(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091190
(43)【公開日】2023-06-30
(54)【発明の名称】医療画像診断支援装置、医療画像診断支援方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20230623BHJP
【FI】
A61B5/055 380
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021205803
(22)【出願日】2021-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】弁理士法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 大介
(72)【発明者】
【氏名】長坂 晃朗
(72)【発明者】
【氏名】稲田 圭介
(72)【発明者】
【氏名】望月 祐志
(72)【発明者】
【氏名】森田 秀和
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AA03
4C096AB44
4C096AC01
4C096AD14
4C096DA14
4C096DC16
4C096DC20
4C096DC21
4C096DC36
4C096DC40
(57)【要約】
【課題】患者の負担を軽減させつつ、疾患の程度を判定することが可能な医療画像診断支援装置を提供すること。
【解決手段】前処理部22は、3次元脳画像のサイズが閾値になるように、3次元脳画像をリサイズする。モデル構築部23は、リサイズした学習用の3次元脳画像を学習用データとして用いた機械学習を行い、3次元脳画像から対象疾患に罹患している確率である疾患確率を判定する識別モデルを構築する。判定部24は、推論対象者の脳を示すリサイズした3次元脳画像である推論対象画像を学習済みモデルに入力して、推論対象者の疾患確率を判定する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳を示す3次元脳画像を用いて脳に関する所定の対象疾患の判定を支援する医療画像診断支援装置であって、
前記3次元脳画像のサイズが閾値になるように、前記3次元脳画像をリサイズした処理済画像を生成する前処理部と、
学習対象者の脳を示す複数の前記処理済画像を学習用データとして用いた機械学習を行い、前記処理済画像から前記対象疾患に罹患している確率である疾患確率を判定する学習済みモデルを構築するモデル構築部と、
推論対象者の脳を示す前記処理済画像である推論対象画像を前記学習済みモデルに入力して、前記推論対象者の前記疾患確率を判定する判定部と、を有する医療画像診断支援装置。
【請求項2】
前記3次元脳画像は、互いに異なる3方向に画素が配列された画像であり、
前記サイズは、各方向のサイズである、請求項1に記載の医療画像診断支援装置。
【請求項3】
前記前処理部は、数値補間法を用いて、前記3次元脳画像をリサイズする、請求項1に記載の医療画像診断支援装置。
【請求項4】
前記前処理部は、非線形関数を用いた数値補間法を用いて、前記3次元脳画像をリサイズする、請求項2に記載の医療画像診断支援装置。
【請求項5】
前記前処理部は、前記3次元脳画像の各方向のサイズが閾値となるように、前記3次元脳画像をリサイズする、請求項2に記載の医療画像診断支援装置。
【請求項6】
各方向に対応する前記閾値が互いに異なる、請求項5に記載の医療画像診断支援装置。
【請求項7】
前記推論対象画像における前記学習済みモデルにて前記疾患確率の算出に使用された領域である識別根拠領域を特定する可視化部をさらに有する、請求項1に記載の医療画像診断支援装置。
【請求項8】
前記モデル構築部は、3D-CNN(Three-Dimensional-Convolutional Neural Network)を用いて前記機械学習を行う、請求項1に記載の医療画像診断支援装置。
【請求項9】
脳を示す3次元脳画像を用いて脳に関する所定の対象疾患の判定を支援する医療画像診断支援装置による医療画像診断支援方法であって、
前記3次元脳画像のサイズが所定の値になるように、前記3次元脳画像をリサイズした処理済画像を生成し、
学習対象者の脳を示す複数の前記処理済画像を学習用データとして用いた機械学習を行い、前記処理済画像から前記対象疾患に罹患している確率である疾患確率を判定する学習済みモデルを構築し、
推論対象者の脳を示す前記処理済画像である推論対象画像を前記学習済みモデルに入力して、前記推論対象者の前記疾患確率を判定する、医療画像診断支援方法。
