IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ リケンテクノス株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091645
(43)【公開日】2023-06-30
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20230623BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20230623BHJP
   C08L 91/08 20060101ALI20230623BHJP
【FI】
C08L67/00
C08L53/02
C08L91/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021206489
(22)【出願日】2021-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】000250384
【氏名又は名称】リケンテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】坂井 昂次
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AE054
4J002BP012
4J002BP013
4J002CF101
4J002FD024
4J002GC00
4J002GM00
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】透明性、柔軟性および相溶性を有し、更には硬質極性樹脂との接着性に優れる熱可塑性エラストマー組成物を提供する。
【解決手段】(A)ポリエステル系熱可塑性エラストマーと(B)質量平均分子量が35万以下である芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物と
(C)芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体またはその水素添加物のアミン変性体と(D)非芳香族系ゴム用軟化剤とを含む熱可塑性エラストマー組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリエステル系熱可塑性エラストマー;
(B)質量平均分子量が35万以下である芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物;
(C)芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体またはその水素添加物のアミン変性体;および
(D)非芳香族系ゴム用軟化剤;
を含む、熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
前記成分(A)、(B)及び(C)の合計を100質量%として、
前記成分(A)を40~90質量%;
前記成分(B)を10~45質量%;および
前記成分(C)を1~35質量%
を含む、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記成分(A)が、芳香族ポリエステルを主成分とした結晶相と、脂肪族ポリエーテルを主成分とした非晶相とから構成されるポリエステル系熱可塑性エラストマーである、請求項1または2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記成分(A)が、130~160℃の結晶化温度を有するポリエステル系熱可塑性エラストマーである、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
前記成分(B)が、構成単位として芳香族ビニル単位を含む重合体ブロック(X)を2個以上、および構成単位として共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体とを主体とする共重合体ブロック(Y)を1個以上有するブロック共重合体の水素添加物であり、
前記共重合体ブロック(Y)が、エチレン、ブチレンおよびスチレンを主体とする共重合体ブロックである、請求項1~4のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
前記成分(C)が、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物のアミン変性体である、請求項1~5のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
熱可塑性エラストマー組成物を1mm厚のシートとした場合のヘイズが70以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物からなるグリップ材。
【請求項9】
請求項8に記載のグリップ材を含む筆記具。
【請求項10】
請求項8に記載のグリップ材を含む工具。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物からなるプライスレール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー組成物に関し、より詳細には、透明性、柔軟性および相溶性を有し、ポリカーボネート樹脂(以下、PCと略す場合がある)やアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂(以下、ABSと略す場合がある)等の硬質極性樹脂との接着性に優れる熱可塑性エラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性エラストマー、なかでもポリエステル系熱可塑性エラストマー(以下、TPEEと略す場合がある)を含む熱可塑性エラストマーは、強度、耐衝撃性、弾性回復性、柔軟性などの機械的性質や、低温、恒温特性に優れ、さらに耐油性、耐摩耗性にも優れており、加えてPCやABS等の硬質極性樹脂に対して熱融着成形が可能であることから、自動車、電気・電子部品、消費材などの分野に広く使用されている。
