(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091787
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】ゼオライトバルク体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 39/38 20060101AFI20230623BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20230623BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20230623BHJP
B01J 20/18 20060101ALI20230623BHJP
【FI】
C01B39/38
B01J20/30
B01J20/28 Z
B01J20/18 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021205694
(22)【出願日】2021-12-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1) 令和3年1月7日開催 日本セラミックス協会基礎科学部会 主催 第59回 セラミックス基礎科学討論会 オンライン開催(http://www.jwri.osaka-u.ac.jp/~mri1/am/kisokagaku) (2) 令和3年3月8日公開 公益社団法人 日本セラミックス協会 発行 2021年年会 予稿PDF(https://sites.google.com/ceramic.or.jp/nenkai2021/) (3) 令和3年3月23~25日開催 公益社団法人 日本セラミックス協会 主催 2021年年会 オンライン開催(https://sites.google.com/ceramic.or.jp/nenkai2021/)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (4) 令和3年5月18日公開 一般社団法人 粉体粉末冶金協会 発行 2021年度春季大会(第127回講演大会) 講演概要(https://confit.atlas.jp/guide/event/jspm2021s/top) (5) 令和3年6月1日~3日開催 一般社団法人 粉体粉末冶金協会 主催 2021年度春季大会(第127回講演大会) オンライン開催(https://confit.atlas.jp/guide/event/jspm2021s/top)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (6) 令和3年6月18日公開 日本セラミックス協会 資源・環境関連材料部会 発行 第3回資源・環境関連材料部会討論会 講演要旨集 (7) 令和3年6月24日開催 日本セラミックス協会 資源・環境関連材料部会 主催 第3回資源・環境関連材料部会討論会 オンライン開催(https://www.ceramic.or.jp/bgenryo/) (8) 令和3年8月16日公開 公益社団法人 日本セラミックス協会 発行 第34回秋季シンポジウム 講演予稿集(https://www.ceramic.or.jp/bgenryo/) (9) 令和3年9月1~3日開催 公益社団法人 日本セラミックス協会 主催 第34回秋季シンポジウム オンライン開催(https://www.ceramic.or.jp/bgenryo/) (10)令和3年9月1~3日開催 公益社団法人 日本セラミックス協会 主催 第46回学術写真賞(https://www.ceramic.or.jp/csj/hyosho/syasin/index.html)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (11)令和3年10月26日公開 一般社団法人 粉体粉末冶金協会 発行 2021年度秋季大会(第128回講演大会)の概要集PDFダウンロード(https://confit.atlas.jp/guide/event/jspm2021a/proceedings/list) (12)令和3年11月9日~11日開催 一般社団法人 粉体粉末冶金協会 主催 2021年度秋季大会(第128回講演大会) オンライン開催(https://confit.atlas.jp/jspm2021a)
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】植松 昌子
(72)【発明者】
