(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091644
(43)【公開日】2023-06-30
(54)【発明の名称】飲食品用酵母粉末香料、及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20230623BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20230623BHJP
A23L 27/20 20160101ALI20230623BHJP
A23G 4/12 20060101ALN20230623BHJP
A23G 4/06 20060101ALN20230623BHJP
【FI】
A23L5/00 C
A23L5/00 H
A23L27/00 C
A23L27/20 D
A23L27/20 B
A23G4/12
A23G4/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021206488
(22)【出願日】2021-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小原 敏行
(72)【発明者】
【氏名】井戸 隆雄
【テーマコード(参考)】
4B014
4B035
4B047
【Fターム(参考)】
4B014GB13
4B014GG18
4B014GK05
4B014GL03
4B014GL04
4B035LC01
4B035LC16
4B035LE01
4B035LE20
4B035LG04
4B035LG05
4B035LG06
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4B035LG57
4B035LK02
4B035LP59
4B047LB08
4B047LB09
4B047LF09
4B047LG06
4B047LG09
4B047LG56
4B047LP20
(57)【要約】 (修正有)
【課題】疎水性香料の包接量が改善された酵母粉末香料及びその調製方法の提供。
【解決手段】レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて水分散液について測定される体積基準の粒度分布におけるメジアン径D50が1μm~10μmである酵母細胞壁画分を疎水性香料の包接に用いる。また、包接させる疎水性香料として、オクタノール/水分配係数(logP)が1.5~4.8の香料を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内容物が除去された酵母菌体内に疎水性香料が包接されてなる飲食品用粉末香料であって、
前記酵母菌体が、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いてその水懸濁液について測定される体積基準の粒度分布におけるメジアン径D50が1μm~10μmである、飲食品用粉末香料。
【請求項2】
前記疎水性香料が、オクタノール/水分配係数(logP)が1.5~4.8の香料である、請求項1に記載の飲食品用粉末香料。
【請求項3】
前記疎水性香料がメントール、l-メントール、dl-メントール、3-l-メントキシプロパン-1,2-ジオール、イソプレゴール、ネオイソプレゴール、イソイソプレゴール、ネオイソイソプレゴール、ネオメントール、イソメントール、ネオイソメントール、シトロネロール、リナロール、ハッカ油、ペパーミント油、乳酸メンチル、イソプレゴール、コハク酸メンチル、α-ピネン、β-ピネン、サビネン、ミルセン、D-リモネン、リナロール、及びγ―テルピネンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の飲食品用粉末香料。
【請求項4】
チューインガム用香料である、請求項1~3のいずれか1項に記載の飲食品用粉末香料。
【請求項5】
酵母菌体を、菌体内の細胞内容物を溶出する処理、及び分画処理に供し、
レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いてその水懸濁液について測定される体積基準の粒度分布におけるメジアン径D50が1μm~10μmの画分を分取し、酵母細胞壁画分を取得する工程;及び
前記工程で得られた酵母細胞壁画分に疎水性香料を接触させる工程;
を含む、飲食品用粉末香料の調製方法。
【請求項6】
前記疎水性香料が、オクタノール/水分配係数(logP)が1.5~4.8の香料である、請求項5に記載する調製方法。
【請求項7】
酵母細胞壁画分に対する疎水性香料の包接性を向上する方法であって、
当該酵母菌体を、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いてその水懸濁液について測定される体積基準の粒度分布におけるメジアン径D50が、1μm~10μmになるように調整することを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵母菌体に疎水性香料を包接してなる飲食品用の酵母粉末香料、及びその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、所望成分の放出時期や速度を制御して該成分の持続性を高める方法として、天然又は合成高分子からなる直径およそ数μm~数百μmの容器(マイクロカプセル)に該成分を包接する、いわゆるマイクロカプセル化法が知られている。また、その技術を用いたマイクロカプセルとして、酵母の細胞壁をカプセル皮膜として利用した酵母マイクロカプセルも広く知られている。
【0003】
酵母マイクロカプセルの製造方法としては、酵母菌体の内容成分(細胞内容物)を除去せずにそのまま香料等の所望の外因成分を包接させる方法(例えば、特許公報1等)、及び酵母菌体内の細胞内容物を除去した後に該菌体内に所望の外因成分を包接させる方法(例えば、特許公報2~6等)がある。後者の方法は、酵母菌体中の細胞内容物を除去した分ほど、より多くの外因成分を包接させることができ、その結果、該外因成分による作用効果を多く享受できるという点で有用である。
【0004】
さらに、酵母菌体内に包接させた外因成分の作用効果をより多く享受するための方法として、前記後者の方法で調製した酵母マイクロカプセル(外因成分包接酵母)の表面の一部又は全体に、糖類、高甘味度甘味料、タンパク質類及び多価アルコールよりなる群から選択される少なくとも1種を付着させる方法が知られている(特許文献7及び8)。こうすることで、酵母菌体内の外因成分の劣化を防止し、またその酵母菌体外への放出の速さ、強さ又はその持続性を制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61-88871号公報
【特許文献2】特開平4-4033号公報
【特許文献3】特開平4-63127号公報
【特許文献4】特開平4-117245号公報
【特許文献5】特開平5-15770号公報
【特許文献6】特開平8-243378号公報
【特許文献7】国際公開2003/041509号公報
【特許文献8】特開2004-24042号公報
【特許文献9】特開平8-243378号公報
【特許文献10】特公平7-32871号公報
【特許文献11】特公平8-29246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前述する酵母マイクロカプセル化技術に関して、酵母菌体内により多くの疎水性香料を包接することを課題とする。具体的には、本発明は、酵母菌体内により多くの疎水性香料を包接した飲食品用粉末香料、及びその調製方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、各社から販売されている商業的に入手可能な複数の酵母を用いて、菌体内の細胞内容物除去処理、及び疎水性香料包接処理を行い、実際に菌体内に包接された疎水性香料の量(包接率)を測定したところ、包接率にばらつきがあることを確認し、その原因を見出すべく研究を重ねた結果、酵母菌体の粒度分布に原因があることを見出した。そこで、疎水性香料の包接率の向上を目指して、さらに検討を重ねたところ、疎水性香料を包接させる材料として使用する酵母細胞壁画分の懸濁液の粒度分布を、レーザー回折・散乱式法(体積基準)のメジアン径D50が1μm~10μmの範囲になるように調整することで、各社から販売されている酵母の別に関わらず、おしなべて疎水性香料の包接率が向上し、上記目的が達成できることを見出した。
【0008】
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施形態を有する。
