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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091290
(43)【公開日】2023-06-30
(54)【発明の名称】ウォブル溶接ヘッド
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20230623BHJP
   B23K 26/082 20140101ALI20230623BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20230623BHJP
【FI】
B23K26/00 P
B23K26/082
B23K26/21 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021205958
(22)【出願日】2021-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】田中 研太
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA00
4E168CA03
4E168CA05
4E168CB04
4E168DA02
4E168DA28
4E168EA15
4E168KA15
(57)【要約】
【課題】ウォブル溶接において、容易に欠陥検査を行うことが可能なウォブル溶接ヘッドを提供する。
【解決手段】指令されたパターンに基づいてビーム走査器で走査されたレーザビームが、加工レンズで加工対象物の表面に集光される。加工対象物の表面でレーザビームが反射した反射光の強度、及びレーザビームの入射によって発生したプラズマ光のうち加工レンズを透過したプラズマ光の強度の少なくとも一方の強度を、光センサが測定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
指令されたパターンに基づいてレーザビームを走査するビーム走査器と、
前記ビーム走査器で走査された前記レーザビームを加工対象物の表面に集光する加工レンズと、
前記加工対象物の表面で前記レーザビームが反射した反射光のうち前記加工レンズを透過した反射光の強度、及び前記レーザビームの入射によって発生したプラズマ光のうち前記加工レンズを透過したプラズマ光の強度の少なくとも一方の強度を測定する光センサと
を備えたウォブル溶接ヘッド。
【請求項2】
前記加工レンズは球面レンズであり、
前記加工レンズの焦点距離をf[mm]と標記し、前記加工レンズの光軸に対する前記レーザビームの振り角をθ[°]と標記したとき、振り角θは、-2×10-6×f+0.0023×f+0.24以下である請求項1に記載のウォブル溶接ヘッド。
【請求項3】
さらに、前記ビーム走査器と前記加工レンズとの間に配置され、前記加工レンズを透過した反射光またはプラズマ光の一部を、前記ビーム走査器に向かう経路と、前記光センサに向かう経路とに分岐させる分岐光学素子を備えた請求項1または2に記載のウォブル溶接ヘッド。
【請求項4】
さらに、前記分岐光学素子と前記光センサとの間の反射光の経路に配置されたモニタ光学系を備えており、
前記モニタ光学系は、前記加工対象物の表面においてビームスポットが指定されたパターンに沿って移動するときのビームスポットの軌跡の全域を、前記光センサの受光面に投影する請求項3に記載のウォブル溶接ヘッド。
【請求項5】
前記モニタ光学系は、
前記加工対象物から前記光センサに向かう反射光またはプラズマ光のビーム径を縮小するビームエキスパンダと、
前記ビームエキスパンダでビーム径を縮小された反射光またはプラズマ光を前記光センサの受光面に集光させる焦点距離72mm以下のフォーカスレンズと
を含む請求項4に記載のウォブル溶接ヘッド。
【請求項6】
前記フォーカスレンズの焦点距離が前記フォーカスレンズの直径以下であり、前記フォーカスレンズは非球面レンズである請求項5に記載のウォブル溶接ヘッド。
【請求項7】
指令されたパターンに基づいてレーザビームを走査するビーム走査器と、
前記ビーム走査器で走査された前記レーザビームを加工対象物の表面に集光する加工レンズと、
を備え、
前記加工レンズは球面レンズであり、
