(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091085
(43)【公開日】2023-06-29
(54)【発明の名称】粘膜アジュバント
(51)【国際特許分類】
A61K 39/39 20060101AFI20230622BHJP
A61K 39/145 20060101ALI20230622BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20230622BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20230622BHJP
【FI】
A61K39/39
A61K39/145
A61P31/16
A61P37/04
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080216
(22)【出願日】2023-05-15
(62)【分割の表示】P 2018181040の分割
【原出願日】2018-09-26
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三隅 将吾
(72)【発明者】
【氏名】岸本 直樹
(72)【発明者】
【氏名】三股 亮大郎
(72)【発明者】
【氏名】中田 渚
(72)【発明者】
【氏名】五反田 卓摩
(57)【要約】
【課題】粘膜免疫原性が高く且つ安全性が高い粘膜ワクチンの調製に有用な粘膜アジュバ
ント、及びそれを含む粘膜ワクチン組成物を提供する。
【解決手段】TGDKからなる粘膜アジュバント。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TGDKからなる粘膜アジュバント。
【請求項2】
TGDK及び薬学的に許容される担体を含有する粘膜アジュバント組成物。
【請求項3】
請求項1記載の粘膜アジュバント及び免疫原を含有する粘膜ワクチン組成物。
【請求項4】
免疫原がインフルエンザウイルスの全粒子又はスプリット抗原である、請求項3記載の
粘膜ワクチン組成物。
【請求項5】
TGDKと免疫原を混合することを特徴とする請求項3又は4記載の粘膜ワクチン組成
物の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原の粘膜免疫誘導を増強する、粘膜アジュバントに関する。
【背景技術】
【0002】
粘膜ワクチンは、抗原を経鼻等の経粘膜で投与することにより粘膜局所の免疫と全身性
の免疫応答をいずれも惹起し、これにより病原体に対して2重の防衛線を構築できる。一
方で、粘膜ワクチンとして実用されているものは感染性を有する生ワクチン若しくは粘膜
親和性を有する特殊な毒素を抗原としたワクチンであり、その他の不活化抗原は単独の投
与では十分な免疫を誘導することができず、アジュバント等の組み合わせが必要となる。
【0003】
粘膜ワクチンで十分な免疫を惹起するための方法として、従来は感染性を有する弱毒化
した病原体が用いられてきた。しかし、弱毒生ワクチンは感染性を有するため、副反応が
強く、例えば経口生ポリオワクチンのポリオワクチン関連性麻痺は稀だが不可避の副反応
であり、ワクチン株の神経毒性復帰により発症するといわれている。したがって、粘膜ワ
クチンにおいても安全性の高い不活化抗原を使用するべきであるが、特殊な毒素等の抗原
を除いては、経粘膜の投与で十分な免疫を付与することが難しい。これを改善するために
粘膜アジュバントの添加が考えられ、コレラ毒素や毒素原性大腸菌の易熱性毒素(LT)
が代表的な粘膜アジュバントとして知られている(非特許文献1-2)。
【0004】
しかし、過去の臨床試験においてLTの経鼻投与により顔面神経麻痺(ベル麻痺)が起
き、毒素そのものをアジュバントとして使用することは安全性の面で問題があると認識さ
れている。また、その他にも二本鎖RNA(polyI:C)(特許文献1)も粘膜アジ
ュバント活性を有するが、炎症やサイトカイン血症の誘発のため未だ実用に至っていない
。
【0005】
最近の我が国における経鼻投与インフルエンザワクチンの開発では、市販されるインフ
ルエンザHAワクチンの抗原であるスプリット抗原ではなく、より免疫原性の高い不活化
全粒子を抗原として臨床試験が行われている(非特許文献3)。これはスプリット抗原で
は経粘膜投与で十分な免疫応答を誘導できないためであるが、不活化全粒子抗原では皮下
投与において特に小児で副反応の問題(投与部位の局所反応及び発熱)があり現在は市場
に流通していない。したがって、安全性の高いスプリット抗原で不活化全粒子抗原と同程
度の免疫誘導を達成することが望まれている。
【0006】
Tetragalloyl‐D‐Lysine Dendrimer(TGDK)は、
粘膜に存在する抗原取り込み細胞であるMicrofold cell(M細胞)に特異
的に結合する分子である(非特許文献4)。したがって、TGDKを抗原等に化学結合さ
せることで、ワクチン抗原をM細胞へ効率的にデリバリーすることが可能となり、免疫応
答を向上させることができる。例えば特許文献2には、TGDK-CH2-CH2-NH
2が、ペプチド結合又はシッフベース等を介して、ペプチド、タンパク質、脂質、ポリエ
チレングリコール類又は糖と結合することにより、腸管免疫賦活剤として使用できること
が開示されている。また、特許文献3には、Hub抗原とTGDKとフェツインとの共有
