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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091678
(43)【公開日】2023-06-30
(54)【発明の名称】支援装置
(51)【国際特許分類】
   A61H 1/00 20060101AFI20230623BHJP
   A61H 5/00 20060101ALN20230623BHJP
【FI】
A61H1/00
A61H5/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021206552
(22)【出願日】2021-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】510094724
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立循環器病研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】横田 千晶
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 将星
【テーマコード(参考)】
4C046
【Fターム(参考)】
4C046AA29
4C046AA45
4C046BB10
4C046DD36
4C046DD47
4C046EE09
4C046EE23
4C046EE32
(57)【要約】
【課題】SVVの偏倚が正常でない患者に対するリハビリテーションにおいて、理学療法士のサポートを低減することができる、支援装置及び支援方法を提供する。
【解決手段】本発明は、垂直視覚障害を有する患者のリハビリテーションを支援する支援装置であって、患者の頭部に装着可能なヘッドマウントユニットと、前記ヘッドマウントユニットに取り付けられ、前記患者の視野に入る外景と対応する外景の映像を撮影可能な撮影部と、前記撮影部で撮影した映像を、前記患者の自覚的視性垂直位(SVV)の偏倚に応じて所定の傾斜角度に傾けた矯正映像を生成する画像生成部と、前記ヘッドマウントユニットに取り付けられる表示部であって、前記撮影部による外景の映像の撮影と対応するように、前記矯正映像を、前記患者に対して表示する表示部と、を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リハビリテーションを支援する支援装置であって、
患者の頭部に装着可能なヘッドマウントユニットと、
前記ヘッドマウントユニットに取り付けられ、前記患者の視野に入る外景と対応する外景の映像を撮影可能な撮影部と、
前記撮影部で撮影した映像を、前記患者の自覚的視性垂直位(SVV)の偏倚に応じて所定の傾斜角度に傾けた矯正映像を生成する画像生成部と、
前記ヘッドマウントユニットに取り付けられる表示部であって、前記撮影部による外景の映像の撮影と対応するように、前記矯正映像を、前記患者に対して表示する表示部と、
を備えている、支援装置。
【請求項2】
前記リハビリテーションがlateropulsionを有する患者のリハビリテーションである、支援装置。
【請求項3】
前記傾斜角度を、リハビリテーション中に、変化させるように構成されている、請求項1または2に記載の支援装置。
【請求項4】
前記矯正映像を、外部の表示装置に出力可能に構成されている、請求項1から3のいずれかに記載の支援装置。
【請求項5】
前記SVVの測定を行うSVV測定部をさらに備えている、請求項1から4のいずれかに記載の支援装置。
【請求項6】
前記画像生成部は、前記患者に対し矯正を促すための画像を、前記矯正画像に合成するように構成されている、請求項1から5のいずれかに記載の支援装置。
【請求項7】
前記画像生成部は、前記患者が追視可能な移動する物体に係る画像を、前記矯正画像に合成するように構成されている、請求項1から5のいずれかに記載の支援装置。
【請求項8】
リハビリテーションを支援する支援方法であって、
前記患者の視野に入る外景と対応する外景の映像を撮影するステップと、
前記撮影した映像を、前記患者の自覚的視性垂直位(SVV)の偏倚に応じて所定の傾斜角度に傾けた矯正映像を生成するステップと、
前記外景の映像の撮影と対応するように、前記矯正映像を、前記患者に対して表示するステップと、
を備えている、支援方法。
【請求項9】
前記リハビリテーションがlateropulsionを有する患者のリハビリテーションである、請求項8に記載の支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リハビリテーションを支援する支援装置及び支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脳卒中が生じると、視覚垂直感覚に病的変化が生じることがある。これにより、患者は、真っ直ぐ立っていると感じていても、実際には体が傾いていることがある。その結果、患者には、転倒、めまい、平衡障害、歩行の乱れが生じるおそれがある。この垂直感覚の乱れは「軸」感覚の乱れによって生じるものと考えられる。「軸」は、三半規管、耳石、視覚等による入力を通じて、脳幹、小脳、大脳皮質等にて高次的に処理されている。この「軸」感覚の乱れにより引き起こされる症候としてlateropulsionが知られている。lateropulsionは、運動麻痺や筋力低下に因らない、不随意な一側への身体の傾き、転倒傾向を示す症候である。
【0003】
ところで、垂直感覚を判断する検査として、臨床では、自覚的視性垂直位(Subjective Visual Vertical; SVV)検査が用いられている(非特許文献1)。また、lateropulsionを有する亜急性期脳卒中患者に身体傾斜装置と視覚的フィードバックモニターを用いて、身体のずれを補正するリハビリテーション介入をすることで、正しい姿勢のバランスを体に記憶させる方法も提案されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Dieterich M, Brandt T. Ocular torsion and tilt of subjective visual vertical are sensitive brainstem signs. Ann Neurol1993;33:292-299.