前記加工レンズの焦点距離をf[mm]と標記し、前記加工レンズの光軸に対する前記レーザビームの振り角をθ[°]と標記したとき、振り角θは、-2×10-6×f+0.0023×f+0.24以下であるウォブル溶接ヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォブル溶接ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
銅やアルミニウム等の高反射材の溶接を行うために、パルスエネルギ密度の高いレーザビームを用いると、スパッタと呼ばれる金属粉が発生する。スパッタの発生を抑制する一つの手法として、ビームスポットを小刻みに移動させるウォブル(wobble)溶接が知られている(特許文献1)。特許文献1に開示されたウォブル溶接では、レーザビームを1°~2°の走査角により画定される狭い視野内でビームスポットを移動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2018-520007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ウォブル溶接された溶接個所の欠陥検査は、検査員がオフラインで目視や検査機器を使用して行われている。大量生産ラインでは、検査すべき箇所が膨大になり、検査員の負担が大きい。本発明の目的は、ウォブル溶接において、容易に欠陥検査を行うことが可能なウォブル溶接ヘッドを提供することである。
【0005】
ウォブル溶接においては、ビーム走査器でレーザビームを走査し、走査されたレーザビームを加工レンズで加工対象物に集光させる。レーザビームが走査されても加工対象物の表面におけるビームスポットの大きさが変化しないようにするために、加工レンズとしてfθレンズが用いられる。fθレンズは通常の球面レンズに比べて高価であるため、ウォブル溶接ヘッドの低価格化を図ることが困難である。本発明の他の目的は、低価格化を図ることが可能なウォブル溶接ヘッドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によると、
指令されたパターンに基づいてレーザビームを走査するビーム走査器と、
前記ビーム走査器で走査された前記レーザビームを加工対象物の表面に集光する加工レンズと、
前記加工対象物の表面で前記レーザビームが反射した反射光のうち前記加工レンズを透過した反射光の強度、及び前記レーザビームの入射によって発生したプラズマ光のうち前記加工レンズを透過したプラズマ光の強度の少なくとも一方の強度を測定する光センサと
を備えたウォブル溶接ヘッドが提供される。
【0007】
本発明の他の観点によると、
指令されたパターンに基づいてレーザビームを走査するビーム走査器と、
前記ビーム走査器で走査された前記レーザビームを加工対象物の表面に集光する加工レンズと、
を備え、
前記加工レンズは球面レンズであり、
前記加工レンズの焦点距離をf[mm]と標記し、前記加工レンズの光軸に対する前記レーザビームの振り角をθ[°]と標記したとき、振り角θは、-2×10-6×f+0.0023×f+0.24以下であるウォブル溶接ヘッドが提供される。
【発明の効果】
【0008】
反射光の強度を測定結果から、溶接結果の有無を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、一実施例によるウォブル溶接ヘッドの概略図である。
図2図2Aは、加工対象物の表面におけるビームスポットの移動の一例を示す模式図であり、図2Bは、反射光センサの受光面に縮小投影されたビームスポットの像の移動の様子を示す模式図である。
図3図3は、上記実施例によるウォブル溶接ヘッドを用いてウォブル溶接を行う手順を示すフローチャートである。
図4図4は、他の実施例によるウォブル溶接ヘッドの概略図である。
図5図5は、レーザビームの平均出力と溶け込み深さとの関係の実験結果を示すグラフである。
図6図6A図6Cは、レーザビームの振り角θと、パワー密度比との関係を示すグラフである。
図7図7は、加工レンズの焦点距離と、振り角θの許容範囲との関係を示すグラフである。
図8図8は、さらに他の実施例によるウォブル溶接ヘッドの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1図3を参照して、一実施例によるウォブル溶接ヘッドについて説明する。
