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特開2023-91329テラヘルツ波形検出装置、テラヘルツ波形の検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091329
(43)【公開日】2023-06-30
(54)【発明の名称】テラヘルツ波形検出装置、テラヘルツ波形の検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3586 20140101AFI20230623BHJP
【FI】
G01N21/3586
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021206014
(22)【出願日】2021-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(71)【出願人】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片山 郁文
(72)【発明者】
【氏名】武田 淳
(72)【発明者】
【氏名】玉置 亮
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059EE01
2G059FF04
2G059GG06
2G059HH05
2G059HH06
2G059KK01
2G059MM01
(57)【要約】
【課題】テラヘルツパルス波の波形をより精度良く検出することにある。
【解決手段】テラヘルツ波形検出装置1は、周波数が時間に応じて変化する搬送波を生成する搬送波生成部10と、搬送波にテラヘルツパルス波を書き込むことにより変調成分を生成する変調部20と、変調成分の位相を補正することにより、周波数と時間軸で表される平面空間において搬送波の傾きと逆の傾きで周波数が時間に応じて変化する位相補正された変調成分を生成する位相補正部30と、位相補正された変調成分と、搬送波に対応するチャープパルス波とに基づいて、テラヘルツパルス波の波形を検出する波形検出部50と、を有する。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数が時間に応じて変化する搬送波を生成する搬送波生成部と、
前記搬送波にテラヘルツパルス波を書き込むことにより変調成分を生成する変調部と、
前記変調成分の位相を補正することにより、周波数と時間軸で表される平面空間において前記搬送波の傾きと逆の傾きで周波数が時間に応じて変化する位相補正された変調成分を生成する位相補正部と、
前記位相補正された変調成分と、前記搬送波に対応するチャープパルス波とに基づいて、前記テラヘルツパルス波の波形を検出する波形検出部と、
を有するテラヘルツ波形検出装置。
【請求項2】
前記搬送波と前記チャープパルス波は共通である、
請求項1に記載のテラヘルツ波形検出装置。
【請求項3】
前記搬送波生成部は、パルスレーザ光を出力するパルスレーザと、前記パルスレーザ光の周波数を時間的に変化させる素子とを含み、
前記搬送波と前記チャープパルス波は共に、前記パルスレーザ及び前記素子に基づいて生成される波である、
請求項1に記載のテラヘルツ波形検出装置。
【請求項4】
前記位相補正部は、前記素子を利用して前記変調成分の位相を補正する、
請求項3に記載のテラヘルツ波形検出装置。
【請求項5】
前記位相補正された変調成分の高周波数成分と当該高周波数成分と同じタイミングで発生する前記チャープパルス波の成分とを重畳させることにより生成された成分が、前記位相補正された変調成分の低周波数成分と当該低周波数成分と同じタイミングで発生する前記チャープパルス波の成分とを重畳させることにより生成された成分と、ほぼ同じ周波数である、
請求項1~4のいずれか1項に記載のテラヘルツ波形検出装置。
【請求項6】
前記波形検出部は、前記位相補正された変調成分と前記波形検出用チャープパルス波との和周波又は差周波に基づいて発生した光のスペクトルとして前記テラヘルツパルス波の波形を検出する、
請求項1~5のいずれか1項に記載のテラヘルツ波形検出装置。
【請求項7】
周波数が時間に応じて変化する搬送波を生成する工程と、
前記搬送波にテラヘルツパルス波を書き込むことにより変調成分を生成する工程と、
