(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023091834
(43)【公開日】2023-07-03
(54)【発明の名称】ダイヤモンド粒子、および、その製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/26 20170101AFI20230626BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20230626BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20230626BHJP
【FI】
C01B32/26
B82Y30/00
B82Y40/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021206647
(22)【出願日】2021-12-21
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】唐 捷
(72)【発明者】
【氏名】チェン ユーフ
(72)【発明者】
【氏名】秦 禄昌
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA04
4G146AB01
4G146AC02A
4G146AC02B
4G146AD01
4G146AD13
4G146AD19
4G146AD20
4G146AD21
4G146AD40
4G146BA11
4G146BA12
4G146BC43
4G146CA16
(57)【要約】
【課題】 溶液からダイヤモンドを合成する方法、および、ダイヤモンド粒子を提供すること。
【解決手段】 本発明のダイヤモンド粒子を合成する方法は、炭素を含有する有機溶媒を含有する溶媒と、塩とを混合し、混合液を得ることと、混合液をエージングすることとを包含する。有機溶媒は、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、アミド系溶媒、炭化水素系溶媒、芳香族系溶媒、セロソルブ系溶媒、および、および、ハロゲン系溶媒からなる群から少なくとも1種選択される。本発明のダイヤモンド粒子は、立方晶、および/または、六方晶の結晶構造を有し、0.5nm以上1mm以下の範囲の粒径を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素を含有する有機溶媒を含有する溶媒と、塩とを混合し、混合液を得ることと、
前記混合液をエージングすることと
を包含する、ダイヤモンド粒子を合成する方法。
【請求項2】
前記有機溶媒は、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、アミド系溶媒、炭化水素系溶媒、芳香族系溶媒、セロソルブ系溶媒、および、および、ハロゲン系溶媒からなる群から少なくとも1種選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アルコール系溶媒は、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、1-ペンタノール、および、アリルアルコールからなる群から少なくとも1種選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ケトン系溶媒は、アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、イソプロピルメチルケトン、イソブチルメチルケトン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、シクロヘキサノン、および、ジケトンからなる群から少なくとも1種選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記エステル系溶媒は、酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、および、2-エトキシエチルアセタートからなる群から少なくとも1種選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記アミド系溶媒は、N-メチルピロリドン(NMP)、N-エチル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、および、N,N-ジメチルアセトアミドからなる群から少なくとも1種選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記炭化水素系溶媒は、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-デカン、n-ドデカン、2,3-ジメチルヘキサン、2-メチルヘプタン、2-メチルヘキサン、3-メチルヘキサン、および、シクロヘキサンからなる群から少なくとも1種選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記芳香族系溶媒は、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、エチルベンゼン、メチルナフタレン、エチルナフタレン、および、ジメチルナフタレンからなる群から少なくとも1種選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記セロソルブ系溶媒は、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、および、トリエチレングリコールモノメチルエーテルからなる群から少なくとも1種選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記ハロゲン系溶媒は、ジクロロメタン、トリクロロメタン、四塩化炭素、