図1は、一実施例によるウォブル溶接ヘッドの概略図である。レーザ伝送ファイバ60を伝送されて出力端から出力されたれたレーザビームが、コリメートレンズ13でコリメートされ、ビーム走査器10、分岐光学素子14、及び加工レンズ15を経由して加工対象物61に入射する。一例として、レーザ発振器として波長約1070nmのレーザビームを出力するファイバレーザ発振器が用いられる。
【0011】
ビーム走査器10は、2つのガルバノミラー11X、11Yを含む。ガルバノミラー11X、11Yは、それぞれモータ12X、12Yによって揺動される。ガルバノミラー11X、11Yの揺動によってレーザビームが二次元方向に走査される。溶接用の高出力のレーザビームに対応するために、ガルバノミラー11X、11Yとして、石英材の表面に誘電体多層膜をコーティングしたものが用いられる。
【0012】
分岐光学素子14は、レーザビームの波長域における反射率が95%以上のミラーであり、ビーム走査器10で走査されたレーザビームの大部分を、加工レンズ15に向けて反射させる。その他の波長域においては、大部分の光を透過させる。加工レンズ15として、fθレンズが用いられる。加工レンズ15の焦点位置に加工対象物61の表面が配置される。ビーム走査器10でレーザビームが走査されると、加工対象物61の表面上でビームスポットが移動する。ビームスポットが移動しても、加工対象物61の表面でビームスポットの形状及び大きさはほとんど変化しない。
【0013】
加工対象物61で反射した反射光が、加工レンズ15でコリメートされる。ここで、「反射光」は、レーザビームが加工対象物61の表面で乱反射した拡散反射光を意味する。加工レンズ15でコリメートされた反射光が、分岐光学素子14で反射されてビーム走査器10に向かう経路と、分岐光学素子14を透過する経路とに分岐される。分岐光学素子14を透過した反射光が、モニタ光学系20に入射する。
【0014】
加工対象物61へのレーザビームの入射による溶接の過程でプラズマ光が発生する。このプラズマ光も、加工レンズ15及び分岐光学素子14を透過してモニタ光学系20に入射する。さらに、加工対象物61の表面で反射した可視光も、加工レンズ15及び分岐光学素子14を透過してモニタ光学系20に入射する。
【0015】
モニタ光学系20は、第1ダイクロイックミラー26及び第2ダイクロイックミラー27を含む。第1ダイクロイックミラー26は、溶接用のレーザビームの波長域の光を反射させ、可視波長域の光を透過させる。加工対象物61の表面からのレーザビームの反射光が第1ダイクロイックミラー26で反射されて反射光センサ41に入射する。第1ダイクロイックミラー26を透過した光が、第2ダイクロイックミラー27に入射する。
【0016】
第2ダイクロイックミラー27は、プラズマ光の主成分である波長約660nmの光を反射させ、他の可視波長域の光、例えば波長400nm~550nmの光を透過させる。レーザ溶接の過程で発生したプラズマ光が、第2ダイクロイックミラー27で反射されてプラズマ光センサ42に入射する。第2ダイクロイックミラー27を透過した可視光が二次元イメージセンサ43に入射する。
【0017】
モニタ光学系20は、分岐光学素子14と第1ダイクロイックミラー26との間に配置された第1モニタコリメートレンズ21及び第2モニタコリメートレンズ22を含む。第1モニタコリメートレンズ21及び第2モニタコリメートレンズ22は、ガリレオ型またはケプラー型のビームエキスパンダを構成しており、加工レンズ15でコリメートされた反射光、プラズマ光等の光ビームのビーム径を縮小する。
【0018】
第1ダイクロイックミラー26と反射光センサ41との間、第2ダイクロイックミラー27とプラズマ光センサ42との間、及び第2ダイクロイックミラー27と二次元イメージセンサ43との間に、それぞれフォーカスレンズ23、24、25が配置されている。フォーカスレンズ23、24、25は、それぞれ加工対象物61の表面からのレーザビームの反射光、プラズマ光、及び可視光を反射光センサ41、プラズマ光センサ42、及び二次元イメージセンサ43の受光面にフォーカスさせる。
【0019】
