射出口31a側に進むように押され、シリンジ部3内においてプランジャ4が位置決めされる。なお、このプランジャ4の押し出し量に応じた注射液320の一部が、射出口31aから吐出される。
【0044】
このようにプランジャ4が最終位置に位置決めされると、装置組立体10の形成が完了することになる。この装置組立体10においては、注射器本体6に対してピストン5は所定の位置に位置決めされた状態であり、そのピストン5を基準としてシリンジ部3の充填室32におけるプランジャ4の位置が機械的に最終的に決定される。このプランジャ4の最終的な位置は、装置組立体10において一義的に決定される位置であるから、最終的に充填室32内に収容される注射液320の量を、予め決められた所定量とすることが可能となる。
【0045】
そして、当該装置組立体10はハウジング2に取り付けられて、ユーザにより射出口31aを対象領域に接触させた状態でボタン8が押下されることで、ピストン5、プランジャ4を介して、注射液320が加圧され、その射出が実行され、対象領域内に注射液320が注射されることになる。
【0046】
ここで、
図3は、注射器1で駆動部7が駆動されることにより注射液の射出を行った際の、射出口31aから射出される注射液の圧力(以下、単に「射出圧」という)の推移を示した図である。
図3の横軸は経過時間を表し、縦軸は射出圧を表している。なお、射出圧については、従来技術を利用して測定可能である。例えば、射出力の測定は、特開2005-21640号公報に記載の測定方法のように、射出の力を、ノズルの下流に配置されたロードセルのダイアフラムに分散して与えるようにし、ロードセルからの出力は、検出増幅器を介してデータ採取装置にて採取されて、時間毎の射出力(N)として記憶されるという方法によって測定してもよい。このように測定された射出力を、注射器1の射出口31aの面積によって除することで、射出圧が算出される。なお、
図3に示す例は、駆動部7内の点火器71における点火薬としてZPP(ジルコニウムと過塩素酸カリウムを含む)を採用するとともに、貫通孔64内にガス発生剤を配置することで得られた射出圧の推移である。
【0047】
ここで、
図3に示す射出圧推移は、駆動部7でボタン8が押下された時期を原点として、その燃焼開始から射出圧が概ね無くなるまでの期間における射出圧の推移である。なお
、射出圧の立ち上がりが原点ではなく若干の時間だけずれているのは、点火薬が燃焼し、その燃焼エネルギーによってピストン5が推進されることで注射液が加圧されて、射出口31aより射出するまでにある程度の時間を要するためである。ここで、注射器1では、上記の通り、まず点火器71内の点火薬が燃焼し、その後にガス発生剤80が燃焼することで、それぞれの燃焼に概ね対応する形で射出圧の推移において2つのピーク圧力P1、P2が現れる。すなわち、燃焼速度が比較的早い点火薬の燃焼によって、射出圧推移の初期において急峻な圧力推移を形成する第1ピーク圧力P1が現れる。この第1ピーク圧力P1が現れるタイミングを第1タイミングT1とする。点火薬が燃焼すると、そこで生じる燃焼生成物にガス発生剤が晒されることでガス発生剤80の燃焼が開始されることになる。しかし、上記点火薬は、高温状態では気体であっても常温では気体成分を含まないため、第1タイミングT1経過後直ちに射出圧は降下する。一方で、ガス発生剤80は、点火薬と比べてその燃焼速度は低いため、ガス発生剤80の燃焼が開始されても射出圧の上昇は、第1ピーク圧力に至る過程と比べて比較的緩やかになり、第1タイミングT1から遅れた第2タイミングT2において第2ピーク圧力P2を迎えることになる。なお、第2ピーク圧力P2を経過した後は、射出圧は徐々に低下していき、射出圧が概ね零となるのが加圧終了タイミングTfとされる。
【0048】
このように注射器1は、
図3に示す射出圧を形成するために注射液を加圧する装置と言うこともできる。このような射出圧が付与された注射液は対象領域に対して物理的に作用し、対象領域の表面を貫通しその内部に進入していくことで、対象領域への注射液の注射が実現される。ここで、注射器1の対象領域の例として、ヒトや家畜等の生体の皮膚構造体が挙げられる。
図4にはヒトの皮膚の解剖学的な構造を概略的に示す。ヒトの皮膚は、皮膚表面側から深さ方向に向かって、表皮、真皮、皮下組織・筋肉組織と層状に構成され、更に表皮は角層、皮内と層状に区別することができる。皮膚構造体の各層は、その組織を構成する主な細胞等や組織の特徴も異なる。
【0049】
