(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091358
(43)【公開日】2023-06-30
(54)【発明の名称】金属薄膜除去装置、及び、金属薄膜除去方法
(51)【国際特許分類】
G11B 7/24 20130101AFI20230623BHJP
G11B 7/258 20130101ALI20230623BHJP
【FI】
G11B7/24
G11B7/258
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021206061
(22)【出願日】2021-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】佐久川 貴志
(72)【発明者】
【氏名】山下 智彦
【テーマコード(参考)】
5D029
【Fターム(参考)】
5D029MA11
5D029WD30
(57)【要約】
【課題】エネルギー効率よく、光ディスクの金属薄膜を除去できる金属薄膜除去装置、及び、金属薄膜除去方法を提供する。
【解決手段】板状支持体80と、内側電極60と、外側電極70と、電源10と、を備え、光ディスク20の金属薄膜を除去する金属薄膜除去装置1であって、内側電極60は、板状支持体80に支持され、光ディスク20の中心孔に嵌み込むことができる円筒形状を有し、外側電極70は、円形にくり抜かれて、前記円形が、内側電極60と同心円状になるように板状支持体80に支持され、光ディスク20の外縁を外側電極70と隙間無く嵌み込むことができ、電源10は、内側電極60と外側電極70との間に、100ns以下の電流立ち上がり時間となるように、80kV以上の出力電圧のパルス高電圧を印加できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状支持体と、内側電極と、外側電極と、電源と、を備え、光ディスクの金属薄膜を除去する金属薄膜除去装置であって、
前記内側電極は、前記板状支持体に支持され、光ディスクの中心孔に嵌み込むことができる円筒形状を有し、
前記外側電極は、円形にくり抜かれて、前記円形が、前記内側電極と同心円状になるように前記板状支持体に支持され、光ディスクの外縁を外側電極と隙間無く嵌み込むことができ、
前記電源は、前記内側電極と前記外側電極との間に、100ns以下の電流立ち上がり時間となるように、80kV以上の出力電圧のパルス高電圧を印加できる、金属薄膜除去装置。
【請求項2】
前記内側電極と、前記外側電極と、前記板状支持体とから構成される電極ユニットが、金属片回収容器に収容される、請求項1に記載の金属薄膜除去装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の金属薄膜除去装置を用いて、光ディスクの中心孔に前記内側電極を嵌み込むと共に、光ディスクの外縁を前記外側電極に嵌み込み、
前記内側電極と前記外側電極との間に、パルス高電圧を連続的に印加し、パルス放電プラズマを発生させて、光ディスクの金属薄膜を除去する、金属薄膜除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスクの金属薄膜除去装置、及び、金属薄膜除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CD-ROM、CD-R、DVD等の光ディスクは銀やアルミニウムなどの金属がポリカーボネートなどの樹脂材によって挟まれた構造となっている。金属及び樹脂を効率良く分別できればプラスチックリサイクル及び有用金属回収の両面で利点が生まれる。ところが、金属含有量が少ないため採算性の確保が難しいこともあり、実用化されていない現状にある。
【0003】
これまで光ディスクリサイクルのために薬品や破砕機、そして研磨機を用いた処理などが考案されている。薬品を用いた処理では、光ディスクを硝酸などの溶液中に浸し、金属を溶解することで樹脂と金属に分離する。破砕機を用いた処理では、光ディスクを破砕機によって裁断することで粒状にした後に樹脂と金属に分離する。研磨機を用いた処理では、樹脂材上に存在する金属を研磨により剥離することで分離する。
