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特開2023-91829推定装置、推定方法及び推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091829
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】推定装置、推定方法及び推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20230626BHJP
【FI】
H01M10/48 A
H01M10/48 P
H01M10/48 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021206638
(22)【出願日】2021-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】赤嶺 尚志
【テーマコード(参考)】
5H030
【Fターム(参考)】
5H030AA01
5H030AS08
5H030FF22
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
(57)【要約】
【課題】二次電池の塩濃度の推定精度を向上させることが可能な推定装置、推定方法及び推定プログラムを提供すること。
【解決手段】推定装置10は、二次電池のSOC及び温度と、二次電池の厚み方向における負極及び負極集電板の第1の境界の塩濃度である第1の境界塩濃度との対応関係、並びに、SOC及び温度と、厚み方向における正極及び正極集電板の第2の境界の塩濃度である第2の境界塩濃度との対応関係に基づき、第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度を特定する境界塩濃度特定部131と、二次電池の塩濃度を導出する液相拡散モデルと、境界塩濃度特定部が特定した第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度とを用いて、厚み方向における塩濃度を算出する塩濃度算出部132とを含む。第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度は、それぞれ第1の境界及び第2の境界における二次電池の面方向の塩の移動に応じて変化し得る。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の塩濃度を推定する推定装置であって、
前記二次電池のSOC(State of Charge)及び温度と、前記二次電池の厚み方向における負極及び負極集電板の第1の境界の塩濃度である第1の境界塩濃度との対応関係、並びに、前記SOC及び前記温度と、前記厚み方向における正極及び正極集電板の第2の境界の塩濃度である第2の境界塩濃度との対応関係に基づき、前記第1の境界塩濃度及び前記第2の境界塩濃度を特定する境界塩濃度特定部と、
前記二次電池の塩濃度を導出する液相拡散モデルと、前記境界塩濃度特定部が特定した前記第1の境界塩濃度及び前記第2の境界塩濃度とを用いて、前記厚み方向における塩濃度を算出する塩濃度算出部と
を含み、
前記第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度は、それぞれ前記第1の境界及び前記第2の境界における前記二次電池の面方向の塩の移動に応じて変化し得ることを特徴とする、推定装置。
【請求項2】
二次電池の塩濃度を推定する推定装置であって、
前記二次電池のSOC及び温度と、前記二次電池の厚み方向における負極及び負極集電板の第1の境界の塩濃度である第1の境界塩濃度との対応関係、並びに、前記SOC及び前記温度と、前記厚み方向における正極及び正極集電板の第2の境界の塩濃度である第2の境界塩濃度との対応関係に基づき、前記第1の境界塩濃度及び前記第2の境界塩濃度を特定する境界塩濃度特定部と、
前記二次電池の塩濃度を導出する液相拡散モデルと、前記境界塩濃度特定部が特定した前記第1の境界塩濃度及び前記第2の境界塩濃度とを用いて、前記厚み方向における塩濃度を算出する塩濃度算出部と
を含み、
前記第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度は、前記二次電池のSOC及び温度と相関することを特徴とする、推定装置。
【請求項3】
前記二次電池の充電時における前記対応関係は、
前記SOCが大きく、かつ、前記温度が高い場合、前記第1の境界塩濃度及び前記第2の境界塩濃度が高くなるように規定され、
前記SOCが小さく、かつ、前記温度が低い場合、前記第1の境界塩濃度及び前記第2の境界塩濃度が低くなるように規定される、請求項1又は2に記載の推定装置。
【請求項4】
前記二次電池の放電時における前記対応関係は、
前記SOCが小さく、かつ、前記温度が高い場合、前記第1の境界塩濃度及び前記第2の境界塩濃度が高くなるように規定され、
前記SOCが大きく、かつ、前記温度が低い場合、前記第1の境界塩濃度及び前記第2の境界塩濃度が低くなるように規定される、請求項1~3のいずれか1項に記載の推定装置。
【請求項5】
前記二次電池の電流計測値及び温度計測値と、前記塩濃度算出部が算出した塩濃度を用いて、前記二次電池の電圧推定値を算出する電圧算出部と、
前記電圧算出部が算出した電圧推定値と、前記二次電池の電圧計測値との誤差に基づき、前記境界塩濃度特定部が特定した前記第1の境界塩濃度及び前記第2の境界塩濃度を補正する境界塩濃度補正部と
を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の推定装置。
【請求項6】
前記塩濃度算出部は、前記境界塩濃度補正部が補正した前記第1の境界塩濃度及び前記第2の境界塩濃度を用いて、前記二次電池内の前記塩濃度を算出する、請求項5に記載の推定装置。
【請求項7】
前記塩濃度算出部の算出した前記塩濃度の平均値である平均塩濃度が既定の範囲内となる最大の時間及びパワーを導出するリミット導出部をさらに含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の推定装置。
【請求項8】
二次電池の塩濃度を推定する推定方法であって、コンピュータが、