(I)香料包接に用いる酵母菌体調製物
本発明において香料包接に用いる酵母菌体調製物は、酵母菌体の細胞膜の一部を破壊することによって、酵母菌体内に含まれている細胞内容物(細胞小器官及び細胞内マトリクス等)を細胞外に放出させた酵母細胞壁画分である。香料包接に際して、当該酵母細胞壁画分は、通常、水に懸濁した状態で使用される。「酵母細胞壁画分」という用語には、かかる水懸濁液の状態にある酵母細胞壁画分も含まれるが、それに限定されるものではない。
本発明において、「包接」とは酵母細胞壁の内側(即ち、処理前の酵母菌において細胞内マトリクスが充填されていた空間)に目的とする香料成分が浸透した状態を指す。
【0009】
当該酵母細胞壁画分(酵母菌体調製物)は、以下の特徴を有する。
(I-1)レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて、その水懸濁液について測定される体積基準の粒度分布におけるメジアン径D50が1μm~10μmである、香料包接に用いる酵母細胞壁画分。
(I-2)前記粒度分布における10%径(D10)及び90%径(D90)が1μm~10μmの範囲にある、(I-1)に記載する酵母細胞壁画分。
(I-3)前記粒度分布における平均粒子径が1μm~10μm、及び/又はモード径が1μm~10μmである、(I-1)又は(I-2)に記載する酵母細胞壁画分。
【0010】
(II)香料包接に用いる酵母細胞壁画分の調製方法
(II-1)酵母菌体を、菌体内の細胞内容物を溶出する処理、及び分画処理を含む処理に供し、
レーザー回折・散乱式粒度-分布測定装置を用いて、その水懸濁液について測定される体積基準の粒度分布におけるメジアン径D50が1μm~10μmの画分を分取し、酵母細胞壁画分を取得する工程を有する、
(I-1)~(I-3)のいずれかに記載する酵母細胞壁画分の調製方法。
【0011】
(III)飲食品用酵母粉末香料
(I-1)~(I-3)のいずれかに記載する酵母細胞壁画分を細胞内容物が除去された酵母菌体として用い、その酵母菌体内に疎水性香料を包接させることで、飲食品用の粉末香料として使用することができる。当該飲食品用粉末香料には下記の態様が含まれる。
(III-1)細胞内容物が除去された酵母菌体内に疎水性香料が包接されてなる飲食品用粉末香料であって、
前記酵母菌体が、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて、その水懸濁液について測定される体積基準の粒度分布におけるメジアン径D50が1μm~10μmであることを特徴とする、飲食品用粉末香料。
(III-2)前記疎水性香料が、オクタノール/水分配係数(logP)が1.5~4.8の香料である、(III-1)に記載の飲食品用粉末香料。
(III-3)前記疎水性香料は、炭素数6~12の酸、アルデヒド、エステル及びアルコールからなる群より選択される少なくとも一種の香料成分である、(III-1)又は(III-2)に記載の飲食品用粉末香料。
(III-4)前記疎水性香料がメントール、メントール類縁体、及びオレンジ香料からなる群より選択される少なくとも1種である、(III-1)~(III-3)のいずれかに記載する飲食品用粉末香料。
(III-5)チューインガム用香料である、(III-1)~(III-4)のいずれかに記載の飲食品用粉末香料。
【0012】
(IV)飲食品用酵母粉末香料の調製方法
(IV-1)(I-1)~(I-3)のいずれかに記載する酵母細胞壁画分に、オクタノール/水分配係数(logP)が1.5~4.8の疎水性香料を接触させて、酵母細胞壁画分に疎水性香料を包接させた酵母粉末香料を調製する工程を有する、(III-1)~(III-5)のいずれかに記載する飲食品用粉末香料の製造方法。
(IV-2)前記疎水性香料包接酵母の表面に、糖類、高甘味度甘味料、タンパク質及び多価アルコールよりなる群から選択される少なくとも1種を付着させる工程を有する、(IV―1)に記載する製造方法。
【0013】
(V)香料包接に用いる酵母菌体調製物に対する疎水性香料の包接性向上方法
(V-1)酵母細胞壁画分に対する疎水性香料の包接性を向上する方法であって、当該酵母細胞壁画分を、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いてその水懸濁液について測定される体積基準の粒度分布におけるメジアン径D50が、1μm~10μmになるように調整(整粒)することを特徴とする、前記方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法で調製される酵母細胞壁画分を、飲食品用の疎水性香料の包接に用いることで、従来よりも香料の包接率が多い酵母粉末香料を調製することができる。また本発明の方法で調製される酵母細胞壁画分を用いることで、原料として使用する酵母菌体のばらつきを改善し、疎水性香料を均質に包接することができる。かかる酵母粉末香料は、疎水性香料の包接率(包接量)が高いため、飲食品、特にチューインガム等の口腔内で咀嚼して飲食される製品において、香料としての作用効果を高く発揮することができる。
さらに、上記酵母粉末香料の表面に、更に糖類、高甘味度甘味料、タンパク質及び多価アルコールよりなる群から選択される少なくとも1種を付着させることで、その公知の効果(疎水性香料の放出時期や速度の制御)をより有効に発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実験例で使用する各酵母原料の上清画分及び沈澱画分の粒度分布を、レーザー回折式粒度分布計マイクロトラックを用いて測定した結果を示す(実験例1)。(a)酵母A、(b)酵母B、(c)酵母C、(d)酵母D、(e)酵母E。各図において、細線は上清画分、太線は沈澱画分の粒度分布を示す。
【
図2】実験例3において、改良前の方法及び改良法2を用いて調製した酵母細胞壁画分(酵母A及びC由来)の上清画分及び沈澱画分の粒度分布を、レーザー回折式粒度分布計マイクロトラックを用いて測定した結果を示す。(a)酵母A由来(改良法2)、(b)酵母A由来(未改良法)、(c)酵母C由来(改良法2)、(d)酵母C由来(未改良法)。各図において、細線は上清画分、太線は沈澱画分の粒度分布を示す。
【
図3】実験例5において、酵母上清画分の粒度分布を、レーザー回折式粒度分布計マイクロトラックを用いて測定した結果を示す。
【
図4】(a)包接性の高い香料と一定時間撹拌した場合の酵母細胞壁画分、(b)包接性が低い香料と一定時間撹拌した場合の酵母細胞壁画分の様子を倒立顕微鏡(600倍)で観察した画像を示す(実験例6)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(I)香料包接に用いる酵母細胞壁画分、及びその調製方法
本発明が対象とする香料包接に用いる酵母細胞壁画分は、その内部に所望の疎水性香料を収容する容器として使用されるものであって、疎水性香料を収容するために細胞内容物が除去されてなるものである。香料包接に用いる酵母細胞壁画分は、通常、固形分10%程度の水懸濁液の状態で使用される。
当該酵母細胞壁画分は、安定性が高いことから、長期間(例えば、懸濁液96部に対しエタノール4部を添加すれば12カ月程度)、疎水性香料の包接に使用しない場合は、一旦、スプレードライ等の方法によって乾燥粉末体の状態にして保管することが可能である。乾燥粉末体の酵母細胞壁は、疎水性香料の包接に用いる前に、再度、水に分散して用いることができる。
【0017】
本発明の酵母細胞壁画分に含まれる個々の酵母細胞壁の粒子は、当該酵母細胞壁の水懸濁液をレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した場合、その体積基準の粒度分布におけるメジアン径D50が1μm~10μmであることを特徴とする。
【0018】
本発明の酵母細胞壁画分は、好ましくは下記の粒度分布及び平均粒子径を有するものである。これらはいずれも、当該酵母細胞壁の水懸濁液をレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて粒子径の分布を測定することで算出される体積基準の粒度分布を意味する。測定に供する水懸濁液中の固形分含量は、粒度分布計に供した際のTR値(透過率)が0.75-0.95の範囲になるように、1~5質量%に調整した。この範囲であれば検出される粒度分布に差異は生じない。また、測定方法には湿式法(粉体を不溶解の溶媒に分散させて測定する方法)と乾式法(粉体を直接測定する方法)があるが、本発明で規定する値は、いずれも水を溶媒として用い、フロー式による湿式法を用いて測定した値である。
【0019】