【氏名】打越 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】石井 健斗
【テーマコード(参考)】
4G066
4G073
【Fターム(参考)】
4G066AA20D
4G066AA22D
4G066AA23D
4G066AA61B
4G066AC01D
4G066BA23
4G066BA24
4G066BA25
4G066BA26
4G066BA35
4G066BA50
4G066CA02
4G066CA04
4G066CA28
4G066CA43
4G066DA03
4G066EA20
4G066FA14
4G066FA20
4G066FA22
4G066FA25
4G066FA28
4G066FA34
4G066FA35
4G073BA63
4G073BA75
4G073BB77
4G073BD06
4G073BD11
4G073BD26
4G073CZ13
4G073DZ02
4G073FA09
4G073FB11
4G073FB30
4G073FC04
4G073FC13
4G073FC18
4G073FC25
4G073FC26
4G073FD01
4G073FD24
4G073FD27
4G073FD28
4G073FE05
4G073GA01
4G073GA03
4G073GA12
4G073GA13
4G073GA15
4G073GA19
4G073GA26
4G073GB02
4G073UA20
4G073UB07
(57)【要約】
【課題】一般コンクリートに置き換えて使用できるほどの強度と、高い調湿性および通気性を兼ね備えた、ゼオライトバルク体を提供することである。
【解決手段】MFI骨格をもつアルミノシリケートゼオライトを有し、アルミノシリケートゼオライトにはミクロ孔、メソ孔およびマクロ孔が形成されているゼオライトバルク体とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MFI骨格をもつアルミノシリケートゼオライトを有し、
前記アルミノシリケートゼオライトにはミクロ孔、メソ孔およびマクロ孔からなる孔が形成されている、ゼオライトバルク体。
【請求項2】
任意の断面をとって測定した前記マクロ孔に関して、前記マクロ孔の単純平均面積Sが5μm2以上20μm2以下、前記マクロ孔の面積の標準偏差σが12μm2以上20μm2以下、前記マクロ孔の累積頻度が95.4%になるときの孔の面積がS+2σの2倍以上5倍以下である、請求項1記載のゼオライトバルク体。
【請求項3】
前記マクロ孔の測定は、測定領域が縦横各120μm以上125μm以下の大きさの正方形の断面を10セット実施する、請求項2記載のゼオライトバルク体。
【請求項4】
圧縮強度が5MPa以上100MPa以下である、請求項1から3の何れか一記載のゼオライトバルク体。
【請求項5】
圧縮強度が20MPa以上50MPa以下である、請求項4記載のゼオライトバルク体。
【請求項6】
嵩密度(バルク密度)が2.0g/cm3以上2.5g/cm3以下、
ポロシティ(開気孔率)が40%以上50%以下である、請求項1から5の何れか一記載のゼオライトバルク体。
【請求項7】
触媒が担持されている、請求項1から6の何れか一記載のゼオライトバルク体。
【請求項8】
前記触媒は金属および金属化合物、セラミックス、有機材料からなる群より選ばれる1以上である、請求項7記載のゼオライトバルク体。
【請求項9】
MFI骨格をもつアルミノシリケートゼオライト粉と、無機バインダーと、連通孔形成造孔剤を混合することと、
第1の熱処理を行って成型体を作製することと、
前記成型体を加圧した水蒸気中で第2の熱処理を行うことと、
酸素が存在する環境で焼成を行う、ゼオライトバルク体の製造方法。
【請求項10】
前記無機バインダーはコロイダルシリカである、請求項9記載のゼオライトバルク体の製造方法。
【請求項11】
前記連通孔形成造孔剤はスターチである、請求項9または10記載のゼオライトバルク体の製造方法。
【請求項12】
前記第1の熱処理の温度は65℃以上100℃以下である、請求項9から11の何れか一記載のゼオライトバルク体の製造方法。
【請求項13】
前記加圧の圧力は0.1MPa以上10MPa以下であり、前記第2の熱処理の温度は100℃以上200℃以下である、請求項9から12の何れか一記載のゼオライトバルク体の製造方法。
【請求項14】
前記焼成の温度は200℃以上500℃以下である、請求項9から13の何れか一記載のゼオライトバルク体の製造方法。
【請求項15】
