(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091397
(43)【公開日】2023-06-30
(54)【発明の名称】ガラス物品の製造方法及びガラス物品の製造装置
(51)【国際特許分類】
C03B 5/03 20060101AFI20230623BHJP
C03B 5/235 20060101ALI20230623BHJP
【FI】
C03B5/03
C03B5/235
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021206126
(22)【出願日】2021-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168550
【弁理士】
【氏名又は名称】友廣 真一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 信吾
(72)【発明者】
【氏名】愛内 孝介
【テーマコード(参考)】
4G014
【Fターム(参考)】
4G014AD02
4G014AF00
(57)【要約】
【課題】溶融炉内の側壁の周辺で溶融ガラスを十分に加熱できるようにして、溶融炉から良質の溶融ガラスをガラス物品の成形部に向かって移送する。
【解決手段】ガラス物品の製造方法につき、溶融炉1の底壁1aに配置された電極3を用いてガラス原料Gaを加熱溶融して溶融ガラスGmを得る溶融工程を備えると共に、電極3により通電される電流の一部が溶融炉1の側壁1bに流れるように該電極3を配置する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融炉の底壁に配置された電極を用いてガラス原料を加熱溶融して溶融ガラスを得る溶融工程を備えたガラス物品の製造方法であって、
前記電極により通電される電流の一部が前記溶融炉の側壁に流れるように該電極を配置することを特徴とするガラス物品の製造方法。
【請求項2】
前記側壁での単位面積当たりの発熱量の最大値が前記側壁からの放熱量の20%以上で且つ150%以下になるように前記側壁に電流を流す請求項1に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項3】
前記電極を配置する態様は、相互間に電流が流れる一対の電極が、前記電極に最も近い前記側壁の内壁面に沿う方向に並び、前記一対の電極が前記側壁の内壁面と交差する方向に複数対並ぶ態様である請求項1または2に記載のガラス物品の製造装置。
【請求項4】
前記一対の電極間の距離Lに対する前記側壁の内壁面に最も近い電極から該側壁の内壁面までの距離Lxの比(Lx/L)が、3.0以下である請求項3に記載のガラス物品の製造装置。
【請求項5】
下記の[数1]式を満たすように前記電極を配置する請求項3または4に記載のガラス物品の製造方法。
【数1】
ここで、
Aは、前記一対の電極間の距離Lに対する前記側壁の内壁面に最も近い電極から該側壁の内壁面までの距離Lxの比(Lx/L)であり、
Qは、前記一対の電極への供給電力(W)であり、
Dは、前記溶融炉内での溶融ガラスの深さ(m)であり、
pは、前記側壁の内壁面と直交する方向の電極対間の間隔(m)であり、
Lは、前記一対の電極間の距離(m)であり、
tは、前記側壁の厚み(m)であり、
Wは、前記側壁からの放熱量(W/m
2)である。
【請求項6】
下記の[数2]式を満たすように前記電極を配置する請求項3または4に記載のガラス物品の製造方法。
【数2】
ここで、
Aは、前記一対の電極間の距離Lに対する前記側壁の内壁面に最も近い電極から該側壁の内壁面までの距離Lxの比(Lx/L)であり、
Qは、前記一対の電極への供給電力(W)であり、
Dは、前記溶融炉内での溶融ガラスの深さ(m)であり、
pは、前記側壁の内壁面と直交する方向の電極対間の間隔(m)であり、
Lは、前記一対の電極間の距離(m)であり、
tは、前記側壁の厚み(m)であり、
Wは、前記側壁からの放熱量(W/m
2)である。
【請求項7】