【0003】
近年、TPEEをゴム質重合体や可塑剤で柔軟化し、その柔らかな触感、耐油性、耐摩耗性に着目して、カメラ、電動工具、自転車等のグリップまたはパッキン等への適用が検討され、実用化されている。
【0004】
TPEEはまた、ゴム質重合体以外にも他のエラストマーや添加剤などと共にアロイ化した熱可塑性エラストマー組成物として、様々な成形体や用途に使用されている。
【0005】
このようなTPEEを含むエラストマー組成物として、例えば、特許文献1には、スチレン系熱可塑性エラストマー(以下、SBCと略す場合がある)とTPEEと軟化剤とを配合した、柔軟性と極性樹脂への融着性に優れ、耐摩耗性にも優れる熱可塑性エラストマー組成物が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、SBC、TPEE、軟化剤及びアイオノマーを含有する、融着性や透明性を満足しつつ、圧縮永久ひずみ特性や柔軟性に優れた熱可塑性エラストマー組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-088812号公報
【特許文献2】特開2016-079226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記したようなTPEEを含む熱可塑性エラストマー組成物においては、透明性、柔軟性、相溶性および硬質極性樹脂との接着性の全てを満足させるレベルには達していない。したがって、本発明の目的は、透明性、柔軟性および相溶性を有し、更には硬質極性樹脂との接着性に優れる熱可塑性エラストマー組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討した結果、硬質極性樹脂との接着性および透明性に優れるTPEEに、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体またはその水素添加物のアミン変性体(以下、アミン変性SBCと略す場合がある)を相溶化剤として、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物(以下、水添SBCと略す場合がある)とアロイ化し、更には、非芳香族系ゴム用軟化剤を添加することにより、従来のTPEEを含む上記した熱可塑性エラストマー組成物には達成できなかった透明性、柔軟性、相溶性および硬質極性樹脂との接着性の全てを満足させるレベルの熱可塑性エラストマー組成物を実現できるとの知見を得た。本発明は係る知見によるものである。即ち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0010】
[1](A)ポリエステル系熱可塑性エラストマー;
(B)質量平均分子量が35万以下である芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物;
(C)芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体またはその水素添加物のアミン変性体;および
(D)非芳香族系ゴム用軟化剤;
を含む、熱可塑性エラストマー組成物。
[2] 前記成分(A)、(B)及び(C)の合計を100質量%として、
前記成分(A)を40~90質量%;
前記成分(B)を10~45質量%;および
前記成分(C)を1~35質量%
を含む、[1]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[3] 前記成分(A)が、芳香族ポリエステルを主成分とした結晶相と、脂肪族ポリエーテルを主成分とした非晶相とから構成されるポリエステル系熱可塑性エラストマーである、[1]または[2]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[4] 前記成分(A)が、130~160℃の結晶化温度を有するポリエステル系熱可塑性エラストマーである、[1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[5] 前記成分(B)が、構成単位として芳香族ビニル単位を含む重合体ブロック(X)を2個以上、および構成単位として共役ジエン単量体と芳香族ビニル単量体とを主体とする共重合体ブロック(Y)を1個以上有するブロック共重合体の水素添加物であり、
前記共重合体ブロック(Y)が、エチレン、ブチレンおよびスチレンを主体とする共重合体ブロックである、[1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[6] 前記成分(C)が、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物のアミン変性体である、[1]~[5]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[7] 熱可塑性エラストマー組成物を1mm厚のシートとした場合のヘイズが70以下である、[1]~[6]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[8] [1]~[7]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物からなるグリップ材。
[9] [8]に記載のグリップ材を含む筆記具。
[10] [8]に記載のグリップ材を含む工具。
