(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091526
(43)【公開日】2023-06-30
(54)【発明の名称】モータ制御装置、アクチュエータ、及びモータ制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 21/05 20060101AFI20230623BHJP
H02P 21/22 20160101ALI20230623BHJP
H02P 6/10 20060101ALI20230623BHJP
H02P 6/15 20160101ALI20230623BHJP
【FI】
H02P21/05
H02P21/22
H02P6/10
H02P6/15
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021206310
(22)【出願日】2021-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】391008515
【氏名又は名称】株式会社アイエイアイ
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山野 幸司
(72)【発明者】
【氏名】巴月 甫
【テーマコード(参考)】
5H505
5H560
【Fターム(参考)】
5H505DD08
5H505EE32
5H505EE41
5H505GG01
5H505GG02
5H505GG08
5H505JJ03
5H505JJ17
5H505JJ24
5H505JJ28
5H505LL07
5H505LL41
5H560BB12
5H560DA07
5H560DB20
5H560TT11
5H560TT15
5H560XA04
5H560XA05
5H560XA08
5H560XA10
5H560XA13
5H560XA15
(57)【要約】
【課題】押付け動作に至るまでの発生トルクの増大を達成しつつ、押付け動作中のトルクリップルを低減する。
【解決手段】モータ制御装置10は、移動体27をワーク30に接近させるときは、トルクを発生させるための電流指令値に対して最大トルクが得られるようにモータ22の通電電流を制御し、移動体27をワーク30に押付けるときは、電流指令値に対するトルクの変動幅を、最大トルクが得られるようにモータ22の通電電流を制御した場合よりも低減するようにモータ22の通電電流を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
突極性を有し、移動体を移動させるためのモータを制御するモータ制御装置であって、
前記移動体を対象物体に接近させるときは、トルクを発生させるための電流指令値に対して最大トルクが得られるように前記モータの通電電流を制御し、
前記移動体を前記対象物体に押付けるときは、前記電流指令値に対するトルクの変動幅を、前記最大トルクが得られるように前記通電電流を制御した場合よりも低減するように前記通電電流を制御する、
モータ制御装置。
【請求項2】
前記移動体を前記対象物体に接近させるための第1の位置指令値、及び、前記移動体を前記対象物体に押付けるための第2の位置指令値を選択的に生成する第1の生成部と、
前記第1の生成部が生成した第1の位置指令値又は第2の位置指令値に基づいて、前記電流指令値を生成する第2の生成部と、
前記通電電流を制御するためのd軸電流指令値及びq軸電流指令値のそれぞれを、前記電流指令値、及び当該電流指令値と前記q軸電流指令値との間の進角量を用いて生成する第3の生成部と、
を含み、
前記第3の生成部は、
前記第1の生成部が前記第1の位置指令値を生成した場合、前記進角量を、前記電流指令値に対して最大トルクが得られる値に設定し、
前記第1の生成部が前記第2の位置指令値を生成した場合、前記進角量を、前記電流指令値に対するトルクの変動幅を前記最大トルクが得られる値に設定した場合よりも低減可能な値に設定する、
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記第3の生成部は、
前記d軸電流指令値をId、前記q軸電流指令値をIq、前記電流指令値をIc、前記進角量をθとした場合、前記d軸電流指令値及び前記q軸電流指令値のそれぞれを、
Id=Ic×sinθ
Iq=Ic×cosθ
により生成する、
請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記第3の生成部は、
前記第1の生成部が前記第1の位置指令値を生成した場合、前記電流指令値と、当該電流指令値の大きさに応じて最大トルクが得られる進角量との間の予め定められた第1の関係を用いて前記進角量を設定し、
前記第1の生成部が前記第2の位置指令値を生成した場合、前記電流指令値と、当該電流指令値の大きさに応じてトルクの変動幅を低減可能な進角量との間の予め定められた第2の関係を用いて前記進角量を設定する、
請求項2又は請求項3に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記第2の関係を用いて設定される進角量は、前記電流指令値に対するトルクの最大値と最小値との差を示す値が所定値以下であるときの値である、
請求項4に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記第2の関係を用いて設定される進角量は、前記電流指令値に対するトルクの最大値と最小値との差を示す値が所定値以下であり、かつ、前記電流指令値に対するトルクの平均値が最大値であるときの値である、
請求項4に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記第2の関係を用いて設定される進角量は、前記移動体を前記対象物体に押付ける動作中に当該移動体が一定速度で移動する区間において、前記電流指令値の大きさに依らずに一定となるように予め定められた値である、
請求項4~請求項6の何れか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
前記第2の関係を用いて設定される進角量は、前記d軸電流指令値が負となる値である、
請求項4~請求項7の何れか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項9】
前記モータは、永久磁石型のステッピングモータである、
請求項1~請求項8の何れか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項10】
移動体と、
突極性を有し、前記移動体を移動させるためのモータと、
前記モータを制御する、請求項1~請求項9の何れか1項に記載のモータ制御装置と、
を含むアクチュエータ。
【請求項11】
突極性を有し、移動体を移動させるためのモータを制御するモータ制御装置のモータ制御方法であって、
前記移動体を対象物体に接近させるときは、トルクを発生させるための電流指令値に対して最大トルクが得られるように前記モータの通電電流を制御し、