[メジアン径D50]
通常1μm~10μm、好ましくは1~9μm、より好ましくは2~8μmである。
[10%径D10]
通常0.1μm~5μm、好ましくは0.2~4.9μm、より好ましくは0.3~4.8μmである。
[90%径D90]
通常4μm~10μm、好ましくは4.1~9.9μm、より好ましくは4.2~9.8μmである。
[粒子径及び頻度(%)]
1μm以下の粒子の割合:70%以下、好ましくは50%以下、より好ましくは0~30%。
10μm以上の粒子の割合:50%以下、好ましくは40%以下、より好ましくは0~30%。
[体積平均径]
通常1μm~10μm、好ましくは1~9μm、より好ましくは2~8μmである。
[モード径]
通常1μm~10μm、好ましくは1~9μm、より好ましくは2~8μmである。
【0020】
前記酵母細胞壁画分の調製に用いられる酵母(以下、これを「酵母原料」又は単に「酵母菌」とも称する)は、人体の摂取又は服用に適したものであればよく、例えば麦酒酵母菌、パン酵母菌、ワイン酵母菌、及びトルラ酵母菌等のように、従来より飲食物等の経口組成物の製造に使用されている酵母菌を任意に使用することができる。具体的には、サッカロマイセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・ルーキシイ(Saccharomyces rouxii)、及びサッカロマイセス・カールスバーゲンシス(Saccharomyces carlsbergensis)等のサッカロマイセス属に属する酵母菌; キャンディダ・ウチリス(Candida utilis)、キャンディダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、キャンディダ・リポリティカ(Candida lipolytica)、及びキャンディダ・フラベリ(Candida flaveri)等のキャンディダ属に属する酵母菌;トルラスポラ・デルブルエキ(Torulaspora delbrueckii)、トルラスポラ・ファーメンタチ(Torulaspora fermentati)、トルラスポラ・ロゼイ(Torulaspora rosei)等のトルラ酵母を例示することができる。これらの酵母は単独で使用されてもよいし、また2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。これらの酵母原料は、生菌及び死菌の別、また湿潤及び乾燥状態の別を特に問うことなく、いずれも本発明の酵母細胞壁画分の製造原料として使用することができる。
【0021】
本発明の酵母細胞壁画分は、制限されないものの、前記酵母原料を、菌体内の細胞内容物を溶出する処理(細胞内容物溶出処理)、及び分画処理に供し、前述する粒度分布におけるメジアン径D50が1μm~10μmの画分を分取することで調製することができる。
【0022】
「細胞内容物溶出処理」は、アミノ酸成分、ペプチドやタンパク質成分(酵素を含む)、糖質成分、核酸成分、並びに脂質成分等を含む内因性の菌体内成分を菌体外に溶出する処理である。調製される酵母の細胞壁がマイクロカプセルの皮膜として許容される化学的及び物理的性質を有しながらも、これが達成できる方法であれば、特に制限されず、公知の方法を任意に組み合わせることで実施することができる。例えば、公知の方法としては、加温処理;溶出促進剤添加法;菌体内成分溶出酵素等の酵素を用いた酵素処理法;pH処理等の物理的処理法;アルコール処理方法;又はこれら2種以上の処理の組み合わせ等を挙げることができる(例えば、特許文献7及び8等参照)。好ましくは酵素処理法と加温処理の組み合わせであり、より好ましくはこれらの処理にさらにpH処理を組み合わせる方法である。
【0023】
例えば、加温処理は、制限されないものの、酵母原料を水に懸濁した液を通常30~100℃、好ましくは30~60℃に加温し、数分から数時間かけて撹拌することによって実施することができる。この際、菌体内から細胞内容物の効率的に溶出するためには溶出促進剤を併用することもできる。かかる溶出促進剤としては、例えばエタノール等の低級アルコール;酢酸エチル及びアセトン等の極性有機溶剤;無機塩類、糖類、4級アンモニウム塩、各種防菌・抗菌・殺菌剤及び水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基類等を挙げることができる。
【0024】
また酵素処理法には、酵母が有する自己消化酵素を利用する方法(Babayan,T.L. and Bezrukov,M.G., 1 Acta Biotechnol.0,5,129-136(1985))、並びにプロテアーゼ単独、又はヌクレアーゼ、β-グルカナーゼ、エステラーゼ又はリパーゼのいずれか少なくとも1種の酵素とプロテアーゼとを組み合わせて酵母を処理する方法が含まれる。具体的には、自己消化酵素を有する酵母の水分散液あるいは上記酵素を添加した酵母の水分散液を30~60℃の温度範囲で1~48時間程度インキュベーションすることによって実施することができる。
【0025】
pH処理には、対象とする酵母原料を塩酸、リン酸、硫酸、乳酸、クエン酸、酢酸、又はアスコルビン酸等の酸性水溶液(pH2以下)に懸濁し、所定時間かけて撹拌しながら加熱(50~100℃)する酸処理方法;及び、対象とする酵母原料をアルカリ性水溶液、好ましくはpH9~13、より好ましくはpH10~12を有する水溶液中で数分から数時間かけて撹拌するアルカリ処理方法が含まれる。アルカリ性水溶液の温度は特に制限されず、通常20~100℃の範囲を用いることができる。アルカリ性水溶液の調整には、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、ケイ酸ナトリウム等の無機塩;又はアンモニア、モノエタノールジアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン水溶液等の有機窒素系化合物を用いることができる。pH処理として、好ましくは加温下での酸処理である。
【0026】
アルコール処理としては、対象とする酵母原料に一価のアルコール類を添加する方法を挙げることができる。
【0027】
前記pH処理及びアルコール処理はいずれも、酵母菌体内部にできるだけ多くの外因成分を包接させるための酵母菌体の前処理として採用される工程であり(特許文献9~11)、通常、酵母原料を酵素処理した後、上清を除去し、得られた菌体残渣を、必要に応じて洗浄した後に、pH処理及び/又はアルコール処理を実施することができる。好ましくは、酸処理である。
【0028】
これらの細胞内容物溶出処理により調製される酵母細胞壁調製物は、次いで分画処理により、前述する粒度分布におけるメジアン径D50が1μm~10μmの画分を分取することができる。
かかる分画処理は、前記細胞内容物溶出処理により調製される酵母細胞壁調製物の中から、水懸濁液中のメジアン径D50が上記範囲にある酵母細胞壁画分を取得する処理であればよい。好ましくは、前記酵母細胞壁調製物の中から、水懸濁液中のメジアン径D50が上記範囲にあり、10%径(D10)が0.1μm~5μmの範囲、及び90%径(D90)が4μm~10μmの範囲にある画分を取得する方法である。より好ましくは、前記酵母細胞壁調製物の中から、水懸濁液中のメジアン径D50が上記範囲にあり、モード径が1μm~10μmの範囲、及び/又は、体積平均径が1μm~10μmの範囲にある画分を取得する方法である。なお、メジアン径D50、10%径(D10)、及び90%径(D90)、モード径、及び体積平均径の好適な範囲、及びより好適な範囲は、前述した通りである。
【0029】
分画処理は、得られる酵母細胞壁がマイクロカプセル殻として使用できる化学的及び物理的性質を有しながらも、上記が達成できる方法であれば、特に制限されない。制限されないものの、例えば遠心分離を用いた分画処理、メンブランフィルター等を用いた振り分け処理、フローサイトメトリー等のフィールド・フロー分画処理、電気泳動等の泳動技術を用いた分画処理等、公知の分画法を単独又は組み合わせて実施することができる。操作が簡単であることから、好ましくは遠心分離を挙げることができる。なお、これらの各分画処理で採用する条件は、調製される酵母細胞壁が前述する粒度分布を満たすように適宜設定することができる。
【0030】
これらの分画処理は、前述する細胞内容物溶出処理後に行ってもよいし、また細胞内容物溶出処理の前に行うこともできる。また2種以上の細胞内容物溶出処理を組み合わせて行う場合、これらの処理と処理の間に行うこともできる。
【0031】
