(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091556
(43)【公開日】2023-06-30
(54)【発明の名称】エスカレーター
(51)【国際特許分類】
B66B 25/00 20060101AFI20230623BHJP
【FI】
B66B25/00 B
B66B25/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021206359
(22)【出願日】2021-12-20
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-03-14
(71)【出願人】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】弁理士法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 雅昭
【テーマコード(参考)】
3F321
【Fターム(参考)】
3F321DA03
3F321DC01
3F321DC03
3F321DD01
3F321EA02
3F321EB01
3F321EB07
(57)【要約】
【課題】本発明は、自動運転仕様のエスカレーターのさらなる省電力化を図る。
【解決手段】本発明のエスカレーター10は、無端状に連結されたステップ11を循環させるモーター17と、交流電力を供給する商用電源50と、前記モーターをインバーター制御するインバーター装置32と、前記モーターと前記商用電源間とを前記インバーター装置を介して接続する第1回路34と、前記モーターと前記商用電源を直接接続する第2回路35と、前記第1回路と前記第2回路を切り替えて接続する切替手段33と、乗り口20a,21aに配置され、乗り込もうとする利用者を検知するセンサー40と、制御装置31とを具える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状に連結されたステップを循環させるモーターと、
交流電力を供給する商用電源と、
前記モーターをインバーター制御するインバーター装置と、
前記モーターと前記商用電源間とを前記インバーター装置を介して接続する第1回路と、
前記モーターと前記商用電源を直接接続する第2回路と、
前記第1回路と前記第2回路を切り替えて接続する切替手段と、
乗り口に配置され、乗り込もうとする利用者を検知するセンサーと、
制御装置と、
を具えるエスカレーター。
【請求項2】
前記制御装置は、前記切替手段により、
上り運転時は、前記第1回路により前記モーターと前記商用電源を前記インバーター装置を介して接続し、
下り運転時は、定格速度運転時は前記第2回路により前記モーターと前記商用電源を接続し、前記定格速度運転時以外は、前記第1回路により前記モーターと前記商用電源を前記インバーター装置を介して接続する、
請求項1に記載のエスカレーター。
【請求項3】
前記制御装置は、下り運転時は、
前記切替手段により、前記第1回路を閉路、前記第2回路を開路し、前記ステップが前記定格速度よりも遅い待機速度で前記ステップが走行するよう前記インバーター装置を制御し、
前記センサーが利用者を検知すると、前記ステップが定格速度に達するまで加速させた後、前記切替手段により、前記第1回路を開路し、前記第2回路を閉路して、前記商用電源により前記モーターを駆動させる、
請求項2に記載のエスカレーター。
【請求項4】
前記制御装置は、前記センサーが最後の利用者を検知した後、所定の待機速度運転移行条件を満たすと、前記切替手段により、前記第1回路を閉路、前記第2回路を開路し、前記ステップが前記待機速度で走行するよう前記インバーター装置を制御する、
請求項2に記載のエスカレーター。
【請求項5】
前記制御装置は、上り運転時は、
前記ステップが前記定格速度よりも遅い待機速度で走行するよう前記インバーター装置を制御し、
前記センサーが利用者を検知した後、前記インバーター装置より前記モーターの出力トルクを得て乗込率を算出し、前記乗込率が所定値以下の場合は、前記ステップが前記待機速度よりも速く、前記定格速度よりも遅い第2定格速度で走行するよう前記インバーター装置を制御し、
前記乗込率が所定値を越えると、前記ステップが前記定格速度で走行するよう前記インバーター装置を制御する、
請求項2乃至請求項4の何れかに記載のエスカレーター。
【請求項6】