前記移動体を前記対象物体に押付けるときは、前記電流指令値に対するトルクの変動幅を、前記最大トルクが得られるように前記通電電流を制御した場合よりも低減するように前記通電電流を制御する、
モータ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置、アクチュエータ、及びモータ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、移動体としての加圧ヘッドを移動させるモータを制御するモータ制御装置が記載されている。このモータ制御装置は、モータを制御して、加圧ヘッドを対象物であるワークから一定距離離れた場所から対象物に接近させた後、加圧ヘッドを対象物に接触させて加圧、つまり、押付けるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2017/183187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述したモータとして、突極性を有するモータを用いることがある。この場合において、リラクタンストルクを有効利用して発生トルクを増大させるために、電流に対して最大のトルクを得ることが可能な最大トルク制御(MTPA(Maximum Torque Per Ampere)制御)を実行することが考えられる。
【0005】
その一方で、突極性を有するモータでは、回転速度が比較的低い押付け動作中において、ロータの停止位置によってはディテントトルク(コギングトルクともいう。)の影響が大きいため、トルクリップルを表す指標値(例えば、Peak to Peak値)が大きくなってしまう。したがって、最低押付け力が小さくなってしまうおそれがある。
【0006】
本発明は、以上の事実を考慮して成されたもので、押付け動作に至るまでの発生トルクの増大を達成しつつ、押付け動作中のトルクリップルを低減することができるモータ制御装置、アクチュエータ、及びモータ制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、第1態様に係るモータ制御装置は、突極性を有し、移動体を移動させるためのモータを制御するモータ制御装置であって、前記移動体を対象物体に接近させるときは、トルクを発生させるための電流指令値に対して最大トルクが得られるように前記モータの通電電流を制御し、前記移動体を前記対象物体に押付けるときは、前記電流指令値に対するトルクの変動幅を、前記最大トルクが得られるように前記通電電流を制御した場合よりも低減するように前記通電電流を制御する。
【0008】
第1態様によれば、モータの通電電流を制御することで、押付け動作に至るまでの発生トルクの増大を達成しつつ、押付け動作中のトルクリップルを低減することができる。
【0009】
また、第2態様に係るモータ制御装置は、第1態様に係るモータ制御装置において、前記移動体を前記対象物体に接近させるための第1の位置指令値、及び、前記移動体を前記対象物体に押付けるための第2の位置指令値を選択的に生成する第1の生成部と、前記第1の生成部が生成した第1の位置指令値又は第2の位置指令値に基づいて、前記電流指令値を生成する第2の生成部と、前記通電電流を制御するためのd軸電流指令値及びq軸電流指令値のそれぞれを、前記電流指令値、及び当該電流指令値と前記q軸電流指令値との間の進角量を用いて生成する第3の生成部と、を含み、前記第3の生成部が、前記第1の生成部が前記第1の位置指令値を生成した場合、前記進角量を、前記電流指令値に対して最大トルクが得られる値に設定し、前記第1の生成部が前記第2の位置指令値を生成した場合、前記進角量を、前記電流指令値に対するトルクの変動幅を前記最大トルクが得られる値に設定した場合よりも低減可能な値に設定する。
【0010】
第2態様によれば、押付け動作では進角量がトルクリップル低減制御用に設定され、それ以外の動作では進角量が最大トルク制御用に設定される。これにより、押付け動作に至るまでは最大トルクを達成しつつ、押付け動作時におけるトルクリップルを低減することができる。
【0011】
また、第3態様に係るモータ制御装置は、第2態様に係るモータ制御装置において、前記第3の生成部が、前記d軸電流指令値をId、前記q軸電流指令値をIq、前記電流指令値をIc、前記進角量をθとした場合、前記d軸電流指令値及び前記q軸電流指令値のそれぞれを、
Id=Ic×sinθ
Iq=Ic×cosθ
により生成する。
【0012】
第3態様によれば、電流指令値及び進角量を用いて、d軸電流指令値及びq軸電流指令値のそれぞれを生成することができる。
【0013】
また、第4態様に係るモータ制御装置は、第2態様又は第3態様に係るモータ制御装置において、前記第3の生成部が、前記第1の生成部が前記第1の位置指令値を生成した場合、前記電流指令値と、当該電流指令値の大きさに応じて最大トルクが得られる進角量との間の予め定められた第1の関係を用いて前記進角量を設定し、前記第1の生成部が前記第2の位置指令値を生成した場合、前記電流指令値と、当該電流指令値の大きさに応じてトルクの変動幅を低減可能な進角量との間の予め定められた第2の関係を用いて前記進角量を設定する。
【0014】
第4態様によれば、第1の関係を用いて最大トルクが得られる進角量を設定し、第2の関係を用いてトルクリップルを低減可能な進角量を設定することができる。
【0015】
また、第5態様に係るモータ制御装置は、第4態様に係るモータ制御装置において、前記第2の関係を用いて設定される進角量が、前記電流指令値に対するトルクの最大値と最小値との差を示す値が所定値以下であるときの値である。
【0016】
第5態様によれば、電流指令値に対するトルクの最大値と最小値との差を示す値を考慮することで、トルクリップルを低減可能な進角量を設定することができる。
【0017】
また、第6態様に係るモータ制御装置は、第4態様に係るモータ制御装置において、前記第2の関係を用いて設定される進角量が、前記電流指令値に対するトルクの最大値と最小値との差を示す値が所定値以下であり、かつ、前記電流指令値に対するトルクの平均値が最大値であるときの値である。
【0018】
第6態様によれば、電流指令値に対するトルクの最大値と最小値との差を示す値、及びトルクの平均値を考慮することで、移動体の移動に必要な推力を維持しつつ、トルクリップルを低減可能な進角量を設定することができる。
【0019】
また、第7態様に係るモータ制御装置は、第4態様~第6態様の何れか1の態様に係るモータ制御装置において、前記第2の関係を用いて設定される進角量が、前記移動体を前記対象物体に押付ける動作中に当該移動体が一定速度で移動する区間において、前記電流指令値の大きさに依らずに一定となるように予め定められた値である。
【0020】
第7態様によれば、電流指令値の大きさに依らずに一定となる進角量を設定することで、トルクリップルを低減することができる。
【0021】
また、第8態様に係るモータ制御装置は、第4態様~第7態様の何れか1の態様に係るモータ制御装置において、前記第2の関係を用いて設定される進角量が、前記d軸電流指令値が負となる値である。
【0022】
第8態様によれば、d軸電流指令値が負となる進角量を設定することで、トルクリップルを低減することができる。
