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特開2023-91221磁気冷凍材料、その製造方法、それを用いたAMRベッド、および、磁気冷凍装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091221
(43)【公開日】2023-06-30
(54)【発明の名称】磁気冷凍材料、その製造方法、それを用いたAMRベッド、および、磁気冷凍装置
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/07 20060101AFI20230623BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20230623BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20230623BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20230623BHJP
   C21D 6/00 20060101ALI20230623BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20230623BHJP
   B22F 1/17 20220101ALI20230623BHJP
   B22F 1/16 20220101ALI20230623BHJP
   H01F 1/01 20060101ALI20230623BHJP
   F25B 21/00 20060101ALI20230623BHJP
【FI】
C22C19/07 C
C22C19/03 D
C22C21/00 N
C22C38/00 303D
C21D6/00 A
B22F1/00 W
B22F1/17 100
B22F1/16 100
H01F1/01 150
F25B21/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021205853
(22)【出願日】2021-12-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「磁気冷凍材料および水素液化システムに関する研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】許 亜
(72)【発明者】
【氏名】大吉 啓司
(72)【発明者】
【氏名】武田 良彦
(72)【発明者】
【氏名】竹屋 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】山本 貴史
【テーマコード(参考)】
4K018
5E040
【Fターム(参考)】
4K018AD20
4K018BB04
4K018BC01
4K018BC22
4K018BC23
4K018BC28
4K018KA42
5E040AA14
5E040CA20
5E040NN05
(57)【要約】
【課題】 耐水素バリア性を有する磁気冷凍材料、その製造方法、それを用いたAMRベッド、および、磁気冷凍装置を提供すること。
【解決手段】 本発明の磁気冷凍材料は、一般式RT(ただし、Rは、少なくとも1種類以上の希土類元素であり、Tは、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、および、鉄(Fe)からなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素である)で表されるラーベス相化合物であり、表面に銅(Cu)の酸化物を含有するバリア層を有する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式RT(ただし、Rは、少なくとも1種類以上の希土類元素であり、Tは、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、および、鉄(Fe)からなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素である)で表されるラーベス相化合物であり、
表面に銅(Cu)の酸化物を含有するバリア層を有する、磁気冷凍材料。
【請求項2】
前記バリア層は、Tの酸化物をさらに含有する、請求項1に記載の磁気冷凍材料。
【請求項3】
前記バリア層は、Cu金属をさらに含有する、請求項1または2に記載の磁気冷凍材料。
【請求項4】
前記バリア層は、一般式RTで表される相を含有する、請求項3に記載の磁気冷凍材料。
【請求項5】
前記バリア層は、Rの酸化物をさらに含有する、請求項4に記載の記載の磁気冷凍材料。
【請求項6】
前記バリア層は、1μm以上20μm以下の範囲の厚さを有する、請求項1~5のいずれかに記載の磁気冷凍材料。
【請求項7】
前記バリア層は、組成式Cu(a、b、cおよびdは、それぞれの元素の原子パーセント(at%)を示し、a+b+c+d=100を満たす)で表され、パラメータa~dは、それぞれ、
45≦a≦90、
0≦b≦8、
0≦c≦8、および、
5≦d≦60
を満たす、請求項1~6のいずれかに記載の磁気冷凍材料。
【請求項8】
前記パラメータa~dは、それぞれ、
50≦a≦55、
0.5≦b≦2、
1≦c≦5、および、
38≦d≦50
を満たす、請求項7に記載の磁気冷凍材料。
【請求項9】
前記ラーベス相化合物と前記バリア層との間にRの酸化物を含有する酸化膜を有する、請求項1~8のいずれかに記載の磁気冷凍材料。
【請求項10】
前記酸化膜は、一般式RTで表される相をさらに含有する、請求項9に記載の記載の磁気冷凍材料。
【請求項11】
前記酸化膜は、1μm以上30μm以下の範囲である、請求項9または10に記載の磁気冷凍材料。
【請求項12】
球近似をした場合に、直径は、10μm以上3000μm以下の範囲を満たす、請求項1~11のいずれかに記載の磁気冷凍材料。
【請求項13】