前記制御装置は、前記乗込率が所定値を越えた後、再度前記乗込率が前記所定値以下になると、前記ステップを前記第2定格速度で走行するよう前記インバーター装置を制御する、
請求項5に記載のエスカレーター。
【請求項7】
前記制御装置は、前記センサーが最後の利用者を検知した後、所定の待機速度運転移行条件を満たすと、前記ステップを前記待機速度で走行するよう前記インバーター装置を制御する、
請求項5又は請求項6に記載のエスカレーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動運転仕様のエスカレーターの省電力化に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動運転仕様のエスカレーターでは、乗り口側に利用者を検知するセンサーを具え、利用者がいない場合には停止又は減速運転を行ない、センサーが利用者を検知すると定格速度まで加速する自動運転を行なう。
【0003】
特許文献1では、乗り口側に利用者の進行方向に沿って2つのセンサー(第1センサー、第2センサー)を具えるエスカレーターが開示されている。第1センサーは、進行方向手前側の領域を検知可能に配置され、エスカレーターに乗り込もうとする利用者を検知すると、停止状態から予備加速を開始する。また、ステップの直前の領域を検知可能に設けられた第2センサーがステップに乗り込む利用者を検知すると定格速度まで本加速を行なう。
【0004】
特許文献2のエスカレーターでは、省電力化を図るため、上り運転及び下り運転の両方で、停止状態からの加速はインバーター制御により行ない、定格速度まで加速が完了すると、モーター駆動電力をインバーター出力電力から商用電源の交流電力に切り替えて定格速度運転を継続するようにしている。一方、センサーが最後の利用者を検知した後、所定の条件を満たすと、モーター駆動電力を商用電源の交流電力からインバーター出力電力に切り替え、定格速度からインバーター制御により減速させて停止するようにしている。
【0005】
特許文献2のエスカレーターでは、定格速度運転時には、インバーター出力電力ではなく交流電力を直入れするようにしている。従って、制動抵抗方式のフルインバーター制御と比較して、商用電源からインバーター電源に変換する際に発生する無断な消費電力の発生(約5%の変換ロス)を抑えることができ、省電力化が図れる。また、定格速度の下り運転時には、電源回生方式のフルインバーター制御と比較して、回生電力を電源回生するときに、昇圧リアクトルにおける約3%の変換ロス、コンバーターにおける約5%の変換ロス、インバーターにおける約5%の変換ロスがないから、合計約13%多く電源に回生動力を戻す省電力化が図れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-142649号公報
【特許文献2】特開2004-262634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
連続運転仕様のエスカレーターの消費電力を100%としたときに、非インバーター制御による利用者がいない時に停止する自動運転仕様のエスカレーターの省エネ効果は約58%である。インバーター制御による利用者がいない時に待機速度運転する仕様のエスカレーターの省エネ効果は約67%である。
【0008】
エスカレーターでは、さらなる省電力化が求められている。
【0009】
また、自動運転仕様であっても、利用者がいない状態でステップを完全に停止させると、利用者が上り運転か下り運転かを一見して判別できない。このため、インバーター制御により低速の待機速度で運転する仕様のエスカレーターも提案されている。
【0010】
本発明は、自動運転仕様のエスカレーターのさらなる省電力化を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のエスカレーターは、
無端状に連結されたステップを循環させるモーターと、
交流電力を供給する商用電源と、
前記モーターをインバーター制御するインバーター装置と、
前記モーターと前記商用電源間とを前記インバーター装置を介して接続する第1回路と、
前記モーターと前記商用電源を直接接続する第2回路と、
前記第1回路と前記第2回路を切り替えて接続する切替手段と、
乗り口に配置され、乗り込もうとする利用者を検知するセンサーと、
制御装置と、
を具える。
【0012】
前記制御装置は、前記切替手段により、