【請求項10】
脳を示す3次元脳画像を用いて脳に関する所定の対象疾患の判定を支援するプログラムであって、
前記3次元脳画像のサイズが所定の値になるように、前記3次元脳画像をリサイズした処理済画像を生成する手順と、
学習対象者の脳を示す複数の前記処理済画像を学習用データとして用いた機械学習を行い、前記処理済画像から前記対象疾患に罹患している確率である疾患確率を判定する学習済みモデルを構築する手順と、
推論対象者の脳を示す前記処理済画像である推論対象画像を前記学習済みモデルに入力して、前記推論対象者の前記疾患確率を判定する手順と、をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、医療画像診断支援装置、医療画像診断支援方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
精神疾患は、他の多くの身体疾患と異なり、治療者と当事者らとの間で共有できる客観的な指標に乏しい。このため、疾患の有無、治療法の決定方法、疾患の改善の有無、及び、治療期間などを治療者が当事者らに客観的に説明することが難しく、治療の遅延又は中断が発生するなどの問題がある。
【0003】
また、近年、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置及びCT(Computed Tomography)装置などの医療機器の発展により、高解像度の医用画像を用いた画像診断が可能となっている。これにより、例えば、精神疾患の一種である統合失調症の疾患者では、両側の海馬、扁桃体、視床及び側坐核などの体積及び頭蓋内容積が健常体より減少することが示唆されている。また、同様に、精神疾患の一種であるアルツハイマー病の疾患者では、海馬周辺領域が顕著に委縮することが知られおり、脳のMRI画像を解析してアルツハイマー病を診断する早期アルツハイマー病診断補助ツールとして、VSRAD(Voxel-based Specific Regional analysis system for Alzheimer’s Disease)が開発されている。
【0004】
MRI画像は、脳などの撮像対象を断層(スライス)ごとに撮像した複数の2次元画像データを立体的に重ねた3次元画像データである。このような3次元画像データを用いた診断技術として、特許文献1には、3次元画像データから脳出血部位の可能性がある領域である出血発症候補領域を抽出し、その出血発症候補領域を解析して、出血の有無を判定する技術が開示されている。また、非特許文献1には、脳の3次元画像データの各断層の2次元画像データであるスライス画像を個別に処理することで、脳の疾患を判別する技術が開示されている。この技術では、各スライス画像から医学的に疾患との相関があると考えられている皮質厚などの特徴量を抽出し、その特徴量を線形分類器により分類することで疾患の有無を判別している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】W.Yassin, H.Nakatani, Y.Zhu, M.Kojima, K.Owada, H.Kuwabara, W.Gonoi, Y.Aoki, H.Takao, T.Natsubori, N.Iwashiro, K.Kasai, Y.Kano, O.Abe, H.Yamasue, and S.Koike, “Machine-learning classification using neuroimaging data in schizophrenia, autism, ultra-high risk and first-episode psychosis, “Translational Psychiatry, vol.10, no.278, pp.1-11, 2020.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
統合失調症のような精神疾患は、疾患の有無を明確に区別しづらいため、疾患の程度を判定することが重要となる。しかしながら、特許文献1に記載されている技術では、出血の有無が判別されるだけであるため、精神疾患に対して適用することが難しい。また、非特許文献1に記載の技術でも、線形分類器を用いて疾患の有無が判別されているだけであるため、特許文献1で記載されている技術と同様に精神疾患に対して適用することが難しい。
【0008】
また、MRI画像を用いた画像診断では、精度良く疾患を判定するためには、高解像度の画像データが必要となるが、解像度を高くするほど、撮像時間が増加し、患者の負担が増えるという問題もある。
【0009】
