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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091192
(43)【公開日】2023-06-30
(54)【発明の名称】蒸留方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 3/14 20060101AFI20230623BHJP
【FI】
B01D3/14 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021205806
(22)【出願日】2021-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】390036663
【氏名又は名称】木村化工機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100183265
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 剣一
(72)【発明者】
【氏名】立野 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】竹森 勇
【テーマコード(参考)】
4D076
【Fターム(参考)】
4D076AA22
4D076AA24
4D076BB03
4D076CB07
4D076CB08
4D076DA02
4D076DA04
4D076DA34
4D076EA08Z
4D076EA12Z
4D076JA04
(57)【要約】
【課題】ヒートポンプを備える蒸留装置を用いた、省エネルギー性に優れた蒸留方法を提供する。
【解決手段】
蒸留塔1、蒸留塔の塔底液を第1熱媒により再加熱するリボイラ2、蒸留塔の塔頂ベーパを第2熱媒により冷却するコンデンサ3、コンデンサで用いられて昇温した第2熱媒をコンデンサで用いられる温度にまで冷却し、かつ、リボイラで使用された第1熱媒を、リボイラで用いられる温度にまで昇温するヒートポンプHP、第1熱媒および第2熱媒の少なくとも一方を冷却して余剰の熱エネルギーを系外に排出する冷却器4、を備えた蒸留装置100を用い、原料液が、蒸留装置を大気圧下で操作した場合に、(a)塔底液の温度が30℃以上150℃以下という条件と、(b)塔底液と塔頂ベーパの温度差が33℃以下という条件を満たす組成のものである場合には、操作圧力を制御せず、大気圧下で原料液の蒸留を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
沸点が異なる複数の成分を含む原料液の蒸留を行う蒸留塔と、
前記蒸留塔の塔底液を、第1熱媒により間接的に再加熱するリボイラと、
前記蒸留塔の塔頂から取り出される塔頂ベーパを、第2熱媒により間接的に冷却して凝縮させるコンデンサと、
前記コンデンサで前記塔頂ベーパの冷却に用いられて昇温した前記第2熱媒から熱を回収して、前記コンデンサにおいて前記塔頂ベーパの冷却に用いられる温度にまで冷却するとともに、前記リボイラで前記塔底液の再加熱に使用されて温度が低下した前記第1熱媒を、前記リボイラにおいて前記塔底液の再加熱に用いられる温度にまで昇温するヒートポンプと、
前記蒸留塔での蒸留操作を継続して行うのに必要な熱エネルギーを超えて入力される余剰の熱エネルギーを、前記第1熱媒および第2熱媒の少なくとも一方を間接的に冷却することにより系外に排出する冷却器と、
を備えた蒸留装置を用いて蒸留を行う方法であって、
前記原料液が、前記蒸留装置を大気圧下で操作した場合に、(a)前記塔底液の温度が30℃以上150℃以下という条件と、(b)前記塔底液と前記塔頂ベーパの温度差が33℃以下という条件を満たす組成のものである場合には、操作圧力の制御を行うことなしに、大気圧下で前記原料液の蒸留が行われるように構成されていること
を特徴とする蒸留方法。
【請求項2】
前記蒸留装置が、前記ヒートポンプとして、COPの値が4.0以上のヒートポンプが用いられている蒸留装置であることを特徴とする請求項1に記載の蒸留方法。