[11] [1]~[7]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物からなるプライスレール。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、透明性、柔軟性および相溶性を有し、硬質極性樹脂との接着性に優れる熱可塑性エラストマー組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明による熱可塑性エラストマー組成物は、(A)ポリエステル系熱可塑性エラストマー、(B)質量平均分子量が35万以下である芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物、(C)芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体またはその水素添加物のアミン変性体、および(D)非芳香族系ゴム用軟化剤を必須成分として含む。これら成分(A)~(D)を含む組成物とすることにより、透明性、柔軟性、相溶性のいずれをも満足しつつ且つ硬質極性樹脂との接着性にも優れる熱可塑性エラストマー組成物とすることができる。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。即ち、硬質極性樹脂との接着性および透明性に優れるTPEEに、柔軟性を付与するためにSBC等のスチレン系熱可塑性エラストマーまたはその水素添加物や軟化剤を配合する場合において、両者の相溶性を向上することでより一層透明性が向上すると考えられる。TPEEとSBCとを相溶化するために酸変性SBCを添加すると、組成物の透明性が悪化する。本発明においては、アミン変性したSBCを添加することで、透明性、柔軟性および相溶性を有し、硬質極性樹脂との接着性に優れる熱可塑性エラストマー組成物を実現できたものと考えられる。以下、本発明による熱可塑性エラストマー組成物を構成する各成分について説明する。
【0013】
<(A)ポリエステル系熱可塑性エラストマー>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を構成する(A)ポリエステル系熱可塑性エラストマー(以下、単に「成分(A)」という場合ある)は、硬質極性樹脂との接着性を改善するとともに、透明性を向上させる成分である。
【0014】
ポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては、芳香族ポリエステルを結晶相とし、ポリ(アルキレンオキシド)グリコール及び/又は脂肪族ポリエステルを非晶相とするポリエーテルエステルブロック共重合体、ポリエステル・エステルブロック共重合体、ポリエーテルエステル・エステルブロック共重合体が挙げられる。
【0015】
結晶相を構成する芳香族ポリエステルとしては、60モル%以上がテレフタル酸であるジカルボン酸成分とジオール成分を共重合して得られる重合体が好ましい。芳香族ポリエステル成分の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)等が挙げられる。
【0016】
また、非晶相を構成するポリ(アルキレンオキシド)グリコールおよび脂肪族ポリエステルの具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2-および1,3-プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、エチレンオキシドとヒドロフランの共重合体、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリ-ε-カプロラクトン、ポリエチレンセパケート、ポリブチレンセパケート等が挙げられる。
【0017】
ポリエステル系熱可塑性エラストマーの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリ ブチレンテレフタレート/イソフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート・ポリ(プロピレンオキシド/エチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート・ポリ(プロピレンオキシド/エチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレート・ポリ(プロピレンオキシド/エチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート・ポリ(エチレンオキシド)グリコールブロック共重合体等が挙げられる。
【0018】
上記したポリエステル系熱可塑性エラストマーのなかでも、特に芳香族ポリエステルを主成分とした結晶相と、脂肪族ポリエーテルを主成分とした非晶相とから構成される共重合体が好ましく用いられる。なお、本明細書において、主成分とは50質量%を超えて含まれることを示す。結晶相中に含まれる芳香族ポリエステルは、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。
【0019】
上記した共重合体として、具体的には、ポリブチレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールブロック共重合体等が好ましく用いられる。
【0020】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に含まれる(A)ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、120~180℃の結晶化温度を有することが好ましく、より好ましくは130~160℃、さらに好ましくは135~150℃である。また、(A)ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、130~200℃の融解温度を有することが好ましく、より好ましくは145~180℃、さらに好ましくは150~170℃である。さらに、(A)ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、0超(DSC融解曲線に融解ピークを有する)~30J/gの融解エンタルピーを有することが好ましく、より好ましくは3~20J/g、さらに好ましくは5~12J/gである。