前記二次電池のSOC及び温度と、前記二次電池の厚み方向における負極及び負極集電板の第1の境界の塩濃度である第1の境界塩濃度との対応関係、並びに、前記SOC及び前記温度と、前記厚み方向における正極及び正極集電板の第2の境界の塩濃度である第2の境界塩濃度との対応関係に基づき、前記第1の境界塩濃度及び前記第2の境界塩濃度を特定し、
前記二次電池の塩濃度を導出する液相拡散モデルと、特定された前記第1の境界塩濃度及び前記第2の境界塩濃度とを用いて、前記厚み方向における塩濃度を算出し、
前記第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度は、それぞれ前記第1の境界及び前記第2の境界における前記二次電池の面方向の塩の移動に応じて変化し得ることを特徴とする、推定方法。
【請求項9】
二次電池の塩濃度を推定する推定方法であって、コンピュータが、
前記二次電池のSOC及び温度と、前記二次電池の厚み方向における負極及び負極集電板の第1の境界の塩濃度である第1の境界塩濃度との対応関係、並びに、前記SOC及び前記温度と、前記厚み方向における正極及び正極集電板の第2の境界の塩濃度である第2の境界塩濃度との対応関係に基づき、前記第1の境界塩濃度及び前記第2の境界塩濃度を特定し、
前記二次電池の塩濃度を導出する液相拡散モデルと、特定された前記第1の境界塩濃度及び前記第2の境界塩濃度とを用いて、前記厚み方向における塩濃度を算出し、
前記第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度は、前記二次電池のSOC及び温度と相関することを特徴とする、推定方法。
【請求項10】
二次電池の塩濃度を推定する推定プログラムであって、コンピュータに対し、
前記二次電池のSOC及び温度と、前記二次電池の厚み方向における負極及び負極集電板の第1の境界の塩濃度である第1の境界塩濃度との対応関係、並びに、前記SOC及び前記温度と、前記厚み方向における正極及び正極集電板の第2の境界の塩濃度である第2の境界塩濃度との対応関係に基づき、前記第1の境界塩濃度及び前記第2の境界塩濃度を特定させ、
前記二次電池の塩濃度を導出する液相拡散モデルと、特定された前記第1の境界塩濃度及び前記第2の境界塩濃度とを用いて、前記厚み方向における塩濃度を算出させ、
前記第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度は、それぞれ前記第1の境界及び前記第2の境界における前記二次電池の面方向の塩の移動に応じて変化し得ることを特徴とする、
推定プログラム。
【請求項11】
二次電池の塩濃度を推定する推定プログラムであって、コンピュータに対し、
前記二次電池のSOC及び温度と、前記二次電池の厚み方向における負極及び負極集電板の第1の境界の塩濃度である第1の境界塩濃度との対応関係、並びに、前記SOC及び前記温度と、前記厚み方向における正極及び正極集電板の第2の境界の塩濃度である第2の境界塩濃度との対応関係に基づき、前記第1の境界塩濃度及び前記第2の境界塩濃度を特定させ、
前記二次電池の塩濃度を導出する液相拡散モデルと、特定された前記第1の境界塩濃度及び前記第2の境界塩濃度とを用いて、前記厚み方向における塩濃度を算出させ、
前記第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度は、前記二次電池のSOC及び温度と相関することを特徴とする、
推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の塩濃度を推定する推定装置、推定方法及び推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、電気自動車やハイブリッド車、プラグインハイブリッド車等の電力を駆動力として利用する車両では、リチウムイオン電池やニッケル水素電池等の二次電池が使用されている。このような二次電池は、ハイレートで充放電されることにより、二次電池の電解液中に塩濃度斑が生じ、二次電池の内部抵抗が上昇する。二次電池の内部抵抗の上昇により、利用可能な充放電パワーが低下すると共に、リチウム等の塩が析出するリスクが高くなる。そのため、二次電池の塩濃度を推定する種々の技術が提案されている。
【0003】
このような技術の一例として、特許文献1は、二次電池の測定値を用いて電池電流密度を推定し、当該電池電流密度に基づいて電極間の電解液塩濃度差を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-60406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1が開示する監視装置では、電池電流密度のみに基づいて電極間電解液塩濃度差を算出するため、二次電池の面方向(図1)における塩濃度斑を推定できず、二次電池の塩濃度の推定精度が低いという課題があった。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するものであり、二次電池の塩濃度の推定精度を向上させることが可能な推定装置、推定方法及び推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る二次電池の塩濃度を推定する推定装置は、
二次電池のSOC(State of Charge)及び温度と、二次電池の厚み方向における負極及び負極集電板の第1の境界の塩濃度である第1の境界塩濃度との対応関係、並びに、SOC及び温度と、厚み方向における正極及び正極集電板の第2の境界の塩濃度である第2の境界塩濃度との対応関係に基づき、第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度を特定する境界塩濃度特定部と、
二次電池の塩濃度を導出する液相拡散モデルと、境界塩濃度特定部が特定した第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度とを用いて、厚み方向における塩濃度を算出する塩濃度算出部とを含み、
第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度は、それぞれ第1の境界及び第2の境界における二次電池の面方向の塩の移動に応じて変化し得ることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の一態様に係る二次電池の塩濃度を推定する推定装置は、
