(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091384
(43)【公開日】2023-06-30
(54)【発明の名称】中空粒子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/12 20060101AFI20230623BHJP
C08F 8/46 20060101ALI20230623BHJP
【FI】
C08J3/12 Z CES
C08F8/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021206099
(22)【出願日】2021-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】弁理士法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森本 亮平
【テーマコード(参考)】
4F070
4J100
【Fターム(参考)】
4F070AA15
4F070DA33
4F070DC03
4J100AA02P
4J100AA03Q
4J100BC53H
4J100CA04
4J100CA31
4J100EA12
4J100HA57
4J100HC30
4J100HG04
(57)【要約】
【課題】フッ素を含有せず、軽量な樹脂成分から構成される中空粒子を提供する。
【解決手段】
ポリオレフィン樹脂からなるシェルと中空部とを含む中空粒子であって、ポリオレフィン樹脂が、オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを含有し、オレフィン成分が、プロピレンとプロピレン以外のオレフィンとを含有し、プロピレンの含有量が、オレフィン成分100質量部に対して、60質量部以上であり、不飽和カルボン酸成分の含有量が、オレフィン成分100質量部に対して、0.1~10.0質量部であることを特徴とする中空粒子。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂からなるシェルと中空部とを含む中空粒子であって、
ポリオレフィン樹脂が、オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを含有し、
オレフィン成分が、プロピレンとプロピレン以外のオレフィンとを含有し、
プロピレンの含有量が、オレフィン成分100質量部に対して、60質量部以上であり、
不飽和カルボン酸成分の含有量が、オレフィン成分100質量部に対して、0.1~10.0質量部であることを特徴とする中空粒子。
【請求項2】
示差走査熱量計によって測定されるポリオレフィン樹脂の融点が60℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の中空粒子。
【請求項3】
数平均粒子径が50~500nmであることを特徴とする請求項1または2に記載の中空粒子。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の中空粒子が、水性媒体中に分散されてなることを特徴とする水性分散体。
【請求項5】
請求項1に記載の中空粒子を製造するための方法であって、以下の工程IおよびIIを含むことを特徴とする中空粒子の製造方法。
(工程I)オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを含有し、オレフィン成分が、プロピレンとプロピレン以外のオレフィンとを含有し、プロピレンの含有量が、オレフィン成分100質量部に対して、60質量部以上であり、不飽和カルボン酸成分の含有量が、オレフィン成分100質量部に対して、0.1~10.0質量部であるポリオレフィン樹脂と、塩基性化合物と、水性媒体とを混合して、0.15MPa以上の加圧条件下で撹拌することにより、ポリオレフィン樹脂の水性分散体を得る工程。
(工程II)工程Iで得られたポリオレフィン樹脂の水性分散体を乾燥させ、媒体を除去することにより、中空粒子を得る工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子内部に空隙を有する中空粒子は、低誘電特性、断熱性、低屈折率性等に優れており、種々開発されている。中空粒子として、従来、ガラスや金属酸化物等の無機物からなるものが用いられていたが、無機物は、密度が高く、軽量性が求められる用途の粒子には不適であるという問題があった。
【0003】
このような背景から、近年では、有機高分子からなる中空粒子の検討がなされている。
例えば、特許文献1には、フッ素原子を有する樹脂を含有する中空粒子が開示されている。しかし、フッ素成分は、環境および人体にとって有毒であることから、フッ素成分を含有しない中空粒子が求められていた。
【0004】