前記焼成は大気環境で行う、請求項9から14の何れか一記載のゼオライトバルク体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼオライトバルク体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
調湿性と通気性を兼ね備える部材は、建材や構造体として強い需要がある。特に、粉状物を壁材などに塗布するものではなく成型体(バルク体)状で、高い調湿性、通気性をもつ調湿・通気性構造材料は、建築のみならず様々な応用が可能なので、嘱望されている。
【0003】
調湿性をもつ材料としてゼオライトが知られている。ゼオライトは、結晶性のアルミノケイ酸塩で、結晶構造由来のミクロ孔を有し、高比表面積で、水や揮発性有機化合物の吸着特性に優れ、単体でも脱臭機能を有する。
また、ゼオライトと、金属の水酸化物および/または金属の水酸化物を主成分にする脱臭成分材料とを混合粉砕法により混合し、焼結を行って調湿性を有する成型体を得る試みが、例えば特許文献1に開示されている。
【0004】
しかしながら、ゼオライトは難焼結性のため、吸着、脱臭機能を十分発揮できる結晶構造を保ったまま、構造部材として十分な強度をもつバルク体を形成することは困難であった。また、粉末状のゼオライトは、ミクロ細孔を有するため吸着特性を有するが、水蒸気の相対圧が下がったときに水蒸気を放出する調湿機能は十分には発揮されないという性質があった。
【0005】
水熱合成技術により、機械加工性を有するゼオライトバルク体を提供する技術が開発されており、例えば特許文献2に開示されている。しかしながら、このゼオライトバルク体は、吸着、イオン交換機能を目的としていて、調湿性や通気性については触れられていない。
また、この方法では、製造されるゼオライトバルク体の形状は使用する水熱容器によって定まり、1つの水熱容器で様々な形状の成型体を提供するという汎用性に富んだ製造が難しいという問題もあった。
【0006】
このようなことから、ゼオライトが本来もっている吸着機能を維持しつつ、高い調湿性能と通気性をもち、かつ成型体形態で提供されるゼオライトバルク体が嘱望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-242848号公報
【特許文献2】特開2016-52997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、成型体の形態で提供され、かつ高い調湿性および通気性を兼ね備えたゼオライトバルク体およびその製造方法を提供することを目的とする。また、1つの製造装置で様々な形状のゼオライトバルク体を提供できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の構成を下記に示す。
(構成1)
MFI骨格をもつアルミノシリケートゼオライトを有し、
前記アルミノシリケートゼオライトにはミクロ孔、メソ孔およびマクロ孔からなる孔が形成されている、ゼオライトバルク体。
(構成2)
任意の断面をとって測定した前記マクロ孔に関して、前記マクロ孔の単純平均面積Sが5μm2以上20μm2以下、前記マクロ孔の面積の標準偏差σが12μm2以上20μm2以下、前記マクロ孔の累積頻度が95.4%になるときの孔の面積がS+2σの2倍以上5倍以下である、構成1記載のゼオライトバルク体。
(構成3)
前記マクロ孔の測定は、測定領域が縦横各120μm以上125μm以下の大きさの正方形の断面を10セット実施する、構成2記載のゼオライトバルク体。
(構成4)
圧縮強度が5MPa以上100MPa以下である、構成1から3の何れか一記載のゼオライトバルク体。
(構成5)
圧縮強度が20MPa以上50MPa以下である、構成4記載のゼオライトバルク体。
(構成6)
嵩密度(バルク密度)が2.0g/cm3以上2.5g/cm3以下、
ポロシティ(開気孔率)が40%以上50%以下である、構成1から5の何れか一記載のゼオライトバルク体。
(構成7)
触媒が担持されている、構成1から6の何れか一記載のゼオライトバルク体。
(構成8)
前記触媒は金属および金属化合物、セラミックス、有機材料からなる群より選ばれる1以上である、構成7記載のゼオライトバルク体。
(構成9)
MFI骨格をもつアルミノシリケートゼオライト粉と、無機バインダーと、連通孔形成造孔剤を混合することと、
第1の熱処理を行って成型体を作製することと、
前記成型体を加圧した水蒸気中で第2の熱処理を行うことと、
酸素が存在する環境で焼成を行う、ゼオライトバルク体の製造方法。
(構成10)
前記無機バインダーはコロイダルシリカである、構成9記載のゼオライトバルク体の製造方法。
(構成11)
前記連通孔形成造孔剤はスターチである、構成9または10記載のゼオライトバルク体の製造方法。