前記変調成分の位相を補正することにより、周波数と時間軸で表される平面空間において前記搬送波の傾きと逆の傾きで周波数が時間に応じて変化する位相補正された変調成分を生成する工程と、
前記位相補正された変調成分と、前記搬送波に対応するチャープパルス波とに基づいて、前記テラヘルツパルス波の波形を検出する工程と、
を含むテラヘルツ波形検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ波形検出装置、及びテラヘルツ波形の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テラヘルツ領域の波形の分光法として、テラヘルツパルス波(THzパルス波)をサンプルに入射させ、サンプルを透過した後のテラヘルツパルス波の波形を時間分解計測し、その波形をフーリエ変換することで周波数ごとの振幅と位相を検出するテラヘルツ時間領域分光法(THz time-domain spectroscopy, THz-TDS)が知られている。
【0003】
また、テラヘルツパルス波の波形計測法として、ポンプ・プローブ方式が知られている。ポンプ・プローブ方式においては、レーザ発生装置から放射されたレーザ光を、テラヘルツパルス波発生系のポンプ光と検出系のプローブ光に分ける。そして、ポンプ光をテラヘルツパルス波発生装置に導いてテラヘルツパルス波を発生させ、プローブ光を時間遅延装置によって光路長を変化させた後、テラヘルツパルス波を検出するための検出素子に導く。
【0004】
このように、プローブ光を時間遅延させることによってプローブ光が検出素子に到達するタイミングを変えながら、繰り返し到来する同波形のテラヘルツパルス波の波形をサンプリングする。テラヘルツパルス波の検出素子は、プローブ光が照射されたときのみ動作するため、プローブ光と同時に到達したテラヘルツパルス波による信号のみを検出器を用いて計測する。計測されたテラヘルツパルス波の時間波形をフーリエ変換することによって周波数ごとの振幅と位相を得る。
【0005】
ポンプ・プローブ方式によるテラヘルツパルス波の波形計測では、繰り返し現象を利用して時間掃引することでテラヘルツパルス波の時間波形とスペクトルを得るため、相移転や破壊現象といった毎回挙動が異なる現象、絶えず変化する現象、運動する物体、測定に長時間を要する現象などの測定対象には適していない。
【0006】
そこで、チャープパルスを用いて時間情報を波長にマッピングし、分光器と二次元検出器を用いて検出することが提案されているが、検出速度は二次元検出器の検出速度に制限されるという問題がある。また、検出速度に問題がある他、時間領域の信号がスペクトル領域に1対1対応していないために、観測される波形が歪むことや、スペクトルをデジタル信号として検出するため、波形の乗算(ミキシング)などの演算が困難であるという問題がある。
【0007】
これらを解決するため、特許文献1には、ポンプ・プローブ方式によるテラヘルツ波の波形計測において、1ショット(シングルショット)のテラヘルツ波の波形を検出することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016-142594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の波形検出においては、観測される波形が歪むという問題については更なる改善の余地があった。
【0010】
本発明の目的は、テラヘルツパルス波の波形をより精度良く検出することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決すべく本出願において開示される発明は種々の側面を有しており、それら側面の代表的なものの概要は以下の通りである。
【0012】
(1)周波数が時間に応じて変化する搬送波を生成する搬送波生成部と、前記搬送波にテラヘルツパルス波を書き込むことにより変調成分を生成する変調部と、前記変調成分の位相を補正することにより、周波数と時間軸で表される平面空間において前記搬送波の傾きと逆の傾きで周波数が時間に応じて変化する位相補正された変調成分を生成する位相補正部と、前記位相補正された変調成分と、前記搬送波に対応するチャープパルス波とに基づいて、前記テラヘルツパルス波の波形を検出する波形検出部と、を有するテラヘルツ波形検出装置。
