(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091208
(43)【公開日】2023-06-30
(54)【発明の名称】アオリ角度推定システム、アオリ駆動機構
(51)【国際特許分類】
B62D 33/027 20060101AFI20230623BHJP
B62D 33/04 20060101ALI20230623BHJP
【FI】
B62D33/027 J
B62D33/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021205830
(22)【出願日】2021-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130498
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 禎哉
(72)【発明者】
【氏名】福永 崇
(72)【発明者】
【氏名】中村 玄樹
(72)【発明者】
【氏名】岡▲崎▼ 大洋
(57)【要約】
【課題】アオリに直接センサを設ける構成を回避しつつ、アオリの開閉角度を適切に推定することが可能なアオリ角度推定システムを提供する。
【解決手段】貨物車両Tの荷台T1に設けられたアオリAを自動開閉させるアオリ駆動機構Yに適用可能なアオリ角度推定システムXであり、アオリ駆動機構YのうちアオリAの開閉動作に伴って移動する所定のアーム4の状態値(回転角度)を直接または間接的に検出する状態値検出部X1と、アオリAの開閉動作時に状態値検出部X1の検出値に基づいてアオリAの回転角度を推定するアオリ回転角度推定部X2とを備えた構成にした。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貨物車両の荷台に設けられたアオリをアクチュエータによって自動開閉させるアオリ駆動機構に適用可能なアオリ角度推定システムであり、
前記アオリ駆動機構のうち前記アオリの開閉動作に伴って移動する所定のパーツの状態値を直接または間接的に検出する状態値検出部と、
前記アオリの開閉動作時に前記状態値検出部の検出値に基づいて前記アオリの回転角度を推定するアオリ回転角度推定部とを備えていることを特徴とするアオリ角度推定システム。
【請求項2】
前記状態値検出部が、前記アオリの開閉動作時に前記アオリの回転角度に比例して移動する前記所定のパーツの回転角度を前記検出値として検出するものである請求項1に記載のアオリ角度推定システム。
【請求項3】
前記アオリの開閉動作に伴って移動する可動軸に一端を連結し且つ他端側の所定領域を前記所定のパーツに連結した連結部材を備え、
前記アオリの開閉動作に伴って前記連結部材が前記可動軸周りに回転するように構成し、さらに、
前記可動軸にポテンショメータを設け、当該ポテンショメータによって検出した前記可動軸の回転角度に基づいて特定可能な前記所定のパーツの回転角度を前記状態値として検出するように構成している請求項2に記載のアオリ角度推定システム。
【請求項4】
前記ポテンショメータによる検出値をアオリ角度に変換するテーブルを備え、当該テーブルを用いて前記アオリの回転角度を推定するように構成している請求項3に記載のアオリ角度推定システム。
【請求項5】
貨物車両の荷台に設けられたアオリをアクチュエータによって自動開閉させるアオリ駆動機構であって、
請求項1乃至4の何れかに記載のアオリ角度推定システムを備えていることを特徴とするアオリ駆動機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラック等の貨物車両の荷台に設けられる開閉可能なアオリの開閉角度を推定可能なシステム、及びアオリ角度推定システムを備えたアオリ駆動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