具体的には、角層は主に角化細胞で構成され、皮膚の最表面側に位置することからいわばバリア層としての機能を有する。一般的に、角層の厚さは0.01-0.015mm程度であり角化細胞によりヒトの表面保護を果たす。そのため、外部環境とヒトの体内とをある程度物理的に遮断すべく、比較的高い強度も要求される。また、皮内は、樹状細胞(ランゲルハンス細胞)や色素細胞(メラノサイト)を含んで構成され、角層と皮内により表皮が形成され、表皮の厚さは、一般的には0.1-2mm程度である。この皮内中の樹状細胞は、抗原・抗体反応に関与する細胞と考えられている。これは、抗原を取り込むことによって樹状細胞がその存在を認識し、異物攻撃するための役割を果たすリンパ球の活性化させる抗原抗体反応が誘導されやすいからである。一方で、皮内中の色素細胞は、外部環境から照射される紫外線の影響を防止する機能を有する。また、真皮には、皮膚上の血管や毛細血管が複雑に敷き詰められており、また体温調整のための汗腺や、体毛(頭髪を含む)の毛根やそれに付随する皮脂腺等も真皮内に存在する。また、真皮はヒト体内(皮下組織・筋肉組織)と表皮とを連絡する層であり、繊維芽細胞やコラーゲン細胞を含んで構成される。そのため、いわゆるコラーゲンやエラスチン不足によるシワの発生や脱毛等については、この真皮の状態が大きく関与する。
【0050】
このようにヒトの皮膚構造は、概ね層状に形成されており、各層に主に含まれる細胞・組織等によって固有の解剖学的機能が発揮されている。このことは、皮膚に対して医学的治療等を施術する場合には、その治療目的に応じた皮膚構造体の深さに治療のための物質を到達せしめることが望ましいことを意味する。たとえば、皮内には樹状細胞が存在することから、ここにワクチンを到達させることでより効果的な抗原抗体反応が期待できる。更に、皮内には色素細胞が存在していることから、いわゆる美白のための美容治療を行う場合においても美白用の所定物質を皮内に投与することが求められる。また、真皮には、繊維芽細胞やコラーゲン細胞が存在することから、皮膚のシワを除去するためのタンパク
質、酵素、ビタミン、アミノ酸、ミネラル、糖類、核酸、各種成長因子(上皮細胞や繊維芽細胞)等を注入すると、効果的な美容治療効果が期待される。更に、毛髪再生治療のためには、毛乳頭細胞、表皮幹細胞等を自己培養し、それを頭皮に自家移植する幹細胞注入法や、幹細胞から抽出された数種類の成長因子や栄養成分を真皮近傍に注入することが好ましいといわれている。
【0051】
<注射液の到達深さ調整>
このように治療目的に応じて投与される所定物質を含む注射液と、それが投与されるのが望ましい皮膚構造体での深さは個別的に対応する。そこで、この点を踏まえ、注射器1は、皮膚構造体等の対象領域において注射液の到達深さを調整可能とするように構成されている。
【0052】
ここで、注射器1によって疑似的な対象領域であるゲルに対して射出試験を行った結果を以下に示す。この射出試験におけるゲル内での注射液の分布状態を、
図5に模式的に示す。
図5は、射出された注射液がゲル内で時間の経過とともに形成される分布状態を、上段から模式的に示している。具体的には、上段(a)は、第1タイミングT1において注射液がゲル内で到達する深さである第1到達深さd1が示されている。なお、本実施例において、注射液の到達深さは、注射器1からの射出方向に沿って注射液がゲル内を進んだ距離である。
【0053】
次に、下段(b)は、加圧終了タイミングTfにおいてゲル内で形成される注射液の分布に関し、注射液の到達深さである終了時到達深さがDfで示されている。更に、下段(b)では、注射液の到達深さが上段(a)で示した第1到達深さd1から、終了時到達深さDfに至るまでに増えた、追加的な到達深さが、追加到達深さd2として示されている。なお、終了時到達深さDfは、注射器1での点火薬及びガス発生剤80の燃焼による加圧で直接的に注射液がゲル内を進入した深さを表すものであり、注射液がゲル内に射出された後に時間の経過とともに最終的に拡散したときの到達深さ(すなわち、加圧終了タイミングTfより十分な時間経過後の到達深さ)である拡散到達深さとは厳密には相違する。しかし、その拡散到達深さは、終了時到達深さDfを経て形成されるものであるから、終了時到達深さDfは、拡散到達深さを決定付ける重要な要素であり、終了時到達深さDfが調整可能とされることは注射器1の注射液の送達性能を飛躍的に向上させるものである。
【0054】
ここで、下記の表1に、ゲルへの射出試験の結果を示す。本射出試験では、注射器1に設定する点火薬とガス発生剤80の剤量(mg)の組み合わせを9通りに設定し、各組み合わせで3回の射出試験を行ったときの、第1ピーク圧力P1(MPa)、第1タイミングT1(msec)、第2ピーク圧力P2(MPa)、ピーク間長さ(msec)、第1到達深さd1(mm)、追加到達深さd2(mm)、終了時到達深さDf(mm)の結果が表1に示されている。また、表1の最左欄の「aa/bb」の記載が当該組み合わせを表し、詳細には「aa」が点火薬の剤量を意味し、「bb」がガス発生剤80の剤量を意味する。また、「*」が付されている組み合わせは、付されていない同剤量の組み合わせと比較してその形状が異なっている組み合わせを表している。なお、ピーク間長さは、第2タイミングT2と第1タイミングT1との差分(T2-T1)として定義される。
【表1】
【0055】