【0004】
本発明者らは、磁気パルス圧縮方式パルスパワー電源を用いてCD-R、DVD-Rの金属薄膜を剥離する技術を提案している(非特許文献1,2)。非特許文献1のパルスパワーを用いたCD-Rの金属剥離では、一対の電極を、CD-Rの金属薄膜の上方に同心リング電極(CRE)の形態に配置して、パルス高電圧を印加することにより、放電プラズマを発生させて金属薄膜を剥離させた。非特許文献2のパルスパワーを用いたDVD-Rの金属剥離では、一対の電極を、DVD-Rの金属薄膜の両側面に、CREの形態、及び、外側と中央の電極(OCE)の形態に配置して、パルス高電圧を印加することにより、放電プラズマを発生させて金属薄膜を剥離させた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】山下智彦、他3名、「パルスパワーを用いたCD-Rの金属剥離」、静電気学会誌、第40巻、第4号(2016)
【非特許文献2】Yamashita et. al. ”Influence of electrode arrangement on recycling metal-coated plastic (DVD-R) using pulsed electric discharge” Journal of Electrostatics 110 (2021) 103557
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記で述べたように、これまで光ディスクリサイクルのために薬品や破砕機、そして研磨機を用いた処理などが考案されているが、様々な問題が挙げられる。薬品による処理では、作業者の安全性や環境負荷が高いことなどが問題となっている。破砕機による処理では、樹脂材及とそれ以外の材料の粉末が混ざり合い分別が困難であることや粉塵による人体への影響等が問題である。また、研磨機による処理では使用済み砥粒や廃液の処理、傷やひび割れの発生などの問題がある。
【0007】
非特許文献2の検討では、OCE配置を適用することにより、14ショットで約90%の金属除去が達成されたのに対して、CRE配置の場合、14ショットで約45%しか金属除去がされなかったこと、さらに、OCE配置を適用すると、35ショットで約99%の金属除去が達成できることが示された(Fig.6)。
ただし、エネルギー消費量と金属薄膜の除去率の関係では、電極の配置に関係なく、増加率はほぼ同じであった(Fig.7)。また、光ディスクの金属薄膜と外側電極との間隔(すなわち、エアギャップ長)が異なる場合の金属薄膜の除去率とパルスパワーショット数の関係を調べた結果、エアギャップのない電極配置では約90%の除去しかできなかった(Fig.8)。一方、エアギャップ長を長くするには印加電圧を高くする必要があり、エアギャップが大きくなると処理速度が低下することも明らかになった。
【0008】
本発明は上述した事情に照らし、エネルギー効率よく、光ディスクの金属薄膜を除去できる金属薄膜除去装置、及び、金属薄膜除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を含む。
[1] 板状支持体と、内側電極と、外側電極と、電源と、を備え、光ディスクの金属薄膜を除去する金属薄膜除去装置であって、
前記内側電極は、前記板状支持体に支持され、光ディスクの中心孔に嵌み込むことができる円筒形状を有し、
前記外側電極は、円形にくり抜かれて、前記円形が、前記内側電極と同心円状になるように前記板状支持体に支持され、光ディスクの外縁を外側電極と隙間無く嵌み込むことができ、
前記電源は、前記内側電極と前記外側電極との間に、100ns以下の電流立ち上がり時間となるように、80kV以上の出力電圧のパルス高電圧を印加できる、金属薄膜除去装置。
[2] 前記内側電極と、前記外側電極と、前記板状支持体とから構成される電極ユニットが、金属片回収容器に収容される、[1]に記載の金属薄膜除去装置。