一般式RT(ただし、Rは、少なくとも1種類以上の希土類元素であり、Tは、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、および、鉄(Fe)からなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素である)で表されるラーベス相化合物の表面を処理することと、
前記表面処理されたラーベス相化合物に銅(Cu)からなるCu皮膜を形成することと、
前記Cu被膜が形成されたラーベス相化合物を加熱し、酸化することと
を包含する、請求項1~12のいずれかに記載の磁気冷凍材料を製造する方法。
【請求項14】
前記表面を処理することは、前記ラーベス相化合物を酸水溶液に浸漬させる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記Cu被膜を形成することは、無電解メッキ法を用いる、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記Cu被膜は、2μm以上25μm以下の範囲の厚さを有する、請求項13~15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記加熱し、酸化することは、前記Cu被膜が形成されたラーベス相化合物を、200℃以上600℃以下の温度範囲で酸素を含有する雰囲気中で熱処理する、請求項13~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記表面を処理することに先立って、前記ラーベス相化合物を均質化処理することをさらに包含する、請求項13~17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
請求項1~12のいずれかに記載の磁気冷凍材料を備えるAMRベッド。
【請求項20】
AMRベッドを備える磁気冷凍装置であって、
前記AMRベッドは、請求項19に記載のAMRベッドである、磁気冷凍装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気冷凍材料、その製造方法、それを用いたAMRベッド、および、磁気冷凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
省エネ・低炭素化社会が進む未来水素社会の実現のためには、気体水素の1/800の体積であり、大量輸送、大量供給、大量貯蔵、省スペース、超高純度の特徴を持つ液体水素の活用が不可欠であるが、現状の圧縮機による水素液化技術には、製造時の液化効率の低さや蒸発による損失などの問題がある。ここで、磁気冷凍は、磁気熱量効果を示す磁性材料を冷媒として用いる冷却技術であり、磁場増加・減少のサイクルによって強磁性・常磁性相転移を起こし、そこで生じる吸熱反応・発熱反応を利用して冷凍する。磁気冷凍機は、気体の圧縮・膨張による冷凍機と比較して、エネルギー効率が高く、低コストで水素を液化することが可能な冷凍機として開発がなされている。
【0003】
磁気冷凍材料としてErCoが報告されている(例えば、非特許文献1)。ErCoは、ラーベス相系化合物の中でも最大のエントロピー変化を示し、かつ、望ましいキュリー温度Tを示し、水素液化のための巨大な磁気熱量効果材料の有力な候補である。
【0004】
しかしながら、このような磁気冷凍材料を水素雰囲気で使用する場合、水素が磁気冷凍材料内部に侵入し、水素化物が生成され、粉化するとともに、磁気特性も大きく変化することが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】H.Wadaら,Cryogenics 39,1999,915-919
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上から、本発明の課題は、耐水素バリア性を有する磁気冷凍材料、その製造方法、それを用いたAMRベッド、および、磁気冷凍装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の磁気冷凍材料は、一般式RT(ただし、Rは、少なくとも1種類以上の希土類元素であり、Tは、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、および、鉄(Fe)からなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素である)で表されるラーベス相化合物であり、表面に銅(Cu)の酸化物を含有するバリア層を有し、これにより上記課題を解決する。
前記バリア層は、Tの酸化物をさらに含有してもよい。
前記バリア層は、Cu金属をさらに含有してもよい。
前記バリア層は、一般式RTで表される相を含有してもよい。
前記バリア層は、Rの酸化物をさらに含有してもよい。
前記バリア層は、1μm以上20μm以下の範囲の厚さを有してもよい。
前記バリア層は、組成式Cu(a、b、cおよびdは、それぞれの元素の原子パーセント(at%)を示し、a+b+c+d=100を満たす)で表され、パラメータa~dは、それぞれ、
45≦a≦90、
0≦b≦8、
0≦c≦8、および、
5≦d≦60
を満たしてもよい。
前記パラメータa~dは、それぞれ、
50≦a≦55、
0.5≦b≦2、
1≦c≦5、および、
38≦d≦50
を満たしてもよい。
前記ラーベス相化合物と前記バリア層との間にRの酸化物を含有する酸化膜を有してもよい。
前記酸化膜は、一般式RTで表される相をさらに含有してもよい。
前記酸化膜は、1μm以上30μm以下の範囲であってもよい。
球近似をした場合に、直径は、10μm以上3000μm以下の範囲を満たしてもよい。
本発明による上記磁気冷凍材料を製造する方法は、一般式RT(ただし、Rは、少なくとも1種類以上の希土類元素であり、Tは、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、および、鉄(Fe)からなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素である)で表されるラーベス相化合物の表面を処理することと、前記表面処理されたラーベス相化合物に銅(Cu)からなるCu皮膜を形成することと、前記Cu被膜が形成されたラーベス相化合物を加熱し、酸化することとを包含し、これにより上記課題を解決する。