日本のGDP約5%を占める運輸業の中において、運輸業の約6割超を占める市場をもつ物流業界は環境変化により拡大しており、今後も大きな成長が見込まれる。一方で、物流業界において、トラック運転手の人手不足対策、安全性向上を図るべく、トラック荷役作業の自動化が求められており、荷台に設けられるアオリ(ゲートとも称される)を電動で自動開閉させるアオリ機構が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
アオリの開閉を電動化によって自動的に動作させるにあたり、アオリの制御状態量としてアオリの角度が用いられ、傾斜角センサをアオリ本体に取り付けて、アオリの角度情報を取得する態様が一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アオリ本体の内向き面側(荷台スペースを向く側)に傾斜角センサを取り付けると、貨物積載エリア(容積)を狭めることになるとともに、荷物が傾斜角センサに接触すればセンサの損傷・故障に直結するおそれがある。一方、アオリ本体の外向き面側(荷台スペースを向かない側)に傾斜角センサを取り付けると、貨物車両の車幅を規制値内に収めることができない事態に陥る可能性があり、改善の余地がある。また、アオリ本体に傾斜角センサを直接取り付ける態様であれば、配線を引き回すスペースの確保も難しく、アオリ本体の開閉動作に常に従動する配線類の損傷も起こり易いという問題がある。
【0006】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、主たる目的は、アオリ自体に傾斜角センサを取り付ける構成を採用することなく、自動開閉するアオリの角度を推定可能なシステム、及びこのようなアオリ角度推定を備えたアオリ駆動機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、貨物車両の荷台に設けられたアオリをアクチュエータの駆動力によって自動開閉させるアオリ駆動機構に適用可能なアオリ角度推定システムに関するものである。荷台を有する貨物車両としては、トラック、トレーラ、ダンプカー等を挙げることができる。また、アオリは、ゲートとも称されるものであり、具体例として、荷台の側面を規定する側アオリ(サイドゲート)、荷台の後面を規定する後アオリ(テールゲート)を挙げることができる。
【0008】
そして、本発明に係るアオリ角度推定システムは、アオリ駆動機構のうちアオリの開閉動作に伴って移動する所定のパーツの状態値を直接または間接的に検出する状態値検出部と、アオリの開閉動作時に状態値検出部の検出値に基づいてアオリの回転角度を推定するアオリ回転角度推定部とを備えていることを特徴としている。
【0009】
このような本発明に係るアオリ角度推定システムであれば、アオリの開閉動作時に、アオリ駆動機構のうちアオリの開閉動作に伴って移動する所定のパーツの状態値(例えば回転角度)を状態値検出部で検出し、その検出値に基づいてアオリの回転角度をアオリ回転角度推定部で推定するように構成しているため、アオリの開閉動作に伴って移動する所定のパーツの状態値をモニタすることで、アオリの回転角度を推定することができ、アオリに傾斜角センサを設ける必要がなくなる。したがって、本発明に係るアオリ角度推定ステムによれば、アオリに傾斜角センサを設ける態様と比較して、アオリ角度推定ステムの導入による配線スペースの確保も容易になり、配線類がアオリ本体の開閉動作に常に従動する事態を避けることができ、配線類の損傷も起こり難く、システムの堅牢性、ひいては信頼性が向上する。また、本発明に係るアオリ角度推定ステムによれば、アオリの内向き面に傾斜角センサを設ける態様と比較して、貨物積載エリア(容積)を狭めることなく、荷物が傾斜角センサに接触することによるセンサの損傷・故障という事態も回避することができ、アオリの外向き面に傾斜角センサを設ける態様と比較して、貨物車両の車幅が傾斜角センサの設置分だけ規制値を超えてしまうという事態も回避することができ、実用性が極めて高いシステムになる。
【0010】
本発明に係るアオリ角度推定システムにおいて、状態値検出部が、アオリの開閉動作時にアオリの回転角度に比例して移動する所定のパーツの回転角度を検出値として検出するものであれば、その検出値がアオリの回転角度と同等または略同等であると捉えることができることから、アオリ回転角度推定部における推定処理時の負荷を低減することができる。