および、クロロホルムからなる群から少なくとも1種選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記塩は、金属ハロゲン化物、金属オキシハロゲン化物、金属硝酸塩、金属リン酸塩、および、金属硫酸塩からなる群から少なくとも1種選択される、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記塩の金属は、第1族元素、第2族元素、第13族元素、および、遷移金属元素からなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記混合液中の前記塩の濃度は、0.001g/L以上1000g/L以下の範囲である、請求項1~12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記混合液中の前記塩の濃度は、0.3g/L以上5g/L以下の範囲である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記エージングすることは、0℃以上400℃以下の温度範囲で0.1時間以上1000時間以下の時間、前記混合液を保持する、請求項1~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記エージングすることは、10℃以上250℃以下の温度範囲で20時間間以上200時間以下の時間、前記混合液を保持する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記エージングすることは、前記混合液を大気圧下、または、前記溶媒の飽和蒸気圧下に保持する、請求項1~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
立方晶、および/または、六方晶の結晶構造を有し、
0.5nm以上1mm以下の範囲の粒径を有する、ダイヤモンド粒子。
【請求項19】
1nm以上100nm以下の範囲の粒径を有する、請求項18に記載のダイヤモンド粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモン粒子、および、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは、高硬度に加えて、高い熱伝導率、高い熱伝導率、高い電気抵抗率、優れた薬品耐性、低い熱膨張率、低い摩擦係数、広い光透過波長帯域、生物的合成など多くの特異な特性を有することで知られており、エレクトロニクス分野への幅広い応用が期待されている。
【0003】
このようなダイヤモンドを合成する手法として、高圧合成(例えば、非特許文献1を参照)、化学的気相成長法(例えば、非特許文献2を参照)、火薬爆発法(例えば、非特許文献3を参照)が知られている。これらの技術は、いずれも、溶液からダイヤモンドを合成する技術ではない。
【0004】
一方、ソルボサーマル法を用いたナノ粒子合成法が開発された(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1によれば、ナノ粒子前駆体と界面活性剤とを含有する液状混合系からナノメーターサイズの粒子を形成させる反応場に、有機溶媒を共存せしめ、該有機溶媒存在下に該ナノメーターサイズの粒子形成を行うことを特徴とし、ダイヤモンドナノ粒子を合成できることを報告する。
【0005】
しかしながら、特許文献1において、ダイヤモンドナノ粒子を合成する具体的な手法については開示されておらず、引き続き溶液からダイヤモンドを合成する技術の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】F.P.BUNDYら,Nature,volume 176,51-55,1955
【非特許文献2】John C.Angusら,Journal of Applied Physics,39,2915,1968
【非特許文献3】Paul S.Decarliら,Science,Vol.133,Issue 3467,1821-1822,1961
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上から、本発明の課題は、溶液からダイヤモンドを合成する方法、および、ダイヤモンド粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるダイヤモンド粒子を合成する方法は、炭素を含有する有機溶媒を含有する溶媒と、塩とを混合し、混合液を得ることと、前記混合液をエージングすることとを包含し、これにより上記課題を解決する。
前記有機溶媒は、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、アミド系溶媒、炭化水素系溶媒、芳香族系溶媒、セロソルブ系溶媒、および、および、ハロゲン系溶媒からなる群から少なくとも1種選択されてもよい。
前記アルコール系溶媒は、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、1-ペンタノール、および、アリルアルコールからなる群から少なくとも1種選択されてもよい。
前記ケトン系溶媒は、アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、イソプロピルメチルケトン、イソブチルメチルケトン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、シクロヘキサノン、および、ジケトンからなる群から少なくとも1種選択されてもよい。
前記エステル系溶媒は、酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、および、2-エトキシエチルアセタートからなる群から少なくとも1種選択されてもよい。