反射光センサ41は、加工対象物61の表面からのレーザビームの反射光の強度を測定する。プラズマ光センサ42は、溶接の過程で発生したプラズマ光の強度を測定する。二次元イメージセンサ43は、加工対象物61の表面の二次元画像データを生成する。反射光センサ41及びプラズマ光センサ42による測定結果が電気信号として処理部45に入力される。さらに、二次元イメージセンサ43で生成された二次元画像データが処理部45に入力される。
【0020】
制御部50が、ビーム走査器10のモータ12X、12Yを制御することにより、ガルバノミラー11X、11Yを揺動させる。ガルバノミラー11X、11Yが揺動することにより、加工対象物61の表面においてビームスポットが制御部50によって指定されたパターンに沿って移動する。このパターンを、ウォブルパターンという。
【0021】
処理部45は、反射光センサ41による反射光強度の測定結果に基づいて、溶接欠陥の有無を判定する。例えば、反射光の強度が所定の許容範囲から外れた場合に、溶接欠陥が発生したと判定する。さらに、反射光の強度の時間波形に対してローパスフィルタを適用して高周波成分を除去し、高周波成分を除去した波形を微分し、この微分波形の値が所定の許容範囲から外れた場合に、溶接欠陥が発生したと判定する。
【0022】
プラズマ光センサ42によるプラズマ光の強度の測定結果についても同様の処理を行い、反射光に代えてプラズマ光を用いて、または反射光とプラズマ光とを併用して、溶接欠陥の発生の有無を判定するようにしてもよい。さらに、二次元イメージセンサ43で取得された二次元画像データを画像解析することによって、溶接欠陥の発生の有無を判定するようにしてもよい。
【0023】
図2Aは、加工対象物61(図1)の表面におけるビームスポット30の移動の一例を示す模式図である。ウォブルパターン31は、例えば円周形状であり、ビームスポット30の中心がウォブルパターン31に沿って移動する。溶接用のレーザビームは、例えば連続発振(CW)レーザビームであり、図2Aでは、一定時間間隔ごとのビームスポットの位置を破線で示している。加工対象物61(図1)が静止している場合、ビームスポット30の軌跡32はドーナツ型になる。レーザビームを入射させながら加工対象物61を移動させると、加工対象物61の表面におけるビームスポット30の軌跡はらせん状になる。加工対象物61を移動させながらレーザビームを入射させることにより、溶接ラインに沿った溶接を行うことができる。なお、溶接用のレーザビームとしてパルスレーザビームを用いてもよい。この場合は、ショット間でビームスポット30が相互に重なるようにビームスポット30を移動させる。
【0024】
図2Bは、反射光センサ41(図1)の受光面36に縮小投影されたビームスポット30の軌跡32(図2A)の像35を示す模式図である。ビームスポット30がウォブルパターン31(図2A)に沿って移動しても、ビームスポット30の軌跡32の像35の全域が受光面36内に収まるように、モニタ光学系20の各光学素子が調整されている。プラズマ光センサ42(図1)及び二次元イメージセンサ43(図1)においても、同様に、ビームスポット30の軌跡32(図2A)の像が受光面内に収まるように、モニタ光学系20の各光学素子が調整されている。
【0025】
次に、図3を参照して、上記実施例によるウォブル溶接ヘッドを用いてウォブル溶接を行う手順について説明する。
【0026】
図3は、上記実施例によるウォブル溶接ヘッドを用いてウォブル溶接を行う手順を示すフローチャートである。まず、加工対象物61(図1)の溶接ラインの始点にレーザビームのビームスポットを位置決めする(ステップS1)。例えば、ウォブルパターン31(図2A)の中心点が溶接ラインの始点に一致するように、加工対象物61を配置する。
【0027】
加工対象物61の移動、レーザビームの出力、及びビーム走査器10によるレーザビームのウォブリングを開始する(ステップS2)。例えば、ウォブルパターン31(図2A)の中心点を溶接ラインに沿って移動させながら、ウォブリングされたレーザビームを加工対象物61に入射させる。これにより、ウォブル溶接が行われる。
【0028】
ウォブル溶接の開始と同時に、処理部45(図1)が、反射光センサ41で測定された反射光の強度、及びプラズマ光センサ42で測定されたプラズマ光の強度の取得を開始する(ステップS3)。溶接ラインの終点までウォブル溶接を継続する(ステップS4)。溶接ラインの終点まで溶接が完了したら、加工対象物61の移動、レーザビームの出力、ビーム走査器10によるウォブリングを停止する(ステップS5)。