このような状況から、特許文献2においては、ウレタン樹脂を含有する中空粒子が、また、特許文献3においては、アクリル樹脂を含有する中空粒子が、それぞれ提案されている。しかし、特許文献2および3に記載の中空粒子を構成する樹脂成分は、実用の観点から、十分に軽量なものではないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-213366号公報
【特許文献2】特開2019-34283号公報
【特許文献3】特開2021-94502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、これらの問題に鑑み、フッ素を含有せず、軽量な樹脂成分から構成される中空粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、全ての有機高分子の中で最も軽量な樹脂の一群であるポリオレフィン樹脂を使用して中空粒子を形成できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち本発明の要旨は、次のとおりである。
【0008】
(1)ポリオレフィン樹脂からなるシェルと中空部とを含む中空粒子であって、
ポリオレフィン樹脂が、オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを含有し、
オレフィン成分が、プロピレンとプロピレン以外のオレフィンとを含有し、
プロピレンの含有量が、オレフィン成分100質量部に対して、60質量部以上であり、
不飽和カルボン酸成分の含有量が、オレフィン成分100質量部に対して、0.1~10.0質量部であることを特徴とする中空粒子。
(2)示差走査熱量計によって測定されるポリオレフィン樹脂の融点が60℃以上であることを特徴とする(1)に記載の中空粒子。
(3)数平均粒子径が50~500nmであることを特徴とする(1)または(2)に記載の中空粒子。
(4)上記(1)~(3)のいずれかに記載の中空粒子が、水性媒体中に分散されてなることを特徴とする水性分散体。
(5)上記(1)に記載の中空粒子を製造するための方法であって、以下の工程IおよびIIを含むことを特徴とする中空粒子の製造方法。
(工程I)オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを含有し、オレフィン成分が、プロピレンとプロピレン以外のオレフィンとを含有し、プロピレンの含有量が、オレフィン成分100質量部に対して、60質量部以上であり、不飽和カルボン酸成分の含有量が、オレフィン成分100質量部に対して、0.1~10.0質量部であるポリオレフィン樹脂と、塩基性化合物と、水性媒体とを混合して、0.15MPa以上の加圧条件下で撹拌することにより、ポリオレフィン樹脂の水性分散体を得る工程。
(工程II)工程Iで得られたポリオレフィン樹脂の水性分散体を乾燥させ、媒体を除去することにより、中空粒子を得る工程。
【発明の効果】
【0009】
本発明の中空粒子によれば、ポリオレフィン樹脂からなる軽量な中空粒子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施例1の中空粒子の断面構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の中空粒子は、特定の組成を有するポリオレフィン樹脂からなるシェルと中空部とを含むものである。
【0012】
<ポリオレフィン樹脂>
本発明の中空粒子を構成するポリオレフィン樹脂は、オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを含有するものである。
【0013】
本発明において、オレフィン成分は、プロピレンとプロピレン以外のオレフィンとを含有し、プロピレンの含有量が、オレフィン成分100質量部に対して、60質量部以上であることが必要である。ポリオレフィン樹脂は、プロピレンの割合がこの範囲を下回ると、常温下で粘着性が発現し、得られる中空粒子は、中空粒子同士が融着することに起因して、凝集しやすくなる。
【0014】
プロピレン以外のオレフィンとしては、エチレン、1-ブテン、イソブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、ノルボルネン類等のアルケン類や、ブタジエンやイソプレン等のジエン類が挙げられる。中でも、樹脂製造のし易さの点から、エチレンが好ましい。
【0015】
本発明において、ポリオレフィン樹脂は、オレフィン成分100質量部に対して、不飽和カルボン酸成分を0.1~10.0質量部含有することが必要である。ポリオレフィン樹脂は、不飽和カルボン酸成分の含有量がこの範囲を下回ると、後述する中空粒子の製造において、粒子内部に中空部が形成されにくくなる。また、不飽和カルボン酸成分の含有量がこの範囲を上回ると、得られる中空粒子は、強度が低下する傾向がある。
【0016】