上り運転時は、前記第1回路により前記モーターと前記商用電源を前記インバーター装置を介して接続し、
下り運転時は、定格速度運転時は前記第2回路により前記モーターと前記商用電源を接続し、前記定格速度運転時以外は、前記第1回路により前記モーターと前記商用電源を前記インバーター装置を介して接続する。
【0013】
前記制御装置は、下り運転時は、
前記切替手段により、前記第1回路を閉路、前記第2回路を開路し、前記ステップが前記定格速度よりも遅い待機速度で前記ステップが走行するよう前記インバーター装置を制御し、
前記センサーが利用者を検知すると、前記ステップが定格速度に達するまで加速させた後、前記切替手段により、前記第1回路を開路し、前記第2回路を閉路して、前記商用電源により前記モーターを駆動させる。
【0014】
前記制御装置は、前記センサーが最後の利用者を検知した後、所定の待機速度運転移行条件を満たすと、前記切替手段により、前記第1回路を閉路、前記第2回路を開路し、前記ステップが前記待機速度で走行するよう前記インバーター装置を制御する。
【0015】
前記制御装置は、上り運転時は、
前記ステップが前記定格速度よりも遅い待機速度で走行するよう前記インバーター装置を制御し、
前記センサーが利用者を検知した後、前記インバーター装置より前記モーターの出力トルクを得て乗込率を算出し、前記乗込率が所定値以下の場合は、前記ステップが前記待機速度よりも速く、前記定格速度よりも遅い第2定格速度で走行するよう前記インバーター装置を制御し、
前記乗込率が所定値を越えると、前記ステップが前記定格速度で走行するよう前記インバーター装置を制御する。
【0016】
前記制御装置は、前記乗込率が所定値を越えた後、再度前記乗込率が前記所定値以下になると、前記ステップを前記第2定格速度で走行するよう前記インバーター装置を制御する。
【0017】
前記制御装置は、前記センサーが最後の利用者を検知した後、所定の待機速度運転移行条件を満たすと、前記ステップを前記待機速度で走行するよう前記インバーター装置を制御する。
【発明の効果】
【0018】
本発明のエスカレーターは、上り運転と下り運転でモーターに供給される電源の制御方式を変えることで、省電力化を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明のエスカレーターの一実施形態を示す概略側面図である。
【
図3】
図3は、エスカレーターの駆動システムのブロック図である。
【
図4】
図4は、商用電源、インバーター装置、切替装置及びモーターの回路図である。
【
図5】
図5は、エスカレーターの乗込率と、インバーター装置のトルクとの関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、上り運転時の制御装置による制御を説明するフローチャートである。
【
図7】
図7は、上り運転時の速度パターンを示す説明図である。
【
図8】
図8は、制御装置とインバーター装置との間で送受信される信号を説明する図である。
【
図9】
図9は、下り運転時の制御装置による制御を説明するフローチャートである。
【
図10】
図10は、下り運転時の速度パターンを示す説明図である。
【
図11】
図11は、下りの定格速度運転を(a)インバーター制御運転、(b)本発明の商用電源運転とした場合の変換ロスの違いを示す説明図ある。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係るエスカレーター10の制御方法について説明を行なう。
【0021】
図1は、エスカレーター10の概略側面図である。図に示すように、エスカレーター10は、建物の異なる階床(上階側階床20と下階側階床21)の間でステップ11を、ハンドレール12と共に循環させて構成される。エスカレーター10の骨組みを形成するトラス13には、上下にスプロケット14,15を具え、これらスプロケット14,15間にステップ11を無端状に多数連結して循環させるステップチェーン16が掛けられている。一方のスプロケット14は、モーター17に減速機18を介して動力伝達可能に連携されている。また、トラス13には、図示しないレールが上下の階床間に配設されており、ステップ11は、ステップチェーン16に牽引されて図示しないレール上を走行する。
【0022】
上り運転するエスカレーターでは、下階側階床21が乗り口21a、上階側階床20が降り口20aとなる。下り運転の場合は、上階側階床20が乗り口20a、下階側階床21が降り口21aである。