ここで、注射液の到達深さに関するパラメータである第1到達深さd1、追加到達深さd2、終了時到達深さDfについて重回帰分析を行った。具体的には、第1到達深さd1については、第1ピーク圧力P1と第1タイミングT1の2つのパラメータを説明変数として重回帰分析を行い、追加到達深さd2と終了時到達深さDfについては、第1ピーク圧力P1、第2ピーク圧力P2、ピーク間長さ(T2-T1)を説明変数として重回帰分析を行った。
【0056】
そして、第1到達深さd1に関する分析結果を、以下の表2及び表3に示す。
【表2】
【表3】
この結果を踏まえると、重相関Rの値が極めて高いことから、第1到達高さd1は、第1ピーク圧力P1及び第1タイミングt1と強い相関を有していることが理解できる。そして、当該相関の傾向としては、表3に示すtの値に基づけば、第1ピーク圧力P1の値が増加するに従い第1到達深さd1の値は大きくなり、第1タイミングT1の値が減少するに従い第1到達深さd1の値は大きくなる傾向が見出せる。当該傾向は、
図3に示す圧力推移の初期では、注射液の挙動は、第1ピーク圧力P1と第1タイミングT1によって支配的に決定されることを意味する。
【0057】
次に、追加到達深さd2に関する分析結果を、以下の表4及び表5に示す。
【表4】
【表5】
この結果を踏まえると、重相関Rの値が極めて高いことから、追加到達高さd2は、第1ピーク圧力P1、第2ピーク圧力P2及びピーク間長さ(T2-T1)と強い相関を有していることが理解できる。そして、当該相関の傾向としては、表5に示すtの値に基づけば、第1ピーク圧力P1の値が減少するに従い追加到達深さd2の値は大きくなり、第2ピーク圧力P2の値が増加するに従い追加到達深さd2の値は大きくなる傾向が見出せる。このように第1ピーク圧力P1は、追加到達深さd2に対して負要因となるのは、第1ピーク圧力P1が大きいほど、第1タイミングT1近傍で変形された局所的な対象領域の部位が元の状態に復元しようとする力が大きく作用することが要因と推察される。なお、上記表5に基づけば、追加到達深さd2とピーク間長さ(T2-T1)との間には、特段の傾向は見出せないと言い得る。
【0058】
次に、終了時到達深さDfに関する分析結果を、以下の表6及び表7に示す。
【表6】
【表7】
この結果を踏まえると、重相関Rの値が極めて高いことから、終了時到達深さDfは、第1ピーク圧力P1、第2ピーク圧力P2及びピーク間長さ(T2-T1)と強い相関を有していることが理解できる。そして、当該相関の傾向としては、表7に示すtの値に基づけば、第1ピーク圧力P1の値が増加するに従い終了時到達深さDfの値は大きくなり、第2ピーク圧力P2の値が増加するに従い終了時到達深さDfの値は大きくなり、ピーク間長さ(T2-T1)の値が減少するに従い終了時到達深さDfの値は大きくなる傾向が見出せる。このようにピーク間長さ(T2-T1)は、終了時到達深さDfに対して負要因となるのは、ピーク間長さ(T2-T1)が小さいほど、第1タイミングT1近傍で変形された局所的な対象領域の部位が元の状態に復元しようとする時間が短くなることが要因と推察される。なお、第2ピーク圧力P2と終了時到達深さDfとの相関の強さは、第1ピーク圧力P1と終了時到達深さDfとの相関の強さ、及びピーク間長さ(T2-T1)と終了時到達深さDfとの相関の強さより相対的には小さいことが理解できる。
【0059】
ここで、上記の通り、対象領域での注射液の到達深さを調整するためには、終了時到達深さDfを精度よく調整することが肝要であるから、その点を踏まえ上記の終了時到達深さDfに関する分析結果を考慮すると、第1には第1ピーク圧力P1とピーク間長さ(T2-T1)の両パラメータに着目することが有用であることが見出される。そこで、注射器1が、第1ピーク圧力P1の増加に従い終了時到達深さDfが深くなり、且つ、ピーク間長さ(T2-T1)が短くなるに従い終了時到達深さDfが深くなるように注射器1が構成されている点を踏まえ、所望の終了時到達深さDfが実現される、注射器1からの注射液の射出圧推移が実現されるように、注射器1に搭載される点火薬及びガス発生剤80の種類や剤量、剤の形状等が設計される。
【0060】
このように注射液の射出圧推移に含まれる第1ピーク圧力P1、ピーク間長さ(T2-T1)という限られた射出パラメータを利用することで、注射器1の終了時到達深さDfは極めて良好に調整することが可能である。このことは、注射器1による注射をより効果的にするとともに、その効果を得るためにユーザに課せられる調整負荷を大きく軽減するものである。すなわち、注射器1において上記の通り限られた射出パラメータを調整するという技術思想は、注射器1の注射効果とそのための調整負荷の軽減を両立する極めて有用な効果を導出し得る。
【0061】