不飽和カルボン酸としては、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、フマル酸、クロトン酸等のほか、不飽和ジカルボン酸のハーフエステル、ハーフアミド等が挙げられる。中でも、後述する樹脂の水性分散化において、樹脂を安定的に分散させるために、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸が特に好ましい。これらの不飽和カルボン酸は、酸変性ポリオレフィン樹脂中に2種類以上含まれていてもよい。
【0017】
不飽和カルボン酸成分は、ポリオレフィン樹脂中に共重合されていればよく、その形態は限定されない。例えば、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等が挙げられる。
【0018】
不飽和カルボン酸成分を未変性ポリオレフィン樹脂へ導入する方法は、特に限定されず、例えば、ラジカル発生剤存在下、未変性ポリオレフィン樹脂と不飽和カルボン酸とを、未変性ポリオレフィン樹脂の融点以上に加熱溶融し、反応させる方法や、未変性ポリオレフィン樹脂を有機溶剤に溶解した後、ラジカル発生剤の存在下で加熱、攪拌し反応させる方法等により、未変性ポリオレフィン樹脂に不飽和カルボン酸をグラフト共重合することができる。特に操作が簡便である点から、前者の方法が好ましい。
【0019】
グラフト共重合に使用するラジカル発生剤としては、例えば、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、tert-ブチルハイドロパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボナート、エチルエチルケトンパーオキサイド、ジ-tert-ブチルジパーフタレート等の過酸化物や、2,2′-アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系化合物が挙げられる。これらは、反応温度によって、適宜、選択して使用すればよい。
【0020】
本発明におけるポリオレフィン樹脂は、重量平均分子量が、10,000以上、250,000未満であることが好ましく、15,000以上、150,000未満であることがより好ましく、20,000以上、60,000未満であることがさらに好ましい。ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量が10,000未満であると、得られる中空粒子は、強度が低下する傾向がある。一方、ポリオレフィン樹脂は、重量平均分子量が250,000以上であると、後述する中空粒子の製造方法において、水性分散体化が困難となることがある。
【0021】
本発明におけるポリオレフィン樹脂は、示差走査熱量計(以下、DSC)によって測定される融点が、60℃以上であることが好ましく、75℃以上であることがより好ましく、90℃以上であることがさらに好ましい。ポリオレフィン樹脂は、融点がこの範囲にあることにより、高い結晶性を示し、この結晶化ドメインが擬似的に架橋構造として機能することによって、得られる中空粒子は、強度が向上する傾向がある。
【0022】
DSCによる融点の測定方法は特に限定されないが、例えば、JIS K 7121に準拠して測定することができる。
【0023】
本発明の中空粒子は、数平均粒子径が50~500nmであることが好ましく、70~450nmであることがより好ましく、90~400nmであることがさらに好ましい。中空粒子は、数平均粒子径が50nm未満であると、中空粒子同士が凝集しやすく、分散媒中に分散させる上で取り扱い性に劣ることがある。また、中空粒子の数平均粒子径が500nmを超えると、中空粒子を含有する塗膜や成形体は、表面平滑性が損なわれるおそれがある。
【0024】
中空粒子の数平均粒子径は、例えば、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置により、粒度分布を測定し、その数平均値を算出することにより求めることができる。または、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡によって得た中空粒子の観察像から粒子径を測長し、無作為に選択した300個以上の中空粒子の粒子径から数平均粒子径を算出することもできる。さらに、水や有機溶媒に安定的に分散した中空粒子であれば、上述のレーザー回折・散乱法の他、動的光散乱法によって数平均粒子径を測定することもできる。
本発明においては、レーザー回折式粒度分布測定装置にて中空粒子の数平均粒子径を測定した。
【0025】
<中空粒子の製造方法>
本発明の中空粒子を得る方法としては、特に限定されないが、あらかじめ調製したポリオレフィン樹脂の水性分散体を乾燥させ、媒体を除去する方法などが挙げられる。
【0026】
(工程I ポリオレフィン樹脂の水性分散体化)