【0023】
本実施形態のエスカレーター10は、自動運転仕様のエスカレーターであって、乗り口には、利用者を検知するセンサー40が配置される。なお、上り運転と下り運転のエスカレーター10の共用化を図るため、降り口にも同様にセンサーが配置される。
【0024】
具体的実施形態として、乗り口20a,21aには、
図1、
図2に示すように、進行方向手前側の領域の利用者を検知する第1センサー40を具える。第1センサー40は、たとえば、ToF(Time of Flight)センサーの如き反射型センサーを例示できる。ToFセンサーは、レーザー光L1の投光部と受光部を回転させながら、投光部から発せられたレーザー光L1が物体に反射して受光部に戻ってくるまでの時間とその回転角度から物体までの距離と位置を測定するセンサーである。なお、第1センサー40は、上記センサーに限るものではなく、その他の種々のセンサーを採用できる。
【0025】
上記したモーター17、第1センサー40は、エスカレーター10の駆動システム30に電気的に接続される。
図3は、本発明の一実施形態によるエスカレーター10の駆動システム30の構成例を示すブロック図である。駆動システム30は、制御装置31により各種制御が実行される。本実施形態では、モーター17は交流駆動モーターである。モーター17と商用電源50との間には、インバーター装置32及び切替手段33が配置され、モーター17は、三相交流電力により商用電源駆動、又は、インバーター装置32を介してインバーター制御駆動される。
【0026】
制御装置31は、PLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)を利用して構成することができる。制御装置31には、制御プログラムを記憶した不揮発性メモリー、制御プログラムを実行する際にワークエリアとして使用される揮発性メモリー、制御プログラムの実行時に参照される各種設定値等を記憶した書き換え可能な不揮発性メモリー等を含む構成とすることができる。制御装置31には、上記した第1センサー40が接続され、信号が入力される。また、制御装置31は、インバーター装置32及び切替手段33を制御する。
【0027】
モーター17と商用電源50との間には、インバーター装置32及び切替手段33が配置される。そして、切替手段33によって、モーター17は、商用電源50とインバーター装置32を介して接続する第1回路34と商用電源50と直接接続する第2回路35に切り替えて接続可能となっている。
【0028】
商用電源50は、R、S、Tの三相交流電力を供給する。
【0029】
インバーター装置32は、
図4に示すように、コンバーター32bとインバーター32eを主体として構成され、昇圧リアクトル32a、平滑コンデンサー32c、半導体スイッチ及び制動抵抗32dを含む構成とすることができる。
【0030】
コンバーター32bは、商用電源50から供給される交流電力を直流電力に変換し、インバーター32eに供給する。
【0031】
インバーター32eは、コンバーター32bで生成された直流電力を任意の電圧、周波数の交流電力とし、モーター17を制御して、要求されるトルクを効率良く発生させる。
【0032】
昇圧リアクトル32aは、インバーター32e及びコンバーター32bにより発生する高調波やサージ電圧が、商用電源50やモーター17に悪影響を及ぼすことを防止するフィルタとして機能する。
【0033】
平滑コンデンサー32cは、コンバーター32bとインバーター32e間の直流電力部分に介挿され、コンバーター32bにより出力される直流電力の脈動部を平滑化する。
【0034】
制動抵抗32dは、半導体スイッチを介して接続され、下り運転時や減速時、停止時などに、モーター17で発生した回生電力によりインバーター32eにおいて発生する直流電力を消費する。
【0035】
切替手段33は、
図3に示すように、モーター17を商用電源50とインバーター装置32を介して接続する第1回路34と、商用電源50と直接接続する第2回路35に切り替えて接続可能とすると共に、上り運転と下り運転を切り替えて接続可能となっている。
【0036】
具体的には、切替手段33は、
