(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091056
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】イチゴ加工品の変色防止方法
(51)【国際特許分類】
A23B 7/157 20060101AFI20230622BHJP
A23L 2/44 20060101ALI20230622BHJP
A23L 2/02 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
A23B7/157
A23L2/44 101
A23L2/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】書面
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2023079696
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】591040557
【氏名又は名称】太平化学産業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】倉本 恭行
(72)【発明者】
【氏名】島田 太一
(57)【要約】
【課題】イチゴ加工品の変色防止方法を提供すること。
【解決手段】ウルトラリン酸ナトリウム(NaxHy(PO3)(x+y)(x,y≧1))、メタリン酸ナトリウム(NanH2PnO3n+1(n≧20)または(n<20))をイチゴ加工品に添加することを特徴とする変色防止方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イチゴ加工品に重合リン酸塩を添加することを特徴とするイチゴ加工品の変色防止方法。
【請求項2】
重合リン酸塩がウルトラリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウムから選ばれた1種または2種である請求項1に記載のイチゴ加工品の変色防止方法。
【請求項3】
ウルトラリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウムの添加量が0.01質量%~50質量%、好ましくは0.05質量%~10質量%、より好ましくは0.5質量%~1.0質量%である請求項1~2に記載のイチゴ加工品の変色防止方法。
【請求項4】
NanH2PnO3n+1で表されるメタリン酸ナトリウムのうちn≧14、好ましくはn≧20であることを特徴とする、請求項1~3記載のイチゴ加工品の変色防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イチゴ加工品の変色防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界の食料廃棄量は年間約13億トンであり、これは人の消費のために生産された食料のおおよそ1/3にあたる(2011年:国際連合食糧農業機関調べ)。日本国内においても食品廃棄物等は、年間2550万トンであり、うち食品ロス(本来食べることができるにもかかわらず、味や見た目、匂いなどに問題があり、食べずに捨てられてしまう食品)は612万トンとされている(2017年推計:農林水産省・環境省調べ、FAQ、総務省人口推計調べ)。例えば、スーパーに陳列しているイチゴもしくはイチゴ加工食品(例えばイチゴジュースやイチゴ果肉入り飲料等)は、鮮やかな見た目をしているものは美味しそうに見えるため購入されやすいが、時間経過により変色し見た目が悪くなったものは賞味期限内であっても美味しくなさそうに見えるので購入されにくく、結果廃棄となってしまう。
【0003】
イチゴ加工品の変色は、イチゴに含まれるアスコルビン酸が光や熱によって酸化され生成されたデヒドロアスコルビン酸がアントシアン系の赤色色素を酸化分解されることで起こると報告されている(非特許文献1)。
【0004】
果実や野菜の変色を防止する技術は様々提案されている。特許文献1には野菜、果実類の変色防止剤として有機酸塩類(例えばL-アスコルビン酸ナトリウムやクエン酸ナトリウム等)に有機酸類(例えばクエン酸や酒石酸等)またはリン酸塩を使用する技術が開示されている。しかしこの方法では、有機酸塩および有機酸による風味への影響または添加したアスコルビン酸が熱や光等で酸化され、生成された酸化物が色調へ影響を与える等の問題がある。
【0005】
特許文献2にはイチゴ果肉・果汁の変色防止方法としてヒドロキシシナミック酸エステル加水分解酵素を添加する技術が開示されている。しかしこの方法では、風味への影響等の問題がある。
【0006】
特許文献3にはイチゴなどの果実蔬菜類をアンモニウムミョウバンの溶液中に浸漬する技術が開示されている。しかしこの方法ではアルミニウム摂取による健康面への影響等に問題があることやメタリン酸ナトリウムの重合度について言及されていないため、重合度の異なるメタリン酸ナトリウムを使用した場合想定した変色防止効果が発揮されない可能性がある等の問題がある。
【先行技術文献】
【0007】
【特許文献1】特開平03-277230
【特許文献2】特開昭60-221066
【特許文献3】特開昭59-140832
【0008】