結合体がHIV/AIDSの分子擬態粘膜ワクチンとなり得ることが開示されている。
【0007】
しかしながら、TGDK分子自体が、粘膜アジュバント活性を有することは全く知られ
ていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005-97267号公報
【特許文献2】国際公開第2007/052641号
【特許文献3】国際公開第2013/024859号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Xu-Amano, J., H. Kiyono, R. J. Jackson, H. F. Staats, K. Fujihashi, P. D. Burrows, C. O. Elson, S. Pillai, J. R. McGhee. 1993. Helper T cell subsets for immunoglobulin A responses: oral immunization with tetanus toxoid and cholera toxin as adjuvant selectively induces Th2 cells in mucosa associated tissues. J. Exp. Med. 1993;178(4): 1309-20
【非特許文献2】Takahashi, I., M. Marinaro, H. Kiyono, R. J. Jackson, I. Nakagawa, K. Fujihashi, S. Hamada, J. D. Clements, K. L. Bost, J. R. McGhee. 1996. Mechanisms for mucosal immunogenicity and adjuvancy of Escherichia coli labile enterotoxin. J. Infect. Dis. 1996;173(3): 627-35
【非特許文献3】Ainai A, Tamura S, Suzuki T, van Riet E, Ito R, Odagiri T, et al. Intranasal vaccination with an inactivated whole influenza virus vaccine induces strong antibody responses in serum and nasal mucus of healthy adults. Human vaccines & immunotherapeutics. 2013;9(9):1962-70.
【非特許文献4】Misumi S, Masuyama M, Takamune N, et al. Targeted Delivery of Immunogen to Primate M Cells with Tetragalloyl Lysine Dendrimer Journal of Immunology, 2009;182(10):6061-6070
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、粘膜免疫原性が高く且つ安全性が高い粘膜ワクチンの調製に有用な粘膜アジ
ュバント、及びそれを含む粘膜ワクチン組成物を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に鑑み検討したところ、従来、ワクチン抗原に化学結合させ当
該抗原をM細胞へデリバリーするために使用されていたTGDKが、意外にもそれ自体で
アジュバント活性を有し、抗原の粘膜免疫誘導能を増強できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は以下の1)~5)に係るものである。
1)TGDKからなる粘膜アジュバント。
2)TGDK及び薬学的に許容される担体を含有する粘膜アジュバント組成物。
3)1)の粘膜アジュバント及び免疫原を含有する粘膜ワクチン組成物。
4)免疫原がインフルエンザウイルスの全粒子又はスプリット抗原である、3)の粘膜
ワクチン組成物。
5)TGDKと免疫原を混合することを特徴とする3)又は4)の粘膜ワクチン組成物
の調製方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の粘膜アジュバントによれば、安全な不活化抗原を用いた粘膜ワクチンの調製が
可能となる。例えば、現在流通するインフルエンザHAワクチンのように、より安全性の
高いスプリット抗原を用いた粘膜ワクチンを提供することができ、予防薬として医薬品産
業に大きく貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】スプリット抗原投与群のA/California/07/2009株特異的IgG抗体価。
【
図2】スプリット抗原投与群のB/Texas/2/2013株特異的IgG抗体価。
【
図3】不活化全粒子抗原投与群のA/California/07/2009株特異的IgG抗体価。
【
図4】不活化全粒子抗原投与群のB/Texas/2/2013株特異的IgG抗体価。
【
図5】B/Texas/2/2013株特異的IgG1及びIgG2a抗体価の各群における幾何平均値。
【
図6】A/California/07/2009株特異的IgG抗体価。
【
図7】B/Texas/2/2013株特異的IgG抗体価。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明において、「TGDK」とは、Tetragalloyl‐D‐Lysine
