(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091555
(43)【公開日】2023-06-30
(54)【発明の名称】石英ガラスルツボの製造方法および石英ガラスルツボ
(51)【国際特許分類】
C03B 20/00 20060101AFI20230623BHJP
【FI】
C03B20/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021206358
(22)【出願日】2021-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】522503458
【氏名又は名称】モメンティブ・テクノロジーズ・山形株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100082946
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 昭広
(74)【代理人】
【識別番号】100195693
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 玲
(72)【発明者】
【氏名】山川 敬士
【テーマコード(参考)】
4G014
【Fターム(参考)】
4G014AH00
(57)【要約】
【課題】石英ガラスルツボの内表面に無気泡層を形成する石英ガラスルツボの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明にかかる石英ガラスルツボの製造方法においては、第1の回転数で回転するルツボ成型用型内に原料粉末を供給することにより、内面側に透明層(内層)を有しかつ外表側に不透明層(外層)を有する石英ガラスルツボを製造する。具体的には、口元側が他の領域よりも肉厚となるようにルツボ成型用型内に原料粉末を積層することにより原料粉末積層体を得る成型工程(S1,S2)と、加熱により原料粉末積層体をガラス化した後に、原料粉末積層体の形状を保持することが可能な第1の回転数を、肉厚の形状に形成された口元側のガラスを粘性流動により重力方向に流すことが可能な第2の回転数まで、段階的に低下させる溶融工程(S3,S4)と、を実行することにより石英ガラスルツボを製造する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の回転数で回転するルツボ成型用型内に原料粉末を供給することにより、内面側に透明層(内層)を有しかつ外表側に不透明層(外層)を有する石英ガラスルツボを製造する石英ガラスルツボの製造方法において、
口元側が他の領域よりも肉厚となるように前記ルツボ成型用型内に原料粉末を積層することにより、原料粉末積層体を得る成型工程と、
加熱により前記原料粉末積層体をガラス化した後に、前記原料粉末積層体の形状を保持することが可能な前記第1の回転数を、肉厚の形状に形成された口元側のガラスを粘性流動により重力方向に流すことが可能な第2の回転数まで、段階的に低下させる溶融工程と、
を含む、
ことを特徴とする石英ガラスルツボの製造方法。
【請求項2】
前記成型工程においては、前記原料粉末積層体のストレート部口元側から上部50%の範囲である第1の領域に、内層原料粉末総重量の40%~60%を吹き付けて堆積させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の石英ガラスルツボの製造方法。
【請求項3】
前記成型工程においては、さらに、シリコン単結晶インゴット投影領域を中心とする前記原料粉末積層体の底部内表面である第2の領域に、内層原料粉末総重量の10%~20%を吹き付けて堆積させる、
ことを特徴とする請求項2に記載の石英ガラスルツボの製造方法。
【請求項4】
前記第1の領域および前記第2の領域に堆積させる内層原料粉末の平均粒径を、150μm以下でかつ前記第1の領域および前記第2の領域以外の領域に堆積させる内層原料粉末の平均粒径以下とする、
ことを特徴とする請求項3に記載の石英ガラスルツボの製造方法。
【請求項5】
内面側に合成石英ガラスにより形成された透明層(内層)を有し、外表側に天然石英ガラスにより形成された不透明層(外層)を有する石英ガラスルツボにおいて、
口元側からストレート部、コーナー部および底部の順に構成され、
前記コーナー部の頂点から前記ストレート部の口元までの範囲には、内表面から0.4mmまでの深さ領域に第1の無気泡層を有し、さらに、内表面から0.4mmを超える深さ領域においては気泡径が15μm以上30μm以下でかつ気泡密度が0.2(pcs/mm3)以下であり、