酵母細胞壁画分の調製方法として、制限されないものの、好適には、酵母原料として使用する酵母菌体を、分画処理、加温条件下での酵素処理、加温条件下での酸処理、中和処理、並びに分画処理を行い、沈降残渣を酵母細胞壁の懸濁液として取得する方法を挙げることができる。より好ましくは、最初と最後だけでなく、前記酵素処理と酸処理の間、及び酸処理と中和処理の間にも分画処理を行い、分画処理で得られる沈降残渣を次の工程に供する方法である。ここで分画処理は、好ましくは遠心分離処理を挙げることができる。
【0032】
遠心分離条件は、上記目的が達成できる条件であればよく、制限されないものの、例えば酵母細胞壁画分を含む組成物を固形換算で5質量%の割合で含む水分散液に調整した場合、回転数4000~8000rpmの条件下で5~20分間、好ましくは回転数400~5000rpmで5~15分間の遠心分離を行う方法を例示することができる。
【0033】
斯くして調製される酵母細胞壁画分は、原料として用いる酵母(酵母原料)の別に関わらず、菌体内に後述する疎水性香料を均一に大量に収容することができ、香料包接に用いる酵母細胞壁画分として有用である。
酵母細胞壁画分の形態は、酵母細胞壁の乾燥粉体が分散した状態で集合したもの(乾燥粉体集合物)であってもよいし、また酵母細胞壁が水等の酵母細胞にダメージを与えない溶媒に分散した状態で集合したものであってもよい(溶媒分散体)。
【0034】
(II)酵母粉末香料、及びその調製方法
本発明の酵母粉末香料は、前述する酵母細胞壁画分にオクタノール/水分配係数(logP)が1.5~4.8の疎水性香料を包接した疎水性香料包接酵母の水懸濁液を、任意の賦形剤と共にスプレードライしたものである。
【0035】
「オクタノール/水分配係数」(以下、単に「Pow」とも称する。)は、1-オクタノールと水の2つの溶媒相中に化学物質を加えて平衡状態となった時の、その2相における化学物質の濃度比を意味し、化学物質の疎水性(脂質への溶けやすさ)を表す物理化学的な指標として使用される。一般的に、対数値(logP)で記述される。
【0036】
前述する酵母細胞壁画分の内部に包接させる疎水性香料は、前述するように、Powが対数値(logP)で1.5~4.8の範囲にあることが好ましい。より好ましくは、logP=1.7~4.77、さらに好ましくはlogP=1.78~4.57、特に好ましくはlogP=1.8~4.0である。logP値が1.5より小さくなると疎水性が低いことに起因して、包接前に懸濁液に香料が溶解し、酵母細胞壁画分への包接に適さないと推測される。また、logP値が4.8より大きくなると疎水性が高いことに起因して、懸濁液に馴染まず、酵母細胞壁画分への包接に適さないと推測される。
本発明において使用し得る疎水性香料の形態は、特に限定されるものでないが、常温において結晶状であっても良い。
【0037】
前記Pow対数値(LogP)を充足する香料成分としては、具体的には、ヘキサン酸(n-カプロン酸)、オクタン酸(カプリル酸)、デカン酸(カプリン酸)、及びラウリックアシッド(ラウリン酸)等の炭素数6~12の酸(具体的にはカルボン酸、より具体的には直鎖飽和脂肪酸);ヘキサナール、オクタナール、及びデカナール等の炭素数6~10のアルデヒド;ブチルアセテート、ヘキシルアセテート、及びオクチルアセテート等の炭素数6~10のエステル;ヘキサナール、オクタノール、デカノール及びドデカノール等の炭素数6~12のアルコール;メントール、及びリモネン等の炭素数10~12モノテルペンを例示することができる。好ましくは炭素数6~10の酸、アルデヒド、エステル、アルコール、及びモノテルペンであり、より好ましくは炭素数8~10の酸、アルデヒド、エステル、アルコール、及び炭素数10のモノテルペンである。本発明が対象とする香料は、これらの香料成分の一種単独で構成されてなるものであっても、また2種以上の組み合わせで構成されてなるものであってもよい。
【0038】
好ましくはメントール、メントール類縁体、及びオレンジ香料である。メントールの類縁体としては、例えばl-メントール、dl-メントール、3-l-メントキシプロパン-1,2-ジオール、イソプレゴール、ネオイソプレゴール、イソイソプレゴール、ネオイソイソプレゴール、ネオメントール、イソメントール、ネオイソメントール、シトロネロール、リナロール等、ハッカ油、ペパーミント油、乳酸メンチル、イソプレゴール、コハク酸メンチル等が挙げられる。一方、オレンジ香料は、D-リモネンを主な香料成分とする香料組成物であるが、α-ピネン、β-ピネン、サビネン、ミルセン、リナロール、γ―テルピネン等も含まれていることから、これらの香料成分についても本発明において使用し得る。
【0039】
上記疎水性香料は、前記酵母細胞壁画分と接触させること、つまり混合することによって、当該酵母細胞壁画分に包接させることができる。具体的には、前記酵母細胞壁画分の水懸濁液に疎水性香料を添加し、所望によりpHや温度を調整して、所定時間撹拌することによって、疎水性香料を酵母細胞壁に包接させることができる。
本発明において使用し得る疎水性香料が常温で結晶形状を有するものである場合、酵母細胞壁画分に包接させるための条件としては、当該結晶がゆっくりと液状に溶解するような、温度、pH条件及び撹拌条件を採用すれば良い。具体的には、以下のような条件が挙げられる。
pHは、特に制限されないが、通常pH5~9の範囲、好ましくはpH6~8の範囲から適宜選択することができる。また温度は、特に制限されないが、通常40~80℃の範囲、好ましくは50~70℃の範囲から適宜選択することができる。撹拌は、制限されないものの、例えば、撹拌翼を有するプレンダー、乳化機、分散機、又はホモジナイザ一等の各種の攪拌装置を使用することによって、疎水性香料を酵母細胞壁画分により効率的に包接化することができる。この際、撹拌速度や撹拌回転数等も特に制限されないが、通常1000~10000rpm、好ましくは1000~5000rpmの範囲から適宜選択調整することができる。
【0040】
なお、酵母細胞壁画分と疎水性香料との混合に際して、本発明の効果が妨げられないことを限度として、その系に硬膜剤、酸化防止剤、安定剤、分散剤、乳化剤、pH調整剤、防腐剤、又は劣化防止剤等を配合することもできる。
【0041】
次いで、必要に応じて、上記方法で得られる疎水性香料包接酵母(以下、これを「香料包接酵母調製物」と称する)の表面の一部又は全部に、糖類、高甘味度甘味料、タンパク質及び/又は多価アルコールを付着させることもできる。
【0042】
ここで用いられる糖類としては、アラビノース、ガラクトース、キシロース、グルコース、ソルボース、フルクトース、ラムノース、リボース、異性化液糖、N-アセチルダルコサミン等の単糖類;イソトレハロース、スクロース、トレハルロース、トレハロース、ネオトレハロース、パラチノース、マルトース、メリビオース、ラクチュロース、ラクトース等の二糖類;マル卜トリオース等の三糖類;マルトテトラオース等の四糖類;α-サイクロデキストリン、β-サイクロデキストリン、イソマルトオリゴ糖(イソマルトース、イソマルトトリオース、パノース等)、オリゴ-Ν-アセチルダルコサミン、ガラクトシルスクロース、ガラクトシルラクトース、ガラクトピラノシル(β1-3)ガラクトピラノシル(β1-4)グルコピラノース、ガラク卜ピラノシル(β1-3)グルコピラノース、ガラクトピラノシル(β1-6)ガラクトピラノシル(β1-4)グルコピラノース、ガラクトピラノシル(β1-6)グルコピラノース、キシロオリゴ糖(キシロトリオース、キシロビオース等)、ゲンチオオリゴ糖(ゲンチオビオース、ゲンチオトリオース、ゲンチオテトラオース等)、スタキオース、テアンデオリゴ、ニゲロオリゴ糖(ニゲロース等)、パラチノースオリゴ糖、パラチノースシロップ、フコース、フラクトオリゴ糖(ケストース、ニストース等)、フラククトフラノシルニストース、ポリデキストロース、マルトシルβ-サイクロデキストリン、マルトオリゴ糖(マルトトリオース、テトラオース、ペンタオース、へキサオース、ヘプタオース等)、ラフイノース、砂糖結合水飴(カップリングシュガー)、大豆オリゴ糖、転化糖、水飴、デキストリン、アラビアガム、キサンタンガム、グァーガム、カラギーナン、カードラン、タマリンドシードガム、ジエランガム、スターチ、モディファイドスタ一チ等のオリゴ糖類及び多糖類;イソマルチトール、エリスリトール、キシリトール、グリセロール、ソルビトール、パラチニット、マルチトール、マルトテトライトール、マルトトリイトール、マンニトール、ラクチトール、還元イソマルトオリゴ糖、還元キシロオリゴ糖、還元ゲンチオオリゴ糖、還元麦芽糖水飴、還元水飴等の糖アルコールを例示することができる。好ましくは、ラクトースやトレハロース等の二糖類、及びマンニトール等の糖アルコールである。これらの糖類は1種単独で使用しても2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。