Dendrimerの略語であり、N2,N6-ビス[N2,N6-ビス(3,4,5-
トリヒドロキシベンゾイル)-リシル]-N-(2-アミノエチル)-リジンアミドを指
す。TGDKは、粘膜に存在する抗原取り込み細胞であるM細胞の標的分子として知られ
ている。
TGDKは、例えば、Gallic acidとD-Lysineを用いてtetra
galloyl-D-trilysinyl diethylamine固層法を用いて
製造することができる(前記非特許文献4参照)。
【0016】
後記実施例に示すように、インフルエンザワクチン株(スプリット抗原/不活化全粒子
抗原)とTGDKを混合して調製したワクチン組成物をマウスに粘膜投与した場合に誘導
される、当該抗原に特異的に結合するIgGの力価は、TGDK非添加群に対して有意に
高くなる。またスプリット抗原にTGDKを添加して免疫誘導した場合、不活化全粒子抗
原のみを用いて免疫誘導した場合と同程度のIgG力価が得られる。そして、IgG1及
びIgG2aの幾何平均抗体価(GMT)をみると、インフルエンザウイルスに対する感
染防御能に優れるIgG2aが顕著に上昇する。
【0017】
すなわち、TGDKには、免疫原(抗原)を粘膜投与する場合において、抗体誘導能を
高める粘膜アジュバント活性があり、よって、TGDKは粘膜アジュバントとなり、また
TGDKと薬学上許容される担体を含む組成物は粘膜アジュバント組成物になり得る。ま
た、TGDKは粘膜アジュバント又は粘膜アジュバント組成物を製造するために使用でき
る。
【0018】
本発明において、「粘膜アジュバント」とは、免疫原を粘膜投与する場合において、免
疫原に対する免疫応答を増加させる物質を意味する。
ここで、「粘膜投与」とは、粘膜を経由する投与形態をいい、「粘膜」とは、脊椎動物
において、消化器、呼吸器、泌尿生殖器、眼等、特に外通性の中腔器官の内壁をいう。従
って、そのような粘膜投与としては、例えば、鼻腔投与(経鼻投与)、口腔投与、膣内投
与、上気道投与、肺胞投与、点眼投与等が挙げられるがそれらに限定されない。
【0019】
本発明の粘膜アジュバント又は粘膜アジュバント組成物は、免疫原と組み合わせて粘膜
投与することができ、投与は免疫原の投与と同時であっても、免疫原の投与の前又は後で
あっても良い。
本発明の粘膜アジュバント又は粘膜アジュバント組成物の投与量は、投与対象、投与方
法、投与形態、抗原物質の種類に応じて適宜決定することができる。
【0020】
本発明の粘膜アジュバントは、免疫原と組み合わせて、粘膜ワクチン組成物とすること
ができる。本発明の粘膜ワクチン組成物は、免疫原とTGDKを混合することにより調製
でき、さらに薬学的に許容される担体を適宜添加して適当な製剤にすることができる。本
発明の粘膜ワクチン組成物において、TGDKは、免疫原その他の成分と化学的結合状態
にあることはなく、遊離の分子状態で存在する。
【0021】
「免疫原」(抗原)としては、経粘膜感染病原体(例えば、ウイルス又は病原細菌等)
又は当該病原体から精製された天然の産生物、又は遺伝子組換等の手法により人為的に作
製されたタンパク質、ペプチド、多糖類、具体的には、完全ウイルス粒子であるビリオン
、不完全ウイルス粒子、ビリオン構成粒子、ウイルス非構造タンパク質、病原菌由来のタ
ンパク質もしくは糖タンパク質、感染防御抗原、中和反応のエピトープ等が挙げられ、感
染能を有するものと感染能を喪失させた(不活化抗原)ものとが含まれる。不活化抗原と
しては、例えば、物理的(例えば、X線照射、熱、超音波)、化学的(ホルマリン、水銀
、アルコール、塩素)等の操作により不活化されたものが挙げられるがそれらに限定され
ない。経粘膜感染病原体由来の免疫原は、安全性の観点から、上記ウイルス又は病原菌由
来の不活化抗原であることが望ましい。
【0022】
ウイルスとしては、例えば水痘ウイルス、麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、ポリオウ
イルス、ロタウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、
重症急性呼吸器感染症候群(SARS)ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒ
トパピローマウイルス、風疹ウイルス等が挙げられ、好ましくはインフルエンザウイルス
又はヒト免疫不全ウイルスであり、より好ましくはインフルエンザウイルスである。イン
フルエンザウイルスは、全粒子ウイルスを使用することもできるが、本発明においては、
ウイルスの粒子を解裂し、エンベロープ中の脂質を除去したスプリット抗原を用いること
ができる。
【0023】
病原菌としては、百日咳菌、髄膜炎菌、インフルエンザb型菌、肺炎球菌、結核菌、コ
レラ菌、ジフテリア菌等が挙げられる。
【0024】
粘膜ワクチン組成物の剤型としては、例えば、液剤、懸濁剤、粉末剤等が挙げられる。
液剤としては、精製水、緩衝液等に溶解したもの等が挙げられる。懸濁剤としては、メ
チルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、カゼ
イン等と共に精製水、緩衝液等に懸濁させたもの等が挙げられる。粉末剤としては、メチ
ルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等と