本開示は、上記の課題を鑑みてなされたものであり、患者の負担を軽減させつつ、疾患の程度を判定することが可能な医療画像診断支援装置、医療画像診断支援方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一態様に従う医療画像診断支援装置は、脳を示す3次元脳画像を用いて脳に関する所定の対象疾患の判定を支援する医療画像診断支援装置であって、前記3次元脳画像のサイズが閾値になるように、前記3次元脳画像をリサイズした処理済画像を生成する前処理部と、学習対象者の脳を示す複数の前記処理済画像を学習用データとして用いた機械学習を行い、前記処理済画像から前記対象疾患に罹患している確率である疾患確率を判定する学習済みモデルを構築するモデル構築部と、推論対象者の脳を示す前記処理済画像である推論対象画像を前記学習済みモデルに入力して、前記推論対象者の前記疾患確率を判定する判定部と、を有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、患者の負担を軽減させつつ、疾患の程度を精度良く判定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の実施例による診断支援システムを示す図である。
【
図2】本実施例に係る医療画像処理装置の構成の一例を示す図である。
【
図5】疾患者と疾患確率との対応関係の一例を示す図である。
【
図6】健常体と患確率との対応関係の一例を示す図である。
【
図9】医療画像処理装置による処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。
【実施例0014】
図1は、本開示の実施例に係る診断支援システムを示す図である。
図1に示す診断支援システム100は、医療画像処理装置1と、3次元画像撮像装置2と、画像保管サーバ3とを含む。医療画像処理装置1、3次元画像撮像装置2及び画像保管サーバ3は、ネットワーク4を介して通信可能に相互に接続される。なお、
図1に示した診断支援システム100は、単なる一例であり、例えば、各装置1~3の一部又は全てが一体化されてもよい。また、ネットワーク4は、有線でも無線でもよく、また、各装置1~3は、ネットワーク4を介さずに直接接続されてもよい。
【0015】
医療画像処理装置1は、被検体の診断対象となる診断対象部位を撮像した医療画像を解析して、診断対象部位に関する所定の対象疾患の判定を支援する医療画像診断支援装置である。本実施例では、診断対象部位は脳であり、対象疾患は、統合失調症、アルツハイマー病、発達障害、鬱病、双極性障害、認知症又は知的障害のような精神疾患である。ただし、診断対象部位は脳に限らず、対象疾患は精神疾患に限らない。
【0016】
医療画像処理装置1は、例えば、医療画像処理プログラムをコンピュータにインストールして実行させることで実現される。コンピュータは、診断を行う医師などのユーザが直接操作するワークステーション又はパーソナルコンピュータでもよいし、それらとネットワークを介して接続されたサーバコンピュータでもよい。医療画像処理プログラムは、DVD(Digital Versatile Disc)又はCD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)などの記録媒体に記録されて配布され、その記録媒体からコンピュータにインストールされてもよい。また、医療画像処理プログラムは、ネットワークに接続されたサーバコンピュータの記憶装置、又はネットワーク・ストレージに、外部からアクセス可能な状態で記憶され、要求に応じてユーザが利用するコンピュータにダウンロードされてインストールされてもよい。
【0017】
3次元画像撮像装置2は、診断対象部位を撮像することで、その診断対象部位を示す医療画像を生成する装置である。3次元画像撮像装置2は、例えば、MRI装置、CT装置又はPET(Positron Emission Tomography)装置などであり、医療画像は、診断対象部位を撮像した画像である。本実施例では、3次元画像撮像装置2は、MRI装置である。また、医療画像は、複数種類あってもよい。本実施例では、医療画像は、T1強調画像と、VSRAD用の撮像画像であるVSRAD画像とを含む。T1強調画像は、解剖学的構造を捉えやすく、形態異常を発見しやすいという特徴を有する。また、医療画像は、T1強調画像及びVSRAD画像に限らず、例えば、T2強調画像やFLAIR(Fluid Attenuated Inversion Recovery)画像、DWI(Diffusion Weighted Image)画像、MRA(Magnetic Resonance Angiography)画像、MIP(Maximum Intensity Projection)画像、f-MRI(functional MRI)画像等であってもよい。