【0043】
また高甘味度甘味料としては、α-グルコシルトランスフェラーゼ処理ステビア、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、アリテーム、カンゾウ抽出物(グリチルリチン)、グリチルリチン酸三アンモニウム、グリチルリチン酸三カリウム、グリチルリチン酸三ナトリウム、グリチルリチン酸二アンモニゥム、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸ニナトリウム、クルクリン、サッカリン、サッカリンナトリウム、シクラメート、スクラロース、ステビア抽出物、ステビア末、ズレチン、タウマチン(ソーマチン)、テンリヨウチヤ抽出物、ナイゼリアベリ一抽出物、ネオテーム、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン、 フラクトシルトランスフフェラーゼ処理ステビア、ブラジルカンゾウ抽出物、ミラクルフルーツ抽出物、ラカンカ抽出物、酵素処理カンゾウ、及び酵素分解カンゾウ等を例示することができる。これらの高甘味度甘味料は1種単独で使用しても2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。
【0044】
タンパク質としては、ゼラチン、ゼラチン加水分解物、トウモロコシタンパク質、カゼイン、カゼインナトリウム、及びコラーゲンを挙げることができる。これらのタンパク質は1種単独で使用しても2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。
【0045】
多価アルコールとしては、グリセリン、プロピレングリコール、並びにこれらの重合体であるポリプロピレングリコール及びポリグリセリンを挙げることができる。これらの多価アルコールは1種単独で使用しても2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。
【0046】
さらにこれらの糖類、高甘味度甘味料、タンパク質及び多価アルコールは、それぞれ単独で使用しても2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。前述する香料包接酵母調製物の表面に糖類、高甘味度甘味料、タンパク質及び多価アルコール(以下、これらを総称して「糖類等」ともいう)を付着させる方法も特に制限されない。例えば、前述する方法で調製される香料包接酵母調製物を噴霧乾燥機等により乾燥して、これに糖類等を水等の溶媒に溶解若しくは分散した溶液又は分散液を流動層造粒機等により噴霧する方法;糖類等を敷き詰めた床(フルイドベッド)に向けて香料包接酵母調製物の水分散液を噴霧し、次いで糖類等で表面が覆われた香料包接酵母調製物の分散液滴を分取して乾燥する方法;香料包接酵母調製物の水分散液に糖類等を添加して均一に溶解させた後、凍結乾燥する方法;香料包接酵母調製物を噴霧乾燥等により乾燥して、これに高速攪拌混合機等で糖類等を粉体混合する方法;並びに、香料包接酵母調製物の水分散液に糖類等を添加して均一に溶解後、該分散液を噴霧乾燥する方法等を例示することができる。ここで、香料包接酵母調製物と糖類等との割合は、乾燥固形分の重量比で、疎水性香料包接酵母調製物100質量部に対して糖類等が1~90質量部、好ましくは10~50質量部、より好ましくは20~40質量部となるような割合を挙げることができる。
【0047】
斯くして調製される香料包接酵母調製物は、食品、医薬品、医薬部外品、香粧品、又は飼料の成分として使用することができる。好ましくは経口的に用いられる経口組成物(飲食品、経口用の医薬品又は医薬部外品、及び飼料)の香料成分として用いることができる。好ましくは飲食品の粉末香料(マイクロカプセル化香料)として使用することができる。なお、ここで経口組成物には、体内への摂食が可能な可食性組成物と、摂食の有無に拘わらず口腔内で用いられる口腔用組成物のいずれもが包含される。
【0048】
本発明の粉末香料は、口腔内で保持されるか、又は口腔内で咀嚼しながら摂取される態様の飲食品の配合成分として好適に使用することができる。かかる飲食品としては、具体的にはチューインガム、並びにグミやヌガー等のソフトキャンディー等、口腔内で長く咀嚼することによって摂取される菓子や嗜好品(食品組成物)を例示することができる。なお、本発明でチューインガムとは、口腔内で咀嚼して摂取されるガムを広く意味するものであり、フーセンガムを含む概念である。
【0049】
本発明の飲食品、とりわけチューインガムは、成分として本発明の酵母粉末香料を含む点以外は、従来公知の飲食品、とりわけチューインガムの成分を含み、また従来公知の製造方法に従って製造することができる。
チューインガムの場合、最終的に得られるチューインガム100質量%に含まれる本発明の酵母粉末香料の割合としては、制限されないが、通常0.05~10質量%の範囲から選択することができる。
【0050】
チューインガムに使用する場合、本発明の酵母粉末香料を用いた具体的な処方は、例えば、以下の通りである。
[処方]
ガムベース 25部
砂糖 62部
コーンシロップ 10部
グリセリン 1部
酵母粉末香料 2部
合計 100部
ガムベース、砂糖、コーンシロップ及びグリセリンを混合し、酵母粉末香料を添加した後、ミキサーで50℃に保温下、均一に混錬する。冷却後、ローラーにより圧展形成し、板状のチューインガムを調製する。
【0051】
(III)酵母細胞壁画分に対する疎水性香料の包接性向上方法
本発明は、香料包接に用いる酵母細胞壁画分について、疎水性香料の包接性を高め、疎水性香料包接酵母細胞壁画分における疎水性香料の包接率を向上する方法を提供する。
当該方法は、疎水性香料の包接に用いる酵母細胞壁画分を、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いてその水懸濁液について測定される体積基準の粒度分布におけるメジアン径D50が、1μm~10μmになるように調整(整粒処理)することで実施することができる。こうした整粒処理は、前記(I)に記載する分画処理を用いることで実施することができる。
【0052】
さらに前記香料包接に用いる酵母細胞壁画分として、下記の粒度分布及び平均粒子径を有するものを用いることが好ましい。
[メジアン径D50]
通常1μm~10μm、好ましくは1~9μm、より好ましくは2~8μmである。
[10%径D10]
通常0.1μm~5μm、好ましくは0.2~4.9μm、より好ましくは0.3~4.8μmである。
[90%径D90]
通常4μm~10μm、好ましくは4.1~9.9μm、より好ましくは4.2~9.8μmである。
[粒子径及び頻度(%)]
1μm以下の粒子の割合:70%以下、好ましくは50%以下、より好ましくは0~30%。
10μm以上の粒子の割合:50%以下、好ましくは40%以下、より好ましくは0~30%。
[体積平均径]
通常1μm~10μm、好ましくは1~9μm、より好ましくは2~8μmである。
[モード径]
通常1μm~10μm、好ましくは1~9μm、より好ましくは2~8μmである。
【0053】
こうした酵母細胞壁画分の調製方法は、前記(I)で説明した通りであり、その記載はここに援用することができる。酵母細胞壁画分に包接させる疎水性香料は、前記(II)で説明した通りであり、その記載はここに援用することができる。好ましくはPowが対数値(logP)で1.5~4.8の範囲、より好ましくはlogP=1.7~4.8、さらに好ましくはlogP=1.78~4.57、特に好ましくはlogP=1.8~4.0の範囲にある疎水性香料である。
【0054】
本発明の方法によれば、香料包接に用いる酵母細胞壁画分への疎水性香料の包接率を向上することができる。
【0055】
以上、本明細書において、「含む」及び「含有する」の用語には、「からなる」及び「から実質的になる」という意味が含まれる。
【実施例0056】
以下、本発明の構成及び効果について、その理解を助けるために、実験例を用いて本発明を説明する。但し、本発明はこれらの実験例によって何ら制限を受けるものではない。以下の実験は、特に言及しない限り、室温(25±5℃)、及び大気圧条件下で実施した。なお、特に言及しない限り、以下に記載する「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0057】
実験例で使用した酵母原料、及び測定方法は、下記の通りである。
[酵母原料]
(1)酵母A:ワイン酵母粉末(S. cereviciae)(Nobless、Lallemand Inc.)
