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2023-91337タイヤ加硫金型及びそれを用いたタイヤの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091337
(43)【公開日】2023-06-30
(54)【発明の名称】タイヤ加硫金型及びそれを用いたタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/02 20060101AFI20230623BHJP
   B29D 30/06 20060101ALI20230623BHJP
【FI】
B29C33/02
B29D30/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021206023
(22)【出願日】2021-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 有二
【テーマコード(参考)】
4F202
4F215
【Fターム(参考)】
4F202AA45
4F202AA46
4F202AH20
4F202CA21
4F202CU01
4F202CU07
4F202CU20
4F215AH20
4F215AM32
4F215VA01
4F215VD01
4F215VP37
(57)【要約】
【課題】 スピューによるベントホールの目詰まりを効果的に抑制することを可能にしたタイヤ加硫金型及びそれを用いたタイヤの製造方法を提供する。
【解決手段】 タイヤ外表面を成形する成形面31と、該成形面31に開口するベントホール32とを備えたタイヤ加硫金型10において、ベントホール32内に空気の通過を許容する一方でゴムを堰き止める堰き止め部材33が配設され、成形面31から堰き止め部材33までの距離が6mm~18mmの範囲にある。このタイヤ加硫金型10の内側に未加硫状態のタイヤTを投入し、タイヤTを内側から加圧しつつ加硫を行う。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ外表面を成形する成形面と、該成形面に開口するベントホールとを備えたタイヤ加硫金型において、前記ベントホール内に空気の通過を許容する一方でゴムを堰き止める堰き止め部材が配設され、前記成形面から前記堰き止め部材までの距離が6mm~18mmの範囲にあることを特徴とするタイヤ加硫金型。
【請求項2】
前記ベントホールの少なくとも一部を包含すると共に前記金型の本体から分離可能であるベントピースを備えることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項3】
前記堰き止め部材が前記ベントホールの軸方向と直交する方向に積層された複数枚のプレートで構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項4】
前記堰き止め部材が連続気泡を有する多孔質材料で構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項5】
前記堰き止め部材が前記ベントホールの軸方向に貫通する複数の通気孔を有する部材で構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項6】
前記堰き止め部材に離型処理が施されていることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のタイヤ加硫金型。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載のタイヤ加硫金型の内側に未加硫状態のタイヤを投入し、前記タイヤを前記成形面に向かって加圧しながら該タイヤの加硫を行うことを特徴とするタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベントホールを備えたタイヤ加硫金型及びそれを用いたタイヤの製造方法に関し、更に詳しくは、スピューによるベントホールの目詰まりを効果的に抑制することを可能にしたタイヤ加硫金型及びそれを用いたタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの製造工程においては、タイヤ加硫金型の内側に未加硫状態のタイヤを投入し、そのタイヤをブラダーにより内側から加圧しながら加熱することにより、タイヤの加硫を行っている。その際、タイヤ加硫金型の成形面と未加硫タイヤとの間にエアが残っていると、その残留エアに起因してタイヤ表面故障が発生する。このようなタイヤ表面故障を防止するために、タイヤ加硫金型には成形面に開口するエア抜き用の多数のベントホールが設けられている。
【0003】