前記アミド系溶媒は、N-メチルピロリドン(NMP)、N-エチル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、および、N,N-ジメチルアセトアミドからなる群から少なくとも1種選択されてもよい。
前記炭化水素系溶媒は、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-デカン、n-ドデカン、2,3-ジメチルヘキサン、2-メチルヘプタン、2-メチルヘキサン、3-メチルヘキサン、および、シクロヘキサンからなる群から少なくとも1種選択されてもよい。
前記芳香族系溶媒は、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、エチルベンゼン、メチルナフタレン、エチルナフタレン、および、ジメチルナフタレンからなる群から少なくとも1種選択されてもよい。
前記セロソルブ系溶媒は、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、および、トリエチレングリコールモノメチルエーテルからなる群から少なくとも1種選択されてもよい。
前記ハロゲン系溶媒は、ジクロロメタン、トリクロロメタン、四塩化炭素、および、クロロホルムからなる群から少なくとも1種選択されてもよい。
前記塩は、金属ハロゲン化物、金属オキシハロゲン化物、金属硝酸塩、金属リン酸塩、および、金属硫酸塩からなる群から少なくとも1種選択されてもよい。
前記塩の金属は、第1族元素、第2族元素、第13族元素、および、遷移金属元素からなる群から選択されてもよい。 前記混合液中の前記塩の濃度は、0.001g/L以上1000g/L以下の範囲であってもよい。
前記混合液中の前記塩の濃度は、0.3g/L以上5g/L以下の範囲であってもよい。
前記エージングすることは、0℃以上400℃以下の温度範囲で0.1時間以上1000時間以下の時間、前記混合液を保持してもよい。
前記エージングすることは、10℃以上250℃以下の温度範囲で20時間間以上200時間以下の時間、前記混合液を保持してもよい。
前記エージングすることは、前記混合液を大気圧下、または、前記溶媒の飽和蒸気圧下に保持してもよい。
本発明によるダイヤモンド粒子は、立方晶、および/または、六方晶の結晶構造を有し、0.5nm以上1mm以下の範囲の粒径を有し、これにより上記課題を解決する。
1nm以上100nm以下の範囲の粒径を有してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のダイヤモンド粒子を合成する方法は、炭素を含有する有機溶媒を含有する溶媒と、塩とを混合し、混合液を得ることと、混合液をエージングすることとを包含する。単に、混合し、エージングするだけでダイヤモンド粒子が得られるため、特殊な技術や高価な設備を不要とし、実用化に有利である。このようにして得られたダイヤモンド粒子は、清浄な表面を有しており、不純物を含まず、蛍光半導体量子ドット、ナノスケール磁気センサ、in vivoでの追跡、ドラッグデリバリ等に応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のダイヤモンド粒子を製造する工程を示すフローチャート
【
図2】
図2は、例1~例10のプロシージャを示す図
【
図3】例1によるダイヤモンド粒子のTEM像を示す図
【
図4】例2によるダイヤモンド粒子のTEM像を示す図
【
図5】例1によるダイヤモンド粒子の種々の結晶方位から観察したHR-TEM像を示す図
【
図6】例2によるダイヤモンド粒子の種々の結晶方位から観察したHR-TEM像を示す図
【
図7】例2による別のダイヤモンド粒子のHR-TEM像を示す図
【
図8】例2の別のダイヤモンド粒子のHR-TEM像を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0013】
本発明のダイヤモンド粒子およびその製造方法について説明する。
本発明のダイヤモンド粒子は、後述する溶液を用いた手法によって製造され、立方晶、および/または、六方晶の結晶構造を有し、0.5nm以上1mm以下の範囲の粒径を有する。本発明のダイヤモンド粒子は、清浄な表面と不純物フリーの特性を有するため、蛍光半導体量子ドット、ナノスケール磁気センサ、in vivoでの追跡、ドラッグデリバリ等に応用できる。
【0014】
立方晶のダイヤモンド粒子は、Fd3-m(本願明細書において「-」は3のオーバーバーを表す)空間群(International Tables for Crystallographyの227番)に属する。六方晶のダイヤモンド粒子は、P63/mmcの空間群(International Tables for Crystallographyの194番)に属する。結晶構造は、電子回折または高速フーリエ変換(FFT)パターンを測定することによって容易に解析される。
【0015】
ダイヤモンド粒子は、それぞれが単結晶粒子であり、好ましくは、1nm以上100nm以下の範囲を満たす粒径を有する。この範囲であれば、上述の用途に適用できる。なお好ましくは、ダイヤモンド粒子は、1nm以上60nm以下の範囲の粒径を有する。
【0016】
なお、ダイヤモンド粒子の粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察された画像において、無作為に選んだ粒子100点の粒径を測定し、その平均粒径とする。
【0017】
本発明のダイヤモンド粒子は、1つの粒子内に欠陥を有してもよい。このような欠陥は、双晶、および/または、積層欠陥であってよい。欠陥を有していても、清浄な表面と不純物フリーの特性を維持できる。
【0018】
図1は、本発明のダイヤモンド粒子を製造する工程を示すフローチャートである。
【0019】
ステップS110:炭素を含有する有機溶媒を含有する溶媒と、塩とを混合し、混合液を得る。
ステップS120:ステップS110で得た混合液をエージングする。