図4に示すように、インバーター装置32の交流側に接続されたインバーター用コンタクタ#PINVを切り替えるスイッチと、商用電源50とモーター17と直接接続し、交流電力を直入れする電源用コンタクタ#PNML(電磁接触器)と、上り運転用コンタクタ#1と下り運転用コンタクタ#2を切り替えるスイッチを含む。切替手段33は、たとえば、マトリックスコンバーターである。
【0037】
上記構成の駆動システム30において、制御装置31は、第1センサー40の信号に基づき、以下のとおり、エスカレーター10を制御する。
【0038】
<上り運転>
上り運転は、制動抵抗方式のフルインバーター制御とし、利用者を検知して運転する速度を、エスカレーター10の乗込率に基づいて可変とする。具体的には、乗込率が所定値(たとえば10%以下)の場合には定格速度(たとえば30m/min)よりも所定速度(たとえば5m/min)遅い速度で運行させる。そして、乗込率が所定値を越えた状況が所定時間(たとえば1秒)継続すると、定格速度運転とすることで省エネ化を図る。
【0039】
乗込率は、エスカレーター10に利用者が乗車したときに増加するインバーター装置32により検出されるモーター17の出力トルクから算出することができる。
図5は、上り運転時のインバーター装置32のトルク検出レベルと、エスカレーター10の乗込率との関係を示すグラフである。上り運転時は、ステップ11に利用者が多く乗る程、利用者の重量によりモーター17の負荷が大きくなるから、ステップ11を所望の速度で走行させるためのトルクも大きくなる。たとえば、運転切替の規準となる乗込率の所定値を10%と設定した場合、図示の実施形態では、トルクの検出レベル約38%に相当する。
【0040】
図6は、エスカレーター10の上り運転時のおける制御を説明したフローチャートである。
図6のフローチャートによる処理は、エスカレーター10の管理者等がエスカレーター10の操作盤のキースイッチを起動操作したときに開始される(ステップS101)。
【0041】
起動操作があると、制御装置31は、インバーター用コンタクタ#PINVと、上り運転用コンタクタ#1を閉成するよう切替手段33を制御する(ステップS102)。これにより、モーター17は、インバーター装置32を介する第1回路34により商用電源50と接続され、インバーター制御運転が開始される(ステップS102)。そして、
図7に示すように、制御装置31は、インバーター装置32に対して待機速度運転(たとえばステップ11の移動速度が10m/min)の運転指令を発し(
図8の待機速度運転指令)、モーター17を待機速度に応じた回転数で駆動する(
図7の待機速度運転区間)。これにより、ステップ11は、インバーター制御運転による待機速度により上り方向に走行する(ステップS103)。なお、待機速度で運転しているのは、ステップ11を上り方向に巡回させることで、利用者に乗るべき方向を視覚的に認識させるためである。
【0042】
この状態から、第1センサー40が乗り口20a又は21aに利用者を検知すると(ステップS104のYES)、制御装置31は、利用者の乗込率に応じた速度でステップ11が走行するようインバーター装置32を制御し、加速を行なう(ステップS105のYES、
図7の利用者検知加速開始、
図8の第2定格速度運転指令)。なお、本加速及び以下で説明する加減速は、利用者が加減速していることを感じない加減速度、たとえば0.008m/s
2(加速時間10秒)とすることが望ましい。
【0043】
乗込率が所定値以下の場合(ステップS104のYES)、制御装置31は、
図7に示すように、ステップ11を定格速度よりも所定速度遅くなる第2定格速度(たとえば、定格速度-5m/minである25m/min)となるまで加速させ、当該速度で維持するようインバーター装置32を制御する(ステップS106、
図7の乗込率所定値以下の第2定格速度区間)。なお、第1センサー40が利用者を検知した後、直ちに所定の乗込率に到達することはないので、上り運転では、必ず定格速度よりも所定速度遅い第2定格速度となる区間が存在する。
【0044】
この状態で、さらに利用者が検知され(ステップS107のYES)、乗込率が所定値を越えると(ステップS105のNO)、制御装置31は、ステップ11が定格速度となるまで加速させ、当該速度で維持するようインバーター装置32を制御する(ステップS108、
図7の乗込率所定値超、加速開始)。これにより、ステップ11の走行速度が定格速度となり(
図7の定格速度運転区間)、エスカレーター10の輸送効率が向上する。
【0045】