前記底部内のシリコン単結晶インゴット投影領域には、内表面から0.2mmまでの深さ領域に第2の無気泡層を有し、さらに、内表面から0.2mmを超える領域においては気泡径が15μm以上30μm以下でかつ気泡密度が0.2(pcs/mm3)以下であり、
前記第1の無気泡層と前記第2の無気泡層に挟まれた領域には、内表面から0.2mm~0.4mmの深さ領域に第3の無気泡層を有する、
ことを特徴とする石英ガラスルツボ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶インゴットの引き上げに使用される石英ガラスルツボの製造方法、およびこの製造方法により製造された石英ガラスルツボ、に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶の育成に関し、チョクラルスキー法(CZ法)が広く用いられている。この方法は、石英ガラスルツボ(以下、単に「ルツボ」と呼ぶ場合がある。)内に形成されたシリコン融液の表面に種結晶を接触させ、ルツボを回転させるとともに、この種結晶を反対方向に回転させながら上方へ引き上げることによって、種結晶の下端に単結晶を形成していくものである。
【0003】
このシリコン融液を収容するための石英ガラスルツボには、内面側に高純度の合成石英ガラスにより形成された透明層を有し、外表側に熱性に優れた天然石英ガラスにより形成された不透明層を有する、2層構造の石英ガラスルツボが用いられるのが一般的である。
【0004】
このような石英ガラスルツボの製造方法の一例として、回転モールド法が知られている。回転モールド法では、まず、回転するルツボ成型用モールドの内表面に天然石英ガラスの原料粉末を積層し、さらにこの原料粉末層の表面に合成石英ガラスの原料粉末を積層し、原料粉末積層体を形成する。つぎに、アーク放電でこの原料粉末積層体を内側から外側へ加熱溶融し、その後、冷却することにより、内面側に合成石英ガラス層(透明層)が形成され、外表側に天然石英ガラス層(不透明層)が形成された、2層構造の石英ガラスルツボが得られる(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1によれば、内面側には極小の気泡だけの実質的に無気泡の透明層が形成され、外表側には多数の気泡が存在する不透明層が形成された、2層構造の石英ガラスルツボが製造されること、が記載されている。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載の製造方法においては、原料粉末をガラス化する際に内包される内面側の気泡を抑制することはできているが、内面側に完全な無気泡層を形成することはできていない。すなわち、原料をアーク熱源によりガラス化させる際には、原料粒子内および粒子間空隙より由来する気泡が内包される。そして、石英ガラスルツボの内表面近傍の気泡は、シリコン単結晶インゴット引き上げの際にエアポケットの要因となり得る。
【0008】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであって、石英ガラスルツボの内表面に所定の厚さの無気泡層を形成する石英ガラスルツボの製造方法、およびこの製造方法により製造された石英ガラスルツボ、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる石英ガラスルツボの製造方法は、第1の回転数で回転するルツボ成型用型内に原料粉末を供給することにより、内面側に透明層(内層)を有しかつ外表側に不透明層(外層)を有する石英ガラスルツボを製造する石英ガラスルツボの製造方法であって、口元側が他の領域よりも肉厚となるように前記ルツボ成型用型内に原料粉末を積層することにより、原料粉末積層体を得る成型工程と、加熱により前記原料粉末積層体をガラス化した後に、前記原料粉末積層体の形状を保持することが可能な前記第1の回転数を、肉厚の形状に形成された口元側のガラスを粘性流動により重力方向に流すことが可能な第2の回転数まで、段階的に低下させる溶融工程と、を含む、ことを特徴とする。
【0010】
上記製造方法により製造された石英ガラスルツボの透明層において、コーナー部の頂点からストレート部の口元までの範囲の領域は、口元側からのガラスの粘性流動によって気泡が潰され、内表面から0.4mmまでの深さ領域に第1の無気泡層が形成される。また、上記透明層において、シリコン単結晶インゴット投影領域内は、ストレート部から回り込む少量のガラスの粘性流動によって気泡が潰され、内表面から0.2mmまでの深さ領域に第2の無気泡層が形成される。また、上記透明層において、第1の無気泡層と第2の無気泡層に挟まれた領域については、内表面から0.2mm~0.4mmの深さ領域に第3の無気泡層が形成される。
【0011】