【0013】
(2)(1)において、前記搬送波と前記チャープパルス波は共通である、テラヘルツ波形検出装置。
【0014】
(3)(1)において、前記搬送波生成部は、パルスレーザ光を出力するパルスレーザと、前記パルスレーザ光の周波数を時間的に変化させる素子とを含み、前記搬送波と前記チャープパルス波は共に、前記パルスレーザ及び前記素子に基づいて生成される波である、テラヘルツ波形検出装置。
【0015】
(4)(3)において、前記位相補正部は、前記素子を利用して前記変調成分の位相を補正する、テラヘルツ波形検出装置。
【0016】
(5)(1)~(4)のいずれかにおいて、前記位相補正された変調成分の高周波数成分と当該高周波数成分と同じタイミングで発生する前記チャープパルス波の成分とを重畳させることにより生成された成分が、前記位相補正された変調成分の低周波数成分と当該低周波数成分と同じタイミングで発生する前記チャープパルス波の成分とを重畳させることにより生成された成分と、ほぼ同じ周波数である、テラヘルツ波形検出装置。
【0017】
(6)(1)~(5)のいずれかにおいて、前記波形検出部は、前記位相補正された変調成分と前記波形検出用チャープパルス波との和周波又は差周波に基づいて発生した光のスペクトルとして前記テラヘルツパルス波の波形を検出する、テラヘルツ波形検出装置。
【0018】
(7)周波数が時間に応じて変化する搬送波を生成する工程と、前記搬送波にテラヘルツパルス波を書き込むことにより変調成分を生成する工程と、前記変調成分の位相を補正することにより、周波数と時間軸で表される平面空間において前記搬送波の傾きと逆の傾きで周波数が時間に応じて変化する位相補正された変調成分を生成する工程と、前記位相補正された変調成分と、前記搬送波に対応するチャープパルス波とに基づいて、前記テラヘルツパルス波の波形を検出する工程と、を含むテラヘルツ波形検出方法。
【発明の効果】
【0019】
上記本発明の(1)~(7)の側面によれば、テラヘルツパルス波の波形をより精度良く検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態に係るテラヘルツ波形検出装置の全体構成の概要を示す図である。
図2】本実施形態において、周波数と時間軸で表される平面空間における、搬送波(チャープパルス)と変調成分を観測した様子を示す図である。
図3】本実施形態において、周波数と時間軸で表される平面空間における、位相補正された搬送波と、位相補正された変調成分を観測した様子を示す図である。
図4】本実施形態において、周波数と時間軸で表される平面空間における、搬送波と共通である波形検出用のチャープパルス波を観測した様子を示す図である。
図5】本実施形態において、周波数と時間軸で表される平面空間における、和周波光を観測した様子を示す図である。
図6】本実施形態におけるテラヘルツ波形の検出方法を示すフローチャートである。
図7】本実施形態に係るテラヘルツ波形検出装置の第1構成例を示す図である。
図8】本実施形態に係るテラヘルツ波形検出装置の第2構成例を示す図である。
図9】本実施形態の変形例に係るテラヘルツ波形検出装置の全体構成の概要を示す図である。
図10】従来例において、周波数と時間軸で表される平面空間における、変調成分とチャープパルス波を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態(以下、本実施形態という)について図面に基づき詳細に説明する。
【0022】
本実施形態においては、テラヘルツ時間領域分光法(THz time-domain spectroscopy, THz-TDS)を用いて、テラヘルツパルス波を観測する。テラヘルツ時間領域分光法(THz time-domain spectroscopy, THz-TDS)は、テラヘルツパルス波をサンプルに入射し、サンプルを透過した後のテラヘルツパルス波の電場波形を時間分解計測し、電場波形をフーリエ変換することにより周波数毎の振幅と位相を計測する方法である。
【0023】
テラヘルツパルス波とは、約0.1~100THz(波数にして3.3~3333cm-1)のテラヘルツ領域と呼ばれる周波数領域の電磁波もしくは信号である。
【0024】
