IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日本電工株式会社の特許一覧

特開2023-91343金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理方法、金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理装置、並びに、アンモニア吸着塔
<>
  • 特開-金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理方法、金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理装置、並びに、アンモニア吸着塔 図1
  • 特開-金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理方法、金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理装置、並びに、アンモニア吸着塔 図2
  • 特開-金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理方法、金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理装置、並びに、アンモニア吸着塔 図3
  • 特開-金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理方法、金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理装置、並びに、アンモニア吸着塔 図4
  • 特開-金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理方法、金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理装置、並びに、アンモニア吸着塔 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091343
(43)【公開日】2023-06-30
(54)【発明の名称】金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理方法、金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理装置、並びに、アンモニア吸着塔
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/62 20230101AFI20230623BHJP
   C02F 1/58 20230101ALI20230623BHJP
   C02F 1/28 20230101ALI20230623BHJP
【FI】
C02F1/62 Z
C02F1/58 J
C02F1/28 M
C02F1/28 E
C02F1/58 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021206035
(22)【出願日】2021-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】391021765
【氏名又は名称】新日本電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】根本 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】木村 拓樹
【テーマコード(参考)】
4D038
4D624
【Fターム(参考)】
4D038AA08
4D038AB29
4D038AB58
4D038AB60
4D038AB65
4D038AB66
4D038AB67
4D038AB68
4D038AB69
4D038AB72
4D038AB74
4D038AB79
4D038BB06
4D038BB13
4D038BB17
4D038BB18
4D624AA04
4D624AA09
4D624AB13
4D624BA01
4D624BA02
4D624BA07
4D624BA13
4D624BB01
4D624BC01
4D624CA01
4D624DB03
4D624DB12
4D624DB20
4D624DB21
(57)【要約】
【課題】簡易、かつ、安価であり、より確実に金属イオンを処理できる、金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理方法を提供すること。
【解決手段】金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理方法であって、前記処理方法は、前記金属イオン及び前記アンモニアを含む排水を、アンモニア吸着材24と接触させて、前記アンモニア吸着材24に前記アンモニアを吸着させる工程と、前記アンモニアを吸着させた後の排水を、凝集沈殿法により前記金属イオンを凝集反応させる工程と、前記凝集反応させた後の排水を、固液分離処理する工程と、を備える、金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理方法であって、
前記処理方法は、
前記金属イオン及び前記アンモニアを含む排水を、アンモニア吸着材と接触させて、前記アンモニア吸着材に前記アンモニアを吸着させる工程と、
前記アンモニアを吸着させた後の排水を、凝集沈殿法により前記金属イオンを凝集反応させる工程と、
前記凝集反応させた後の排水を、固液分離処理する工程と、
を備える、
金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理方法において、
前記アンモニア吸着材が、ゼオライトである、
金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理方法において、
前記凝集沈殿法が、水酸化物法である、
金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理方法において、
前記凝集反応させる工程が、前記アンモニアを吸着させた後の排水にpH調整剤を加えて、pHを9以上、12以下の範囲に調整し、前記凝集沈殿法により前記金属イオンを前記凝集反応させる工程である、
金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理方法。
【請求項5】
金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理装置であって、
前記処理装置は、
前記金属イオン及び前記アンモニアを含む排水を、アンモニア吸着材と接触させて、前記アンモニア吸着材に前記アンモニアを吸着させるアンモニア吸着塔と、
前記アンモニア吸着塔から流入する前記アンモニアを吸着させた後の排水を、凝集沈殿法により前記金属イオンを凝集反応させる凝集反応槽と、
前記凝集反応槽から流入する前記凝集反応させた後の排水を、固液分離する凝集沈殿槽と、
を備える、
金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理装置。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理方法、又は、請求項5に記載の金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理装置に用いられるアンモニア吸着塔であって、
前記アンモニア吸着塔は、
前記金属イオン及び前記アンモニアを含む排水を前記アンモニア吸着材と接触させるために用いられる、
アンモニア吸着塔。
【請求項7】
請求項6に記載のアンモニア吸着塔において、
前記アンモニア吸着塔が、前記金属イオン及び前記アンモニアを含む排水が送水される経路、及び前記アンモニアを吸着させた後の排水が送水される経路に着脱可能である、
アンモニア吸着塔。
【請求項8】
請求項6又は請求項7に記載のアンモニア吸着塔において、
前記アンモニア吸着塔は、
前記アンモニア吸着材と、
前記アンモニア吸着材を収容する吸着材充填容器と、