(構成12)
前記第1の熱処理の温度は65℃以上100℃以下である、構成9から11の何れか一記載のゼオライトバルク体の製造方法。
(構成13)
前記加圧の圧力は0.1MPa以上10MPa以下であり、前記第2の熱処理の温度は100℃以上200℃以下である、構成9から12の何れか一記載のゼオライトバルク体の製造方法。
(構成14)
前記焼成の温度は200℃以上500℃以下である、構成9から13の何れか一記載のゼオライトバルク体の製造方法。
(構成15)
前記焼成は大気環境で行う、構成9から14の何れか一記載のゼオライトバルク体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、成型体の形態で提供され、かつ高い調湿性および通気性を兼ね備えたゼオライトバルク体およびその製造方法が提供される。
また、1つの製造装置で様々な形状のゼオライトバルク体を提供できる製造方法が提供される。ここで、提供されるゼオライトバルク体は一般コンクリート並みの圧縮強度を兼ね備える。
また、本発明のゼオライトバルク体は、ガスフィルタや水処理フィルタとしても利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のゼオライトバルク体の構造を示す説明図である。
【
図2】本発明のゼオライトバルク体の製造工程を示すフローチャート図である。
【
図3】本発明のゼオライトバルク体を製造の際に用いる製造装置の構成を示した装置概要図である。
【
図4】スターチ造孔剤を用いて連通孔構造のセラミックス多孔体を製造するときのスターチ造孔剤の構造の変化を示す説明図である。
【
図5】実施例の試料1-3構造のゼオライトバルク体の概略構造を示す説明図である。
【
図6】実施例で作製した試料の断面像で、(a)はSEM、(b)および(c)は共焦点レーザー蛍光顕微鏡による測定結果である。
【
図7】孔面積分布測定に用いた(内部)断面像例である。
【
図9】孔面積分布測定における一(内部)断面の孔の様子を示す図である。
【
図10】孔面積の累計頻度分布を示す特性図である。
【
図11】実施例で作製した試料のX線回折測定結果である。
【
図12】実施例で作製した試料の破壊応力(圧縮強度)を示す特性図である。
【
図13】実施例で作製した試料の窒素脱吸着等温線の特性図である。
【
図14】孔のタイプと脱吸着特性曲線の関係を説明する説明図である。
【
図15】窒素脱吸着等温線を基にBJHプロットされた細孔分布を示す特性図である。
【
図16】水の脱吸着等温線測定結果を示す特性図である。
【
図17】通気性の測定を行った装置の概要を示す装置構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。以下に記載する本発明の詳細な説明は、代表的な態様、実施形態、および実施例に基づいてなされることがあるが、これらは例示であり、本発明はそのような態様、実施形態、および実施例に限定されるものではない。
なお、「A-B」は、A以上B以下を示す。
【0013】
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明のゼオライトバルク体の構造とその特徴、およびその材料の製造方法を説明する。
【0014】
<構造と特徴>
本発明のゼオライトバルク体101は、
図1に示すように、MFI骨格をもつ、すなわち骨格の構造コードがMFI(ZSM-5(Zeolite Socony Mobil-5))であるアルミノシリケートゼオライト11を有し、そのアルミノシリケートゼオライト11にはミクロ孔12、メソ孔13およびマクロ孔14が形成されていることを特徴とする。ここで、ミクロ孔は2nm未満、メソ孔は2nm以上50nm未満そしてマクロ孔は50nm以上の直径の孔のことをいう。
さらに、任意の断面をとって測定したマクロ孔に関して、前記マクロ孔の単純平均面積Sが5μm
2以上20μm
2以下、前記マクロ孔の面積の標準偏差σが12μm
2以上20μm
2以下、前記マクロ孔の累積頻度が95.4%になるときの孔の面積がS+2σの2倍以上5倍以下であることが好ましい。
ここで、単純平均面積Sは7μm
2以上15μm
2以下がより好ましく、7μm
2以上12μm
2以下がさらに一層好ましい。面積の標準偏差σは、14μm
2以上18μm
2以下がより好ましく、累積頻度が95.4%になるときの孔の面積はS+2σの2.5倍以上4倍以下がより好ましい。
なお、その孔の面積の測定としては、例えば、マクロ孔14の測定は、測定領域が縦横各120μm以上125μm以下の大きさの正方形の断面を10セット実施する方法を挙げることができる。