二次電池のSOC及び温度と、二次電池の厚み方向における負極及び負極集電板の第1の境界の塩濃度である第1の境界塩濃度との対応関係、並びに、SOC及び温度と、厚み方向における正極及び正極集電板の第2の境界の塩濃度である第2の境界塩濃度との対応関係に基づき、第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度を特定する境界塩濃度特定部と、
二次電池の塩濃度を導出する液相拡散モデルと、境界塩濃度特定部が特定した第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度とを用いて、厚み方向における塩濃度を算出する塩濃度算出部とを含み、
第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度は、二次電池のSOC及び温度に相関することを特徴とする。
【0009】
二次電池の充電時における対応関係は、
SOCが大きく、かつ、温度が高い場合、第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度が高くなるように規定され、
SOCが小さく、かつ、温度が低い場合、第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度が低くなるように規定され得る。
【0010】
二次電池の放電時における対応関係は、
SOCが小さく、かつ、温度が高い場合、第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度が高くなるように規定され、
SOCが大きく、かつ、温度が低い場合、第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度が低くなるように規定され得る。
【0011】
また、推定装置は、二次電池の電流計測値及び温度計測値と、塩濃度算出部が算出した塩濃度を用いて、二次電池の電圧推定値を算出する電圧算出部と、
電圧算出部が算出した電圧推定値と、二次電池の電圧計測値との誤差に基づき、境界塩濃度特定部が特定した第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度を補正する境界塩濃度補正部とを含む。
【0012】
さらに、塩濃度算出部は、境界塩濃度補正部が補正した第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度を用いて、二次電池の塩濃度を算出し得る。
【0013】
さらに、推定装置は、塩濃度算出部の算出した塩濃度の平均値である平均塩濃度が既定の範囲内となる最大の時間及びパワーを導出するリミット導出部を含み得る。
【0014】
本発明の一態様に係る二次電池の塩濃度を推定する推定方法は、コンピュータが、
二次電池のSOC及び温度と、二次電池の厚み方向における負極及び負極集電板の第1の境界の塩濃度である第1の境界塩濃度との対応関係、並びに、SOC及び温度と、厚み方向における正極及び正極集電板の第2の境界の塩濃度である第2の境界塩濃度との対応関係に基づき、第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度を特定し、
二次電池の塩濃度を導出する液相拡散モデルと、特定された第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度とを用いて、厚み方向における塩濃度を算出し、
第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度は、それぞれ第1の境界及び第2の境界における二次電池の面方向の塩の移動に応じて変化し得ることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の一態様に係る二次電池の塩濃度を推定する推定方法は、コンピュータが、
二次電池のSOC及び温度と、二次電池の厚み方向における負極及び負極集電板の第1の境界の塩濃度である第1の境界塩濃度との対応関係、並びに、SOC及び温度と、厚み方向における正極及び正極集電板の第2の境界の塩濃度である第2の境界塩濃度との対応関係に基づき、第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度を特定し、
二次電池の塩濃度を導出する液相拡散モデルと、特定された第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度とを用いて、厚み方向における塩濃度を算出し、
第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度は、二次電池のSOC及び温度に相関することを特徴とする。
【0016】
本発明の一態様に係る二次電池の塩濃度を推定する推定プログラムは、コンピュータに対し、
二次電池のSOC及び温度と、二次電池の厚み方向における負極及び負極集電板の第1の境界の塩濃度である第1の境界塩濃度との対応関係、並びに、SOC及び温度と、厚み方向における正極及び正極集電板の第2の境界の塩濃度である第2の境界塩濃度との対応関係に基づき、第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度を特定させ、
二次電池の塩濃度を導出する液相拡散モデルと、特定された第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度とを用いて、厚み方向における塩濃度を算出させ、
第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度は、それぞれ第1の境界及び第2の境界における二次電池の面方向の塩の移動に応じて変化し得ることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の一態様に係る二次電池の塩濃度を推定する推定プログラムは、コンピュータに対し、
二次電池のSOC及び温度と、二次電池の厚み方向における負極及び負極集電板の第1の境界の塩濃度である第1の境界塩濃度との対応関係、並びに、SOC及び温度と、厚み方向における正極及び正極集電板の第2の境界の塩濃度である第2の境界塩濃度との対応関係に基づき、第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度を特定させ、