下記の[数3]式を満たすように前記電極を配置する請求項3または4に記載のガラス物品の製造方法。
【数3】
ここで、
Aは、前記一対の電極間の距離Lに対する前記側壁の内壁面に最も近い電極から該側壁の内壁面までの距離Lxの比(Lx/L)であり、
Qは、前記一対の電極への供給電力(W)であり、
Dは、前記溶融炉内での溶融ガラスの深さ(m)であり、
pは、前記側壁の内壁面と直交する方向の電極対間の間隔(m)であり、
Lは、前記一対の電極間の距離(m)であり、
tは、前記側壁の厚み(m)であり、
Wは、前記側壁からの放熱量(W/m
2)である。
【請求項8】
所定加熱温度での前記側壁を構成する耐火煉瓦の比抵抗R1に対する前記所定加熱温度での溶融ガラスの比抵抗R2の比(R2/R1)が、1以上である請求項1~7の何れかに記載のガラス物品の製造方法。
【請求項9】
溶融ガラスはEガラスであり且つ前記側壁を構成する耐火煉瓦はクロム煉瓦である請求項1~8の何れかに記載のガラス物品の製造方法。
【請求項10】
底壁に配置された電極を用いてガラス原料を加熱溶融して溶融ガラスを生成する溶融炉を備えたガラス物品の製造装置であって、
前記電極により通電される電流の一部が前記溶融炉の側壁に流れるように該電極が配置されていることを特徴とするガラス物品の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融炉で生成した溶融ガラスからガラス物品を製造する方法及び装置に係り、特に、溶融炉でガラス原料を加熱溶融して溶融ガラスを得るための技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、ガラス繊維やガラス板などのガラス物品の製造方法は、溶融炉でガラス原料を加熱溶融する溶融工程を備えている。
【0003】
この溶融工程では、溶融炉の底壁に配置された電極を用いて溶融ガラスを通電加熱することにより、ガラス原料を加熱溶融して溶融ガラスを得ることが公知となっている(特許文献1、2参照)。
【0004】
溶融工程で得られた溶融ガラスは、溶融炉からガラス物品の成形部に通じる移送流路に流出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-183031号公報
【特許文献2】特開2019-34871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1、2に開示のように溶融炉の底壁に電極を配置する手法では、溶融炉内の熱が側壁を通じて炉外に放熱される。これに対して何ら対策を講じなければ、溶融炉内の側壁の周辺で温度低下が生じ、溶融ガラスを適切に加熱することが困難になる。この場合には、十分に加熱溶融されていないガラス原料が溶融炉から移送流路に流出し、良質の溶融ガラスの供給に支障が生じるおそれがある。また、溶融炉内の側壁の周辺で溶融ガラスの粘度が上昇して停滞層が形成され、停滞層の溶融ガラスが溶融炉から移送流路に流出すると、得られるガラス物品に泡や脈理が発生するおそれがある。これによっても、良質の溶融ガラスの供給に支障が生じるおそれがある。
【0007】
以上の観点から、本発明の課題は、溶融炉内の側壁の周辺で溶融ガラスを十分に加熱できるようにして、溶融炉から良質の溶融ガラスをガラス物品の成形部に向かって移送することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために創案された本発明の第一の側面は、溶融炉の底壁に配置された電極を用いてガラス原料を加熱溶融して溶融ガラスを得る溶融工程を備えたガラス物品の製造方法であって、前記電極により通電される電流の一部が前記溶融炉の側壁に流れるように該電極を配置することに特徴づけられる。
【0009】
このような構成によれば、電極により通電される電流の一部が溶融炉の側壁に流れることで、側壁が加熱されるため、溶融炉内の側壁の周辺で溶融ガラスの温度低下を低減できる。したがって、側壁の周辺で溶融ガラスを十分に加熱できるようになり、溶融炉から良質の溶融ガラスをガラス物品の成形部に向かって移送することが可能となる。
