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特開2023-91558海洋無脊椎動物用餌料及び海洋無脊椎動物用餌料の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091558
(43)【公開日】2023-06-30
(54)【発明の名称】海洋無脊椎動物用餌料及び海洋無脊椎動物用餌料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23K 50/80 20160101AFI20230623BHJP
   A23K 10/30 20160101ALI20230623BHJP
【FI】
A23K50/80
A23K10/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021206361
(22)【出願日】2021-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】506141225
【氏名又は名称】株式会社ユーグレナ
(71)【出願人】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(71)【出願人】
【識別番号】513058172
【氏名又は名称】南伊勢町
(71)【出願人】
【識別番号】512052937
【氏名又は名称】うみの株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【弁理士】
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【弁理士】
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健吾
(72)【発明者】
【氏名】中島 綾香
(72)【発明者】
【氏名】横山 一樹
(72)【発明者】
【氏名】阿閉 耕平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智広
(72)【発明者】
【氏名】山川 倫徳
(72)【発明者】
【氏名】山本 大
(72)【発明者】
【氏名】山本 真二
(72)【発明者】
【氏名】西村 理絵
(72)【発明者】
【氏名】上村 敏喜
(72)【発明者】
【氏名】瀧田 優子
(72)【発明者】
【氏名】中村 智治
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
【Fターム(参考)】
2B005GA06
2B005GA07
2B005JA04
2B005LB05
2B005MB05
2B150AA07
2B150AB02
2B150AE05
2B150CA03
2B150CC04
2B150CE26
2B150DD48
2B150DD56
(57)【要約】
【課題】アワビ類やウニ類などに対する海洋無脊椎動物用餌料及び海洋無脊椎動物用餌料の製造方法を提供する。
【解決手段】藻類粉末および食品加工残渣を含有することを特徴とする海洋無脊椎動物用餌料、藻類粉末および食品加工残渣を固形化する固形化工程を行うことを特徴とする海洋無脊椎動物用餌料の製造方法である。
【選択図】図5D
【特許請求の範囲】
【請求項1】
藻類粉末および食品加工残渣を含有することを特徴とする海洋無脊椎動物用餌料。
【請求項2】
前記海洋無脊椎動物がアワビ類又はウニ類であることを特徴とする請求項1に記載の海洋無脊椎動物用餌料。
【請求項3】
前記藻類粉末がコンブ粉末であることを特徴とする請求項1に記載の海洋無脊椎動物用餌料。
【請求項4】
前記食品加工残渣が、おから、米糠及び酒粕からなる群から選択される1種以上であることを特徴とする請求項3に記載の海洋無脊椎動物用餌料。
【請求項5】
前記海洋無脊椎動物の殻長促進のために用いられることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の海洋無脊椎動物用餌料。
【請求項6】
前記海洋無脊椎動物の個体重増加のために用いられることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の海洋無脊椎動物用餌料。