【0018】
画像保管サーバ3は、3次元画像撮像装置2にて生成された医療画像を保存する装置である。画像保管サーバ3は、具体的には、各種データを保存して管理するコンピュータ装置であり、大容量外部記憶装置(図示せず)を備えている。画像保管サーバ3は、データベース管理用ソフトウェアを用いて、3次元画像撮像装置2にて生成された医療画像をネットワーク4経由で取得して、大容量外部記憶装置に格納して管理する。なお、医療画像の格納形式及び各装置1~3間の通信形式は、DICOM(Digital Imaging and Communication in Medicine)などのプロトコルに基づいている。
【0019】
図2は、医療画像処理装置1の構成の一例を示す図である。
図1に示す医療画像処理装置1は、標準的なワークステーションの構成として、メモリ11と、ストレージ12と、CPU(Central Processing Unit)13とを有する。また、医療画像処理装置1は、入力部14及び出力部15と接続されている。入力部14は、キーボード及びマウスなどを含み、ユーザから種々の情報を受け付ける。出力部15は、ディスプレイなどの表示部を含み、種々の情報を出力(例えば、表示)する。
【0020】
メモリ11は、CPU13の動作を規定するコンピュータプログラムである医療画像処理プログラム20を記憶する。ストレージ12は、ハードディスクドライブなどを含む。ストレージ12は、ネットワーク4を経由して画像保管サーバ3から取得した医療画像、並びにCPU13にて使用及び生成される種々の情報を記憶する。
【0021】
CPU13は、メモリ11に記憶された医療画像処理プログラム20を読み取り、その読み取った医療画像処理プログラム20を実行して、画像取得部21と、前処理部22と、モデル構築部23と、判定部24と、識別根拠可視化部25と、表示制御部26とを実現するプロセッサである。
【0022】
なお、プロセッサとしては、CPUに限らず、FPGA(Field Programmable Gate Array)のような製造後に回路構成の変更が可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device:PLD)を用いてもよい。また、プロセッサとして、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)のような特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有する専用電気回路などが用いられてもよい。
【0023】
画像取得部21は、画像保管サーバ3から医療画像を取得する。なお、医療画像がストレージ12に保存されている場合には、画像取得部21は、ストレージ12から医療画像を取得してもよい。また、医療画像には、機械学習を行うための学習用データとして用いる学習用医療画像と、機械学習にて構築した学習済みモデルにより対象疾患に係る推論を行う推論用医療画像とがある。学習用医療画像は、診断が完了した被検体である学習対象者の脳を撮像した画像であり、対象疾患に罹患しているか否かを示す正解ラベルが付けられている。推論用医療画像は、対象疾患を判定する推論対象者の脳を写した画像である。
【0024】
前処理部22は、前処理として、医療画像に対して種々の画像処理を行った処理済画像である3次元脳画像を生成する。具体的には、前処理部22は、医療画像を所定の方向に配列された複数のスライス画像にて構成される3次元脳画像に変換する。これにより、3次元脳画像は互いに異なる3方向に画素が配列された画像となる。また、前処理部22は、医療画像を3次元脳画像に変換する過程において、医療画像の正規化、リサイズ及びデータ拡張などの画像処理を実行する。なお、前処理部22による前処理の少なくとも一部が3次元画像撮像装置2などの別の装置で行われてもよい。
【0025】
正規化は、3次元脳画像のボクセル値を所定の規則に従って変換する処理である。本実施例では、前処理部22は、正規化として、3次元脳画像のボクセル値の平均が0、分散が1となるように3次元脳画像のボクセル値を変換する標準化を行う。ただし、前処理部22は、正規化として、3次元脳画像のボクセル値の最小値が0、最大値が1となるように3次元脳画像のボクセル値を変換するMin-Max法による処理を用いてもよい。
【0026】