【0021】
なお、結晶化温度、融解温度および融解エンタルピーは、JIS K7151:2012に準拠して、定法に従い示差走査熱量計(DSC)により測定することができる。DSCの測定は、例えば、株式会社パーキンエルマージャパンのDiamond DSC型示差走査熱量計を使用し、320℃で10分間保持し、20℃/分で-50℃まで冷却し、-50℃で5分間保持し、20℃/分で320℃まで昇温するプログラムのもと行うことができる。融解温度は、セカンド融解曲線(最後の昇温過程で測定される融解曲線)より測定した温度を示す。また、結晶化温度および融解温度は、最も高い温度側に現れるピークトップとし、融解エンタルピーは最も高い温度側に現れる融解温度から算出するものとする。
【0022】
また、(A)ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、広角X線回折(XRD)により測定された微結晶サイズが好ましくは15nm以下、より好ましくは10nm以下である。結晶サイズの小さいポリエステル系熱可塑性エラストマーを使用することにより、本発明の組成物を用いた成形物の透明性がより一層向上する。なお、XRD測定による微結晶サイズの測定は下記の測定条件により行うことができる。
先ず、試料の中央部付近を切り出し、試料ホルダーに固定してホルダーを回転しながら広角X線透過法による回折プロファイル測定を実施する(Through View、全透過測定)。なお、XRD測定における測定条件は以下のとおりである。
装置 :スペクトリス社製 EMPYREAN
付属装置:回転試料ステージ
X線源:Cukα
出力:45kV40mA
検出器:PlXcel3D
走査速度:2°/min
ステップ幅:0.0131°(2285ステップ)
【0023】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に含まれる成分(A)の含有量は、成分(A)、(B)及び(C)の合計を100質量%として、40~90質量%であることが好ましく、65~85質量%であることがより好ましい。成分(A)の含有量が上記範囲内であれば、透明性と硬質極性樹脂との接着性とをより一層向上する。
【0024】
<(B)質量平均分子量が35万以下である芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を構成する(B)芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物(以下、単に「成分(B)」という場合ある)は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物から得られる成形体に柔軟性を付与するとともに透明性の維持のために重要な成分である。
【0025】
前記水添SBCは、芳香族ビニル化合物を主体とする少なくとも1個、好ましくは2個以上の重合体ブロックXと、共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックYとからなるブロック共重合体を水素添加して得られる、X-Y、X-Y-X、Y-X-Y-X、X-Y-X-Y-X等の構造を有するブロック共重合体である。
【0026】
芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックXは、芳香族ビニル化合物のみからなる重合体であってもよいし、芳香族ビニル化合物と50質量%未満の共役ジエン化合物との共重合体であってもよい。また、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックYは、共役ジエン化合物のみからなる重合体であってもよいし、共役ジエン化合物と50質量%未満の芳香族ビニル化合物の共重合体であってもよい。
【0027】
芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、p-第3ブチルスチレン等が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせてもよい。これらのなかでもスチレンが好ましい。
【0028】
共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン等が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせてもよい。これらのなかでも、ブタジエン、イソプレン及びこれらの組み合わせが好ましく、ブタジエンがより好ましい。
【0029】
前記重合体ブロックYは、ブタジエン-スチレン制御分布共重合体ブロックY1であることが好ましい。共重合体ブロックY1は、ブタジエン単位を主要構成単位として含有する領域を2個以上有し、スチレン単位を主要構成単位として含有する領域を1個以上有する共重合体ブロックである。
【0030】
共重合体ブロックY1に含まれる、ブタジエン単位を主要構成単位として含有する領域はブタジエン単独のブロックでもよく、スチレン単位を主要構成単位として含有する領域はスチレン単独のブロックでもよい。その場合は、S-EB-S-EB-S型のマルチブロック共重合体にあたる。しかしながら、ブタジエン-スチレン制御分布共重合体ブロックY1を構成するブタジエンブロックやスチレンブロックには、他のビニル単量体が含まれていても本発明の効果を保つことができることから、本明細書においては、共重合体ブロックY1が他のビニル単量体を含む場合を包括して「ブタジエン-スチレン制御分布ブロック共重合体」と呼び、略号としては「S-EB/S-S」と記載する。
【0031】
なお、本明細書において、ブタジエン単位を主要構成単位として含有する領域とは、ブタジエン単位の割合が50質量%超であることを示す。ブタジエン単位の割合は、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。ブタジエン単位の割合が不足すると、組成物のゴム弾性が不足し、得られる成形体の柔軟性が低下する傾向にある。ブタジエン単位以外のビニル単量体単位は実質的にスチレン単位であることが好ましい。