本発明の中空粒子の製造方法は、ポリオレフィン樹脂として、オレフィン成分と不飽和カルボン酸成分とを含有し、オレフィン成分が、プロピレンとプロピレン以外のオレフィンとを含有し、プロピレンの含有量が、オレフィン成分100質量部に対して、60質量部以上であり、不飽和カルボン酸成分の含有量が、オレフィン成分100質量部に対して、0.1~10.0質量部である樹脂を使用する。
そして、このポリオレフィン樹脂と、塩基性化合物と、水性媒体とを混合し、0.15MPa以上の加圧条件下で撹拌する方法によって、ポリオレフィン樹脂の水性分散体を製造する。
【0027】
上記水性媒体として、水と有機溶剤の混合物を使用してもよく、有機溶剤の含有量は、水性媒体の50質量%以下であることが好ましく、2~45質量%であることがより好ましく、4~40質量%であることがさらに好ましい。有機溶剤の含有量が50質量%を超えると、作業環境の観点から、人体に悪影響を及ぼす懸念がある。
【0028】
上記有機溶剤は、良好な水性分散体を得るという点から、20℃における水に対する溶解性が10g/L以上であることが好ましく、20g/L以上であることがより好ましく、50g/L以上であることがさらに好ましい。また、有機溶剤は、常圧時の沸点が250℃未満であることが好ましく、200℃未満であることがより好ましい。有機溶剤は、沸点が250℃を超えると、後述する脱溶剤工程において、除去が困難となることがある。
【0029】
有機溶剤の具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec-アミルアルコール、tert-アミルアルコール、1-エチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、n-ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸-n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸-n-ブチル、酢酸イソブチル、酢酸-sec-ブチル、酢酸-3-メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル等のエステル類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体、さらには、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチル、1,2-ジメチルグリセリン、1,3-ジメチルグリセリン、トリメチルグリセリン等が挙げられる。これらの有機溶剤は単独で用いられてもよいし、2種以上を混合して用いられてもよい。
上記の有機溶剤の中でも、樹脂の水性化促進に効果が高いという点から、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルが好ましく、これらの中でも水酸基を分子内に1つ有する有機溶剤がより好ましく、少量の添加で樹脂を水性化できる点から、n-プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、エチレングリコールアルキルエーテル類がさらに好ましい。
【0030】
また、ポリオレフィン樹脂の水性化に使用する塩基性化合物としては、アンモニア、トリエチルアミン、イソプロピルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、N,N-ジエチルエタノールアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、イソブチルアミン、ジプロピルアミン、3-エトキシプロピルアミン、3-ジエチルアミノプロピルアミン、sec-ブチルアミン、プロピルアミン、n-ブチルアミン、2-メトキシエチルアミン、3-メトキシプロピルアミン、2,2-ジメトキシエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、ピロール、ピリジン、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。
【0031】
ポリオレフィン樹脂の水性分散体化を終えた後に、水性分散体中に含有される有機溶剤の一部または全部を、必要に応じて、一般に「ストリッピング」と呼ばれる脱溶剤処理によって除去してもよい。脱溶剤処理は、加熱や減圧などの方法によって実施することができ、後述する乾燥工程よりも前の段階にて実施される。ストリッピングによって予め水の濃度を高めておいた水性分散体は、乾燥工程において、中空粒子同士が凝集しにくくなる傾向がある。
【0032】
(工程II 乾燥による媒体除去)
水性分散体を乾燥させ、媒体を除去する方法としては特に限定されないが、風乾、加熱乾燥、減圧乾燥や凍結乾燥などが挙げられる。
上述の加熱乾燥する方法としては、例えば、循風乾燥機、スプレードライヤー、流動層式乾燥機等を用いる方法が挙げられる。