【請求項3】
前記蒸留装置が、前記リボイラとして、液膜降下式の熱交換器が用いられている蒸留装置であることを特徴とする請求項1または2に記載の蒸留方法。
【請求項4】
沸点が異なる複数の成分を含む原料液の蒸留を行う蒸留塔と、
前記蒸留塔の塔底液を、第1熱媒により間接的に再加熱するリボイラと、
前記蒸留塔の塔頂から取り出される塔頂ベーパを、第2熱媒により間接的に冷却して凝縮させるコンデンサと、
前記コンデンサで前記塔頂ベーパの冷却に用いられて昇温した前記第2熱媒から熱を回収して、前記コンデンサにおいて前記塔頂ベーパの冷却に用いられる温度にまで冷却するとともに、前記リボイラで前記塔底液の再加熱に使用されて温度が低下した前記第1熱媒を、前記リボイラにおいて前記塔底液の再加熱に用いられる温度にまで昇温するヒートポンプと、
前記蒸留塔での蒸留操作を継続して行うのに必要な熱エネルギーを超えて入力される余剰の熱エネルギーを、前記第1熱媒および第2熱媒の少なくとも一方を間接的に冷却することにより系外に排出する冷却器と、
を備えた蒸留装置を用いて蒸留を行う方法であって、
前記原料液が、(a)前記塔底液の温度が30℃以上150℃以下という条件と、(b)前記塔底液と前記塔頂ベーパの温度差が33℃以下という条件を満たすためには、前記蒸留装置の操作圧力を大気圧より高い圧力とすることが必要な組成のものである場合には、大気圧より圧力の高い加圧下で前記原料液の蒸留が行われるように構成されていること
を特徴とする蒸留方法。
【請求項5】
前記蒸留装置が、前記蒸留塔の塔頂と前記コンデンサの間に、系内の圧力を所定の加圧状態に維持するための加圧状態維持機構を備える蒸留装置であることを特徴とする請求項4に記載の蒸留方法。
【請求項6】
前記蒸留装置が、前記ヒートポンプとして、COPの値が4.0以上のヒートポンプが用いられている蒸留装置であることを特徴とする請求項4また5に記載の蒸留方法。
【請求項7】
前記蒸留装置が、前記リボイラとして、液膜降下式の熱交換器が用いられている蒸留装置であることを特徴とする請求項4~6のいずれかに記載の蒸留方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸留方法に関し、詳しくは、ヒートポンプを備える蒸留装置を用いて省エネルギー性の良好な蒸留を行うための蒸留方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原料液(被処理液)に含まれる沸点が異なる複数の成分を分離するための方法として、蒸留の方法が、石油化学の分野をはじめ種々の技術分野で広く用いられている。そのため蒸留における省エネルギー化の必要性は近年、益々増大している。
【0003】
そのような省エネルギー化の方法の1つとして、蒸気圧縮機により温度レベルが上げられた自己蒸発蒸気を利用して、自己の加熱源として使用する方法がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6666755号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の蒸気圧縮機を使用した方法では、加熱により発生した蒸発ベーパに、可燃性成分、腐食性成分、汚染成分などが含まれている場合、蒸気圧縮機の運転に支障をきたすという問題がある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するものであり、ヒートポンプを備える蒸留装置を用いた、省エネルギー性に優れ、地球温暖化の原因となる二酸化炭素ガスの発生量を抑制することが可能な蒸留方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明(第1の発明)にかかる蒸留方法は、
沸点が異なる複数の成分を含む原料液の蒸留を行う蒸留塔と、
前記蒸留塔の塔底液を、第1熱媒により間接的に再加熱するリボイラと、
前記蒸留塔の塔頂から取り出される塔頂ベーパを、第2熱媒により間接的に冷却して凝縮させるコンデンサと、