[3] [1]又は[2]に記載の金属薄膜除去装置を用いて、光ディスクの中心孔に前記内側電極を嵌み込むと共に、光ディスクの外縁を前記外側電極に嵌み込み、
前記内側電極と前記外側電極との間に、パルス高電圧を連続的に印加し、パルス放電プラズマを発生させて、光ディスクの金属薄膜を除去する、金属薄膜除去方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エネルギー効率よく、光ディスクの金属薄膜を除去できる金属薄膜除去装置、及び、金属薄膜除去方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る一実施形態の金属薄膜除去装置1を示す模式図である。
【
図2A】
図1に示した金属薄膜除去装置1の電極ユニット30を示す平面図である。
【
図2B】
図2Aに示した電極ユニット30を、A-A´線に沿って切断した断面図である。
【
図3】実施例1の金属薄膜除去装置を示す概略図である。
【
図4】実施例1及び比較例1~2の実験で用いた光ディスク20(CD-R)の概略断面図である。
【
図5】実施例1の金属薄膜除去装置で用いたMPCパルスパワー電源の回路図である。
【
図6】実施例1において、両電極間に印加された1ショット目の電圧波形V(kV)と電流波形I(A)を表すグラフである。
【
図7】実施例1の金属薄膜除去装置を用いて、CD-Rの金属薄膜を除去する過程を示す写真である。
【
図8】総充電エネルギー(J)と、CD-Rの金属薄膜除去率(%)との関係を示すグラフである。
【
図9】比較例1の金属薄膜除去装置の、電極ユニットを示す概略図である。
【
図10】比較例1及び比較例2の金属薄膜除去装置で用いたMPCパルスパワー電源の回路図である。
【
図11】比較例1において、両電極間に印加された1ショット目の電圧波形V(kV)と電流波形I(A)を表すグラフである。
【
図12】比較例2の金属薄膜除去装置の、電極ユニットを示す概略図である。
【
図13】比較例2において、両電極間に印加された1ショット目の電圧波形V(kV)と電流波形I(A)を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<<金属薄膜除去装置>>
以下、本発明を適用した一実施形態である金属薄膜除去装置について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。本発明は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。
【0013】
図1は、本発明に係る一実施形態の金属薄膜除去装置1を示す模式図である。
本実施形態の金属薄膜除去装置1は、板状支持体80と、板状支持体80に支持され、光ディスク20の中心孔に嵌み込むことができる円筒形状の内側電極60と、円形にくり抜かれて、前記円形が、内側電極60と同心円状になるように板状支持体80に支持され、光ディスク20の外縁を隙間無く嵌み込むことができる外側電極70と、内側電極60と外側電極70との間に、100ns以下の電流立ち上がり時間となるように、80kV以上の出力電圧のパルス高電圧を印加できる電源10と、を備える。
電流立ち上がり時間とは、電流波形において電流ピーク値の10%の下限値に到達してから、電流ピーク値の90%の上限値に達するまでの時間である。
【0014】
本実施形態の金属薄膜除去装置1は、80kV以上の出力電圧のパルス高電圧を印加できる電源10を備えているので、光ディスク20の金属薄膜を約100%まで除去できる。前記実施形態に係る金属薄膜除去装置1は、100ns以下の電流立ち上がり時間となるように、パルス高電圧を印加できる電源10を備えているので、絶縁破壊開始電圧を高くすることができ、エネルギー効率を良好にできる。本実施形態の金属薄膜除去装置1は、上記の構成を有することにより、エネルギー効率よく、光ディスクの金属薄膜を除去できる。
【0015】