【0011】
特に、本発明に係るアオリ角度推定システムが、アオリの開閉動作に伴って移動する可動軸に一端を連結し且つ他端側の所定領域を状態値検出対象パーツである所定のパーツに連結した連結部材を備え、アオリの開閉動作に伴って連結部材が可動軸周りに回転するように構成し、さらに、可動軸にポテンショメータを設け、そのポテンショメータによって検出した可動軸の回転角度に基づいて特定可能な「所定のパーツの回転角度」を状態値として検出するように構成すると、比較的簡単な構成でありながら、状態値検出対象パーツである所定のパーツの回転角度を正確に検出することができる。
【0012】
この場合、ポテンショメータによる検出値をアオリ角度に変換するテーブルを備え、そのテーブルを用いてアオリの回転角度を推定するようにアオリ角度推定システムを構成すれば、ポテンショメータによる検出値が実際のアオリ角度と相違する場合であってもテーブルを介して適正なアオリ角度として推定・出力することができる。
【0013】
また、本発明に係るアオリ駆動機構は、貨物車両の荷台に設けられたアオリをアクチュエータの駆動力によって自動開閉させるものであって、上述したアオリ角度推定システムを備えていることを特徴としている。このようなアオリ駆動機構であれば、上述したアオリ角度推定システムと同様の種々の作用効果を奏し、トラック荷役作業の自動化が求められている現場に導入し易い駆動機構を実現することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アオリ駆動機構のうちアオリの開閉動作に伴って移動する所定のパーツに設けた加速度センサの検出値に基づいてアオリの衝突を検知することができるため、アオリの全面に検出系を設ける必要がなく、大規模な検出系が不要でありながらもアオリの自動開閉時の衝突を正確且つ迅速に検知可能なアオリ衝突検知システム、及びこのような衝突検知システムを備えたアオリ駆動機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係るアオリ角度推定システムを実装した貨物車両の全体模式図。
【
図3】同実施形態に係るアオリ駆動機構(アオリ角度推定システムを除く)を示す図。
【
図4】同実施形態に係るアオリ駆動機構によるアオリ自動開閉処理を時系列に並べて示す図。
【
図5】同実施形態に係るアオリ角度推定システムの構成図。
【
図6】同実施形態に係るアオリ推定システムを実装したアオリ駆動機構を
図3に対応して示す図。
【
図7】
図5のa方向から見たアオリ駆動機構の模式図。
【
図8】同実施形態におけるアオリ自動開閉時の連結部材の移動を時系列に並べて示す図。同実施形態におけるアオリ自動開閉処理時の加速度センサ検出例を示す図。
【
図9】同実施形態における第2アーム(アームB)の角度(ポテンショメータの検出値)とアオリ角度との関係を示す図(テーブル用データ)。
【
図10】同実施形態におけるアオリ角度推定処理のフローチャート。
【
図11】同実施形態における連結部材の長孔と第2アームのピンの配置関係を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0017】
本実施形態に係るアオリ衝突検知システムXは、例えば
図1に示す貨物車両T(トラック)に実装することで、荷台T1のアオリAが開閉動作中に障害物と衝突したことを検知可能なシステムである。
【0018】
トラックTは、タイヤT2が取り付けられたトラックボディT3と、このトラックボディT3に架載される荷台T1とを備えた大型トラック(例えば、25tトラック)である。
図1(a)、(b)はそれぞれトラックTの側面模式図、背面模式図である。
【0019】
トラックTの荷台T1は、荷室の床T6の周囲に設けた台枠T4にヒンジT5を介して回動自在に取り付けられ、荷室の左右の側面下部を開放可能に覆うアオリA(具体的には、左右にそれぞれ1対、合計4枚のアオリA)と、荷室の上方空間を開放可能に覆うウイングWとを備えている。なお、各アオリAを起立した閉状態(A1)を維持するために、台枠T4の左右の中間部及び端部には図示しない柱がそれぞれ設けられている。