【実施例0033】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0034】
(1)ポリオレフィン樹脂の組成
オルトジクロロベンゼン(d4)中、140℃にて1H-NMR、13C-NMR分析(日本電子社製の分析装置、500MHz)を行い、求めた。13C-NMR分析では、定量性を考慮したゲート付きデカップリング法を用いて測定した。
また、不飽和カルボン酸成分の含有量は、ポリオレフィン樹脂の酸価、ポリオレフィン樹脂1g当りの不飽和カルボン酸の質量を後述の手法によって測定し、その値から、次式によって求めた。
不飽和カルボン酸成分の含有量(質量%)=(不飽和カルボン酸の質量)/(原料ポリオレフィン樹脂の質量)×100
≪ポリオレフィン樹脂の酸価の測定法≫
ポリオレフィン樹脂0.15gをテトラヒドロフラン(THF)20mL中で還流し、樹脂が完全に溶解したのを確認後、溶液を撹拌しながら温度を60℃に維持した。このポリオレフィン樹脂のTHF溶液にクレゾールレッド指示薬を数滴添加し、濃度0.1mol/Lの水酸化カリウムメタノール溶液で滴定した。この滴定量からポリオレフィン樹脂の酸価を算出した。
≪ポリオレフィン樹脂1g当りの不飽和カルボン酸の質量の算出≫
不飽和カルボン酸の質量(mg/g)=(ポリオレフィン樹脂の酸価(mgKOH/g)/KOHの式量)×不飽和カルボン酸の分子量*
(*不飽和カルボン酸成分がジカルボン酸またはその無水物の場合、分子量に1/2を乗じた値を採用する。)
【0035】
(2)融点
中空粒子10mgを、示差走査型熱量計装置(パーキンエルマー社製、DSC7)にセットし、窒素雰囲気下で-20℃から200℃まで10℃/分で昇温させ5分間保持した(1st Scan)後、200℃から-20℃まで10℃/分で冷却して5分間保持した。さらに-20℃から200℃まで10℃/分で再昇温させた過程(2nd Scan)での結晶融解ピークのピークトップ温度(融点)を確認した。
【0036】
(3)数平均粒子径
中空粒子の数平均粒子径を、レーザー回折式粒度分布測定装置(マルバーン社製 マスターサイザー3000)にて測定した。
【0037】
実施例1
(ポリオレフィン樹脂「P-1」の調製)
プロピレン-エチレン共重合体(プロピレン/エチレン=97.9/2.1、質量比)280gを、4つ口フラスコ中において、窒素雰囲気下で加熱溶融させた。その後、系内温度を170℃に保って、撹拌下、不飽和カルボン酸として無水マレイン酸10.0gと、ラジカル発生剤としてジクミルパーオキサイド6.0gとを、それぞれ1時間かけて加え、その後1時間反応させた。反応終了後、得られた反応生成物を多量のアセトン中に投入し、樹脂を析出させた。この樹脂をさらにアセトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去した後、減圧乾燥機中で減圧乾燥して、プロピレン97.9質量部、エチレン2.1質量部、無水マレイン酸2.6質量部からなる組成のポリオレフィン樹脂「P-1」を得た。
【0038】
(中空粒子「HP-1」の作製)
ヒーターおよび圧力計付きの密閉できる耐圧1L容ガラス容器を備えた撹拌機を用いて、60gのポリオレフィン樹脂「P-1」、69gのテトラヒドロフラン、24gのイソプロピルアルコール、15gのシクロヘキサン、6gのトリエチルアミン、3gのN,N-ジメチルエタノールアミンおよび123gの蒸留水を、上記のガラス容器内に仕込んだ。そして、撹拌翼の回転速度を300rpmとして撹拌したところ、容器底部には樹脂の沈澱は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこで、この状態を保ちつつ、10分後にヒーターの電源を入れ加熱した。そして系内温度を125℃に保ってさらに60分間撹拌した。この時、圧力計は0.55MPaを指し示していた。その後、空冷にて、回転速度300rpmのまま撹拌しつつ室温(約25℃)まで冷却し、150gの蒸留水を追加した。この液を1Lナスフラスコに入れ、60℃に加熱した湯浴につけながらエバポレーターを用いて減圧し、210gの水性媒体を留去した。冷却後、フラスコ内の液状成分を300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.04mm、目開き0.045mm)で濾過し、乳白色の均一なポリオレフィン樹脂「P-1」の水性分散体を得た。
作製したポリオレフィン樹脂「P-1」の水性分散体を、液体窒素を用いて凍結したのち、凍結乾燥を行うことで、融点が150℃であり、数平均粒子径が380nmである中空粒子「HP-1」を得た。
得られた中空粒子を、イオンミリング装置を用いて切断し、電界放出形走査電子顕微鏡により断面観察を行ったところ、
図1に示すように、中空粒子の断面は、ポリオレフィン樹脂からなるシェルと中空部とを含む構造であった。