次に好ましくは、終了時到達深さDfに相関を有する第2ピーク圧力P2に着目することが有用である。上記の通り、第2ピーク圧力P2と終了時到達深さDfとの相関の強さは、第1ピーク圧力P1やピーク間長さ(T2-T1)と比べると小さいが、少なからず終了到達深さDfと相関を有するパラメータである。したがって、第1ピーク圧力P1やピーク間長さ(T2-T1)に更に第2ピーク圧力P2を加えて終了時到達深さDfを調整することで、その調整精度の向上を図ることができる。そこで、注射器1が、第1ピーク圧力P1の増加に従い終了時到達深さDfが深くなり、且つ、ピーク間長さ(T2-T1)が短くなるに従い終了時到達深さDfが深くなるように、更に、第2ピーク圧力の増加に従い終了時到達深さDfが深くなるように注射器1が構成されている点を踏まえ、所望の終了時到達深さDfが実現される、注射器1からの注射液の射出圧推移が実現されるように、注射器1に搭載される点火薬及びガス発生剤80の種類や剤量、剤の形状等が設
計される。この場合でも、終了時到達深さDfを調整するパラメータは、第1ピーク圧力P1、ピーク間長さ(T2-T1)に加えて第2ピーク圧力P2に限られているため、上記の場合と同様に、注射器1の注射効果とそのための調整負荷の軽減を両立することを可能となる。
【0062】
更に、追加到達深さd2を精度よく調整すると、結果として終了時到達深さDfをより精度よく調整することが可能になると考えられる。これは、追加到達深さd2は、第1到達深さd1から終了時到達深さDfに至るまでの深さとして定義されるため、いわば、追加到達深さd2を形成するステップは、射出圧推移の後半の過程(第1タイミングT1以降の過程)において終了時到達深さDfを細かく調整することを可能とするステップと考えることができるからである。そこで、上記の表4及び表5に示す追加到達深さd2に関する分析結果を考慮すると、第1ピーク圧力P1と第2ピーク圧力P2の両パラメータに更に着目することが有用であることが見出される。注射器1が、第2ピーク圧力P2の増加に従い追加到達深さd2が深くなり、且つ、第1ピーク圧力P1の低減に従い追加到達深さd2が深くなるように注射器1が構成されている点を踏まえ、結果として所望の終了時到達深さDfが実現される、注射器1からの注射液の射出圧推移が実現されるように、注射器1に搭載される点火薬及びガス発生剤80の種類や剤量、剤の形状等が設計される。このように第1ピーク圧力P1と第2ピーク圧力P2の相関を調整することで、追加到達深さd2の調整を介して終了時到達深さDfをより精度よく調整することが可能となる。
【0063】
なお、第1到達深さd1自体は、射出圧推移の初期における注射液の挙動を示すパラメータであるから、終了時到達深さDfを精度よく調整する目的において、上記の表2及び表3に示す第1到達深さd1に関する分析結果は特段に考慮する必要はないと考えられる。ただし、これは、当該第1到達深さd1に関する分析結果を更に利用して、終了時到達深さDfを調整することを排除するものではない。
【0064】
<注射器1における到達深さの第1の調整方法>
上述の注射器1における終了時到達深さDfと射出圧推移に関する各射出パラメータとの相関を踏まえ、注射器1における終了時到達深さDfの第1の調整方法について
図6に基づいて説明する。
図6に示す調整方法は、上記に示した通り第1ピーク圧力P1とピーク間長さ(T2-T1)に基づいた終了時到達深さDfの調整方法である。まず、S101では、終了時到達深さDfが第1ピーク圧力P1の増加に従い深くなる第1調整基準に従って、所望の終了時到達深さDfを実現するための第1ピーク圧力P1が設定される。具体的には、表7に示す分析結果の係数欄を踏まえると、終了時到達深さDfは、以下の回帰式1で表すことができる。
Df=6.39+0.21×P1-0.07×(T2-T1)・・・式1
当該式1における「+0.21×P1」の部分が上記第1調整基準に相当する。ここで、第1ピーク圧力P1の設定においては、注射液の射出初期には射出された注射液によって対象領域の表面を貫通する必要があることが考慮される。このことは、第1ピーク圧力P1の値に、表面貫通を担保させるために下限値P1minが設定されることを意味する。そこで、S101では、当該下限値P1min以上となる値の第1ピーク圧力P1が設定される。
【0065】
次に、S102では、終了時到達深さDfがピーク間長さ(T2-T1)が短くなるに従い深くなる第2調整基準に従い、所望の終了時到達深さDfを実現するためのピーク間長さ(T2-T1)が設定される。上記式1における「-0.07×(T2-T1)」の部分が上記第2調整基準に相当する。ここで、ピーク間長さ(T2-T1)の設定においては、ガス発生剤80の燃焼速度を考慮する必要がある。ガス発生剤80の燃焼速度は点火薬よりも相対的に遅いからであり、物理的に所定の閾値より縮めることは困難とされる
。このことは、ピーク間長さ(T2-T1)の値に下限値ΔTminが設定されることを意味する。そこで、S101では、当該下限値ΔTmin以上となる値のピーク間長さ(T2-T1)が設定される。