【非特許文献2】An CM, Ko MH et al. Effect of postural training using a whole-body tilt apparatus in subacutestroke patients with lateropulsion: A single-blinded randomized controlled troal. Ann Phys Rehabil Med. Epub 2020 Oct 14.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の方法では、医療従事者が常に介助する必要もある。本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、SVVの偏倚を認めた患者に対するリハビリテーションにおいて、医療従事者のサポートを低減することができる、支援装置及び支援方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、リハビリテーションを支援する支援装置であって、患者の頭部に装着可能なヘッドマウントユニットと、前記ヘッドマウントユニットに取り付けられ、前記患者の視野に入る外景と対応する外景の映像を撮影可能な撮影部と、前記撮影部で撮影した映像を、前記患者の自覚的視性垂直位(SVV)の偏倚に応じて所定の傾斜角度に傾けた矯正映像を生成する画像生成部と、前記ヘッドマウントユニットに取り付けられる表示部であって、前記撮影部による外景の映像の撮影と対応するように、前記矯正映像を、前記患者に対して表示する表示部と、を備えている。
【0007】
上記支援装置は、前記リハビリテーションを、lateropulsionを有する患者のリハビリテーションとすることができる。
【0008】
上記支援装置においては、前記傾斜角度を、リハビリテーション中に、変化させるように構成することができる。
【0009】
上記支援装置においては、前記矯正映像を、外部の表示装置に出力可能に構成することができる。
【0010】
上記支援装置においては、前記SVVの測定を行うSVV測定部をさらに備えることができる。
【0011】
上記支援装置において、前記画像生成部は、前記患者に対し矯正を促すための画像を、前記矯正画像に合成するように構成することができる。
【0012】
上記支援装置において、前記画像生成部は、前記患者が追視可能な移動する物体に係る画像を、前記矯正画像に合成するように構成することができる。
【0013】
本発明は、リハビリテーションを支援する支援方法であって、前記患者の視野に入る外景と対応する外景の映像を撮影するステップと、前記撮影した映像を、前記患者の自覚的視性垂直位(SVV)の偏倚に応じて所定の傾斜角度に傾けた矯正映像を生成するステップと、前記外景の映像の撮影と対応するように、前記矯正映像を、前記患者に対して表示するステップと、を備えている。
【0014】
上記支援方法は、前記リハビリテーションを、lateropulsionを有する患者のリハビリテーションとすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、SVVの偏倚が正常でない患者に対するリハビリテーションにおいて、医療従事者のサポートを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る支援装置の一実施形態を示す概略構成図である
図2】ヘッドマウントユニットとコントローラのブロック図である。
図3】SVVにより偏倚している患者の正面図である。
図4】矯正映像の生成を示す図である。
図5】支援装置を用いたリハビリテーションのフローチャートである。
図6】患者のリハビリテーションを説明する図である。
図7】矯正映像の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
脳卒中が生じると、その後には、lateropulsionと呼ばれる運動麻痺や筋力低下に因らない、不随意な一側への身体の傾き、転倒傾向を示す症候が生じることがある。lateropulsionは延髄外側梗塞で出現することが一般的とされてきたが、最近、比較的広範囲なテント上病変でも生じることが知られている。しかし、テント上病変では運動麻痺や運動失調、高次脳機能障害などのその他の神経症候を合併することが多く、lateropulsionを見逃している可能性がある。lateropulsionの診断は、症候に加えて、自覚的視性垂直位(SVV)の偏倚が特徴であることから、SVV測定が有用である。
【0018】