すなわち、本発明にかかる石英ガラスルツボの製造方法によれば、石英ガラスルツボの内層中に残存する気泡を大幅に低減することができる。
【0012】
また、本発明にかかる石英ガラスルツボの製造方法において、成型工程では、前記原料粉末積層体のストレート部口元側から上部50%の範囲である第1の領域に、内層原料粉末総重量の40%~60%を吹き付けて堆積させることが望ましい。
【0013】
また、本発明にかかる石英ガラスルツボの製造方法において、成型工程では、さらに、シリコン単結晶インゴット投影領域を中心とする前記原料粉末積層体の底部内表面である第2の領域に、内層原料粉末総重量の10%~20%を吹き付けて堆積させることが望ましい。
【0014】
また、本発明にかかる石英ガラスルツボの製造方法においては、前記第1の領域および前記第2の領域に堆積させる内層原料粉末の平均粒径を、150μm以下でかつ前記第1の領域および前記第2の領域以外の領域に堆積させる内層原料粉末の平均粒径以下とすること、が望ましい。
【0015】
また、本発明にかかる石英ガラスルツボは、内面側に合成石英ガラスにより形成された透明層(内層)を有し、外表側に天然石英ガラスにより形成された不透明層(外層)を有する石英ガラスルツボであって、口元側からストレート部、コーナー部および底部の順に構成される。また、前記コーナー部の頂点から前記ストレート部の口元までの範囲には、内表面から0.4mmまでの深さ領域に第1の無気泡層を有し、さらに、内表面から0.4mmを超える深さ領域においては気泡径が15μm以上30μm以下でかつ気泡密度が0.2(pcs/mm3)以下である。また、前記底部内のシリコン単結晶インゴット投影領域には、内表面から0.2mmまでの深さ領域に第2の無気泡層を有し、さらに、内表面から0.2mmを超える領域においては気泡径が15μm以上30μm以下でかつ気泡密度が0.2(pcs/mm3)以下である。また、前記第1の無気泡層と前記第2の無気泡層に挟まれた領域には、内表面から0.2mm~0.4mmの深さ領域に第3の無気泡層を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかる石英ガラスルツボの製造方法によれば、石英ガラスルツボの内表面に所定の厚さの無気泡層を形成することができる。したがって、シリコン単結晶引き上げの際のエアポケットを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明にかかる石英ガラスルツボの製造方法に用いられる石英ガラスルツボ製造装置の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、本発明にかかる石英ガラスルツボの製造方法に用いられる石英ガラスルツボ製造装置の一例を示す概略図である。
【
図3】
図3は、本発明にかかる石英ガラスルツボの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、本発明にかかる石英ガラスルツボの製造方法における溶融手順を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明にかかる石英ガラスルツボの製造方法により製造された石英ガラスルツボの一例を示すである。
【
図7】
図7は、気泡密度の比較結果を示す図である。
【
図9】
図9は、気泡が存在する内表面の深さの比較結果を示す図である。
【
図10】
図10は、気泡が存在する内表面の深さの比較結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明にかかる石英ガラスルツボの製造方法および石英ガラスルツボの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0019】
<ルツボ製造装置>
図1は、本発明にかかる石英ガラスルツボの製造方法に用いられる石英ガラスルツボ製造装置の一例を示す概略図であり、特に、原料粉末積層体を形成するための構成を示す。本実施形態の石英ガラスルツボ製造装置1は、一例として、回転モールド法により、内面側に高純度の合成石英ガラスにより形成された透明層(内層)を有し、外表側に熱性に優れた天然石英ガラスにより形成された不透明層(外層)を有する、2層構造の石英ガラスルツボを製造する。
【0020】
図1において、石英ガラスルツボ製造装置1のルツボ成形用型2は、たとえば、複数の貫通孔(図示せず)を穿設した金型で構成されている内側部材3と、その外周に通気部4を設けて内側部材3を保持する保持体5とから構成されている。
【0021】