【0066】
なお、上記の実施例では、第1ピーク圧力P1の設定、ピーク間長さ(T2-T1)の設定の順に行われているが、各設定処理はこの順序に制限されるものではない。すなわち、ピーク間長さ(T2-T1)を第1ピーク圧力P1より先に設定してもよく、又は、第1ピーク圧力P1の設定とピーク間長さ(T2-T1)の設定を実質的に同時に行ってもよい。肝要な点は、上記回帰式1に従って、第1ピーク圧力P1とピーク間長さ(T2-T1)のそれぞれが設定される点である。
【0067】
第1ピーク圧力P1の設定及びピーク間長さ(T2-T1)が設定されると、これらの射出パラメータの値が実際の射出圧推移に現れるように、S103で、注射液の加圧に関する仕様である、点火薬とガス発生剤80のそれぞれの剤量が決定される。具体的には、
図7の上段(a)に示す第1ピーク圧力P1と点火薬量との相関に基づいて点火薬量が決定される。当該相関は、第1ピーク圧力P1が増加するに従い点火薬量が増加するという関係を有している。また、
図7の下段(b)に示すピーク間長さ(T2-T1)とガス発生剤量との相関に基づいてガス発生剤量が決定される。当該相関は、ガス発生剤80の燃焼速度が点火薬の燃焼速度より遅い点を考慮し、ピーク間長さ(T2-T1)が増加するに従いガス発生剤量が増加するという関係を有している。また、上記の表1の点火薬とガス発生剤80の剤量の組み合わせにおいて、35/20と35/20*とを比較することで、または35/40と35/40*とを比較することで、ガス発生剤80の形状の相違がピーク間長さを調整し得るパラメータであることが分かる。そこで、ガス発生剤80の形状を変化させることでも、ピーク間長さ(T2-T1)を調整してもよい。
【0068】
このように
図6に示す調整方法に従い、点火薬とガス発生剤80の剤量を決定することで、注射器1の作動時において、設定された第1ピーク圧力P1とピーク間長さ(T2-T1)を含む射出圧推移を形成することが可能となる。これにより、対象領域における注射液の終了時到達深さDfを所望の値に調整することが可能となる。
【0069】
<注射器1における到達深さの第2の調整方法>
上述の注射器1における終了時到達深さDfと射出圧推移に関する各射出パラメータとの相関を踏まえ、注射器1における終了時到達深さDfの第2の調整方法について
図8に基づいて説明する。
図8に示す調整方法は、上記に示した通り第1ピーク圧力P1とピーク間長さ(T2-T1)に加え、第2ピーク圧力P2に基づいた終了時到達深さDfの調整方法である。なお、
図8に示すS101とS102の処理の内容は、
図6に示す同一の参照番号の処理と実質的に同じであるから、その詳細の説明は省略する。ただし、本第2の調整方法では、表7に示す分析結果の係数欄を踏まえ、終了時到達深さDfは、以下の回帰式2で表すことができるものとする。
Df=6.39+0.21×P1+0.02×P2-0.07×(T2-T1)
・・・式2
そして、当該式1における「+0.21×P1」の部分が本第2の調整方法での第1調整基準に相当し、「-0.07×(T2-T1)」の部分が本第2の調整方法での第2調整基準に相当する。
【0070】
そして、S102が終了するとS201の処理が行われる。S201では、終了時到達深さDfが第2ピーク圧力P2の増加に従い深くなる第3調整基準に従って、所望の終了時到達深さDfを実現するための第2ピーク圧力P2が設定される。上記式2における「+0.02×P2」の部分が上記第3調整基準に相当する。ここで、第2ピーク圧力P2の設定においては、S102で設定されたピーク間長さ(T2-T1)を考慮する必要が
ある。これは、ピーク間長さ(T2-T1)はガス発生剤80の剤量と相関を有するとともに、第2ピーク圧力P2もガス発生剤80の剤量と相関を有するからである。そこで、S201で第2ピーク圧力P2を設定する場合には、S102で設定されたピーク間長さとのバランスを考慮し、所望の終了時到達深さDfの実現を図る。
【0071】
第1ピーク圧力P1の設定、ピーク間長さ(T2-T1)の設定、第2ピーク圧力P2の設定が行われると、これらの射出パラメータの値が実際の射出圧推移に現れるように、S202で、注射液の加圧に関する仕様である、点火薬とガス発生剤80のそれぞれの剤量が決定される。S202の処理での点火薬の剤量決定については、基本的には、
図6に示す調整方法に含まれるS103の処理の場合と同じであるが、上記の通り、ガス発生剤80の量は、ピーク間長さ(T2-T1)と第2ピーク圧力P2の両者に相関を有するため、
図7の下段(b)に示すガス発生剤量とピーク間長さとの相関に代えて、ガス発生剤量と、ピーク間長さ(T2-T1)及び第2ピーク圧力P2の両者との相関を考慮して、ガス発生剤80の剤量が決定される。当該相関は、ピーク間長さ(T2-T1)が増加するに従い、且つ、第2ピーク圧力P2が増加するに従い、ガス発生剤量が増加するという関係を有している。
【0072】
このように