前記表面を処理することは、前記ラーベス相化合物を酸水溶液に浸漬させてもよい。
前記Cu被膜を形成することは、無電解メッキ法を用いてもよい。
前記Cu被膜は、2μm以上25μm以下の範囲の厚さを有してもよい。
前記加熱し、酸化することは、前記Cu被膜が形成されたラーベス相化合物を、200℃以上600℃以下の温度範囲で酸素を含有する雰囲気中で熱処理してもよい。
前記表面を処理することに先立って、前記ラーベス相化合物を均質化処理することをさらに包含してもよい。
本発明によるAMRベッドは、上記磁気冷凍材料を備え、これにより上記課題を解決する。
本発明による磁気冷凍装置は、上記磁気冷凍材料を備えたAMRベッドを備え、これにより上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0008】
本発明による磁気冷凍材料は、一般式RT(ただし、Rは、少なくとも1種類以上の希土類元素であり、Tは、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、および、鉄(Fe)からなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素である)で表されるラーベス相化合物であり、表面に銅(Cu)の酸化物を含有するバリア層を有する。ラーベス相化合物を主成分とするため、最大のエントロピー変化を示し、かつ、望ましいキュリー温度Tを示し、水素液化のための巨大な磁気熱量効果を有する。さらに、表面にCuの酸化物を含有するバリア層を有することにより、耐水素バリア性が向上し得る。このような磁気冷凍材料は、AMRベッドに適用され、さらに磁気冷凍装置を提供できる。
【0009】
本発明による上述の磁気冷凍材料の製造方法は、ラーベス相化合物の表面を処理することと、表面処理されたラーベス相化合物に銅(Cu)からなるCu皮膜を形成することと、Cu被膜が形成されたラーベス相化合物を加熱し、酸化することとを包含する。表面を処理することにより、表面に付着した不純物などを除去できる。Cu被膜を形成後、酸化することによって、上記磁気冷凍材料が得られるため、特別な技術を不要とするため低コスト化を可能とし、量産化に有利である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明による磁気冷凍材料を示す模式図
図2】ErCoの結晶構造を示す模式図
図3】発明による別の磁気冷凍材料を示す模式図
図4】本発明による磁気冷凍材料を製造する工程を示すフローチャート
図5】本発明による磁気冷凍装置を示す模式図
図6】アトマイズ法で製造したErCo粒子のSEM像を示す図
図7】例1の表面処理条件によって得られたErCo粒子の断面SEM像を示す図
図8】例8のCu被膜のみの粒子の断面のSEM像を示す図
図9】例4の粒子の外観のSEM像を示す図
図10】例4の粒子の断面のSEM像を示す図
図11】例6の粒子の断面のSEM像を示す図
図12】例7の粒子の断面のSEM像を示す図
図13】例4の試料を用いた際の水素暴露試験における水素圧力変化を示す図
図14】例5の試料を用いた際の水素暴露試験における水素圧力変化を示す図
図15】例8の試料を用いた際の水素暴露試験における水素圧力変化を示す図
図16図13図15の結果をまとめて示す図
図17】例4の試料の水素暴露試験前後の磁気特性を示す図
図18】例4の試料のXRDパターンを示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明による磁気冷凍材料およびその製造方法について説明する。
【0012】
図1は、本発明による磁気冷凍材料を示す模式図である。
図2は、ErCoの結晶構造を示す模式図である。
【0013】
本発明の磁気冷凍材料100は、一般式RT(ただし、Rは、少なくとも1種類以上の希土類元素であり、Tは、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、および、鉄(Fe)からなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素である)で表されるラーベス相化合物110を主成分とし、その表面に銅(Cu)の酸化物を含有するバリア層120を有する。図1では分かりやすさのために、粒子形状である磁気冷凍材料100の断面の様子を示す。
【0014】
図2には、ラーベス相化合物110のうちRがエルビウム(Er)であり、Tがコバルト(Co)であるErCoの結晶構造が示される。構造は、ラーベス相のMgCu型であり、格子パラメータはa=b=c=7.153Å、α=β=γ=90°である。このようなラーベス相では原子半径比がおおよそ1.2:1のA、B金属元素がABの組成比で結合して化合物を形成している。大きな原子Aと小さな原子Bからなる結晶構造は大小の球の詰め込み構造と考えられ、特定の格子位置であるAサイトおよびBサイトに入る。Aサイトは4ヶのAと12ヶのB原子を隣接原子として持ち、Bサイトは6ヶのA原子と6ケのB原子によって取り囲まれる。現想的なラーベス相結晶では、A-A原子、B-B原子はそれぞれ接触し、A-B原子間の接触はないように原子充填が行なわれている。このような場合に,両原子の原子半径比には、RA/RB=√3/2=1.225の関係が成立する。一般に、Aサイトに配置された原子はダイヤモンド構造と同様な配置となり、Bサイトの原子はAサイト周りに4面体を形成する。ラーベス相化合物は一種の稠密充填構造なので、面心立方格子と六方稠密格子の違いに似た原子の積み重ねの違いによって,cubicのMgCu型(C15)、hexagonalのMgZn型(C14)、MgNi型(C36)の3種類の結晶構造を有している。
【0015】
Tがアルミニウム(Al)である、RAl(R=Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Lu)は、RAl中の希土類金属の磁気モーメント間に明らかに強磁性的な交換相互作用が働いているが、HoAlにみられるように、得られた磁気モーメントはHoの3価イオンの理論的モーメント値gIより低いとされた。