しかしながら、加硫時にベントホール内に形成されたスピュー(髭状のゴム片)の少なくとも一部が離型時にベントホール内に残存し、ベントホールに目詰まりを生じると、次の加硫においてベントホールによるエア抜きを行うことができず、その部分にタイヤ表面故障が生じることになる。また、スピューによるベントホールの目詰まりが発生した場合、ベントホールを掃除するためにタイヤの生産を一時的に停止する必要があり、このことはタイヤの生産性を大幅に低下させる要因となる。
【0004】
そこで、ベントホールの目詰まりを防止するために、金型の外部に連通しない非貫通のベントホールを配置することが提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。しかしながら、非貫通のベントホールは本質的にエアを排出する機能を有していないので、残留エアに起因するタイヤ表面故障を防止する効果を十分に確保することができないという欠点がある。
【0005】
また、ベントホールの内部に通気孔を有するベントピースとその通気孔を弾性的に閉止する弾性部材を設置し、ベントピースと弾性部材とに隙間から空気を排出する一方で、弾性部材によりゴムを堰き止めるようにした構造が提案されている(例えば、特許文献3参照)。同様に、ベントホールの入り口付近に弁部材を設置し、この弁部材によりゴムの流出を阻止するようにした構造が提案されている(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、いずれの場合も、スピューを短くするという目的のために弾性部材や弁部材をベントホールの入り口付近に設置する必要があり、そのような部位では加硫時にベントホール内に流入するゴムの圧力が高いため、弾性部材や弁部材の隙間にゴムが流入し易く、それによって弁機能が低下することがある。そのため、弾性部材や弁部材の清掃や交換を頻繁に行う必要があるという欠点がある。
【0006】
更に、ベントホールの内径を奥側で小さくした構造を採用することにより、スピューの中程での破断を防止することが提案されている(例えば、特許文献5参照)。しかしながら、この場合、ベントホールの奥側の小径部にもゴムが流入することなるため、スピューの先端部における破断が生じる恐れがあり、スピューの先端部が破断した場合には排気機能を維持することができないという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9-94830号公報
【特許文献2】特許第6495239号公報
【特許文献3】特許第5227266号公報
【特許文献4】特許第6880817号公報
【特許文献5】特開2019-81260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、スピューによるベントホールの目詰まりを効果的に抑制することを可能にしたタイヤ加硫金型及びそれを用いたタイヤの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明のタイヤ加硫金型は、タイヤ外表面を成形する成形面と、該成形面に開口するベントホールとを備えたタイヤ加硫金型において、前記ベントホール内に空気の通過を許容する一方でゴムを堰き止める堰き止め部材が配設され、前記成形面から前記堰き止め部材までの距離が6mm~18mmの範囲にあることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明のタイヤの製造方法は、上述のタイヤ加硫金型の内側に未加硫状態のタイヤを投入し、前記タイヤを前記成形面に向かって加圧しながら該タイヤの加硫を行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明者は、ベントホールを備えたタイヤ加硫金型について鋭意研究した結果、このようなタイヤ加硫金型を用いて加硫を繰り返し行う場合、ベントホール内に形成されるスピューの先端部付近に汚れが徐々に堆積し、その堆積物に起因してスピューの先端部が破断するという現象を認識した。また、スピューの物性について調査したところ、ベントホール内ではスピューの根元側から先端部側に向かって徐々に圧力が低下し、スピューの先端部は大気圧に近い状態で加熱されるため発泡が顕著に生じることを知見した。そして、スピューの先端部では、ゴムの密度が低下し、破断強度も低下し、このことが汚れの堆積やスピューの破断を生じ易くすることを知見した。本発明者は、このような状況に鑑みて、スピューの先端部におけるゴムの発泡を抑制することでベントホールの目詰まりを効果的に抑制可能であることを知見し、本発明に至ったのである。
【0012】
即ち、本発明では、タイヤ外表面を成形する成形面と、該成形面に開口するベントホールとを備えたタイヤ加硫金型において、ベントホール内に空気の通過を許容する一方でゴムを堰き止める堰き止め部材が配設されているので、加硫時にベントホール内でゴムを堰き止めることにより、スピューの先端部に圧力を発生させてゴムの発泡を抑制することができる。そのため、ベントホール内に形成されるスピューの先端部付近に汚れが堆積することを防止し、そのような堆積物に起因するスピューの先端部の破断を防止することができる。これにより、スピューによるベントホールの目詰まりを効果的に抑制することができる。その結果、残留エアに起因するタイヤ表面故障を防止すると共に、ベントホールの清掃頻度を低減してタイヤの生産性を改善するという優れた効果を得ることができる。