金属薄膜除去装置1は、板状支持体80と、内側電極60とが、電極ユニット30を構成している。
【0016】
電極ユニット30において、内側電極60は導線40(電源ケーブル)によって電源10の高電圧側端子と接続されている。外側電極70は導線41(電源ケーブル)によって電源10の低圧側端子と接続されている。
【0017】
図2Aは、
図1に示した金属薄膜除去装置1の電極ユニット30を示す平面図である。
図2Bは、
図2Aに示した電極ユニット30を、A-A´線に沿って切断した断面図である。内側電極60は、円筒形状を有し、内側電極60の外径は光ディスク20の中心孔の内径に対応しているため、光ディスク20の中心孔に内側電極60を接触させて、嵌み込むことができる。外側電極70は、円形にくり抜かれて、外側電極70の内径は光ディスク20の外径に対応しているため、外側電極70を支持する板状支持体80に光ディスク20を接触させて、嵌み込むことができる。
【0018】
光ディスク20の基板21は、ポリカーボネート製であり、弾力性を有するので、内側電極60及び外側電極70を接触させて、ロボットで嵌み込むことも容易である。
【0019】
処理される光ディスク20が電極ユニット30に取り付けられたとき、光ディスク20の内円付近の金属薄膜と電極ユニット30の内側電極60との間は、光ディスク20のポリカーボネート製基板で占められており、エアギャップを有さない。そして、光ディスク20の外縁付近の金属薄膜と電極ユニット30の外側電極70との間は、光ディスク20のポリカーボネート製基板で占められており、エアギャップを有さない。すなわち、金属薄膜除去装置1の電極ユニット30は、エアギャップなしで、内側電極60及び外側電極70が、光ディスク20の外側と中央の電極(OCE)の形態に配置される。
【0020】
処理される光ディスク20が取り付けられた電極ユニット30は、透明なポリカーボネート樹脂製の金属片回収容器50に収容される。これにより、光ディスク20の金属薄膜を回収できる。ポリカーボネート製の基板21は、原形をとどめて回収できる。
【0021】
<<金属薄膜除去方法>>
本発明を適用した一の実施形態である金属薄膜除去方法は、前記実施形態に係る金属薄膜除去装置を用いて、光ディスクの中心孔に前記内側電極を嵌み込むと共に、光ディスクの外縁を前記外側電極に嵌み込み、前記内側電極と前記外側電極との間に、パルス高電圧を連続的に印加し、パルス放電プラズマを発生させて、光ディスクの金属薄膜を除去する。
【0022】
電源10により電極ユニット30の内側電極60と外側電極70との間にパルス高電圧を連続的に印加し、パルス放電プラズマを発生させて、光ディスク20の金属薄膜を徐々に剥離させ、除去する。パルス放電プラズマによって光ディスク20に含まれる金属を気化・プラズマ化し、発生する衝撃波によって印刷層を含む金属薄膜を剥離させ、除去する。
【0023】
上記電極ユニット30において内側電極60と外側電極70の間にパルス高電圧が印加されると、内側電極60及び外側電極70と光ディスク20の金属薄膜との間の一箇所ないし数箇所(電極との間隔が最短の箇所)において、放電が発生する。内側電極60及び外側電極70の近傍に存在する光ディスク20の金属薄膜の一部は気化・プラズマ化し、一部は衝撃波により剥ぎ取られる。
【0024】
2回目以降のパルス高電圧の印加では、内側電極60及び外側電極70と、1回目のパルス高電圧印加によって剥離された部分の光ディスク20の樹脂と金属薄膜の界面、または、電極との間隔が最短の金属薄膜との間に放電が発生し、樹脂と金属薄膜の界面及び金属薄膜にパルス電流が流れ込み剥離に至る。パルス高電圧の印加回数が増加すると共に剥離が進行し、その剥離に伴って金属薄膜の剥離箇所を選択するように放電の発生箇所が変わる。内側電極60及び外側電極70は光ディスク20に対して高い精度で同心円状に配置されているため、最後まで電極位置を変更することなく光ディスクの金属薄膜を剥離できる。
【0025】