従来のチャープパルスを用いたシングルショットテラヘルツ時間領域分光法においては、まず、パルスレーザ光を、ポンプ光とプローブ光に分岐する。ポンプ光は、テラヘルツパルス波を発生させる。テラヘルツパルス波は、例えば、非線形光学結晶にフェムト秒の光パルスを照射することにより発生するとよい。プローブ光は、テラヘルツパルス波の時間波形をサンプリングするために用いられるものであり、遅延時間素子及び分散素子に通されて、タイミングを調整しチャープパルス波を発生させる。なお、チャープパルスとは、時間に応じて周波数が異なるパルスである。
【0025】
図10を参照して、従来例におけるチャープパルスを用いたテラヘルツ電場波形の検出について説明する。図10は、従来例において、周波数と時間軸で表される平面空間における、変調成分とチャープパルス波を示す図である。
【0026】
図10においては、搬送波(チャープパルス)とテラヘルツパルス波を書き込むことにより生成される変調成分とを示している。従来例においては、変調成分の高周波数側の成分と、その高周波成分と同じ周波数の搬送波の成分とが、時間差で現れることとなり、それらが互いに干渉してしまう。同様に、変調成分の低周波数側の成分と、その差周波成分と同じ周波数のチャープパルス波の成分とが、時間差で現れることとなり、それらが互いに干渉してしまう。それにより、スペクトルとして読み出されるテラヘルツパルス波の波形に歪みが生じてしまう。その結果、テラヘルツパルス波の正確な情報を得られない場合があった。
【0027】
また、連続波レーザ光にテラヘルツパルス波を書き込むことにより、テラヘルツパルス波の波形を検出することも考えられる。しかしながら、そのような構成においては、波形検出に利用できるパワーが不足する場合があった。その結果、テラヘルツパルス波の情報を得ることが困難となる場合があった。
【0028】
そこで、本実施形態においては、周波数が時間変化するチャープパルス波である搬送波にテラヘルツ波を書き込むことで変調成分を生成し、変調成分の位相を補正することにより位相補正された変調成分を生成し、当該位相補正された変調成分と、搬送波と共通であるチャープパルス波とに基づいて、テラヘルツパルス波の電場波形を読み出す構成を採用した。
【0029】
図1は、本実施形態に係るテラヘルツ波形検出装置の全体構成の概要を示す図である。図2は、本実施形態において、周波数と時間軸で表される平面空間における、搬送波(チャープパルス)と変調成分を観測した様子を示す図である。図3は、本実施形態において、周波数と時間軸で表される平面空間における、位相補正された搬送波と、位相補正された変調成分を観測した様子を示す図である。図4は、本実施形態において、周波数と時間軸で表される平面空間における、搬送波と共通である波形検出用のチャープパルス波を観測した様子を示す図である。図5は、本実施形態において、周波数と時間軸で表される平面空間における、和周波発生部で発生する和周波光を観測した様子を示す図である。
【0030】
図1に示すように、テラヘルツ波形検出装置1は、搬送波生成部10と、変調部20と、位相補正部30と、和周波発生部40と、電場波形検出部(波形検出部)50と、オシロスコープ60と、を含む。
【0031】
搬送波生成部10は、パルスレーザ光を発生するパルスレーザを含むとよい。パルスレーザは、フェムト秒からピコ秒程度のパルス幅を持つレーザ光を発生するものであり、例えば、ファイバーレーザやチタンサファイアレーザなどであるとよい。
【0032】
また、搬送波生成部10は、周波数を時間的に変化させる分散素子であるチャープファイバーブラッググレーティング(Chirped Fiber Bragg Grating。以下、単にCFBGともいう)を含むとよい。CFBGは、パルス中の低周波成分と高周波成分の反射位置が異なるようにグレーティングの周期が変化しているファイバーブラッググレーティングである。ファイバーブラッググレーティングとは光ファイバーのコア中に回折格子を形成し、光フィルタとしての機能を持たせたファイバー型のデバイスである。
【0033】