前記金属イオン及び前記アンモニアを含む排水が送水される経路側に設けられた供給口側接続部材と、
前記アンモニアを吸着させた後の排水が送水される経路が側に設けられた排出口側接続部材と、
を備える、
アンモニア吸着塔。
【請求項9】
請求項8に記載のアンモニア吸着塔において、
前記吸着材充填容器に収容される前記アンモニア吸着材が交換可能である、
アンモニア吸着塔。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理方法、金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理装置、並びに、アンモニア吸着塔に関する。
【背景技術】
【0002】
肥料工場、染料工場、半導体工場、及びめっき工場等の工場、並びに、発電所などから排出される排水は、環境面への配慮から、適切な処理が施された後、河川等に放流される。例えば、上記の工場及び発電所から排出される排水には、軽金属及び重金属などの金属イオンが含まれている。この金属イオンが含まれている排水を河川等に放流するために、適切な排水処理(例えば、凝集沈殿法等)が行なわれ、排水中の金属イオン濃度が基準値以下に低減される。
【0003】
上述した工場、及び発電所から排出される排水には、例えば、金属イオンとともに、アンモニアが含まれている場合が多い。金属イオンとアンモニアとが含まれている排水の処理方法として、種々の処理方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、金属とアンモニアを含む排水を処理する方法が開示されている。特許文献1に開示される金属とアンモニアを含む排水の処理方法は、排水をキレート樹脂又はイオン交換樹脂と接触させる処理、次いでpHを8~12に調整して析出する金属水酸化物を固液分離する処理を行い、その後、酸素含有ガスの共存下に貴金属担持触媒と接触させる処理を行う。
【0005】
特許文献2には、窒素含有排水の物理化学的処理方法が開示されている。特許文献2に開示される窒素含有排水の物理化学的処理方法は、金属成分を含むアンモニア態窒素含有排水を触媒湿式酸化処理法により処理するか、又は、金属成分を含むアンモニア態窒素含有排水をアンモニアストリッピング処理法により処理する方法である。特許文献2に開示される処理方法は、排水のpHを9~12に調整した後、排水を陽イオン交換樹脂粒子充填層に通水する処理を行う。そして、排水を通水する処理の後に、触媒湿式酸化処理法による処理を行うか、又は、排水を通水した後に、アンモニアストリッピング処理法による処理を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-009481号公報
【特許文献2】特開2000-334451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示される排水処理技術によれば、まず、排水を、キレート樹脂又はイオン交換樹脂と接触させることで、アンモニアと錯体を形成する金属イオンが除去される。次いで、pHを特定の範囲に調整することで、キレート樹脂又はイオン交換樹脂により捕捉されなかった排水中の金属イオンが、金属水酸化物として析出される。そして、析出した金属水酸化物が固液分離されることで、金属イオンが除去される。金属とアンモニアを含む排水から金属を除去した後、酸素含有ガスの共存下に貴金属担持触媒と接触させることで、アンモニアが酸化分解される。
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示される排水処理技術においては、キレート樹脂及びイオン交換樹脂は高価であり、排水中に含まれる金属成分毎に、キレート樹脂及びイオン交換樹脂を選定する必要がある。さらに、特許文献1に開示される排水処理技術は、アンモニアの貴金属担持触媒による酸化分解処理を行うため、設備コストが高くなりやすい。
【0009】
特許文献2に開示される排水処理技術によれば、まず、排水のpHを特定の範囲に調整することで、金属成分が、金属水酸化物及び金属錯体として析出させる。そして、排水を、陽イオン交換樹脂に通水することで、析出した金属水酸化物、及び金属錯体が除去される。次いで、陽イオン交換樹脂に排水を通水した後に、触媒湿式酸化処理法又はアンモニアストリッピング処理法を適用することで、アンモニア態窒素が除去される。
【0010】
しかしながら、特許文献2に開示される排水処理技術においては、特許文献1に開示される排水処理技術と同様に、アンモニア陽イオン交換樹脂が高価である。また、アンモニアストリッピング処理法は、アルカリ剤に要するコストが高く、アンモニアの再吸着濃縮処理を行うため、経済的ではない。さらに、特許文献2に開示される排水処理技術は、アンモニアの触媒湿式酸化処理法又はアンモニアストリッピング処理法を行うため、設備コストが高くなりやすい。
【0011】
また、特許文献1及び特許文献2に開示される排水処理技術は、アンモニアの処理の前段で、金属成分としての金属イオンと、アンモニアとを含む排水をpH調整することによって、析出した金属水酸化物を予め除去する技術である。金属イオンとアンモニアとが共存する排水中では、金属イオンが、アンモニアとアンミン錯体を形成する。このため、金属イオンとアンモニアとが共存する排水処理において、特許文献1及び特許文献2に開示されるような、アンモニア処理の前段で、pH調整による金属成分の処理を行う排水処理方法は、金属成分の除去効率が低く、排水中の金属成分を確実に分離処理できる処理方法ではなかった。
【0012】
本発明の目的は、金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理において、簡易、かつ、安価であり、より確実に金属イオンを処理できる、金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理方法、金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理装置、並びに、当該排水の処理方法又は当該排水の処理装置に用いられるアンモニア吸着塔を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様によれば、金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理方法であって、前記処理方法は、前記金属イオン及び前記アンモニアを含む排水を、アンモニア吸着材と接触させて、前記アンモニア吸着材に前記アンモニアを吸着させる工程と、前記アンモニアを吸着させた後の排水を、凝集沈殿法により前記金属イオンを凝集反応させる工程と、前記凝集反応させた後の排水を、固液分離処理する工程と、を備える、金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理方法が提供される。
【0014】
本発明の一態様に係る金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理方法において、前記アンモニア吸着材が、ゼオライトであることが好ましい。
【0015】
本発明の一態様に係る金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理方法において、前記凝集沈殿法が、水酸化物法であることが好ましい。
【0016】
本発明の一態様に係る金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理方法において、前記凝集反応させる工程が、前記アンモニアを吸着させた後の排水にpH調整剤を加えて、pHを9以上、12以下の範囲に調整し、前記凝集沈殿法により前記金属イオンを前記凝集反応させる工程であることが好ましい。
【0017】
本発明の一態様によれば、金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理装置であって、前記処理装置は、前記金属イオン及び前記アンモニアを含む排水を、アンモニア吸着材と接触させて、前記アンモニア吸着材に前記アンモニアを吸着させるアンモニア吸着塔と、前記アンモニア吸着塔から流入する前記アンモニアを吸着させた後の排水を、凝集沈殿法により前記金属イオンを凝集反応させる凝集反応槽と、前記凝集反応槽から流入する前記凝集反応させた後の排水を、固液分離する凝集沈殿槽と、を備える、金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理装置が提供される。