【0023】
また、第9態様に係るモータ制御装置は、第1態様~第8態様の何れか1の態様に係るモータ制御装置において、前記モータが、永久磁石型のステッピングモータである。
【0024】
第9態様によれば、永久磁石型のステッピングモータに対して、押付け動作に至るまでは最大トルクを達成しつつ、押付け動作時におけるトルクリップルを低減することができる。
【0025】
更に、上記目的を達成するために、第10態様に係るアクチュエータは、移動体と、突極性を有し、前記移動体を移動させるためのモータと、前記モータを制御する、第1態様~第9態様の何れか1の態様に係るモータ制御装置と、を含む。
【0026】
第10態様によれば、押付け動作に至るまでは最大トルクを達成しつつ、押付け動作時におけるトルクリップルを低減することができるアクチュエータを提供することができる。
【0027】
更に、上記目的を達成するために、第11態様に係るモータ制御方法は、突極性を有し、移動体を移動させるためのモータを制御するモータ制御装置のモータ制御方法であって、前記移動体を対象物体に接近させるときは、トルクを発生させるための電流指令値に対して最大トルクが得られるように前記モータの通電電流を制御し、前記移動体を前記対象物体に押付けるときは、前記電流指令値に対するトルクの変動幅を、前記最大トルクが得られるように前記通電電流を制御した場合よりも低減するように前記通電電流を制御する。
【0028】
第11態様によれば、上記第1態様と同様に、モータの通電電流を制御することで、押付け動作に至るまでは最大トルクを達成しつつ、押付け動作時におけるトルクリップルを低減することができる。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、本発明によれば、押付け動作に至るまでの発生トルクの増大を達成しつつ、押付け動作中のトルクリップルを低減することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】(A)はアプローチ動作におけるモータ制御装置及びアクチュエータの構成の一例を概略的に示す図であり、(B)は押付け動作におけるモータ制御装置及びアクチュエータの構成の一例を概略的に示す図である。
【
図2】第1の実施形態に係るモータ制御装置の電気的な構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】(A)は押付け指令における移動体の移動速度の遷移例を示す波形図であり、(B)は押付け指令における電流制限値の遷移例を示す波形図である。
【
図4】押付け力と電流との対応関係の一例を示すグラフである。
【
図5】第1の実施形態に係るモータ制御装置の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
【
図6】電流指令値に対するトルクのPP値と進角量との対応関係の一例を示すグラフである。
【
図7】第1の実施形態に係るトルクリップル低減用進角量決定テーブルの一例を示す図である。
【
図8】第1の実施形態に係る最大トルク制御用進角量決定テーブルの一例を示す図である。
【
図9】第1の実施形態に係るモータ制御装置の具体的な構成の一例を示すブロック図である。
【
図10】第1の実施形態に係る制御プログラムによるメジャーループの流れの一例を示すフローチャートである。
【
図11】第1の実施形態に係る移動指令取得処理の流れの一例を示すフローチャートであり、
図10のステップS101のサブルーチンである。
【
図12】第1の実施形態に係る運転計画生成処理の流れの一例を示すフローチャートであり、
図10のステップS102のサブルーチンである。
【
図13】第1の実施形態に係る制御プログラムによるマイナーループの流れの一例を示すフローチャートである。
【
図14】(A)は押付け100%時のトルクと進角量との対応関係の一例を示すグラフであり、(B)は押付け75%時のトルクと進角量との対応関係の一例を示すグラフであり、(C)は押付け50%時のトルクと進角量との対応関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して、本開示の技術を実施するための形態の一例について詳細に説明する。なお、動作、作用、機能が同じ働きを担う構成要素及び処理には、全図面を通して同じ符号を付与し、重複する説明を適宜省略する場合がある。各図面は、本開示の技術を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本開示の技術は、図示例のみに限定されるものではない。また、本実施形態では、本発明と直接的に関連しない構成や周知な構成については、説明を省略する場合がある。
【0032】
[第1の実施形態]
図1(A)及び
図1(B)は、第1の実施形態に係るモータ制御装置10及びアクチュエータ20の構成の一例を概略的に示す図である。
図1(A)は、アプローチ動作におけるアクチュエータ20の状態を示し、
図1(B)は、押付け動作におけるアクチュエータ20の状態を示す。
【0033】
図1(A)及び
図1(B)に示すように、アクチュエータ20は、エンコーダ21、モータ22、出力シャフト23、カップリング24、すべりねじ軸25、すべりねじナット26、及び移動体27を備えている。なお、すべりねじ軸25及びすべりねじナット26は、ボールねじ軸及びボールねじナットとしてもよい。また、
図1(A)及び
図1(B)の例では、移動体27は、ロッドタイプとして示しているが、テーブルタイプであってもよい。
【0034】
エンコーダ21は、モータ22に取り付けられている。エンコーダ21は、モータ22の回転位置を検出し、検出した位置をフィードバック位置信号としてモータ制御装置10に出力する。
【0035】
モータ22は、モータ制御装置10によって制御され、移動体27を移動させるための駆動源である。より詳細には、モータ22は、移動体27を出力シャフト23の軸方向に往復させるように軸移動させる。モータ22は、突極性を有している。突極性とは、磁気抵抗(リラクタンス)が回転子の円周上の位置によって不均一な性質のことをいう。モータ22は、例えば、PM型ステッピングモータ又はハイブリッド型ステッピングモータなどの永久磁石型のステッピングモータである。
【0036】
モータ22の出力シャフト23は、カップリング24を介して、すべりねじ軸25が結合されている。すべりねじ軸25は、すべりねじナット26と共に、モータ22の回転運動を並進運動に変換するための機械部品として構成される。移動体27は、すべりねじナット26を介して、すべりねじ軸25に接合されており、モータ22の回転に応じて、ワーク30に向かう方向に移動する。これにより、移動体27がワーク30に接触し、所定位置までワーク30が押付けられる。ワーク30は、例えば、作業台(図示省略)に設置されており、移動体27を押付ける対象物体の一例である。
【0037】
移動体27は、最初に、ワーク30から一定距離離れた場所(