搬送波生成部10は、パルスレーザ及びCFBGに基づいて搬送波を生成する。本実施形態において、搬送波は、図2に示すように、周波数が時間変化するチャープパルス波である。本実施形態においては、CFBGの設計、及び追加で設置するプリズムペアの位置・距離等を調整することにより、生成される搬送波のチャープ量を調整するとよい。なお、チャープ量は、周波数と時間軸で表される平面空間における傾きに相当する量である。すなわち、チャープ量は、時間変化する周波数の傾きである。チャープ量の絶対値が大きくなると傾きは大きくなる。なお、チャープ量は、光の位相を周波数で2回微分した値に相当するものである。本実施形態において、搬送波生成部10が生成する搬送波のチャープ量は任意である。
【0034】
変調部20は、搬送波(チャープパルス)と、テラヘルツパルス生成部2により生成されたテラヘルツパルス波とが導入されることで、搬送波にテラヘルツパルス波を書き込み、図2に示す変調成分を生成する。なお、テラヘルツパルス生成部2は、搬送波生成部10からのパルスレーザ光から分岐されたポンプ光に基づいてテラヘルツパルス波を生成するものであってもよいし、単独でテラヘルツパルス波を生成するものであってもよい。
【0035】
変調部20は、電気光学結晶(EO結晶)を含むとよい。この電気光学結晶に搬送波が入射されることにより、搬送波にテラヘルツパルス波が書き込まれ、変調成分が生成されるとよい。なお、電気光学結晶として、例えば、ZnTe結晶やGaP、LiNbO等を用いるとよい。
【0036】
位相補正部30は、位相補正された搬送波と位相補正された変調成分を生成する。具体的には、位相補正部30は、ファイバー等素子を通過させることで、変調成分のうち高周波成分を早くすると共に低周波成分を遅くするとよい。それにより、図3に示すように、周波数と時間軸で表される平面空間において搬送波の傾きと逆の傾きで周波数が時間に応じて変化する位相補正された変調成分が生成される。なお、位相補正部30により変調成分の位相が補正される際、搬送波のうち変調されていない成分は、図3に示すように、周波数と時間軸で表される平面空間における縦長の成分として観測されることとなる。
【0037】
なお、テラヘルツ波形検出装置1は、各部を制御する制御回路(不図示)を含んでいるとよい。例えば、制御回路は、搬送波の波形(傾き)を計測すると共に、その計測値に基づいて位相補正部30による位相の補正量を調整するとよい。
【0038】
和周波発生部40は、位相補正部30により生成された位相補正された搬送波と位相補正された変調成分からなる光と、波形検出用のチャープパルス波との和周波をとる。本実施形態において、波形検出用のチャープパルス波は、搬送波生成部10で生成されており、テラヘルツパルス波が書き込まれる搬送波(チャープパルス)と共通であっても良い。これにより、図5に示すように、時間に応じて周波数が変化しない和周波光が観測される。位相補正された変調成分のうち位相補正された高周波の成分と当該変調成分と同じタイミングに存在する波形検出用のチャープパルス波の成分とを重畳させることにより生成された和周波数成分が、位相補正された変調成分のうち低周波の成分と当該変調成分と同じタイミングに存在する波形検出用のチャープパルス波の成分とを重畳させることにより生成された和周波成分とが、ほぼ同じ周波数となるためである。
【0039】
和周波発生部40は、BBO(ベータバリウムボライト)や周期分極反転LiNbO等の非線形光学結晶を含み、その非線形光学結晶(NLO:Non-Linear Optical)に波形検出用のチャープパルス波と、位相補正された搬送波と位相補正された変調成分からなる光を導入することにより、和周波光を発生するとよい。
【0040】
本実施形態においては、図2に示す搬送波であるチャープパルス波と、図4に示す波形検出用のチャープパルス波とを共通とした。すなわち、搬送波を生成する機器と、波形検出用のチャープパルス波を生成する機器を共通とした。そのため、テラヘルツ波形検出装置1においては、搬送波を生成する機器と、波形検出用のチャープパルス波を生成する機器とを別途設ける必要がなく、構成が簡易である。ただし、これに限らず、搬送波を生成する機器と波形検出用のチャープパルス波を生成する機器を別々に設けても構わない。この場合において、波形検出用のチャープパルス波は搬送波に対応するものであればよく、具体的には、波形検出用のチャープパルス波のチャープ量を搬送波のチャープ量と同じにするとよい。すなわち、周波数と時間軸で表される平面空間における、搬送波の傾きと波形検出用のチャープパルス波の傾きとが等しいとよい。ただし、搬送波のチャープ量と波形検出用のチャープパルス波のチャープ量には多少の誤差があっても構わない。なお、位相補正された変調成分と波形検出用のチャープパルスのチャープ量はほぼ同じにする必要がある。