【0013】
本発明によれば、堰き止め部材は空気の通過を許容するものであるため、残留エアの排気性能を十分に確保することができる。更に、成形面から堰き止め部材までの距離が6mm~18mmの範囲にあり、成形面から十分に離れていることで加硫時に堰き止め部材で堰き止められるゴムに過剰な圧力が発生しないので、堰き止め部材の隙間にゴムが流入することはなく、その交換や清掃の頻度を低くすることができる。
【0014】
本発明において、ベントホールの少なくとも一部を包含すると共に金型の本体から分離可能であるベントピースを備えることが好ましい。金型の本体から分離可能であるベントピースを採用することにより、ベントホールに対して堰き止め部材を容易に配設することができる。
【0015】
堰き止め部材はベントホールの軸方向と直交する方向に積層された複数枚のプレートで構成されることができる。この場合、プレート間に形成される隙間が空気の流路となる。
【0016】
堰き止め部材は連続気泡を有する多孔質材料で構成されることができる。この場合、多孔質材料の連続気泡が空気の流路となる。
【0017】
堰き止め部材はベントホールの軸方向に貫通する複数の通気孔を有する部材で構成されることができる。この場合、複数の通気孔が空気の流路となる。
【0018】
堰き止め部材には離型処理が施されていることが好ましい。これにより、堰き止め部材に対するゴムの付着を防止し、ベントホールの目詰まりを効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態からなるタイヤ加硫装置を示す子午線断面図である。
図2】本発明に係るタイヤ加硫金型のベントホール部分を示す断面図である。
図3】本発明に係るタイヤ加硫金型のベントホール内に形成されるスピューを示し、(a)~(b)は各段階でのスピューの状態を示す断面図である。
図4】本発明に係るタイヤ加硫金型のベントホール部分の変形例を示す断面図である。
図5】本発明に係るタイヤ加硫金型のベントホール部分の他の変形例を示す断面図である。
図6】本発明に係るタイヤ加硫金型のベントホール部分の更に他の変形例を示す断面図である。
図7】従来のベントホール内に形成されるスピューを示す断面図である。
図8】従来のベントホールにおける目詰まりの発生メカニズムを示し、(a)~(c)は各段階でのベントホールの状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図1は本発明の実施形態からなるタイヤ加硫装置を示し、図2は本発明に係るタイヤ加硫金型のベントホール部分を示し、図3はそのベントホール部分をスピューと共に示すものである。
【0021】
図1に示すように、このタイヤ加硫装置は、空気入りタイヤTの外表面を成形するタイヤ加硫金型(以下、「金型」と称す)10と、空気入りタイヤTの内側に挿入される筒状のブラダー20とを備えている。また、このタイヤ加硫装置は、該ブラダー20の内側にスチーム等の加熱加圧媒体を供給するための加熱加圧媒体供給手段(不図示)や、金型10を加熱するための加熱手段(不図示)を備えている。
【0022】
金型10は、空気入りタイヤTのサイドウォール部を成形するための下側サイドプレート11及び上側サイドプレート12と、空気入りタイヤTのビード部を成形するための下側ビードリング13及び上側ビードリング14と、空気入りタイヤTのトレッド部を成形するための複数のセクター15とから構成され、その金型10の内側で空気入りタイヤTを加硫成形するようになっている。なお、金型10の構造は特に限定されるものではなく、図示のようなセクショナルタイプのモールドのほか、二つ割りタイプのモールドを使用することも可能である。
【0023】
ブラダー20は、その下端部が下側ビードリング13と下側クランプリング21との間に把持され、その上端部が上側クランプリング22と補助リング23との間に把持されている。図1に示すような加硫状態において、ブラダー20は空気入りタイヤTの径方向外側に向かって拡張した状態にあるが、加硫後に空気入りタイヤTを金型10内から取り出す際には上側クランプリング22が上方に移動し、それに伴ってブラダー20が空気入りタイヤTの内側から抜き取られるようになっている。
【0024】
上述したタイヤ加硫装置において、図1及び図2に示すように、金型10は、タイヤ外表面を成形する成形面31と、該成形面31に開口するベントホール32とを備えている。ベントホール32は、一端が成形面31に開口する一方で、他端が金型10の外部に連通している。図1においては、ベントホール32が金型10を構成するセクター15に形成される構造を描写しているが、ベントホール32は下側サイドプレート11、上側サイドプレート12、下側ビードリング13又は上側ビードリング14に形成することも可能であり、金型10の全体において多数のベントホール32を配設することが可能である。金型10は、本体10Aと、ベントホール32の少なくとも一部を包含すると共に金型10の本体10Aから分離可能であるベントピース10Bを備えている。ベントピース10Bは金型10の本体10Aに対して着脱自在に構成されている。