(2)酵母B:ワイン酵母粉末(S. cereviciae)(OptiWhite、Lallemand Inc.)
(3)酵母C:ビール酵母(S. cereviciae)(乾燥ビール酵母HB-P02、アサヒグループ食品株式会社)
(4)酵母D:ビール酵母(S. cereviciae)(乾燥ビール酵母B、三輪製薬株式会社)
(5)酵母E:トルラ酵母粉末(Candida utilis)(三輪製薬株式会社)
【0058】
[酵母の粒度分布測定]
測定対象酵母5gを水に分散した泥状液100gを4500rpmで10分間遠心し、上清と沈殿とに分画した。分画により取得した上清画分は、乾燥固形量を測定した後、水に懸濁して固形分が1%の水懸濁液として調製した。一方、分画により取得した沈澱画分は、乾燥固形量を測定した後、水に懸濁して固形分が5%の水懸濁液として調製した。それぞれの画分の水懸濁液の粒度分布(体積基準)をレーザー回折式粒度分布計マイクロトラック MT―3000II(Microtrac Inc.)にて測定した(溶媒屈折率:1.333、粒子屈折率:1.81)。
【0059】
[香料包接酵母の香料含有量の測定]
(1)香料含量(全体油量)の測定方法(概略)
対象の香料包接酵母粉末を水:エタノール(50:50)又は水:アセトン(50:50)で懸濁し、ソニケーションし、調製した溶液中の香料含量をガスクロマトグラフィーにより定量した。
(2)香料含量(表面油量)の測定方法(概略)
対象の香料包接酵母粉末をn-ヘキサン中で撹拌懸濁した後、濾紙を用いて濾過したろ液中の香料含量をガスクロマトグラフィーにより定量した。
(3)ガスクロマトグラフィー条件
GC装置6890N:Agilent Technologies社製
カラム:DB-WAX/長さ30m、内径0.25mm(Agilent Technologies社製)
カラム温度条件:50~220℃(5℃/分昇温)(メントール)
40~200℃(2℃/分昇温)(D-リモネン)
キャリアガス:ヘリウム。
予め、既知濃度の各種測定対象香料(標準品)と1-オクタノール(内部標準品)を用いて検量線を作成しておき、検量法により定量した。
【0060】
実験例1 各種酵母原料の粒度分布の測定
酵母原料として前述する酵母A~Eを、前述する方法で上清と沈殿とに分画し、それぞれの画分サンプル(水懸濁液)の粒度分布をレーザー回折式粒度分布計で測定した。各酵母原料の各画分の粒度分布を
図1に、粒子径の平均をメジアン径(D
50:μm)として求めた結果を表1に示す。
【表1】
【0061】
その結果、酵母の種類により、また同じ種の酵母であっても入手メーカーの違いにより、粒度分布に差があることが確認された。しかし、いずれの酵母の沈澱画分にも、メジアン径(D50)1~10μmの範囲の粒子が存在することが確認された。なお、酵母AとEの沈澱画分には、メジアン径(D50)1~10μm範囲の粒子に加えて、10~100μmの範囲に粒子が確認された。これは1~10μmの粒子(単粒子)が凝集した状態にあるものと考えられた。
【0062】
実験例2 メントール包接酵母(粉末香料)の調製とその評価
前述する酵母A~Eを酵母原料として用いて、酵母菌体内に、その細胞内容物に換えてメントール(logP:3.38)を包接してメントール包接酵母(粉末香料)を調製し、菌体内に取り込まれたメントールの含有量(メントール包接率)を測定した。
【0063】
(1)メントール包接酵母を調製
(1-1)酵母菌体内の細胞内容物の除去
各種酵母原料(酵母A~E)100gを水に分散した泥状液2000gに、プロテアーゼM「アマノ」SD(天野エンザイム株式会社)2gを添加後、50℃で20時間振とうし、菌体内の細胞内容物を菌体外に溶出させた。得られたスラリーを8000rpmで20分間遠心分離し、上清を除去して、酵母菌体350g(乾燥固形分20%)を得た。これに、水1036g、濃塩酸14gを加えて80℃で30分間加熱した後(酸処理)、冷却した。その後、8000rpmで20分間遠心分離し、上清を除去して、酸処理酵母菌体500g(乾燥固形分10%)を得た。これに10%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pHを7.0に調整し、中和した。その後、8000rpmで20分間遠心して上清を除去し、残渣を、菌体内の細胞内容物が除去された酵母として取得した。
【0064】
(1-2)酵母菌体内へのメントールの包接
斯くして調製された細胞内容物除去酵母を水に分散し、当該水分散液(乾燥固形分10%)450gを60℃に加温し、これにメントール25gを添加して3000rpmで2時間撹拌して、当該酵母の菌体内にメントールを包接させた。次に、当該酵母を含む水溶液475gを60℃に加温した50%ラクトース含有水溶液60gを添加して混合した。次いで、これらの混合溶液をスプレードライヤーにかけて、インレット温度150℃、アウトレット温度90℃の条件で噴霧乾燥し、メントール包接酵母菌粉末(以下、単に「メントール包接酵母」と称する)を90g得た。理論上は、粉末全体で100gになるはずだが、10gはスプレードライの工程で回収できなかったことを意味する。
【0065】
<メントール包接酵母の組成>
酵母細胞壁: 45質量部
メントール: 25質量部
賦形剤(ラクトース): 30質量部
全体: 100質量部
【0066】
(2)菌体中のメントール含量の定量
(2-1)メントール包接酵母(全体)に含まれているメントールの定量
上記で調製した各種メントール包接酵母0.1gを、超純水25mLで懸濁した後、5分間超音波処理を行った。その溶液に99%エタノール水溶液12.5mLを添加し5分間超音波処理を行った。次いで、これに10% 1-オクタノール溶液(溶媒:エタノール)0.5mLを内部標準として加え、99%エタノール溶液12mLを加え、試験溶液とし、ガスクロマトグラフィー(GC)によりメントールの含量を定量した。この含量は、メントール包接酵母全体に含まれているメントール含量(全体含量)に相当する。この全体含量から、メントール包接酵母全量100質量%に対する割合を算出し、これを全体含有率(%)とした。
【0067】
(2-2)メントール包接酵母の表面に付着しているメントールの定量
上記(1-2)で調製した各種メントール包接酵母5gを、n―ヘキサンで25mLに懸濁しスターラーで30秒撹拌し、懸濁液とした。次いで、濾紙にて当該懸濁液を濾過し、得られた濾液に10% 1-オクタノール溶液0.5mLを内部標準として加え、n―ヘキサン24.5mLを加え、試験溶液とし、GCによりメントールの含量を定量した。この含量は、メントール包接酵母の表面に付着しているメントール含量(表面含量)に相当する。この表面含量から、メントール包接酵母全量100質量%に対する割合を算出し、これを表面含有率(%)とした。
【0068】
(2-3)結果