【非特許文献1】中林敏郎、食品加工におけるポリフェノール成分の制御、日本食品工業学会誌、1977年、第24巻、10号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような従来の技術では、風味や色調への影響があること、健康面への影響がでること、想定した変色防止効果が発揮されない可能性があること等の問題があった。このような背景から、風味、色調や健康への影響が少なく、イチゴ加工品に対して使用できる変色防止方法が所望されてきた。そこで本発明は、イチゴ加工品の変色を防止し、イチゴ由来の鮮やかな外観を保つ変色防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、特定の重合リン酸塩を添加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、イチゴ加工品の変色を防止し、イチゴ由来の鮮やかな外観を長期間保持することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で用いるリン酸塩がウルトラリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウムから選ばれる1種または2種であり、NanH2PnO3n+1で表されるメタリン酸ナトリウムのうち、n≧14、好ましくはn≧20であることを特徴とする。
【0013】
本発明の重合リン酸塩をイチゴ加工品に添加する場合に含まれる重合リン酸塩は0.01質量%~50質量%が好ましく、0.1質量%~10質量%がより好ましく、0.5質量%~1.0質量%が最も好ましい。
【0014】
本発明が適用されるイチゴ加工品としては、カット品、ピューレ、ジャム、お酒、ゼリー、パン、ケーキ、クリーム、シャーベット、ヨーグルト、ドレッシング、調味酢等があるがこれらに限定されるものではなく、イチゴに何らかの加工を加えたものであればよい。また、本発明のイチゴ加工品の変色防止方法はイチゴに限定されるものではなく、アントシアン系の色素がアスコルビン酸の酸化物により酸化分解され変色を起こす青果物(例えば、カシス、ブルーベリー、パッションフルーツ、キイチゴ等)などであればいずれも対象とすることができる。
【0015】
本発明の変色防止方法は、イチゴ加工品に添加する方法に限定されるものではなく、カットや粉砕等の加工を行う前にイチゴを重合リン酸塩溶液で処理(浸漬、塗布、噴霧)してもよい。
【0016】
本発明においては、増粘安定剤、日持ち向上剤、保存料等を組み合わせて使用してもよい。ここで具体的には、増粘安定剤とは例えばグアーガムまたはキサンタンガム等から選ばれた1種以上であり、日持ち向上剤とは例えばグリシンまたは酢酸ナトリウム等から選ばれた1種以上であり、保存料とは例えば安息香酸またはソルビン酸等である。
【0017】
以下、実験例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実験例に何ら限定されるものではない。
【実験例】
【0018】
[実施例1~6、比較例1~9]
クッキングミキサーでイチゴを滑らかになるまで攪拌しイチゴ果汁を得た。このイチゴ果汁にウルトラリン酸ナトリウム(NaxHy(PO3)(x+y)(x,y≧1))、メタリン酸ナトリウム(NanH2PnO3n+1(n≧20))(以下、メタリン酸ナトリウム(n≧20)とする)、メタリン酸ナトリウム(NanH2PnO3n+1(n<20))(以下、メタリン酸ナトリウム(n<20)とする)、L-アスコルビン酸をそれぞれ表1に示す割合で添加し、室温で2週間静置した。1週間静置後および2週間静置後のイチゴ果汁の変色度合から変色防止効果を評価した。(実施例1~6、比較例1~9)。
【0019】
【0020】
結果を表2に示す。
<評価基準>
◎・・・添加直後と比較して変化がなくイチゴの鮮やかな赤色を保持している。
○・・・添加直後と比較するとイチゴの鮮やかな赤色をやや保持している。
△・・・添加直後と比較するとイチゴの鮮やかな赤色はやや失われている。
×・・・添加直後と比較するとイチゴの鮮やかな赤色はほとんど失われている。
【0021】
【0022】
ウルトラリン酸ナトリウムを添加したイチゴ果汁(実施例1~2)およびメタリン酸ナトリウム(n≧20)を添加したイチゴ果汁(実施例3~4)の外観は1週間後、2週間後もイチゴの鮮やかな赤色を保持していた。メタリン酸ナトリウム(n<20)を添加したイチゴ果汁(実施例5~6)の外観は、1週間後はイチゴの鮮やかな赤色を保持していた。2週間後は添加直後と比較するとイチゴの鮮やかな赤色をやや保持していた。無添加(比較例1)およびL-アスコルビン酸を添加したイチゴ果汁(比較例2~3)では、1週間後は添加直後と比較するとイチゴの鮮やかな赤色をやや保持していた。2週間後は添加直後と比較するとイチゴの鮮やかな赤色はほとんど失われていた。L-アスコルビン酸とウルトラリン酸ナトリウムを添加したイチゴ果汁(比較例4~5)およびL-アスコルビン酸とメタリン酸ナトリウム(n≧20)を添加したイチゴ果汁(比較例6~7)の外観は、1週間後はイチゴの鮮やかな赤色を保持していたが、2週間後は添加直後と比較するとイチゴの鮮やかな赤色はやや失われていた。L-アスコルビン酸とメタリン酸ナトリウム(n<20)を添加したイチゴ果汁(比較例8~9)の外観は、1週間後は添加直後と比較するとイチゴの鮮やかな赤色をやや保持していた。2週間後は添加直後と比較するとイチゴの鮮やかな赤色はほとんど失われていた。単独使用で変色防止効果の高かったウルトラリン酸ナトリウムおよびメタリン酸ナトリウム(n≧20)とL-アスコルビン酸の組合せでも変色を防止できなかった理由として添加したL-アスコルビン酸が熱や光等で酸化され生成された酸化物が変色を助長したためと推定される。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、イチゴ加工品の変色を防止することができ、食品ロスの削減にとって大変有用である。