前記コンデンサで前記塔頂ベーパの冷却に用いられて昇温した前記第2熱媒から熱を回収して、前記コンデンサにおいて前記塔頂ベーパの冷却に用いられる温度にまで冷却するとともに、前記リボイラで前記塔底液の再加熱に使用されて温度が低下した前記第1熱媒を、前記リボイラにおいて前記塔底液の再加熱に用いられる温度にまで昇温するヒートポンプと、
前記蒸留塔での蒸留操作を継続して行うのに必要な熱エネルギーを超えて入力される余剰の熱エネルギーを、前記第1熱媒および第2熱媒の少なくとも一方を間接的に冷却することにより系外に排出する冷却器と、
を備えた蒸留装置を用いて蒸留を行う方法であって、
前記原料液が、前記蒸留装置を大気圧下で操作した場合に、(a)前記塔底液の温度が30℃以上150℃以下という条件と、(b)前記塔底液と前記塔頂ベーパの温度差が33℃以下という条件を満たす組成のものである場合には、操作圧力の制御を行うことなしに、大気圧下で前記原料液の蒸留が行われるように構成されていること
を特徴としている。
【0008】
また、本発明(第1の発明)の蒸留方法においては、前記蒸留装置が、前記ヒートポンプとして、COPの値が4.0以上のヒートポンプが用いられている蒸留装置であることが好ましい。
【0009】
また、前記蒸留装置が、前記リボイラとして、液膜降下式の熱交換器が用いられている蒸留装置であることが好ましい。
【0010】
また、本発明(第2の発明)にかかる蒸留方法は、
沸点が異なる複数の成分を含む原料液の蒸留を行う蒸留塔と、
前記蒸留塔の塔底液を、第1熱媒により間接的に再加熱するリボイラと、
前記蒸留塔の塔頂から取り出される塔頂ベーパを、第2熱媒により間接的に冷却して凝縮させるコンデンサと、
前記コンデンサで前記塔頂ベーパの冷却に用いられて昇温した前記第2熱媒から熱を回収して、前記コンデンサにおいて前記塔頂ベーパの冷却に用いられる温度にまで冷却するとともに、前記リボイラで前記塔底液の再加熱に使用されて温度が低下した前記第1熱媒を、前記リボイラにおいて前記塔底液の再加熱に用いられる温度にまで昇温するヒートポンプと、
前記蒸留塔での蒸留操作を継続して行うのに必要な熱エネルギーを超えて入力される余剰の熱エネルギーを、前記第1熱媒および第2熱媒の少なくとも一方を間接的に冷却することにより系外に排出する冷却器と、
を備えた蒸留装置を用いて蒸留を行う方法であって、
前記原料液が、(a)前記塔底液の温度が30℃以上150℃以下という条件と、(b)前記塔底液と前記塔頂ベーパの温度差が33℃以下という条件を満たすためには、前記蒸留装置の操作圧力を大気圧より高い圧力とすることが必要な組成のものである場合には、大気圧より圧力の高い加圧下で前記原料液の蒸留が行われるように構成されていること
を特徴としている。
【0011】
また、本発明(第2の発明)にかかる蒸留方法においては、前記蒸留装置が、前記蒸留塔の塔頂と前記コンデンサの間に、系内の圧力を所定の加圧状態に維持するための加圧状態維持機構を備える蒸留装置であることが好ましい。
【0012】
また、本発明(第2の発明)にかかる蒸留方法においても、前記蒸留装置が、前記ヒートポンプとして、COPの値が4.0以上のヒートポンプが用いられている蒸留装置であることが好ましい。
【0013】
また、本発明(第2の発明)にかかる蒸留方法においても、前記蒸留装置が、前記リボイラとして、液膜降下式の熱交換器が用いられている蒸留装置であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明(第1の発明)にかかる蒸留方法は、蒸留装置として、蒸留塔と、蒸留塔の塔底液を第1熱媒により間接的に再加熱するリボイラと、蒸留塔の塔頂ベーパを、第2熱媒により間接的に冷却して凝縮させるコンデンサと、コンデンサで塔頂ベーパの冷却に用いられて昇温した第2熱媒から熱を回収して、コンデンサにおいて前記塔頂ベーパの冷却に用いられる温度にまで冷却するとともに、リボイラでの再加熱に使用されて温度が低下した第1熱媒を、リボイラでの再加熱に用いられる温度にまで昇温するヒートポンプと、蒸留塔での蒸留操作を継続して行うのに必要な熱エネルギーを超えて入力される余剰の熱エネルギーを、第1熱媒および第2熱媒の少なくとも一方を間接的に冷却することにより系外に排出する冷却器と、を備えた蒸留装置を用いて蒸留を行う方法であり、原料液が、蒸留装置を大気圧下で操作した場合に、(a)塔底液の温度が30℃以上150℃以下という条件と、(b)塔底液と塔頂ベーパの温度差が33℃以下という条件を満たす組成のものである場合には、操作圧力の制御を行うことなしに、大気圧下で前記原料液の蒸留を行うようにしているので、蒸留操作を、圧力制御を行う必要なく、大気圧下で行うことが可能になる。