二次電池の塩濃度を導出する液相拡散モデルと、特定された第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度とを用いて、厚み方向における塩濃度を算出させ、
第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度は、二次電池のSOC及び温度に相関することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、二次電池の塩濃度の推定精度を向上させることが可能な推定装置、推定方法及び推定プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】二次電池の一例を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る推定装置の構成を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る境界塩濃度を特定する方法と、塩濃度を算出する方法を示す概念図である。
図4】二次電池の充電時及び放電時のSOCと二次電池の拘束圧との関係を示す図である。
図5】本発明の一実施形態に係る境界塩濃度マップの一例を示す図である。
図6】二次電池の厚み方向の塩濃度の一例を示す図である。
図7】二次電池の電圧推定値を算出する電池モデルの一例を示す図である。
図8】本発明の一実施形態に係る推定装置が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
図9】本発明の一実施形態に係る推定装置が実行する処理の別の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る推定装置が状態を推定する二次電池の一例を示す図である。二次電池は、図1に示すように厚み方向及び面方向を有する。二次電池内では、厚み方向に負極集電板、負極シート、セパレータ、正極シート及び正極集電板が積層される。面方向は、厚み方向と垂直な方向であり、かつ、地面に概略平行な方向である。
【0021】
図2は、本発明の一実施形態に係る推定装置10の構成を示すブロック図である。推定装置10は、車両に設置された二次電池の塩濃度を推定する装置である。推定装置10の具体例として、例えば、車両に設置されるECU(Electronic Control Unit)等が挙げられる。
【0022】
推定装置10は、通信インタフェース(I/F)11と、記憶装置12と、演算装置13とを備える。通信I/F11は、推定装置10と、車両に設置された二次電池及び他の装置との間で、信号の送受信を行うインタフェースである。
【0023】
記憶装置12は、演算装置13が実行する推定プログラム、演算装置13が処理する種々の情報が保存される記憶装置である。
【0024】
演算装置13は、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)等の演算装置である。演算装置13は、記憶装置12に保存された推定プログラムを実行することにより、推定プログラムによって規定される推定方法を実行する。推定プログラムには、計測値取得部130、境界塩濃度特定部131、塩濃度算出部132、電圧算出部133、誤差算出部134、境界塩濃度補正部135、及びリミット導出部136が含まれる。なお、FPGA(Field-Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の集積回路が、これらのプログラムを実行してもよい。
【0025】
計測値取得部130は、二次電池の計測値である電流計測値、電圧計測値及び温度計測値を取得するプログラムである。計測値取得部130は、二次電池の電流を検出する電流センサ(図示せず)から通信I/F11を介して、二次電池の電流計測値を取得できる。また、計測値取得部130は、二次電池の電圧を検出する電圧センサ(図示せず)から通信I/F11を介して、二次電池の電圧計測値を取得できる。さらに、計測値取得部130は、二次電池の温度を検出する温度センサ(図示せず)から通信I/F11を介して、二次電池の温度計測値を取得できる。
【0026】
境界塩濃度特定部131は、二次電池の厚み方向における負極と負極集電板との境界の塩濃度と、厚み方向における正極と正極集電板との境界の塩濃度を特定するプログラムである。以下、負極と負極集電板との境界を第1の境界と称し、第1の境界における塩濃度を第1の境界塩濃度と称する。また、厚み方向における正極と正極集電板との境界を第2の境界と称し、第2の境界における塩濃度を第2の境界塩濃度と称する。
【0027】
境界塩濃度特定部131は、図3に示すように、二次電池のSOC推定値及び温度計測値と、境界塩濃度マップを用いて、第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度を特定することができる。境界塩濃度マップは、二次電池のSOC推定値及び温度計測値と、第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度のそれぞれとの対応関係を規定する。SOC推定値は、電流値を積算して得られる電流積算SOCを補正することによって導出できる。電流積算SOCの補正には、拡張カルマンフィルタ等の適応フィルタを用いることができる。適応フィルタは、二次電池の電圧推定値と電圧計測値との誤差に基づいて、電流積算SOCを補正することができる。二次電池の電圧推定値は、二次電池の電圧推定値を導出する数理モデル(以下、「電池モデル」とする。)を用いて算出できる。電池モデルについては後述する。
【0028】
図4は、二次電池の充電時及び放電時のSOCと二次電池の拘束圧との関係を示す図である。放電時には、活物質が収縮するため、二次電池の拘束圧が低下する。このとき、活物質の収縮によってできた空間に電解液が浸入する。一方、充電時には、活物質が膨張するため、二次電池の拘束圧が低下する。活物質の膨張により、当該空間に浸入した電解液が面方向に押し出される。このように面方向に移動する電解液の量が、二次電池内の各部で異なるため、面方向に塩濃度の斑が生じる。
【0029】