【0018】
本発明の一態様によれば、本発明の一態様に係る金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理方法、又は、本発明の一態様に係る金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理装置に用いられるアンモニア吸着塔であって、前記アンモニア吸着塔は、前記金属イオン及び前記アンモニアを含む排水を前記アンモニア吸着材と接触させるために用いられる、アンモニア吸着塔が提供される。
【0019】
本発明の一態様に係るアンモニア吸着塔において、前記アンモニア吸着塔が、前記金属イオン及び前記アンモニアを含む排水が送水される経路、及び前記アンモニアを吸着させた後の排水が送水される経路に着脱可能であることが好ましい。
【0020】
本発明の一態様に係るアンモニア吸着塔において、前記アンモニア吸着塔は、前記アンモニア吸着材と、前記アンモニア吸着材を収容する吸着材充填容器と、前記金属イオン及び前記アンモニアを含む排水が送水される経路側に設けられた供給口側接続部材と、前記アンモニアを吸着させた後の排水が送水される経路が側に設けられた排出口側接続部材と、を備えることが好ましい。
【0021】
本発明の一態様に係るアンモニア吸着塔において、前記吸着材充填容器に収容される前記アンモニア吸着材が交換可能であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理において、簡易、かつ、安価であり、より確実に金属イオンを処理できる、金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理方法、金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理装置、並びに、当該排水の処理方法又は当該排水の処理装置に用いられるアンモニア吸着塔が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】従来の排水処理方法に用いられる排水処理装置の一例を模式的に表す概略構成図である。
図2】本発明に係る排水処理方法に用いられる排水処理装置の一例を模式的に表す概略構成図である。
図3】本発明に係る排水処理工程に用いられるアンモニア吸着塔の一例を模式的に示す概略構成図である。
図4】実施例1及び比較例1における排水処理結果(pHと上澄水における亜鉛濃度との関係)を表すグラフである。
図5】実施例2及び比較例2における排水処理結果(静置時間と液面から沈降面までの距離との関係)を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好ましい実施形態の一例について、詳細に説明する。本発明は実施形態の内容に限定されない。
【0025】
[排水処理方法及び排水処理装置]
本発明の好ましい実施形態の一例である処理方法は、金属イオン及びアンモニアを含む排水を、アンモニア吸着材と接触させて、アンモニア吸着材にアンモニアを吸着させる工程(アンモニア吸着工程)と、アンモニアを吸着させた後の排水を、凝集沈殿法により金属イオンを凝集反応させる工程(凝集反応工程)と、凝集反応させた後の排水を、固液分離処理する工程(固液分離工程)と、を備える。
【0026】
本発明の好ましい実施形態の一例である処理装置は、金属イオン及びアンモニアを含む排水を、アンモニア吸着材と接触させて、アンモニア吸着材にアンモニアを吸着させるアンモニア吸着塔と、アンモニア吸着塔から流入するアンモニアを吸着させた後の排水を、凝集沈殿法により金属イオンを凝集反応させる凝集反応槽と、凝集反応槽から流入する凝集反応させた後の排水を、固液分離する凝集沈殿槽と、を備える。
【0027】
従来、金属イオンを含んだ排水中の金属イオンを除去する方法としては、水酸化物法、硫化物法、置換法、液体キレート法、及び重金属除去剤による処理等の凝集沈殿法、並びに、キレート樹脂による吸着法などの種々の処理方法が挙げられる。これらの中でも、金属イオンを含んだ排水の処理には、一般的には、制御がしやすく安価な処理法である水酸化物法が適用されることが多い。
【0028】
従来の水酸化物法による排水処理は、一例として、次のような工程で処理される。まず、金属イオンを含んだ排水は、原水槽などに貯留されるか、又は、直接、凝集反応槽へ送水される。次いで、凝集反応槽に送水された排水は、pH調整剤としてのアルカリ剤(例えば、消石灰)が添加され、必要に応じて、凝集剤も添加されて、撹拌される。撹拌された後の排水は、凝集沈殿槽に送水される。凝集沈殿槽において、生成した汚泥を沈殿させ、汚泥と上澄水とに固液分離される。凝集沈殿槽の下部に沈殿した汚泥は、汚泥ポンプ等により引き抜かれ、最終処分場などで処分される。凝集沈殿槽で固液分離した排水は、ろ過器等に送水される。凝集沈殿槽で沈殿しきれなかったフロック、及び浮遊物質などは、ろ過器等で除去される。そして、フロック、及び浮遊物質などが除去された処理水が、河川等に放流される。
【0029】
以下、従来の排水処理方法と排水処理装置の一例について、図1を参照して説明する。なお、図1において、説明を容易にするために拡大又は縮小をして図示した部分がある。図1に示すように、従来の排水処理装置1Aは、金属イオンを含む排水を貯留する原水槽10Aと、原水槽10Aから流入する排水を凝集沈殿法により金属イオンを凝集反応させる凝集反応槽30Aと、凝集反応槽30Aから流入する排水を固液分離する凝集沈殿槽50Aと、凝集沈殿槽50Aから流入する排水をろ過するろ過器70Aとを備えている。
【0030】
従来の排水処理装置1Aを用いた排水処理工程は、次のような工程を経て処理される。まず、各種工場又は発電所から排出される排水として、金属イオンを含む排水(被処理水)が、原水槽10Aに送水される。原水槽10Aでは、金属イオンを含む排水としての被処理水である原水12Aが、一時的に貯留される。原水槽10Aに貯留された原水12Aは、ポンプ11Aにより、管路13Aを通じて送水され、凝集反応槽30Aに流入する。凝集反応槽30Aでは、pH調整剤などの薬液36Aが収容されたタンク35Aから、図示しないポンプにより、管路37Aを通じて、薬液36Aが供給される。凝集反応槽30Aには、図示しない撹拌機が設けられており、当該撹拌機により撹拌される。撹拌後の排水は、凝集反応水32Aとして、オーバーフローすることにより、管路33Aを通じて送水され、凝集沈殿槽50Aに流入する。凝集沈殿槽50Aでは、送水された凝集反応水32Aが、凝集した汚泥54Aと、上澄水としての凝集処理水52Aとに固液分離される。汚泥54Aは、凝集沈殿槽50Aから、図示しないポンプにより引き抜かれる。凝集処理水52Aは、管路53Aを通じて、ろ過器70Aに送水され、ろ過器70Aによりろ過される。そして、ろ過処理水72Aが、処理水として、河川等に放流される。
【0031】
ところで、排水中に、金属イオンとともに、アンモニアが含まれている場合、金属イオンは、アンモニアとアンミン錯体を形成する。凝集沈殿法で金属イオンの分離処理をする場合、排水中に存在するアンミン錯体の影響により、金属イオンの凝集性及び沈降性が低下し、排水中の金属イオン濃度を低下させる効率が低下する傾向がある。このため、金属イオンの濃度を基準値以下まで低下するために時間がかかり、さらには金属イオンの濃度を基準値以下まで低下させることができずに放流される可能性がある。
【0032】
例えば、図1に示すような、従来の排水処理装置1Aを適用した排水処理工程で、金属イオンとともに、アンモニアが含まれている排水を処理する場合、金属イオンが、アンモニアとアンミン錯体を形成したまま凝集沈殿処理が行われる。例えば、金属イオンとして、亜鉛イオンが含まれる場合、亜鉛イオンは、アンモニアとアンミン錯体を形成したままで、凝集沈殿処理が行われる。このため、亜鉛の溶解度として、亜鉛金属単体よりも、亜鉛のアンミン錯体のほうが、亜鉛金属の溶解度が上昇し、亜鉛イオンを除去するためのpH領域が狭くなる。また、亜鉛の水酸化物の沈降速度も低下し、処理のための滞留時間が増加する。
【0033】