リサイズは、3次元脳画像のサイズを変換する処理である。本実施例では、サイズは、互いに異なる3方向(X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向)のそれぞれのサイズであり、リサイズは、各方向のサイズが閾値となるように行われる。例えば、前処理部22は、各方向のサイズが閾値よりも少ない場合、その方向に対して数値補間法によるアップサンプリングを行い、各方向のサイズが閾値よりも多い場合、その方向に対して数値補間法によるダウンサンプリングを行うことで、各方向のサイズを閾値に変換する。各方向のサイズに対応する各閾値は、互いに異なっていてもよい。例えば、被検体のZ軸方向の撮像時間の低減が患者の負担の軽減により有効であるため、X軸方向及びY軸方向に対応する閾値を、Z軸方向に対応する閾値を大きくしてもよい。
【0027】
また、本実施例では、リサイズに用いる数値補間としては、非線形変換による数値補間である非線形補間が用いられる。非線形補間は、例えば、スプライン関数を用いて画像位置を非線形に補間するスプライン補間などである。非線形補間では、空間的な平滑性を保持しながら補間することが可能である。
【0028】
データ拡張は、医療画像に対して画像変換処理を行った画像を新たに医療画像として生成することで医療画像の数を増やす処理である。画像変換処理は、例えば、回転処理、シフト処理、拡大縮小処理及び輝度変換処理などである。回転処理は、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の少なくとも1つを回転軸として画像を回転させる処理である。シフト処理は、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の少なくとも1つの沿った方向に画像を平行移動させる処理である。拡大縮小処理は、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の少なくとも一つの方向を相似に拡大縮小する処理である。輝度変換処理は、ガウシアンフィルタなどを用いた平滑化、及び、エッジの重みを増加するシャープネスなど行うことで、医療画像の輝度を調整する処理である。データ拡張は、これらの例に限らず、画像変換処理として、水平反転処理又はランダムクロップ処理などを含んでもよい。
【0029】
なお、前処理部22は、前処理として、3次元脳画像の位置合わせを行ってもよい。位置合わせとは、撮像環境の差及び脳形状の個人差などにより、画像ごとに脳組織の位置が相違する問題に対処する処理の総称であり、回転処理、シフト処理及び拡大縮小処理などを用いて行われる。位置合わせは、SPM12(Statistical Parametric Mapping 12)などを用いて、3次元脳画像における脳形態を標準的な脳形態に合わせる標準化などを含む。
【0030】
位置合わせは、具体的には、AC-PC(Anterior Commissure -Posterior Commissure)位置合わせ、Realignment処理、及び、標準化処理などを適用することができる。AC-PC位置合わせは、各3次元脳画像の原点がずれることで正しく処理が行われないことを抑制するために、脳のAC(前交連)上に原点を設定し、3次元脳画像がAC-PCラインと並行になるように位置合わせを行う処理である。Realignment処理は、撮像時の被検体の体動及び拍動による頭部の動きによる医療画像のずれを補正するための処理であり、最小二乗法などを用いて算出した平行移動量及び回転量に応じた剛体変換を行うことで、3次元脳画像における頭部の位置を補正する処理である。標準化処理は、標準脳画像と3次元脳画像とを位置合わせする処理である。標準脳画像は、MRI装置が複数の健常体の頭部を撮像することで取得した複数のMRI画像のそれぞれから脳領域を抽出した複数の脳画像を平均した脳画像である。なお、標準脳画像は、コンピュータグラフィックスなどにて作成された画像でもよいし、一人の健常体の脳を撮像することで取得された画像でもよい。また、標準脳画像は、画像保管サーバ3又はストレージ12に保存されており、前処理部22は、標準脳画像を画像保管サーバ3又はストレージ12から取得する。
【0031】
なお、前処理部22は、本実施例では、データ拡張を行った複数の3次元脳画像のそれぞれに対して位置合わせを行うが、位置合わせを行った3次元脳画像に対してデータ拡張を行ってもよい。
【0032】
図3及び
図4は、前処理部22にて変換された3次元脳画像の一例を示す図である。具体的には、
図3は、T1強調画像から変換された3次元脳画像B0の一例を示し、
図4は、VSRAD画像から変換された3次元脳画像C0の一例を示す。