放電に必要な電圧は、電極と、金属層との間の距離に依存する。初めは、電極と、金属層との間の最大距離が短いので、12kV程度の低い電圧で放電する。金属層が徐々に剥離すると、電極と、金属層との間の最大距離が長くなるので、徐々に、放電するために必要な電圧が約80kVまで高くなる。したがって、光ディスクの金属層剥離に必要な電圧は、80kV程度である。前記実施形態に係る金属薄膜除去装置1は、80kV以上の出力電圧のパルス高電圧を印加できる電源10を備えているので、光ディスク20の金属薄膜を約100%まで除去できる。前記実施形態に係る金属薄膜除去装置1は、100ns以下の電流立ち上がり時間となるように、パルス高電圧を印加できる電源10を備えているので、エアギャップを有さないOCE配置であるにも拘らず、絶縁破壊開始電圧を高くすることができ、エネルギー効率を良好にできる。
【0026】
本実施形態の金属薄膜除去方法は、前記実施形態に係る金属薄膜除去装置を用いるので、エネルギー効率よく、光ディスクの金属薄膜を除去できる。
【実施例0027】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0028】
[実施例1]
図2A、
図2B、及び
図3に示される実施例1の金属薄膜除去装置を作製した。
図3は、実施例1の金属薄膜除去装置を示す概略図である。最大出力エネルギー5J/pulse、最大繰り返し周波数150Hzの磁気パルス圧縮方式のパルスパワー電源(5J MPC PPG)を準備した。
電圧波形は高電圧プローブ(EP-150KP、日新パルス電子株式会社製)、電流波形はカレントモニタ(Model-110A, Pearson electronics)を用いて、オシロスコープ(DPO 5104B, Tektronix 社製)により測定した。パルス高電圧を印加し、放電後のCD-Rの状態を、CD-Rの真上から一眼レフデジタルカメラ(D40、ニコン社製)により撮影した。
【0029】
図4で示される、記録レーザー光に対して透明なポリカーボネート製の基板21、記録層22、金属薄膜の反射層23、及び、保護層24からなる構成の光ディスク20(CD-R)の金属薄膜を剥離させた例を説明する。
【0030】
図5は、ここで用いたパルスパワー電源の回路図である。このパルスパワー電源の回路動作は、まず、キャパシタチャージャで、コンデンサC
0(静電容量7.28μF)を最大1kVに充電してスイッチング動作を行い、コンデンサC
1(静電容量10nF)を最大30kVに充電する。C
1が充電された後、可飽和インダクタSl
1が飽和状態となり、コンデンサC
1→コンデンサC
2(静電容量10nF)、コンデンサC
2→コンデンサC
p(静電容量10nF)に、順次、磁気スイッチのインダクタンスを減少させて、パルス圧縮しながらエネルギー転送する。結果、飽和インダクタSl
2が飽和状態となり、コンデンサC
pが充電された後、パルストランスPT
2によって昇圧された最大出力電圧90kVが負荷に印加される。実施例1の実験では、コンデンサC
0に充電される電圧を変化させて、最大出力エネルギー5J/pulseに設定した。
【0031】
このパルスパワー電源を用いて、内側電極60と、外側電極70との間に、パルス高電圧を連続的に印加し、パルス放電プラズマを発生させて、光ディスク20(CD-R)の金属薄膜を徐々に剥離させ、除去した。
【0032】
図6は、内側電極60と、外側電極70との間に、印加された、1ショット目の電圧波形V(kV)と電流波形I(A)である。最大電圧は11.2kVであり、最大電流は920Aであり、立ち上がり時間は100nsであった。11.2kV程度の電圧は、反射層の金属の抵抗に電流が流れたことによって発生する電圧に対応している。ここで、電流立ち上がり時間は、電流ピーク値の10%の下限値に到達してから、電流ピーク値の90%の上限値に達するまでの時間として求めた。10ショット目以降、沿面放電長がショット数と共に増加するため、印加電圧もショット数と共に増加するが、電流立ち上がり時間は100nsで変化しなかった。42ショットの印加で90%の金属薄膜除去率が達成でき、この時の電極間電圧は、65kVに達した。