【0029】
溶接が終了すると、処理部45は、溶接中に取得した反射光の強度及びプラズマ光の強度に基づいて、溶接欠陥の発生の有無を判定する(ステップS6)。なお、この判定は溶接中に行ってもよい。溶接欠陥の発生有りと判定した場合は(ステップS7)、警報を出力し(ステップS8)、加工対象物61に対する処理を終了する。溶接欠陥の発生無しと判定した場合は(ステップS7)、警報を出力することなく、加工対象物61に対する処理を終了する。
【0030】
なお、ステップS3において、反射光強度及びプラズマ高強度に加えて、二次元イメージセンサ43からの二次元画像データの取得を開始してもよい。さらに、ステップS6において、二次元画像データを解析して溶接欠陥の発生の有無を判定してもよい。
【0031】
次に、上記実施例の優れた効果について説明する。
上記実施例では、ビームスポット30をウォブルパターン31(図2A)に沿って移動させても、ビームスポット30の軌跡32の像35(図2B)が反射光センサ41(図1)の受光面36(図2B)内に収まる。また、プラズマ光センサ42(図1)においても同様に、ビームスポット30の軌跡32の像が、プラズマ光センサ42の受光面に収まるようにモニタ光学系20が調整されている。このため、ウォブル溶接を行う際に、反射光センサ41及びプラズマ光センサ42のうち少なくとも一方の光センサで反射光及びプラズマ光の少なくとも一方の強度を測定することにより、オンラインでリアルタイムに溶接欠陥発生の有無を判定することができる。反射光の強度とプラズマ光の強度とを併用して溶接欠陥発生の有無を判定することにより、判定精度を高めることができる。さらに、二次元画像データを解析して溶接欠陥発生の有無を判定することにより、判定精度をより高めることができる。
【0032】
次に、図4図7を参照して、他の実施例によるウォブル溶接ヘッドについて説明する。以下、図1図2Bに示した実施例によるウォブル溶接ヘッドと共通の構成については説明を省略する。
【0033】
図4は、本実施例によるウォブル溶接ヘッドの概略図である。図1に示した実施例によるウォブル溶接ヘッドでは、加工レンズ15としてfθレンズが用いられている。これに対して本実施例によるウォブル溶接ヘッドでは、加工レンズ15として一般的な球面レンズ、例えば平凸レンズ、両凸レンズ、凹凸レンズ等が用いられる。加工レンズ15の光軸に沿うレーザビームが加工対象物61の表面にフォーカスされるように、加工レンズ15と加工対象物61との間隔が調整されている。
【0034】
加工レンズ15として球面レンズを用いると、ビーム走査器10でレーザビームを走査し、レーザビームの中心軸が加工レンズ15の光軸に対して傾斜した状態で、レーザビームのフォーカス位置(ビームスポット最小の位置)が加工対象物61の表面からずれてしまう。このため、加工対象物61の表面におけるビームスポットの大きさが変動してしまう。ビームスポットの大きさが変動することにより、パワー密度も変動する。パワー密度の大きな変動は、溶接不良発生の原因になる。特に、レーザビームの振り角θが大きくなると、パワー密度の変動量が大きくなる。ここで、レーザビームの振り角θとは、加工レンズ15の光軸とレーザビームの中心軸とのなす角度を意味する。図4において、加工レンズ15の光軸を太い実線で表し、振り角がθのレーザビームの中心軸を破線で表している。
【0035】
次に、図5図7を参照して、溶接不良の発生を抑制するためのレーザビームの振り角θの好ましい範囲について説明する。
【0036】
まず、図5を参照して、パワー密度の変動の許容範囲について説明する。
図5は、レーザビームの平均パワーと溶け込み深さとの関係の実験結果を示すグラフである。横軸はレーザビームの平均パワーを単位[W]で表し、縦軸は溶け込み深さを単位[mm]で表す。図5において、測定結果を丸記号で表し、一次回帰直線を実線で表す。一次回帰直線からの溶け込み深さの偏差の3σは、約3.5%である。図5において、一次回帰直線からの溶け込み深さの偏差が±3σの範囲を破線で表す。
【0037】
各溶け込み深さに対する平均パワーの分布の3σは約5%になる。すなわち、5%より大きな平均パワーの変動が発生すると、溶け込み深さの明確な違いが発生すると考えられる。この評価結果から、加工対象物61の表面におけるパワー密度の変動幅の許容範囲を±5%以下に設定することが好ましいと考えられる。