第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度はそれぞれ、第1の境界及び第2の境界における二次電池の面方向の塩の移動に応じて変化し得る。第1の境界及び第2の境界における二次電池の面方向の塩の移動は、二次電池のSOC及び温度に応じて変化し得る。したがって、第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度はそれぞれ、二次電池のSOC及び温度と相関する。この関係は、境界塩濃度マップによって規定することができる。
【0030】
図5は、境界塩濃度マップの一例を示す図である。境界塩濃度マップには、二次電池の充電時の第1の境界塩濃度を特定するための境界塩濃度マップと、放電時の第1の境界塩濃度を特定するための境界塩濃度マップと、充電時の第2の境界塩濃度を特定するための境界塩濃度マップと、放電時の第2の境界塩濃度を特定するための境界塩濃度マップがある。第1の境界塩濃度を特定するための境界塩濃度マップと、第2の境界塩濃度を特定するための境界塩濃度マップは、以下のような共通の特徴を有する。
【0031】
充電時の境界塩濃度マップは、SOCが大きく、かつ、温度が高い場合、第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度が高くなるように規定される。また、SOCが小さく、かつ、温度が低い場合、第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度が低くなるように規定される。
【0032】
放電時の境界塩濃度マップは、SOCが小さく、かつ、温度が高い場合、第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度が高くなるように規定される。また、放電時の境界塩濃度マップは、SOCが大きく、かつ、温度が低い場合、第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度が低くなるように規定される。
【0033】
境界塩濃度特定部131は、二次電池の直近のSOCの変化傾向に基づき、二次電池が充電中又は放電中であるか判定し、充電時の境界塩濃度マップ及び放電時の境界塩濃度マップのうち、二次電池の現在の状態に応じた境界塩濃度マップを使用する。
【0034】
塩濃度算出部132は、図3に示すように、二次電池の塩濃度を導出する液相拡散モデルと、第1の境界塩濃度と、第2の境界塩濃度と、電流値と、温度計測値とを用いて、二次電池の厚み方向における塩濃度を算出するプログラムである。塩濃度算出部132が算出した塩濃度は、二次電池の状態推定値に相当する。
【0035】
下記数式1は、液相拡散モデルの一例である液相拡散方程式を示す。この液相拡散方程式により、図6に示すような、二次電池の厚み方向における電解液中の塩濃度が導出される。
【数1】
添え字iは、n、s及びpを表す。nは負極を表し、sはセパレータを表し、pは正極を表す。εは、負極、セパレータ及び正極のそれぞれの多孔度を表す。ce,i(x,t)は、厚み方向の位置x及び時間tにおける塩濃度を表す。厚み方向の位置xは、第1の境界を基準とする位置を表す。x=0は、第1の境界を表す。x=Lは、負極及びセパレータの境界を表す。x=L+Lは、セパレータ及び正極の境界を表す。x=Lは、第2の境界を表す。ここで、Lは負極の厚さを表す。Lはセパレータの厚さを表す。Lは、負極、セパレータ及び正極の全体の厚さを表す。
【0036】
e,i effは、負極、セパレータ及び正極のそれぞれの実効液相拡散係数を表す。実効液相拡散係数は、二次電池の温度計測値と、これらの実効液相拡散係数とが対応付けられたマップによって特定される。as,iは、負極及び正極のそれぞれの活物質の比表面積を表す。t は、リチウムイオンの輸率を表す。j Li(x,t)は、厚み方向の位置x及び時間tにおける負極及び正極のそれぞれのリチウムイオンの流束を表す。リチウムイオンの流束は、数式2に基づき、電流値Iを用いて算出することができる。
【数2】
Fは、ファラデー定数を表す。Aは、電極反応面積を表す。
【0037】
下記数式3~8は、数式1の液相拡散方程式の境界条件を示す。境界条件とは、負極集電板、負極、セパレータ、正極及び正極集電板の境界における条件である。数式3は、第1の境界における境界条件を示す。
【数3】
e,n(x,t)(x=0)は、時間tにおける第1の境界の負極側の境界塩濃度を示す。juneven,n(t)は、時間tにおける第1の境界塩濃度を示し、境界塩濃度マップを用いて特定される。
【0038】
数式4は、第2の境界における境界条件を示す。
【数4】
e,p(x,t)(x=L)は、時間tにおける第2の境界の正極側の境界塩濃度を示す。juneven,p(t)は、時間tにおける第2の境界塩濃度を示し、境界塩濃度マップを用いて特定される。
【0039】
数式5及び数式6は、負極及びセパレータの境界における境界条件を示す。
【数5】
【数6】
e,n effは、負極の実効液相拡散係数を表す。De,s effは、セパレータの実効液相拡散係数を表す。ce,n(x,t)(x=L)は、時間tにおける負極及びセパレータの境界の負極側の境界塩濃度を示す。ce,s(x,t)(x=L)は、時間tにおける負極及びセパレータの境界のセパレータ側の境界塩濃度を示す。
【0040】
数式7及び数式8は、セパレータ及び正極の境界における境界条件を示す。
【数7】
【数8】
e,p effは、正極の実効液相拡散係数を表す。ce,s(x,t)(x=L+L)は、時間tにおけるセパレータ及び正極の境界のセパレータ側の境界塩濃度を示す。ce,p(x,t)(x=L+L)は、時間tにおけるセパレータ及び正極の境界の正極側の境界塩濃度を示す。
【0041】
電圧算出部133は、二次電池の電流値及び温度計測値と、塩濃度算出部132が算出した塩濃度を用いて、二次電池の電圧推定値を算出するプログラムである。図7は、二次電池の電圧推定値を算出する電池モデルの一例を示す図である。電圧算出部133は、図7に示す電池モデルを利用して電圧推定値を算出できる。電圧算出部133が算出した二次電池内の電圧推定値は、二次電池の状態推定値に相当する。
【0042】
電池モデルは、負極固相拡散モデル21と、負極電位マップ22と、負極反応過電圧モデル23と、正極固相拡散モデル31と、正極電位マップ32と、正極反応過電圧モデル33と、液相拡散モデル41と、液相電位差式42と、部品抵抗モデル51と、液抵抗モデル52と、被膜抵抗モデル53とを含む。
【0043】