【0016】
例えば、RT(R=Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb)において、RNi(R=Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm)、RCo(R=Y、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Lu)、RFe(R=Ce、Sm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Lu、Y)の磁気のデータが既に調べられている。
【0017】
このように、ErCo、ErNi、ErAl、ErFeは、MgCu型のラーベス相金属間化合物であるだけでなく、磁気冷凍材料として機能を発揮することが明らかである。また、これらの表面の酸化物層は、耐水素バリア性を有し得る。以下では、特に、ErCoについて述べるが、同様なことは、これらの何れのラーベス相金属間化合物も同様であることは、当業者に理解される。
【0018】
このように、本発明の磁気冷凍材料100はラーベス相化合物110を主成分とするため、最大のエントロピー変化を示し、かつ、望ましいキュリー温度Tを示し、水素液化のための巨大な磁気熱量効果を有する。さらに、表面にCuの酸化物を含有するバリア層120を有することにより、水素化物が生成されず、粉化が抑制され、耐水素バリア性が向上し得る。さらに、Cuの酸化物を含有するバリア層120であれば、磁気特性を低下させない。
【0019】
図1に示すように、本発明の磁気冷凍材料100は、好ましくは、粒子の形状を有する。これにより、後述する磁気冷凍装置に適用した際に、気体や液体との熱交換を大きくできる。なお、図1では磁気冷凍材料100が真球であるものとして示すが、分かりやすさのための模式図であり、実際には種々のアスペクト比を有する球状であることを理解されたい。
【0020】
本発明の磁気冷凍材料100は、球近似した場合、10μm以上3000μm以下の範囲の粒径(平均粒径)を満たす。これにより、磁気冷凍装置に適用できる。例えば、球形近似で、50μm以上、100μm以上、200μm以上としてもよく、2000μm以下、1000μm以下、500μm以下の径を有する粒子状であってもよい。中でも、本発明の磁気冷凍材料100は、200μm以上400μm以下の範囲の粒径を満たす場合、熱交換を最大化できるため好ましい。
【0021】
なお、平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察された画像において、画像解析ソフトを用い、無作為に選んだ粒子100点の粒径を測定し、その平均粒径とする。本願明細書では、画像解析ソフトにはImage J(ver. 1.51n;オープンソースでパブリックドメインの画像処理ソフトウェア)を用いた。
【0022】
当然ながら、高い耐水素バリア性を得るためには、バリア層120は、ラーベス相化合物110の表面全体を被覆することが望ましいが、バリア層120は、ラーベス相化合物110の表面積の少なくとも80%を被覆していればよい。これにより、耐水素バリア性が向上し得る。
【0023】
バリア層120は、Cuの酸化物を含有するが、Cuの酸化物は、酸化銅(II)であってよい。本願発明者らは、CuOが耐水素バリア性に有効であることを見出した。水素化物の生成の抑制の観点から、バリア層120中のCuOの含有量は、10質量%以上であればよく、好ましくは40質量%以上であればよい。含有量はX線回折パターンの強度比から算出できる。
【0024】
バリア層120は、CuO単体からなってよいが、CuOに加えて、T(Tは、Co、Ni、Al、および、Feからなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素である)の酸化物をさらに含有してもよい。Tは、ラーベス相化合物110の構成元素であるため、バリア層120とラーベス相化合物110との密着性が向上し得る。例えば、TがCoである場合、Tの酸化物はCoOであってよい。TがNi、Al、Feである場合には、それぞれ、Tの酸化物は、NiO、Al、FeO、Fe、Feであってよい。バリア層120中のTの酸化物の含有量は、好ましくは、0質量%以上40質量%以下であってよい。
【0025】
バリア層120は、製造時に未反応で残るCu金属をさらに含有してもよい。Cu金属であれば酸化銅になりやすく、耐水素バリア性に寄与し得る。Cu金属の含有量は、0質量%以上10質量%以下であってよい。
【0026】
バリア層120は、一般式RTで表される相をさらに含有してもよい。例えば、RがErであり、TがCoである場合、ErCoは、フェリ磁性として知られ、三方晶系の結晶構造を有し、R3-m(「-」は3のオーバーバーを表す)の空間群に属する。ErCoは、製造時あるいは使用環境下にも生成する可能性があるが、磁気特性を低下させることはない。バリア層120とラーベス相化合物110との密着性の向上が期待できる。RTで表される相の含有量は、好ましくは、0質量%以上50質量%以下であってよい。
【0027】
バリア層120は、R(Rは希土類元素)の酸化物をさらに含有してもよい。例えば、RがErである場合、Erは、製造時あるいは使用環境下にも生成する可能性があるが、磁気特性を低下させることはない。バリア層120とラーベス相化合物110との密着性の向上が期待できる。Rの酸化物の含有量は、好ましくは、0質量%以上10質量%以下であってよい。上述のバリア層120の相の含有量は、X線回折パターンのピーク強度から算出できる。
【0028】
バリア層120は、組成式Cuで表され、ここで、a、b、cおよびdは、それぞれの元素の原子パーセント(at%)を示し、a+b+c+d=100を満たす。パラメータa~dは、それぞれ、好ましくは、
45≦a≦90、
0≦b≦8、
0≦c≦8、および、
5≦d≦60
を満たす。これにより耐水素バリア性を向上し得る。