【0032】
また、共重合体ブロックY1においてスチレン単位を主要構成単位として含有する領域とは、スチレン単位の割合が50質量%超であることを示す。スチレン単位の割合は、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。スチレン単位の割合が不足すると、得られる成形体の透明性が低下する傾向にある。スチレン単位以外のビニル単量体単位は実質的にブタジエン単位であることが好ましい。
【0033】
成分(B)は、上記した芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体を公知の方法により水素添加し、重合体ブロックYの有する共役ジエンに由来する不飽和結合が飽和結合に転化されたものである。水素添加された割合は、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。水素添加がされていないか不十分であると得られる組成物が耐熱性の不十分なものとなる場合がある。
【0034】
成分(B)におけるスチレン単位の割合は、全構成単量体単位を基準として、得られる成形体の透明性の維持の観点から、40質量%以上が好ましい。また、組成物のゴム弾性を高め、得られる成形体に柔軟性を付与する観点から、70質量%以下が好ましい。これらの観点から、成分(B)におけるスチレン単位の割合は、全構成単量体単位を基準として、40~70質量%が好ましく、55~65質量%がより好ましい。
【0035】
成分(B)は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物と硬質極性樹脂との接着性および得られる成形体に柔軟性を付与する観点から、質量平均分子量は35万以下である必要がある。成分(B)の質量平均分子量は好ましくは30万以下であり、より好ましくは25万以下である。また、得られる成形体の耐熱性の観点から、成分(B)の質量平均分子量は好ましくは10万以上であり、より好ましくは12万以上である。なお、本明細書において、質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により定法により測定されたポリスチレン換算した分子量を意味する。
【0036】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に含まれる成分(B)の含有量は、成分(A)、(B)及び(C)の合計を100質量%として10~45質量%が好ましく、15~30質量%がより好ましい。成分(B)の含有量が上記範囲内であれば、透明性と硬質極性樹脂との接着性とをより一層向上する。
【0037】
<(C)芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体またはその水素添加物のアミン変性体>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を構成する(C)芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体またはその水素添加物のアミン変性体(以下、単に「成分(C)という場合ある。」)は、成分(A)と成分(B)の相溶化に重要な役割を果たすものであり、その結果、組成物を用いた成形物の透明性と硬質極性樹脂との接着性とを両立させることができる。アミン変性SBCは、アミン化合物が芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体(SBC)に共重合(通常はグラフト共重合)した重合体である。上記アミン変性SBCは、任意のSBCと任意のアミン化合物とを用い、公知の方法により反応させることで得ることができる。例えば、有機過酸化物の存在下、溶融混錬する方法を挙げることができる。
【0038】
アミン変性SBCに用いられるSBCは、芳香族ビニル化合物を主体とする少なくとも1個、好ましくは2個以上の重合体ブロックXと、共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックYとからなるブロック共重合体であり、X-Y、X-Y-X、Y-X-Y-X、X-Y-X-Y-X等の構造を有するブロック共重合体である。なお、本明細書においては、SBCとは、上記したブロック共重合体のみを意味するものではなく、当該ブロック共重合体を水素添加して得られる芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物も含む概念である。
【0039】
上記SBCにおいて、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックXは、芳香族ビニル化合物のみからなる重合体であってもよいし、芳香族ビニル化合物と50重量%未満の共役ジエン化合物との共重合体であってもよい。また、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックYは、共役ジエン化合物のみからなる重合体であってもよいし、共役ジエン化合物と50重量%未満の芳香族ビニル化合物の共重合体であってもよい。
【0040】
芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、p-第3ブチルスチレン等が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせてもよい。これらのなかでもスチレンが好ましい。
【0041】
共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン等が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせてもよい。これらのなかでもブタジエン、イソプレン及びこれらの組み合わせが好ましく、ブタジエンがより好ましい。