また、保持体5の下部には、図示しない回転駆動源と連結された回転軸6が固着され、ルツボ成形用型2を回転可能に支持している。通気部4は、保持体5の下部に設けられた開口部7を介して、回転軸6の中央に設けられた排気口8と連結され、この通気部4は、減圧機構9と連結されている。本実施形態の石英ガラスルツボ製造装置1は、上記減圧機構9を稼動させることにより、内側部材3内部の雰囲気を内周面から吸引するように構成されている。
【0022】
また、本実施形態の石英ガラスルツボ製造装置1は、石英ガラス原料粉末を内側部材3の内部に供給するための石英ガラス原料粉末供給機構10を備える。この石英ガラス原料粉末供給機構10は、石英ガラス原料粉末を吹き付けるノズル11と、石英ガラス原料粉末が収容された原料カートリッジ12と、ノズル11と原料カートリッジ12とを接続する原料粉末供給用ホース13と、を備える。また、ノズル11には、キャリアガスを供給するためのキャリアガス供給用ホース14が取り付けられている。
【0023】
ノズル11、原料粉末供給用ホース13、キャリアガス供給用ホース14は、水平移動台15上に取り付けられ、
図1に矢印Xで示すように、水平移動台15は、基体16に対して水平移動可能に構成されている。また、ノズル11は、
図1に矢印Zで示すように、回動可能に構成され、内側部材3に対する吹き付け角度を調整できるように構成されている。
【0024】
また、原料カートリッジ12の支持部12aは、垂直移動台18に取り付けられている。また、この垂直移動台18は、保持体5の外周面に固定された基体17に対して、
図1に矢印Yで示すように、垂直移動可能(内側部材3の軸線方向に移動可能)に構成されている。
【0025】
したがって、ノズル11は、内側部材3の径方向および内側部材3の軸線方向(垂直方向)に移動可能に構成されるとともに、内側部材3に対する吹き付け角度の調整のために回動可能に構成されている。
【0026】
ここで、原料カートリッジ12に収容可能な石英ガラス原料粉末としては、たとえば、天然石英ガラス原料粉末、および合成石英ガラスの精製粉末または仮焼粉末のいずれか(合成石英ガラス原料粉末)、が用いられる。これらの石英ガラス原料粉末の粒径は、5μm~500μmの範囲にあるものが好ましい。なお、石英ガラスルツボの外層および内層には同一の原料粉末を用いてもよいが、たとえば、天然石英ガラス原料粉末を用いてルツボの外層を形成し、合成石英ガラス原料粉末を用いてルツボの内層を形成する等、内層と外装で異なる石英ガラス原料粉末を用いることとしてもよい。さらに、各層において、異なる元素を含有する石英ガラス原料粉末を用いてもよい。
【0027】
また、石英ガラス原料粉末に有機バインダーが添加されていてもよい。有機バインダーとしては、種々の有機材料を用いることができる。たとえば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース等が挙げられる。また、噴霧および定着性に加えて、溶融ガラス内への炭素分等残留物および取り扱いの簡易性を考慮すると、エタノールまたは純水の使用も好ましい。
【0028】
また、ノズルに供給されるキャリアガスは、空気、窒素、酸素、アルゴン等のガスが用いられる。キャリアガスを用いることにより、内側部材3、または既に吹き付けられた石英ガラス原料粉末の層に、石英ガラス原料粉末を吹き付けることができる。また、キャリアガスを用いて石英ガラス原料粉末の吹き付けを行うことにより、より緻密な原料粉末積層体を得ることができる。なお、供給されるキャリアガスの流速は、0.5~6.5m/sであることが望ましい。
【0029】
また、減圧機構9を稼動させることにより、内側部材3内部の雰囲気を吸引し、内側部材3の内表面を1~101.3kPaの圧力にする。このような圧力環境下において、石英ガラス原料粉末の吹き付けを実行した場合には、さらに緻密な原料粉末積層体を得ることができる。
【0030】
本実施形態において、原料粉末積層体は、非加熱かつ非溶融環境下で、回転するルツボ成形用型2の内側部材3の内表面に、石英ガラス原料粉末を吹付けることにより形成する。
【0031】
また、
図2は、本発明にかかる石英ガラスルツボの製造方法に用いられる石英ガラスルツボ製造装置の一例を示す概略図であり、特に、加熱溶融部の構成を示したものである。本実施形態の石英ガラスルツボ製造装置1には、
図2に示すように、石英ガラス原料粉末供給機構10によって形成された原料粉末積層体を加熱溶融する加熱溶融部20が設けられている。この加熱溶融部20には、内側部材3に対向する上部に、アーク放電用のアーク電極21と、空気、窒素、酸素、アルゴン等のガスを噴射してルツボの所定部位に吹き付けるノズル22が、設けられている。
【0032】
<ルツボの製造方法>
つづいて、本実施形態における石英ガラスルツボの製造方法を詳細に説明する。
図3は、本実施形態における石英ガラスルツボの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【0033】