一般的に、代表的なアンモニア除去方法としては、例えば、生物学的硝化脱窒法、アンモニアストリッピング法、塩素酸化法、及び接触分解法が挙げられる。凝集沈殿法において、金属イオンとアンモニアとのアンミン錯体による凝集性及び沈降性の阻害を抑制するための対策として、例えば、金属イオンを分離処理する凝集沈殿処理の前段で、上記の代表的なアンモニア除去方法を採用して、予め、アンモニアを除去することが考えられる。
【0034】
生物学的硝化脱窒法は、硝化細菌により、排水中のアンモニアを、亜硝酸または硝酸性窒素に硝化した後に、脱窒素細菌により、亜硝酸または硝酸性窒素を窒素ガスに還元する方法である。生物学的硝化脱窒法は、微生物を利用した反応によってアンモニアを除去する方法であるため、種々の変動要因に対して、アンモニアの分解活性が不安定になる。さらに、この方法は、広い設備面積が求められ、かつ、アンモニア処理後の後処理も求められる。このため、生物学的硝化脱窒法は、アンモニアの処理の確実性が低く、かつ、経済的ではない。
【0035】
アンモニアストリッピング法は、排水にpH調整用のアルカリ剤(例えば、水酸化ナトリウム等)を添加し、排水をアルカリ性とした後に大量の空気と接触させ、排水中のアンモニアを大気中に放散させる方法である。この方法は、前述のように、pH調整用のアルカリ剤のコストが高く、かつ、大気中に放散させたアンモニアを、再度吸着濃縮する。このため、アンモニアストリッピング法は、経済的ではない。
【0036】
塩素酸化法は、排水に塩素を添加することにより、排水中のアンモニウムイオンを、クロラミンを経由して窒素ガスに酸化する方法である。この方法は、アンモニアに対して、塩素の添加量が10倍程度になる。このため、塩素酸化法は、アンモニア濃度の高い排水処理には不向きである。さらに、塩素酸化法は、処理した排水中に含まれる残留塩素の後処理を行う。このため、塩素酸化法は、経済的ではない。
【0037】
接触分解法は、アンモニアを含む排水に空気を供給し、加温加圧条件下で、高性能触媒と接触させることにより、排水中のアンモニアを窒素ガスに酸化還元化して、窒素ガスとして、大気中に放散する方法である。この方法は、例えば、排水中にアンモニアとともに、鉄、銅、亜鉛、及び鉛などの種々の金属イオンが含まれていると、触媒活性が低下する。これは、アンモニア接触触媒反応塔内のpHの変化に伴って、金属イオンは金属水酸化物となってアンモニア接触触媒に付着、又は触媒毒として作用するためである。
【0038】
このように、上記で例示した代表的なアンモニア除去方法は、高コストであり、さらに、処理装置に要するコストが高くなる傾向がある。
【0039】
なお、凝集沈殿法による金属イオンの除去処理について、凝集沈殿法を、液体キレート法、又はキレート樹脂吸着法に代替することも考えられる。しかし、これらの方法は、金属イオンの除去効率が低く、さらに、コスト高となる。
【0040】
これに対し、本実施形態では、排水中の金属イオンを凝集沈殿法により処理するに先立って、前段に、排水をアンモニア吸着材と接触させて、アンモニアを吸着させ、排水中のアンモニアを選択除去する。アンモニアの吸着は、簡易かつ経済的にアンモニアを吸着させる点で、例えば、アンモニア吸着材を充填したアンモニア吸着塔を設置し、アンモニアを吸着させ、アンモニアを選択除去する。そして、本実施形態では、アンモニアが除去された後に、後段の凝集沈殿法で、金属イオンが分離処理される。このため、本実施形態に係る金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理方法は、簡易、かつ、安価であり、金属イオンのアンミン錯体化による金属イオンの凝集性及び沈降性の阻害が抑制された状態で、金属イオンをより確実に処理することが可能となる。
【0041】
<排水>
本実施形態で処理対象となる排水は、金属イオン及びアンモニアを含む排水である。金属イオン及びアンモニアを含む排水としては、特に限定されない。金属イオン及びアンモニアを含む排水は、例えば、肥料工場、染料工場、めっき工場、及び半導体工場などの各種工場から発生する排水、並びに発電所から発生する排水などが挙げられる。金属イオン及びアンモニアを含む排水には、金属イオン及びアンモニアを含むこと以外に、他の成分を含んでいてもよい。
【0042】
金属イオン及びアンモニアを含む排水中の金属イオンとしては、例えば、アルミニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、スズ、及び鉛からなる群から選択される少なくとも一種の金属イオンなどが挙げられる。これらの中でも、金属イオンは、少なくとも亜鉛の金属イオンを含むことが好ましい。例えば、金属イオンとして、亜鉛イオンを単独で含んでいてもよく、亜鉛イオン、及び亜鉛イオン以外の金属イオンを一種又は二種以上含んでいてもよい。金属イオン及びアンモニアを含む排水中の金属イオンとして、少なくとも亜鉛イオンを含む排水は、本実施形態に係る排水処理方法及び排水処理装置を好適に適用できる。例えば、処理対象となる排水が、亜鉛めっき工場から発生する排水のような、少なくとも亜鉛イオンを含む金属イオンと、アンモニアとを含む排水である場合の排水処理にも、本実施形態に係る排水処理方法及び排水処理装置は、好適である。
【0043】
ここで、本明細書において、金属イオン及びアンモニアを含む排水中のアンモニアとは、水中で解離したアンモニウムイオン及び未解離のアンモニアを指す。
【0044】
<アンモニア吸着工程>
アンモニア吸着工程は、金属イオン及びアンモニアを含む排水を、アンモニア吸着材と接触させて、アンモニア吸着材にアンモニアを吸着させる工程である。排水中にアンモニアとアンミン錯体を形成する金属イオンとして、例えば、銅イオン、及び亜鉛イオンなどの金属イオンが含まれている場合、これらの金属イオンは、排水をアルカリ性に調整しても、完全には銅の水酸化物、及び亜鉛の水酸化物が析出し難く、アンミン錯体として水中に残存する。このため、排水に、金属イオンとして、アンモニアとアンミン錯体を形成する金属イオンが含まれる場合には、予め、排水をアンモニア吸着材と接触させ、排水からアンモニアを除去しておく。金属イオン及びアンモニアを含む排水からアンモニアが除去されているため、アンミン錯体の形成が抑えられ、後段の凝集反応工程で、高効率に金属イオンを除去することが可能である。
【0045】
アンモニア吸着材にアンモニアを吸着させて、アンモニアが除去できれば、アンモニア吸着材にアンモニアを吸着させる方法は、特に限定されない。アンモニア吸着材にアンモニアを吸着させるために用いられる手段としては、簡易、かつ、安価に排水を処理する観点で、アンモニア吸着塔であることが好ましい。アンモニア吸着材及びアンモニア吸着塔については、後述のアンモニア吸着塔の説明において詳述する。
【0046】
アンモニア吸着工程でアンモニアを吸着して、アンモニアが除去された後の排水中に含まれるアンモニアの濃度は、0.6mg/リットル以下であることが好ましく、0.5mg/リットル以下であることがより好ましく、0.4mg/リットル以下であることがさらに好ましい。アンモニア吸着工程でアンモニアを吸着して除去された後の排水中に含まれるアンモニアの濃度の下限は、特に限定されず、検出限界以下であればよい。アンモニアの濃度の下限は、例えば、0mg/リットル以上であってもよく、0mg/リットル超であってもよい。アンモニアの濃度は、0.6mg/リットル以下であれば、後段の凝集沈殿処理で、凝集沈殿処理での金属イオンの凝集性及び沈降性を阻害しない程度に、アンモニアが除去されていると考えることができる。
【0047】
本実施形態において、排水処理の各工程における排水に含まれる排水中のアンモニアの測定方法は、例えば、JIS K 0102:2016に準拠した、インドフェノール青吸光光度法、中和滴定法、イオン電極法、イオンクロマトグラフ法、及びインドフェノール青発色による流れ分析法などが挙げられ、これらのいずれの方法で測定してしてもよい。これらの中でも、排水中のアンモニアの測定方法は、インドフェノール青吸光光度法、及びイオンクロマトグラフ法が好適であり、簡易的な測定方法である点で、インドフェノール青吸光光度法であることがより好適である。
【0048】
<凝集反応工程>