【0015】
マクロ孔14が上記数値範囲に入っていると、ゼオライトが材料として備えている調湿性機能を保持した上で、通気性とバルク体としての機械強度、圧縮強度を高いレベルで確保することができる。例えば、通気性では1.2cc/min以上が得られ、圧縮強度としては一般コンクリート相当の値が得られる。
これは、マクロ孔14の面積が通気性と機械強度を両立して得られる適度なものであることに加え、複数の孔が繋がった連通孔が適度に形成されていることによる。
マクロ孔14がアットランダムな大きさで、個々単独に形成される場合は、累積頻度が95.4%となる孔の面積は、正規分布を仮定すると、統計的にS+2σになる。累積頻度が95.4%となる孔の面積がS+2σの2倍以上になるということは、その条件より大きな孔が多数形成されていることを意味し、具体的には複数の孔が繋がった連通孔が形成されていることを意味する。連通孔の形成により、通気性が確保される。ここで、累積頻度が95.4%となる孔の面積がS+2σの5倍を超えると、バルク体の破壊を起こす起点となるウィークポイントが増えることから、機械強度が下がることが数々の検討を重ねたことからわかった。
【0016】
ゼオライトバルク体101の圧縮強度は、5MPa以上100MPa以下が好ましく、20MPa以上50MPa以下がより好ましい。一般コンクリート並みのこの範囲の強度で、高い通気性と調湿性を得ることができる。ここで、圧縮強度は、例えばJIS H7902規格に準拠して測定されたものである。
また、ゼオライトバルク体101は、嵩密度(バルク密度)2.0g/cm3以上2.5g/cm3以下、ポロシティ(開気孔率)40%以上50%以下とすることが好ましい。この範囲で、高い調湿性、通気性と、一般コンクリートと同等以上の破壊強度をもつゼオライトバルク体が得られる。
【0017】
ゼオライトバルク体101は、孔に触媒15が担持されると、このゼオライトバルク体の優れた調湿性、通気性と相まって秀でた触媒フィルタとなる。ここで、触媒を担持する孔は主にメソ孔13である。
触媒としては、金属および金属化合物、セラミックス、有機材料からなる群より選ばれる1以上を挙げることができる。
例えば、白金(Pt)ナノ粒子を担持させると、NOxやVOC(Volatile Organic Compounds)を効率的に吸着、分解する環境ガスフィルタを供給することが可能になる。
【0018】
<製造方法>
ゼオライトバルク体101の製造方法を
図2から5を用いて説明する。
【0019】
最初に、アルミノシリケートゼオライト粉、無機バインダーおよび連通孔形成造孔剤を準備し、それらを混合する(
図2、工程S11)。混合方法としては、例示として、ボールミル混合、ホモジナイザー分散を挙げることができる。
【0020】
ここで、アルミノシリケートゼオライト粉としては、MFI骨格をもつアルミノシリケートゼオライト粉を用いる。具体的には、ZSM-5(Zeolite Socony Mobile-5)、シリカライト―1を挙げることができる。
無機バインダーとしては、コロイダルシリカ、アルミナゾル、ジルコニアゾルを挙げることができる。コロイダルシリカは水に懸濁されたものを用いるのがコスト的にも取り扱い的にも簡単で好ましいが、水に限らずメタノール、イソプロピルアルコールを用いることもできる。水などの懸濁溶媒に対するシリカ固形分の重量比率は20%以上40%以下が好ましい。
連通孔形成造孔剤としては、スターチ(デンプン)を挙げることができる。スターチとしては、ライススターチ、コーンスターチが好ましく、それの水に対する固形分の重量比は10%以上30%以下が好ましい。
混合比は、アルミノシリケートゼオライト粉Xに対するコロイダルシリカYの重量比(Y/X)が25%以上50%以下、アルミノシリケートゼオライト粉Xに対する連通孔形成造孔剤Zの重量比(Z/X)が10%以上30%以下が好ましい。この範囲で、高い調湿性、通気性、および機械強度(圧縮強度)を両立させることができる。
【0021】
次に、その混合体に第1の熱処理を施して成型体を作製する(工程S12)。
本発明では、製造物の外形をこの成型体形成工程段階で形作ることができるので、ここが1つの製造装置で様々な形状のゼオライトバルク体を供給できるという特徴の1つになっている。
第1の熱処理の方法としては恒温恒湿器、定温乾燥機を挙げることができ、その温度としては80℃以上100℃以下、熱処理時間としては10分以上30分以下を好んで用いることができる。この工程で、混合体に含まれる連通孔形成造孔剤が糊化(α-スターチ化)した後、室温で冷却される過程で