図1の原点(後退端))に位置している。アプローチ動作では、モータ22の回転に応じて、移動体27が原点(後退端)からアプローチ終了位置まで移動する。押付け動作では、モータ22の回転に応じて、移動体27がアプローチ終了位置から押付け終了位置(前進端)まで移動する。
【0038】
モータ制御装置10は、モータ22をd軸電流指令値及びq軸電流指令値を用いて制御する。d軸電流指令値及びq軸電流指令値は、モータ22の通電電流を制御するための指令値である。なお、d軸とは磁束の方向であり、q軸とはd軸に直交する方向である。なお、
図1(A)及び
図1(B)では、モータ制御装置10は、アクチュエータ20と別体に設けられているが、アクチュエータ20に内蔵されていてもよい。すなわち、アクチュエータ20は、モータ制御装置10を備えていてもよい。
【0039】
図2は、第1の実施形態に係るモータ制御装置10の電気的な構成の一例を示すブロック図である。
【0040】
図2に示すように、本実施形態に係るモータ制御装置10は、CPU(Central Processing Unit)11と、ROM(Read Only Memory)12と、RAM(Random Access Memory)13と、入出力インタフェース(I/O)14と、記憶部15と、接続部16と、を備えている。
【0041】
CPU11、ROM12、RAM13、及びI/O14は、バスを介して各々接続されている。I/O14には、記憶部15と、接続部16と、を含む各機能部が接続されている。これらの各機能部は、I/O14を介して、CPU11と相互に通信可能とされる。
【0042】
CPU11、ROM12、RAM13、及びI/O14によって制御部が構成される。制御部は、モータ制御装置10の一部の動作を制御するサブ制御部として構成されてもよいし、モータ制御装置10の全体の動作を制御するメイン制御部の一部として構成されてもよい。制御部の各ブロックの一部又は全部には、例えば、LSI(Large Scale Integration)等の集積回路又はIC(Integrated Circuit)チップセットが用いられる。上記各ブロックに個別の回路を用いてもよいし、一部又は全部を集積した回路を用いてもよい。上記各ブロック同士が一体として設けられてもよいし、一部のブロックが別に設けられてもよい。また、上記各ブロックのそれぞれにおいて、その一部が別に設けられてもよい。制御部の集積化には、LSIに限らず、専用回路又は汎用プロセッサを用いてもよい。
【0043】
記憶部15としては、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等が用いられる。ROM12又は記憶部15には、モータ22を制御するための制御プログラム、モータ22の制御に必要な各種の設定値、データテーブル等が記憶される。
【0044】
制御プログラムは、例えば、モータ制御装置10に予めインストールされていてもよい。制御プログラムは、不揮発性の記憶媒体に記憶して、又はネットワークを介して配布して、モータ制御装置10に適宜インストールすることで実現してもよい。なお、不揮発性の記憶媒体の例としては、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、光磁気ディスク、HDD、DVD-ROM(Digital Versatile Disc Read Only Memory)、フラッシュメモリ、メモリカード等が想定される。
【0045】
接続部16は、エンコーダ21、モータ22、及びPLC(Programmable Logic Controller)等の上位装置の各々と接続するためのインタフェースである。
【0046】
図3(A)は、押付け指令における移動体27の移動速度の遷移例を示す波形図である。縦軸に移動体27の移動速度を示し、横軸に時間を示す。また、
図3(B)は、押付け指令における電流制限値の遷移例を示す波形図である。縦軸に電流制限値を示し、横軸に時間を示す。
【0047】
図3(A)に示すように、押付け指令とは、アプローチ動作及び押付け動作の2つの状態をひとまとめにした移動指令(動作指令ともいう。)である。アプローチ動作とは、移動体27を原点(後退端)からアプローチ終了位置まで高速で移動させて位置決めを行う動作である。アプローチ動作を行う区間をアプローチ動作区間という。押付け動作とは、移動体27をアプローチ終了位置から押付け終了位置(前進端)まで低速で移動させる動作である。押付け動作を行う区間を押付け動作区間という。押付け動作区間では、移動体27が一定速度で移動する区間(速度一定区間)が含まれる。このとき、モータ22に供給する電流を押付け電流制限値で制限することで、移動体27の推力を制限する。移動体27がワーク30に接触している場合において、移動体27の押付け力とワーク30の反力とが釣り合っていれば移動体27は停止し、移動体27の押付け力がワーク30の反力を上回ると移動体27は再度動き出し、押付け終了位置(前進端)まで移動する。なお、押付け終了位置(前進端)まで到達した場合に、例えば、押付け動作を解除し位置決め動作に移行する。位置決め動作とは、例えば、移動体27を高速で原点(後退端)へ戻すなど、所定の位置への位置決めを行う動作である。位置決め動作を行う区間を位置決め動作区間という。
【0048】
図3(B)に示すように、電流制限値は、アプローチ動作区間、押付け動作区間、及び位置決め動作区間の各区間において、モータ22に供給する電流を制限するための制限値である。押付け動作区間における押付け電流制限値は、アプローチ動作区間及び位置決め動作区間における移動時電流制限値よりも低い値が設定される。これらのアプローチ動作、押付け動作、及び位置決め動作の各動作の切り替えに応じて、電流制限値も切り替えられる。
【0049】
図4は、押付け力と電流との対応関係の一例を示すグラフである。縦軸に押付け力を示し、横軸に電流を示す。
【0050】
上述したように、永久磁石型のステッピングモータなど、突極性を有するモータでは、回転速度が比較的低い押付け動作中において、ディテントトルク(コギングトルク)の影響を受け易いため、トルクリップルが増大する。なお、トルクリップルとは、トルクの変動幅、つまり、トルクの最大値(Max)と最小値(Min)との差を意味する。改善前では、
図4の点線で示すように、押付け動作中にトルクリップルが増大する結果、最低押付け力(Min)が小さくなってしまう。
【0051】
このため、本実施形態(改善後)では、
図4の実線で示すように、押付け動作中のトルクリップルを低減し、最低押付け力(Min)を大きくする。一方、押付け動作以外では、最大トルクで動作することが望ましい。このため、本実施形態に係るモータ制御装置10では、押付け動作に至るまでは最大トルクで動作させ、押付け動作中はトルクリップルが低減するように動作させる。
【0052】
本実施形態に係るモータ制御装置10は、移動体27をワーク30に接近させるときは、トルクを発生させるための電流指令値に対して最大トルクが得られるようにモータ22の通電電流を制御し、移動体27をワーク30に押付けるときは、電流指令値に対するトルクの変動幅を、最大トルクが得られるようにモータ22の通電電流を制御した場合よりも低減するようにモータ22の通電電流を制御する。