アンモニア吸着工程は、アンモニアを吸着させた後の排水を、凝集沈殿法により金属イオンを凝集反応させる工程である。凝集沈殿法は、排水中の金属イオンが除去できれば、特に限定されない。凝集沈殿法は、薬液の入手性、及びコストの観点で、水酸化物法を採用することが好ましい。水酸化物法は、pH調整剤を添加して、水酸化物イオンと対象金属の金属イオンとを反応させ、溶解度の低い金属水酸化物として析出させる方法である。
【0049】
水酸化物法において、pH調整剤としてのアルカリ剤は、金属イオンを金属水酸化物として析出することができれば、特に限定されない。アルカリ剤は、例えば、いわゆる苛性ソーダである水酸化ナトリウム(NaOH)、いわゆる消石灰である水酸化カルシウム(Ca(OH))、及び水酸化マグネシウム(Mg(OH))からなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。アルカリ剤は、経済性の観点で、水酸化ナトリウム、及び水酸化カルシウムからなる群の少なくとも一種であることが好ましい。
【0050】
アンモニアを吸着させた後の排水にpH調整剤を加えたときのpHの範囲は、特に限定されず、排水中に含まれる金属イオンが金属水酸化物として析出し、再溶解しない範囲であればよい。凝集反応工程において、排水中に含まれる金属イオンとして、例えば、少なくとも亜鉛イオンを含む場合、亜鉛イオンを水酸化物イオンと凝集反応させるときに調整するpHの範囲は、9以上、11以下であることが好ましい。pHの範囲が、9以上、11以下の範囲であれば、より確実に亜鉛イオンを処理しやすくなる。本実施形態においては、アンモニアが除去された後に、アルカリ剤を加える。このため、本実施形態によれば、金属イオンを除去することが可能なpH域が広がり、凝集沈殿におけるpH調整の管理がしやすくなる。また、凝集反応処理のための滞留時間を低下させることが可能となる。
【0051】
<固液分離工程>
固液分離工程は、凝集沈殿法により金属イオンを凝集反応させた後の排水(凝集反応水)を、固液分離処理する工程である。固液分離工程は、例えば、凝集反応水を自然沈降等により、上澄水(凝集処理水)と、凝集物(汚泥)とに固液分離される。固液分離工程により、金属イオンが汚泥として除去される。
【0052】
凝集反応水に含まれる金属イオンの濃度は、5mg/リットル以下であることが好ましく、4mg/リットル以下であることがより好ましく、3mg/リットル以下であることがさらに好ましく、2mg/リットル以下であることがよりさらに好ましい。例えば、本実施形態によって、アンモニアと、少なくとも亜鉛イオンとを含む排水を処理した場合、凝集処理水に含まれる亜鉛イオンの濃度は、2mg/リットル以下を達成することができる。金属イオンの濃度の下限は、特に限定されず、検出限界以下であればよい。金属イオンの濃度の下限は、例えば、0mg/リットル以上であってもよく、0mg/リットル超であってもよい。
【0053】
本実施形態において、排水処理の各工程における排水に含まれる排水中の金属イオンの測定方法は、例えば、JIS K 0102:2016に準拠した、フレーム原子吸光法、電気加熱原子吸光法、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法、及びICP質量分析法などが挙げられ、これらのいずれの方法で測定してしてもよい。これらの中でも、排水中の金属イオンの測定方法は、ICP発光分光分析法であることが好ましい。
【0054】
以下、本実施形態に係る排水処理方法について、本実施形態に係る排水処理装置とともに、図面を参照して説明する。本発明は実施形態の内容に限定されない。なお、図面においては、説明を容易にするために拡大又は縮小をして図示した部分がある。
【0055】
図2は、本実施形態に係る排水処理装置の一例を模式的に表している。図2に示すように、本実施形態に係る排水処理装置100は、図1に示す排水処理装置1Aにおいて、凝集反応槽30Aの前段に、アンモニア吸着塔20を設置している。図2に示す排水処理装置100を適用して、本実施形態に係る排水処理を行うことにより、金属イオン及びアンモニアを含んだ排水が、アンモニア吸着塔20により、アンモニアが選択的に吸着される。このため、本実施形態に係る排水処理は、金属イオンがアンモニアの影響が抑制された状態で、金属イオンの凝集沈殿処理を行うことが可能である。
【0056】
図2に示す排水処理装置100は、金属イオン及びアンモニアを含む排水を貯留する原水槽10と、原水槽10から流入する金属イオン及びアンモニアを含む排水を、アンモニア吸着材24と接触させて、アンモニア吸着材24にアンモニアを吸着させるアンモニア吸着塔20と、アンモニア吸着塔20から流入するアンモニアを吸着させた後の排水を、凝集沈殿法により金属イオンを凝集反応させる凝集反応槽30と、凝集反応槽30から流入する凝集反応させた後の排水を、固液分離する凝集沈殿槽50と、を備えている。排水処理装置100は、さらに、凝集沈殿槽50から流入する排水をろ過する、ろ過器70を備えている。
【0057】
金属イオン及びアンモニアを含む排水を、本実施形態に係る排水処理装置100を用いた排水処理方法は、次のような工程を経て処理される。
【0058】
まず、各種工場又は発電所から排出される排水として、金属イオン及びアンモニアを含む排水(被処理水)が、原水槽10に送水される。原水槽10では、被処理水である、金属イオン及びアンモニアを含む排水としての原水12が、一時的に貯留される。原水12には、金属イオンの少なくとも一部が、アンモニアとアンミン錯体を形成して含有している。
【0059】
原水槽10に貯留された原水12は、ポンプ11により、管路13を通じて送水され、アンモニア吸着塔20に流入する。アンモニア吸着塔20では、排水中のアンモニアが、アンモニア吸着材24により吸着される。排水処理装置100において、アンモニア吸着塔20の内部には、アンモニア吸着材24として、例えば、ゼオライトが収容されている。金属イオン及びアンモニアを含む排水中のアンモニアは、アンモニア吸着材24に吸着される。アンモニア吸着塔20によりアンモニアが吸着され、アンモニアが除去される。アンモニアは、後段の金属イオンを除去するときの凝集沈殿で、アンモニアの影響を受けない程度に除去される。アンモニアが吸着された後の排水であるアンモニア吸着処理水22には、金属が金属単体のイオンとなって含有している。
【0060】
アンモニア吸着処理水22は、ポンプ11の圧力により、管路23を通じて送水され、凝集反応槽30に流入する。凝集反応槽30では、薬液36が収容されたタンク35から、図示しないポンプにより、管路37を通じて、薬液36が供給される。排水処理装置100において、凝集沈殿法は、水酸化物法が適用されている。排水処理装置100では、タンク35に、薬液36として、消石灰等のpH調整剤としてのアルカリ剤が収容されている。凝集反応槽30には、図示しない撹拌機が設けられており、当該撹拌機により撹拌される。撹拌後の排水は、凝集反応水32として、オーバーフローすることにより、管路33を通じて送水され、凝集沈殿槽50に流入する。
【0061】
凝集沈殿槽50では、送水された凝集反応水32に含まれる凝集物が、汚泥54として沈殿し、凝集反応水32は、沈殿した汚泥54と、上澄水としての凝集処理水52に固液分離される。汚泥54は、凝集沈殿槽50の下部から、図示しないポンプにより引き抜かれる。凝集処理水52は、管路53を通じて、ろ過器70に送水され、ろ過器70によりろ過される。そして、ろ過処理水72が、処理水として、河川等に放流される。
【0062】
(原水槽)
原水槽10は、金属イオン及びアンモニアを含む排水を一時的に貯留するために設けられている。原水槽10は、金属イオン及びアンモニアを含む排水を貯留できる構造であれば、特に制限されず、各種の形状、材質等が使用可能である。原水槽の容量は、特に制限されず、処理する排水の量に応じて決定すればよい。原水槽10は、例えば、原水12を循環させる循環機構(不図示)が設けられていてもよい。循環機構としては、例えば、攪拌機が挙げられる。なお、図2に示す排水処理装置100では、原水槽10を設けていたが、原水槽10を設けず、原水12を、アンモニア吸着塔20に通水した後、凝集反応槽30に送水するように構成してもよい。
【0063】
(アンモニア吸着塔)