【0042】
成分(C)は、上記した芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体を公知の方法により水素添加し、重合体ブロックYの有する共役ジエンに由来する不飽和結合が飽和結合に転化されたものであってもよい。水素添加された割合は、50%以上が好ましく、70%以上がより好ましい。成分(A)および成分(B)との相溶性を向上させる観点からは、前記成分(C)は水素添加されていることが好ましい。
【0043】
成分(C)におけるスチレン単位の割合は、全構成単量体単位を基準として、得られる成形体の透明性の維持の観点から、10質量%以上が好ましい。また、組成物のゴム弾性を高め、得られる成形体に柔軟性を付与する観点から、80質量%以下が好ましい。これらの観点から、成分(C)におけるスチレン単位の割合は、全構成単量体単位を基準として、15~70質量%が好ましく、20~65質量%がより好ましい。
【0044】
成分(C)は、本発明の熱可塑性エラストマー組成物から得られる成形体に耐熱性を付与する観点から、質量平均分子量は3万以上が好ましく、4万以上がよい好ましい。また、得られる成形体に柔軟性を付与する観点から、80万以下が好ましく、50万以下がより好ましい。
【0045】
アミン変性SBCに用いられるアミン化合物としては、例えば、脂肪族アミン化合物、芳香族アミン化合物、及び複素環式アミン化合物等が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0046】
脂肪族アミン化合物としては、例えば、脂肪族1級アミン化合物、脂肪族2級アミン化合物、脂肪族3級アミン化合物、及び脂肪族多価アミン化合物(1分子中に2個以上のアミン基を有する脂肪族アミン化合物)等が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0047】
脂肪族1級アミン化合物としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、tert‐ブチルアミン、ペンチルアミン、イソペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、2‐エチルヘキシルアミン、及びシクロヘキシルアミン等の飽和脂肪族1級アミン化合物;ドデセニルアミン、オクタデセニルアミン、及びドコセニルアミン等の不飽和脂肪族1級アミン化合物;等が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0048】
脂肪族2級アミン化合物としては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジイソブチルアミン、及びジシクロヘキシルアミン等の飽和脂肪族2級アミン化合物;不飽和脂肪族2級アミン化合物等が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0049】
脂肪族3級アミン化合物としては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、トリブチルアミン、N,N‐ジイソプロピルエチルアミン、及びN,N‐ジメチルシクロヘキシルアミン等の飽和脂肪族3級アミン化合物;N,N‐ジメチルオクタデセニルアミン等の不飽和脂肪族3級アミン化合物等が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0050】
脂肪族多価アミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、及びN,N,N’,N’‐テトラメチルエチレンジアミン等が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0051】
芳香族アミン化合物としては、例えば、アニリン類(アニリン及びその誘導体)、及びアリールアルキルアミン化合物等が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0052】
アニリン類としては、例えば、アニリン、トルイジン、キシリジン、アニシジン、フェネチジン、4‐エチルアニリン、2‐エチルアニリン、及び4‐イソプロピルアニリン等のアニリン類であって1級アミンである化合物;N‐メチルアニリン、N‐エチルアニリン、及びN‐イソプロピルアニリン等のアニリン類であって2級アミンである化合物;N,N‐ジメチルアニリン、N,N‐ジエチルアニリン、及びN,N‐ジイソプロピルアニリン等のアニリン類であって3級アミンである化合物等が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0053】
アリールアルキルアミン化合物としては、例えば、ベンジルアミン、1-フェニルエチルアミン、及び2-フェニルエチルアミン等のアリールアルキル1級アミン化合物;N‐メチルベンジルアミン等のアリールアルキル2級アミン化合物;N,N‐ジエチルベンジルアミン等のアリールアルキル3級アミン化合物等が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0054】
複素環式アミン類としては、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、イミダゾール、2‐チエニルアミン、及び2‐チエニルメチルアミン等が挙げられ、1種又は2種以上を組み合わせてもよい。
【0055】
上記したアミン化合物の配合量は、SBC100質量部に対して、硬質極性樹脂との接着性の向上効果を確実に得る観点から、通常0.01質量部以上、好ましくは0.05質量部以上であってよい。一方、ゲルの発生を抑止し、塗工性を良好に保つ観点から、通常20質量部以下、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは3質量部以下であってよい。