【0033】
図7は、このときの、処理前、及び、各ショット印加後の、CD-Rの金属薄膜の除去過程を示す写真である。処理前のCD-Rには、金属薄膜の反射層23がドーナッツ状に形成されていたが、パルス高電圧のショット数を増やしたとき、金属薄膜が徐々に剥離して行く様子が観測された。
【0034】
このときの、総充電エネルギー(J)と、CD-Rの金属薄膜除去率(%)の関係の結果を
図8に示す。42ショットで90%の金属薄膜除去率が達成でき、最後まで、電極の位置を変更することなく、50ショットで99.9%の金属薄膜除去率が達成できた。金属薄膜除去率が90%に到達するのに必要な総充電エネルギーは210Jであった(表1)。ポリカーボネート製の基板は、原形をとどめたままにできた。
【0035】
[比較例1]
非特許文献1で開示された金属薄膜除去装置を用いて、実施例1と同じく、
図4で示される光ディスク20(CD-R)の金属薄膜を剥離させた例を説明する。
図9は、比較例1の金属薄膜除去装置の、電極ユニットを示す概略図である。比較例1の電極ユニットにおいては、板状支持体上に、光ディスク20(CD-R)が保護層の側を上向きに載せられ、CD-Rの中心付近の反射層である金属薄膜の端の内円に置かれた円環状高電圧電極(H.V. electrode)と、CD-Rの外周付近の反射層である金属薄膜の端の外円に置かれた円環状アース電極(GND electrode)とに、それぞれ、ポリ塩化ビニル製のパイプで被覆された電源ケーブルが繋がれている。すなわち、比較例1の金属薄膜除去装置の電極ユニットは、CD-Rの金属薄膜の上方に、エアギャップなしで、円環状高電圧電極及び円環状アース電極が同心リング電極(CRE)の形態に配置されている。
【0036】
最大出力エネルギー40J/pulse、最大繰り返し周波数40Hzの磁気パルス圧縮方式(MPC)のパルスパワー電源を準備した。
図10は、ここで用いたパルスパワー電源の回路図である。コンデンサC
0に充電される電圧を変化させて、コンデンサC
1に充電される電圧120kV、出力エネルギー35.3J/pulseに設定した。
【0037】
このパルスパワー電源を用いて、円環状高電圧電極と、円環状アース電極との間に、パルス高電圧を連続的に印加し、パルス放電プラズマを発生させて、光ディスクの金属薄膜を徐々に剥離させ、除去した。
【0038】
図11は、円環状高電圧電極と、円環状アース電極との間に、印加された、1ショット目の電圧波形V(kV)と電流波形I(A)である。電流立ち上がり時間は1500nsであった。10kV程度の電圧は、保護層表面での沿面放電及び円環状アース電極と反射層との間における絶縁破壊の発生に対応している。8ショット目以降、沿面放電長がショット数と共に増加するため、印加電圧もショット数と共に増加するが、電流立ち上がり時間は1500nsで変化しなかった。16ショットの印加で90%の金属薄膜除去率が達成でき、この時の電極間電圧は,55kVに達した。
【0039】
また、総充電エネルギー(J)に対する、金属薄膜除去率(%)の結果を
図8に示す。金属薄膜除去率が90%に到達するのに必要な総充電エネルギーは565Jであった(表1)。
【0040】
[比較例2]
非特許文献2で開示された金属薄膜除去装置を用いて、実施例1と同じく、
図4で示される光ディスク20(CD-R)の金属薄膜を剥離させた例を説明する。
図12は、比較例2の金属薄膜除去装置の、電極ユニットを示す概略図である。比較例2の電極ユニットにおいては、板状支持体81上に、内径126mmの円形にくり抜かれた外側電極71が固定され、外側電極71のくり抜かれた円形の中心に円筒形状の内側電極61が固定されている。光ディスク20(CD-R)を、外側電極71のくり抜かれた円形の内側に、内側電極61の円筒形と同心円状になるよう、光ディスク20の保護層の側を上向きに置いた。外側電極71と光ディスク20の外周との間のエアギャップ長は3mmであり、内側電極61と光ディスク20の内周との間のエアギャップ長は9mmである。すなわち、比較例2の金属薄膜除去装置の電極ユニットは、エアギャップありで、内側電極61及び外側電極71が、光ディスク20の外側と中央の電極(OCE)の形態に配置されている。