【0020】
荷室の床T6及び台枠T4の下方には、種々の部品・機構が配設されている。したがって、荷室の床T6及び台枠T4の下方における空きスペースは、かなり狭く、このような狭いスペースに、
図2及び
図3に示す本実施形態のアオリ駆動機構Yを配置している。ここで、
図2にはアオリ駆動機構Y及びアオリ駆動機構Yを駆動させる駆動源である電源を含めた周辺機器(ハードウェア)を模式的に示している。また、
図3は、
図2のうち特にアオリ駆動機構Y周辺のハードウェアを抽出し、簡略化して模式的に示した図である。
【0021】
本実施形態では、アオリAの配置枚数(本実施形態では4枚)に対応した個数のアオリ駆動機構Yを荷室の床T6及び台枠T4の下方の空きスペースにそれぞれ設けて、各アオリAを各アオリ駆動機構Yによって個別に自動開閉可能に設定している。アオリ駆動機構Yにより、作業者にとって大きな負担となり得るアオリAの開閉作業を自動で実施することができ、トラックTの運転手が年配者や女性等の非力な人であってもアオリAの開閉作業を容易に実施することができる。
【0022】
アオリ駆動機構Yは、
図2及び
図3に示すように、アオリAを支持するブラケット1を備えている。ブラケット1は、閉状態(A1)にあるアオリAのアオリ回転軸(ヒンジT5)よりも高い位置でアオリAに固定したものであり、アオリ回転軸T5を中心にアオリAが開閉動作する際にアオリAと一体に回動する。アオリ駆動機構Yは、
図3に示すように、先端(上端)をブラケット1に枢着した第1アーム2と、荷室の床T6の周囲に設けた台枠T4よりも下側の空間において先端(上端)を第1アーム2の基端(下端)に枢着した第2アーム4と、台枠T4よりも下側の空間に横臥姿勢(横向き姿勢)で配置されるアクチュエータ5と、一端をアクチュエータ5の先端に枢着し、アクチュエータ5の進退動作に伴って固定軸6を中心に揺動する第3アーム7と、第3アーム7と第2アーム4とを連結する連結アーム8とを備えている。アオリ駆動機構Yは、このような複数のアームによって構成したリンク機構Lを備え、アクチュエータ5によってリンク機構Lを作動させることでアオリAを自動開閉させることができる。
【0023】
アクチュエータ5は、
図2に示す駆動モータ(例えば直流モータ)の回転力によって進退可能にしたロッドを備え、このロッドの先端を第3アーム7の適宜箇所に枢着したものである(
図3参照)。なお、駆動モータとして、直流モータ以外のモータ、例えば交流モータ、サーボモータ等を適用することも可能である。第3アーム7は、ロッドの進退動作に伴って固定軸6を中心に揺動する。連結アーム8を介して第3アーム7に連結されている第2アーム4は、第3アーム7の揺動に伴って回動する。したがって、アオリAが
図2及び
図3に示す+90度の起立姿勢である閉状態(A1)にある場合に、アクチュエータ5を駆動させてロッドを正方向に前進移動させると、第3アーム7、連結アーム8、第2アーム4が連動して移動し、第2アーム4の回動に伴って第1アーム2が起立姿勢のまま下方へ移動することによって、アオリAが閉状態(A1)から-90度の起立姿勢である開状態(A2)に漸次変化する。ここで、
図4に、アオリ駆動機構Yの動きに応じて、アオリAの角度が+90度(閉状態、同図(a))、+45度(同図(b))、0度(水平状態、(同図(c))、-45度(同図(d))、-90度(開状態、(同図(e))の順に変遷する過程を模式的に示す。ブラケット1は、アオリAの開閉動作と一体的に第1アーム2との接続部分である回転軸(ヒンジ)を中心に回転しながら移動する。アクチュエータ5としては、例えば24ボルトの電圧によって作動するモータがロッドを進退させる構造を備え、モータの回転を停止した場合にもロッドに与えた負荷を保持可能な負荷保持機構を備えたものを挙げることができる。
【0024】