負極固相拡散モデル21は、二次電池の電流値及び温度計測値を用いて、負極表面のLi濃度を導出する数理モデルである。負極電位マップ22は、負極表面のLi濃度と負極電位との対応関係を規定する。負極反応過電圧モデル23は、二次電池の電流値及び温度計測値を用いて、負極で生じ得る過電圧である負極反応過電圧を導出する数理モデルである。
【0044】
電圧算出部133は、負極固相拡散モデル21を用いて、二次電池の電流値及び温度計測値に基づく負極表面のLi濃度を算出する。次いで、電圧算出部133は、負極電位マップ22を用いて、当該負極表面のLi濃度に対応する負極電位を特定する。また、電圧算出部133は、負極反応過電圧モデル23を用いて、二次電池の電流値及び温度計測値に基づく負極反応過電圧を算出する。そして、電圧算出部133は、特定した負極電位と、算出した負極反応過電圧とを加算することにより、負極の電位推定値を算出する。
【0045】
正極固相拡散モデル31は、二次電池の電流値及び温度計測値を用いて、正極表面のLi濃度を導出する数理モデルである。正極電位マップ32は、正極表面のLi濃度と正極電位との対応関係を規定する。正極反応過電圧モデル33は、二次電池の電流値及び温度計測値を用いて、正極で生じ得る過電圧である正極反応過電圧を導出する数理モデルである。
【0046】
電圧算出部133は、正極固相拡散モデル31を用いて、二次電池の電流値及び温度計測値に基づく正極表面のLi濃度を算出する。次いで、電圧算出部133は、正極電位マップ32を用いて、当該正極表面のLi濃度に対応する正極電位を特定する。また、電圧算出部133は、正極反応過電圧モデル33を用いて、二次電池の電流値及び温度計測値に基づく正極反応過電圧を算出する。そして、電圧算出部133は、特定した正極電位と、算出した正極反応過電圧とを加算することにより、正極の電位推定値を算出する。
【0047】
液相拡散モデル41は、二次電池の電流値及び温度計測値を用いて、二次電池の厚み方向における電解液中の塩濃度を導出する数理モデルである。液相拡散モデル41として、上記数式1が示す液相拡散方程式を採用することができる。液相電位差式42は、二次電池の厚み方向における電解液中の塩濃度を用いて、厚み方向における電解液中の電位差である液相電位差を導出する数式である。
【0048】
液相電位差の算出に際し、まず、境界塩濃度特定部131が、境界塩濃度マップを用いて、二次電池の電流値に基づくSOC推定値及び温度計測値に対応する第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度を特定する。次いで、塩濃度算出部132が、第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度を境界条件とする液相拡散モデル41に基づき、電流値及び温度計測値を用いて、二次電池の厚み方向における電解液中の塩濃度を算出する。そして、電圧算出部133が、液相電位差式42を用いて、当該電解液中の塩濃度に基づく液相電位差を算出する。
【0049】
部品抵抗モデル51は、二次電池の電流値及び温度計測値を用いて、二次電池が備える部品抵抗によって減少する電位の減少量(以下、「第1の電位減少量」とする。)を導出する数理モデルである。液抵抗モデル52は、電解液中において減少する電位の減少量(以下、「第2の電位減少量」とする。)を導出する数理モデルである。被膜抵抗モデル53は、負極表面に形成された被膜によって減少する電位の減少量(以下、「第3の電位減少量」とする。)を導出する数理モデルである。
【0050】
電圧算出部133は、二次電池の電流値及び温度計測値と、部品抵抗モデル51を用いて、第1の電位減少量を算出する。次いで、電圧算出部133は、第1の電位減少量と、液抵抗モデル52を用いて、第2の電位減少量を算出する。そして、電圧算出部133は、第2の電位減少量と、被膜抵抗モデル53を用いて、第3の電位減少量を算出する。そして、電圧算出部133は、正極の電位推定値及び液相電位差の和から負極の電位推定値及び第3の電位減少量を減算することにより、電圧推定値を算出できる。
【0051】
誤差算出部134は、電圧計測値と、電圧算出部133が算出した電圧推定値との差である誤差ΔVを算出するプログラムである。具体的には、誤差算出部134は、電圧計測値から電圧推定値を減算して、誤差ΔVを算出することができる。
【0052】
境界塩濃度補正部135は、誤差算出部134が算出した誤差ΔVに基づき、境界塩濃度特定部131が特定した第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度を補正するプログラムである。具体的には、境界塩濃度補正部135は、誤差ΔVを最小にするための第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度の補正係数を算出し、当該補正係数を用いて、第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度を補正できる。
【0053】
例えば、境界塩濃度補正部135は、再帰最小二乗法を用いて補正係数を算出できる。また、境界塩濃度補正部135は、拡張カルマンフィルタ等の適応フィルタを用いて補正係数を算出できる。塩濃度算出部132は、このようにして補正された第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度を用いて、二次電池の塩濃度を算出する。
【0054】
リミット導出部136は、二次電池の塩濃度斑によるパワー(電力及び/又は電流)の低減が起きるまでに、現時点から連続して充電及び/又は放電可能な残り時間であるタイムリミットと、それまでに利用可能な二次電池のパワーの上限値であるパワーリミットを導出するプログラムである。具体的には、リミット導出部136は、塩濃度算出部132の算出した塩濃度の平均値(以下、「平均塩濃度」とする。)が既定の範囲内となる最大の時間及びパワーを導出する。タイムリミットは、平均塩濃度が既定の範囲内となる最大の時間に相当する。また、パワーリミットは、平均塩濃度が既定の範囲内となる最大のパワーに相当する。リミット導出部136が実行する処理については、図9を参照して後述する。
【0055】