【0010】
この構成において、前記側壁での単位面積当たりの発熱量の最大値が前記側壁からの放熱量の20%以上で且つ150%以下になるように前記側壁に電流を流すことが好ましい。
【0011】
ここで、側壁での単位面積当たりの発熱量の最大値が、側壁からの放熱量の20%以上であれば、溶融炉内の側壁の周辺で溶融ガラスの温度低下を確実に低減できる。一方、側壁での単位面積当たりの発熱量の最大値が、側壁からの放熱量の150%以下であれば、側壁が熱により損傷等することを低減できる。ここで、側壁での単位面積当たりの発熱量の最大値は、後述の[数5]及び[数7]によって算出するものとする。また、側壁からの放熱量は、例えば熱流計(京都電子工業株式会社製HFM-201)及び熱流センサー(京都電子工業株式会社製T750S-B)を用いて測定するものとする。
【0012】
以上の構成において、前記電極を配置する態様は、相互間に電流が流れる一対の電極が、前記電極に最も近い前記側壁の内壁面に沿う方向に並び、前記一対の電極が前記側壁の内壁面と交差する方向に複数対並ぶ態様であることが好ましい。
【0013】
このようにすれば、電極を配置する態様が、側壁に効率良く電流を流すことが可能な態様になる。
【0014】
この構成において、前記一対の電極間の距離Lに対する前記側壁の内壁面に最も近い電極から該側壁の内壁面までの距離Lxの比(Lx/L)が、3.0以下であることが好ましい。
【0015】
ここで、上述の距離の比が、3.0以下であれば、側壁の内壁面に最も近い電極が、側壁の内壁面に近くなり、側壁に十分な電流を流すことができる。
【0016】
以上の構成において、下記の[数1]式を満たすように前記電極を配置してもよい。
【数1】
ここで、
Aは、前記一対の電極間の距離Lに対する前記側壁の内壁面に最も近い電極から該側壁の内壁面までの距離Lxの比(Lx/L)であり、
Qは、前記一対の電極への供給電力(W)であり、
Dは、前記溶融炉内での溶融ガラスの深さ(m)であり、
pは、前記側壁の内壁面と直交する方向の電極対間の間隔(m)であり、
Lは、前記一対の電極間の距離(m)であり、
tは、前記側壁の厚み(m)であり、
Wは、前記側壁からの放熱量(W/m
2)である。
【0017】
このようにすれば、側壁での単位面積当たりの発熱量の最大値を側壁からの放熱量の20%以上にするための具体的な電極の配置態様を得ることができる(詳細は、[発明を実施するための形態]の欄で説明する)。
【0018】
さらに、下記の[数2]式を満たすように前記電極を配置してもよい。
【数2】
ここで、A、Q、D、p、L、t、Wの意義は、上記[数1]式のそれらと同一である。
【0019】
このようにすれば、側壁での単位面積当たりの発熱量の最大値を側壁からの放熱量の50%以上にするための具体的な電極の配置態様を得ることができる(詳細は、[発明を実施するための形態]の欄で説明する)。
【0020】
加えて、下記の[数3]式を満たすように前記電極を配置してもよい。
【数3】
ここで、A、Q、D、p、L、t、Wの意義は、上記[数1]式のそれらと同一である。
【0021】
このようにすれば、側壁での単位面積当たりの発熱量の最大値を側壁からの放熱量の150%以下にするための具体的な電極の配置態様を得ることができる(詳細は、[発明を実施するための形態]の欄で説明する)。
【0022】
以上の構成において、所定加熱温度での前記側壁を構成する耐火煉瓦の比抵抗R1に対する前記所定加熱温度での溶融ガラスの比抵抗R2の比(R2/R1)が、1以上であることが好ましい。
【0023】
このようにすれば、側壁に十分な量の電流を流すことができるため、側壁の発熱不足をなくして、側壁の周辺での溶融ガラスの加熱をより適切に行うことが可能となる。
【0024】
以上の構成において、溶融ガラスはEガラスであり且つ前記側壁を構成する耐火煉瓦はクロム煉瓦であってもよい。なお、Eガラスとは、ASTM D578-05 4.2.2で定義される組成を意味する。
【0025】