図5(c)に示すように、連通孔形成造孔剤がネットワークを形成して老化(β-スターチ化)する。なお、参考までに、スターチが糊化し、さらにそれがネットワーク化していく様子を
図4に示す。
図4(a)は、(分枝状)アミロペクチン31aと(直鎖状)アミロース32からなる米デンプン33と米デンプン33との間に水分子34が存在するゲル状態を示す。
図4(b)は、加熱起因の糊化(α-スターチ化)により、水分子34の一部が米デンプン33の中に取り込まれるとともに、アミロース35aが米デンプン33の外部に存在する状態になることを示す。そして、
図4(c)は、冷却によってネットワーク化したβ-スターチになった状態を示す。ここで、35bはアミロースであり、31bはアミロペクチンである。
【0022】
しかる後、加圧水蒸気中で第2の熱処理を行う(工程S13)。
圧力としては8MPa以上10MPa以下、水蒸気分圧としては0.5MPa以上1.1MPa以下、温度としては150℃以上180℃以下、熱処理時間としては12時間以上24時間以下を好んで用いることができる。
加圧水蒸気熱処理装置は特に限定はなく、例えば、
図3に示すような通常のものを使用することができる。ここで、
図3中の51はオートクレーブ、52は成型体(Green Body)、53は治具(支え)、そして54は水である。
この工程で、ネットワーク化したスターチの一部がゼオライトバルク体内部から除去されるとともに、ゼオライトとバインダーが連結して、バルク体内部に連通孔構造が形成される。
【0023】
その後、酸素が存在する環境で焼成を行って(工程S14)、ゼオライトバルク体を製造する。
酸素が存在する環境は、大気が簡易でコスト的にも好ましいので好んで用いられるが、大気に限らず酸素が存在する環境であればよい。ここで、圧力としては0.1MPa以上0.2MPa以下、酸素の量としては20%以上40%以下、温度としては450℃以上550℃以下、熱処理時間としては18時間以上24時間以下を好んで用いることができる。
【0024】
ここで肝要なことは、ゼオライトが分解を開始する温度未満の熱処理とすることで、ゼオライトが本来もっている吸着機能を保持しておくことである。そのような比較的低い温度での焼成であるが、加圧水蒸気中での第2の熱処理を経ることにより、ネットワーク化されている状況で造孔剤が部分的に除去されて、適度なサイズの連通孔が形成されるため、調湿性、通気性、圧縮強度が両立したゼオライトバルク体を供給することが可能になる。
【0025】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、上記実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例0026】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、必ずしも下記の実施例に限定されるものではない。
【0027】
(実施例1)
実施例1では、ゼオライトバルク体試料を作製し、その特性を評価した。
【0028】
<試料の作製>
最初に、市販のZSM-5(Zeolite Socony Mobile-5)ゼオライト粉(HSZ-800 840HOA protontype、東ソー)とコロイダルシリカ(スノーテックスST-S、日産化学)の水系分散液をボールミルで24時間混合した。ここで、スラリー中の固体分濃度は39-42vol%、固体分中の成分重量比はZSM-5:SiO2=2:1とした。
【0029】
次に、スラリーに、連通孔形成造孔剤としてスターチを固体重量に対して0または20wt%、攪拌脱泡機を用いて混合した。スターチとしてはライススターチ粉末(Sigma-Aldrich製)を用いた。
その後、その混合物をアクリル製のモールドにキャスティングし、80℃の水蒸気中で0または10分間加熱した。
しかる後、自然乾燥固化法にて室温で乾燥させて成形体を作製した。
次に、作製した成形体を180℃のオートクレーブ内で24時間水蒸気処理した。
その後、水蒸気処理後の成形体を大気中、450℃で24時間脱脂し、ゼオライト固化体(ゼオライトバルク体)を得た。
【0030】
ここで、試料として以下の3種類を作製した。
試料1:スターチを添加せず、80℃の水蒸気中加熱も行わない比較例の位置づけの試料。
試料2:スターチは固形分重量に対して20wt%添加するが、80℃の水蒸気中加熱は行わない参考例としての位置づけの試料。
試料3:スターチを固形分重量に対して20wt%添加し、80℃の水蒸気中加熱も10分行った実施例の位置づけの試料。
各試料の状態がわかりやすいように、その状態を
図5(a)から(c)に模式的に示す。
図5(a)はゼオライト(アルミノシリケートゼオライト)11の粉のみが凝集している状態、