図8に示す調整方法に従い、点火薬とガス発生剤80の剤量を決定することで、注射器1の作動時において、設定された第1ピーク圧力P1と第2ピーク圧力P2とピーク間長さ(T2-T1)を含む射出圧推移を形成することが可能となる。これにより、対象領域における注射液の終了時到達深さDfを所望の値に調整することが可能となる。
【0073】
<注射器1における到達深さの第3の調整方法>
上述の注射器1における終了時到達深さDfと射出圧推移に関する各射出パラメータとの相関に加え、追加到達深さd2と書く射出パラメータとの相関を踏まえ、注射器1における終了時到達深さDfの第3の調整方法について
図9に基づいて説明する。
図9に示す調整方法でのS101、S102の処理の内容、及びS201の処理の内容は、
図7に示す同一の参照番号の処理と実質的に同じであるから、その詳細の説明は省略する。
【0074】
そして、S201が終了するとS301の処理が行われる。S301では、
追加到達深さd2が、第2ピーク圧力P2の増加に従い深くなり、且つ、第1ピーク圧力P1の低減に従い深くなる第4調整基準に従って、第1ピーク圧力P1及び第2ピーク圧力P2が更に調整される。なお、本第3の調整方法では、表5に示す分析結果の係数欄を踏まえ、追加到達深さd2は、以下の回帰式3で表すことができるものとする。
d2=3.07-0.10×P1+0.06×P2・・・式3
そして、当該式3における「-0.10×P1+0.06×P2」の部分が第4調整基準に相当する。ここで、S301での第1ピーク圧力P1及び第2ピーク圧力P2の調整については、S101、S201で設定された各圧力値に基づいて想定される終了時到達深さDfが含み得る誤差を解消する目的で行われる。したがって、S301の処理は、S101、S201とは独立して、換言すると、S101、S201の処理とは異なる側面から第1ピーク圧力P1及び第2ピーク圧力P2の値を算出し直すことになる。例えば、追加到達深さd2の許容範囲を予め設定しておき、S101、S201で設定された各圧力値で追加到達深さd2がその許容範囲内に含まれない場合には、追加到達深さd2がその許容範囲内に収まるように第1ピーク圧力P1及び第2ピーク圧力P2の調整が行われる。
【0075】
第1ピーク圧力P1と第2ピーク圧力P2の調整が行われると、これらの射出パラメータの値が実際の射出圧推移に現れるように、S302で、注射液の加圧に関する仕様である、点火薬とガス発生剤80のそれぞれの剤量が決定される。S302の処理内容は、図
8に示すS202の処理内容と実質的に同じであるため、その詳細な説明は省略する。
【0076】
このように
図9に示す調整方法に従い、点火薬とガス発生剤80の剤量を決定することで、注射器1の作動時において、設定された第1ピーク圧力P1と第2ピーク圧力P2とピーク間長さ(T2-T1)を含む射出圧推移を形成することが可能となる。これにより、対象領域における注射液の終了時到達深さDfを所望の値に調整することが可能となる。
【0077】
<注射器1における到達深さの調整のための処理装置、及びプログラム>
ここで、
図10に基づいて、
図6、
図8、
図9に示す調整方法を実行する処理装置100、及び処理装置100にそれらの調整方法を実行させるためのプログラムについて説明する。
図10は、当該調整方法に関する処理を実現するために、処理装置100において形成される機能部をイメージ化した図である。処理装置100は、その内部の演算部、メモリ等を用いて所定のプログラムが実行されることで、
図10に示す機能部が形成され、上述した各調整方法が実現される。
【0078】
ここで、処理装置100の機能部について説明する。処理装置100は、算出関数記憶部101、入出力部102、演算部103を有している。算出関数記憶部101は、
図6、
図8、
図9に示す調整方法において、終了時到達深さDfや追加到達深さd2を算出するための関数、すなわち上記式1~式3で表した関数を格納する機能部である。記憶されている当該関数の情報は、上述の調整方法で示したように、第1ピーク圧力等の設定処理等で利用される。入出力部102は、注射器1の加圧仕様(点火薬やガス発生剤の剤量)の決定に関する、ユーザからの要求情報が入力され、更に、処理装置100によって算出された加圧仕様の情報をユーザに伝えるために出力する機能部である。入力される要求情報は、処理装置100が備える入力装置(キーボードやマウス等)によって入力され、又は、処理装置100とは異なる装置から所定のインターフェースを介して入力される。更に決定された加圧仕様の情報の出力については、処理装置100の表示装置(ディスプレイ)に表示したり、その加圧仕様の情報を他の処理装置で利用する場合には、当該他の処理装置に電子情報として伝送したりする形態も含む。
【0079】