【0053】
具体的に、本実施形態に係るモータ制御装置10のCPU11は、ROM12又は記憶部15に記憶されている制御プログラムをRAM13に書き込んで実行することにより、
図5に示す各部として機能する。
【0054】
図5は、第1の実施形態に係るモータ制御装置10の機能的な構成の一例を示すブロック図である。
【0055】
図5に示すように、本実施形態に係るモータ制御装置10のCPU11は、第1の生成部11A、第2の生成部11B、及び第3の生成部11Cとして機能する。
【0056】
第1の生成部11Aは、移動体27をワーク30に接近させるための第1の位置指令値、及び、移動体27をワーク30に押付けるための第2の位置指令値を選択的に生成する。
【0057】
第2の生成部11Bは、第1の生成部11Aが生成した第1の位置指令値又は第2の位置指令値に基づいて、トルクを発生させるための電流指令値を生成する。
【0058】
第3の生成部11Cは、d軸電流指令値及びq軸電流指令値のそれぞれを、電流指令値及び進角量を用いて生成する。進角量とは、電流指令値とq軸電流指令値との間の電気角を表す。具体的に、第3の生成部11Cは、d軸電流指令値をId、q軸電流指令値をIq、電流指令値をIc、進角量をθとした場合、d軸電流指令値及びq軸電流指令値のそれぞれを、下記の式(1)、(2)を用いて生成する。
【0059】
Id=Ic×sinθ ・・・(1)
Iq=Ic×cosθ ・・・(2)
【0060】
第3の生成部11Cは、第1の生成部11Aが第1の位置指令値を生成した場合、進角量θを、電流指令値Icに対して最大トルクが得られる値に設定し、第1の生成部11Aが第2の位置指令値を生成した場合、進角量θを、電流指令値Icに対するトルクの変動幅、つまり、トルクリップルを最大トルクが得られる値に設定した場合よりも低減可能な値に設定する。
【0061】
具体的に、第3の生成部11Cは、第1の生成部11Aが第1の位置指令値を生成した場合、電流指令値Icと、当該電流指令値Icの大きさに応じて最大トルクが得られる進角量θとの間の予め定められた第1の関係を用いて進角量θを設定する。第1の関係は、例えば、進角量θと電流指令値Icとの間の対応関係を予め定めた最大トルク制御用進角量決定テーブル(後述の
図8参照)として示される。なお、第1の関係は、進角量θと電流指令値Icとの間の対応関係を予め定めた計算式としてもよい。また、第3の生成部11Cは、第1の生成部11Aが第2の位置指令値を生成した場合、電流指令値Icと、当該電流指令値Icの大きさに応じてトルクリップルを低減可能な進角量θとの間の予め定められた第2の関係を用いて進角量θを設定する。第2の関係は、例えば、進角量θと電流指令値Icとの間の対応関係を予め定めたトルクリップル低減用進角量決定テーブル(後述の
図7参照)として示される。なお、第2の関係は、進角量θと電流指令値Icとの間の対応関係を予め定めた計算式としてもよい。
【0062】
次に、
図6及び
図7を参照して、第1の実施形態に係るトルクリップル低減用進角量決定テーブルについて具体的に説明する。
【0063】
図6は、電流指令値Icに対するトルクのPP値と進角量θとの対応関係の一例を示すグラフである。縦軸にPP値を示し、横軸に進角量を示す。PP値とは、Peak to Peak値であり、電流指令値Icに対するトルクの最大値と最小値との差、つまり、トルクリップルの程度を示す値である。
【0064】
図6に示す特性曲線P1は、ある電流指令値Icに対するトルクのPP値と進角量θとの対応関係を実際に計測して得られたものである。この例では、進角量θがX度のときに、PP値が最小値となっている。本実施形態では、PP値が比較的小さくなる進角量θを、対応する電流指令値Icと共に記憶し、一例として、
図7に示すトルクリップル低減用進角量決定テーブルを作成する。つまり、複数の電流指令値Icの各々について、トルクのPP値と進角量θとの対応関係を実際に計測して、複数の電流指令値Icの各々に対応する複数の特性曲線P1を取得する。そして、複数の特性曲線P1の各々からPP値が比較的小さくなる複数の進角量θを特定し、特定した複数の進角量θを、それぞれ対応する電流指令値Icと共に記憶し、テーブルを作成する。PP値が比較的小さくなる進角量θとは、例えば、PP値が所定値以下であるときの値とされ、望ましくは、PP値が最小値であるときの値(
図6の例ではX度として示す。)である。所定値は、例えば、PP値の最小値よりも大きく、PP値の平均値を超えない範囲で適切な値が設定される。
【0065】
なお、モータ22の種類によっては、複数の電流指令値Icに対して同じ進角量θとなる、つまり、進角量θが一定となる場合と、複数の電流指令値Icに対して異なる進角量θとなる場合と、がある。本実施形態では、いずれの場合であっても、特性曲線P1からトルクリップル低減用進角量決定テーブルを作成することで対応可能である。
【0066】
図7は、第1の実施形態に係るトルクリップル低減用進角量決定テーブルT1の一例を示す図である。トルクリップル低減用進角量決定テーブルT1は、例えば、ROM12又は記憶部15に記憶されている。
【0067】
図7に示すトルクリップル低減用進角量決定テーブルT1は、押付け動作中に用いられるデータテーブルであり、一例として、上述の
図6の特性曲線P1から得られる、進角量θと電流指令値Icとの間の対応関係を予め定めたものである。生成された電流指令値Icに基づいて、トルクリップル低減用進角量決定テーブルT1を参照することで、トルクリップル低減に適した進角量θが設定される。トルクリップル低減用進角量決定テーブルT1を用いて設定される進角量θは、例えば、押付け動作中に移動体27が一定速度で移動する区間(例えば、
図3(A)に示す速度一定区間)、つまり、少なくとも電流指令値Icの符号(正負)が変化しない区間において、電流指令値Icの大きさに依らずに一定となるように予め定められた値とされる。具体的には、進角量θは、上述の式(1)から得られるd軸電流指令値Idが負となる値とされる。d軸電流指令値Idが負となる進角量θとすることで、モータ22における磁束を弱めるように作用する。このため、モータ22の回転速度が比較的低い押付け動作中において、ディテントトルク(コギングトルク)の影響を小さくし、トルクリップルが低減される。
【0068】
図8は、第1の実施形態に係る最大トルク制御用進角量決定テーブルT2の一例を示す図である。最大トルク制御用進角量決定テーブルT2は、例えば、ROM12又は記憶部15に記憶されている。
【0069】
図8に示す最大トルク制御用進角量決定テーブルT2は、押付け動作以外で用いられるデータテーブルであり、進角量θと電流指令値Icとの間の対応関係を予め定めたものである。生成された電流指令値Icに基づいて、最大トルク制御用進角量決定テーブルT2を参照することで、最大トルクに適した進角量θが設定される。なお、最大トルク制御用進角量決定テーブルT2は、公知のデータテーブルとして用いられているものであり、ここでの具体的な説明は省略する。
【0070】
次に、
図9を参照して、第1の生成部11A、第2の生成部11B、及び第3の生成部11Cを含むモータ制御装置10の具体的な構成について説明する。