アオリ駆動機構Yは、アオリAをモータの駆動力によって自動開閉させるものであり、具体的には、オペレータ(トラックの運転手等)による適宜のボタン、スイッチ、またはタッチパネル等の入力デバイスに対する駆動指令入力操作に基づく駆動指令(「アオリAを開放しなさい」、「アオリAを閉めなさい」等の指令であり、
図2に示す開閉指令と同義である)を上位のコントローラ(制御部C)が受け付けると、当該制御部Cが、アオリAの角度を所望の角度にするための角度指令を生成し、この角度指令と、実際のアオリ角度を用いて位置制御を行い、モータをどう動かすか(アクチュエータ5の進退移動距離)という速度指令を生成する。引き続いて、制御部Cが、モータ速度を速度指令に加減して速度制御を行い、電流指令を生成し、電流指令とモータ電流(実際にモータに入力される電流)を用いて電流制御を行い、モータを駆動させる。その結果、モータの駆動力によってアオリ駆動機構Yのロッドが進退移動し、アオリAを自動開閉させることができる。なお、
図2に示すように、アクチュエータ5の周辺に補助動力を付与する補助動力バネ機構51や、増速ギア部Gを配置したアオリ駆動機構Yを構成することもできる。
【0025】
本実施形態に係るアオリ駆動機構Yは、アオリAの開閉角度を推定するアオリ角度推定システムXを備えている。
【0026】
アオリ角度推定システムXは、
図5に示すように、アオリ駆動機構YのうちアオリAの開閉動作に伴って移動する各アーム(第1アーム2、第2アーム4、第3アーム7、連結アーム8)のうち、アオリAの開閉角度に応じて同等または略同等の動き、あるいは近似した動きを行うアーム(本実施形態では第2アーム4)の動作を検出することで、アオリAの角度を推定するものである。アオリ角度推定システムXは、
図5及び
図6に示すように、アオリ駆動機構Yのうちアオリの開閉動作に伴って(アオリAと同等または略同等の回転角度で)移動する所定のパーツである第2アーム4(本発明の「所定のパーツ」に相当)の状態値(回転角度)を直接または間接的に検出する状態値検出部X1と、アオリAの開閉動作時に状態値検出部X1の検出値に基づいてアオリAの回転角度を推定するアオリ回転角度推定部X2とを備えている。
【0027】
本実施形態に係るアオリ角度推定システムXは、
図5乃至
図7(
図7は
図5のa方向から見た模式図である)に示すように、アオリの開閉動作に伴って移動する可動軸3に一端を連結し、且つ他端側の所定領域を第2アーム4に連結した連結部材X3を備えている。連結部材X3は、例えば平板状をなすプレート体であり、他端側の所定領域に長手方向に延伸する長孔X31を有し、当該長孔X31に第2アーム4のピン41を収容した状態で配置されている。本実施形態では、連結部材X3の一端を可動軸3に連結し、連結部材X3が回転移動するように構成している。ここで、
図8に、アオリAの角度が+90度(閉状態、同図(a))、0度(水平状態、(同図(c))、-90度(開状態、(同図(e))の順に変遷する過程に応じて回転移動する連結部材X3を模式的に示す。同図に示すように、連結部材X3の回転移動は、長孔X31に収容した第2アーム4のピン41の移動に同期する。したがって、第2アーム4が移動しない限り連結部材X3も移動しない(その位置に留まる)一方、第2アーム4が移動すると第2アーム4のピン41は長孔X31内で移動し、その結果、連結部材X3が可動軸3を中心に回転移動する。この際、第2アーム4のピン41は、アオリAの角度に比例して移動する。
【0028】
そして、本実施形態では、可動軸3の同軸上にポテンショメータPを取り付けて、第2アーム4のピン41の動きに同期してポテンショメータPを回転するように構成している。このような構成により、可動軸3の回転角度をポテンショメータPによって検出し、電気信号に変換することで、第2アーム4の制御状態量(状態値)、つまり第2アーム4の回転角度を検出することが可能である。すなわち、本実施形態では、ポテンショメータPを用いて上述の状態値検出部X1を構成している。
【0029】
ポテンショメータPによる検出値は、第2アーム4の回転角度に一致または略一致するものであるが、実際のアオリAの角度とは異なる。そこで、本実施形態のアオリ角度推定システムXは、ポテンショメータPによる検出値をアオリ角度に変換するテーブルX4を備え(