図8は、推定装置10が実行する処理の一例を示すフローチャートである。ステップS101では、計測値取得部130が、二次電池の電流計測値、電圧計測値及び温度計測値を取得する。ステップS102では、境界塩濃度特定部131が、充電時の境界塩濃度マップ又は放電時の境界塩濃度マップを用いて、二次電池の電流計測値に基づくSOC推定値及び温度計測値に対応する境界塩濃度を特定する。ステップS103では、塩濃度算出部132が、特定された境界塩濃度を用いて、二次電池の厚み方向における塩濃度を算出する。
【0056】
ステップS104では、電圧算出部133が、二次電池の電圧推定値を算出する。ステップS105では、誤差算出部134が、ステップS101で取得した電圧計測値と、ステップS105で算出した電圧推定値の誤差を算出する。ステップS106では、境界塩濃度補正部135が、誤差算出部134が算出した誤差に基づき、ステップS102で特定された境界塩濃度を補正する。
【0057】
ステップS107では、塩濃度算出部132が、補正された境界塩濃度を用いて、二次電池の厚み方向における塩濃度を算出する。ステップS108では、電圧算出部133が、補正された境界塩濃度に基づいて算出された塩濃度を用いて、二次電池の電圧推定値を算出し、図8の処理が終了する。
【0058】
図9は、リミット導出部136が実行する処理の一例を示すフローチャートである。ステップS201では、リミット導出部136は、時間の全水準についてステップS202~ステップS208の処理が完了したか否か判定する。時間の水準とは、電池の用途に応じて事前に想定される充電及び/又は放電の連続時間(例えば、0.5秒、1秒、10秒等)を意味する。なお、電池の用途の数に応じた数の時間の水準を採用することができる。
【0059】
時間の全水準について上記処理が完了していない場合(NO)、ステップS202に処理が分岐する。ステップS202では、リミット導出部136は、既定の充電及び/又は放電の連続時間のうち、未だ選択されていない充電及び/又は放電の連続時間の中で最小のものを選択する。したがって、ステップS202では、最小の充電及び/又は放電の連続時間から順に選択される。
【0060】
ステップS203では、リミット導出部136は、電流の全水準についてステップS204~ステップS208の処理が完了したか否か判定する。電流の水準とは、電池の用途に応じて事前に想定される充電及び/又は放電の電流値(例えば、5A、50A、150A等)を意味する。なお、電池の用途の数に応じた数の電流の水準を採用することができる。
【0061】
電流の全水準について上記処理が完了した場合(YES)、ステップS201に処理が戻る。一方、電流の全水準について上記処理が完了していない場合(NO)、ステップS204に処理が分岐する。ステップS204では、リミット導出部136は、既定の充電及び/又は放電の電流値のうち、未だ選択されていない充電及び/又は放電の電流値の中で最小のものを選択する。したがって、ステップS204では、最小の充電及び/又は放電の電流値から順に選択される。
【0062】
ステップS205では、リミット導出部136は、ステップS202で選択された時間と、ステップS204で選択された電流値と、二次電池の現在の温度計測値とを用いて、二次電池の厚み方向の平均塩濃度を算出する。より詳細には、境界塩濃度特定部131が、ステップS204で選択された電流値に基づくSOC推定値と、二次電池の現在の温度計測値に対応する第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度を特定する。次いで、塩濃度算出部132が、特定された第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度を境界条件とする液相拡散方程式に基づき、ステップS202で選択された時間と、ステップS204で選択された電流値と、二次電池の現在の温度計測値とを用いて、厚み方向の塩濃度を算出する。そして、リミット導出部136が、塩濃度算出部132の算出した厚み方向の塩濃度から平均塩濃度を算出する。
【0063】
ステップS206では、リミット導出部136は、算出した平均塩濃度が、既定の範囲内であるか否か判定する。既定の範囲は、二次電池の塩濃度斑が発生していない状態の平均塩濃度の範囲とし得る。
【0064】
算出した平均塩濃度が既定の範囲から外れる場合(NO)、すなわち、ステップS202で選択した時間内に二次電池の塩濃度斑が発生すると推定される場合、ステップS203に処理が戻る。一方、算出した平均塩濃度が既定の範囲内の場合(YES)、すなわち、ステップS202で選択した時間内に二次電池の塩濃度斑が発生しないと推定される場合、ステップS207に処理が分岐する。
【0065】
ステップS207では、リミット導出部136は、今回の電流値、すなわち、ステップS204で選択した電流値の絶対値が、許容電流値の絶対値よりも大きいか否か判定する。許容電流値とは、所定の時間において、二次電池の厚み方向の平均塩濃度が既定の範囲内となる電流値、すなわち、二次電池の塩濃度斑が発生しない電流値である。なお、許容電流値の初期値は、上述した充電及び/又は放電の電流の水準のうち最小のものを採用できる。
【0066】
選択した電流値の絶対値が、許容電流値の絶対値以下である場合(NO)、ステップS203に処理が戻る。一方、選択した電流値の絶対値が、許容電流値の絶対値よりも大きい場合(YES)、ステップS208に処理が分岐する。ステップS208では、リミット導出部136は、ステップS204で選択した電流値を、許容電流値として設定し、ステップS203に処理が戻る。ステップS207及びステップS208の処理により、二次電池の厚み方向の平均塩濃度が既定の範囲内となる電流値、すなわち、二次電池の塩濃度斑が発生しないと推定される電流値のうち最大の電流値が、許容電流値として設定される。
【0067】
ステップS201において時間の全水準について上記処理が完了したと判定された場合(YES)、ステップS209に処理が分岐する。ステップS209では、リミット導出部136は、パワーリミットを算出し、図9の処理が終了する。より詳細には、電圧算出部133が、ステップS208で最後に設定された許容電流値、すなわち、二次電池の塩濃度斑が発生しないと推定される電流値のうち最大の電流値と、二次電池の温度計測値と、上記電池モデルを用いて、電圧推定値を算出する。次いで、リミット導出部136が、当該許容電流値及び当該電圧推定値を積算することにより、パワーリミットを算出する。また、リミット導出部136は、ステップS208で最後に設定された許容電流値に関連する充電及び/又は放電の連続時間、すなわち、当該許容電流値の算出に使用された充電及び/又は放電の連続時間を、タイムリミットとして特定する。