【0071】
図9は、第1の実施形態に係るモータ制御装置10の具体的な構成の一例を示すブロック図である。
【0072】
図9に示すように、本実施形態に係るモータ制御装置10は、第1の生成部11A、第2の生成部11B、第3の生成部11C、d軸/q軸電流制御部122、位置情報取得部123、及び現在速度換算部124を備えている。
【0073】
第1の生成部11Aは、移動指令取得部111、運転計画生成部112、及び電流制限切替部113を含む。第2の生成部11Bは、位置制御器114、速度制御器115、第1減算器116、及び第2減算器117を含む。第3の生成部11Cは、進角量生成部118及び電流指令変換部121を含む。進角量生成部118は、一例として、上述の
図7に示すトルクリップル低減用進角量決定テーブルT1と、上述の
図8に示す最大トルク制御用進角量決定テーブルT2とを含む。
【0074】
移動指令取得部111は、例えば、PLC等の上位装置から移動指令を取得する。なお、モータ制御装置10がプログラム作成機能を有している場合には、モータ制御装置10自体がPLCとして機能してもよい。この移動指令は、例えば、押付け指令及びそれ以外の非押付け指令のいずれかである。押付け指令は、例えば、アプローチ開始位置を示す原点(後退端)、アプローチ終了位置、及び押付け終了位置(前進端)等で構成される位置情報と、アプローチ速度及び押付け速度等で構成される速度情報と、押付け電流制限値と、を含み、アプローチ動作及び押付け動作を実現するための指令である。尚、アプローチ速度は、アプローチ動作の時間が短くなるように比較的高い速度に設定されている。押付け速度は、移動体27がワーク30に押し当ったときの衝撃が小さくなるように比較的低い速度(例えば、20mm/s以下)に設定されている。非押付け指令には、位置情報として、例えば、原点(後退端)又は所望の位置を示す目標位置が含まれ、速度情報として、例えば、アプローチ速度と同じ速度を示す位置決め用の目標速度が含まれる。非押付け指令は、ワーク30により移動体27が止まった位置又は押付け終了位置(前進端)から原点へ戻る場合又は所望の位置へ移動する場合には押付けを行わないため、原点又は所望の位置を目標位置とした位置決め動作を実現するための指令である。移動指令取得部111は、移動指令から、当該移動指令が押付け指令であるか否かを判定し、判定結果を運転計画生成部112及び電流制限切替部113に出力する。
【0075】
運転計画生成部112は、移動体27の目標位置に向けて位置指令値を生成し、生成した位置指令値を第1減算器116に出力する。つまり、運転計画生成部112は、移動体27をワーク30に接近させるための第1の位置指令値、及び、移動体27をワーク30に押付けるための第2の位置指令値を選択的に生成する。運転計画生成部112は、押付け指令である場合に、押付け動作であるか否かを判定し、判定結果を電流制限切替部113及び進角量生成部118に出力する。
【0076】
電流制限切替部113は、移動指令取得部111からの判定結果、及び、運転計画生成部112からの判定結果に基づいて、電流制限値を切り替える。具体的に、上述の
図3(B)に示す移動時電流制限値及び押付け電流制限値を選択的に切り替える。
【0077】
第1減算器116は、運転計画生成部112からの第1の位置指令値又は第2の位置指令値から、位置情報取得部123からの現在位置(位置検出値)を減じて得られた位置偏差を位置制御器114に出力する。
【0078】
位置制御器114は、第1減算器116から得られた位置偏差に位置制御用ゲインを乗じて速度指令値を生成し、生成した速度指令値を第2減算器117に出力する。位置制御器114は、比例制御を行う。
【0079】
第2減算器117は、位置制御器114からの速度指令値から、現在速度換算部124からの現在速度(速度検出値)を減じて得られた速度偏差を速度制御器115に出力する。
【0080】
速度制御器115は、第2減算器117から得られた速度偏差に速度制御用比例ゲイン/速度制御用積分ゲインを乗じて積分することにより電流指令値Ic(トルク電流指令値)を生成し、生成した電流指令値Ic(トルク電流指令値)を進角量生成部118及び電流指令変換部121の各々に出力する。速度制御器115は、比例/積分制御を行う。
【0081】
進角量生成部118は、第1の生成部11Aが第1の位置指令値を生成した場合、つまり、押付け動作以外である場合、電流指令値Icに対して、最大トルク制御用進角量決定テーブルT2を用いて進角量θを設定する。また、進角量生成部118は、第1の生成部11Aが第2の位置指令値を生成した場合、つまり、押付け動作である場合、電流指令値Icに対して、トルクリップル低減用進角量決定テーブルT1を用いて進角量θを設定する。進角量生成部118は、最大トルク制御用進角量決定テーブルT2又はトルクリップル低減用進角量決定テーブルT1を用いて設定した進角量θを電流指令変換部121に出力する。
【0082】
電流指令変換部121は、一例として、上述の式(1)及び式(2)により、d軸電流指令値Id及びq軸電流指令値Iqのそれぞれを、速度制御器115からの電流指令値Ic(トルク電流指令値)及び進角量生成部118からの進角量θを用いて生成し、生成したd軸電流指令値Id及びq軸電流指令値Iqのそれぞれをd軸/q軸電流制御部122に出力する。
【0083】
d軸/q軸電流制御部122は、電流指令変換部121からのd軸電流指令値Id及びq軸電流指令値Iqを用いて、モータ22を制御する。
【0084】
位置情報取得部123は、モータ22に取り付けられたエンコーダ21から、モータ22のフィードバック位置信号を取得する。位置情報取得部123は、フィードバック位置信号から得られる位置検出値を現在位置として第1減算器116及び現在速度換算部124の各々に出力する。
【0085】
現在速度換算部124は、位置情報取得部123からの現在位置を現在速度(速度検出値)に換算し、換算した現在速度(速度検出値)を第2減算器117に出力する。
【0086】
次に、
図10~
図13を参照して、第1の実施形態に係るモータ制御装置10の作用を説明する。
【0087】
ここで、本実施形態では、3つのステータス1~3が定義される。ステータス1は、移動指令の状態を示し、押付け指令及び非押付け指令の2つの状態が定義される。ステータス2は、押付け指令の状態を示し、押付け動作、アプローチ動作、及びクリア(位置決め動作)の3つの状態が定義される。ステータス3は、押付け動作の状態を示し、押付け動作完了及びクリアの2つの状態が定義される。これらのステータス1~3は、ステータス管理テーブル(図示省略)で管理される。
【0088】
図10は、第1の実施形態に係る制御プログラムによるメジャーループの流れの一例を示すフローチャートである。
【0089】
まず、モータ制御装置10に対してモータ制御の指示がなされると、CPU11によって制御プログラムが起動され、以下の各処理を実行する。なお、本処理は、メジャーループとして、例えば、1ms毎に実行される。
【0090】