【請求項7】
藻類粉末および食品加工残渣を固形化する固形化工程を行うことを特徴とする海洋無脊椎動物用餌料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アワビ類やウニ類などの海洋無脊椎動物用餌料及び海洋無脊椎動物用餌料に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳類、鳥類、魚類等の生物を飼育するに際し、特に、食用、観賞用等、商業的に価値ある生物を飼育するに当たり、健康及び体格の管理が非常に大切となる。食用となる海洋動物の中でも、アワビやウニなどの海洋無脊椎動物は、極めて貴重な水産資源である。
【0003】
地球温暖化に伴う海水温の上昇による海藻類の減少により、アワビの棲息地が減少している。エゾアワビやクロアワビの成貝の高水温期(8月)の限界水温は28℃、稚貝は25℃、24℃であり、海水温の上昇に弱い。また、アワビの生育に必要な海藻類も同様の水温帯を適水温とするため、生息地そのものが消滅することが危惧されている。さらに、海洋酸性化の影響により、幼生にとって貝殻の形成が困難になる可能性も示されている。
【0004】
特許文献1には、海洋無脊椎動物、特にアワビ等の貝類の成長を簡便かつ効率的に促進させ、それらの生産性の向上を図る目的で、サケ成長ホルモンとアルギン酸とを含むゲル形態の飼料を、アワビ等の貝類の稚貝に投餌させる技術が記載されている。
【0005】
ウニは、エサの減少と、殻形成の困難により減少している。キタムラサキウニの高水温期(8月)の限界水温は25℃であり、海水温の上昇に弱い。また、生育に必要な海藻類も同様の水温帯を適水温とするため、生息地そのものが消滅することが危惧されている。さらに、海洋酸性化の影響により、幼生にとって殻の形成が困難になる可能性も示されている。
【0006】
特許文献2には、ウニの可食部に含まれるオレイン酸、α-リノレン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)である脂肪酸の含有量を調整することを目的として、ウニにマメ科の植物を給餌して飼育する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-095104号公報
【特許文献2】特開2020-156418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
また、近年、海岸における岩礁域等で、コンブやワカメその他種類の海藻が著しく減少して繁茂しなくなる「磯焼け」と呼ばれる現象が多発している。磯焼けは、アワビやウニ等の経済的な価値の高い水産資源の収穫量を低下させるだけではなく、身入りや味などの品質の低下を招く原因となっている。
【0009】
したがって、貴重な水産資源であるアワビやウニなどの海洋無脊椎動物に対する有効な餌料が望まれている。
【0010】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、アワビ類などに対する海洋無脊椎動物用餌料及び海洋無脊椎動物用餌料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究した結果、藻類粉末及び食品加工残渣がアワビ類などの海洋無脊椎動物に対して良好な餌料となることや、海洋無脊椎動物に対する殻長促進作用があることを見出した。
【0012】
したがって、前記課題は、藻類粉末および食品加工残渣を含有することを特徴とする海洋無脊椎動物用餌料により解決される。
このとき、前記海洋無脊椎動物がアワビ類又はウニ類であると良い。
このとき、前記藻類粉末がコンブ粉末であると良い。
このとき、前記食品加工残渣が、おから、米糠及び酒粕からなる群から選択される1種以上であると良い。
このとき、前記海洋無脊椎動物の殻長促進のために用いられると良い。
このとき、前記海洋無脊椎動物の個体重増加のために用いられると良い。
【0013】