【0025】
金型10において、図2に示すように、ベントホール32内には空気の通過を許容する一方でゴムを堰き止める堰き止め部材33が配設されている。より具体的には、堰き止め部材33は、ベントホール32の軸方向に沿って延長すると共にベントホール32の軸方向と直交する方向に積層された複数枚のプレート34で構成されている。プレート34の相互間には表面粗さに起因する微細な隙間が存在し、その隙間が空気の流路となる。そして、成形面31から堰き止め部材33までの距離Yは6mm~18mmの範囲に設定されている。
【0026】
上述したタイヤ加硫装置を用いて空気入りタイヤTを加硫する場合、金型10の内側に未加硫状態の空気入りタイヤTを投入し、その空気入りタイヤTの内側にブラダー20を挿入し、ブラダー20内に加熱加圧媒体を導入する一方で金型10を外側から加熱することにより、空気入りタイヤTを成形面31に向かって加圧しながら該空気入りタイヤTの加硫を行う。
【0027】
このような加硫工程において、金型10の成形面31と未加硫状態の空気入りタイヤTとの間に残留するエアはベントホール32を介して金型10の外部に排出される。そして、図3(a)~(b)に示すように、空気入りタイヤTを構成する未加硫ゴムGがベントホール32内に侵入し、ベントホール32内にスピューSが形成される。加硫済の空気入りタイヤTが金型10から取り外される際に、スピューSはベントホール32から引き抜かれる。そして、スピューSは必要に応じて切除される。
【0028】
ここで、図7及び図8(a)~(c)を用いて、従来のベントホールにおける目詰まりの発生メカニズムについて詳しく説明する。本発明者の知見によれば、図7に示すように、従来のベントホール32内では、スピューSの根元側から先端部側に向かって徐々に圧力が低下し、スピューSの先端部は大気圧に近い状態で加熱されるため発泡が顕著に生じる。このような発泡はゴムに含まれる発泡剤のみならず水分等にも起因する。その結果、スピューSの先端部では、ゴムの密度が低下し、破断強度も低下し、このことが汚れの堆積やスピューSの破断を生じ易くする要因となる。
【0029】
このような状況において加硫工程を繰り返し行うと、図8(a)に示すように、金型10のベントホール32内に形成されるスピューSの先端部付近に汚れが堆積し、堆積物Xが徐々に成長する。次いで、図8(b)に示すように、加硫時にベントホール32内に未加硫ゴムGが進入し、それが堆積物Xを越える位置まで到達する。そして、図8(c)に示すように、加硫後にスピューSが引き抜かれた際に、堆積物Xと一体化したスピューSの先端部が千切れてベントホール32を閉塞する。
【0030】
これに対して、上述した金型10では、ベントホール32内に空気の通過を許容する一方でゴムGを堰き止める堰き止め部材33が配設されているので、図3(a)に示すように、加硫時にベントホール32内にゴムGが流入すると、それに伴って堰き止め部材33を通して残留エアが排出される。その後、図3(b)に示すように、ベントホール32内でゴムGを堰き止めることにより、スピューSの先端部に圧力を発生させてゴムGの発泡を抑制することができる。このようにしてスピューSの先端部におけるゴムGの発泡を抑制することにより、ベントホール32内に形成されるスピューSの先端部付近に汚れが堆積することを防止し、その堆積物Xに起因するスピューSの先端部の破断を防止することができる。これにより、スピューSによるベントホール32の目詰まりを効果的に抑制することができる。その結果、残留エアに起因するタイヤ表面故障を防止すると共に、ベントホール32の清掃頻度を低減して空気入りタイヤTの生産性を改善することができる。
【0031】
また、上述した金型10によれば、堰き止め部材33は空気の通過を許容するものであるため、残留エアの排気性能を十分に確保することができる。更に、堰き止め部材33は成形面31から十分に離れていることで加硫時に堰き止め部材33で堰き止められるゴムGに過剰な圧力が発生しないので、堰き止め部材33の隙間にゴムGが流入することはなく、その交換や清掃の頻度を低くすることができる。
【0032】
ここで、成形面31から堰き止め部材33までの距離Yは6mm~18mmの範囲にあることが必要である。距離Yが6mmよりも小さいと加硫時に堰き止め部材33で堰き止められるゴムGに過剰な圧力が発生し、堰き止め部材33の隙間にゴムGが流入し易くなり、逆に18mmよりも大きいと堰き止め部材33に対してゴムGが接触し難くなり、ゴムGの発泡を抑えることができなくなる。特に、成形面31から堰き止め部材33までの距離Yは10mm~14mmの範囲にあることが望ましい。また、堰き止め部材33は、加硫時にベントホール32内に流入するゴムGを堰き止めることを前提とするものであるので、加硫時にベントホール32内に流入するゴムGが堰き止め部材33に接触する位置に配置される。成形面31から堰き止め部材33までの距離Yを決定する場合、堰き止め部材33を外した状態での形成されるスピューSの平均長さを求め、そのスピューSの平均長さの例えば70%~90%の位置に堰き止め部材33を配設すれば良い。スピューSの平均長さは予備的な加硫試験を通じて求めても良く、或いは、ゴム特性(粘度と加硫速度)から見積もっても良い。