図10のステップS101では、CPU11が、PLC等の上位装置から移動指令を取得する。なお、上述したように、モータ制御装置10がプログラム作成機能を有している場合には、モータ制御装置10自体がPLCとして機能してもよい。
【0091】
図11は、第1の実施形態に係る移動指令取得処理の流れの一例を示すフローチャートであり、
図10のステップS101のサブルーチンである。
【0092】
図11のステップS111では、CPU11が、PLC等の上位装置から移動指令を取得したか否かを判定する。移動指令を取得したと判定した場合(肯定判定の場合)、ステップS112に移行し、移動指令を取得していないと判定した場合(否定判定の場合)、ステップS102にリターンする。
【0093】
ステップS112では、CPU11が、ステップS111で取得した移動指令が押付け指令であるか否かを判定する。押付け指令であると判定した場合(肯定判定の場合)、ステップS113に移行し、押付け指令ではないと判定した場合(否定判定の場合)、ステップS114に移行する。
【0094】
ステップS113では、CPU11が、ステータス管理テーブルに対して、ステータス1=押付け指令、ステータス2=アプローチ動作、ステータス3=クリア、目標位置=アプローチ終了位置、目標速度=アプローチ速度をセットし、ステップS102にリターンする。
【0095】
一方、ステップS114では、CPU11が、ステータス管理テーブルに対して、ステータス1=非押付け指令、ステータス2=クリア、ステータス3=クリア、をセットし、目標位置及び目標速度として、非押付け指令に含まれる位置情報及び速度情報を取得し、ステップS102にリターンする。
【0096】
図10のステップS102では、CPU11が、運転計画、つまり、移動体27をワーク30に接近させるための第1の位置指令値、及び、移動体27をワーク30に押付けるための第2の位置指令値を選択的に生成する
【0097】
図12は、第1の実施形態に係る運転計画生成処理の流れの一例を示すフローチャートであり、
図10のステップS102のサブルーチンである。
【0098】
図12のステップS121では、CPU11が、目標位置に向けて位置指令値を生成する。ここで、位置指令値の変化量は、加速中においては増加し、減速中においては減少し、回転速度が一定の場合はステップS113、ステップS114又は後述のステップS125にてセット又は取得した目標速度を超えないように調整される。つまり、目標速度は位置指令値の変化量のリミッタを意味する。これにより、アプローチ動作、押付け動作、及び位置決め動作、つまり、
図3(A)に示す挙動(速度)を実現するような位置指令値が生成される。
【0099】
ステップS122では、CPU11が、ステータス1=押付け指令であるか否かを判定する。ステータス1=押付け指令であると判定した場合(肯定判定の場合)、ステップS123に移行し、ステータス1=押付け指令ではない、つまり、非押付け指令であると判定した場合(否定判定の場合)、
図10のステップS103にリターンする。
【0100】
ステップS123では、CPU11が、ステータス2=押付け動作であるか否かを判定する。ステータス2=押付け動作であると判定した場合(肯定判定の場合)、
図10のステップS103にリターンし、ステータス2=押付け動作ではない、つまり、アプローチ動作であると判定した場合(否定判定の場合)、ステップS124に移行する。
【0101】
ステップS124では、CPU11が、位置指令値=アプローチ終了位置であるか否かを判定する。位置指令値=アプローチ終了位置であると判定した場合(肯定判定の場合)、ステップS125に移行し、位置指令値=アプローチ終了位置ではないと判定した場合(否定判定の場合)、
図10のステップS103にリターンする。
【0102】
ステップS125では、CPU11が、ステータス管理テーブルに対して、ステータス2=押付け動作、目標位置=押付け終了位置、目標速度=押付け速度をセットし、
図10のステップS103にリターンする。
【0103】
図10のステップS103では、CPU11が、位置制御器処理を実行する。より詳細には、CPU11は、まず、現在位置(位置検出値)を取得する。次に、CPU11は、
図12のステップS121で生成した位置指令値から現在位置(位置検出値)を減じて位置偏差を算出する。その後、CPU11は、位置偏差に位置制御用ゲインを乗じて速度指令値を生成する。
【0104】
ステップS104では、CPU11が、ステータス2=押付け動作であるか否かを判定する。ステータス2=押付け動作であると判定した場合(肯定判定の場合)、ステップS105に移行し、ステータス2=押付け動作ではない、つまり、アプローチ動作又は位置決め動作であると判定した場合(否定判定の場合)、ステップS109に移行する。
【0105】
ステップS105では、CPU11が、押付け動作用の電流制限値、つまり、押付け電流制限値を選択する。
【0106】
ステップS106では、CPU11が、一例として、上述の
図7に示すトルクリップル低減用進角量決定テーブルT1を選択する。
【0107】
ステップS107では、CPU11が、後述のステップS132で生成される現在の電流指令値Ic=電流制限値であるか否かを判定する。電流指令値Ic=電流制限値であると判定した場合(肯定判定の場合)、ステップS108に移行し、電流指令値Ic=電流制限値ではない、つまり、電流指令値Ic<電流制限値と判定した場合(否定判定の場合)、メジャーループの処理を終了する。
【0108】
ステップS108では、CPU11が、ステータス管理テーブルに対して、ステータス3=押付け動作完了、をセットし、メジャーループの処理を終了する。
【0109】
一方、ステップS109では、CPU11が、非押付け動作用の電流制限値、つまり、移動時電流制限値を選択する。
【0110】
ステップS110では、CPU11が、一例として、上述の
図8に示す最大トルク制御用進角量決定テーブルT2を選択し、メジャーループの処理を終了する。
【0111】
図13は、第1の実施形態に係る制御プログラムによるマイナーループの流れの一例を示すフローチャートである。
【0112】
まず、モータ制御装置10に対してモータ制御の指示がなされると、CPU11によって制御プログラムが起動され、以下の各処理を実行する。なお、本処理は、マイナーループとして、例えば、100μs毎に実行される。
【0113】
図13のステップS131では、CPU11が、現在位置を取得し、当該現在位置に基づいて現在速度を算出する。
【0114】
ステップS132では、CPU11が、速度制御器処理を実行することで電流指令値Icを生成する。具体的には、比例/積分制御により、速度指令値から現在速度(速度検出値)を減じて得られた速度偏差に速度制御用比例ゲイン/速度制御用積分ゲインを乗じて積分することにより電流指令値Ic(トルク電流指令値)を生成する。
【0115】
ステップS133では、CPU11が、ステップS132で生成した電流指令値Icが上記メジャーループで選択した電流制限値以下であるか否かを判定する。電流指令値Icが電流制限値以下であると判定した場合(肯定判定の場合)、ステップS134に移行し、電流指令値Icが電流制限値以下ではない、つまり、電流指令値Icが電流制限値より大きいと判定した場合(否定判定の場合)、ステップS135に移行する。