また、前記課題は、本発明の海洋無脊椎動物用餌料の製造方法によれば、藻類粉末および食品加工残渣を固形化する固形化工程を行うこと、により解決される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アワビ類やウニ類などに対する海洋無脊椎動物用餌料及び海洋無脊椎動物用餌料の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】開発飼料の組成を示す表である。
図2】各飼料の栄養成分組成を示す表である。
図3】開発飼料の原料単価と配合飼料価格の比較をした表である。
図4A】飼育水槽の水温変化を示すグラフである。
図4B】飼育水槽のpH変化を示すグラフである。
図4C】アワビの生残率を示すグラフである。
図4D】アワビの死個体累計を示すグラフである。
図5A】殻長変化を示すグラフである。
図5B】個体重変化を示すグラフである。
図5C】殻長-個体重の相関関係を示すグラフである。
図5D】肥満度を示すグラフである。
図5E】アワビ個体の外観を示す写真である。
図5F】アワビ個体の肥満度を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図1乃至図5Fを参照しながら説明する。本実施形態は、アワビ類やウニ類などの海洋無脊椎動物用餌料及び海洋無脊椎動物用餌料の製造方法に関するものである。
【0017】
<海洋無脊椎動物>
本実施形態において、「海洋無脊椎動物」とは、無顎類、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類といった脊椎を有する動物以外の動物であって、海洋に棲息する動物をいう。海洋無脊椎動物としては、例えば、軟体動物門(Mollusca)、棘皮動物門(Echinodermata)、節足動物門(Arthropoda)、刺胞動物門(Cnidaria)、環形動物門(Annelida)等に属する海洋性の無脊椎動物が挙げられる。海洋無脊椎動物の中でも、固形餌料を摂餌することができる海洋無脊椎動物が好ましい。
【0018】
海洋無脊椎動物の種類としては、例えば、アワビ、トコブシ、サザエ、フジツボ、カキ、ホタテガイ等、エビ、カニなどの甲殻類、ウニ類等を含むことができ、中でも特にアワビ類が好ましい。ただし、これらに限定されるものではなく、淡水に生息するタニシ、カワニナ等の無脊椎動物も対象とすることができる。
【0019】
(アワビ類)
「アワビ類」とは、軟体動物門の腹足網に属する巻貝類の総称であり、例えば、クロアワビ、メガイアワビ、マダカアワビ、エゾアワビ等のアワビ属類、トコブシ等のトコブシ属類などの巻貝類が含まれる。
【0020】
(ウニ類)
「ウニ類」とは、棘皮動物門のウニ網に属する、棘皮動物の総称であり、例えば、ムラサキウニ、キタムラサキウニ、バフンウニ、エゾバフンウニ、アカウニなどが含まれる。また、ウニの可食部とは、卵巣または精巣からなる生殖腺である。
【0021】
<海洋無脊椎動物用餌料>
本実施形態に係る海洋無脊椎動物用餌料は、藻類粉末および食品加工残渣を含有する。海洋無脊椎動物用餌料は固形化するためにアルギン酸粉末や、餌料成分として通常用いられる添加物を含んでもよく、例えば、抗生物質、ビタミン、ミネラル類等が例示される。
【0022】
藻類粉末としては、コンブ粉末、ユーグレナ粉末、オーランチオキトリウム粉末が例示されるがこれに限定されるものではない。また、食品加工残渣は、おから、米糠及び酒粕からなる群から選択される1種以上であると好適である。
【0023】
本実施形態に係る海洋無脊椎動物用餌料は、海洋無脊椎動物の殻長促進や個体重増加のために用いることが可能である。ここで、殻長とは、巻貝の最も上の部分にあたる貝殻の成長する出発点である殻頂から、貝殻の最も下にある水管の先までの部分であり、アワビ類の殻の最も長い部分の長さであり、殻高と同義である。
【0024】
<海洋無脊椎動物用餌料の製造方法>
本実施形態に係る海洋無脊椎動物用餌料の製造方法は、藻類粉末および食品加工残渣を固形化する固形化工程を行うことを特徴とする。固形化工程は、藻類粉末および食品加工残渣を、アルギン酸粉末などを用いて固形化することで行われる。
【0025】
<海洋無脊椎動物の養殖方法、殻長促進方法>