図5(b)はゼオライト11の粉にスターチが混合された後スターチが抜けてそこが細孔(ポア)21になった状態、そして、
図5(c)はスターチが抜けて細孔(ポア)22が形成されるとともに細孔22がネットワーク化された状態である。細孔22がネットワーク化されると後述の連通孔を生む。
【0031】
<特性評価>
1.形状
形状を、断面SEM観察と浸液透光法を適用した共焦点レーザー蛍光顕微鏡(CLSFM)による観察の2つの方法で調べた。
【0032】
SEM(Scanning Electron Microscope)としてはJSM-6500(JEOL製)を用い、4kVで観察した。
【0033】
浸液透光法は、試料を試料と同じ屈折率をもつ液体に含侵させて光散乱を抑えた状態で観察する方法である。浸液に蛍光剤を溶かしておくことにより、蛍光顕微鏡で試料内部の状態を観察することができる。ここでは、浸液として屈折率が1.48-1.49のMethyl2-Furancarboxylateを、蛍光剤としてRhodaminBを用いた。なお、ゼオライトの屈折率は1.47-1.5であり、ここで用いた浸液はその屈折率の範囲内の屈折率を有する。
共焦点レーザー蛍光顕微鏡としては、TCS SP5(ライカマイクロシステムズ製)を用いた。レーザーの波長は543nmであり、対物レンズのF値は0.36(NAで表すと1.4)である。
この測定では、各焦点面での断面画像を取得し、3D解析することにより、3次元像として表示することが可能である。光軸方向(Z方向)に0.13μmステップで画像を取得して評価した。
【0034】
その結果を
図6に示す。ここで、
図6(a)はSEM像、
図6(b)はCLSFMによる試料内部の1焦点面の像、
図6(c)はCLSFM像から構築された3次元像である。
作製時の条件によって、内部構造(気孔構造)が変化していることがわかる。
【0035】
2.マクロ孔面積分布
マクロ孔の面積の分布を上記共焦点レーザー蛍光顕微鏡で取得した断面画像を使用して求めた。その手順を下記に示す。なお、画像処理にはImageJ(Rasband,W.S.,ImageJ,U.S.National Institutes of Health,Bethesda,Maryland,USA,https://imagej.nih.gov/ij/i997-2021.、Schneider,C.A.Rasband,W.S.,Eliceiri,K.W.“NIH Imge to ImageJ:25 Years of image analysis”Nature Methods 9,671-675,2012参照)を用いた。
【0036】
最初に、
図7に例示しているように、試料2および試料3に対して上記共焦点レーザー蛍光顕微鏡にて断面画像を取得した。具体的には、
図8に示すように、縦122.75μm横122.75μmの領域に対して深さ方向に0.13μm離した2画像を1セットとし、2.6μmピッチで合計10セットの画像を取得した。そして、深さ方向に対して0.13μm離して取得した2画像に対して画素のヒストグラムを均一化することで明るさを調整し、2画像を単純に足し合わせて、孔に相当する場所を強調させた。
図8(b)の中央に配置されている画像がこの足し合わせを行った画像の例であり、背景の2画像はその合成の基となる0.13μm離れた深さ位置の画像である。但し、この2画像合成工程は必ずしも必要な工程ではない。
次に、ガウシアンフィルタをこの画像にかけてスムージングを行い、その後二値化処理し、孔に相当する部分の輪郭抽出を行った。ここで、二値化処理後にはスパイクノイズ除去を行って輪郭抽出の精度を高めた。
その後、上記10セットの画像全てに対して同様の処理を行い、ImageJのAnalyze Particles機能を使用して黒色部である各孔の部分の面積を測定し、そのデータを解析した。
【0037】
上記方法によって求めた一断面における孔1の様子を
図9に示す。連通孔と思われる不定形の細長い孔が多数存在していることがわかる。
孔の面積の平均値S、標準偏差σ、S+2σ、
図10の95.4%頻度のときの孔のサイズD、およびD/(S+2σ)を一覧にして表1に示す。
【0038】
【0039】
この結果から、実施例である試料3は、単純平均の孔面積9.41μm2は参考例である試料2の10.10μm2と大きな差はないものの、D/(S+2σ)は、2.92と試料2の倍近く、孔の面積分布が正規分布としたときに比べると3倍近く大きいことがわかる。画像データと合わせると、実施例である試料3は連通孔形成に特徴があることがわかる。
【0040】
3.結晶構造