図6参照)、このテーブルX4を用いてアオリAの回転角度を推定するように構成している。
図9に、本実施形態に係るアオリ角度推定システムXを実装したアオリ駆動機構Yを貨物車両に適用して観測したポテンショメータPの検出角度(同図中のアームB角度は第2アーム4の角度と同義である)とアオリAの実際の開閉角度(同図中のアオリ角度)の関係をグラフにしたものを示す。アオリ回転角度推定部X2は、ポテンショメータPによる検出値(回転角度)に基づいて、当該検知値からテーブルX4を用いてアオリAの開閉角度を推定するものである。本実施形態では
図9に示すグラフに基づくデータをテーブルX4で用いる。すなわち、
図9はテーブル用データである。テーブルX4のポテンショメータPの検出角度とアオリAの実際の開閉角度の関係は、理論値に基づいて設定してもよい。
【0030】
なお、連結部材X3の長孔X31として、
図11に模式的に示すように、両端の外縁形状が円弧状をなす小判状の長孔X31に設定した場合、アオリAの角度が+90度(閉状態、
図8(a))においては、ピン41が長孔X31のうち一端側の円弧状部X31aに当接せずに長手方向に延伸する2本の直線部分X31b,X31cのうち一方の直線部分X31bの一端部近傍に当接するように設定し(
図11(a)参照)、また、アオリAの角度が-90度(開状態、
図8(e))においては、ピン41が長孔X31のうち他端側の円弧状部X31dに当接せずに長手方向に延伸する2本の直線部分X31b,X31cのうち他方の直線部分X31cの他端部近傍に当接するように設定することがよい(
図11(b)参照)。これにより、アオリ角度を推定する際、アオリAの開閉動作中にポテンショメータPに伝達する回転トルク以外の外力を抑制でき、アオリ角度の推定精度を向上することができる。この場合、長孔X31の外縁を構成する長手方向に延伸する2本の直線部分X31b,31c同士の離間距離がピン41の直径よりも大きいことが条件になる。つまり、長孔X31内においてピン41があそびのある状態で配置されていることが肝要である。
【0031】
本実施形態に係るアオリ角度推定システムX全体の制御は、制御部Cが司り、アオリ回転角度推定部X2において推定したアオリAの開閉角度を、実際のアオリAの開閉角度としてモータ駆動によるアオリ駆動機構Yのフィードバック制御に利用している。なお、アオリ回転角度推定部X2で推定したアオリ角度が、フィードバック制御を利用しなくてもよい程度に精度良い場合、オープンループ制御等に利用しても構わない。制御部Cは、アオリ角度推定システムXやアオリ駆動機構Yよりも上位の制御部(上位コントローラ)であってもよいし、アオリ角度推定システムX専用の制御部であってもよい。制御部Cは、CPU、メモリ及びインターフェースを備えた通常のマイクロプロセッサ等により構成されるもので、メモリには予め処理に必要なプログラムが格納してあり、CPUは逐次必要なプログラムを取り出して実行し、周辺ハードリソースと協働して所期の機能を実現するものとなっている。
【0032】
以上の構成を備えた本実施形態に係るアオリ角度推定システムXによるアオリAの回転角度推定処理手順は以下の通りである。
【0033】
先ず、制御部Cが、オペレータの操作入力を受け付けると、当該受け付けた入力情報に応じた駆動指令(「アオリAを開放しなさい」、「アオリAを閉めなさい」等の指令)に基づき、アオリ駆動機構Yを駆動させてアオリAを閉状態(A1)から開状態(A2)へ、または開状態(A2)から閉状態(A1)へ切り替える。このアオリ自動開閉処理中に、アオリ角度推定システムXは、ポテンショメータPを用いた状態値検出部X1によって第2アーム4の状態値、つまり第2アーム4の回転角度を検出し(状態値検出ステップS1、
図10参照)、検出した状態値をテーブルX4に基づいてアオリAの回転角度を推定する(アオリ回転角度推定ステップS2)。アオリAの開閉動作が継続中であれば状態値検出ステップS1に戻り、上述の処理を繰り返す。
【0034】