【0029】
パラメータa~dは、
45≦a≦90、
0.5≦b≦8、
0.5≦c≦8、および、
5≦d≦60
を満たしてもよい。これにより、バリア層120がCuO単相以外であっても耐水素バリア性を維持し得る。
【0030】
パラメータa~dは、それぞれ、
50≦a≦55、
0.5≦b≦2、
1≦c≦5、および、
38≦d≦50
を満たしてもよい。これにより、厳しい製造条件を不要とし、耐水素性を備えたバリア層120を有する磁気冷凍材料を提供できる。
【0031】
バリア層120は、好ましくは、1μm以上20μm以下の範囲の厚さを有する。この範囲であれば、耐水性が向上し得る。バリア層120は、より好ましくは、3μm以上12μm以下の範囲の厚さを有する。
【0032】
バリア層120は、好ましくは、上述の相からなる微小粒子の集合体からなってよい。これにより、緻密な表面となり、耐水素バリア性が向上し得る。このような微小粒子は、好ましくは、100nm以上300nm以下の範囲の粒径を有する。これにより、より緻密な表面となる。なお好ましくは、微小粒子は、150nm以上250nm以下の範囲の粒径を有する。
【0033】
図3は、発明による別の磁気冷凍材料を示す模式図である。
【0034】
図3に示すように、本発明の磁気冷凍材料100Aは、ラーベス相化合物110とバリア層120との間に酸化膜130をさらに備えてもよい。酸化膜130は、ラーベス相化合物110の酸化を抑制するとともに、バリア層120の密着性を向上し得る。
【0035】
酸化膜130は、製造時に形成される自然酸化膜であり、Rの酸化物を含有する。酸化膜130は、Rの酸化物に加えて、一般式RTで表される相をさらに含有してもよい。Rの酸化物およびRTで表される相は、上述したとおりであるため説明を省略する。
【0036】
酸化膜130は、好ましくは、1μm以上30μm以下の範囲の厚さを有する。この範囲であれば磁気特性は低下しない。酸化膜130は、より好ましくは、3μm以上12μm以下の範囲の厚さを有する。
【0037】
磁気冷凍材料100または100Aの粒子全体の体積に対するバリア層120および酸化膜130の体積の比は、3/4以下となるように、バリア層120および酸化膜130の厚さを設定するとよい。これにより、耐水素バリア性を維持しつつ、磁気特性の劣化を抑制できる。
【0038】
次に、本発明による磁気冷凍材料の製造方法を説明する。
図4は、本発明による磁気冷凍材料を製造する工程を示すフローチャートである。
【0039】
本発明の磁気冷凍材料を製造する工程は、以下のステップを包含する。
ステップS410:一般式RT(ただし、Rは、少なくとも1種類以上の希土類元素であり、Tは、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、および、鉄(Fe)からなる群から選択される少なくとも1種類以上の元素である)で表されるラーベス相化合物の表面を処理する。
ステップS420:表面処理されたラーベス相化合物に銅(Cu)からなるCu皮膜を形成する。
ステップS430:Cu被膜が形成されたラーベス相化合物を加熱し、酸化する。
【0040】
本願発明者らは、磁気冷凍材料としてRTで表されるラーベス相化合物に着目し、多数存在する金属のうち導電性に優れたCuを被膜に選択としたところ、Cuをラーベス相化合物に密着性よく被覆することができた。さらに、そのような被膜を加熱し、酸化することによって、水素の侵入を防ぐバリア膜として機能することを見出し、耐水素バリア性が向上した磁気冷凍材料の製造に成功した。各工程について詳細に説明する。
【0041】
ステップS410で使用する式RTで表されるラーベス相化合物は、溶融法などによって得たインゴッドにガスアトマイズ法、機械的方法などを適用して調製してよい。中でも、ガスアトマイズ法であれば、上述の粒径を有する粒子状のラーベス相化合物を得られるため好ましい。
【0042】
ステップS410において、表面処理は、ラーベス相化合物の表面に位置する有機汚染物や自然酸化膜を除去するものであれば特に制限はないが、例えば、エッチング処理、脱脂処理、デスマット処理、電解研磨処理などがある。このような表面処理により、後述のステップS420において、ラーベス相化合物とCu被膜との密着性を向上させることができる。緻密なCu被膜を形成できる。
【0043】
表面処理は、好ましくは、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、フッ酸に代表される酸水溶液を用いたエッチング処理である。これにより、簡便に表面の有機汚染物や自然酸化膜を除去できる。具体的には、1体積%以上10体積%以下の範囲の濃度の水溶液にラーベス相化合物を浸漬し、10秒以上保持すればよい。上限は特に設けていないが、保持時間が長いほど、ラーベス相化合物それ自身も削られるため、上限は15分でよく、より好ましくは10秒以上30秒以下の時間、保持すればよい。表面処理後は、蒸留水等により洗浄するとよい。
【0044】
ステップS420において、Cu被膜の形成方法を特に制限はないが、Cu被膜は、好ましくは、無電解メッキ法によって形成される。これにより、ラーベス相化合物が粒子状の形状であっても、均一なCu被膜が可能となる。また、上述の表面処理により、表面に隙間や凹凸などの欠陥があっても、無電解メッキ法であれば、欠陥を埋めるようにCu被膜を形成できるので、緻密なCu被膜を形成できる。
【0045】
Cu被膜は、好ましくは、2μm以上25μm以下の範囲となるように形成するとよい。この範囲であれば、上述のバリア層120(図1図2)を形成できる。当業者であれば、無電解メッキ法のメッキ時間などの条件の制御によって、所望の厚さを有するCu被膜を形成できることを理解する。
【0046】
ステップS430において、Cu被膜がCuの酸化物になれば、加熱の条件は特に制限はないが、例示的には、Cu被膜が形成されたラーベス相化合物を、200℃以上600℃以下の温度範囲で酸素を含有する雰囲気中で熱処理すればよい。この温度範囲であれば、Cu被膜からCuOが形成される。また、酸素を含有する雰囲気として、大気中であってよい。熱処理の時間は、Cu被膜の厚さにもよるが、例示的には、3分以上60分以下、より好ましくは、3分以上35分以下、なお好ましくは、3分以上15分以下の範囲であってよい。