【0041】
電場波形検出部50は、和周波発生部40で発生した和周波光のスペクトルを検出する。これにより観測されるスペクトルがテラヘルツパルス波の電場波形に対応する。このスペクトルをオシロスコープ60において表示することによりユーザはテラヘルツパルス波の電場波形を視覚的に把握することができる。スペクトル検出手法としては、CFBGと高速フォトダイオードや広帯域オシロスコープを用いたスペクトル検出手法や、回折格子とリニア検出器を用いた高速分光器などを用いるとよい。
【0042】
次に、図6を参照して、本実施形態におけるテラヘルツ波形の検出方法について説明する。図6は、本実施形態におけるテラヘルツ波形の検出方法を示すフローチャートである。
【0043】
まず、搬送波生成部10が、周波数が時間に応じて変化する搬送波(チャープパルス)を生成する(ステップS1)。次に、変調部20が、搬送波にテラヘルツパルス波を書き込むことにより、変調成分を生成する(ステップS2)。次に、位相補正部30が、搬送波及び変調成分の位相の補正を行う(ステップS3)。次に、和周波発生部40が、変調され位相補正された搬送波と、搬送波と共通であって波形検出用のチャープパルス波との和周波をとり、時間に応じて周波数が変化しない和周波光を発生させる(ステップS4)。そして、電場波形検出部50が、和周波光に基づいて、テラヘルツパルス波の電場波形を検出する(ステップS5)。
【0044】
次に、図7図8を参照して、本実施形態に係るテラヘルツ波形検出装置の具体的な構成例について説明する。図7は、本実施形態に係るテラヘルツ波形検出装置の第1構成例を示す図である。図8は、本実施形態に係るテラヘルツ波形検出装置の第2構成例を示す図である。
【0045】
図7に示すように、搬送波生成部10は、例えば、パルスファイバーレーザとCFBGで構成されているとよい。パルスファイバーレーザは、短いパルス幅のパルスを発生させることのできる装置である。
【0046】
位相補正部30は、例えば、偏光子(Analyzer)、増幅器(Amplifier)や補償器(Compensator)など波形整形を行う光学素子を含んで構成されているとよい。
【0047】
また、図8に示すように、位相補正部30が、搬送波生成部10に含まれるCFBGを利用して、変調成分の位相を補正することとしてもよい。この場合、搬送波生成部10においてCFBGを利用する場合に対して、CFBGの逆側に入力ポートから、変調された搬送波を入射することで高周波成分と低周波成分の反射位置が逆となるようにCFBGを利用するとよい。それにより、位相補正部30に導入された変調成分が、周波数と時間軸で表される平面空間において波形読み出し用のチャープパルスの傾きと逆の傾きとなる。図8に示す第2構成例を採用することにより、位相の制御を1つのCFBGで実現することができ、図7に示す第1構成例と比較して装置構成が簡易となる。
【0048】
電場波形検出部50は、例えば、高速分光器を含んでいるとよい。高速分光器により、チャープパルス波が書き込まれたテラヘルツパルス波を波長分解し、電場波形を検出するとよい。
【0049】
次に、図9を参照して、本実施形態の変形例について説明する。上述の本実施形態においては和周波発生部40で和周波光を発生させる例を説明したが、変形例においては、差周波光を発生させる差周波発生部140を有するテラヘルツ波形検出装置1について説明する。なお、上述の本実施形態と同様の機能を有する構成については同じ符号を用いて、その説明の詳細については省略する。
【0050】
図9に示すように、変形例に係るテラヘルツ波形検出装置1は、二倍波発生部15を含むとよい。二倍波発生部15は、非線形光学結晶等を含み、搬送波生成部10により生成された周波数ωの搬送波が導入されることで、周波数ωのチャープパルス波に加えて、周波数2ωの搬送波(チャープパルス)を発生させる。周波数2ωの搬送波(チャープパルス)にテラヘルツパルス波が書き込まれ、それにより生成された変調成分に対して位相補正が行われることにより所定のチャープ量の変調成分と搬送波が生成される。この位相補正された変調成分と、それと同じチャープ量で周波数ωのチャープパルス波とが、差周波発生部140に導入される。差周波発生部140は、位相補正された変調成分と周波数ωのチャープパルス波との差周波をとり、時間に応じて周波数が変化しない周波数ωの差周波光を発生させる。そして、電場波形検出部50が、差周波光のスペクトルを測定することによって、テラヘルツパルス波の電場波形を検出する。