【0038】
次に、図6A図6Cを参照して、レーザビームの振り角θ(図4)と、加工対象物61の表面におけるパワー密度比との関係について説明する。図6A図6Cは、レーザビームの振り角θと、パワー密度比との関係を示すグラフである。横軸は振り角θを範囲[°]で表し、縦軸はパワー密度比を単位[%]で表す。ここで、パワー密度比は、振り角θが0°のときのパワー密度に対する比である。
【0039】
図6A図6B、及び図6Cは、それぞれ加工レンズ15(図4)として焦点距離100mm、300mm、及び500mmの球面レンズを用いた場合のシミュレーション結果を示す。なお、レーザビームの揺動中心から加工レンズ15までの光路長を125mmとした。図6A図6Cにおいて、振り角θが0°のときのパワー密度を基準として95%以上のパワー密度が得られている振り角θの許容範囲をAと標記している。
【0040】
次に、図7を参照して、振り角θの許容範囲について説明する。図7は、加工レンズ15(図4)の焦点距離と、振り角θの許容範囲Aとの関係を示すグラフである。横軸は加工レンズ15の焦点距離を単位[mm]で表し、縦軸は振り角θの許容範囲を単位[°]で表す。加工レンズ15の焦点距離が長くなると、振り角θの許容範囲が広くなっている。加工レンズ15の焦点距離をf[mm]と標記し、振り角をθ[°]と標記したとき、図7に示したグラフから、振り角θの許容範囲を、-2×10-6×f+0.0023×f+0.24以下に設定すると、加工対象物61の表面におけるパワー密度の変動を5%以下に抑制できることがわかる。例えば、加工レンズ15の焦点距離が100mm、300mm、及び500mmのとき、振り角θの許容範囲をそれぞれ0.45°以下、0.75°以下、0.9°以下にするとよい。
【0041】
本実施例においても、図2Bに示したように、反射光センサ41の受光面36に転写されるビームスポット30の軌跡32(図2A)の像35が受光面36内に配置されるように、モニタ光学系20(図4)を調整することが好ましい。ビームスポット30は受光面36に縮小投影されるが、ウォブル動作により、ビームスポット30から受光面36に至る反射光の経路が加工レンズ15の光軸からずれていることや、各レンズの収差により、受光面36に投影された像35(図2B)の直径は1.5mm程度の大きさを持つ場合が多い。
【0042】
モニタ光学系20の調整すべきパラメータとして、第1モニタコリメートレンズ21、第2モニタコリメートレンズ22、及びフォーカスレンズ23の焦点距離が挙げられる。また、モニタ光学系20を調整する前提条件として、加工レンズ15の焦点距離、レーザビームの振り角θの最大値、反射光センサ41の受光面36(図2B)の直径、加工対象物61の表面におけるビームスポット30の直径が与えられる。
【0043】
一例として、反射光センサ41の受光面36(図2B)の直径が5mm、ビームスポット30(図2A)の像35(図2B)の直径が1.5mmのとき、ビームスポット30の軌跡32(図2A)の範囲内からの反射光を受光面36(図2B)に安定して入光させるためには、フォーカスレンズ23の焦点距離を72mm以下にすることが好ましい。この場合、フォーカスレンズ23として、焦点距離の約1/2倍程度の直径の球面レンズを用いることができる。
【0044】
一例として、反射光センサ41の受光面36(図2B)の直径が3mm、ビームスポット30(図2A)の像35(図2B)の直径が1.5mmのとき、ビームスポット30の軌跡32(図2A)の範囲内からの反射光を受光面36(図2B)に安定して入光させるためには、フォーカスレンズ23の焦点距離を31mm以下にすることが好ましい。この場合、フォーカスレンズ23の直径を焦点距離とほぼ等しいか、それ以上にすることが好ましい。この要請を満たすために、フォーカスレンズ23として、非球面レンズを用いることが好ましい。
【0045】
次に、本実施例の優れた効果について説明する。
本実施例においても、図1図3に示した実施例と同様に、ウォブル溶接を行う際に、オンラインでリアルタイムに溶接欠陥発生の有無を判定することができる。また、本実施例では、加工レンズ15として、高価なfθレンズに代えて比較的安価な球面レンズが用いられる。このため、ウォブル溶接ヘッドのコスト低減を図ることが可能である。
【0046】