アンモニア吸着塔20は、金属イオン及びアンモニアを含む排水を、アンモニア吸着材と接触させるために用いられる。排水処理装置100において、アンモニア吸着塔20では、排水をアンモニア吸着材24と接触させて、アンモニア吸着材24にアンモニアを吸着させることで、アンモニアが選択除去される。アンモニア吸着塔20に原水12を通水することで、後段の凝集沈殿処理で凝集物を不溶化させたとき、金属イオンの凝集性及び沈降性を阻害しない程度に、アンモニアが除去される。
【0064】
アンモニア吸着塔20は、アンモニアを吸着して除去することができれば、特に制限されず、種々の構造が採用できる。簡易、かつ、安価を実現可能にする観点で、アンモニア吸着塔20は、排水処理装置100における凝集反応槽30の前段の部分の経路内に着脱可能であることが好ましい。具体的には、アンモニア吸着塔20は、金属イオン及びアンモニアを含む排水が送水される経路である管路13、及びアンモニアを吸着させた後の排水(つまり、アンモニア吸着処理水22)が送水される経路である管路23に着脱可能であることが好ましい。アンモニア吸着塔20は、排水処理装置100における凝集反応槽30の前段の部分の経路内に着脱可能に構成すれば、アンモニア吸着材24のアンモニアを吸着する能力が低下した後、アンモニア吸着塔20自体を交換することが可能になる。アンモニアを吸着する能力を有するアンモニア吸着材24が充填されたアンモニア吸着塔20に交換することによって、再び、一定量のアンモニアを吸着させることが可能になる。
【0065】
アンモニア吸着塔20でアンモニアを吸着して除去された後の排水中に含まれるアンモニアの濃度は、前述のアンモニア除去工程で説明した範囲の濃度であることが好ましい。
【0066】
図3は、図2に示すアンモニア吸着塔20として適用されるアンモニア吸着塔の好ましい実施形態の一例を模式的に表している。図3に示すように、アンモニア吸着塔200は、アンモニア吸着材204と、アンモニア吸着材204を収容する吸着材充填容器202と、金属イオン及びアンモニアを含む排水が送水される経路側に設けられた供給口側接続部材214と、アンモニアを吸着させた後の排水が送水される経路側に設けられた排出口側接続部材218と、を備える。吸着材充填容器202の内部には、アンモニア吸着材204が漏洩しないように、アンモニア吸着材204の下部の排出口側に、フィルター206が設けられている。供給口側接続部材214は、供給口212を介して、吸着材充填容器202に取り付けられており、排出口側接続部材218は、排出口216を介して、吸着材充填容器202に取り付けられている。
【0067】
アンモニア吸着塔200において、吸着材充填容器202は、金属イオン及びアンモニアを含む排水を通水するために十分な容量で設けられている。吸着材充填容器202は、金属、樹脂、及び繊維強化樹脂のうちの1種単独又は2種以上の材質が適用される。吸着材充填容器202を重力方向に対して垂直方向に切断した断面の形状は、円形である。吸着材充填容器202を重力方向に対して垂直方向に切断した断面の形状は、円形に限定されず、三角形でもよく、四角形でもよく、五角形以上の多角形でもよい。吸着材充填容器202の内部には、アンモニアを吸着して、アンモニアを選択除去するために十分な量のアンモニア吸着材204が充填されている。アンモニア吸着塔200において、吸着材充填容器202に充填されているアンモニア吸着材204の形状は、粒子状である。また、吸着材充填容器202に充填されているアンモニア吸着材204は、円筒状に充填されている。
【0068】
吸着材充填容器202の内部に収容するアンモニア吸着材204の充填量、及びアンモニア吸着材204の充填率は、排水の通過抵抗が増大し過ぎず、アンモニアを効率よく吸着させ、アンモニアが除去できることを考慮して決定すればよい。
【0069】
吸着材充填容器202の内部に収容されているアンモニア吸着材204は、交換可能なように構成されていることが好ましい。アンモニア吸着材204は、一定量のアンモニアを吸着し、アンモニアを吸着する能力が低下した後、アンモニア吸着材204を入れ替えることが可能である。アンモニア吸着材204は、アンモニアを吸着する能力が低下した場合、アンモニア吸着材204は、再生剤を用いることにより、アンモニア吸着材204からアンモニアを放出する再生処理を施すことが可能である。再生処理が施されたアンモニア吸着材204は、吸着材充填容器202の内部に充填して、再利用することが可能である。又は、アンモニアを吸着する能力が低下したアンモニア吸着材204は、再生処理せずに、廃棄処分することも可能である。
【0070】
アンモニア吸着塔200は、供給口側接続部材214と、金属イオン及びアンモニアを含む排水(被処理水)が送水される経路側の管路とが連結され、排出口側接続部材218と、アンモニアを吸着させた後の排水(つまり、アンモニア吸着処理水)が送水される経路側の管路とが連結されて使用される。被処理水は、供給口側接続部材214及び供給口212から流入し、吸着材充填容器202の内部に充填されているアンモニア吸着材204で、アンモニアが吸着して、選択除去される。その後、排出口216及び排出口側接続部材218を通じて、アンモニア吸着処理水が排出される。
【0071】
供給口側接続部材214及び排出口側接続部材218としては、例えば、フランジ、カプラー等の接続部材が用いられる。アンモニア吸着塔の交換を容易にする観点で、供給口側接続部材214及び排出口側接続部材218のいずれも、カプラーが適用されることが好ましい。供給口側接続部材214及び排出口側接続部材218の両者がカプラーである場合、被処理水が送水される管路が備える接続部材、及びアンモニア吸着処理水が送水される管路が備える接続部材にも、カプラーが適用されている。供給口側接続部材214及び排出口側接続部材218の両者がカプラーであれば、供給口側接続部材214のカプラーと被処理水が送水される管路のカプラーとを繋ぎ、排出口側接続部材218のカプラーとアンモニア吸着処理水が送水される管路のカプラーとを繋ぐだけで、排水処理装置への着脱が容易になる。例えば、アンモニア吸着能力が低下した古いアンモニア吸着塔を、アンモニア吸着能力を十分に有する新しいアンモニア吸着塔に交換するときのことを考える。このとき、古いアンモニア吸着塔が備える各カプラーを、各管路が備えるカプラーから取り外し、当該各管路が備えるカプラーに、新しいアンモニア吸着塔が備える各カプラーを繋ぎ変えるだけで着脱できる。このため、アンモニア吸着塔の交換が容易になる。
【0072】
また、供給口側接続部材214及び排出口側接続部材218の両者が、カプラーであると、排水処理装置の稼働率のロスを最小限に抑えて運転することができるため、好適である。
【0073】
アンモニア吸着塔200は、アンモニア吸着塔200を設置する支持台(不図示)を設けてもよい。図示しない支持台は、アンモニア吸着塔200を移動可能なように構成されていてもよい。支持台は、アンモニア吸着塔200に直接取り付けて設けられてもよい。又は、支持台は、アンモニア吸着塔200を支持台に搭載して、アンモニア吸着塔200から支持台を取り外しできるように設けられてもよい。
【0074】
アンモニア吸着塔200に充填するアンモニア吸着材204は、アンモニアが吸着される吸着材であれば、特に限定されない。アンモニア吸着材204としては、例えば、活性炭、アルミナ、シリカ、及びゼオライトからなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。これらの中でも、アンモニア吸着材204は、アンモニアの選択吸着性及び安価である観点で、少なくともゼオライトを含むことが好ましく、ゼオライトであることがより好ましい。ゼオライトは、微細かつ均一に近い細孔径を有していることにより、アンモニアを選択的に吸着することが可能であり、高効率にアンモニアを除去できる。ゼオライトは、日本国内の埋蔵量も豊富であり、安価である。
【0075】