【0047】
加熱・酸化の時間が長くなると、Cu被膜の酸化に加えて、Cu被膜とラーベス相化合物との間に酸化膜130(図3)が形成し得る。
【0048】
ステップS410に先立って、ラーベス相化合物を均質化処理することが好ましい。これにより、ラーベス相化合物の磁気特性を改善できる。例示的には、ラーベス相化合物を、アルゴンガスなどの不活性雰囲気下、または、真空下において、700℃以上900℃以下の温度範囲で1日以上10日以下の範囲の間熱処理すればよい。
【0049】
(実施の形態2)
実施の形態2では、実施の形態1で説明した磁気冷凍材料を用いた磁気冷凍装置について説明する。
図5は、本発明による磁気冷凍装置を示す模式図である。
【0050】
磁気冷凍装置200は、磁気冷凍材料210が充填されたAMRベッド220と、これに磁場を印加する磁場印加手段230と、冷温により被冷却物を冷却する冷却ステージ290と、AMRベッド220における磁気冷凍仕事により発生した温熱を排熱する熱交換器240とを更に備える。ここで、磁気冷凍材料210には、実施の形態1で説明した磁気冷凍材料100、100Aを用いることができる。
【0051】
磁場印加手段230は、AMRベッド220に磁場を印加する任意の手段を適用でき、例えば、1~10T(テスラ)程度の強度の磁場を用いることが現実的である。磁場印加手段230として、超伝導マグネット、永久磁石等を採用できる。また、図示しない駆動機構によって、磁場印加手段230とAMRベッド220との相対位置を変化させて、AMRベッド220に印加される磁場の大きさを変化させることができる。
【0052】
AMRベッド220の高温側には予冷段260が設けられ、予冷段260の低温側には80Kシールド270が、予冷段260の高温側には300Kシールド280がそれぞれ接続して具備されている。更に、AMRベッド220の低温側には、冷却ステージ290が設けられ、液化容器250が冷却ステージ290と熱的に接続して具備されている。つまり、液化容器250には被冷却物となる気体が供給され液化される。また、AMRベッド220には熱輸送冷媒の流出入口が設けられ、磁気冷凍材料210の間隙を通って熱輸送冷媒がAMRベッド220の内部を往復流動できる構造となっている。
【0053】
液化容器250には、液化させるべき気体310(例えば、水素、ヘリウム(He)等)が、図示しないタンクより供給される。磁気冷凍装置200は、以下のようにして動作してもよい。磁気冷凍材料210が充填されたAMRベッド220に、磁場印加手段230により磁場を印加し、磁気冷凍材料210の温度を上昇させる。次いで、AMRベッド220の低温端側から高温端側に向かう方向300Aに熱輸送冷媒を流動させる。熱輸送冷媒はAMRベッド220の内部に充填された磁気冷凍材料210と熱交換して温熱を受け取りながら、磁気冷凍材料210の隙間を縫って流動し、AMRベッド220の高温端部より流出する。AMRベッド220の高温端部より流出した熱輸送冷媒は予冷段260を介して温熱を排熱する熱交換器240に流入し、余分な熱が外部へ排熱される。次いで、磁気冷凍材料210が充填された磁場を取り除き(減少させて)、磁気冷凍材料210の温度を降下させる。
【0054】
そして、AMRベッド220の高温端側から低温端側に向かう方向300Bに熱輸送冷媒を流動させる。熱輸送冷媒は予冷段260を介してAMRベッド220の高温端部に流入し、内部に充填された磁気冷凍材料210と熱交換して冷却されながら、磁気冷凍材料210の隙間を縫って流動し、AMRベッド220の低温端部に到達する。尚、熱輸送冷媒の流動は図示しない冷媒駆動手段によって駆動される。冷媒駆動手段は熱輸送冷媒をAMRサイクルに同期して往復流動する振動流を駆動できれば特に限定されるものではなく、ピストン、ブロアとバルブを組み合わせる方式等が挙げられる。
【0055】
AMRベッド220の低温端部の温度が液体水素の沸点(大気圧にて20K)よりも低下すると、液化容器250に供給される水素ガスは、AMRベッド220の低温端側に設けられた冷却ステージ290との熱交換により冷却され、濃縮液化する。このような工程を繰り返し、液化容器250の内部ではガスを周期的に液化ないし冷却する。
【0056】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例0057】
[ErCo粒子の合成]
原料として、長汀金龍稀土株式会社(Fujian Changting Golden Dragon Rare-Earth Co.,Ltd.)製の塊状Er(3N、純度99.9%)及び住友金属鉱山株式会社製の塊状Co(3N、純度99.9%)を、モル比でErCoになるように秤量し、アルゴン中で高周波溶解炉により溶解し、ErCoを合成した。ErCoが得られたことは、粉末X線回折から同定した。
【0058】
合成したErCoから鋳造インゴット棒を作製した。日新技研株式会社製のフリーフォール式ガスアトマイズ装置を用いて、この鋳造インゴット棒を電極として先端を1400℃ぐらいまで高周波溶解し、生じた落下溶湯流に、1~5MPaに加圧したアルゴンを、ガスジェットノズルを通して吹き付け、溶湯流を攪拌してアトマイズした。これにより、ErCo粒子を得た。
【0059】
得られたErCo粒子をタンタル箔に包み、ステンレス製の管内に配置し、このステンレス製の管内にアルゴンガスを約0.5気圧封入した。この封入管をマッフル炉に投入して、室温から約5℃/minの昇温速度で加熱し、850℃に到達後、1週間、その温度を維持した。その後、炉の電源を落として室温まで冷却した(均質化処理)。
【0060】
このようにして得られたErCo粒子を走査型電子顕微鏡(SEM、日本電子株式会社製、JSM-7000F)により観察した。結果を図6に示す。
【0061】
図6は、アトマイズ法で製造したErCo粒子のSEM像を示す図である。
【0062】
図6によれば、ErCo粒子は、330μmの粒径を有する球状であった。Image Jを用いて平均粒径を算出したところ、300μmであった。