【0015】
なお、塔底液と塔頂ベーパの温度差が33℃以下という条件は、一般的に蒸留塔では、塔底液の温度のほうが塔頂ベーパの温度よりも高くなるので、通常は、塔底液の温度が塔頂ベーパの温度より高く、その温度差が33℃以下であることを意味する。
【0016】
なお、塔底液の温度と塔頂ベーパの温度の差が小さくなるほど、ヒートポンプで第1熱媒の温度レベルを上昇させる際の温度上昇幅は小さくてよくなるので、ヒートポンプのCOP(成績係数)を向上させることが可能になる。
【0017】
その結果、圧力制御のために必要となる設備に要するコストや、ランニングコストが不要になり、蒸留操作を減圧下や加圧下で行う場合に比べて、省エネルギー性に優れ、地球温暖化の原因となる二酸化炭素ガスの発生量を抑制することが可能な蒸留方法を提供することができる。
【0018】
また、本発明で用いられる蒸留装置においては、ヒートポンプを作動させるための動力として供給される電力に由来する熱エネルギーが蒸留装置に入力されることになり、蒸留塔での蒸留操作を継続して行うのに必要な熱エネルギーを超える余剰の熱エネルギーを包含することになるが、蒸留装置として、この余剰の熱エネルギーを系外に排出する冷却器を備えた蒸留装置を用いるようにしているので、システム全体としての熱量バランスを調整することが可能になり、継続して、安定的に蒸留を行うことができる。
【0019】
また、本発明で用いられる蒸留装置においては、駆動部を有するヒートポンプに直接接触するのは、ヒートポンプに循環供給される第1熱媒と第2熱媒となることから、例えば、可燃性成分、腐食性成分、汚染成分などを含むことのある塔頂ベーパやその凝縮液などが直接にヒートポンプに接触することがないため、火災のおそれを生じたり、ヒートポンプの腐食や故障の原因となったりすることがなく、蒸留装置を継続して、安定的に稼働させることが可能になり、信頼性を向上させることができる。
【0020】
また、本発明の蒸留方法において、COP(成績係数)の値が4.0以上のヒートポンプが採用されている蒸留装置を用いた場合、より確実にヒートポンプの省エネルギーを図ることが可能になり、本発明をさらに実効あらしめることができる。
【0021】
また、蒸留装置として、リボイラに液膜降下式の熱交換器を採用した蒸留装置を用いることにより、リボイラで加熱される被加熱液(処理液)の温度がリボイラを通過する際に上昇することを抑制することが可能になり、省エネルギーの見地から好ましい。
【0022】
すなわち、被加熱液(処理液)の位置的な温度差(温度の偏り)による流れ(対流)を利用した自然循環式の熱交換器や、被加熱液(処理液)の液深(ヘッド)によって、内部で温度差が生じる強制循環式や液膜上昇式の熱交換器などの場合、リボイラを通過する際に被加熱液(処理液)の温度が上昇することがあるが、被加熱液(処理液)が自重で管壁に沿って流下する液膜降下式の熱交換器の場合、上述のような被加熱液(処理液)の温度上昇が生じない。
【0023】
したがって、ヒートポンプにより熱回収を行うように構成された本発明の蒸留方法においては、リボイラとして、上述のような温度上昇の生じない液膜降下式の熱交換器を用いることが好ましい。
【0024】
また、本発明(第2の発明)にかかる蒸留方法は、本発明の第1の発明で用いるようにしている蒸留装置と同様の蒸留装置を用いて蒸留を行う方法であり、原料液が、(a)塔底液の温度が30℃以上150℃以下という条件と、(b)前記塔底液と前記塔頂ベーパの温度差が33℃以下という条件を満たすためには、蒸留装置の操作圧力を大気圧より高い圧力とすることが必要な組成のものである場合には、大気圧より圧力の高い加圧下で原料液の蒸留が行われるように構成されているので、原料液が、蒸気圧の高い成分(低沸点成分)をしかるべき割合で含むものである場合にも、効率よく、原料液の蒸留を行うことができる。