【0033】
図3及び
図4に示すように3次元脳画像B0及びC0は、頭蓋骨31及び脳実質32を示す。脳実質32は、脳室及び脳槽のような種々の解剖学的領域を含む。
図3及び
図4では、解剖学的領域として、脳室33を示し、他の解剖学的領域については省略している。
【0034】
図2の説明に戻る。モデル構築部23は、前処理部22にて学習用医療画像から変換された3次元脳画像を学習用データとして用いた機械学習を行って、3次元脳画像から対象疾患に罹患している確率である疾患確率を判定する学習済みモデルである識別モデルを構築する。モデル構築部23は、識別モデルの汎化性能の向上及び過学習の抑制のために、交差検証にて学習回数を増やしてもよい。また、識別モデルの識別精度(評価指標)としては、例えば、AUC(Area Under the Curve)、TPR(True Positive Rage)又はFPR(False Positive Rate)などを用いることができる。
【0035】
本実施例では、モデル構築部23は、3次元識別器を用いて識別モデルを構築する。3次元識別器は、スライス画像ごとに画像の特徴を識別する2次元識別器とは異なり、3次元画像をそのまま用いて画像(脳)の特徴を識別することが可能な識別器であり、例えば、3D-CNN(Three-Dimensional-Convolutional Neural Network)である。3次元識別器は、2次元識別器と比べて、一般的に計算コストが高くなるが、識別精度が向上する。本実施例では、3次元識別器は3D-CNNである。3D-CNNは、3次元脳画像を3次元画像のまで解析する非線形識別器であり、疾患確率を連続値で計算して出力することができる。疾患確率は対象疾患の診断を支援する客観的な指標となる。
【0036】
判定部24は、モデル構築部23にて構築された識別モデルに対して、前処理部22にて推論用医療画像から変換された3次元脳画像である推論対象画像を入力して、対象疾患の疾患確率を連続値で算出して出力する。このとき、判定部24は、疾患確率に基づいて、被検体である推論対象者が健常体か否かを判定してもよい。例えば、3D-CNNの出力層にシグモイド関数を用いる場合、判定部24は、疾患確率が0.5以上かつ1.0以下の場合、推論対象者が対象疾患を患う疾患者であると判定し、疾患確率が0以上かつ0.5未満の場合、被検体が健常体であると判定する。3D-CNNの出力層は、シグモイド関数に限らず、ソフトマックス関数などの他の関数でもよい。
【0037】
図5は、疾患者と疾患者の脳を示す3次元脳画像から算出された疾患確率との関係を示す図であり、
図6は、健常体と健常体の脳を示す3次元脳画像から算出された疾患確率との関係を示す図である。
図5及び
図6では、横軸は疾患確率、
図5の縦軸は被検体数(疾患者の人数又は健常体の人数)を表す。
図5及び
図6に示すように、疾患確率は、0又は1のような離散的な値ではなく、連続値で表されるため、精神疾患の診断に役立つ客観的な指標となる。
【0038】
図2の説明に戻る。識別根拠可視化部25は、3次元脳画像において、判定部24にて疾患確率の算出に使用された領域である識別根拠領域を特定する可視化部である。具体的には、識別根拠可視化部25は、機械学習モデルによる判定の根拠となる判定根拠を解析する技術であるXAI(eXplainable Artificial Intelligence)の一種である3D-Grad-CAM(Three-Dimensional Gradient-weighted Class Activation Mapping)などを用いて識別根拠領域を特定する。3D-Grad-CAMは、クラス識別性能が高く、機械学習モデルなどが出力する結果に対して説明可能な根拠を与える技術である。
【0039】
表示制御部26は、判定部24にて算出された疾患確率と、識別根拠可視化部25にて特定された識別根拠領域との少なくとも一方を示す表示情報を生成して出力部15に表示する。
【0040】
図7及び
図8は、表示情報の一例を示す図である。具体的には、
図7は、3次元脳画像B0における識別根拠領域を示す表示情報の一例であり、3次元脳画像C0における識別根拠領域を示す表示情報の一例である。
【0041】
図7に示す表示情報40は、3次元脳画像B0のうちの、識別根拠領域を含むスライス脳画像41と、スライス脳画像を特定するための特定情報42と、識別根拠領域を説明する説明情報43とを含む。スライス脳画像41は、頭蓋骨31及び脳実質32を示し、さらに脳実質32内に識別根拠領域34が示されている。特定情報42は、スライス脳画像の全体のうち、表示されているスライス脳画像41が何枚目かを示すテキスト情報である。説明情報43は、識別根拠領域34に対応する部位を説明するためのテキスト情報である。なお、特定情報42及び説明情報43は、テキスト情報に限らず、記号又はアイコンのような情報でもよい。