本願発明者らは、単に原料となる混合液を得、エージングするだけで上述のダイヤモンド粒子が合成されることを見出した。本発明の方法は、特殊な技術や高価な設備を不要とするため、有利である。各ステップについて詳細に説明する。
【0020】
ステップS110において、炭素を含有する有機溶媒は、炭素を含有していれば特に制限はないが、好ましくは、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、アミド系溶媒、炭化水素系溶媒、芳香族系溶媒、セロソルブ系溶媒、および、および、ハロゲン系溶媒からなる群から少なくとも1種選択される。これらは、後述のステップS120において、エージングにより、ダイヤモンド粒子を生成する。
【0021】
アルコール系溶媒は、好ましくは、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、1-ペンタノール、および、アリルアルコールからなる群から少なくとも1種選択される。これらのアルコール系溶媒は容易に入手可能である。
【0022】
ケトン系溶媒は、好ましくは、アセトン、アセチルアセトン、メチルエチルケトン、イソプロピルメチルケトン、イソブチルメチルケトン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、シクロヘキサノン、および、ジケトンからなる群から少なくとも1種選択される。これらのケトン系溶媒は容易に入手可能であるから好ましい。
【0023】
エステル系溶媒は、好ましくは、酢酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、および、2-エトキシエチルアセタートからなる群から少なくとも1種選択される。これらのエステル系溶媒は容易に入手可能であるから好ましい。
【0024】
アミド系溶媒は、好ましくは、N-メチルピロリドン(NMP)、N-エチル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、および、N,N-ジメチルアセトアミドからなる群から少なくとも1種選択される。これらのアミド系溶媒は一般的な溶剤であるから好ましい。
【0025】
炭化水素系溶媒は、好ましくは、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、n-デカン、n-ドデカン、2,3-ジメチルヘキサン、2-メチルヘプタン、2-メチルヘキサン、3-メチルヘキサン、および、シクロヘキサンからなる群から少なくとも1種選択される。これらの炭化水素系溶媒はメチル基(-CH3)を含有するため好ましい。
【0026】
芳香族系溶媒は、好ましくは、ベンゼン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、エチルベンゼン、メチルナフタレン、エチルナフタレン、および、ジメチルナフタレンからなる群から少なくとも1種選択される。これらの芳香族系溶媒は容易に入手可能であるから好ましい。
【0027】
セロソルブ系溶媒は、好ましくは、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、および、トリエチレングリコールモノメチルエーテルからなる群から少なくとも1種選択される。これらのセロソルブ系溶媒は容易に入手可能であるから好ましい。
【0028】
ハロゲン系溶媒は、好ましくは、ジクロロメタン、トリクロロメタン、四塩化炭素、および、クロロホルムからなる群から少なくとも1種選択される。これらのセロソルブ系溶媒は容易に入手可能であるから好ましい。
【0029】
上述した有機溶媒の中でも、好ましくは、メチル基(-CH3)に代表されるsp3混成軌道を有するアルキル基を有するものがよい。後述する塩によって、水素(H)原子が炭素(C)原子に置き換わることにより、タイヤモンドの核が形成され、ダイヤモンド粒子の生成が促進し得る。
【0030】
炭素を含有する有機溶媒として、上述の有機溶媒を組み合わせてもよい。さらに、溶媒は、炭素を含有する有機溶媒単独であってもよいし、さらに水を含有してもよい。水を含有すれば、塩が溶解しやすいため好ましい。水を含有する場合、溶媒全容量に対する有機溶媒の体積比は、0.1以上1未満であってよい。好ましくは、0.5以上0.9以下である。
【0031】
ステップS110において、塩は触媒として機能する。塩は無機塩であり、好ましくは、金属ハロゲン化物、金属オキシハロゲン化物、金属硝酸塩、金属リン酸塩、および、金属硫酸塩からなる群から少なくとも1種選択される。これらは、後述のステップS120において、触媒として機能し、溶媒からダイヤモンド粒子を生成する。中でも、ハロゲン化物は、有機溶媒中の炭素原子と結合する他の原子を容易に引き抜くことができるので好ましい。
【0032】
金属は、第1族元素、第2族元素、第13族元素、および、遷移金属元素からなる群から選択される。第1族元素は、例示的には、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)である。第2族元素は、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)である。第13族元素は、例示的には、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)である。遷移金属元素は、ランタノイドも含み、例えば、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、ネオジウム(Nd)等である。
【0033】
ステップS110において、混合液中の塩の濃度は、好ましくは、0.001g/L以上1000g/L以下の範囲であってよい。この範囲であれば、ダイヤモンド粒子を生成し得る。混合液中の塩の濃度は、好ましくは、0.1g/L以上10g/L以下の範囲を満たす。これにより歩留まりが向上する。混合液中の塩の濃度は、なお好ましくは、0.3g/L以上5g/L以下の範囲を満たす。これによりさらに歩留まりが向上する。混合液中の塩の濃度は、なおさらに好ましくは、0.5g/L以上1.5g/L以下の範囲を満たす。