【0025】
加圧下での蒸留を行うことが必要となった場合、その分だけ、設備に要するコストやランニングコストがかかる場合もあるが、高い省エネルギー効果を得ることが可能で、地球温暖化の原因となる二酸化炭素ガスの発生量を抑制することが可能になる点で、十分に有意義である。
【0026】
また、本発明(第2の発明)の場合も、蒸留装置として、余剰の熱エネルギーを系外に排出する冷却器を備える蒸留装置を用いることにより、蒸留装置を継続して、安定的に稼働させることができる。
【0027】
また、本発明(第2の発明)にかかる蒸留方法においては、蒸留装置として、蒸留塔の塔頂とコンデンサの間に、系内の圧力を所定の加圧状態に維持するための加圧状態維持機構を備える蒸留装置を用いることにより、蒸留塔を加圧下で操作する場合にも、系内の圧力を調整して、安定した蒸留を継続して行うことができる。
【0028】
また、本発明(第2の発明)にかかる蒸留方法においても、COP(成績係数)の値が4.0以上のヒートポンプが採用されている蒸留装置を用いた場合、より確実にヒートポンプの省エネルギーを図ることが可能になり、本発明をさらに実効あらしめることができる。
【0029】
また、本発明(第2の発明)にかかる蒸留方法においても、蒸留装置として、リボイラに液膜降下式の熱交換器を採用した蒸留装置を用いることにより、リボイラで加熱される被加熱液(処理液)の温度がリボイラを通過する際に上昇することを抑制することが可能になり、省エネルギーの見地から好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の蒸留方法を実施するのに用いた蒸留装置の構成を示す図である。
図2】塔底液の温度と塔頂ベーパの温度との温度差とCOP(成績係数)の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に本発明の実施形態を示して、本発明の特徴とするところをさらに詳しく説明する。
【0032】
本実施形態では、可燃性成分であるノルマルブタンを65wt%、イソブタンを35wt%の濃度割合で含まれる原料液を蒸留して、缶出液として高濃度のノルマルブタンを、留出液として高濃度のイソブタンを得るための蒸留方法を例にとって説明する。
【0033】
図1は、本発明の蒸留方法を実施するのに用いた蒸留装置の構成を示す図である。
【0034】
図1に示すように、本発明の蒸留方法を実施するのに用いた蒸留装置100は、ノルマルブタンを65wt%、イソブタンを35wt%の割合で含有する原料液を蒸留して、原料液を塔頂ベーパと塔底液に分離する蒸留塔1と、蒸留塔1で分離した塔底液を再加熱するリボイラ2を備えている。
【0035】
また、蒸留装置100は、蒸留塔1の塔頂から取り出される塔頂ベーパを冷却して凝縮させるコンデンサ3を備えている。
【0036】
さらに、蒸留装置100は、熱回収を行うための装置として、ヒートポンプHPを備えている。
【0037】
本実施形態では、上述の蒸留塔1として、充填塔が用いられている。ただし、蒸留塔1は充填塔に限られるものではなく、棚段塔など、他の形式のものを用いることも可能である。
【0038】
また、本実施形態では、上述のリボイラ2として、液膜降下式の間接型熱交換器が用いられている。液膜降下式の間接型熱交換器の場合、被加熱液(処理液)が自重で管壁に沿って流下するので、液深(ヘッド)がかからず、リボイラ2を通過する際に被加熱液(処理液)の温度が上昇することを抑制できる。
【0039】
したがって、ヒートポンプHPにより熱回収を行うように構成された本発明の蒸留方法においては、リボイラ2として液膜降下式の熱交換器を用いることが好ましい。
【0040】
また、蒸留塔1の塔底液を再加熱するリボイラ2は、第1熱媒により塔底液が間接的に再加熱されるように構成されている。
そして、本実施形態では、第1熱媒として、リボイラ2とヒートポンプHPを循環する温水(循環温水)が用いられている。
【0041】