上記の定量結果から、メントール包接酵母の菌体内に含まれているメントール包接率を、下式により算出した。
[数1]
包接率(%)=〔(全体含有率(%))-(表面含有率(%))〕/(全体含有率(%))
【0069】
各酵母について得られた結果を表2に示す。
【表2】
【0070】
表2に記載するように、使用酵母種によりメントール包接率にばらつきが見られた。実験例1で示すように、各社が販売する酵母菌体は、種類又は精製工程の相違により、菌体の粒度分布にばらつきがあることから、それが菌体内へのメントール包接率に影響している可能性が考えられた。
【0071】
実験例3 改良メントール包接酵母の調製とその評価
酵母菌体内へのメントール包接率を向上するために、酵母原料として酵母A及びCを用いて、実験例2(1)(1-1)で採用した「酵母菌体内の細胞内容物の除去」方法に改良を加えた。
【0072】
(1)改良方法
(1―1)改良1
酵母A及びCについて、各150gを水に分散した泥状液3000gをよく懸濁し、4500rpmで10分間遠心分離し、上清を除去して、酵母菌体2000g(乾燥固形5%)を得た(工程1)。この遠心処理により、酵母A及びCに含まれるメジアン径0.1-1μmの範囲の粒子を除去した。
次いで、以降、実験例2(1)(1-1)(工程2)及び(1-2)(工程3)に記載する方法を行って、メントール包接酵母菌粉末(「メントール包接酵母」と略称)を90g得た(実施例1:酵母A由来、実施例2:酵母C由来)。
【0073】
(1-2)改良2
酵母A及びCについて、各150gを水に分散した泥状液3000gをよく懸濁し、4500rpmで10分間遠心分離し、上清を除去して、酵母菌体2000g(乾燥固形5%)を得た(工程1)。
次いで、これに、プロテアーゼM「アマノ」SD(天野エンザイム株式会社)2gを添加後、温度50℃で20時間振とうし、菌体内の細胞内容物を菌体外に溶出させた。得られたスラリーを4500rpmで10分間遠心分離し、上清を除去して、酵母菌体350g(乾燥固形分20%)を得た。これに、水1036g、濃塩酸14gを加えて80℃で30分間加熱した後(酸処理)、冷却した。その後、4500rpmで10分間遠心分離し、上清を除去して、酸処理酵母菌体500g(乾燥固形分10%)を得た。これに10%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pHを7.0に調整し、中和した。その後、4500rpmで10分間遠心し上清を除去し、残渣を、菌体内の細胞内容物が除去された酵母として取得した(工程2’)。
次いで、以降、実験例2(1)(1-2)に記載する方法を行って(工程3)、メントール包接酵母菌粉末(「メントール包接酵母」と略称)を90g得た(実施例3:酵母A由来、実施例4:酵母C由来)。
【0074】
(2)結果
(2-1)菌体内に包接されたメントール含量の定量
上記で調製したメントール包接酵母(実施例1~4)について、実験例2(2)に記載する方法で、菌体全体及び菌体表面におけるメントール含量を定量し、メントールの全体含有率(%)、表面含有率(%)、及び包接率(%)を求めた。
結果を、表3に、実験例2の結果(比較例1:酵母A由来、比較例2:酵母C由来)とともに示す。
【表3】
【0075】
表3に示すように、実験例2(1)(1-1)の「酵母菌体内の細胞内容物の除去」方法に、4500rpmで10分間の遠心分離工程(工程1)を加えたことによって、メントール包接率の上昇が見られた(実施例1及び3)。このことから、メジアン径(D50)0.1―1μmの範囲の粒度を有する酵母原料は、例えば4500rpmで10分間の遠心分離方法等により、当該範囲にある粒子を除去する工程を追加することで、その後のメントール包接処理によるメントール包接量が上昇することが確認された。さらに、前記工程1に加えて、実験例2(1)(1-1)に記載する「酵母菌体内の細胞内容物の除去」方法において、2回の遠心分離条件(8000rpm×20分)を、4500rpm×10分に変更することにより(工程2)、メントール包接率のさらなる上昇が見られた(実施例2及び4)。
【0076】
(2-2)酵母細胞壁画分の粒度分布測定
上記で得られたメントール包接酵母(実施例3:酵母A由来、実施例4:酵母C由来)に関して、その調製工程(工程1及び2’)(改良法2)で得られた画分(酵母細胞壁画分)について、工程2’で得られた上清と残渣(沈殿)を分取し、それぞれの画分の水懸濁液をレーザー回折式粒度分布計にて粒度分布を測定した。比較として、対応する酵母A及びCを実験例2(1)(1-1)に記載する方法(未改良法)で菌体細胞内容物を除去した酵母についても、同様にして、上清と残渣(沈殿)を分取し、それぞれをレーザー回折式粒度分布計にて粒度分布を測定した。
【0077】
各酵母細胞壁画分の各画分の粒度分布を
図2に、粒子径の平均をメジアン径(D
50:μm)として求めた結果を表4に示す。
【表4】
【0078】
実施例3及び4は、比較例1及び2よりもメントール包接率の上昇が見られた(表3)。一方で、実施例3及び4におけるメントール包接率は、それぞれ実施例1及び2よりも高い値を示した。
表4及び
図2に示すように、改良法2で調製された酵母細胞壁画分(実施例3及び4の原料として使用)はいずれも、沈殿と上清の粒度分布がほぼ同じで、沈殿及び上清ともに1-10μmの範囲に単一のピークを有することが確認された。これに対して、未改良法で調製された酵母細胞壁画分はいずれも、沈殿と上清の粒度分布が相違し、上清の粒度分布は沈澱のそれよりも小さかった。
以上の結果より、沈殿及び上清ともに1-10μmの範囲に単一のピークを持つように調製された酵母菌粉末を原料として、これにメントールを包接することで、菌体内へのメントール包接率(包接量)が高くなることが確認された。
【0079】
実験例4 酵母菌体の粒度分布の違いによる菌体包接接率の影響
上記実験例により、粒度分布がメジアン径(D50)1-10μmの範囲にある酵母菌粉末を原料とすることで、菌体内への香料の包接率(香料包接率)量が向上することが確認された。ここでは、これを改めて確認するために、粒度分布において1μm以下にピークを有する酵母菌体を用いてメントール包接率を測定した。
【0080】
(1)メントール包接酵母菌粉末の調製
酵母A300gを水に分散した泥状液1080gを、4500rpmで10分間遠心分離し、上清450g(乾燥固形分10%)を得た。以降、実験例2(1)(1-2)に記載する方法によって、メントール包接酵母菌粉末(メントール包接酵母)を90g得た(比較例3)。
【0081】
(2)包接されたメントール含量の定量
得られたメントール包接酵母(比較例3)について、実験例2(2)と同様の方法で、菌体全体及び表面のメントールの含量を定量した。結果を表5に、前記比較例1の結果とともに示す。
【表5】
【0082】
(3)粒度分布測定