ゼオライトは、アルカリまたはアルカリ土類金属を含む含水アルミノケイ酸塩である。ゼオライトは、特に限定されず、自然界から採掘された天然ゼオライトでもよく、化学合成によって製造された合成ゼオライト、石炭灰などから製造された人工ゼオライトでもよい。より安価である点から、天然ゼオライトが好ましい。ゼオライトは、例えば、モルデナイト、クリノプチロライト、アナルサイム、及びフェリエライトなどに分類される。本実施形態では、いずれのゼオライトも使用可能である。これらの中でも、ゼオライトは、モルデナイト型のゼオライトであることが好ましい。モルデナイト型のゼオライトは、アンモニアを吸着させるために適した細孔径を有しており、その細孔径からアンモニアの選択吸着性に優れている。また、モルデナイト型のゼオライトは、酸による結晶崩壊が少ない。このため、例えば、アンモニアを含む酸性の排水(例えば、塩化亜鉛浴等)に対して、好適に使用できる。
【0076】
アンモニアを効率よく吸着させる観点で、ゼオライトの細孔径は、例えば、0.3nm以上、1nm以下であることが好ましく、0.3nm以上、0.8nm以下であることより好ましい。
【0077】
アンモニア吸着塔に、金属イオン及びアンモニアを含む排水を通過させる空間速度SV(Space Velocity:1時間当たりの通液量を吸着材の体積に対する倍数で表したもの)は、アンモニアを効率よく吸着させ、アンモニアが除去できれば、特に限定されない。空間速度SVは、例えば、0.6以上、1.2以下の範囲であってもよい。
【0078】
アンモニア吸着塔は、一つに限られず、例えば、複数設けてもよい。また、アンモニア吸着塔は、直列の配置で複数設けてもよく、並列の配置で複数設けてもよい。さらに、処理装置の稼働率の低下を抑制する観点で、アンモニア吸着塔の交換時にも排水中のアンモニアを吸着できるように、アンモニアを吸着させるラインを切り替えることが可能な、予備のアンモニア吸着塔を設けてもよい。
【0079】
(凝集反応槽)
凝集反応槽30は、アンモニアが除去された後の排水中の金属イオンと薬液とを反応させるために設けられている。前述のように、凝集反応槽30には、薬液36として、pH調整剤としてのアルカリ剤(例えば、消石灰など)が供給できるように、薬液供給経路が設けられている。凝集反応槽30は、金属イオン及びアンモニアを含む排水から、アンモニアが除去された後の排水に、薬液を供給して、凝集反応させることができれば、凝集反応槽30の構造等は特に制限されず、各種の形状、材質等が使用可能である。凝集反応槽30は、金属イオンと薬液とを接触させ、金属イオンと薬液とを反応させやすくする観点で、図示しない撹拌機のような循環機構を備えていることが好ましい。
【0080】
凝集反応槽30は、アルカリ剤の供給とともに、必要に応じて、pH調整剤としての酸、及び凝集剤の少なくとも一方を供給するように構成してもよい。この場合、薬液供給経路は、アルカリ剤の供給経路とは別の供給経路を設けることもできる。例えば、第二の供給経路として、pH調整剤としての酸(例えば、塩酸、硫酸など)を収容するタンクと、酸を供給するためのポンプ及び管路を備える供給経路を設けてもよく、第三の供給経路として、凝集剤(例えば、高分子凝集剤、無機凝集剤など)を収容するタンクと、凝集剤を供給するためのポンプ及び管路を備える供給経路を設けてもよい。この場合、第二の供給経路及び第三の供給経路は、それぞれ、ポンプにより、pH調整剤としての酸又は凝集剤を送り出し、管路を通じて、凝集反応槽30に供給される。
【0081】
凝集反応槽30は一つに限られず、複数設けてもよい。例えば、凝集剤を使用する場合、pH調整剤としてのアルカリ剤を添加するための第一の凝集反応槽を設ける他に、pH調整剤としての酸を添加するための第二の凝集反応槽、及び凝集剤を添加するための第三の凝集反応槽を設けてもよい。また、例えば、凝集剤を使用する場合、一つの凝集反応槽30の内部に、pH調整剤を添加するためのエリアと、凝集剤を添加するためのエリアとを設け、仕切り板で仕切るように構成してもよい。凝集反応槽の構造、個数等は、処理効率、設置面積、及び設置コスト等を考慮して決定すればよい。
【0082】
(凝集沈殿槽)
凝集沈殿槽50は、アンモニアが除去された後の排水中の金属イオンと薬液とを反応させた後、静置などにより、上澄水と汚泥とを分離するために設けられている。凝集沈殿槽50では、金属イオンと薬液36(図2に示す排水処理装置100においては、pH調整剤としてのアルカリ剤)との反応によって生成した凝集物が、汚泥54として沈降し、汚泥54と、上澄水としての凝集処理水52とに固液分離される。汚泥54と、凝集処理水52とに固液分離できる構造であれば、凝集沈殿槽50は、特に制限されない。凝集反応槽30の構造は、各種の形状、材質等が使用可能である。凝集沈殿槽50は、例えば、凝集沈殿槽50の下部から汚泥54が引き抜かれ、引き抜かれた汚泥54を機械脱水処理する装置と連結している構造が好ましい。
【0083】
凝集沈殿槽は一つに限られず、複数設けてもよい。凝集沈殿槽の構造、個数等は、処理効率、設置面積、及び設置コスト等を考慮して決定すればよい。
【0084】
(ろ過器)
ろ過器70は、凝集処理水52に含まれるフロック、及び浮遊物質などを除去するために設けられている。ろ過器70は、凝集処理水52に含まれるフロック、及び浮遊物質などが除去できれば、特に制限されない。ろ過器70は、各種の構造が採用される。なお、図2に示す排水処理装置100においては、ろ過器70が設けられているが、ろ過器70に代えて、ろ過器70と同様の機能を有する手段を設けてもよい。また、図2では、ろ過器70を設けていたが、ろ過器70を設けなくてもよい。
【0085】
(本実施形態の作用効果)
本実施形態によれば、次のような作用効果を奏することができる。
(1)本実施形態に係る排水処理方法によれば、金属イオン及びアンモニアを含む排水の処理において、簡易、かつ、安価であり、より確実に金属イオンを処理できる。
(2)本実施形態に係る排水処理方法によれば、アンモニアが除去された後、pHを調整して析出した金属水酸化物を固液分離することで、金属イオンとアンモニアとで形成されるアンミン錯体による凝集性及び沈降性の阻害の影響を受けずに、排水から金属イオンを除去できる。
(3)本実施形態に係る排水処理方法によれば、アンモニアが除去された後に、凝集沈殿法で金属イオンを除去することから、金属イオンを除去するときの除去可能なpHの範囲が広がり、凝集沈殿させるときのpHの管理がしやすくなること、及び凝集沈殿における滞留時間(静置時間)を低下することが可能となる。
【0086】
[実施形態の変形]
本発明は、前述の実施形態に限定されない。本発明は、本発明の目的を達成できる範囲での変形及び改良等を含むことができる。
【0087】
図2では図示していないが、本実施形態によって処理された処理水を河川等に放流する前に、例えば、処理水のpHが5以上8以下(好ましくは、pHが6以上7以下)の範囲になるように、pH調整手段を設けてもよい。さらに、本実施形態によって処理された処理水は、河川等に放流するだけでなく、処理水の少なくとも一部を工業用水として再利用できるように構成してもよい。
【0088】
図2において、凝集反応水の送水は、オーバーフローさせて送水する形態を説明した。これに限定されず、凝集反応水の送水は、オーバーフローさせて送水する形態に代えて、例えば、ポンプにより送水して、凝集反応水が凝集沈殿槽に流入するように構成してもよい。
【0089】
図2において、凝集反応させる工程、及び固液分離させる工程は、凝集反応槽と凝集沈殿槽とを個別に備える排水処理装置で行う形態を説明した。これに限定されず、凝集反応させる工程、及び固液分離させる工程は、凝集反応及び凝集沈殿させて固液分離させる機能を兼ね備えるように、凝集反応槽及び凝集沈殿槽が、一体化した槽を備える排水処理装置で行ってもよい。凝集反応させる工程、及び固液分離させる工程は、例えば、バッチ式で行ってもよい。
【実施例0090】
以下、本発明を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。ただし、これら各実施例は、本発明を限定するものではない
【0091】
[実施例1]
処理対象の排水として、アンモニウムイオン530mg/リットル、及び亜鉛38mg/リットル、塩素1000mg/リットルを含む、亜鉛めっき排水を準備した。アンモニア吸着材として、モルデナイト型のゼオライト(日東粉化工業社製、日東ゼオライト 2号)を準備した。前処理として、当該ゼオライトを水で洗浄した。その後、アンモニア吸着塔の充填容器内に、洗浄後のゼオライト1300mLを、高さ660mm、直径50mmで充填して、アンモニア吸着塔を準備した。亜鉛めっき排水を、アンモニア吸着塔にSV(Space Velocity)1.2(1600mL/h)で通水し、アンモニアをアンモニア吸着材に吸着させて、亜鉛めっき排水からアンモニアを除去した。次いで、アンモニアを除去したアンモニア吸着処理水に消石灰を添加し、水酸化物法による凝集沈殿を行った。