急性前庭神経炎や延髄外側病変によるlateropulsionでは、安静閉眼時に眼球が倒れる方向(lateropulsion側)と同じ方向を向くことが知られており、これらは、頭部CTやMRIにて確認することができる。lateropulsionを呈する症例は、頭部CTやMRIより、病巣部位によって眼球偏倚方向は異なるが、安静閉眼時に眼球が偏倚する。これらのことから、lateropulsion例には視覚と前庭感覚に密接な相互作用(visual-vestibular interaction)があることが示唆される。そのため、本発明者らは、lateropulsionに対して、視覚を用いた介入が有効である可能性があると考え、本発明に至った。
【0019】
なお、lateropulsionは、運動麻痺や筋力低下に因らない、不随意な一側への身体の傾き、転倒傾向を示す症候である。lateropulsion症候を有する患者はあらゆる姿勢において麻痺側に傾倒し、転倒傾向を示すとともに姿勢の他動的な修正に対し抵抗する傾向が見られる。このような現象の表現は、従来pusher syndrome(behavior)、pushing syndrome(behavior)、ipsilateral pushing、listing phenomenon、thalamic astasia、ease of falling、ラテロパルジョン、姿勢定位障害、側方突進現象、視床性失立症等と呼ばれ、統一的な見解が示されていない。一方、lateropulsionが適切とする見解が示している文献(Annals of Physical and Rehabilitation Medicine 64 (2021) 101595)もある。そこで、本明細書では原則としてlateropulsionと表記する。
【0020】
以下、本発明に係るリハビリテーションを支援する支援装置の一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下で説明する一実施形態においてはlateropulsion症状を有する患者のリハビリテーションを支援する場合を想定として説明する。
【0021】
<1.支援装置のハードウエア構成>
図1は、支援装置の概略構成図である。この支援装置は、垂直視覚障害を有する患者に取り付けられるヘッドマウントユニット1と、このヘッドマウントユニット1の制御及び操作のためのコントローラ2と、これらを電気的に接続するケーブル3と、を備えている。以下、これらについて詳細に説明する。
【0022】
<1-1.ヘッドマウントユニット>
図1に示すように、このヘッドマウントユニット1は、眼鏡型のフレーム11を有しており、このフレーム11には、患者がヘッドマウントユニット1を装着した際に、患者の右および左の眼前にそれぞれ配置される右表示部12及び左表示部13を備えている。また、このフレーム11において、両表示部12、13の間、つまり眼鏡のブリッジに相当する部位にはカメラ14が設けられている。各表示部12、13には、液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display、以下「LCD」と呼ぶ)等のディスプレイが設けられており、LCDに映る映像が患者の目で知覚されるようになっている。カメラ14は、公知の単眼カメラまたはステレオカメラによって構成することができ、外景を動画として撮影するようになっている。
【0023】
なお、ここでいう「外景」とは、屋外及び屋内を問わず、ヘッドマウントユニット1のカメラ14に映る実空間の景色、または患者の肉眼により知覚する実空間の景色を意味する。そして、患者の肉眼で知覚する外景が、ヘッドマウントユニット1を患者が装着したときの、カメラ14に写る外景と対応するように構成されている。
【0024】
各表示部12、13に映る映像は、後述するように、カメラ14によって撮影された動画に基づいて、コントローラ2によって生成される。
【0025】
その他、フレーム11には、9軸センサ16及び生体センサ17が設けられている。9軸センサ16としては、例えば、加速度(3軸)、角速度(3軸)、地磁気(3軸)を検出するモーションセンサを採用することができる。生体センサ17は、ヘッドマウントユニット1を装着した患者の心拍数、体温、酸素濃度などの生体情報を取得する。
【0026】
<1-2.コントローラ>
図2は、ヘッドマウントユニット及びコントローラのブロック図である。図1及び図2に示すように、コントローラ2は、直方体状の筐体21を備えており、筐体21の内部には、制御部22、記憶部23、外部インターフェース24、及びバッテリ25が収容されている。また、筐体21の表面には、ディスプレイ211及び操作ボタン212等が配置されている。