本実施形態に係る海洋無脊椎動物の養殖方法は、海洋無脊椎動物に藻類粉末および食品加工残渣を含有する海洋無脊椎動物用餌料を給餌することを特徴とする。海洋無脊椎動物の養殖方法は、本実施形態の海洋無脊椎動物用餌料を給餌すること以外は、通常の方法を採用することが可能である。海洋無脊椎動物に本実施形態の海洋無脊椎動物用餌料を給餌することで、海洋無脊椎動物の生存率を向上させることができ、また、海洋無脊椎動物の個体の大きさである殻長の成長を促進させたり、海洋無脊椎動物の個体重を増加させたりすることが可能である。
【実施例0026】
以下、具体的実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
(1.目的)
本試験は、成長の良い飼料組成を検討し、事業化に向けた開発飼料の確立を目指すことを目標とした。まず、自然海域でアワビが摂取しているコンブの栄養分組成では炭水化物(約68%)が高く含まれていることから、飼料原料に酒粕とコンブ粉末パウダーを使用し、糖質リッチな開発飼料組成とした。
【0028】
(2.開発飼料)
開発飼料では、海藻パウダー(コンブパウダー)と魚類(サバ)で脂質成分を増加させる効果が確認されている酒粕を原料に採用し、開発を行なった。
【0029】
阿曽浦クロアワビ養殖試験の前に開発飼料を用いて、試験水槽で予備試験を行なったが、摂食障害なく給餌ができており、従来飼料よりも若干飼料の減りが開発飼料の方が早いことも確認された。クロアワビには海藻単独給餌では栄養が不十分であることやタンパク質含量の高い飼料を与えた方が成長がよいという報告もあるが、これまでの我々の研究結果ではタンパク質源リッチな飼料組成(市販固形飼料では36%程)よりも糖質リッチな飼料組成の方が適していることが推察され、アワビの生態も踏まえて考えると糖質リッチな飼料組成の方が適当ではないかと考えた。
【0030】
(2-1.製造方法)
(1)コンブパウダーと米糠を粉体混合した。
(2)酒粕、おからをミキサーに加え、加水後、混合した。
(3)(2)の混合液に(1)のコンブパウダーと米糠を、粉体混合を加えて撹拌した。
(4)(3)にアルギン酸を加え撹拌し、型に流し込み冷蔵庫で一晩静置した。
(5)硬化後,裁断機によりサイズカットし、給餌試験に用いた。
【0031】
(2-2.現行市販飼料とのカロリー比較)
(試験飼料分析)
試験区および市販固形飼料の5大栄養素分析を行った。開発飼料はアルギン酸にてゲル化しているので、水分が多くなっていた(図2)。開発飼料中の固形量は,1kgあたり150g(約15%)となっている。試験期間の投餌量と飼料エネルギーの点に関する考察については、以下第3項にて示す。
【0032】
(2-3.現行市販飼料とのコスト比較)
開発飼料のコストを市販の固形配合飼料と比較した(図3)。おからおよび米糠については、産廃品の有効活用ということで廃棄物処理に準じた金額が発生することと考えた。酒粕についても養豚業者への飼料原料として提供されており、その価格に準じて提供が可能である。
【0033】
固形飼料が520円/Kgであり、未確定原料価格が数点あるが最終的には188-200円/Kgの範囲に入るような飼料組成になるであろうことを算出により推察した。1Kgあたりのコストでは63.8%減のコストで作製できることとなる(対従来飼料では18~20%減のコストとなった)。
【0034】
(3.南伊勢町阿曽浦アワビ養殖場における給餌試験)
試験開始:2020年5月1日金曜日(試験食切り換え)
給餌期間を従来の試験よりも長く確保するために、開発飼料を5月に切り換え、給餌試験をスタートさせた。試験期間中の試験水槽の水温変化およびpHの変化について図4Aおよび図4Bにそれぞれ示した。水温およびpHともに試験期間を通じて大きな変化を確認するに至らず、18.2℃,pH7.86を平均値とした。
【0035】
試験期間終了時の生残率は、対照区(配合飼料摂取)では60.2%(No.1)、56.2%(No.2)となり、試験区(開発飼料摂取)では63.9%であった(図4C)。若干試験区の生存率が高い結果となったが、両試験区間で大きな差は見られなかった。対象区では冬場時(12-2月)の斃死が多く、開発飼料区では試験食切り換え直後の斃死が高い傾向にあった(図4D)。
【0036】