次に、図8を参照して、さらに他の実施例によるウォブル溶接ヘッドについて説明する。以下、図4図7を参照して説明した実施例によるウォブル溶接ヘッドと共通の構成については説明を省略する。
【0047】
図8は、本実施例によるウォブル溶接ヘッドの概略図である。図4に示した実施例によるウォブル溶接ヘッドにおいては、レーザビームの反射光を溶接用のレーザビームの経路から分岐させる分岐光学素子14を、ビーム走査器10より、溶接用のレーザビームの進行方向の下流側に配置している。これに対して本実施例では、分岐光学素子14を、ビーム走査器10より上流側に配置している。より具体的には、レーザ伝送ファイバ60から出力されたレーザビームの大部分が分岐光学素子14で反射され、コリメートレンズ13でコリメートされた後、ビーム走査器10に入射する。
【0048】
加工対象物61からの反射光は、加工レンズ15、ビーム走査器10を経由した後、コリメートレンズ13、分岐光学素子14、第2モニタコリメートレンズ22を透過し、第1ダイクロイックミラー26で反射され、フォーカスレンズ23を透過して反射光センサ41に入射する。反射光に対して、コリメートレンズ13が図4に示したウォブル溶接ヘッドの第1モニタコリメートレンズ21と同様の機能を持つ。すなわち、図8に示した実施例では、1つのコリメートレンズ13が、図4に示した実施例のコリメートレンズ13と第1モニタコリメートレンズ21とを兼ねている。
【0049】
プラズマ光も、同様に、加工レンズ15、ビーム走査器10を経由してプラズマ光センサ42に入射する。二次元イメージセンサ43は、ビーム走査器10を介して加工対象物61の表面を撮像する。ビーム走査器10のガルバノミラー11X、11Yとして、溶接用のレーザビーム及び可視光の2つの波長域の光を反射させるコーティングが施されたものが使用される。二次元イメージセンサ43で加工対象物61の表面を撮像する際には、ビーム走査器10のガルバノミラー11X、11Yを静止させる。
【0050】
次に、本実施例の優れた効果について説明する。
本実施例においても、図4図7に示した実施例と同様に、ウォブル溶接を行う際に、オンラインでリアルタイムに溶接欠陥発生の有無を判定することができる。また、ビーム走査器10を動作させて加工対象物61の表面においてビームスポット30(図2A)を移動させても、反射光センサ41の受光面36(図2B)におけるビームスポット30の像35の位置は変化しない。このため、反射光センサ41として、受光面36の小さなものを使用することができる。プラズマ光センサ42においても同様である。
【0051】
なお、反射光やプラズマ光に対してガルバノミラー11X、11Yでケラレが生じる場合は、反射光センサ41やプラズマ光センサ42に到達する光強度が低下してしまう。また、ガルバノミラー11X、11Yの揺動によって光強度の低下量が変動する。反射光センサ41やプラズマ光センサ42に到達する光強度の低下量を少なくし、ガルバノミラー11X、11Yの揺動による光強度の低下量の変動を抑制するために、ガルバノミラー11X、11Yを大きくすることが好ましい。
【0052】
上述の各実施例は例示であり、異なる実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。複数の実施例の同様の構成による同様の作用効果については実施例ごとには逐次言及しない。さらに、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0053】
10 ビーム走査器
11X、11Y ガルバノミラー
12X、12Y モータ
13 コリメートレンズ
14 分岐光学素子
15 加工レンズ
20 モニタ光学系
21 第1モニタコリメートレンズ
22 第2モニタコリメートレンズ
23、24、25 フォーカスレンズ
26 第1ダイクロイックミラー
27 第2ダイクロイックミラー
30 加工対象物上のビームスポット
31 ウォブルパターン
32 ビームスポットの軌跡
35 ビームスポットの軌跡の像
36 反射光センサの受光面
41 反射光センサ
42 プラズマ光センサ
43 二次元イメージセンサ
45 処理部
50 制御部
60 レーザ伝送ファイバ
61 加工対象物

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8