【0063】
[例1~例3:表面処理の予備実験]
例1~例3では、均質処理後のErCo粒子(原料)を用いた表面処理の予備実験を行った。表面処理として4体積%の塩酸水溶液を用い、表1に示す条件にてエッチング処理(図4のステップS410)を行い、効果を調べた。例1~例3のエッチング処理で得られた粒子の断面を切断し、SEMにより観察した。また、断面の各部位の組成をSEM付属のエネルギー分散型X線分光装置(EDX)により測定した。結果を表1および図7に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
図7は、例1の表面処理条件によって得られたErCo粒子の断面SEM像を示す図である。
【0066】
図7において、グレースケールの明るく示される円形の領域と、その外側にグレースケールの暗く示される領域とが確認された。これらの外側には、粒子を固定するために用いた導電性の2液性エポキシ樹脂が示される。
【0067】
EDXによれば、明るく示される領域の組成は、ErCoに一致し、Er/Coの原子比は1.9であった。一方、暗く示される領域の組成は、Er34.86Co22.6942.45であり、Er/Coの原子比は1.5であった。このことから、粒子の表面では、ErがCoよりも多く溶出され、その後の乾燥やSEM観察のための切断などの加工によって、表面層のErとCoが空気中で酸化されたと考える。暗く示される領域の厚さは、場所によって変化しているが、5μm~15μmの範囲であった。
【0068】
なお、例2の表面処理条件によるErCo粒子の様態は、例1のそれと大きな変化は見られなかったが、例3のそれは、粒子全体の大きさが小さくなっていた。詳細には、例1のErCo粒子の重量の減少率は7.4%であり、例3のそれは23.5%であった。エッチング時間が長いと、過度にエッチングが進行するため、溶出損失の観点から、エッチング時間は10秒以上30秒以下の時間で十分であることが分かった。
【0069】
以上の結果から、以降の実験では、例1の表面処理条件で処理したErCo粒子を用いた。
【0070】
[例4~例12:バリア層を有する磁気冷凍材料]
例4~例7および例9~例12では、例1の表面処理したErCo粒子に、種々の厚さのCu被膜を形成し、種々の条件で加熱・酸化することによって、種々のバリア層を有する磁気冷凍材料を製造した。例8は、例4~例7の比較例であり、Cu被膜を形成し、加熱・酸化を行わなかった磁気冷凍材料である。
【0071】
表2に示す無電解Cuメッキ液を調製し、ErCo粒子を60分間または90分浸漬させ、Cu被膜を形成した(図4のステップS420)。Cu被膜が形成されたErCo粒子の断面を切断し、SEM観察し、EDXにより組成分析をした。結果を図8に示す。次いで、Cu被覆されたErCo粒子を、必要に応じて、大気中、200℃~500℃以下の温度範囲で、5分~30分の間加熱し、酸化させた(図4のステップS430)。分かりやすさのために、実験条件を表3にまとめて示す。
【0072】
【表2】
【0073】
【表3】
【0074】
例4~例12の無電解Cuメッキ条件および酸化条件で得られた試料を、単に、例4~例12の試料と称する。例4~例12の試料の外観をSEM像で観察した。結果を図9に示す。例4~例12の試料の断面を切断し、SEM観察し、EDXにより組成分析をした。結果を図10図12および表4に示す。
【0075】
例4~例12の試料について水素暴露試験を行った。詳細には、例4~例12の試料を0.5g計量し、容器に12気圧で水素ガスを充填してそれぞれ密閉し、室温での圧力変化を調べた。結果を図13図16に示す。例4~例12の試料について、暴露試験前後の磁気特性および粉末X線回折を行った。これらの結果を図17図18に示す。
【0076】
以上の結果をまとめて説明する。
図8は、例8のCu被膜のみの粒子の断面のSEM像を示す図である。
【0077】
図8によれば、最外表面に厚さが6μm以上10μm以下のCuからなる皮膜が確認された(図8の領域1)。その下に、酸化膜が確認された(図8の領域2)。図8の領域3は、ErCoであった。領域2は、図7の結果から、塩酸による表面処理時に生成したと考える。酸素に触れないようにすることにより、酸化膜の生成は抑制され得る。例8のCu被膜のみの粒子は、例4~例7の酸化前のそれと同じであることに留意されたい。図示しないが、例9~例12のCu被膜後のErCo粒子の断面のSEM像も同様の様態を示し、Cu被膜の厚さが4μm以上7μm以下の範囲であった。
【0078】
図9は、例4の粒子の外観のSEM像を示す図である。
【0079】
図9には、種々の倍率のErCo粒子の様子が示される。図9(A)と図6とを比較すると、例4の粒子の表面はごつごつとした表面を有した。図9(B)によれば、表面は、微小粒子の集合体であることが分かった。微小粒子の平均粒径を、image Jにより測定したところ、120nmであった。図示しないが、例5~例7、および、例9~例12の粒子の表面も、同様に、100nm~300nmの範囲の粒径を有する微小粒子の集合体であった。
【0080】
図10は、例4の粒子の断面のSEM像を示す図である。
図11は、例6の粒子の断面のSEM像を示す図である。
図12は、例7の粒子の断面のSEM像を示す図である。
【0081】
図10によれば、最外表面に厚さが5μm以上10μm以下であり、酸素濃度が42.49at%であり、OとCuとの原子比が0.8:1であり、大部分がCuOである層が確認された(図10の領域1)。その下に、ErおよびErCoを含有する酸化膜が確認された(図10の領域2)。図10の領域3は、ErCoであった。
【0082】
図11によれば、最外表面の層は、4μm以上7μm以下の厚さを有し、酸素濃度が9.66at%であった(図11の領域1)。その下に、ErおよびErCoを含有する酸化膜が確認された(図11の領域2)。図11の領域3は、ErCoであった。領域1の酸素濃度(9.66at%)は、図8の領域1で示す加熱前の酸素濃度(2.82at%)に比べて増加したことから、CuOが生成したことが示唆される。