【0027】
制御部22は、主としてCPU、RAM、ROM等により構成される。記憶部23は、HDDやSSDなどの公知の記憶装置で構成することができ、この支援装置を駆動するためのプログラム231、患者のSVV等に関する患者データ232、患者のリハビリテーションの結果に関するデータ233等の各種データが記憶される。患者データ232は、例えば、SVVの偏倚(角度)等が含まれる。
【0028】
そして、制御部22が記憶部23に記憶されるプログラム231を実行すると、制御部22は、仮想的に、画像取得部221、画像生成部222、画像出力部223、表示制御部224、装着検出部225、及びデータ取得部226として機能する。これらの機能構成(ソフトウエア構成)については後述する。
【0029】
外部インターフェース24は、例えば、記憶部23に外部からデータを記憶するために、外部機器と接続するためのものである。具体的には、USBインターフェース、メモリーカード用のインターフェース等を用いることができる。
【0030】
バッテリ25は、コントローラ2、及びケーブル15を介してヘットマウントユニット1を駆動するために電力を供給する。バッテリ25は、例えば、公知のリチウムイオンバッテリなどを用いることができるが、一次電池、二次電池のいずれであってもよい。
【0031】
筐体21の操作ボタン212は、コントローラ2やヘッドマウントユニット1の電源をON/OFFするための電源ボタン、SVVの矯正のための角度の調整、表示部12、13の画像や明るさの調整を行うための各種操作ボタンである。また、ディスプレイ211には、例えば、リハビリテーションの内容等が表示される。
【0032】
<2.支援装置のソフトウエア構成>
上述したように、CPUにおいてプログラムが実行されると、コントローラ2は、画像取得部221、画像生成部222、画像出力部223、表示制御部224、装着検出部225、及びデータ取得部226として機能する。以下、これらの機能構成について説明する。
【0033】
画像取得部221は、カメラ14で撮影された外景の画像を動画として取得し、制御部21のRAMに記憶する。画像生成部222は、記憶された動画を、表示部12,13に表示することができる。画像生成部222が、動画に対して画像処理を行っていない場合には、ヘッドマウントユニット1を装着した患者は、自身の肉眼で外景を見たときと概ね同様に表示部12,13を介して外景を見ることができる。これに対して、リハビリテーションを行う際には、画像生成部222は、動画を構成するフレーム毎に画像処理を行う。このとき、画像生成部222は、記憶部23に記憶された患者データ232から患者のSVVの偏倚を抽出し、各フレーム画像に対し、偏奇を矯正するように画像処理を行う。例えば、図3(a)に示すように、患者がSVVにより右側に傾いているとすると、図3(b)に示すように、患者には外景が左側に傾いて見える。そこで、制御部21は、図3(b)の状態から図4に示すように、各フレーム画像を偏奇と逆側に傾斜させる。なお、図3(b)は説明の便宜のため、患者の上半身を真っ直ぐな状態にして、患者から見た相対的な外景の傾きを示している。この点は、図4図6(a)も同様である。
【0034】
画像出力部223は、各フレーム画像を時系列に繋げてヘッドマウントユニット1の各表示部12、13に矯正映像として出力する機能を有する。これにより、患者は、カメラ14で撮影された外景の映像が、SVVの偏奇に基づいて傾けられた矯正映像を見ることができる。カメラ14は患者の顔の向く方向の外景を撮影しているため、概ね患者の視野に入る外景が撮影されている。その外景の映像がリアルタイムで傾けられて表示部12、13に写るため、SVVの偏倚を有する患者は、映像が実際には傾いているにもかかわらず、当該患者には真っ直ぐの映像に見える。
【0035】
また、画像出力部223は、設定により、表示部12、13のみならず、外部インターフェース24を介して、例えば、外部機器のディスプレイに矯正映像を出力する機能を有する。
【0036】
表示制御部224は、コントローラ2の操作ボタン212の操作に応じて、表示部12,13のLCDの明るさ、色の調整等を行う機能を有する。
【0037】
装着検出部225は、患者がヘッドマウントユニット1を正しく装着しているか否かを検出する機能を奏するものであり、上述した9軸センサー16により患者が装着したヘッドマウントユニット1の角度を検出する。そして、検出された角度により、ヘッドマウントユニット1が正しく装着されていない場合には、音、光、あるいはデイスプレイ211に表示する文字などで警告を発する。