このようにすれば、上述の比(R2/R1)が1以上となり、側壁に十分な量の電流を流すことができるため、側壁の発熱不足をなくして、側壁の周辺での溶融ガラスの加熱をより適切に行うことが可能となる。また、ガラス繊維の製造方法では、溶融ガラスとしてEガラスを用いることが多く、溶融炉の側壁をクロム煉瓦で構成することが多い。したがって、ここでの溶融ガラス及びここでの側壁を有する溶融炉を、特にガラス繊維の製造方法に有効利用することができる。
【0026】
上記課題を解決するために創案された本発明の第二の側面は、底壁に配置された電極を用いてガラス原料を加熱溶融して溶融ガラスを生成する溶融炉を備えたガラス物品の製造装置であって、前記電極により通電される電流の一部が前記溶融炉の側壁に流れるように該電極が配置されていることに特徴づけられる。
【0027】
これによれば、この製造装置と構成が実質的に同一の既述の製造方法と同一の作用効果を享受することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、溶融炉内の側壁の周辺で溶融ガラスを十分に加熱できるようになり、溶融炉から良質の溶融ガラスをガラス物品の成形部に向かって移送することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の実施形態に係るガラス物品の製造装置における主要部の概略構成を例示する縦断側面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るガラス物品の製造装置の構成要素である溶融炉の側壁の周辺での電極の配置態様を示す概略平面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るガラス物品の製造方法に関する第一のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図4】本発明の実施形態に係るガラス物品の製造方法に関する第二のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図5】本発明の実施例でのシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態に係るガラス物品の製造方法及び製造装置について添付図面を参照しつつ説明する。
【0031】
図1は、本実施形態に係るガラス物品の製造装置における主要部の概略構成を例示する縦断側面図である。同図に示すように、この製造装置が備える溶融炉1は、通電加熱を含む加熱によって、ガラス原料(固体原料)Gaを溶融して溶融ガラスGmを生成するものである。この溶融炉1は、耐火煉瓦で構成された底壁1aと側壁1bとによって溶融空間が区画形成されている。なお、溶融空間の上方は、天井壁1cで覆われている。溶融空間で生成された溶融ガラスGmは、溶融炉1の流出口1dから移送流路2に流出し、移送流路2を通じてガラス物品の成形部(図示略)に向かって移送される。本実施形態では、ガラス物品の成形部は、ガラス繊維を成形するブッシングである。
【0032】
ブッシングに向かって移送される溶融ガラスGmとしては、例えば、Eガラス(アルカリ含有量2%以下のガラス)、Dガラス(低誘電率ガラス)、ARガラス(耐アルカリ性ガラス)、Cガラス(耐酸性のガラス)、Mガラス(高弾性率のガラス)、Sガラス(高強度、高弾性率のガラス)、Tガラス(高強度、高弾性率のガラス)、Hガラス(高誘電率のガラス)、NEガラス(低誘電率のガラス)が挙げられる。ガラスの密度は、例えば、2.0~3.0g/cm3である。
【0033】
溶融炉1の底壁1aには、溶融ガラスGmを通電加熱するための複数の電極3が配置されている。これらの電極3は、底壁1aを貫通して上方に突出し、溶融ガラスGmに侵漬された状態にある。本実施形態では、これらの電極3の底壁1aから上方への突出長さdの下限が、例えば溶融ガラスGmの深さDの20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上とされる。また、突出長さdの上限が、例えば溶融ガラスGmの深さDの80%以下、好ましくは70%以下、より好ましくは60%以下とされる。また、本実施形態では、これらの電極3による通電加熱とバーナーによるガス燃焼加熱とを併用する方式を採用しているが、バーナーによるガス燃焼加熱を省略する方式であっても良い。