まず、石英ガラスルツボ製造装置1の回転駆動源(図示せず)を稼動させて回転軸6を矢印の方向(
図1および
図2参照)に回転させることによってルツボ成形用型2を所定の速度(第1の回転数)で回転させる。また、減圧機構9を稼動させることにより、内側部材3内部の雰囲気を吸引し、内側部材3の内表面を1~101.3kPaの圧力にする。
【0034】
そして、非加熱かつ非溶融環境下で、ノズル11から内側部材3に対して、石英ガラス原料粉末を吹き付けることにより、原料粉末積層体を形成する。上記のように回転させたルツボ成形用型2内に石英ガラス原料粉末を吹き付ける際には、たとえば、初めに粗粒の天然石英ガラス原料粉末を吹き付け(ステップS1)、その後、その表面に微粒の合成石英ガラス原料粉末を吹き付ける(ステップS2)。
【0035】
具体的には、初めにルツボ成形用型2内に吹き付けられた天然石英ガラス原料粉末は、回転駆動源による遠心力および減圧機構9による吸引力の押圧によって、ルツボ成形用型2の内側部材3の内表面に積層される。これにより、天然石英ガラス原料粉末層(外層)が形成される(ステップS1)。
【0036】
その後、天然石英ガラス原料粉末に続いて、合成石英ガラス原料粉末がルツボ成形用型2内に吹き付けられ、この合成石英ガラス原料粉末は、上記回転駆動源による遠心力および減圧機構9による吸引力の押圧によって、天然石英ガラス原料粉末層の内表面に積層される(ステップS2)。
【0037】
図4は、本実施形態の製造方法により得られる原料粉末積層体の断面図であり、特に、天然石英ガラス原料粉末層(外層)の内表面に形成された合成石英ガラス原料粉末層(内層)の形状を示す。
【0038】
本実施形態においては、合成石英ガラス原料粉末層30a(内層)を形成する際、たとえば、内層口元側が他の領域よりも肉厚(厚め)となるように合成石英ガラス原料粉末を積層する。具体的には、
図4に示すように、原料粉末積層体ストレート部口元側から上部50%(内表面の上半分)の範囲の、天然石英ガラス原料粉末層30b(外層)の内表面の領域に、合成石英ガラス原料粉末の総重量の40%~60%を割り当てる。この内層口元側の積層領域を第1の肉厚領域と呼ぶ(
図4参照)。
【0039】
さらに、合成石英ガラス原料粉末層30a(内層)を形成する際、たとえば、内層底部側の内表面についても肉厚(<第1の肉厚領域の厚み)となるように合成石英ガラス原料粉末を積層する。具体的には、
図4に示すように、原料粉末積層体のシリコン単結晶インゴット投影領域を中心とする天然石英ガラス原料粉末層30b(外層)の底部側内表面の領域に、合成石英ガラス原料粉末の総重量の10%~20%を割り当てる。この内層底部側の積層領域を第2の肉厚領域と呼ぶ(
図4参照)。合成石英ガラス原料粉末を内層底部側に厚めに積層させた理由については後述する。
【0040】
なお、天然石英ガラス原料粉末層30b(外層)の内表面の上記第1の肉厚領域および上記第2の肉厚領域以外の領域には、上記割り当て分以外の残りの合成石英ガラス原料粉末が均一の厚さになるように積層される。この積層領域を均一厚さ領域と呼ぶ(
図4参照)。
【0041】
そして、本実施形態においては、上記割合で割り当てた合成石英ガラス原料粉末を、天然石英ガラス原料粉末層30b(外層)の内表面の各領域(第1の肉厚領域、第2の肉厚領域、均一厚さ領域)に吹き付けることによって、堆積させる。これにより、
図4に示す形状の合成石英ガラス原料粉末層30a(内層)が形成され、口元側および底部側に所定の厚みを有する原料粉末積層体30が得られる(ステップS2)。
【0042】
その後、
図2に示すように、大気雰囲気で、減圧機構9による減圧およびルツボ成形用型2の回転数(第1の回転数)を維持した状態で、アーク電極21に通電して原料粉末積層体30を内側から加熱する。
【0043】
図5は、本実施形態の製造方法における溶融手順を示す図である。本実施形態においては、アーク電極21に対する通電開始により原料粉末積層体30を内側から加熱溶融し、まず表層をガラス化する(合成シリカガラス層40aが形成される)。その後も減圧機構9による減圧、ルツボ成形用型2の回転(第1の回転数による回転)、およびアーク電極21による加熱溶融を継続し、原料粉末積層体30を外表側までガラス化する(天然シリカガラス層40bが形成される)。なお、上記第1の回転数は、
図4に示す原料粉末積層体30の形状、すなわち、合成石英ガラス原料粉末層30aの形状(第1の肉厚領域、第2の肉厚領域および均一厚さ領域)を保持することが可能な回転数(rpm)であり、アーク電極21に対する通電開始から5分以上継続することが望ましい。すなわち、上記合成シリカガラス層40aは、第1の回転数による強い遠心力(側面方向に張り付く力)によって、重力による粘性流動を起こすことなく、