【0038】
データ取得部226は、各種データを記憶部23に記憶する機能を奏する。例えば、患者のSVVの偏倚、患者がこの支援装置を使用した時間、生体センサ17で取得された患者の生体データ、リハビリテーションの経過、例えば、SVVの傾斜角度の推移などを、患者データ232あるいはリハビリデータ233として記憶部23に記憶する。
【0039】
<3.支援装置によるリハビリテーション>
次に、上記のように構成された支援装置による患者のリハビリテーションについて、図5のフローチャートを参照しつつ説明する。まず、公知のSVVの測定装置により、患者のSVVの偏倚を測定し(ステップS11)、この偏倚の角度を操作ボタン212を用いてコントローラ2に入力する(ステップS12)。これにより、データ取得部226は、偏倚の角度を患者データ232に記憶する。あるいは、データ取得部226により、USBメモリに記憶した患者データ232を読み出し、記憶部22に記憶してもよい。
【0040】
次に、患者の頭部にヘッドマウントユニット1を装着し(ステップS13)、コントローラの電源をONにする(ステップS14)。これにより、ヘッドマウントユニット1の9軸センサ16が駆動し、ヘッドマウントユニット1が正しい角度で患者の頭部に装着されている場合には(ステップS15のYES)、表示部12,13に矯正映像が表示される(ステップS16)。一方、9軸センサ16によってヘッドマウントユニット1が正しい角度で装着されていないと判断された場合には(ステップS15のNO)、警告が発せられる(ステップS17)。これにより、患者または介護者は、ヘッドマウントユニット1を正しい角度で装着し直す。
【0041】
上述したように、表示部12、13に表示される矯正映像は、カメラ14で撮影された画像がリアルタイムで画像処理されたものであるため、図4に示すように、患者には、目に見える外景が真っ直ぐに見える。そのため、図6(a)の状態(図4(b))から図6(b)に示すように、患者は、矢印の方向に、外景が傾いている角度とは反対側に体を傾け、表示部12,13に表示される矯正映像の外景が真っ直ぐに見えるようにリハビリテーションを行う(ステップS18)。患者は、立ち止まるだけではなく、歩きながらリハビリテーションを行うことができる。また、リハビリテーションを行っている間、生体センサ17により、各種の生体データを取得し、記憶部23に記憶することもできる。なお、リハビリテーションを行っている間、SVVの偏倚の程度に応じて、理学療法士等の医療従事者や介護者がサポートを行うこともできる。
【0042】
こうして、患者が矯正映像が真っ直ぐに見えるように身体を傾けるようにリハビリテーションを繰り返すことで、SVV偏奇が治癒していくと考えられる。
【0043】
<4.特徴>
上記のように、本実施形態によれば、表示部12、13に映る矯正映像にしたがって、患者自身が身体を傾けるようなリハビリテーションを行うことができるため、理学療法士等をはじめとした医療従事者や介護者の介助を低減することができる。
【0044】
例えば、脳梗塞が発症して治療を行い、意識が回復した後のベッドサイドリハビリテーション時、病状安定後の離床時リハビリテーションにも用いることができる。したがって、早期介入が可能である。上記の説明では、患者が立った状態でのリハビリテーションについて説明したが、ベッドで上半身が起こした状態でも利用することができる。
【0045】
<5.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。なお、以下の変形例は適宜、組み合わせることができる。
【0046】
(1)上記実施形態では、SVVの偏倚の角度を入力し、画像生成部222が、その角度で外景を傾けるようにしているが、画像生成部222による画像処理によって外景を傾ける角度は適宜変更することができる。例えば、リハビリテーションの開始当初は、傾ける角度を小さくし、徐々に測定されたSVVの偏倚に近づけるようにしてもよい。例えば、傾斜角度は、一回のリハビリテーションを行う場合に固定にしてもよい、一回のリハビリテーション中に変化させてもよい。
【0047】
(2)画像生成部222は、画像取得部221で取得された動画に対し、操作者の操作により任意にフレーム毎の画像処理を行い、任意の角度で外景画像を傾けることができる。例えば、患者は画像処理を行っていない外景画像を見るところ(例えば、図3(b)の状態)から始め、徐々に外景画像を傾けていき、真っ直ぐに見えるところ(例えば、図4の状態)で外景画像の処理を中断する。これにより、患者が自己の視野に傾きを生じていることを自覚することができる。