【0034】
溶融炉1の側壁1bの上部には、原料供給機であるスクリューフィーダー4が配設されている。このスクリューフィーダー4は、溶融ガラスGmの液面Gmaの一部にガラス原料Gaを順次供給するものである。なお、スクリューフィーダー4に代えて、プッシャーや振動フィーダ等の他の原料供給機を用いてもよい。
【0035】
本実施形態に係る製造方法では、以上のような構成を備えた製造装置によって、溶融炉1の底壁1aに配置された電極3を用いてガラス原料Gaを加熱溶融して溶融ガラスGmを得る溶融工程が実行される。
【0036】
図2は、側壁1bに対する電極3の配置態様を示す横断平面図である。なお、側壁1bは、平面視で四角形状(好ましくは矩形状)をなすため、四つの面を有しているが、同図では便宜上、一つの面に対応する側壁1bのみを図示している。同図に示すように、電極3の配置態様は、相互間に電流が流れる一対の電極3が、電極3に最も近い側壁1bの内壁面1zに沿う方向に並び、この一対の電極3が側壁1bの内壁面1zと交差する方向に複数対(図例では二対)並ぶ態様である。そして、第一電極3aと第二電極3bとの間、及び第三電極3cと第四電極3dとの間に、それぞれ電圧(例えば単相交流電圧)が印加される。これに伴って、第一電極3aと第二電極3bとの間、及び第三電極3cと第四電極3dとの間に電流が流れる。
【0037】
なお、内壁面1zに沿う方向とは、内壁面1zと平行な方向であることが好ましいが、この平行な方向に対して一方側に10°以内または他方側に10°以内で傾斜した方向であってもよい。また、内壁面1zと交差する方向とは、内壁面1zと直交する方向であることが好ましいが、この直交する方向に対して一方側に10°以内または他方側に10°以内で傾斜した方向であってもよい。
【0038】
以下、本実施形態に係るガラス物品の製造方法の特徴的構成及びその作用効果を説明する。
【0039】
第一の特徴的構成は、電極3の相互間に流れる電流の一部が側壁1bに流れるように電極3が配置されている点である。これによれば、側壁1bに電流が流れることで、側壁1bが加熱される。この場合、溶融炉1内の側壁1bの周辺では溶融ガラスGmの温度低下が生じやすいが、側壁1bが加熱されることで、その温度低下が低減される。これにより、側壁1bの周辺で溶融ガラスGmを十分に加熱することができ、溶融炉1内で良質の溶融ガラスGmを生成することが可能となる。したがって、移送流路2を通じてブッシングに向かって良質の溶融ガラスGmを移送することが可能となる。
【0040】
第二の特徴的構成は、上記のような電極3の配置態様の下で、側壁1bでの単位面積当たりの発熱量の最大値が側壁1bからの放熱量の20%以上で且つ150%以下になるように側壁1bに電流が流れるようになっている点である。この場合、側壁1bでの単位面積当たりの発熱量の最大値が、側壁1bからの放熱量の20%未満であれば、側壁1bの周辺での溶融ガラスGmの温度低下を十分に低減することが困難である。一方、側壁1bでの単位面積当たりの発熱量の最大値が、側壁1bからの放熱量の150%超であれば、側壁1bが熱により損傷等するおそれがある。これに対して、当該数値範囲が上述のように20%以上で且つ150%以下であれば、側壁1bの周辺での溶融ガラスGmの温度低下を確実に低減した上で、側壁1bの熱による損傷等を防止できる。
【0041】
第三の特徴的構成は、一対の電極3間の距離Lに対する側壁1bの内壁面1zに最も近い電極3(第一電極3a及び第二電極3b)から側壁1bの内壁面1zまでの距離Lx(以下、電極3から側壁1bまでの最短距離Lxという)の比(Lx/L)が、3.0以下とされている点である。比(Lx/L)が3.0以下であれば、第一電極3a及び第二電極3bが、側壁1bの内壁面1zに近くなり、側壁1bに十分な電流を流すことができる。