【0041】
比較例1と同じパルスパワー電源を用いて、コンデンサC1に充電される電圧120kV、最大出力エネルギー35.3J/pulseに設定して、内側電極61と、外側電極71との間に、パルス高電圧を連続的に印加し、パルス放電プラズマを発生させて、光ディスクの金属薄膜を徐々に剥離させ、除去した。
【0042】
図13は、内側電極61と、外側電極71との間に、印加された、1ショット目の電圧波形V(kV)と電流波形I(A)である。電流立ち上がり時間は1500nsであった。20kV程度の電圧は、内側電極61及び外側電極71と反射層との間のエアギャップにおける絶縁破壊の発生に対応している。2ショット目以降、沿面放電長がショット数と共に増加するため、印加電圧もショット数と共に増加するが、電流立ち上がり時間は1500nsで変化しなかった。15ショットの印加で90%の金属薄膜除去率が達成でき、この時の電極間電圧は,90kVに達した。
【0043】
また、総充電エネルギー(J)に対する、金属薄膜除去率(%)の結果を
図8に示す。金属薄膜除去率が90%に到達するのに必要な総充電エネルギーは530Jであった(表1)。
【0044】
【0045】
表1に示される通り、エアギャップなしでCRE配置の比較例1の金属薄膜除去装置は、エアギャップありでOCE配置の比較例2の金属薄膜除去装置を用いたときよりも、光ディスクの金属薄膜を除去するための総充電エネルギーを多く費やし、金属薄膜除去率も低かった。比較例1の金属薄膜除去装置はエアギャップを設けていないため、低電圧のうちに放電してしまうので、エネルギー投入率が悪くなる。また、電極直下及び外側電極より外部の金属薄膜には放電が当たらないため、光ディスク20の金属薄膜を約95%までしか除去することができなかった。比較例2の金属薄膜除去装置では、絶縁破壊に至るための電圧を稼いで、エネルギー投入率を向上させるため、ギャップを設けている。
【0046】
それにも拘らず、エアギャップなしでOCE配置の実施例1の金属薄膜除去装置は、光ディスクの金属薄膜を除去するための総充電エネルギーが格段に少なく、エネルギー効率よく光ディスクの金属薄膜を除去することができ、高い金属薄膜除去率を達成できた。
実施例1の金属薄膜除去装置は、100ns以下の電流立ち上がり時間となる電源を用いているので、エアギャップなしでも、絶縁破壊開始電圧を高くすることができ、衝撃波を大きくすることができ、結果、エネルギー効率よく、かつ、光ディスクの金属薄膜を約100%除去することができたと考えられる。
不要品のCDやDVDのほとんどは、産業廃棄物として埋立処理・焼却するか、又は、海外輸出される現状にある。本発明では、従来の化学的・機械的な手法ではなく、電気的に金属薄膜を剥離する手法を提供する。
本発明の金属薄膜除去装置及び金属薄膜除去方法は、CD-ROM、CD-R、DVD等の光ディスクにパルス放電プラズマ及びそれに伴う衝撃波を適用し、エネルギー効率よく、光ディスクの金属薄膜を除去できる。これにより、1枚の処理に必要な電気代を抑えることができる。また、内側電極60、外側電極70、及び、板状支持体80から構成される電極ユニット30を金属片回収容器50に収めることにより、光ディスクの樹脂基板及び金属薄膜の両方のリサイクルを可能とする。
本発明の金属薄膜除去装置及び金属薄膜除去装置は、原形をとどめた光ディスクのプラスチックリサイクル、プラスチック及び金属の両方のリサイクルを達成することで、破砕・化学処理する現状のリサイクル法を凌駕できる革新的な分離技術となる可能性がある。
1…金属薄膜除去装置、10…電源、20…光ディスク、21…基板、22…記録層、23…反射層、24…保護層、30…電極ユニット、40,41…導線、50…金属片回収容器、60,61…内側電極、70,71…外側電極、80,81…板状支持体