【0048】
(3)画像処理を行い、表示部12,13に出力する画像は、例えば、他人の顔、鏡に映った自己の顔、書籍等が含まれていても良い。また、表示部12,13に出力する画像は、リアルタイムにカメラ14で撮影した外景でなくてもよい。例えば、過去に撮影した外景を、表示部12,13に出力することもできる。また、外景として、実空間の景色ではなく、仮想空間を示す動画を予め生成し、これを表示部12,13に表示することもできる。この場合、画像生成部222は、仮想空間を示す動画に基づいて、矯正画像を生成することができる。
【0049】
(4)上記実施形態では、ヘッドマウントユニット1の中央にカメラ14が装着されているため、患者が向いている方向の外部の景色である外景を撮影する。そのため、表示部12、13に表示されている矯正映像をヘッドマウントユニット1の傾きに応じて補正する必要はないが、より正確に矯正映像を生成したり、あるいはカメラ14の種類や位置によっては、例えば、9軸センサ16によってヘッドマウントユニット1の傾きを検出し、これに基づいて、矯正映像の傾きを補正することもできる。
【0050】
(5)公知のAR(Augmented Reality)技術等を用いることで、矯正映像に対し、目標とする角度までに患者が自己にて修正できるように、例えば、図7に示すように、画像生成部222により、矢印やキャラクター、文字(リハビリのための指示等)など、矯正を促すための画像を矯正画像に合成することができる。また、目標まで姿勢が到達した場合に成功体験としての報酬を与えることもできる。
【0051】
(6)上記実施形態では、ヘッドマウントユニット1とコントローラ2とを別体にしているが、コントローラ2をヘッドマウントユニット1に取り付けて、これらを一体化することもできる。また、ヘッドマウントユニット1の形態は特には限定されず、少なくとも患者の頭部に装着でき、表示部12、13で表示される矯正映像を患者の目で知覚できるように構成されていればよい。また、上記実施形態において、表示部12,13は、各目に対応するように設けられているが、両目で見るような1つの画面で表示部を構成してもよい。
【0052】
(7)上記実施形態では、SVVの測定を別の測定装置で行っているが、SVVの測定をこの支援装置で行うように、SVV測定部として測定機能を設けることもできる。
【0053】
(8)上記実施形態では、矯正画像を生成する際に、動画を構成するフレーム画像毎に画像処理を行っているが、これに限定されるものではなく、カメラ14で撮影した動画に対して、矯正画像を生成できるような画像処理が施されればよい。
【0054】
(9)欧米においては、前庭神経炎やメニエール病等の前庭疾患の患者に対して、前庭リハビリテーション(Vestiblar rehabilitation therapy;VT)が標準的な治療として用いられており、その有効性が報告されている。そのトレーニング内容のひとつとして、前庭適応(adaptation)を目的に、目の前の標的に対し、頭部や眼球を素早く動かすことで、網膜上での像のズレを生じさせ、眼球運動を促進させるAdaptation Exerciseが知られている。しかし、SVV偏倚を認めるlateropulsion患者においては、垂直軸が偏倚した環境下でのトレーニングとなるため、効果的であるとは言えない。そのため、本発明に係る支援装置における矯正映像にて真の視覚的垂直である環境下でVTトレーニングを行うと、SVV偏倚やlateropulsionの改善を促す可能性がある。
【0055】
例えば、AR/MR技術を用いて、上述した矯正画像上に動く物体などの画像を合成し、それを追視する課題(衝動性眼球運動や滑動性眼球運動、輻輳など)や近づいてくる物体を避ける課題等を付与することができる。
【0056】
(10)なお、上記実施形態では、lateropulsion症状を有する患者のリハビリテーションについて説明したが、本発明は、SVVの偏倚が正常でない患者又はSVVの偏倚が正常でないことが疑われる脳卒中患者に対して好適に用いることができる。その他、半側空間無視等の高次脳機能障害を有する脳卒中を含む脳障害患者が含まれる。また、急性期の前庭神経炎、突発性難聴、メニエール病等の脳損傷以外の疾患を有する患者も含まれる。さらに、SVVが偏倚することが知られているパーキンソン病や多発性硬化症などの神経変性疾患においても応用可能と考えられる。
【符号の説明】
【0057】
1 ヘッドマウントユニット
12、13 表示部
14 カメラ(撮影部)
222 画像生成部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7