【0042】
第四の特徴的構成は、所定加熱温度での側壁1bを構成する耐火煉瓦の比抵抗R1に対する上記所定加熱温度での溶融ガラスGmの比抵抗R2の比(R2/R1)が、好ましくは1以上、より好ましくは2以上とされている点である。このようにした場合、側壁1bに十分な量の電流を流すことができるため、側壁1bの発熱不足をなくして、側壁1bの周辺での溶融ガラスGmの加熱をより適切に行うことが可能となる。
【0043】
次いで、本発明者等が実施したシミュレーションについて
図2を参照しつつ説明する。このシミュレーションは、側壁1bに電流を流した場合の発熱効果を確認するために実施したものである。
【0044】
シミュレーションを実施した具体的な条件は、ガラス深さDを1m、側壁1bの内壁面1zと交差する方向の電極3対間の間隔pを0.5m、電極3の底壁1aからの突出長さdを0.5m、側壁1bの厚さtを0.15mとした。そして、側壁1bの内壁面1zに沿う方向の一対の電極3間の距離Lを1m、1.33m、1.66m、2mの四条件について実施した。また、一対の電極3間の距離Lに対する電極3から側壁1bまでの最短距離Lxの比A(Lx/L)を0.5、1.0、2.0の三条件について実施した。さらに、側壁1bの比抵抗R1に対する溶融ガラスGmの比抵抗R2の比B(R2/R1)を4、8の二条件について実施した。ここで、比抵抗の比Bは、側壁1bがクロム煉瓦で構成され且つ溶融ガラスGmとしてEガラスが用いられる場合の比である。この場合、側壁1bをクロム煉瓦以外の耐火物、例えば電鋳煉瓦などで構成したり、溶融ガラスGmとして上記列挙した中でEガラス以外のガラスを用いたりすることがある。この事を考慮すれば、比抵抗の比Bは、上述のように1以上であることが好ましい。
【0045】
図3は、比抵抗の比Bを4とした場合における溶融ガラスGmの平均発熱密度ω
aveに対する側壁1bの最高発熱密度ω
maxの比C(ω
max/ω
ave)をグラフに表したものである。
図4は、比抵抗の比Bを8とした場合における溶融ガラスGmの平均発熱密度ω
aveに対する側壁1bの最高発熱密度ω
maxの比C(ω
max/ω
ave)をグラフに表したものである。溶融ガラスGmの平均発熱密度ω
aveは、溶融ガラスGmの単位体積当たりの発熱量の平均値である。また、側壁1bの最高発熱密度ω
maxは、側壁1bの単位体積当たりの発熱量の最大値である。
図3及び
図4は、何れも、上記の電極3間の距離Lの四条件と、電極3間の距離Lに対する電極3から側壁1bまでの最短距離Lxの比Aの三条件とについて数値を変えることで計12種類について求めたデータをプロットしたものである。
【0046】
本発明者等は、
図3及び
図4から、比Cが比Aに対して指数関数的に変化していることに着目し、シミュレーション結果(上記のプロットしたデータ)から最小二乗法により曲線Sを割り出した。
図3に示す曲線Sと
図4に示す曲線Sとは同一である。したがって、曲線Sは、計24種類のシミュレーション結果から割り出されたものである。この曲線Sは、下記の[数4]式で表わされる。
【数4】
ここで、
ω
maxは、側壁1bの最高発熱密度(W/m
3)であり、
ω
aveは、溶融ガラスGmの平均発熱密度(W/m
3)であり、
Aは、一対の電極3間の距離Lに対する電極3から側壁1bまでの最短距離Lxの比である。
【0047】
溶融ガラスGmの平均発熱密度ω
aveは、下記の[数5]式で表される。
【数5】
ここで、
Qは、一対の電極3への供給電力(W)であり、
Dは、溶融炉1内での溶融ガラスGmの深さ(m)であり、
pは、側壁1bの内壁面1zと交差する方向の電極3対間の間隔(m)であり、
Lは、側壁1bに沿う方向の一対の電極3間の距離(m)である。
【0048】
側壁1bの最高発熱密度ω
maxは、上記の[数4]式を変形した下記の[数6]式で表される。
【数6】
【0049】
さらに、側壁1bの最高発熱密度ω