演算部103は、所望の終了時到達深さDfを実現するために、上述した調整方法における第1ピーク圧力P1、第2ピーク圧力P2、ピーク間長さ(T2-T1)の射出パラメータの設定、調整を行い、また、当該射出パラメータに基づいて加圧仕様である点火薬とガス発生剤の剤量の決定を行う機能部である。具体的には、演算部103は、サブの機能部として、第1ピーク圧力設定部201、ピーク間長さ設定部202、第2ピーク圧力設定部203、圧力値調整部204、加圧仕様決定部205を有している。第1ピーク圧力設定部201は、所望の終了時到達深さDfを実現するための第1ピーク圧力P1を設定する機能部であって、具体的には、上述の調整方法におけるS101の処理を実行する。ピーク間長さ設定部202は、所望の終了時到達深さDfを実現するためのピーク間長さ(T2-T1)を設定する機能部であって、具体的には、上述の調整方法におけるS102の処理を実行する。第2ピーク圧力設定部203は、所望の終了時到達深さDfを実現するための第2ピーク圧力P2を設定する機能部であって、具体的には、上述の調整方法におけるS201の処理を実行する。圧力値調整部204は、所望の終了時到達深さDfを実現するために、第1ピーク圧力設定部201、第2ピーク圧力設定部203によって設定された第1ピーク圧力P1、第2ピーク圧力P2の値を調整する機能部であって、具体的には、上述の調整方法におけるS301の処理を実行する。最後に、加圧仕様決定部205は、各設定部や圧力値調整部の処理で得られた射出パラメータの値が、実際の射出圧推移に現れるように、注射器1での加圧仕様である点火薬及びガス発生剤の剤量を決定する機能部であって、具体的には、上述の調整方法におけるS103、S202、S302の処理を実行する。
【0080】
処理装置100が上述のように構成されることで、また、処理装置100に、上記各機能部を形成するプログラムがインストールされることで、
図6、
図8、
図9に示す調整方法が処理装置100によって実現されることになる。この結果、ユーザは、より容易に注射器1の加圧仕様の情報を得ることができ、以て、注射器1により対象領域の所望の深さに注射液を送達させることができる。
【0081】
<変形例1>
注射器1の変形例としては、例えば、ヒトに対する再生医療のために、投与対象となる細胞や足場組織・スキャフォールドに培養細胞、幹細胞等を播種するため装置が例示できる。例えば、特開2008-206477号公報に示すように、移植される部位及び再細胞化の目的に応じて当業者が適宜決定し得る細胞、例えば、内皮細胞、内皮前駆細胞、骨髄細胞、前骨芽細胞、軟骨細胞、繊維芽細胞、皮膚細胞、筋肉細胞、肝臓細胞、腎臓細胞、腸管細胞、幹細胞、その他再生医療の分野で考慮されるあらゆる細胞を投与する。
【0082】
さらには、特表2007-525192号公報に記載されているような、細胞や足場組織・スキャフォールド等へのDNA等の送達の注射器として、注射器1は構成されてもよい。さらには、注射器1は、各種遺伝子、癌抑制細胞、脂質エンベロープ等を直接目的とする組織に送達させたり、病原体に対する免疫を高めるために抗原遺伝子を投与したりする注射器として、又は、各種疾病治療の分野(特表2008-508881号公報、特表2010-503616号公報等に記載の分野)、免疫医療分野(特表2005-523679号公報等に記載の分野)等で利用可能な注射器としても構成できる。
【0083】
<変形例2>
本発明の注射器1に関して開示された技術思想は、注射液の加圧を点火薬やガス発生剤の燃焼以外の形態で行う注射器に関しても適用可能である。例えば、バネや圧縮ガス等のエネルギーを利用して注射液の加圧を行い、
図3に示すような射出圧推移を形成可能な注射器であれば、上述の調整方法を適用することで、対象領域の所望の深さに注射液を送達させることができる。また、注射器において、第1ピーク圧力の形成に点火薬を利用し第2ピーク圧力の形成に圧縮ガスを利用して
図3に示すような射出圧推移を形成する場合でも、上述の調整方法を適用でき、対象領域の所望の深さへの注射液の好適な送達が実現され得る。更に、注射器において、第1ピーク圧力の形成に点火薬を利用し第2ピーク圧力の形成にばね等の弾性部材が有する弾性エネルギーを利用して
図3に示すような射出圧推移を形成する場合でも、上述の調整方法を適用でき、対象領域の所望の深さへの注射液の好適な送達が実現され得る。
【符号の説明】
【0084】
1・・・・注射器
2・・・・ハウジング
3・・・・シリンジ部
4・・・・プランジャ
5・・・・ピストン
6・・・・注射器本体
7・・・・駆動部
8・・・・ボタン
9・・・・バッテリ
10・・・・装置組立体
10A、10B・・・・サブ組立体
31・・・・ノズル部
32・・・・充填室
44・・・・ロッド部
53・・・・押圧柱部
54・・・・収容孔
64・・・・貫通孔
71・・・・点火器
80・・・・ガス発生剤
100・・・・処理装置
【手続補正書】
【提出日】2023-05-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射針を介することなく、注射目的物質を対象領域に注射する無針注射器であって、