ともによく混合したもの等が挙げられる。
これらの製剤には、通常使用されている吸収促進剤、界面活性剤、保存剤、安定化剤、
防湿剤、保湿剤、溶解剤等を必要に応じて添加することができる。
【0025】
なお、本発明の粘膜ワクチン組成物には、当該ワクチンの免疫原性及び安全性を害さな
い限りにおいて、TGDK以外のアジュバントを含有することもできる。
【0026】
本発明の粘膜ワクチン組成物に含まれる免疫原の量は、抗原特異的IgGを産生するのに
十分な量であれば特に限定されるものではなく、併用するTGDKとの比率も勘案して適
宜設定することができる。例えば、抗原としてインフルエンザウイルスのスプリット抗原
を用いた場合、1回の投与用量である1~60μg HA(HA換算)の範囲内で含有す
ればよく、9~15μg HA(HA換算)がより好ましい。前記濃度は、HAタンパク
質の濃度を一元放射免疫拡散試験法やHA含量法等の、WHOや国の基準で定められた試
験法で測定することにより得られる値である。
【0027】
また、粘膜ワクチン組成物におけるTGDKの含有量は、抗体力価を考慮して適宜調整
可能であるが、例えば1回の投与用量である0.03~30μgの範囲内で含有すればよ
く、0.03~0.3μgがより好ましい。
【0028】
本発明のワクチン組成物の投与経路は特に限定されず、経口投与でも非経口投与(例え
ば鼻腔投与、点眼投与)でもよく、例えば、鼻腔内又は口腔内に滴下、噴霧又はスプレー
することにより投与される。
【0029】
本発明のアジュバンド組成物又はワクチン組成物の投与対象は、ヒト及びヒトを除く哺
乳動物が挙げられるが、ヒトが好ましい。ヒトを除く哺乳動物としては、例えば、マウス
、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、イヌ、
ネコ、サル、オランウータン、チンパンジー等が挙げられる。
【実施例0030】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限
定されるものではない。
【0031】
実施例1
(1)インフルエンザHAワクチン「生研」のA/H1N1亜型(A/Californ
ia/07/2009株)及びB/Yamagata系統(B/Texas/2/201
3株)の各原液をスプリット抗原とし、10μL当りに各株のヘムアグルチニンが1μg
となるよう各スプリット抗原を混合し、併せてTGDKを終濃度で0.03~30μg/
10μLとなるよう添加した。また、対照としてアジュバント非添加の投与液及びTGD
Kは3分子のリジンで形成される骨格の一級アミンに没食子酸(Gallic acid
)を4分子結合したものであるため、TGDKの対照としてGallic acidを3
0μg/10μLとなるよう添加した投与液も併せて調製した(表1)。また、スプリッ
ト抗原と同様にA/H1N1亜型(A/California/07/2009株)及び
B/Yamagata系統(B/Texas/2/2013株)の不活化全粒子抗原を1
0μL当りに各株のヘムアグルチニンが1μgとなるよう混合し、併せてTGDKが0.
03若しくは0.3μg、Gallic acidが30μgとなるように各不活化全粒
子抗原の投与液を調製した(表1)。
【0032】
本実施例で使用した不活化全粒子抗原の調製は以下に記す通りである。12日齢の発育
鶏卵のしょう尿膜腔内に接種して、2日間培養後にしょう尿液を採取した。採取したしょ
う尿液をフィルターろ過で清澄化した後、硫酸バリウム塩に吸着させ、12%クエン酸ナ
トリウム溶液で溶出してインフルエンザウイルスを回収した。回収したウイルスは、更に
限外ろ過で6.7mMリン酸緩衝生理食塩液(pH7.2)に置換し、バッファー置換後
にしょ糖密度勾配遠心でインフルエンザウイルスを含む画分を回収することによって精製
した。この精製インフルエンザウイルスに終濃度0.05%となるように不活化剤である
ベータプロピオラクトンを添加して、4℃、24時間の反応でインフルエンザウイルスの
感染性を不活化させた。この不活化反応後に限外ろ過(MWCO:100,000)でバ
ッファーを1w/w%しょ糖含有6.7mMリン酸緩衝生理食塩液(pH7.2)に置換
し、これを不活化全粒子ワクチンとした。
【0033】
(2)上記の通りに調製した投与液(表1)を、3週間隔で2回、BALB/cマウス(
雌、5週齢)へ片鼻5μL(合計10μL)投与し(各群8匹)、2回目投与から2週間
後に全採血した。遠心分離により血清を調製し、血清のA/California/07
/2009株及びB/Texas/2/2013株に特異的に結合するIgG(Tota
l IgG)力価を測定した。また、IgGサブクラスであるIgG1及びIgG2aの
各力価は、スプリット抗原及び不活化全粒子抗原のアジュバント非添加群及びTGDK0
.3μg添加群の血清についてB/Texas/2/2013株に特異的な抗体価を測定
した。
【0034】
【0035】
(3)スプリット抗原投与群(A~F)及びアジュバント非添加の不活化全粒子抗原投与
群(G)のIgG力価は
図1及び2に示す通りである。スプリット抗原にTGDKを投与
当り0.03~30μg添加することで血中の抗原特異的なIgG力価は、いずれの株に
おいてもアジュバント非添加に対して高くなり、不活化全粒子抗原と同程度となった。特
に、A/California/07/2009株に対するIgG力価はTGDKを0.