以上の処理を経て、例えば、制御部Cが、推定したアオリ角度に基づいてアオリAの衝突を検知するように構成することもできる。具体的には、アオリ角度推定処理によって推定したアオリAの角度(実際のアオリ角度)と、アオリ駆動機構Yを駆動させるモータへの角度指令とを比較して、角度指令に対して実際のアオリ角度が所定の判定基準値を超えて異なっている場合にアオリAが衝突したと判定するように構成することができる。アオリAが衝突したと判定した場合には、適宜の衝突後の処理(モータを停止する処理、アオリAを衝突検出時の回転方向とは逆方向へ移動させる処理、警告音を発出させる処理、運転室内のモニタに警告表示する処理など)を実行すれば、安全性の向上に大きく貢献する。なお、アオリ駆動機構YによるアオリAの開閉動作には、アオリAの閉状態(A1)から開状態(A2)への切替や、開状態(A2)から閉状態(A1)への切替に限定されず、閉状態(A1)または開状態(A2)から任意のアオリ角度(―89度乃至+89度までの範囲における任意の角度)への切替や、任意のアオリ角度から閉状態(A1)または開状態(A2)への切替や、任意のアオリ角度間の切替も含まれる。
【0035】
このように、本実施形態に係るアオリ角度推定システムXによれば、アオリAの開閉動作時に、アオリ駆動機構YのうちアオリAの開閉動作に伴って移動する第2アーム4の状態値である回転角度を状態値検出部X1で検出し、その検出値に基づいてアオリAの回転角度をアオリ回転角度推定部X2で推定するように構成しているため、アオリAの開閉動作に伴って移動する第2アーム4の状態値である回転角度をモニタすることで、アオリAの回転角度を推定することができ、アオリAに傾斜角センサを設ける必要がなくなる。したがって、本実施形態に係るアオリ角度推定ステムXによれば、アオリAに傾斜角センサを設ける態様と比較して、アオリ角度推定ステムXの導入による配線も容易になり、配線類がアオリAの開閉動作に常に従動する事態を避けることができ、配線類の損傷も起こり難く、システムの堅牢性、ひいては信頼性が向上する。また、本実施形態に係るアオリ角度推定ステムXによれば、アオリAの内向き面に傾斜角センサを設ける態様と比較して、貨物積載エリアの邪魔をしない(容積を狭めない)というメリットがあり、アオリAの外向き面に傾斜角センサを設ける態様と比較して、貨物車両Tの車幅を規制値内に収めることができるというメリットがあり、極めて有用性が高いシステムになる。
【0036】
特に、本実施形態に係るアオリ角度推定システムXによれば、状態値検出部X1が、リンク機構LのうちアオリAの開閉動作時にアオリAの回転角度に比例して移動する第2アーム4の回転角度を状態値として検出するものであるため、その状態値が実際のアオリAの回転角度と同等または略同等あるいは近似した動きであると捉えることができることから、アオリ回転角度推定部X2における推定処理時の負荷を低減し、推定処理速度の向上にも貢献する。
【0037】
さらに、本実施形態に係るアオリ角度推定システムXによれば、アオリAの開閉動作に伴って移動する可動軸3に一端を連結し且つ他端側の所定領域を状態値検出対象パーツである第2アーム4に連結した連結部材X3を備え、アオリAの開閉動作に伴って連結部材X3が可動軸3周りに回転するように構成し、可動軸3に設けたポテンショメータPによって検出した可動軸3の回転角度に基づいて特定可能な「第2アーム4の回転角度」を状態値として検出するように構成しているため、比較的簡単な構成でありながら、状態値検出対象パーツである第2アーム4の回転角度を正確に検出することができ。システム導入による高コスト化も回避することができる。
【0038】
また、本実施形態に係るアオリ角度推定システムXによれば、ポテンショメータPによる検出値をアオリ角度に変換するテーブルX4を備え、そのテーブルX4を用いてアオリAの回転角度を推定するように構成しているため、ポテンショメータPによる検出値が実際のアオリ角度と相違する場合であってもテーブルX4を介して適正なアオリ角度として推定・出力することができる。