【0116】
ステップS134では、CPU11が、電流指令値Icを維持する。
【0117】
ステップS135では、CPU11が、電流指令値Ic=電流制限値とする。
【0118】
ステップS136では、CPU11が、電流指令値Icに対して、一例として、上述の
図7に示すトルクリップル低減用進角量決定テーブルT1又は
図8に示す最大トルク制御用進角量決定テーブルT2を用いて、進角量θを決定する。
【0119】
ステップS137では、CPU11が、一例として、上述の式(1)及び式(2)により、d軸電流指令値Id及びq軸電流指令値Iqのそれぞれを、電流指令値Ic及び進角量θを用いて生成する。
【0120】
ステップS138では、CPU11が、ステップS137で生成したd軸電流指令値Id及びq軸電流指令値Iqを用いて、モータ22の電流制御を行い、マイナーループの処理を終了する。
【0121】
以上説明したように、本実施形態によれば、押付け動作ではトルクリップル低減制御を行い、それ以外の動作では最大トルク制御を行うように切り替えている。より具体的には、モータの進角量を、最大トルク制御用の値とトルクリップル低減制御用の値とに切り替えている。これにより、押付け動作に至るまでは最大トルクを達成しつつ、押付け動作時におけるトルクリップルを低減することができる。したがって、押付け動作時におけるトルクリップルの下限値が増大するので最低押付け力の低下を抑制することができる。
【0122】
[第2の実施形態]
上記第1の実施形態では、PP値を用いて進角量θを設定する形態について説明したが、第2の実施形態では、PP値及びトルクの平均値を用いて進角量θを設定する形態について説明する。
【0123】
図14(A)~
図14(C)は、第2の実施形態に係るトルクと進角量θとの対応関係の一例を示すグラフである。縦軸はトルクを示し、横軸は進角量を示す。
【0124】
図14(A)は、押付け100%時のトルクの場合の例であり、
図14(B)は、押付け75%時のトルクの場合の例であり、
図14(C)は、押付け50%時のトルクの場合の例である。なお、ここでいう「%」は、定格電流値に対する電流指令値Ic(トルク電流指令値)の比を示している。例えば、「押付け100%時」とは、定格電流値に対して押付け時の電流指令値Ic(トルク電流指令値)が100%、つまり、1:1であることを意味する。
【0125】
図14(A)~
図14(C)の例では、押付け時の電流指令値Ic(トルク電流指令値)を100%、75%、50%の3段階とした場合に、トルクの最大値V1、平均値V2、最小値V3、及びPP値V4の各々と、進角量θとの対応関係を示している。ここでは、進角量θを、0、a1、a2、a3、a4、a5の所定の刻み(例えば、5度刻み)で表している。
【0126】
進角量θが0[度]~a2[度]の比較的小さい場合、PP値V4が大きく、平均値V2が小さい。進角量θをa3[度]、a4[度]と大きくすると、PP値V4が小さくなり、平均値V2が大きくなる。進角量θをa5[度]まで大きくすると、PP値V4が大きくなり、平均値V2が小さくなる。例えば、
図14(A)に示す押付け100%時のトルクの場合、PP値V4が最小となるときの進角量θはa4[度]となる。一方、進角量θがa4[度]のときに、トルクの平均値V2が最大となる。
【0127】
ここで、トルクリップルを低減する場合に、PP値V4が比較的小さいときの進角量θを設定すればよい。一方、トルクの平均値V2が小さいと、移動体27の移動に必要な推力を得られない場合がある。このため、進角量θは、PP値V4が比較的小さく、かつ、トルクの平均値V2が出来るだけ大きいときの値にすることが望ましい。
【0128】
そこで、本実施形態では、トルクリップルを低減するための進角量θを、電流指令値Icに対するトルクのPP値V4が所定値以下であり、かつ、電流指令値Icに対するトルクの平均値V2が最大値であるときの値とする。なお、平均値V2の最大値とは、電流指令値Icに対するトルクのPP値V4が所定値以下となる範囲内で最大となる値を意味する。また、PP値V4に対する所定値は、上述したように、例えば、PP値V4の最小値よりも大きく、PP値V4の平均値を超えない範囲で適切な値が設定される。これにより、移動体27の移動に必要な推力を維持しつつ、トルクリップルを低減することができる。
【0129】
以上説明したように、本実施形態によれば、トルクのPP値、トルクの平均値を考慮することで、移動体の移動に必要な推力を維持しつつ、トルクリップルを低減可能な進角量を設定することができる。
【0130】
また、突極性を有するモータとして、PM型ステッピングモータなどの永久磁石型のステッピングモータを採用した場合、モータの小型化を図ることが可能となり、アクチュエータ全体の小型化を図ることができる。しかしながら、一般に、モータが小型化するほど、発生トルクが小さくなり、トルクリップルの影響が相対的に大きくなる。押付け動作時にトルクリップルの下限側では推力が低下して、移動体の動作に必要な推力を得られなくなり動作が停止するおそれがある。この場合であっても、本実施形態によれば、押付け動作ではトルクリップルの影響を低減することでトルクリップルの下限側の底上げを可能としつつ、押付け動作以外では、永久磁石型のステッピングモータなど、突極性を有するモータにおけるリラクタンストルクを有効利用する最大トルク制御を行うことで発生トルクを増大させることが可能となる。したがって、モータの小型化、それに伴うアクチュエータの小型化を図っても押付け動作を行うアクチュエータとしての性能の低下を抑制することができる。
【0131】
以上、各実施形態に係るモータ制御装置を例示して説明した。実施形態は、モータ制御装置の機能をコンピュータに実行させるためのプログラムの形態としてもよい。実施形態は、これらのプログラムを記憶したコンピュータが読み取り可能な非一時的記憶媒体の形態としてもよい。
【0132】
その他、上記実施形態で説明したモータ制御装置の構成は、一例であり、主旨を逸脱しない範囲内において状況に応じて変更してもよい。
【0133】
また、上記実施形態で説明したプログラムの処理の流れも、一例であり、主旨を逸脱しない範囲内において不要なステップを削除したり、新たなステップを追加したり、処理順序を入れ替えたりしてもよい。
【0134】
また、上記実施形態では、プログラムを実行することにより、実施形態に係る処理がコンピュータを利用してソフトウェア構成により実現される場合について説明したが、これに限らない。実施形態は、例えば、ハードウェア構成や、ハードウェア構成とソフトウェア構成との組み合わせによって実現してもよい。
【符号の説明】
【0135】
10 モータ制御装置
11 CPU
11A 第1の生成部
11B 第2の生成部
11C 第3の生成部
12 ROM
13 RAM
14 I/O
15 記憶部
16 接続部
20 アクチュエータ
21 エンコーダ
22 モータ
23 出力シャフト
24 カップリング
25 すべりねじ軸
26 すべりねじナット
27 移動体
30 ワーク