つぎに、平均殻長および平均個体重の変化を図5Aおよび図5Bに示した。両グラフが示すように、試験区(開発飼料)の方が給餌試験9ヶ月(2月)終了時では若干成長率が対照区(市販固形飼料)と比べ高い数値を示したが、統計的には対照区と試験区では、どちらの項目とも有意な差は認められなかった。そこで、さらに殻長-個体重の相関関係を解析した。給餌期間により僅かではあるが個体重の増加と殻長の伸長を伴って成長しているのが確認できた(図5C)。対照区と試験区のプロットから、両試験区間で成長に大きな違いはなく、開発飼料が市販固形飼料と同等の成長を促す飼料であることが証明された。また、既にアワビの成長指標として用いられている肥満度と日間増重率を次の式によりそれぞれ算出した;
F(肥満度)=((終了時の平均個体重(g))/(終了時の平均殻長(mm))3×103),I(日間増重率)={((終了時の平均重量-開始時の平均重量(g))/((開始時の平均重量+終了時の平均重量(g))/2)×飼育日数(day))}×102
【0037】
その結果,試験終了時の対照区の肥満度と日間増重率がそれぞれ0.13と0.10%であるのに対し、試験区では0.13と0.12%であった。本算出結果からも、開発飼料が市販固形飼料と同等の成長を促す飼料であることが証明された。(図5D図5E図5F)。
【0038】
ここで、図2に示したエネルギーとなる成分(タンパク質+脂質+炭水化物)を市販固形飼料と開発飼料で比較すると、100g中に固形飼料では71.9g、開発飼料では18.0gであり、開発飼料のエネルギー成分は固形配合飼料の25%程になる。また、飼料投入量が開発飼料は3.4倍高いことから、開発飼料を100g摂取した際のエネルギー値を使って摂取エネルギーを算出すると41.5×3.4=141.1kcalとなる。開発飼料の特徴から飼料の徐放性がなく全てを摂取し、エネルギーが成長にすべて利用されたと仮定すると、この141.1kcalで市販固形飼料も十分であるということが推察できる。すなわち、市販固形飼料は100g投入した飼料のおよそ46%を摂取し、54%を残渣という形となっていることとなる。この試験期間中では固形飼料が66.6kg投入(金額34,632円)したのが、その54%の約36kg(金額にすると1kgあたり520円であることから18,720円となる)がアワビの成長に使用されなかった量として算出できる。開発飼料は試験期間中で227.6kg投入され、金額にすると42,590円ほどになる。固形飼料と開発飼料の差額として7,958円となり、従来の開発飼料よりも10,000円ほど差額減となった。
【0039】
(4.まとめ)
本試験では、安価なアワビ養殖飼料の開発を目的に未利用資源で安価に原料入手が可能な植物素材原料を基本ベースとした開発飼料の設計を行った。従来の開発飼料の給餌では市販固形飼料とほぼ同等の成長度を期待できる飼料組成を確立に至った。
【0040】
成長の面においては、本試験の開発飼料が市販固形飼料と同等のレベルを示すことが実証できた。給餌試験2ヶ月目と3ヶ月目(8月と9月)に、飼料の投餌量を減らすことで(残餌量を最小限にする)飼料の総コストを下げることができるか検討したが、クロアワビの飼料接触機会を減らすことに繋がり、成長が伸びなかった。それ以降に給餌量の最低量を模索しながら試験を進めたが、終了際の給餌量が個体サイズにあった適当量となることを把握することができた。この前半部の給餌量の操作を行わなければ、成長に差が出ていたのかもしれない。
【0041】
開発飼料を用いた場合の飼料投入量は市販配合飼料の約3.4倍必要であり、たとえKgベースで飼料コストが安価になっていても、投餌量ベースでは飼料コストは1.23倍ほどとなってしまう。現場での養殖コストを考慮すると、同等の成長であれば市販固形飼料の使用を採用することが望ましいが、開発飼料は残餌が少なく、飼育槽の汚れが少ないために掃除などの負担軽減が期待できる。本飼料形態で成長促進が期待できる組成の見極めをさらに進めることができれば、この飼料コスト1.23倍の課題は回避できる可能性も十分にある。
【0042】
クロアワビには海藻単独給餌では栄養が不十分であることやタンパク質含量の高い飼料を与えた方が成長がよいという報告もあるが、本試験の糖質リッチな飼料組成が適していることが実証できた。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F