図5(a)に示すように、合成石英ガラス原料粉末層30aの形状(第1の肉厚領域、第2の肉厚領域および均一厚さ領域)を保持した状態で形成される(ステップS3)。
【0044】
そして、上記のようにガラス化した後、減圧機構9による減圧およびアーク電極21による加熱溶融を継続した状態で、回転駆動源(図示せず)を制御し、ルツボ成形用型2の回転数(第1の回転数)を、40rpm~100rpmの範囲内でかつ10rpm以上の落差を設けて、段階的に第2の回転数(<第1の回転数)まで低下させる。第2の回転数は、40rpm~60rpmの範囲内で、かつ加熱溶融を終了するまで5分以上にわたり継続することが望ましい。なお、上記第2の回転数は、
図5(a)に示す第1の肉厚領域の形状、すなわち、合成シリカガラス層40aの形状(第1の肉厚領域、第2の肉厚領域および均一厚さ領域)をガラスの粘性流動により崩すことが可能な回転数である。すなわち、上記合成シリカガラス層40aの第1の肉厚領域のガラスは、第1の回転数から第2の回転数への回転数の低下により弱くなった遠心力の影響(相対的に大きくなった重力の影響)で重力方向に粘性流動を起こし、これにより、ストレート部の層厚が均一となる合成シリカガラス層40c、または、ストレート部の層厚が口元側に向かって薄くなる合成シリカガラス層40c、が形成され(
図5(b)参照)、さらに、第2の回転数でのルツボ成形用型2の回転により、この合成シリカガラス層40cの形状は保持される(ステップS4)。
【0045】
なお、上記のように形成された合成シリカガラス層40cの形状については、「ストレート部の層厚が均一の形状」および「ストレート部の層厚が口元側に向かって薄くなる形状」が好ましく、「ストレート部の層厚が口元側に向かって薄くなる形状」がより好ましい。口元の層厚がその他の層厚よりも厚いと、上部が重くなり倒れこみ等の変形リスクが高まるためである。
【0046】
また、前述した吹き付けの工程において、
図4に示す原料粉末積層体のシリコン単結晶インゴット投影領域を中心とする天然石英ガラス原料粉末層30b(外層)の底部側内表面に、合成石英ガラス原料粉末の総重量の10%~20%を吹き付けて、合成石英ガラス原料粉末を堆積させることとしたが、その理由は、ガラス化後、粘性流動により下方に流れたガラスが底部中心まで均一に流れないことから(底部中心まで流れるガラスは少量であるため)、底部が他の部分よりも薄くなることを回避するためである。すなわち、底部に予め合成石英ガラス原料粉末を多めに堆積させておくことにより、他の部分と同等の厚みを確保する。
【0047】
そして、
図5(b)に示す合成シリカガラス層40cが形成された後、アーク電極21による加熱溶融を終了する。これにより、
図5(b)に示すように、内層として合成シリカガラス層(透明層)40cを有し、外層として天然シリカガラス層(不透明層)40bを有する、2層構造のルツボ成型体40が得られる(ステップS4)。
【0048】
最後に、窒素ガスまたはヘリウムガスを噴射してルツボ成型体40を冷却し、冷却後、ルツボ成型体40の上端部を切断することによって、石英ガラスルツボが得られる(ステップS5)。
【0049】
図6は、本実施形態における石英ガラスルツボの製造方法により製造された石英ガラスルツボの一例を示すである。本実施形態の石英ガラスルツボ50は、内面側に高純度の合成石英ガラスにより形成された透明層(内層)50aを有し、外表側に熱性に優れた天然石英ガラスにより形成された不透明層(外層)50bを有する、2層構造である。
【0050】
また、本実施形態の石英ガラスルツボ50は、口元側からストレート部、コーナー部および底部の順に構成され、さらに、透明層(内層)50aには、粘性流動により流れ落ちた上記第1の肉厚領域のガラスと上記第2の肉厚領域のガラスが重なり合う重複層を有する。この重複層は、コーナー部の頂点からシリコン単結晶インゴット投影領域までの範囲内に形成される。
【0051】
また、本実施形態の石英ガラスルツボ50の透明層(内層)50aにおいて、コーナー部の頂点からストレート部の口元までの範囲の領域は、口元側からのガラスの粘性流動によって気泡が潰され、内表面から0.4mmまでの深さ領域に無気泡層(第1の無気泡層)が形成される。さらに、内表面から0.4mmを超える深さ領域においては気泡径が15μm以上30μm以下でかつ気泡密度が0.2(pcs/mm3)以下である。
【0052】
また、本実施形態の石英ガラスルツボ50の透明層(内層)50aにおいて、シリコン単結晶インゴット投影領域内は、ストレート部から回り込む少量のガラスの粘性流動によって気泡が潰され、内表面から0.2mmまでの深さ領域に無気泡層(第2の無気泡層)が形成される。さらに、内表面から0.2mmを超える領域においては気泡径が15μm以上30μm以下でかつ気泡密度が0.2(pcs/mm3)以下である。