【0083】
同様に、図12によれば、最外表面の層は、4μm以上7μm以下の厚さを有し、酸素濃度が9.76at%であり、CuOを含有した(図12の領域1)。その下に、ErおよびErCoを含有する酸化膜が確認された(図12の領域2)。図12の領域3は、ErCoであった。これらことから、加熱の温度範囲は、200℃以上600℃以下の範囲であればよいことが示された。
【0084】
図13は、例4の試料を用いた際の水素暴露試験における水素圧力変化を示す図である。
図14は、例5の試料を用いた際の水素暴露試験における水素圧力変化を示す図である。
図15は、例8の試料を用いた際の水素暴露試験における水素圧力変化を示す図である。
図16は、図13図15の結果をまとめて示す図である。
【0085】
図13によれば、CuOを含有する膜を有する例4の試料を用いた場合、封入後の水素圧力(1.272MPa)は、一週間後も1.256MPaに維持されていた。例4の試料の反応水素量は、原料に用いたCu被覆前の均質化処理のみのErCo粒子のそれのわずか8%であった。
【0086】
図14によれば、CuOを含有する膜を有する例5の試料を用いた場合、封入後の水素圧力(1.270MPa)は、数時間以内に1.26MPaまで減少し、その後、時間の経過とともにわずかながら減少するものの、一週間後も1.256MPaに維持されていた。例5の試料の反応水素量は、原料に用いたCu被覆前の均質化処理のみのErCo粒子のそれの11%であった。図示しないが、例6~例7、例9~例12の試料も同様の水素圧力変化を示した。
【0087】
図15によれば、Cuを含有する膜を有する例8の試料を用いた場合、封入後の水素圧力(1.271MPa)は、数時間以内に1.11MPaまで減少し、その後ほぼ一定となった。例8の試料の反応水素量は、原料に用いたCu被覆前の均質化処理のみのErCo粒子のそれの81%であった。
【0088】
図16に比較して示すように、Cu被膜後、加熱し、CuOを含有する膜を備えた例4および例5の試料は、Cu被膜のみの例8の試料に比べて、劇的に耐水素バリア性が向上することが示された。このことから、CuOを含有する膜は、耐水素バリア性のためのバリア層として機能することが分かった。
【0089】
図17は、例4の試料の水素暴露試験前後の磁気特性を示す図である。
【0090】
図17(A)および(B)は、それぞれ、例4の試料の水素暴露試験前後の磁化曲線、および、磁場によるエントロピー変化ΔSの温度依存性を示す。図17によれば、水素暴露試験前後において、例4の試料の磁気特性は変化しないことが分かった。図示しないが、例4~例7、例9~例12の試料も同様に、水素暴露試験前後において、磁気特性の変化は示さなかった。なお、これらの磁気特性は、Cu被覆前の均質化処理のみのErCo粒子のそれとも同様であった。このことから、CuOを含有するバリア層は、ErCo粒子の磁気特性を低下させないことが分かった。
【0091】
図18は、例4の試料のXRDパターンを示す図である。
【0092】
図18には、均質化処理したErCo粒子(原料)、これを表面処理したErCo粒子、これにCu被膜をした例8の試料、これを加熱した例4の試料、さらに、水素暴露試験後の例4の試料のXRDパターンが示される。
【0093】
図18の水素暴露試験前の例4の試料のXRDパターンに着目すると、ErCo相以外に、CuO相、CoO相、ErCo相およびEr相が確認された。このことから、表面にCu膜を被覆したErCo粒子を加熱することにより、CuO相、CoO相、ErCo相およびEr相が生成した。CuO相、CoO相、ErCo相およびEr相の回折ピーク強度の関係からCuO相の含有量が多く、バリア層のCuO相含有量は、43.3質量%であり、40質量%以上を満たした。CoO相、ErCo相およびEr相の含有量は、それぞれ33.9、27.1、3.6質量%であった。このことから、耐水素バリア性を有するバリア層は、CuO相を主成分とし、CoO相、ErCo相およびEr相を含有することを確認した。図示しないが、例5、例11および例12の試料も同様に、表面にCuO相、CoO相、ErCo相およびEr相を有することを確認した。
【0094】
一方、例6、例7、例9および例10の試料のバリア層は、CuO相、CoO相、ErCo相およびEr相に加えて、未反応のCu相を有することが分かった。
【0095】
表4に示すように、バリア層は、組成式CuErCoで表され、45≦a≦90、0.5≦b≦8、0.5≦c≦8、および、5≦d≦60を満たすことが分かった。なお、特に、耐水素バリア性の高かった、例4、例5、例11、例12のバリア層は、50≦a≦55、0.5≦b≦2、1≦c≦5、および、38≦d≦50を満たすことが分かった。
【0096】
また、水素暴露試験後の例4の試料のXRDパターンに着目すると、わずかながら水素化物(ErCo3.7)の生成が確認された。この生成量は、均質化処理したErCo粒子(原料)の水素暴露試験後の水素化物の生成量、ならびに、Cu被覆のみの例8の試料の水素暴露試験後の水素化物の生成量に比べると、劇的に少ないことが分かった。また、水素暴露試験後のバリア層中のCuOの含有量は13質量%であり、10質量%以上を維持した。
【0097】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の磁気冷凍材料は、水素化に対する耐性を備えるので、長期間の使用に耐えうる。このような磁気冷凍材料は、磁気冷凍装置に用いられ、水素の液化等に効果的に機能する。これによって、エネルギーキャリアの一つとして有望な水素の普及に、貢献することができる。
【符号の説明】
【0099】
100、100A、210 磁気冷凍材料
110 ラーベス相化合物
120 バリア層
130 酸化膜
200 磁気冷凍装置
220 AMRベッド
230 磁場印加手段
240 熱交換器
250 液化容器
260 予冷段
270 80Kシールド
280 300Kシールド
290 冷却ステージ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18