このリボイラ2とヒートポンプHPを循環する温水(循環温水)(第1熱媒)は、リボイラ2で蒸留塔1の塔底液の加熱に用いられて温度が低下した状態(88℃に低下した状態)で、循環温水ポンプ10を経てヒートポンプHPに送られ、リボイラ2での塔底液の再加熱に用いられる温度(93℃)にまで昇温させられた後、再びリボイラ2に供給されるように構成されている。
【0042】
また、本実施形態では、上述のコンデンサ3として、蒸留塔1の塔頂から取り出される塔頂ベーパを、第2熱媒(循環冷却水)により間接的に冷却して凝縮させるように構成された間接型熱交換器、具体的には多管式熱交換器(シェル&チューブ式熱交換器)が用いられている。ただし、コンデンサ3を構成する間接型熱交換器は、多管式熱交換器に限られるものではなく、公知の種々の間接型熱交換器を用いることが可能である。
【0043】
また、コンデンサ3において、蒸留塔1の塔頂ベーパを冷却するための第2熱媒(冷媒)としては、コンデンサ3とヒートポンプHPを循環する循環冷却水が用いられている。この第2熱媒(循環冷却水)は、コンデンサ3で蒸留塔1の塔頂ベーパの冷却に用いられ、温度が上昇した状態(65℃に上昇した状態)でヒートポンプHPに送られ、コンデンサ3において蒸留塔1の塔頂ベーパの冷却に用いられる温度(60℃)にまで冷却された後、循環冷却水ポンプ9を経て、再びコンデンサ3に供給されるように構成されている。
【0044】
上述のように、本実施形態で用いられている蒸留装置100において、ヒートポンプHPは、
(1)コンデンサ3で塔頂ベーパの冷却に用いられて65℃に昇温した第2熱媒(循環冷却水)から熱を回収して、コンデンサ3において塔頂ベーパの冷却に用いられる温度である60℃にまで冷却する機能を果たす一方、
(2)リボイラ2で塔底液の再加熱に使用されて温度が88℃に低下した第1熱媒(循環温水)を、リボイラ2において塔底液の再加熱に用いられる温度である93℃にまで昇温する機能を果たすように構成されている。
【0045】
また、本実施形態では、ノルマルブタンを65wt%、イソブタンを35wt%の濃度割合で含む原料液が、(a)塔底液の温度が30℃以上150℃以下という条件と、(b)塔底液と塔頂ベーパの温度差が33℃以下という条件を満たすためには、大気圧より高い圧力下(加圧下)で蒸留操作を行うことが必要になる組成のものであることから、加圧下で蒸留操作を行うようにしている。
具体的には、蒸留装置100の系内の圧力を1.06MPaに制御して蒸留操作を行うようにしている。
【0046】
また、蒸留装置100は、蒸留塔1の塔頂からコンデンサ3の入口までの間に、系内の圧力を所定の加圧状態に維持するための加圧状態維持機構6を備えている。なお、本実施形態では、加圧状態維持機構6として、圧力調整弁を用いている。
【0047】
また、蒸留装置100においては、上述の加圧状態維持機構6により系内の圧力が1.06MPaに制御されることにより、蒸留塔1の塔底液の温度が83.2℃、蒸留塔1の塔頂から取り出される塔頂ベーパの温度が70.4℃となり、塔底液と塔頂ベーパの温度差が12.8℃(83.2℃-70.4℃=12.8℃)となる(塔底液の温度が塔頂ベーパの温度より12.8℃高くなる)ように構成されている。
【0048】
このように、本実施形態においては、(a)塔底液の温度が30℃以上150℃以下で、(b)塔底液と塔頂ベーパの温度差が33℃以下という条件を満たしている。
【0049】
さらに、蒸留装置100は、コンデンサ3の凝縮液を、蒸留塔1に還流させる還流ライン11を備えている。
【0050】
また、蒸留装置100は、蒸留塔1での蒸留操作を継続して行うのに必要な熱エネルギーを超えて入力される余剰の熱エネルギーを、第1熱媒および第2熱媒の少なくとも一方を間接的に冷却することにより系外に排出するための冷却器4を備えている。
【0051】
さらに詳しく説明すると、本実施形態では、コンデンサ3とヒートポンプHPを循環する第2熱媒(循環冷却水)の循環ライン(循環冷却水ライン)12であって、コンデンサ3で用いられ昇温した第2熱媒(循環冷却水)をヒートポンプHPに送るライン12(12a)に冷却器(循環冷却水用熱交換器)4が配設されている。
【0052】