インバーター装置32は、第1センサー40が利用者を検知する毎に乗込率を算出する(S107のYES、ステップS105)。そして、乗込率が10%以下になると(ステップS104のYES)、制御装置31は、
図7に示すように、ステップ11を第2定格速度となるまで減速し、当該速度で維持するようインバーター装置32を制御する(ステップS106、
図7の乗込率所定値以下、減速開始、
図8の第2定格速度運転指令)。ステップ11を第2定格速度で走行させることにより、省電力化が達成できる。
【0046】
その後、利用者を検知しなくなってから所定の待機速度運転移行条件を満たすと(ステップS109のYES)、制御装置31は、待機速度まで減速を開始し(
図7の未利用者状態減速開始、
図8の待機速度運転指令)、待機速度でステップ11の走行を維持するようインバーター装置32を制御する(ステップS110)。所定の待機速度運転移行条件とは、たとえば、利用者検知後、ステップが1/2周回転し、さらに30秒経過することを例示できる。
【0047】
上記のように乗込率が所定値以下の場合に速度を定格速度よりも落とした第2定格速度運転とすることで、フルインバーター制御で利用者がいない場合に待機速度運転する仕様のエスカレーターよりも省エネ効果を得ることができ、また、非インバーター制御の自動発停止仕様のエスカレーターよりも大きな省エネ効果を得ることができる。具体的には、連続運転仕様のエスカレーターを100%としたときに、非インバーター制御による利用者がいないときに停止する自動発停止運転仕様の省エネ効果は約58%であり、インバーター制御により利用者がいないときに待機速度運転する省電力エスカレーターの省エネ効果は約67%である。乗込率10%以下は定格速度よりも-5m/minの第2定格速度で運転することで、フルインバーター制御で利用者がいない場合に待機速度運転する仕様のエスカレーターよりも約23%低い約44%の省エネ効果を達成できる。
【0048】
<下り運転>
下り運転は、定格速度運転時は商用電源運転、それ以外をインバーター制御運転とする。なお、下り運転は、乗込率に基づく制御は実施しない。
【0049】
図9は、エスカレーター10の上り運転時のおける制御を説明したフローチャートである。
図9のフローチャートによる処理は、エスカレーター10の管理者等がエスカレーター10の操作盤のキースイッチを起動操作したときに開始される(ステップS201)。
【0050】
起動操作があると、制御装置31は、インバーター用コンタクタ#PINVと、下り運転用コンタクタ#2を閉成するよう切替手段33を制御する(ステップS202)。これにより、モーター17は、第1回路34によりインバーター装置32を介して商用電源50と接続され、インバーター制御運転が開始される。そして、
図9に示すように、制御装置31は、インバーター装置32に対して待機速度運転の運転指令を発し(
図8の待機速度運転指令)、モーター17を待機速度に応じた回転数で駆動する。これにより、ステップ11は、インバーター制御運転による待機速度で下り方向に走行する(ステップS203、
図10の待機速度)。なお、待機速度で運転しているのは、ステップ11を下り方向に巡回させることで、利用者に乗るべき方向を視覚的に認識させるためである。
【0051】
第1センサー40が乗り口20a又は21aに利用者を検知すると(ステップS204のYES)、制御装置31は、一旦、待機速度にあったステップ11を定格速度まで加速させるようインバーター装置32を制御する(ステップS205、
図10の利用者検知時加速開始)。
【0052】
そして、定格速度までステップ11が加速すると(ステップS205のYES、
図10の定格速度到達)、制御装置31は、インバーター出力電力の位相と商用電源50の位相とを同期させた後、切替手段33は、インバーター用コンタクタ#PINVを開成し、電源用コンタクタ#PNMLを閉成する。これにより、モーター17をインバーター装置32経由の第1回路34ではなく、商用電源50に直接接続される第2回路35により交流電力が直入れされ、定格速度運転はインバーター制御運転から商用電源運転に切り替えられる。定格速度運転を商用電源運転としたことで、インバーター装置32による変換ロスなく商用電源50に電源回生することができる。
【0053】
そして、利用者を検知しなくなってから所定の待機速度運転移行条件を満たすと(ステップS208のYES、
図10の未利用者状態減速開始)、再度インバーター制御運転に戻す(ステップS209)。所定の待機速度運転移行条件とは、たとえば、利用者検知後、ステップが1/2周回転し、さらに30秒経過することを例示できる。