【0056】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に含まれる成分(C)の含有量は、成分(A)、(B)及び(C)の合計を100質量%として1~35質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましい。成分(C)の含有量が上記範囲内であれば、成分(A)と成分(B)との相溶性および透明性がより一層向上する。
【0057】
<(D)非芳香族系ゴム用軟化剤>
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を構成する(D)非芳香族系ゴム用軟化剤(以下、単に「成分(D)という場合ある。」)は、熱可塑性エラストマー組成物に成形加工性および柔軟性を付与する役割を果たす。本発明において、成分(D)として用いることのできる非芳香族系ゴム用軟化剤としては、非芳香族系の鉱物油または液状もしくは低分子量の合成軟化剤を挙げることができる。ここで非芳香族系とは、鉱物油については、下記の区分において芳香族系に区分されない(芳香族炭素数が30%未満である)ことを意味する。合成油については、芳香族モノマーを使用していないことを意味する。
【0058】
ゴム用軟化剤として用いられる鉱物油は、パラフィン鎖、ナフテン環、および芳香環の何れか1種以上の組み合わさった混合物であって、ナフテン環炭素数が30~45%のものはナフテン系、芳香族炭素数が30%以上のものは芳香族系と呼ばれ、ナフテン系にも芳香族系にも属さず、かつパラフィン鎖炭素数が全炭素数の50%以上を占めるものはパラフィン系と呼ばれて区別されている。
【0059】
成分(D)として用いられる鉱物油系ゴム用軟化剤は、区分でパラフィン系およびナフテン系のものである。芳香族系の軟化剤は、その使用により成分(B)が可溶となり、得られる組成物の物性の向上が図れないので好ましくない。成分(D)としては、パラフィン系のものが好ましく、更にパラフィン系の中でも芳香族環成分の少ないものが特に適している。また、液状もしくは低分子量の合成軟化剤としては、ポリブテン、水素添加ポリブテン、低分子量ポリイソブチレン等が挙げられる。
【0060】
これらの非芳香族系ゴム用軟化剤の性状は、37.8℃における動的粘度が20~50000cSt、100℃における動的粘度が5~1500cst、流動点が-10~-15℃、引火点(COC)が170~300℃を示すのが好ましい。さらに、質量平均分子量が100~2,000のものが好ましい。なお、本明細書において、動的粘度はJIS K 2283:2000に準拠して定法により測定することができる。流動点はJIS K 2269:1987に準拠して定法により測定することができる。引火点(COC)はJIS K 2265:2007に準拠して定法により測定することができる。
【0061】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に含まれる成分(D)の含有量は、成分(A)、(B)及び(C)の合計を100質量部に対して、5~100質量部が好ましく、10~50質量部がより好ましく、20~40質量部がさらに好ましい。成分(D)の含有量が上記範囲内であれば、柔軟性のコントロールし易くまた成形性がより改善されるとともに、軟化剤のブリードアウトを抑制でき強度低下やベタツキを抑えることができる。
【0062】
<その他の成分>
本発明の透明熱可塑性エラストマー組成物には、上記の成分(A)~(D)のほかに、本発明の目的を損なわない範囲で、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、ブロッキング防止剤、シール性改良剤、ステアリン酸、シリコーンオイル等の離型剤、ポリエチレンワックス等の滑剤、着色剤、発泡剤(有機系、無機系)などを配合することができる。上記した添加剤に特に制限はなく公知のものを使用することができる。例えば、酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等を使用することができる。
【0063】
<熱可塑性エラストマー組成物の製造方法>
本発明の透明熱可塑性エラストマー組成物は、上記成分(A)~(D)、又は必要に応じてその他の成分を加えて、各成分を同時にあるいは任意の順に加えて溶融混練することにより製造することができる。
【0064】
溶融混練の方法は、特に制限はなく、通常公知の方法を使用し得る。例えば、単軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー又は各種のニーダー等を使用し得る。例えば、適度なL/Dの二軸押出機、バンバリーミキサー、加圧ニーダー等を用いることにより、上記操作を連続して行うこともできる。溶融混練の温度は、各成分の配合割合に応じて適宜設定できるが、好ましくは160~220℃である。
【0065】
このようにして得られた本発明の透明熱可塑性エラストマー組成物は、硬質極性樹脂接着性および透明性に優れるTPEEに、柔軟性付与および透明性の維持のために重要な水添SBCを、両成分の相溶化に寄与するアミン変性SBCを介してアロイ化することにより透明性および柔軟性を有し、硬質極性樹脂との接着性に優れる組成物となる。
【0066】
本発明の透明熱可塑性エラストマー組成物は、柔軟性の観点から、JIS K6253(HDA 15秒後)に準拠して測定した硬度が80以下であることが好ましく、70以下であることがより好ましい。
【0067】
また、本発明の透明熱可塑性エラストマー組成物は、1mm厚のシートとした場合にJIS K7105に準拠して測定したヘイズが70以上であることが好ましい。なお、ヘイズの測定は、押出成形機を用いて透明熱可塑性エラストマー組成物から1mm厚のプレスシートを作製し、ヘイズメーターにより測定することができる。
【0068】
<用途>
本発明の透明熱可塑性エラストマー組成物は、上記のような特性を有していることより、筆記具、工具、カメラ、自転車等のグリップに好適である。また、プライスレール等の透明極性樹脂部材同士の接合部材としても有用である。