前記注射目的物質を封入する封入部を含むシリンジ部と、
点火薬を含む点火器と、
前記点火薬の燃焼によって発生する燃焼生成物が流入する燃焼室を含む注射器本体であって、該燃焼生成物によって燃焼し所定ガスを生成するガス発生剤が該燃焼室に配置される注射器本体と、
前記注射器本体と前記シリンジ部内を摺動する加圧部であって、前記封入部に封入された前記注射目的物質に対して加圧する加圧部と、
前記シリンジ部の先端側に設けられ、前記加圧部によって加圧された前記注射目的物質が前記対象領域に対して射出される射出口を有する流路部と、
を備え、
前記ガス発生剤は、その燃焼速度が前記点火薬の燃焼速度より低くなるように形成され、
前記加圧部は、前記射出口から射出される前記注射目的物質の圧力として定義される、該注射目的物質の射出圧が、加圧開始後に第1ピーク圧力まで上昇した後に該第1ピーク圧力より低い圧力まで下降し、更にその後に第2ピーク圧力まで再上昇するように、前記注射目的物質を加圧し、
前記加圧部は、前記点火器を作動させて前記点火薬の燃焼圧力により前記注射目的物質の射出圧を前記第1ピーク圧力に到達させるとともに、該点火薬に続いて燃焼される前記ガス発生剤の燃焼圧力により該注射目的物質の射出圧を前記第2ピーク圧力に到達させ、
前記加圧部による加圧終了時の前記対象領域での前記注射目的物質の終了時到達深さが、前記第1ピーク圧力の増加に従い深くなり、且つ、前記射出圧が前記第1ピーク圧力へ到達した第1タイミングから前記第2ピーク圧力へ到達した第2タイミングまでに要するピーク間長さが短くなるに従い深くなるように該終了時到達深さを調整可能に構成されており、
前記第1ピーク圧力が増加するに従い前記点火薬の量が増加するという関係に基づいて該点火薬の量を調整することで該第1ピーク圧力を設定し、
前記ピーク間長さが減少するに従い前記ガス発生剤の量が増加するという関係に基づいて該ガス発生剤の量を調整することで該ピーク間長さを設定する、
無針注射器。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0067
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0067】
第1ピーク圧力P1の設定及びピーク間長さ(T2-T1)が設定されると、これらの射出パラメータの値が実際の射出圧推移に現れるように、S103で、注射液の加圧に関する仕様である、点火薬とガス発生剤80のそれぞれの剤量が決定される。具体的には、
図7の上段(a)に示す第1ピーク圧力P1と点火薬量との相関に基づいて点火薬量が決定される。当該相関は、第1ピーク圧力P1が増加するに従い点火薬量が増加するという関係を有している。また、
図7の下段(b)に示すピーク間長さ(T2-T1)とガス発生剤量との相関に基づいてガス発生剤量が決定される。当該相関は、
表1の「35/20」と「35/40」及び「35/20*」と「35/40*」における「T2-T1」に示す通り、ピーク間長さ(T2-T1)が
減少するに従いガス発生剤量が増加するという関係を有している。また、上記の表1の点火薬とガス発生剤80の剤量の組み合わせにおいて、35/20と35/20*とを比較することで、または35/40と35/40*とを比較することで、ガス発生剤80の形状の相違がピーク間長さを調整し得るパラメータであることが分かる。そこで、ガス発生剤80の形状を変化させることでも、ピーク間長さ(T2-T1)を調整してもよい。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0071
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0071】
第1ピーク圧力P1の設定、ピーク間長さ(T2-T1)の設定、第2ピーク圧力P2の設定が行われると、これらの射出パラメータの値が実際の射出圧推移に現れるように、S202で、注射液の加圧に関する仕様である、点火薬とガス発生剤80のそれぞれの剤量が決定される。S202の処理での点火薬の剤量決定については、基本的には、
図6に示す調整方法に含まれるS103の処理の場合と同じであるが、上記の通り、ガス発生剤80の量は、ピーク間長さ(T2-T1)と第2ピーク圧力P2の両者に相関を有するため、
図7の下段(b)に示すガス発生剤量とピーク間長さとの相関に代えて、ガス発生剤量と、ピーク間長さ(T2-T1)及び第2ピーク圧力P2の両者との相関を考慮して、ガス発生剤80の剤量が決定される。当該相関は、ピーク間長さ(T2-T1)が
減少するに従い、且つ、第2ピーク圧力P2が増加するに従い、ガス発生剤量が増加するという関係を有している。
【手続補正5】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】