作製した試料1-3と参考としての原料ゼオライZSM-5の結晶構造を粉末X線回折により調べた。ここで、X線回折(XRD)装置としてはMiniflex600(RIGAKU製)を用い、回折角10~50°、ステップ0.02°条件で測定した。その結果を
図11に示す。
その結果、固化処理体の回折ピークは、原料のゼオライト粉と一致した。このことから、試料1-3はZSM-5の結晶構造が保たれていることが確認された。なお、
図11には、ZSM-5のICDDデータベースによるデータも参考までに載せている。
【0041】
4.密度、開気孔率、強度
作製したゼオライトバルク体の試料1-3の見かけ密度、嵩密度(バルク密度)、開気孔率(ポロシティ)、破壊応力を測定した。その結果を表2に示す。
スターチを添加すると、開気孔率が大きくなった。
また、どの条件の試料でも破壊応力が30MPa以上という一般コンクリートと遜色のない強い破壊強度を有していることが実証された。
【0042】
【0043】
ここで、見かけ密度と嵩密度は、測定時の溶媒をケロシンとしたアルキメデス法で測定した。見かけ密度と嵩密度の差から開気孔率を見積もった。
破壊応力は、AG-I50kNオートグラフ(SHIMADZU製)を用いて測定した。その圧縮測定は、φ10mm、高さ10mmの円柱形状の試料片をクロスヘッド速度0.6mm/minで行った。1条件あたり回数(n)7以上の測定を行い、破壊応力の平均値(MPa)と標準偏差を求めた。参考までに、表1の測定データを
図12に示す。
【0044】
5.細孔径分布と比表面積
-196℃における窒素の脱吸着等温線測定で、細孔径分布と比表面積を測定した。
窒素の脱吸着等温線測定の結果を
図13に示す。測定装置としては、PMA-601(SepraTek製)を用いて測定した。
作製した試料1-3では、原料ゼオライト粉では見られなかったヒステリシス曲線が確認された。
一般に、脱吸着等温線は、試料に形成されている孔の大きさとともに
図14に示されるような曲線を描くことが知られている。試料1-3にヒステリシス曲線特性が得られていることから、試料1-3の固化体にメソ孔以上の大きさの気孔が存在することを示している。
窒素の脱吸着等温線からBET法で算出した比表面積を表3に示す。
【0045】
【0046】
この結果から、試料1-3では、原料ゼオライト粉よりも比表面積が小さくなるものの、300m
2/g程度の高い比表面積を持つことが確認された。
また、窒素の脱吸着等温線から作成したBJHプロットを
図15に示す。この結果から、試料1-3に6-9nmのメソ孔の存在ピークが確認された。
【0047】
6.水蒸気吸着特性
作製したゼオライト固化体試料1-3の水蒸気吸着特性を調べるために、25℃で水の脱吸着等温線測定を行った。その結果を
図16に示す。
試料1-3では、高相対圧域での水の吸着量が、固化体は原料ゼオライト粉より大きくなることが確認された。また、原料ゼオライト粉で見られなかったヒステリシス曲線が確認された。この性質は試料1-3に環境調湿性能が備わっていることを示している。
また、実施時のスターチの添加量と80℃水蒸気中での熱処理の有無で、脱吸着等温線が変化した。これは、処理によって内部の気孔構造が変化したためと考えられる。ここで、スターチの添加と80℃水蒸気中の熱処理により連通孔が形成された試料3で、最も水蒸気吸着量が多くなることが確認された。
【0048】
7.通気性
ゼオライトバルク体の通気性を窒素ガス透過量測定により調べた。
測定は下記のとおりである(
図17参照)。
厚み0.1mmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに直径6mmの穴をあけ、穴の中心と固化体の中心位置を合わせるように、直径13mm、高さ2mmの円盤形状に加工したゼオライトバルク体を、エポキシ樹脂でPETフィルムに貼り付けた。エポキシ樹脂は、ゼオライト固化体のPETフィルムの穴に露出した部分には付着しないよう、PETフィルムに触れた部分のみに塗布した。
測定装置Permeation Membrane Analyzer(PMA-601、SepraTek製)のチャンバーに、PETフィルムに貼り付けたゼオライト固化体を設置し、PETフィルム側をオイルポンプで真空引きし、ゼオライト固化体側から0.2MPaの窒素ガスを流した。そして、チャンバーの圧力変化から、標準状態の窒素ガスの単位時間当たりの流量(sccm)を、測定装置に付属の分析ソフトを用いて算出した。
【0049】
窒素ガス透過量の測定結果を
図18に示す。
この結果から、実施例である連通孔が形成された試料3は、試料1および2に比べて単位時間当たりの窒素ガスの透過量が大きく、通気性が優れていることが確認された。