【実施例0069】
次に本発明の実施形態について以下の実施例を参照して具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0070】
本明細書において、実施例および比較例において用いた試験片の製造方法、評価方法および原料は以下の通りである。
【0071】
<評価方法>
(1)硬度
JIS K6253(HDA 15秒後)に準拠し、タイプAデュロメータ(高分子計器株式会社製)を用いて硬度測定を行った。表1に示す各組成物から押出成形機を用いて6mm厚プレスシートを作製したものを試験片とした。
【0072】
(2)透明性(ヘイズ)
JIS K7105に準拠し、直読ヘイズメーター(東洋精機製作所社製)を用いてヘイズ測定を行った。表1に示す各組成物から押出成形機を用いて1mm厚プレスシートしたものを試験片とした。
【0073】
(3)硬質極性樹脂接着性
被着体(PC板およびABS板)との接着性を以下要領にて評価した。
以下に示す被着体1および2に、表1に記載の各組成物を射出成形により接着させたものを試験片として評価に用いた。
被着体1:PC(三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製、ユーピロンS-2000)、
被着体2:ABS(テクノUMG株式会社製、UMG ABS EX10U)
【0074】
射出成形にて厚さ4mm、幅25mm、長さ150mmの被着体を作製し、そこに、押出成形機を用いて各組成物から成形した厚さ3mm、幅25mm、長さ200mmの成形物をインサート成形にて接着させる。その際、紙を挟み接着面接を2000mmになるように成形を行った。
次いで、被着体を固定し、引張速度100mm/minで180度剥離試験を実施した。評価基準は下記のとおりとした。
◎:剥離前に材料が破壊
○:剥離強度が1N/mm以上
×:剥離強度が1N/mm未満
【0075】
(4)相溶性(表層剥離性)
表1に示す各組成物から射出成型機を用いて2mm厚の射出シートを作製した際のフィルムゲートにて表層の剥離があるかどうかを目視で観察した。相溶性(表層剥離性)の評価基準は下記のとおりとした。
○:剥離なし
×:剥離あり
【0076】
<使用した材料>
(A)ポリエステル系熱可塑性エラストマー
(A-1)ポリブチレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールブロック共重合体
(ハイトレル3001-X01(商品名)、東レ・デュポン株式会社製、示差走査熱量計(DSC)で測定した結晶化温度142℃、融解温度160℃、融解エンタルピー6J/g、広角X線回折(XRD)により測定された微結晶サイズ7nm)
(A-2)ポリブチレンテレフタレートを主成分とした結晶相と、ポリテトラメチレンエーテルグリコールを主成分とした非晶相とからなるポリエステル系熱可塑性エラストマー
(ハイトレル4001-X04(商品名)、東レ・デュポン株式会社製、示差走査熱量計(DSC)で測定した結晶化温度161℃、融解温度183℃、融解エンタルピー12J/g、広角X線回折(XRD)により測定された微結晶サイズ12nm)
【0077】
(B)芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物
(B-1)S-EB/S-S
(クレイトンA MD1537HU(商品名)、クレイトンコーポレーション社製、全構成単量体単位中のスチレン単位の割合60質量%、質量平均分子量13.6万)
(B-2)SEEPS
(SEPTON4033(商品名)、株式会社クラレ製、全構成単量体単位中のスチレン単位の割合30質量%、質量平均分子量10万)
(B-3)SEBS
(TAIPOL6151(商品名)、TSRC社製、全構成単量体単位中のスチレン単位の割合32質量%、質量平均分子量26万)
(B-4)SEBS
(TAIPOL6159(商品名)、TSRC社製、全構成単量体単位中のスチレン単位の割合30質量%、質量平均分子量39万)
【0078】
(C)芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体のアミン変性体
(C-1)スチレンと1,3‐ブタジエンとのブロック共重合体の水素添加物のアミン変性体
(タフテックMP10(商品名)、旭化成ケミカルズ株式会社製、全構成単量体単位中のスチレン単位の割合30質量%、アミン変性量0.06質量%、質量平均分子量5.0万、数平均分子量2.1万)
(C-2)スチレンと1,3‐ブタジエンとのブロック共重合体の水素添加物のマレイン酸変性体
(タフテックM1913(商品名)、旭化成ケミカルズ株式会社製、全構成単量体単位中のスチレン単位の割合30質量%、マレイン酸変性量2質量%、質量平均分子量9.1万、数平均分子量4.3万)
【0079】
(D)非芳香族系ゴム用軟化剤
(D-1)パラフィン系オイル
(ダイアナプロセスオイルPW-90(商品名)、出光興産株式会社、質量平均分子量540、芳香族炭素数0.1%以下、粘度(37.8℃)30.85cSt、粘度(100℃)5.3cSt、流動点-15℃、引火点270℃)
【0080】
表1に示す組成に従って上記した各原料を混合し、L/Dが52.5の二軸押出機(株式会社日本製鋼所製、TEX-25αIII)を用いて混練温度200℃、スクリュー回転数350rpmで溶融混練し、ペレット化した。
得られたペレットを用いて型締力120トンの射出成形機を使用し、樹脂温度230℃、金型温度40℃、射出速度55mm/秒、射出圧力600Kg/cm、保圧圧力400Kg/cm、射出時間6秒、冷却時間15秒の条件で縦13.5cm×横13.5cm×厚み2mmのシートを成型した。
また、上記で得られた射出シートを用いて、予熱220℃、3分間、加圧220℃、3分間の条件で熱プレスして、1mm厚および6mm厚の2種のプレスシートを作製した。
上記のようにして得られたシートを用いて、上記した各評価を行った。評価結果は表1に示すとおりであった。
【0081】
【表1】