【0034】
ステップS110において、超音波ホモジナイザ、高圧ホモジナイザ等を採用し、混合液を超音波分散するとよい。
【0035】
ステップS120において、エージングは、単に混合液を保持すればよいが、好ましくは、0℃以上400℃以下の温度範囲で0.1時間以上1000時間以下の時間、混合液を保持する。この範囲であれば、ダイヤモンド粒子が生成し得る。好ましくは、エージングは、10℃以上250℃以下の温度範囲で20時間以上200時間以下の時間、混合液を保持する。
【0036】
ステップS120において、エージングは、大気圧下であってもよいし、選択した溶媒の飽和蒸気圧下で保持してよい。特に、飽和蒸気圧下であれば、ダイヤモンド粒子の生成が促進されるため、保持時間を10時間以上30時間以下の範囲に短縮できるため、好ましい。ステップS120に続いて、溶媒を除去し、生成物を回収し、洗浄するプロセスを行ってもよい。これにより、塩を除去する。
【0037】
本願発明者らは、炭素を含有する有機溶媒と無機塩とを用いることによって、ダイヤモンド粒子が生成するメカニズムの解明には至っていないが、次のように考える。有機溶媒中の炭素原子がsp3混成軌道を有する場合、あるいは、sp3混成軌道を形成しやすい場合、触媒である塩が、炭素原子に結合する炭素以外の原子を引き抜き、C-C結合が形成されると考える。例えば、有機溶媒がCH3基を有し、塩として塩化物を使用する場合、四面体結合の配置のCH3
-のHがClで置換され、CCl4となり、ClがCで置換され、C-C結合を有するダイヤモンド構造となると考える。
【0038】
本発明のダイヤモンド粒子をダイヤモンドの特性を利用し、蛍光体半導体量子ドット、ナノスケール磁気センサに適用できるが、in vivoでの追跡に利用すれば、幹細胞の着床および再生能力の追跡も可能にする。
【0039】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例0040】
[例1~例10]
例1~例10では、表1に示す種々の炭素を含有する溶媒と塩とを用い、ダイヤモンド粒子を合成した。
図2は、例1~例10のプロシージャを示す図である。
【0041】
詳細には、表1に示す炭素を含有する有機溶媒(50mL)に表1に示す塩を所定の濃度となるよう添加・混合し、混合液を得た(
図1のステップS110)。混合液を表1に示す条件でエージングした(
図1のステップS120)。
【0042】
【0043】
生成した試料をエタノールで複数回洗浄した後、透過型電子顕微鏡(TEM、日本電子株式会社製、JEM-2100F)を用いて評価した。結果を
図3~
図8および表2に示す。
【0044】
図3は、例1によるダイヤモンド粒子のTEM像を示す図である。
図4は、例2によるダイヤモンド粒子のTEM像を示す図である。
【0045】
図3および
図4に示すように、コントラストが黒く示される粒子が生成された。
図3によれば、最小1nm~最大60nmの粒径を有する粒子が見られ、
図4によれば、1nm~30nmの粒径を有する粒子が見られた。ImageJ(ver. 1.51n;オープンソースでパブリックドメインの画像処理ソフトウェア)を用い平均粒径を測定したところ、例1の粒子の平均粒径は8nmであり、例2の粒子の平均粒径は12nmであった。図示しないが、例3~例10による粒子も同様の様態であった。
【0046】
図4には、粒子による制限視野電子回折(SAED)パターンが示されており、明確なブラッグ反射を示した。ミラー指数で指数付けしたところ、立方晶ダイヤモンドの構造に起因する{111}、{220}、{311}、{400}、{331}の反射に加えて、{200}の反射が確認された。このことから、得られた粒子は、ダイヤモンド粒子であり、立方晶の結晶構造を有することが分かった。なお、{200}の反射は、Fd3-m空間群である立方晶のダイヤモンド構造に起因する消滅反射が、多重散乱効果により現れたものと推察する。例1、例3~例10のダイヤモンド粒子も同様に立方晶の結晶構造を有していることを確認した。
【0047】
図5は、例1によるダイヤモンド粒子の種々の結晶方位から観察したHR-TEM像を示す図である。
図6は、例2によるダイヤモンド粒子の種々の結晶方位から観察したHR-TEM像を示す図である。
【0048】
図5および
図6のA~Dは、それぞれ、[100]、[110]、[111]および[112]に沿ったダイヤモンド粒子のHR-TEM像とFFT回折パターンを示す。
図5および
図6によれば、ダイヤモンド粒子は、単結晶であることが分かった。図示しないが、例3~例10のダイヤモンド粒子も、単結晶であった。
【0049】
図7は、例2による別のダイヤモンド粒子のHR-TEM像を示す図である。
【0050】
図7AおよびBは、それぞれ、[100]および[001]に沿ったダイヤモンド粒子のHR-TEM像とFFT回折パターンを示す。
図7によれば、六角形のダイヤモンド粒子が見られ、六方晶の結晶構造を有する単結晶粒子であることが分かった。図示しないが、例1、例3~例10においても、一部のダイヤモンド粒子は、同様に六方晶の結晶構造を有することが分かった。
【0051】
図8は、例2の別のダイヤモンド粒子のHR-TEM像を示す図である。
【0052】
図8によれば、双晶および積層欠陥を有するダイヤモンド粒子が観察された。図示しないが、例1、および、例3~例10のダイヤモンド粒子の中にも結晶学的欠陥を有する粒子が観察された。
【0053】
本発明によれば、溶媒からダイヤモンド粒子を合成できる。このようにして得られたダイヤモンド粒子は、清浄な表面と不純物フリーの特性を有し、蛍光半導体量子ドット、ナノスケール磁気センサ、in vivoでの追跡、ドラッグデリバリ等に応用できる。