【0053】
また、本実施形態の石英ガラスルツボ50の透明層(内層)50aにおいて、第1の無気泡層と第2の無気泡層に挟まれた重複層については、内表面から0.2mm~0.4mmの深さ領域に無気泡層(第3の無気泡層)が形成される。
【0054】
なお、本実施形態の製造方法においては、内層の石英ガラス原料粉末(内層原料)として合成石英ガラス原料粉末を使用しているが、これに限るものではない。たとえば、第1の肉厚領域や第2の肉厚領域に堆積させる内層原料は、合成石英ガラス原料粉末または天然石英ガラス原料粉末のいずれであってもよいが、より低粘性である合成石英ガラス原料粉末を堆積させることが好ましい。また、上記第1の肉厚領域および第2の肉厚領域に堆積させる内層原料の平均粒径は、150μm以下でかつ上記各肉厚領域以外の領域に堆積させる内層原料の平均粒径以下であることが好ましい。
【0055】
<効果>
このように、本実施形態の石英ガラスルツボの製造方法においては、第1の回転数で回転するルツボ成型用型2内に原料粉末を供給することにより、内面側に透明層(内層)を有しかつ外表側に不透明層(外層)を有する2層構造の石英ガラスルツボ50を製造する。具体的には、口元側が他の領域よりも肉厚となるようにルツボ成型用型2内に原料粉末を積層することにより原料粉末積層体30を得る。そして、加熱により原料粉末積層体30をガラス化した後に、原料粉末積層体30の形状を保持することが可能な第1の回転数を、肉厚の形状に形成された口元側のガラスを粘性流動により重力方向に流すことが可能な第2の回転数まで、段階的に低下させることにより、
図6に示す石英ガラスルツボ50を製造する。
【0056】
上記のように製造された石英ガラスルツボ50の透明層50aにおいて、コーナー部の頂点からストレート部の口元までの範囲の領域は、口元側からのガラスの粘性流動によって気泡が潰され、内表面から0.4mmまでの深さ領域に第1の無気泡層が形成される。さらに、内表面から0.4mmを超える深さ領域においては気泡径が15μm以上30μm以下でかつ気泡密度が0.2(pcs/mm3)以下である。
【0057】
また、上記透明層50aにおいて、シリコン単結晶インゴット投影領域内は、ストレート部から回り込む少量のガラスの粘性流動によって気泡が潰され、内表面から0.2mmまでの深さ領域に第2の無気泡層が形成される。さらに、内表面から0.2mmを超える領域においては気泡径が15μm以上30μm以下でかつ気泡密度が0.2(pcs/mm3)以下である。また、上記透明層50aにおいて、第1の無気泡層と第2の無気泡層に挟まれた重複層については、内表面から0.2mm~0.4mmの深さ領域に第3の無気泡層が形成される。
【0058】
すなわち、本実施形態の石英ガラスルツボの製造方法によれば、製造された石英ガラスルツボの内層中に残存する気泡を大幅に低減することができる。
【0059】
また、加熱溶融する過程において、ルツボの内表面を粘性流動するガラスで覆うことによって、アーク溶融初期の汚染(未燃焼の炭素電極粉塵付着など)の露出を低減する効果も期待できる。
【実施例0060】
つづいて、本発明にかかる石英ガラスルツボの製造方法により製造された石英ガラスルツボの実施例について説明する。なお、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
【0061】
<実施例1>
図1に示した石英ガラスルツボ製造装置1を用いて、ルツボ成形用型2を回転数70rpmで回転させつつ、減圧機構9を稼動させることにより、内側部材3内部の雰囲気を吸引し、内側部材3の内表面を80kPaの圧力にした。
【0062】
その後、ノズル11から内側部材3の内表面に対して、総重量80Kgの天然石英ガラス原料粉末(平均粒径180μm)を吹き付けた。天然石英ガラス原料粉末は、回転駆動源による遠心力および減圧機構9による吸引力の押圧によって積層され、これにより、ルツボ成形用型2の内側部材3の内表面に天然石英ガラス原料粉末層(外層)を形成した。なお、このときのキャリアガスの流速は2.8m/sとした。
【0063】
その後、上記同様の環境下で、総重量12Kgの合成石英ガラス原料粉末(平均粒径150μm)を天然石英ガラス原料粉末層(外層)の内表面に吹き付けた。その際、天然石英ガラス原料粉末層の内表面の口元側上部50%の領域(内表面の上半分)に、合成石英ガラス原料粉末の総重量の45%(5.4Kg)を吹き付けて、この領域に厚みを持たせた。また、シリコン単結晶インゴット投影領域を中心とする天然石英ガラス原料粉末層の底部側内表面の領域に、合成石英ガラス原料粉末の総重量の15%(1.8Kg)を吹き付けて、この領域にも厚みを持たせた。吹き付けの手順としては、まず、上記合成石英ガラス原料粉末(45%+15%)を除いた4.8Kgの合成石英ガラス原料粉末を天然石英ガラス原料粉末層の内表面全体に均一の厚さで吹き付け、その後、上記5.4Kgおよび1.8Kgの合成石英ガラス原料粉末を上記各領域に吹き付けた。これにより、上記天然石英ガラス原料粉末層の内表面に、