【0039】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態の構成に限られるものではない。例えば、上述の実施形態では、アオリAの開閉動作に伴って移動する第2アーム4の状態値である回転角度をモニタすることで、アオリAの回転角度を推定するように構成しているが、これに限らない。例えば、アオリ駆動機構を構成する他のパーツ、例えば、リンク機構を構成する複数のアームから選択した任意のアームや、アーム同士を連結する軸(アオリの開閉動作に伴って移動する軸)、あるいはアオリ駆動機構のブラケットを本発明における「所定のパーツ(状態値検出対象パーツ)」として本発明のアオリ角度推定システムを実現することもできる。
【0040】
特に、アオリ駆動機構のうちアオリの開閉動作に応じてアオリと同等の動き(あるいは近似した動き)を行う構成部品の動作を、本発明における「所定のパーツ(状態値検出対象パーツ)の状態値」として検出することで、アオリ角度の推定を行うように構成することが好ましい。
【0041】
また、連結部材を用いる場合には、連結部材の一端を、アオリ駆動機構を構成する軸のうちアオリの開閉動作に伴って移動する可動軸(上述の実施形態では可動軸3)に連結する態様に代えて、専用の可動軸(アオリ駆動機構を構成しない可動軸)または固定軸(アオリの開閉動作に伴って移動しない軸)に連結する態様を採用してもよい。さらに、連結部材の他端側の所定領域に形成した長孔に、アームのピンを収容する態様に代えて、アオリ駆動機構の構成するパーツ同士を連結する軸であって且つアオリの開閉動作に伴って移動する軸(可動軸)を収容した態様を採用することもできる。また、アオリの開閉動作に伴う連結部材の回転角度範囲によっては、連結部材の他端側に、長孔ではなく他端側に開放された切欠(スリット)を形成し、切欠にピン(突起)または可動軸を収容する構成にしてもよい。この場合、アオリの開閉動作中における連結部材が何れの回転角度にあっても切欠からピンまたは可動軸が抜け落ちないことが適用条件になる。
【0042】
本発明には、ポテンショメータによる検出値をアオリ角度に変換するテーブルを備えず、ポテンショメータによる検出値をそのままアオリの回転角度として推定する構成も含まれる。
【0043】
また、状態値検出部が、ポテンショメータを用いずに、状態値検出対象パーツの回転角度を直接検出するセンサを用いたものであっても構わない。
【0044】
アオリ駆動機構のうちアオリの開閉動作に伴って移動する所定のパーツの状態値として、アクチュエータの進退移動量を状態値検出部で検出し、その検出値に基づいてアオリの回転角度をアオリ回転角度推定部で推定するように構成する態様も本発明に含まれる。
【0045】
アオリ駆動機構の具体例は、上述のアオリ駆動機構Yに限定されず、アクチュエータの駆動力によってアオリを自動開閉する機構であれば、本発明のアオリ角度推定システムを適用することができる。アオリ角度推定システムは、アオリ駆動機構が備えるシステムであってもよいし、アオリ駆動機構とは機械的または電気的に分離されたシステムであってもよい。
【0046】
本発明のアオリ角度推定システム単体、またはアオリ角度推定システムを備えたアオリ駆動が実装可能な貨物車両は、トラック(積載量に応じて区分される小型トラック(2トン・3トントラック)、中型トラック(4トントラック)、大型トラック(10トントラック)、軽トラック)に限定されず、トレーラ、ダンプカー等の貨物車両にも実装することができる。
【0047】
上述した実施形態では、アオリとして、荷台の側面を規定するサイドアオリ(側部アオリ)を例にしたが、荷台の後面を規定する後部アオリの開閉動作時の衝突検知を行うこともできる。なお、アオリは、ゲート(サイドゲート、バックゲート)とも称される。
【0048】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0049】
A…アオリ
T…貨物車両(トラック)
T1…荷台
P…ポテンショメータ
X…アオリ角度推定システム
X1…状態値検出部
X2…アオリ回転角度推定部
X3…連結部材
X4…テーブル
Y…アオリ駆動機構