本発明の蒸留装置100においては、ヒートポンプHPの圧縮熱が系内に加わり、系内の熱エネルギーが過剰となるが、上述の冷却器(循環冷却水用熱交換器)4により過剰の熱エネルギーが系外に排出されることで、システム全体の熱量バランスを調整することが可能になり、継続して安定した蒸留操作を行うことが可能になる。
【0053】
なお、本実施形態では、コンデンサ3で用いられ昇温した第2熱媒(循環冷却水)をヒートポンプHPに送るライン12(12a)に冷却器4を設けるようにしているが、ヒートポンプHPで冷却された第2熱媒(循環冷却水)をコンデンサ3に送る循環ライン12(12b)に冷却器4を設けるようにしてもよい。
【0054】
また、冷却器はリボイラ2で用いられて温度が低下した第1熱媒(循環温水)をヒートポンプHPに送る循環ライン13(13a)に設けてもよい。また、ヒートポンプHPで昇温させた第1熱媒(循環温水)をリボイラ2に送る循環ライン13(13b)に冷却器4を設けるようにしてもよい。
【0055】
なお、本発明において、冷却器4の構成に特別の制約はなく、種々の間接型の熱交換器を用いることが可能である。また、冷媒としてチラー水を用いた熱交換器や、空冷式の熱交換器などを用いることが可能である。
【0056】
以下に本実施形態にかかる蒸留装置100の構成および各部の作用・機能についてさらに詳しく説明する。
【0057】
本実施形態では、上述のように、液膜降下式の間接型熱交換器を用いたリボイラ2の加熱源には、ヒートポンプHPで温度レベルを上昇させた第1熱媒(循環温水)が用いられている。
【0058】
原料液が供給される蒸留塔1では、圧力1.06MPaの加圧下で蒸留が行われ、低沸点成分であるイソブタンを主要部とし、微量のノルマルブタンを含む、温度70.4℃の塔頂ベーパがコンデンサ3に送られて冷却される。
【0059】
コンデンサ3で、第2熱媒(循環冷却水)により冷却され、凝縮した塔頂ベーパの凝縮液の一部は、還流ポンプ8を備えた還流ライン11を経て、蒸留塔1の塔頂へ還流液として還流される。残りの凝縮液は、留出液として系外へ排出され、回収される。本実施形態では、留出液として、イソブタン99.3wt%、ノルマルブタン0.7wt%を含む留出液が回収される。
【0060】
一方、蒸留塔1で蒸留が行われ、低沸点成分であるイソブタンが分離されることでノルマルブタンが濃縮された温度83.2℃の塔底液は、その一部が循環塔底液ポンプ7を介して 原料液との熱交換を行うための間接型熱交換器5を経て、缶出液として系外に排出され、回収される。本実施形態では、缶出液として、ノルマルブタン99.4wt%、イソブタン0.6wt%を含む缶出液が回収される。
【0061】
ヒートポンプHPでは、コンデンサ3で用いられて65℃に昇温した第2熱媒(循環冷却水)から熱を回収して、コンデンサ3において塔頂ベーパの冷却に用いられる温度である60℃にまで冷却する一方、リボイラ2で塔底液の再加熱に使用されて温度が88℃に低下した第1熱媒(循環温水)を、電力により温度レベルを上げて、リボイラ2において塔底液の再加熱に用いられる温度である93℃にまで昇温し、再びリボイラ2に供給することにより、熱エネルギーが循環再利用される。
【0062】
本実施形態では、上述のように、操作圧力を加圧(1.06MPa)として、塔底液の温度が83.2℃で、塔底液の温度83.2℃と、塔頂ベーパの温度70.4℃の差が12.8℃(83.2-70.4=12.8℃)と小さいため、ヒートポンプHPを効率よく稼働させることが可能になる。
【0063】
そして、ヒートポンプHPにより、コンデンサ3で用いられて昇温した65℃の第2熱媒(循環冷却水)から熱を回収して60℃に冷却する一方、リボイラ2で使用されて温度が88℃に低下した第1熱媒(循環温水)を93℃にまで昇温させた場合のヒートポンプHPの成績効率COPは、図2に示すように6.6と高い値となり、熱エネルギーを効率よく再利用することが可能になることがわかる。
【0064】
上述の塔底液の温度83.2℃は、本発明の塔底液の温度条件である30℃以上150℃以下の範囲にあり、また、塔底液の温度83.2℃と、塔頂ベーパの温度70.4℃の差が12.8℃は、本発明の塔底液と塔頂ベーパの温度差33℃以下の条件を満たしている。