03~0.3μg添加した群、B/Texas/2/2013株に対するIgG力価はT
GDKを0.03~3μg添加した群においては、アジュバント非添加に対して有意に高
いIgG力価を示した(マン・ホイットニーのU検定、p<0.05)。また、スプリッ
ト抗原にGallic acidを添加した場合、A/California/07/2
009株に対するIgG力価はアジュバント非添加と同程度であり、B/Texas/2
/2013株に対するIgG力価はアジュバント非添加に対して有意に低下した。ポリフ
ェノールは抗酸化作用や免疫を賦活する効果を有しているといわれているが、本実施例に
おいては単分子の没食子酸に抗体誘導を高めるアジュバント活性は無く、3分子のリジン
で形成される骨格の一級アミンにGallic acidを4分子結合したTGDKの構
造がアジュバント活性発揮に重要であると考えられた。
【0036】
次に、不活化全粒子抗原投与群(H~J)の結果を
図3及び4に示すが、スプリット抗
原と同様に、不活化全粒子抗原へTGDKを投与当たり0.03若しくは0.3μg添加
することによりいずれの株に対するIgG力価も向上し、Gallic acidの添加
ではA/California/07/2009株に対するIgG力価はアジュバント非
添加群と同程度、B/Texas/2/2013株に対するIgG力価は低下することが
わかった。したがって、スプリット抗原と同様の結果が不活化全粒子抗原でも得られたが
、不活化全粒子抗原ではTGDKの添加によるIgG力価向上の効果がスプリット抗原に
比べて小さい。これは、不活化全粒子抗原自体の免疫原性が高いためであるが、免疫原性
の異なる2種類の抗原(スプリット抗原及び不活化全粒子抗原)のいずれにおいてもTG
DKは経鼻投与におけるアジュバント活性を発揮することが確認できた。
【0037】
また、
図5に各群のIgG1及びIgG2aの幾何平均抗体価(GMT)を示すが、ス
プリット抗原及び不活化全粒子抗原のいずれにおいてもIgG2aがTGDKの添加によ
り顕著に上昇していることがわかる。Th1型の応答によって誘導されるIgG2aは、
Th2型の応答によって誘導されるIgG1よりもインフルエンザウイルスに対する感染
防御能に優れているため、TGDKの添加によって有効性が更に向上することが期待され
る。
【0038】
参考例1
(1)実施例1と同様の抗原を用いて、表2の試験群で皮下投与におけるTGDKのアジ
ュバント活性を評価した。本評価では皮下投与のアジュバントとして実績のあるAlm(
Thermo Fisher Scientific社製、Imject Alum)を
対照として加えた。
【0039】
【0040】
(2)A/California/07/2009株に対するIgG力価を
図6、B/T
exas/2/2013株に対するIgG力価を
図7に示すが、いずれの株に対してもス
プリット抗原の単独投与に対してTGDKを添加した群は同程度のIgG力価であり、ア
ジュバント活性は確認されなかった。一方で、Alm及び不活化全粒子投与群(WV)で
は、スプリット抗原の単独投与よりも高いIgG力価を示した。なお、皮下投与において
はGallic acidの添加群はいずれの株においてもスプリット抗原の単独投与群
と同程度のIgG力価であり、Gallic acid誘導体のTGDK及びGalli
c acidのいずれも皮下投与においてアジュバント活性を有していなかった。