【0054】
具体的には、制御装置31は、商用電源50の位相とインバーター出力電力の位相とを同期させた後、切替手段33を制御して、電源用コンタクタ#PNMLを開成し、インバーター用コンタクタ#PINVを閉成する(ステップS209)。これにより、モーター17を商用電源50に直接接続される第2回路35ではなく、インバーター装置32経由の第1回路34に接続し、インバーター制御運転に戻す。
【0055】
そして、制御装置31は、ステップ11を待機速度まで減速を開始し(
図9の未利用者状態減速開始)、待機速度で維持するようインバーター装置32を制御する(ステップS203)。
【0056】
上記のように、下り運転を、定格速度運転時は商用電源運転、定格速度運転時以外はインバーター制御運転としている。定格速度運転をインバーター制御運転とした場合、
図11(a)に示すように、モーター17から発生する回生電力を電源回生する際にインバーター32e、コンバーター32b、昇圧リアクトル32aの変換ロスが発生する。この変換ロスは、インバーター32eで約5%、コンバーター32bで約5%、昇圧リアクトル32aで約3%の合計約13%となる。しかしながら、本発明では、定格速度運転を商用電源運転としたことで、
図11(b)に示すように、これら変換ロスなく商用電源50に電源回生することができ、約13%の省電力化を達成できる。とくに、利用状況が多くなればなるほど、定格速度運転が増えるから、大きな省電力効果を得ることができる。
【0057】
連続運転仕様のエスカレーターを100%としたときに、非インバーター制御による利用者がいないときに停止する自動発停止運転仕様の省エネ効果は約58%であり、インバーター制御により利用者がいないときに待機速度運転する省電力エスカレーターの省エネ効果は約67%である。一方、本発明のように、下り運転を、定格速度運転時は商用電源運転、定格速度運転時以外はインバーター制御運転とすることで、省電力エスカレーターよりもさらに約13%の省エネ効果を得ることができ、約54%の省エネ効果を達成できる。
【0058】
上記のように、本発明のエスカレーター10によれば、上り運転と下り運転で制御方式を変え、上り運転は乗込率に基づくインバーター制御運転、下り運転は利用者の検知に基づき、定格速度では商用電源運転、それ以外をインバーター制御運転としている。これにより、連続運転仕様、自動発停止仕様のエスカレーターよりも省電力化を達成でき、省エネ効果を得ることができる。
【0059】
上記実施例の説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或は範囲を減縮する様に解すべきではない。又、本発明の各部構成は上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【0060】
上記実施形態では、第1センサー40により利用者を検知し、上り運転の場合は待機速度から第2定格速度、下り運転の場合は待機速度から定格速度までステップ11の走行速度を変えている。しかしながら、たとえば、
図1、
図2に示すように、ステップ11の直前の領域の利用者を検知する第2センサー41を配置することができる。そして、上り運転の場合、第1センサー40により利用者が検知されたときには、第2定格速度よりもさらに遅い第3定格速度とし、第2センサー41により利用者が検知されたときには第2定格速度に速度変更するようにしてもよい。同様に、下り運転の場合、第1センサー40により利用者が検知されたときには、定格速度よりも遅い第2定格速度、第2センサー41により利用者が検知されたときには定格速度に速度変更するようにしてもよい。これにより、利用者が乗り口20a、21aに近づいたが、ステップ11には乗らなかったときに、エスカレーター10の加速を抑えられるため、省エネ効果を発揮できる。
【0061】
第2センサー41は、光電センサーを例示できる。光電センサーは、スカートガード19やニューエルカバーに発光部41aと受光部41bとを対向配置して構成される。発光部41aから放たれた光L2が、利用者により遮断されることで、利用者の通過を検知すればよい。
【符号の説明】
【0062】
10 エスカレーター
17 モーター
30 駆動システム
31 制御装置
32 インバーター装置
33 切手段
34 第1回路
35 第2回路