【0051】
なお、図9においては、二倍波発生部15から発生する周波数ωのチャープパルス波を波形検出用に利用する例を説明したが、これに限られない。例えば、搬送波生成部10が生成した周波数ωのチャープパルス波であって、二倍波発生部15を経由しないチャープパルス波を波形検出用に利用してもよい。ただしこの時、差周波成分の周波数はスペクトル検出が可能なように十分高周波数でなければならない。この範囲で、搬送波(チャープパルス)、波形読み出し用チャープパルスの波長を選定すると良い。
【0052】
以上説明した本実施形態及び変形例に係るテラヘルツ波形検出装置1においては、干渉による波形の歪みが抑制され、精度良くテラヘルツパルス波の電場波形を検出することができる。
【0053】
また、本実施形態及び変形例に係るテラヘルツ波形検出装置1においては、連続波レーザ光にテラヘルツパルス波を書き込む構成と比較して、波形検出に利用できるパワーが大きいため、テラヘルツパルス波の情報を得やすい。連続波レーザ光を生成する連続波光源の出力をI[W]とし、測定したい窓幅をw[s]とした場合、波形検出に利用できるパワーは、Iw[J]となる。一方、本実施形態及び変形例において、搬送波生成部10に含まれるパルスレーザの出力をI[W]、パルスレーザの繰り返し周波数をfrep[Hz]とした場合、波形検出に利用できるパワーはI/frep[J]である。これは、本実施形態及び変形例においては1パルスのエネルギーを全て波形検出用に利用できるためである。このため、本実施形態及び変形例においては、連続波レーザ光にテラヘルツパルス波を書き込む構成と比較して、波形検出に利用できるパワーが1/wfrep(=(I/frep)÷Iw)倍大きい。例えば、典型的な例として、測定したい窓幅w=100[ps]、繰り返し周波数frep=100[kHz]である場合、10(=1÷((100×10-12)×(100×10))倍のパワーを波形検出に利用できることとなる。
【0054】
また、本実施形態及び変形例に係るテラヘルツ波形検出装置1を採用することにより、物質の超高速応答やテラヘルツ波形の取得が単一の光パルスによって可能となる。これによって、超高速デバイスの評価のための広帯域テラヘルツオシロスコープの実現や、テラヘルツ・赤外イメージングにおける位相・振幅の同時取得、高速化、不可逆現象のダイナミクス解明などへの応用が拓ける可能性がある。また、高感度化や窓幅可変性なども付与可能であり、それによって、テラヘルツ波の高分解能時間領域ライダーや、インフラ点検などへの応用が期待される。また、半導体の超高速応答を高感度かつ高速に検出することで、半導体の不純物評価などに利用することも期待される。
【0055】
なお、本実施形態及び変形例においては、テラヘルツ電場波形を検出する例について説明したが、これに限られるものではなく、検出する対象は、テラヘルツ波の磁場波形、光強度の波形など、テラヘルツの周波数領域(ピコ秒の時間領域)で時間変化する波、もしくは現象であるとよい。
【0056】
以上、本発明に係る実施形態及び変形例について説明したが、本実施形態に及び変形例示した具体的な構成は一例として示したものであり、本発明の技術的範囲をこれに限定することは意図されていない。当業者は、これら開示された実施形態及び変形例を適宜変形してもよく、本明細書にて開示される発明の技術的範囲は、そのようになされた変形をも含むものと理解すべきである。
【符号の説明】
【0057】
1 テラヘルツ波形検出装置、2 テラヘルツパルス波生成部、10 搬送波生成部、15 二倍波発生部、20 変調部、30 位相補正部、40 和周波発生部、140 差周波発生部、50 電場波形検出部、60 オシロスコープ。

図1
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図10