【0042】
図8に示す表示情報50は、表示情報40と同様に、スライス脳画像51と、特定情報52と、説明情報53とを含む。スライス脳画像51、特定情報52及び説明情報53は、
図7に示したスライス脳画像41、特定情報42及び説明情報43のそれぞれに対応する。
【0043】
なお、表示情報は、
図7及び
図8に表したような1枚のスライス脳画像を示すものに限らず、複数枚のスライス脳画像を示してもよいし、3次元脳画像B0及びC0をそのまま示してもよい。
【0044】
図9は、医療画像処理装置1による処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【0045】
先ず、
図9の左側に示した学習フェーズF1が実行される。学習フェーズF1では、画像取得部21は、画像保管サーバ3から学習用医療画像(T1強調画像及びVSRAD画像)を取得する(ステップST1)。
【0046】
前処理部22は、画像取得部21にて取得された学習用医療画像のそれぞれを3次元化して3次元脳画像B0及びC0を作成する(ステップST2)。
【0047】
前処理部22は、各3次元脳画像B0及びC0のボクセル値の平均が0、分散が1となるように、各3次元脳画像B0及びC0を正規化する(ステップST3)。ただし、正規化(ステップST3の処理)は行われなくてもよい。
【0048】
前処理部22は、各3次元脳画像B0及びC0のX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の各方向のサイズが閾値となるように、各3次元脳画像B0及びC0をリサイズする(ステップST4)。具体的には、前処理部22は、サイズが閾値未満の方向については、数値補間によるアップサンプリングを行うことで、サイズを閾値まで増やし、サイズが閾値より大きい方向については、数値補間によるダウンサンプリングを行うことで、サイズを閾値まで減らす。なお、サイズが閾値と同じ方向については、前処理部22は、その方向に対してはリサイズを行わなくてよい。
【0049】
前処理部22は、各3次元脳画像B0及びC0の少なくとも一部に対して画像変換処理を行うことで、3次元脳画像B0及びC0の数を増やす(ステップST5)。ただし、ステップST5の処理であるデータ拡張は行われなくてもよい。
【0050】
モデル構築部23は、3D-CNNに3次元脳画像を学習用データとして入力して、3D-CNNに機械学習を行わせて、3次元脳画像B0及びC0から対象疾患の疾患確率を判定する学習済みモデルである識別モデルを構築し(ステップST6)、学習フェーズF1を終了する。識別モデルは、本実施例では、3次元脳画像B0及びC0の両方から単一の疾患確率を判定する。
【0051】
なお、図の例では、簡単のために、3次元化により生成した3次元脳画像B0及びC0に対して正規化、リサイズ及びデータ拡張などを行っているが、3次元脳画像B0及びC0を生成する過程において、正規化、リサイズ及びデータ拡張が行われてもよい。
【0052】
次に、
図9の右側に示した推論フェーズF2が実行される。推論フェーズF2では、先ず、画像取得部21は、画像保管サーバ3から推論用医療画像(T1強調画像及びVSRAD画像)を取得する(ステップST11)。その後、前処理部22は、学習フェーズF1のステップST2~ST4の処理と同様な処理を推論用医療画像に対して行い、推論用の3次元脳画像B0及びC0を生成する(ステップST12~ST14)。
【0053】
その後、判定部24は、ステップST6にてモデル構築部23が構築した識別モデルに対して、推論用の3次元脳画像B0及びC0を入力して、被検体が対象疾患に罹患している疾患確率を算出する(ステップST15)。
【0054】
識別根拠可視化部25は、識別モデルによる疾患確率を算出したプロセスを解析して、3次元脳画像B0及びC0における疾患確率の算出に使用された領域である識別根拠領域を特定する(ステップST16)。
【0055】
そして、表示制御部26は、判定部24にて算出された疾患確率と、識別根拠可視化部25にて特定された識別根拠領域との少なくとも一方を示す表示情報を生成して出力部15に表示し(ステップST17)、推論フェーズF2を終了する。
【0056】