maxに側壁1bの厚みtを乗じることで、側壁1bでの単位面積当たりの発熱量の最大値ω
max・tに換算することができる。したがって、下記の[数7]式が成り立つ。
【数7】
【0050】
そして、側壁1bでの加熱効果を得るためには、側壁1bでの単位面積当たりの発熱量の最大値ω
max・tが側壁1bからの放熱量Wに対して20%以上の割合で側壁1bを加熱するのが好ましい(この理由は既述の通り)。そのためには、下記の[数8]式が成り立つ必要がある。なお、既述の[数1]式は、下記の[数8]式に上記の[数5]式を代入し、変形したものである。
【数8】
ここで、
Wは、側壁1bからの放熱量(W/m
2)であり、
tは、側壁1bの厚さ(m)である。
【0051】
側壁1bでの加熱効果をさらに得るためには、側壁1bでの単位面積当たりの発熱量の最大値ω
max・tが側壁1bからの放熱量Wに対して50%以上の割合で側壁1bを加熱するのが好ましい。そのためには、下記の[数9]式が成り立つ必要がある。なお、既述の[数2]式は、下記の[数9]式に上記の[数5]式を代入し、変形したものである。
【数9】
【0052】
一方、側壁1bの過度な加熱は、側壁1bを構成する耐火煉瓦の溶損等をもたらす。側壁1bでの単位面積当たりの発熱量の最大値ω
max・tが側壁1bからの放熱量Wよりも大きくなるに連れて、耐火煉瓦の溶損等が発生しやすくなる。側壁1bの過度な発熱を生じさせないようにするには、側壁1bでの単位面積当たりの発熱量の最大値ω
max・tが側壁1bからの放熱量Wを大きく超えないようにする必要がある。これを考慮すれば、側壁1bでの単位面積当たりの発熱量の最大値ω
max・tが側壁1bからの放熱量Wの1.5倍以下になることが好ましい。そのためには、下記の[数10]式が成り立つ必要がある。なお、既述の[数3]式は、下記の[数10]式に上記の[数5]式を代入し、変形したものである。
【数10】
【0053】
以上、本発明の実施形態に係るガラス物品の製造方法及び製造装置について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々のバリエーションが可能である。
【0054】
例えば、以上の実施形態では、溶融炉1の一つの面に対応する側壁1bのみを対象として電極3の配置態様を説明したが、当該側壁1bと対向する側壁、または当該側壁1b以外の三つの面に対応する側壁1bについても対象として、同様の電極3の配置態様としてもよい。以上の実施形態のように側壁1bが平面視で四角形状をなす場合、原料供給機(スクリューフィーダー4)が配設された側壁1bと流出口1dが配設された側壁1bとの間に位置する側壁1bの両方を対象とすることが好ましい。原料供給機(スクリューフィーダー4)が配設された側壁1bと流出口1dが配設された側壁1bの平面視での長さに比べて、その間に位置する側壁1bの方が長い場合、より広範囲で側壁1bを加熱することができる。
【0055】
以上の実施形態では、側壁1bの内壁面1zに沿う方向に並ぶ一対の電極3を、側壁1bの内壁面1zと交差する方向に二対並ぶ場合を例示したが、側壁1bの内壁面1zと交差する方向に三対以上並ぶようにしてもよい。
【0056】
以上の実施形態では、ガラス繊維の製造方法及び製造装置に本発明を適用したが、ガラス繊維以外のガラス物品(例えばガラス板やガラス管など)の製造方法及び製造装置に本発明を適用してもよい。
【実施例0057】
以下、本発明の実施例を説明する。この実施例では、溶融炉1の側壁1bの内壁面1zに沿う方向に並ぶ電極対を側壁1bの内壁面1zと交差(直交)する方向に複数対配置した。そして、溶融炉1内での溶融ガラスGmの深さDを1m、溶融炉1の内壁面1zに沿う方向の一対の電極3間の距離Lを1.5m、溶融炉1の内壁面1zと交差する方向の電極3対間の間隔pを0.5m、電極3の底壁1aからの突出長さdを0.5m、側壁1bの厚みtを0.15mとした。電極3には、一対あたり100kWの電力を供給した。したがって、この実施例における溶融ガラスGmの平均発熱密度ωaveは、[数5]式より133.3kW/m3である。また、側壁1bの比抵抗R1に対する溶融ガラスの比抵抗R2の比B(R2/R1)は6とした。側壁1bからの放熱量Wは、例えば熱流計(京都電子工業株式会社製HFM-201)及び熱流センサー(京都電子工業株式会社製T750S-B)を用いて測定することができ、ここでは2000W/m2とした。