【0092】
[比較例1]
実施例1で準備したアンモニア吸着塔を用いず、実施例1で準備した亜鉛めっき排水を、アンモニア吸着塔に通水しない以外は、実施例1と同様にして、水酸化物法による凝集沈殿を行った。
【0093】
[評価]
<アンモニア吸着処理水の成分濃度>
実施例1について、亜鉛めっき排水を、アンモニア吸着塔に通水した後のアンモニア吸着塔処理水に含まれる、亜鉛イオン、アンモニア、及び塩素の成分の濃度を測定した。亜鉛イオンの濃度はICP発光分光分析法で測定し、アンモニア、及び塩素の成分の濃度は、イオンクロマトグラフ法で測定した。測定結果を表1に示す。
【0094】
<凝集沈殿処理水の成分濃度>
実施例1及び比較例1の両者について、上記で準備した亜鉛めっき排水を、消石灰によるpH調整での水酸化物法による凝集沈殿を行った後、上澄水(凝集沈殿処理水)の亜鉛イオン濃度を比較した。亜鉛イオンの濃度は、ICP発光分光分析法で測定した。消石灰によりpHを調整するときの各pHにおける凝集沈殿処理水に含まれる亜鉛イオン濃度(mg/リットル)は、15分の高速撹拌と15分の低速撹拌とを行いフロックを凝集させ、15分以上静置した後に測定した。測定結果を表2に示す。なお、高速回転は、液の表面に渦ができる程度の回転数であり、低速回転は、液の表面にわずかに渦ができる程度の回転数である。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
図4は、実施例1(図4中、E1と表示)及び比較例1(図4中、C1と表示)の結果を表している。具体的には、図4は、消石灰によるpH調整での水酸化物法による凝集沈殿を行い、各pHにおける上澄水の亜鉛(Zn)イオン濃度を示すグラフである。実施例1では、pH9から12までのpH域で、凝集沈殿処理水に含まれる亜鉛の濃度を2mg/リットル以下に処理することができた。よって、アンモニアを除去した後に、水酸化物法による凝集沈殿を行うことで、亜鉛イオンをより確実に処理することができることが分かる。
【0098】
一方、比較例1では、pH8から12までのpH域で、凝集沈殿処理水に含まれる亜鉛の濃度を2mg/リットル以下に処理することを確認できなかった。
【0099】
この実施例1と比較例1との結果は、排水中のアンモニアを、予め除去することで、金属イオン及びアンモニアを含んだ排水中に含まれる金属イオンを、より確実に処理することが可能であることを示している。
【0100】
[実施例2]
処理対象の排水として、アンモニウムイオン520mg/リットル、及び亜鉛170mg/リットル、塩素1200mg/リットルを含む、亜鉛めっき排水を準備したこと以外は、実施例1と同様にして、水酸化物法による凝集沈殿を行った。
【0101】
[比較例2]
実施例2で準備したアンモニア吸着塔を用いず、実施例2で準備した亜鉛めっき排水を、アンモニア吸着塔に通水しない以外は、実施例2と同様にして、水酸化物法による凝集沈殿を行った。
【0102】
[評価]
<アンモニア吸着処理水の成分濃度>
実施例2について、実施例1と同様にして、アンモニア吸着塔に通水した後のアンモニア吸着塔処理水に含まれる、亜鉛イオン、及びアンモニアの成分の濃度を測定した。測定結果を表3に示す。なお、実施例2では、塩素の成分の濃度は測定しなかった。
【0103】
<凝集沈殿処理水のフロック沈降性>
実施例2及び比較例2の両者について、上記で準備した亜鉛めっき排水を、消石灰によりpH11に調整し、水酸化物法による凝集沈殿時のフロックの沈降性を比較した。フロックの沈降性は、次のような手順で行った。まず、亜鉛めっき排水のpHを11に調整した。その後、pH調整後の排水を、15分間の高速撹拌と15分間の低速撹拌を施した。高速撹拌及び低速撹拌の程度は、実施例1で説明した程度と同様である。次いで、低速撹拌後の液150mLを、200mLメスシリンダーに静かに注いで静置し、フロックの沈降の推移を測定した。フロックの沈降の推移は、液面からフロックが沈降した沈降面までの距離(mm)を時間毎(分)に測定して確認した。液面からフロックが沈降した沈降面までの距離は、上澄水の濁度が、低速撹拌後の液を1日放置したときと同等の濁度になる部分を測定した距離(高さ)である。距離の値が大きいほど、フロックが沈降しやすくなっていることを表す。測定結果を表4に示す。
【0104】
【表3】
【0105】
【表4】
【0106】
図5は、実施例2(図5中、E2と表示)及び比較例2(図5中、C2と表示)の結果を表している。具体的には、図5は、消石灰によりpH11に調整し、上澄水の濁度が、水酸化物法により1日放置したときと同等の濁度になったとき、液面からフロックが沈降した沈降面までの高さの推移を示すグラフである。実施例2では、15分後に液面から132mmまで沈降し、ほぼすべてのフロックを底面に沈殿することができた。よって、アンモニアを除去した後に、水酸化物法による凝集沈殿を行うことで、亜鉛をより確実に処理することができることが分かる。
【0107】
一方、比較例2では、15分後でも、フロックは液面から11mmまでしか沈降せず、凝集沈殿における静置時間が低下することを確認できなかった。
【0108】
この実施例2と比較例2との結果は、排水中のアンモニアを、予め除去することで、金属イオン及びアンモニアを含んだ排水中に含まれる金属イオンを、より確実に処理することが可能であることを示している。
【0109】
[実施例3]
処理対象の排水として、アンモニウムイオン39mg/リットル、鉄26mg/リットル、及び亜鉛160mg/リットルを含む、亜鉛めっき排水を準備した。アンモニア吸着材として、モルデナイト型のゼオライト(日東粉化工業社製、日東ゼオライト 2号)を準備した。当該ゼオライトを水で洗浄後、洗浄後のゼオライト625Lを、高さ1450mm、直径750mmの円柱状に充填して、アンモニア吸着塔を準備した。亜鉛めっき排水を、アンモニア吸着塔に700L/hで通水し、アンモニアをアンモニア吸着材に吸着させて、亜鉛めっき排水からアンモニアを除去した。次いで、アンモニアを除去したアンモニア吸着処理水に、消石灰を添加してpH10に調整し、水酸化物法で凝集沈殿処理を行った。アンモニア吸着処理水のアンモニア濃度、及び凝集沈殿処理水の金属イオン濃度を測定した。測定結果を表5に示す。
【0110】
【表5】
表5に示すように、実施例3の結果は、鉄の濃度が0.1mg/リットル未満(検出下限値以下)、及び亜鉛0.1mg/リットル未満(検出下限値以下)に処理することができた。
【0111】
各比較例の結果から、金属イオン及びアンモニアを含む排水を、アルカリ性に調整してからろ過する処理のみでは除去できない金属成分が存在することが分かる。これに対し、各実施例の結果から、金属イオン及びアンモニアを含む排水を、アンモニア吸着塔を用いてアンモニアを除去することにより、より広いpH域での水酸化物法による凝集沈殿処理が可能となることが分かった。
【0112】
以上の実施例の結果によれば、排水をアンモニア吸着塔に通水してアンモニアと金属イオンを含む排水からアンモニアを除去した後、pHを調整して析出する金属水酸化物を固液分離することによって、金属とアンモニアとで形成するアンミン錯体の影響を受けずに、広いpH域で、簡易、かつ、安価に、金属イオンを含む排水をより確実に処理することが可能となることが分かる。
【符号の説明】
【0113】
10,10A…原水槽、11,11A,…ポンプ、12,12A…原水、13,13A,23,33,33A,37,37A,53,53A…管路、20,200…アンモニア吸着塔、22…アンモニア吸着処理水、24,204…アンモニア吸着材、30,30A…凝集反応槽、32,32A…凝集反応水、35,35A…タンク、36,36A…薬液、50,50A…凝集沈殿槽、52,52A…凝集処理水、54,54A…汚泥、70,70A…ろ過器、72,72A…ろ過処理水、1A,100…排水処理装置、202…吸着材充填容器、206…フィルター、212…供給口,214…供給口側接続部材,216…排出口、218…排出口側接続部材。
図1
図2
図3
図4
図5