以上説明したように本実施例によれば、前処理部22は、3次元脳画像のX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向のサイズが閾値になるように、3次元脳画像をリサイズする。モデル構築部23は、リサイズした学習用の3次元脳画像を学習用データとして用いた機械学習を行い、3次元脳画像から対象疾患に罹患している確率である疾患確率を判定する識別モデルを構築する。判定部24は、推論対象者の脳を示すリサイズした3次元脳画像である推論対象画像を学習済みモデルに入力して、推論対象者の疾患確率を判定する。したがって、3次元脳画像が適切なサイズとなるようにリサイズされた処理済画像から対象疾患に罹患している疾患確率が判定される。このため、サイズの少ない画像を取得しても適切なサイズの画像が生成されるため、撮像時間の短縮が可能となり、患者の負担を軽減することが可能となる。また、疾患の有無ではなく、疾患確率が判定されるため、疾患の程度を判定することが可能となる。
【0057】
また、本実施例では、、数値補間法を用いて3次元脳画像がリサイズされる。このため、滑らかな補間が可能となり、空間的な平滑性を保持しながらリサイズを行うことが可能となる。
【0058】
また、本実施例では、非線形関数による数値補間法を用いて3次元脳画像がリサイズされるため、滑らかな補間をより適切に行うことが可能となる。
【0059】
また、本実施例では、前処理部22は、3次元脳画像のX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の各方向のサイズが閾値となるように、3次元脳画像をリサイズする。このため、3次元画像をより適切なサイズにリサイズすることが可能となる。
【0060】
また、本実施例では、各方向に対応する閾値が互いに異なる。このため、3次元画像をより適切なサイズにリサイズすることが可能となる。
【0061】
また、本実施例では、識別根拠可視化部25は、3次元脳画像における疾患確率の算出に使用された識別根拠領域を特定する。このため、医師などが識別根拠領域情報に注目して対象疾患を判定することが可能となるため、対象疾患に対する適切な判定を支援することが可能となる。
【0062】
また、モデル構築部23は、3D-CNNを用いて機械学習を行う。このため、3次元脳画像を特徴量化せずに幾何学情報を維持したまま疾患確率を判定することが可能となる。
【0063】
なお、本開示は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を備えるものに限定されるものではない。例えば、本実施例では、医療画像を対象にしているが、本開示は、医用画像に限定されるものではなく、材料を写した画像による材料の診断などにも適用することができる。
【0064】
また、実施例の構成の一部について、構成の追加・削除・置換をすることが可能である。また、上記の各構成、機能、処理部、処理集団等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリやハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記憶装置、又は、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0065】
また、1つの処理部は、これら各種のプロセッサのうちの1つで構成されてもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組合せ(例えば、複数のFPGA、又はCPUとFPGAの組合せ等)で構成されてもよい。また、複数の処理部が1つのプロセッサで構成されてもよい。複数の処理部を1つのプロセッサで構成する例としては、第1に、クライアント及びサーバ等のコンピュータに代表されるように、1つ以上のCPUとソフトウェアの組合せで1つのプロセッサを構成し、このプロセッサが複数の処理部として機能する形態がある。第2に、システムオンチップ(System On Chip:SoC)等に代表されるように、複数の処理部を含むシステム全体の機能を1つのIC(Integrated Circuit)チップで実現するプロセッサを利用する形態がある。このように、各種の処理部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサを1つ以上用いて構成される。
【0066】
さらに、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組合せた電子回路(circuitry)である。
1:医療画像処理装置 2:3次元画像撮像装置 3:画像保管サーバ 21:画像取得部 22:前処理部 23:モデル構築部 24:判定部 25:識別根拠可視化部 26:表示制御部