【0058】
以上の条件の下で、側壁1bでの単位面積当たりの発熱量の最大値を側壁1bからの放熱量Wの20%以上とするためには、[数8]式より側壁1bの最高発熱密度ωmaxを2.7kW/m3以上にする必要がある。これに伴って、[数1]式より一対の電極3間の距離Lに対する電極3から側壁1bまでの最短距離Lxの比Aは1.89以下にする必要がある。
【0059】
さらに、側壁1bでの単位面積当たりの発熱量の最大値を側壁1bからの放熱量Wの50%以上とするためには、[数9]式より側壁1bの最高発熱密度ωmaxを6.7kW/m3以上にする必要がある。これに伴って、[数2]式より比Aは1.47以下にする必要がある。
【0060】
一方、側壁1bの過度な加熱を回避することを目的として、側壁1bでの単位面積当たりの発熱量の最大値を側壁1bからの放熱量Wの1.5倍以下にするには、[数10]式より側壁1bの最高発熱密度ωmaxを20kW/m3以下にする必要がある。これに伴って、[数3]式より比Aは0.97以上とする必要がある。
【0061】
このような理論の下で、比Aを、0.6、0.8、1.0、1.2、1.4、1.6、1.8、2.0とした場合のシミュレーションを実施し、側壁での最高発熱密度ω
maxを求めた。
図5に、その結果を示す。
図5に示す曲線S1は、[数6]式を表したものである。以下、
図5を参照して、上記のシミュレーション結果を検討する。
【0062】
[数1]式について検討すると、比Aを2.0(上述の1.89超)とした場合のシミュレーション結果では、最高発熱密度ωmaxが2.3kW/m3を示し、放熱量Wの20%に相当する上述の2.7kW/m3より小さくなっている。一方、比Aを1.8(上述の1.89以下)とした場合のシミュレーション結果では、最高発熱密度ωmaxが3.3kW/m3を示し、放熱量Wの20%に相当する上述の2.7kW/m3より大きくなっている。ここでのシミュレーション結果から、比Aが2.0から1.8に至るまでの間に、側壁1bでの単位面積当たりの発熱量の最大値が側壁1bからの放熱量Wの20%を超えるか否かの境界が存在していることを知得できる。この事によって、[数1]式が適正であることを確認した。
【0063】
[数2]式について検討すると、比Aを1.6(上述の1.47超)とした場合のシミュレーション結果では、最高発熱密度が4.8kW/m3を示し、放熱量Wの50%に相当する上述の6.7kW/m3より小さくなっている。一方、比Aを1.4(上述の1.47以下)とした場合のシミュレーション結果では、最高発熱密度ωmaxが7.2kW/m3を示し、放熱量Wの50%に相当する上述の6.7kW/m3より大きくなっている。ここでのシミュレーション結果から、比Aが1.6から1.4に至るまでの間に、側壁1bでの単位面積当たりの発熱量の最大値が側壁1bからの放熱量Wの50%を超えるか否かの境界が存在していることを知得できる。この事によって、[数2]式が適正であることを確認した。
【0064】
[数3]式について検討すると、比Aを1.0(上述の0.97以上)とした場合のシミュレーション結果では、最高発熱密度が16.9kW/m3を示し、放熱量Wの150%に相当する上述の20kW/m3より小さくなっている。一方、比Aを0.8(上述の0.97未満)とした場合のシミュレーション結果では、最高発熱密度ωmaxが27.4kW/m3を示し、放熱量Wの150%に相当する上述の20kW/m3より大きくなっている。ここでのシミュレーション結果から、比Aが1.0から0.8に至るまでの間に、側壁1bでの単位面積当たりの発熱量の最大値が側壁1bからの放熱量Wの150%を超えるか否かの境界が存在していることを知得できる。この事によって、[数3]式が適正であることを確認した。