前記(1)の調製方法中で得られた上清450gの一部について、粒度分布をレーザー回折式粒度分布計にて測定した。結果を
図3に示す。これから粒度分布のメジアン径(D
50)は0.45μmであった。
【0083】
(4)結果
上記に示すように、比較例3は、比較例1よりも、メントール含量の低下が確認された(表5)。このことから、粒度分布がメジアン径(D50)1-10μmに存在する酵母菌粉末は香料包接能が高いのに対して、1μm以下に存在する酵母菌粉末は香料包接能が低く、香料包接能向上に寄与しないこと、寧ろ、メジアン径(D50)1-10μmに存在する酵母菌粉末中に混在していることで、香料包接能にマイナスに作用することが窺われた。
【0084】
実験例5 酵母菌体内へのオレンジ香料の包接
香料としてメントールに代えて、オレンジ香料を用いて、酵母菌体内にオレンジ香料を包接し、調製したオレンジ香料包接酵母について、オレンジ香料の全体含有率(%)、表面含有率(%)、及び包接率(%)を求めた。
【0085】
(1)オレンジ香料包接酵母菌粉体の調製
(1-1)酵母A及び酵母Cについて、実施例2(1-1)に記載する方法で、菌体内の細胞内容物を除去した酵母を含む水分散液(乾燥固形分10%)を調製した(未改良法)。
次いで、各分散液450gを60℃に加温し、これにD-リモネン(logP:4.38)を主要な香料成分として含むオレンジ香料(三栄源エフ・エフ・アイ社製)25gを添加して3000rpmで2時間撹拌した。さらに、これに、60℃に加温した50%ラクトース含有水溶液60gを添加して混合した。次いで、これらの混合溶液をスプレードライヤーにかけて、インレット温度150℃、アウトレット温度90℃の条件で噴霧乾燥し、粉末状のオレンジ香料包接酵母菌粉体(「OR香料包接酵母」と略称)を90g得た(比較例4:酵母A由来、比較例5:酵母C由来)。理論上は、粉末全体で100gになるはずだが、10gはスプレードライの工程で回収できなかったことを意味する。
【0086】
<香料包接酵母の組成>
酵母細胞壁: 45質量部
オレンジ香料: 25質量部
賦形剤(ラクトース): 30質量部
全体: 100質量部
【0087】
(1-2)酵母A及び酵母Cについて、前記未改良法に代えて実験例3(1)(1-2)に記載する改良法2を用いて、菌体内の細胞内容物が除去された酵母細胞壁画分として取得した。
次いで、以降、上記(1-1)に記載する方法に従って、粉末状のオレンジ香料包接酵母菌粉末(OR香料包接酵母)を90g得た(実施例5:酵母A由来、実施例6:酵母C由来)。
【0088】
(2)酵母菌体内に包接されたオレンジ香料含量の定量
(2-1)全体含量の定量
上記で調製したOR香料包接酵母0.04gを、超純水20mLに懸濁し5分間超音波処理を行い、純水中に菌体粉末を均一に分散させた。次いで、10% 1-オクタノール溶液(溶媒:アセトン)0.5mL、アセトン29.5mLを加え、試験溶液とした。溶液について、GCによりD―リモネンの含量を定量した。オレンジ香料の定量はD-リモネン当量とし換算した。なお、D-リモネンの定量においては、予めD-リモネンを標準品、し1-オクタノールを内部標準品として作成した検量線を用いて実施した(検量線法)(以下も同じ)。
【0089】
(2-2)表面含量の定量
上記で調製したOR香料包接酵母0.5gを、n―ヘキサンで50mLに懸濁しスターラーで30秒撹拌し懸濁した。次いで、濾紙にて懸濁液を濾過し、濾液に10% 1-オクタノール溶液(溶媒:アセトン)1mLを内部標準として加え、アセトン49mLを加え、試験溶液とし、GCによりD―リモネンの含量を定量した。
【0090】
(3)結果
オレンジ香料包接酵母におけるオレンジ香料(D-リモネン)の包接率を測定した結果を表6に示す。
【表6】
【0091】
表6に示すように、酵母A及びCのいずれも、菌体細胞内容物を前述する改良法を用いて除去することで(実施例5及び6)、未改良法で調製した酵母と比較して、より多くのオレンジ香料(D-リモネン)を菌体内に包接できることが確認された。比較例4及び5に示すように、酵母側の要因によって香料の包接率が変わるものの、改良法を用いて菌体細胞内容物を除去することで、酵母に起因する包接率のばらつきもほぼ均一できることも確認された。以上の結果より、メントールと同様に、オレンジ香料(D-リモネン)についても、包接させる酵母の粒度分布をメジアン径(D50)が1-10μmの範囲になるように調整することで、酵母種に関わらず、香料の包接率が向上できることが判明した。
【0092】
実験例6 香料の違いに基づく酵母菌体内への包接率の影響
疎水性の異なる複数の香料成分(表6参照)を用いて、酵母菌体内部への包接率を測定し評価した。なお、香料成分の疎水性を示す指標として、オクタノール/水分配係数(Pow)を用いた。
【0093】
具体的には、酵母Cを用いて、実験例2(1)(1-1)と同様の方法で調製した酵母水懸濁液60部(乾燥固形分10%)に、表7に記載する各香料成分40部を添加し、3000rpmで60分~120分かけて撹拌を行い香料包接酵母菌溶液とした。当該溶液について、倒立顕微鏡を用いて600倍で観察した。細胞壁を通じて香料が菌体内に浸透し包接されると酵母細胞は膨らみ、細胞壁の外縁が明確に観察される(例えば、
図4(a)参照)。これに対して、香料が十分に包接されなかった酵母は、細胞が膨らまないため外縁が不明瞭に観察される(例えば、
図4(b)参照)。
【0094】
撹拌から60分後、及び120分後に、上記の顕微鏡観察を行い、下記の基準に従って、香料の包接性の適否を評価した。
[香料の包接性の評価]
○:撹拌から60分後に外縁が明確に観察された(包接確認)
△:撹拌から60分後は外縁が不明瞭であるが120分後には明確に観察された(包接確認)
×:撹拌から120分後でも外縁が不明瞭である(包接未確認)。
【0095】
【0096】
この結果から、オクタノール/水分配係数(Pow)がlogP値で1.5~4.8の酸、アルデヒド、エステル、及びアルコール系の香料成分は、酵母菌体内に浸透し、菌体内に包接されることが確認された。これに対して、PowがlogP値で1.5未満の香料成分、及び4.8超の香料成分については、酵母細胞への包接が観察できなかった。
このことから、酵母菌体内への香料の包接性は、包接させる香料の疎水度(logP値)が強く影響していると考えられる。
【0097】
上記実験例6から、香料包接酵母の調製に使用する香料成分として、logP値が1.5~4.8の酸、アルデヒド、エステル、及びアルコール系から選択される少なくとも1種の香料成分が好ましいことが確認された。また前記の実験例2~5から、香料を包接させる酵母として、酵母の種類の別に関わらず、メジアン径(D50)が1~10μmの範囲の粒度分布を有するものを用いることで、菌体内への香料成分の包接量(包接率)を一律に高めることができることが確認された。