【0068】
上述した実施形態では、境界塩濃度特定部131が、二次電池のSOC及び温度と、第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度との対応関係に基づき、第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度を特定する。そして、塩濃度算出部132が、二次電池の塩濃度を導出する液相拡散モデルと、境界塩濃度特定部131が特定した第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度とを用いて、厚み方向における塩濃度を算出する。第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度は、それぞれ第1の境界及び第2の境界における二次電池の面方向の塩の移動に応じて変化し得る。
【0069】
これにより、第1の境界及び第2の境界における二次電池の面方向の塩の移動を反映した第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度に基づいて、二次電池の塩濃度を算出することができるため、二次電池の塩濃度の推定精度を向上させることができる。
【0070】
一般に、ハイレート劣化による二次電池の面方向の塩濃度斑は、活物質の膨張を予測する等、複雑な処理を実行するモデルが必要となり、データ処理量が多くなる。そのため、このようなモデルは、ECU等への実装に適さない。一方、面方向の塩濃度斑は、厚み方向の平均塩濃度の上昇として現れる。上述した実施形態では、液相拡散モデルを用いて、二次電池の厚み方向の塩濃度を算出する。液相拡散モデルを用いた塩濃度の算出は、活物質の膨張予測等の複雑な処理を必要とせず、データ処理量が少なくなるため、ECU等への実装に適している。また、液相拡散モデルを用いて厚み方向の塩濃度を算出し、その平均塩濃度の変化を特定することにより、面方向の塩濃度斑の発生や解消を推定することができる。
【0071】
また、上述した実施形態では、電圧算出部133が、二次電池の電流計測値及び温度計測値と、塩濃度算出部132が算出した塩濃度を用いて、二次電池の電圧推定値を算出する。そして、境界塩濃度補正部135が、電圧算出部133の算出した電圧推定値と、電圧計測値との誤差に基づき、境界塩濃度特定部131の特定した第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度を補正する。これにより、二次電池の実際の第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度と、境界塩濃度特定部131の特定した第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度との誤差を低減することができる。
【0072】
さらに、上述した実施形態では、塩濃度算出部132が、境界塩濃度補正部135の補正した第1の境界塩濃度及び第2の境界塩濃度を用いて、二次電池の塩濃度を算出する。これにより、二次電池の実際の塩濃度と、塩濃度算出部132の算出した二次電池の塩濃度との誤差を低減でき、二次電池の塩濃度の推定精度を向上させることができる。
【0073】
さらに、上述した実施形態では、リミット導出部136が、塩濃度算出部132の算出した塩濃度の平均値である平均塩濃度が既定の範囲内となる最大の時間及びパワーを導出する。これにより、二次電池の塩濃度斑による電力及び/又は電流の低減が起きるまでに、現在の状態から連続して充電及び/又は放電可能な残り時間と、利用可能なパワーの上限値を導出することができる。
【0074】
上述したように、二次電池の塩濃度を高精度で推定することにより、二次電池の状態を正確に把握できるため、二次電池の充放電を適切に制御することができる。例えば、二次電池の放電が過剰に制限されるのを防ぐことができ、二次電池の電力を有効に利用することができる。その結果、二次電池の電力によって駆動される車両の燃費を向上させることができると共に、当該車両のドライバビリティの低下を防ぐことができる。
【0075】
上述した推定プログラムは、コンピュータに読み込まれた場合に、実施形態で説明された1又はそれ以上の機能をコンピュータに行わせるための命令群(又はソフトウェアコード)を含む。プログラムは、非一時的なコンピュータ可読媒体又は実体のある記憶媒体に格納されてもよい。限定ではなく例として、コンピュータ可読媒体又は実体のある記憶媒体は、random-access memory(RAM)、read-only memory(ROM)、フラッシュメモリ、solid-state drive(SSD)又はその他のメモリ技術、CD-ROM、digital versatile disk(DVD)、Blu-ray(登録商標)ディスク又はその他の光ディスクストレージ、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスクストレージ又はその他の磁気ストレージデバイスを含む。プログラムは、一時的なコンピュータ可読媒体又は通信媒体上で送信されてもよい。限定ではなく例として、一時的なコンピュータ可読媒体又は通信媒体は、電気的、光学的、音響的、又はその他の形式の伝搬信号を含む。コンピュータには、ECUの他、PC(Personal Computer)、サーバ、CPU、MPU、FPGA、ASIC等の種々の装置が含まれる。
【0076】
本発明は上述した実施形態に限られたものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、他の実施形態では、補正後の境界塩濃度、塩濃度、及び/又は電圧推定値を用いて、二次電池の塩濃度、電圧推定値、パワーリミット及びタイムリミット以外の他の状態推定値を算出してもよい。
【符号の説明】
【0077】
10 推定装置
11 通信インタフェース
12 記憶装置
13 演算装置
130 計測値取得部
131 境界塩濃度特定部
132 塩濃度算出部
133 電圧算出部
134 誤差算出部
135 境界塩濃度補正部
136 リミット導出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9