【0033】
上述した金型10は、ベントホール32の少なくとも一部を包含すると共に金型10の本体10Aから分離可能であるベントピース10Bを備えているので、ベントホール32に対して堰き止め部材33を容易に配設することができる。即ち、堰き止め部材33はベントホール32の奥側の部位に配置されるので、ベントピース10Bの単体状態でベントホール32内に堰き止め部材33を挿入し、堰き止め部材33を備えたベントピース10Bを本体10Aに対して装着することができる。或いは、ベントピース10Bを外した状態で、金型10の本体10Aにおいてベントホール32内に堰き止め部材33を挿入し、堰き止め部材33を備えた本体10Aに対してベントピース10Bを装着するようにしても良い。
【0034】
図4は本発明に係るタイヤ加硫金型のベントホール部分の変形例を示すものである。図4において、堰き止め部材33は、連続気泡35Aを有する多孔質材料35で構成されている。この場合、多孔質材料35の連続気泡35Aが空気の流路となる。
【0035】
図5は本発明に係るタイヤ加硫金型のベントホール部分の他の変形例を示すものである。図5において、堰き止め部材33は、ベントホール32の軸方向に貫通する複数の通気孔36Aを有する部材36で構成されている。この場合、複数の通気孔36Aが空気の流路となる。ゴムGの流入を回避するために、通気孔36Aの直径は0.1mm以下であると良い。
【0036】
図6は本発明に係るタイヤ加硫金型のベントホール部分の更に他の変形例を示すものである。図6において、堰き止め部材33は、ベントホール32内に挿入された弁37で構成されている。弁37は、ベントホール32内に嵌め込まれていて成形面31側に弁座を備える外筒体37Aと、該外筒体37Aの内側に挿入された弁体37Bと、該弁体37Bを外筒体37Aの弁座から離れる方向に付勢するバネ部材37C(例えば、コイルバネ)とから構成されている。の軸方向に貫通する複数の通気孔36Aを有する部材36で構成されている。弁37はゴムGが接触することで閉じるが、それまでの間は空気の通過を許容する。このような弁37であっても、成形面31から十分に離れた位置に配置することにより、弁37の隙間へのゴムGの流入を回避することができる。
【0037】
上述した金型10において、堰き止め部材33には離型処理が施されていると良い。これにより、堰き止め部材33に対するゴムGの付着を防止し、ベントホール32の目詰まりを効果的に抑制することができる。離型処理としては、例えば、フッ素樹脂加工又はメッキ加工が挙げられる。
【実施例0038】
空気入りタイヤの加硫を行うにあたって、ベントホールの構造だけを異ならせたタイヤ加硫金型を用いた。
【0039】
従来例では、成形面に開口する多数のベントホールを備えたタイヤ加硫金型を使用した。比較例では、成形面に開口する多数のベントホールを備え、各ベントホールの入り口付近に空気の通過を許容する一方でゴムを堰き止める堰き止め部材が配設されたタイヤ加硫金型を使用した。実施例1~3では、成形面に開口する多数のベントホールを備え、各ベントホールの奥側に空気の通過を許容する一方でゴムを堰き止める堰き止め部材(図2図4図5)が配設されたタイヤ加硫金型を使用した。比較例及び実施例1~3において、成形面から堰き止め部材までの距離はそれぞれ表1のように設定した。
【0040】
上述したタイヤ加硫金型を用いて空気入りタイヤの加硫を繰り返し行い、ベントホール又は弁の目詰まりに起因して清掃作業が必要となるまでの加硫回数を調べ、その結果を表1に示した。加硫回数は、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどベントホール及び弁の目詰まりが少ないことを意味する。
【0041】
【表1】
【0042】
表1から判るように、実施例1~3のタイヤ加硫金型を用いた場合、従来例との対比において、スピューによるベントホールの目詰まりを効果的に抑制することができたため、清掃作業が必要となるまでの加硫回数が増えていた。一方、比較例のタイヤ加硫金型を用いた場合、堰き止め部材の隙間にゴムが流入し、堰き止め部材の目詰まりが生じたため、その清掃作業が必要となった。
【符号の説明】
【0043】
10 タイヤ加硫金型
10A 本体
10B ベントピース
20 ブラダー
31 成形面
32 ベントホール
33 堰き止め部材
T 空気入りタイヤ
S スピュー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8