【0065】
なお、図2は、蒸留塔1の塔底液と塔頂ベーパの温度差(塔底液の温度の値から塔頂ベーパの温度の値を差し引いた値)と、ヒートポンプHPのCOP(成績係数)の関係を示す図であり、例えば、上記実施形態のように、温度差が12.8℃の場合、横軸の12.8℃に対応する縦軸のCOPを読み取るとCOPは6.6となる。
同様に、蒸留塔1の塔底液と塔頂ベーパの温度差が5℃の場合COPが約8.2、温度差が10℃の場合COPが約7.2、温度差が20℃の場合COPが約5.4、温度差が30℃の場合COPが約4.2となる。
【0066】
上記実施形態で説明したように、本発明にかかる蒸留方法の場合、蒸留塔1の塔底液の温度と塔頂ベーパとの温度差を小さくして、ヒートポンプHPで上昇させるべき温度レベルの幅が小さくなるようにしているので、ヒートポンプHPにおける動力を抑えて、高いCOP(成績係数)で熱回収を行うことが可能になる。
【0067】
すなわち、本実施形態では、ノルマルブタンを65wt%、イソブタンを35wt%の割合で含む原料液を蒸留塔1に供給して、蒸留塔1の塔底からノルマルブタン濃度が99.4wt%の缶出液を回収し、塔頂ベーパを冷却するコンデンサ3からイソブタン濃度が99.3wt%の留出液を回収するようにしているが、このような状況において、本発明の蒸留方法を適用することにより、蒸留塔1の塔底液の温度と塔頂ベーパとの温度差が小さくなり、ヒートポンプHPで上昇させるべき温度レベルの幅が小さくなることから、効率のよい蒸留を行って省エネルギー化を図りつつ、ノルマルブタンとイソブタンとを分離し、高い濃度で各成分を回収することが可能になる。
【0068】
なお、上記実施形態では、イソブタンとノルマルブタンを含む原料液を例にとって説明したが、本発明は、蒸留により分離することが可能な複数の成分を含む原料液から各成分を分離する場合に広く適用することが可能であり、また、フッ酸、塩酸、硫酸などの腐食性物質、ホウ酸や無機塩類、食品などの機器に付着することが問題になるような物質などを含む被処理液を濃縮する場合にも適用することが可能である。
【0069】
また、本実施形態では、原料液が低沸点成分であるイソブタンとノルマルブタンを主たる成分とする液体であって、蒸気圧の高いものであることから、操作圧を大気圧よりも高い圧力として、蒸留操作を行うようにしているが、原料液が、大気圧下で蒸留を行った場合にも塔底液の温度が30℃以上150℃以下という条件と、塔底液と塔頂ベーパの温度差が33℃以下という条件を満たすものである場合には、図1に示す蒸留装置100と同じ構成の蒸留装置を用いて、大気圧下で蒸留操作を行うことが可能である。
【0070】
ただし、大気圧下で蒸留操作を行う場合には、図1における加圧状態維持機構6を設けることは不要になる。また、大気圧下で操作を行うことが可能な場合には、蒸留塔やリボイラーなどの種々の機器を耐圧仕様とすることが不要になる。したがって、大気圧下で蒸留操作を行うことができる場合には、設備コストを抑制することが可能になる。
【0071】
なお、大気圧下で蒸留操作を行うことが可能な原料液としては、例えば、低沸点成分としてエタノールを含み、高沸点成分として水を含む原料液などを挙げることができる。
【0072】
本発明は、さらにその他の点においても、上記実施形態に限定されるものではなく、リボイラ、コンデンサ、ヒートポンプ、蒸留塔などの具体的な構成、ヒートポンプの高温側、低温側の温度条件、ヒートポンプおよびコンデンサにおいて用いられる熱媒を構成する物質の種類などに関し、発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0073】
1 蒸留塔
2 リボイラ
3 コンデンサ
4 冷却器(循環冷却水用熱交換器)
5 間接型熱交換器
6 加圧状態維持機構(圧力調整弁)
7 循環塔底液ポンプ
8 還流ポンプ
9 循環冷却水ポンプ
10 循環温水ポンプ
11 還流ライン
12(12a、12b) 循環ライン(循環冷却水ライン)
13(13a、13b) 循環ライン(循環温水ライン)
100 蒸留装置
HP ヒートポンプ
図1
図2