図4に示す形状の合成石英ガラス原料粉末層(内層)を形成した。なお、このときのキャリアガスの流速も2.8m/sとした。
【0064】
その結果、ルツボ成形用型2の内部に、口元および底部に所定の厚みを有する原料粉末積層体を得た。
【0065】
その後、減圧機構9による減圧およびルツボ成形用型2の回転数70rpmを維持し、SiO
2の溶融温度(推定2000℃)を得る条件下で、アーク電極21に通電して上記原料粉末積層体を内側から10分間にわたり加熱し、ガラス化することにより、
図5(a)に示す形状の合成シリカガラス層(内層)および天然シリカガラス層(外層)を形成した。
【0066】
そして、上記のようにガラス化した後、減圧機構9による減圧およびアーク電極21による加熱溶融を継続した状態で、ルツボ成形用型2の回転数を50rpmまで低下させ、粘性流動により
図5(b)に示す形状の合成シリカガラス層(内層)を形成し、アーク電極21による加熱を終了した。ルツボ成形用型2の回転数を50rpmまで低下させてからアーク電極21による加熱を終了するまでの時間を20分間とした。最後に、所定の冷却処理および切断処理を行い、実施例1の石英ガラスルツボを得た。
【0067】
<比較例1>
上記実施例1同様、
図1に示した石英ガラスルツボ製造装置1を用いて、ルツボ成形用型2を回転数70rpmで回転させつつ、減圧機構9を稼動させることにより、内側部材3内部の雰囲気を吸引し、内側部材3の内表面を80kPaの圧力にした。
【0068】
その後、実施例1と同一条件で、ルツボ成形用型2の内側部材3の内表面に天然石英ガラス原料粉末層(外層)を形成した。そして、上記と同一条件(回転数、圧力およびキャリアガス流速等)で、総重量12Kgの合成石英ガラス原料粉末(平均粒径150μm)を天然石英ガラス原料粉末層(外層)の内表面に吹き付けた。合成石英ガラス原料粉末は、回転駆動源による遠心力および減圧機構9による吸引力の押圧によって積層され、これにより、天然石英ガラス原料粉末層の内表面に合成石英ガラス原料粉末層(内層)を形成した。
【0069】
その結果、ルツボ成形用型2の内部に、全体としてルツボ形状の2層構造の原料粉末積層体を得た。
【0070】
その後、減圧機構9による減圧およびルツボ成形用型2の回転数(70rpm)を維持し、SiO2の溶融温度(推定2000℃)を得る条件下で、アーク電極21に通電して上記原料粉末積層体を内側から加熱する。そして、上記原料粉末積層体を内側から順次溶融してガラス化し、所定の冷却処理および切断処理を行い、比較例1の石英ガラスルツボを得た。
【0071】
<結果>
図7は、気泡密度の比較結果を示す図である。実施例1と比較例1の石英ガラスルツボの気泡密度(psc/mm
3)を比較した結果、比較例1の石英ガラスルツボの気泡密度の平均値が0.263psc/mm
3であったのに対し、実施例1の石英ガラスルツボの気泡密度の平均値は0.089psc/mm
3であった。この結果から、本発明にかかる石英ガラスルツボの製造方法により製造された石英ガラスルツボは、原料粉末をガラス化させたときに内包される気泡を、ガラスの粘性流動を積極的に生じさせることによって潰し、除去できていることが確認できた。
【0072】
また、
図8は、気泡径の比較結果を示す図である。実施例1と比較例1の石英ガラスルツボの平均気泡径(μm)を比較した結果、比較例1の石英ガラスルツボの平均気泡径が30.07μmであったのに対し、実施例1の石英ガラスルツボの平均気泡径は24.55μmであった。この結果から、本発明にかかる石英ガラスルツボの製造方法により製造された石英ガラスルツボについては、平均気泡径が減少していることも確認できた。
【0073】
また、
図9および
図10は、気泡が存在する内表面の深さの比較結果を示す図である。比較例1の石英ガラスルツボには内表面に無気泡層はみられないが、実施例1の石英ガラスルツボのストレート部には一定厚さ(深さ約0.4mm)の無気泡層が、実施例1の石英ガラスルツボの底部には一定厚さ(深さ約0.2mm)の無気泡層が、それぞれ確認できた。
【0074】
すなわち、実施例1の石英ガラスルツボは、比較例1の石英ガラスルツボと比較して、約40~70%の気泡密度減少と、約10~20%の気泡径減少と、を実現し、さらに、表層約0.2~0.4mmの無気泡層を形成することができた。